JP4378903B2 - Pid調整装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、PID制御装置の動作、特に微分動作を決定する技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
PID制御とは、制御機器において、比例(proportional)動作、積分(integral)動作、微分(differential)動作を合わせた制御であって、従来より、PID制御装置における制御ゲインの調整方法として、例えば文献「J.G.Ziegler, et al:Optimum Setting for Automatic Controllers, Trans. ASME, Vol. 64, pp. 759-768, November, 1942」に記載されているステップ゜応答法や文献「J.G.Ziegler, et al:Process Lags in Automatic-Control Circuits, Trans. ASME, Vol. 65, pp. 433-444, July, 1943」に記載されている限界感度法などが用いられている。
【0003】
ステップ応答法は、制御対象に操作量としてステップ信号を入力し、得られるステップ応答特性に基づいて、PID制御装置における制御ゲインを調整する調整方法である。あるステップ応答特性が得られた場合、ステップ応答曲線の変曲点において接線を引き、その接線の傾きをRとし、接線が時間軸と交わる時刻を遅れ時間Lとする。これら、R、LをPID制御装置における制御ゲインと関連づけて、図7に示す値に設定するのが良いとしている。図7において、K
、Tは比例ゲイン、積分時間、微分時間である。例えば、比例(P)制御における比例ゲインは、閉ループ系の応答波形の減衰比が1/4となるように定められており、その他、比例積分(PI)制御、比例積分微分(PID)制御においてもほぼ同等の応答特性が得られるように各制御ゲインを定めている。
【0004】
また、予め用意された数種の伝達関数モデルと制御対象のステップ応答特性に基づいて、両者の応答特性が一致するような伝達関数モデルと、応答特性を特徴付けるパラメータを決定し、制御対象を同定した後、制御ゲインを決定する場合もある。
【0005】
限界感度法は、閉ループ系が安定限界となる応答特性に基づいて、PID制御装置における制御ゲインを調整する調整方法である。比例制御のみで制御を行い、比例ゲインを徐々に増加させていくと、目標値あるいは外乱に対する閉ループ系の応答は次第に振動的になり、ついには安定限界、すなわち一定振幅の持続振動が継続する状態に至り、さらに比例ゲインを増大させると、安定限界を超えて発振状態となるのが普通である。安定限界となる比例ゲインを見つけ、それをSとし、そのときの持続振動の周期をPとする。周波数特性との関連で言えば、開ループ伝達関数がG(s)、∠G(jω)=−180°となる周波数をωとするとき、安定限界では
=2π/ω、S=1/|G(jω)|
となる。
【0006】
ステップ応答法と同様に、PID制御器における制御ゲインを、これらS、Pと関連づけ、図8に示す値に定めるのが良いとしている。限界感度法においても、比例(P)制御における比例ゲインは、閉ループ系の応答波形の減衰比が1/4になるように定められており、その他、比例(PI)積分制御、比例積分微分(PID)制御においてもこれとほぼ同等の減衰比が得られるように各制御ゲインを定めている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記ステップ応答法および限界感度法は、ある特定の
=R・L、P=4・L
という条件を満足する制御対象に対しては非常に有効な調整方法であるが、条件を満たさない制御対象に適用すると、両手法による調整結果も異なり、不適切な制御ゲインの設定を招くことになる。
【0008】
ステップ応答法がステップ応答特性に基づいた調整方法、すなわち低周波帯域での特徴に基づいた調整方法であり、その他の周波数帯域での同定精度は高くない。同じR、Lが得られても、制御対象が同じ特性を持つとは限らず、これらすべての制御対象に対応させるのは難しい。
【0009】
限界感度法についても同様のことがあてはまる。限界感度法は、位相交点近傍の周波数特性のみに注目した調整方法であるので、この位相交点近傍では高精度の同定が可能であるが、これ以外の帯域での同定精度は皆無に等しい。しかも
、Pが同じでも、制御対象が同じ特性を持つとは限らず、上記ステップ応答法と同様、すべての制御対象に対応させるのは難しい。
【0010】
また、上記手法は、比例制御、比例積分制御、比例積分微分制御に対する制御ゲインの調整方法を示しているが、PID制御器の比例動作、積分動作、微分動作のうち、どの動作が最適かを示す明確な指針がない。特に微分動作の扱いは困難であり、微分動作を、それが適切でない制御対象に適用すると、閉ループ系の応答特性が改善されないばかりか、閉ループ系の安定性を損なうなど課題がある。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、伝達関数モデルの分母多項式の係数を用いることで、制御対象を安定化する適切な制御動作、特に微分動作を決定することを目的とする。また、さまざまな特性の制御対象の伝達関数モデルを簡単に同定することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
この発明に係るPID調整装置は制御対象の出力を入力し、比例、積分および微分の各動作により上記制御対象への入力を制御するPID制御装置の制御ゲインを調整するPID調整装置において、判定係数α(α=a2/(a3・a1)で、a1は上記制御対象を3次以上の伝達関数モデルに基づいてあらかじめ同定した伝達関数モデルの分母多項式の1次の係数、a2は2次の係数、a3は3次の係数である。)の値が2.0以下の場合に上記PID制御装置の微分動作における微分ゲインを0にする制御動作決定手段を備えたものである。
【0013】
また、制御対象のステップ応答に基づく遅れ時間と、上記制御対象とPID制御装置からなる閉ループ系において上記PID制御装置の積分動作における積分ゲインおよび微分動作における微分ゲインを0として上記閉ループ系が安定限界となるまで比例ゲインを増大させたときの振動周期の値とに基づいて1次の係数、2次の係数および3次の係数を演算する制御対象同定手段を備えたものである。
【0021】
【発明の実施の形態】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1によるPID制御装置、PID制御装置の動作決定方法およびPID調整装置を説明するための制御システムの構成図である。図1において、1は制御システムにおける制御対象、2はこの制御対象を比例、積分および微分動作からなるPID制御するPID制御装置、3は制御対象同定手段4、制御動作決定手段5、制御ゲイン調整手段6を備えたPID調整装置で、制御対象同定手段4は制御対象を同定するのに必要な値を測定し、3次以上の伝達関数モデルに基づいて制御対象を同定する。また、制御動作決定手段5は同定された3次以上の伝達関数モデルの分母多項式の1次、2次、3次係数に基づいてPID制御装置の制御動作を決定する。さらに、制御ゲイン調整手段6は制御対象同定手段および制御動作決定手段で得られた結果を用いて、これまでに提案されている種々の制御系設計手法に基づき、PID制御装置の制御ゲインを演算、設定する。また、11は制御システムに与えられる目標値あるいは制御対象同定のために入力される同定用入力信号、12は制御対象の出力、13は制御対象同定のため制御システムに入力される同定用入力信号であり、PID調整装置3の制御対象同定手段がこの信号を出力するようにしてもよい。14は制御対象を制御するためPID制御装置が出力する操作量、15は制御対象同定手段で同定された3次以上の伝達関数モデルの各係数に関わる信号、16は制御動作決定手段で決定された制御動作に関わる信号、17は制御ゲイン調整手段で演算され、PID制御装置に設定される制御ゲインに関わる信号である。
【0022】
次に、制御動作決定手段5、および制御ゲイン調整手段6の動作について説明する。まず、制御対象を3次以上の伝達関数モデルで同定し、その伝達関数モデルG(s)が例えば3次の伝達関数モデルとして
【0023】
【数1】
Figure 0004378903
【0024】
と同定されたとする。この分母多項式の1次係数a、2次係数aおよび3次係数aを用いて、
【0025】
【数2】
Figure 0004378903
【0026】
を演算し、演算された判定係数αの値を予め設定された値γと比較する。制御対象同定手段における制御対象同定方法は、後述の実施の形態2のような制御対象同定方法でも良いし、それ以外の同定方法であっても3次以上の伝達関数モデルに基づく制御対象同定方法であれば、その手法に依らない。これより、以下に示す決定則に従い、制御動作を決定する。
【0027】
【数3】
Figure 0004378903
ここで、KはPID制御装置の微分ゲインである。
【0028】
上記決定則は同定方法に依らず、制御対象について3次以上の伝達関数モデルの分母多項式が得られれば適用することができる。α=a /(a・a)は閉ループ系の安定性に関わるパラメータであることが知られており、これがある値γより大きければ、十分な安定性がある。しかしながら、この値に注目して微分制御の制御ゲインを決定することは従来行われていなかったが、下記に説明するように、γの値を2.0として微分制御を行うかどうかを決定することにより安定な動作が確保できることがわかった。
【0029】
すなわち、制御対象1が(4)式、PID制御装置2が(5)式
【数4】
Figure 0004378903
【0030】
【数5】
Figure 0004378903
【0031】
で表されるとする。(4)式と(5)式においてG(s)は制御対象を同定するための3次の伝達関数モデル、bは分子係数、aは分母多項式の第i次係数(i=0〜3)であり、C(s)はPID制御装置、K、K、Kはそれぞれ比例ゲイン、積分ゲイン、微分ゲインであり、sはラプラス演算子である。
【0032】
制御対象1とPID制御装置2が(4)、(5)式のように表されたとすると、制御対象1とPID制御装置2の閉ループ系の特性多項式p(s)は、
【0033】
【数6】
Figure 0004378903
【0034】
となる。文献「S. Manabe: Coefficient Diagram Method, Proc. of 14th IFAC Symposium on Automatic Control in Aerospace, 1998」に掲載されている係数図法(CDM)と呼ばれる制御系設計手法では、p(s)において、閉ループ系の安定性に関わるパラメータとして、以下の式が定義されている。
【0035】
【数7】
Figure 0004378903
【0036】
CDMでは、γ3=2.0にすることが推奨されており、γ3が2.0より小さくなると閉ループ系の安定性が劣化することを意味する。
(7)式において、K=0とした場合、γ3は(8)式となる。
【0037】
【数8】
Figure 0004378903
【0038】
PID制御装置に微分制御(K>0)を加えると、γ3は減少する。すなわち、αが2.0以下である制御対象に微分制御を加えても、閉ループ系の安定性を損なうだけで、制御特性が改善されない。
【0039】
また、α<2.0であっても、γ3を2.0、あるいは2.0以上にすることは可能である。しかし、そのためには、KはK<0の範囲に設定する必要があり、微分制御の正帰還となるため、ロバスト安定性が劣化するため望ましくない。よって、微分制御が有効である条件は、α>2.0であり、それ以外では微分ゲインを0にするのが望ましいと考えられ、(3)式の制御動作決定則が導き出されるのである。
【0040】
後述の実施の形態2に述べる制御対象同定方法により、あるいはその他の同定方法により、制御対象が3次以上の伝達関数モデルに基づいて同定されれば、制御動作決定手段5は(3)式で示される制御動作決定則に従い、PID制御装置の制御動作を決定する。制御動作が決定できれば、制御ゲイン調整手段6により、例えば、上述のCDM(係数図法)により、PID制御装置の制御ゲインを決定することができる。また、文献「北森:制御対象の部分的知識に基づく制御系の設計法、計測自動制御学会論文集、Vol.15、No.14、pp.549−555(1979)」に記載されているモデルマッチング法と呼ばれる制御系設計手法によってもPID制御装置の制御ゲインを決定できる。
【0041】
なお、PID調整装置3は制御対象同定手段4、制御動作決定手段8および制御ゲイン調整手段6全てを備えている必要はなく、制御動作決定手段5や、制御対象同定手段4は別の装置に備えられていてもよい。すなわち、PID調整装置3にこれらの機能が備わっていなくてもよい。別の装置に備えられた制御対象同定手段により同定して得られた係数をPID調整装置3にインターフェースを介して入力してもよいし、係数をマンマシンインターフェースにより人を介して入力する構成であっても良い。また、制御動作決定手段も別の装置とし、この出力をPID調整装置3にインターフェースを介して入力してもよいし、マンマシンインターフェースにより人を介して入力する構成であっても良い。
【0042】
実施の形態2.
次に、本発明による、3次以上の伝達関数モデルに基づく制御対象の伝達関数モデル同定方法について説明する。図2は本発明の、実施の形態2による制御対象の伝達関数モデル同定方法を説明するフローチャートである。ここでは、4次の伝達関数モデルに基づく制御対象同定方法を示している。この制御対象同定方法は、例えば、図1の制御対象同定手段における一方法として用いられる。また、図3はSTEP1〜3の測定工程の結果の一例である。
【0043】
STEP1は、制御対象にステップ信号を入力し(STEP1a)、制御対象のステップ応答特性に基づいて、図3(b)で示すような、その応答特性を特徴付ける制御対象の傾きRと遅れ時間Lを測定する(STEP1bおよびSTEP1c)ステップ応答特性測定工程である。例えば、ステップ応答波形の最大傾きをRとし、最大傾きとなる点において接線を引き、この接線が横軸(時間軸)と交わる時刻を遅れ時間Lとする(図3(a)、(b))。
【0044】
STEP2は制御装置とPID制御装置からなる閉ループ系において、PID制御装置の積分ゲインKおよび微分ゲインKを0とし、閉ループ系が安定限界となるまで比例ゲインKを増大させ(STEP2aおよびSTEP2b)、そのときの比例ゲイン(限界ゲイン)K=Sと図3(d)で示すような振動周期Pを測定する(STEP2cおよびSTEP2d)安定限界特性測定工程である(図3(c)、(d))。
【0045】
STEP3は、制御装置とPID制御装置からなる閉ループ系において、PID制御装置の積分ゲインKおよび微分ゲインKを0とし、比例ゲインKを限界ゲインSの定数倍(K倍、0<K<1)に設定し(STEP3a)、閉ループ系にインパルス信号を入力して(STEP3b)、閉ループ系のインパルス応答特性に基づいて、図3(f)で示すような応答波形の第1番目の周期の振幅Aと第2番目の周期の振幅Aを測定する(STEP3cおよびSTEP3d)振幅特性測定工程である(図3(e)、(f))。
【0046】
STEP4は、STEP1〜3で測定された値R、L、S、P、A
を用いて、4次の伝達関数モデルに基づいて、伝達関数モデルの各係数を演算する伝達関数モデル演算工程である。
【0047】
次に、制御対象同定方法における伝達関数モデル演算工程(STEP4)の動作について説明する。まず、図1のうち制御対象1とPID制御装置2からなる閉ループ系をモデル化しておく。
【0048】
【数9】
Figure 0004378903
【0049】
【数10】
Figure 0004378903
【0050】
(9)式と(10)式においてG(s)は制御対象を同定するための4次の伝達関数モデル、bは分子係数、aは分母多項式の第i次係数(i=1〜4)であり、C(s)はPID制御装置、K、K、Kはそれぞれ比例ゲイン、積分ゲイン、微分ゲインであり、sはラプラス演算子である。
【0051】
ステップ応答特性測定工程(STEP1)において測定された制御対象の傾きRと遅れ時間Lを用いて、b、a、aを求めることができる。ここでは、制御対象の傾きRをステップ応答特性の最大傾きとする。G(s)の係数のうち一つは任意に決めることができるので、G(s)の分母多項式の1次係数aが遅れ時間Lとなるようにする。
【0052】
=L (11)
(9)式において,G(s)の分母多項式の2次以上の項を無視すると
【0053】
【数11】
Figure 0004378903
【0054】
となる。(12)式のステップ応答特性の最大傾きはb/aであるので、
b/a=R ∴ b=R・a=R・L (13)
が得られる。(9)式の分母多項式の0次、3次、4次の項を無視すると
【0055】
【数12】
Figure 0004378903
【0056】
となる。(14)式のステップ入力1/sに対する出力は、1次遅れ系
(b/a)/{(a/a)s+1}のランプ入力1/sに対する出力であると考えることができ、その出力は1/sに対し、
(b/a)/{(a/a)s+1}の時定数a/aだけ遅れるので、a/a=L ∴ a=L・a=L (15)
となる。
【0057】
次に、制御対象とPID制御装置からなる閉ループ系において、PID制御装置の積分ゲインKおよび微分ゲインKを0にして、閉ループ系が安定限界となるまで比例ゲインKを増大させ、安定限界となる限界ゲインSと安定限界での振動周期Pを測定する安定限界特性測定工程(STEP2)により、aを求めることができる、STEP2では積分および微分ゲインは0としているので、閉ループ系の特性多項式P(s)は、
P(s)=a+a+a+as+(a+Kb) (16)となり、閉ループ系が安定限界となるとき、
P(jω)=0 (17)
という条件が成り立つ。ただし、ω[rad/s]は安定限界における振動周波数であり、ω=2π/Pである。(17)式を(16)式へ代入すると
P(jω)=(aω −aω +a+Sb)
+j(−aω +a1)ω=0 (18)
となる。したがって、
【0058】
【数13】
Figure 0004378903
となる。
【0059】
振幅特性測定工程(STEP3)において測定されたA、Aより演算される振幅比AR=A/Aを用いることで、残る分母多項式の係数a、aを求めることができる。aとaの間には、4次の安定限界での条件に注目することで、以下のような関係式が得られる。Lipatovの安定条件より、
【0060】
【数14】
Figure 0004378903
【0061】
(20)式より、
【数15】
Figure 0004378903
【0062】
が得られる。aに適当な初期値を与え、(9)式に(11)式、(13)式、(15)式、(19)式で演算されたa、b、a、aおよび(21)式で演算されるaを代入し、振幅特性測定工程と同じ条件で、(9)式、(10)式からなる閉ループ系のモデルの応答特性より振幅比ARを演算する。演算されるARが、ARとほぼ同じになるまでaを変化させる。上記演算を繰り返し行うことで、a、aを一意に求めることができる。
【0063】
閉ループ系のモデルの応答特性より振幅比ARを演算する代わりに、以下の演算手段によりARを演算し、a、aを求めることができる。上記と同様、aに適当な初期値を与え、(9)式に(11)式、(13)式、(15)式、(19)式で演算されたa、b、a、aおよび(21)式で演算されるaを代入する。得られたG(s)とC(s)(K=K・S、Ki=K=0)からなる閉ループ系の極を演算し、この極のうち最も応答が遅い極pを求める。ARとpとの間には
AR=exp(−2πRe(p)/Im(p)) (22)
という関係が成り立つ。ここで、Re(p)はpの実部、Im(p)はpの虚部を表している。上記演算手段と同様に、(22)式で演算されるARが、ARとほぼ同じになるまでaを変化させ、上記演算を繰り返し行うことで、a、aを一意に求めることができる。
【0064】
以上により、伝達関数モデル演算工程において、4次の伝達関数モデルの分子係数、分母多項式の係数すべてが求まる。
【0065】
実施の形態3.
本実施の形態3においては、本発明による3次の伝達関数モデルに基づいた制御対象の伝達関数モデル同定方法について説明する。図4は本発明の実施の形態3による制御対象の伝達関数モデル同定方法、すなわち、3次の伝達関数モデルに基づいた制御対象の伝達関数モデル同定方法の動作を表すフローチャートである。3次の伝達関数モデルに基づいて制御対象を同定する場合、実施の形態2で説明した4次の伝達関数モデルに基づいた制御対象の伝達関数モデル同定方法におけるSTEP3の振幅特性測定工程は不要であり、STEP1およびSTEP2の測定結果を用いて伝達関数モデルを演算することが可能となる。すなわち、本実施の形態3による制御対象の伝達関数モデル同定方法は、以下のSTEP5、STEP6およびSTEP7からなる。
【0066】
STEP5は、制御対象にステップ信号を入力し(STEP5a)、制御対象のステップ応答特性に基づいて、その応答特性を特徴付ける制御対象の傾きRと遅れ時間Lを測定する(STEP5bおよびSTEP5c)ステップ応答特性測定工程である。例えば、ステップ応答波形の最大傾きをRとし、最大傾きとなる点において接線を引き、この接線が横軸(時間軸)と交わる時刻を遅れ時間Lとする。
【0067】
STEP6は、制御対象とPID制御装置とからなる閉ループ系において、PID制御装置の積分ゲインおよび微分ゲインを0とし、閉ループ系が安定限界となるまで(STEP6b)比例ゲインを増大させ(STEP6a)、限界ゲインSと振動周期Pを測定する(STEP6cおよびSTEP6d)、安定限界特性測定工程である。
【0068】
STEP7は、STEP5およびSTEP6で測定された値R、L、S
を用いて、3次以上の伝達関数モデルに基づいて伝達関数モデルの各係数を演算する伝達関数モデル演算工程である。
【0069】
次に本実施の形態3による制御対象の伝達関数モデル同定方法における伝達関数モデル演算工程(STEP7)の動作について説明する。まず、図1のうち制御対象1とPID制御装置2からなる閉ループ系をモデル化しておく。
【0070】
【数16】
Figure 0004378903
【0071】
【数17】
Figure 0004378903
【0072】
b、a、a、aは、実施の形態2で説明した4次以上の伝達関数モデルに基づいた制御対象の伝達関数モデル同定方法における伝達関数モデル演算工程と同様にして、ステップ応答特性測定工程(STEP5)で測定されたR、Lより求めることができる。
b=R・L (25)
=L (26)
=L (27)
【0073】
【数18】
Figure 0004378903
【0074】
3次の安定限界の条件は
【0075】
【数19】
Figure 0004378903
となる。これより、
【0076】
【数20】
Figure 0004378903
【0077】
が得られる。以上により、伝達関数モデル演算工程(STEP7)において、3次の伝達関数モデルの分子係数、分母多項式の係数すべてが求まる。
【0078】
実施の形態4.
実施の形態1で示した、PID制御装置の制御動作決定方法において、実施の形態2や実施の形態3で示した3次以上の伝達関数モデルに基づいた制御対象同定方法の結果を用いると
【0079】
【数21】
Figure 0004378903
【0080】
となる。判定係数αとして、実施の形態1で説明した(2)式の代わりに、実施の形態2および3で述べたステップ応答特性測定工程、安定限界測定工程において測定された、制御対象の遅れ時間Lと安定限界での振動周期Pにより(31)式の右辺を用いても良い。
【0081】
【実施例】
実施例1.
本発明を、下記(32)式で表される制御対象に適用した結果の一例を図5に示す。制御対象の伝達関数モデル同定方法として実施の形態2で説明した4次の伝達関数モデルに基づいた制御対象の伝達関数モデル同定方法を、制御系設計手法として係数図法を用いた。図5において、(a)は目標値信号をステップ信号としたときの目標値追従特性、(b)は外乱をステップ信号としたときの外乱抑制特性を示しており、21で示す曲線が本発明による結果である。
【0082】
【数22】
Figure 0004378903
【0083】
比較のため、Ziegler−Nicholsの限界感度法によるPI制御を適用した時の結果23、およびPID制御を適用したときの結果22も同図に示す。
【0084】
p1(s)は微分動作を適用することにより、閉ループ系の安定性を損なうことなく、速応性が改善される制御対象である。本実施例では、同定された伝達関数モデルの分母多項式の係数を用いて判定係数α=a /(a・a)を演算すると、α=2.5>γ(=2.0)となるので、実施の形態1で示した制御動作決定則に従い、PID制御として制御ゲインを演算している。図5に示すように、Gp1(s)に限界感度法によるPI制御を適用した場合23では、目標値追従特性、外乱抑制特性ともに振動的な応答となり、出力が整定するまでに長い時間を要する。微分動作を加えた本手法21および限界感度法によるPID制御を適用した場合22では、微分制御の効果により、良好な結果が得られている。さらに、限界感度法によるPID制御を適用した場合22では、その応答特性は振動的となっているが、本手法21ではオーバーシュートは小さく、整定時間も短い。
【0085】
実施例2.
さらに、実施例2として、本発明を、下記(33)式で表される制御対象に適用した結果の一例を図6に示す。
【0086】
【数23】
Figure 0004378903
【0087】
図6において、図5と同様、(a)は目標値信号をステップ信号としたときの目標値追従特性、(b)は外乱をステップ信号としたときの外乱抑制特性を示している。本実施例2に示すGp2(s)は、微分制御をすることにより、閉ループ系の安定性が劣化する制御対象である。本発明によるPID自動調整装置では、同定された伝達関数モデルの分母多項式の係数を用いて判定係数
α=a /(a・a)を、近似等の方法により演算すると、α=1.83<γ(=2.0)となるので、制御動作決定則に従い、PID制御装置の微分ゲインを0、すなわちPI制御として制御ゲインを演算している。図6に合わせて示すように、Gp2(s)に限界感度法によるPID制御を適用した結果22によれば、その応答は発散してしまう。また、限界感度法によるPI制御を適用した結果23によれば、ゲインが小さく設定されているため、整定するまでに時間を要する結果となっており、制御ゲインの調整が十分とは言えない。本発明による結果21では、目標値追従特性、外乱抑制特性ともに良好な結果が得られている。
【0088】
【発明の効果】
この発明は、以上説明したように構成されているので、以下に示すような効果を奏する。
【0089】
この発明に係るPID調整装置は制御対象の出力を入力し、比例、積分および微分の各動作により上記制御対象への入力を制御するPID制御装置の制御ゲインを調整するPID調整装置において、判定係数α(α=a2/(a3・a1)で、a1は上記制御対象を3次以上の伝達関数モデルに基づいてあらかじめ同定した伝達関数モデルの分母多項式の1次の係数、a2は2次の係数、a3は3次の係数である。)の値が2.0以下の場合に上記PID制御装置の微分動作における微分ゲインを0にする制御動作決定手段を備えたものであるので、PID制御装置における、制御対象を安定化する適切な制御動作を簡単に設定できるPID調整装置を提供する。
【0090】
また、制御対象のステップ応答に基づく遅れ時間と、上記制御対象とPID制御装置からなる閉ループ系において上記PID制御装置の積分動作における積分ゲインおよび微分動作における微分ゲインを0として上記閉ループ系が安定限界となるまで比例ゲインを増大させたときの振動周期の値とに基づいて1次の係数、2次の係数および3次の係数を演算する制御対象同定手段を備えたものであるので、PID制御装置における、制御対象を安定化する適切な制御動作をより簡単に設定できるPID調整装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態1によるPID制御装置、PID制御装置の動作決定方法およびPID調整装置を説明するための制御システムの構成図である。
【図2】 本発明の実施の形態2による制御対象の伝達関数モデル同定方法を説明するフローチャートである。
【図3】 本発明の実施の形態2による制御対象の伝達関数モデル同定方法のSTEP1〜3の測定工程の結果の一例である。。
【図4】 本発明の実施の形態3による制御対象の伝達関数モデル同定方法の動作を表すフローチャートである
【図5】 本発明のPID調整装置を、実施例1による制御対象に適用した結果を説明する図である。
【図6】 本発明のPID調整装置を、実施例2による制御対象に適用した結果を説明する図である。
【図7】 従来のPID制御装置におけるゲイン調整方法を説明する表である。
【図8】 従来の他のPID制御装置におけるゲイン調整方法を説明する表である。
【符号の説明】
1 制御対象 2 PID制御装置 3 PID調整装置
4 制御対象同定手段 6 制御ゲイン調整手段

Claims (2)

  1. 制御対象の出力を入力し、比例、積分および微分の各動作により上記制御対象への入力を制御するPID制御装置の制御ゲインを調整するPID調整装置において、判定係数α(α=a2/(a3・a1)で、a1は上記制御対象を3次以上の伝達関数モデルに基づいてあらかじめ同定した伝達関数モデルの分母多項式の1次の係数、a2は2次の係数、a3は3次の係数である。)の値が2.0以下の場合に上記PID制御装置の微分動作における微分ゲインを0にする制御動作決定手段を備えたことを特徴とするPID調整装置。
  2. 制御対象のステップ応答に基づく遅れ時間と、上記制御対象とPID制御装置からなる閉ループ系において上記PID制御装置の積分動作における積分ゲインおよび微分動作における微分ゲインを0として上記閉ループ系が安定限界となるまで比例ゲインを増大させたときの振動周期の値とに基づいて上記1次の係数、上記2次の係数および上記3次の係数を演算する制御対象同定手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載のPID調整装置。
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