JP4403626B2 - Srモータセンサレス制御方法およびその装置 - Google Patents

Srモータセンサレス制御方法およびその装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明はSR(スイッチトリラクタンス)モータセンサレス制御方法およびその装置に関し、さらに詳細にいえば、SRモータの磁化特性に基づいたセンサレス制御を行うための方法およびその装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
SRモータは、誘導機やブラシレスDCモータなどの従来の交流機に比べ、構造的に簡単かつ堅牢という特徴を有し、安価な可変速駆動源として注目を集めている(T.J.E.Miller, et al; ”Switched Reluctance Drives”, IEEE/IAS Ann. Meeting, Tutorial Course Text, 1990およびB.C.Mecrow;”Fully Pitched−winding Switched Reluctance and Stepping Motor Arrangements”, IEE Proceedings−B, vol.140, No.1, pp.61−70, Jan., 1993参照)。
【0003】
SRモータでは、そのトルク発生原理から、回転子位置に応じた電流/電圧制御が要求され、一般的には光学式あるいは磁気式の回転子位置センサがモータ軸に取り付けられている。しかし、位置センサはシステムの大型化や信頼性の低下を招き、設置環境が限定されるなどの問題点を有し、コスト的にはSRモータの安価さに対するトレードオフとなる。また、従来の交流機では位置・速度センサレス化が既に実用段階に入っており、SRモータでも同様に、実用上、克服すべき課題となっている。
【0004】
SRモータの位置センサレス手法には種々の提案がある(I.Husain and M.Ehsani;”Rotor Position Sensingin Switched Reluctance Motor Drivesby Measuring Mutually Induced Voltages”, IEEE Trans. on Industry Applications, Vol.30, No.3, pp.665−672, 1994およびT.J.E.Miller, et al; ”A New Sensorless Method for Switched Reluctance Motor Drives”, Proc. of IEEE/IAS Ann. Meeting, pp.564−570, 1997参照)。特に近年では、1.出力/変換器容量、出力密度の観点から磁気飽和領域を積極的に利用する、2.構造および駆動方式から、、一相の巻線電流−磁束鎖交数と回転子位置が1対1の関係を有するなどのSRモータの特徴に着目して、非線形磁化特性モデルを利用した手法が主として提案されるようになった(L.Xu and J.Bu; ”Position Transducerless Control of Switched Reluctance Motor using Minimum Magnetizing Input, Proc.ofIEEE/IAS Ann. Meeting, pp.553−539, 1997およびP.Vas et al; ”Position Sensorless Control of SRM Drive using ANN−Techniques”, Proc. ofIEEE/IAS Ann.Meeting, pp.709−714, 1998参照)。本願発明者等も既に、磁化特性のファジーモデルや簡易数式表現に基づくSRモータの位置センサレス手法を提案し、可変速範囲、安定性、実用性について実験的な評価を行ってきた(落合・小坂・松井;「磁化特性に基づくSRMの位置センサレス制御」,平11電学半導体電力変換研究会資料,SPC−99−9,pp.49−54、小坂・S.Saha・松井・武田;「磁化特性の簡易数式表現に基づく位置センサレス制御」,平11電学産業応用部門全国大会講演論文集,Vol.II,No.185,pp.33−38およびS.Saha, T.Kosaka,N.Matsui and Y.Takeda; ”Developing a Sensorless Approach for Switched Reluctance Motors from a New Analytical Model”, Conference Record of IEEE/IAS 34th Ann. Meeting, Vol.I, pp.525−532, 1999参照)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
SRモータの磁化特性に基づいたセンサレス制御は通常運転の通電時の巻線電流と巻線磁束鎖交数を検出し、回転子位置情報を推定するため、電源投入直後や非通電状態での停止時には、モータ回転子位置が不明である
この結果、始動直後にモータトルク(回転させるためのトルク)を発生すべく通電する相を決定することが困難で、確実なSRモータの始動を行わせることができない。
【0006】
【発明の目的】
この発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、SRモータの磁化特性に基づいたセンサレス制御を始動させるに当たって、SRモータの始動時の通電相を確実に決定することができるSRモータセンサレス制御方法およびその装置を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
請求項1のSRモータセンサレス制御方法は、SRモータの磁化特性に基づいてSRモータのセンサレス制御を始動するに当たって、SRモータの各相の巻線に通電して全ての相の巻線電流を検出し、検出した巻線電流に基づいてSRモータ始動時の通電相を決定し、決定された通電相に通電してSRモータを始動する方法である。
【0008】
請求項2のSRモータセンサレス制御方法は、検出した巻線電流に基づいて最小の巻線電流に対応する相を検出し、検出された相に基づいてSRモータ始動時の通電相を決定する方法である。
【0009】
請求項3のSRモータセンサレス制御方法は、SRモータの各相の巻線に電圧パルスを印加して全ての相の巻線電流を検出する方法である。
【0010】
請求項4のSRモータセンサレス制御方法は、電圧パルス幅を(−Lmin/R)・log(1−Ipeak・R/Vdc)以下(ただし、Lminはインダクタンスの最小値、Rは巻線抵抗、Ipeakは駆動変換器出力電流の許容最大値、Vdcは駆動変換器直流部電源電圧である)に設定する方法である。
【0011】
請求項5のSRモータセンサレス制御装置は、SRモータの磁化特性に基づいてSRモータのセンサレス制御を始動するものであって、SRモータの各相の巻線に通電して全ての相の巻線電流を検出する巻線電流検出手段と、検出した巻線電流に基づいてSRモータ始動時の通電相を決定する通電相決定手段と、決定された通電相に通電してSRモータを始動する始動手段とを含むものである。
【0012】
請求項6のSRモータセンサレス制御装置は、前記通電相決定手段として、検出した巻線電流に基づいて最小の巻線電流に対応する相を検出し、検出された相に基づいてSRモータ始動時の通電相を決定するものを採用するものである。
【0013】
請求項7のSRモータセンサレス制御装置は、前記巻線電流検出手段として、SRモータの各相の巻線に電圧パルスを印加して全ての相の巻線電流を検出するものを採用するものである。
【0014】
請求項8のSRモータセンサレス制御装置は、前記電圧パルス幅を(−Lmin/R)・log(1−Ipeak・R/Vdc)以下(ただし、Lminはインダクタンスの最小値、Rは巻線抵抗、Ipeakは駆動変換器出力電流の許容最大値、Vdcは駆動変換器直流部電源電圧である)に設定するものである。
【0015】
【作用】
請求項1のSRモータセンサレス制御方法であれば、SRモータの磁化特性に基づいてSRモータのセンサレス制御を始動するに当たって、SRモータの各相の巻線に通電して全ての相の巻線電流を検出し、検出した巻線電流に基づいてSRモータ始動時の通電相を決定し、決定された通電相に通電してSRモータを始動するのであるから、通常運転の通電時の巻線電流と巻線磁束鎖交数の検出による回転子位置情報の推定値を用いることなく、SRモータを始動するための通電相を決定することができる。
【0016】
請求項2のSRモータセンサレス制御方法であれば、検出した巻線電流に基づいて最小の巻線電流に対応する相を検出し、検出された相に基づいてSRモータ始動時の通電相を決定するのであるから、最もインダクタンスが大きい相を電流応答から検出でき、インダクタンスが正の勾配となる相を推定して通電相を決定して、SRモータを確実に始動することができる。
【0017】
請求項3のSRモータセンサレス制御方法であれば、SRモータの各相の巻線に電圧パルスを印加して全ての相の巻線電流を検出するのであるから、SRモータの回転子を回転させることなく、SRモータ始動時の通電相を決定することができ、ひいてはSRモータを安定に始動させることができる。
【0018】
請求項4のSRモータセンサレス制御方法であれば、電圧パルス幅を(−Lmin/R)・log(1−Ipeak・R/Vdc)以下(ただし、Lminはインダクタンスの最小値、Rは巻線抵抗、Ipeakは駆動変換器出力電流の許容最大値、Vdcは駆動変換器直流部電源電圧である)に設定するのであるから、電流応答として得られる電流最大値が駆動変換器許容電流以下になるように電圧パルス幅を設定して、初期位置の推定に必要な電流検出器のダイナミックレンジを極大化することができ、ひいてはSRモータ始動時の誤動作を防止することができる。
【0019】
請求項5のSRモータセンサレス制御装置であれば、SRモータの磁化特性に基づいてSRモータのセンサレス制御を始動するに当たって、巻線電流検出手段によって、SRモータの各相の巻線に通電して全ての相の巻線電流を検出し、通電相決定手段によって、検出した巻線電流に基づいてSRモータ始動時の通電相を決定し、始動手段によって、決定された通電相に通電してSRモータを始動することができる。
【0020】
したがって、通常運転の通電時の巻線磁束鎖交数の検出による回転子位置情報の推定値を用いることなく、SRモータを始動するための通電相を決定することができる。
【0021】
請求項6のSRモータセンサレス制御装置であれば、前記通電相決定手段として、検出した巻線電流に基づいて最小の巻線電流に対応する相を検出し、検出された相に基づいてSRモータ始動時の通電相を決定するものを採用するのであるから、最もインダクタンスが大きい相を電流応答から検出でき、インダクタンスが正の勾配となる相を推定して通電相を決定して、SRモータを確実に始動することができる。
【0022】
請求項7のSRモータセンサレス制御装置であれば、前記巻線電流検出手段として、SRモータの各相の巻線に電圧パルスを印加して全ての相の巻線電流を検出するものを採用するのであるから、SRモータの回転子を回転させることなく、SRモータ始動時の通電相を決定することができ、ひいてはSRモータを安定に始動させることができる。
【0023】
請求項8のSRモータセンサレス制御装置であれば、前記電圧パルス幅を(−Lmin/R)・log(1−Ipeak・R/Vdc)以下(ただし、Lminはインダクタンスの最小値、Rは巻線抵抗、Ipeakは駆動変換器出力電流の許容最大値、Vdcは駆動変換器直流部電源電圧である)に設定するのであるから、電流応答として得られる電流最大値が駆動変換器許容電流以下になるように電圧パルス幅を設定して、初期位置の推定に必要な電流検出器のダイナミックレンジを極大化することができ、ひいてはSRモータ始動時の誤動作を防止することができる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照して、この発明のSRモータセンサレス制御方法およびその装置の実施の態様を詳細に説明する。
【0025】
図1はこの発明のSRモータセンサレス制御装置の一実施態様を示すブロック図である。
【0026】
このSRモータセンサレス制御装置は、推定位置θeを入力として推定相を決定する推定相決定部1と、推定相決定部1により決定された推定相を入力として、SRモータの3相の巻線電流から推定相の巻線電流を選択する推定相電流選択部2と、推定相決定部1により決定された推定相、選択された推定相の巻線電流i、変換器直流電圧Vdc、およびPWMパターンを入力として、推定相の磁束鎖交数λ{=∫(vph−Ri)dt}(ただし、vphは巻線印加電圧、iは巻線電流の測定値、Rは巻線抵抗)の算出を行う磁束鎖交数算出部3と、選択された推定相の巻線電流i、および算出された磁束鎖交数λを入力として位置推定演算を行い、回転子位置θMを算出する位置推定部4と、3制御周期前の推定位置θe(n−3)と前回および前々回の推定速度の平均を用いて現在のバックアップ位置情報θpを算出するバックアップ位置算出部5と、回転子位置θMまたはバックアップ位置情報θpを選択して推定位置θeとして出力する選択部6とを有している。
【0027】
SRモータセンサレス制御のための回転子位置推定を行う位置推定アルゴリズムを先ず説明する。
【0028】
SRモータの磁化特性の簡易数式表現は数1で表される。
【0029】
【数1】
Figure 0004403626
【0030】
ここで、θは回転子位置(U相固定子突極と回転子突極の完全非対向時の突極中心を原点に機械角で定義される位置)Isは磁化特性の非飽和領域、飽和領域を分割する境界電流値、nmaxおよびmmaxは非飽和・飽和領域における電流の最大次数で、図2に示すSRモータの磁化特性に対する関数フィッティング処理により決定できる。例えば、SRモータの諸元が表1に示すとおりであり、U相固定子突極と回転子突極の完全非対向状態から完全対向状態まで機械角5°おきに回転子位置を固定し、U相巻線に波高値120VのステップSP電圧を与えて測定した磁化特性が図2に示すとおりである。この場合、数1におけるIs=10A、nmax=6、mmax=3となった。
【0031】
【表1】
Figure 0004403626
【0032】
また、位置の関数係数Ln(θ)、Lsm(θ)はそれぞれ数2、数3で与えられる。
【0033】
【数2】
Figure 0004403626
【0034】
【数3】
Figure 0004403626
【0035】
数2、数3中のフーリエ係数LnkおよびLsmkについても、図2に対する関数フィッティングおよびDFT処理によって決定できる。
【0036】
次に、数1に数2、数3を代入して整理すると、数4を得る。
【0037】
【数4】
Figure 0004403626
【0038】
ここで、A、B、Cは数5で与えられる。
【0039】
【数5】
Figure 0004403626
【0040】
巻線電流iおよび巻線印加電圧vphの検出値を用いれば、Cに含まれる鎖交磁束数λはλ=∫(vph−Ri)dtで得られ、A、B、Cは全て算出可能となる。さらに、数4を整理すると数6のcos(αθ)を変数とする2次方程式が得られ、これにより回転子位置推定が可能となる。
【0041】
【数6】
Figure 0004403626
【0042】
次いで、図1に示すSRモータセンサレス制御装置の各部の作用を説明する。
【0043】
推定相決定部1の処理:
三相各相で均等に位置推定を行うとすれば一相当たりの推定期間は30°で、突極非対向、対向近傍での位置推定精度の低下を考慮して、U相での有効推定区間を47.5°〜77.5°、V相17.5°〜47.5°、W相77.5°〜17.5°とする。これを基に推定部(選択部6)で最終的に得られた推定位置θeを用いて、次の制御周期における位置推定相を決定する。
【0044】
磁束鎖交数算出部3の処理:
推定相決定部1で選択した励磁相の磁束鎖交数λを駆動変換器直流部電圧Vdc、PWMパターンおよび巻線電流値iを用いて算出する。ここで、演算精度向上のためにVdcとPWMパターンに対して、実測したスイッチング素子およびダイオードの電圧降下およびスイッチング遅れを補正したものを巻線印加電圧vphとしている。
【0045】
位置推定部4の処理:
巻線電流値iと磁束鎖交数算出部3で得られた磁束鎖交数λを入力とし、回転子位置θMを出力として得る。
【0046】
バックアップ位置算出部5の処理:
基本的には、位置推定部4で得られる回転子位置θMが回転子位置情報となるが、諸種の原因により、これが必ずしも正確な値とならない場合のバックアップデータとして、以下に説明する方法で得られるバックアップ位置情報θpを用意する。
【0047】
3制御周期前の推定位置θe(n−3)と推定位置の差分により算出した前回および前々回の推定速度の平均ω{n−(3/2)}を用いて次式により現在のバックアップ位置情報θp(n)を算出する。
θp(n)=θe(n−3)+3ω{n−(3/2)}Ts
ここで、Tsは制御周期である。
【0048】
選択部6の処理:
図3のフローチャートに従って、簡易数式表現より得られた推定位置θMとバックアップ位置情報θpの選択を行う。図3中ステップ(a)〜(c)はノイズによる電流検出誤差や突極対向、非対向近辺での位置推定誤差に対応させるために設けた条件で、ステップ(a)は予測位置θpの演算に用いる推定速度の信頼性を確認し、これをクリアした上でステップ(b)では予測位置θpを基準にモデル推定位置θMの信頼性を確認し、ステップ(c)は隣接する制御期間で逆転することはないとする条件である。ここで、ステップ(a)、(b)で用いた推定速度、位置の誤差許容値は実験的に決定した値である。
【0049】
図4は前述の位置推定アルゴリズムに基づくセンサレス始動方法を説明するフローチャート、図5は対応する制御ブロック構成を示す図である。
【0050】
図4のフローチャートでは、ステップSP1において、初期位置θiniの推定を行い、ステップSP2において、始動経過時間Tiniを0に設定し、ステップSP3において、位置θをθiniに設定するとともに、電流波高値Imaxを20Aに設定してオープンループ始動シーケンスAを行い、ステップSP4において、位置θをθeに設定するとともに、電流波高値Imaxを20Aに設定してオープンループ始動シーケンスBを行い、しかも、推定速度の演算を開始するとともに、バックアップ位置θpをθMに設定し、ステップSP5において、始動経過時間TiniをTsだけ増加させ、ステップSP6において、始動経過時間Tiniが50msec以上になったか否かを判定し、始動経過時間Tiniが50msec以上になっていなければ、ステップSP4の処理を行う。逆に、始動経過時間Tiniが50msec以上になったと判定された場合には、ステップSP7において、推定位置・速度を用いた速度制御へ切り換え、そのまま一連の処理を終了する。
【0051】
また、図5の制御ブロック構成では、差分算出部11により算出された速度指令ω*と実速度ωeとの差分を入力として速度PI演算部12により速度PI演算を行い、ソフトウエアスイッチ13により選択される20Aに設定された電流波高値指令I*maxまたは速度PI演算の結果として得られる電流波高値指令I*maxと、ターンオン角θo、転流角θcと、ソフトウエアスイッチ14により選択される位置情報θと、SRモータ16の電流iuvwとを入力として電流制御部15により電流制御を行ってPWMパターンを出力し、SRモータ16に供給する。そして、SRモータ16の電流iuvwとPWMパターンと駆動変換器直流部電圧Vdcとを入力として位置推定部17により位置θeを推定し、この位置θeを微分器18により微分し、かつローパスフィルタ19を通すことによりを実速度ωeを得る。また、初期位置θiniまたは推定された位置θeをソフトウエアスイッチ14により選択して選択的に位置情報θとしている。
【0052】
次いで、初期位置推定処理を説明する。
【0053】
SRモータの各相巻線に同一時間幅の電圧パルスを印加して、電流応答および磁束鎖交数から前記位置推定アルゴリズムにより初期位置θiniの推定を行う。前記位置推定アルゴリズムでは、前回の推定位置を基に有効推定相を決定したが、ここでは、未知の初期位置θiniの下、各相の中で電流応答のピーク値が最小値を示す相、換言すれば、三相の中でインダクタンス値が最も大きい値を持つ相に対して、一つ前の相を有効推定相として選択する。図6は回転子位置に対する各相のインダクタンス分布の概念図で、例えば、U相インダクタンス値が最も大きい値を持つ区間、すなわち75°〜15°間に回転子初期位置が存在する場合にはW相を選択すればよく、これにより適切な有効推定相の選択が可能となる。
【0054】
この場合の電圧パルス時間幅は、以下の点を考慮して決定しなければならない。
【0055】
(1)初期位置角推定精度
(2)電圧パルス印加に伴う回転子変位
(3)電流最大値の制約(表1の緒元のSRモータの通電に用いた駆動変換器では20A)
前記位置推定アルゴリズムにおいて、上記(1)は電流値の大きさに比例して向上する。一方、(2)についてはモータイナーシャに依存するが、一般には電流値の大きさに伴って発生トルクが大きくなるとともに変位も大きくなる。しかし、ここではコンプレッサーやファン駆動用途を前提として(1)と(3)に重点をおき、電流最大値Ipeakを20Aに制約して、次式により電圧パルス幅Tvを決定している。
Figure 0004403626
ただし、Lmin:インダクタンスの最小値(=2mH)
R:巻線抵抗(=0.27Ω)
dc:変換器電源電圧(=283V)
また、オープンループ始動シーケンスを説明する。
【0056】
初期位置推定値θiniを制御用位置情報θとしてオープンループで始動する。図5に示すようにこの場合の制御ブロックは、入力を電流波高値指令I* max、ターンオン角θo、転流角θcおよび位置情報θ=θiniとして、出力をPWMパターンとする電流制御ループのみで構成されている。ターンオン角θo、転流角θcは、速度および電流波高値指令に対応させて用意したデータテーブルから決定しており、この場合は速度をゼロとしてデータテーブルを参照している。また、始動トルクが100%トルクの場合でも始動可能とするために、電流波高値指令I* maxは駆動変換器出力の許容最大電流値の20Aに設定している。
【0057】
オープンループ始動シーケンスAで出力された電圧PWMパターンによって、SRモータに供給された巻線電流の検出値および磁束鎖交数の演算値を用いて位置推定演算を行い、図5中央部のソフトウエアスイッチ14を▲2▼から▲3▼へ切り換え、推定位置θeを位置情報θとするオープンループ始動シーケンスBを継続する。ここでは次段への切り換え準備として、推定速度ωeを演算開始し、バックアップ位置をθp=θMとして初期化処理をしておく。推定速度ωeおよびバックアップ位置をθpは上述の処理を施すのみで、制御および推定機構には使用しないため、このシーケンスでの推定位置θeとは上述の数式表現から得られた推定位置θMとなる。
【0058】
始動から50msecが経過した後、図5左方上部のソフトウエアスイッチ13により、バックアップ機構を含む推定位置θeおよび推定速度ωeを用いた速度制御へ切り換えている。切り換え時間の50msecは、実験的に安定に動作する値として設定している。
【0059】
図7は実験に使用したシステム構成を示す図である。コントローラ21には固定小数点形DSP(TI社製TMS320C50)を用い、速度指令ω*を入力として、位置推定演算を含む電流・速度制御演算を制御周期127.2μsecで実行している。駆動変換器にはH−ブリッジ回路22を用い、各相電流はホールCT(LEM社製LA55−P電流出力形)23、駆動回路電流電圧は絶縁形電圧センサ(アイコーデンキ社製DCPT−2510−1)24を用いて検出している。ロータリーエンコーダ(HEI−DENHAIN社製ROD426B)25はモニタ用として設けており、実位置に対する推定位置の評価に用いている。負荷は、定格出力1kW、定格速度3000rpmの直流電動機(安川電機社製ミナーシャモータUGMMEM−50AA1)を発電機として用い、負荷抵抗により調節している。
【0060】
実験結果を初期位置推定結果と位置センサレス始動特性とに分けて説明する。
【0061】
初期位置推定結果:
0〜90°まで2.5°毎に設定した実位置に対応する初期位置推定結果を図8に示す。同図から、実位置が15°、45°、75°近傍で推定誤差Δθ(=実位置−推定位置)を生じることが分かる。それぞれV相、U相、W相で推定した値で、何れも非対向近傍で推定していることに起因するが、最大でも3°程度で、後述の始動特性に関して影響がないことを実験的に確認している。また、初期位置の値に拘わらず、励磁時後にモニタ用エンコーダの分解能(0.09°/dig)以上の回転子変位が生じないことを併せて確認している。
【0062】
位置センサレス始動特性:
無負荷の下、指令速度をω*=1000rpmとした場合の瞬時的な位置センサレス始動特性を図9に示す。
【0063】
同図(a)は始動後100msec間に於ける特性で、図中左側の破線部(約1msec後に相当)にて初期値推定からオープンループ始動シーケンスに切り換え、中央の破線部(約50msec後に相当)にて位置センサレス速度制御に切り換えている。後者の切り換え時に、実位置θrに対して±2°程度の位置誤差Δθ(=θr−θe)を生じているものの、安定なシーケンス切り換えが行われていることが確認できる。推定速度ωeにはローパスフィルタ処理(fc=100kHz)が施されているため、始動50msec後まで、実速度ωrに対し150rpm程度の速度誤差Δω(=ωr−ωe)を生じているが、始動100msec後には速やかに零に収束している。同図(b)は、始動後2msec間の瞬時的な始動特性をみたもので、位置誤差Δθが最大±5°程度で、1.5sec後に指令速度に追従していることが確認できる。
【0064】
速度1000rpmで定格トルク(2.65Nm)となるように負荷発電機の負荷抵抗を設定し、指令速度をω*=1000rpmとした場合の瞬時的な位置センサレス始動特性を図10に示す。同図(a)から無負荷時と同様、安定なシーケンス切り換えおよび始動特性が確認できる。一方、同図(b)から位置誤差Δθが最大±3°程度で、1sec後に指令速度に追従していることが確認できる。
【0065】
以上においては、磁化特性の簡易数式表現を利用した位置推定アルゴリズムに基づく位置センサレス始動アルゴリズムを説明し、固定子/回転子が6/4極、定格出力1.5kWの三相SRモータを対象に、位置センサレス始動アルゴリズムの有効性を実験的に検証した。得られた結果は、コンプレッサやファンなどの廉価な可変速システムに対し、十分実用性があることを示していると考えられる。
【0066】
また、他の極数のSRモータ、具体的には、固定子/回転子が12/8極の三相SRモータや、固定子/回転子が8/6極の四相SRモータにも本始動アルゴリズムを適用することができる。
【0067】
【発明の効果】
請求項1の発明は、通常運転の通電時の巻線電流と巻線磁束鎖交数の検出による回転子位置情報の推定値を用いることなく、SRモータを始動するための通電相を決定することができるという特有の効果を奏する。
【0068】
請求項2の発明は、最もインダクタンスが大きい相を電流応答から検出でき、インダクタンスが正の勾配となる相を推定して通電相を決定して、SRモータを確実に始動することができるという特有の効果を奏する。
【0069】
請求項3の発明は、SRモータの回転子を回転させることなく、SRモータ始動時の通電相を決定することができ、ひいてはSRモータを安定に始動させることができるという特有の効果を奏する。
【0070】
請求項4の発明は、電流応答として得られる電流最大値が駆動変換器許容電流以下になるように電圧パルス幅を設定して、初期位置の推定に必要な電流検出器のダイナミックレンジを極大化することができ、ひいてはSRモータ始動時の誤動作を防止することができるという特有の効果を奏する。
【0071】
請求項5の発明は、通常運転の通電時の巻線電流と巻線磁束鎖交数の検出による回転子位置情報の推定値を用いることなく、SRモータを始動するための通電相を決定することができるという特有の効果を奏する。
【0072】
請求項6の発明は、最もインダクタンスが大きい相を電流応答から検出でき、インダクタンスが正の勾配となる相を推定して通電相を決定して、SRモータを確実に始動することができるという特有の効果を奏する。
【0073】
請求項7の発明は、SRモータの回転子を回転させることなく、SRモータ始動時の通電相を決定することができ、ひいてはSRモータを安定に始動させることができるという特有の効果を奏する。
【0074】
請求項8の発明は、電流応答として得られる電流最大値が駆動変換器許容電流以下になるように電圧パルス幅を設定して、初期位置の推定に必要な電流検出器のダイナミックレンジを極大化することができ、ひいてはSRモータ始動時の誤動作を防止することができるという特有の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明のSRモータセンサレス制御装置の一実施態様を示すブロック図である。
【図2】SRモータの磁化特性の一例を示す図である。
【図3】選択部における処理を説明するフローチャートである。
【図4】位置推定アルゴリズムに基づくセンサレス始動方法を説明するフローチャートである。
【図5】対応する制御ブロック構成を示す図である。
【図6】回転子位置に対する角相のインダクタンス分布の概念図である。
【図7】実験に使用したシステム構成を示す図である。
【図8】0〜90°まで2.5°毎に設定した実位置に対応する初期位置推定結果を示す図である。
【図9】無負荷の下、指令速度をω*=1000rpmとした場合の瞬時的な位置センサレス始動特性を示す図である。
【図10】速度1000rpmで定格トルク(2.65Nm)となるように負荷発電機の負荷抵抗を設定し、指令速度をω*=1000rpmとした場合の瞬時的な位置センサレス始動特性を示す図である。
【符号の説明】
1 推定相決定部 15 電流制御部
16 SRモータ 23 ホールCT

Claims (8)

  1. SRモータ(16)の磁化特性に基づいてSRモータ(16)のセンサレス制御を始動する方法であって、
    SRモータ(16)の各相の巻線に通電して全ての相の巻線電流を検出し、
    検出した巻線電流に基づいてSRモータ始動時の通電相を決定し、
    決定された通電相に通電してSRモータ(16)を始動する
    ことを特徴とするSRモータセンサレス制御方法。
  2. 検出した巻線電流に基づいて最小の巻線電流に対応する相を検出し、検出された相に基づいてSRモータ始動時の通電相を決定する請求項1に記載のSRモータセンサレス制御方法。
  3. SRモータ(16)の各相の巻線に電圧パルスを印加して全ての相の巻線電流を検出する請求項2に記載のSRモータセンサレス制御方法。
  4. 電圧パルス幅を(−Lmin/R)・log(1−Ipeak・R/Vdc)以下(ただし、Lminはインダクタンスの最小値、Rは巻線抵抗、Ipeakは駆動変換器出力電流の許容最大値、Vdcは駆動変換器直流部電源電圧である)に設定する請求項3に記載のSRモータセンサレス制御方法。
  5. SRモータ(16)の磁化特性に基づいてSRモータ(16)のセンサレス制御を始動する装置であって、
    SRモータ(16)の各相の巻線に通電して全ての相の巻線電流を検出する巻線電流検出手段(23)と、
    検出した巻線電流に基づいてSRモータ始動時の通電相を決定する通電相決定手段(1)と、
    決定された通電相に通電してSRモータ(16)を始動する始動手段(15)と、
    を含むことを特徴とするSRモータセンサレス制御装置。
  6. 前記通電相決定手段(1)は、検出した巻線電流に基づいて最小の巻線電流に対応する相を検出し、検出された相に基づいてSRモータ始動時の通電相を決定するものである請求項5に記載のSRモータセンサレス制御装置。
  7. 前記巻線電流検出手段(23)は、SRモータの各相の巻線に電圧パルスを印加して全ての相の巻線電流を検出するものである請求項6に記載のSRモータセンサレス制御装置。
  8. 前記電圧パルス幅は(−Lmin/R)・log(1−Ipeak・R/Vdc)以下(ただし、Lminはインダクタンスの最小値、Rは巻線抵抗、Ipeakは駆動変換出力電流の許容最大値、Vdcは駆動変換器直流部電源電圧である)に設定されている請求項7に記載のSRモータセンサレス制御装置。
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