JP4417604B2 - オーステナイト合金 - Google Patents
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Description
<発明の分野>
本発明は、例えば、石油やガスの掘削で通常発生する物質に対する優れた耐食性とともに、高強度や耐疲労性など優れた機械的特性が必要な分野に適用するための、クロム,モリブデン,マンガン,窒素及びニッケルを高度に含有するオーステナイトステンレス鋼合金に関する。この鋼合金は、石油及びガス工業で、排ガスの浄化、海水利用および精製所などで用いられる。
【0002】
<発明の背景>
オーステナイトステンレス鋼は、面心立方格子構造によって特徴付けられる単相の結晶組織の合金である。最近のステンレス鋼は、第一に、使用する鋼を選択する際に、主に耐食性に対する要求が重要である種々のプロセス産業の用途に使用されている。それらのオーステナイトステンレス鋼は、すべてが所定の適用分野において、上限温度があるということが特徴である。
【0003】
厳しい環境、あるいはより高温での適用性を増すために、Ni,Cr,Mo及びNのような合金元素が多量に添加されてきた。
【0004】
まず、材料は、今なお焼鈍された状態で使用されており、そのため降伏点限界は、通常220〜450MPaである。高合金オーステナイトステンレス鋼の例は、UNS S31254,UNS N08367、UNS N08926及びUNS S32654である。
【0005】
Mn,Cu,Si及びWのような他の元素も、不純物として或いは鋼に特別な性質を付与するために存在する。
【0006】
これらのオーステナイト鋼の合金化のレベルは、組織の安定性により上限が制約される。
【0007】
オーステナイトステンレス鋼は、合金含有量が高く、650〜1000℃の温度範囲の場合において金属間化合物相の析出に敏感となる。
【0008】
金属間化合物相の析出は、Cr、Mo含有量が増えると促進されるが、NおよびNiとの合金化により抑制される。
【0009】
Ni含有量は、主にコストの観点および、それが溶鋼中のNの溶解度を著しく減少させるということから、制限される。Nの含有量は、結果的に溶鋼中および、Cr窒化物の析出が生じる固相中の溶解度によって制限される。
【0010】
溶鋼中のNの溶解度を増やすために、Niの含有量を減少させると共に、MnおよびCrの含有量を増やすことができる。しかしながら、Moは、金属間化合物相の析出の危険性を増加させる原因になると考えられてきたため、その含有量は制限する必要があると考えられている。
【0011】
組織の安定性を配慮する点のみから合金元素をより多く含有することが制限されてきたのではない。鋼ビレットの製造における熱間延性が次の加工における課題となっていた。
【0012】
石油/ガス或いは地熱の掘削プラントでステンレス鋼を適用することは興味深いものである。非常に高い温度,圧力の石油/水或いはそれらの混合物のように、生産された液体/気体中に種々の条件で溶解している硫化水素や塩化物などの極めて腐食性の強い物質のため、その適用には、材料に高度な要求がなされる。
【0013】
ここでは、ステンレス鋼は、生産用の管や、源(source)に降ろすいわゆるワイヤーライン/スリックライン(slicklines)などの両方に大規模に使用されている。
【0014】
材料の塩化物誘起腐食或いは、H2S誘起腐食、またはこれらを組み合わせたものに対する抵抗性の程度により、それらの使用が制限される。
【0015】
他の面では、ワイヤーライン/スリックラインとしての繰り返し使用や、いわゆるプーリー輪(pulley wheel)に懸かるワイヤーの曲げに対する疲労抵抗性の程度により、その使用が大きく制限される。
【0016】
さらに、この分野においてその材料が使用可能かどうかは、ワイヤーライン/スリックラインワイヤーの許容破壊荷重(permitted failure load)によって制限される。
【0017】
現在、この破壊荷重は、冷間成形された材料を使用することにより最大になっている。
【0018】
冷間変形の程度は、通常、その延性を考慮して最適なものにされている。板ばねや、ワイヤーばねに対して、それぞれ必要とされる要件があり、強度,疲労および腐食の特性について高度な要件がある。
【0019】
この分野の腐食環境で使用する通常ある材料は、UNS S31603、22%Crを含有するUNS S31803または25%Crを含有するUNS S32750などの二相鋼、UNS N08367、UNS S31254、およびUNS N08028などの高合金ステンレス鋼などである。
【0020】
さらに厳しい環境に対しては、CrやMoの含有量の高い高Ni合金や、Co基材料のような高級な材料が一定の用途に用いられる。
【0021】
すべての場合において、腐食と応力によりその使用には、上限がある。
【0022】
これらの環境のための鋼に関して、CrやNiは、H2S環境に対する抵抗性を増し、一方、周知のPRE=%Cr+3.3%Mo+16%Nの関係によれば、Cr、MoおよびNは、塩化物環境において好適であることがよく知られている。
【0023】
現在に至るまで、最適な合金とするには、そのように可能な限り高いPRE値を得るために、MoやNの含有量を最大にすることであった。
【0024】
このように、現存する最近の多くの鋼においては、H2S腐食および塩素(Cl)腐食を組合せたものに対する抵抗性は重要視されておらず、限られた範囲の考慮しかされてこなかった。さらに、石油掘削は、今日、だんだん深くなっている源(source)から広範囲に実施されており、同時に、圧力と温度が増加している(いわゆる、高圧高温油井)。深度の増加は、勿論、いわゆるワイヤーラインまたは管軌道(pipe trucks)に関連して、自由吊下材料(free hanging materials)を使用する際の自重(dead weight)の増加の原因となっている。
【0025】
圧力や温度の増加は、腐食条件を悪化させ、そのために現存の鋼材に対する要求を増すことになる。
【0026】
現在使用されている大きさのプーリー輪では、現存の材料の表面に塑性が生じるため、ワイヤーラインに対しては、引張りでの降伏点を増加させる必要がある。表面層に2000MPaまでの引張応力が存在し、これがワイヤーライン合金で得られている寿命が短かいことに強く影響している。
【0027】
上記の背景に鑑みれば、特に石油工業およびガス工業のみならず、他の分野を含めた分野に適用するために、塩化物誘起腐食抵抗性とH2S腐食抵抗性とが組み合わさった新しい合金に対する要件は、容易に確認される。
【0028】
さらに、今日の技術が所与の範囲の冷間変形で達成しているよりもかなり高い強度が要求されている。
【0029】
通常のワイヤー寸法では、表面で塑性化することがなく、或いは、より小径の寸法で使用することができる強度が求められている。
【0030】
米国特許公報第5,480,609号には、クレーム1に、重量で、鉄および20〜30%のクロム、25〜32%のニッケル、6〜7%のモリブデン、0.35〜0.8%の窒素、0.5〜5.4%のマンガン、最高0.06%の炭素、最高1%の珪素を含み、PRE数が少なくとも50であるオーステナイト合金が記載されている。
【0031】
任意の成分は、銅(0.5〜3%)、ニオブ(0.001〜0.3%)、バナジウム(0.001〜0.3%)、アルミニウム(0.001〜0.1%)およびホウ素(0.0001〜0.003%)である。
【0032】
唯一の実施例では、25%のクロム、25.5%のニッケル、6.5%のモリブデン、0.45%の窒素、1.5%の銅、0.020%の炭素、0.25%の珪素および0.001%の硫黄、残部が鉄及び不純物の鋼が用いられている。この鋼は、良好な機械的性質を有するが、本発明の目的を満たすに十分に優れた性質は有していない。
【0033】
【課題を解決するための手段】
<発明の概要>
従って本発明は、上述の要求を満たすオーステナイト鋼合金に関する。本発明による合金は、質量%で、
Cr 23〜30、
Ni 25〜35、
Mo 3〜6、
Mn 3〜6、
N 0〜0.40、
C 0.05以下、
Si 1.0以下、
S 0.02以下、
Cu 3.0以下、
残部が鉄および不可避的不純物を含む。
【0034】
ニッケルの含有量は、好ましくは、少なくとも26重量%、より好ましくは、少なくとも28重量%、そして最も好ましくは、少なくとも30重量%または31重量%である。ニッケル含有量の上限は、適切には34重量%である。
【0035】
モリブデンの含有量は、少なくとも3.7重量%であり、適切には少なくとも4.0重量%である。特に、最高5.5重量%である。
【0036】
マンガンの適切な含有量は、2重量%以上であり、好ましくは、含有量は3〜6重量%、特に4〜6重量%である。
【0037】
窒素の含有量は、好ましくは0.20〜0.40重量%、より好ましくは0.35〜0.40重量%である。クロムの含有量は、適切には少なくとも24重量%である。クロム含有量が最高28重量%、特に、最高27重量%の場合に特に、好ましい結果が得られる。銅の含有量は、好ましくは最高1.5重量%である。
【0038】
本発明の合金においては、モリブデン量の一部又は全てをタングステンで置き換えることができる。しかしながら、本発明の合金は少なくとも2重量%のモリブデンを含有することが好ましい。
【0039】
本発明による合金は、Mg,Ce,Ca,B,La,Pr,Zr,Ti,Ndの一種以上の元素である延性添加物を、好ましくは、合計量で最高0.2重量%含むことができる。
<発明の詳細説明>
本発明における合金元素の重要性は、以下のとおりである。
<ニッケル25〜35重量%>
高含有量のニッケルは、CrおよびMoの溶解度を増加させて高合金鋼を均質化する。オーステナイトを安定させるニッケルは、それとともに、その大部分が合金元素のクロムやモリブデンからなる望ましくないシグマ相、ラーベス相、およびχ相の形成を抑制する。
【0040】
ニッケルは、クロムやモリブデンなどの析出傾向のある元素に対抗するものとして作用するのみならず、硫化水素や塩化物が通常存在する石油/ガス用途に適用するための重要な合金元素として作用する。高い応力が厳しい環境と組合わさると、しばしば、上述の環境においては“硫化物応力腐食割れ”(SSCC)といわれる“応力腐食割れ”(SCC)の原因となる。硫化水素と塩化物との混合物が存在する無気性の環境中でのSCCに対する抵抗性に関しては、その複合効果が高濃度のモリブデンよりもより決定的であると考えられるために、本発明の合金は、高含有量のニッケルおよびクロムが基本である。
【0041】
高含有量のニッケルは、還元性環境中での一般的な腐食に対して好ましいと考えられており、石油及びガス源の環境に関して有利である。
【0042】
腐食試験の結果に基づいて一つの式が導き出された。その式は、還元性環境中における腐食速度を予測している。
【0043】
本発明の合金は、次の条件:
10^(2.53−0.098×[%Ni]−0.024×[%Mn]+0.034×[%Cr]−0.122×[%Mo]+0.384×[%Cu])<1.5
を満たすことが適切である。
【0044】
しかしながら、ニッケルは合金中の窒素の溶解度を減少させ、熱間加工性を低下させるという不利な点があり、それが本発明の合金のニッケル含有量の上限となる。
【0045】
本発明は、しかしながら、上記に従って高含有量のニッケルを高含有量のクロム及びマンガンとバランスさせることにより、高含有量の窒素とすることが可能であることを示している。
<クロム23〜30重量%>
高含有量のクロムは、耐食材料の基本である。塩化物環境中での孔食に対して材料にランクをつけるための迅速な方法は、通常適用される“孔食抵抗当量”の式(PRE)=[%Cr] + 3.3×[%Mo] + 16×[%N]を用いることであり、モリブデンと窒素にプラスの効果があることも明確になっている。PREの式には種々の変形が多くあり、特に、式毎で異なるのは窒素の係数であり、マンガンもしばしばPRE数を減少させる元素となることがある。
【0046】
PRE数が高いことは、塩化物環境での孔食に対して抵抗性の高いことを表している。
【0047】
生地中に溶解している窒素のみが、例えば、窒化物とは異なり、好ましい影響を有している。
【0048】
窒化物のような望ましくない相は、むしろ、腐食割れの起点として作用する。
【0049】
このため、クロムは、合金中の窒素の溶解度を増加させるという特性ゆえに、重要な元素である。次の式は、孔食に対する合金の抵抗性についての指標を与えている。その値は、高いほど良い。
【0050】
この式は、本発明の合金の耐食性を古典的なPRE式よりも良く予測していることが判る。
【0051】
この式は、従来の技術とは異なり、本発明においては、好ましくは高含有量のクロムが重要である理由も説明している。モリブデンとクロムの間の係数3.3(古典的なPRE式による)の差異に代え、次の式による対応の係数は、2.3となる。 新合金および、両者とも高Mo含有量であるUNS N08926、UNS S31254、およびUNS N08028の孔食温度の比較を実施例1に示す。
【0052】
93.13−3.75×[%Mn]+6.25×[%Cr]+5.63×[%N]+14.38×[%Mo]−2.5×[%Cu]
クロムは、前述のように、孔食に対する影響のほかに、硫化水素浸食と共に、SCCに対して好ましい影響を有している。
【0053】
さらに、クロムは、粒界腐食、すなわち、低炭素材料(C≦0.03重量%)が600〜800℃の熱処理によって鋭敏化された場合の腐食、に対する抵抗性を反映するヒューイテストにおいてプラスの影響を示す。本合金には、高度の抵抗性があることが認められた。本発明による好ましい実施例は、次の条件:
10^(−0.441−0.035×[%Cr]−0.308×[%N]+0.073×[%Mo]+0.022×[%Cu])≦0.10
を満たす。
【0054】
特に、好ましい合金は、0.09以下の値である。
【0055】
クロムとは異なり、モリブデンは腐食速度を増加させる。その理由は、鋭敏化において望ましくない相を生じさせるモリブデンの析出傾向にある。
【0056】
従って、真に高含有量のモリブデンの利点を生かし、また、本発明の合金の最適な組織安定性を得るためには、高含有量のクロムとする。
【0057】
確かに、両合金元素とも析出傾向を強めるが、試験では、モリブデンはクロムの2倍の効果があることを示している。
【0058】
組織の安定性に関して経験的に導かれた式では、次によれば、モリブデンは、クロムよりもよりマイナスの影響がある。本発明による合金は、好ましくは、次の条件:
−8.135−0.16×[%Ni]+0.532×[%Cr]−5.129×[%N]+0.771×[%Mo]−0.414×[%Cu]<4
を満たす。
<モリブデン3〜6重量%>
腐食浸食全般に対する抵抗性を増すために、しばしば、最近の耐食オーステナイトに、より多くの量のモリブデンが添加される。
【0059】
例えば、塩化物環境での孔食に対して好ましい効果があることは、現在の合金の指針である公知のPRE式によって、より以前に示されている。
【0060】
本発明においても、還元性環境でのエロージョンおよび塩化物環境での孔食での本発明の作用について特に開発された式の中で、耐食性に対してモリブデンに好ましい効果があることを読みとることができる。
【0061】
孔食に対する先の式によれば、塩化物誘起腐食に対するモリブデンの影響は、従来の技術がこれまで明らかにしてきたほど強力ではなかったということを強調する必要がある。
【0062】
硫化水素と塩化物とが組合わさった無気性の環境中での応力腐食抵抗性に関しては、高含有量のニッケルおよびクロムの複合作用は、高含有量のモリブデンよりも明確であるということが、経験的に得られ、知られている。
【0063】
モリブデンの析出傾向は、合金元素がマトリックスに固溶せずに拘束される粒界腐食(酸化性環境)に対してマイナスの効果を与える。
【0064】
本発明による合金は、孔食に対する非常に高い抵抗性と酸に対する抵抗性とが結び付いており、化学工業での熱交換器用として理想的なものとなっている。
【0065】
酸(還元性環境)に対する本発明の合金の抵抗性は、一般の腐食についての次の式に記されている。本発明の合金は、好ましくは、次の条件:
10^(3.338+0.049×[%Ni]+0.117×[%Mn]−0.111×[%Cr]−0.601×[%Mo])≦0.50
を満たす。
【0066】
高および低含有量のモリブデンの各合金例について、熱処理時に必要な応力を示している図から、硬さが明らかに増加していることが判る。
【0067】
熱間加工時に必要な応力に及ぼすモリブデンのマイナスの影響は、図1に、合金例XおよびPで示されている。
【0068】
必要な応力は、必要な荷重に直接比例し、そしてそれは、試験片の面積が変化しない時、すなわち、くびれる直前に測定される。
【0069】
この応力は、関係:
σ=F/A
σ:張力[N/mm2]
F:力[N]
A:面積[mm2](=固定)
から計算される。
【0070】
合金の耐食性にしばしば好ましい影響はあるが、組織の安定性と加工特性の低下により、本発明の合金のモリブデン含有量は、最大6重量%、好ましくは最大6.0重量%に制限される。
<マンガン1.0〜6.0重量%>
マンガンは3つの理由で本発明の合金にとって極めて重要である。
【0071】
最終製品を高強度にするため、そしてそのために、合金を冷間加工で歪硬化させるためである。
【0072】
窒素とマンガンの両者とも、材料中の転位を分離させ、引き続いてショックレー部分転位(shockley-partials)を形成する積層欠陥エネルギーを減少させることで知られている。積層欠陥が低いほどショックレー部分転位間の距離は大きくなり、かつ転位の横滑りがより悪化し、材料は著しく歪硬化する。
【0073】
これらの理由で、高含有量のマンガンと窒素は、本発明の合金にとって非常に大切である。急速に歪硬化することは、図3に示した整理図(reduction graphs)に表されており、新合金が、既知のUNS N08926およびUNS N08028鋼と比較されている。
【0074】
さらに、マンガンは、溶鋼中の窒素の溶解度を増加させ、高含有量のマンガンが有利であることを更に示している。
【0075】
窒素の溶解度を低下させるニッケルの含有量が、クロムの含有量よりも高く選定されるので、単にクロムの含有量を高くするだけでは、溶解度を十分なものとすることはできない。本発明の合金の窒素溶解度は、下記の式で熱力学的に予測できる。
【0076】
マンガン、クロムおよびモリブデンのプラスの係数は、窒素溶解度を増加する効果があることを示している。
【0077】
−1.3465+0.0420×[%Cr]+0.0187×[%Mn]+0.0103×[%Mo]−0.0093×[%Ni]−0.0084×[%Cu]
その値は、−0.46より極めて大きく、0.32より小さいのが適切である。
【0078】
本発明の範囲のマンガン含有量とした第三の理由は、高温で行なった降伏応力の分析において、意外にも、マンガンが合金の熱間加工性を改善する効果を示したためである。
【0079】
鋼が高合金化されるほどそれらは加工され難くなり、製造を簡単化しかつ、より安価にする加工性改善のための添加物がより重要になる。
【0080】
高および低含有量のマンガンの各合金例について、熱間加工で必要な歪を示した図2の図表から判断すると、マンガンを添加すると、熱間加工での硬さが減少する。熱間加工で必要な張力に対するマンガンのプラスの効果は、ここでは合金例SおよびPで示されている。
【0081】
必要な張力は、必要な力に比例し、そしてそれは、試験片の面積が変わらない時、すなわちくびれる直前、に測定される。この張力は、関係:
σ=F/A
σ:張力[N/mm2]
F:力[N]
A:面積[mm2](=固定)
から計算される。
【0082】
熱間加工性が良好な本発明の合金は、管やワイヤーや薄板の製造にとって優れている。
【0083】
しかしながら、下記の式に記されているように、マンガンには合金の熱間延性に対してややマイナスの効果のあることが認められた。熱間加工において硬さを減少させる合金元素としての強力なプラス効果は、より重要であると判断される。
【0084】
本発明の合金は、適切には、次の式の値が、少なくとも43,好ましくは少なくとも44となる組成である。
【0085】
10^(2.059+0.00209×[%Ni]−0.017×[%Mn]+0.007× [%Cr]−0.66×[%N]−0.056×[%Mo])
マンガンは、塩化物環境における合金の孔食に対する抵抗性を減少させる元素のようである。腐食と加工性をバランスさせることによって、本発明の合金の最適なマンガン含有量を選択する。
【0086】
本発明の合金は、好ましくは、次の式において1230以上の熱焼限界(firing limit)が得られる組成である。
【0087】
10^(3.102−0.000296×[%Ni]−0.00123×[%Mn]+0.0015×[%Cr]−0.05×[%N]−0.00276×[%Mo]−0.00137×[%Cu])
<窒素0〜0.4重量%>
窒素は、モリブデンと同様に、最近の耐食性オーステナイト鋼において、合金の耐食性のみならず機械的強度を増加させるための一般的な合金元素である。
【0088】
本合金にとって、利用できる窒素により機械的強度を増加させることは、最優先のことである。
【0089】
上述のように、マンガンは、合金の積層欠陥エネルギーを下げるので、冷間変形において大きな強度増加が得られる。
【0090】
本発明は、窒素が、侵入固溶原子である結果として結晶構造に応力を生じさせ、機械的強度を増加させることも利用している。
【0091】
板、熱交換器、生産用管、ワイヤーばねや板ばね、リグワイヤ−、ワイヤーライン、およびあらゆる種類の医療用途などの所望の用途にとって、高強度であることは基本的に重要なことである。
【0092】
高張力材料を使用することにより、同じ強度を、より少ない材料で、従ってより少ない重量で得ることが出来る。
【0093】
バネにとって、弾性エネルギーの吸収傾向は決定的に重要である。
【0094】
バネが蓄えることのできる弾性エネルギー量は、次の関係に従う。
【0095】
曲げ応力を伴うバネに対して、W=const.×σ2/E、
剪断応力を伴うバネに対して、W=const. ×τ2/G、
ここで、σは、曲げ応力における弾性限界、実用的には材料の引張りにおける降伏点を表し、Eは、弾性係数、Gは剪断係数を表す。
【0096】
定数は、バネの形状に依存する。曲げまたは剪断応力とは無関係に、引張りで降伏点が高い場合、弾性係数が低い場合および剪断係数が低い場合のそれぞれの場合に、高い弾性エネルギーの蓄積が可能である。
【0097】
一定の彎曲を持った巻取機に巻かれたワイヤ−の弾性係数を測定するのは難しいので、UNS N08926に有効な値を文献から上述の全ての合金に想定した。
【0098】
【表1】
【0099】
窒素には、上述のような孔食に対する抵抗性に好ましい効果もある。組織の安定性に関しては、窒素は、クロム窒化物の原因となるマイナス方向と、安定化するプラス方向との両方に作用しうる。
<銅0〜3重量%>
オーステナイト鋼の腐食特性に対する銅添加の効果は、議論がある。しかしながら、銅は、本発明の合金の適用分野では極めて重要である硫酸中での耐食性を大きく増加させる。試験では、銅は、管の製造にとって好ましい元素であった。このような理由で、銅の添加は、管用に製造される材料にとって特に重要である。しかしながら、高含有量の銅が、高含有量のマンガンと組み合わされると熱間延性を大きく低下させることが経験により得られ、知られている。このような理由から、銅の上限は、3重量%とした。銅の含有量は、好ましくは、最高1.5重量%である。
【0100】
次に、本発明によるいくつかの合金の実施例を示す。
【0101】
これらは、本発明を明確にするためのものであり、これに限定されない。
<実施例>
次の表には、上述した本発明の試験合金および幾つかの公知の合金の組成が示されている。公知の合金については、試験用に規定する組成の範囲を、これらを使用する試験のケースに対して示している。
【0102】
【表2】
【0103】
【表3】
【0104】
<実施例1>
本発明の3つの合金および3つの比較合金について、ASTM G 48に従って、6重量%FeCl3中での孔食を測定した。溶液の沸点の最高可能温度は100℃である。
【0105】
【表4】
【0106】
3つの異なる試験仕上げ、ASTM G48の仕様により研磨された冷間加工試験片、ASTM G48の仕様により研磨された焼鈍試験片および、そのままの表面の管試験片、を比較すると、最高の温度は、研磨された表面を有する焼鈍試験片で達成されると予想される。その後に、研磨された表面を持つ冷間加工試験片および、最も低い温度が予想され、試験ソケット(socket)がそのままの表面を有する冷間加工された管から製造されている最も厳しい試験と続く。
<実施例2>
マンガンとモリブデンの含有量が異なる本合金の熱間加工に必要な張力を、図1と図2に示す。必要な張力に対するモリブデンのマイナスの効果は、図1に合金例XとPで示している。必要な張力に対するマンガンのプラスの効果は、図2に合金例SとPで示している。
<実施例3>
本合金例B、CおよびEの冷間加工での最大応力が、本質的に良く増加していることを、公知のUNS N08028およびUNS N08926と比較して、図3に示している。
<実施例4>
図4および5の図表に、ワイヤーおよびその応用のワイヤーラインの本質的な特性を示す。
【0107】
図4の図表は、新合金のワイヤ−が、公知の合金UNS N08028で製造されたワイヤーと比較して、自重を超えてどれほどの荷重を支えることができるかをワイヤ−の長さとの関係で示している。
【0108】
合金の密度は、ρ=8000kg/m3 とした。
【0109】
重力加速度は、g=9.8m/s2とした。
【0110】
長いワイヤーは、明らかにワイヤーにかかる自重(dead weight)がある。
【0111】
通常、この自重は、種々の彎曲のある輪により支えられており、それがさらにワイヤーに応力を生じさせている。
【0112】
輪の彎曲半径が小さいほどワイヤーの曲げ応力は高くなる。同時に、より小さいワイヤー径は、より強い曲げを受ける。
【0113】
図5の図表は、新合金から製造されたワイヤ−が、公知の合金UNS N08028と比較して、自重および曲げ応力を含むどれほどの荷重を支えることができるかをプーリー輪の直径との関係で示している。両合金の弾性係数は、E=198,000MPaとした。
【0114】
図の計算は、応力の低下は弾性的に直線的であり、最大耐荷重(maximum bearing load)は、材料の降伏応力(Rp0.2)によって決まると想定して行った。
<実施例5>
次の表5に、上述の関係I〜IXの次による計算値を示す。
I:組織の安定性=−8.135−0.16×[%Ni]+0.532×[%Cr]−5.
129×[%N]+0.771×[%Mo]−0.414×[%Cu]
II:熱間延性=10^(2.059+0.00209×[%Ni] −0.017×[%M
n]+0.007× [%Cr]−0.66×[%N]−0.056×[%Mo])
III :熱焼限界(Firing limit)=10^(3.102−0.000296×[%Ni]
−0.00123×[%Mn]+0.0015× [%Cr]−0.05×[%N]−0.
00276×[%Mo]−0.00137×[%Cu])
IV:一般腐食(酸抵抗性)=10^(3.338+0.049×[%Ni]+0.11
7×[%Mn]−0.111×[%Cr]−0.601×[%Mo])
V:一般腐食(還元性環境)=10^(2.53−0.098×[%Ni]−0.02
4×[%Mn]+0.034×[%Cr]−0.122×[%Mo]+0.384×[%Cu])
VI:粒界腐食(酸化性環境)=10^(−0.441−0.035×[%Cr]−0.
308×[%N]+0.073×[%Mo]+0.022×[%Cu])
VII :孔食=93.13−3.75×[%Mn]+6.25×[%Cr]+5.
63×[%N]+14.38×[%Mo]−2.5×[%Cu]
VIII:PRE=[%Cr]+3.3×[%Mo]+16×[%N]
IX:窒素溶解度=−1.3465+0.0420×[%Cr]+0.0187×[%Mn]
+0.0103×[%Mo]−0.0093×[%Ni]−0.0084×[%Cu]
表には、各々の関係において好ましい値も記載した。
【0115】
【表5】
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、本発明の実施例XおよびPの熱間加工時の温度に対する張力のプロットを示す。
【図2】 図2は、本発明の実施例SおよびPの熱間加工時の温度に対する張力のプロットを示す。
【図3】 図3は、断面の減少率に対する最大引張強さのプロットを示す。
【図4】 図4は、本発明の実施例及び比較例の長さに対する荷重を示す。
【図5】 図5は、プリー輪の直径に対する自重および曲げ応力を含む荷重を示す。
Claims (10)
- 質量%で、
Cr 23〜30、
Ni 25〜35、
Mo 3〜6、
Mn 3〜6、
N 0〜0.40、
C 0.05以下、
Si 1.0以下、
S 0.02以下、
Cu 3.0以下、
残部が鉄および不可避的不純物からなる組成を有し、含有量が以下の条件:
10^(2.53−0.098×[%Ni]−0.024×[%Mn]+0.034×[%Cr]−0.122×[%Mo]+0.384×[%Cu])<1.5
を満たすように調整されていることを特徴とするオーステナイト合金。 - ニッケルの含有量が少なくとも26質量%であることを特徴とする請求項1のオーステナイト合金。
- モリブデンの含有量が4.0〜6.0質量%であることを特徴とする請求項1または2のオーステナイト合金。
- マンガンの含有量が4〜6質量%であることを特徴とする請求項1〜3の何れかのオーステナイト合金。
- 窒素の含有量が、0.20〜0.40質量%であることを特徴とする請求項1〜4の何れかのオーステナイト合金。
- クロムの含有量が23〜28質量%であることを特徴とする請求項1〜5の何れかのオーステナイト合金。
- 元素の含有量が以下の条件:
10^(−0.441−0.035×[%Cr]−0.308×[%N]+0.073×[%Mo]+0.022×[%Cu])≦0.10
を満たすことを特徴とする請求項1〜6の何れかのオーステナイト合金。 - 元素の含有量が以下の条件:
10^(3.102−0.000296×[%Ni] −0.00123×[%Mn]+0.0015× [%Cr] −0.05×[%N] −0.00276×[%Mo] −0.00137×[%Cu])>1230
を満たすことを特徴とする請求項1〜7の何れかのオーステナイト合金。 - 元素の含有量が、次の条件:
10^(2.059+0.00209×[%Ni] −0.017×[%Mn]+0.007× [%Cr]−0.66×[%N] −0.056×[%Mo] >43
を満たすことを特徴とする請求項1〜8の何れかのオーステナイト合金。 - 元素の含有量が次の条件:
−0.46<(−1.3465+0.0420× [%Cr]+0.0187×[%Mn] +0.0103×[%Mo]−0.0093×[%Ni]−0.0084×[%Cu])<−0.32
を満たすことを特徴とする請求項1〜9の何れかのオーステナイト合金。
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