JP4429502B2 - 高濃度希釈用の種子消毒用水和剤 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、高濃度希釈用の種子消毒用水和剤の改良技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
種子消毒剤は、農薬活性成分、界面活性剤およびクレーなどの増量剤からなる粉状の水和剤が広く用いられている。使用に際しては、この水和剤を水で20〜200倍に希釈して、この希釈液に種籾を浸漬する方法が一般的に行われている。また、最近では、大量の種子を省力的に消毒するための方法として、水和剤を水で3〜20倍に希釈した、いわゆる高濃度希釈液とし、乾燥種籾重量の3%相当量の高濃度希釈液を種子消毒用吹き付け装置を用いて種子に吹き付ける方法が普及してきている。
【0003】
この高濃度希釈液の吹き付け処理方法は、種籾に対する薬液処理量が少量であるため、種籾に対して、種子消毒効果を十分に発揮するだけの薬剤付着性が求められる。
【0004】
しかしながら、これまでの高濃度希釈用の種子消毒剤では必ずしも十分な付着性が得られず、種子消毒効果も十分とはいえない情況が発生している。
【0005】
また、本発明は種子消毒用水和剤を水溶性フィルムで包装して用いることに特徴があるが、水和剤を水溶性フィルムで包装して使用時に水で400〜3000倍に希釈して植物の茎葉や害虫等に散布する方法はすでに知られている。また、その他に例えば、水中でまたは水面で容易に分解または溶解する固形の農薬製剤を、水で破袋分散または溶解するシートに包んだ形態で発泡剤または浮力向上剤を含有してもよい農薬組成物、発泡剤を含有する錠剤形態の農薬組成物、浮力向上剤を含有する錠剤形態の農薬組成物及びそれら農薬組成物を水田へ投げ込む農薬の処理方法に関するもの(特開平4−226901号公報)、水溶性フィルムで包装した水面展開性農薬製剤包装体を水田等の水系に投げ込むことにより簡便に薬剤処理する方法に関するもの(特開平5−78207号公報)、有害生物防除活性成分または植物成長調節活性成分である農薬活性成分の1種以上を含有し、見かけ密度が1g/立方センチメートル未満である水和剤および/または顆粒状水和剤に重りが添加されてなる組成物が水溶性フィルムに内包されており、かつ該水溶性フィルム内の組成物の見かけ密度が1g/立方センチメートル以上であることを特徴とする包装農薬製剤に関するもの(特開平5−310502号公報)、農薬水和剤または顆粒状水和剤が水溶性基材で包装されてなる農薬製剤であって、該水溶性基材が気体は通過するが、農薬水和剤、顆粒状水和剤は通過し得ない大きさの穴を有することを特徴とする、水希釈時の薬剤の水没時間の早い包装農薬製剤に関するもの(特開平8−245307号公報)などがある。
【0006】
しかし、いずれも水溶性フィルムの包装体を水で200倍から2000倍に希釈して用いる通常の濃度の希釈液を散布して使用するための技術、あるいは包装袋そのものを田面水中へ投入するための技術であり、水で3〜20倍に高濃度希釈して用いる製剤を水溶性フィルムで包装すること、およびその水溶性フィルム包装袋の高濃度種子消毒剤としての適用性や種籾に対する薬剤の付着性に関する報告、研究はいまだなされておらず、また従来の技術知見をもってしてもまだ充分ではないのが現状である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
これまでの高濃度希釈用種子消毒剤は、種子に対する薬剤の付着性が十分とはいえなかった。したがって、これらの問題のない種子消毒剤の開発が望まれている。また、種子消毒用の高濃度薬液を調製するときに大量の粉状の水和剤を扱うため、作業時に粉立ちが著しく、作業性が悪く、また作業者への薬剤のヒバクなどの安全性にも問題があり、改善が求められている。このような状況の中で、本発明の目的は、種子への薬剤の付着性がよく、また高濃度薬液調製時に、水和剤の粉立ちがなく、作業性、安全性に問題がない、高濃度希釈用の種子消毒製剤を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、これらの課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、従来、種子消毒剤(ただし、化学名ペンタ−4−エニル=N−フルフリル−N−イミダゾール−1−イルカルボニル−DL−ホモアラニナートを除く)として使用されてきた高濃度希釈用の種子消毒水和剤を水溶性フィルムで包装した製剤が、種籾への付着性が高く、高濃度希釈用の種子消毒剤として有用であるとの知見を得た。
【0009】
この水溶性フィルムで包装された種子消毒用水和剤は、水中へそのまま投入すればよく、あとは通常の攪拌により混合すればよい。このとき、製剤は水溶性フィルムで包装されているので、粉立ちがなく、作業性、安全性に優れている。そして特に種籾への薬剤の付着効率が大きく改善され、種子消毒効果低下などの問題もなく、安心して種子消毒ができる。
【0010】
また、本発明の水溶性フィルムで包装された種子消毒用薬剤の包装袋について具体的に説明する。
【0011】
本発明に使用される水溶性フィルムとは、水に溶解し包装袋としての一定の強度を持つものであればよく、フィルムの材質は内容物である種子消毒用薬剤との化学的、物理的な安定性の面で適合するものを選べばよい。水溶性フィルムとしては、天然水溶性高分子、合成水溶性高分子、半合成水溶性高分子からなるフィルムが有効に使用される。その例としては次のものがあげられるが、これらに限定されるものではなく、また、これらの1種または2種以上を貼り合わせるなどして併用してもよい。
【0012】
(a)天然水溶性高分子の例
デンプン、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、プルラン、など
(b)合成水溶性高分子の例
ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、など
(c)半合成水溶性高分子の例
ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、など
【0013】
水溶性フィルムの厚さは、内容物の量とフィルムの強度の関係より選べばよく、通常20μm〜60μmのものが使用される。
【0014】
水溶性フィルムが薄い場合、水希釈液中での水溶性フィルム量が少なくなり、種子への薬剤付着量が少なくなる。水溶性フィルムが厚い場合は、水希釈液中での水溶性フィルム量が多くなり、種子への良好な付着量が得られることが期待されるが、実際には、水希釈液中で薬剤の凝集が起こり、吹き付け処理ができなくなる。
【0015】
また、希釈倍率が低い場合は、水希釈液中での水溶性フィルム量が多くなり、種子への良好な付着量が得られることが期待されるが、実際には、水希釈液中での薬剤の凝集が起こり、吹き付け処理ができなくなる。
【0016】
よって、水溶性フィルムの使用量は、内容物の種子消毒用薬剤1部に対し、0.006部〜0.06部相当の範囲で使用することが重要であり、このとき、薬剤の粉立ちを防止するとともに、種子への良好な付着性が得られる。
【0017】
次に、本発明に使用される種子消毒用薬剤は、通常種子への吹き付け装置を使用して種子消毒するのに用いられる種子消毒用水和剤であればよく、それらの農薬活性成分としては、例えば次のようなものがあげられる。
【0018】
種子消毒剤
ベノミル、チアベンダゾール、チオファネートメチル、チウラム、プロクロラズ、トリフミゾール、イプコナゾール、塩基性塩化銅、水酸化第二銅など。
【0019】
殺虫剤
フェニトロチオンなど。
【0020】
なお、これら農薬活性成分名は「農薬ハンドブック 1998年版」(1998年12月15日、社団法人 日本植物防疫協会発行)に記載の化合物である。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明の水溶性フィルムで包装された高濃度希釈用種子消毒剤の包装袋の調製方法は、特に限定されるものではないが、次のような方法で調製することができる。例えば、前述した種子消毒用の農薬活性成分、界面活性剤、増量剤などから、水で3〜20倍に希釈して使用する高濃度希釈用の種子消毒用水和剤を調製する。こうして得た水和剤の1kgに対し、重量で6g〜60g相当の水溶性フィルムで包装すれば、本発明の高濃度希釈用の種子消毒用製剤を得ることができる。
【0022】
本発明の高濃度希釈用の水和剤を調製するのに使用される界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤などがあり、非イオン界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキレート、ポリオキシエチレンフェニルエーテルポリマー、ポリオキシエチレンアルキレンアリールフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレングリコール、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマー、などがあり、陰イオン界面活性剤の例としては、リグニンスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、ジアルキルスルホサクシネート、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルサルフェート、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルサルフェート、ラウリル硫酸塩、などがある。陽イオン界面活性剤としては、アルキルアミン塩があり、両性界面活性剤としては、アミドベタイン型、イミダザリン型、などがあるが、これらの例示に限られるものではない。
【0023】
また、本発明で水和剤として調製するために増量剤が使用される。その例としては、クレー、タルク、ベントナイト、ホワイトカーボン、ショ糖、乳糖、珪藻土、炭酸カルシウム、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウムなどがあげられる。そして、これらは単独で使用されるほか、2種以上を混合して使用することができる。
【0024】
また、その他の補助剤として、種子消毒活性成分の経時的安定化剤、消泡剤などを必要により添加して製剤化することもできる。
【0025】
【実施例】
次に、実施例で本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
なお、以下に部とあるのはすべて重量部を意味する、また( )内の部は高濃度希釈種子消毒剤1部に対する水溶性フィルムの添加割合を示す。
【0027】
実施例1
ベノミル20部、チウラム20部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム5部およびクレー55部をハンマーミル(不二パウダル株式会社製)で粉砕混合し、水和剤を調製した。この水和剤133.3gを厚さ40μm、重さで1.6g(0.012部)相当量の水溶性ポリビニルアルコール製フィルムで封筒状に包装し、本発明の高濃度希釈用の種子消毒用製剤を得た。
【0028】
実施例2
ベノミル20部、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル5部、リグニンスルホン酸ナトリウム5部、ホワイトカーボン15部およびショ糖55部をハンマーミルで粉砕混合し、水和剤を調製した。この水和剤133.3gを厚さ20μm、重さで0.8g(0.006部)相当量の水溶性ポリビニルアルコール製フィルムで封筒状に包装し、本発明の高濃度希釈用の種子消毒用製剤を得た。
【0029】
実施例3
ベノミル20部、チウラム20部、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル10部、β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩5部、ホワイトカーボン15部、乳糖20部およびクレー10部をハンマーミルで粉砕混合し、水和剤を調製した。この水和剤133.3gを厚さ20μm、重さで2.6g(0.0195部)相当量の水溶性ポリビニルアルコール製フィルムで封筒状に包装し、本発明の高濃度希釈用の種子消毒用製剤を得た。
【0030】
実施例4
実施例3の水溶性ポリビニルアルコール製フィルムの厚さ20μmを40μmに変えて、製剤133.3g当りのフィルム重量を2.6g(0.0195部)から7.8g(0.0585部)に変えた以外は実施例3と同様の高濃度希釈用種子消毒用製剤。
【0031】
実施例5
実施例1の水溶性ポリビニルアルコール製フィルム(厚さ20μm、製剤133.3g当りのフィルム重量1.6g(0.012部))をプルラン(厚さ20μm、製剤133.3g当りのフィルム重量0.8g(0.006部))に変えた以外は実施例1と同様の高濃度希釈用種子消毒用製剤。
【0032】
実施例6
実施例2の水溶性ポリビニルアルコール製フィルム(厚さ20μm、製剤133.3g当りのフィルム重量0.8g(0.006部))をプルラン(厚さ30μm、製剤133.3g当りのフィルム重量1.0g(0.0075部))に変えた以外は実施例2と同様の高濃度希釈用種子消毒用製剤。
【0033】
比較例1
実施例1の水溶性フィルムで包装していない水和剤。
【0034】
比較例2
実施例2の水溶性フィルムで包装していない水和剤。
【0035】
比較例3
実施例3の水溶性フィルムで包装していない水和剤。
【0036】
比較例4
実施例1の水溶性ポリビニルアルコール製フィルム(厚さ40μm、製剤133.3g当りのフィルム重量1.6g(0.012部))を厚さ20μm、製剤133.3g当りのフィルム重量を0.6g(0.0045部)に変えた以外は、実施例1と同様の高濃度希釈用種子消毒用製剤。
【0037】
比較例5
実施例3の水溶性ポリビニルアルコール製フィルム(厚さ20μm、製剤133.3g当りのフィルム重量2.6g(0.0195部))を厚さ60μm、製剤133.3g当りのフィルム重量を8.5g(0.0638部)に変えた以外は、実施例3と同様の高濃度希釈用種子消毒用製剤。
【0038】
【発明の効果】
本発明の高濃度希釈用の種子消毒用製剤を用いると、次のような効果がもたらされる。
【0039】
すなわち、第一に、水で3倍から20倍に希釈して稲の種籾に吹き付け処理すると薬液の付着量が増し、種子消毒効果が卓効を示し、安定した効果を発揮するようになる。
【0040】
第2に、粉末状の水和剤を水溶性高分子フィルムで包装しているので、水中に投入して希釈液を調製する作業で粉立ちがなく、取り扱いやすい。その結果、人に粉末がかかるなどの悪影響もなくなる。
【0041】
次に、試験例により、本発明の有用性を示す。
【0042】
試験例1(種籾への付着量試験)
イネばか苗病自然感染罹病籾(品種:「日本晴」)の乾燥種籾150gに対し、実施例に準じて調製した高濃度希釈用の種子消毒用製剤を水で所定の濃度になるように希釈した薬液、あるいは水溶性フィルムで包装していない種子消毒剤を水で希釈した薬液の4.5ml(乾燥種籾重量の3%相当量)を種籾に対し均一に付着するようにエアースプレーガン(F88型、明治機械製作所製)を用いて吹き付け処理した。この薬液処理後の種籾の一部(10g)より、農薬活性成分を抽出し、HPLC(高速液体クロマトグラフ)で分析して、薬剤の種籾に対する付着量を得た。
【0043】
結果は表1、表2に示す。
【0044】
試験例2(水中分散性試験)
1000ml容量のビーカー(型10.5cm、高さ14.5cm)に20℃の3°硬水866mlを入れ、水溶性フィルムで包装した種子消毒剤133.3g(希釈倍率7.5倍)を投入し、水和後、水を加えて1000mlとし、マグネチックスターラー(攪拌子長さ6cm、回転数300〜400r.p.m)で5分間攪拌して分散させたあと、攪拌をとめ、分散液の凝集の有無を目視により評価する。
【0045】
その結果は表1、表2に示す。
【0046】
評価基準
A:凝集なし
B:若干凝集あり
C:凝集あり
【0047】
試験例3(イネばか苗病防除効果試験)
試験例1で種子消毒した種籾を15℃6日間水道水に浸漬し、さらに30℃の催芽器内で1晩催芽した。この種籾150g中の18g量を、通常の育苗箱(たて×よこ×たかさ:60cm×30cm×3cm)の1/10の大きさの育苗箱(たて×よこ×たかさ:12cm×15cm×3cm)に播種し、直ちに覆土した。覆土後は32℃で2日間出芽処理し、出芽後2日間は温室内の寒冷紗で遮光し、その後は寒冷紗を除去して通常の栽培処理をした。
【0048】
なお、育苗培土には市販のクミアイ粒状培土D(呉羽化学工業株式会社製)を使用した。
【0049】
播種30日後に、育苗箱の全苗について徒長、枯死などのイネばか苗病状を示した発病苗数と、無病数の苗数について調査し、下記式によって発病苗率(%)を求め、防除価(%)を求めた。また、薬害については、出芽程度、生育程度などについて観察し、下記の薬害程度で示した。
【0050】
【数1】
【0051】
【数2】
【0052】
薬害程度
−:無 ±:微 +:小 ++:中 +++:大
【0053】
結果は表1、表2に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
Claims (1)
- 種子消毒活性成分(化学名:ペンタ−4−エニル=N−フルフリル−N−イミダゾール−1−イルカルボニル−DL−ホモアラニナートを除く)を含有し、水で3〜20倍に希釈して使用する高濃度希釈用の種子消毒用水和剤の1重量部を0.006重量部〜0.06重量部の水溶性高分子フィルムで包装してなることを特徴とする、種籾への付着性が改良された高濃度希釈用の種子消毒用製剤。
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