JP4426437B2 - 新規カルボニル還元酵素、その遺伝子、およびその利用法 - Google Patents
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Description
本発明は、式(1)
で表される2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノンを不斉的に還元して、式(2)
で表される(R)−2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールを生成する活性を有する微生物より単離された、該活性を有するポリペプチド、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および該発現ベクターで形質転換された形質転換体に関する。
本発明はまた、該形質転換体を用いた光学活性アルコール、とりわけ光学活性1−フェニルエタノール誘導体または光学活性3−ヒドロキシエステル誘導体の製造法に関する。光学活性1−フェニルエタノール誘導体、および光学活性3−ヒドロキシエステル誘導体は、医薬、農薬等の合成原料として有用な化合物である。
背景技術
光学活性1−フェニルエタノール誘導体の製造方法としては、
1)2−ハロ−1−(置換フェニル)エタノンに、アシビア属やオガタエア属等に属する微生物またはその処理物を作用させ、光学活性2−ハロ−1−(置換フェニル)エタノールを得る方法(特開平4−218384号公報、特開平11−215995号公報)、
2)1−(置換フェニル)エタノンにゲオトリカム・キャンディダム(Geotrichum candidum)の乾燥菌体を作用させ、光学活性1−(置換フェニル)エタノールを得る方法(J.Org.Chem.63,8957(1998))、
が開示されている。
また、光学活性3−ヒドロキシエステル誘導体の製造方法としては、
3)4−置換アセト酢酸エステルに、スポロボロマイセス・サルモニカラー(Sporobolomyces salmonicolor)由来のアルデヒドレダクターゼの遺伝子を導入した遺伝子組換え大腸菌を作用させ、(R)−4−置換−3−ヒドロキシ酪酸エステルを得る方法(特開平8−103269号公報)、が開示されている。
しかしながら、これらの方法はいずれも、その基質仕込み濃度または基質から生成物への転換率が低く、より効率の良い製造方法が望まれていた。
発明の要約
本発明は、上記現状に鑑み、光学活性1−フェニルエタノール誘導体または光学活性3−ヒドロキシエステル誘導体の製造に有用なポリペプチド、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および該発現ベクターで形質転換された形質転換体を提供することを課題とする。
また、本発明は、該形質転換体を用いて光学活性1−フェニルエタノール誘導体または光学活性3−ヒドロキシエステル誘導体を効率よく製造する方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノンを不斉的に還元し、(R)−2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールを生成する活性を有する微生物より、該活性を有するポリペプチドを単離し、該ポリペプチドを利用することにより(R)−2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールのみならず、(S)−1−(2’−フルオロフェニル)エタノール等の光学活性1−フェニルエタノール誘導体、および、(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸エチルに代表される光学活性3−ヒドロキシエステル誘導体等の有用な光学活性アルコールを効率良く製造することが可能であることを見出した。また、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを単離し、さらには、発現ベクター並びに形質転換体を創製することにも成功し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノンを不斉的に還元して、(R)−2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールを生成し得るポリペプチドである。
また、本発明は、上記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである。
また、本発明は、上記ポリヌクレオチドを含有する発現ベクターである。
また、本発明は、上記ポリペプチドを高生産する形質転換体である。
さらに、本発明は、該形質転換体を用いた、(R)−2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノール、(S)−1−(2’−フルオロフェニル)エタノール、および(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸エチルに代表される、光学活性1−フェニルエタノール誘導体または光学活性3−ヒドロキシエステル誘導体の実用的な製造方法でもある。
発明の詳細な開示
以下、詳細に本発明を説明する。
本発明のポリペプチドとしては、式(1)
で表される2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノンを不斉的に還元して、式(2)
で表される(R)−2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールを生成する活性を有するポリペプチドであればいずれも用いることができる。
このようなポリペプチドは、当該活性を有する微生物から単離することができる。ポリペプチドの起源として用いられる微生物は、特に限定されないが、例えばロドトルーラ(Rhodotorula)属酵母が挙げられ、特に好ましいものとしてはロドトルーラ・グルチニス・バー・ダイレネンシス(Rhodotorula glutinis var.dairenensis)IFO0415株を挙げることができる。
本発明のポリペプチドを生産する微生物は、野生株または変異株のいずれでもあり得る。あるいは、細胞融合または遺伝子操作などの遺伝学的手法により誘導された微生物も用いられ得る。遺伝子操作された本発明のポリペプチドを生産する微生物は、例えば、これらのポリペプチドを単離および/または精製してそのアミノ酸配列の一部または全部を決定する工程、このアミノ酸配列に基づいてポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列を決定する工程、およびこのポリヌクレオチドを他の微生物に導入して組換え微生物を得る工程を包含する方法により得られ得る。
本発明のポリペプチドを有する微生物からの該ポリペプチドの精製は、常法により行い得る。例えば、該微生物の菌体を適当な培地で培養し、培養液から遠心分離により菌体を集める。得られた菌体を例えば、超音波破砕機などで破砕し、遠心分離にて菌体残さを除き、無細胞抽出液を得る。この無細胞抽出液から、例えば、塩析(硫酸アンモニウム沈殿、リン酸ナトリウム沈殿など)、溶媒沈殿(アセトンまたはエタノールなどによる蛋白質分画沈殿法)、透析、ゲル濾過、イオン交換、逆相等のカラムクロマトグラフィー、限外濾過等の手法を単独で、または組み合わせて用いて、ポリペプチドが精製され得る。
該酵素活性の測定は、0.3%(v/v)のジメチルスルホキシドを含む100mMリン酸緩衝液(pH6.5)に、基質2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノン1mM、補酵素NADPH0.25mMおよび酵素を添加し、30℃で波長340nmの吸光度の減少を測定することにより行い得る。
本発明のポリペプチドとしては、例えば、以下の(1)から(4)の理化学的性質を有するポリペプチドを挙げることができる。
(1)作用:NADPHまたはNADHを補酵素として、2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノンに作用し、(R)−2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールを生成する、
(2)作用至適pH:5.0から6.0、
(3)作用至適温度:40℃から50℃、
(4)分子量:ゲル濾過分析において約40000、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動分析において約30000。
また、本発明のポリペプチドとして、例えば、(a)配列表の配列番号1に示したアミノ酸配列からなるポリペプチド、または、(b)配列表の配列番号1に示したアミノ酸配列、または、配列表の配列番号1に示したアミノ酸配列中に少なくとも1つのアミノ酸の置換、挿入、欠失または付加を有するアミノ酸配列を含み、かつ、2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノンを不斉的に還元して(R)−2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールを生成する活性を有するポリペプチドを挙げることができる。
配列表の配列番号1に示したアミノ酸配列中に少なくとも1つのアミノ酸の置換、挿入、欠失または付加を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドは、Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley and Sons,Inc.,1989)等に記載の公知の方法に準じて調製することができ、2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノンを不斉的に還元して(R)−2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールを生成する活性を有する限り、本発明のポリペプチドに包含される。
本発明のポリヌクレオチドとしては、上記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであればいずれも用いることができるが、例えば、(c)配列表の配列番号2に示した塩基配列からなるポリヌクレオチド、または、(d)配列表の配列番号2に示した塩基配列と相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノンを不斉的に還元して(R)−2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールを生成する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを挙げることができる。
配列表の配列番号2に示した塩基配列と相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドとは、配列表の配列番号2に示した塩基配列と相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドをプロープとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法、あるいはサザンハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるポリヌクレオチドを意味する。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のポリヌクレオチドを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウムよりなる)を用い、65℃の条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドをあげることができる。なお、ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning,A laboratory manual,second edition(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)等に記載されている方法に準じて行うことができる。
ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとして、具体的には、配列番号2に示されるポリヌクレオチドと、配列同一性が60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上のポリヌクレオチドをあげることができ、コードされるポリペプチドが2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノンを不斉的に還元して(R)−2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールを生成する活性を有する限り、本発明のポリヌクレオチドに包含される。
ここで、「配列の同一性(%)」とは、対比される2つのポリヌクレオチドを最適に整列させ、核酸塩基(例えば、A、T、C、G、U、またはI)が両方の配列で一致した位置の数を比較塩基総数で除し、そして、この結果に100を乗じた数値で表される。
配列同一性は、例えば、以下の配列分析用ツールを用いて算出し得る:UnixベースのGCG Wisconsin Package(Program Manual for the Wisconsin Package、Version8、1994年9月、Genetics Computer Group、575 Science Drive Madison、Wisconsin、USA53711;Rice、P.(1996)Program Manual for EGCG Package、Peter Rice、The Sanger Centre、Hinxton Hall、Cambridge、CB10 1RQ、England)、および、the ExPASy World Wide Web分子生物学用サーバー(Geneva University Hospital and University of Geneva、Geneva、Switzerland)。
本発明のポリヌクレオチドは、2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノンを不斉的に還元して(R)−2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールを生成する活性を有する微生物より取得することができる。該微生物として、例えばロドトルーラ(Rhodotorula)属酵母が挙げられ、特に好ましいものとしてはロドトルーラ・グルチニス・バー・ダイレネンシス(Rhodotorula glutinis var.dairenensis)IFO0415株を挙げることができる。
以下に、2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノンを不斉的に還元して(R)−2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールを生成する活性を有する微生物より、本発明のポリヌクレオチドを取得する方法の例を記載するが、本発明はこれに限定されない。
まず、精製した前記ポリペプチド、および該ポリペプチドを適当なエンドペプチダーゼで消化することにより得られるペプチド断片の部分アミノ酸配列を、エドマン法により決定する。そして、このアミノ酸配列情報をもとにヌクレオチドプライマーを合成する。次に、本発明のポリヌクレオチドの起源となる微生物より、通常のDNA単離法、例えば、Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley and Sons,Inc.,1989)等に記載の方法により、該微生物の染色体DNAを調製する。
この染色体DNAを鋳型として、先述のヌクレオチドプライマーを用いてPCR(polymerase chain reaction)を行い、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの一部を増幅する。ここで増幅されたポリヌクレオチドの塩基配列は、ジデオキシ・シークエンス法、ジデオキシ・チェイン・ターミネイション法などにより決定することができる。例えば、ABI PRISM Dye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit(Perkin Elmer社製)およびABI 373A DNA Seqencer(Perkin Elmer社製)を用いて行われ得る。
該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの一部の塩基配列が明らかになれば、例えば、i−PCR法(Nucl.Acids Res.16,8186(1988))によりその全体の塩基配列を決定することができる。また、染色体DNA上の該ポリヌクレオチドがイントロンを含むものであった場合は、例えば、以下の方法によりイントロンを含まない成熟型のポリヌクレオチドの塩基配列を決定する事ができる。即ち、まず、該ポリヌクレオチドの起源となる微生物より、通常のヌクレオチド単離法、例えば、Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley and Sons,Inc.,1989)等に記載の方法により、該微生物のmRNAを調製する。次に、このmRNAを鋳型とし、先に判明している該ポリヌクレオチドの5’末端および3’末端付近の配列を有するヌクレオチドプライマーを用いて、RT−PCR法(Proc.Nati.Acad.Sci.USA 85,8998(1988))により成熟型のポリヌクレオチドを増幅し、その塩基配列を先と同様に決定する。
本発明のポリヌクレオチドを宿主微生物内に導入し、それをその導入された宿主微生物内で発現させるために用いられるベクターとしては、適当な宿主微生物内で該ポリヌクレオチド中の遺伝子を発現できるものであればいずれもが用いられ得る。このようなベクターとしては、例えば、プラスミドベクター、ファージベクター、コスミドベクターから選ばれるものが挙げられる。また、他の宿主株との間で遺伝子交換が可能なシャトルベクターであってもよい。
このようなベクターは、通常、lacUV5プロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、lppプロモーター、tufBプロモーター、recAプロモーター、pLプロモーター等の制御因子を含み、本発明のポリヌクレオチドと作動可能に連結された発現単位を含む発現ベクターとして好適に用いられ得る。
本願明細書で用いる用語「制御因子」は、機能的プロモーター、および、任意の関連する転写要素(例えば、エンハンサー、CCAATボックス、TATAボックス、SPI部位など)を有する塩基配列をいう。
本願明細書で用いる用語「作動可能に連結」は、該ポリヌクレオチド中の遺伝子が発現するように、ポリヌクレオチドが、その発現を調節するプロモーター、エンハンサー等の種々の調節エレメントと宿主細胞中で作動し得る状態で連結されることをいう。制御因子のタイプおよび種類が、宿主細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。
本発明のポリヌクレオチドを含有する発現ベクターを導入する宿主細胞としては、細菌、酵母、糸状菌、植物細胞、動物細胞などがあげられるが、大腸菌が特に好ましい。本発明のポリヌクレオチドを含有する発現ベクターは、常法により宿主細胞に導入され得る。宿主細胞として大腸菌を用いる場合、例えば塩化カルシウム法により、本発明のポリヌクレオチドを含有する発現ベクターを導入することができる。
本発明のポリペプチドを用いて2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノンを不斉的に還元して(R)−2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールを生産する場合、NADPH、NADH等の補酵素が必要となる。しかし、酸化された該補酵素を還元型に変換する能力(以後、補酵素再生能と呼ぶ)を有する酵素をその基質とともに反応系に添加することにより、つまり補酵素再生系を本発明のポリペプチドと組み合わせて反応を行うことにより、高価な補酵素の使用量を大幅に削減することができる。
補酵素再生能を有する酵素としては、例えば、ヒドロゲナーゼ、ギ酸脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、アルデヒド脱水素酵素、グルコース−6−リン酸脱水素酵素およびグルコース脱水素酵素などを用いることが出来る。好適には、グルコース脱水素酵素が用いられる。
上記の補酵素再生能を有する酵素を、不斉還元反応系に別途添加することによっても当該反応が行われ得るが、本発明のポリヌクレオチド、および補酵素再生能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの両者により形質転換せしめられた形質転換体を触媒として用いた場合、補酵素再生能を有する酵素を別に調製し反応系に添加することなしに、該反応を効率良く実施し得る。
このような形質転換体は、本発明のポリヌクレオチド、および補酵素再生能を有するポリペプチド(例えば、グルコース脱水素酵素)をコードするポリヌクレオチドを、同一のベクターに組み込み、これを宿主細胞に導入することにより得られる他、これら2種のポリヌクレオチドを不和合性グループの異なる2種のベクターにそれぞれ組み込み、それら2種のベクターを同一の宿主細胞に導入することによっても得られる。
なお、上述のように、本発明の発現ベクターは、上記ポリヌクレオチドを含むものである。好ましくはプラスミドpNTRGである発現ベクターが挙げられる。
また、当該発現ベクターは、上記グルコース脱水素酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをさらに含むものも挙げられる。なお、上記グルコース脱水素酵素活性を有するポリペプチドが、バシラス・メガテリウム(Bacillus megaterium)由来のグルコース脱水素酵素であることが好ましい。より好ましくは、プラスミドpNTRGG1である発現ベクターが挙げられる。
本発明の形質転換体は、上記発現ベクターを用いて宿主細胞を形質転換して得られたものである。宿主細胞としては、大腸菌が好ましい。
また、本発明の形質転換体として、
E.coli HB101(pNTRG)は、FERM BP−7857の受託番号で、平成14年1月22日付で、
E.coli HB101(pNTRGG1)は、FERM BP−7858の受託番号で、平成14年1月22日付で、
それぞれ、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6にある独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、ブダペスト条約に基づいて国際寄託されている。
形質転換体中の補酵素再生能を有する酵素の活性は、常法により測定することができる。例えば、グルコース脱水素酵素活性の測定は、1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.0)に、基質グルコース0.1M、補酵素NADP2mMおよび酵素を添加し、25℃で波長340nmの吸光度の増加を測定することにより行い得る。
本発明の形質転換体を用いた光学活性1−フェニルエタノール誘導体または3−ヒドロキシエステル誘導体等の光学活性アルコールの生産は、以下のように実施され得る。つまり、上記形質転換体の培養物またはその処理物を、カルボニル基を有する化合物と反応させることにより光学活性アルコールを製造する。
具体的には、まず、適当な溶媒中に、基質となるカルボニル基を有する化合物、NADP等の補酵素、および、該形質転換体の培養物またはその処理物等を添加し、pH調整下、攪拌して反応させる。
形質転換体の培養は、その微生物が増殖する限り、通常の、炭素源、窒素源、無機塩類、有機栄養素などを含む液体栄養培地を用いて行い得る。また、培養温度は好ましくは4〜50℃である。
ここで形質転換体の処理物等とは、例えば、粗抽出液、培養菌体、凍結乾燥生物体、アセトン乾燥生物体、あるいはそれらの磨砕物等を意味する。さらにそれらは、ポリペプチド自体あるいは菌体のまま公知の手段で固定化されて用いられ得る。
また、本反応を行う際、形質転換体として、本発明のポリペプチドと補酵素再生能を有する酵素(例えば、グルコース脱水素酵素)の両者を生産するものを用いる場合、反応系に補酵素再生のための基質(例えば、グルコース)を添加することにより、補酵素の使用量を大幅に減らすことが可能である。
基質となるカルボニル基を有する化合物としては、例えば、式(3)
(式中、R1、R2は水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、ニトロ基を示し、それぞれ同一でも異なってもよい。また、R3は水素原子、ハロゲン原子、水酸基、置換基を有してもよいアルキル基を示す。)で表される1−フェニルエタノン誘導体、または、一般式(7)
(式中、R4は水素原子、ハロゲン原子、アジド、ベンジロキシ基、置換基を有してもよいアルキル基を示し、R5はアルキル基、フェニル基を示す。)で表される3−オキソエステル誘導体を挙げることができ、より詳しくは、例えば、2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノン、1−(2’−フルオロフェニル)エタノン、または、4−クロロアセト酢酸エチル等を挙げることができる。
また、上記方法により得られる光学活性アルコールとしては、例えば式(4)
(式中、R1、R2、および、R3は前記と同じ)で表される光学活性1−フェニルエタノール誘導体、または、式(8)
(式中、R4およびR5は前記と同じ)で表される光学活性3−ヒドロキシエステル誘導体を挙げることができ、より詳しくは、例えば、(R)−2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノール、(S)−1−(2’−フルオロフェニル)エタノール、または、(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸エチル等を挙げることができる。
R1、R2、R3、R4におけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
R1、R2におけるアルコキシ基としては、炭素数1〜3のアルコキシ基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等が挙げられる。好ましくはメトキシ基である。
R3、R4、R5におけるアルキル基としては、炭素数1〜8のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられる。好ましくは炭素数1〜2のアルキル基である。
なお、R3、R4におけるアルキル基は、置換基を有してもよく、置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、水酸基、アミノ基等が挙げられる。
反応には、溶媒として、水系溶媒を用いてもよいし、水系溶媒と有機系溶媒を混合して用いてもよい。有機系溶媒としては、例えば、トルエン、ヘキサン、ジイソプロピルエーテル、酢酸n−ブチル、酢酸エチル等が挙げられる。
反応温度は、10℃〜70℃、好ましくは20〜40℃であり、反応時間は、1〜100時間、好ましくは10〜50時間である。また、反応中、反応液のpHは、例えば水酸化ナトリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液等を用いて、4〜10、好ましくは5〜8に維持する。
さらに、反応は、バッチ方式あるいは連続方式で行われ得る。バッチ方式の場合、反応基質は0.1%から70%(w/v)の仕込み濃度で添加される。
反応で生じた光学活性アルコールは常法により精製し得る。例えば、反応で生じた光学活性アルコールが(R)−2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノール、(S)−1−(2’−フルオロフェニル)エタノール、または(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸エチルである場合、必要に応じて遠心分離、濾過などの処理を施して反応物から菌体等の懸濁物を除去した後、酢酸エチル、トルエン等の有機溶媒で抽出し、有機溶媒を減圧下で除去する。さらに蒸留またはクロマトグラフィー等の処理を行うことにより、精製され得る。
2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノン、2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールの定量および2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールの光学純度の測定は、高速液体カラムクロマトグラフィー(カラム:ダイセル化学工業株式会社製Chiralcel OJ(ID4.6mm×250mm)、溶離液:n−ヘキサン/イソプロパノール=39/1、流速:1ml/min、検出:210nm、カラム温度:室温)で行い得る。
1−(2’−フルオロフェニル)エタノンおよび1−(2’−フルオロフェニル)エタノールの定量は、高速液体カラムクロマトグラフィー(カラム:ナカライテスク株式会社製COSMOSIL 5C8−MS(ID4.6mm×250mm)、溶離液:水/アセトニトリル=1/1、流速:1ml/min、検出:210nm、カラム温度:室温)で行い得る。
また、1−(2’−フルオロフェニル)エタノールの光学純度の測定は、高速液体カラムクロマトグラフィー(カラム:ダイセル化学工業株式会社製Chiralcel OB(ID4.6mm×250mm)、溶離液:n−ヘキサン/イソプロパノール=9/1、流速:0.5ml/min、検出:254nm、カラム温度:室温)で行い得る。
4−クロロアセト酢酸エチルおよび4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸エチルの定量は、ガスクロマトグラフィー(カラム:ジーエルサイエンス株式会社製PEG−20M Chromosorb WAW DMCS 10% 80/100mesh(ID3mm×1m)、カラム温度:150℃、検出:FID)で行い得る。
また、4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸エチルの光学純度の測定は、高速液体カラムクロマトグラフィー(カラム:ダイセル化学工業株式会社製Chiralcel OB(ID4.6mm×250mm)、溶離液:n−ヘキサン/イソプロパノール=9/1、流速:0.8ml/min、検出:215nm、カラム温度:室温)で行い得る。
以上のように、本発明に従えば、本発明のポリペフチドの効率的生産が可能であり、それを利用することにより、種々の有用な光学活性アルコールの優れた製造法が提供される。
発明を実施するための最良の形態
以下、実施例で本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
なお、以下の実施例において用いた組換えDNA技術に関する詳細な操作方法などは、次の成書に記載されている。Molecular Cloning 2nd Edition(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)、Current Protocols in Molecular Biology(Greene Publishing Associates and Wiley−Interscience)。
実施例1 酵素の精製
以下の方法に従って、ロドトルーラ・グルチニス・バー・ダイレネンシス(Rhodotorula glutinis var.dairenensis)IFO0415株より2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノンを不斉的に還元して(R)−2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールを生成する活性を有する酵素を単一に精製した。特に断りのない限り、精製操作は4℃で行った。
(ロドトルーラ・グルチニス・バー・ダイレネンシス(Rhodotorula glutinis var.dairenensis)IFO0415株の培養)
30Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ社製)に下記の組成からなる液体培地18Lを調製し、120℃で20分間蒸気殺菌をおこなった。
培地組成(%は(w/v)で表示):
グルコース 4.0%
イーストエキス 0.3%
KH2PO4 0.7%
(NH4)2HPO4 1.3%
NaCl 0.1%
MgSO4・7H2O 0.08%
ZnSO4・7H2O 0.006%
FeSO4・7H2O 0.009%
CuSO4・5H2O 0.0005%
MnSO4・4〜6H2O 0.001%
アデカノールLG−109(日本油脂製)0.01%
水道水 pH7.0
この培地に、予め同培地にて前培養しておいたロドトルーラ・グルチニス・バー・ダイレネンシス(Rhodotorula glutinis var.dairenensis)IFO0415株の培養液を180mlずつ接種し、攪拌回転数250rpm、通気量5.0NL/min、30℃で、30%(w/w)水酸化ナトリウム水溶液の滴下により下限pHを5.5に調整しながら培養した。培養開始から18時間後、22時間後、26時間後に55%(w/w)グルコース水溶液655gを添加し、30時間培養を行った。
(無細胞抽出液の調整)
上記の培養液5600mlから遠心分離により菌体を集め、1000mlの100mMリン酸緩衝液(pH8.2)にて菌体を洗浄した。このようにして,該菌株の湿菌体1599gを得た。この湿菌体を100mMリン酸緩衝液(pH8.2)に懸濁し、2000mlの菌体懸濁液を得た。この菌体懸濁液をダイノミル(Willy A.Bachofen社製)で破砕した後、破砕物から遠心分離にて菌体残渣を除き、無細胞抽出液1470mlを得た。
(硫酸アンモニウム分画)
上記で得た無細胞抽出液に45%飽和となるように硫酸アンモニウムを添加、溶解し、生じた沈殿を遠心分離により除去した(この際、無細胞抽出液のpHをアンモニア水でpH7.5に維持しながら行った)。先と同様pH7.5を維持しながら、この遠心上清に60%飽和となるようさらに硫酸アンモニウムを添加、溶解し、生じた沈殿を遠心分離により集めた。この沈殿を10mMリン酸緩衝液(pH7.5)に溶解し、同一緩衝液で1夜透析した。
(DEAE−TOYOPEARLカラムクロマトグラフィー)
上記で得られた粗酵素液を、10mMリン酸緩衝液(pH7.5)で予め平衡化したDEAE−TOYOPEARL 650M(東ソー株式会社製)カラム(250ml)に供し、酵素を吸着させた。同一緩衝液でカラムを洗浄した後、NaClのリニアグラジエント(0Mから0.3Mまで)により活性画分を溶出させた。活性画分を集め、10mMリン酸緩衝液(pH7.5)にて1夜透析を行った。
(Phenyl−TOYOPEARLカラムクロマトグラフィー)
上記で得られた粗酵素液に終濃度1Mとなるよう硫酸アンモニウムを溶解し(この際粗酵素液のpHをアンモニア水でpH7.5に維持しながら行った)、1Mの硫酸アンモニウムを含む10mMリン酸緩衝液(pH7.5)で予め平衡化したPhenyl−TOYOPEARL 650M(東ソー株式会社製)カラム(100ml)に供し、酵素を吸着させた。同一緩衝液でカラムを洗浄した後、硫酸アンモニウムのリニアグラジエント(1Mから0Mまで)により活性画分を溶出させた。活性画分を集め、10mMリン酸緩衝液(pH7.5)にて1夜透析を行った。
(Blue sepharoseカラムクロマトグラフィー)
上記で得られた粗酵素液を、10mMリン酸緩衝液(pH7.5)で予め平衡化したBlue sepharoseCL−6B(Pharmacia Biotech社製)カラム(20ml)に供し、酵素を吸着させた。同一緩衝液でカラムを洗浄した後、NaClのリニアグラジエント(0Mから1Mまで)により活性画分を溶出させた。活性画分を集め、10mMリン酸緩衝液(pH7.5)にて1夜透析を行い、電気泳動的に単一な精製酵素標品を得た。以後、この酵素をRRGと呼ぶことにする。
実施例2 酵素の性質の測定
得られた酵素の酵素学的性質について検討した。
酵素活性の測定は、基本的には、0.3%(v/v)のジメチルスルホキシドを含む100mMリン酸緩衝液(pH6.5)に、基質2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノン1mM、補酵素NADPH0.25mMおよび酵素を添加し、30℃で1分間反応させ、波長340nmの吸光度の減少を測定することにより行った。
(1)作用:
NADPHを補酵素として、2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノンに作用し、光学純度99.9%ee以上の(R)−2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールを生成した。NADHを補酵素として上記方法に準じて酵素活性を測定した場合、NADPHを補酵素とした場合の約7%の活性を示した。
(2)作用至適pH:
緩衝液として、ジメチルスルホキシドを含む100mMリン酸緩衝液、および100mM酢酸緩衝液を用いて、pHを4.0〜8.0の範囲とした以外は、上記酵素活性の測定方法と同様にして、酵素活性を測定した。その結果、2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノンに作用する至適pHは5.0〜6.0であった。
(3)作用至適温度:
20℃〜60℃の温度とした以外は、上記酵素活性の測定方法と同様にして、酵素活性を測定した。その結果、2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノンに作用する至適温度は40℃〜50℃であった。
(4)分子量:
溶離液として150mMの塩化ナトリウムを含む50mMリン酸緩衝液(pH7.0)を用い、Superdex 200 HR 10/30(アマシャム ファルマシア バイオテク社製)による精製酵素のゲル濾過クロマトグラフィー分析を行った結果、標準タンパク質との相対保持時間から算出した本酵素の分子量は約40000であった。また、酵素のサブユニットの分子量は、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動分析により、標準タンパク質との相対移動度から算出した。本酵素のサブユニットの分子量は約30000であった。
実施例3 RRG遺伝子のクローニング
(PCRプライマーの作成)
実施例1で得られた精製RRGを8M尿素存在下で変性した後、アクロモバクター由来のリシルエンドペプチダーゼ(和光純薬工業株式会社製)で消化し、得られたペプチド断片のアミノ酸配列をABI492型プロテインシーケンサー(パーキンエルマー社製)により決定した。このアミノ酸配列をもとに、DNAプライマー2種(プライマー1、配列番号3;プライマー2、配列番号4)を常法に従って合成した。
(PCRによるRRG遺伝子の増幅)
ロドトルーラ・グルチニス・バー・ダイレネンシス(Rhodotorula glutinis var.dairenensis)IFO0415株の培養菌体からVisser等の方法(Appl.Microbiol.Biotechnol.,53,415(2000))に従って染色体DNAを抽出した。次に、上記で調製したDNAプライマーを用い、得られた染色体DNAを鋳型としてPCRを行ったところ、RRG遺伝子の一部と考えられる約600bpのDNA断片が増幅された(PCRは、DNAポリメラーゼとしてTaKaRa Ex Taq(宝酒造株式会社製)を用いて行い、反応条件はその取り扱い説明書に従った。)。このDNA断片を、プラスミドpT7Blue T−Vector(Novagen社製)にクローニングし、ABI PRISM Dye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit(Perkin Elmer社製)およびABI 373A DNA Sequencer(Perkin Elmer社製)を用いてその塩基配列を確認した。
(i−PCR法によるRRG遺伝子の全長配列の決定)
ロドトルーラ・グルチニス・バー・ダイレネンシス(Rhodotorula glutinis var.dairenensis)IFO0415株の染色体DNAを制限酵素SphIで完全消化し、得られたDNA断片の混合物をT4リガーゼにより分子内環化させた。これを鋳型として用い、前項で判明したRRG遺伝子の部分塩基配列情報をもとに、i−PCR法(Nucl.Acids Res.16,8186(1988))により、染色体DNA上のRRG遺伝子の全塩基配列を決定した(PCRは、TaKaRa LA PCR Kit Ver.2(宝酒造株式会社製)を用いて行い、反応条件はその取り扱い説明書に従った。また、塩基配列の決定は先と同様に行った。)。その塩基配列を、配列表の配列番号9および図1に示した。なお、図1において、塩基配列中でRRG遺伝子をコードしているのは下線を付した部分と考えられ、それ以外の部分はイントロンと考えられた。下線を付した塩基配列がコードするアミノ酸配列を塩基配列の下段に示した。このアミノ酸配列と、精製RRGのリジルエンドペプチダーゼ消化断片の部分アミノ酸配列を比較した結果、精製RRGの部分アミノ酸配列は全て、このアミノ酸配列中に存在した。図1中のアミノ酸配列において、精製RRGの部分アミノ酸配列と一致した部分には下線を付した。
実施例4 イントロンを含まないRRG遺伝子の取得
実施例3で決定された塩基配列を基に、RRG遺伝子の開始コドン部分にNdeI部位を付加したN末端DNAプライマー(プライマー3、配列番号5)、および同遺伝子の3’末端の直後に終止コドン(TAA)とEcoRI部位を付加したC末端DNAプライマー(プライマー4、配列番号6)を合成した。次に、ロドトルーラ・グルチニス・バー・ダイレネンシス(Rhodotorula glutinis var.dairenensis)IFO0415株の培養菌体から、同菌株の総RNAをRNeasy Maxi Kit(QIAGEN社製)を用いて抽出、精製した。このRNAを鋳型として、先に調製した2種のDNAをプライマーとして用い、RT−PCR法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85,8998(1988))により、開始コドン部分にNdeI部位を付加し3’末端の直後に終止コドン(TAA)とEcoRI切断点を付加したイントロンを含まない成熟型のRRG遺伝子を増幅した(RT−PCRはHigh Fidelity RNA PCR Kit(宝酒造株式会社製)を用いて行い、反応条件はその取り扱い説明書に従った。)。
実施例5 RRG遺伝子を含む組換えプラスミドの作製
実施例4で得られたDNA断片をNdeIおよびEcoRIで消化し、プラスミドpUCNT(WO94/03613)のlacプロモーターの下流のNdeI、EcoRI部位に挿入することにより、組換えプラスミドpNTRGを得た。
実施例6 RRG遺伝子およびグルコース脱水素酵素遺伝子の両者を含む組換えプラスミドの作製
バシラス・メガテリウム(Bacillus megaterium)IAM1030株由来のグルコース脱水素酵素(以後、GDHと称する)の遺伝子の開始コドンから5塩基上流に大腸菌のShaine−Dalgarno配列(9塩基)を、さらにその直前にSacI切断点を、また、終止コドンの直後にBamHI切断点を付加した二本鎖DNAを、以下の方法により取得した。GDH遺伝子の塩基配列情報を基に、GDHの構造遺伝子の開始コドンから5塩基上流に大腸菌のShaine−Dalgarno配列(9塩基)を、さらにその直前にEcoRI切断点を付加したN末端DNAプライマー(プライマー5、配列番号7)と、GDHの構造遺伝子の終始コドンの直後にSalI部位を付加したC末端DNAプライマー(プライマー6、配列番号8)を常法に従って合成した。これら2つのDNAプライマーを用い、プラスミドpGDK1(Eur.J.Biochem.186,389(1989))を鋳型としてPCRにより二本鎖DNAを合成した。得られたDNA断片をEcoRIおよびSalIで消化し、実施例5において構築したpNTRGのEcoRI、SalI部位(RRG遺伝子の下流に存在する)に挿入した組換えプラスミドpNTRGG1を得た。pNTRGG1の作製方法および構造を図2に示す。
実施例7 組換え大腸菌の作製
実施例5および6で得た組換えプラスミドpNTRGおよびpNTRGG1を用いて、大腸菌HB101(宝酒造株式会社製)を形質転換し、組換え大腸菌HB101(pNTRG)およびHB101(pNTRGG1)を得た。こうして得られた形質転換体E.coli HB101(pNTRG)およびE.coli HB101(pNTRGG1)は、それぞれ、受託番号FERM BP−7857およびFERM BP−7858として、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6にある独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、平成14年1月22日付で寄託した。
実施例8 組換え大腸菌におけるRRGの発現
実施例7で得た組換え大腸菌HB101(pNTRG)を120μg/mlのアンピシリンを含む2×YT培地で培養し、集菌後、100mMリン酸緩衝液(pH6.5)に懸濁し、UH−50型超音波ホモゲナイザー(SMT社製)を用いて破砕し、無細胞抽出液を得た。この無細胞抽出液のRRG活性を以下のように測定した。RRG活性の測定は、0.3%(v/v)のジメチルスルホキシドを含む100mMリン酸緩衝液(pH6.5)に、基質2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノン1mM、補酵素NADPH0.25mMおよび酵素を添加し、30℃で波長340nmの吸光度の減少を測定することにより行った。この反応条件において、1分間に1μmolのNADPHをNADPに酸化する酵素活性を1unitと定義した。この様に測定した無細胞抽出液中のRRG活性を比活性として表し、ベクタープラスミドを保持する形質転換体と比較した。また、実施例1と同様の方法で調製したロドトルーラ・グルチニス・バー・ダイレネンシス(Rhodotorula glutinis var.dairenensis)IFO0415株の無細胞抽出液中のRRG活性についても同様に比較した。それらの結果を表1に示す。大腸菌HB101(pNTRG)では、ベクタープラスミドのみの形質転換体である大腸菌HB101(pUCNT)と比較して明らかなRRG活性の増加が見られ、ロドトルーラ・グルチニス・バー・ダイレネンシス(Rhodotorula glutinis var.dairenensis)IFO0415株と比較して、比活性は約150倍に達した。
実施例9 組換え大腸菌におけるRRGおよびGDHの同時発現
実施例7で得た組換え大腸菌HB101(pNTRGG1)を、実施例8と同様に処理して得られる無細胞抽出液のGDH活性を、以下のように測定した。GDH活性の測定は、1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.0)に、基質グルコース0.1M、補酵素NADP2mMおよび酵素を添加し、25℃で波長340nmの吸光度の増加を測定することにより行った。この反応条件において、1分間に1μmolのNADPをNADPHに還元する酵素活性を1unitと定義した。また、RRG活性についても実施例8と同様に測定した。このように測定した無細胞抽出液中のRRGおよびGDH活性を比活性として表し、大腸菌HB101(pNTRG)およびベクタープラスミドのみの形質転換体HB101(pUCNT)と比較した結果を表2に示す。大腸菌HB101(pNTRGG1)では、ベクタープラスミドのみの形質転換体である大腸菌HB101(pUCNT)と比較して、明らかなRRGおよびGDH活性の増加が見られた。
実施例10 RRG遺伝子を導入した組換え大腸菌による2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノンからの(R)−2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールの合成
実施例8で得られた組換え大腸菌HB101(pNTRG)の培養液を、SONIFIRE250(BRANSON社製)を用いて超音波破砕した。この菌体破砕液20mlにグルコース脱水素酵素(天野製薬株式会社製)2000U、グルコース3g、NADP2mg、2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノン2gを添加した。この反応液を、5Mの水酸化ナトリウムの添加によりpH6.5に調整しつつ、30℃で18時間攪拌した。反応終了後、この反応液をトルエンで抽出し、脱溶剤した後、抽出物の分析を行ったところ、収率96%で2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールが得られた。この際、生成した2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールは光学純度99.9%eeのR体であった。
2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノン、2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールの定量、および2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールの光学純度の測定は、高速液体カラムクロマトグラフィー(カラム:ダイセル化学工業株式会社製Chiralcel OJ(ID4.6mm×250mm)、溶離液:n−ヘキサン/イソプロパノール=39/1、流速:1ml/min、検出:210nm、カラム温度:室温)で行った。
実施例11 RRGおよびグルコース脱水素酵素を同時発現させた組換え大腸菌による2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノンからの(R)−2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールの合成
実施例9で得られた組換え大腸菌HB101(pNTRGG1)の培養液を、SONIFIRE250(BRANSON社製)を用いて超音波破砕した。この菌体破砕液20mlにグルコース3g、NADP2mg、2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノン2gを添加した。この反応液を、5Mの水酸化ナトリウムの滴下によりpH6.5に調整しつつ、30℃で24時間攪拌した。反応終了後、この反応液をトルエンで抽出し、脱溶剤した後、抽出物の分析を実施例10と同様に行ったところ、収率93%で2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールが得られた。この際、生成した2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールは光学純度99.9%eeのR体であった。
実施例12 RRGおよびグルコース脱水素酵素を同時発現させた組換え大腸菌による4−クロロアセト酢酸エチルからの(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸エチルの合成
実施例9で得られた組換え大腸菌HB101(pNTRGG1)の培養液を、SONIFIRE250(BRANSON社製)を用いて超音波破砕した。この菌体破砕液20mlにグルコース4g、NADP3mgを添加した。この反応液を30℃で攪拌し、5Mの水酸化ナトリウムの滴下によりpH6.5に調整しつつ、4−クロロアセト酢酸エチル合計2gを1時間に0.2gの割合で連続的に添加した。そして、添加終了後さらに12時間反応を継続した。反応終了後、この反応液を酢酸エチルで抽出し、脱溶剤した後、抽出物を分析したところ、収率98%で4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸エチルが得られた。この際、生成した4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸エチルは光学純度99%ee以上のR体であった。
4−クロロアセト酢酸エチルおよび4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸エチルの定量は、ガスクロマトグラフィー(カラム:ジーエルサイエンス株式会社製PEG−20M Chromosorb WAW DMCS 10% 80/100mesh(ID3mm×1m)、カラム温度:150℃、検出:FID)で行った。また、4−クロロ−3−ヒドロキシ酪酸エチルの光学純度の測定は、高速液体カラムクロマトグラフィー(カラム:ダイセル化学工業株式会社製Chiralcel OB(ID4.6mm×250mm)、溶離液:n−ヘキサン/イソプロパノール=9/1、流速:0.8ml/min、検出:215nm、カラム温度:室温)で行った。
実施例13 RRGおよびグルコース脱水素酵素を同時発現させた組換え大腸菌による1−(2’−フルオロフェニル)エタノンからの(S)−1−(2’−フルオロフェニル)エタノールの合成
実施例9で得られた組換え大腸菌HB101(pNTRGG1)の培養液を、SONIFIRE250(BRANSON社製)を用いて超音波破砕した。この菌体破砕液100mlにグルコース15g、1−(2’−フルオロフェニル)エタノン5g、NADP15mgを添加した。この反応液を、5Mの水酸化ナトリウムでpH6.5に調整しつつ、30℃で24時間攪拌した。反応終了後、この反応液を酢酸エチルで抽出し、脱溶剤した後、抽出物を蒸留(54℃/1mmHg)し、無色オイル状の1−(2’−フルオロフェニル)エタノール4.1gを得た。その比旋光度は[α](25、D)−45.3(c=0.794,メタノール)を示し、光学純度99.9%eeのS体であった。
1H−NMR(CDCl3)δppm 1.52(d,3H),1.97(br,1H),5.20(q,1H),6.99〜7.51(m,4H)
1−(2’−フルオロフェニル)エタノンおよび1−(2’−フルオロフェニル)エタノールの定量は、高速液体カラムクロマトグラフィー(カラム:ナカライテスク株式会社製COSMOSIL 5C8−MS(ID4.6mm×250mm)、溶離液:水/アセトニトリル=1/1、流速:1ml/min、検出:210nm、カラム温度:室温)で行った。また、1−(2’−フルオロフェニル)エタノールの光学純度の測定は、高速液体カラムクロマトグラフィー(カラム:ダイセル化学工業株式会社製Chiralcel OB(ID4.6mm×250mm)、溶離液:n−ヘキサン/イソプロパノール=9/1、流速:0.5ml/min、検出:254nm、カラム温度:室温)で行った。
実施例14 RRGの基質特異性
RRGの種々のカルボニル化合物に対する還元活性を調べた。実施例2のRRG活性測定の基本反応条件において、2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノンのかわりに、表3に示す各種カルボニル化合物を基質として活性測定を行った。測定結果は、2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノンを基質としたときの還元活性を100%とした時の相対値で表し、表3に示した。
産業上の利用可能性
2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノンを不斉的に還元して(R)−2−クロロ−1−(3’−クロロフェニル)エタノールを生成する活性を有するポリペプチド遺伝子のクローニング、およびそのヌクレオチド配列の解析により、該ポリペプチド産生能の高い形質転換体を得ることが可能になった。また、該ポリペプチドおよびグルコース脱水素酵素を同時に高生産する能力を有する形質転換体をも得ることが可能になった。さらに、これらの形質転換体を用いることにより、種々のカルボニル化合物から光学活性アルコールを効率良く合成することが可能となった。
【配列表】
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明のポリヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列を示す図である。
図2は、組換えプラスミドpNTRGG1の作製方法および構造を示す図である。
Claims (22)
- ポリペプチドがロドトルーラ(Rhodotorula)属に属する微生物に由来する請求項1または2に記載のポリペプチド。
- ロドトルーラ属に属する微生物が、ロドトルーラ・グルチニス・バー・ダイレネンシス(Rhodotorula glutinis var.dairenensis)IFO0415株である請求項3に記載のポリペプチド。
- 請求項2に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
- 請求項5または6に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
- E.coli HB101(pNTRG)(FERM BP−7857)から分離し得るプラスミドpNTRGである請求項7に記載の発現ベクター。
- グルコース脱水素酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項7に記載の発現ベクター。
- 前記グルコース脱水素酵素活性を有するポリペプチドが、バシラス・メガテリウム(Bacillus megaterium)由来のグルコース脱水素酵素である、請求項9に記載の発現ベクター。
- E.coli HB101(pNTRGG1)(FERM BP−7858)から分離し得るプラスミドpNTRGG1である請求項10に記載の発現ベクター。
- 請求項7から11のいずれかに記載の発現ベクターを用いて宿主細胞を形質転換して得られた形質転換体。
- 前記宿主細胞が大腸菌である請求項12に記載の形質転換体。
- E.coli HB101(pNTRG)(FERM BP−7857)である請求項13に記載の形質転換体。
- E.coli HB101(pNTRGG1)(FERM BP−7858)である請求項13に記載の形質転換体。
- 請求項12から15のいずれかに記載の形質転換体の培養物またはその処理物を、カルボニル基を有する化合物と反応させることを特徴とする光学活性アルコールの製造方法。
- 請求項6に記載のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド。
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