以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
(実施形態1)
−全体構成−
図1及び図2は、本発明の実施形態に係る防振マウント装置を用いたエンジンマウントシステムの概略構成を示し、両図において符号Pは、エンジン1及び変速機2が直列に結合されてなるパワープラントである。このパワープラントPは、その長手方向(エンジン1のクランク軸の延びる方向)が車幅方向(車体の左右方向)となるように、図示しない自動車のエンジンルームに横置きに搭載されていて、その長手方向両端部、即ちエンジン1側及び変速機2側の各端部にそれぞれ配設されたマウント部材3,5を介して、車体サイドフレーム61,62に対し2点で弾性的に支持されている。また、パワープラントPの下端部は、上記マウント部材3,5とは独立のトルクロッド7によって後方の車体側部材63(サブフレーム等)に連結されている。
図1は、上記エンジン1の吸排気系や補機等を全て省略して、本体部のみを車体後方の斜め右側上方から見たものであり、エンジン本体部は、概略シリンダブロック10とその上部に配設されたシリンダヘッド11とからなり、変速機2とは反対の長手方向の端部(同図1おいて手前側に示す車体右端部)にベルトカバー12が配設され、シリンダヘッド11の上部にはヘッドカバー13が配設されるとともに、シリンダブロック10の下部にはオイルパン(図示せず)が配設されている。そして、上記シリンダヘッド11の右側壁にはベルトカバー12を貫通してエンジン側マウントブラケット15の下端側が締結され、そこから上方に向かって延びるマウントブラケット15の上端部に、マウント部材3側から延びるフランジ板31bが上方から重ね合わされた状態で締結されている。このエンジン側マウント部材3が本願発明の防振マウント装置であり、その詳しい構成については後述する。
上記変速機2は、この実施形態ではトルクコンバータや変速ギヤ列の他にディファレンシャルも一体となった自動変速機であり(手動変速機やCVTでもよい)、変速機ケース20のベルハウジング20aがエンジン1のクランク軸側端部にてシリンダブロック10に連結されるとともに、そのベルハウジング20aの後方に形成された膨出部20bから左右両側に向かって、それぞれ、自動車の前車輪を駆動するためのドライブシャフト22,22が延びている。そして、先すぼまりの変速機ケース20の先端部近傍をマウントブラケット23により車体左側のサイドフレーム62から吊り下げるようにして、変速機側マウント部材5が配設されている。この変速機側マウント部材5の詳しい構成についても後述する。
上記のようにエンジン1及び変速機2を直列に結合してなるパワープラントPでは、エンジン1の方が変速機2よりも背が高いことから、長手方向に延びるロール軸R(ロール慣性主軸)は、図に一点鎖線で示すように、エンジン1側の端部から変速機2側に向かって下向きに傾斜している。また、この実施形態では、パワープラントPの重量を受け持つ2つのマウント部材3,5がそれぞれロール軸Rから上方に離間しており、このことで、パワープラントPは、上記2つのマウント部材3,5の荷重の支持点を結ぶ線分L(揺動支軸:図2参照)の周りに振り子(ペンデュラム)のように揺動可能になっている。
そして、例えば自動車の急加速時や急減速時のように大きな駆動反力(トルク)が作用すると、パワープラントPは、図2に白抜きの矢印で模式的に示すように概ねロール軸Rの周りに回動(ローリング)しながら、全体としては上方の揺動軸Lを中心として振り子のように前後に揺れようとするが、そのようなローリングや全体的な揺れはパワープラントPの下端部に配設されたトルクロッド7によって規制される。すなわち、この実施形態のエンジンマウントシステムの基本的な構成は従来より公知の3点ペンデュラムマウント(特許文献3のもの)と同様である。
ところで、上記3点ペンデュラムマウントでは、一般的に、慣性主軸マウントに比べてパワープラントの荷重の支持点がロール軸から離れているため、上記図2のように駆動反力が作用したときにパワープラントPのローリングが左右のマウント部材3,5自体によっても規制されることになり、この点でパワープラントPの変位の規制に有利であることは上述した。しかしながら、例えば大排気量エンジン等のように出力が非常に大きいものの場合には、大きな駆動反力を単一のトルクロッド7のみで抑えることは難しく、また、そのように大きな駆動反力が左右のマウント部材3,5に作用することによる耐久性の問題も考慮しなくてはならない。
そこで、この実施形態では、上記独立のトルクロッド7の他に、左右のマウント部材3,5にもそれぞれ一体的にトルクロッド43,56を設けて、これにより、駆動反力によるパワープラントPのローリングをより確実に規制できるようにするとともに、その際に大きな水平方向荷重がマウント部材3,5に入力しても、この荷重をトルクロッド43,56により受け止め、マウント本体部30におけるゴム部等の変形を抑えて、その耐久性を確保できるようにしている。
−マウント部材の構造−
次に、本願発明の特徴として、上記エンジン側マウント部材3の詳細な構造を図3及び図4に基づいて説明する。ここで、図3(a)はエンジン側マウント部材3の上面図であり、同図(b)は左側面図である。また、図4は、後述のトルクロッド43等を省略し、且つ一部分を切り欠いてマウント本体部30の内部構造を示す部分断面図である。
上記図4に示すように、この実施形態ではエンジン側のマウント部材3はいわゆる液体封入式のものであり、パワープラントPの静荷重を受けるマウント本体部30は、該パワープラント側に連結される金属製ケーシング31と車体側の連結金具32とをゴム支承体33により連結したものである。上記ケーシング31は、例えばアルミニウム合金製であり、上下方向に延びるように配置された厚肉円筒状のケーシング本体31aと、その上側外周から軸線Zに略直交する方向に延びるフランジ板31b(連結部材)とを鋳造等により一体に形成してなる。
また、上記連結金具32は、上すぼまりの略円錐形状とされ、その上端部が上記ケーシング本体31aの下端開口部の略中心に位置するように略同軸に配置されていて、上すぼまりの側面部とその外周に対向するケーシング本体31aの内周面との間にゴム支承体33が介設されている一方、該連結金具32の下端面には、車体サイドフレーム61の上面に固定される車体側マウントブラケット34の上方隆起部34aの上面が接合されて、両者がボルト35により締結されている。
上記ゴム支承体33の下部内周側にはすり鉢状の凹部が形成されていて、この凹部の周面が上記連結金具32のテーパ状側面部に被着されており、ゴム支承体33は該連結金具32の全周から外方に向かって放射状に拡がり、且つ斜め上方向に延びるように略円錐台状に形成されていて、その上側の部分の外周面がケーシング本体31aの内周面に接着されている。このようにケーシング本体31aの内周に接着固定されているゴム支承体33の上側の部分は、上方に向かって開口する比較的厚肉の円筒状とされ、その上端部がケーシング本体31aの上端部よりも所定長さ、下方に位置付けられている。
そして、上記ゴム支承体33の円筒状部分の上端部に円板状の仕切り板36の外周部が上方から重ね合わされ、さらに、その上方から該仕切り板36全体を覆うように概略ハット形状のゴム製ダイヤフラム37が配設されており、これにより、ゴム支承体33の上端開口部が液密に閉塞されて、その内部に空洞部が形成されている。上記ダイヤフラム37は、ハット状本体部の外周側に、ケーシング本体31aの内径と略同径の外径を有する外筒部と、その下端に鍔部を介して連続する内筒部とが一体に形成されたもので、その外筒部から内筒部に亘って概略円筒状の補強板38が埋設されており、これにより補強された外筒部がケーシング本体31aの上端側内周に上方から圧入されて、内嵌合状態で固定されている。
上記のようにしてゴム支承体33の内部に形成された空洞部にはエチレングリコール等の緩衝液が封入されていて、これがゴム支承体33に入力するパワープラントPの振動を吸収、緩和するための液室Fとなっている。この液室Fの内部は上記の仕切り板36によって上下に仕切られていて、その下側が、ゴム支承体33の変形に伴い容積が拡大又は縮小する受圧室になり、また、液室Fの上側は、ダイヤフラム37の変形によって容積が拡大又は縮小されて、上記受圧室における容積の変動を吸収する平衡室になる。すなわち、上記仕切り板36の外周部上方には、ケーシング本体31aとダイヤフラム37の鍔部及び内筒部とによって囲まれた円環状オリフィス通路39が周方向に延びるように形成され、このオリフィス通路39の一方の端が液室下側の受圧室に臨んで開口する一方、オリフィス通路39の他方の端が液室上側の平衡室に臨んで開口している。そして、それら受圧室及び平衡室の緩衝液がオリフィス通路39を介して相互に流通することによって、ゴム支承体33から受圧室に作用する低周波の振動が減衰される。
上記の如き構造のマウント本体部30に加えて、図3,4に示すように、マウント本体部30の上方を跨ぐようにして逆U字状のストッパ部材40が配設されている。このストッパ部材40は、例えば鋼板等をプレス成形してなり、マウント本体部30の上端から所定距離上方に離間して略水平に前後方向に延びる梁部40aと、その前後両端部からそれぞれ下方に折れ曲がって略真下に延びる前後一対の脚部40b,40cとを有する。そして、その前後一対の脚部40b,40cの各下端部がそれぞれ折り曲げられてフランジ部40d,40eとなり、この前後のフランジ部40d,40eがそれぞれマウント本体部30の前後両側において車体側マウントブラケット34のフランジ部34b,34bに重ね合わされた状態で、図示しないボルトによりサイドフレーム61上に締結されている。
また、上記ストッパ部材40に対応して、上記マウント本体部30にはケーシング本体31aの上部外周に上側ゴム層41が設けられ、このゴム層41におけるケーシング本体31aの前後両端部がそれぞれ上方に盛り上がって、上方膨出部41a,41aが形成されており、この各上方膨出部41aがそれぞれ上記ストッパ部材40の梁部40aに下方から当接することによって、ケーシング本体31aの上方への移動が規制されるようになっている。また、上記ゴム層41は上下方向の中間部分が所定以上の厚みを有していて、これが上記ストッパ部材40の前後の脚部40b,40cにそれぞれ当接することによって、ケーシング本体31aの車体前後方向への移動を規制するようになっている。
尚、上記ケーシング本体31aの下端部外周には、上記ゴム支承体33と連繋するようにして下側ゴム層42が形成され、このゴム層42におけるケーシング本体31aの前後両端部にもそれぞれ下方に膨出する下方膨出部42a,42aが形成されており、これが車体側マウントブラケット34の上方隆起部34aの前後両端部にそれぞれ当接することによって、ケーシング本体31aの下方への移動が規制されるようになっている。
そうして、本願発明の特徴として、上記マウント部材3には、図3に示すように、パワープラントPのローリングを規制するためのトルクロッド43が一体的に配設されている。すなわち、同図(a)に示すように上方から見ると、トルクロッド43は、マウント本体部30の左側、即ち該マウント本体部30とエンジン1のベルトカバー12との中間位置において、ケーシング31のフランジ板31bの上方に離間して(図(b)参照)、ストッパ部材40の梁部40aと略平行に前後方向に延びるように配設されている。このようにマウント本体部30の側方で前後方向に延びるように設けられているので、トルクロッド43は、その揺動によってパワープラントPの上下振動を吸収できるように十分に長くしていても、マウント部材3の前後に大きく飛び出すことはなく、前後方向に干渉の問題を生じることがない。しかも、エンジン側マウント部材3のマウント本体部30と隣接するエンジン1のベルトカバー12(側壁部)との間には前後に長く且つ左右には狭いデッドスペースがあるが、トルクロッド43はそのデッドスペースを有効利用して配置されていることになる。
上記トルクロッド43は、棒部材44の前端側に、その棒部材44の外周面から径方向に拡がる鍔部43aを設ける一方、その後端に厚肉円盤状の後端連結部46を設けたものである。
上記後端連結部46は、棒部材44の後端に一体に設けられた外筒部46a及びこれと同軸に位置する内筒部46bが環状のゴムブッシュ46cによって弾性連結されたものである。このトルクロッド43の後端連結部46は、マウント本体部30の後端部よりも車体後方位置(マウント本体部30から車体後方に離れた位置)において、ストッパ部材40の後側脚部40cに溶接されたブラケット49に固定されている。すなわち、ブラケット49は例えば鋼板等をプレスして概略逆L字状に成形したもので、上下に延びる脚部49aがストッパ部材40の後側脚部40cの側面に溶接される一方、該脚部49aの上端から横向きに延びる取付部49bの先端側には、その上面から上方に延びるようにスタッドボルト47aが溶接により固定されている。そして、上記トルクロッド43の後端連結部46の内筒部46bが上記スタッドボルト47aに上側から外挿され、該内筒部46bからさらに上方に突出するスタッドボルト47aに上方からナット47bが螺合することで、トルクロッド43の後端連結部46がブラケット49に対し締結されている。
一方、上記トルクロッド43の前端は、マウント本体部30の略前端部位置において、フランジ板31bに設けられた支持手段45に弾性支持されている。この支持手段45は、フランジ板31bの上面における車体前方位置に立設した支持ブラケット31cと、この支持ブラケット31cに設けられたゴムブッシュ48とからなる。
上記支持ブラケット31cは略板状に形成されていて、車体前後方向に貫通した貫通孔31dを有している。この貫通孔31dには、後述するようにトルクロッド43の前端部が内挿される。
上記ゴムブッシュ48は、上記支持ブラケット31cの後側に配置されかつ、トルクロッド43の前端部が内挿される第1のブッシュ48aと、上記支持ブラケット31cの前側に配置されかつ、トルクロッド43の前端部が内挿される第2のブッシュ48bと、上記支持ブラケット31cの貫通孔31d内に配置されかつ、上記第1及び第2のブッシュ48a,48bを車体前後方向に連結する連結部48cとからなる。
そして、上記棒部材44の鍔部43aよりも先端側が、第1のブッシュ48aの貫通孔及び支持ブラケット31cの貫通孔31dを貫通していて、第1のブッシュ48aは、その支持ブラケット31cと鍔部43aとによって車体前後方向に挟持されている。また、上記支持ブラケット31cよりも車体前方に延びる棒部材44の先端側には、第2のブッシュ48bとワッシャ43bとが外挿され、上記棒部材44の先端部に設けたねじ部43cにナット43dを螺合することによって、第2のブッシュ48bは、ワッシャ43bと支持ブラケット31cとによって車体前後方向に挟持されている。このように、トルクロッド43の前端部は、棒部材44の先端部で串刺しにした2つのブッシュ48a,48bの間に支持ブラケット31cを挟み込んで弾性支持される。つまり、トルクロッド43の後端部は、筒型のブッシュによって支持されるのに対し、トルクロッド43の前端部は、いわゆるスタッド型のブッシュによって支持される。
この実施形態のエンジン側マウント部材3においては、マウント本体部30の側方でエンジン1との間のデッドスペースに配置したトルクロッド43が、該マウント本体部30とパワープラントPとの連結部材であるフランジ板31bの直ぐ近くを通ることを利用して、このフランジ板31bにトルクロッド43の前端部を支持しており、このため、トルクロッド43とパワープラントP側との連結構造が極めて簡単なものとなる。また、同様にトルクロッド43の後端連結部46がストッパ部材40の後側脚部40cの直ぐ近くに位置することを利用して、この両者を連結することで、トルクロッド43と車体側との連結構造も極めて簡単なものとなっている。
ここで、上記エンジン側マウント部材3の製造手順について簡単に説明する。先ず、液体封入式のマウント本体部30は、例えば次の手順により製造される。つまり、ケーシング本体31a、フランジ板31b、及びフランジ板31b上の支持ブラケット31cが一体に形成されたケーシング31と、連結金具32とをそれぞれ用意し、これらを所定の成形金型にセットして、ゴム支承体33、ゴムブッシュ48及び各ゴム層41,42となる所定量の未加硫ゴム組成物を金型に注入する。そして、それらを加熱及び加圧して加硫一体化成形する。このようにして、支持ブラケット31cに設けられるゴムブッシュ48は、ゴム支承体33と同時に成形される。
こうして作成した一体化成形物内に緩衝液を注入すると共に、その成形物の開口に仕切り板36及びダイヤフラム37をそれぞれ嵌め入れて開口を閉塞する。こうして、マウント本体部30が完成する。
次に、トルクロッド43は、例えば次の手順によって製造される。つまり、内筒部46bを用意し、これを所定の成形金型にセットし、ゴムブッシュ46cとなる所定量の未加硫ゴム組成物を金型に注入する。そして、それらを加熱及び加圧して加硫一体化成形する。一方、外筒部46aが一体化された棒部材44を用意する。そうして、上記一体化成形物の外周面に接着剤を塗布し、その成形物を上記外筒部46a内に圧入し、外筒部46aとゴムブッシュ46cとを互いに接着する。こうして、トルクロッド43が完成する。
マウント本体部30とトルクロッド43とがそれぞれ完成すれば、上記トルクロッド43の後端連結部46を、上述したように、ストッパ部材40に設けたブラケット49に対して固定する一方、上記トルクロッド43の前端部を、上記支持ブラケット31cに設けたゴムブッシュ48に内挿し、その上で、棒部材44の先端部に設けたねじ部43cにナット43dを締結する。また、マウント本体部30には、マウントブラケット34をボルト35によって固定する。こうして、マウント本体部30と、トルクロッド43と、マウントブラケット34と、ストッパ部材40とからなるエンジン側マウント部材3が完成する。
上記トルクロッド43の前端部は、スタッド型のブッシュによって支持する構造となっているため、上記トルクロッド43(棒部材44)の組み付けの際には、その前端部をゴムブッシュ48に挿入してボルトアップするだけでよい。その結果、マウント部材3の組み付け性が向上する。
次に、変速機側マウント部材5の構造は例えば図5に拡大して示すようになっており、これは、変速機2の先端側から上方に延びるマウントブラケット23の上端部を、車体サイドフレーム62側に取り付けた金属製フレーム部材50によりゴムブロック51を介して吊り下げたものである。すなわち、上記フレーム部材50は、例えば鋼板等をプレス成形して、矩形枠状の本体部52とそこから車体後方側(図の左側)に向かって延びるステー部53とを一体に形成したもので、その本体部52の側方には別の鋼板片を溶接して側方及び下方それぞれに延びるフランジ部54,54が設けられ、このフランジ部54,54において図示しないボルトにより車体サイドフレーム62に締結されるようになっている。
また、上記フレーム部材50の本体部52には、開口部52aの周囲から上下軸線Zの四方を囲んで上方に延びるように、絞り加工等によって立壁部52bが一体形成されており、この立壁部52bに左右両端部を接着されたゴムブロック51によって、金属製連結パイプ55がその軸心を上下方向に向けて上下動可能に支持されている。すなわち、連結パイプ55は、例えば絞り加工によって下側の部分を相対的に小径とし、この小径部55aを除いた部分で上記ゴムブロック51の略中央部に埋設されるように一体に加硫成形してなる。そして、上記連結パイプ55の小径部55aに対して下側からマウントブラケット23のスタッドボルト24が挿入され、このスタッドボルト24に上方からナット25が螺合されて、マウントブラケット23と連結パイプ55とが締結されている。
さらに、この変速機側マウント部材5にもトルクロッド56が一体的に設けられている。すなわち、上記フレーム部材50の本体部52から車体後方に延びるステー部53の先端(後端)は下方に向かい略直角に折り曲げられていて、その折曲げ部53aは、上記のようにしてフレーム部材本体部52に対し連結された連結パイプ55の小径部55aの真後ろ、即ち車体後方に略水平に離れた位置にある。そして、このステー折曲げ部53aと連結パイプ55の小径部55aとの間に車体前後方向に延びるようにトルクロッド56が配設されている。
このトルクロッド56は、棒部材57の両端部にそれぞれゴムブッシュ58a,59cを介在させた連結部58,59が設けられたものである。この内、前端の連結部59は筒型のブッシュであって、外筒部59a、内筒部59b及びゴムブッシュ59cからなり、その内筒部59bが連結パイプ55の小径部55aに外挿されて、外嵌合状態で結合されている。一方、トルクロッド56の後端側の連結部58は、棒部材57の先端部で串刺しにした2つのリング状ゴムブッシュ58a,58aの間にステー折曲げ部53aを挟み込んで固定するスタッド型のブッシュである。
すなわち、上記トルクロッド56の棒部材57の後端側には円形の鍔部58bが一体形成され、この鍔部58bよりも先端の部分がステー部53の折曲げ部53aに形成された丸穴を貫通していて、その折曲げ部53a及び鍔部58bの間にゴムブッシュ58aが挟持されている。また、上記折曲げ部53aよりも車体後方に延びる棒部材57の後端側には別のゴムブッシュ58aとワッシャ58cとが配置され、さらに、その棒部材57の先端部には小径のネジ部57aが設けられていて、このネジ部57aに螺合されるナット58dによりワッシャ58cが棒部材57の先端に締結されることで、該ワッシャ58c及び折曲げ部53aの間にゴムブッシュ58aが挟持されている。
上述の如き構成の左右2つのマウント部材3,5によってパワープラントPの重量を支持するこの実施形態のエンジンマウントシステムにおいては、例えば自動車が停止していてエンジン1がアイドル運転状態にあるときに、トルク変動に起因する低周波の振動がロール軸Rの周りに発生すると、エンジン側マウント部材3のマウント本体部30においてパワープラントP側のケーシング31が車体側の連結金具32に対し前後に微小に振動し、同様に、変速機側マウント部材5においてもパワープラントP側の連結パイプ55が車体側のフレーム部材50に対し前後に微小に振動することになる。しかし、その振動は低周波のもので且つ振幅が非常に小さいので、ゴム支承体33やゴムブロック51により吸収され、車体への伝達は非常に少ない。また、アイドル振動は上記両マウント部材3,5のトルクロッド43,56においてもゴムブッシュ46c,48,58a,59cの撓みによって吸収されるので、この振動がトルクロッド43,56を介して車体側に伝達されることはない。
また、例えば自動車の発進時や急加速時等のように大きな駆動反力(トルク)が作用すると、パワープラントPは、図2に白抜きの矢印で模式的に示すように概ねロール軸Rの周りに回動(ローリング)しながら、全体としては上方の揺動支軸Lを中心として振り子のように前後に揺れようとする。このときに、そのロール軸R周りの回動変位は、パワープラントP下端部の独立のトルクロッド7と、左右のマウント部材3,5のトルクロッド43,56とからそれぞれ付与される反力によって効果的に抑えられ、これにより、駆動反力によるパワープラントPの変位が過度に大きくなることがない。
例えばエンジン側のマウント部材3においては、略水平方向の荷重入力を受けてトルクロッド43の前後両端部にそれぞれ配設されたゴムブッシュ46c,48が最大限に撓んだ後、このトルクロッド43が入力荷重を受け止める。同様にして、変速機側のマウント部材5においてもトルクロッド56が駆動反力による水平方向の大きな荷重入力を受け止める。こうして、マウント部材3,5のゴム支承体33やゴムブロック51に過大な変形が生じたり、それが剥がれたりすることが防止されて、十分な耐久性を確保することができる。
さらに、例えば自動車が不整路面を走行していて、これにより車体及びパワープラントPが相対的に上下に振動する場合、エンジン側のマウント部材3においてはゴム支承体33が、また、変速機側のマウント部材5においてはゴムブロック51が、それぞれ上下に弾性変形して振動を吸収するとともに、該両マウント部材3,5においてそれぞれトルクロッド43,56が揺動することで、上下振動を吸収する。すなわち、いずれのトルクロッド43,56もその長さが十分に長く設定されているので、車体及びパワープラントPの相対的な上下変位に対するトルクロッド43,56の揺動角が小さくなり、上下方向の振動はゴムブッシュの撓みによって吸収されることになる。
したがって、この実施形態に係る防振マウント装置(エンジン側マウント部材3)によると、パワープラントPの下端部に独立のトルクロッド7を設けるだけでなく、左右のマウント部材3,5にもそれぞれトルクロッド43,56を設けたことで、パワープラントPに作用する駆動反力をしっかりと受け止めて、該パワープラントPの揺れを抑えることができるとともに、それらマウント部材3,5のゴム部の過大な変形を抑えて、耐久性を確保することができる。
そして、相対的に周囲のスペースに余裕のないエンジン側のマウント部材3においてはトルクロッド43をマウント本体部30の側方で前後方向に延びるように設けたことで、該トルクロッド43の長さを十分に長くしていても、これがマウント部材3の前後に大きく飛び出すことはなく、これにより、干渉の問題の発生を防止することができる。
特に、この実施形態のようにエンジン1及び変速機2を直列配置したパワープラントPの場合は、エンジン1側の端部が車体サイドフレーム61に近接し、その付近にではスペースの余裕が極めて少なくなるが、この実施形態では、エンジン側マウント部材3のマウント本体部30とその側方に隣接するエンジン1との間のデッドスペースを有効利用して、そこにトルクロッド43を配設することができる。
さらに、この実施形態では、上記マウント本体部30の上方を跨ぐようにストッパ部材40を配設し、これにより上方及び前後方向への変位を確実に規制できるようにしているが、こうしたときでも、上記マウント本体部30の側方に配置されたトルクロッド43がストッパ部材40と干渉することはないから、両者を何れも最適にレイアウトすることができる。
そして、上記エンジン側マウント部材3は、トルクロッド43の後端部は筒型ブッシュからなる後端連結部46によって車体側に支持するのに対し、その前端部は、筒型ブッシュの代わりに支持ブラケット31cを2つのブッシュ48a,48bで挟持したスタッド型のブッシュによってパワープラント側に支持する構成となっている。このように、筒型ブッシュを省略することによって、成形工程数が減少し、生産性の向上及び生産コストの低減化が図られる。
特に、ゴムブッシュ48とゴム支承体33とを同時に成形することにより、成形工程数がさらに減少し、生産コストの更なる低減化が図られる。
(実施形態2)
図6は、実施形態2に係るエンジン側マウント部材8の構造を示している。この実施形態2に係るマウント部材8も、液体封入式のマウント本体部80を有していて、このマウント本体部80は、ケーシング81と連結金具82とをゴム支承体83により連結して構成されている。
上記ケーシング81は、上下方向に延びるように配置された薄肉円筒状に形成されたケーシング本体81aと、その外周面に一体的に取付固定された複数のブラケット81bとからなる。この各ブラケット81bは、サイドフレーム61上に締結されるものであり、実施形態2のマウント本体部80は、実施形態1とは異なり、ケーシング81が車体側部材となる。
上記連結金具82は、その下側が下すぼまりの略逆円錐形状とされ、その上側が略円柱形状とされており、その下端部は上記ケーシング本体81aの上端開口部の略中心に位置するように略同軸に配置されていると共に、その上側が上記ケーシング本体81aよりも上方に突出するように配置されている。ゴム支承体83は、上記連結金具82における下すぼまりの側面部とその外周に対向するケーシング本体81aの内周面上部との間に介設されている。
上記連結金具82の上端面には、取付ボルト93が内挿されるボルト孔が穿孔されていて、フランジ板91は、この取付ボルト93によって連結金具82に固定されている。フランジ板91は、エンジン側マウントブラケット15が締結されるものであり、実施形態2のマウント本体部80は、実施形態1とは異なり、連結金具82がパワープラント側部材となる。
上記ゴム支承体83は、その上部が上記連結金具82の下側全体から外方に向かって放射状に拡がりかつ斜め下方向に延びるように略円錐台状に形成されて、その円錐台の下端部分がケーシング本体81aの上側部分の内周面に接着されている。そして、上記ゴム支承体83の下部は、上記ケーシング本体81a上側の接着部分からその下端開口部まで下方に延びていて、ケーシング本体81aの内周面に接着されている。上記ゴム支承体83の下部は、その内の上側部分が相対的に厚肉の厚肉部とされ、下側部分が相対的に薄肉の薄肉部とされていて、その上下方向の略中間位置に段部が形成されている。そして、上記ゴム支承体83の内部には、その下端開口から仕切り板88、オリフィス板85、ダイヤフラム86の順に、各部材が上記段部に当接するまで圧入されていると共に、ケーシング本体81aの下端縁部が内方に折り曲げられ、それによって、ゴム支承体83の下端開口が液密に閉塞されて、その内部に空洞部が形成されている。
上記ゴム支承体33の内部に形成された空洞部には、緩衝液が封入されて液室Fとなり、この液室Fの内部は上記の仕切り板88によって上下に仕切られて、その上側が受圧室になり、下側は平衡室になる。尚、オリフィス板85の外周には、ゴム支承体83との間で上下に2重の螺旋状オリフィス通路87が形成され、上記受圧室と平衡室とはこのオリフィス通路87を介して互いに連通される。
実施形態2に係るトルクロッド43は、実施形態1と同様に、その一端部(後端部)が筒型ブッシュによりケーシング81側(車体側)に支持され、その他端部(前端部)がスタッド型のブッシュにより連結金具82側(パワープラント側)に支持される。
つまり、上記トルクロッド43の後端連結部46は、上述したように、棒部材44の後端に一体に設けられた外筒部46aと、内筒部46bと、環状のゴムブッシュ46cとによって構成されたものであり、マウント本体部80に取り付けられたブラケット92に固定されている。このブラケットは、上記ケーシング本体81aの外周面に溶接され、その周面から後方の斜め上方に延びて配設された一対のブラケット板92により構成される。上記後端連結部46は、一対のブラケット板92の間であって各ブラケット板92の先端位置に配置されており、車幅方向に延びて各ブラケット板92を貫通するボルト94が内筒部46bに内挿されると共に、そのボルト94にナット95が螺合することによって、後端連結部46がブラケット92に対し締結されている。
これに対し、トルクロッド43の前端部を支持する支持手段84は、上記連結金具82に設けられていて、この支持手段84は、上記連結金具82の上下方向の略中央位置に、車体前後方向に貫通する貫通孔82aと、その貫通孔82aの両開口位置それぞれに配置される第1及び第2のブッシュ84a,84bとから構成される。つまり、実施形態2では、連結金具82が、マウント部材8とパワープラントPとの連結と、トルクロッド43の支持(支持ブラケットとしての機能)との双方の機能を有する。
上記第1及び第2のブッシュ84a,84bは、上記ゴム支承体83の上部にこのゴム支承体83と一体的に形成されたものであり、この第1及び第2のブッシュ84a,84bは、ゴム支承体83と同時に成形される。
そして、上記トルクロッド43の先端部は、上記連結金具82に設けられた貫通孔82aに内挿されていて、第1のブッシュ84aは、その連結金具82と、トルクロッド43に設けた鍔部43aとによって車体前後方向に挟持されている。また、上記連結金具82よりも車体前方に延びる棒部材44の先端側にワッシャ43bが配置され、棒部材44の先端部に設けたねじ部43cにナット43dを螺合させることによって、第2のブッシュ84bは、上記ワッシャ43bと連結金具82とによって挟持されている。このように、実施形態1と同様に、トルクロッド43の前端部は、棒部材44の先端部で串刺しにした2つのブッシュ84a,84bの間に連結金具82を挟み込んで弾性支持される。
この実施形態2においても、トルクロッド43の前端部を、筒型ブッシュの代わりにスタッド型のブッシュにより支持するため、筒型ブッシュを成形する場合に比べて、生産工程数は低減する。また、第1及び第2のブッシュ84a,84bは、ゴム支承体83と一体的に形成されていて、ゴム支承体83と同時に成形されるため、生産工程数の更なる低減化が図られ、生産コストの更なる低減化が図られる。
また、実施形態2では、連結金具82によってトルクロッド43の前端部を支持するため、部品の兼用により部品点数が低減し、製造コストをさらに低減させることができる。
(他の実施形態)
本発明の構成は、上記実施形態に限定されるものではなく、それ以外の種々の構成を包含するものである。すなわち、上記実施形態では、本願発明に係るエンジン側マウント部材3,8(防振マウント装置)を液体封入式のものとしているが、これに限るものではない。すなわち、例えば図7に一例を示すように、上記実施形態のマウント本体部30から仕切り板36やダイヤフラム37を取り去って、パワープラントPの静荷重をゴム支承体33のみによって支持するようにしてもよい。こうすれば、コストの低減が図られる。
また、上記実施形態では、トルクロッド43の前端部を支持するゴムブッシュ48,84a,84bを、支持ブラケット31c又は連結金具82と一体成形しているが、これとは異なり、ゴムブッシュを別に成形した上で、トルクロッド43の組みつけの際に、そのゴムブッシュをトルクロッド43に外挿し、それによって、トルクロッド43の前端部を支持する支持手段45,84を構成してもよい。
また、上記実施形態では、トルクロッドの端部を車体側に支持する連結部を、筒型ブッシュで構成し、パワープラント側に支持する連結部(支持手段)をスタッド型のブッシュで構成しているが、これを逆にしてもよい。つまり、トルクロッドの端部を車体側に支持する連結部を、スタッド型のブッシュで構成し、パワープラント側に支持する連結部を筒型のブッシュで構成してもよい。
また、上記実施形態では、本願発明に係る防振マウント装置の構成をエンジン側マウント部材3のみに適用しているが、これに限らず、変速機側のマウント部材5にも適用することができる。
さらにまた、上記実施形態のパワープラントPは、長手方向にエンジン1及び変速機2を直列に配置したものであるが、これに限るものではなく、パワープラントPは、例えばエンジンルームに横置きに搭載したエンジン1の後方に、入力側のシャフト等が車幅方向に延びるように並列に変速機を配置したものであってもよい。