JP4387120B2 - 深播耐性に関与する遺伝子等についての新規遺伝マーカーおよびその利用法 - Google Patents

深播耐性に関与する遺伝子等についての新規遺伝マーカーおよびその利用法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規遺伝マーカー(例えば、DNAマーカー)、例えば、オオムギ5H染色体長腕末端部における、深播耐性に関与する遺伝子等についての新規遺伝マーカーと、その利用法とに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
1980年代後半から、植物において遺伝マーカー(例えば、DNAマーカー)とそれらを利用した連鎖地図作成が急速に行われてきた。このDNAマーカーの検出技術の発展は、形態的形質に関与する標識遺伝子を遺伝マーカーとして用いてきた従来の連鎖解析を飛躍的に進展させた。例えば、イネでは、病虫害抵抗性等に代表される単一遺伝子が関与している形質の連鎖解析が効率化されたばかりでなく、従来の方法では解析が困難とされてきた複数の遺伝子が関与する形質(量的形質)についても、DNAマーカーによる関与遺伝子座の解析が可能となった。
【0003】
ここで、「量的形質」について簡単に説明する。単一主働遺伝子支配の形質に対して、出穂期や稈長に代表される多くの農業上重要な形質は、雑種後代で連続的な変異を示すものが多い。このような形質は一般に複数の遺伝子の作用によって決定されている場合が多く、総称して量的形質と呼ばれている。作物の育種において改良対象とされる形質の多く、例えば収量や品質・食味等はこの量的形質に含まれる。
【0004】
係る量的形質に関与する個々の遺伝子座は量的形質遺伝子座(Quantitative Trait Loci:QTL)と呼ばれ、DNAマーカーの利用以前は、連鎖がみられる遺伝様式が明瞭な形態や生化学的な形質を司る遺伝子をマーカーとし、これらのマーカーとの連鎖分析によって試みられてきた。しかしながら、形態的なマーカーは多面発現といったそれ自体が目的の形質に影響する場合が多く、さらに染色体全体に分散する形態的なマーカーを用いることは事実上不可能であった。
【0005】
そのため、新しい遺伝的なマーカーを利用した方法が開発された。核DNAを制限酵素により切断すると、個体または系統によりDNA断片の長さが異なることがある。これをDNA多型と呼ぶ。DNA多型は、通常の形態形質を司る遺伝子と同じくメンデル遺伝をすることから、これらを遺伝的なマーカーとして利用し、相互の遺伝的連鎖の程度を推定して距離の指標とすれば、マーカー相互の染色体上の位置を示す連鎖地図が作成できる。このマーカーをRFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism)マーカーと呼ぶ。1980年代になってRFLPマーカーに代表されるDNAマーカーが開発され、量的形質遺伝子座のマッピングも現実的なものとなった。
【0006】
上記RFLPマーカーのようなDNAマーカーによる詳細な連鎖地図を利用することにより、量的形質を支配する遺伝子座(QTL)の連鎖分析も可能となった。また、単に、連鎖群上のDNAマーカーの数が増えても、該当するDNAマーカーがないと連鎖地図上にギャップができる。しかし、ギャップはDNAマーカーの種類を変えることにより埋まる可能性があり、RFLPマーカーによって作成された連鎖地図上のギャップを、マイクロサテライトマーカーなどを使って補う試みも行われている。現在、図1に示すように、DNAマーカーとしては種々のマーカーが開発され利用されている。
【0007】
さらに上記QTL解析は、これまで解析が困難とされた環境による影響を受け易い耐病性や、培養特性などの遺伝性に関する研究にも利用されている(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0008】
また、オオムギの深播耐性についても、QTLを用いた遺伝解析が進められている。「深播耐性」とは、図2に示すように、乾燥地のように、地表層に種子の発芽に必要な水分が少ない地域では、土壌深くの水分で作物を育てる必要があるため、乾燥地では種子を土壌深くに播いても出芽する耐性が要求され、このような地中深くからでも出芽できる性質のことである。深播耐性は半乾燥地における畑作物の苗立ちの安定性に資するだけでなく、イネの直播栽培における苗立ちの安定性にも利用できると考えられる。
【0009】
これまでオオムギの「Harrington」と「TR306」および「Steptoe」と「Morex」のF1からバルボッサム法で作出された倍加半数体(DH)系統を用いて、深播耐性に関連するQTL解析を行い、3〜4個のQTLが見出されている(非特許文献3参照)。
【0010】
また、オオムギの5H染色体長腕末端部に作用力の大きいQTLが見出され、深播耐性のQTLの約半数は、子葉鞘長および第1節間長のQTLと同座あるいは近傍に位置すると報告した。オオムギ5H染色体長腕末端部には、休眠性(GA3感受性)やストレス耐性(耐湿性、ABA感受性など)に関与する遺伝子やQTLも報告されている(例えば、非特許文献4、5参照)。
【0011】
また、QTL解析に用いたオオムギ品種の「Harrington」と「TR306」のDH系統による連鎖地図によると、5H染色体長腕末端部のDNAマーカーはABC309およびMWG632であることが報告された(非特許文献6参照)。
【0012】
【非特許文献1】
Mano, Y., Takahashi, H., Sato, K and Takeda, K.共著、「Mapping Genes for Callus Growth and Shoot Regeneration in Barley (Hordeum vulgare L.) 」、Breeding Science、46: 137〜142、1996
【0013】
【非特許文献2】
Graner, A., Streng, S., Kellermann, A., Schiemann, A., Bauer, E., Waugh, R., pellio, B., Ordon, F共著、「Molecular mapping and genetic fine-structure of the rym5 locus encoding resistance To different strains of the Barley Yellow Mosaic Virus Complex.」、Theor Appl Genet 98:285-290、1999
【0014】
【非特許文献3】
Takahashi, H., Sato, K. & Takeda, K,共著、「Mapping genes for deep-seeding tolerance in barley.」、Euphytica, 122:37-43、2001.
【0015】
【非特許文献4】
武田和義著、「オオムギにおける種子休眠性のQTL解析」 育種学雑誌、46、別1:207.1996.
【0016】
【非特許文献5】
岩佐友彦,高橋秀和,武田和義共著、「オオムギ種子感水性のQTLマッピング」、岡山大学資源生物科学研究所報告、1999.
【0017】
【非特許文献6】
Mather, D.著、「Barley Steptoe X Morex and Harrington X TR306 basemaps.」、1995. HYPERLINK "(http://gnome.agrenv.mcgill.ca/info/basemaps.htm" (http://gnome.agrenv.mcgill.ca/info/basemaps.htm.)
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、QTL解析が有効であるための前提条件には、順序の正確な遺伝マーカー(例えば、DNAマーカー)による連鎖地図が作成されていることである。一般に、マーカー間の密度が高いほど新しくマップされるQTLの位置の精度が高くなり、また、インターバルマッピングによるQTLマップの推定精度は、マーカー間の組換え価が小さいほど推定精度が高い傾向にある。さらに高密度な連鎖地図が利用されれば、QTLの単離も可能になる。
【0019】
しかしながら、上述のような従来のオオムギ5H染色体長腕末端部におけるDNAマーカーのみでは、深播耐性、休眠性、ストレス耐性に関する遺伝子やQTLを単離・同定するための、詳細な連鎖地図を作製できないという問題がある。
【0020】
したがって、オオムギの深播耐性、休眠性、ストレス耐性に関する遺伝子やQTLをQTL解析によって単離・同定するための、信頼性の高い連鎖地図を作製するために、さらなるオオムギ5H染色体長腕末端部における遺伝マーカーが強く求められていた。
【0021】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、新規遺伝マーカー、特に、オオムギ5H染色体長腕末端部における、深播耐性等に関与する遺伝子等についての新規遺伝マーカーと、その利用法とを提供することにある。
【0022】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意検討した結果、オオムギの5H染色体長腕末端部のABC309〜MWG632近傍とみられるマーカー情報を収集し、PCR法で利用可能なマーカーの開発、ならびにマッピング、新規に作成された連鎖地図による深播耐性の解析を行ったところ、オオムギの「深播耐性」に関する遺伝子と連鎖するDNAマーカーを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0023】
すなわち、本発明に係る遺伝マーカーは、以下の(a)または(b)に示される塩基配列を有することを特徴としている。(a)配列番号1〜22のいずれかに示される塩基配列。(b)配列番号1〜22のいずれかに示される塩基配列において、1またはそれ以上の塩基が置換、欠失、挿入、及び/または付加された塩基配列であって、植物の深播耐性、休眠性、またはストレス耐性に関連する遺伝子またはQTLと連鎖する塩基配列。
【0024】
上記のような遺伝マーカーは、オオムギの深播耐性に関する遺伝子と連鎖するため、作物育種におけるマーカー選抜(marker assisted selection)を可能にするばかりでなく、連鎖地図作製にも利用可能であり、地図情報を利用した遺伝子単離(map-based cloning)の基盤となる。すなわち、上記遺伝マーカーによれば、オオムギの「深播耐性」に関する遺伝子を単離・同定するためのQTL解析等に有用な連鎖地図を作製することができる。さらに、上記遺伝マーカーを指標として、「深播耐性」の植物を選択的に育種することが可能となる。
【0025】
また、上述したように、オオムギ5H染色体長腕末端部における、オオムギの「深播耐性」に関するQTLとほぼ同座あるいはその近傍には、ストレス耐性(耐湿性、ABA反応性等)、休眠性に関する遺伝子やQTLが存在している。このため、上記遺伝マーカーを用いることにより、オオムギのストレス耐性(耐湿性、ABA反応性等)、休眠性に関する遺伝子やQTLをも単離・同定することができると考えられる。
【0026】
なお、上記植物は、ムギ類植物であることが好ましい。特に、本発明に係る遺伝マーカーは、オオムギ由来であることが好ましい。また、オオムギ5H染色体長腕末端部における遺伝マーカーであることが好ましい。さらに、STS(sequence tagged site)マーカーであることが好ましい。
【0027】
また、本発明に係る連鎖地図は、従来から知られている遺伝マーカーに加えて、さらに、上記いずれかの遺伝マーカーを用いて作製されているオオムギ5H染色体長腕末端部における連鎖地図である。
【0028】
上記の連鎖地図は、オオムギの深播耐性、ストレス耐性(耐湿性、ABA反応性等)、休眠性に関する遺伝子またはQTLについて、の正確かつ信頼性の高い連鎖地図である。このため、オオムギの深播耐性、ストレス耐性(耐湿性、ABA反応性等)、休眠性に関する遺伝子またはQTLについて、より詳細なQTL解析を行うために利用することができる。
【0029】
また、本発明に係る遺伝子等の単離方法は、少なくとも、請求項1〜5のいずれか1項に記載の遺伝マーカーを用いて、植物染色体から深播耐性、休眠性、またはストレス耐性に関連する遺伝子またはQTLの座乗位置を特定する工程を含むことを特徴とする深播耐性、休眠性、またはストレス耐性に関連する遺伝子またはQTLの単離方法である。
【0030】
上記の方法によれば、オオムギの「深播耐性」に関する遺伝子と連鎖する遺伝マーカーを利用するため、オオムギの深播耐性、ストレス耐性(耐湿性、ABA反応性等)、休眠性に関する遺伝子またはQTLを、効率的に単離・同定することができる。
【0031】
また、本発明に係るQTL解析方法は、上記いずれかの遺伝マーカー、あるいは上記連鎖地図を用いて、オオムギの深播耐性、休眠性、またはストレス耐性に関連する遺伝子またはQTLについてのQTL解析を行う方法である。
【0032】
上記の方法によれば、オオムギの「深播耐性」に関する遺伝子と連鎖する遺伝マーカーを利用するため、オオムギの深播耐性、ストレス耐性(耐湿性、ABA反応性等)、休眠性に関する遺伝子またはQTLについて、効率的なQTL解析を行うことができる。
【0033】
また、本発明に係る植物選抜方法は、上記いずれかの遺伝マーカーを指標として、深播耐性、休眠性、またはストレス耐性を有する植物を選抜する方法である。上記の構成によれば、上記遺伝マーカーと連鎖している深播耐性、休眠性、またはストレス耐性を有する植物を簡便に選抜することができる。
【0034】
【発明の実施の形態】
半乾燥地域において作物を栽培する場合、発芽時に土壌深部の水分を利用するために、当該作物の種子を土壌深くに播いて栽培する深播栽培が行われる。そのため、このような地域で栽培される作物では、深播条件での出芽力、すなわち深播耐性が必要となる。係るオオムギの深播耐性に関連するQTLは、オオムギ5H染色体長腕末端部に位置することが知られている。また、休眠性(GA3感受性)やストレス耐性(耐湿性、ABA感受性など)に関係する遺伝子やQTLも、深播耐性に関連するQTLとほぼ同座あるいは近傍に位置することが知られている。しかし、これまで知られているDNAマーカーだけでは、上記遺伝子やQTLの位置を詳細に検出することができない。
【0035】
そこで、本発明では、5H染色体長腕末端部におけるQTLの位置をより詳細に知るため、新規DNAマーカー、および当該DNAマーカーを用いたQTL解析方法、並びにオオムギ5H染色体の長腕末端部における詳細な連鎖地図を提供する。以下に、本発明のDNAマーカーおよびその利用法に関する実施の一形態について図1〜図24に基づいて順に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0036】
(1)本発明に係る遺伝マーカー
本発明に係る遺伝マーカーは、上述のように、以下の(a)または(b)に示される塩基配列を有する遺伝マーカーであればよい。(a)配列番号1〜22のいずれかに示される塩基配列。(b)配列番号1〜22のいずれかに示される塩基配列において、1またはそれ以上の塩基が置換、欠失、挿入、及び/または付加された塩基配列であって、植物の深播耐性、休眠性、またはストレス耐性に関連する遺伝子またはQTLと連鎖する塩基配列。
【0037】
本発明でいう、「QTL(Quantitative Trait Loci)」とは量的形質遺伝子座のことであり、「オオムギの深播耐性、休眠性、またはストレス耐性に関連するQTL」とは、オオムギの深播耐性、休眠性、またはストレス耐性といった量的形質に関与する個々の遺伝子座であればよい。また、「連鎖」とは、同じ染色体上に位置する2つ以上の遺伝子あるいは遺伝形質が組になって遺伝する現象をいう。また、「休眠性」とは、種子が成熟後に一定期間芽が出なくなる性質であり,成熟時に雨の多い地域で,成熟後穂に実の付いたまま発芽する穂発芽という障害に対する耐性となる性質のことをいい、「ストレス耐性」とは、例えば、耐湿性、ABA(abscisic acid:アブシジン酸)反応性をいい、具体的には、植物が不良な環境に対して健全に生育する能力を指している。
【0038】
以下に「耐湿性」と「ABA反応性(感受性)」とについて説明する。「耐湿性」とは、オオムギは中近東原産なので元来乾燥を好み、日本のように水田の裏作として湿った土壌で育てると根が呼吸できず、生育不良となり、排水不良で温度の高い場合などは枯れてしまう。耐湿性はこのような土壌が湿潤な条件でも生育できる作物のストレス耐性をいう。また、「ABA反応性」とは、ABAはabscisic acid(アブシジン酸)の略称であり、全ての高等植物にみとめられ、休眠性を制御したり、ストレス耐性において中心的な役割を担っているとされている。オオムギにおいても、休眠性や耐塩性とABA反応性は共通の作用機構が存在することが示唆されている。
【0039】
また、上記植物は、イネ科植物であることが好ましい。ここでいう「イネ科植物」とは、オオムギ属(Hordeum)、コムギ属、イネ等の植物であればよく、特に限定されるものではない。また、上記遺伝マーカーは、オオムギ由来であることが好ましく、オオムギのゲノムDNAまたはcDNA由来であってもよい。オオムギ属は、二条、六条等の条性、裸性、皮性、並・渦性等の諸性質は特に限定されないことは、いうまでもない。さらに、上記遺伝マーカーは、オオムギの5H染色体長腕末端部における遺伝マーカーであることが好ましい。
【0040】
また、上記遺伝マーカーは、STSマーカーであることが好ましい。ここでいう「STSマーカー」とは、配列認識部位マーカーのことであり、DNA断片の染色体上の位置を知るため等に用いられる塩基配列マーカーであって、ゲノム上で唯一しか存在しないような特異的な塩基配列(例えば、DNA配列等)を含んでいるマーカーをいう。また、STSマーカーとは、STSプライマーで増幅される全ての塩基多型(断片長,塩基置換)とも換言できる。
【0041】
なお、本発明の「遺伝マーカー」には、RNA及びDNAが含まれるものとする。RNAにはmRNAが含まれ、DNAには、例えばクローニングや化学合成技術またはそれらの組み合わせで得られるようなcDNAやゲノムDNAなどが含まれる。また、DNAは二本鎖でも一本鎖でもよく、一本鎖DNAは、センス鎖となるコードDNAでもよく、アンチセンス鎖となるアンチコード鎖でもよい。さらに、本発明の「遺伝マーカー」は、上記(a)または(b)の塩基配列以外に、その他の塩基配列、例えば、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの塩基配列を含むものであってもよい。
【0042】
また、本発明でいう「1またはそれ以上の塩基が置換、欠失、挿入、および/または付加された」とは、公知の人為的な手法により置換、欠失、挿入、および/または付加できる程度の数の塩基が置換、欠失、挿入、および/または付加される変異を意味する。また、上記変異は、人為的に導入された変異ではなくてもよい。例えば、天然に存在する植物のゲノムから同様の変異を有するポリヌクレオチドを単離して、本発明にかかる遺伝マーカーとして用いてもよい。
【0043】
本実施の形態では、具体的には、▲1▼配列番号1〜18に示される塩基配列のうちいずれか1つの塩基配列を有するゲノムDNA(マーカー:ABG314とその多型)、▲2▼配列番号19〜22に示される塩基配列のうちいずれか1つの塩基配列を有するcDNAまたはゲノムDNA(マーカー:ABC718)のほか、上記ゲノムDNA、cDNAの塩基配列に対応する塩基配列を有するmRNA等が例示される。
【0044】
以下、上記▲1▼、▲2▼の遺伝マーカー(DNAマーカー)について詳細に説明する。
【0045】
(1−1)DNAマーカー:ABG314について
ABG314は、配列番号33、34の塩基配列に示されるSTSプライマーによって増幅されるDNA配列の多型であって、配列番号1〜16のいずれか1つあるいは配列番号17〜18に示される塩基配列を有する多型を含み、深播耐性、ストレス耐性、または休眠性の遺伝子またはQTLの近傍に位置するDNAマーカーである。すなわち、ABG314は、5H染色体長腕末端部に位置すると考えられるオオムギ深播耐性に関わるQTLと連鎖するDNAマーカーであると考えられる。
【0046】
ABG314のSTSプライマーと、オオムギ品種「Harrington」および「TR306」から得たゲノムDNAとを用いてPCR反応を行い、PCR増幅断片を得た。そして、ABG314のSTSプライマーによるPCR増幅断片を制限酵素 Afa Iで処理すると、図12に示すように、「Harrington」では約1,500 bpの断片がみられ、「TR306」では1,600 bpの断片が確認された(図12参照)。すなわち、ABG314は、オオムギ品種「Harrington」および「TR306」の間において、1塩基の多型が見られ、この1塩基多型は制限酵素処理によって確認できることがわかった。このことから、ABG314は、STSマーカーとして利用可能であると考えられる。
【0047】
次いで、上記STSプライマーを用いて、種々のオオムギ品種のゲノムDNAを鋳型として、ABG314の多型を調べた。その結果、オオムギの16品種から多型が得られた。なお、ABG314は4kbp程度の配列であったため、ABG314の多型の塩基配列は、上記STSプライマーより20〜30塩基対から約900塩基対程度まで特定できた。これら塩基配列を配列番号1〜18に示す。
【0048】
具体的には、配列番号1に示される塩基配列は、後述する実施例の図22に示す、OU番号(岡山大学 資源生物科学研究所 大麦・野性植物資源研究センターの整理番号)がB608、品種名「Media」におけるABG314多型であり、678塩基対からなるDNAマーカーである。同様に、配列番号2に示される塩基配列は、図22に示す、OU番号がB623、品種名「Algiers」におけるABG314多型であり、767塩基対からなるDNAマーカーである。また、配列番号3に示される塩基配列は、図22に示す、OU番号がB009、品種名「Poda」におけるABG314多型であり、678塩基対からなるDNAマーカーである。また、配列番号4に示される塩基配列は、図22に示す、OU番号がB720、品種名「Hatial」におけるABG314多型であり、811塩基対からなるDNAマーカーである。また、配列番号5に示される塩基配列は、図22に示す、OU番号がT057、品種名「Turkey169」におけるABG314多型であり、891塩基対からなるDNAマーカーである。また、配列番号6に示される塩基配列は、図22に示す、OU番号がU040、品種名「Bohemia Nackt」におけるABG314多型であり、891塩基対からなるDNAマーカーである。また、配列番号7に示される塩基配列は、図22に示す、OU番号がK758、品種名「論山裸1-6」におけるABG314多型であり、914塩基対からなるDNAマーカーである。また、配列番号8に示される塩基配列は、図22に示す、OU番号がJ533、品種名「北陸皮16号」におけるABG314多型であり、891塩基対からなるDNAマーカーである。また、配列番号9に示される塩基配列は、図22に示す、OU番号がJ149、品種名「坊主裸」におけるABG314多型であり、901塩基対からなるDNAマーカーである。また、配列番号10に示される塩基配列は、図22に示す、OU番号がJ239、品種名「鉱毒不知」におけるABG314多型であり、891塩基対からなるDNAマーカーである。また、配列番号11に示される塩基配列は、図22に示す、OU番号がJ406、品種名「ユウナギハダカ」におけるABG314多型であり、891塩基対からなるDNAマーカーである。また、配列番号12に示される塩基配列は、図22に示す、OU番号がK144、品種名「春川ユンモボリ」におけるABG314多型であり、891塩基対からなるDNAマーカーである。また、配列番号13に示される塩基配列は、図22に示す、OU番号がJ481、品種名「愛知裸16号」におけるABG314多型であり、919塩基対からなるDNAマーカーである。また、配列番号14に示される塩基配列は、図22に示す、OU番号がJ415、品種名「広島在来」におけるABG314多型であり、907塩基対からなるDNAマーカーである。また、配列番号15に示される塩基配列は、図22に示す、品種名「TR306」におけるABG314多型であり、678塩基対からなるDNAマーカーである。また、配列番号16に示される塩基配列は、図22に示す、品種名「Harrington」におけるABG314多型であり、678塩基対からなるDNAマーカーである。なお、以上の塩基配列は、Lプライマー(配列番号33、図3参照)から読まれた塩基配列である。
【0049】
また、配列番号17に示される塩基配列は、図22に示す、品種名「TR306」におけるABG314多型であり、Rプライマー(配列番号34、図3参照)から読まれた581塩基対からなるDNAマーカーである。また、配列番号18に示される塩基配列は、図22に示す、品種名「Harrington」におけるABG314多型であり、Rプライマー(配列番号34、図3参照)から読まれた558塩基対からなるDNAマーカーである。
【0050】
上記ABG314の多型について図24にまとめて示す。図24に示す表の横の数字は、配列番号1〜16に示される塩基配列における塩基数を示す。すなわち、上記ABG314は、図24に示すように、11、34、374、388、418、493、550、606、617、619、723、807、808、864番目の塩基に多型を有することがわかった。
【0051】
以上のことから、上記ABG314多型は、オオムギ5H染色体長腕末端部におけるDNAマーカーとして利用できることがわかった。したがって、上記ABG314多型は、作物育種におけるマーカー選抜を可能にするばかりでなく、オオムギ5H染色体長腕末端部における連鎖地図作製にも利用可能であり、当該地図情報を利用した遺伝子単離にも利用可能である。
【0052】
(1−2)DNAマーカー:ABC718
ABC718は、配列番号45、46の塩基配列に示されるSTSプライマーによって増幅されるDNA配列の多型であって,配列番号19〜22のいずれか1つに示される塩基配列を含む、5H染色体長腕末端部に位置すると考えられる深播耐性、ストレス耐性、または休眠性の遺伝子またはQTLと連鎖するDNAマーカーである。
【0053】
配列番号19〜22は、後述する実施例に示すように、配列番号45、46に示される塩基配列からなるSTSプライマーを用いて、オオムギ品種「Harrington」、「TR306」、または「Steptoe」のゲノムDNAを鋳型として得られたものである。
【0054】
すなわち、配列番号19に示される塩基配列は、オオムギ品種「TR306」におけるABC718であり、約2.2kbpからなる塩基配列である。また、配列番号20に示される塩基配列は、オオムギ品種「Harrington」におけるABC718であり、約2.2kbpからなる塩基配列である。これらの配列は、プライマー(配列番号45、46)の塩基配列を含むものであり、Lプライマー(配列番号45)からRプライマー(配列番号46)の方向で示してある。
【0055】
また、配列番号21に示される塩基配列は、オオムギ品種「Steptoe」におけるABC718であり、約300bpからなる塩基配列である。また、配列番号22に示される塩基配列は、上記配列番号21の塩基配列をもとに相同性検索により検出したESTにおけるABC718であり、約800bpからなる塩基配列である。また、上記ABC718は、深播き時の第1節間長のQTLと組換え価0%を示す。
【0056】
上記のことから、ABC718は、オオムギ5H染色体長腕末端部におけるDNAマーカーとして利用できる。したがって、オオムギ5H染色体長腕末端部における詳細な連鎖地図の作製に役立つとともに、深播耐性、ストレス耐性の強い系統の選抜、作出等に利用可能と考えられる。
【0057】
また、本発明に係る遺伝マーカーの一部配列をプローブやプライマーとして用いることができる。このようにプローブに用いる場合としては、例えば、本発明の遺伝マーカーの一部配列をチップやシリコン等の担体上に固定した、いわゆるDNAチップ(マイクロアレイを含む)を構成し、当該DNAチップを各種検査・診断用に用いるような場合が挙げられる。
【0058】
また、上記プローブの配列を、本発明に係る遺伝マーカーの塩基配列の中から選択し、コムギ、イネ、その他の植物のゲノムDNA(またはcDNA)ライブラリーをスクリーニングすれば、上記各遺伝マーカーと同様の機能を有する相同分子や類縁分子をコードする遺伝マーカーを単離できる可能性が高い。
【0059】
したがって、上記遺伝マーカーを利用すれば、オオムギだけでなく、他の植物、例えば、コムギ、イネ等の深播耐性、休眠性、またはストレス耐性に関する遺伝子をも、QTL解析によって単離・同定することが可能となると考えられる。
【0060】
なお、本発明にかかる遺伝マーカーの作製方法は、上記の方法や後述する実施例で詳細に説明するように、オオムギの葉から抽出されたDNAとSTSプライマーとを用いたPCRを行い作製している。もちろん、本発明にかかる遺伝マーカーの作製方法は、これに限定されるものではなく、公知の他の方法を用いて作製してもよい。すなわち、本発明では、前述した遺伝マーカー(SNPマーカー)やこれを含む遺伝マーカー群を作製できるような方法であれば、どのような方法を採用してもよい。
【0061】
(2)本発明に係る連鎖地図
本発明に係る連鎖地図は、従来から知られている遺伝マーカーに加えて、さらに、上記いずれかの遺伝マーカーを用いて作製されているオオムギ5H染色体長腕末端部における連鎖地図であればよく、その他の遺伝マーカーを含んでいてもよく、特に限定されるものではない。ここでいう「従来から知られている遺伝マーカー」とは、例えば、図16(a)、図17、図18に示すような、ABG463、ABG057B、ABC309、またはMWG632等が挙げられる。本発明に係る連鎖地図は、これらの従来公知の遺伝マーカーを全て含んでいることが好ましいが、これに限られるわけではなく、本発明の遺伝マーカーと併せて連鎖地図を作製することによって、より正確な連鎖地図が作製できる程度の従来の遺伝マーカーが用いられていればよい。例えば、上記従来の遺伝マーカーのうち、いずれか1つの遺伝マーカーを含んでいれば、より正確な連鎖地図が作製できる場合は、従来の遺伝マーカーは1つでよい。本発明にかかる連鎖地図に含まれる従来の遺伝マーカーとしては、特にABC309、MWG632が好ましい。
【0062】
また、後述する実施例に示すように、上記ABG314、ABC718は、いずれも5H染色体長腕末端部に位置することがわかった。この事実に基づき、オオムギ5H染色体長腕末端部における連鎖地図を作製した。図16(a)は、従来知られていた5H染色体長腕末端部の連鎖地図である。図16(b)は、本発明で作製された5H染色体長腕末端部の連鎖地図である。図16(b)に示される連鎖地図には、上記ABG314、ABC718が加えられており、従来の連鎖地図と比較して、信頼性が高まり、より正確な連鎖地図となっている。
【0063】
図16(b)に示すように、ABG314は、ABG057BとABC309との間であって、ABG057Bから4.3cM、ABC309から1.6cM離れた位置に座乗している。また、HVM6は、MWG632の下(末端部)側、8.7cMの位置に座乗している。さらに、ABC718は、MWG632とHVM6との間であって、MWG632から0.7cM、HVM6から8.0cM離れた位置に座乗している。
【0064】
上述したように、本発明に係る連鎖地図は、従来の連鎖地図に新たなDNAマーカーを追加することになるため、従来の連鎖地図よりも信頼性が高まる。このため、本発明の連鎖地図を用いることにより、オオムギ5H染色体長腕末端部において、深播耐性、ストレス耐性、または休眠性の遺伝子またはQTLについて、より精度の高いQTL解析を行うことができる。
【0065】
なお、本発明にかかる連鎖地図の作製方法には、従来公知の方法が利用でき、特に限定されるものではない。例えば、計算ソフトを使った通常の方法が挙げられる(LANDER, E., P. GREEN, J. ABRAHAMSON, A. BARLOW, M. DALY et al., 1987 Mapmaker: an interactive computer package for constructing primary genetic linkage maps of experimental and natural populations. Genomics 1: 174-181.、またはLINCOLN, S., M. DALY and E. LANDER, 1993 Constructing genetic linkage maps with Mapmaker/Exp 3.0. Whitehead Institute for Biomedical Research Technical Report. 3rd ed, Cambridge, MA, USA.等)。
【0066】
また、本発明でいう「連鎖地図」とは、いわゆる遺伝子地図、遺伝地図、染色体地図とよばれるものをも含むものである。
【0067】
(3)本発明に係る遺伝子等の単離方法、QTL解析方法
本発明にかかる遺伝マーカーの用途としては、遺伝子のクローニングや細胞融合、交配等の実験において目的とする遺伝子の所在を追跡するためのマーカーとして広く用いることができる。特に、本発明にかかる遺伝マーカーのうち、塩基配列中にSNP(1塩基多型)を含んでいるものは、検出が容易であるという利点がある。
【0068】
また、本発明にかかる遺伝マーカーを用いる対象となる生物は特に限定されるものではないが、これら遺伝マーカーがオオムギ由来のものであるので、特に好ましい対象としては、オオムギおよびオオムギの属するコムギ連、イネ科植物を挙げることができる。もちろん、用途によってはイネ科植物以外の植物や場合によっては動物も対象とすることができる。
【0069】
本発明にかかる遺伝マーカーは、それぞれ単独で上述した各種用途に用いることもできるが、特に、オオムギ染色体の遺伝子地図の作成に用いるために、複数を組み合わせて遺伝マーカー群として用いることが好ましい。本発明にかかる遺伝マーカー群をマッピングして得られた遺伝子地図は、染色体から目的とする遺伝子を特定する用途に好適に用いることができるが、本発明では、特に、深播耐性、休眠性、またはストレス耐性に関連する遺伝子またはQTLの座乗位置を特定する用途に好適に用いることができる。さらには、深播耐性、休眠性、またはストレス耐性に関連する遺伝子またはQTLを単離・同定することも可能となる。なお、深播耐性、休眠性、またはストレス耐性に関連する遺伝子またはQTLの座乗位置を特定するための方法、または上記遺伝子等を単離・同定するための方法として、QTL解析を挙げることができる。
【0070】
また、本発明に係るQTL解析方法は、上記いずれかの遺伝マーカー、あるいは上記の連鎖地図を用いて、オオムギの深播耐性、休眠性、またはストレス耐性に関連する遺伝子またはQTLについてのQTL解析を行う方法であればよく、その他の条件、方法等は、従来公知のQTL解析方法を用いることができ、特に限定されるものではない。
【0071】
QTL解析の原理は、雑種集団の各個体をマーカーの遺伝子型グループに分類し、それらの平均値を比較することから始まる。マーカーと解析対象形質に関与するQTLの一つとが連鎖していれば、遺伝子型グループの平均値間に偏りが生じる。連鎖していなければ、それらの間に偏りはない。これを発展させ、マーカーの存在しないマーカー間に対応させた解析が、インターバルマッピング法によるQTL解析である。解析対象の生物種の染色体全体に分散するマーカーを用いてこの解析を繰り返すと、解析対象形質に関与する染色体領域が明らかになる。
【0072】
また、QTL解析で重要な項目の中に、交配親として解析対象の形質について大きな差異、すなわち遺伝的に異なる品種の選抜が重要となる。それにより、形質に関与するQTL中の主要なものが検出されると期待できる。
【0073】
すなわち、「QTL解析」とはQTLのマッピングであればよい。さらに,マップされたQTLを単離する具体的な方法として、例えば、以下の方法が挙げられる。まず、2品種の親個体を交配させ、実験材料として多数の系統群の作出を行う。次に、目的とする形質を指標にこの系統群のゲノムを解析し、目的遺伝子の近傍に存在すると考えられる遺伝マーカー(DNAマーカー)を統計的に解析し、見つけ出す。この遺伝マーカーを用いて連鎖地図を作製し、それぞれの遺伝マーカーを指標としながら片方の親で戻し交雑を繰り返して、目的遺伝子の周辺のみがもう片方の親由来である個体を作製する。ここで得られた個体は、準同質遺伝子系統と呼ばれ、この準同質遺伝子系統を利用して、目的遺伝子の染色体上の位置を絞り込んでいくことで、目的の遺伝子を単離する。
【0074】
本発明に係るQTL解析方法によれば、上記遺伝マーカーまたは上記の連鎖地図を利用しているため、オオムギの「深播耐性」に関する遺伝子についてのQTL解析を行った結果、後述する実施例に示すように、QTLの位置の正確性と信頼性とを高めることができる。したがって、本発明のQTL解析によって、オオムギの深播耐性、休眠性、またはストレス耐性に関する遺伝子またはQTLの位置をより正確に特定することができる。
【0075】
(4)本発明に係る植物選抜方法、植物生産方法
本発明に係る植物選抜方法は、上記いずれかの遺伝マーカーを指標として、深播耐性、休眠性、またはストレス耐性を有する植物を選抜する方法であればよく、その他の工程、条件、材料等は特に限定されるものではない。
【0076】
本発明に係る植物選抜方法の具体的方法としては、植物育種における従来公知の手法が利用でき、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、交配等により作出した植物のゲノムDNAを抽出し、本発明に係る遺伝マーカーを有するか否かを指標として植物を選抜する方法が挙げられる。なお、上記遺伝マーカーを検出する手段としては、例えば、上記遺伝マーカーの一部の配列を固定化させたDNAチップを用いる方法、または上記遺伝マーカーの一部の配列をプライマーとするPCRにより上記遺伝マーカーを増幅させる方法等の従来公知の方法が利用でき、特に限定されるものではない。
【0077】
また、本発明に係る植物生産方法は、上記いずれかの遺伝マーカーを指標として、深播耐性、休眠性、またはストレス耐性を有する植物を生産する方法であればよく、その他の工程、条件、材料等は、特に限定されるものではない。
【0078】
本発明に係る植物生産方法の具体的な方法としては、植物育種における従来公知の手法または遺伝子工学的な手法が利用でき、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、上記遺伝マーカーを有する植物を親個体として交配させて上記遺伝マーカーを有する植物個体を生産する方法、または上記遺伝マーカーを含むDNA領域をベクター等を利用した遺伝子導入等の遺伝子工学的な手法によって、上記遺伝マーカーを有する植物を生産する方法が挙げられる。なお、生産した植物個体が上記遺伝マーカーを有するか否かは、上述のDNAチップやPCR法を利用して簡便に調べることができる。
【0079】
なお、ここでいう「植物」には、オオムギ、コムギ、イネ等のイネ科植物が好ましい。
【0080】
上記のように、本発明の植物選抜方法によれば、非常に簡便かつ高確率で、深播耐性、休眠性、またはストレス耐性を有する植物を選抜することができる。また、本発明の植物生産方法によれば、非常に簡便かつ高確率で、深播耐性、休眠性、またはストレス耐性を有する植物を生産することができる。
【0081】
以下添付した図面に沿って実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0082】
【実施例】
〔実施例1〕オオムギ5H染色体長腕末端部の詳細地図の作製
オオムギのDH系統を用いて深播耐性に関するQTL解析を行った結果、5H染色体長腕末端部に作用力の大きなQTLが見出された。QTL解析に用いたオオムギ品種「Harrington」と「TR306」のDH系統から得られた連鎖地図によると、5H染色体長腕末端部のDNAマーカーはABC309およびMWG632であることが報告された(非特許文献6参照)。よって、5H染色体長腕末端部のABC309〜MWG632近傍とみられるマーカー情報を収集し、PCR法で利用可能なマーカーへの開発ならびにマッピング、新規に作成された連鎖地図を用いて深播耐性の解析を行った。
【0083】
〔1〕DNAマーカーの開発
〔1−1〕RFLPマーカーのSTS化
(1)材料および方法
供試材料としてオオムギ品種「Harrington」と「TR306」の葉から抽出したDNAを用いた。オオムギ葉からのDNAの抽出法(CTAB法)は以下に示す通りである。
【0084】
成葉を1cm角程度に刻んだ後、アルミホイルに包んで液体窒素に浸漬し、急速に凍結する。凍結葉サンプルに液体窒素を加え、乳鉢と乳棒で粉砕した。粉砕によって細胞壁を破壊した葉の粉末を、予め60℃に温めておいた15mlのCTABバッファーと30μlの2‐メルカプトエタノールの入っているコニカルチューブに移し入れ、ウォーターバスシェーカーで60℃、30分間往復振とうし、DNAを溶解させた。
【0085】
バッファー中に溶出したDNAは、DNA中のリン酸塩(負電荷)がナトリウムイオンに取り囲まれる形で存在している。細胞からはタンパクも抽出バッファー中に溶出するので、クロロホルム溶液(クロロホルム:イソアミルアルコール=24:1)をCTAB抽出バッファーと等量(15ml)加え、20分〜30分往復振とうした(70rpm、室温)。さらに遠心分離機に移し、4000rpmで15分間遠心分離した後、沈澱を壊さないようにして静かに、上層を新しいコニカルチューブに移し、タンパクを変性させて除去した。
【0086】
CTAB-RNAもCTAB沈殿の際同時に析出するのでRNaseを15μl加え、37℃のウォーターバス中で30分往復振とうして分解した。コニカルチューブを氷水で5〜10分間十分に冷やし、上澄みの0.6倍量のイソプロパノールを加え、コニカルチューブをゆっくり振り、コニカルチューブ内のDNAをパスツールピペットで巻き取りエッペンドルフチューブへ移した。エッペンドルフチューブに、70%エタノール(500〜1000μl)を加え、遠心分離機(14000rpm,10分)にかけた。チューブ内のエタノールを捨て、再び70%エタノール(500μl)でDNAを洗い、DNAを乾燥させた。その後、1×TEバッファー(100〜200μl)を加えて、ペレットを往復振とう機上で完全に溶かした。
【0087】
また、DNA溶液の濃度測定は、以下の方法で行った。まず、エッペンドルフチューブに1×TE 98mlをとり、抽出したサンプルDNA原液2mlを加え、よく混ぜる(50倍希釈)。アガロースゲル電気泳動法により測定するサンプルDNA溶液と標準DNAサンプル(市販のλ-DNA)との電気泳動を135Vで5分程度行う。サンプルをゲルにのせる際には、サンプル溶液に10×ローディングバッファー1/10量(1〜2ml)を加え、十分に混合した。エチジウムブロマイドによって核酸を蛍光染色して、UV波長を励起するトランスイルミネーター上でサイズの確認を行った。アガロースゲルの濃度は1.0 %のゲルを使用した。また、トランスイルミネーターに付属のCCDカメラによって写真撮影を行い、電気泳動の状態を記録した。サンプルの蛍光の強さとほぼ同じ強さのλ-DNAサンプルを見出し、その希釈率からサンプルのDNA濃度を計算した。
【0088】
PCRプライマーは、「Harrington」と「TR306」、「Steptoe」と「Morex」、「Igri」と「Franka」および「Proctor」と「Nudinka」の交配からなる4種のDH系統において既に連鎖地図にマッピングされているRFLPマーカーからSTS(sequence tagged site)化された塩基配列情報を元に合成した。また、RFLPマーカーの塩基配列情報は公開されているがSTS化されていないものに関しては、塩基配列情報を元に新規にプライマーを設計し合成した。PCRプライマーの設計はPrimer3(http://www-genome.wi.nit.edu/cgi-bin/primer/primer3_www.cgi)を用い、設計条件は▲1▼PCR増幅断片サイズを300塩基、▲2▼プライマーの塩基数を20塩基、▲3▼Tm値を60℃とした(図3参照)。図3に示すように、「Harrington」と「TR306」の連鎖地図において位置が決まっているRFLPマーカー由来のプライマーである、ABC622のL側、R側のプライマーは、それぞれ配列番号23、24で示される塩基配列を有すし、ABG463のL側、R側のプライマーは、それぞれ配列番号25、26で示される塩基配列を有し、ABG057のL側、R側のプライマーは、それぞれ配列番号27、28で示される塩基配列を有し、ABC309のL側、R側のプライマーは、それぞれ配列番号29、30で示される塩基配列を有し、MWG632のL側、R側のプライマーは、それぞれ配列番号31、32で示される塩基配列を有する。
【0089】
また、「Harrington」と「TR306」の連鎖地図において位置が決まっていないRFLPマーカー由来のプライマーである、ABG314のL側、R側のプライマーは、それぞれ配列番号33、34で示される塩基配列を有し、CDO213のL側、R側のプライマーは、それぞれ配列番号35、36で示される塩基配列を有し、CDO506のL側、R側のプライマーは、それぞれ配列番号37、38で示される塩基配列を有し、MWG602のL側、R側のプライマーは、それぞれ配列番号39、40で示される塩基配列を有し、MWG851のL側、R側のプライマーは、それぞれ配列番号41、42で示される塩基配列を有し、MWG891のL側、R側のプライマーは、それぞれ配列番号43、44で示される塩基配列を有する。また、図3には図示しないが、「Harrington」と「TR306」の連鎖地図において位置が決まっていないRFLPマーカー由来のプライマーである、ABC718のSTS化には、配列番号45、46に示すプライマーを用いた。
【0090】
PCR反応液の組成はDNAポリメラーゼ(Ex Taq、タカラ)の添付プロトコールに従い、全量を20μlに調整し、GeneAmp9700(アプライドバイオシステムズ)によって反応を行った(図4参照)。PCRチューブはサンプルブロックが80℃以上に上昇してからセットした。PCRのプログラムは、プライマーのTm値および目的のPCR増幅断片サイズを考慮していくつか試行し、プライマーごとに最適な条件を設定した(図5参照)。
【0091】
PCR後の反応液は、アガロースゲル電気泳動法により増幅断片を分画し、エチジウムブロマイドによって核酸を蛍光染色して、UV波長を励起するトランスイルミネーター上で増幅の有無や増幅断片サイズの多型の確認を行った。アガロースゲルの濃度はPCR増幅断片に合わせて変更し、1.0〜1.5 %のゲルを使用した。また、トランスイルミネーターに付属のCCDカメラによって写真撮影を行い、電気泳動の状態を記録した。
【0092】
(2)結果および考察
本実験に用いた11プライマー対によるPCRは、再現性よくPCR増幅断片が確認でき、ABG463を除く10プライマー対ではPCR増幅断片が1種(シングルバンド)とみられた。MWG602、MWG632、MWG851、MWG891、CDO213およびCDO506の増幅断片は250〜500 bpで目的の増幅断片サイズとみられたが、ABC309、ABG314、ABC622およびABG057は1 kbより大きなサイズであった。
【0093】
「Harrington」と「TR306」の連鎖地図の5H染色体長腕端部にマッピングされているマーカーは、動原体側からABC622〜ABG463〜ABG057〜ABC309〜MWG632の順に配列しており、MWG632が末端部のマーカーとしている(Mather 1995)。他のマーカー情報は、ABG314およびMWG851が「Steptoe」と「Morex」、MWG602およびMWG891が「Igri」と「Franka」、CDO213およびCDO506が「Proctor」と「Nudinka」の連鎖地図において報告されている(Kasha, K.J., Kleinhofs, A and the North American Barley Genome Mapping Project, 1994. Mapping of the barley cross Harrington X TR306. Barley Genetics Newsletter 23:65-69.、Graner, A., Jahoor, A., Schondelmaier, J., Siedler, H., Pillen, K., Fischbeck, G., Wenzel, G and Herrmann. R.G, 1991. Construction of an RFLP map of barley. Theor. Appl. Genet. 83:250-256.、Becker, J and Heun, M, 1995. Mapping of digested and undigested random amplified microsatellite polymorphisms in barley. Genome 38:991-998.)。ちなみに、「Steptoe」と「Morex」および「Igri」と「Franka」の連鎖地図にはRFLPマーカーがそれぞれ400マーカー以上、「Harrington」と「TR306」には250マーカー以上がマッピングされている。「Proctor」と「Nudinka」の連鎖地図には118個のAFLPマーカーとオートムギのcDNA由来のマーカー(マーカー名にCDOが付く)がマッピングされている。
【0094】
今回用いたマーカーの中に、共通のRFLPマーカーとして報告されているものはABC309のみであった。
【0095】
オオムギの5H染色体長腕末端部のマーカー情報は十分ではないが、PCRに供試した11プライマー対の90 %(10/11)においてPCRが安定しており、次項のシーケンス解析にこれらのPCR増幅断片を用いることとした(図6参照)。
【0096】
〔1−2〕STS化によるシーケンス多型の解析
(1)材料および方法
供試材料としてオオムギ品種「Harrington」と「TR306」の葉より抽出したDNAを用いた。
【0097】
シーケンス解析には、RFLPマーカーのSTS化されたABC622、ABG057、ABC309、MWG632、ABG314、MWG851、MWG602、MWG891、CDO213およびCDO506のプライマー対を用いた。
【0098】
「Harrington」と「TR306」のDNAを鋳型にABC622、ABG057、ABC309、MWG632、ABG314、MWG851、MWG602、MWG891、CDO213およびCDO506のプライマー対のPCRを行い、反応液中の増幅されたDNA以外の酵素および未反応のプライマーとdNTPはQIAquick PCR Purification Kit(キアゲン)によって除去し、シーケンス反応の鋳型DNAとして供試した。
【0099】
シーケンス反応はBigDye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit v2.0(アプライドバイオシステムズ)を用い、添付プロトコールに従い反応液の調整、反応プログラム、精製を行った。反応液は、反応試薬希釈バッファー(5X Sequencing Buffer、アプライドバイオシステムズ)を加えて全量を10μlとし、GeneAmp9700(アプライドバイオシステムズ)のサンプルブロックが96℃に上昇してからPCRチューブをセットした。シーケンス反応液の精製はエタノール沈殿法によって行い、エタノールなどの廃液はマイクロピペットで丁寧に吸い取り、濃縮遠心機によってエタノールの除去および反応サンプルの乾燥を行った。シーケンス用サンプルは電気泳動の直前にシーケンス用ローディングバッファで溶解し、ヒートブロックを用いて100℃で2分の熱処理をし、直ちに氷水に移し、シーケンス用サンプルを1本鎖にした。
【0100】
シーケンス解析には373A DNA Sequencer(アプライドバイオシステムズ)を利用した。サンプルはシーケンスゲルに3.5〜4.0μlを分注し、電気泳動は40 W(2.8 KV)で16時間行った。
【0101】
電気泳動のGelFileからSequencing Analysis 3.4(アプライドバイオシステムズ)により各サンプルの波形データとして抽出し、SeqEd(アプライドバイオシステムズ)によりベースコールの修正およびテキストファイルへの変換を行った。「Harrington」と「TR306」の間の塩基配列の違いと制限酵素認識配列の検察にはGENETYX-MAC Ver.11.0を用いた。
【0102】
(2)結果および考察
今回用いた10プライマー対によるSTSのシーケンス多型の解析は全てのPCR増幅断片において可能であった。MWG602、MWG632、MWG851、MWG891、CDO213およびCDO506の増幅断片サイズが250〜500 bpであったことから、増幅断片のプライマー対間の全ての塩基配列を確認することができた。しかしながら、ABC309、ABG314、ABC622およびABG057は断片サイズが1 kbより大きいため、プライマーから20〜30塩基目から500塩基程度の塩基配列を確認し、多型の検索を行った。1塩基多型などの検出には正確な塩基配列情報が不可欠であり、シーケンス解析に用いるハード面とソフト面の特性を考慮して可能な限りプライマー対によるデータを用いるように配慮した。その結果、MWG851、CDO506、ABG314およびABC622において1塩基の多型がみられた。さらにMWG851、CDO506およびABG314の多型においては、Nhe I、Pmac IおよびAfa Iによる制限酵素認識部位であった。ABC622に関しては、多型配列がPCRプライマーの3'末になるよう新規にプライマーを設計し、アレルスペーシフィック(allele specific)PCR法により多型を検出することにした。
【0103】
既知の「Harrington」と「TR306」の連鎖地図には、ABC622とCDO506はマッピングされているが、MWG851とABG314は報告されていない。共通のRFLPマーカーであるABC309からMWG851およびABG314の位置を他の連鎖地図から予想すると、「Steptoe」と「Morex」の連鎖地図からABC309より末端部とみられた。しかしながら、ABG314は複数の連鎖地図を重ね合わせて作成したコンセンサス地図によるとABC309より動原体側に位置することが報告されていることから、三点実験によって位置を決める必要が示唆された。
【0104】
オオムギ5H染色体長腕末端部のマーカー情報から作成したSTSのシーケンス多型の解析を行ったところ、供試した10プライマー対のうち4プライマー対において1塩基の多型が確認されたことから、次項でこれら多型の確認を試みる(図7)。
【0105】
〔1−3〕多型の確認
(1)材料および方法
多型の確認には、ABC622、CDO506、ABG314およびMWG851のプライマー対を用いた(表2)。ABC622に関しては、ABC622のプライマー対と多型配列がPCRプライマーの3'末になるように設計した新規のプライマーを用いた(図8参照)。
【0106】
まずCDO506、ABG314およびMWG851は最適条件下のプログラムでPCRを行った(図5参照)。PCR反応液の組成はDNAポリメラーゼ(Ex Taq、タカラ)の添付プロトコールに従い、全量を20μlに調整し、GeneAmp9700(ABI)によって反応を行った。DNAは、オオムギ品種「Harrington」と「TR306」を用いた。PCRチューブはサンプルブロックが80℃以上に上昇してからセットした。次に、得られたPCR産物と制限酵素を加えて反応液を調整し(図9参照)、ヒートブロックを用いて1時間・37℃の条件で処理した。
【0107】
ABC622のアレルスペーシフィックPCR法によるPCRプログラムは、目的の対立遺伝子に対し特異的に増幅するようにタッチダウンPCRとした(図10参照)。タッチダウンPCRとは、熱変性、アニール、および伸長を繰り返し行う反応プログラム中のアニールの温度を、繰り返しの回数毎に変更するPCRプログラムを呼び、反応液中のプライマーのTm値が異なる場合に有効とされる。しかし、繰り返し回数が多くなることから、目的以外のPCR産物の増幅も予測される。
【0108】
各反応後、アガロースゲル電気泳動法により断片を分画した。次に、エチジウムブロマイドによって核酸を蛍光染色して、UV波長を励起するトランスイルミネーター上で、制限酵素処理した増幅断片DNAが消化されたか否や、消化されたPCR産物のバンドサイズの多型の確認を行った。また、新規のABC622プライマーによるPCR増幅の有無や増幅断片サイズの多型の確認も行った。ゲルは1.5% アガロースを使用した。また、トランスイルミネーターに付属のCCDカメラによって写真撮影を行って電気泳動の状態を記録した。
【0109】
マイクロサテライトマーカー(HVM6)のPCRは、プライマーのTm値および目的のPCR増幅断片サイズを考慮して設定した(図11参照)。なお、当該L側、R側のプライマーの塩基配列は、それぞれ配列番号47、48に示す。PCR反応後に5%メタフォアゲルで電気泳動し、増幅断片サイズの多型の確認を行った。また、トランスイルミネーターに付属のCCDカメラによって写真撮影を行い、電気泳動の状態を記録した。
【0110】
(2)結果および考察
MWG851のSTSプライマーによるPCR増幅断片を制限酵素 Nhe Iで処理すると、「Harrington」では処理前の約300 bpの断片がみられ、「TR306」では推定通りの約150 bpずつの断片となった(不図示)。すなわち、制限酵素処理により多型の確認が可能となった。
【0111】
また、ABG314のSTSプライマーによるPCR増幅断片を制限酵素 Afa Iで処理すると、「Harrington」では約1,500 bpの断片がみられ、「TR306」では1,600 bpの断片が確認された(図12、13参照)。
【0112】
CDO506のSTSプライマーによるPCR増幅断片を制限酵素 Pmac Iで処理しても、「Harrington」と「TR306」のいずれも制限酵素で消化されなかった。これは、塩基配列の解析において間違いが含まれていたためとみられる。
【0113】
ABG057のSTSプライマーによるPCR増幅断片を制限酵素 Mva I, Afa Iで処理すると、「Harrington」と「TR306」のいずれも制限酵素で消化された。しかし「Harrington 」と「TR306」の断片を比較すると、多型は検出されなかった。
【0114】
MWG602のSTSプライマーによるPCR増幅断片を制限酵素 Mva Iで処理すると、「Harrington」と「TR306」のいずれも制限酵素で消化され、250 bpのPCR産物が180 bpの断片になった。しかし、これも「Harrington」と「TR306」において多型の検出がされなかった。
【0115】
ABC309のSTSプライマーによるPCR増幅断片を制限酵素 Mbo IIで処理すると、「Harrington」と「TR306」のいずれも制限酵素で消化され、1 kbのPCR産物が3つの断片に切断された。ABC309はPCR産物が大きいため、全ての塩基配列が解析されていない。よって、今回検出した多型部分の他に、Mbo II酵素認識部位が存在し、そのため1 kbのPCR産物が3個の断片に切断されたとみられる。ABC309においても「Harrington」と「TR306」の多型の検出がされなかった。
【0116】
ABG057とMWG602およびABC309は、各制限酵素で消化されているため制限酵素部位はあると考えられる。しかし、「Harrington 」と「TR306」において多型が検出されない。これらは今後、別の検出法を用いることにより多型の検出の可能性を検討する必要がある。
【0117】
ABC622は、3種のプライマーによってアレルスペーシッフィックPCRを行った。しかしながらABC622のアレルスペーシッフィックPCRは目的の対立遺伝子を増幅させず、非特異的なPCR増幅断片を複数増幅させた(不図示)。
【0118】
HVM6のSTSプライマーによるPCR増幅断片は、「Harrington」と「TR306」において多型が検出された(図14参照)。
【0119】
以上STSマーカーの作成についてまとめると、HVM6は「Harrington」と「TR306」間でPCR産物に多型がみられた。また、MWG851とABG314は制限酵素処理を行う事によって多型が確認された。
【0120】
オオムギ5H染色体長腕末端部のマーカー情報から作成したSTSのシーケンス多型の解析から、4プライマー対において多型が確認された。よって、MWG851、ABG314、HVM6およびABC622はSTSマーカーとして利用が可能となった。
【0121】
次節で、二条型の「Harrington」と「TR306」の交配(H/T)による倍加半数体94系統を用いて、新規に開発したSTSマーカーであるMWG851およびABG314ならびにマイクロサテライトマーカーであるHVM6のマッピングを試みることにする。
【0122】
〔2〕DNAマーカーのマッピング
(1)材料および方法
オオムギ品種「Harrington」と「TR306」のDH94系統をマッピング集団とした。これらのDNAと第1章・第1節で開発したSTSマーカー(MWG851、ABG314、ABC718およびHVM6)を用いてPCRを行い、MWG851、ABG314についてはさらに酵素処理を行った後、電気泳動を行った(各条件と方法は第1節を参照)。泳動後は増幅断片サイズの多型の確認を行い、トランスイルミネーターに付属のCCDカメラによって写真撮影を行って電気泳動の様子を記録した。
【0123】
次いでDH94系統における各STSマーカーの遺伝子型を調査し、MAPMAKERを使用して各STSマーカーの連鎖地図を作成した。
【0124】
(2)結果および考察
DH94系統における各STSマーカーを用いて多型を検出した結果(図13、14参照)それらより推定した遺伝子型を図15に示した。その結果ABG314、ABC718、およびHVM6は、5H染色体の長腕末端部にマッピングされた。Mather(1995)(非特許文献6)の連鎖地図によると、ABC309およびMWG632が5H染色体の長腕末端部のDNAマーカーであると報告されている(図16(a)参照)。今回の実験でABG314は、ABG057とABC309の間に座乗し、HVM6はMWG632の下に座乗した。また、ABC718は、MWG632とHVM6との間に座乗した(図16(b)、図18参照)。
【0125】
すなわち、今回の実験により作製された連鎖地図によれば、ABG463-ABG057B間の距離は2.6cM、ABG057B-ABG314間の距離は4.3cM、ABG314-ABC309間の距離は1.6cM、ABC309-MWG632間の距離は2.4cM、MWG632-ABC718間の距離は0.7cM、ABC718-HVM6間の距離は8.0cMである。
【0126】
深播耐性のQTLがこの長腕末端部(MWG632)付近にあると推測される。よって、新たにマッピングされたこのマーカーの地図を使用し、QTL解析を行うこととする。
【0127】
MWG851は7H染色体の短腕末端部にマッピングされた。MWG851は目的の5H染色体には座乗しなかった。しかし7H染色体の短腕末端部には深播耐性に関連のある第1節間長のQTLがある。よってMWG851のRFLPマーカーをSTS化された事によって、第1節間長の遺伝子を解明する手がかりとなるものである。
【0128】
〔3〕深播耐性のQTL解析
(1)材料および方法
「Harrington」と「TR306」のDH94系統の深播耐性の検定結果データ(非特許文献3)を用いた。この検定では発芽した種子だけを深さ12cmに播種し、出芽数を数えて播種粒数に対する出芽率が深播耐性の強弱であると示している。
【0129】
連鎖地図上に平均マーカー距離5cMの効率良く配置された127(H/T)のマーカー(非特許文献6)に新しくマッピングしたABG314とHVM6を加え、改めてQTL解析を行った。QTL解析には、MAPMAKER/QTLを用いてインターバルマッピングを行った。LODスコア2.0以上を有意なQTLとした。
【0130】
あわせて、DH系統をSTSマーカー毎に得られた遺伝子型データに基づきグループ化し、グループ間の平均値の有意差検定(t検定)を行った。ここでは特定の染色体(連鎖地図)領域で最も各グループの対象形質の平均値に有意差が認められたマーカーの近傍が、推定上のQTLの存在領域であるとして分析した。
【0131】
(2)結果および考察
HVM6が5H染色体長腕の最末端にマッピングした結果が図12である。ここで深播耐性のQTLの位置はこれまでの報告(図17)と異なった位置が推定された(図18参照)。これまでの報告では「Harrington」と「TR306」の連鎖地図によると、5H染色体長腕末端部のDNAマーカーはABC309およびMWG632であると報告されていた(非特許文献6)。この地図を用いたQTL解析の結果、深播耐性のQTLはMWG632の位置もしくはより末端部に位置するものとみられた。本研究において、HVM6が5H染色体長腕の最末端にマッピングされた結果、深播耐性のQTL解析におけるLOD曲線に谷を作り、スコアの比較をした(図19)。既知のABC309-MWG632間の比較では、距離が2.7cMあるうちの約8割の位置にQTLがある。つまりABC309-MWG632間の比較では、QTLがMWG632に近い場所にあると示される。しかし新規のMWG632- HVM6間の比較では距離が6.8cMあるうちの約2割の位置にQTLが見出された。つまり、QTLがMWG632とHVM6の間にあり、かつMWG632の近くに存在することを示している。また、LODスコアが13.5から14.4に、r2(寄与率)が約35%から38%になった。このQTLを持つことで深播耐性を約17%高めた。逆にこのQTLがないと、17%下げると言える。新たにマーカーを追加したことで、QTLの位置の正確性と信頼性を増加させた。
【0132】
本実験の結果から、QTL解析を行う上では、染色体の全域をカバーするようなDNAマーカーの必要性が示唆される。特に、染色体末端のマーカーにQTLがマッピングされる時は、ピークを明らかにできるようなマーカーを作る必要がある。HVM6マーカーをベースマップに加えたことで、QTLの山と谷を作り、よって正確なマーカーがより正確なQTLの位置を導くと推察された。
【0133】
また、系統をDNAマーカー毎に得られた遺伝子型データに基づきグループ化し、グループ間の平均値の有意差検定(t検定)を行った結果(図20)、ABG314およびHVM6は、5H染色体上にあること、MWG851が異なる染色体上にあることが示され、上記の結果とよく類似した。各マーカーにおける深播耐性について強弱系統の遺伝子型を比較した結果(図21)、深播耐性の強いDH系統のMWG632とHVM6の遺伝子型はTR306型、弱いDH系統の遺伝子型はHarrington型であった。ABG314、ABC309、MWG632およびHVM6のマーカーのうちMWG632が最も深播耐性に関連しているマーカーとみられ、インターバルマッピングの結果と同様であった。
【0134】
今後、MWG632とHVM6の間で、新たなマーカーを開発することにより、深播耐性系統を育成する際の助けとなるものである。さらに5H染色体末端部には多種のストレス耐性のQTLが報告されていることから、今後ムギ類にストレス耐性を付与したり、強い品種を選抜するための良き手がかりになると思われる。
【0135】
〔実施例2〕深播耐性の地理的分化
(1)材料および方法
オオムギの深播耐性の極強品種と極弱品種計14品種から抽出したDNAを供試した(図22)。
【0136】
シーケンスには、STS化されたABG314のプライマー対を用いた。
【0137】
極強・極弱品種のDNAを鋳型にABG314のプライマー対のPCRを行い、反応液中の増幅されたDNA以外の酵素および未反応のプライマーとdNTPはQIAquick PCR Purification Kit(キアゲン)によって除去し、シーケンス反応の鋳型DNAとして供試した(図23)。
【0138】
シーケンス反応ならびに解析は、第1章 第2項の方法に従った。
【0139】
電気泳動のGelFileからSequencing Analysis 3.4(アプライドバイオシステムズ)により各サンプルの波形データとして抽出し、SeqEd(アプライドバイオシステムズ)によりベースコールの修正およびテキストファイルへの変換を行った。極強・極弱品種の間の塩基配列の違いの検察にはGENETYX-MAC Ver.11.0を用いた。表の作成は、Tanno(2002)(Tanno, K., Taketa, S., Takeda, K., Komatsuda, T, 2002. A DNA marker closely linked to the vrs1 locus (row-type gene) indicates multiple origins of six-rowed cultivated barley (Hordeum vulgare L.) Theor Appl Genet 104:54-60)を参考に行った。
【0140】
(2)結果および考察
今回用いたABG314は断片サイズが1 kbより大きいため、プライマーより20〜30塩基目から500塩基程度の塩基配列を確認できた。各品種の塩基配列の結果を図24に示した。
【0141】
5H染色体長腕末端部に座上したABG314マーカーを用いて、深播耐性が極強・極弱と評価されている計14品種の塩基配列を比較すると、12ヵ所に1塩基多型が検出され、供試品種の地域間に共通する塩基配列がいくつか認められた。
【0142】
深播き耐性に強い品種は、北アフリカ・ネパール・トルコ・日本が知られている。弱い品種では、ドイツ・朝鮮半島・日本が知られている。14品種の塩基配列を比較したところ、直接深播耐性との関係が示されなかったが、地域による違いがみられた。374番目塩基から、北アフリカとその他の地域に分類でき、その他の地域においては、418番目の塩基に違いのあるトルコと388番目の塩基の違うドイツとに分類された。ABG314の塩基比較の結果、北アフリカのグループ、トルコのグループ、ドイツのグループ、ネパールや日本や朝鮮半島のグループに分類でき、5H染色体末端部の遺伝子座には地理的な分化があるものと考えられる。
【0143】
以上の結果をまとめると、以下のようになる。すなわち、連鎖地図の作成はDNAを利用した多型解析が可能となり、染色体全体をカバーする連鎖地図の作成、さらにDNAマーカーの開発に伴ってその解析能力の向上がみられ、詳細な連鎖地図の作成が可能になった。
【0144】
本実験で用いたプライマー対によるPCRは、再現性よくPCR増幅断片が確認でき、PCR増幅断片が1種(シングルバンド)とみられた。これらのプライマー対によるSTSのシーケンス多型の解析から、1塩基の多型が確認できた。さらにMWG851、ABG314の多型においては、Nhe I、およびAfa Iによる制限酵素認識部位であった。ABC622に関しては、多型配列がPCRプライマーの3'末になるよう新規にプライマーを設計した。HVM6のSTSプライマーによるPCR増幅断片は、「Harrington」と「TR306」において多型が検出できた。MWG851、ABG314、ABC622およびHVM6は、STSマーカーとして、今後使用することが可能である。
【0145】
次に、大麦品種の「Harrington」と「TR306」のDH系統を使用して、新規に作成したSTSマーカーおよびマイクロサテライトマーカーのマッピングを試みた。ABG314およびHVM6は5H染色体上に、MWG851は7H染色体にマッピングされた。
【0146】
5H染色体の連鎖地図上に配置された新たなマーカーであるHVM6とABG314を加え、QTLを再解析した。HVM6が5H染色体長腕の最末端にマッピングされた結果、深播耐性のピークを決定することができた。QTLがMWG632とHVM6の間にあり、かつMWG632の近くに見出された。非特許文献3のTakahashiら(2001)の報告と近傍のマーカーはMWG632と同様であったが、QTLピークのLODスコアは上昇し、変異の約38%を説明した。このQTLを持つことで深播耐性を約17%高めることが示された。マーカーを追加したことで、よりQTLの位置の正確性と信頼性を増加させることができた。
【0147】
一方、Kleinhofsら(1994)(Kleinhofs, A., Kilian, A and the NABGMP, 1994. The NABGMP Steptoe X Morex mapping progress report. BGN 23:79-83.)の連鎖地図によると、MWG632よりも末端部にはABC718がある。ABC718は子葉由来のcDNAマーカーであることなどから、深播耐性の強い系統の選抜に利用可能とも考えられる。また、子葉鞘長および第1節間のQTLや植物ホルモンに対する反応も深播耐性のQTLとほぼ同座あるいは近傍に位置することが報告されている(非特許文献3)。よって今後、ABC718は作物にストレス耐性を付与したり、強い品種を選抜するための良き手がかりになると思われる。
【0148】
ABG314を用いて深播耐性の強い品種と弱い品種の塩基配列を比較したところ、地域間において共通する塩基がいくつか見られた。北アフリカのグループ、トルコのグループ、ドイツのグループ、ネパールや日本や朝鮮半島のグループの4つに分類できた。今回、ABG314座の塩基配列と深播耐性との関係は示されなかった。しかし、オオムギ品種の深播耐性の地理的変異を調べると、北アフリカ、ネパール、エチオピア、トルコおよび西南アジアの品種が強く、中国およびヨーロッパ地域に深播耐性の弱い品種が分布していると報告されている。よって、今回の分類の結果と類似が見られる。このことから、品種数を増やすことによって大麦の系統進化が推測できる可能性があると思われる。
【0149】
【発明の効果】
以上のように、本発明の遺伝マーカーによれば、信頼性の高い連鎖地図を作製することができるだけでなく、深播耐性、ストレス耐性、または休眠性に関する遺伝子またはQTLについて、より精度の高いQTL解析を行うことができるという効果を奏する。したがって、深播耐性、ストレス耐性、または休眠性に関する遺伝子またはQTLを単離・同定するための非常に有用な手段となるという効果を奏する。
【0150】
さらに、上記の遺伝マーカーを指標とすることにより、簡便かつ高効率で、深播耐性、休眠性、ストレス耐性等の諸形質を有する植物を選抜したり、または深播耐性、休眠性、ストレス耐性等の諸形質を有する植物を作出したりできるという効果を奏する。
【0151】
【配列表】
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【図面の簡単な説明】
【図1】主なDNAマーカーの特徴を示す図である。
【図2】オオムギの深播耐性について模式的に説明する図である。
【図3】本実施の一形態におけるオオムギ5H染色体長腕末端部のSTSプライマーを示す図である。
【図4】本実施の一形態におけるPCRの反応液の組成を示す図である。
【図5】本実施の一形態における、オオムギ5H染色体長腕末端部のSTSプライマーにおけるPCR条件を示す図である。
【図6】 RFLPマーカーのSTS化を調べた電気泳動の結果を示す図である。
【図7】本実施の一形態における、オオムギ5H染色体長腕末端部のDNAマーカーの多型検索結果を示す図である。
【図8】本実施の一形態における、ABC622-Rプライマーを用いた「Harrington」と「TR306」との塩基配列を比較した図である。
【図9】図9(a)は本実施の一形態における、制限酵素処理に使用する制限酵素名を示す図であり、図9(b)は、酵素処理反応液の組成を示す図である。
【図10】本実施の一形態におけるタッチダウンPCRのプログラムを示す図である。
【図11】本実施の一形態における、HVM6(マイクロサテライトマーカー)のPCR条件を示す図である。
【図12】本実施の一形態の「Harrington」および「TR306」におけるABG314の多型を調べた結果を示す図である。
【図13】(a)(b)は、本実施の一形態の「Harrington」、「TR306」およびそのDH系統におけるABG314の多型を調べた結果を示す図である。
【図14】本実施の一形態の「Harrington」および「TR306」のDH系統におけるHVM6の多型を調べた結果を示す図である。
【図15】本実施の一形態の各マーカーにおけるDH94系統の遺伝子型を示す図である。
【図16】図16(a)は従来(Mather)のオオムギ5H染色体長腕末端部の連鎖地図を示す図であり、図16(b)は本実施の一形態におけるオオムギ5H染色体長腕末端部の連鎖地図を示す図である。
【図17】従来(Mather)の連鎖地図を利用したQTL解析の結果を示す図である。
【図18】本実施の形態における、新規の連鎖地図を利用したQTL解析の結果を示す図である。
【図19】本実施の形態における、各マーカー間の深播耐性の位置とLODスコアの比較を示す図である。
【図20】本実施の形態における、5H染色体末端部のマーカーの遺伝子型別による深播耐性(%)を示す図である。
【図21】深播耐性の強い10系統と弱い10系統における各マーカーの遺伝子型を示す図である。
【図22】供試した深播耐性の極強・極弱品種を示す図である。
【図23】本実施の形態における、ABG314プライマー対を用いた深播耐性の極強・極弱品種のPCR増幅断片を示す図である。
【図24】本実施の形態における、ABG314を用いた深播耐性の極強・極弱品種の塩基配列の比較を示す図である。

Claims (4)

  1. オオムギの深播耐性に関連する量的形質遺伝子座と連鎖する遺伝マーカーであって、
    配列番号1〜22のいずれかに示される塩基配列を有することを特徴とする遺伝マーカー。
  2. 上記遺伝マーカーは、オオムギ5H染色体長腕末端部における遺伝マーカーであることを特徴とする請求項1に記載の遺伝マーカー。
  3. 上記遺伝マーカーは、STSマーカーであることを特徴とする請求項1または2に記載の遺伝マーカー。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の遺伝マーカーを指標として、深播耐性を有するオオムギを選抜する方法。
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