以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて、詳細に説明する。まず本発明の装置が適用される介護リフターの全体構成について図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施形態に係る介護リフターの一使用形態を示すための正面図であり、図2は図1に示す介護リフターの側面図である。図2には、肩用懸吊ベルトおよび腿用懸吊ベルトを有する懸吊ベルトによる吊り上げ位置が明示されている。図1および図2は、一般家庭の室内における床面上に設置された介護リフターの一実施形態を示し、特に、人体の全重量を吊り上げて異なる位置間を移動し得るように、耐荷重性の架構造に形成した例を示している。
両図において、床面に設置可能な1対の支柱1と、この支柱1に両端が連結されたレール2とによって耐荷重性の架手段50が形成され、この架手段50のレール2に支承されて後述する構造を有したリフター本体3が同レール2に沿って図1の左右方向に走行状態で移動可能に懸架されている。このリフター本体3には懸吊ベルト4の上下動による吊り上げ動作、吊り下げ動作の駆動源となるモータを備えたベルト懸吊装置3aが取着されており、このベルト懸吊装置3aから合成樹脂材、例えばナイロン材から成る懸吊ベルト4がプーリ4c、4dなどに対して巻き上げ式に引き上げられ、また反対に巻き下げ式に引き下ろされる構成で垂下されている。ベルト駆動装置3aは、懸吊ベルト4の腿用懸吊ベルト4a、肩用懸吊ベルト4bを各々個別に巻き上げ、繰り出しできるように2つのモータを備え、腿用懸吊ベルト4aと肩用懸吊ベルト4bとを各々異なるモータにて制御している。
上記懸吊ベルト4において一方のベルト4aは1対の腿用懸吊ベルト4aを成しており、被懸吊者Mの両腿部の適所(被懸吊者Mの片手が届くほぼ両膝に近い位置)に下端が垂下し、他方のベルト4bは1対の肩用懸吊ベルト4bを形成し、被懸吊者Mの両方の肩上部の個所に垂下している。上記腿用懸吊ベルト4aには、図2に明示されているように、懸吊時に被懸吊者Mの揺れを抑制できるように、両腿部に結合された該1対の腿用懸吊ベルト4aをひと纏めに結束状態にする揺れ抑制留め具5が装備されている。
上記の懸吊ベルト4は、上端側が上記のベルト懸吊装置3aのプーリ4c、4dに止着されて適宜量だけ該プーリ4c、4dの回りに巻回後に下方に垂下しており、下端側には被懸吊者Mによる操作性の良好な結合具、例えば周知のカラビナなどから構成される雄型結合具6a、6bが取付けられている。これらの雄型結合具6a、6bは被懸吊者Mが着衣した衣服型吊り具8の両肩部位と両腿部位とに設けられた対応の雌型結合具7a、7bに結合して、懸吊ベルト4を衣服型吊り具8に被懸吊者Mが片手で簡単に結合できるように形成されている。
図1および図2は、体の片半身あるいは下半身が不自由な身体障害者などの被懸吊者Mが、ベッド10からポータブルトイレ(以下、単にトイレと記す)11aまたは車椅子11bへ自身の操作で移動し、また戻ってくることが可能なように架手段50のレール2に沿って水平移動する装置として構成されており、図示の状態はベッド10で懸吊ベルト4を結合してから、操作器(以下、リモコンという)9を被懸吊者M自身が片手で操作してベッド10の上面から上方へ吊り上げられた状態を示している。上記リモコン9は、例えば赤外線によって後述する本装置の制御部へ信号を送信する赤外線リモコン(図6参照)であり、懸吊ベルト4の吊り上げの実行に対応する「上」ボタン、吊り下げの実行に対応する「下」ボタン、リフター本体3のレール2に沿った右方向への横移動を実行する「右」ボタン、左方向への横移動を実行する「左」ボタンおよび緊急通報を行なう「緊」ボタンの、合計5個のボタンを備えている。
なお、リモコン9は赤外線リモコンに限定されるものではなく本装置の制御部よりリード線を延出させて当該リード線にて信号を送信する有線構造のリモコンとして構成してもよい。
ここで、上述した本発明の実施形態に係る介護リフターと組み合わせて用いられる衣服型吊り具の構造について説明する。
図3は被懸吊者が着衣した衣服型吊り具の一実施形態を示す図であり、(A)は同衣服型吊り具の正面図であり、(B)は背面図である。すなわち、図3は、衣服型吊り具8を示しており、半身不随などの原因で日常生活の行動が普通に遂行できない身体障害者のような被懸吊者Mが予め着衣する構造に形成されており、上半身、下半身が被懸吊者Mの体格に合わせた一体型に形成されており、背中側に何らの凹凸がない構造とされ、着用したままベッド10に常時、就寝していても、床ずれなどを起こさないように配慮されて形成されている。
この衣服型吊り具8の被懸吊者Mの側面から見て身体の前方側には、腿部の膝に近い上面個所と、両肩の上部個所との分散された両個所に既述の雌型結合具7aと7bが固着されており、これらの雌型結合具7a、7bは、被懸吊者Mが片手で懸吊ベルト4側の雄型結合具6a、6bと結合操作ができる範囲内の位置に設けられると同時に、後述するようにベッド10(図1、2参照)で身体をやや起こされた状態から懸吊ベルト4で吊り上げられたときに、被懸吊者Mのほぼ全域に分散して吊り上げ力が作用し、被懸吊者Mに吊り上げ力の負担から不快感が生じたり、床ずれの原因とならない位置に選定されている。
つまり、被懸吊者Mの背中全面からでん部周囲と腿の下面にかけての広い範囲で被懸吊者Mが衣服型吊り具8を介して懸吊ベルト4により吊り上げ、支持されるので被懸吊者Mに圧迫感や窮屈感などの不快感を与えることがないのである。また、雌型結合具7bの一端は衣服型吊り具8の肩の頂上部位に配置されるが、雌型結合具7bが雄型結合具6bと結合される部分は、胸部における片手の可動範囲内に配置されていることから、片手の可動範囲内に配置される雌型結合具7aと雄型結合具6aとを被懸吊者Mが片手だけを用いて簡単に結合できる点が注目される。
なお、図3において、衣服型吊り具8にはさらに被懸吊者Mがトイレ11aの位置に達して用便するときに、自在に開口することができる開口部8a(破線図示を参照)が前後に各穿設されており、この開口部8aは巻きスカート状に構成される開口補助具39により開口自在に形成されている。被懸吊者Mが排泄する際には、開口補助具39を片手操作でたくし上げることにより身体前面あるいは背中側の開口部8aが露出し、用便が可能となる。
上述した図3に示した衣服型吊り具8は、被懸吊者Mの体形に一致させて予め適正な寸法に形成され、両腿上面部位の適所と両肩頂部とに懸吊ベルト4a、4bの雄型結合具6a、6bとの結合用の雌型結合具7a、7b及び開口部8aの開口補助具39とを具備することにより、リフター本体3、ベルト懸吊装置3aと共働して被懸吊者Mの吊り上げ、吊り下ろし、位置間の移動を円滑に進行させ得るのである。なお、衣服型吊り具8は予めサイズS、M、Lを決めて形成されており、被懸吊者の体型に合わせて適宜のサイズを選択する。
図4は介護リフター本体の機能を示すブロック構成図である。リフター本体3は、レール2上を走行させるための走行部200と、レール上でのリフター本体3の現在位置を検出する現在位置検出部300と、赤外線リモコン9からの赤外線を受光する受光部400と、異常が発生した場合にブザー音や光線等にて異常発生を報知する報知部500と、肩用、腿用それぞれ2本の懸吊ベルトを独立な2組のモータにて独立に制御するベルト懸吊部600と、上記懸吊ベルトにかかる張力から被懸吊者が正常に吊り上げられているか否かを検出する荷重検出部700と、上記4本の懸吊ベルトの繰り出し長を検出する懸吊ベルト繰り出し長検出部800と、これらの各部間の動作を制御する制御部100とを含んで構成される。
走行部200は、不図示のモータ、減速機、第1軸および第2軸等から構成され、レール2に沿ってリフター本体3を走行させる機能を有する。制御部100、受光部400、報知部500はそれぞれ本介護リフターの適宜の場所に設けられる。例えば制御部100は、リフター本体3に搭載した電気ボックス内に設けても良い。受光部400は、赤外線リモコン9からの光を受光し易い場所、例えば電気ボックスの外表面に設けられる。報知部500は、介護者がブザー等を機械的に解除できる様に、支柱1の適宜の場所に設けても良い。
リフター本体3の現在位置検出部300は、基本的に走行レール2に貼付した反射シール2aと、リフター本体3に搭載した電気ボックス(不図示)内に設けたフォトインタラプタ(不図示)とから構成されている。反射シール2aはベッド10、トイレ11a、車椅子11bといった被懸吊者が利用する可能性のある位置に対応するレール2上に貼られており、例えば場所に応じて枚数を変えることによって場所を特定する。即ち、ベッド10上には反射テープを1枚、トイレ11aおよび車椅子11b上には2枚はりつけることによって、それぞれの場所を特定することができる。
このようにリフター本体3の現在位置を特定することにより吊り上げて移動させた被懸吊者Mが下降可能な場所であるか否かを判定することができ、下降できない場所であれば報知部500にて異常を報知するなどの制御を行うことができる。
現在位置の検出は、上記以外にも、例えば反射シールの代わりに所望の位置に微弱な電波を送出する発振器を取り付け、これを検知することによっても実現可能である。また、位置を直接検知するのではなく、例えば走行レール端部からの移動距離を走行車両の回転数に基づきエンコーダを用いて計測し、これの積算値を用いる事も可能である。
図5は図4に示す荷重検出部700の概略構成図である。図において35a、35a’は腿用懸吊ベルト4aの張力検出器を示す。図5では腿用懸吊ベルト4aの荷重及び上下限を検出する機構を例に説明するが、肩用懸吊ベルト4bの荷重及び上下限を検出する機構も同様に構成される。これら張力検出器35a、35a’は、人体吊り上げ程度の荷重がかかるとONする、リミットスイッチにて構成されている。なお本例に限らず、懸吊ベルト4a、4bにかかる張力を直接、いわゆるテンションメーターで検出し、あるいは懸吊ベルト4a、4bを制御するモータ(不図示)のトルクを検出するようにしても良い。本実施形態では、荷重検出部700は、この腿用懸吊ベルト4aのための2個の張力検出器35a、35a’と、肩用懸吊ベルトのための2個の張力検出器(不図示)によって、4本のベルトのそれぞれにかかる張力を検出し、これから各ベルトにかかる荷重を検出する様に構成されている。
36aは懸吊ベルト上限検出器であり、懸吊ベルト4に設けられたメカニカルストッパー37aによって作動し、ベルトの巻き上げの上限を検出する。36a’は懸吊ベルト下限検出器であり、図示しない懸吊ベルト4に貼付している反射シールをフォトインタラプタで検出することにより、ベルトの巻き下げの下限を検出する。なお図1、2には示していないが、38はリフター本体3の側面に設けたオーバーラン検出器であり、レール2の側端部に設けたメカニカルストッパー39と協同して、リフター本体3が不必要にレール2の端部に向かって移動しないようにしている。
また、図5はリフター本体3を図1の正面方向(図2の左方向)から見た図であり、従って腿用懸吊ベルト4aに関する張力検出器、腿用懸吊ベルト上下限検出器のみが示されているが、肩用懸吊ベルト4bに付随してそれらの張力検出器、懸吊ベルト上下限検出器がリフター本体3の反対側に存在する。
なお、図5において懸吊ベルト4の上限検出器36aは懸吊ベルト4の巻き上げ上限位置に貼付した反射シールをフォトインタラプタで検出して作動するよう構成してもよく、オーバーラン検出器38は、レール2の側端部に貼付した反射シールをフォトインタラプタで検出して作動するよう構成してもよい。
図4のベルト懸吊部600は、図1に示すベルト懸吊装置3aで構成される。また懸吊ベルト繰り出し長検出部800は、腿用と肩用の懸吊ベルト4a、4bを制御するモータに連結された各軸の回転検出用の各エンコーダで構成され、これら各エンコーダにより腿用懸吊ベルト4aと肩用懸吊ベルト4bの繰り出し長が検出される。
図6は図1に示す赤外線リモコン9のブロック構成図である。赤外線リモコン9は、図示する様に、上移動「上」、下移動「下」、左移動「左」、右移動「右」、緊急通報「緊」の計5つの指示に対応した操作信号を形成する操作ボタン91〜95と、この操作信号を赤外線にて送信するための投光部96および操作信号に対応した光信号が形成されるようにこの投光部96を制御する制御部97とから構成される。
これらの操作ボタンは、被懸吊者がボタンを押している場合のみ信号が発信されるように構成されており、それによってオン、オフボタンの省略を可能としている。その結果、赤外線リモコン9のコントールパネル(図1参照)上には必要最小限の上記5個の操作ボタンのみが配置されることとなり、被懸吊者にとってボタン選択操作が容易になっている。
図7は図4に示す制御部100の詳細を示すブロック構成図である。制御部100は、現在位置認識手段101と、吊り上げ高判定手段102と、荷重判定手段103と、操作信号認識手段104と、姿勢検出手段105と、制御パターン記憶手段106と、制御パターン選択設定手段107と、走行制御手段111と、肩用懸吊ベルト制御手段112と、腿用懸吊ベルト制御手段113と、報知制御手段114と、制御手段120とを含んで構成される。
現在位置認識手段101は、現在位置検出部300からの信号に基づき、レール上の吊り上げ、吊り下げ可能位置に貼られた反射シールからの反射光のパターンに応じて、リフター本体3の現在位置を認識する。
吊り上げ高判定手段102は、懸吊ベルト繰り出し長検出部800から出力される懸吊ベルトの繰り出し長さを示す出力信号から、懸吊ベルト下端の高さを判定する。また、懸吊者を吊り上げるときに、吊り上げ高さが予め設定した高さ未満であるかどうかを判定する。
荷重判定手段103は、荷重検出部700で懸吊ベルト4a、4bにかかっている張力が所定値以上であるかどうかを検出することにより各懸吊ベルト4a、4bに人体各部の荷重がかかっているか否かを判定する。
操作信号認識手段104は、赤外線リモコン9のどのボタンが押されたかを認識する。
姿勢検出手段105は、荷重判定手段103の判定結果より被懸吊者の姿勢を検出する。
制御パターン記憶手段106は、リフター本体3による被懸吊者の昇降制御に関して被懸吊者の姿勢に応じた複数の制御パターンが記憶されている。
制御パターン選択設定手段107は、姿勢検出手段105により検出された結果をもとに、上記複数の制御パターンの中から吊り上げ、吊り下げなどの制御動作や姿勢に応じて制御パターンを選択し設定する。
走行制御手段111は、レール上の移動走行を制御する。
肩用および腿用懸吊ベルト制御手段112、113は、肩用および腿用懸吊ベルト4a、4bを制御する。
報知制御手段114は、異常時に報知部500を駆動して音や光によって異常を報知する。
制御手段120は、上記各手段の動作全体を制御する。
以上に説明した本発明の1実施形態にかかる介護リフターに関して、以下にその動作を説明する。
まず、介護リフターの初期設定について述べる。
本介護リフターには、被懸吊者の体格に応じた衣服型吊り具8のサイズ、上昇・下降速度および横移動速度、横移動可能な高さといった種々のパラメータを初期設定するディップスイッチ(図示せず)が設けられていて、初期設定がなされる。この初期設定は通常、本装置を利用者宅に設置する際に設置者が設定するものであり、日常の使用時に被懸吊者やその介護者が設定する必要はない。
上記パラメータのうち、上昇・下降速度や横移動速度に関しては、被懸吊者が恐怖を感じない程度の速度に設定する。また、被懸吊者の体格に関しては、例えばS、M、Lといった衣服型吊り具8のサイズに合わせてディップスイッチを設定する。衣服サイズが設定されると、後述する吊り上げ・吊り下げ時に用いる制御パラメータ、具体的には懸吊ベルトの各種繰り出し長が衣服型吊り具のサイズに合わせて変更される。
次に、本介護リフター本体の基本動作について図4を参照しながら説明する。本介護リフター本体3の電源がONにされると、最初に懸吊ベルト繰り出し長さの初期設定が行なわれる。まず荷重検出部700において懸吊ベルトの張力を検出し、人体が吊られていないことを確認した後に、ベルト懸吊部600を作動させて腿または肩用懸吊ベルト4a、4bのメカニカルストッパー37aが検出されるまで各ベルトを巻き上げる。懸吊ベルト上端検出器36aにてメカニカルストッパー37aが検出された位置を懸吊ベルト繰り出し長検出部800において検出し、その値を懸吊ベルトの繰り出し長原点とする。
繰り出し長検出部800は、この懸吊ベルトの繰り出し長原点を基準にして後述する吊り上げ・吊り下げ時における腿用懸吊ベルト吊り上げ高さ、肩用懸吊ベルト吊り上げ高さを検出する。
懸吊ベルト繰り出し長さの初期設定が終了すると、介護リフター本体3は赤外線リモコン9の入力待ちとなる。赤外線リモコン9には、前述したように「上(上移動)」、「下(下移動)」、「左(左移動)」、「右(右移動)」、「緊(緊急)」の5つのボタンがある。また、介護リフター本体3は何れかの操作ボタンを押下している間のみ動作する。この事により、被懸吊者に何か突発的なトラブルが生じた場合でも、ボタンを離した時点で介護リフター本体3の動作が停止することにより2次的な被害の発生を防ぐことができる。また、各ボタン操作終了後には赤外線リモコン9および介護リフター本体3の電源の異常の有無を確認する。
介護リフター本体3は被懸吊者が通常過ごしているベッド上で、懸吊ベルト4を巻き上げた状態で待機している。これは、被懸吊者は通常ベッドに横になっており、トイレや車椅子に移乗する際にこの介護リフターを利用するため、介護リフターをベッド上で待機させることによって被懸吊者からの要求に迅速に対応できるためである。
これより、被懸吊者のベッドからの吊り上げおよび吊り下げ動作について説明する。
まず、動作の中断と再開について説明する。
介護リフターにより被懸吊者を上昇させる吊り上げ制御中に赤外線リモコン9の「上」ボタンの押下が中断される(ボタンから手が離される)と、リフターは動作を停止する。この吊り上げ制御中に実行した動作の手順、すなわち制御動作の処理ステップは制御手段120に記憶されている。そして、再度「上」ボタンが押下されると、前回中断した手順から動作が再開される。制御手段120に記憶された吊り上げ制御の手順は、例えば赤外線リモコン9の「下」ボタンの押下や緊急時の自動降下により介護リフターが被懸吊者を下降させる吊り下げ制御が実行され、肩用または腿用懸吊ベルトに張力がなくなって動作が停止したときにクリアされる。
また、吊り下げ制御中に「下」ボタンの押下が中断される(ボタンから手が離される)と、リフターは動作を停止する。吊り下げ制御中に実行した動作の手順、すなわち制御動作の処理ステップは制御手段120に記憶されている。そして、再度「下」ボタンが押下されると、前回中断した手順から動作が再開される。制御手段120に記憶された吊り下げ制御の手順は、例えば「上」ボタンが押下されて吊り上げ制御が開始されたときにクリアされる。
次に、被懸吊者の吊り上げ(上昇)制御について説明する。
図8および図9は介護リフター本体の吊り上げ制御前半部および後半部のフローチャートであり、図10は図9に示す臥寝姿勢制御の詳細を示すフローチャートであり、図11は図9に示す座位姿勢制御の詳細を示すフローチャートである。また、図12は吊り上げ制御中に発生する張力の説明図である。
まず、利用者は、赤外線リモコン9の「下」ボタンを押下し、被懸吊者が着ている衣服型吊り具8に容易に接続できる高さまで懸吊ベルト4を降下させる。懸吊ベルト4が所望の高さまで降下すると被懸吊者は両肩両腿計4本の懸吊ベルト4を身につけている衣服型吊り具8に接続する。
懸吊ベルト4と衣服型吊り具8との接続が終了し、被懸吊者が「上」ボタンを押すと制御部100は吊り上げ制御を開始する。以後、被懸吊者によって赤外線リモコン9の「上」ボタンが押されつづけているものと仮定して、被懸吊者の吊り上げ時の制御について説明する。
「上」ボタンが押されると、まず、制御手段120に前回実行した吊り上げ動作の手順が記憶されているか否かを判定する(ステップS101)。手順が記憶されていれば前回実行した手順の続きから動作を再開する(ステップS111)。ステップS101で、前回実行した吊り上げ動作の手順が記憶されているか否かとは、吊り上げ動作の途中で赤外線リモコン9の「上」ボタン押下が中断されて、吊り上げ動作を中断した場合に、中断した動作の制御処理ステップを記憶しておくことにより、再度「上」ボタンが押下されたときに前回中断された制御ステップから継続して動作を再開可能とすることを意味する。
制御手段120に前回の手順が記憶されていない場合、次に、懸吊ベルトを巻き上げる前の段階において肩用又は腿用ベルトの何れかに張力があるか否か、すなわち荷重がかかっているか否かを判定する(ステップS102)。何れかの懸吊ベルト4に張力がかかっていれば、各懸吊ベルト4にかかっている張力に応じて吊り上げ動作を制御する。すなわち、肩ベルト4bに張力がかかっているか否かを判定し(ステップS121)、腿ベルト4aに張力がかかっているか否かを判定し(ステップS122)、肩ベルト4bに張力有りで腿ベルト4aに張力有りのときは、ステップS108に進み、肩ベルト4bに張力有りで腿ベルト4aに張力無しのときは、ステップS201に進み、肩ベルト4bに張力無しで腿ベルト4aに張力有りのときは、ステップS308に進み、各制御パターンにおける制御ステップを実行する。
一方、制御部100は、ステップS102で肩ベルト4bに張力無しで腿ベルト4aに張力無しと判定されたときは、ステップS103に進み、ステップS103〜S105の実行を繰返し行い、肩用懸吊ベルト4bの繰り出し長が腿用懸吊ベルト4aより所定値A短くなるまで、すなわち肩用懸吊ベルト4bの下端の高さと腿用懸吊ベルト4aの下端の高さとの差が所定値Aとなるように、肩用懸吊ベルト4bの巻き上げを行う(ステップS103〜ステップS105)。
ここで、所定値Aとは、被懸吊者を吊り上げるときの肩と腿の高さの差分として設定される距離であり、具体的には、座った姿勢(座位姿勢)にある被懸吊者の大腿部が水平より約15度〜20度程度起き上がったときの腿と肩との高さの差である。
このとき、荷重判定手段103により、腿用懸吊ベルト4aと肩用懸吊ベルト4bとの繰り出し長の差分が所定値Aに達する前に肩用懸吊ベルト4bに張力が発生したことが検出されると(ステップS104−Yes)、姿勢検出手段105は被懸吊者の肩が低い位置にあると判定して被懸吊者が寝た姿勢(臥寝姿勢)にあると判別し、肩用懸吊ベルト4bの巻上げを停止してステップS131に進む。
他方、腿用懸吊ベルト4aと肩用懸吊ベルト4bとの繰り出し長の差分が所定値Aに達しても(ステップS105−Yes)肩用懸吊ベルトに張力が発生しないことが検出されると(ステップS104−No)、姿勢検出手段105は被懸吊者の肩が高い位置にあると判定して被懸吊者が座位姿勢にあると判別し、肩用懸吊ベルト4bの巻上げを停止してステップS106に進む。
このように、被懸吊者の姿勢が検出されると、制御部100は検出された姿勢(臥寝姿勢または座位姿勢)における吊り上げ制御パターンを選択し、選択されたパターンによって吊り上げ制御を行う。
まず、臥寝姿勢が判別された場合について説明する。
ステップS104で、被懸吊者が臥寝姿勢にあることが判別されると、制御パターン選択設定手段107は制御パターン記憶手段106から臥寝姿勢における吊り上げ制御パターンを選択し(ステップS131)、臥寝姿勢吊り上げ制御を実行する(ステップS132)。
まず、制御部100は、腿用懸吊ベルト4aを巻き上げて腿用懸吊ベルト4aに張力を発生させる(ステップS201)。
腿用懸吊ベルト4aに張力が発生すると(ステップS202−Yes)、ステップ203に進む。このとき、肩用懸吊ベルト4bと腿用懸吊ベルト4aには各々張力が発生していることとなる。そこで、ステップ203では、肩の高さと大腿部の高さを比較して、被懸吊者の大腿部が起きているのか伸びているのかを判別する(ステップS203)。すなわち、肩用懸吊ベルト下端高さ−腿用懸吊ベルト下端高さを算出し、この算出結果が所定しきい値(例えば10cm)以下であれば(ステップS203−Yes)、大腿部が高い位置にあると判定して大腿部が起き上がっていることが判別され(ステップS204、図10中501参照)、S205に進み、所定しきい値以上であればステップS211に進み、大腿部が低い位置にあると判定して大腿部が伸びていることが判別される。
大腿部が伸びていれば、腿用懸吊ベルト4aの下端高さと肩用懸吊ベルト4bの下端高さの何れか低い一方を座面の高さとして判別して腿用懸吊ベルト4aの下端の高さが座面から所定値Bになるように腿用懸吊ベルト4aを巻き上げる(ステップS211、図10中502参照)。ここで、所定値Bとは、大腿部が水平に伸びた状態から約15度〜20度程度曲がったときの座面からの高さであり、腿に適度な張力を発生させる高さである。制御部100は、腿用懸吊ベルト4aを巻き上げて(ステップS211)、腿用懸吊ベルト4aの下端が座面から所定値Bの高さに達したか否かを判断しながらベルト懸吊部600を駆動して腿用懸吊ベルト4aを巻き上げる(ステップS211)。
腿用懸吊ベルト4aの高さが所定値Bに達するとステップS205に進む。ステップS205において、制御部100は腿用懸吊ベルト4aの巻き上げを停止して、肩用懸吊ベルト4bと腿用懸吊ベルト4aとの繰り出し長さの差分が前述の所定値Aとなるまで上半身を起こすように肩用懸吊ベルト4bを巻き上げる。そして、肩用懸吊ベルト4bの繰り出し長が腿用懸吊ベルト4aより所定値A短くなったことが検出されると(ステップS206−Yes)、被懸吊者を上昇させる動作(ステップS108)に進む。
このように、被懸吊者が臥寝姿勢にあるときには、被懸吊者の大腿部が起きているか寝ているかに応じて制御パターンを異ならせている。これにより、大腿部がいずれの状態にあっても図12(A)に視覚的に示すように、大腿部に張力F11を十分に発生させてから上半身である肩を吊り上げて肩部に張力F12を発生させるよう制御を行っている。これにより、被懸吊者に肉体的負担のかからない安全な吊り上げ制御が可能となる。
すなわち、被懸吊者の肩部を起き上がらせる前に大腿部を曲げさせ大腿部に十分な張力を発生させておくことにより、衣服型吊り上げ具8が肩側方向にずれるのを防ぎ、吊り上げられる姿勢を被懸吊者にとって快適なものとすることができる。また、腿用懸吊ベルト4aに張力が発生した高さ又は肩用懸吊ベルト4bに張力が発生した高さの何れか低い一方を座面の高さとして認識することにより、立膝で臥寝姿勢にある場合、脚を伸ばして臥寝姿勢にある場合、ベッドをやや起こして臥寝姿勢にある場合など、種々の臥寝姿勢に対応して吊り上げ制御を行うことができる。
次に、座位姿勢が判別された場合について説明する。
ステップS105で、腿用懸吊ベルト4aと肩用懸吊ベルト4bとの繰り出し長の差分が所定値Aとなり被懸吊者が座位姿勢にあることが判別されると、制御パターン選択設定手段107は制御パターン記憶手段106から座位姿勢における吊り上げ制御パターンを選択し(ステップS106)、座位姿勢吊り上げ制御を実行する(ステップS107)。
まず、制御部100は腿用懸吊ベルト4aと肩用懸吊ベルト4bの双方を巻き上げて(ステップS301)、懸吊ベルト4にかかる張力を検出する(ステップS302、S303)。このとき、腿用懸吊ベルト4aよりも先に肩用懸吊ベルト4bに張力が発生したことが検出されると(ステップS302−Yes)、大腿部が高い位置にあると判定されて、大腿部が起き上がっていると判別され肩用懸吊ベルト4bの巻き上げを停止して、ステップS311に進む。他方、肩用懸吊ベルト4bよりも先に腿用懸吊ベルト4aに張力が発生したことが検出されると(ステップS303−Yes)、大腿部が低い位置にあると判定されて、大腿部が伸びていると判別され、ステップS304に進む。
大腿部が起き上がっていると判別された場合には(図11中503参照)、ステップS311で腿用懸吊ベルト4aを巻き上げて腿用懸吊ベルト4aに張力を発生させた後、この張力有りを判定して(ステップS312−Yes)被懸吊者を上昇させる動作(ステップS108)に移行する。
ステップS302−No、ステップS303−Yesにより、大腿部が伸びていると判別された場合には、腿用懸吊ベルト4aに張力が発生した高さを座面の高さとして判定する(ステップS304、図11中504参照)。そして、腿用懸吊ベルト4aの先端が座面から所定値Bになるように腿用懸吊ベルト4a及び肩用懸吊ベルト4bを巻き上げる(ステップS305)。腿用懸吊ベルト4aの下端が座面から所定値Bに達する前に肩用懸吊ベルト4bに張力が発生する(ステップS306ーYes)と、ステップS108に進み、被懸吊者を上昇させる動作に移行する。
腿用懸吊ベルト4aの下端が座面から所定値Bになると(ステップS307−Yes)、腿用懸吊ベルト4aが高さBに至っても肩用懸吊ベルト4bに張力が発生しないと判定し、腿用懸吊ベルト4aの巻上を停止し、肩用懸吊ベルト4bのみを巻上げて肩用懸吊ベルト4bに張力を発生させる(ステップS308)。肩用懸吊ベルト4bに張力が発生すると(ステップS309−Yes)、被懸吊者を上昇させる動作に移行する。
肩用懸吊ベルト4bに張力が発生する前に、肩用懸吊ベルト4bの巻上げ量が所定値に達すると(換言すれば、所定値に至っても肩用懸吊ベルト4bに張力が発生しない場合)(ステップS321−Yes)、肩用懸吊ベルト4bが衣服型吊り具8と結合されていないと判別して、被懸吊者に対して報知部500によりブザーなどの警報を発するとともに懸吊ベルト4の張力がなくなるまでベルトを繰り出し制御して被懸吊者を下降させて処理を終了する(ステップS322)。
このように、被懸吊者が座位姿勢にあるときには、腿用懸吊ベルト4aと肩用懸吊ベルト4bを双方とも巻き上げ制御することで、肩と腿の位置を判別して、被懸吊者の大腿部を起き上がらせて腿用懸吊ベルト4bに十分な張力を発生させて衣服型吊り上げ具8が肩側方向にずれるのを防ぎつつ上昇動作に移行することができる。
次に、上昇動作について説明する。
上昇動作に移行すると、制御部100は、肩用懸吊ベルト4b及び腿用懸吊ベルト4aの双方を巻き上げて被懸吊者を上昇させる(ステップS108)。
上昇動作に移行する時点で、被懸吊者の大腿部および肩部には十分な張力がかかっており、また大腿部が起き上がった状態となっている。
したがって、当該状態から肩用懸吊ベルト4b及び腿用懸吊ベルト4aの双方を巻き上げて、被懸吊者を吊り上げて上昇、移動させるときの姿勢(懸吊姿勢)は、図12(B)、(C)に示すように、大腿部が起き上がった姿勢となる。
これにより、腿用懸吊ベルト4aの下端は臀部や腰部より上方に位置して、被懸吊者の重心は肩用懸吊ベルト4bと腿用懸吊ベルト4aの間に位置することとなり、懸吊中の重心を安定させて被懸吊者の身体的な負担を低減させるとともに、肩部に発生する張力F12に対して腿部の張力F11を十分に得ることができ、衣服型吊り具8が肩側方向にずれるのを防止している。また、このような懸吊姿勢を採ることにより被懸吊者にかかる吊り上げ力が背中全面から臀部周囲と腿の下面側に渡る広い範囲で分散され、被懸吊者の受ける吊り上げ時の負担を軽減し、苦痛感から解放し得ることができる。
また、ステップS108による上昇動作において、被懸吊者が所定の高さに達するまでに、懸吊ベルト4の接続確認処理を行なう。この場合、上昇動作中に4本の懸吊ベルト4の張力を荷重検出部700において調べることにより、懸吊ベルト4の掛け忘れあるいは掛け損じを検知する。懸吊ベルト4の掛け忘れ等を検出した場合には、自動的に被懸吊者を降下させる。
制御部100は、懸吊ベルトの繰出長(巻上量)に基づき被懸吊者の身体が所定高さに達したことが判定されると吊り上げ制御を停止する(ステップS109)。この所定の高さは、被懸吊者の身体を吊り上げた状態で走行部200を駆動して横移動した場合に、例えばベッドの柵やトイレ、車椅子などに邪魔されることなく安全に移動できる高さである。ここで、被懸吊者が「上」ボタンを押しつづけても危険がないように、懸吊ベルト4の下端が所定の高さを超えた場合には、被懸吊者に対して報知部500よりブザーなどの警報を発するとともに吊り上げ駆動のモータを自動的に停止する。
次に、被懸吊者のベッドとトイレまたは車椅子間の横移動時の制御について説明する。
図13は介護リフター本体の横移動制御のフローチャートである。被懸吊者が赤外線リモコン9の「左」または「右」ボタンを押す(ステップT1)と、前述の所定の高さ、すなわち横移動可能な高さに被懸吊者が吊り上がっているか否かを懸吊ベルト繰り出し長さを基に判断する(ステップT2)。この処理は、被懸吊者が所定高さまで吊り上げられていないにもかかわらず「上」ボタンを離して「左」または「右」ボタンを押してしまった場合に、報知部500よりブザーを鳴らして(ステップT3)危険を警告し、移動制御を停止するために行なう処理である。
ステップT2で、被懸吊者が横移動可能高さまで吊り上がっている場合には、ステップT4で押下されたボタンに従いリフター本体3をレール上の「右」あるいは「左」に移動させる(ステップT5)。ステップT4で「右」または「左」のボタンが押されていない場合は、横移動を停止する(ステップT6)。
なお、横移動時には、荷重検出部700によって全ての懸吊ベルト4の張力が所定値以上であるか常に監視する。この場合、被懸吊者に危険が及ぶ可能性を考慮し、上記懸吊ベルト接続確認処理とは異なり、懸吊ベルト4の接続に異常が検知された場合でも自動降下処理は行わず、報知部500よりブザーを鳴らすと共に横移動制御を継続する。これは、ベッド、トイレまたは車椅子といったような降下させても安全な場所の上にリフター本体があるとは限らないためである。そのため被懸吊者自身が安全を確認した上で下降できるようにしている。
次に、吊り下げ制御による下降動作ついて説明する。
図14は介護リフター本体3の吊り下げ制御前半部のフローチャートであり、図15は介護リフター本体3の吊り下げ制御後半部のフローチャートである。図16は吊り下げ制御中の姿勢説明図である。図17は座り直し前後の姿勢の説明図である。
図16において、被懸吊者が、(S)は吊られている状態を示し、(E−1)は吊られている状態のまま単に下降した場合のいわゆる仙骨座り姿勢を示し、(A−1)〜(A−4)は本発明による座り直し動作時の各姿勢を示す図である。この座り直し動作とは、被懸吊者が座面に着いてから図17に示すように重心をG1からG2に回転移動させて、再度座り直しを行う一連の動作を言う。なお、図16では被懸吊者が着座する例としてトイレに着座する場合を示しているが、着座する場所がベッドであっても同様に重心の移動を行い座り直しを実行する。
赤外線リモコン9の「下」ボタンが押下されると、吊り下げ制御が開始される。このとき、リフター本体の現在位置を確認して、その位置がベッドあるいはトイレや車椅子上など安全に吊り下げることが可能な位置であることを確認して、安全に吊り下げることができない位置であれば、懸懸吊者に対してブザーなどの警報を発して吊り下げできない旨を報知する。以降「下」ボタンが押されつづけているものと仮定して被懸吊者の吊り下げ制御について説明する。
まず、「下」ボタンが押されているか確認し、制御手段120に前回実行した吊り下げ動作の手順が記憶されているか否かを判定する(ステップT101)。手順が記憶されていなければステップT102に進み、記憶されていれば前回実行した手順の続きから動作を再開する(ステップT103)。ステップT101で、前回実行した吊り下げ動作の手順が記憶されているか否かとは、吊り下げ動作の途中で赤外線リモコン9の「下」ボタン押下が中断されて、吊り下げ動作を中断した場合に、中断した動作の制御処理ステップを記憶しておくことにより、再度「下」ボタンが押下されたときに前回中断された制御ステップから継続して動作を再開可能とすることを意味する。
次に、「下ボタン」は通常被懸吊者が空中にいるときに押されるが、空中にいないとき、すなわち座面に座っているときに押されたことを想定し、肩用及び腿用ベルト4a、4b双方に張力があるか否か、すなわち荷重がかかっているか否かを判定する(ステップT102)。肩用及び腿用ベルト双方に荷重がかかっている場合は(ステップT102−Yes)ステップT104に進み、一方の懸吊ベルトのみに張力がかかってるかまたは両方に張力がかかっていなければ(ステップT102−No)、ステップT112に進み、各懸吊ベルトの張力がなくなるまで張力を有しているベルトを繰り出して被懸吊者を着座させる。
肩用及び腿用ベルト4a、4b双方に張力がかかっていることが判定されると(ステップT102−Yes)、前回実行した吊り上げ制御にて被懸吊者が吊り上げられた高さが所定値以上であるか否かを判定する(ステップT104)。すなわち、制御手段に記憶された前回の吊り上げ制御が、上昇動作に移行する前に終了したか否か、又は吊り上げ動作終了時の被懸吊者の高さと横移動可能な高さとの差が所定値以上あるか否か、により被懸吊者が十分な高さまで吊り上げられたか否かを判別する。
ステップT104で、前回の吊り上げ高さが所定値以下であれば(ステップT104−No)各懸吊ベルトの張力がなくなるまで懸吊ベルトを繰り出して(ステップT112、ステップT113)被懸吊者を着座させる。このステップT104は、被懸吊者が吊り上げ動作により少しだけ上昇した後に「下」ボタンを押下して下降する場合に、座りなおし動作(図18のA1−A4)が実行されないようにする処理である。すなわち、このような低い位置から下降動作を開始する場合には、座りなおし動作をせずに単に被懸吊者を降ろすよう制御する。
前回の吊り上げ制御での吊り上げ高さが所定値より上である場合(ステップT104−Yes)や、制御手段120に前回の吊り上げ制御が記憶されていない場合は、座りなおし制御により被懸吊者を着座させる。
すなわち、腿用懸吊ベルト4aに張力がなくなるまで(ステップT106)腿用および肩用懸吊ベルト4a、4bの繰り出しを行う(ステップT105)。
腿用懸吊ベルト4aの張力がなくなると(ステップT106ーYes)、被懸吊者が座面に着いたと判定して腿用および肩用懸吊ベルト4a、4bの繰り出しを停止する(ステップT107)。ここで、腿用懸吊ベルト4aの張力がなくなった状態とは図16の(A−1)に示すように、被懸吊者が座面に着いて腿部が腿用懸吊ベルト4aの張力から解放された状態のことである。
続いて、ステップT108に進み、被懸吊者の大腿部が起き上がった状態になるまで、すなわち腿用懸吊ベルト4aの下端が座面、すなわち腿用懸吊ベルト4aの張力がなくなった高さから前述の所定値Bの高さ(膝が10°〜15°位持ち上がった位置)となるよう、腿用懸吊ベルト4aの巻き上げを行う(ステップT108、ステップT109)。腿用懸吊ベルト4aの下端が座面から所定値Bの高さになると(ステップT109−Yes)、腿用懸吊ベルト4aの巻き上げを停止してステップT110に進む。
この処理は、座面に着いた被懸吊者の大腿部を再度持ち上げることを意味している。これにより、図18の(A−2)に示すように十分に腿方向への張力F11が発生した状態となる。
次に、肩用懸吊ベルト4bを巻き上げて、肩用懸吊ベルト4bの下端と腿用懸吊ベルト4aの下端の高さの差が所定値Cとなっているか否かを判断する(ステップT111)。ここで、所定値Cとは、垂直方向に背筋が伸びて大腿部が略水平となったときの肩用懸吊ベルト4bの下端と腿用懸吊ベルト4aの下端の高さの差として設定されている値である。肩用懸吊ベルト4bの下端と腿用懸吊ベルト4aの下端の高さの差が所定値Cを満たしてなければ(ステップT111−No)、所定値Cを満たすよう肩用懸吊ベルトの巻き上げを行う(ステップT110)。
ステップT110、ステップT111で被懸吊者の大腿部が略水平となるまで肩用懸吊ベルト4bを巻き上げることにより、被懸吊者の背すじが伸びて腰部や臀部は背面方向(後方)に移動して、被懸吊者の大腿部と上半身は略直角をなす状態となる。この処理は、大腿部が持ち上げられた姿勢にある被懸吊者の肩用懸吊ベルト4bを巻き上げることにより、被懸吊者の臀部を浮かせるとともに、腿用懸吊ベルト4aの下端を略中心として腰部や臀部を背面方向(後方)に移動させ、重心を肩用懸吊ベルト4bと腿用懸吊ベルト4aの間から肩用懸吊ベルト4bの略延長線上に移動させることを意味している。これにより、被懸吊者の背すじが伸直した姿勢に整えられる。肩用懸吊ベルト4bの下端と腿用懸吊ベルト4aの下端の高さの差が所定値Cになれば(ステップT111−Yes)、すなわち、被懸吊者の大腿部が略水平となれば次のステップT112へと進む。このステップT110およびステップT111の処理を図16、図17を用いて説明すると、ステップT110で肩ベルトを巻き上げることにより、図17の回転中心Oを支点として肩上げ前の重心G1(図18の(A−2)参照)が肩上げ後の重心G2に回転移動し、被懸吊者の臀部の位置が肩用懸吊ベルト4bの略延長線上に来る(図18の(A−3)参照)。
次に、懸吊ベルト4a、4bを繰り出して被懸吊者を椅子に座らせる制御(ステップT112〜ステップT114)を説明する。肩用懸吊ベルト4bと腿用懸吊ベルト4aが張力を有しているかが判定され、張力を有しているベルトの繰り出し制御を行う(ステップT112)。
この処理は、張力を有しているベルトを繰り出し制御し、被懸吊者を吊り下げて着座させることを意味している。これにより、ステップT110、ステップT111で姿勢が整えられた場合には、トイレや車椅子に着座する際に、伸直状態にある背すじが背もたれに沿って下降し、重心を後方に位置させ座面に深く座ることが可能となるとともに、ベッドに着座する際には、臀部が肩用懸吊ベルト4bの略延長線上にあるためによりベッドの頭側方向に着座することができ、最適な着座場所に着座することができ、着座後に介護者の手をかりて座りなおしをする必要がなくなる。
各懸吊ベルトの張力がなくなって被懸吊者が座面に着いていることが判別されると(ステップT113−Yes)、肩用懸吊ベルト4bと腿用懸吊ベルト4aとを所定値D繰り出し(ステップT114)、吊り下げ制御が停止される。
上記所定値Dとは、被懸吊者を懸吊ベルト4の張力から解放して、懸吊ベルト4の下端の結合具6を衣服型吊り具8から取り外すことができる程度に余裕をもって繰り出される長さのことである。これにより、着座後に衣服型吊り具8から懸吊ベルト4を取り外すのが容易になり、また、ベッドに着座した場合は、伸直状態にある背すじを懸吊ベルト4の張力から解放して背もたれに身体をあずけたり臥寝したりすることが可能となる。
上述した本発明の実施形態において、所定値A、所定値B、所定値Cおよび所定値Dは、被懸吊者の衣服型吊り具8のサイズに応じて異なる値が制御パラメータとして制御パターン記憶手段106に記憶されている。これは、初期設定時にディップスイッチなどにより衣服型吊り具のサイズを設定することにより、自動的に設定することができ、例えば衣服型吊り具8のサイズがMサイズであればA=33cm、B=14cm、C=50cm、D=20cmに設定される。
以上説明したように、本発明による介護リフターによれば、ベッドやトイレ、車椅子といった日常生活において使用するものの高さを事前に設定することなく、任意の姿勢から吊り上げして安定した姿勢で複数の場所の間を移動することができる。特に、被懸吊者が、大腿部を伸ばした臥寝姿勢、大腿部が起き上がった臥寝姿勢、大腿部を伸ばした座位姿勢、大腿部が起き上がった座位姿勢の何れにあるかを判別して、被懸吊者の姿勢に応じて制御を異ならせることにより、被懸吊者を任意の姿勢から安定して吊り上げることができ、身体的負担や不安感を低減して安全に吊り上げることができる。
更に、着座時に重心を移動させて姿勢を整える座りなおし制御を行うことにより、ベッド上ではより最適な位置に着座することができ、トイレや車椅子ではより深く着座することができ、被懸吊者の身体的負担や介護者の手間を低減して、より使い勝手の良い介護リフターを提供することができる。
また、十分に上昇する前に「下」ボタンが押された場合などには、座りなおし制御をすることなく被懸吊者を下降、着座させることにより、状況に応じて適切に下降制御することができ、身体的負担や不安感を低減してより使い勝手の良い介護リフターを提供することができる。
また、ベッド/トイレ・車椅子の区別無く適切に吊り上げ吊り下げすることができるので、現在位置を判別する機構を除く構成としても良く、位置設定の手間や、移動場所の制限を省いて、より利便性を向上させることができる。
なお、上述した本発明の実施形態では、吊り上げ場所や吊り下げ場所によらず、吊り上げ、吊り下げ制御する例について説明したが、吊り上げ場所や吊り下げ場所に応じて制御を異ならせるようにしてもよい。その場合制御パラメータA、B、CおよびDをベッド/トイレ・車椅子に応じて最適な値を設定して、場所に応じて使用するパラメータを異ならせればよい。