JP4386984B2 - 印刷装置における用紙保持装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、印刷装置における用紙保持装置に関し、さらに詳しくは、孔版印刷装置等を含む印刷装置の圧胴周りに配設される用紙保持装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
印刷装置の一例としての孔版印刷装置において、回転中心軸の周りに回転自在であり、製版されたマスタを外周面に巻き付ける版胴と、版胴の回転と同期して版胴の回転方向と反対方向に回転自在であり、給送されて来た用紙の先端部を保持する用紙クランパを備え版胴の外径と略同径の圧胴とを具備したものが知られている。このような孔版印刷装置例としては、例えば、特開平5−201115号公報や特開平8−183166号公報、あるいは本願出願人が提案した特願平10−48244号等を挙げることができる。
上記圧胴は、版胴の外周に設けられているマスタの先端部をくわえるマスタクランパとの干渉を避けるために自身の外周部の一部に設けられた凹部を有することで、版胴に対する印圧のオン/オフ時の移動量を小さくすることができるため、印圧音を小さくすることができ、ひいては孔版印刷装置の騒音の低減を図ることができるという特長をもっている。
【0003】
上記用紙クランパは、圧胴の上記凹部に配設されていて、開閉自在になされている。このような用紙クランパは、「くわえ爪」とも呼ばれていて、給送されて来た用紙の先端部を挾持・保持する(以下、「くわえる」もしくは「クランプする」と言い替えるときがある)機能を有し、後述する用紙保持装置の構成部品の一つを構成している。この用紙クランパにより給送されて来た用紙の先端部をくわえながら回転する圧胴で搬送しその用紙を版胴に押し付けて印刷を行うことができるので、孔版印刷工程において、用紙の先端部が版胴に貼り付いたまま排紙爪もしくは剥離爪で剥離できずジャムになる、いわゆる「排紙(用紙)巻き上がり」を防止したり、用紙の用紙搬送方向に対する印刷画像の位置精度(レジスト精度)の向上を図ったりすることができる。
【0004】
以下、図8ないし図18を参照して、用紙クランパを備えた圧胴の用紙保持装置において、給紙時、クランプ時、排紙時の用紙クランプの各動作およびその時の用紙搬送動作を説明する。例えば、図8に示すような孔版印刷装置においては、その孔版印刷装置の騒音の低減および用紙Pのレジスト精度等を向上する目的で押圧手段として用紙クランパ30を備えた圧胴20、いわゆる「紙くわえ圧胴方式」が用いられる。圧胴20は、図8に示すように、その外径寸法D(直径)を版胴22の外径寸法D(直径)と等しく形成されていて、版胴22が1回転したとき、圧胴20も1回転する。このため、同図に示すように、給送されて来た用紙Pの先端部をクランプする用紙クランパ30を圧胴20上に設けることができ、用紙Pの先端を用紙クランパ30に突き当てながら給紙することで、用紙Pのレジスト精度を向上することができる。なお、図8においては、用紙クランパ30およびスクレーパとも呼ばれている排紙爪44等を簡略的に示している。
図9ないし図11に示すように、クランプ装置28は、給送されて来た用紙Pの先端部をクランプする開閉自在な用紙クランパ30と、用紙クランパ30の基端部をネジで固定し圧胴20の外周の一母線方向に延びた軸36と、用紙クランパ30を開閉駆動するために装置本体側に固定して設けられた図示しないカムと、このカムに係合するカムフォロア37と、軸36とカムフォロア37との間に固設され上記カムの動きを用紙クランパ30に伝えるアーム39と、圧胴20の凹部21に固設され軸36の両端部を所定角度回動自在に支持するベース35と、用紙クランパ30を閉じる位置にその磁力で保持するマグネット34と、用紙クランパ30を閉じる向きに付勢する引張りスプリング38とから主に構成されている。
用紙クランパ30は、用紙Pの先端部をクランプする用紙爪31と、この用紙爪31でクランプされて排紙爪44の位置に来たとき印刷された用紙Pを圧胴20から浮上させて排出するために用紙Pをけり上げるけり上げ爪32と、給送されて来た用紙Pの先端に当接して用紙Pの先端の位置決めをするストッパ爪33とからなる。このように用紙クランパ30は、用紙爪31、けり上げ爪32およびストッパ爪33とから、板金の切り曲げ加工等によって実質一体的に形成されている。
【0005】
マグネット34は、ベース35の上部に固設されていて、その磁力によって用紙爪31によりクランプされた用紙Pの先端部を閉じ位置に保持する。マグネット34には、開閉揺動動作する用紙クランパ30における用紙爪31、ストッパ爪33およびけり上げ爪32が干渉しないように切欠部34aが複数箇所形成されている。引張りスプリング38は、アーム39のカムフォロア37寄りの部位と圧胴20の端板20aに植設されたピン20bとの間に張設されている。用紙クランパ30は、上記カムのカム曲線により開閉するが、閉じるときは引張りスプリング38の付勢力によって閉じられる。
【0006】
上記したクランプ装置28の構造により、用紙クランパ30は、上記カムの動きに合わせ軸36を支点として揺動しつつ開閉する。この時、用紙クランパ30は、用紙爪31およびけり上げ爪32が一体的に一つの軸36を支点として所定角度回動、換言すれば揺動するため、用紙クランパ30が用紙Pをクランプする際にはけり上げ爪32の先端が圧胴20の外周面上から出ない程度に開く(図13参照)。そして、用紙クランパ30は、上記カムによりレジストローラ対25a,25bから送られて来た用紙Pの先端部をクランプすべく所定のタイミング、例えば図8に▲1▼で示す圧胴20における用紙クランパ30の回転位置(以下、「用紙クランプ位置」というときがある)で開き、用紙Pの先端を用紙クランパ30のストッパ爪33に突き当てた後、図8に二点鎖線で示すような所定のたわみPAが形成されるような用紙搬送速度で搬送されつつ、用紙Pの先端部が用紙クランパ30の用紙爪31によりクランプされ、用紙Pの先端が図9に示されている上下一対のガイド板40,41の下流端を出た後の所定のタイミングで用紙クランパ30が閉じるようになっている(図14参照)。用紙クランパ30は、図12に示す用紙先端余白長さALを極力小さくするために、用紙爪31の先端を加圧点Cぎりぎりまで近付けてレイアウト設計されていて、用紙Pの先端部の数mm(大体2〜5mm)ほどの部位をクランプするようになっている。
【0007】
次いで、用紙クランパ30は用紙Pの先端部をクランプした状態で、すなわち圧胴20がその外周面に用紙Pを保持したまま回転し、図15ないし図8に▲2▼で示す回転位置近傍に至ると、図10にも示されているように、用紙Pの先端部が版胴22の外周面と圧胴20の外周面との間に搬送され、用紙Pの先端がマスタ23および用紙Pを介して版胴22の外周面と圧胴20の外周面とが押圧して形成されるニップ部Nで孔版印刷が行われる。用紙クランパ30は、図16に示すようにニップ部Nを通過した後、図17に示す回転位置(以下、「用紙排出位置」というときがある)である排紙爪44に至る直前の位置付近で再び開き、これにより用紙クランパ30の用紙爪31から印刷された用紙Pの先端部を離し、それからさらに用紙クランパ30が開くことで、図17に示すように、けり上げ爪32で印刷された用紙Pの先端部をけり上げて用紙Pの先端を排紙爪44に受け渡し、こうして排出された用紙Pを回転するベルトおよび吸引ファン等を備えた排紙搬送装置49(図9および図10参照)へと送るようになっている。
【0008】
このように、圧胴20における用紙クランパ30の回転位置が、▲1▼→▲2▼→▲3▼へと順次推移することで、インキが用紙Pに転写される▲2▼の回転位置よりすぎた位置で用紙Pの先端部が排出されるので、用紙Pがインキの粘着力により版胴22に巻き上がらない。このような圧胴20の回転位置における用紙クランパ30の用紙クランプ位置の開閉タイミング位置は、用紙クランパ30による用紙Pの先端部のクランプミスを防止し、かつ、ニップ部N近傍における版胴22の外周面との干渉等を防止するために、できるだけガイド板対40,41の下流端に近くなるように設定される。
【0009】
ところで、用紙クランパ30が用紙Pの先端部の数mm(大体2〜5mm)位の部位をクランプするようになっている用紙クランパ30の場合、用紙Pの先端が用紙クランパ30のストッパ爪33に突き当たり衝突する際の用紙搬送速度が圧胴20の周速度よりも遅いときには、用紙クランパ30にクランプされるべき用紙Pの先端部が、版胴22の外周面と圧胴20の外周面とが押圧される前に用紙クランパ30から抜けたり、ストッパ爪33と用紙Pの先端との間に隙間を生じてストッパ爪33に対する用紙Pの先端位置がずれたりしてしまう。
用紙Pの先端部が上記したようにして用紙クランパ30から完全に抜けてクランプされないとき、用紙Pの先端部が版胴22の外周面に貼り付いたまま排紙爪44やけり上げ爪32で剥離できず、上記した排紙巻き上がりと呼ばれるジャムとなったり、また用紙Pの先端部が用紙クランパ30から完全に抜けなくても、ストッパ爪33に対する用紙Pの先端位置がずれたときには、印刷された用紙Pにおける用紙搬送方向Xに対する印刷画像Gの位置精度(レジスト精度)が悪化したりする不具合となる。このような不具合を解消するために、現実的には上述したように、用紙Pの先端が用紙クランパ30のストッパ爪33に当接する際の用紙搬送速度を圧胴20の周速度よりも速くなるように設定することにより、用紙クランパ30による用紙Pの先端部の保持部近傍に所定のたわみPAを形成して、用紙クランパ30から用紙Pの先端部が抜けるような力が働かない用紙搬送速度制御方式を採用している。このような用紙搬送速度制御方式を採用した場合、用紙Pの先端部近傍のたわみPA形成部分がニップ部Nで押圧される前に、版胴22の外周面上の製版済みのマスタ23に接触することがあり、用紙PのたわみPA形成部分が製版済みのマスタ23から滲み出たインキで汚れ、ダブリ画像を形成してしまう重大な不具合となるため、ニップ部Nに至る前の用紙搬送路上に、ニップ部Nに至る前の用紙PのたわみPA形成部分が版胴22上の製版済みのマスタ23と接触しないように用紙Pを案内する用紙案内手段としてのガイド部材160a(図9のみに示す)を設けている。符号161は、ガイド部材160aの用紙搬送方向Xの下流側端部に設けられた可撓性部材を示している。
【0010】
一方、用紙先端余白長さALを小さくしようとすると、用紙爪31の先端31bが圧胴20の外径寸法Dから外側へ突出して版胴22上の製版済みのマスタ23に接触し、用紙爪31の先端31bが毎回転ごとに同じ部位の製版済みのマスタ23に当たるために、当該部位の製版済みのマスタ23が破れてしまう。このようにして製版済みのマスタ23が破れると、版胴22の外周面に供給されたインキが当該部位の破れからはみ出すことになり、はみ出したインキが用紙爪31を汚すことで、用紙Pの先端部を汚してしまう不具合になるため、用紙クランパ30の用紙爪31の先端31bが版胴22上の製版済みのマスタ23に当たるのを防止すべく、用紙クランパ30は、用紙爪31の先端31bが外径寸法D内に入るように、圧胴20の中心側に傾けられて配設され、これにより用紙Pの先端部を圧胴20に巻き付く内側の方へ若干曲げてクランプするようなレイアウト構造となっている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、用紙クランパ30は、用紙爪31およびけり上げ爪32が一体となって一つの軸36を支点として所定角度回動する構造および上記したレイアウト構造となっているため、以下の様な諸不具合や問題点が生じてしまう。
(1)給紙時の用紙クランプの際、図13に示すように、けり上げ爪32の先端が圧胴20の外周面上から出ない位しか開くことができないため、その開放角度が小さく、これによって用紙クランプが不安定となる。
【0012】
(2)排紙時の用紙排出の際、けり上げ爪32がけり上げ動作を行っている時(この時には用紙Pを未だけり上げていない)には、図16に示すように、既に、用紙クランパ30の用紙爪31は用紙Pの先端部を離している、換言すれば(1)の用紙クランプ動作の反対の動きをけり上げる前に行ってしまっているが、この時浮上され解放された用紙Pの先端は版胴22のニップ部Nに近いので、排紙巻き上りが生じやすく、これによりジャムが生じる。
【0013】
(3)用紙爪31とけり上げ爪32とは、一つの軸36を支点として所定角度回動するため、図18(a)ないし図18(c)に順次示すように、けり上げ爪32は用紙Pの先端側に揺動・上昇してけり上げるため用紙Pの先端が外れやすく、このようなけり上げ動作では用紙Pの先端部を確実に浮上させて排出することができない。
【0014】
(4)用紙クランパ30のけり上げ爪32のけり上げ動作により、図17に示すように用紙爪31が必要以上に開くため、用紙爪31が排紙爪44の先端部と干渉するので、これを避けるため図11に示すように、用紙爪31に逃げ31aを形成していて、用紙爪31はその自由端が開放されたくし歯状になっている。これにより、版胴22への印圧は、くし歯状の用紙爪31の先端より用紙搬送方向Xの上流側に偏倚した位置からしか掛けることができなく、クランプ跡からどうしても3〜5mm後側でないと印刷画像を出すことができない(この場合には、図12において用紙先端余白長さALは7〜10mmにも達してしまうが、このように用紙クランパ30のクランプ代で決まる用紙先端余白長さALは必要なクランプ寸法であり、版胴22の回転位相の調整や用紙Pの給送タイミング等の制御によって用紙先端余白長さALを調整する方式の天地調整機構等では調整不可の寸法である)。もし、くし歯状の用紙爪31の先端から印圧を掛けるとしたならば、印刷画像はクランプ跡直後から出るが、くし歯状の用紙爪31の逃げ31a部分に対応した版胴22上の製版済みのマスタ23の部位にインキが溜ってしまい、そのうちに製版済みのマスタ23が破れてインキが漏れ出してしまう。このインキ漏れは、次のように推察される。すなわち、用紙爪31の逃げ31a部分が用紙爪31の自由端部分として軸36の長さ方向に亘りつながっていない開放端を形成しているために、圧胴20の押圧状態下での製版済みのマスタ23に対する印圧分布が不均一となりその圧力差が大きくなることによって、用紙爪31の逃げ31a部分に対応した版胴22上の製版済みのマスタ23の部位にインキが溜まっていき、開放端を有する個々の用紙爪31の押圧による動きにより、しまいにはインキが溜まっている製版済みのマスタ23部分を破ることで発生するものと思われる。
【0015】
したがって、本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、排紙巻き上りやジャムを生じにくくすると共に、けり上げ・浮上動作時に用紙の先端が外れることがなく用紙の先端部を確実に浮上させて排出することができ、かつ、インキ漏れ等を生じることなくクランプ跡直後から印刷画像を出すことのできる改良された印刷装置における用紙保持装置を提供することを目的としている。
【0016】
【課題を解決するための手段】
上述した問題点を解消するために、請求項1記載の発明は、製版されたマスタを外周面に巻き付ける版胴と、給送されて来た用紙の先端部を保持する保持手段を備え上記版胴の外径と略同径の圧胴とを具備する印刷装置において、上記保持手段は、用紙の先端部を給紙時に係止し、かつ、排紙時に開放する開閉自在な係止部材と、該係止部材とは別体で設けられ、該係止部材が排紙時に開放された際に、用紙の先端部を上記圧胴の外周面から浮上させる浮上部材とを備え、上記係止部材は、その基端部を中心として自由端が、上記排紙時に開放した際に開放空間を形成して揺動変位自在に駆動されるように構成されており、上記浮上部材は、その先端が、上記給紙時に上記係止部材の内側近傍であって上記圧胴の外周面より内側に位置する非用紙浮上位置と、上記排紙時に開放した上記係止部材の上記自由端よりも用紙搬送方向の上流側に偏倚した用紙浮上位置との間で移動自在に駆動されるように構成されており、上記浮上部材が上記用紙浮上位置を占めるとき、該浮上部材の上記先端が上記開放空間を挿通して用紙の先端部から該用紙の後端に向かってけり上げ・浮上させることを特徴とする印刷装置における用紙保持装置である
ここで、「版胴の外径と略同径の圧胴」とは、版胴の外径寸法が圧胴の外径寸法と同じであるものの他、設計上の寸法公差範囲内にある場合も含む。
【0017】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の印刷装置における用紙保持装置において、上記係止部材を駆動する係止部材駆動手段は、上記圧胴を回転駆動する駆動手段と、上記圧胴の近傍における上記印刷装置の本体側に設けられ、上記圧胴の回転運動を上記係止部材の開閉動作に所定のタイミングをもって変換する係止部材用カムとを具備し、上記係止部材用カムには、上記係止部材を開閉させるためのカム形状が形成されており、上記浮上部材を駆動する浮上部材駆動手段は、上記駆動手段と、上記圧胴の近傍における上記印刷装置の本体側に設けられ、上記圧胴の回転運動を上記浮上部材の浮上動作に所定のタイミングをもって変換する浮上部材用カムとを具備し、上記浮上部材用カムには、上記浮上部材を浮上させるためのカム形状が形成されており、上記係止部材駆動手段および上記浮上部材駆動手段により、上記係止部材と上記浮上部材とがそれぞれ独立して駆動されることを特徴とする。
【0018】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の印刷装置における用紙保持装置において、上記給紙時における上記係止部材の開放角度が、上記排紙時における開放角度よりも大きく設定されていて、上記排紙時に、上記係止部材と上記浮上部材とが略同時に駆動されることを特徴とする。
【0020】
請求項4記載の発明は、請求項2または3記載の印刷装置における用紙保持装置において、上記係止部材は、所定の弾性を有する弾性部材から形成されており、上記係止部材による用紙の先端部の係止が、上記係止部材用カムの上記カム形状と上記弾性とに基づき行われることを特徴とする。
ここで、所定の弾性とは、上記係止部材自体や上記係止部材用カムあるいは上記係止部材に対向して設けられた用紙の先端部を受ける部材等の精度上の誤差を吸収し得る程度の弾性を意味する。
【0021】
請求項5記載の発明は、請求項1ないし4の何れか一つに記載の印刷装置における用紙保持装置において、上記係止部材の自由端を略直線状に形成したことを特徴とする印刷装置における用紙保持装置。
ここで、「係止部材の自由端を略直線状に形成した」とは、係止部材の自由端を直線状に形成したことを含む他、係止部材の自由端を設計上の許容公差内に形成した場合や、後述する効果を奏する範囲内に形成した場合も含むことを意味する。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、図を参照して実施例を含む本発明の実施の形態(以下、単に「実施形態」という)を説明する。上述した従来の技術例および実施形態等に亘り、同一の機能および形状等を有する部材や構成部品等については、同一符号を付すことによりその説明をできるだけ省略する。図および説明の簡明化を図るため、図に表されるべき部材や構成部品であっても、その図において特別に説明する必要がない部材や構成部品は適宜断わりなく省略する。
【0026】
まず、本発明を適用する印刷装置の一例としての版胴および圧胴を備えた孔版印刷装置において、従来の技術例で説明しなかった構成部分を補充説明する。版胴22は、図1、図8ないし図10等に示すように、インキ通過性多孔構造の支持円筒体とその外周面に巻装されたインキ通過性の複数層のメッシュスクリーン(図示せず)とを有し、支軸22Aの周りに回転可能に支持されている。版胴22は、複数の印刷速度に対応してその回転速度を変えることが可能なように版胴駆動手段としてのメインモータ29を含む版胴22の駆動系を介して図1において時計回り方向に回転駆動される。
版胴22の外周面には、図示しない製版書込み部で穿孔・製版された製版済みのマスタ23の先端部を挾持するマスタクランパ24が配置されている。マスタクランパ24は、支持円筒体の外周面の母線に沿って設けられた強磁性体よりなるステージ(図示せず)に対向し、マスタクランパ軸24aを介して回動可能に支持されていて、上記ステージと対向する面に磁石を貼着されて構成されている。マスタクランパ24は、版胴22が所定の回転位置を占めたときに、図示しない開閉装置により駆動力を伝達されて開閉される。
【0027】
版胴22の内部には、図8に示すように、インキ供給装置45が配設されている。インキ供給装置45は、版胴22と同方向に同期して回転し、版胴22の内周面にインキを供給するインキローラ46と、インキローラ46とわずかな間隙を置いて平行に配置され、インキローラ46との間にインキ溜り48を形成するドクターローラ47と、インキ溜り48へインキを供給するパイプ状をなす支軸22Aとを具備している。インキローラ46、ドクターローラ47は、支軸22Aに固定された側板手前・奥にそれぞれ回転自在に支持されている。インキ溜り48からインキローラ46の外周面に供給されたインキは、版胴22とインキローラ46の外周面とに僅かに隙間を設けているために、版胴22の内周面に供給される。インキは、適宜の位置に配置されたインキパックからインキポンプにより圧送され、支軸22Aの供給穴よりインキ溜り48へ供給される。
【0028】
上記版胴22の駆動系は、圧胴20の駆動系に連結されていて、メインモータ29は圧胴20を回転駆動する駆動手段を兼ねている。圧胴20は、メインモータ29および圧胴20の駆動系を介して、図1において版胴1の回転周速度と同じ周速度で反時計回り方向に回転駆動されると共に、図示しない接離手段によって、版胴22の外周面に対して接離自在になされている。版胴22の駆動系、圧胴20の駆動系および上記接離手段としては、例えば特開平9−216448号公報の図1ないし図5等に示されている構成と同じものを用いている。
圧胴20の外周部には、版胴22の外周面に接触する円筒部と、上記した凹部21とが形成されている。圧胴20は実施例的にいうと、その本体部分には合成樹脂が使用されていて軽量化を図っていると共に、上記円筒部の外周にはニトリルゴムが巻着されていて圧胴20の回転ムラを低減している。
【0029】
以下、図1ないし図7を参照して、本実施形態の孔版印刷装置における用紙保持装置について説明する。図1において、符号1は本実施形態の孔版印刷装置における用紙保持装置を示す。用紙保持装置1は、図8ないし図18に示した従来のクランプ装置28と比較して、クランプ装置28の用紙クランパ30に代えて、用紙Pの先端部を給紙時に係止する開閉自在な係止部材としての給紙クランパ2と、この給紙クランパ2が排紙時に開放された際に、用紙Pの先端部を圧胴20の外周面から浮上させる浮上部材としての排紙けり上げ爪10とを備えた保持手段を有すること、およびクランプ装置28における上記カムを備えた一つのクランプ機構に代えて、給紙クランパ2を選択的に開閉動作するための開閉機構19と、排紙けり上げ爪10を選択的に浮上動作するための浮上機構27とを個別に有することが主に相違する。
また、用紙保持装置1は、クランプ装置28の構成および動作と比較して、上記構成によって、後で詳述するように、給紙クランパ用カム8により給紙クランパ2が、けり上げ爪用カム17により排紙けり上げ爪10がそれぞれ独立して駆動されること、図1の丸囲み数字1および図2(a)に示す給紙時における給紙クランパ2の開放角度θ1が、図1の丸囲み数字3および図2(c)に示す排紙時における開放角度θ2よりも大きく設定されていて、排紙時に、給紙クランパ2と排紙けり上げ爪10とを略同時に駆動すること、および排紙けり上げ爪10の先端10eが排紙時に開放した給紙クランパ2の自由端よりも用紙搬送方向Xの上流側に偏倚した用紙Pの先端部を浮上させることが主な相違点となっている。
【0030】
給紙クランパ2および排紙けり上げ爪10は、給送されて来た用紙Pの先端部を保持する保持手段を構成している。給紙クランパ2を駆動する係止部材駆動手段は、メインモータ29、圧胴20の駆動系および給紙クランパ用カム8から主に構成される。排紙けり上げ爪10を駆動する浮上部材駆動手段は、メインモータ29、圧胴20の駆動系およびけり上げ爪用カム17から主に構成される。
【0031】
開閉機構19は、図1、図2、図3、図5および図6に示すように、上記した給紙クランパ用カム8と、給紙クランパ用カム8と常に係合する転動自在なコロからなるクランパカムフォロア5と、クランパカムフォロア5をその一端に軸をもって取り付けたクランパアーム4と、クランパベース6の両側壁に所定角度回動自在に支持され、クランパアーム4の他端をネジを介して固定すると共に給紙クランパ2の基端部を固定して取り付けたクランパ軸3と、クランパ軸3にその基端部を固定され、その自由端部が後述する3つの位置を占めるべく開閉自在な給紙クランパ2と、給紙クランパ2を常に開放する向きに付勢すると共に、クランパカムフォロア5を常に給紙クランパ用カム8に押し付ける向きに付勢する付勢手段としてのねじりバネ7とから主に構成される。
【0032】
給紙クランパ用カム8は、図1に示すように、適宜の合成樹脂や金属で一体成形されていて、圧胴20の端板20a外側近傍における孔版印刷装置の本体側に配置された本体側板(図示せず)に固定して設けられている。給紙クランパ用カム8は、圧胴20の回転運動を給紙クランパ2の開閉動作に所定のタイミングをもって変換し伝達する係止部材用カムとしての構成・機能を有する。給紙クランパ用カム8には、給紙クランパ2を開閉させるためのカム形状が形成されている。すなわち、給紙クランパ用カム8には、給紙時において、給紙クランパ2側に設けられたクランパカムフォロア5と係合し、給紙クランパ2が開放角度θ1で開くように制御するための小径凹部8aがニップ部Nより手前であって圧胴20の回転方向の上流側寄りの所定位置に形成されている。また、給紙クランパ用カム8には、排紙時において、クランパカムフォロア5と係合し、給紙クランパ2が開放角度θ2で開くように制御するための小径凹部8bがニップ部Nを通り過ぎた圧胴20の回転方向の下流側寄りの所定位置に形成されている。そして、各小径凹部8a,8bを除く給紙クランパ用カム8には、圧胴20の圧胴軸26を中心として同一の直径をもって形成された均等周面部8cが一体形成されている。
【0033】
給紙クランパ用カム8の小径凹部8aは、給紙時における給紙クランパ2の開放角度θ1を排紙時における開放角度θ2よりも大きく設定するために、小径凹部8bの凹みの深さよりも深く形成されている。開閉機構19におけるこのような給紙クランパ2と給紙クランパ用カム8との関係により、給紙クランパ2は図1の▲1▼および図2(a)に示す給紙時において開放角度θ1で大きく開き、図1の▲3▼および図2(c)に示す排紙時において開放角度θ2で、用紙Pの先端部を解放し自由にする程度の最小限の角度をもって開くようになされている。
【0034】
クランパベース6は、図1、図2、図3および図6等に示すように、概略筐体状をなしていて、例えば合成樹脂またはアルミニウム等の金属で一体的に形成されている。クランパベース6における用紙搬送方向Xの上流端上部には、給紙クランパ2のクランプ部2cとの間で用紙Pの先端部をクランプするときに用紙Pの先端部を受ける用紙受け面6aと、排紙時にけり上げ爪アーム12の先端を用紙浮上位置を占めさせるべく矩形状に切り欠かれた逃げ部6bとが、用紙幅方向Yにくし歯状に交互に複数箇所形成されている。また、クランパベース6の底壁には、図7に示すように、引張バネ16の一端を係止するためのバネ掛け部6cが用紙搬送方向Xの下流側に突出して一体形成されており、クランパベース6の両側壁には、排紙けり上げ爪10の両端部に突出形成された各被案内部10cを緩く嵌入し、排紙けり上げ爪10を図7において用紙搬送方向Xに摺動自在に案内するけり上げ爪案内窓6d,6dがそれぞれ形成されている。
クランパベース6の用紙受け面6aの部位には、従来のクランプ装置28に配設されたマグネット34のような用紙爪31を用紙クランプ状態に保持する部品が配置されていなく、用紙受け面6aと給紙クランパ2のクランプ部2cとの間で用紙Pの先端部をクランプすることになる。
【0035】
クランパアーム4は、給紙クランパ用カム8とクランパカムフォロア5との係合より、圧胴20の回転駆動力の一部が変換されて伝達された駆動力をクランパ軸3へ、すなわち給紙クランパ2へ伝える駆動力伝達部材である。
【0036】
給紙クランパ2は、それ自体や給紙クランパ用カム8等の精度上の誤差を吸収し得る程度の所定の弾性を有する弾性部材としての薄いステンレス鋼板から形成されている。給紙クランパ2は、実施例的に言うと、その厚さが0.3〜0.5mmのステンレス鋼板からできていて、図2および図6等に示すように、断面視略Z字状をなすようにクランク状に折り曲げ形成され、上記所定の弾性が付与されている。給紙クランパ2は、その基端部がネジ(図示せず)を介してクランパ軸3に固定されている。給紙クランパ2には、図2、図3、図5および図6等に示すように、レジストローラ対25a,25bから給送されてきた用紙Pの先端を突き当ててその位置を決めると共に所定の撓みを形成させるためのストッパ部2aと、排紙けり上げ爪10の先端部の干渉を避けその移動を許すための切欠部2bと用紙Pの先端部の2〜3mmの部分をクランプするクランプ部2cとがそれぞれ一体形成されている。
給紙クランパ2のクランプ部2cには、図3(d)および図6に示されているように、図11に示した従来の用紙爪31の自由端の用紙搬送方向Xが開放されたくし歯状の逃げ31aがなく、給紙クランパ2の自由端部は、略直線状に用紙幅方向Yに亘りつながって形成されていると共に、用紙搬送方向Xに所定の寸法幅をもった略平板状部分を有している。それ故に、給紙クランパ2の自由端部であるクランプ部2cの上面先端から印圧を掛けても、この部分に対応した版胴22上の製版済みのマスタ23の部位には印圧が不均一状態で掛からず、これによりインキが溜ってしまうことがなくなる。したがって、耐久的にインキ漏れを生じることなく、版胴22への印圧をクランプ跡直後から掛けて印刷画像を出すことができ、図12に示した用紙先端余白長さALを4〜5mmの範囲に抑えることができる利点を有する。
【0037】
ねじりバネ7は、クランパ軸3に巻着され、図6に示すように、その一端が給紙クランパ2の裏面に、他端がクランパベース6の手前側の側壁上面にそれぞれ掛けられていて、給紙クランパ2を常に開く向きに付勢している。
給紙クランパ2は、図2(b)に示すような用紙クランプ状態にあるとき、適度の弾性復元力を生じるような上記した形状および寸法が設定されている。給紙クランパ2と用紙受け面6aとの間には、それ自体の上記所定の弾性および給紙クランパ用カム8の均等周面部8cのカム形状により、所定範囲の必要なクランプ力を生じさせるようになっている。換言すれば、給紙クランパ2による用紙Pの先端部のクランプ・係止が、給紙クランパ用カム8のカム形状と上記所定の弾性とに基づき行われると言える。このように給紙クランパ2に対して、所定の弾性を与えると共に、給紙クランパ2、クランパベース6の用紙受け面6aおよび給紙クランパ用カム8を比較的単純な形状でそれぞれ形成することにより、ねじりバネ7のバネ荷重をできるだけ小さく抑えることができると共に、従来のようにベース部35にマグネット34を設けてその吸磁力を利用しなくても済むので、高価なマグネット34という構成部品を減らすことができる利点もある。
【0038】
上記の構成のとおり、給紙クランパ2は、給紙時に、用紙Pの先端部を突き当てクランプするために開放角度θ1で開く図1に▲1▼で示す給紙開放位置と、用紙Pの先端部をクランプして閉じた用紙クランプ位置(図1の▲2▼参照)と、排紙時に、用紙Pの先端部を開放すべく開放角度θ2で開く図1に▲3▼で示す用紙排出位置との3つの位置の間で変位自在に構成されており、3つの位置をそれぞれ占めることができる。
【0039】
浮上機構27は、図1、図2、図3、図4および図7に示すように、上記したけり上げ爪用カム17と、けり上げ爪用カム17と常に係合する転動自在なコロからなるけり上げ爪カムフォロア13と、けり上げ爪カムフォロア13を軸をもってその一端に取り付けたけり上げ爪アーム12と、クランパベース6の両側壁に所定角度回動自在に支持され、けり上げ爪アーム12の他端をネジを介して固定して取り付けたけり上げ爪軸11と、その基端部がけり上げ爪軸11に固定して取り付けられ、その自由端部が排紙けり上げ爪10の折り曲げ端部10bと接触係合し所定角度回動可能なけり上げ爪駆動ガイド14と、上記したけり上げ爪案内窓6d,6dと、その先端10eが排紙時に開放した給紙クランパ2の自由端よりも用紙搬送方向Xの上流側に偏倚した用紙Pの先端部を浮上させる用紙浮上位置を占める排紙けり上げ爪10と、排紙けり上げ爪10の先端を浮上位置から圧胴20の外周面より内側に没入した非用紙浮上位置を占める向きに付勢する付勢手段としての引張バネ16とから主に構成される。
【0040】
けり上げ爪用カム17は、図1および図4に示すように、適宜の合成樹脂や金属で一体成形されていて、圧胴20の近傍であって端板20aと給紙クランパ用カム8との間において、上記本体側板に固定して設けられている。けり上げ爪用カム17は、圧胴20の反時計回り方向の回転運動を排紙けり上げ爪10の浮上動作に所定のタイミングをもって変換し伝達するための浮上部材用カムとしての構成・機能を有する。
けり上げ爪用カム17には、排紙けり上げ爪10が排紙時にのみ駆動されるためのカム形状が形成されている。すなわち、けり上げ爪用カム17には、排紙けり上げ爪10側に設けられたけり上げ爪カムフォロア13と排紙時においてのみ係合し、かつ、上記したように排紙時に開放した給紙クランパ2の自由端よりも用紙搬送方向Xの上流側に偏倚した用紙Pの先端部をけり上げて浮上させるように制御するための山形状の大径凸部17aが形成されている。けり上げ爪用カム17の大径凸部17aは、給紙クランパ用カム8の小径凹部8b配置部近傍の圧胴20の回転方向上流側寄りに形成されている。
【0041】
けり上げ爪アーム12は、けり上げ爪用カム17とけり上げ爪カムフォロア13との係合より、圧胴20の回転駆動力の一部が変換されて伝達された駆動力をけり上げ爪軸11へ、すなわち排紙けり上げ爪10へ伝える駆動力伝達部材である。
けり上げ爪駆動ガイド14は、図7においてはその一つが示されているが、複数のけり上げ爪駆動ガイド14が同じ姿勢をもってけり上げ爪軸11にネジで固定して取り付けられている。けり上げ爪駆動ガイド14の自由端部は、排紙けり上げ爪10の折り曲げ端部10bに引張バネ16の付勢力によって常に接触係合しており、けり上げ爪カムフォロア13からけり上げ爪軸11へ伝達された回転駆動力により、排紙けり上げ爪10の全体を移動させるように動作する。
【0042】
排紙けり上げ爪10は、実施例的に言うと、その厚さが0.8〜1.0mmの薄板状のステンレス鋼板からできていて、図2および図7等に示すように、断面視略平板状をなしていて、その先端10eを含む先端部および基端部が両被案内部10cを介してけり上げ爪案内窓6d,6dの形成範囲内で一体的に移動可能になされている。排紙けり上げ爪10には、図2、図3および図7等に示すように、移動時に給紙クランパ2および排紙爪44との干渉を避けるために形成された複数の切欠き10aと、上記した折り曲げ端部10bと、上記した各被案内部10c,10cと、引張バネ16の他端を係止するためのバネ掛け部10dと、上記した先端10eとがそれぞれ一体成形されている。排紙けり上げ爪10の先端10eを含む先端部は、各先端10eの部位がクランパベース6の逃げ部6bに挿通可能なように略くし歯状に形成されている。排紙けり上げ爪10の用紙幅方向Yに対する移動は、各被案内部10c,10c上にそれぞれネジで固定された各ストッパ18,18で規制されている。
【0043】
引張バネ16は、その一端がクランパベース6のバネ掛け部6cに係止され他端が排紙けり上げ爪10のバネ掛け部10dに係止されて、図7においてはその片方が示されているが、これらと同じものが用紙幅方向Yにおける排紙けり上げ爪10の中央を中心として他方が左右対称の位置に上記したと同様に配設されている。
上記の構成のとおり、排紙けり上げ爪10は、上記浮上部材駆動手段により上記排紙時にのみ駆動され、かつ、上記排紙時に開放した給紙クランパ2の自由端よりも用紙搬送方向Xの上流側に偏倚した用紙Pの先端部を浮上させるようになされていて、用紙浮上位置と非用紙浮上位置との間で移動自在になされている。
【0044】
次に、動作を説明する。この孔版印刷装置では、用紙Pの搬送動作が特有の給送制御を伴って行われる。すなわち、給紙部に配設された図示しないステッピングモータからなる給紙モータ(図示せず)で回転駆動される給紙ローラ等の給紙手段が、圧胴20の端板20aに取り付けられた給紙遮光片と圧胴20を回転自在に支持する図示しない版胴アーム側に取り付けられた透過型の給紙フォトセンサとの係合時点をトリガとして、上記給紙モータの起動が制御される。また、同様に、ステッピングモータからなるレジストモータ(図示せず)で回転駆動されるレジストローラ対25a,25bが、圧胴20の端板20aに取り付けられたレジスト遮光片と圧胴20を回転自在に支持する図示しない版胴アーム側に取り付けられた透過型のレジストフォトセンサとの係合時点をトリガとして、上記レジストモータの起動が制御される。この給送制御は、本願出願人が先に提案した特願平10−48244号に詳細に説明されているとおりであるが、本発明には関係ないのでこれ以上の説明を省略する。
【0045】
図1において、メインモータ29により、圧胴20が図1において反時計回り方向に回転し、上記給紙遮光片が上記給紙フォトセンサを通過すると、上記給紙モータが回転駆動され、これにより図示しない給紙部の給紙ローラから用紙Pの重送が防止されて1枚の用紙Pが給送される。この時、圧胴20のクランパカムフォロア5が給紙クランパ用カム8の均等周面部8cに係合していることにより、給紙クランパ2は用紙Pの先端部をクランプしていない状態で用紙クランプ位置を占めた状態にある。またこの時には、圧胴20のけり上げ爪カムフォロア13がけり上げ爪用カム17と非係合状態にあることにより、図7に示すように、各引張バネ16の付勢力によって各けり上げ爪駆動ガイド14およびけり上げ爪カムフォロア13が図1の▲1▼、▲2▼および図7に示す状態にそれぞれ保持されていて、各引張バネ16の付勢力によって排紙けり上げ爪10は非用紙浮上位置を占めている状態にある。
一方、給送された1枚の用紙Pは、その先端がレジストローラ対25a,25bのニップ部に衝突し、さらに上記給紙モータにより搬送されて、所定量の湾曲したたわみが形成された時点で、上記給紙ローラの回転が停止する。圧胴20が図1においてさらに反時計回り方向に回転し、上記レジスト遮光片が所定タイミングで上記レジストフォトセンサを通過すると、上記レジストモータが回転駆動される。
【0046】
この給紙時のタイミングに合わせて、圧胴20のクランパカムフォロア5が給紙クランパ用カム8の小径凹部8aに所定のタイミングで係合することにより、図1の▲1▼および図6において、クランパアーム4と共にクランパ軸3が反時計回り方向に回転し、これにより給紙クランパ2が図1の▲1▼および図2(a)に示すように開放角度θ1で大きく開き、給紙クランパ2が給紙開放位置を占める。この時には、給紙クランパ2が開放角度θ1で開く向きにねじりバネ7の付勢力が働いている。
【0047】
上記レジストモータの回転駆動により、レジストローラ対25a,25bが回転することで、用紙Pの先端が給紙開放位置を占めている給紙クランパ2のストッパ部2aに向けて搬送され、ストッパ部2aに突き当たり衝突する。こうして、図1の▲1▼に仮想線で示すように、用紙Pの先端部には所定の湾曲したたわみが形成される。
【0048】
圧胴20がさらに反時計回り方向に回転し、クランパカムフォロア5が給紙クランパ用カム8の小径凹部8aを通り過ぎ、均等周面部8cに所定のタイミングで係合すると、図6において、クランパアーム4と共にクランパ軸3がねじりバネ7の付勢力に抗して時計回り方向に回転し、これにより給紙クランパ2が、図2(b)に示すように、用紙Pの先端部を確実にクランプした後、給紙クランパ2は閉じられる。こうして給紙クランパ2が用紙クランプ位置を占めた図1の▲2▼に示した状態で、圧胴20が、用紙Pを圧胴20の外周面に保持したまま回転し、用紙Pの先端部が版胴22の外周面と圧胴20の外周面との間に搬送される。
【0049】
版胴22の外周面と圧胴20の外周面との間に搬送された用紙Pに対して、上記接離手段に配設されている左右一対の印圧スプリング(図示せず)により圧胴20が版胴22の外周面に押圧する上向きに揺動変位されることでニップ部Nが形成されると共に、圧胴20の外周面が用紙Pを版胴22の外周面に対して製版済みのマスタ23(図1には図示せず)を介して押圧する。この時、給紙クランパ2の自由端部であるクランプ部2cの上面先端から印圧が掛けられるが、このように押圧した状態下であっても上記した理由により、クランプ部2cの上面先端部分に対応した版胴22上の製版済みのマスタ23(図1には図示せず)の部位には印圧が不均一状態で掛からず、これによりインキが溜ってしまうことがなくなり、耐久的にインキ漏れを生じることなく、版胴22への印圧をクランプ跡直後から掛けて印刷画像を出すことができ、図12に示した用紙先端余白長さALを4〜5mmの範囲に抑えることができる。
【0050】
こうして、圧胴20の外周面の押圧によって、回転する版胴22の外周面に巻装された製版済みのマスタ23に用紙Pが連続的に押圧されることにより、製版済みのマスタ23が版胴22の外周面に密着すると共に、版胴22の開孔部分から製版済みのマスタ23の穿孔部分へとインキが滲み出てきて用紙Pの表面に転移され、孔版印刷が行われる。
このとき、図8を借りて説明すると、図8に示すインキローラ46も版胴22の回転方向と同一方向に回転する。インキ溜り48のインキは、インキローラ46の回転によりインキローラ46の表面に付着され、インキローラ46とドクターローラ47との間隙を通過する際にその量を規制され、版胴22の内周面に供給される。
【0051】
圧胴20がさらに反時計回り方向に回転し、排紙爪44の手前の用紙排出位置近傍に至ると、圧胴20のけり上げ爪カムフォロア13がけり上げ爪用カム17と係合し始めることにより、図1の丸囲み数字3、図2(c)および図4に示すように、けり上げ爪アーム12と共にけり上げ爪軸11が各引張バネ16の付勢力に抗して反時計回り方向に回転し、これにより各けり上げ爪駆動ガイド14の下部の自由端部が排紙けり上げ爪10の折り曲げ端部10bの部位を反時計回り方向に揺動しつつ押し付ける。こうして、排紙けり上げ爪10の先端10eがクランパベース6の各逃げ部6bを挿通し、排紙けり上げ爪10が用紙浮上位置を占める。
一方、排紙けり上げ爪10が用紙浮上位置を占めるに至る動作と略同時に、給紙クランパ2の開放動作が行われる。すなわち、圧胴20がさらに反時計回り方向に回転し、排紙爪44の手前の用紙排出位置近傍に至ると、圧胴20のクランパカムフォロア5が給紙クランパ用カム8の均等周面部8cから小径凹部8bに所定のタイミングで係合することにより、図1の丸囲み数字3、図2(c)図4および図6において、クランパアーム4と共にクランパ軸3が反時計回り方向に回転し、これにより給紙クランパ2が図1の丸囲み数字3および図2(c)に示すように開放角度θ2で小さく開き、給紙クランパ2が用紙排出位置を占める。
【0052】
このように、排紙時に、給紙クランパ2と排紙けり上げ爪10とが略同時に作動して、排紙けり上げ爪10の先端10eが排紙時に開放した給紙クランパ2の自由端よりも用紙搬送方向Xの上流側に偏倚した用紙Pの先端部を浮上させる用紙浮上位置を占めることにより、排紙巻き上りを生じにくくすると共に、けり上げ・浮上動作時に従来装置のように用紙Pの先端が外れることがなく用紙Pの先端部を確実に浮上させて、排紙爪44に向けて排出し、受け渡すことができるので、ジャム等を生じることがない。
【0053】
印刷された用紙Pは排紙爪44により剥離・案内され、図9を借りて説明すると図9に示した排紙搬送装置49で搬送されて図示しない排紙台上に排出積載される。こうして、製版済みのマスタ23にインキを充填するいわゆる版付け印刷が行われると共に、版胴22が圧胴20から離間して初期状態に復帰し、印刷待機状態となる。
印刷終了後、オペレーターは排出された印刷物を目視して、印刷画像品質の確認や印刷画像位置の確認等を行い、これらがオーケーであれば、給紙、印刷および排紙の各工程が設定した印刷枚数分繰り返して行なわれ、孔版印刷の全工程が終了する。
【0054】
なお、上述した孔版印刷方式は、「用紙Pを介して版胴22に対して圧胴20を相対的に押し付けて用紙Pに印刷を行う」方式であり、版胴22に対して圧胴20を押し付けて印刷を行う圧胴接離方式と、圧胴20に対して版胴22を押し付けて印刷を行う版胴接離方式と、その併用方式とがある。圧胴接離方式の具体例としては、上述した実施形態における圧胴20およびその接離手段が挙げられる。一方、版胴接離方式としては、版胴22が圧胴20側へ移動(版胴22内部のインキローラ46が圧胴20側へ突出するタイプも含む)して印刷を行う周知のものが挙げられる。
【0055】
以上述べたとおり、本発明を実施例を含む特定の実施形態等について説明したが、本発明の構成は、上述した実施形態等に限定されるものではなく、これらを適宜組み合わせて構成してもよく、本発明の範囲内において、その必要性および用途等に応じて種々の実施形態や実施例を構成し得ることは当業者ならば明らかである。
【0056】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、上述したような従来装置の有する諸問題点を解決して新規な印刷装置における用紙保持装置を提供することができる。請求項ごとの効果を挙げれば次のとおりである。
請求項1、5記載の発明によれば、上記構成により、浮上部材によるけり上げ・浮上動作時に用紙の先端が浮上部材から外れない状態にした上で、用紙の先端部を確実に浮上させて排出できるので、排紙巻き上りを少なくしてジャムを少なくできると共に、請求項5の構成を加味すると、インキ漏れ等を生じることなく、クランプ跡でもある係止跡直後から印圧をかけることができるので、係止跡直後からすぐに印刷画像を出すことができ、これにより用紙先端余白長さを短くすることもできる。
【0057】
請求項2記載の発明によれば、上記構成により、係止部材駆動手段や浮上部材駆動手段を、圧胴を回転駆動する駆動手段と別個のモータやソレノイド等の駆動手段を用いることなく、圧胴を回転駆動する駆動手段の駆動力の一部を、係止部材用カムや浮上部材用カムによって、所定のタイミングをもって係止部材を開閉させたり、あるいは所定のタイミングをもって浮上部材を浮上させたりする駆動力に変換して利用することができると共に、係止部材を開閉させるためのカム形状を係止部材用カムに形成したり、浮上部材を浮上させるためのカム形状を浮上部材用カムに形成したりするという簡素な構造で、信頼性の高い用紙保持装置を提供することができる
【0058】
請求項3記載の発明によれば、上記構成により、給紙時において係止部材が大きく開くので、用紙の先端部を確実に係止することができると共に、用紙排出の際の浮上動作と用紙の先端部の開放動作とが略同時に行われることで、用紙の先端部の係止動作を長くすることができ、これにより版胴と圧胴との押圧部から距離が離れた位置で用紙の先端を開放することが可能となり、排紙巻き上りをより少なくしてジャムを少なくできる。
【0059】
請求項4記載の発明によれば、上記構成により、係止部材の用紙先端部係止部の構造を簡素化できると共に、例えば従来必要な係止力を得るために用いていたマグネット等の高価な部品を省くことができたり、上記係止力を得るために用いていたバネ等の付勢手段の付勢力を小さくしたりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を適用した一実施形態を示す孔版印刷装置における用紙保持装置の構成および動作を表す要部の正面図である。
【図2】図1における用紙保持装置の要部の動作を圧胴の回転位置を同じ状態に直して示した図であって、(a)は給紙時における給紙クランパおよび排紙けり上げ爪の動作状態を、(b)は給紙クランパの用紙クランプ状態を、(c)は排紙時における給紙クランパおよび排紙けり上げ爪の動作状態をそれぞれ表す拡大正断面図である。
【図3】(a)は図2(b)においてA矢視から見た給紙クランパおよび排紙けり上げ爪の動作状態を示す図であり、(b)は図2(b)のうちのクランパベースだけを示す図であり、(c)は図2(b)のうちの排紙けり上げ爪だけを示す図であり、(d)は図2(b)のうちの給紙クランパだけを示す図である。
【図4】図1における用紙保持装置の排紙時における給紙クランパおよび排紙けり上げ爪の動作状態をそれぞれ表す要部の正面図である。
【図5】図3(d)に示した給紙クランパのV−V断面図である。
【図6】図1における用紙保持装置の開閉機構および浮上機構周りの要部の構造を示す斜視図である。
【図7】図1における用紙保持装置の浮上機構周りの要部の構造を示す斜視図である。
【図8】従来の孔版印刷装置における圧胴の回転動作に伴う用紙クランパの回転位置および用紙搬送動作を表す概略的な正面図である。
【図9】従来の孔版印刷装置の版胴および圧胴周りの要部の一部断面正面図である。
【図10】従来の孔版印刷装置の版胴および圧胴周りの要部の一部断面正面図である。
【図11】図10における版胴および圧胴周りの要部の幾分分解的な斜視図である。
【図12】印刷された用紙における用紙先端余白長さを説明する平面図である。
【図13】従来の孔版印刷装置におけるクランプ装置による給紙時の動作を表す要部の模式的な正面図である。
【図14】従来のクランプ装置の用紙クランパによる用紙クランプ動作を表す要部の模式的な正面図である。
【図15】従来のクランプ装置の用紙クランパによる用紙クランプ後の印圧時の動作を表す要部の模式的な正面図である。
【図16】従来のクランプ装置の用紙クランパによる排紙時の用紙排出の初期動作を表す要部の模式的な正面図である。
【図17】従来のクランプ装置の用紙クランパによる排紙時の用紙排出中の動作を表す要部の模式的な正面図である。
【図18】図16ないし図17の動作をさらに詳しく説明した模式図であって、(a)は用紙クランパによる排紙時の用紙排出の初期動作を、(b)は用紙クランパによる排紙時の用紙排出中の動作を、(c)は用紙クランパによる排紙時の用紙排出終了の動作をそれぞれ表す要部の模式図である。
【符号の説明】
1 用紙保持装置
2 係止部材としての給紙クランパ
2c 係止部材の自由端を含むクランプ部
5 クランパカムフォロア
6 クランパベース
7 ねじりバネ
8 係止部材用カムとしての給紙クランパ用カム
10 浮上部材としての排紙けり上げ爪
13 けり上げ爪カムフォロア
16 引張バネ
17 浮上部材用カムとしてのけり上げ爪用カム
19 開閉機構
20 圧胴
22 版胴
23 マスタ
25a,25b レジストローラ対
27 浮上機構
29 駆動手段としてのメインモータ
N ニップ部
P 用紙
θ1,θ2 給紙クランパ(係止部材)の開放角度
X 用紙搬送方向
Y 用紙幅方向

Claims (5)

  1. 製版されたマスタを外周面に巻き付ける版胴と、給送されて来た用紙の先端部を保持する保持手段を備え上記版胴の外径と略同径の圧胴とを具備する印刷装置において、
    上記保持手段は、用紙の先端部を給紙時に係止し、かつ、排紙時に開放する開閉自在な係止部材と、該係止部材とは別体で設けられ、該係止部材が排紙時に開放された際に、用紙の先端部を上記圧胴の外周面から浮上させる浮上部材とを備え、
    上記係止部材は、その基端部を中心として自由端が、上記排紙時に開放した際に開放空間を形成して揺動変位自在に駆動されるように構成されており、
    上記浮上部材は、その先端が、上記給紙時に上記係止部材の内側近傍であって上記圧胴の外周面より内側に位置する非用紙浮上位置と、上記排紙時に開放した上記係止部材の上記自由端よりも用紙搬送方向の上流側に偏倚した用紙浮上位置との間で移動自在に駆動されるように構成されており、
    上記浮上部材が上記用紙浮上位置を占めるとき、該浮上部材の上記先端が上記開放空間を挿通して用紙の先端部から該用紙の後端に向かってけり上げ・浮上させることを特徴とする印刷装置における用紙保持装置。
  2. 請求項1記載の印刷装置における用紙保持装置において、
    上記係止部材を駆動する係止部材駆動手段は、上記圧胴を回転駆動する駆動手段と、上記圧胴の近傍における上記印刷装置の本体側に設けられ、上記圧胴の回転運動を上記係止部材の開閉動作に所定のタイミングをもって変換する係止部材用カムとを具備し、
    上記係止部材用カムには、上記係止部材を開閉させるためのカム形状が形成されており、
    上記浮上部材を駆動する浮上部材駆動手段は、上記駆動手段と、上記圧胴の近傍における上記印刷装置の本体側に設けられ、上記圧胴の回転運動を上記浮上部材の浮上動作に所定のタイミングをもって変換する浮上部材用カムとを具備し、 上記浮上部材用カムには、上記浮上部材を浮上させるためのカム形状が形成されており、
    上記係止部材駆動手段および上記浮上部材駆動手段により、上記係止部材と上記浮上部材とがそれぞれ独立して駆動されることを特徴とする印刷装置における用紙保持装置。
  3. 請求項2記載の印刷装置における用紙保持装置において、
    上記給紙時における上記係止部材の開放角度が、上記排紙時における開放角度よりも大きく設定されていて、上記排紙時に、上記係止部材と上記浮上部材とが略同時に駆動されることを特徴とする印刷装置における用紙保持装置。
  4. 請求項2または3記載の印刷装置における用紙保持装置において、
    上記係止部材は、所定の弾性を有する弾性部材から形成されており、
    上記係止部材による用紙の先端部の係止が、上記係止部材用カムの上記カム形状と上記弾性とに基づき行われることを特徴とする印刷装置における用紙保持装置。
  5. 請求項1ないし4の何れか一つに記載の印刷装置における用紙保持装置において、
    上記係止部材の自由端を略直線状に形成したことを特徴とする印刷装置における用紙保持装置。
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