JP4389593B2 - 硬質被覆層が高速断続切削ですぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具 - Google Patents

硬質被覆層が高速断続切削ですぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具 Download PDF

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この発明は、特に鋼や鋳鉄などの高速断続切削時に切刃部にきわめて短いピッチで繰り返し付加される機械的衝撃に対して硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具(以下、被覆サーメット工具という)に関するものである。
従来、一般に、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットで構成された基体(以下、これらを総称して工具基体という)の表面に、
(a)下部層として、いずれも化学蒸着形成されたTiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上の積層からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層として、化学蒸着形成した状態でα型の結晶構造を有し、かつ1〜15μmの平均層厚を有する蒸着α型酸化アルミニウム(以下、Al23で示す)層、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を蒸着形成してなる被覆サーメット工具が知られており、この被覆サーメット工具が、例えば各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削に用いられていることも知られている。
また、一般に、上記の被覆サーメット工具の硬質被覆層を構成するTi化合物層やAl23 層が粒状結晶組織を有し、さらに、前記Ti化合物層を構成するTiCN層を、層自身の強度向上を目的として、通常の化学蒸着装置にて、反応ガスとして有機炭窒化物、例えばCH3CNを含む混合ガスを使用し、700〜950℃の中温温度域で化学蒸着することにより形成して縦長成長結晶組織をもつようにすることも知られている。
特開平6−31503号公報 特開平6−8010号公報
近年の切削装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は一段と高速化の傾向にあるが、上記の従来被覆サーメット工具においては、これを鋼や鋳鉄などの通常の条件での連続切削や断続切削に用いた場合には問題はないが、特にこれを切削条件の最も厳しい高速断続切削、すなわち切刃部にきわめて短いピッチで繰り返し機械的衝撃が付加される高速断続切削に用いた場合、硬質被覆層の上部層を構成する蒸着α型Al23層は、高い高温硬さを有し、かつ耐熱性にすぐれているものの、機械的衝撃に脆いために、硬質被覆層にはチッピング(微小欠け)が発生し易くなり、この結果比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、上記の被覆サーメット工具の硬質被覆層の上部層を構成するα型Al23層の耐チッピング性向上をはかるべく研究を行った結果、
工具基体の表面に、通常の化学蒸着装置で、下部層として、通常の条件で、上記Ti化合物層を形成した後、同じく通常の条件で、結晶構造がκ型またはθ型のAl23層を蒸着形成し、この状態で水素雰囲気中、温度:1000〜1100℃、保持時間:2〜10時間の条件で加熱処理を施すと、前記Al23層のκ型またはθ型の結晶構造はα型結晶構造に変態し、かつ図1に概略断面模式図で示される通り、加熱変態生成クラックが層中に分布した組織を有するようになり、この結果の加熱変態α型Al23層を層基体とし、前記層基体中に存在する樹枝状不連続クラックの分布形態を、前記層基体表面に対するショットブラスト処理、望ましくは、内径:50mm×長さ:50mmの寸法をもったブラストノズルを用い、ブラスト投射角度:45〜90度、ブラスト投射圧力:200〜400kPa、ショットの粒径:0.1〜0.5mm、の条件で鋼球をブラストするショットブラスト処理で、図2に概略断面模式図で示される通り、網目状連続クラックとした状態で、これに前記層基体との合量に占める割合で0.5〜5質量%のTiNを、同じく通常の条件で、化学蒸着充填して、図3に概略断面模式図で示される通りの組織とすることにより形成したクラック充填加熱変態α型Al23層を上部層とすると、この上部層においては、すぐれた高温強度を有するクラック充填TiNが、Al23と強固に密着した状態で前記層基体中に存在するので、硬質被覆層の下部層が上記Ti化合物層で構成され、同上部層が上記のクラック充填加熱変態α型Al23層で構成された被覆サーメット工具においては、前記上部層を構成するクラック充填加熱変態α型Al23層中に網目状に連続して分布するTiNが、特に高速断続切削時の激しい機械的衝撃を吸収して、これを緩和することから硬質被覆層におけるチッピング発生が著しく抑制されるようになるという研究結果を得たのである。
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、WC基超硬合金またはTiCN基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)下部層として、いずれも化学蒸着形成されたTiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層、およびTiCNO層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層として、
(b−1)化学蒸着形成した状態でκ型またはθ型の結晶構造を有するAl23層に、加熱処理を施して、結晶構造をα型結晶構造に変態してなると共に、断面観察で層中に、加熱変態生成クラックとしての樹枝状不連続クラックが分布した組織および1〜15μmの平均層厚を有する加熱変態α型Al23層を層基体とし、
(b−2)上記層基体中に存在する樹枝状不連続クラックの分布形態を、前記層基体表面に対するショットブラスト処理で、同じく断面観察で層中に網目状連続クラックが分布した状態とし、
(b−3)上記網目状連続クラックに前記層基体との合量に占める割合で0.5〜5質量%のTiNを化学蒸着充填してなる、
上記(b−1)〜(b−3)の要件を満足するクラック充填加熱変態α型Al23層、
上記下部層および上部層で構成された硬質被覆層を形成してなる、硬質被覆層が高速断続切削ですぐれた耐チッピング性を発揮する被覆サーメット工具に特徴を有するものである。
なお、この発明の被覆サーメット工具の硬質被覆層の構成層を上記の通りに数値限定した理由を以下に説明する。
(a)下部層(Ti化合物層)
Ti化合物層は、自体が高温強度を有し、これの存在によって硬質被覆層が高温強度を具備するようになるほか、工具基体と上部層であるクラック充填加熱変態α型Al23層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その合計平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その合計平均層厚が20μmを越えると、特に高熱発生を伴なう高速断続切削で熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その合計平均層厚を3〜20μmと定めた。
(b)上部層(クラック充填加熱変態α型Al23層)
クラック充填加熱変態α型Al23層には、Al23自体のもつ高い高温硬さとすぐれた耐熱性によって硬質被覆層の耐摩耗性を向上させると共に、上記の通り上部層中に網目状に連続して分布するTiNの作用で機械的衝撃を吸収して、硬質被覆層にチッピングが発生するのを著しく抑制する作用があるが、その平均層厚が1μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その平均層厚が15μmを越えて厚くなりすぎると、高速断続切削ではチッピングの発生を完全に防止することができなくなることから、その平均層厚を1〜15μmと定めた。
また、上記の通り、上部層中に網目状に連続して分布するTiNには、切削時に発生する機械的衝撃を吸収して、硬質被覆層にチッピングが発生するのを著しく抑制する作用があるが、その割合が層基体との合量に占める割合で0.5質量%未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その割合が同じく5質量%を越えると、急激に上部層自体の耐摩耗性が低下するようになることから、TiNの割合を層基体との合量に占める割合で0.5〜5質量%と定めた。
なお、切削工具の使用前後の識別を目的として、黄金色の色調を有するTiN層を、最表面層として、必要に応じて蒸着形成してもよいが、この場合の平均層厚は0.1〜1μmでよく、これは0.1μm未満では、十分な識別効果が得られず、一方前記TiN層による前記識別効果は1μmまでの平均層厚で十分であるという理由からである。
この発明の被覆サーメット工具は、硬質被覆層の上部層を構成するクラック充填加熱変態α型Al23層中に網目状に連続して分布するTiNの作用で、高速断続切削時に切刃部にきわめて短いピッチで繰り返し付加される機械的衝撃に対して、硬質被覆層がすぐれた耐チッピングを発揮するので、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するようになるものである。
つぎに、この発明の被覆サーメット工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr3 2 粉末、TiN粉末、TaN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO・CNMG120408に規定するスローアウエイチップ形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A〜Fをそれぞれ製造した。
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2 C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1540℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO規格・CNMG120412のチップ形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体a〜fを形成した。
ついで、これらの工具基体A〜Fおよび工具基体a〜fの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、表3(表3中のl−TiCNは特開平6−8010号公報に記載される縦長成長結晶組織をもつTiCN層の形成条件を示すものであり、これ以外は通常の粒状結晶組織の形成条件を示すものである)に示される条件にて、表4に示される目標層厚のTi化合物層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、ついで同じく表3に示される条件で結晶構造がκ型またはθ型のAl23層を表5に示される組み合わせで、かつ目標層厚で蒸着形成し、これに Paの水素雰囲気中、温度:1050℃に2〜10時間の範囲内の所定時間保持の条件で加熱処理を施して、前記κ型またはθ型の結晶構造をα型に変態させ、かつ加熱変態生成クラックが層中に分散分布した加熱変態α型Al23層を形成し、さらに前記加熱変態α型Al23層の表面を、内径:50mm×長さ:50mmの寸法をもったブラストノズルを用い、表4に示されるショットブラスト条件ア〜クのうちのいずれかの条件で、ショットブラスト処理して、前記加熱変態α型Al23層中に図1に示される樹枝状に断続して存在したクラックを図2に示される通りの網目状に連続したクラックとし、この状態で同じく表3に示されるTiN層の形成条件と同じ条件で化学蒸着処理を施して、前記加熱変態α型Al23層の前記網目状連続クラックを、図3に示される通り、同じく表5に示される割合のTiNで充填してなるクラック充填加熱変態α型Al23層を硬質被覆層の上部層として形成することにより本発明被覆サーメット工具1〜13をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、表6に示される通り、硬質被覆層の上部層を同じく表6に示される目標層厚の蒸着α型Al23層とする以外は同一の条件で従来被覆サーメット工具1〜13をそれぞれ製造した。
この結果得られた本発明被覆サーメット工具1〜13の硬質被覆層の上部層であるクラック充填加熱変態α型Al23層において、上記の表5に示されるクラック充填TiNの割合は電子線マイクロアナライザーを用いて測定した結果をそれぞれ示すものである。
また、本発明被覆サーメット工具1〜13および従来被覆サーメット工具1〜13の硬質被覆層の構成層の厚さを、走査型電子顕微鏡を用いて測定(縦断面測定)したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。
つぎに、上記の各種の被覆サーメット工具をいずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆サーメット工具1〜7および従来被覆サーメット工具1〜7については、
被削材:JIS・SNCM439の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:320m/min、
切り込み:4.5mm、
送り:0.2mm/rev、
切削時間:5分、
の条件(切削条件A)での合金鋼の乾式高速断続切削試験(通常の切削速度は200m/min)、
被削材:JIS・FCD450の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:350m/min、
切り込み:3.0mm、
送り:0.3mm/rev、
切削時間:5分、
の条件(切削条件B)でのダクタイル鋳鉄の乾式高速断続切削試験(通常の切削速度は200m/min)を行った。
さらに、本発明被覆サーメット工具8〜13および従来被覆サーメット工具8〜13については、
被削材:JIS・SKD1の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:200m/min、
切り込み:3.0mm、
送り:0.25mm/rev、
切削時間:5分、
の条件(切削条件C)での工具鋼の乾式高速断続切削試験(通常の切削速度は100m/min)、
被削材:JIS・S35Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:300m/min、
切り込み:2.0mm、
送り:0.3mm/rev、
切削時間:5分、
の条件(切削条件D)での炭素鋼の乾式高速断続切削試験(通常の切削速度は200m/min)を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表7に示した。
表5〜7に示される結果から、本発明被覆サーメット工具1〜13は、硬質被覆層の上部層を構成するクラック充填加熱変態α型Al23層中に網目状に連続して分布するクラック充填TiNの作用で、機械的衝撃がきわめて高い各種鋼や鋳鉄の高速断続切削でも、切刃部のチッピング発生が著しく抑制され、すぐれた耐摩耗性を発揮するのに対して、硬質被覆層の上部層が蒸着α型Al23層からなる従来被覆サーメット工具1〜13においては、高速断続切削では前記蒸着α型Al23層が激しい機械的衝撃に耐えられず、切刃部にチッピングが発生し、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆サーメット工具は、各種鋼や鋳鉄などの通常の条件での連続切削や断続切削は勿論のこと、特に機械的衝撃がきわめて高い、厳しい条件の高速断続切削でもすぐれた耐チッピング性を示し、長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮するものであるから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
加熱変態α型Al23層の断面を示す概略模式図である。 ショットブラスト処理後の加熱変態α型Al23層の断面を示す概略模式図である。 クラック充填加熱変態α型Al23層の断面を示す概略模式図である。

Claims (1)

  1. 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
    (a)下部層として、いずれも化学蒸着形成されたTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
    (b)上部層として、
    (b−1)化学蒸着形成した状態でκ型またはθ型の結晶構造を有する酸化アルミニウム層に、加熱処理を施して、結晶構造をα型結晶構造に変態してなると共に、断面観察で層中に、加熱変態生成クラックとしての樹枝状不連続クラックが分布した組織および1〜15μmの平均層厚を有する加熱変態α型酸化アルミニウム層を層基体とし、
    (b−2)上記層基体中に存在する樹枝状不連続クラックの分布形態を、前記層基体表面に対するショットブラスト処理で、同じく断面観察で層中に網目状連続クラックが分布した状態とし、
    (b−3)上記網目状連続クラックに前記層基体との合量に占める割合で0.5〜5質量%の窒化チタンを化学蒸着充填してなる、
    上記(b−1)〜(b−3)の要件を満足するクラック充填加熱変態α型酸化アルミニウム層、
    上記下部層および上部層で構成された硬質被覆層を形成してなる、硬質被覆層が高速断続切削ですぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具。
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