JP4408308B2 - 横型熱処理炉及び熱処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は繊維製シートに連続して熱処理を施す横型熱処理炉と熱処理方法とに関し、更に詳しくは、炭素繊維を製造する際の耐炎化処理において、炉内のガスが外部へと漏出するのを完全に防止できる横型熱処理炉と熱処理方法とに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
炭素繊維、特にアクリロニトリル系合成繊維を原料として製造された炭素繊維は、その引張強度が500Kg/mm2 以上であり、伸度は2%以上と極めて高性能なものとすることができるため、航空、宇宙用素材としての用途開発が進められている。かかるアクリロニトリル系合成繊維を出発原料として炭素繊維を製造するには、先ず、アクリロニトリル系合成繊維を200〜300℃の酸化性雰囲気下にある熱処理炉内で耐炎化処理することが必要である。
【0003】
この耐炎化処理においては、アクリロニトリル系合成繊維の酸化反応によって熱処理炉内にシアン化合物、アンモニア、及び一酸化炭素等の分解ガスが発生する。ところで、多量の繊維を効率良く連続的に処理するためには、前記熱処理炉に繊維の導出入口を設けて、走行する繊維を同熱処理炉内に連続して導入及び導出する必要がある。しかしながら、上述したように、前記熱処理炉内には分解ガスが発生しているため、同処理炉に繊維の導出入口を設けることにより、炉内の分解ガスが炉外に漏出することは否めない。
【0004】
これを防止するために、前記熱処理炉の導出入口が設けられた側に隣接してシール室を設け、前記導出入口からの分解ガスの漏出を防止することが知られている。例えば、特公平3−4832号公報、特公平3−4833号公報、及び特公平3−4834号公報に開示された横型熱処理炉は、シート状に並べられた多数の繊維糸条が酸化性雰囲気下にある熱処理室内を多段に平行して走行し、その走行方向と平行して熱風を吹きつけて耐炎化処理を施している。前記熱処理室の対向する両壁部にはスリット状をなす前記糸条の導出入口が複数設けられており、その導出入口が形成された前記両壁部にそれぞれ隣接してシール室を設けて、前記熱処理室に形成された導出入口から直接、前記熱処理室内のガスが外部へと漏出するのを防止している。
【0005】
特公平3−4832号公報に開示された熱処理炉にあっては、前記熱処理室内に2枚の仕切り板を水平方向に配して、前記熱処理室を上下3つに仕切ることにより、同熱処理室の上下での温度分布のバラツキをなくし、前記糸条に均一な熱処理を施すことができるものである。また、両側に形成された前記シール室にも、それぞれスリット状をなす糸条の導出入口が複数設けられているが、両シール室には更に、それぞれ単一の排気口を設けて前記熱処理室から漏出したガスを積極的に排気しているため、同シール室に形成された糸条の導出入口から前記熱処理室内のガスが漏れだすことはない。なお、前記排気口から排出されたガスは、気体処理部において燃焼の処理がなされた後、外気へと放出される。
【0006】
更に、特公平3−4833号公報に開示された熱処理炉にあっては、両側の各シール室内にそれぞれ2枚の仕切り板を水平方向に配して、同シール室を上下3つに仕切っている。前記シール室は仕切られた各部位ごとにそれぞれ排気口を設けて熱処理室から漏出したガスを積極的に排気し、前記シール室に形成された糸条の導出入口から外部へのガスの漏出を防止している。また、前記シール室に形成された各排気口は、単一の排気ファンにより排気され、その気体は共通の気体処理部で燃焼処理がなされる。
【0007】
また、特公平3−4834号公報にあっては、前記熱処理室内及び両側の各シール室内に2枚の仕切り板を水平方向に配して、前記熱処理室及び前記シール室をそれぞれ上下3つに仕切っている熱処理炉が開示されている。同公報に開示された熱処理炉にあっても、前記シール室の仕切られた各部位ごとにそれぞれ排気口を設けて熱処理室から漏出したガスを単一の排気ファンにより積極的に排気し、前記ガスを気体処理部で燃焼処理している。
【0008】
このように、上記特公平3−4832号公報、特公平3−4833号公報、及び特公平3−4834号公報に開示された熱処理炉にあっては、熱処理室からシール室へと漏れだしたガスを、前記シール室に設けた排気口から排気することにより、熱処理室内の温度変化を抑えて温度制御性を確保すると共に、熱処理室内で発生した分解ガスが外部の作業雰囲気へと漏れ出すのを効果的に防ぐことが可能である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特公平3−4832号公報、特公平3−4833号公報、及び特公平3−4834号公報に開示された熱処理炉のように、糸条の走行方向と平行して熱風を吹き付けて耐炎化処理を施す場合に、前記熱風の流れ方向が糸条の導出入口に面しているため、熱処理室からシール室へ漏出するガスを含む気体の量が多くなり、それに伴い前記シール室の排気口からの排気量も増加して、大量のガスを燃焼処理しなければならない。また、排気量が増加すると、ガス処理設備への負荷も当然に大きくなる。
【0010】
本発明はかかる従来の問題点を解決すべくなされたものであり、熱処理室内で発生した分解ガスの外気への漏出を完全に阻止すると共に、熱処理室内における所望の加熱温度を維持させることが容易で、且つ、排気口から排出される燃焼処理の必要なガスの量を低減させることのできる横型熱処理炉及び熱処理方法を提供することを目的としている。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、対向する両壁部の上下方向に多段のスリット状をなす繊維製シートの第1導出入口を有し、前記繊維製シートが多段に平行して走行する熱処理室と、前記両壁部にそれぞれ並設され、上下方向に多段のスリット状をなす前記繊維製シートの第2導出入口を外側壁部に有するシール室とを備えた横型熱処理炉であって、前記熱処理室は前記繊維製シートの走行方向と概略直交して熱風を吹き出す熱風導入部と、前記熱風導入部と相対して配された熱風排出部とを有する熱風循環設備を備え、前記シール室は上下方向に多段のスリット状をなす前記繊維製シートの第3導出入口を有する中央壁を介して、前記繊維製シートの走行方向に沿って、それぞれ排気口を有する第1シール室及び第2シール室の二室に区画され、前記熱処理室に隣接する前記第1シール室は、少なくとも一の仕切り板を介して上下に区画され、区画された各シール室に少なくとも一つの排気口を有してなり、前記第2シール室は少なくとも1つの排気口を有してなることを特徴とする横型熱処理炉を主要な構成としている。
ここで、前記繊維製シートとは、多数の繊維糸条をシート状に配列したものや、繊維製織編物、不織布などをいう。
【0012】
一般に、前記熱処理炉内の圧力と炉外の圧力との圧力差は、気体温度の違いにより生ずる前記熱処理炉内外の浮力差の影響で、炉の高さ方向に変化する。即ち、前記熱風導入部を炉の上部に配する場合には、炉の上部では炉の内外における圧力差が大きく、炉の下部では内外の圧力差が小さくなる。
【0013】
そのため、従来のシール室をもたない熱処理炉にあっては、同熱処理炉の上部に形成された繊維製シートの導出入口からは炉内の熱風が外部へと漏出しやすく、一方、熱処理炉の下部に形成された繊維製シートの導出入口からは外気が熱処理炉内へ流入しやすい。しかしながら、上述の構成を備えた本発明の熱処理炉は、前記シール室を備えているため、シール室内の圧力を前記熱処理室の圧力より小さくすることができるので、前記熱処理室内の上下方向における圧力変動に伴う前記熱処理室への外気の流入を防ぐことができ、前記熱処理室内の温度変化を極めて小さくすることができる。しかも、前記シール室は上述したように前記繊維製シートの走行方向に沿って第1シール室と第2シール室との二室に区画されているため、従来のシール室が一室である熱処理炉と比べて、前記熱処理室への外気の流入をより効果的に防止することができる。
【0014】
更に、前記第1シール室及び前記第2シール室に形成された各排気口は、それぞれ独立した排気機構又は圧力調整機構を有していることが好ましい。この場合に、前記排気機構により各シール室において独立して排気量を設定でき、各シール室の圧力がそれぞれに適宜調整される。特に前記熱処理室に隣接する第1シール室を少なくとも二以上に区画して、それぞれの第1シール室から別個に排気することにより、熱処理室内と第1シール室内の圧力差を個別に制御でき、前述のような熱処理室の内外での浮力差の影響による同熱処理室への外気の流入や、同熱処理室からの熱風の過度の流出を制御することができ、従来にない温度の均一性に優れた熱処理炉とすることに成功したものである。
【0015】
また、前記排気機構による排気量は排気調整機構により調整することができる。前記排気調整機構としては、通常、シール室内の内部圧力と熱処理室の内部圧力とを比較して、排気ファンの回転数、すなわち排気量を調整するものであるが、これを自動化するため内部圧力の変化を検出する手段、同検出手段による検出信号により上記排気機構の排気量を調整する制御部を備えることもある。
【0016】
なお、一般に前記排気口からの排気量を多くすれば、熱処理室内のガスの外への漏出を防ぐことが可能であるが、それにより熱処理室内からの熱量の流出も増加し、熱処理室内の温度低下を招きやすく、その温度制御上、好ましくない。また、燃焼処理がなされる流出気体の量も増加することになる。
【0017】
そこで、前記第1シール室は、上からx段目における前記熱処理室の前記第1導出入口近傍での内部圧力Ph-x と、同導出入口に対応する前記第2シール室の前記第3導出入口近傍での内部圧力Ps1-xとの大小関係が上下段において逆転する部位で前記仕切り板を介して区画されることが好ましい。
【0018】
その場合に、前記第1シール室の内部圧力Ps1-xが前記熱処理室における内部圧力Ph-x よりも高くなる第1シール室においては、前記熱処理室への第1導出入口から同熱処理室内の気体が前記第1シール室へと漏出することはないため、同第1シール室に設けられた排気口からの気体には熱処理室内の分解ガスが含有されていない。従ってこの第1シール室に形成された排気口からの気体は燃焼処理が不要となり、直接大気へと放出することが可能となる。そのため、燃焼処理を施す気体の量が著しく低減される。
【0019】
前記第1シール室内の内部圧力Ps1-xが前記熱処理室の内部圧力Ph-x よりも低くなる第1シール室においては、前記熱処理室の第1導出入口から同熱処理室内の気体が前記第1シール室へと漏出するため、この第1シール室に形成された排気口から排気される気体は熱処理室内の分解ガスを含んでいる。そのため同気体は燃焼処理を行う必要がある。この燃焼処理方法としては、灯油と共に燃焼処理するなどの公知の方法が適用される。
【0020】
また、本発明は、上述した横型熱処理炉により、炭素繊維の原料であるプレカーサを熱処理することを特徴とする炭素繊維の熱処理方法を、他の主要な構成としている。なお、同熱処理方法においては、前記第1シール室及び第2シール室における各排気口からの排気ガスを個別に処理することが好ましい。即ち、例えば熱処理室内で発生した分解ガスを含む排気ガスについては、灯油と共に燃焼処理した後、大気へと放出し、熱処理室内で発生した分解ガスを含まない排気ガスについては、直接に大気へと放出する。
【0021】
前記熱処理室の内部圧力Ph-x と前記第1シール室の内部圧力Ps1-xとの圧力関係がPh-x <Ps1-xであるシール室にあって、前記排気口の排気量を前記圧力関係がPh-x <Ps1-xを維持するように調整することが好ましい。
例えば、第1シール室を上下二室に区画した場合に、上部第1シール室の排気口からの排気ガスには、熱処理室内で発生した分解ガスが含まれているため、ガスの燃焼処理を行う必要がある。しかしながら、前記圧力関係がPh-x <Ps1-xを維持するように調整することにより、下部第1シール室の排気口からの排気ガスには熱処理室内で発生した分解ガスを含んでいないため、燃焼処理を行う必要がなく、直接大気中へと放出することができ、燃焼処理を行うガスの量を低減することが可能となる。
【0022】
また、前記第2シール室における内部圧力Ps2-xが、前記第1シール室における内部圧力Ps1-xよりも0.2〜5Pa高くなるように、前記排気口の排気量を調整することが好ましい。このように排気量を調整することにより、前記第1シール室内の気体が第2シール室へと流入することがない。従って、前記第2シール室の排気口からの排気ガスは、熱処理室内で発生した分解ガスを含んでいないため燃焼処理を行う必要がなく、直接大気中へと放出することができる。
【0023】
前記第2シール室の内部圧力Ps2-xが前記第1シール室の内部圧力Ps1-xよりも0.2Pa以上高くなるよう各排気口からの排気量を調整することにより、前記熱処理室から第1シール室へと僅かに漏れ出した分解ガスが第2シール室へと漏出することがない。但し、前記第2シール室の内部圧力Ps2-xを過度に高くすると、第2シール室から第1シール室へとエアが多量に流入し、第1シール室からの排気量が多くなり、従って、燃焼処理を施す気体の量も多くなってしまい、好ましくない。そのため、前記第2シール室の内部圧力Ps2-xと前記第1シール室の内部圧力Ps1-xとの圧力差を5Pa以下にすることが好ましい。
【0024】
なお、第1シール室が上下2つに区画されている場合の上部第1シール室及び下部第1シール室の各排気口からの排気量QS1-u,QS1-lは以下の式によって計算され、その排気量が制御される。
熱処理室において繊維製シートが1,2,…,x,…,n段を平行して走行する場合に、前記熱処理室の第1導出入口の近傍における内部圧力Ph-x と、第1シール室の第3導出入口の近傍における内部圧力Ps1-xと、第2シール室の第2導出入口の近傍における内部圧力Ps2-xとは、気体の浮力差により次のように表される。
【0025】
【化1】
【0026】
【化2】
【0027】
【化3】
【0028】
【化4】
【0029】
このとき、前記熱処理室における内部圧力Ph-x と前記第1シール室における内部圧力Ps1-xとの大小が、a段目とa+1段目との間において逆転するとして、そのa段目とa+1段目との間に仕切り板を配し、同仕切り板の上方の上部第1シール室に形成された排気口からの排気量QS1-uと下部第1シール室に形成された排気口からの排気量QS1-lと、第2シール室の排気口からの排気量QS2とは下式で表される。
【0030】
【化5】
【0031】
【化6】
【0032】
【化7】
【0033】
ただし、
α :繊維製シート導出入口での流量係数 0.6〜0.9
A :繊維製シート導出入口の断面積 m2
n :総段数
a :2以上(n−1)以下の整数で、Ph-a >Ps1-a且つ
Ph-a+1 <Ps1-a+1を満たす段
Th :熱処理室温度 ℃
Ts1:第1シール室の上部温度 ℃
Tr :大気温度 ℃
Ph-x :熱処理室内におけるx段目の導出入口近傍での内部圧力 Pa
Ps1-x:第1シール室内におけるx段目の導出入口近傍での内部圧力 Pa
Ps2-x:第2シール室内におけるx段目の導出入口近傍での内部圧力 Pa
QS1-U:上部第1シール室の排気口からの排気量 Nm3/hr
QS1-l:下部第1シール室の排気口からの排気量 Nm3/hr
Qs2 :第2シール室の排気口からの排気量 Nm3/hr
b :Qs2≧0を満たす負の値 Pa
L :段間隔 m
γh ,γr :温度Th 及びTr の空気の単位体積質量 kg/m3
である。
【0034】
なお、上記式を用いて排気量QS1-u,QS1-l,Qs2を計算により求める際に、Qs2≧0を満たす負の値bと、第1シール室内の1段目の第2導出入口における内部圧力Ps1-1とを設定する必要がある。前記Ps1-1はシール室内の気体が1段目の繊維製シート導出入口から外部へと漏れ出すのを防ぐために、少なくとも外気に対して負圧にしなければならない。しかし、前記内部圧力Ps1-1は負圧にする程、前記上部第1シール室の排気口から排出される気体の量QS1-uが多量となるため、前記内部圧力Ps1-1は−3〜−0.3 Pa の範囲に設定するのが好ましい。また、bの値についても、設定値を負圧にする程、前記第シール室の排気口から排出される気体の量Qs2が多量となるため、−5〜−0.5 Pa の範囲に設定することが好ましい。
【0035】
また、上記式に数値を代入して計算値を求めるにあたって、実際には熱処理室内の1段目の第1導出入口近傍における内部圧力Ph-1 を複数の数値に設定し、それらをパラメータとして試行錯誤して第1シール室における仕切り板の設置部位を決定した。
【0036】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の好適な実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明の代表的な実施の形態である炭素繊維製造用の横型熱処理炉の概略図であり、図2は同熱処理炉における熱風循環設備の概略図である。なお、これらの図面において矢印は熱風の流れを示している。
【0037】
本実施の形態による横型熱処理炉1の熱処理室2には、図1における左右の対向する両壁部2a,2bにそれぞれ、上下方向に3段のスリット状をなす繊維製シートの第1導出入口3-1,3-2,3-3が形成されている。この熱処理室2の前記左右壁部2a,2bにシール室4,4が並設されており、同シール室4の外側壁部4a,4bにも前記熱処理室2と同様に、上下方向に3段のスリット状をなす繊維製シートの第2導出入口5-1,5-2,5-3が形成されている。
【0038】
前記シール室4,4は前記繊維製シートの走行方向に沿って、中央壁4cを介して、第1シール室6,6と第2シール室7,7との二室に区画されている。前記第1シール室6,6は前記熱処理室2と隣接している。前記中央壁4cには、前記熱処理室2の左右壁部2a,2b及び前記シール室4の外側壁部4a,4bと同様に、上下方向に3段のスリット状をなす繊維製シートの第3導出入口8-1,8-2,8-3が形成されている。
【0039】
なお、前記熱処理室2及びシール室4にそれぞれ形成された第1、第2及び導出入口3,5,8の上下の開口寸法は、前記繊維製シートが同導出入口3,5,8に接触することなく通過できる範囲で可能なかぎり狭い方が好ましく、この点から前記導出入口は開口寸法が上下方向に調節可能なスリットとすることが好ましい。
【0040】
更に、前記左右の第2シール室7,7の外側にはそれぞれ段違いにローラ9,9が配置されている。前記熱処理炉1において熱処理される繊維製シートAは、図2に示すように多数本の糸条がシート状に水平方向に配列されたものであり、前記左側の第2シール室7の最上部に形成された第2導出入口5-1から前記処理炉1に導入される。この繊維製シートAは前記ローラ9に巻回しながら前記シール室4及び熱処理室3内を3段で平行して連続走行し、前記右側の第2シール室7の最下部に形成された繊維導出入口5-3から前記処理炉1の外部に導出される。
【0041】
前記熱処理室2は、上部に同処理室2の下方へ向けて熱風を吹き込む熱風導入部2cを有すると共に、同熱処理室2の下部には前記熱風を排出する熱風排出部2dを備えており、前記繊維製シートAの走行方向とは直交する方向に熱風を送り込んでいる。この熱風循環設備は更に、図2に示すように、熱処理室2の外部に設置された熱風加熱器10と、ファン11と、前記熱風排出部2d及び熱風導入部2cの間を接続するダクト12とを備えており、熱風が循環して使用されている。なお、前記熱処理室2内にも吸気口13と排気口14とを設けて、同熱処理室2の内部の気体を浄化している。
【0042】
前記熱処理室2に形成された第1導出入口3-1,3-2,3-3の近傍における同熱処理室2の内部圧力Ph-1 ,Ph-2 ,Ph-3 と、前記第1シール室6に形成された第3導出入口8-1,8-2,8-3の近傍における同第1シール室6の内部圧力Ps1-1,Ps1-2,Ps1-3とを比較すると、1段目及び2段目ではPh >Ps1と前記熱処理室2の内部圧力の方が高くなるが、3段目ではPh <Ps1と前記第1シール室6の内部圧力の方が高くなり、3段目において前記熱処理室2と第1シール室6とで内部圧力の大小関係が逆転する。
【0043】
左右の前記第1シール室6は、同シール室6の内部圧力Ps1と前記熱処理室2の内部圧力Ph との大小関係が逆転する2段目と3段目との間を仕切り板4dで仕切られ、前記第1シール室6が上下二室に区画されている。この区画された上部及び下部第1シール室6はそれぞれ少なくとも一の排気口6a,6bを有している。また、第2シール室7にも少なくとも一の排気口7aを有している。
【0044】
前記第1シール室6における上下の排気口6a,6b及び第2シール室7における排気口7aは、前記熱処理炉1の外部に配されたそれぞれ独立した排気ファン15a,15b,15cにより強制的に排気がなされる。また、本実施の形態にあっては、前記排気口6a,6b,7aからの排気量を制御するための風量制御装置16a〜cがそれぞれ取り付けられている。なお、前記風量制御装置16a〜cとしては公知のダンパーやバルブ等を使用することができる。前記第1及び第2シール室6,7内の圧力は、大きくは前記排気ファン15a〜cからの排気量によって制御され、前記風量制御装置16a〜cによって微調整がなされる。
【0045】
なお、上述した実施の形態では説明を簡略化するために、前記繊維製シートAを3段で走行させているが、実際の熱処理炉にあっては熱処理効率を高めるためにも、通常は前記繊維製シートを数段〜数十段で走行させている。また、前記仕切り板を多数配設し、更には全段を区画するように各段毎に前記仕切り板を設けることも可能である。
【0046】
以下、繊維製シートが5段で走行する熱処理炉を使用して熱処理を施す方法について、実施例及び比較例を参照して説明する。
【0047】
〔実施例〕
熱処理炉は段間隔、即ち繊維製シートの導出入口間の距離が200mmに設定されており、同スリット状導出入口はスリット幅が400mm、スリット高さが15mm、流量係数αが0.9である。また、前記熱処理炉における熱処理室内温度Th は240℃、第1シール室の上部温度Ts1は100℃に設定されており、熱処理炉外の大気温度Tr は20℃であった。更に、第1シール室の1段目における内部圧力Ps1-1を−1.5Paに設定し、第2シール室の1段目における内部圧力Ps2-1を−1.3Paに設定するとき、上記計算式に各数値を代入して熱処理室の内部圧力Ph と第1シール室の内部圧力Ps1とについて求めたところ、その大小関係は、1段目〜3段目ではPh >Ps1と前記熱処理室の内部圧力の方が高くなるが、4及び5段目ではPh <Ps1と前記第1シール室の内部圧力の方が高くなり、3段目と4段目との間で前記熱処理室と第1シール室とで内部圧力の大小関係が逆転する。そこで仕切り板を3段目と4段目との間に配設し、第1シール室を上部と下部とに2分割した。
【0048】
また、上部第1シール室及び下部第1シール室に形成された各排気口からの排気量QS1-u,QS1-lと、第2シール室に形成された排気口からの排気量Qs2とについて上記計算式から求めたところ、上部第1シール室における排気口からの排気量Qs1-uは101 Nm3/hr 、下部第1シール室の排気口からの排気量Qs1-lは11 Nm3/hr 、第2シール室の排気口からの排気量Qs2は20 Nm3/hr となった。
【0049】
各排気口からの排気量Qs1-u,Qs1-l,Qs2が上記数値となるように排気ファンの回転数を調整して、アクリロニトリル系合成繊維に240℃で耐炎化処理を施した。
【0050】
その結果、第2シール室に形成された繊維製シートの第2導出入口から外部へと炉内ガスが漏れ出すことはなかった。また、下部第1シール室の排気口及び第2シール室の排気口からの排気ガスについてシアン検知器によりシアンガス濃度を測定したが、シアンガスは検出されなかった。
【0051】
〔比較例〕
上記実施例の熱処理炉におけるシール室から仕切り板を取り除いて、上記実施例と同様にアクリロニトリル系合成繊維に240℃で耐炎化処理を施したところ、下部第1シール室の排気口からの排気ガスからはシアンガスが検出され、排気ガスは燃焼処理を施す必要があった。
【0052】
【発明の効果】
本発明の横型熱処理炉は、シール室が繊維製シートの走行方向に沿って更に2室に区画されているため、熱処理室を所定の温度に加熱した際の温度コントロール性に極めて優れていると共に、例えば炭素繊維製造工程での耐炎化炉として用いた場合にも、熱処理室内で発生した分解ガスが作業環境へ漏れ出すのを完全に防ぐことができる。また、前記熱処理室に隣接する第1シール室を仕切り板により上下に区画し、それぞれのシール室における排気口からの排気を個別に行うことができる。更に排気量を個別に制御することにより、各シール室内の圧力も個別に制御でき、燃焼処理を必要とする分解ガスを含む排気ガスの処理量を著しく低減させることができる。従って、本発明の横型熱処理炉及び熱処理方法は特に、炭素繊維を製造する際の耐炎化炉及び耐炎化方法として、その性能を高く発揮することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の好適な実施の態様である炭素繊維製造用の熱処理炉の構 造を示す概略図である。
【図2】 上記熱処理炉における熱風循環設備の概略図である。
【符号の説明】
1 熱処理炉
2 熱処理室
2a,2b 左右壁部
2c 熱風導入部
2d 熱風排出部
3 繊維製シートの第1導出入口
4 シール室
4a,4b 外側壁部
4c 中央壁
4d 仕切り板
5 繊維製シートの第2導出入口
6 第1シール室
6a,6b 排気口
7 第2シール室
7a 排気口
8 繊維製シートの第3導出入口
9 ローラ
10 熱風加熱器
11 ファン
12 ダクト
13 吸気口
14 排気口
15a〜c 排気ファン
16a〜c 風量制御装置
A 繊維製シート
Claims (7)
- 対向する両壁部の上下方向に多段のスリット状をなす繊維製シートの第1導出入口を有し、前記繊維製シートが多段に平行して走行する熱処理室と、前記両壁部にそれぞれ並設され、上下方向に多段のスリット状をなす前記繊維製シートの第2導出入口を外側壁部に有するシール室とを備えた横型熱処理炉であって、
前記熱処理室は前記繊維製シートの走行方向と概略直交して熱風を吹き出す熱風導入部と、前記熱風導入部と相対して配された熱風排出部とを有する熱風循環設備を備え、
前記シール室は上下方向に多段のスリット状をなす前記繊維製シートの第3導出入口を有する中央壁を介して、前記繊維製シートの走行方向に沿って、それぞれ排気口を有する第1シール室及び第2シール室の二室に区画され、
前記熱処理室に隣接する前記第1シール室は、少なくとも一の仕切り板を介して上下に区画され、区画された各シール室に少なくとも一つの排気口を有してなり、
前記第2シール室は少なくとも1つの排気口を有してなる、
ことを特徴とする横型熱処理炉。 - 前記第1シール室及び前記第2シール室に形成された各排気口は、それぞれ独立した排気機構又は圧力調整機構を有してなる請求項1記載の横型熱処理炉。
- 前記第1シール室は、上からx段目における前記熱処理室の前記第1導出入口近傍での内部圧力Ph-x と、同導出入口に対応する前記第1シール室の前記第3導出入口近傍での内部圧力Ps1-xとの大小関係が上下段において逆転する部位で前記仕切り板を介して区画されてなる請求項1又は2記載の横型熱処理炉。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の横型熱処理炉により、炭素繊維の原料であるプレカーサを熱処理することを特徴とする炭素繊維の熱処理方法。
- 前記熱処理室における内部圧力Ph-x と前記第1シール室における内部圧力Ps1-xとの圧力関係がPh-x <Ps1-xであるシール室にあって、前記排気口の排気量を前記圧力関係がPh-x <Ps1-xを維持するように調整する請求項4記載の熱処理方法。
- 前記第2シール室における内部圧力Ps2-xが前記第1シール室における内部圧力Ps1-xよりも0.2〜5Pa高くなるように、前記排気口の排気量を調整してなる請求項4又は5記載の熱処理方法。
- 前記第1シール室及び第2シール室における各排気口からの排気ガスを個別に処理する請求項4〜6のいずれかに記載の熱処理方法。
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