以下、本発明のさらに具体的な実施の形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明する。
[第1実施形態]
図1には、本発明の第1実施形態に従う画像表示装置1が示されている。この画像表示装置1は、その利用者である観察者の瞳孔P(PL:左眼ELの瞳孔、PR:右眼ERの瞳孔)に光束を入射させて網膜上に画像を投影することによって、観察者に瞳孔Pの前方において虚像を視認させるための装置である。この装置は、網膜走査ディスプレイといわれる。
この画像表示装置1は、画像に対応した光束を生成して出力する光束生成部10と、その光束生成部10から光ファイバー20を介して出力される光束を平行な光束(平行光)とするコリメート光学部30とを備えている。
この画像表示装置1は、さらに、コリメート光学部30により平行光とされた光束の波面曲率を変更可能な曲率変更部40と、その曲率変更部40から向かってきた光束を画像として投影可能な状態に走査する走査部50とを備えている。
この画像表示装置1は、さらに、走査部50により光束が走査される走査角の中心線である走査中心線の、瞳孔Pに対する入射角である瞳孔入射角を変更可能な角度変更部60と、その角度変更部60から向かってきた光束を観察者の瞳孔Pに向けて入射させる光束誘導部70とを備えている。
以上説明した光束生成部10,光ファイバー20,コリメート光学部30,曲率変更部40,走査部50,角度変更部60および光束誘導部70は、観察者の左右の瞳孔PL,PRのそれぞれに対応して設けられている。
この画像表示装置1は、さらに、左右の瞳孔PL,PRに共通に、各種操作用の操作パネル80、画像表示装置1の全体の動作を制御する制御部90などを備えている。
図1に示すように、光束生成部10は、3色の光束を発生させるために、青色の光束を発生させるBレーザ11およびBレーザ11を駆動するBレーザドライバ12と、緑色の光束を発生させるGレーザ13およびGレーザ13を駆動するGレーザドライバ14と、赤色の光束を発生させるRレーザ15およびRレーザ15を駆動するRレーザドライバ16とを備えている。
光束生成部10は、さらに、各レーザ11,13,15から発生した光束を合成するダイクロイックミラー17と、そのダイクロイックミラー17により合成された光束を光ファイバー20へ導く結合光学系18とを備えている。
この光束生成部10は、後述の画像表示プログラム(図5)の実行によって制御部90から出力される色信号に基づき、各レーザドライバ12,14,16により各レーザ11,13,15を駆動することによって、画像に対応する光束を生成して光ファイバー20へ出力する。
図2に示すように、曲率変更部40は、外部から入射した光束を反射または透過させるビームスプリッタ41と、そのビームスプリッタ41を介して入射された光束を収束させる凸レンズ42と、その凸レンズ42により収束された光束を反射させるミラー43とを備えている。
この曲率変更部40は、さらに、ミラー43を、凸レンズ42に接近するかまたは凸レンズ42から離れる向きに変位させるアクチュエータ44と、制御部90からの指令を受けてアクチュエータ44を駆動する曲率変更用駆動回路45とを備えている。
以上のように構成された曲率変更部40においては、コリメート光学部30から入射した光束がビームスプリッタ41で反射し、凸レンズ42を通った後、ミラー43で反射する。そして、再度、凸レンズ42を通った後、ビームスプリッタ41を透過して走査部50へ向かう。
この曲率変更部40は、アクチュエータ44を用いて凸レンズ42とミラー43との間隔dcを変更することによって、コリメート光学部30から入射して走査部50へ向かう光束の波面曲率を変更することができる。
図2の(a)に示すように、間隔dcが予め定められた初期値dc0に一致する場合には、コリメート光学部30から入射した光束は、ミラー43の反射面で収束および反射する。この反射した光束は、凸レンズ42を経て、コリメート光学部30から入射したときと同じ波面曲率を有する平行光L1として走査部50へ向かう。
これに対し、図2の(b)に示すように、間隔dcが初期値dc0より短い距離dc1に変化した場合には、コリメート光学部30から入射した光束は、ミラー43が凸レンズ42の焦点より凸レンズ43に近い位置に位置するため、光束の収束前にミラー43の反射面で反射する。その反射した光束は、ミラー43から距離(dc0−dc1)だけ進んだ位置で収束し、その後、コリメート光学部30から入射したときより拡散した、波面曲率の大きな拡散光、すなわち、曲率半径の小さな拡散光L2となり、凸レンズ42を経て走査部50へ向かう。
以上要するに、曲率変更部40から走査部50へ向かう光束は、間隔dcが短くなるほど曲率半径が小さくなる。本実施形態においては、間隔dcの初期値dc0が4mmに設定されており、間隔dcをその初期値dc0から30μm狭めていく間に、光束の曲率半径が無限大(平行光のとき)から0.3mまで変化するように画像表示装置1が構成されている。
一般に、光束の波面の曲率半径は、波面曲率の逆数で表され、光束に基づく虚像は、この曲率半径が小さいほど観察者に近い位置に観察者によって認識される。したがって、虚像は、アクチュエータ44により間隔dcが短くされるほど観察者に近い位置に観察者によって認識されることとなる。
図1に示すように、走査部50は、曲率変更部40から入射した光束を画像として投影可能な状態に水平方向と垂直方向とに走査するものである。
この走査部50は、水平走査のために、曲率変更部40から入射した光束を水平方向に走査するポリゴンミラー51と、そのポリゴンミラー51を回転駆動する水平走査用モータ52と、制御部90からの指令を受けて水平走査用モータ52を駆動する水平走査用駆動回路53とを備えている。
この走査部50は、さらに、垂直走査のために、ポリゴンミラー51により走査された光束を垂直方向に走査して出力するガルバノミラー54と、そのガルバノミラー54を駆動する垂直走査用アクチュエータ55と、制御部90からの指令を受けて垂直走査用アクチュエータ55を駆動する垂直走査用駆動回路56とを備えている。
この走査部50は、さらに、ポリゴンミラー51とガルバノミラー54との間で光束を中継する第1リレー光学系57を備えている。その第1リレー光学系57は、ポリゴンミラー51のうち、曲率変更部40からの光束の入射位置と、ガルバノミラー54の反射面における中心位置とが光学的に共役な位置関係となるようにレイアウトされた光学系である。この走査部50においては、曲率変更部40から入射した光束が、ポリゴンミラー51によって水平方向に走査され、ガルバノミラー54で垂直方向に走査された後、角度変更部60へ向かう。
図3に示すように、角度変更部60は、走査部50から入射した光束を反射する角度変更用ミラー61と、その角度変更用ミラー61の反射面61aを傾けることにより反射面61aで反射した光束が向かう方向の角度(反射角)を垂直方向(図3における上下方向)において変更する垂直変更機構62と、制御部90からの指令を受けて垂直変更機構62を駆動する垂直変更用駆動回路64とを備えている。
この角度変更部60は、さらに、角度変更用ミラー61の反射面61aを傾けることにより反射面61aで反射した光束が向かう方向の角度(反射角)を水平方向(図3における左右方向)において変更する水平変更機構66と、制御部90からの指令を受けて水平変更機構66を駆動する水平変更用駆動回路67とを備えている。
図1に示すように、この角度変更部60は、さらに、走査部50のガルバノミラー54と角度変更用ミラー61との間で光束を中継する第2リレー光学系68を備えている。第2リレー光学系68は、角度変更用ミラー61の反射面61aにおける中心位置と、走査部50のガルバノミラー54における中心位置とが光学的に共役な位置関係となるようにレイアウトされた光学系である。
図3に示すように、垂直変更機構62は、角度変更用ミラー61の反射面61aを傾けるための傾斜機構62aと、その傾斜機構62aを作動させるモータ62bと、そのモータ62bの回転量を検出するエンコーダ62cとを備えている。これに対し、水平変更機構66は、角度変更用ミラー61の反射面61aを傾けるための傾斜機構66aと、その傾斜機構66aを作動させるモータ66bと、そのモータ66bの回転量を検出するエンコーダ66cとを備えている。
垂直変更用駆動回路64および水平変更用駆動回路67は、いずれも、制御部90から指令された回転量と、各変更機構62,66のエンコーダ62c,66cにより検出された回転量とが互いに一致するまでモータ62b,66bを駆動するように構成されている。
図3に示すように、水平変更機構66は、角度変更用ミラー61と共に垂直変更機構62が取り付けられたフレーム69を傾けることにより、角度変更用ミラー61の反射面61aを傾けるように構成されている。したがって、角度変更部60においては、走査部50から入射した光束が、角度変更用ミラー61で反射することにより、光束誘導部70へ向かう。
この角度変更部60は、角度変更用ミラー61の反射面61aを傾けることにより、その反射面61aで反射した光束が光束誘導部70へ入射する際の入射角を変更することができる。
図4の(a)には、角度変更用ミラー61と瞳孔Pとの間における光路が、角度変更用ミラー61の反射面61aの傾きが予め定められた初期の傾きと一致している初期状態で示されている。この初期状態において角度変更用ミラー61の反射面61aで反射する光束が走査される角度(偏向される角度)の中心線である走査中心線c0が光束誘導部70へ向かう際の方向として基準方向が定義されている。
図4の(b)に示すように、その初期状態から角度変更用ミラー61を、水平変更機構66により、その角度変更用ミラー61の反射面61aが角度Δα(または−Δα)だけ傾くように、その反射面61aの中心位置を通過する一垂直軸線まわりに回転させることを想定する。この回転により、反射面61aで反射した光束の走査中心線c1が光束誘導部70へ向かう方向が、基準方向に対して角度2Δα(または−2Δα)だけ反射面61aの回転方向と同じ方向にずれる。
これに対し、その初期状態から、角度変更用ミラー61を垂直変更機構62により、反射面61aが所定の角度だけ傾くように回転させることを想定する。この回転により、上記と同様に、反射面61aで反射した光束の走査中心線が向かう方向が、基準方向に対して反射面61aの回転方向と同じ方向にずれる。
このように、角度変更部60においては、角度変更用ミラー61の反射面61aを傾けることによって、この反射面61aで反射する光束における走査中心線の角度、すなわち、光束が走査される角度の中心線である走査中心線の角度を変更することができる。
図1に示すように、光束誘導部70は、瞳孔Pの前方に配設されるハーフミラー72と、角度変更部60から入射した光束をハーフミラー72へ導く第3リレー光学系74とを備えている。第3リレー光学系74は、角度変更部60における角度変更用ミラー61の中心位置と、観察者の瞳孔Pの位置(瞳孔Pに対応する位置)とが光学的に共役な位置関係となるようにレイアウトされた光学系である。
この光束誘導部70においては、角度変更部60から入射した光束が、ハーフミラー72で反射することにより、瞳孔Pに入射する。このようして瞳孔Pに入射する光束の走査中心線の角度は、図4に示すように、初期角度α0から、角度変更部60における角度変更用ミラー61の傾き具合に応じた角度(α0±2Δα)に変化する。
図1に示すように、操作パネル80は、画像表示装置1を起動・停止させるための電源スイッチ82と、後述の画像表示プログラム(図5)の実行によって虚像の表示位置を指定するための位置指定スイッチ84とを備えている。
位置指定スイッチ84は、画像表示プログラム(図5)の実行によって虚像を表示すべき瞳孔Pの前方における表示位置を指定するためのスイッチである。この位置指定スイッチ84により、奥行き方向(z軸方向)の表示位置と、左右方向(x軸方向)の表示位置と、上下方向(y軸方向)の表示位置とをそれぞれ指定することができる。
図6に平面図で示すように、本実施形態においては、虚像の表示位置が、左眼ELの眼球における回転中心を座標系の原点として、奥行き方向(z方向)においては、0.5mから無限遠(例えば、10m)まで0.1m刻みで指定できる。虚像の表示位置は、それの奥行き寸法(原点からの奥行き方向における距離)をz0で表すと、左右方向においては、±(z0/2)まで(z0/100)m刻みで指定でき、上下方向においても、±(z0/2)まで(z0/100)m刻みで指定できる。
図1に示すように、制御部90は、コンピュータ92を主体として構成されている。コンピュータ92は、プロセッサ94とメモリ96とを含むように構成されている。メモリ96に前記画像表示プログラムが予め記憶されている。この画像表示プログラムは、制御部90が画像表示処理を一定の手順で実行するためにプロセッサ94によって実行されるものであり、その内容が図5にフローチャートで概念的に表されている。
この画像表示プログラムは、操作パネル80の電源スイッチ82により画像表示装置1が起動された後、停止されるまで繰り返し実行される。
この画像表示プログラムの各回の実行時には、まず、ステップS110において、初期化処理が行われる。
具体的には、このステップS110においては、まず、曲率変更部40における曲率変更用駆動回路45によってアクチュエータ44が作動させられることにより、凸レンズ42−ミラー43間の間隔dcが初期値dc0と等しくなるようにされる(図2の(a)参照)。
このステップS110においては、さらに、角度変更部60における各駆動回路64,67によって各変更機構62,66が作動させられることにより、光束誘導部70から観察者の瞳孔Pに入射する光束の走査中心線の角度(瞳孔Pへの入射角)が初期値として予め定められた角度と等しくなるように、角度変更部60における角度変更用ミラー61の傾きが初期化される(図4参照)。
図6に示すように、観察者の左眼ELの眼球における回転中心を座標系の原点とした場合、x−z平面すなわち水平面上における走査中心線の角度(瞳孔Pへの入射角)は、左眼ELにおいては、座標系の原点と輻輳点(x0,z0)とを結ぶ直線とz軸との成す角度αHLであり、右眼ERにおいては、その眼球における回転中心からz軸と平行に延びる直線と、その回転中心と輻輳点とを結ぶ直線との成す角度αHRである。
また、y−z平面すなわち垂直面上における走査中心線の角度(瞳孔Pへの入射角)は、座標系の原点と輻輳点(y0,z0)とを結ぶ直線とz軸との成す角度αVである。
そこで、図5におけるステップS110においては、角度変更部60における角度変更用ミラー61の傾きが、上述の走査中心線の角度(瞳孔Pへの入射角)αHL,αHR,αVがそれぞれ初期値として予め定められた角度αHL0,αHR0,0と等しくなるように、変更される。
このステップS110においては、さらに、変数P1,P2,P3,P4が初期化される。具体的には、P1が1にセットされ(1→P1)、P2がαHL0にセットされ(αHL0→P2)、P3がαHR0にセットされ(αHR0→P3)、P4が0にセットされる(0→P4)。以下、変数P1,P2,P3,P4にセットされた値をそれぞれ、p1,p2,p3,p4で表す。
次に、ステップS120において、外部から映像信号の入力が開始されるのが待たれる。その入力が開始されない場合には、ステップS120の判定がNOとなり、このステップS120の実行が反復される。
映像信号の入力が開始されたら、ステップS120の判定がYESとなり、ステップS130において、ポリゴンミラー51およびガルバノミラー54の動作が開始される。このステップS130においては、水平走査用駆動回路53によって水平走査用モータ52を作動させることによりポリゴンミラー51の動作が開始させられ、さらに、垂直走査用駆動回路56によって垂直走査用アクチュエータ55を作動させることによりガルバノミラー54の動作が開始させられる。
続いて、ステップS140において、ステップS130において入力された映像信号によって表される画像に基づく各色信号(青色、緑色および赤色用の色信号)の生成が開始され、さらに、この色信号の各光束生成部10への出力が開始される。
この色信号が入力された光束生成部10においては、色信号に基づいて各レーザドライバ12,14,16が各レーザ11,13,15を駆動し、これにより各レーザ11,13,15から光束が発生する。その発生した光束は、ダイクロイックミラー17により合成された後、結合光学系18を経て光ファイバー20へ出力される。
その後、ステップS150において、操作パネル80の位置指定スイッチ84により指定されている表示位置が読み出される。このステップS150においては、奥行き方向、左右方向および上下方向について位置指定スイッチ84により指定された表示位置を示す値がそれぞれ読み出される。
続いて、ステップS160において、ステップS150において読み出された表示位置に基づき、瞳孔Pへ入射させる光束の曲率半径が決定される。このステップS160においては、ステップS150において読み出された表示位置のうち、奥行き方向における表示位置を示す値が曲率半径として決定される。
その後、ステップS170において、曲率変更部40における凸レンズ42−ミラー43間の間隔dcが、瞳孔Pに入射する光束の曲率半径がステップS160において決定された曲率半径と等しくなるように決定される。
具体的には、制御部90のメモリ96に、凸レンズ42−ミラー43間の間隔dcと、曲率変更部40から出力される光束の曲率半径との対応関係を特定可能なデータがデータテーブルまたは演算式として記憶されており、このデータに基づき、瞳孔Pに入射する光束の曲率半径がステップS160において決定された曲率半径と等しくなるように間隔dc1が決定される。そして、この間隔dc1を示す値に変数P1がセットされる(dc1→P1)。
続いて、ステップS180において、曲率変更部40における凸レンズ42−ミラー43間の間隔dcが、ステップS170において決定された間隔dc1と等しくなるように変更される。
このステップS180においては、具体的には、曲率変更部40における曲率変更用駆動回路45によってアクチュエータ44を作動させることにより、凸レンズ42−ミラー43間の間隔dcが、ステップS170において決定された間隔dc1と等しくなるように変更される。このステップS180の実行後、曲率変更部40から出力される光束は、ステップS160において決定された曲率半径を有する光束となる。
したがって、この光束が、走査部50,角度変更部60および光束誘導部70を経て瞳孔Pへ入射した場合には、観察者が、この光束に基づく虚像を、瞳孔Pから、ステップS160において決定された曲率半径に相当する距離だけ前方に位置する虚像として認識することができるようになる。
その後、ステップS190において、ステップS150において読み出された表示位置に基づき、瞳孔Pに入射する光束の走査中心線の角度すなわち瞳孔Pへの入射角が決定される。
具体的には、このステップS190においては、観察者における左眼ELの眼球における回転中心を座標系の原点とし、かつ、ステップS150において読み出された表示位置のうち奥行き方向に関する値z0、左右方向に関する値x0および上下方向に関する値y0で定義される座標点(x0,y0,z0)を輻輳点として、図6の(a)に示すように、x−z平面すなわち水平面上における走査中心線の角度が計算によって決定される。
左眼ELの瞳孔PLに入射すべき光束の走査中心線の水平方向における角度αHLは、座標系の原点と輻輳点とを結ぶ直線とz軸との成す角度である。したがって、この角度αHLは、z軸を通過する垂直面上に輻輳点が存在している場合、すなわち、輻輳点が座標値(0,y0,z)で表される場合に0に等しい(αHL=0)と仮定すると、この角度αHLは、
αHL=tan-1(x0/z0)
なる式により、算出される。
これに対し、右眼ERの瞳孔PRに入射すべき光束の走査中心線の水平方向における角度αHRは、右眼ERの眼球における回転中心からz軸と平行に延びる直線と、右眼ERの瞳孔PRと輻輳点とを結ぶ直線との成す角度である。この角度αHRは、両瞳孔P(両眼球EL,ERの回転中心)間の間隔をdeとし、かつ、z軸からx軸方向に間隔deと同じ距離だけ平行に隔たった垂直面上に輻輳点が存在している場合、すなわち、輻輳点が座標値(de,y0,z)で表される場合に0に等しい(αHR=0)と仮定すると、この角度αHRは、
αHR=tan-1((x0−de)/z0)
なる式により、算出される。
さらに、図6の(b)に示すように、y−z平面、すなわち、垂直面上における走査中心線の角度が計算により決定される。
瞳孔Pに入射すべき光束の垂直面上における走査中心線の角度αVは、座標系の原点と輻輳点とを結ぶ直線とz軸との成す角度である。したがって、この角度αVは、z軸を通過する水平面上に輻輳点が存在している場合、すなわち、輻輳点が座標値(x0,0,z)で表わされる場合に0に等しい(αV=0)と仮定すると、この角度αVは、
αV=tan-1(y0/z0)
なる式により、算出される。
続いて、図5のステップS200において、角度変更部60における角度変更用ミラー61の傾きの量が、光束誘導部70から瞳孔Pに入射する光束の走査中心線の角度がステップS190において決定された角度と等しくなるように決定される。
具体的には、このステップS200においては、まず、左眼ELの瞳孔PLに対応する角度変更部60について、光束誘導部70から瞳孔PLに入射する光束の走査中心線の角度が、ステップS190において決定された角度と等しくなるように角度変更用ミラー61の傾き量が決定される。
さらに具体的には、このステップS200においては、角度変更用ミラー61を傾ける際の水平変更機構66における回転角すなわち角度変更用ミラー61の傾き量が、ステップS190において決定された角度αHLから変数P2の値p2(今回は初期値αHL0)を減算して1/2倍した値((αHL−p2)/2)に決定される。
さらに、角度変更用ミラー61を傾ける際の垂直変更機構62における回転角すなわち角度変更用ミラー61の傾き量が、ステップS190において決定された角度αVから変数P4の値p4(今回は初期値0)を減算して1/2倍した値((αV−p4)/2)に決定される。
さらに、右眼ERの瞳孔PRに対応する角度変更部60についても、同様に、計算が行われる。具体的には、角度変更用ミラー61を傾ける際の水平変更機構66における回転角すなわち角度変更用ミラー61の傾き量が、ステップS190において決定された角度αHRから変数P3の値p3(今回は初期値αHR0)を減算して1/2倍した値((αHR−p3)/2)に決定される。
さらに、このステップS200においては、角度変更用ミラー61の傾き量が決定された後、ステップS190において決定された角度αHLに変数P2がセットし直され(αHL→P2)、同じステップS190において決定された角度αHRに変数P3がセットし直され(αHR→P3)、同じステップS190において決定された角度αVに変数P4がセットし直される(αV→P4)。
その後、ステップS210において、角度変更部60における角度変更用ミラー61が、ステップS200において決定された傾き量だけ傾けられる。このステップS210においては、角度変更部60における各駆動回路64,67によって各変更機構62,66を作動させることにより、角度変更用ミラー61の傾きが、ステップS200において決定された傾き量だけ傾けられる。
このステップS210の実行後、角度変更部60から出力される光束が光束誘導部70を経て瞳孔Pに入射すると、この光束に基づく虚像を、観察者は、ステップS190において決定された走査中心線の角度(瞳孔Pへの入射角)を有する向き、すなわち、操作パネル80の位置指定スイッチ84により指定された表示位置に表示された虚像として認識することができるようになる。
続いて、ステップS220において、ステップS120において開始された映像信号の入力が継続しているか否かが判定される。
今回は、映像信号の入力が継続していると仮定すれば、ステップS220の判定がYESとなり、ステップS230において、操作パネル80の位置指定スイッチ84が操作されたか否かが判定される。
今回は、位置指定スイッチ84が操作されたと仮定すれば、ステップS230の判定がYESとなり、ステップS150へ戻る。
一方、今回は、位置指定スイッチ84が操作されていないと仮定すれば、ステップS230の判定がNOとなり、ステップS220へ戻る。
以上のようにしてステップS150ないしS230の実行が繰り返された後、映像信号の入力が継続しなくなったならば、ステップS220の判定がNOとなり、ステップS240において、ステップS140において開始された色信号の生成および出力が終了させられる。
以上で、この画像表示プログラムの一回の実行が終了する。
以上の説明から明らかなように、本実施形態によれば、角度変更部60により、走査部50により走査される光束の走査中心線が光束誘導部70に入射する入射角が変更される(図5におけるステップS210)。
この角度変更部60においては、角度変更用ミラー61が、観察者における瞳孔Pの位置(瞳孔Pに対応する位置)と光学的に共役な位置に配設されているため、走査部50から光束誘導部70を経て瞳孔Pに入射する光束は、上記入射角の変更にもかかわらず、一定の位置(以後、「収束位置」という。)に収束することになる。
したがって、本実施形態によれば、虚像の表示位置の方向を大きく変更したとしても、収束位置が瞳孔Pに対応する位置からずれてしまう恐れがなく、その結果、観察者が虚像を正確に視認できなくなったり、虚像そのものを視認できなくなってしまうことがない。
よって、本実施形態によれば、虚像の表示位置の方向を広範囲に自由に変更することが可能となる。
さらに、本実施形態によれば、角度変更部60により光束の走査中心線の角度を変更するだけで、虚像を正確に視認できなくなったり、虚像そのものを視認できなくなったりすることなく、虚像の表示位置の方向を変更することができる。したがって、本実施形態によれば、角度変更用ミラー61の配置の最適化という比較的単純な手法により、虚像の表示位置の方向を広範囲に自由に変更することが可能となる。
さらにまた、本実施形態においては、図5におけるステップS210の実行により、角度変更部60の角度変更用ミラー61が傾けられる。このとき、観察者の両眼EL,ERにそれぞれ対応する光束誘導部70から瞳孔Pに入射する光束の走査中心線をその入射方向とは逆向きに延長して得られる両延長線が操作パネル80の位置指定スイッチ84により指定された表示位置において交差するように、光束誘導部70により瞳孔Pに入射する光束の走査中心線の角度が変更される。
したがって、本実施形態においては、操作パネル80の位置指定スイッチ84により指定された表示位置が輻輳点と一致する状態で、指定された表示位置に虚像が表示されるように、各光束誘導部70に入射する光束の走査中心線の角度が変更される。
さらに、本実施形態においては、図5に示す画像表示プログラムの実行により、操作パネル80の位置指定スイッチ84により指定された表示位置が読み出され、その読み出された表示位置に基づいて曲率半径と走査中心線の角度とが決定される。
したがって、本実施形態によれば、観察者は、操作パネル80の位置指定スイッチ84を操作することにより、虚像を表示すべき瞳孔Pの前方における表示位置を任意に設定することができ、このようにして設定された表示位置に虚像が表示されるように、各光束誘導部70に入射する光束の走査中心線の角度が変更される。
さらに、本実施形態においては、図5におけるステップS180が実行される結果、制御部90からの指令を受けた曲率変更部40により、光束生成部10から出力された光束の曲率半径(波面曲率)が、観察者における瞳孔Pの位置(瞳孔Pに対応する位置)から操作パネル80の位置指定スイッチ84により指定された表示位置までの距離に応じた曲率半径に変更される。
ここで、光束に基づく虚像は、その光束の曲率半径の値が小さくなるほど観察者に近い位置に存在しているように観察者に認識される。一方、位置指定スイッチ84により指定される表示位置は、観察者が虚像を表示することを希望する位置である。
したがって、本実施形態によれば、光束に基づく虚像の位置すなわち実際の表示位置と、虚像が表示されるべき位置すなわち目標の表示位置とが互いに一致するため、両位置がずれてしまうことに起因する違和感を観察者に抱かせずに済む。
特に、本実施形態によれば、位置指定スイッチ84の操作により虚像の表示位置を任意に指定することができるため、観察者は、自身の視力に応じて自身の眼の焦点を合わせることができる位置に虚像が表示されるように、虚像の表示位置を指定することができる。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、光束生成部10が前記(1)項における「光束生成手段」の一例を構成し、走査部50が同項における「走査手段」の一例を構成し、光束誘導部70が同項における「誘導手段」の一例を構成し、角度変更部60が同項における「角度変更手段」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、角度変更用ミラー61と垂直変更機構62と垂直変更用駆動回路64とが互いに共同して前記(2)項における「第1変更部」の一例を構成し、角度変更用ミラー61と水平変更機構66と水平変更用駆動回路67とが互いに共同して同項における「第2変更部」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、ポリゴンミラーが前記(3)項における「第1走査部」の一例を構成し、ガルバノミラー54が同項または(4)項における「第2走査部」の一例を構成し、第1リレー光学系57が前記(3)項における「リレー光学系」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、ハーフミラー72が前記(5)項における「ミラー」の一例を構成し、第3リレー光学系74が同項における「リレー光学系」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、角度変更用ミラー61が前記(6)項における「ミラー」の一例を構成し、第2リレー光学系68が同項における「リレー光学系」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、位置指定スイッチ84が前記(9)項における「設定手段」の一例を構成し、コンピュータ92のうち図5におけるステップS150およびS190ないしS210を実行する部分が同項における「コントローラ」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、曲率変更部40が前記(12)項における「波面曲率変更手段」の一例を構成し、コンピュータ92のうち図5におけるステップS160ないしS180を実行する部分が同項における「曲率変更指令手段」の一例を構成しているのである。
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第1実施形態と共通する要素が多いため、共通する要素については、同一の符号または名称を使用して引用することにより、詳細な説明を省略し、異なる要素についてのみ詳細に説明する。
図7に示すように、本実施形態に従う画像表示装置2は、第1実施形態と同様に、光束生成部10、コリメート光学部30、曲率変更部40、走査部50、角度変更部60、光束誘導部70、操作パネル80および制御部90を備えている。
画像表示装置2は、さらに、視線センサ100を、第1実施形態には存在しない要素として備えている。この視線センサ100は、観察者の視線を検出するために、光束誘導部70のハーフミラー72に投影された目の画像を撮像し、その撮像結果を表す画像データを制御部90へ出力するCCDカメラを含むように構成されている。
それら光束生成部10、光ファイバー20、コリメート光学部30、曲率変更部40、走査部50、角度変更部60、光束誘導部70および視線センサ100は、左右の瞳孔PL,PRにそれぞれに対応して設けられている。
操作パネル80は、画像表示装置2を起動・停止させるための電源スイッチ82と、視線決定スイッチ102とを含むように構成されている。視線決定スイッチ102は、後述の画像表示プログラムが実行される際に標準となる視線の方向を決定するために操作されるスイッチである。
図8には、上述の画像表示プログラムの内容がフローチャートで概念的に表されている。以下、この画像表示プログラムを説明するが、図5に示す画像表示プログラムと共通するステップがあるため、共通するステップについては簡単に説明し、異なるステップについてのみ詳細に説明する。
この画像表示プログラムは、制御部90のコンピュータ92によって繰返し実行される。各回の実行時には、まず、ステップS408において、フラグがセットされているか否かが判定される。このフラグは、リセット状態で、後述の基準座標系の決定が未だ終了してはいないことを示し、セット状態で、その決定が終了したことを示す。このフラグは、コンピュータ92の電源投入に伴ってリセット状態に初期化される。今回は、このフラグがリセット状態にあると仮定すれば、ステップS408の判定がNOとなり、ステップS410に移行する。
このステップS410においては、観察者に対し、視線を遠方に向けた状態で操作パネル80の視線決定スイッチ102を操作することを促すためのメッセージが表示される。
具体的には、このステップS410においては、上述のメッセージを表わすメッセージ画像を表示するための各色信号が生成され、その生成された各色信号が各光束生成部10に対して出力される。
各色信号が入力された各光束生成部10においては、各色信号に基づいて各レーザドライバ12,14,16が各レーザ11,13,15を駆動し、これにより各レーザ11,13,15から発生した光束がダイクロイックミラー17により合成された後、結合光学系18を経て光ファイバー20へ出力される。
その出力された光束は、コリメート光学部30,曲率変更部40,走査部50,角度変更部60および光束誘導部70を経て観察者の瞳孔Pに入射し、それにより、上述のメッセージ画像が観察者によって視認される。
このようにしてメッセージ画像を視認した後、観察者は、メッセージ画像に示されるメッセージに従い、視線を遠方に向けた状態で、操作パネル80の視線決定スイッチ102を操作する。
次に、ステップS420において、観察者によって操作パネル80の視線決定スイッチ102が操作されるのが待たれる。
視線決定スイッチ102が操作されたならば、ステップS420の判定がYESとなり、ステップS430において、視線センサ100から画像データが入力される。ここでは、各視線センサ100から、光束誘導部70のハーフミラー72に投影された両眼EL,ERの画像がそれぞれ入力される。
続いて、ステップS440において、ステップS430において入力された画像データに基づき、基準座標系が決定される。
具体的には、このステップS440においては、まず、ステップS430において入力された画像データに基づき、この画像データにより表わされる両眼EL,ERの各画像について、白目部分を白、黒目部分を黒で表現する2値画像が、左右の眼EL,ERのそれぞれについて生成される。
次に、図10に示すように、左眼ELの2値画像のうち、左眼ELの白目部分を表わす白の領域を近似する楕円の中心位置が、2値画像における上下方向をx軸、左右方向をy軸とする直交座標系である上記基準座標系における第1基準位置a(0,0)(基準座標系の原点)として決定される。
続いて、同様にして、右眼ERの2値画像のうち、右眼ERの白目部分を表わす白の領域を近似する楕円の中心位置が、上記基準座標系における原点aからx軸方向に両瞳孔PL,PR(両眼EL,ERの眼球の回転中心)間の間隔deだけ離れた第2基準位置c(de,0)として決定される。
以上のようにして基準座標系が決定されると、図8におけるステップS450において、前述のフラグがセットされる。
その後、ステップS510において、初期化処理が行われる。この処理は、図5におけるステップS110と同様の処理である。
続いて、ステップS520において、外部から映像信号の入力が開始されるのが待たれる。
映像信号の入力が開始されたならば、ステップS520の判定がYESとなり、ステップS530において、ポリゴンミラー51およびガルバノミラー54の動作が開始させられる。この処理は、図5におけるステップS130と同様の処理である。
その後、ステップS540において、ステップS520において入力が開始された映像信号により表わされる画像に基づく各色信号の生成が開始される。生成された各色信号は、各光束生成部10に対して出力される。この処理は、図5におけるステップS140と同様の処理である。
続いて、ステップS552において、視線センサ100から再度、画像データが入力される。この処理は、ステップS430と同様の処理である。
その後、ステップS554において、ステップS552において入力された画像データに基づき、輻輳点が決定される。この処理は、観察者における実際の輻輳点(x0,y0,z0)を決定するための処理である。
図9には、このステップS554の詳細が輻輳点決定ルーチンとして概念的に表わされている。
この輻輳点決定ルーチンにおいては、まず、ステップS700において、ステップS552において入力された両眼EL,ERの画像データに基づき、各画像データにより表わされる各眼EL,ERの画像から上述の2値画像が生成される。
次に、ステップS710において、左眼ELの2値画像のうち、左眼ELの黒目部分を表わす黒の領域を近似する円の中心位置bの座標値が算出される。具体的には、このステップS710においては、図10に示すように、図8におけるステップS440において決定された第1基準位置aと、中心位置bとの間の所定距離から、この中心位置bの座標(ΔxL,ΔyL)が算出される。
続いて、図9におけるステップS720において、右眼ERの2値画像のうち、右眼ERの黒目部分を表わす黒の領域を近似する円の中心位置dの座標値が算出される。具体的には、このステップS720においては、図10に示すように、ステップS440において決定された第2基準位置cと、中心位置dとの間の所定距離から、この中心位置dの座標(de−ΔxR,ΔyR)が算出される。
その後、ステップS730において、ステップS710およびS720において算出された座標値に基づき、x−z平面すなわち水平面内において、前述の第1基準位置aと輻輳点とを結ぶ直線とz軸の成す角度αHLと、前述の第2基準位置cと輻輳点とを結ぶ直線とz軸の成す角度αHRとが算出される。
具体的には、このステップS730においては、角度αHLと角度αHRとがそれぞれ、眼球の半径をreで表わすとして、
αHL=sin-1(ΔxL/re)
αHR=sin-1(ΔxR/re)
なる各式を用いて算出される。
続いて、ステップS740において、ステップS710およびS720において算出された座標値に基づき、y−z平面すなわち垂直面内において、前述の第1基準位置a(または第2基準位置c)と輻輳点とを結ぶ直線とz軸の成す角度αVが算出される。具体的には、このステップS740においては、角度αVが、
αV=sin-1(ΔyL/re)
なる式を用いて算出される。
その後、ステップS750において、ステップS730およびS740において算出された角度に基づき、輻輳点が決定される。
具体的には、このステップS750においては、両瞳孔PL,PR間の間隔をdeで表わすとして、輻輳点(x0,y0,z0)のx座標値x0が、
x0=(de・tanαHL)/(tanαHL+tanαHR)
なる式を用いて算出される。さらに、輻輳点(x0,y0,z0)のy座標値y0が、
y0=(de・tanαV)/(tanαHL+tanαHR)
なる式を用いて算出される。さらにまた、輻輳点(x0,y0,z0)のz座標値z0が、
z0=de/(tanαHL+tanαHR)
なる式を用いて算出される。
以上で、この輻輳点決定ルーチンの一回の実行が終了する。
その後、図8におけるステップS560において、ステップS554において決定された輻輳点に基づき、観察者の瞳孔Pに入射する光束の曲率半径が決定される。この処理は、図5におけるステップS160と同様の処理である。
続いて、ステップS570において、曲率変更部40における凸レンズ42−ミラー43間の間隔dcの目標値が、観察者の瞳孔Pに入射する光束の曲率半径が、ステップS560において決定された曲率半径と等しくなるような間隔dc1と等しくなるように決定される。この処理は、図5におけるステップS170と同様の処理である。
その後、ステップS580において、曲率変更部40における凸レンズ42−ミラー43間の間隔dcの実際値が、ステップS570において決定された間隔dc1の目標値と等しくなるように変更される。この処理は、図5におけるステップS180と同様の処理である。
続いて、ステップS590において、観察者の瞳孔Pに入射する光束の走査中心線の角度の目標値が決定される。このステップS590においては、具体的には、図9におけるステップS730において算出された角度αHLと等しくなるように、左の瞳孔PLに入射すべき光束の走査中心線の、水平面上における角度(瞳孔入射角)αHLの目標値が決定される。
さらに、図9におけるステップS730において算出された角度αHRと等しくなるように、右の瞳孔PRに入射すべき光束の走査中心線の、水平面上における角度(瞳孔入射角)αHRの目標値が決定される。
さらに、図9におけるステップS740において算出された角度αVと等しくなるように、各瞳孔PL,PRに入射すべき光束の走査中心線の、垂直面上における角度(瞳孔入射角)αVの目標値が決定される。
その後、図8におけるステップS600において、角度変更部60における角度変更用ミラー61の傾き量の目標値が、光束誘導部70から観察者の瞳孔Pに入射する光束の各瞳孔入射角αHL,αHR,αVの実際値が、ステップS590において決定された各瞳孔入射角αHL,αHR,αVの目標値と等しくなるように決定される。この処理は、図5におけるステップS200と同様の処理である。
続いて、ステップS610において、角度変更部60における角度変更用ミラー61が、ステップS600において決定された傾き量の目標値だけ傾けられる。この処理は、図5におけるステップS210と同様の処理である。
その後、ステップS620において、ステップS520において開始された映像信号の入力が継続しているか否かが判定される。
今回は、映像信号の入力が継続していると仮定すれば、ステップS620の判定がYESとなり、ステップS552に戻る。
ステップS552ないしS620の実行が何回か繰り返されるうちに、映像信号の入力が継続しなくなったならば、ステップS620の判定がNOとなる。続いて、ステップS640において、ステップS540において開始された色信号の生成および出力が終了させられ、以上で、この画像表示プログラムの一回の実行が終了する。
この画像表示プログラムの次回の実行時には、前述のフラグがセット状態にあるため、ステップS408の判定がYESとなり、ステップS410ないしS440がスキップされる。これにより、基準座標系の決定が重複して行われることが回避される。
以上の説明から明らかなように、本実施形態によれば、第1実施形態と同様に、角度変更用ミラー61の配置の最適化という比較的単純な手法により、観察者が虚像の表示位置の方向を広範囲に自由に変更することが可能となる。
さらに、本実施形態によれば、図8におけるステップS610の実行により、操作パネル80の位置指定スイッチ84により指定された表示位置に虚像が表示されるように各光束誘導部70に入射する光束の走査中心角を変更することができる。
したがって、本実施形態によれば、操作パネル80の位置指定スイッチ84により指定された表示位置が輻輳点に一致する状態で、指定された表示位置に虚像が表示されるように、各光束誘導部70に入射する光束の走査中心線の角度が変更される。
さらに、本実施形態においては、図5に示す画像表示プログラムの実行により、操作パネル80の位置指定スイッチ84により指定された表示位置が読み出され、その読み出された表示位置に基づいて曲率半径と走査中心線の角度とが決定される。
さらに、本実施形態によれば、観察者は、操作パネル80の位置指定スイッチ84を操作することにより、虚像を表示すべき瞳孔Pの前方における表示位置を任意に設定することができ、このようにして設定された表示位置に虚像が表示されるように、各光束誘導部70に入射する光束の走査中心線の角度が変更される。
さらに、本実施形態においては、視線センサ100の出力信号により表わされる両眼EL,ERの画像データに基づいて輻輳点が決定される。具体的には、図9におけるステップS750が実行されることにより、視線センサ100の出力信号により表わされる両眼EL,ERの画像データに基づき、左右の視線が交差する位置、すなわち、観察者の実際の輻輳点が算出される。
さらに、本実施形態においては、そのようにして決定された輻輳点に基づき、各瞳孔PL,PRに入射する光束の波面の曲率半径と、走査中心線の角度すなわち瞳孔入射角とが決定される。
したがって、本実施形態によれば、観察者は、視線を任意の方向に向けることにより、瞳孔の前方において虚像を表示することを希望する表示位置を任意に設定することが可能となる。
さらに、本実施形態においては、図8におけるステップS580が実行される結果、制御部90からの指令を受けた曲率変更部40により、光束生成部10から出力された光束の曲率半径(波面曲率)が、観察者における瞳孔Pの位置(瞳孔Pに対応する位置)から、ステップS554において決定された輻輳点までの距離に応じた曲率半径に変更される。
ここで、光束に基づく虚像は、その光束の曲率半径の値が小さくなるほど観察者に近い位置に存在しているように観察者に認識される。一方、ステップS554において決定された輻輳点は、観察者の実際の輻輳点を意味している。
したがって、本実施形態によれば、光束に基づく虚像の位置すなわち実際の表示位置と、観察者の実際の輻輳点とが互いに一致するため、両位置がずれてしまうことに起因する違和感を観察者に抱かせずに済む。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、両眼EL,ERにそれぞれ設けられた視線センサ100と、コンピュータ92のうち図8におけるステップS554を実行する部分とが互いに共同して前記(9)項における「設定手段」の一例を構成し、コンピュータ92のうち図8におけるステップS590ないしS610を実行する部分が同項における「コントローラ」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、視線センサ100が前記(10)項における「視線検出手段」の一例を構成し、コンピュータ92のうち図8におけるステップS554を実行する部分が同項における「制御手段」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、曲率変更部40が前記(13)項における「波面曲率変更手段」の一例を構成し、コンピュータ92のうち図8におけるステップS560ないしS580を実行する部分が同項における「制御手段」の一例を構成しているのである。
以上、本発明の第1および第2実施形態を説明したが、本発明は、それら実施形態に種々の変形を加えた態様で実施することが可能である。
例えば、第1および第2実施形態においては、前述の画像表示プログラムのすべてのステップが制御部90に内蔵されたコンピュータ92によって実行されるようになっている。これに対し、それらステップの全部または一部が、画像表示装置1および2から物理的に独立した別のコンピュータであって、画像表示装置1および2に無線または有線で接続されたものによって実行される態様で本発明を実施することが可能である。
さらに、第1および第2実施形態においては、前述の画像表示プログラムが、制御部90に内蔵されたメモリ96から読み出されてコンピュータ92によって実行されるようになっている。これに対し、制御部90が、例えば、FDやメモリーカードなどのリムーバブルな記録媒体に対してデータの読み出しおよび書き込みを行うことが可能に構成されている場合には、コンピュータ92によって実行されるべき画像表示プログラムがその記録媒体から読み出されて実行される態様で本発明を実施することが可能である。
さらに、第1および第2実施形態においては、走査部50が、主走査すなわち水平走査のためのポリゴンミラー51と、副走査すなわち垂直走査のためのガルバノミラー54とを含むように構成されている。これに対し、走査部50が、主走査と副走査とを同じ光学素子としてのミラーを用いて行う態様で本発明を実施することが可能である。この態様を採用すれば、画像表示装置1および2の部品点数の削減が容易となり、それらの小型化も容易となる。
さらに、第1および第2実施形態においては、角度変更部60が、走査部50から入射した光束を、角度変更用ミラー61で反射して光束誘導部70へ向かわせるように構成されている。これに対し、角度変更部60は、観察者の瞳孔Pと光学的に共役な位置関係を有するように配設することができれば、他の位置に配設してもよい。例えば、ポリゴンミラー51から光束を受光して、その受光した光束を角度変更用ミラー61で反射してガルバノミラー54へ向かわせるような位置に角度変更部60が配設される態様で本発明を実施してもよい。
さらに、第1実施形態においては、操作パネル80の位置指定スイッチ84により虚像の表示位置を設定できるように構成されている。これに対し、虚像の表示位置を設定するための構成として、入力キー等、表示位置を数値(例えば、瞳孔Pからの距離、方向などを表わす数値)で入力するための構成を採用する態様で本発明を実施することが可能である。
さらに、第1および第2実施形態においては、前述の画像表示プログラムの実行によって各種パラメータが算出・決定される際、左眼ELの眼球における回転中心を原点とする直交座標系が使用される。これに対し、角度変更部60の角度変更用ミラー61の位置と観察者における瞳孔Pの位置(瞳孔Pに対応する位置)とが、光学的に共役な位置関係を有するという事実に着目することにより、瞳孔Pの位置を原点とする直交座標系を使用して各種パラメータを算出・決定する態様で本発明を実施することが可能である。
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第1実施形態と共通する要素が多いため、共通する要素については、同一の符号または名称を使用して引用することにより、詳細な説明を省略し、異なる要素についてのみ詳細に説明する。
第1実施形態においては、角度変更部60が、角度変更用ミラー61および第2リレー光学系68を含むように構成されている。これに対し、本実施形態においては、角度変更部60が、その角度変更部60と走査部50とに共通の光学素子としてのミラーを用いて構成されている。
図11には、本実施形態に従う画像表示装置3が図1と同様にして示されている。この画像表示装置3においては、角度変更部60の垂直変更機構62および水平変更機構66が、角度変更用ミラー61の代わりにガルバノミラー54の反射面を垂直方向および水平方向にそれぞれ傾けるように構成されている。その結果、角度変更部60が走査部50のうちのガルバノミラー54と一体的に構成されている。
したがって、本実施形態によれば、ガルバノミラー54が角度変更用ミラー61としても利用することが可能となるため、第1実施形態に対し、角度変更用ミラー61だけでなく第2リレー光学系68も省略することが可能となる。
よって、本実施形態によれば、画像表示装置3の部品点数の削減が容易となり、ひいては、その画像表示装置3の小型化も容易となる。
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第2実施形態と共通する要素が多いため、共通する要素については、同一の符号または名称を使用して引用することにより、詳細な説明を省略し、異なる要素についてのみ詳細に説明する。
第2実施形態においては、図8におけるステップS620において、映像信号の入力が継続していると判定されると、ステップS552に戻るように構成されている。
これに対し、本実施形態においては、画像表示装置2の操作パネル80に、輻輳点を変更するために観察者によって操作される輻輳点変更スイッチ(図示しない)が設けられている。
図12には、本実施形態における画像表示プログラムの内容が概念的にフローチャートで表わされている。以下、この画像表示プログラムを説明するが、この画像表示プログラムは、第2実施形態における画像表示プログラムと共通するステップが多いため、共通するステップについては、同一の番号を使用して引用することにより、詳細な説明を省略し、異なるステップについてのみ詳細に説明する。
本実施形態における画像表示プログラムにおいては、ステップS410ないし620および640が第1実施形態と同様にして実行される。しかし、本実施形態においては、第1実施形態とは異なり、映像信号の入力が継続しているためにステップS620の判定がYESとなった後、直ちにステップS552に戻るのではなく、ステップS630において、観察者によって上述の輻輳点変更スイッチが操作されたか否かが判定される。
今回は、輻輳点変更スイッチが操作されてはいないと仮定すれば、ステップS630の判定がNOとなり、ステップS620に戻り、映像信号の入力が継続している限り、入力された映像信号に基づく色信号の生成およびその色信号の光束生成部10への出力が継続される。
これに対し、今回は、輻輳点変更スイッチが操作されたと仮定すれば、ステップS630の判定がYESとなり、ステップS552に戻り、再度、曲率半径および瞳孔入射角が決定され、必要に応じた変更がそれら曲率半径および/または瞳孔入射角に加えられる。
[第5実施形態]
次に、本発明の第5実施形態に従う画像表示装置を説明する。本実施形態は、観察者の瞳孔Pの前方に配置されたミラーの角度が変更されることにより、観察者に対する虚像表示位置の方向が変更される点で第1ないし第4実施形態と異なる。
図13には、本実施形態に従う画像表示装置が要部については光路図で、それ以外の部分についてはブロック図で簡略的に示されている。本実施形態は、光束生成部200と走査部202とを含むように構成されている。光束生成部200は前記光束生成部10と基本的な構成が共通するように構成され、走査部202は前記走査部50と基本的な構成が共通するように構成されている。走査部202は、光束生成部200から出射した光束を水平方向と垂直方向とに2次元的に走査する。
図13に示すように、走査部202から出射した光束は、光束誘導部210によって角度変更部214に誘導される。角度変更部214は、瞳孔Pの前方に配置されたミラー220を備えている。
ミラー220は、角度変更部214のうちの図示しないフレームに回転可能に支持されている。具体的には、ミラー220は、ミラー220の中心位置を中心に、水平軸線まわりの回転と垂直軸線まわりの回転とが可能な状態で支持されている。ミラー220の中心位置は、ミラー220と、光束誘導部210から出射する光束の走査角の中心線(図13において一点鎖線で示す。)との交点と一致する。
そのような回転を実現するために、ミラー220は、駆動源としてのモータ222を含む駆動装置224に接続されている。駆動装置224は、前記制御部90と基本的な構成が共通する制御部226によって制御される。
図13には、ミラー220に入射する光束の走査角の中心線と、ミラー220から出射する光束の走査角の中心線との成す角度が、破線で示す第1角度位置については、「θm1」、実線で示す第2角度位置については、「θm2」でそれぞれ表わされている。図13に示す例においては、角度θm1から角度θm2への変更が、瞳孔入射角の変更に対応し、この変更に伴い、観察者に対する虚像表示位置の方向が変更される。
[第6実施形態]
次に、本発明の第6実施形態に従う画像表示装置を説明する。ただし、本実施形態は、虚像表示位置変更のためにミラー220が運動させられる軌跡が第5実施形態と異なるのみで、他の点については共通するため、共通する要素については、同一の名称または符号を使用して引用することにより、詳細な説明を省略し、異なる要素についてのみ詳細に説明する。
図14に示すように、本実施形態においては、走査部202から出射した光束が光束誘導部210によって角度変更部240に誘導される。角度変更部240は、ミラー220を備えている。
ミラー220は、そのミラー220と、光束誘導部210から入射する光束との成す角度が変化するように、角度変更部240のうちの図示しないフレームに運動可能に支持されている。具体的には、ミラー220は、そのミラー220と、光束誘導部210から入射する光束との成す角度が変化しても、ミラー220で反射して瞳孔Pに入射する光束が瞳孔P内の同じ位置P1に収束する軌跡を描くように運動させられるように支持されている。この運動は、ミラー220の中心位置まわりの回転運動と、ミラー220の並進運動との複合運動である。
そのため、本実施形態においては、第5実施形態とは異なり、ミラー220が回転させられる際に、ミラー220の中心位置が、光束誘導部210から入射する光束の光路に沿って移動させられる。
そのようなミラー220の運動を実現するために、ミラー220は、駆動源としてのモータ242と、そのモータ242のシャフトの回転運動を上述の複合運動に変換する運動変換機構244とを含む駆動装置246に接続されている。
運動変換機構244は、ミラー220の回転運動のための第1部分と、ミラー220の並進運動のための第2部分とを含むように構成されるが、図14には、第2部分のみが示されている。この第2部分は、モータ242のシャフトの回転運動を直線運動に変換するためのボールねじを主体として構成されている。駆動装置246は、前記制御部90と基本的な構成が共通する制御部248によって制御される。
図14には、ミラー220に入射する光束の走査角の中心線と、ミラー220から出射する光束の走査角の中心線との成す角度が、破線で示す第1角度位置については、「θm1」、実線で示す第2角度位置については、「θm2」でそれぞれ表わされている。図14に示す例においては、角度θm1から角度θm2への変更が、瞳孔入射角の変更に対応し、この変更に伴い、観察者に対する虚像表示位置の方向が変更される。
以上、本発明の実施の形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、前記[課題を解決するための手段]の欄に記載の態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。