JP4387094B2 - 火打ち金物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明が属する技術分野】
この発明は、木造軸組み工法住宅の隅角部にせん断抵抗要素として配置する火打ち金物に関する。火打ち金物は、柱と横架材(土台を含む)が形成する垂直構面では方づえとして機能する。
【0002】
【従来の技術】
火打ち金物は、従来、木材の火打ち梁に変わるものとして、同程度の圧縮力に対抗できるものを、との考えから、鋼棒やパイプあるいは断面溝形に成形した比較的単純なものが採用されてきた。ここで圧縮力とは、直交する梁と梁の一方を支持梁、他方を加力梁としたとき、加力梁に加わる水平方向のモーメントにより、火打ち材の長手方向に作用する力である。
【0003】
木造軸組み工法住宅の構造において火打ちの取り付けは、耐震性、耐風圧性を向上させる上で重要である。このため、「構造の安定に関する評価方法基準」(建築基準法平成12年告示第1654号)の「許容応力度計算ルート1」では、火打ちに関する試験を行なってその性能が基準を満たすものであるかを検定することが指示されている。一方、指定された基準をはるかに上まわる性能を火打ち部分のみに付与しても応力の集中を招くなど、他の構造個所とのバランス上、意味がなく、逆に、住宅の重量を大きくしたり、素材やコスト上に無駄を生じる不都合がある。
【0004】
火打ち金物の性能は、通常、木造軸組工法住宅の許容応力度計算法(詳細計算法による場合)が採用している火打ち材接合部の面内せん断試験による短期基準モーメントMoで評価される〔木造軸組工法住宅の許容応力度計算法(発行 財団法人日本住宅・木材技術センター)第2章4.・・・ただし、せん断耐力をモーメントと読み変える〕。
短期基準モーメントMoは、前記試験において原始データとして得られるM−θ曲線をもとに降伏モーメントMy、終局モーメントMu×(0.2/Ds)、最大モーメントの2/3、あるいは真のせん断変形角が1/150rad時モーメントの平均値に、それぞれのばらつき係数を乗じた値のうち最も小さい値が採用される(図8,9)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
前記評価方法による基準を満たし、かつ、水平構面(水平構造面)、垂直構面(垂直構造面)の変形を要求される耐力の範囲で弾力的に支持して復旧性に優れるとともに、軽量で、素材の無駄を省き、製品コストを従来品よりも低くできる火打ち金物の提供を課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
鋼製の火打ち金物とする。鋼製とすることで、同程度の機能を持つ火打ちとして木材よりも小形軽量とすることができるので、施工しやすく、また、せん断力に対して靭性の高い水平構面、垂直構面を構成することができる。
鋼板をプレス加工して、両側壁と底壁を有し断面溝形とした細長い基体部を中央としその両端を塞ぐ形で取付け部を一体に有する構造に成形する。底壁の幅は溝形断面の開口幅よりも小さく、また、底壁の長さは開口の長さよりも小さい。基体部は断面を溝形とすることにより、断面係数を高くし圧縮力による曲げや座屈に関する強度を高くする。
【0007】
取付け部は、基体部の底壁端部から溝形断面における開口の端部に向けて傾斜した平面に形成される。この傾斜による取付け部の基体部に対する傾斜角度は、両側の取付け部で角度を関連させ、両側の取付け部が隅角部で直交する木材の内側面へそれぞれ密着するようにする。すなわち、両側の取付け部が基体部に対して取る内側角度αのそれぞれの補角βの合計(β+β)が90°となるようにする。
【0008】
そして、このように構成される火打ち金物において、前記基体部の両側で取付け部に近い部分を、他の部分に比較して要求される耐力の範囲内で弾力的に変形しやすく形成する。変形の方向は、基体部の長手方向であり、要求される耐力とは、たとえば、前記の許容応力度計算ルートなどにおいて水平構面の負担水平力(地震力、風圧力)を超過するために必要となる火打ち金物としての耐力のことである。
このためには、種々な方法が考えられるが、取付け部に近い部分を熱処理して他よりも少し剛性を落とすとか、肉厚を部分的に小さくするとか、あるいは、取付け部に近い両側壁の開口側を底側に向けてなだらかな曲線で切り欠き、溝形断面を小さくするなどである。
この構成であると、要求される耐力の範囲、例えば建物に損傷が生じない程度の水平構面、垂直構面の変形に対して、取り付け部が基体部に対して弾力的に屈曲し、また、復旧するので、火打ち金物全体が剛に突っ張ることによる取り付け部のめり込みや緩みを防止することができる。
【0009】
基体部の両側壁は開口側端縁を外側へ巻込むように形成して壁補強リブとすることがある。壁補強リブは取付け部の近くでは切除し、前記の「他の部分に比較して、要求される耐力の範囲で、弾力的に変形しやすく」形成するための構造の一つとすることができる。
なお、底壁は開口面に平行な平底とし、内側へ押出した底補強リブを長手方向に沿って形成することがある。平底とすることにより火打ちの強度を損なうことなく梱包が容易となり、また、底補強リブは底壁の曲げ抵抗を大きくする。
【0010】
【発明の実施の形態】
図1は、木造軸組工法住宅における隅角部の構造であって、通し柱1に横架材2と梁3が直交する配置で接合され、入隅側に火打ち金物4(商品名 F−HB)を横架材2と梁3にわたって取付けてある。
火打ち金物4は、図2〜4に示すように、全体として溝形をした細長い舟形の形態で、厚さ、2.3mmの鋼板をプレス加工して一体成形してある。プレス加工では全体として細長く型取りした鋼板を一挙に加工し、中央の基体部5とその両側の取付け部6,6を形成する。型取りした鋼板には予め所要個所にねじ孔等を形成しておく。
【0011】
基体部5は、両側壁7,7と底壁8を有する溝形で、底壁8の幅W1は溝形断面が有する開口の幅W2よりも小さく(図3)、底壁8の長さL1は、開口の長さL2よりも短い(図6)。なお、この実施形態では側壁7,7の開口側縁が外側へめくれるように折り曲げられて壁補強リブ9を形成している。さらに、底壁8には、内側に膨出させた底補強リブ10を長手方向の中央に設けている(図2,4)。
【0012】
両側の取付け部6はそれぞれ、底壁8の端部から溝形断面における開口の端部に向けて傾斜した平面に形成され、基体部5の長手方向に対して内側角度αで先端側が持ち上がるような傾斜面となっている(図5)。前記の内側角度αは左右の取付け部で異なっても良いが、角度αの補角βの合計(β+β)が90°となるようにする。取付け部6の先端中央部には、一部を切り欠くことによって仮止め爪11を内側から外側に向けて形成してある。
【0013】
そして、基体部5の両側壁7,7の取付け部6に近い個所を溝形断面の開口側から底側へなだらかな曲線で切り欠いた切欠部12としてある。この実施形態において、切欠部12は始端を取付け部6とし、火打ち金物全長の約1/15の範囲としている。この部分では、壁補強リブ9も共に切りかかれている。切欠部12の深さは側壁7の高さの約1/5である。
【0014】
具体的には、底壁の長さL1=832、全体の長さL2=906(mm以下同)、壁補強リブ9の長さL3≒778であるから切欠部12の長さL4≒64である(図6)。また、全高H1=40、側壁の高さH2=25、溝形断面の底壁の幅W1=40、開口の幅W2=60である。切欠部12の最低部から底壁までの距離H3≒20であり切欠部12の半径R≒56でその終端は取付け部6の先端へと続くなだらかな線につながっている。
【0015】
この製品F−HBの短期基準モーメントMoは、図10〜12に示すように引っ張り側において5.4kN・mであったが、圧縮側では7.6kN・mであり、引き抜き側では火打ち金物の両端部を固定しているくぎなどの固定強度に影響されることを考慮すると、従来の同等製品であるZ鋼製火打ち金物ZHB(鋼板の厚さ2.3、L1=990、L2=1110、L3≒1050 、W1=35、W2=65、H1≒40、H2=30切欠部12に相当する構成は有していない)の短期基準モーメントMoがそれぞれ、7.5kN・mと6.2kN・mであるのに比べ格別の遜色はない。その一方で、製品F−HBは、ZHBに比較して長さが小さくスリムなため、軽量である。
なお、図13〜15は、製品ZHBに関するもので製品F−HBに関する図10から12のそれぞれに対応させたものである。図12、図13はそれぞれ1例であり、製品F−HBおよびZHBに関する実大試験結果のM−θ曲線と、これから導かれる各種データを示している。
【0016】
上記の表によれば、製品F−HBは、ZHBと対比して初期剛性と降伏点変形角が低い。これは図7イのように、水平荷重Pが作用する当初、両側壁7,7の取付け部6に近い部分が切欠部12と壁補強リブ10の欠如により、他の部分に比較して、基体部5の長手方向で変形しやすく形成してあるために初期に剛性が低く現れるものと考えられる。しかし、この間の変形は、この火打ち金物4(F−HB)にとって弾性変形の範囲であり、軽微な地震などで柱の傾きがこの範囲に納まる時には、水平構面が火打ち金物4を弾性材とした一種の柔構造となる。このような柔構造は軽微な水平荷重が繰り返されるとき、火打ち金物4と梁との接合部が徐々に損傷してしまう事態を防止する上で有利である。
【0017】
そして、これに次ぐ大きな水平荷重P(変形)を受けるときは、火打ち金物4の剛直な基体部5が従来の火打ち金物と同様に圧縮力、引っ張り力を担持することになるが、火打ち金物として短期基準モーメントMoは従来のものと遜色はない。このとき、火打ち金物4は基体部5が隅角部の外側へ湾曲する傾向となる。これは、基体部5に対して取付け部6が変形してその角度が基体部5の長手方向へ大きな分力(圧縮力)を配分する角度になることと、隅角部の外側へ向かう水平分力があるためと考えられる(図7イ)。これに対して基体部5と取付け部6が剛な関係にある従来の製品ZHBでは、基体部5が隅角部の内側に向けて湾曲する。これは、取付け部6に作用する水平荷重Pが、取付け部6と基体部5の屈曲部を支点としたモーメントM2を生じ、基体部5の中央部分を隅角部の内部側へ回転させようとするためと考えられる。
【0018】
以上、一つの実施形態について説明したが、本願発明の場合、剛直な基体部5に対して取付け部6を「他の部分に比較して、要求される耐力の範囲で、弾力的に変形しやすく」形成することが重要であり、このための手段は種々に採用することができる。
【0019】
【発明の効果】
従来の火打ち金物に比較して軽量である。しかも、耐力等の性能は同等である。このため、火打ち金物のコストを低減し、また、軽量化によって取り扱い易いものとできる。さらには、木造軸組工法住宅の軽量化を図ることができ、特に3階建住宅では階上部分の重量が軽減され、地震対策上有利である。
取付け部と基体部に弾力があるので、日常の振動や小地震程度の揺れによって生じる取付け部の緩みや構造材への食い込みを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】斜視図
【図2】平面図
【図3】A−A断面図
【図4】B−B断面図
【図5】正面図(一部省略)
【図6】寸法を示すための正面図
【図7】(イ)、(ロ)共に、作用を説明するための図
【図8】データを得るための図
【図9】試験方法の説明
【図10】得られたデータを整理した表(F−HB)
【図11】算出結果を整理した表(F−HB)
【図12】M−θ曲線の一例(F−HB)
【図13】得られたデータを整理した表(ZHB)
【図14】算出結果を整理した表(ZHB)
【図15】M−θ曲線の一例(ZHB)
【符号の説明】
1 通し柱
2 横架材
3 梁
4 火打ち金物
5 基体部
6 取付け部
7 側壁
8 底壁
9 壁補強リブ
10 底補強リブ
11 仮止め爪
12 切欠部

Claims (1)

  1. 鋼板の一体成形金物であって、溝形断面の細長い基体部の両端を平らな取付け部で塞いであり、溝形断面を形成する両側壁と底壁は、溝形断面の開口幅よりも底壁幅が小さく、開口の長さよりも底壁の長さが小さな細長い船形であり、取付け部は底壁の端部から開口の端部に向けて傾斜した平面に形成してあり、両側壁は開口側端縁に外側へ巻込むように形成した壁補強リブを有し、取付け部に近い両側壁の開口側を壁補強リブを含めて、底側に向けてなだらかな曲線で切り欠くことにより、両側壁の取付け部に近い部分を、他の部分に比較して、火打ち金物として要求される耐力を満たして弾力的に基体部の長手方向へ変形しやすく形成してあることを特徴とした火打ち金物。
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