JP4392909B2 - 分離膜および濾過モジュールの保存方法 - Google Patents

分離膜および濾過モジュールの保存方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、精密濾過や限外濾過等の分離プロセスに用いられる分離膜および濾過モジュールの保存方法に関し、さらに詳しくは、保存中における微生物の繁殖を防止する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
膜濾過による分離プロセスは、各種工業製品の製造プロセスや上水および下水等の水処理プロセス等において広く採用されているが、分離プロセスの現場で使用されるまでの間、多くの場合、膜特性を保持するため湿潤状態で保存されている。このような状態で膜を保存すると、微生物が繁殖して外観を損ねたり、甚だしい場合には分離膜の透水性能が低下するという問題があった。
【0003】
従来、このような微生物の繁殖を防止するために、ホルムアルデヒドやグルタルアルデヒド等の有機物系防腐剤や次亜塩素酸ソーダ、オゾン等の薬剤を封入水に添加・溶解することが行われている。前者の有機物系防腐剤を使用する方法では、これらの薬剤には毒性があるため、分離膜の使用にあたってこれらの薬剤を充分洗浄・除去する必要があり、その洗浄に長時間を要したり、また、有機物であるが故に洗浄排水の処理が必要となる問題があった。また、後者の方法は、洗浄・除去が容易である点では優れた方法であるが、その静菌効果の持続性がなく、長期の保存が困難であるという欠点を有していた。
【0004】
また、無機塩類からなる凝固点降下剤を添加する保管方法が、特開平8−206471号公報に提案されている。該公報では、分離膜が収納されている濾過モジュール内の充填水にNaClやKClを添加することによって、保管中の微生物の繁殖を抑制できることが開示されている。この方法では、洗浄・除去が容易で、廃水処理の必要がないメリットがあるものの、静菌効果が充分でなく、黴類が繁殖してしまう場合があるという問題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、保管中における微生物の繁殖による外観不良や膜性能の低下を長期間にわたって防止することができ、洗浄・除去が容易で廃水処理の必要がない分離膜および濾過モジュールの保存方法を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
一般に、食塩を添加する方法や酸素濃度を低下させることによって、夫々ある種の微生物の繁殖を防止できることは広く知られている。しかしながら同時に、食塩を添加した環境でも繁殖し得る微生物がいること、および、低酸素環境下でも繁殖し得る微生物がいることも広く知られている。そのため、分離膜を保存する方法として、無機塩の含有と低酸素濃度環境による効果を狙った適用例は皆無であった。
【0007】
本発明者は上記の課題を解決するため、鋭意研究の結果、無機塩の含有と低酸素濃度環境を組合せることによって、分離膜を良好な状態で長期間保存できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)水を含有した膜の保存方法において、膜中に塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、塩化鉄、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸アルミニウム、硝酸鉄、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸水素カリウム、硫酸マグネシウム、チオシアン酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムの中から選ばれた少なくとも1種の無機塩を含有させ、かつ、該膜が暴露されている気相中の酸素濃度を1体積%以下に保持することを特徴とする分離膜および分離膜モジュールの保存方法、
(2)該膜内の水の含有量と無機塩の含有量とから計算される無機塩の濃度が、0.5mol/リットルから25℃における飽和近傍濃度の範囲であることを特徴とする(1)に記載の保存方法、
該膜が精密濾過膜又は限外濾過膜であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の分離膜および分離膜モジュールの保存方法、
該膜がセルロース、ビニルアルコール系樹脂、アクリル系樹脂、フッ化ビニリデン系樹脂、スルフォン系樹脂、オレフィン系樹脂やセラミック系のものからなることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の分離膜および分離膜モジュールの保存方法、である。
本発明においては、膜内に水と共に無機塩を含有させる必要がある。無機塩を含有しない場合には、たとえ低酸素雰囲気に保持したとしても嫌気性菌の繁殖が起こり、異臭を発したり膜性能を低下させることがある。
【0008】
本発明で用いられる無機塩としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、鉄(III)のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、チオシアン酸塩、チオ硫酸塩、ホウ酸塩が挙げられる。これらの内、25℃における溶解度が0.5mol/リットル以上である無機塩が好ましい。これらの無機塩は単独で用いても良く、また、複数種を混合して用いることもできる。
【0009】
上記の無機塩のうち、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、塩化鉄、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸アルミニウム、硝酸鉄、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸水素カリウム、硫酸マグネシウム、チオシアン酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムが好ましい。これらの中でも、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、塩化鉄、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸アルミニウム、硝酸鉄、チオシアン酸カリウム、硫酸水素ナトリウム、炭酸カリウムが、静菌効果が大きいのでより好ましい。さらに、塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムは、低濃度で効果が発現し、かつ、地球環境に対する悪影響がないので、特に好ましい。
【0010】
膜内の水の含有量(以下、含水量と記す)と無機塩の含有量(以下、無機塩含有量と記す)とから計算される無機塩の濃度(以下、無機塩濃度と記す)は、0.5mol/リットルから25℃における飽和近傍濃度の範囲であることが好ましい。なお、飽和近傍濃度とは、該無機塩の25℃における飽和濃度の1.1倍の値をいう。より好ましくは、1mol/リットルから25℃における飽和濃度の範囲であり、特に好ましくは2mol/リットルから25℃における飽和濃度の範囲である。0.5mol/リットル未満では静菌効果が充分でなく、飽和近傍濃度を超える濃度では、膜内で無機塩の結晶が析出することによって分画特性を低下させる傾向が強くなる
なお、上記の無機塩含有量、含水量および無機塩濃度とは、下記の式で計算される値である。
【0011】
S=(1000+A−P)×C/P (式1)
W=(A−P)/P−S×M/1000 (式2)
SC=(1000+A−P)×C×ρ/(A−P) (式3)
ここで、Sが無機塩含有量(mol/kg−ポリマー)、Wが含水量(kg/kg−ポリマー)、SCが無機塩濃度(mol/リットル)であり、Aは膜サンプルの重量、Pは膜サンプルを形成しているポリマー重量、Cは膜サンプルを1000gの純水中に浸漬して溶出した液の無機塩濃度(mol/kg−液)、Mは無機塩の無水物としての分子量(g/mol)、ρは該濃度の無機塩水溶液の密度(kg/リットル)である。具体的な計算方法は、下記の[発明の実施の形態]で説明する。
【0012】
分離膜に無機塩を含有させる方法としては、予め所定濃度に調整した無機塩水溶液と分離膜を接触させ、該膜中に該無機塩水を含浸させることによって実施できる。
含浸させる方法としては、製造工程上膜が湿潤状態にある場合には、湿潤状態の膜を無機塩水溶液中に浸漬する方法、該膜に無機塩水溶液を噴霧する方法、該膜上に無機塩水溶液を流下させる方法等を採ることができる。また、製造工程上湿潤状態がない場合には、製造工程の最終段階において圧力を印加して無機塩水溶液を含浸させることもできる。このような方法で含浸させるに際して、膜と接触させる無機塩水溶液の濃度や接触時間等を調整することによって、膜中の無機塩含有量や無機塩濃度を制御することができる。
【0013】
次いで、上記のようにして含浸させた後、乾燥処理を行なうことによって含水量を調整することができる。この場合、乾燥時の環境温度や湿度、および、乾燥環境への暴露時間を調整することによって、含水量を制御することができる。
本発明においては、膜が接触する雰囲気中の酸素濃度を1体積%以下に保持することが必要である。本発明でいう膜が接触する雰囲気とは、膜が暴露されている気相である。1体積%を超える濃度では、ある種の好気性菌が繁殖する場合がある。該酸素濃度は、0.5体積%以下であることが好ましく、0.1体積%以下であることが特に好ましい。なお、膜が暴露される気相中のガス種としては、膜に対して不活性なものであれば特に限定されず、例えば、窒素、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウム等が挙げられる。また、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコールのガスを数10ppm〜数千ppmの範囲で共存させておくこともできる。
【0014】
膜が接触する雰囲気中を低い酸素濃度に保持する方法としては、膜を容器或いは包装材中に収納し、該容器或いは包装材中に所定酸素濃度のガスを流通させておく方法、該容器或いは包装材中に所定酸素濃度のガスを充填して密閉して保持する方法等が適用できる。さらに、容器或いは包装材中に酸素吸収剤を入れておくことも、酸素濃度を低濃度に保持するのに有効な方法である。
また、濾過モジュール内の雰囲気を低い酸素濃度に保持する方法としては、該モジュール内に所定酸素濃度のガスを流通させておく方法、該モジュール内中に所定酸素濃度のガスを充填して密閉する方法が適用できる。また別法として、該モジュールを包装材中に収納し、該包装材中に所定酸素濃度のガスを充填して密閉する方法や該包装材中に酸素吸収剤を入れて密閉する方法も適用できる。
【0015】
上記の密閉して保持する方法においては、保存期間中に酸素濃度が1体積%を超えないように容器或いは包装材の外部からの酸素透過を抑制する必要がある。この場合、酸素透過性を考慮して容器或いは包装材の材質やその厚みを設定することにより、酸素濃度を所定濃度以下に保持することができる。
上記の包装材としては、酸素透過性が低く、かつ、シール性が優れているものが好適である。このような包装材としては、例えば、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデンをコートしたセロファン、ポリ塩化ビニリデンをコートしたポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデンをコートしたナイロン、ポリ塩化ビニリデンをコートしたポリエステル、エチレン−ビニルアルコール共重合体、Al蒸着PET等のフィルムとポリエチレンフィルムやポリプロピレンフィルムとのラミネートシート、Al箔とポリエチレンフィルムとのラミネートシートが挙げられる。
【0016】
本発明は、精密濾過膜、限外濾過膜、逆浸透膜等種々の用途の膜に適用し得る。また、膜の形態も平膜、中空糸膜、管状膜等の種々の膜に適用し得る。さらに、本発明を適用し得る膜の素材としては、高分子(エチルセルロース、ニ酢酸セルロース、酢酸セルロース、セルロース等のセルロース類、6,6ナイロン等のポリアミド類、ビニルアルコール系樹脂、ポリアクリロニトリル等のアクリル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン等のフッ化ビニリデン系樹脂、ポリエーテルスルフォンやポリスルフォン等のスルフォン系樹脂、ポリエチレン等のオレフィン系樹脂等)やセラミック系のものが挙げられる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
(1)純水透水量の測定
膜サンプルの片側表面から他の表面へ1kgf/cm2 の差圧をかけて25℃の限外濾過水を透過させ、単位時間、単位圧力(単位差圧)当りの透過速度を測定し、その量をリットル/hr・m2 ・atmで表した。但し、中空糸の場合には外表面積を有効表面積として計算した。
(2)膜中の無機塩含有量の測定と無機塩濃度の計算
膜サンプル約2.0gを精秤(重量A)した後、純水1000g中に24時間浸漬した。該水溶液中のイオン濃度をICPおよびイオンクロマトグラフィーを用いて分析し、定量(濃度C;mol/kg−液)した。
【0018】
次いで、上記液中の膜サンプルを取り出し、純水100g中に浸漬して洗浄した。この洗浄操作を3回行った後、105℃で16時間乾燥し、乾燥後の重量を精秤してサンプルのポリマー重量(重量P)を求めた。
該ポリマー重量と上記のイオン濃度から無機塩含有量、含水量および無機塩濃度を各々下記式によって求めた。
S=(1000+A−P)×C/P (式1)
W=(A−P)/P−S×M/1000 (式2)
SC=(1000+A−P)×C×ρ/(A−P) (式3)
ここで、Sが無機塩含有量(mol/kg−ポリマー)、Wが含水量(kg/kg−ポリマー)、SCが無機塩濃度(mol/リットル)であり、Aは膜サンプルの重量、Pは該膜サンプルを形成しているポリマー重量、Cは膜サンプルを1000gの純水中に浸漬して溶出した液の無機塩濃度(mol/kg−液)、Mは無機塩の無水物としての分子量(g/mol)、ρは該濃度の無機塩水溶液の密度(kg/リットル)である。
【0019】
なお、ρは以下のようにして求めた。先ず、下記数式(4)から無機塩の質量濃度(mol/kg−液)を計算した。次いで、試薬を用いて該質量濃度の液を別途調整し、その液の25℃における密度を測定して求めた。
SC’=S×P/(A−P) (式4)
なお、飽和濃度を超えている場合には、懸濁状態での液重量と容積を測定し、その値から求めた。
(3)酸素濃度の測定
JIS−K−2301(平成4年改正版)記載のガスクロマトグラフ法に準拠して、窒素、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素を定量した。なお、熱伝導度検出器を用いて、下記の条件で測定を行った。
【0020】
(a)窒素、酸素、一酸化炭素の定量の場合
カラム :合成ゼオライトX型(Na塩)
キャリヤーガス:ヘリウム
カラム温度 :40℃
(b)ニ酸化炭素の定量の場合
カラム :シリカゲル
キャリアーガス:ヘリウム
カラム温度 :70℃
【0021】
【参考例1】
特開平11−197473号公報記載の実施例1に準じて、外径1.35mm、内径0.75mmのポリアクリロニトリル系中空糸膜を作成した。次いで、該膜を純水中に浸漬して、55℃まで昇温して3時間保持した後に室温に戻した。
該膜の純水透水量は、310リットル/hr・m2 ・atmであった。
【0022】
【実施例1〜8および比較例1〜2】
参考例1の膜を表1に示す無機塩水溶液に浸漬して25℃において30分間静置した。次いで、該膜を水溶液中から取り出し、外表面と中空部に付着している液を除去した。なお、上記の無機塩水溶液には、予め大気中の微生物を寒天培地で培養し、該微生物を蒸留水で懸濁させた菌液(3×106 個/ミリリットル)を1ミリリットル/リットル−無機塩水溶液の割合で添加した。
【0023】
次ぎに、該中空糸膜を酸素吸収剤(三菱ガス化学社製『エージレスZ−500』3個と共に延伸ポリプロピレン/エチレン−ビニルアルコール共重合物/ポリエチレンの三層ラミネートフィルムで包装し、密封した状態で3ヶ月間25℃−55%RHの環境に保存した。
上記と同様にして無機塩水溶液の含浸処理を行った膜について、前記の方法によって膜中の無機塩含有量と無機塩濃度を求めた。また、該含浸処理を行った膜を純水中に4時間浸漬した後、純水透水量を測定した。結果を表1に示す。
【0024】
また、上記と同様にして包装・密封したサンプルについて、保存1日後に包装材内部のガス中の酸素濃度を測定し、密封後1日以内に酸素濃度が0.1体積%以下になっていることを確認した。
3ヶ月保存した後に包装材内部のガスをサンプリングし、酸素濃度を測定した。次いで、膜の外観等を観察した後、純水透水量を測定した。結果を表1に示す。実施例では、いずれも外観上の変化が見られず、また、純水透水量も保存前と同等であった。
【0025】
なお、比較例1では酸素吸収剤を入れなかった他は実施例2と同様にして保存した。また、比較例2では無機塩を含有しない純水に浸漬した他は実施例1〜8と同様にして保存した。
実施例1〜8と同様にして包装材内部の酸素濃度を測定し、膜の外観および純水透水量を測定した。これらの結果を表1に示す。比較例1では、膜表面に灰白色の微生物集合体が多量に付着しており、純水透水量は保存前に比べて低下していた。また、比較例2では、異臭がし、純水透水量は保存前に比べて低下していた。
【0026】
【実施例9〜11および比較例3】
参考例1の中空糸膜を、0.75mol/リットルの塩化カルシウム水溶液に浸漬し、25℃で30分間保持した。次いで、該膜を水溶液中から取り出して、温度25℃−55%RHの環境で1時間乾燥した。
該膜中の無機塩含有量と無機塩濃度を測定したところ、無機塩含有量、含水量は、各々1.9mol/kg−ポリマー、0.5kg/kg−ポリマーであった。また、無機塩濃度は3.5mol/リットルであった。
【0027】
次ぎに、上記の無機塩処理を施した中空糸膜300本を内径25mmの透明アクリル樹脂製ケースに挿入し、両端部をウレタン樹脂で封止して、濾過モジュール(膜の総外表面積0.38m2 )を形成した。該濾過モジュールに表2に示す各酸素濃度に調整した酸素/窒素混合ガスを封入し、該モジュールの両端部および両ノズル口に蓋をして密閉した状態で6ヶ月間25℃環境下で保存した。
6ヶ月後にモジュール内部のガスをサンプリングして酸素濃度を測定し、封入時の酸素濃度と同等であることを確認した。次いで、モジュールを解体して膜表面を観察し、膜の純水透水量を測定した。その結果を表2に示す。実施例では、いずれも外観上の変化がなく、純水透水量も保存前と同等な値を示した。これに対して、比較例3では灰白色の微生物集合体が付着しており、純水透水量は保存前に比べて低下していた。
【0028】
【実施例12】
実施例9と同様にして無機塩処理した中空糸膜を収納した濾過モジュール(膜の総外表面積0.38m2 )を作製した。次いで、純水を該モジュール容積の500倍量通水して膜を洗浄した後、外圧1kgf/cm2 を印加して純水透水量を測定した。結果は、110リットル/hrであった。
次に、該モジュールの中空糸外部の液を抜き出した後、2mol/リットルの塩化カルシウム水溶液を充填して2時間保持した。その後、該モジュール内から塩化カルシウム水溶液を抜液した。以上の操作を2本のモジュールについて行い、片方の1本を解体して中空糸を取り出し、無機塩含有量および無機塩濃度を測定したところ、無機塩含有量、含水量は、各々5.2mol/kg−ポリマー、2.5kg/kg−ポリマーであり、無機塩濃度が2.0mol/リットルであった。
【0029】
上記の無機塩処理を施した濾過モジュールの端部及びノズル口を開放したまま、酸素吸収剤(三菱ガス化学社製『エージレスZ−500』3個と共に延伸ポリプロピレン/エチレン−ビニルアルコール共重合物/ポリエチレンの三層ラミネートフィルムで包装して密封状態とし、ダンボール箱に収納して6ヶ月間25℃−55%RHの環境で保存した。
保存6ヶ月後に包装材中のガスをサンプリングして酸素濃度を測定したところ、0.1体積%以下であった。次ぎに該モジュールを観察したところ、外観や臭気等の異常が全くなかった。また、保存前と同様にして純水透水量を測定したところ、108リットル/hrと保存前と同等な値であった。
【0030】
【参考例2】
特開平3−215535号公報に記載の方法に準じて、ポリフッ化ビニリデン製中空糸を製膜した。該膜を25℃の塩化メチレン中に1時間浸漬してフタル酸エステルを抽出した後、70℃で乾燥した。次いで、50%エタノール水溶液に30分間浸漬した後水中に移し、さらに、70℃の5wt%水酸化ナトリウム水溶液中に16時間浸漬して疎水性シリカを抽出した。次いで、充分水洗した後に乾燥して、ポリフッ化ビニリデン製中空糸膜を得た。該膜は、外径1.25mm、内径0.7mm、平均孔径(ASTM F316−70に記載されているハーフドライ法により、エタノールを用いて測定した値)0.20μmであった。
【0031】
【実施例13】
参考例2の膜300本を内径25mmの透明アクリル樹脂製ケースに挿入し、両端部をウレタン樹脂で封止して、濾過モジュール(膜の総外表面積0.35m2 )を形成した。該濾過モジュールにエタノール(試薬特級)を封入して30分間静置し、次いで、純水を通水してエタノールを洗浄・除去した後、外圧1kgf/cm2 を印加して純水透水量を測定した。結果は、420リットル/hrであった。
【0032】
次に、該モジュールの中空糸外部の液を抜き出した後、2mol/リットルの塩化カルシウム水溶液を充填して2時間保持した。その後、該モジュール内から塩化カルシウム水溶液を抜液した。以上の操作を2本のモジュールについて行い、片方の1本を解体して中空糸を取り出し、無機塩含有量および無機塩濃度を測定したところ、無機塩含有量、含水量は、各々2.1mol/kg−ポリマー、0.9kg/kg−ポリマーであり、無機塩濃度が2.0mol/リットルであった。
【0033】
上記の無機塩処理を施した濾過モジュールを実施例12と同様にして6ヶ月間保存した。保存期間中における包装材中の酸素濃度は、0.1体積%以下であった。
6ケ月後に該モジュールを観察したところ、外観や臭気等の異常は全くなかった。また、保存前と同様にして純水透水量を測定したところ、422リットル/hrと保存前と同等な値であった。
【0034】
【実施例14】
無機塩水溶液として2mol/リットルの塩化ナトリウム水溶液を用いた他は、実施例13と同様にして各操作と保管を行った。該モジュール中の膜内の無機塩含有量、含水量、無機塩濃度は、各々2.1mol/kg−ポリマー、1.0kg/kg−ポリマーであり、無機塩濃度が2.0mol/リットルであった。保存6ヶ月後に包装材中のガスをサンプリングして酸素濃度を測定したところ、0.1体積%以下であった。次ぎに該モジュールを観察したところ、外観や臭気等の異常は全くなかった。また、保存前と同様にして純水透水量を測定したところ、418リットル/hrと保存前と同等な値であった。
【0035】
【比較例4】
包装材で密封するに際して酸素吸収剤を同封しなかった他は、実施例14と同様にして6ヶ月間保存した。
保存6ヶ月後に包装材中のガスをサンプリングして酸素濃度を測定したところ、18体積%であった。次ぎに該モジュールを観察したところ、モジュール端部や膜表面に灰白色の微生物集合体が付着していた。また、純水透水量を測定したところ、350リットル/hrと透水性能が低下していた。
以下に、表1および表2を掲げる。
【0036】
【表1】
Figure 0004392909
【0037】
【表2】
Figure 0004392909
【0038】
【本発明の効果】
以上に述べたように、本発明の方法は、保存中における微生物の繁殖による外観不良や膜性能の低下を防止することができ、その持続期間は6ヶ月以上の長期間に渡る優れた方法である。また、使用する無機塩は安全な物質であるとともに、容易に洗浄できるので使用時の溶出の懸念がない。従って、実用上極めて有用である。

Claims (4)

  1. 水を含有した膜の保存方法において、膜中に塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、塩化鉄、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸アルミニウム、硝酸鉄、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸水素カリウム、硫酸マグネシウム、チオシアン酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムの中から選ばれた少なくとも1種の無機塩を含有させ、かつ、該膜が暴露されている気相中の酸素濃度を1体積%以下に保持することを特徴とする分離膜および分離膜モジュールの保存方法。
  2. 該膜内の水の含有量と無機塩の含有量とから計算される無機塩の濃度が、0.5mol/リットルから25℃における飽和近傍濃度の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の保存方法。
  3. 該膜が精密濾過膜又は限外濾過膜であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の分離膜および分離膜モジュールの保存方法。
  4. 該膜がセルロース、ビニルアルコール系樹脂、アクリル系樹脂、フッ化ビニリデン系樹脂、スルフォン系樹脂、オレフィン系樹脂やセラミック系のものからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の分離膜および分離膜モジュールの保存方法。
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