JP4398618B2 - 適応混合トルクフィルタを用いた電力アシスト式ステアリング・システムを制御する方法および装置 - Google Patents

適応混合トルクフィルタを用いた電力アシスト式ステアリング・システムを制御する方法および装置 Download PDF

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Description

【0001】
本発明は、適応混合トルクフィルタを用いてステアリングフィーリングを向上させるタイプの、車両内電力アシスト式ステアリング・システムを制御する方法および装置に関する。
【0002】
電気アシスト式ステアリング・システムは、当業界では周知のものである。ラックとピニオンギヤのセットを利用する電力シスト式ステアリング・システムは、電気モータを使用して、(1)ピニオンギヤに連結されたステアリング・シャフトに回転力を加えるか、あるいは、(2)ラック歯列が付けられているステアリング部材に直線力を加えることで、パワーアシストを提供する。このステアリング・システム内の電気モータは、一般に、(1)運転者により車両のステアリング・ホイールに加えられたトルク、および(2)感知された車両速度、に応答して制御される。
【0003】
公知の電気アシスト式ステアリング・システムは、車両速度の関数として変化する、システム帯域幅として知られている動的性能特性を有する。車両の運転者がステアリング・トルクを加えて、ステアリング・ホイールを後方および前方に例えば、左から右へ、さらに右から左へ回転させると、電気アシストモータが付勢されて、ステアリング入力と同程度のステアリング・アシストを提供する。このステアリング・システムがどのように特定周波数の前後のステアリング・ホイール運動に応答するのかは、ステアリング・システムの動的性能を表わしている。
【0004】
電気アシストモータの局部変化量を、運転者が加えたステアリング・トルクの局部変化量で割った値が、ステアリング・システムのゲインである。ステアリング・トルクをステアリング・ホイールに加えたときから、電気アシストモータが応答するときまで、時間遅れが発生する。この時間遅れは、入力指令が加えられたときの周波数の関数である。これは、システム応答時間と呼ばれる。このシステム・ゲインは、全体のシステム安定性を維持しながら、短いシステム応答時間をもつように、所定の値に設定される。このシステム応答時間とシステム・ゲインが、システム帯域幅を決定する。
【0005】
公知ステアリング・システムの帯域幅は、車両速度の関数として変化する。動的ステアリング周波数、すなわち過渡応答の「周波数」が、特定の車両速度にて、このシステム帯域幅を超える場合に、ステアリング感触は、「鈍く」(ステアリング・ホイール方向を変えるときに、「ためらい」として感じられる)なる。これは、ステアリングアシスト電気モータが、充分に速く応答しないからである。一般に、車両速度が増すにつれて、システム帯域幅だけでなく、ステアリングシステム・ゲインも低下し、それゆえ、車両速度が増すにつれ、システムのためらい、あるいは鈍さがさらに顕著となってくる。
【0006】
本願発明者らの先の米国特許第5,504,403号により、この電力アシスト式装置は、加えられたステアリング・トルクを表わすトルク信号を提供するために、車両のハンドホイールと操作可能に連結されたトルク感知手段を備えることが知られている。トルク感知手段に混合フィルタ手段を接続して、混合周波数よりも低いトルク周波数にて第1の関数特性、および混合周波数よりも高いトルク周波数にて第2の関数特性を持つ混合フィルタリングされたトルク信号を提供する。さらに、この装置は、制御信号に応答して、ステアリング・アシストを提供するステアリング・アシスト手段と、その混合フィルタリングされたトルク信号に応答して上記制御信号をステアリング・アシスト手段に提供するために混合フィルタ手段と動作可能に連結された制御手段とを含む。混合フィルタリング手段は、トルク信号をフィルタリングして、システムの動作中、選択可能なシステム帯域幅を維持する。
【0007】
同様に、後の米国特許第5,704,446号によれば、運転者トルク信号を低周波数成分と高周波数成分に分ける混合フィルタが備えられる。しかしながら、この低周波数成分が高周波数ゲインを設定する場合にさらなる特徴が与えられる。これは、高周波数成分の信号用のゲインが、低周波数成分の信号の実効ゲインを反映させるように行われ、これにより、この高周波数信号は、低周波数信号に近いとはいえ、つねに、低周波信号よりもわずかに高くなっている。これにより、高周波数ゲインが、低周波数トルク信号成分の振幅の関数となるので、混合周波数よりも高い高周波数成分に位相遅れがもたらされ、そのような位相遅れ自体により、このシステム内に不安定な状態が発生しかねない。
【0008】
本発明の目的は、ステアリング・システム内で、高周波トルクと低周波数トルクの混合フィルタリングを行うことで、あらゆる動作条件のもとで、安定性と、運転者の感触の向上を保証することである。
【0009】
本発明の特徴は、上記システムにおいて、トルク混合動作をさらに最適化しようと努めることである。
本発明により、ステアリング制御信号に応答してアシストを提供する電気式ステアリング・アシストシステムを制御する装置であって、加えられたステアリング・トルクを表わすトルク信号を提供するために、車両のハンド・ホイールに動作可能に連結されたトルク感知手段と、混合周波数よりも低いトルク周波数にて第1の関数特性、および混合周波数よりも高いトルク周波数にて第2の関数特性を持つ混合フィルタリングされたトルク信号を提供するために、トルク感知手段に接続された混合フィルタ手段であって、混合周波数よりも低い周波数をすべて通す低域フィルタと、混合周波数よりも高い周波数をすべて通す高域フィルタを含む混合フィルタ手段と、制御信号に応答してステアリング・アシストを提供するステアリング・アシスト手段と、この混合フィルタリングされたトルク信号に応答して、上記制御信号をステアリング・アシスト手段に提供するために、混合フィルタ手段に動作可能に連結された制御手段と、ステアリング・アシストシステムの高周波数ゲインを、ハンド・ホイールのオンセンタの操作では低く、またオフセンタの操作では比較的高くなるようにする手段とを備える装置が提供される。
【0010】
「オンセンタ」操作とは、真正面の位置から数度、一般に5°〜10°のずれの範囲内の操作領域におけるステアリング・ホイールの操作を意味し、この領域では、運転者の入力トルクは比較的に小さく、例えば1〜2Nm(図14参照)である。「オフセンタ」操作とは、より大きい角度で、かつより大きい運転者入力トルク、例えば3〜4Nmでステアリング・ホイールの操作を意味する。
【0011】
一実施形態では、上記手段により、高域フィルタを通る高周波経路のゲインを、加えられたステアリング・トルクの感知レベルに基づいて調整して、ステアリング・ホイールのオンセンタの操作では低くし、またオフセンタの操作では比較的高くすることにおいて、このような操作が達成される。
【0012】
他の実施形態では、混合フィルタ手段内に、付加的な周波数依存伝達関数を備え、それにより、さらに低い周波数のフィルタリング成分の関数として、ステアリングシステムのゲインを変化させる。
【0013】
有利には、この付加的な周波数依存伝達関数要素は、比例兼微分フィルタを備えている。
いくつかの実施形態では、、比例兼微分フィルタは、低域の加えられたステアリング・トルクおよび感知された車両速度と関数関係にある値を有する所望のステアリング・トルク・アシスト信号を提供するアシスト曲線手段の後に位置付けされる。他の実施形態では、比例兼微分フィルタは、アシスト曲線手段の前に位置づけられる場合がある。この好ましい実施形態は、単一のゲイン回路を用いることによりアシスト曲線手段の前にPDフィルタを含み、混合フィルタからの高周波出力の一部を低周波経路に結合する。
【0014】
比例兼微分フィルタは、低周波数成分(TSL)と高周波数成分(TSH)を組み合わせることにより、実現できる。そこでは、アシスト曲線手段への入力は、次式により与えられる:
【0015】
【数5】
Figure 0004398618
【0016】
式中、
SL=低域通過信号
SH=高域通過信号
ωb=混合フィルタ周波数
【0017】
【数6】
Figure 0004398618
【0018】
G∞=高周波数ゲイン
b=アシスト曲線(低周波)ゲイン
有利には、比例兼微分フィルタの伝達関数K(s)は、以下の形式のものである:
【0019】
【数7】
Figure 0004398618
【0020】
ここで、
【0021】
【数8】
Figure 0004398618
【0022】
であり、
式中、|on-centreと|off-centreは、好ましい「理想」値を表わしており、ωz、ωb、Gb、G∞は、以下に定義される通りである。
【0023】
この混合フィルタ設計では、低周波数成分も高周波数成分も、高周波数ゲインを設定する。このことから、オンセンタの高周波数ゲインとオフセンタの高周波数ゲインを一意的に、かつ別々に設定できることが保証される。高周波数ゲインは低周波ゲインの関数であるから、混合周波数よりも高い周波数でも、必ずしも位相遅れがもたらされるとは限らず、それゆえ、システム安定性と運転者の感触を、車両速度の場合のように、車両の全操作条件にわたって、適切に維持することができ、そこでは、高周波数ゲインを車両速度の関数となるようにすることもできる。
【0024】
さらに、本発明を、以下で、例示としてのみ添付図面を参照して説明する。
図1を参照すると、例示されたパワーアシスト式ステアリングシステム10は、ピニオンギヤ14に動作可能に連結されたステアリング・ホイール12を含む。具体的に言えば、車両のステアリング・ホイール12は、入力シャフト16に連結され、またピニオンギヤ14は、出力シャフト18に連結される。入力シャフト16は、トルクセンサ20を経て、出力シャフト18に動作可能に結合される。
【0025】
ピニオンギヤ14は、ラック、すなわち直線ステアリング部材22上の直線刻み歯と噛み合わされる。ラック部材22の直線刻み歯と結合したピニオンギヤ14は、ラックとピニオンギヤのセットを形成する。ラックは、公知のやり方でステアリング・リンケージを用いて、車両のステアリング可能な車輪24、26に、ステアリング自在に結合される。ステアリング・ホイール12を回すと、ラックとピニオンギヤのセットは、ステアリング・ホイール12の回転運動をラック22の直線運動に変換する。ラックが直線運動をすると、ステアリング可能な車輪24、26は、関連ステアリング軸心を中心として枢動して、車両がステアリングされる。
【0026】
電気アシストモータは、ステアリング機構の一部材の、ある適切な地点に、動作可能に連結される。例として、ラック駆動装置(米国特許第5,257,828号)、コラム駆動装置、またはピニオン駆動装置がある。電気モータ28は、付勢されると、車両の運転者が車両のステアリング・ホイール12を回転するのを助けるように、パワーアシスト式ステアリングを提供する。
【0027】
モータの巻線を流れる電流、またはそれらの巻線に印加される電圧を変えて、ステアリング機構に施される支援レベルを制御する手段を含むモータコントローラにより、電気アシストモータ28が付勢される。電気モータは、当業界では周知のやり方で、モータの位置に基づいて、モータコントローラがモータ巻線電流を調整する、ブラシレス永久磁石タイプである場合もある。
【0028】
加えられたステアリング・トルクを表わす電気信号Tsを与えるために、入力シャフト16と出力シャフト18との間に、トルクセンサ20を動作可能に連結する。トルクを測定する一手段は、加えられたステアリング・トルクに応答して捻じれ、それにより、入力シャフト16と出力シャフト18との間で相対的に回転できるようにするトーションバーを用いるものである。止め子(図示されてない)は、当業界では周知のやり方で、入力シャフト16と出力シャフト18との間の上記相対的回転量を制限する。トーションバーは、ここではK1として示されるばね定数を有している。加えられたステアリング・トルクに応答して、入力シャフト16と出力シャフト18との間で相対的に回転する量は、このトーションバーのばね定数と関数関係にある。位置センサは、入力シャフト16と出力シャフト18間に動作可能に連結されて、入力シャフト16と出力シャフト18との間の相対的回転位置または相対的角向きを表わす値を有する電気信号を供給する。トーションバーを組み合わせた位置センサが、トルクセンサ20を形成している。ステアリング・ホイール12は、運転中に、運転者が角度θHWだけ回転させる。入力トルクを加えた結果、入力シャフト16と出力シャフト18とのなす相対角度は、ここではθPとして示される。トーションバーのばね定数K1を考慮に入れると、センサ20から得られる電気信号は、加えられたステアリング・トルク、ここではTSとして示される。
【0029】
トルクセンサ20の出力は、トルク信号処理回路50に連結される。トルク信号処理回路50は、角度θPを監視し、トーションバーのばね定数K1を「知って」、加えられたステアリング・トルクTsを表わす電気信号を供給する。
【0030】
このトルクセンサ信号を、一対の「混合」フィルタに通す。2つの混合フィルタは、第1のものが低域フィルタ70であり、第2のものが高域フィルタ71であるように構成されている。これらのフィルタは、あらゆる周波数に対して、2つのフィルタの総和が等しくひとつであるように設計されている。低域フィルタ70により、含まれる周波数が、ある混合周波数ωbよりも低い信号Tsはすべて、あらゆる高周波データを阻止しながら、通過することができる。高域フィルタにより、含まれる周波数が、ある混合周波数ωbよりも高い信号Tsはすべて、あらゆる低周波データを阻止しながら、通過することができる。混合フィルタ周波数ωbは、所望の制御機能に基づいて、実際の計算を用いて達成される場合がある。低域トルクセンサの出力信号TsLは、アシスト曲線回路54に接続される。
【0031】
アシスト曲線回路54は、低域の加えられたステアリング・トルクTsおよび感知された車両速度と関数関係にある値を持った所望のトルク・アシスト信号Tassistを提供するルックアップ・テーブル、あるいは、EP0947413に記述される解析関数であり得る。車両速度センサ56は、アシスト曲線回路54にも動作可能に連結される。アシスト曲線機能は、マイクロコンピュータ内のルックアップ・テーブルを用いて達成されるか、あるいは、所望の制御機能に基づいて、実際の計算を用いて達成され得る。
【0032】
当業界で知られているように、車両のステアリングシステムに求められるパワーアシストの量は、車両速度が増すにつれて減少する。それゆえ、運転に適正な、または望ましいステアリング運動への感触を持続するために、車両速度が増すにつれて、ステアリング・パワーアシストの量を減らすことが望ましい。これは、当業界において、速度比例ステアリングと参照されている。それゆえ、アシスト曲線「回路」54のゲインは、常態では、車両速度が増すにつれて低下する。
【0033】
高域通過トルクセンサ信号TsHは、高周波数アシスト・ゲイン回路72に接続される。高周波数アシスト・ゲイン回路72は、高域通過トルクセンサ信号TsHに、車両速度に関係した関数である所定のゲインG∞を掛ける。G∞の決定は、マイクロコンピュータ内のルックアップ・テーブルを用いて達成されるか、あるいは、所望の制御機能に基づいて、実際の計算を用いて達成される場合がある。
【0034】
アシスト曲線回路54の出力と高周波数アシスト・ゲイン回路72の出力は、加算回路79で合計される。加算回路79の出力はTbaとして示され、適応フィルタ回路80に結合される。これら2つの信号は組み合わされて、この適応フィルタ回路への入力Tbaを決定する。
【0035】
適応フィルタ回路80は、入力混合アシスト・トルク信号Tbaをフィルタリングする。このフィルタは、最適な制御系を提供するために、車両速度が変わると、そのポールとゼロが変更できるという点で適合性がある。このようなフィルタリングの組合せは、適応混合フィルタリングに関して参照され、トルク要求信号として参照される、フィルタリングされたトルク信号Tmとなる。このトルク要求信号は、モータコントローラ90に結合される。モータコントローラ90は、トルク要求信号Tmに応答して、モータ28の付勢を制御する。モータコントローラ90は、ステアリング機構の感知された速度に応答して、ステアリング制動を制御する。ECU温度センサ、ソフトスタート回路などを含む他の入力回路94は、モータコントローラ90に連結される。
【0036】
モータコントローラ90の出力は、駆動制御回路96に連結される。この駆動制御回路は、電気アシストモータ28への電気エネルギーの印加を制御するために、複数の電力スイッチ100に制御可能に連結される。
【0037】
図2を参照すると、再度、図1の公知システムの閉ループ制御系が示されている。
ステアリング・ホイールに加えられたトルクは、トルク信号Tsを与え、このトルク信号が、高域/低域フィルタ回路に連結される。
【0038】
トルク信号Tsを低域フィルタ70に通して、低域通過アシスト・トルクTsLを発生させる。高域通過アシストトルクTsHは、トルク信号Tsから、前述の低周波アシスト・トルクを差し引くことで、決定される。このようなやり方でTsHを決定できる理由は、以下に述べられる。
【0039】
次式の通り、低域フィルタGL(s)と高域フィルタGH(s)の和が、常に1に等しくなるように、連続領域混合フィルタを選択する。
【0040】
【数9】
L(s)+GH(s)=1
ここで、F(s)は、f(t)のラプラス変換である。
【0041】
この低域フィルタは、好ましくは、ωbでポールをもつ一次フィルタに選ばれる。この低域フィルタのポールωbは、回路83を用いて、車両速度の関数として計算され得る。
【0042】
この高域フィルタは、2つのフィルタの和が1に等しくなる必要があるという上記条件により、一意的に定められる。それゆえ、低域フィルタと高域フィルタの伝達関数は、次式で与えられる:
【0043】
【数10】
L(s)=ωb/(s+ωb
【0044】
【数11】
H(s)=ωb/(s+ωb
デジタルコンピュータ内に一組の混合フィルタを実現しようとするときには、当業者は、別々の高域フィルタ段と低域フィルタ段を構築する必要がないことがわかる。もっと適切に言えば、混合フィルタへの入力Tsを低域フィルタに通して、信号TsLを発生させる。高域通過信号は、次式のように、最初の入力トルクから低域通過部分を引いたものである:
【0045】
【数12】
SH=TS−TSL
これは、この信号の低周波部分を決定して、最初の信号から、この低周波部分を単に差し引くと同等なものと考えられる。その結果もたらされるものは、高周波の情報しか含まない信号である。別法として、さらに高次の混合フィルタを使用できる。しかしながら、デジタルコンピュータでは、フィルタの次数とともに、フィルタ計算の複雑さが増す。一次フィルタの利用が好ましい。
【0046】
低域通過トルク信号TsLが、アシスト曲線回路54に連結される。再び図2を参照すると、この線形化制御系は、Gb(v)として表わされるアシスト曲線回路54を含む。
【0047】
ステアリングシステムでは、低域通過トルク信号TsLをアシスト曲線回路に通して、Tassistを決定する。低域通過アシスト値Tassistは、高域通過アシスト値とともに合計される。高域通過アシスト値は、高域通過トルクセンサ信号TsHに、高周波数アシスト・ゲインG∞を掛けて決定される。混合アシストは、次式の通りである:
【0048】
【数13】
ba=Tassist+G∞TSH
混合フィルタωbのポールと高周波数アシスト・ゲインG∞は、それぞれ回路83と回路74において、速度の関数として計算される。ωbとG∞の決定は、マイクロコンピュータ内のルックアップ・テーブルを用いて達成されるか、あるいは、実際の計算を用いて達成される場合がある。図2の制御系の回路83と回路74は、図1の混合フィルタ決定回路68を形成している。混合アシストを適応トルクフィルタGfに連結することにより、車両のステアリングシステムは、車両速度が変わると、システムのダイナミックス(動力学)を変えられるようにしている。
【0049】
適応トルクフィルタ80からの出力は、トルク要求信号Tmである。モータは、トルク・アシストを供給し、このトルク・アシストは、ピニオン・シャフトを経て伝達されるマニュアル・アシストとともに合計されて、ラック上に合計力を発生させる。
【0050】
これまで述べられたシステムは、本願発明者らの先の米国特許第5,504,403号から知られているものである。上述のように、公知システムでは、図1と図2のブロック72で確立された高周波数アシスト・ゲインG∞は、所与の車両速度では、ほとんど一定値である。しかしながら、ステアリング・ホイールがオンセンタで運転するときと、ステアリング・ホイールがオフセンタで運転するときとで、それぞれ、良好な性能を得るためには、異なる高周波数アシスト・ゲインが必要であることが、実験により確認された。
【0051】
図3は、図1と図2の補償回路を線形化したものを示しており、これは、測定されたコラム・トルクTsを高周波部分と低周波部分に分ける周波数フィルタ150、152、低周波数成分に施されるブースト(増強)曲線回路154、および、高周波数成分に施されるゲイン(G∞)回路156から成っている。次に、低周波経路と高周波経路が158に加えられて、適応トルクフィルタ160に通される。このフィルタは、位相を進ませ、ループを安定させる。線形化したものでは、関数はどれも、車両速度とは関係ない。一般に、周波数フィルタは、単一の低域フィルタを用いて実施される。
したがって、
【0052】
【数14】
L(s)=ωb/(s+ωb
ゲインGbは、次式のように、ある低域通過入力トルクと速度にて評価された入力トルクに対するアシスト機能の局所微分である。
【0053】
【数15】
b=δTassist/δTSL
ゲインGbは、ある公称低域通過入力トルクと車両速度に関する低域通過入力トルクTsLの増分変化量に対し、どれだけTassistが増分するのかを表わしている。
【0054】
トルクフィルタの伝達関数は、G∞(s)である。
実施の高速同調試験では、比較的小さい値のG∞(例えば、6)と、4Hzの周波数分割で、良好なオンセンタ感触が得られることが立証された。オンセンタでは、アシスト曲線ゲインは、局部的にゼロである。しかしながら、このようなG∞の設定では、オフセンタ感触は不充分であり、応答に著しい遅れがある。その一方、さらに大きい値のG∞(例えば、20)と、4Hzの周波数分割で、良好なオフセンタ感触が得られる。このような状況では、この分割周波数を変更しても、有意な恩恵は得られない。一般に、センタでのアシスト曲線の局部ゲインは、約10である。
【0055】
前述の2つの設定に対して、この線形化制御系の周波数応答は、例示として、図4aと図4bに示されている。
このような周波数応答から、良好なオンセンタ応答は、運転者に、このセンタを感じるせるのに、比較的不活動なステアリングシステムを必要とするが、これと対照的に、良好なオフセンタ応答は、鈍い感触を避けるために、さらなるゲインを必要とすることが明らかである。
【0056】
それゆえ、オンセンタとオフセンタの最適な設定が同時に達成できるように、補償器の構造を変更することが必要である。
このような作業を実現する現在好ましいオプションは、低周波経路中に、付加的な周波数依存ブロックを挿入することであり、その効果として、低周波ゲインから得られる付加的な高周波数成分を提供し、それにより、ステアリング・アシストシステムの総体的な高周波数ゲインを高める。この成分は、本来、アシスト曲線ゲインによって決まり、さらに、このアシスト曲線ゲインは、低周波数トルクレベルとともに変化することになる。この付加的な周波数依存ブロックをどのように設定できるかの一例が、次に述べられる。
【0057】
下記の説明には、次の名称が使用される:
L(s):低域通過フィルタの伝達関数
H(s):高域通過フィルタの伝達関数(=1−GL(s))
t(s):補償器の総体的な伝達関数(トルクフィルタを除く)
K(s):低周波経路中の付加的成分
ωb:混合フィルタ周波数
ωz:K(s)中の付加的ゼロの周波数
b:アシスト曲線(局部低周波)ゲイン
G∞:高周波数ゲイン
低域フィルタと高域フィルタの伝達関数は、次式である:
【0058】
【数16】
H(s)=1−GL=s/(s+ωb
下記の表は、上述の例に基づいて、所望のパラメータと、その結果得られる伝達関数を示している。
【0059】
【表1】
Figure 0004398618
【0060】
修正された補償器構造は、図5に示されている。付加的な伝達関数K(s)は、ブロック162で示される通り、低周波経路に加えられる。これは、車両速度依存ゲインを有すると仮定される。
【0061】
オンセンタの伝達関数およびオフセンタの伝達関数の双方を達成するのに必要なK(s)は、以下のように計算できる。高周波経路が不変であり、またオンセンタのときに、アシスト曲線ゲインがゼロであると仮定する。したがって、G∞は、所望のオンセンタ特性を得るのに必要な値を取らなければならない(すなわちG∞=6)。双方の所望の特性に対して、混合フィルタ周波数は同一である。所望のオフセンタ応答は、10のGbを有し、また20という理想G∞は、次式の通りである:
【0062】
【数17】
Figure 0004398618
【0063】
したがって、K(s)は、比例+微分(P+D)フィルタの形式を取る。一般に、比例ゲインを1とし、また微分ゲインを1/ωzとして、K(s)を次式とせよ:
【0064】
【数18】
K(s)=1+s/ωz
ここで、
【0065】
【数19】
Figure 0004398618
【0066】
式中、|on-centreと|off-centreは、上記の表に与えられた「理想」値を示している。上記の表に示された個々の値を用いると、微分ゲイン(1/ωz)は1.4/(2×π×4)=0.557=1/18である。すなわち、ωz=2.86Hzである。
【0067】
低車両速度にて、既存の特性を回復するために、車両が静止状態のときに、K(s)の微分ゲインは、ゼロでなければならない。
P+Dフィルタの効果は、周波数の点から考察することができる。このフィルタは、オフセンタの応答しか影響を及ぼさない。図6aと図6bは、オフセンタの周波数応答が、どのように、微分ゲイン(=1/ωz)とともに変化するのか示している。オンセンタの応答も示されている。
【0068】
この解析は、連続時間領域で行われてきたが、当業者であれば、サンプリング周波数が充分に高いという条件で、サンプルデータ系内で、これらの連続時間関数をすべて実施できることが理解されよう。連続時間からデジタルフィルタへのマッピングがよく知られており、これは、例えば、P=exp(PΔt)、Z=exp(ZΔt)を通じて、連続時間のポールPとゼロZを、離散時間のポールPとゼロZにマッピングするポールゼロ・マッピングによって、実行される。ここで、Δtは、サンプリング周期である。
【0069】
P+D要素は、アシスト曲線手段の前または後に位置づけられる。このような位置は、アシスト曲線手段が非線形の構成要素であるため、フィルタの応答に影響を及ぼす。
【0070】
再び図2を参照すると、低域フィルタGL、高域フィルタGH、フィルタGFは、次式で与えられる:
【0071】
【数20】
L(s)=ωb/(s+ωb
H(s)=ωb/(s+ωb
F(s)は、例えばノッチフィルタであり、
【0072】
【数21】
F(s)=(s+40)2/{(s+4)(s+400)}
ノッチフィルタGF(s)は、複合のゼロおよび/またはポールを持つように構成できることに留意されたい。
【0073】
図9は、コントローラとPD要素166の可能な一実施形態を示している。この場合、トルクセンサ入力TsHの高周波数成分は、図2と同じやり方で、すなわち、減算要素171を用いて、入力Tsから低周波数成分TsLを差し引いて計算される。わかりやすくするために、車両速度の影響は、図9から省かれているが、ただし、図2に示された技法の場合のように、ωb、アシスト曲線、G∞、GF(s)、新たな微分項ωzなどの要素は、車両速度とともに変わり得る。
【0074】
図10は、本発明の一実施形態によるP+D要素の追加改良を、アシスト曲線回路154の前に配置した図2の配置構成を示している。
図8は、ブースト(増強)曲線回路およびP+D要素(Dゲイン=1/18)へのランプ入力を持つ一例を示している。この図は、この具体的な事例において、総体的な応答の差が、きわめてわずかでしかないことを示している。
【0075】
アシスト曲線回路の前の信号の流れの中にP+D要素を配置する利点は、簡略化が行われる点である。図10では、点180への低域経路は、次式で与えられる:
【0076】
【数22】
Figure 0004398618
【0077】
したがって、P+D要素は、低周波数成分TsLと高周波数成分TsHの組合せを用いて実現できる。これは、図11に示される通りに実施でき、そこでは、P+D要素を、ゲイン・ブロック172と合計要素174に代えた。
【0078】
操作中は、高周波数成分は、2つの経路を経て、混合フィルタ出力Tbaに存在するであろう。第1の経路は、図2の前方に示される通り、ゲイン要素G∞を通る。第2の経路は、図5、図9、図10、図11に示されるもので、ゲイン要素(ωb/ωz)およびアシスト曲線の局部ゲインGbを通る。アシスト曲線の局部ゲインGbは、低周波数成分TsLによって決まり、オンセンタ操作とオフセンタ操作との間で連続的に変化する。
【0079】
最後に、図12aと図12bはそれぞれ、公知の混合構造と、ωz=∞による構造について、ゲインと周波数の特性と、位相と周波数の特性を示しており、線形化されたアシスト・センタ・ゲインGbが変えられる。図13aと図13bはそれぞれ、公知の混合構造と、本発明の一実施形態による構造について、ゲインと周波数の特性と、位相と周波数の特性(ここで、ωz=ωb/s)を示しており、局部的に高くなったアシスト曲線ゲインが変えられる。これらの図から、高周波数ゲインは、公知の構造では一定であるが、新たな構造ではGbとともに変化することがわかる。この変化量は、パラメータωzにより制御される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明が適用できるタイプの公知のパワーアシスト式ステアリングシステムを示す概略ブロック図である。
【図2】 図1の公知ステアリングシステムの制御ループシステムの概略表示である。
【図3】 図1のシステムに用いられた公知のトルク補償器の簡略ブロック図である。
【図4】 最適化されたオンセンタとオフセンタの操作に対して、周波数応答特性を示した説明図である。
【図5】 本発明による修正トルク補償器の簡略ブロック図である。
【図6】 本発明の一実施形態による、P+Dフィルタを織り込んだシステム用の周波数応答特性を示す説明図である。
【図7】 代表的なアシスト曲線を示す図である。
【図8】 ランプ入力に対する比例兼微分(P+D)フィルタおよびアシスト曲線回路の応答の一例を示す図である。
【図9】 アシスト曲線手段の後にP+D要素を配置した場合に、本発明による配置構成を示す図である。
【図10】 アシスト曲線手段の前にP+D要素を配置した場合に、本発明による配置構成を示す図である。
【図11】 図10の配置構成を実現する手段を示した説明図である。
【図12】 それぞれ、ωz(定義される通り)=∞であり、かつ、線形化されたアシスト・センタ・ゲインGb(定義される通り)が変えられる場合に、公知の混合構造と、本発明による構造に対して、ゲインと周波数の特性を示すである。
【図13】 それぞれ、ωz=ωb/sの場合に、公知の混合構造と、本発明による構造に対して、ゲインと周波数の特性を示すである。
【図14】 システムのオンセンタ操作とオフセンタ操作を示す図である。

Claims (12)

  1. 気式ステアリング・アシストシステムを制御する装置であって、前記電気式ステアリング・アシストシステムはステアリング制御信号に応答してステアリング・アシストを提供するステアリング・アシスト手段を備え、前記装置は、
    加えられたステアリング・トルクを表わすトルク信号を提供するために、車両のステアリング・ホイールに操作可能に連結されたトルク感知手段と、
    混合周波数よりも低いトルク周波数にて第1の関数特性、および前記混合周波数よりも高いトルク周波数にて第2の関数特性を持つ混合フィルタリングされたトルク信号を提供するために、前記トルク感知手段に接続された混合フィルタ手段であって、前記混合周波数よりも低い周波数をすべて通す低域フィルタと、前記混合周波数よりも高い周波数をすべて通す高域フィルタを含み、前記高域フィルタの出力は高周波数ゲインで乗算される、混合フィルタ手段と、
    記混合フィルタリングされたトルク信号に応答して、前記ステアリング制御信号を前記ステアリング・アシスト手段に提供するために、前記混合フィルタ手段に操作可能に連結された制御手段と、
    記高周波数ゲインを、前記ステアリング・ホイールのオンセンタ操作では低く、またオフセンタ操作では比較的高くなるようにするゲイン手段と、
    を備える装置。
  2. 前記ゲイン手段により、前記高周波数ゲインを、加えられたステアリング・トルクの感知レベルに基づいて調整し、前記ステアリング・ホイールのオンセンタ操作では低くし、またオフセンタ操作では比較的高くすることができる、請求項1記載の装置。
  3. 前記ゲイン手段は、前記混合フィルタ手段内に付加的な周波数依存伝達関数を含み、それにより、前記高周波数ゲインを、前記低い周波数のフィルタリング成分の関数として変化させて、前記高周波数ゲインを、前記ステアリング・ホイールのオンセンタ操作では低く、またオフセンタ操作では比較的高くなるようにする、請求項1記載の装置。
  4. 前記付加的な周波数依存伝達関数は、低周波経路中の周波数依存要素によって得られ、それにより、低周波ゲインから得られた付加的な高周波数成分が、前記高周波経路から得られた高周波数ゲインに加えられて、前記ステアリング・アシストシステムの全高周波数ゲインを高める、請求項3記載の装置。
  5. 前記付加的な周波数依存伝達関数は比例兼微分フィルタを備える、請求項3または4に記載の装置。
  6. 低域の加えられたステアリング・トルクおよび感知された車両速度と関数関係にある値を有する所望のステアリング・トルク・アシスト信号を提供するアシスト曲線手段の後に、前記比例兼微分フィルタは位置付けられる、請求項5記載の装置。
  7. 低域の加えられたステアリング・トルクおよび感知された車両速度と関数関係にある値を有する所望のステアリング・トルク・アシスト信号を提供するアシスト曲線手段の前に、前記比例兼微分フィルタは位置付けられる、請求項5記載の装置。
  8. 単一のゲイン回路を用いて、前記混合フィルタからの高周波出力の一部を前記低周波経路に結合して前記比例兼微分フィルタを実現する、請求項7記載の装置。
  9. 低周波数成分と高周波数成分を組み合わせて、前記比例兼微分フィルタを実現し、前記アシスト曲線手段への入力は、以下の式により提供される、
    入力=T SL +(ω b /ω z )T SH
    ここで
    SL=低域通過信号
    SH=高域通過信号
    ωb=混合フィルタ周波数
    ω z =ω b b off-centre /(G∞| off-centre −G∞| on-centre
    G∞=高周波数ゲイン
    b=アシスト曲線(低周波)ゲイン)
    で与えられる、請求項5ないし8のいずれかに記載の装置。
  10. 前記比例兼微分フィルタは、次の形式の伝達関数K(s)を有し、
    K(s)=1+s/ω z
    ここで、
    ω z =ω b b off-centre /(G∞| off-centre −G∞| on-centre
    であり、
    式中、|on-centreと|off-centreは、好ましい「理想」値を表わしており、
    ωb=混合フィルタ周波数
    G∞=高周波数ゲイン
    b =アシスト曲線(低周波)ゲイン
    である請求項5ないし9のいずれかに記載の装置。
  11. ステアリング制御信号に応答してステアリング・アシストを提供する電気式ステアリング・アシストシステムを制御する方法であって、
    加えられたステアリング・トルクを表わすトルク信号を設定するために、車両のステアリング・ホイールに加えられるステアリング・トルクを測定するステップと、
    混合周波数よりも低いトルク周波数において第1の関数特性、および前記混合周波数よりも高いトルク周波数において第2の関数特性を持つ混合フィルタリングされたトルク信号を設定するため混合フィルタ手段であって、前記混合周波数よりも低い周波数をすべて通す低域フィルタと、前記混合周波数よりも高い周波数をすべて通す高域フィルタを含む混合フィルタ手段の中で、前記トルク信号をフィルタリングし、前記高域フィルタの出力は高周波数ゲインによって乗算される、ステップと、
    前記混合フィルタ手段に制御手段を操作可能に連結することにより、前記混合フィルタリングされたトルク信号に応答してステアリング・アシストのための制御信号が得られ、前記制御信号に応答してステアリング・アシストを提供するステップと、
    記高周波数ゲインを、前記ステアリング・ホイールのオンセンタ操作では低く、またオフセンタ操作では比較的高くなるように制御するステップと、
    を含む方法。
  12. 前記高周波数ゲインは、前記ステアリング・ホイールのオンセンタ操作では低く、またオフセンタ操作では比較的高くなるように、加えられたステアリング・トルクの感知レベルに基づいて調整される、請求項11記載の方法。
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