図1は本発明を圧縮着火式内燃機関に適用した場合を示している。なお、本発明は火花点火式内燃機関にも適用することもできる。
図1を参照すると、1は機関本体、2は各気筒の燃焼室、3は各燃焼室2内にそれぞれ燃料を噴射するための電子制御式燃料噴射弁、4は吸気マニホルド、5は排気マニホルドをそれぞれ示す。吸気マニホルド4は吸気ダクト6を介して排気ターボチャージャ7のコンプレッサ7aの出口に連結され、コンプレッサ7aの入口はエアクリーナ8に連結される。吸気ダクト6内にはステップモータにより駆動されるスロットル弁9が配置され、さらに吸気ダクト6周りには吸気ダクト6内を流れる吸入空気を冷却するための冷却装置10が配置される。図1に示した実施例では機関冷却水が冷却装置10内に導かれ、機関冷却水によって吸入空気が冷却される。一方、排気マニホルド5は排気ターボチャージャ7の排気タービン7bの入口に連結され、排気タービン7bの出口はNOX触媒11を内蔵したケーシング12に連結される。排気マニホルド5の集合部出口には排気マニホルド5内を流れる排気ガス中に例えば炭化水素からなる還元剤を添加するための還元剤添加弁13が配置される。
排気マニホルド5と吸気マニホルド4とは排気ガス再循環(以下、EGRと称す)通路14を介して互いに連結され、EGR通路14内には電子制御式EGR制御弁15が配置される。また、EGR通路14周りにはEGR通路14内を流れるEGRガスを冷却するためのEGR冷却装置16が配置される。図1に示した実施例では機関冷却水が冷却装置16内に導びかれ、機関冷却水によってEGRガスが冷却される。一方、各燃料噴射弁3は燃料供給管17を介して燃料リザーバ、いわゆるコモンレール18に連結される。このコモンレール18内へは電子制御式の吐出量可変な燃料ポンプ19から燃料が供給され、コモンレール18内に供給された燃料は各燃料供給管17を介して燃料噴射弁3に供給される。
電子制御ユニット30はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス31によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(マイクロプロセッサ)34、入力ポート35および出力ポート36を具備する。NOX触媒11にはNOX触媒11の温度を検出するための温度センサ20が取付けられ、また、NOX触媒11の排気下流には排気管内を流れる排気ガス中の還元剤の量、特にHC量を検出するためのHCセンサ21が取付けられ、これら温度センサ20およびHCセンサ21の出力信号は対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。また、アクセルペダル40にはアクセルペダル40の踏込み量に比例した出力電圧を発生する負荷センサ41が接続され、負荷センサ41の出力電圧は対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。さらに入力ポート35にはクランクシャフトが例えば15°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ42が接続される。一方、出力ポート36は対応する駆動回路38を介して燃料噴射弁3、スロットル弁9駆動用ステップモータ、還元剤添加弁13、EGR制御弁15、および燃料ポンプ19に接続される。
図1に示すNOX触媒11はモノリス触媒からなり、コージェライト等により形成されたハニカム状の基体上にNOX吸蔵担体が担持されている。図2(A)はこのNOX吸蔵担体50の表面部分の断面を図解的に示している。図2(A)に示したようにNOX吸蔵担体50の表面上には触媒貴金属51が分散して担持されている。
本実施形態では、NOX吸蔵担体50は、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、セリア等の金属酸化物に、例えば、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、セシウム(Cs)のようなアルカリ金属、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)のようなアルカリ土類金属、ランタン(La)、イットリウム(Y)のような希土類から選ばれた少なくとも一つであるNOX吸蔵剤を含ませたものである。この場合、NOX吸蔵剤、すなわちアルカリ金属等は、NOX吸蔵担体50が混合酸化物となるようにNOX吸蔵担体50に含まれてもよいし、金属酸化物の結晶構造の一部を構成するようにNOX吸蔵担体50の内部に含まれてもよいし、金属酸化物との混合物としてNOX吸蔵担体50の内部に含まれてもよい。また、触媒貴金属51としては、白金、ロジウム、パラジウム及びイリジウムから選ばれた少なくとも一つが用いられる。
このようにして形成されたNOX触媒(以下、「低温活性型NOX触媒」と称す)11のNOX吸蔵担体50は、担体として一般的に用いられているアルミナよりも塩基性が強く、図2(B)に示したようなNOX触媒、すなわち、アルミナ等から成る担体52の表面上に触媒貴金属が分散して担持せしめられると共にNOX吸蔵剤53の層が形成されているNOX触媒(以下、「高温型NOX触媒」と称す)におけるNOX吸蔵剤53よりも塩基性が弱い。すなわち、高温型NOX触媒の担体52に担持されたNOX吸蔵剤53が強塩基性を示すのに対して、低温活性型NOX触媒11のNOX吸蔵担体50は弱塩基性を示す。
この塩基性が強さは触媒貴金属51の活性に影響を与え、塩基性が強いほど触媒貴金属51の活性、すなわち酸化・還元能力が低いものとなってしまう。この傾向は触媒貴金属51の低温での活性について顕著に現れ、比較的低温の特定の温度領域(例えば、200℃〜250℃)において、NOX吸蔵剤53が強塩基性を示す高温型NOX触媒では触媒貴金属51の活性が低く、NOX触媒に流入する排気ガス(以下、「流入排気ガス」と称す)中のNOXの浄化能力は低いが、NOX吸蔵担体50が弱塩基性を示す低温活性型NOX触媒11では触媒貴金属51の活性は高く、よって高温型NOX触媒よりも流入排気ガス中のNOXの浄化能力は高い。
図3に、流入排気ガス中に還元剤を添加して流入排気ガスの空燃比を一時的にほぼ理論空燃比またはリッチにしたときにおける低温活性型NOX触媒11および高温型NOX触媒によるNOX浄化率を示す。図3において、横軸はNOX触媒への流入排気ガスの温度であり、縦軸はNOX触媒によるNOXの浄化率である。図3から分かるように、比較的低温の特定の温度領域(特に200℃〜250℃)において、低温活性型NOX触媒11のNOX浄化率は高温型NOX触媒のNOX浄化率よりも高い。このことから、低温活性型NOX触媒11は、高温型NOX触媒よりも低温からNOXの浄化能力を有することがわかる。
低温活性型NOX触媒11におけるNOXの浄化は、温度領域毎に異なる反応、現象によって行われると考えられる。以下、各温度領域において主に起こっていると考えられる反応、現象について説明する。
NOX触媒11の温度が比較的高い温度領域にあるときには、機関吸気通路、燃焼室2およびNOX触媒11上流の排気通路内に供給された空気および燃料(炭化水素)の比を排気ガスの空燃比と称すると、NOX吸蔵担体50、特にNOX吸蔵担体50に含まれたNOX吸蔵剤は、流入排気ガスの空燃比がリーンのときにはNOXを吸収し、流入排気ガス中の酸素濃度が低下すると吸収したNOXを放出するNOXの吸放出作用を行う。
NOX吸蔵担体50に含まれているNOX吸蔵剤を構成する成分としてバリウム(Ba)を用いた場合を例にとって説明すると、流入排気ガスの空燃比がリーンのとき、すなわち流入排気ガス中の酸素濃度が高いときには触媒貴金属51が活性化していれば流入排気ガス中に含まれるNOは図4(A)に示したように触媒貴金属51上において酸化されてNO2となり、次いでNOX吸蔵担体50内に吸収されて酸化バリウム(BaO)と結合しながら硝酸イオン(NO3 -)の形でNOX吸蔵担体50内に拡散する。このようにしてNOXがNOX吸蔵担体50内に吸収される。流入排気ガス中の酸素濃度が高い限り触媒貴金属51の表面でNO2が生成され、NOX吸蔵担体50のNO2吸収能力が飽和しない限りNO2がNOX吸蔵担体50内に吸収されて硝酸イオン(NO3 -)が生成される。
これに対し、燃焼室2内における空燃比をほぼ理論空燃比またはリッチ(以下、「ストイキ・リッチ」と称す)にすることによって、または還元剤添加弁13から還元剤を添加することによって流入排気ガスの空燃比をストイキ・リッチにすると流入排気ガス中の酸素濃度が低下するために反応が逆方向(NO3 -→NO2)に進み、これによりNOX吸蔵担体50内の硝酸イオン(NO3 -)がNO2の形でNOX吸蔵担体50から放出される。次いで放出されたNOXは流入排気ガス中に含まれる未燃HC、CO等によって還元される。なお、上記説明では、NOXはNOX吸蔵担体50に吸収される(すなわち、硝酸塩等の形で蓄積する)ものとして説明しているが、実際にはNOXは吸収されているのか吸着(すなわち、NOXをNO2等の形で吸着する)しているのかは必ずしも明確ではなく、これら吸収および吸着の両概念を含む吸蔵という用語を用いる。本明細書では、特に、NOX触媒11の温度が上述した比較的高い温度領域にあるときに行われる吸蔵を「高温吸蔵」と称する。また、NOX吸蔵担体からの「放出」という用語についても、「吸収」に対応する「放出」の他、「吸着」に対応する「脱離」の意味も含むものとして用いる。
以下の説明では、NOX吸蔵担体50、特にNOX吸蔵剤が主に上述したようなNOXの吸放出作用を行うようなNOX触媒11の温度領域を吸蔵放出温度領域と称する。吸蔵放出温度領域は、NOX吸蔵担体を構成する金属酸化物およびNOX吸蔵剤によって異なるが、通常、250℃または260℃〜600℃である。
NOX触媒11の温度が吸蔵放出領域よりも低い特定の温度領域にあるときには、流入排気ガスの空燃比如何に関わらず、すなわち流入排気ガスの空燃比がリーンであっても、流入排気ガス中に還元剤(機関本体1から排出された未燃HCやCOを含む)が存在する場合には、流入排気ガス中に含まれるNOXは触媒貴金属51の酸化・還元能力により還元剤と反応してN2に還元される。
還元剤として還元剤添加弁13から炭化水素(HC)を添加した場合、または燃焼室2から排出される排気ガス中に未燃HCを含ませるようにした場合を例にとって説明する。NOX触媒11の温度が上述した吸蔵放出温度領域にある場合、流入排気ガスの空燃比がリーンであると、すなわち流入排気ガス中の酸素濃度が高いと、流入排気ガス中のHCは触媒貴金属51の酸化・還元能力により酸素(O2)と反応して水(H2O)や二酸化炭素(CO2)を生成する。これに対して、NOX触媒11の温度が吸蔵放出領域よりも低い特定の温度領域にある場合には、図4(B)に示したように流入排気ガス中の酸素濃度が高くても、流入排気ガス中のHCは酸素よりもNOXと選択的に反応し、よってNOXは触媒貴金属51の酸化・還元能力により選択的にN2に還元される(NOXの選択還元)。NOXの選択還元は、触媒貴金属51の低温での活性の高い低温活性型NOX触媒11において顕著に起こり、このため低温活性型NOX触媒11の上記特定の温度領域でのNOXの浄化能力が高いものとなっている。なお、NOXの選択還元は流入排気ガス中のHC等の還元剤のみならず、NOX吸蔵担体50等の表面上に吸着している還元剤によっても行われる。
以下の説明では、上述したようなNOXの選択還元が行われるようなNOX触媒の温度領域を選択還元温度領域と称する。選択還元温度領域は、通常、200℃〜250℃または260℃である。
NOX触媒11の温度が選択還元温度領域よりも低い特定の温度領域にあるときには、NOX吸蔵担体50、特にNOX吸蔵担体50に含まれたNOX吸蔵剤は、流入排気ガスの空燃比がリーンのときに流入排気ガス中のNO2のみを吸蔵する。
すなわち、流入排気ガス中のNOXは一酸化窒素(NO)の形ではNOX吸蔵担体50、特にNOX吸蔵剤に吸蔵されず、二酸化窒素(NO2)の形でNOX吸蔵担体50に吸蔵される。NOX吸蔵担体50は、上述したようにNOX触媒11の温度が吸蔵放出温度領域にあるときには、流入排気ガスの空燃比がリーンであれば触媒貴金属51により流入排気ガス中のNOがNO2に酸化され、NO2がNOX吸蔵担体50、特にNOX吸蔵剤に吸蔵されるが、NOX触媒の温度が選択還元温度領域よりも低い特定の温度領域にあるときには、NOは酸化されない。しかし、流入排気ガス中に含まれるNO2はNOX触媒11の温度が選択還元温度領域よりも低い特定の温度領域にあるときであっても図4(C)に示したように例えば亜硝酸(NO2 -)の形でNOX吸蔵担体50に吸蔵される。なお、この場合も、NOX触媒11の温度が吸蔵放出温度領域にある場合と同様に、NO2はNOX吸蔵担体50に吸着するのか、あるいはNOX吸蔵担体50内に吸収されるのかは必ずしも明確ではなく、これら吸着と吸収とを合わせた「吸蔵」という用語を用いる。本明細書では、特に、NOX触媒11の温度が選択還元温度領域よりも低い特定の温度領域にあるときに行われる吸蔵を「低温吸蔵」と称する。
なお、NOX触媒11の温度が直接吸蔵温度領域にあるときにNOX吸蔵担体50に亜硝酸(NO2 -)として吸蔵されたNO2は、NOX触媒11の温度が吸蔵放出温度領域にまで上昇すると、硝酸イオン(NO3 -)に変化せしめられ、斯くして硝酸イオン(NO3 -)の形でNOX吸蔵担体50内に吸蔵されることになる。
以下の説明では、上述したようにNO2が亜硝酸(NO2 -)の形でNOX吸蔵担体50に直接的に吸蔵される温度領域を直接吸蔵温度領域と称する。直接吸蔵温度領域は、通常、常温〜200℃である。
このように、低温活性型NOX触媒11におけるNOXの浄化は温度領域毎に異なる反応、現象によって行われ、したがって、温度領域毎にNOXを浄化するのに最適な制御も異なる。以下、NOX触媒11の温度領域毎に、NOXを浄化するのに最適な制御について説明する。
まず、NOX触媒11の温度が吸蔵放出温度領域にある場合について説明する。上述したようにNOX触媒11の温度が吸蔵放出温度領域にある場合には、流入排気ガスの空燃比がリーンの状態が継続すると、その間にNOX吸蔵担体50のNOX吸蔵容量が飽和してしまい、それ以上NOX吸蔵担体50によってNOXを吸蔵することができなくなってしまう。そこで本実施形態では、NOX吸蔵担体50のNOX吸蔵容量が飽和する前に、還元剤添加弁13から還元剤を添加することによって流入排気ガスの空燃比を一時的にストイキ・リッチにし、それによってNOX吸蔵担体50からNOXを放出させるようにしている(NOX放出処理)。
より詳細には、本実施形態では、NOX触媒11のNOX吸蔵担体50に吸蔵されている吸蔵NOX量ΣNOXが算出され、算出された吸蔵NOX量ΣNOXが予め定められた許容値NXを越えているときであって、NOX触媒11の温度が活性温度以上となっているときに流入排気ガスの空燃比がリーンからストイキ・リッチに切換えられ、それによってNOX吸蔵担体50からNOXが放出される。
単位時間当りに機関本体1から排出されるNOX量は燃料噴射量Qと機関回転数Nの関数であり、従って単位時間当りにNOX触媒への流入排気ガス中の流入NOX量NOXAは燃料噴射量Qと機関回転数Nの関数となる。本実施形態では燃料噴射量Qと機関回転数Nに応じた単位時間当りの流入NOX量NOXAが予め実験により求められており、この流入NOX量NOXAが燃料噴射量Qと機関回転数Nの関数として図5(A)に示すようにマップの形で予めROM32内に記憶されている。
一方、図5(B)はNOX吸蔵担体50へのNOX吸蔵率KNとNOX触媒11の温度TCとの関係を示している。このNOX吸蔵率KNはNOX触媒11の温度TCに対して図3に示されるNOX浄化率と同様な傾向を有しており、NOX吸蔵担体50への単位時間当たりのNOX吸蔵量はNOXAとKNとの積で表わされる。
流入排気ガスの空燃比をストイキ・リッチにして行うNOX放出処理では、実際には還元剤添加弁13からの還元剤の添加は、図6(A)に示したように流入排気ガスの空燃比がリーンとストイキ・リッチとを交互に繰り返すように行われる。これは、NOX触媒11への流入排気ガスの空燃比を継続的にストイキ・リッチにすると、流入排気ガス中の還元剤がNOX触媒11において燃焼することにより、NOX触媒11の温度が極端に上昇し、NOX触媒11の劣化を招く結果となってしまうためである。
本実施形態のNOX放出処理においては、図6(A)に示したように、流入排気ガスの空燃比がストイキ・リッチとされる時間間隔、すなわち還元剤添加の時間間隔は比較的短く、また、流入排気ガスの空燃比がストイキ・リッチとされるときにおいてもそのリッチ度合は小さく、理論空燃比よりも僅かにリッチとなるように還元剤が添加される。このように流入排気ガスの空燃比をストイキ・リッチとすることにより、NOX吸蔵担体50に吸蔵されているNOXが放出され、放出されたNOXは流入排気ガス中に存在する還元剤によりN2に還元される。NOX放出処理を適切に継続させることによって、NOX吸蔵担体50に吸蔵されているNOXのほとんどまたは全てが放出、還元され、これによりNOX吸蔵担体50のNOX吸蔵容量が回復せしめられる。
NOX触媒11の温度が選択還元温度領域にある場合、上述したように流入排気ガスの空燃比がリーンであっても還元剤が存在すればNOXの還元が行われる。このため、この温度領域においては、NOX触媒11に吸蔵されている吸蔵NOX量に無関係に、流入排気ガス中に還元剤を添加して、NOX触媒11において還元剤が存在する雰囲気を作り出す選択還元処理が行われる。この選択還元処理は、還元剤が存在する雰囲気を継続的に維持するように継続的に行われる。
選択還元処理においても、NOX触媒11への流入排気ガスの空燃比を継続的にストイキ・リッチにするとNOX触媒11の温度が無駄に上昇し燃費の悪化を招くため、流入排気ガスの空燃比がリーンとストイキ・リッチとを交互に繰り返すように行われる。
ここで、本発明者の実験により、低温活性型NOX触媒11の選択還元温度領域におけるNOXの選択還元は、NOX触媒11に大きな温度勾配ができること、すなわちNOX触媒11内に大きな温度差ができることや、NOX触媒11の温度が選択還元温度領域内で変動することにより効果的に行われることが分かっている。そこで、本実施形態の選択還元処理では、還元剤添加弁13からの還元剤の一回の添加により流入排気ガスの空燃比をストイキ・リッチにするときにリッチ度合を大きく(空燃比を非常に小さく)することで、NOX触媒11の上流側部分で還元剤を燃焼させてNOX触媒11の下流側部分を急激に昇温し、NOX触媒11の上流側部分と下流側部分との間で温度差をつける。また、流入排気ガスの空燃比がストイキ・リッチとされる時間間隔、すなわち還元剤添加の時間間隔を長くすることで、還元剤の燃焼により上昇したNOX触媒11の温度が還元剤添加間の時間中に低下し、結果としてNOX触媒11の温度が選択還元温度領域内で変動することとなる。
図7は、NOX触媒11への流入排気ガス中のNOX濃度を一定として、異なる選択還元処理を実行した場合の測定結果を示している。測定したパラメータは、NOX触媒11の温度(図中の床温)、NOX触媒11への流入排気ガスの温度(図中の一点鎖線)、NOX触媒11から流出する排気ガス(以下、「流出排気ガス」と称す)の温度(図中の破線)、流入排気ガス中のNOX濃度および流出排気ガス中のNOX濃度を示す。図7(A)は、本実施形態のように、選択還元処理として流入排気ガスの空燃比をストイキ・リッチにするときにリッチ度合を大きくし且つ流入排気ガスの空燃比がストイキ・リッチとされる時間間隔を長くした場合を示しており、図7(B)はストイキ・リッチ時のリッチ度合を小さくし且つストイキ・リッチの時間間隔を短くした場合を示している。
図7(A)に示した場合にはNOX触媒11の温度の変動は大きく、また、図7(B)に示した場合に比べて図7(A)に示した場合は流入排気ガスの温度と流出排気ガスの温度との温度差が大きい。この排気ガス間の温度差は、NOX触媒11の上流側部分と下流側部分との温度差と関係があると考えられ、したがって図7(A)に示した場合にはNOX触媒11の上流側部分と下流側部分との温度差が大きいと考えられる。
図7において、流入排気ガス中のNOX濃度と、流出排気ガス中のNOX濃度との間の領域(図中の斜線の領域)は、NOX触媒によるNOX浄化量を示しており、図7(A)に示す場合の方が図7(B)に示す場合よりもNOX浄化量が多いことが分かる。したがって、流入排気ガスの空燃比をストイキ・リッチにするときにリッチ度合を大きくし且つ流入排気ガスの空燃比がストイキ・リッチとされる時間間隔を長くすると、NOX触媒11の温度の変動が大きくなると共にNOX触媒に温度差ができ易くなり、結果としてNOX触媒11によるNOX浄化量が多くなることが分かる。
ただし、流入排気ガスの空燃比をストイキ・リッチにするときにリッチ度合を大きくし過ぎると、多くの還元剤がNOX触媒11において何ら反応しないでNOX触媒11から流出してしまう。そこで、本実施形態では、機関回転数NやEGR率等に応じたNOX触媒から流出する還元剤の許容値QHCAを予め実験的に求め、マップとしてECU30のROM32に記憶しておく。そして、NOX触媒11の排気下流側に設けられたHCセンサによって検出されたすり抜けHC量QHCが上述したマップから求められる許容すり抜けHC量QHCAを越えている場合には、一回の添加における還元剤添加弁13からの還元剤添加量QINを減らすようにしている。したがって、一回の添加における還元剤添加量QINは、予め定められた許容値QHCAを越えない範囲で最も多くなるような量とされ、これによりNOX触媒11からの還元剤の流出を抑制しつつ、NOXの浄化が最大限に行われるようになる。
NOX触媒11の温度が直接吸蔵温度領域にある場合、上述したように流入排気ガス中のNO2のみがNOX吸蔵担体に吸蔵される。このため、この温度領域においては、流入排気ガス中のNOの量を減らすと共に、流入排気ガス中のNO2の量を増大することが好ましい。そこで、本実施形態ではNOX触媒の温度が直接吸蔵温度領域にあるときには、リーン空燃比のもとで燃焼を行ったときに発生するNOに対するNO2の割合を、NOX触媒11の温度が他の温度領域にある場合において同一の機関運転状態、すなわち同一回転数、同一トルクにあるときのNO2の割合(=NO2の量/NOの量)に比べて増大させるようにしている(NO2割合増大処理)。
ところでこのNO2の割合は、緩慢な燃焼を行わせると増大することが判明しており、例えば燃料噴射時期を遅角するか、EGRガス量を増大するか、パイロット噴射を行うか、又は予混合気燃焼を行うかの少なくともいずれか一つを行うと燃焼が緩慢となる。そこで本発明による実施例では、NOX触媒11の温度が直接吸蔵温度領域にあるときにはNO2割合増大処理として同一の機関運転状態における他の温度領域に比べて緩慢な燃焼を行わせるようにしている。
直接吸蔵温度領域においても、NO2がNOX吸蔵担体50に吸蔵されるため、この温度領域においても、NOX吸蔵担体50のNOX吸蔵量が増大する。直接吸蔵温度領域においては、単位時間当たりのNOX吸蔵量は機関本体1から排出される排気ガス中のNO2量に応じて変わる。機関本体1から排出される排気ガス中のNO2量は燃料噴射量Qおよび機関回転数Nに加えてEGR率(吸入ガス中に占めるEGRガスの割合)や噴射時期の遅角量等の関数である。本実施形態では、これらパラメータに応じた単位時間当りのNO2吸蔵量NO2Aが予め実験により求められ、マップの形で予めROM32内に記憶されている。そして、NOX触媒11の温度が直接吸蔵温度領域にあるときには、上述した単位時間当たりのNOX吸蔵量NOXA・KNの代わりに単位時間当たりのNO2吸蔵量NO2Aが吸蔵NOX量ΣNOXに加算される。
なお、NOX放出処理および選択還元処理においては、還元剤供給弁13から還元剤を供給することによって流入排気ガスの空燃比を一時的にストイキ・リッチにすると説明したが、本実施形態のように圧縮自着火式内燃機関を用いた場合、通常、機関本体1から排出される排気ガスの空燃比のリーン度合は非常に大きく、したがって流入排気ガスの空燃比をストイキ・リッチにするためには多量の還元剤を還元剤供給弁13から供給しなければならない。そこで、本実施形態では、例えば、多量のEGRガスを燃焼室2に導入することや、ポスト噴射を行うことで、機関本体1から排出される排気ガスの空燃比のリーン度合を比較的小さくし、これに還元剤添加弁13から還元剤を添加している。
図8および図9は、NOX触媒11のNOX浄化能力を最適に維持するための制御ルーチンを示しており、このルーチンは一定時間毎の割り込みによって実行される。
図8および図9を参照すると、まずステップ101ではNOX放出フラグXNがセットされているか否かが判定される。このNOX放出フラグXNはNOX放出処理を実行すべきときにセットされ(XN=1)、それ以外はセットされない(XN=0)フラグである。NOX放出フラグXNがセットされていないと判定されたときにはステップ102へと進み、温度センサ20によってNOX触媒11の温度TCが検出される。次いで、ステップ103およびステップ104において、ステップ102で検出されたNOX触媒11の温度TCが、NOX吸蔵放出温度領域、選択還元温度領域、直接吸蔵温度領域のうちどの温度領域にあるかが判定される。ステップ103およびステップ104において、NOX触媒11の温度TCが直接吸蔵温度領域にあると判定された場合、すなわち選択還元温度領域と直接吸蔵温度領域との間の低温側境界温度Tsよりも低いと判定された場合には、ステップ105へと進む。
ステップ105では、NO2割合増大処理が実行され、例えば燃料噴射時期を遅角するか、EGRガス量を増大するか、パイロット噴射を行うか、又は予混合気燃焼を行うかの少なくなともいずれか一つが行われる。次いでステップ106では、上述したマップにより単位時間当たりのNO2吸蔵量NO2Aが算出される。ステップ107では、ステップ106で算出された単位時間当たりのNO2吸蔵量NO2AがΣNOXに加算され、NOX吸蔵量の積算値ΣNOXが算出される。
一方、ステップ103およびステップ104において、NOX触媒11の温度TCが選択還元温度領域にあると判定された場合、すなわちNOX触媒11の温度TCが低温側境界温度Ts以上であって吸蔵放出温度領域と選択還元温度領域との間の高温側境界温度Trよりも低いと判定された場合には、ステップ108へと進む。ステップ108では、選択還元処理が実行される。
一方、ステップ103およびステップ104において、NOX触媒11の温度TCが吸蔵放出温度領域にあると判定された場合、すなわちNOX触媒11の温度TCが高温側境界温度Trよりも高いと判定された場合には、ステップ109へと進む。ステップ109では、図5(A)および図5(B)に示したマップからそれぞれ単位時間当たりの流入NOX量NOXAおよびNOX吸蔵率KNが算出される。次いで、ステップ110では、ステップ109で算出された単位時間当たりのNOX吸蔵量NOXA・KNをΣNOXに加算することによってNOX吸蔵量の積算値ΣNOXが算出される。次いでステップ111ではNOX吸収量の積算値ΣNOXが許容値NXを越えたか否かが判定される。ΣNOX≦NXのときには制御ルーチンが終了せしめられる。一方、ΣNOX>NXのときにはステップ112においてNOXフラグがセットせしめられる(XN=1)。NOX放出フラグXNがセットされると次回のルーチン実行時においてステップ101からステップ113へと進み、NOX放出処理が実行せしめられる。
図10は、図8のステップ113で行われるNOX放出処理の処理ルーチンを示している。
図10を参照すると、まず初めにステップ121において流入排気ガスの空燃比を例えば13程度のリッチ空燃比とするのに必要な還元剤の供給量が算出される。次いでステップ122では還元剤の供給時間が算出される。この還元剤の供給時間は通常10秒以下である。次いでステップ123では還元剤供給弁13からの還元剤の供給が開始される。このときの還元剤添加弁13からの還元剤の添加は流入排気ガスの空燃比がリーンとストイキ・リッチとの間で交互に繰り返されるように行われる。次いでステップ124ではステップ122において算出された還元剤の供給時間が経過したか否かが判別される。還元剤の供給時間が経過していないときにはステップ124が繰り返される。このとき還元剤の供給が続行され、流入排気ガスの空燃比が13程度のリッチ空燃比に維持される。これに対し、還元剤の供給時間が経過したとき、すなわちNOX吸蔵担体50からのNOX放出作用が完了したときにはステップ125に進んで還元剤の供給が停止され、次いでステップ126に進んでΣNOXがクリアされ(ΣNOX=0)、ステップ127でNOX放出フラグXNがリセットされる(XN=0)。
図11は、図8のステップ108で行われる選択還元処理の処理ルーチンを示しており、この処理ルーチンは還元剤添加タイミング毎に実行される。
図11を参照すると、まずステップ141において上述したマップから許容すり抜けHC量QHCAが算出されると共に機関回転数N等から一回の添加における暫定還元剤添加量QIN’が算出される。次いで、ステップ142において、ステップ141で算出された暫定還元剤添加量QIN’に補正量ΔQが加算された値が還元剤添加量QINとされる。この補正量ΔQは、一回の還元剤の添加においてHCセンサによって検出されるHC量が許容すり抜けHC量QHCAを越えないように補正するための値である。ステップ143では、ステップ142で算出された還元剤添加量QINの還元剤が一回の添加で還元剤添加弁13から添加される。
次いで、ステップ144および145では、HCセンサによって検出されたすり抜けHC量がステップ141で算出された許容すり抜けHC量QHCAとほぼ同量であるか、許容すり抜けHC量QHCAよりも多いか、または許容すり抜けHC量QHCAよりも少ないかが判定される。検出されたすり抜けHC量QHCが許容すり抜けHC量QHCAとほぼ同量である場合には制御ルーチンが終了せしめられ、検出されたすり抜けHC量が許容すり抜けHC量QHCAよりも多い場合にはステップ146へと進む。ステップ146では、補正量ΔQから予め定められた微少量ΔQAが減算される。一方、ステップ144およびステップ145において検出されたすり抜けHC量QHCが許容すり抜けHC量QHCAよりも少ない場合には、ステップ147へと進む。ステップ147では、補正量ΔQに予め定められた微少量ΔQBが加算される。
次に図1に示したNOX触媒11がパティキュレートフィルタ(以下、「フィルタ」と称す)からなる場合について説明する。
図12(A)および(B)にこのフィルタ11の構造を示す。なお、図12(A)はフィルタ11の正面図を示しており、図12(B)はフィルタ11の側面断面図を示している。図12(A)および(B)に示されるようにフィルタ11はハニカム構造をなしており、互いに平行をなして延びる複数個の排気流通路60、61を具備する。これら排気流通路は下流端が栓62により閉塞された排気ガス流入通路60と、上流端が栓63により閉塞された排気ガス流出通路61とにより構成される。なお、図12(A)においてハッチングを付した部分は栓63を示している。したがって排気ガス流入通路60および排気ガス流出通路61は薄肉の隔壁64を介して交互に配置される。云い換えると排気ガス流入通路60および排気ガス流出通路61は、各排気ガス流入通路60が四つの排気ガス流出通路61によって包囲され、各排気ガス流出通路61が四つの排気ガス流入通路60によって包囲されるように配置される。
フィルタ11は例えばコージライトのような多孔質材料から形成されており、したがって排気ガス流入通路60内に流入した排気ガスは図12(B)において矢印で示したように周囲の隔壁64内を通って隣接する排気ガス流出通路61内に流出する。
このようにNOX触媒11をパティキュレートフィルタから構成した場合には、各排気ガス流入通路60および各排気ガス流出通路61の周壁面、すなわち各隔壁64の両側表面上および隔壁64内の細孔内壁面上にはアルミナからなる触媒担体の層が形成されており、図2(A)に示したようにこのNOX吸蔵担体50はNOX吸蔵剤を含んでいると同時にNOX吸蔵担体50上には触媒貴金属51とが担持されている。なお、この場合も触媒貴金属として白金Ptが用いられている。このようにNOX触媒11をパティキュレートフィルタから構成した場合でもNOX触媒11の温度がその活性温度よりも低いときには流入排気ガス中のNO2がNOX触媒11に吸蔵される。なお、この場合にも図8〜図11に示すNOX浄化能力を最適に維持するための制御と同様の制御が行われる。
また、NOX触媒11をパティキュレートフィルタから構成した場合には、流入排気ガス中に含まれる粒子状物質がフィルタ11内に捕獲され、捕獲された粒子状物質は排気ガス熱によって順次燃焼せしめられる。多量の粒子状物質がフィルタ11上に推積した場合には、機関本体1から排出される排気ガスの温度を高くしたり、還元剤供給弁13から還元剤を供給してフィルタ11で燃焼させたりして、フィルタ11を昇温することで、推積したパティキュレートが着火燃焼せしめられる。