JP4402852B2 - 制振構造 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、制振構造に関し、特に、建築物の構造部材の途中位置に制振装置を組み込んだ制振構造に関する。
【0002】
【背景技術及び発明が解決しようとする課題】
近年、高層建築物の耐震安全性を向上させるため、制振装置を組み込んだ柱や壁を骨組みに設けることが行われている。
【0003】
地震時に柱や壁には、水平力とともに上下方向の軸力が作用する。
【0004】
そのために、制振装置として、例えば、低降伏点鋼パネルの降伏により地震時のエネルギーを吸収するようなものを用いる場合には、制振装置に上下方向の力に抵抗するために縦方向にフランジパネル等の部材を設けることで、制振性能の低下を防止している。
【0005】
また、このフランジパネルは、施工時の荷重を負担して施工効率を向上させる作用も有している。
【0006】
しかし、建築物が超高層となり、階数が増すと、フランジパネルに作用する上層の床や自重等で荷重が増し、下層階では軸力が累加することとなる。
【0007】
そのため、1つの対策として、軸力の累加に見合うようにフランジパネルの断面を増大することで対応することが考えられる。
【0008】
しかし、階数がさらに増してきた場合、軸力累加のためにフランジパネルの断面を増大すると、コスト増大につながることとなる。
【0009】
また、フランジパネルの断面にも溶接性や変形能からも板厚に限度がある。
【0010】
他の対策として、例えば、図6に示すように、建築物100の上層階から下層階に連続する制振柱102を、下層の特定の階層104で設けないようにしてそれにより下層階への軸力累加を防止することが考えられる。
【0011】
しかし、このようにすると、特定の階層104において制振性能が低下することとなり、その分、他所で剛性や強度を高める設計をしなければならず、コスト増大あるいは建築計画上の制約につながることとなる。
【0012】
また、低降伏点鋼パネルを用いた制振装置は、地震時のエネルギー吸収には適しているが、強風による揺れのエネルギー吸収には適しておらず、この強風による揺れに対するエネルギー吸収に適した制振装置を別途設けようとした場合に、その設置スペースを別途確保できない場合が多い。
【0013】
そこで、例えば、1つの柱の途中に地震用の制振装置と風用の制振装置を並べて設置することで、設置スペースを確保することが考えられる。
【0014】
しかし、この場合、地震用の制振装置によって風用の制振装置の動きが抑えられてしまい有効に作用しなくなってしまう。
【0015】
本発明の目的は、建築物の軸力累加を防止し、地震及び風圧のいずれにも有効に作用し、しかも設置スペースをとらず、コストを抑えることができる制振装置を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するため、本発明の制振構造は、上下方向の軸力を受ける建築物の構造部材の途中位置に、低降伏点鋼パネルを用いた第1の制振装置と、粘性体あるいは粘弾性体を用いた第2の制振装置とを軸力方向で直列に配列した制振装置を組み込んだ制振構造であって、
前記構造部材は、鉄筋コンクリート製とされ、
前記第1の制振装置及び第2の制振装置は、各々上下端にベースプレートを有し、
前記第1及び第2の制振装置は、上下方向で対向側の前記ベースプレート同士が互いにボルトにて連結され、対向側と反対側の前記ベースプレートがそれぞれ前記構造部材の端部から突出するねじ付きの主筋にナットにて直接固定されていることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、制振装置を低降伏点鋼パネルを用いた第1の制振装置と、粘性体あるいは粘弾性体を用いた第2の制振装置とを軸力方向で直列に配列することにより、第2の制振装置が速度依存型であるため、構造部材に係る軸力を吸収して第1の制振装置に軸力が静的に累加してかかるのを防止することができ、第1の制振装置の剛性を向上させる必要がなく、第1の制振装置の対地震の制振性能を維持してコスト増大を抑えることができる。
【0018】
また、建築物に強風が作用して建築物が揺れた場合には、第2の制振装置によって強風による揺れのエネルギーを吸収することができる。
【0019】
また、地震によって建築物に大きな振動が加わり、水平方向及び軸力が作用した場合には、第2の制振装置がその水平方向及び軸力を確実に第1の制振装置に伝達することができ、その結果、第1の制振装置によって地震時のエネルギーを確実に吸収することができる。
【0020】
さらに、第1の制振装置と第2の制振装置は軸力方向で直立に配列されているため、設置スペースをとらず、限られた設置スペース内でも確実に設置することができる。
また、継手部材を用いることなく、既存の主筋を用いて第1及び第2の制振装置を構造部材に連結固定することができ、しかも、靱性確保のために剪断補強筋を高密度にする必要がなく、コンクリートの充填性がよく、施工性の向上とコストの削減を図ることができる。
【0021】
本発明においては、構造部材が柱である場合に、より一層設置スペース上有効となる。
【0024】
さらに、柱をプレキャストコンクリート製とすることで、建築物に対して容易に制振柱を形成することができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0026】
図1〜図5は、本発明の一実施の形態に係る制振構造を示す図である。
【0027】
図1は、本実施の形態に係る制振構造を用いた建築物の横断面図で、図2は、図1のII−II線に沿う縦断面図である。
【0028】
この建築物10は、図1に示すように、コア部12の周囲に廊下及び水廻り14を配置しこの廊下及び水廻り14の周囲に複数の居室16を配置した状態となっている。
【0029】
コア部12は、角部に4本の柱18を配置し、この柱18間に制振構造を有する制振柱20を配置した状態となっている。
【0030】
また、この建築物10は、図2に示すように、各階に図1に示す構造を有する超高層建築物とされ、制振柱20が上層階から下層階まで各階に連続して配設された状態となっている。
【0031】
各制振柱20は、図3に示すように、内部に複数の主筋22を配設した鉄筋コンクリート製の柱24の途中位置に制振装置26を組み込んだ構造となっている。
【0032】
柱24は、途中位置で制振装置26を組み込み可能に分断された状態となっており、この分断された柱24の対向部に位置する主筋24がコンクリート28の端部より突出するようになっており、このコンクリート28の端部から突出した主筋22にねじ(図示せず)が形成された状態となっている。
【0033】
制振装置26は、分断された柱24間に配設されるもので、第1の制振装置30と、第2の制振装置32とを軸力方向で直列に配列した状態となっている。
【0034】
第1の制振装置30は、図4に示すように、上下一対の対向するベースプレート34a、34bと、上下一対のベースプレート34a、34bの間に上下方向にわたって設けられた複数、例えば4枚のフランジプレート36と、ベースプレート34a、34b及びフランジプレート36に囲まれる部分に取り付けられた低降伏点鋼パネル38とを有している。
【0035】
また、低降伏点鋼パネル38の両面側上下方向ほぼ中央位置にリブプレート40が取り付けられている。
【0036】
このリブプレート40は、低降伏点鋼パネル38全体に生じる面外座屈を防止して、低降伏点鋼パネル38が良好なエネルギー吸収能力を発揮できるようにするもので、低降伏点鋼パネル38の大きさや厚さに応じて必要な場合に適宜設けられるようになっている。
【0037】
ベースプレート34aは、下側の柱24の対向面に相応した大きさで、下側の主筋22と対応した位置に複数の連通孔(図示せず)が設けられ、この連通孔に下側の主筋22の端部を挿通して定着ナット42を主筋22に螺合させることで、ベースプレート34aが下側の主筋22と一体に取り付けられるようになっている。
【0038】
また、このベースプレート34aの下側の柱24側の面には、スタッド44が柱24側に複数突出した状態で設けられ、下側の柱24のコンクリリート28内に埋設一体化されるようになっている。
【0039】
フランジプレート36は、ベースプレート34a、34b間に所定間隔で設けられて、第1の制振装置30にかかる上下方向の軸力を支持するとともに、施工時の荷重を負担させて施工効率を向上させるようになっている。
【0040】
なお、このフランジプレート36の枚数は、低降伏点鋼パネル38の厚さや大きさによって設定されるもので、第1の制振装置30にかかる軸力を支持できるよう少なくとも2枚設けられる必要がある。
【0041】
低降伏点鋼パネル38は、いわゆる極軟鋼と称されるものを採用しており、地震時に建築物10に相関変形が生じて、剪断力が加わったときに降伏して入力エネルギーを吸収するようになっている。
【0042】
このように、鉄筋コンクリート製の柱24の途中位置に第1の制振装置30を組み込むことで、地震時に第1の制振装置30によってエネルギーを吸収して、耐震性能を向上させることが可能となる。
【0043】
第2の制振装置32は、粘弾性ダンパーと称される速度依存型のもので、図5に示すように、上下方向に対向して配設された一対のベースプレート46a、46bと、このベースプレート46a、46bに固定される一対の取付部材48と、この取付部材48から櫛歯状に突出され、互いにかみ合い状態にされた複数、例えば各6枚の鋼板50と、各鋼板50間に取り付けられた粘弾性体52とを有している。
【0044】
なお、粘弾性ダンパーに代えて、同様に速度依存型の粘性体を用いた粘性ダンパーとしても良い(以下同様)。
【0045】
ベースプレート46aは、上側の柱24の対向面に相応した大きさで、上側の主筋22と対応した位置に複数の連通孔(図示せず)が設けられ、この連通孔に主筋22の端部を挿通して定着ナット42を上側の主筋22に螺合させることで、ベースプレート46aが上側の主筋22と一体に取り付けられるようになっている。
【0046】
そして、これら第1及び第2の制振装置30、32をそれぞれのベースプレート34b及び46bをボルト54にて連結一体化することで、第1及び第2の制振装置30、32を軸力方向で直列に連結固定した状態となっている。
【0047】
このように、第1の制振装置30及び第2の制振装置32を軸力方向で直列に連結することで、第2の制振装置32の粘弾性体52によって、柱24にかかる軸力を吸収して第1の制振装置30に軸力が累加してかかるのを防止することができ、第1の制振装置30のフランジプレート36の断面を増大させる必要がなく、第1の制振装置30の地震時における制振性能を維持して、コスト増大を抑えることができる。
【0048】
また、建築物10に強風が作用して建築物10が揺れた場合には、第2の制振装置32の粘弾性体52によって強風による揺れのエネルギーを吸収することができる。
【0049】
また、地震によって建築物10に大きな振動が加わり、水平方向及び軸力が作用した場合、第2の制振装置32の粘弾性体52がその水平方向及び軸力を確実に第1の制振装置30に伝達し、第1の制振装置30によって地震時のエネルギーを確実に吸収することができる。
【0050】
さらに、第1の制振装置30と第2の制振装置32は軸力方向で直列に配列されているため、設置スペースをとらず、限られた設置スペースでも確実に設置することができる。
【0051】
また、第1及び第2の制振装置30、32を、継手部材を用いることなく、既存の主筋22を用いて直接柱24に連結固定することで、別途継手部材を用いて固定する必要がなく、施工性の向上とコストの削減を図ることができる。
【0052】
しかも、靱性確保のために剪断補強筋を高密度にする必要がなく、コンクリートの充填性がよく施工性の向上とコストの削減を図ることができる。
【0053】
さらに、従来のように、超高層建築物の場合に、下層階の制振柱20に対する軸力の累加を防止するために、制振柱を組み込まない階層を設ける必要がなく、設計上容易であるばかりでなく、その階層の耐震性能を維持でき、しかも、その階層の剛性向上を図る必要もなくなることとなる。
【0054】
本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の形態に変形可能である。
【0055】
例えば、前記実施の形態では、鉄筋コンクリート製の柱に制振装置を設ける場合について説明したが、この例に限らず、型鋼材製等の種々の柱にも適用することができ、さらには、柱に限らず上下方向の軸力を受ける壁等の建築物の構造部材にも適用することが可能である。
【0056】
また、前記実施の形態では、鉄筋コンクリート製の柱に適用した場合について説明したが、この柱をプレキャストコンクリート製とすることで、建築物に対して容易に制振柱を形成することができる。
【0057】
さらに、前記実施の形態では、1本の柱の途中位置に第1の制振部材及び第2の制振部材を連結一体化した制振装置を組み込んでいるが、この例に限らず、1本の柱の別々の途中位置にそれぞれ第1の制振装置と第2の制振装置を組み込むようにすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態に係る制振構造を組み込んだ建物の横断面図である。
【図2】図1のII-II線に沿う縦断面図である。
【図3】本実施の形態に係る制振構造を有する制振柱を示す正面図である。
【図4】図3の第1の制振装置を示す正面図である。
【図5】図3の第2の制振装置を示す側面図である。
【図6】従来の制振構造を有する建築物の縦断面図である。
【符号の説明】
10 建築物
20 制振柱
22 主筋
24 柱
26 制振装置
30 第1の制振装置
32 第2の制振装置
34a、46a ベースプレート
38 低降伏点鋼パネル
42 定着ナット
52 粘弾性体

Claims (3)

  1. 上下方向の軸力を受ける建築物の構造部材の途中位置に、低降伏点鋼パネルを用いた第1の制振装置と、粘性体あるいは粘弾性体を用いた第2の制振装置とを軸力方向で直列に配列した制振装置を組み込んだ制振構造であって、
    前記構造部材は、鉄筋コンクリート製とされ、
    前記第1の制振装置及び第2の制振装置は、各々上下端にベースプレートを有し、
    前記第1及び第2の制振装置は、上下方向で対向側の前記ベースプレート同士が互いにボルトにて連結され、対向側と反対側の前記ベースプレートがそれぞれ前記構造部材の端部から突出するねじ付きの主筋にナットにて直接固定されていることを特徴とする制振構造。
  2. 請求項1において、
    前記構造部材は、柱であることを特徴とする制振構造。
  3. 請求項2おいて、
    前記柱は、プレキャストコンクリート製とされていることを特徴とする制振構造。
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