JP4433642B2 - 非特異反応を抑制したイムノアッセイ法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、免疫学的測定法において、血液成分に起因する非特異反応を抑制する技術に関する。特に、医療診断の血清検査のごとく臨床検査法としての免疫学的測定法において、非特異反応による誤判定を防ぐことで、信頼性の高いデータを供与することができる技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
免疫学的測定技術を用いた臨床検査分野においては、血球凝集法、ラテックス凝集法、ラジオイムノアッセイ(以下「RIA」と略記する)、エンザイムイムノアッセイ(以下「EIA」と略記する)、蛍光イムノアッセイ(以下「FIA」と略記する)、化学発光イムノアッセイ(以下「CIA」と略記する)等の方法が利用されている。
【0003】
これらの免疫学的測定技術における測定は、通常、血球凝集法、ラテックス凝集法においては血球又はラテックス粒子等の不溶性担体に抗原又は抗体を担持させ、RIA、EIA、FIA、及びCIAにおいては抗原又は抗体をプレート又はビーズ等の固相または標識物質に担持させ、これらの抗原又は抗体と検体中の抗体又は抗原との特異的な抗原抗体反応を検出又は定量することによって行う。また、阻害法においては、上述のように不溶性担体又は固相に担持された抗体もしくは抗原、または標識された抗体もしくは抗原を用いて、これらの抗原と抗体との反応を検体中の抗原又は抗体が阻害する度合いによって、測定が行われる。
【0004】
しかしながら、上記のような測定系において血清検体を測定する際に、不溶性担体の非特異的な凝集、又は固相表面、標識担体もしくは標識抗原への検体成分の非特異的な吸着が特定の検体でみられ、これらの非特異反応が正確な測定を行う妨げとなっていた。
【0005】
上記のような非特異的反応を防ぐ方法として、(1)ウサギやウシの血清アルブミン、スキムミルク又はゼラチン等による担体のブロッキング、(2)特定の血清蛋白を免疫して得たウサギ抗血清からイムノグロブリン画分をペプシン処理して得たF(ab')2の反応液への添加、(3)反応液への塩、非イオン性界面活性剤の添加等による非特異的吸着反応の抑制、(4)限外ろ過、酸処理、除蛋白等、検体の前処理による非特異反応物質の除去、等の対策が行われていた。
【0006】
しかし、上記のような、従来採用または提案されている手段では、目的の反応をも抑制してしまう、操作が煩雑である、又は、非特異反応を完全に抑制できない、等の問題点が残されていた。
【0007】
ところで、ポリヒドロキシ酪酸(polyhydroxybutyrate:PHB)は、ポリリン酸と結合してイオンチャンネルを形成することが報告されている(Can. J. Microbiol., 41 (Suppl. 1) 50-54, (1995))。しかし、これらの物質が、免疫学的反応において、血液成分に起因する非特異反応を抑制し得ることは知られていない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、免疫学的測定法において、血液成分に起因する非特異反応を抑制し、正確、かつ簡便に測定することのできる方法を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
蛋白質の単離に通常用いられる硫安沈澱およびHPLC法を使って、非特異的凝集を引き起こす原因物質を精製すると、原因物質はHPLCのカラムに強固に吸着して、回収できなくなる。また、精製バッファー中に界面活性剤を添加しておくと、非特異的凝集を引き起こす状態を保持しておくことができる。これらのことから、本発明者らは、前記原因物質は疎水性の高い蛋白質であろうと推測し、血中に含まれる非常に疎水性の高いポリエステルであるPHBに何らかの関係が有ると推定し、PHBを抗原抗体反応によって吸収させることに想到した。また、PHBはポリリン酸と結合してイオンチャンネルを形成することから、ポリリン酸を用いて前記原因物質を吸着させることを試みた。その結果、ポリリン酸または抗PHB抗体の存在下で免疫学的反応を行うことにより、血液成分に起因する非特異反応を抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明の要旨は以下のとおりである。
【0010】
(1)血液成分を含む検体中の測定対象物質を、抗原又は抗体を用いた免疫学的反応により測定する方法であって、前記反応をポリリン酸または抗PHB抗体の存在下で行うことを特徴とする、測定対象物質の測定法。
(2)前記免疫学的反応を、不溶性担体、固相、又は標識物質に結合させた抗原又は抗体を用いて行う(1)に記載の方法。
(3)ポリリン酸の重合度が3〜6である(1)又は(2)に記載の方法。
(4)血液成分を含む検体中の測定対象物質を免疫学的反応により測定する際に、非特異的反応を抑制するための試薬であって、ポリリン酸または抗PHB抗体を含む試薬。
(5)血液成分を含む検体中の測定対象物質を免疫学的反応により測定するためのキットであって、前記測定対象物質と結合する抗原又は抗体を結合させた不溶性担体、固相又は標識物質と、ポリリン酸または抗PHB抗体を含む、イムノアッセイキット。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の方法は、血液成分を含む検体中の測定対象物質を、抗原又は抗体を用いた免疫学的反応により測定する方法であり、前記反応をポリリン酸または抗PHB抗体の存在下で行うことを特徴としている。ポリリン酸または抗PHB抗体を用いる以外は、特に制限されることなく通常の免疫学的測定法、例えば、血球凝集法、ラテックス凝集法、RIA、EIA、FIA、及びCIA等の方法を適用することができる。
【0012】
本発明に用いる検体は、血液成分を含む検体であり、全血、又は血清、血漿等の血液の分画物が挙げられる。測定対象物質としては、血液中に含まれる成分又はそれらの成分に由来する成分であって、免疫学的方法によって測定することができるものであれば、特に制限されない。但し、本発明の方法に抗PHB抗体を用いる場合は、抗PHB抗体は測定対象物質とはなり得ない。
【0013】
ポリリン酸は、免疫学的反応を阻害しない限り特に制限されないが、重合度は3〜6であることが好ましい。また、ポリリン酸は、免疫学的反応を阻害しない限り、任意の塩であってもよい。ポリリン酸は、リン酸分子を脱水反応により結合させることにより、製造することができる。現在、重合度が3のものと4のものが市販されており、それらは好適に使用することができる。
【0014】
ポリリン酸の反応液中の濃度は、血液成分に起因する非特異反応を抑制することができ、免疫学的反応を実用上抑制しない程度であれば特に制限されないが、通常2〜8%、好ましくは2〜4%、特に好ましくは2〜3%である。
【0015】
抗PHB抗体は、大腸菌等が産生するポリヒドロキシ酪酸(polyhydroxybutyrate:PHB)に対する抗体である。抗PHB抗体は、大腸菌から離したPHBをプロテイナーゼK処理した後、チログロブリンと結合させてアジュバントを作製し、動物の皮下等に免疫することによって取得することができる。免疫動物としては、ウサギ、ヤギ等、通常抗体の製造に用いられている動物を用いることができる。また、免疫、及び抗体の精製法等も、通常の抗体の製造法と同様にして行うことができる。また、抗PHB抗体は、硫安塩析、イオン交換クロマトグラフィー、免疫クロマトグラフィー等によって精製したものでもよく、部分精製物、又は抗血清であってもよい。
【0016】
抗PHB抗体の反応液中の濃度は、血液成分に起因する非特異反応を抑制することができ、免疫学的反応を実用上抑制しない程度であれば特に制限されないが、通常2〜20%、好ましくは5〜15%、特に好ましくは8〜10%である。
【0017】
また、ポリリン酸及び抗PHB抗体の両方を併用してもよい。
ポリリン酸又は抗PHB抗体の好ましい濃度は、本発明を適用しようとする免疫学的系にこれらの物質を各種濃度で添加し、所望の免疫学的が得られる濃度を見出すことによって、決定することができる。
【0018】
以下に、ラテックス試薬を用いた凝集法において、好ましいポリリン酸又は抗PHB抗体の濃度を決定する方法を例示する。尚、以下の例では、測定対象物質が抗原である例を示すが、測定対象物質に応じて、適宜変更、設定することができる。
【0019】
まず、測定しようとする抗原に対する抗体を用意する。抗体は、イムノグロブリン分子であってもよく、F(ab')2等のフラグメントでもよい。抗体を適当な緩衝液中でラテックス、例えばポリスチレンラテックスと反応させた後、変性BSA等のブロッキング剤でブロッキングすることにより、ラテックス試薬を調製する。
【0020】
上記ラテックス試薬と各種血清検体を混合し、凝集を測定する。ポリスチレンラテックスの場合は、800nmでの吸光度を測定することにより、凝集を検出することができる。凝集が生じた検体、又は凝集の程度が高い検体をスクリーニングすることにより、非特異的凝集を起こす検体を得ることができる。尚、既に非特異的凝集を起こすことが判明している検体をあれば、それを使用することもできる。
【0021】
次に、ラテックス試薬と、上記にようにして得られた非特異的凝集を起こす血清検体、及び、各種濃度のポリリン酸又は抗PHB抗体を混合し、ラテックスの凝集を測定する。そして、凝集が実質的に生じない濃度を決定することにより、好ましい濃度を設定することができる。
【0022】
尚、免疫学的液中にポリリン酸又は抗PHB抗体を過剰に存在させると、目的の反応が抑制されることがある。したがって、非特異的凝集を効果的に抑制できる限り、ポリリン酸又は抗PHB抗体の添加量は少ない方が、通常は好ましい。好ましい濃度の上限は、ラテックス試薬と、測定対象物質である抗原を含む試料、及びポリリン酸又は抗PHB抗体を混合してラテックスの凝集を測定し、ポリリン酸又は抗PHB抗体を添加しない場合のラテックス凝集と比較することによって、設定することができる。
【0023】
ラテックス凝集法以外の方法においても、上記と同様にして、ポリリン酸又は抗PHB抗体の好ましい濃度を設定することができる。
本発明において、ポリリン酸又は抗PHB抗体を免疫学的液中に存在させる方法は、抗原抗体反応がこれらの物質の存在下で行われる限り、特に制限されない。したがって、免疫学的測定試薬、検体、及びポリリン酸又は抗PHB抗体を同時に混合してもよく、ポリリン酸又は抗PHB抗体と、免疫学的測定試薬又は検体の一方を混合した後に、他方を加えてもよい。また、反応に用いる緩衝液、又は検体を希釈するための希釈液中に、ポリリン酸又は抗PHB抗体を添加しておいてもよい。尚、ポリリン酸又は抗PHB抗体を検体と予め混合し、インキュベートした後に、免疫測定試薬を添加することが好ましい。
【0024】
ポリリン酸又は抗PHB抗体は、免疫学的反応液に添加しても、該反応液のpHおよびバッファリングアクションに影響しない。また、蛋白質を変性する作用も持たないため、血球、ラテックス粒子等の不溶性担体、プレート、ビーズ等の固相、及び標識物質等の構造、並びにそれらに担持させた抗原及び抗体の活性は、免疫学的反応に影響しない状態を維持できる。
【0025】
本発明の方法を免疫学的測定法に適用すれば、非特異反応の抑制によって測定の正確性が向上するのみならず、加熱、酸処理、除蛋白等の前処理を行わなくても、非特異反応を抑制することができるので、ホモジニアスの系においても使用できる上、その他の方法でも測定の迅速簡便化を図ることができる。また、ラテックス凝集法において、反応促進剤として用いているポリビニルピロリドンが存在していても、非特異的凝集の抑制効果は損なわれないため、高感度の定量分析にも使用できる。
【0026】
また、ポリリン酸又は抗PHB抗体と検体を混合してインキュベートしても、検体中のイムノグロブリンは吸収されないので、抗原を不溶性担体又は固相に抗原を結合させ、抗原と反応する特定の抗体の量を測定する系においても利用できる。したがって、現在まで難しいとされてきた、感染初期に発現する、感染源に対するIgMの測定系を構築することができる。
【0027】
上記のように、ポリリン酸または抗PHB抗体は、血液成分を含む検体中の測定対象物質を免疫学的反応により測定する際に、非特異的反応を抑制するための試薬として用いることができる。また、ポリリン酸または抗PHB抗体は、免疫学的測定試薬、及び必要に応じて反応検出用試薬等とともに、血液成分を含む検体中の測定対象物質を測定するためのイムノアッセイキットを構成することができる。免疫学的測定試薬としては、測定対象物質と結合する抗原又は抗体を結合させた不溶性担体、固相又は標識物質が挙げられる。ポリリン酸または抗PHB抗体は、乾燥粉末、又は適当な液体に溶解させた溶液として提供され得る。
【0028】
【実施例】
以下に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【0029】
(1)抗HBsAg F(ab')2担持ラテックス試薬の調製
常法によりウサギをHBsAgで免疫し、抗HBsAg抗血清を得た。この抗血清から、常法によりIgG抗体画分を取得し、ペプシンにて消化した。この消化物を、ヒト血清蛋白を結合した樹脂を充填したカラムに通して、ヒト血清と反応する抗体を除いて、抗HbsAg F(ab')2を得た。このF(ab')2を0.1Mトリス緩衝液(pH8)中でポリスチレンラテックスと反応させた後、変性BSAでブロッキングし、抗HBsAg F(ab')2担持ラテックス試薬を得た。
【0030】
(2)非特異的凝集を起こす血清検体のスクリーニング
ヒト血清検体を、非特異凝集抑制物質の存在下又は非存在下でラテックス試薬と混合し、非特異凝集抑制物質の存在下では凝集せず、抑制物質の非存在下では凝集した検体をスクリーニングした。具体的には、以下のようにして行った。
【0031】
反応液として、1.2M NaClおよび0.9%ポリビニルピロリドンを含むトリス緩衝液、又は、既存の非特異凝集抑制物質(ヒト血清蛋白に対する抗体)(1mg/ml)、1.2M NaClおよび0.9%ポリビニルピロリドンを含む50 mM トリス緩衝液(pH8)180μlと、ヒト血清検体30μlを混合し、37℃で10分間インキュベートした。その後、これらの混合液に、40μlの抗HBsAg F(ab')2担持ラテックス試薬を添加して、その凝集速度を測定した。凝集は、800nmでの吸光度を測定することで検出した。測定は、各検体につき2回行った。
【0032】
上記のようにして、非特異凝集抑制物質の存在下では凝集せず、抑制物質の非存在下では凝集した検体を選択した。
【0033】
(3)ポリリン酸及び抗PHB抗体のラテックス非特異的凝集抑制効果の確認
上記で得られた非特異的凝集を起こす血清検体30μlと、1.2M NaClおよび0.9%ポリビニルピロリドンを含む50 mM トリス緩衝液(pH8)、又は、これと同じ反応液に抗PHB抗血清を容積比9:1で添加した抗PHB抗体添加反応液180μlを混合し、37℃で10分間インキュベートした。その後、これらの混合液に、40μlの抗HBsAg F(ab')2担持ラテックス試薬を添加して、その凝集速度を(2)と同様にして測定した。測定は、各反応液につき2回行った。
【0034】
結果を図1に示す。図1中、グラフの縦軸は800nmでの吸光度を、横軸はラテックスを添加してからの時間を示す。ラテックスが凝集すると、800nmの吸光度が増加し、グラフの曲線は右上がりの傾斜を持つ。この傾きが大きいほど凝集速度が高いことを表している。したがって、抗PHB抗血清の添加によって、ラテックスの非特異的凝集が抑制されたことがわかる。
【0035】
また、反応液として、1.2M NaClおよび0.9%ポリビニルピロリドンを含む50 mM トリス緩衝液(pH8)、又は、これと同じ反応液に2%ポリリン酸を添加した反応液を用い、上記と同様にして非特異的凝集を起こす血清検体によるラテックス凝集を測定した。さらに、血清検体の代わりに5mU又は10mUのHBs抗原を含む標準溶液を用いてラテックス凝集を測定した。
【0036】
結果を図2及び図3に示す。抗PHB抗血清の添加によって、ラテックスの非特異的凝集が抑制されたことがわかる(図2)。また、反応系に加えたHBs抗原の量に応じて吸光度が増し、検量線の作成及び抗原の測定が可能であることが確認された(図3)。さらに、従来知られている非特異的反応を防ぐ手段に比べて、本発明の方法によれば、目的の反応の阻害を少なくすることができる。
【0037】
【発明の効果】
本発明によって、血液成分に起因する非特異反応を抑制し、正確、かつ簡便に測定することのできる免疫学的測定法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 抗HBsAg F(ab')2担持ラテックス試薬と、非特異的凝集を起こす血清検体との非特異的凝集に対する、抗PHB抗血清の効果を示すグラフ図。
【図2】 抗HBsAg F(ab')2担持ラテックス試薬と、非特異的凝集を起こす血清検体との非特異的凝集に対するポリリン酸添加の効果を示すグラフ図。
【図3】 抗HBsAg F(ab')2担持ラテックス試薬とHBs抗原との反応を示すグラフ図。
Claims (3)
- 血液成分を含む検体中の蛋白質である測定対象物質を、不溶性担体、固相、又は標識物質に結合させた蛋白質である抗原又は抗体を用いた免疫学的反応により測定する方法であって、前記反応をポリリン酸または抗PHB抗体の存在下で行うことを特徴とする、測定対象物質の測定法。
- ポリリン酸の重合度が3〜6である請求項1に記載の方法。
- 血液成分を含む検体中の蛋白質である測定対象物質を免疫学的反応により測定するためのキットであって、前記測定対象物質と結合する蛋白質である抗原又は抗体を結合させた不溶性担体、固相又は標識物質と、ポリリン酸または抗PHB抗体を含む、イムノアッセイキット。
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