JP4443453B2 - スパークプラグの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、内燃機関用のスパークプラグの製造方法に関するものである。
従来、内燃機関には点火のためのスパークプラグが用いられている。一般的なスパークプラグは、中心電極が挿設された絶縁碍子を保持する主体金具と、この主体金具の先端面に一端部が溶接された接地電極を有しており、この接地電極の他端部と、中心電極の先端部とが対向して火花放電ギャップを形成している。この火花放電ギャップにおいて、中心電極と接地電極との互いの対向面には、耐火花消耗性向上のための貴金属チップが形成されている。
このようなスパークプラグでは主体金具の耐食性を高めるため、主体金具の表面上にめっきによる被膜層の形成が行われている。その製造工程ではスパークプラグの生産性やコスト面などを考慮し、主体金具への接地電極の溶接を行って、主体金具に接地電極が接合された状態(以下、この状態の主体金具を「金具組立体」という。)でバレルめっき処理を施し、金具組立体の表面上に被膜層を形成している。
ところで、バレルめっき処理により金具組立体の表面上に被膜層を形成すれば、接地電極の表面にも被膜層が形成されてしまう。その状態で接地電極に貴金属チップを接合すれば、溶接不良が生じ、貴金属チップが剥離・脱落してしまう虞がある。これを防止するには、金具組立体へめっきを施す前に、事前に接地電極に対してマスキング処理を行い、接地電極に被膜層が形成されないようにする方法が考えられる。具体的には接地電極に熱収縮チューブを被着させる方法が行われる。しかし、マスキング処理を施す工程や、被膜層の形成後にマスクを取り除く工程が必要となるため、生産性やコスト面を鑑みると実用的ではない。そこで従来では、マスキング処理を行わず金具組立体に対しめっきを施した後、接地電極に形成された被膜層を化学的に剥離除去することで、工程数を減らして生産性を高めている(例えば特許文献1参照。)。
特開2001−68250号公報
しかしながら特許文献1では、めっきを施すことにより接地電極の表面に形成された被膜層が亜鉛(Zn)を主成分とする金属層であり、このような亜鉛めっき層は酸性の剥離液により腐食(溶解)しやすいため容易に剥離を行うことができるが、その被膜層がニッケル(Ni)を主成分とする金属層である場合、亜鉛と比べ酸で腐食しにくいため剥離に時間がかかり、生産性が低下するという問題があった。
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、接地電極の表面上に形成したNiを主成分とする被膜層を容易に腐食させ剥離することができるスパークプラグの製造方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明のスパークプラグの製造方法は、中心電極と、前記中心電極の軸線方向に延びる軸孔を有し、その軸孔の内部で前記中心電極を保持する絶縁碍子と、前記絶縁碍子の径方向周囲を取り囲んで保持する主体金具と、一端部が前記主体金具の先端面に接合され、他端部が前記中心電極に対向する接地電極と、少なくとも前記接地電極の他端部に接合された貴金属チップとを備えたスパークプラグを製造する方法であって、前記接地電極と前記主体金具とが接合され一体となった金具組立体に、Niを98重量%以上含有するNiめっき層を形成するNiめっき層形成工程と、前記Niめっき層形成工程によってNiめっき層が形成された前記金具組立体に、含有されるCr成分のうち95重量%以上が三価クロムである三価クロメート被膜層を形成する三価クロメート被膜層形成工程と、前記三価クロメート被膜層形成工程によってNiめっき層上に三価クロメート被膜層が形成された前記金具組立体の前記接地電極を酸性剥離液中に浸漬して、前記Niめっき層および前記三価クロメート被膜層を化学的に剥離除去する剥離工程と、前記剥離工程によって前記Niめっき層および前記三価クロメート被膜層が剥離された前記接地電極に、前記貴金属チップを溶接する溶接工程とを備え、前記剥離工程では、前記酸性剥離液中にNiよりも腐食電位の高い異種金属を配置させ、その異種金属に前記接地電極を接触させつつ前記Niめっき層および前記三価クロメート被膜層の剥離を行うことを特徴とする。
また、請求項2に係る発明のスパークプラグの製造方法は、請求項1に記載の発明の構成に加え、前記酸性剥離液は、塩酸または硝酸のうちの少なくとも一種を含有することを特徴とする。
また、請求項3に係る発明のスパークプラグの製造方法は、請求項1または2に記載の発明の構成に加え、前記異種金属は、Ni,Fe,Cr,Ti,Ptのうち、少なくとも一種の金属を含有することを特徴とする。
また、請求項4に係る発明のスパークプラグの製造方法は、請求項1乃至3のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記剥離工程において、前記接地電極と前記異種金属とは、少なくとも剥離にかかる化学的な反応の初期において接触させている状態であることを特徴とする。
請求項1に係る発明のスパークプラグの製造方法では、剥離工程において、酸性剥離液中に浸漬した接地電極を、その酸性剥離液中に配置された異種金属に接触させることで、接地電極の表面上に形成されたNiめっき層および三価クロメート被膜層が異種金属と電気的に接触した状態となる。一般に、電解質中で、腐食しつつある金属は特有の電位(腐食電位)を示すが、腐食電位の異なる金属同士が電気的に接触した状態で酸性剥離液中に浸漬されると、それぞれの金属を単独で浸漬した場合と比べ、高電位側となる金属の腐食速度は減少し、低電位側となる金属の腐食速度が増大することが知られている(いわゆる異種金属接触腐食)。三価クロメート被膜層を形成するCrの腐食電位はNiよりも低い。したがって、異種金属に対しCrはNi同様に腐食電位が低いので、三価クロメート被膜層のCrとともにNiめっき層の腐食の促進が可能となる。これにより、酸性剥離液中で腐食しにくいNiめっき層および三価クロメート被膜層の腐食を容易に行うことができ、短時間で接地電極から剥離させることができるので、生産効率を高め、製造コストを低減することができる。なお、本明細書にて、「酸性剥離液の主成分」とは、Niめっき層と三価クロメート被膜層の剥離を行うことができる成分からなる酸性の液体を酸性剥離液といい、その主成分とは、酸性剥離液をなす成分のうち、最も含有率の高い成分を意味する。
また、請求項2に記載するように、酸性剥離液として塩酸または硝酸を含有させている。この酸性剥離液中にて異種金属との接触によりNiめっき層および三価クロメート被膜層の腐食が開始されれば、その後も継続してNiめっき層および三価クロメート被膜層を腐食させることができ、接地電極から剥離させることができる。
また、請求項3に係る発明のスパークプラグの製造方法では、請求項1または2に係る発明の効果に加え、異種金属に、Ni,Fe,Cr,Ti,Ptのうち、少なくとも一種の金属を含有させたことで、Niよりも異種金属の腐食電位を高めることができる。ところで、三価クロメート被膜層を形成するCrの腐食電位はNiよりも低い。したがって、異種金属に対しCrはNi同様に腐食電位が低いので、三価クロメート被膜層のCrとともにNiめっき層の腐食の促進が可能となる。このため、確実に、酸性剥離液中にてNiめっき層および三価クロメート被膜層の腐食を行うことができる。
また、本発明のスパークプラグの製造方法においては、請求項4に記載のように、化学的な反応の初期において接地電極と異種金属とを接触させることが肝要である。Niめっき層の剥離は、ひとたび化学的な反応(すなわちNiめっき層の剥離)が生じると容易にその反応が継続して進行するが、接地電極に欠陥(すなわちNiめっきの存在しないところ)のない状態では、化学的な反応が進行しにくくなる傾向がある。そこで、反応の初期において接地電極に異種金属を接触させることで、剥離の生じにくい反応の初期におけるNiめっき層の剥離を促進する、いわゆる触媒作用を提供することができ、剥離に要する時間を軽減するとともに、より確実にその反応を進行させることが可能となる。
なお、化学的な反応の初期とは、接地電極を酸性剥離液中に浸漬させてから、酸性剥離液によるNiめっき層および三価クロメート被膜層の腐食が確実に行われている状態が認められるまでの期間を指し、より具体的には、酸性剥離液中への接地電極の浸漬後、反応生成物としての水素の発泡が認められる状態となるまで期間をいう。より望ましくは接地電極の母材が、その一部でも、酸性剥離液中に曝される状態となるまでの期間であればよい。
以下、本発明を具体化したスパークプラグの製造方法の一実施の形態について、図面を参照して説明する。まず、本実施の形態のスパークプラグの製造方法によって製造されるスパークプラグの一例としてのスパークプラグ100の構造について説明する。図1は、スパークプラグ100の部分断面図である。なお、図1において、スパークプラグ100の軸線O方向において、中心電極20が設けられた側をスパークプラグ100の先端側とし、接続端子40が設けられた側を後端側として説明する。
図1に示すように、スパークプラグ100は、概略、絶縁碍子10と、この絶縁碍子10を保持する主体金具50と、絶縁碍子10の軸孔12内に保持された中心電極20と、主体金具50に接合され、先端部31が中心電極20の先端部22に対向する接地電極30と、絶縁碍子10の後端側に設けられた接続端子40とから構成されている。
まず、このスパークプラグ100の絶縁体を構成する絶縁碍子10について説明する。絶縁碍子10は、周知のようにアルミナ等を焼成して形成されており、軸線O方向に軸孔12を有する筒状の絶縁部材である。軸線O方向の略中央には外径が最も大きな鍔部19が形成されており、これより後端側には後端側胴部18が形成されている。また、その後端側胴部18よりさらに後端側に、沿面距離を稼ぐためのコルゲーション部16が形成されている。鍔部19より先端側には後端側胴部18より外径の小さな先端側胴部17が形成され、さらにその先端側胴部17よりも先端側に、先端側胴部17よりも外径の小さな脚長部13が形成されている。脚長部13は先端側ほど縮径されており、スパークプラグ100が図示外の内燃機関に組み付けられた際には、その燃焼室に曝される。
次に、中心電極20について説明する。中心電極20は、インコネル(商標名)600または601等のニッケル系合金等からなる電極母材21の中心部に、放熱促進のための銅または銅合金などで構成された金属芯23が埋設された棒状の電極である。中心電極20の先端部22は絶縁碍子10の先端面から突出しており、先端側に向かって径小となるように形成されている。その先端部22の先端面には、柱状の貴金属チップ90が、柱軸を中心電極20の軸線にあわせるようにして抵抗溶接により溶接されている。また、中心電極20は、軸孔12の内部に設けられたシール材14および抵抗体3を経由して、軸孔12の後端側に保持される接続端子40と電気的に接続されている。
次に、接続端子40について説明する。接続端子40は中心電極20と接地電極30との間で火花放電を行うための電圧を、外部から中心電極20に印加するための棒状の端子である。軸孔12内で軸線Oに沿って延びる胴部41の後端に、絶縁碍子10の後端より露出される端子部42が形成されている。この端子部42にはプラグキャップ(図示外)を介して高圧ケーブル(図示外)が接続され、外部回路より中心電極20に高電圧が印加されるようになっている。
次に、主体金具50について説明する。主体金具50は絶縁碍子10を保持し、図示外の内燃機関にスパークプラグ100を固定するための円筒状の金具である。主体金具50は、絶縁碍子10の鍔部19近傍の後端側胴部18から、鍔部19、先端側胴部17および脚長部13を取り囲むようにして絶縁碍子10を保持している。主体金具50は低炭素鋼材で形成され、図示外のスパークプラグレンチが嵌合する工具係合部51と、図示外の内燃機関上部に設けられたエンジンヘッドに螺合するねじ部52とを備えている。さらに、主体金具50は工具係合部51の後端側に加締め部53を有している。この加締め部53を加締めることにより、主体金具50の内周に形成した段部56に、絶縁碍子10の先端側胴部17と脚長部13との間の段部15が板パッキン8を介して支持され、主体金具50と絶縁碍子10とが一体にされる。加締めによる密閉を完全なものとするため、主体金具50の加締め部53近傍の内周面と、絶縁碍子10の鍔部19近傍の後端側胴部18の外周面との間に環状のリング部材6,7が介在され、リング部材6,7の間にはタルク(滑石)9の粉末が充填されている。また、主体金具50の中央部には鍔部54が形成され、ねじ部52の後端部側(図1における上部)近傍、すなわち鍔部54の座面55にはガスケット5が嵌挿されている。
なお、主体金具50には耐腐食性向上のため、めっきが施され、その表面上に被膜層80が形成されている。被膜層80は2層に形成され、母材(下地)となる主体金具50の表面上には、ニッケル(Ni)を98重量%以上含有するNiめっき層81が形成されている。そしてNiめっき層81の表面上には、含有されるクロム(Cr)成分の内95重量%以上が三価クロムである三価クロメート被膜層82が形成されている。なお、後述するが、めっきによる被膜層80の形成は主体金具50に接地電極30を接合した金具組立体200(図2参照)に対しバレルめっき処理を施すことによって行われるため、接地電極30の表面にも上記被膜層80が形成されることとなる。
次に、接地電極30について説明する。接地電極30は耐腐食性の高い金属から構成され、一例としてインコネル(商標名)600または601などのニッケル系合金が用いられている。この接地電極30は、自身の長手方向と直交する横断面が略長方形であり、屈曲された角棒状の外形を呈している。そして、角棒状の基端側の基部(一端部)32が、主体金具50の先端面57に抵抗溶接により接合されている。一方、この接地電極30の基部32とは反対側の先端部(他端部)31は中心電極20の先端部22に対向するよう屈曲されている。この中心電極20に対向する側の面である内面33は、中心電極20の軸線方向に略直交している。そして内面33には、上記中心電極20の貴金属チップ90と同様の柱状の貴金属チップ91が抵抗溶接され、この貴金属チップ91と、貴金属チップ90との間での火花放電ギャップが形成されている。
このような構成のスパークプラグ100の製造の一工程では、その生産性やコスト面などを鑑みて、主体金具50と接地電極30とを接合した金具組立体200(図2参照)に対し被膜層形成処理を行ってから、接地電極30の内面33に貴金属チップ91を抵抗溶接している。しかし、Niめっき層81や三価クロメート被膜層82からなる被膜層80が接地電極30の表面上に形成されたままの状態で貴金属チップ91の抵抗溶接が行われると溶接性に劣るため、本実施の形態では、接地電極30から被膜層80を剥離する処理が行われる。以下、スパークプラグ100の製造に関する一連の工程について説明する。なお、本実施の形態の要部の製造方法を中心に説明し、公知部分については説明を省略または簡略化する。
まず、主原料にアルミナを使用し、所定の形状になるように研削等を行い高温で焼成することによって絶縁碍子10を形成する。一方、前述のニッケル系合金により棒状の中心電極20および接地電極30を作製する。なお、中心電極20の形成時には、金属芯23を挿入して形成している。そして公知のガラスシール工程によって、中心電極20、シール材14、抵抗体3、予め塑性加工等によって作製された接続端子40等が絶縁碍子10と一体に形成される。そして、中心電極20の先端部22に、貴金属チップ90が抵抗溶接される。なお、このガラスシール工程において絶縁碍子10の表面に釉薬層を形成してもよい。
主体金具50は、鋼鉄材料を使用し、所定の形状に塑性加工や切削、転造加工を行うことによって作製される。この際、主体金具50には所定の形状の工具係合部51、ねじ部52、鍔部54等が形成される。
そして、絶縁碍子10等を組み付ける前の円筒状の主体金具50の先端面57に、接地電極30の基部32が抵抗溶接により接合され、金具組立体200(図2参照)が形成される。接地電極30は曲げ加工が施される前の棒状の状態であり、その先端部31を主体金具50の軸線方向先端側に向けて接合される。
次に、この金具組立体200に対し、公知のバレル装置(図示外)によるバレルめっき処理が施され、被膜層80の形成が行われる。まず、金具組立体200の表面上にNiを98重量%以上含有したNiめっき層を形成するために、金具組立体200をNiめっき浴に浸す(Niめっき層形成工程)。次いで、含有されるCr成分のうち95重量%以上が三価クロムである三価クロメート被膜層を形成するために、三価クロメート処理浴に浸す(三価クロメート被膜層形成工程)。すなわち、上記めっきにより被膜層を形成する工程では、主体金具50の表面上と、主体金具50に接合された接地電極30の表面上とに、Niめっき層81および三価クロメート被膜層82からなる被膜層80が形成される。なお、数〜数十μmの厚み(例えば6μm)に形成されるNiめっき層81に対し、三価クロメート被膜層82は数百nmの厚み(例えば0.3μm)に形成される。
次いで、めっきによる被膜層形成処理が施された金具組立体200を乾燥させた後、図2に示すように、接地電極30の先端部31が剥離液210中に浸漬される。剥離液210は、本実施の形態では、硝酸を含有する酸性の剥離液である。剥離液に含有する成分としては硝酸以外に塩酸を用いてもよい。そして、接地電極30の剥離液210に浸漬した部分の被膜層80は硝酸により腐食され、接地電極30の母材(下地)から被膜層80が剥離される(剥離工程)。
この剥離工程では、剥離液210中に配置された異種金属220に対し、接地電極30の表面上に形成された被膜層80が電気的に接触した状態となるようにして行われる。一般に、電解質中で、腐食しつつある金属は特有の電位(腐食電位)を示すが、腐食電位の異なる金属同士が電気的に接触した状態で剥離液中に浸漬されると、それぞれの金属を単独で浸漬した場合と比べ、高電位側となる金属の腐食速度は減少し、低電位側となる金属の腐食速度が増大することが知られている(異種金属接触腐食)。ところで、三価クロメート被膜層82を形成するCrの腐食電位はNiよりも低い。したがって、剥離液210中にて、接地電極30の被膜層80に電気的に接触させる異種金属220としてNiよりも腐食電位の高い金属を選択すれば、Crに対しても異種金属220の腐食電位は高くなり、Niめっき層81および三価クロメート被膜層82からなる被膜層80を効率的に腐食させて剥離させることができる。そのような異種金属220として、Ni,Fe,Cr,Ti,Ptのうち、少なくとも一種の金属(元素)が含有されていること(一種の元素からなる純金属もしくは複数の元素からなる合金であること)が好ましい。より具体的には、Niよりも腐食電位の高い異種金属220の例として、白金(Pt)、チタン(Ti)、Ni−Fe−Cr合金などを挙げることができる。これらの金属(合金)間では、Ptの腐食電位が最も高く、次いでTi,Ni−Fe−Cr合金の順に腐食電位は低くなり、Niは、これらのどの金属(合金)よりも腐食電位が低いことが知られている。
次に、剥離工程によって被膜層80が剥離され、母材の露出した接地電極30の先端部31の内面33に、貴金属チップ91が抵抗溶接される(溶接工程)。貴金属チップ91は接地電極30の母材に直接溶接されるため、両者の溶接性は高く、溶接後に貴金属チップ91が剥離・脱落してしまう虞は低減される。
そして、中心電極20等が一体となった絶縁碍子10が金具組立体200に挿入され、前述の板パッキン8、リング部材6,7、タルク9等を用い、加締め部53を形成することによって、金具組立体200に一体に組み付けられる。次いで接地電極30を折り曲げる加工が行われ、スパークプラグ100が組み立てられた際に、接地電極30の先端部31に接合された貴金属チップ91と、中心電極20の先端部22に接合された貴金属チップ90とが対向して火花放電ギャップが形成される。このような加工を経て、スパークプラグ100が完成する。
上記のように作製されるスパークプラグ100において、接地電極30に形成した被膜層80の剥離を行うにあたって被膜層80と異種金属220とを接触させたことによる効果を確認するため、以下に示す評価試験を行った。
[実施例1]
この評価試験では、接地電極の表面上に形成された被膜層を異種金属に接触させた場合と、接触させなかった場合とのそれぞれの場合において剥離進行率を求め、比較を行った。まず、インコネル(商標名)600を母材とする接地電極を主体金具に接合した金具組立体のサンプルを作成し、バレルめっき処理にて各サンプルの表面に約6μmの厚さのNiめっき層を形成し、さらに約0.3μmの三価クロメート被膜層を形成した。また、異種金属として、純Pt(Ptを99重量%以上含有するもの),Pt−Ni合金(Ptを80重量%、Niを20重量%含有するもの),Ti,Ni合金(接地電極と同じインコネル(商標名)600を使用)の4種を用意した。なお、腐食電位は、上記した各金属(合金)ではPtが最も高く、次いでPt−Ni合金,Ti,Ni合金,Niの順に低くなることが知られている。
次に、塩酸(HCl)と精製水(HO)とを1対1の比で混合した剥離液を生成し、上記4種の異種金属をそれぞれ配置し剥離液を注いだ4つの剥離槽を用意した。また比較例として、異種金属を配置せず、HCl原液からなる剥離液と、HClとHOとを1対1の比で混合した剥離液と、HClとHOとを1対2の比で混合した剥離液とを注いだ3種の剥離槽を用意した。さらに同様に、上記HClのかわりに、塩酸よりも酸化力の強い硝酸(HNO)を同条件でHOと混合した剥離液を生成し、上記HClを用いた7種の剥離槽と同様の剥離槽をそれぞれ用意した。
そして、本実施の形態で説明した剥離工程(図2参照)と同様に、各サンプルの接地電極上の被膜層を剥離液中で異種金属に接触させた状態で、接地電極の先端部を剥離液中に2分間、浸漬した。浸漬後、各サンプルについて、剥離液中に浸漬された接地電極の先端部の被膜層の厚みと、浸漬されなかった基端部の被膜層の厚みとをそれぞれ測定した。被膜層の厚みの測定には公知の集束イオンビーム加工装置(FIB:Focused Ion Beam system)を用い、電子ビームで接地電極の表面を走査して、発生した二次電子や二次イオンを検出し、これを走査イオン(SIM:Scanning Ion Microscope)像として観察することにより、剥離後に残存する被膜層の厚みを求めた。
このようにして各サンプルについて、剥離液に浸漬されなかった接地電極の基部の被膜層の厚みAと、剥離液に浸漬された接地電極の先端部の被膜層の厚みBとを求め、以下の式に基づき剥離進行率(剥離液への2分間の浸漬により腐食した被膜層の厚みの割合)を求めた。
剥離進行率(%)=100−(B/A)×100
その結果を表1に示す。
Figure 0004443453
評価試験の結果、接地電極上の被膜層を異種金属に接触させなかったサンプルでは、HClとHOとを1対1の比で混合した剥離液と、1対2の比で混合した剥離液とのいずれの剥離液を用いても、剥離進行率が0.1%以下であった。そしてHClの原液を用いても、剥離進行率は0.1%以下であった。また、HClよりも酸化力の高いHNOを用い、HNOとHOとを1対1の比で混合した剥離液では、剥離進行率が0.1%であり、1対2の比で混合した剥離液では、剥離進行率が0.1%以下であった。そしてHNOの原液を用いても、剥離進行率は0.2%であった。これより、被膜層を腐食させるのに、HClはもとよりHNOでも難しいことが確認できた。
また、HClとHOとを1対1の比で混合した剥離液では、Pt,Pt−Ni合金,Ti,Ni合金に接触させた各サンプルの剥離進行率は、それぞれ54,46,31,27(%)であった。さらに、HNOとHOとを1対1の比で混合した剥離液であれば、Pt,Pt−Ni合金,Ti,Ni合金に接触させた各サンプルの剥離進行率は、それぞれ100,94,73,32(%)となった。この結果を上記異種金属に接触させなかった場合の剥離進行率と比較すると、明らかに、接地電極の被膜層を異種金属に接触させることで、この被膜層をより早く腐食させることができることがわかった。そして、被膜層の主成分たるNiに対し腐食電位が高電位側であり、さらに電位差の大きい金属を異種金属として使用した場合ほど、剥離進行率が大きくなる、すなわち被膜層の腐食が早く進行することも確認できた。
なお、本発明は上記実施の形態に限られず、各種の変更が可能である。例えば剥離工程において、異種金属220や、接地電極30の母材が剥離液210による腐食されることを防止するためには、剥離液210中に有機物からなる腐食抑制剤(インヒビター)を添加するとよい。インヒビターの一例としては、メタニトロベンゼンスルホン酸ソーダが挙げられる。また、腐食により剥離液210中に分散した金属イオンをキレート化(錯イオン化)するために、剥離液210中に錯化剤を添加するとよい。錯化剤の一例としては、エチレンジアミン(EDA)やチオシアンアンモニウム等が挙げられる。
また、本実施の形態では貴金属チップ91の接合部位である先端部31の被膜層80の剥離したが、接地電極30全体の被膜層80を剥離してもよい。しかし、剥離工程において、主体金具50に剥離液210が接触して先端面57の被膜層80が剥離してしまう虞があるため、接地電極30全体を剥離液210に浸漬させる場合には、剥離液210の液位管理が肝要である。この手間を軽減するには、少なくとも貴金属チップ91を接合する部位である接地電極30の先端部31に形成された被膜層80が剥離されていれば足りるため、本実施の形態のように、接地電極30の先端部31を剥離液210中に浸漬させることが好ましい。
また、本実施の形態では直棒状に延びた接地電極30の先端部31を異種金属220に当接させることにより、被膜層80と異種金属220とを接触させたが、異種金属220は、接地電極30の側面側から被膜層80に接触させてもよい。すなわち、剥離液210中で被膜層80と異種金属220とが電気的に接触されれば足り、両者の接触位置については問うものではない。
また、接地電極30と異種金属220との接触を、剥離液210による被膜層80の腐食の化学的な反応の初期において接触させ、被膜層80の腐食が開始されたら両者を離すようにしてもよい。被膜層80が剥離することによって接地電極30の母材が剥離液210中に曝されれば、被膜層80と接地電極30の母材との間で異種金属接触腐食が生じることとなる。このため、反応の初期において異種金属220と被膜層80とを接触させれば、剥離液210による被膜層80の腐食のきっかけを与えることができる。また、剥離液210中に浸漬された被膜層80がすべて腐食した後に異種金属220が接地電極30の母材と接触していると、異種金属220の材質によっては接地電極30の母材に腐食が生ずることとなるため、これを防止するうえで、腐食の化学的な反応が開始された後に接地電極30と異種金属220との接触を離すようにすることは望ましい。
一方、接地電極30の母材が剥離液210中に曝されるまでは、被膜層80の腐食促進を図るため、異種金属220と接地電極30とが確実に接触した状態となるように、異種金属220に向けて接地電極30を付勢してもよい。腐食により被膜層80の厚みが薄くなることで、異種金属220と被膜層80との接触が維持できなくなることを防止するためにも有効である。このためには、剥離工程において金具組立体200を固定する治具(図示外)に付勢手段を設ければよい。
また、異種金属220として、上記説明したNi,Fe,Cr,Ti,Ptに加え、Mo,Ir,Rh,Agのうち、少なくとも一種の金属(元素)を含有してもよい。これらの金属を含有しても、Niよりも腐食電位を高電位とすることができ、本実施の形態と同様の異種金属接触腐食を行うにあたって好適である。また、本実施の形態では、剥離液210として硝酸および塩酸を例に説明したが、硫酸、フッ化物、有機物を主体とする剥離溶液を用いてもよい。
また、本実施の形態では中心電極20の先端部22に貴金属チップ90を接合したが、貴金属チップ90はなくてもよい。
本発明は、内燃機関に用いられるスパークプラグに適用することができる。
スパークプラグ100の部分断面図である。 金具組立体200の接地電極30を剥離液210に浸漬する様子を示す図である。
符号の説明
10 絶縁碍子
12 軸孔
20 中心電極
30 接地電極
31 先端部
32 基部
50 主体金具
57 先端面
81 Niめっき層
82 三価クロメート被膜層
91 貴金属チップ
100 スパークプラグ
200 金具組立体
210 剥離液
220 異種金属

Claims (4)

  1. 中心電極と、
    前記中心電極の軸線方向に延びる軸孔を有し、その軸孔の内部で前記中心電極を保持する絶縁碍子と、
    前記絶縁碍子の径方向周囲を取り囲んで保持する主体金具と、
    一端部が前記主体金具の先端面に接合され、他端部が前記中心電極に対向する接地電極と、
    少なくとも前記接地電極の他端部に接合された貴金属チップと
    を備えたスパークプラグを製造する方法であって、
    前記接地電極と前記主体金具とが接合され一体となった金具組立体に、Niを98重量%以上含有するNiめっき層を形成するNiめっき層形成工程と、
    前記Niめっき層形成工程によってNiめっき層が形成された前記金具組立体に、含有されるCr成分のうち95重量%以上が三価クロムである三価クロメート被膜層を形成する三価クロメート被膜層形成工程と、
    前記三価クロメート被膜層形成工程によってNiめっき層上に三価クロメート被膜層が形成された前記金具組立体の前記接地電極を酸性剥離液中に浸漬して、前記Niめっき層および前記三価クロメート被膜層を化学的に剥離除去する剥離工程と、
    前記剥離工程によって前記Niめっき層および前記三価クロメート被膜層が剥離された前記接地電極に、前記貴金属チップを溶接する溶接工程と
    を備え、
    前記剥離工程では、前記酸性剥離液中にNiよりも腐食電位の高い異種金属を配置させ、その異種金属に前記接地電極を接触させつつ前記Niめっき層および前記三価クロメート被膜層の剥離を行うことを特徴とするスパークプラグの製造方法。
  2. 前記酸性剥離液は、塩酸または硝酸のうちの少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項1に記載のスパークプラグの製造方法。
  3. 前記異種金属は、Ni,Fe,Cr,Ti,Ptのうち、少なくとも一種の金属を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のスパークプラグの製造方法。
  4. 前記剥離工程において、前記接地電極と前記異種金属とは、少なくとも剥離にかかる化学的な反応の初期において接触させている状態であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のスパークプラグの製造方法。
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