JP4420544B2 - インクジェット式記録ヘッド並びにインクジェット式記録装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、圧電材料層に電圧を印加することにより変位させる圧電素子を具備するインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置であって、特に、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室(キャビティ)の一部を振動板で構成し、この振動板の表面に圧電素子を形成して圧電素子の変位によりインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッド並びにインクジェット式記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。
【0003】
前者は圧電素子の端面を振動板に当接させることにより圧力発生室の容積を変化させることができて、高密度印刷に適したヘッドの製作が可能である反面、圧電素子をノズル開口の配列ピッチに一致させて櫛歯状に切り分けるという困難な工程や、切り分けられた圧電素子を圧力発生室に位置決めして固定する作業が必要となり、製造工程が複雑であるという問題がある。
【0004】
これに対して後者は、圧電材料のグリーンシートを圧力発生室の形状に合わせて貼付し、これを焼成するという比較的簡単な工程で振動板に圧電素子を作り付けることができるものの、たわみ振動を利用する関係上、ある程度の面積が必要となり、高密度配列が困難であるという問題がある。
【0005】
一方、後者の記録ヘッドの不都合を解消すべく、特開平5−286131号公報に見られるように、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて各圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成したものが提案されている。
【0006】
これによれば圧電素子を振動板に貼付ける作業が不要となって、リソグラフィ法という精密で、かつ簡便な手法で圧電素子を作り付けることができるばかりでなく、圧電素子の厚みを薄くできて高速駆動が可能になるという利点がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このようなインクジェット式記録ヘッドでは、圧力発生室を形成する流路形成基板(キャビティ形成基板)として、例えば、直径が6〜12インチ程度の比較的大きなものを用いようとする場合、ハンドリング等の問題により基板の厚さを厚くせざるを得ず、それに伴い圧力発生室の深さも深くなってしまう。そのため、各圧力発生室を区画する隔壁の厚さを厚くしないと、十分な剛性が得られず、クロストークが発生し、所望の吐出特性が得られない等という問題がある。また、隔壁の厚さを厚くすると、高い配列密度でノズルを並べられないため、高解像度の印字品質を達成できないという問題がある。
【0008】
また、このように所望の特性が得られないという問題はインクジェット式記録ヘッドだけではなく、基板の一方側に振動板を介して圧電素子を有するアクチュエータ装置についても同様に存在する。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑み、インク吐出特性等の各種特性を向上することができると共に、圧力発生室を高密度に配設することのできるインクジェット式記録ヘッド並びにインクジェット式記録装置を提供することを課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、キャビティを画成したキャビティ形成基板と、該キャビティ形成基板の一方面側に振動板を介して設けられて前記キャビティに圧力を付与する圧電素子とを具備するアクチュエータ装置において、前記振動板が、膜厚20μm以下の単結晶からなる単結晶部を少なくとも有すると共に酸化部を有し、前記キャビティ形成基板がシリコン単結晶基板からなり、前記キャビティ形成基板と前記振動板との接合界面に結晶格子不整合面を有し、前記キャビティ形成基板の他方面側に、前記キャビティに連通するノズル開口を有するノズルプレートが接合され、前記ノズルプレートが、シリコン単結晶基板からなり、前記キャビティ形成基板との接合界面に結晶格子不整合面を有することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0011】
かかる第1の態様では、特性を向上できると共にキャビティを高密度に配設することのでき、インク吐出特性を向上し、ノズルプレートとキャビティ形成基板とを比較的容易且つ高精度に接合することができるインクジェット式記録ヘッドが実現される。また、振動板の圧電素子の駆動による変形に対する強度が向上される。また、酸化部の厚さにより振動板の応力を調整することができる。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載のインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記振動板の単結晶部が絶縁性を有する単結晶からなることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0013】
かかる第2の態様では、振動板によって圧力発生室側と圧電素子側とが確実に絶縁される。
【0014】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載のインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記キャビティ形成基板がシリコン単結晶基板からなり、且つ前記振動板の単結晶層がシリコン単結晶からなることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0015】
かかる第3の態様では、キャビティ形成基板と振動板とを比較的容易且つ高精度に接合することができる。
【0024】
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様に記載のインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記キャビティが異方性エッチングにより形成され、前記圧電素子を構成する各層が成膜及びリソグラフィ法により形成されたものであることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0025】
かかる第4の態様では、高密度のノズル開口を有するインクジェット式記録ヘッドを大量に且つ比較的容易に製造することができる。
【0026】
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様に記載のインクジェット式記録ヘッドを具備することを特徴とするインクジェット式記録装置にある。
【0027】
かかる第5の態様では、ヘッドのインク吐出特性を向上したインクジェット式記録装置を実現することができる。
【0028】
また、他の態様は、キャビティを画成したキャビティ形成基板と、該キャビティ形成基板の一方面側に振動板を介して設けられて前記キャビティに圧力を付与する圧電素子とを具備するアクチュエータ装置の製造方法において、前記キャビティ形成基板に前記キャビティを形成する工程と、前記振動板となるシリコン単結晶基板に水素イオンを注入して水素イオン層を形成する工程と、前記キャビティ形成基板の前記キャビティを形成した面と前記シリコン単結晶基板の前記水素イオンを注入した側の面とを接触させる工程と、所定温度に加熱することにより前記シリコン単結晶基板を前記水素イオン層が形成された面で剥離して残りのシリコン単結晶基板を前記振動板とする工程と、前記所定温度よりもさらに高温に加熱して前記キャビティ形成基板と前記振動板とを熱接合する工程とを有することを特徴とするアクチュエータ装置の製造方法にある。
【0029】
かかる態様では、振動板を所望の厚さに形成することができる。また、振動板とキャビティ形成基板とを比較的容易且つ高精度に接合できる。
【0030】
また他の態様は、上記態様において、前記キャビティ形成基板と前記振動板とを熱接合する際に、前記振動板の表面に酸化膜を形成することを特徴とするアクチュエータ装置の製造方法にある。
【0031】
かかる態様では、酸化膜の厚さによって、所望の応力を有する振動板を形成することができる。
【0032】
更に、他の態様は、キャビティを画成したキャビティ形成基板と、該キャビティ形成基板の一方面に振動板を介して設けられて前記キャビティに圧力を付与する圧電素子と、前記キャビティの他方面側に設けられて前記キャビティに連通するノズル開口を有するノズルプレートとを有するインクジェット式記録ヘッドの製造方法において、前記キャビティ形成基板に前記キャビティを形成する工程と、前記ノズルプレートとなる前記ノズル開口が穿設されたシリコン単結晶基板に水素イオンを注入して水素イオン層を形成する工程と、前記キャビティ形成基板の前記キャビティを形成した面と前記シリコン単結晶基板の前記水素イオンを注入した側の面とを接触させる工程と、所定温度に加熱することにより前記シリコン単結晶基板を前記水素イオン層から剥離して残りのシリコン単結晶基板を前記ノズルプレートとする工程と、前記所定温度よりもさらに高温に加熱して前記キャビティ形成基板と前記ノズルプレートとを熱接合する工程とを有することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの製造方法にある。
【0033】
かかる他の態様では、所望の厚さのノズルプレートを容易に形成することができる。また、ノズルプレートとキャビティ形成基板とを比較的容易且つ高精度に接合できる。
【0034】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0035】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドを示す分解斜視図であり、図2は、インクジェット式記録ヘッドの1つの圧力発生室の長手方向における断面構造を示す図である。
【0036】
図示するように、圧力発生室12が形成される流路形成基板10は、例えば、150μm〜1mmの厚さのシリコン単結晶基板からなり、その一方面側の表層部分には、異方性エッチングによりノズル開口11、及び複数の隔壁によって区画されノズル開口11に連通する圧力発生室12が形成されている。
【0037】
また、各圧力発生室12の長手方向一端部には、後述するリザーバ15と圧力発生室12とを接続するための中継室であるインク連通部13が圧力発生室12よりも幅の狭い狭隘部14を介して連通されている。また、これらインク連通部13及び狭隘部14は、圧力発生室12等と共に異方性エッチングによって形成されている。なお、狭隘部14は、圧力発生室12のインクの流出入を制御するためのものである。
【0038】
この異方性エッチングは、ウェットエッチング又はドライエッチングの何れの方法を用いてもよいが、シリコン単結晶基板を厚さ方向に途中までエッチング(ハーフエッチング)することにより圧力発生室12等は浅く形成されており、その深さは、ハーフエッチングのエッチング時間によって調整することができる。
【0039】
ここで、インク滴吐出圧力をインクに与える圧力発生室12の大きさと、インク滴を吐出するノズル開口11の大きさとは、吐出するインク滴の量、吐出スピード、吐出周波数に応じて最適化される。例えば、1インチ当たり360個のインク滴を記録する場合、ノズル開口11は数十μmの溝幅で精度よく形成する必要がある。
【0040】
なお、本実施形態では、インク連通部13を各圧力発生室12毎に設けるようにしたが、これに限定されず、例えば、インク連通部13を各圧力発生室12に共通するようにしてもよく、この場合、このインク連通部13が後述するリザーバ15の一部を構成するようにしてもよい。
【0041】
一方、流路形成基板10の他方面側には、各インク連通部13に連通し、各圧力発生室12にインクを供給するリザーバ15が形成されている。このリザーバ15は、流路形成基板10の他方面側から、所定のマスクを用いて異方性エッチング等によって形成されている。
【0042】
このような流路形成基板10上には、厚さが約20μm以下の単結晶部51を少なくとも有する弾性膜50が設けられている。本実施形態では、弾性膜50は、厚さが約1〜2μmの絶縁性を有する単結晶、例えば、シリコン単結晶からなる単結晶部51と、シリコン単結晶からなる単結晶部51の表面を酸化することにより形成された、厚さが、例えば、約1μmの二酸化シリコンからなる酸化部52とで構成されている。
【0043】
ここで、流路形成基板10と弾性膜50の単結晶部51との接合境界面には、流路形成基板10の結晶格子の向きと、単結晶部51の結晶格子の向きとが異なる結晶格子不整合面を有することが好ましい。例えば、弾性膜50の単結晶部51が面方位<100>のシリコン単結晶からなる場合には、弾性膜50の<100>方向が圧力発生室の長手方向に対して約45°となるように流路形成基板に接合されていることが好ましい。
【0044】
これは、(100)面は比較的割れやすい面、いわゆるへき開面であるため、<100>方向を圧力発生室12の長手方向と同一方向に合わせてしまうと、後述する圧電素子の駆動による振動によって弾性膜50が破壊されやすくなるためである。
【0045】
なお、勿論、結晶不整合面の方向は、特に限定されないが、何れの方向であっても流路形成基板10と弾性膜50との接合境界面に、結晶不整合面を有するようにするのが好ましい。
【0046】
このような弾性膜50の上には、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.1μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70、及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせて圧電アクチュエータと称する。
【0047】
ここで、このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造工程について説明する。なお、図3〜図5は、圧力発生室12の長手方向の断面図である。
【0048】
まず、図3(a)に示すように、流路形成基板10となるシリコン単結晶基板の一方面側に所定のマスク等を用いて異方性エッチングによってノズル開口11、圧力発生室12、インク連通部13及び狭隘部14を形成する。
【0049】
次いで、図3(b)に示すように、厚さ80μmのシリコン単結晶基板からなる弾性膜形成基板50Aを流路形成基板10の圧力発生室12側の面に接触させる。
【0050】
ここで、この弾性膜形成基板50Aとは、流路形成基板10との接触面側から所定の深さ、具体的には、弾性膜50の厚さと同じ深さに水素イオンが注入された水素イオン層55を有するシリコン単結晶基板である。
【0051】
このように、流路形成基板10と弾性膜形成基板50Aとを接触させた状態で、約500℃〜600℃に加熱すると、図3(c)に示すように、弾性膜形成基板50Aは水素イオン層55が形成された面で剥離され、残った弾性膜形成基板50Aが弾性膜50となる。
【0052】
その後、さらに、約1100℃〜1300℃に加熱することにより、これら弾性膜50と流路形成基板10とが熱接合されると共に、図3(d)に示すように、弾性膜形成基板50Aの表面が熱酸化されて二酸化シリコンからなる酸化部52が形成される。すなわち、単結晶部51及び酸化部52からなる弾性膜50が形成される。
【0053】
ここで、本実施形態では、流路形成基板10と弾性膜50とを、それぞれの結晶格子が整合していない状態で熱接合する。すなわち、流路形成基板10と弾性膜10との接合境界面に、結晶格子不整合面を形成する。
【0054】
しかしながら、実際には、このような方法で流路形成基板10と弾性膜50とを接合する場合、それぞれの結晶格子を整合させることは困難であり、接合境界面には必ず結晶格子不整合面が形成されることになる。
【0055】
次に、図4(a)に示すように、この弾性膜50上にスパッタリングで下電極膜60を流路形成基板10の圧力発生室12側に全面に亘って形成すると共に所定形状にパターニングする。この下電極膜60の材料としては、白金、イリジウム等が好適である。これは、スパッタリング法やゾル−ゲル法で成膜する後述の圧電体層70は、成膜後に大気雰囲気下又は酸素雰囲気下で600〜1000℃程度の温度で焼成して結晶化させる必要があるからである。すなわち、下電極膜60の材料は、このような高温、酸化雰囲気下で導電性を保持できなければならず、殊に、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いた場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ないことが望ましく、これらの理由から白金、イリジウムが好適である。
【0056】
次に、図4(b)に示すように、圧電体層70を成膜する。例えば、本実施形態では、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて形成した。圧電体層70の材料としては、PZT系の材料がインクジェット式記録ヘッドに使用する場合には好適である。なお、この圧電体層70の成膜方法は、特に限定されず、例えば、スパッタリング法又はMOD法(有機金属熱塗布分解法)等のスピンコート法により成膜してもよい。
【0057】
さらに、ゾル−ゲル法又はスパッタリング法もしくはMOD法等によりチタン酸ジルコン酸鉛の前駆体膜を形成後、アルカリ水溶液中での高圧処理法にて低温で結晶成長させる方法を用いてもよい。
【0058】
何れにしても、このように成膜された圧電体層70は、バルクの圧電体とは異なり結晶が優先配向しており、且つ本実施形態では、圧電体層70は、結晶が柱状に形成されている。なお、優先配向とは、結晶の配向方向が無秩序ではなく、特定の結晶面がほぼ一定の方向に向いている状態をいう。また、結晶が柱状の薄膜とは、略円柱体の結晶が中心軸を厚さ方向に略一致させた状態で面方向に亘って集合して薄膜を形成している状態をいう。勿論、優先配向した粒状の結晶で形成された薄膜であってもよい。なお、このように薄膜工程で製造された圧電体層の厚さは、一般的に0.2〜5μmである。
【0059】
次に、図4(c)に示すように、上電極膜80を成膜する。上電極膜80は、導電性の高い材料であればよく、アルミニウム、金、ニッケル、白金等の多くの金属や、導電性酸化物等を使用できる。本実施形態では、白金をスパッタリングにより成膜している。
【0060】
次いで、図5(a)に示すように、圧電体層70及び上電極膜80のみをエッチングして圧電素子300のパターニングを行う。
【0061】
次に、図5(b)に示すように、流路形成基板10の圧力発生室12とは反対側の面から所定のマスク等を用いて異方性エッチング、例えば、ウェットエッチングすることにより、リザーバ15を形成する。
【0062】
以上のような工程で、圧力発生室12及び圧電素子300等が形成される。
【0063】
なお、以上説明した一連の膜形成及び異方性エッチングは、一枚のウェハ上に多数のチップを同時に形成し、プロセス終了後、図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10毎に分割することにより、各インクジェット式記録ヘッドとする。
【0064】
また、このように製造された本実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、図示しない外部インク供給手段からリザーバ15にインクを取り込み、リザーバ15からノズル開口11に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路を介して出力された記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口11からインク滴が吐出する。
【0065】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、圧力発生室12等を流路形成基板10の一方面側に流路形成基板10を貫通することなく形成することができる。したがって、各圧力発生室12を区画する隔壁の剛性を高めて隔壁のコンプライアンスを小さくすることができるため、インクの吐出特性が向上することができると共に、複数の圧力発生室12を高密度に配列することができる。
【0066】
また、流路形成基板10の厚さが厚いため、大きなサイズのウェハとしても取り扱いが容易となる。したがって、ウェハ一枚当たりのチップの取り数を増加することができ、製造コストを低減することができる。また、チップサイズを大きくできるので、長尺のヘッドも製造することができる。
【0067】
さらには、流路形成基板10の反りの発生が抑えられ、他の部材と接合する際に位置合わせが容易となり、接合後も、圧電素子300の特性変化が抑えられてインク吐出特性が安定する。
【0068】
また、振動板を構成する弾性膜50は、酸化部の厚さによってその応力を調整することができ、所望のインク吐出特性を比較的容易に実現することができる。
【0069】
また、弾性膜50を形成する弾性膜形成基板50Aは、複数回リサイクルが可能なためコストを増加させることがない。
【0070】
(実施形態2)
図6は、実施形態2に係るインクジェット式記録ヘッドの要部を示す断面図である。
【0071】
本実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、ノズル開口を流路形成基板の端面方向に設ける替わりに、面に垂直な方向に設けた例である。
【0072】
具体的には、図6に示すように、圧力発生室12Aが流路形成基板10Aを厚さ方向に貫通して設けられ、流路形成基板10Aの一方面側には弾性膜50を介して圧電素子300が形成されている。また、流路形成基板10Aの他方面側には、本実施形態では、各圧力発生室12に連通する複数のノズル開口11Aが穿設されたノズルプレート20が接合されている。
【0073】
ここで、このノズルプレート20は、シリコン単結晶基板からなり、実施形態1で詳しく説明した弾性膜50と同様に、所定の深さに水素イオン層を形成したシリコン単結晶基板を用いて形成され、熱接合によって流路形成基板10Aと接合されている。
【0074】
また、このノズルプレート20と流路形成基板10Aとの接合境界面には、実施形態1で説明した弾性膜50と流路形成基板10との接合境界面と同様に、結晶格子不整合面が常に存在していることが好ましい。
【0075】
なお、本実施形態では、流路形成基板10Aには、圧力発生室12Aの長手方向一端部側に圧力発生室12Aと同一面側からエッチングすることによりリザーバ15Aが形成されており、インク供給路を介して圧力発生室12Aと連通されている。
【0076】
このような本実施形態の構成では、ノズルプレート20を均一な厚さで比較的容易に形成することができる。また、流路形成基板10Aとノズルプレート20とを比較的精度良く接合することができ、インク吐出特性を向上することができる。
【0077】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、インクジェット式記録ヘッドの基本的構成は上述したものに限定されるものではない。
【0078】
例えば、上述の実施形態では、弾性膜50は、単結晶部51及び酸化部52からなるようにしたが、これに限定されず、勿論、単結晶部のみからなるようにしてもよい。
【0079】
また、例えば、上述の実施形態では、成膜及びリソグラフィプロセスを応用して製造される薄膜型のインクジェット式記録ヘッドを例にしたが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型のインクジェット式記録ヘッドにも本発明を採用することができる。
【0080】
また、これら各実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図7は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0081】
図7に示すように、インクジェット式記録ヘッドを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0082】
そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0083】
なお、上述の実施形態では、インクジェット式記録ヘッドを例示したが、本発明は、インクジェット式記録ヘッドに限定されず、勿論、他のアクチュエータ装置であってもよいことは言うまでもない。
【0084】
【発明の効果】
以上説明したように本発明では、各キャビティ(圧力発生室)を区画する隔壁の剛性を高めて隔壁のコンプライアンスを小さくすることができるため、インクの吐出特性が向上することができると共に、複数の圧力発生室を高密度に配列することができる。
【0085】
また、キャビティ形成基板(流路形成基板)の厚さが厚いため、大きなサイズのウェハとしても取り扱いが容易となる。したがって、ウェハ一枚当たりのチップの取り数を増加することができ、製造コストを低減することができる。
【0086】
また、振動板は、酸化部の厚さによってその応力を調整することができ、所望のインク吐出特性を比較的容易に実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの概略を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの要部を示す断面図である。
【図3】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図4】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態2に係るインクジェット式記録ヘッドの要部を示す断面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るインクジェット式記録装置の概略図である。
【符号の説明】
10,10A 流路形成基板
11,11A ノズル開口
12,12A 圧力発生室
13,13A インク連通部
14 狭隘部
15,15A リザーバ
20 ノズルプレート
50 弾性膜
51 単結晶部
52 酸化部
60 下電極膜
70 圧電体層
80 上電極膜
300 圧電素子
Claims (5)
- キャビティを画成したキャビティ形成基板と、該キャビティ形成基板の一方面側に振動板を介して設けられて前記キャビティに圧力を付与する圧電素子とを具備するインクジェット式記録ヘッドにおいて、
前記振動板が、膜厚20μm以下の単結晶からなる単結晶部を少なくとも有すると共に酸化部を有し、前記キャビティ形成基板がシリコン単結晶基板からなり、前記キャビティ形成基板と前記振動板との接合界面に角度が約45°の結晶格子不整合面を有し、
前記キャビティ形成基板の他方面側に、前記キャビティに連通するノズル開口を有するノズルプレートが接合され、
前記ノズルプレートが、シリコン単結晶基板からなり、前記キャビティ形成基板との接合界面に角度が約45°の結晶格子不整合面を有する
ことを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。 - 請求項1に記載のインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記振動板の単結晶部が絶縁性を有する単結晶からなることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
- 請求項2に記載のインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記キャビティ形成基板がシリコン単結晶基板からなり、且つ前記振動板の単結晶部がシリコン単結晶からなることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
- 請求項1〜3の何れかに記載のインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記キャビティが異方性エッチングにより形成され、前記圧電素子を構成する各層が成膜及びリソグラフィ法により形成されたものであることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
- 請求項1〜4の何れかに記載のインクジェット式記録ヘッドを具備することを特徴とするインクジェット式記録装置。
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