JP4375239B2 - 衝撃吸収部材および衝撃エネルギの吸収方法 - Google Patents

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Description

本発明は、衝撃吸収部材および衝撃エネルギの吸収方法に関する。具体的には、本発明は、例えば自動車等の車両の衝突時に発生する衝撃エネルギを吸収することができる衝撃吸収部材および衝撃エネルギの吸収方法に関する。
周知のように、現在の多くの自動車の車体は、軽量化と高剛性とを両立するために、フレームと一体化したボディ全体により荷重を支えるモノコックボディによって構成される。自動車の車体は、車両の衝突時には、車両の機能の損傷を抑制し、かつキャビン内の乗員の生命を守る機能を有さなければならない。車両の衝突時の衝撃エネルギを吸収してキャビンへの衝撃力を緩和することによってキャビンの損傷をできるだけ低減するためには、例えばエンジンルームやトランクルームといったキャビン以外のスペースを優先的に潰すことが有効である。このような安全上の要請から、車体の前部、後部又は側部等の適宜箇所には、衝突時の衝撃荷重が負荷されると圧壊することによって衝撃エネルギを積極的に吸収するための衝撃吸収部材が設けられている。これまでにも、このような衝撃吸収部材として、フロントサイドメンバ、サイドシルさらにはリアサイドメンバ等が知られている。
近年には、クラッシュボックスといわれる、200mm程度の短尺の衝撃吸収部材をフロントサイドメンバの先端に例えば締結や溶接等の適宜手段によって装着することによって、車体の安全性の向上と、軽衝突による車体の損傷を略解消することによる修理費の低減とをともに図ることが、行われるようになってきた。クラッシュボックスとは、軸方向(本明細書ではこの衝撃吸収部材の長手方向を意味する)と略平行な方向へ負荷される衝撃荷重によって軸方向へ蛇腹状(アコーデオン状)に優先的に座屈変形することにより、衝撃エネルギを吸収するための部材である。
衝撃吸収部材に一般的に要求される衝撃吸収性能とは、具体的には、衝撃荷重が軸方向へ負荷されると軸方向へ繰り返し安定して座屈することにより蛇腹状に変形すること、圧壊時の平均荷重が高いこと、さらには、圧壊の際に発生する最大反力がこの衝撃吸収部材の近傍に配置された他の自動車車体部材を破壊しない範囲に抑制されることである。
さらに、最近の自動車は、居住性を重視してキャビンの広さを十分に確保するために、キャビンの前方に位置するエンジンルームの長さを短くした、いわゆるショートノーズのデザインが多用される傾向にある。このため、フロントサイドメンバやその先端に装着されるクラッシュボックスに対しても、より短い全長(すなわち変形ストローク)で衝撃エネルギを十分に吸収できることが要請されるようになってきた。換言すれば、衝撃吸収部材には、これまでよりも短い全長でもいっそう効率的に蛇腹状に座屈変形して衝撃エネルギを有効に吸収することが求められている。
これまでにも、衝撃吸収部材の衝撃吸収性能を向上させるための材質や形状が多数開発されている。一般的に広く用いられてきた衝撃吸収部材は、例えば特許文献1に開示されるような、ハット形の横断面形状の部材の縁に設けられたフランジを介して裏板をスポット溶接することによって横断面が四角形の箱状部材としたものである。なお、本明細書において「フランジ」とは、横断面における輪郭から外部へ向けて突出した平板状部を意味する。
これに対し、特許文献2には、一端から他端へ向けての横断面形状が四角形以上の凸多角形からこの凸多角形よりも辺の数が多い他の凸多角形へと連続的に変化する閉断面構造を有することによって、衝突の初期の荷重を低減しながら衝撃吸収量を向上させた衝撃吸収部材に係る発明が開示されている。なお、本明細書において「凸多角形」とは、全ての内角が180度未満である多角形を意味する。
また、特許文献3には、内部に隔壁を有し、輪郭の横断面形状が凸多角形である衝撃吸収部材に係る発明が開示されている。
また、特許文献4には、四角形の横断面を有する素材の4つの頂点を含む4つの角部に、内部へ向けた略直角二等辺三角形状の溝部を形成することによって、強度を高めた衝撃吸収部材に係る発明が開示されている。
さらに、特許文献5には、フランジを有するハット形の横断面形状のフロントサイドフレームの側面に、軸方向へ延在するビードを形成することによって、衝撃荷重が負荷された際のフロントサイドフレームの折れ曲がりを抑制する発明が開示されている。
特開平8−128487号公報 特開平9−277953号公報 特開2003−48569号公報 特開2002−284033号公報 特開平8−108863号公報
しかし、これらの従来のいずれの発明によっても、これまでよりも短い全長でいっそう効率的に衝撃エネルギを吸収することができることから、例えば、いわゆるショートノーズのデザインが採用された自動車の車体を構成するクラッシュボックスやフロントサイドメンバ等にも十分に適用可能な衝撃吸収部材を提供することは、不可能である。
すなわち、特許文献1に開示された発明に係る衝撃吸収部材は、衝撃荷重が軸方向と略平行な方向へ負荷されると、軸方向へ繰り返し安定して座屈変形することは難しく、蛇腹状に変形しないおそれがある。また、特許文献1により開示された発明に係る、単純な正多角形等の凸多角形の横断面形状を有する衝撃吸収部材を用いることは、自動車の車体に用いられる衝撃吸収部材の横断面形状が殆どの場合に扁平であることから、そもそも難しい。
また、特許文献2により開示された発明に係る衝撃吸収部材では、その横断面形状が略全長に渡って徐々に変化する。このため、軸方向の位置によっては、横断面形状が不可避的に安定した座屈変形には適さない形状になる可能性が高い。このため、この衝撃吸収部材は、衝撃荷重が軸方向と略平行な方向へ負荷されると、軸方向へ繰り返し安定して座屈変形することは難しく、蛇腹状に変形しないおそれがある。
また、特許文献3により開示された発明に係る衝撃吸収部材では、隔壁を設けられた部分の強度が、隔壁を設けられていない部分の強度よりも過剰に上昇し、衝撃荷重を負荷されることにより圧壊が進行するにつれて、内部に設けた隔壁が折り畳まれて剛体化し、折り畳まれて剛体化した隔壁が衝撃吸収部材の座屈変形の進行に対する抵抗となって、所定の圧壊ストロークに到達して衝撃吸収部材の座屈変形が完了する前に衝撃吸収部材の座屈変形が束縛され、この衝撃吸収部材の近傍に配置された他の部材の破壊が開始されてしまう現象(本明細書では「底付き」という)を生じるおそれがある。このように、この衝撃吸収部材は、衝撃荷重が軸方向と略平行な方向へ負荷されると、軸方向へ繰り返し安定して座屈することができず、蛇腹状に変形しないおそれがある。さらに、この発明は、隔壁を設けた分だけ衝撃吸収部材の重量の増加は回避できないため、自動車車体の軽量化の要請にも逆行する。
また、特許文献4により開示された発明に係る衝撃吸収部材では、もともと強度が高いコーナ部にさらに加工を行って切欠き部を設けるため、この切欠き部の強度が過剰に上昇し、安定して座屈することができないおそれがある。したがって、この衝撃吸収部材では、特許文献3により開示された衝撃吸収部材と同様に、衝撃エネルギの吸収量が不足するおそれがあるとともに底付きを早期に生じてしまうおそれがあり、衝撃荷重が軸方向と平行な方向へ負荷されると、軸方向へ繰り返し安定して座屈することができず、蛇腹状に変形しないおそれがある。
さらに、特許文献5により開示された発明に係る衝撃吸収部材は、フランジを有するハット形の横断面形状を有する。このため、この発明によれば、負荷された衝撃荷重による折れ曲がりを抑制することは確かに可能になると考えられる。しかし、この発明によっては、衝撃荷重が軸方向と平行な方向へ負荷されると、軸方向へ繰り返し安定して座屈することができず、蛇腹状に変形しないおそれがある。
したがって、本発明の目的は、これまでよりも短い全長でいっそう効率的に衝撃エネルギを吸収することができることから、例えば、いわゆるショートノーズのデザインが採用された自動車の車体を構成するクラッシュボックスやフロントサイドメンバ等にも適用することができる衝撃吸収部材および衝撃エネルギの吸収方法を提供することである。
換言すれば、本発明の目的は、衝撃荷重を負荷されることにより圧壊が進行する際における底付きを生じるまでの変位量(ストローク)を長くすることができ、これにより、安定した衝撃吸収量を確保することができる衝撃吸収部材および衝撃エネルギの吸収方法を提供することである。
本発明者らは、上述した従来の技術が有する課題に鑑みて種々検討を重ねた結果、以下に列記する新規かつ重要な知見(I)〜(III)を得て、本発明を完成した。
(I)衝撃吸収部材を構成する筒体の横断面形状を、複数の頂点を有する閉断面であり、この閉断面の外側にフランジを具備しないとともに、複数の頂点のうちの一部を直線で連結して得られる最大の輪郭からなる基本断面が凸多角形であり、この凸多角形のうちの少なくとも一つの辺の全域がこの凸多角形の内部を通過する非直線に形成される構造とすることによって、底付きを生じるまでの変位量(ストローク)を長く確保することができ、これにより、衝撃エネルギの吸収量を安定して確保できること。
(II)この凸多角形が2n個(nは2以上の自然数)の頂点を有する場合には、2n個の辺のうちで一つおきのn個の辺それぞれの全域が凸多角形の内部を通過する非直線からなるようにすることにより、圧壊の進行に伴って繰り返し生成される座屈しわを、常に隣り合う辺同士で互い違いの方向に向かうように形成でき、これにより、底付きまでの圧壊ストロークをさらに向上して衝撃エネルギの吸収量をいっそう大きくできること。及び
(III)これらの場合に、非直線を円弧とし、この円弧の部分の長さ(l)と一の辺の長さ(L)とが1.005≦(l/L)≦1.207の関係を満足することにより、底付きを生じるまでの変位量(ストローク)をさらに確保できること。
本発明は、軸方向の一方の端部からこの軸方向の略平行な方向へ向けて衝撃荷重を負荷されて座屈することにより衝撃エネルギを吸収するための筒体を備える衝撃吸収部材であって、軸方向の少なくとも一部における筒体の横断面形状は、複数の頂点を有する閉断面であり、この閉断面の外側にフランジを具備しないとともに、複数の頂点のうちの一部を直線で連結して得られる最大の輪郭からなる基本断面が凸多角形であり、この凸多角形は2n個(nは2以上の自然数)の頂点を有するとともに、筒体の軸方向への圧壊変形の際に凸多角形の隣接する辺それぞれにおいて発生するしわが互いに逆向きとなるように、凸多角形の2n個の辺のうちの一つおきのn個の辺の全域は凸多角形の内部を通過する非直線形状に形成され、かつこの非直線形状は前記筒体の軸方向に延びて形成されることを特徴とする衝撃吸収部材である。
この本発明に係る衝撃吸収部材では、非直線形状が円弧であるとともに、この円弧の部分の長さ(l)と少なくとも一の辺の長さ(L)とが1.005≦(l/L)≦1.207の関係を満足することが望ましい。
これらの本発明に係る衝撃吸収部材は、衝撃荷重を受けて座屈することにより蛇腹状に変形するものである。
これらの本発明に係る衝撃吸収部材では、非直線形状が、筒体の軸方向の全域に形成されることが望ましい。
これらの本発明に係る衝撃吸収部材では、横断面形状が、筒体の軸方向の全域において同一の位相を有することが望ましい。
別の観点からは、本発明は、軸方向の一方の端部からこの軸方向の略平行な方向へ向けて衝撃荷重を負荷されて座屈することにより衝撃エネルギを吸収するための筒体を備える衝撃吸収部材により衝撃エネルギを吸収する方法であって、衝撃吸収部材の軸方向の少なくとも一部におけるこの筒体の横断面形状は、複数の頂点を有する閉断面であり、この閉断面の外側にフランジを具備しないとともに、複数の頂点のうちの一部を直線で連結して得られる最大の輪郭からなる基本断面が凸多角形であり、この凸多角形は2n個(nは2以上の自然数)の頂点を有するとともに、この2n個の辺のうちの一つおきのn個の辺の全域は凸多角形の内部を通過する非直線形状に形成され、かつこの非直線形状が筒体の軸方向に延びるように形成され、筒体が衝撃荷重を受けて軸方向へ圧壊変形する際に凸多角形の隣接する辺それぞれにおいて発生するしわが互いに逆向きに形成されることによって衝撃エネルギを吸収することを特徴とする衝撃エネルギの吸収方法である。
本発明により、これまでよりも短い全長でいっそう効率的に衝撃エネルギを吸収することができること、例えば、長さ200mmの衝撃吸収部材に64km/hの衝突速度の条件での軸圧壊を、底付きによる荷重の上昇が生じるまでFEM数値解析により行った場合に(底付きまでのストローク/衝撃吸収部材全長)×100が85%以上であることから、本発明に係る衝撃吸収部材を、例えば、いわゆるショートノーズのデザインが採用された自動車の車体を構成するクラッシュボックスやフロントサイドメンバ等にも十分に適用可能になる。
換言すれば、本発明により、衝撃荷重を負荷されることにより圧壊が進行する際における底付きを生じるまでの変位量(ストローク)を長くすることができ、これにより、衝撃エネルギの吸収量を安定して確保することができる衝撃吸収部材を提供できる。
以下、本発明に係る衝撃吸収部材を実施するための最良の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施の形態の衝撃吸収部材を構成する筒体は、軸方向の少なくとも一部における横断面形状が、複数の頂点を有する閉断面であり、この閉断面の外側にフランジを具備しないとともに、複数の頂点のうちの一部を直線で連結して得られる最大の輪郭からなる基本断面が凸多角形であり、この凸多角形のうちの少なくとも一つの辺の全域がこの凸多角形の内部を通過する非直線に形成されるものである。そこで、この筒体について説明する。
この筒体は、軸方向の一方の端部からこの軸方向と略平行な方向へ向けて衝撃荷重を負荷されて座屈することによって衝撃エネルギを吸収するためのものである。この筒体は、例えば高張力鋼板によって中空の筒状体として、複数の頂点を有する閉じた横断面を有するように、構成される。
また、この筒体は、外部へ向けたフランジ、すなわち横断面における輪郭から外部へ向けて突出した平板状部を具備しないものである。この理由を説明する。
例えばプレス成形等によって成形された2つ以上の部材を、例えばスポット溶接等により接合する際の接合代となる、外部へ向けたフランジを具備する筒体を備える衝撃吸収部材と、このフランジを具備しない筒体を備える衝撃吸収部材とのそれぞれに衝撃荷重を負荷したときの圧壊の挙動を、FEM数値解析を行うことによって分析した。
図1は、FEM数値解析による四角形の横断面を有する衝撃吸収部材の圧壊の様子を示す説明図であり、図1(a)は外部へ向けたフランジ1a、1bを具備するハット型の横断面形状を有する閉断面の筒体を備える衝撃吸収部材1を示し、図1(b)は外部へ向けたフランジを具備しない矩形の横断面形状を有する閉断面の筒体を備える衝撃吸収部材2を示す。
図1(a)に示すように、衝撃吸収部材1が外部へ向けたフランジ1a、1bを具備すると、衝撃荷重を負荷された衝撃吸収部材1に生じる座屈が極めて不安定になり、衝撃吸収部材1は圧壊の途中で図1(a)中に矢印で模式的に示すように長手方向で折れ曲がる。この折れ曲がりによって蛇腹状の座屈の変形量が減少するために、十分に衝撃エネルギを吸収することができない。
これに対し、図1(b)に示すように、衝撃吸収部材2が外部へ向けたフランジを具備しないと、衝撃吸収部材2は長手方向で折れ曲がることなく図1(b)中に矢印で模式的に示すように軸方向の全域で蛇腹状に座屈して変形するため、衝撃エネルギを十分に吸収することが可能となる。このFEM数値解析では、四角形の横断面形状を有する衝撃吸収部材1、2を例にとったが、四角形以外の多角形の横断面形状を有する衝撃吸収部材も、長手方向へ衝撃荷重を負荷された場合の圧壊の機構は同じであるため、筒体が外部へ向けたフランジを具備すると、衝撃荷重を負荷された衝撃吸収部材に生じる座屈が極めて不安定になり、衝撃吸収部材は圧壊の途中で長手方向で折れ曲がる。
このように、筒体が外部へ向けたフランジを具備すると、圧壊の途中で発生する長手方向での折れ曲がりによって蛇腹状の座屈の変形量が減少して十分に衝撃エネルギを吸収することができなくなるため、本実施の形態では、衝撃吸収部材を構成する筒体が、外部へ向けたフランジを具備しない閉断面であることと限定する。
また、この筒体は、複数の頂点のうちの一部を直線で連結して得られる最大の輪郭からなる基本断面が凸多角形であり、この凸多角形の辺のうちの少なくとも一つの辺の全域が凸多角形の内部を通過する非直線に形成されるものである。この点について説明する。
はじめに、「凸多角形」とは、数学の定義と同様に、全ての内角が180°未満である多角形を意味する。
本実施の形態の衝撃吸収部材を概念的に説明すると、複数の頂点を有する凸多角形からなる横断面形状を有する筒体からなる素材の少なくとも一の平面を、軸方向の一部又は全部の領域において、筒体の内部へ向けて凸となる、例えば曲面等の非平面形状に置換したものである。このため、本実施の形態の衝撃吸収部材は、複数の頂点のうちの一部を直線で連結して得られる最大の輪郭からなる凸多角形の基本断面を有する。
また、この凸多角形は、自動車車体に搭載される通常の衝撃吸収部材として適用されることを前提とすると凸四角形以上であり、好ましくは凸六角形以上凸十六角形以下である。すなわち、衝撃吸収部材の衝撃エネルギの吸収量は、筒体の稜線の座屈耐力により決定され、この稜線数が多いほど、すなわち横断面における頂点数が多いほど、有利である。このような観点から、基本横断面形状である凸多角形は凸四角形以上であり、好ましくは凸六角形以上である。一方、凸十六角形を超えると、横断面形状は円形に近づいて凸多角形を構成する各稜線部の内角の角度(横断面における各頂点の内角の角度)が大きくなるが、一般にこの内角の角度が大きくなるほど、筒体の各稜線が座屈を開始する前に、各稜線とこれを挟む辺が全体にたわんでしまい、圧壊の挙動が不安定になる。このため、基本横断面形状が凸十七角形以上であると、衝撃吸収部材の軸方向の全域における圧壊挙動は不安定になり、実用的ではない。
また、この基本横断面形状である凸多角形は、例えば正八角形や正十二角形といった正凸多角形である必要はなく、例えば実際の衝撃吸収部材の横断面形状として多用される、扁平な横断面形状の凸多角形であってもよい。すなわち、一般に、衝撃吸収部材が設置される空間(例えばエンジンコンパートメントやフロアー等)の制約から、衝撃吸収部材の横断面形状として正多角形を適用できる場合は稀であり、扁平な横断面形状とせざるを得ない場合が多い。なお、扁平な横断面形状の凸多角形である場合、衝撃吸収部材の横断面における輪郭に外接する長方形のうちで短辺長さが最も短い長方形における長辺及び短辺の長さの比(長辺長さ/短辺長さ)として規定される扁平度は、1.0以上3.5以下であることが望ましい。扁平度が3.5超であると、座屈が不安定となって衝撃吸収量が不足する恐れがあるとともに、圧壊の特に初期に筒体に生じる最大反力が他の部材の強度を超え、他の部材が損傷する恐れがあるからである。
この場合において、凸多角形の横断面形状を構成する各辺の長さが、素材の板厚をt(mm)とした場合に、4t(mm)以上65t(mm)以下であることが望ましい。4t(mm)よりも長さが短い辺が存在すると、辺の剛性が高まり過ぎ、衝撃吸収部材の軸方向の全域で繰り返ししわを生成しながら座屈して蛇腹状に圧壊する挙動が得られ難くなるとともに、65t(mm)よりも長さが長い辺が存在すると、辺の剛性が弱まり過ぎ、圧壊時に大きくたわむ辺が存在することにより衝撃吸収部材の軸方向の全域で曲がり(屈曲変形)を生じてしまい、衝撃エネルギの吸収量が低下するからである。
次に、複数の頂点を有する凸多角形からなる横断面形状を有する筒体を備える衝撃吸収部材の一例として、直径120mmの円に内接する大きさの正八角形からなる横断面形状を有するとともに外部へ向けたフランジを具備しない筒体を備える衝撃吸収部材(軸方向長さ200mm)を用い、64km/hの衝突速度の条件での軸圧壊を、底付きによる荷重の急激な上昇が生じるまで、FEM数値解析を行うことによって分析した。図2は、この軸圧壊の解析結果(変位−荷重曲線)を示すグラフである。
図2にグラフで示すように、軸圧壊時の衝撃吸収部材には荷重が周期的に変動する荷重振動が発生する(図2における変位が0〜170mmの範囲参照)。ここで、図2のグラフにおける変位−荷重曲線と横軸との間の面積は衝撃吸収部材が吸収した衝撃エネルギの量を示すことから、この荷重が高い値でかつその変動量が少ないことが、衝撃吸収部材が効率よく衝突時の衝撃エネルギを吸収することを意味する。すなわち、図2のグラフにおける変位−荷重曲線ができるだけフラットで、かつ高い荷重の値の領域に存在することが有効である。
しかし、図2にグラフで示すように、凸多角形からなる横断面形状を有するとともに外部へ向けたフランジを具備しない筒体を備える衝撃吸収部材では、周期的な荷重の変動量が非常に大きいため、所定量の破壊までの間における衝撃エネルギの吸収量を十分に確保することはできない。
また、この例では、荷重が400kNに急上昇した時点を底付きの発生と捉えると、底付きまでのストロークは168.8mmであり、衝撃吸収部材の全長の83.05%に過ぎないものである。
そこで、軸圧壊時に荷重が落ち込む状況、及び底付きを生じる状況を詳細に検討した結果、荷重が高いほうのピーク(図2における位置A〜E)は、筒体の横断面形状である凸多角形の頂点が塑性座屈変形を生じる際の耐力によって発生し、一方、この稜線部が座屈した後における荷重の急激な落ち込み(図2におけるA−A’、B−B’、C−C’、D−D’、E−E’)は、二つの稜線の間に存在する平面部が折れ曲がり変形を生じるために発生することがわかった。
このため、本実施の形態の衝撃吸収部材では、外部へ向けたフランジを具備せず、軸方向の少なくとも一部において複数の頂点を有する凸多角形からなる基本横断面形状を有するとともにこの凸多角形の少なくとも一の辺の全域が非直線からなる形状を有するように、筒体を構成することによって、二つの頂点の間に存在する平面部の断面周長を増加させ、これにより、この平面部の折れ曲がり時の圧壊荷重を高める。このため、本実施の形態の衝撃吸収部材によれば、軸圧壊時における荷重の落ち込み量を抑制でき、所定の圧壊量における衝撃エネルギの吸収量を増加できる。
しかし、一般に、凸多角形の横断面を有する筒体の衝撃荷重による軸圧壊時の変形では、衝撃荷重が入力された瞬間に筒体の横断面に初期の弾性たわみが発生し、この多角形の各辺を外側へ向けて膨らませようとする応力が生じる。この際、上述した凸多角形の辺が、凸多角形の外部を通過するような非直線状に形成されていると、この辺を外側へ膨らませる弾性たわみ量が増加してしまい、軸方向へ安定して蛇腹状に座屈変形することが難しくなる。
そこで、本実施の形態では、この凸多角形の辺のうちの少なくとも一つの辺の全域を、凸多角形の内部を通過する非直線になるように、形成する。これにより、軸圧壊に折れ曲がりを生じるおそれがある平面部の断面周長を増加させて平面部の折れ曲がり時の圧壊荷重を高めながら、軸圧壊の初期における凸多角形の外部へ向けた弾性たわみ量の増加を抑制できるため、この筒体を、軸方向の全域で蛇腹状に座屈して変形させることができるため、衝撃エネルギを十分に吸収することができる。
凸多角形の内部を通過する非直線になるように形成する辺は、凸多角形の辺のうちの少なくとも一つの辺であればよい。例えば、全ての辺としてもよいし、後述するように凸多角形の周方向へ一つおきの辺としてもよいし、あるいは特定の辺のみとしてもよい。
また、凸多角形の内部を通過する非直線になるように形成する辺は、凸多角形の中心に対して点対称に配置すれば、正面からの衝撃荷重に対する一方向への倒れ込みを防止できるため、望ましい。すなわち、本実施の形態における筒体の横断面形状は、軸方向に平行な衝撃荷重が正面から負荷される場合には、筒体が内部の中心点に対して点対象な横断面形状を有することが望ましい。この場合、凸多角形は、後述するように、偶数角形であって全ての辺のうちの一つおきのn個の辺それぞれの全域が、凸多角形の内部を通過する非直線に形成されることが望ましい。
一方、近年特に重視されるオフセット衝突や斜突のように、衝撃吸収部材に対して斜め方向に衝撃荷重が負荷されることを前提とする場合には、凸多角形は偶数角形のみならず奇数角形であってもよく、また、非直線に形成される辺は、最初に衝撃荷重が負荷される側では隣りあって連続して存在してもよいし、他方の側には内側へ凸となる辺が存在しなくてもよい。すなわち、内側へ凸となる形状を与えた領域では、初期たわみを優先的に生じるため、先にしわを生成し易くなるのであり、衝撃力が最初に作用した側が優先して圧壊し、衝撃エネルギーの吸収を開始することにより、衝撃吸収部材の軸方向の全域において安定した圧壊を実現できる。
さらに、凸多角形の内部を通過する非直線は、例えば円や楕円等の単一の曲率半径を有する単一曲線により構成してもよいが、異なる曲率半径を有する複数の曲線を組み合わせた複合曲線により構成してもよい。しかし、直線と曲線を組み合わせた線により構成すると、この直線の部分の両端が新たな頂点となって、座屈の基点となるため、この稜線が圧壊に対する新たな抵抗力を発生して圧壊挙動が不安定になるおそれがあるため、望ましくない。
このように、本実施の形態の衝撃吸収部材は、軸方向の少なくとも一部における横断面形状が、複数の頂点を有する閉断面であり、この閉断面の外側にフランジを具備しないとともに、複数の頂点のうちの一部を直線で連結して得られる最大の輪郭からなる基本断面が凸多角形であり、この凸多角形のうちの少なくとも一つの辺の全域がこの凸多角形の内部を通過する非直線に形成されるという特徴を有する筒体を備えるため、衝撃荷重を負荷されることにより圧壊が進行する際における底付きを生じるまでの変位量(ストローク)を長く確保することができ、これにより、安定した衝撃吸収量を確保することができる。
次に、本実施の形態に係る衝撃吸収部材の好適態様を説明する。
上述した本実施の形態の衝撃吸収部材は、筒体の基本横断面形状である凸多角形が2n個(nは2以上の自然数)の頂点を有するとともに、2n個の辺のうちの一つおきのn個の辺それぞれの全域が、凸多角形の内部を通過する非直線に形成されることが望ましい。そこで、この点を説明する。
一般に、軸方向に衝撃荷重を負荷されて圧壊する部材が変形する際には、以下に列記する現象(i)〜(v)が発生する。
(i)衝撃荷重の入力端側に近い領域において、筒体を構成する各稜線に軸方向への圧縮ひずみが蓄積される。
(ii)それと同時に、その圧縮ひずみが蓄積される領域の横断面内においては、各稜線間の辺の部分に、横断面における内部側又は外部側へ向けたたわみが生じる。
(iii)圧縮ひずみが蓄積された稜線部が塑性座屈を生じ、次いで、各稜線間の辺の部分でたわみ方向へ張り出すしわが発生する。
(iv)このしわの形成が完了してしわの上下が接触(口を閉じる)した後、次の座屈発生に向けて、上記(i)項とは別の領域、具体的には上記稜線よりも入力端側の反対側に存在する領域において上記(i)項と同様に稜線に軸方向の圧縮ひずみが蓄積されていく。
(v)以下、同様の現象を繰り返すことにより、順次座屈を繰り返す。
一般的な正凸多角形の軸圧壊における変形挙動の代表例として、図3に、正八角形、正十二角形の横断面を有する筒体を備える衝撃吸収部材3、4の圧壊途中の形状をFEM解析により模式的に示す。
図3から理解されるように、一般的な正凸多角形の圧壊挙動の特徴は、下記の二点である。
(a)各稜線間の辺に生成されるしわの方向は、筒体の軸方向については、順に断面内側、断面外側と交互に生成される。
(b)各稜線間の辺に生成されるしわの方向は、筒体の周方向については、いずれも同一方向に生成される。
ここで、筒体の軸圧壊時に発生する塑性座屈変形によって筒体の平面部に生じるしわは、一般には、細かく形成されるほど短い周期での座屈が生じたことを意味する。しかし、形成された細かいしわ同士が互いに当接して圧壊方向に連なって存在すると、これらのしわが当接して連なって存在する領域がそれ以上には座屈変形しない、いわば剛体領域となり、軸圧壊時の早期に荷重の急激な上昇、すなわち底付きを生じる。さらに、図3を参照しながら説明したように、例えば正八角形のような2n多角形からなる横断面形状を有する筒体を備える衝撃吸収部材では、ある平面部に形成される座屈しわは、隣接する平面部に形成される座屈しわと互いに接触して拘束し合うため、底付きをさらに生じ易くする。
ここで、上記(a)項に記載した特徴より、一旦衝突端側でしわの形成方向が決定されると以降の各辺の部分はしわの内外を交互に入れ替えながら圧壊するため、衝突端側で生成される最初のしわの方向を隣り合う辺で逆方向に制御することができれば、隣り合う辺のしわはその内外の向きが異なるため、周方向に接触して拘束し合う挙動を軽減でき、底付きの発生を遅延させることができる。
そこで、本実施の形態では、筒体の基本横断面形状である凸多角形が2n個(nは2以上の自然数)の頂点を有する場合には、2n個の辺のうちの一つおきのn個の辺それぞれの全域が、凸多角形の内部を通過する非直線に形成することによって、横断面内における凸多角形の隣接する辺それぞれにおいて発生するしわが互いに逆向きに形成されるように、例えば、ある平面部の座屈しわが断面中心向きに形成されるとともに、これに隣接する平面部の座屈しわがこれとは反対向きである断面外側向きに形成されるように、筒体の圧壊変形モードを制御する。
これにより、隣接して形成されたしわ同士が周方向で干渉することが解消され、軸方向へ薄く折り畳まれて重なったしわが剛体化するまでのストロークを延長でき、底付きの早期の発生を防止できるため、衝撃荷重を負荷されることにより圧壊が進行する際における底付きを生じるまでの変位量(ストローク)をさらに長く確保することができる。
図4は、基本横断面形状が正八角形又は正十二角形である筒体5〜8の横断面形状を示す説明図であって、図4(a)は、筒体5の横断面形状が辺5a〜5hを有する正八角形である場合を示し、図4(b)は基本横断面形状が正八角形である筒体6の8個の辺6a〜6hのうちの一つおきの4個の辺6b、6d、6f、6hそれぞれの全域を、凸多角形の内部を通過する非直線(円弧)に形成した場合を示し、図4(c)は、筒体の横断面形状が辺7a〜7lを有する正十二角形である場合を示し、さらに,図4(d)は基本横断面形状が正十二角形である筒体の十二個の辺8a〜8lのうちの一つおきの6個の辺8a、8c、8e、8g、8i、8kそれぞれの全域を、凸多角形の内部を通過する非直線(円弧)に形成した場合を示す。
図4(a)又は図4(c)に示すように、筒体の横断面形状が2n多角形(正八角形又は正十二角形)であると、圧壊開始時に生じるしわの方向がいずれの辺5a〜5h、7a〜7lにおいても正八角形又は正十二角形の外向きになり、同じとなる。このため、以降、圧壊の進行に伴って繰り返し生成される座屈しわは、常に、隣り合う辺同士の間では同じ方向となるため、ある平面部に形成される座屈しわが、隣接する平面部に形成される座屈しわと互いに接触して拘束し合うため、底付きをいっそう生じ易くなる。具体的には、底付きまでのストローク/衝撃吸収部材全長)×100は高々83%程度にしかならない。
これに対し、図4(b)又は図4(d)に示すように、基本横断面形状が2n多角形(正八角形又は正十二角形)である筒体の辺のうちの一つおきの辺それぞれの全域を、凸多角形の内部を通過する非直線(円弧)に形成すると、圧壊開始時に生じるしわの方向が、非直線部6b、6d、6f、6h又は8a、8c、8e、8g、8i、8kでは内向きになるのに対し、直線部6a、6c、6e、6g又は8b、8d、8f、8h、8j、8lでは外向きになる。このため、以降、圧壊の進行に伴って繰り返し生成される座屈しわは、常に、隣り合う辺同士の間では互い違いの方向となるため、ある平面部(例えば6a、8a)に形成される座屈しわが、隣接する平面部(例えば(6b、6h)、(8b、8l))に形成される座屈しわと互いに接触して拘束し合うことが解消され、底付きを生じ難くなる。これにより、底付きまでの圧壊ストロークを、図4(a)又は図4(c)に示す場合よりも大きくすることができ、衝撃エネルギの吸収量を向上することが可能となる。具体的には、底付きまでのストローク/衝撃吸収部材全長)×100は85%以上と極めて良好な値を示す。
図5は、図4(a)に示す筒体5の軸圧壊時における荷重−変位曲線(破線)と、図4(b)に示す筒体6の軸圧壊時における荷重−変位曲線(実線)とを示すグラフである。
上述したように、荷重が400kNに急上昇した時点を底付きの発生と捉えると、図4(a)に示す筒体5の段付きまでのストロークは166.1mmであることから底付きまでのストローク/衝撃吸収部材全長)×100は高々83%程度であるのに対し、図4(b)に示す筒体6の段付きまでのストロークは172.2mmであり、底付きまでのストローク/衝撃吸収部材全長)×100は85%以上と大幅に向上している。
また、筒体6は、筒体5と比較すると、図2のグラフを参照しながら説明した荷重の急激な落ち込みも大幅に改善され、荷重が高い値で安定して推移することがわかる。
さらに、本実施の形態の衝撃吸収部材では、基本横断面における凸多角形の辺を、凸多角形の内部を通過する非直線、例えば円弧に形成することが、筒体の製造コストの上昇を抑制するためには最も有効である。つまり、凸多角形の内部へ膨出した非直線が円弧であるとともに、この円弧の部分の長さ(l)と一の辺の長さ(L)とが1.005≦(l/L)≦1.207の関係を満足することが望ましい。この点について説明する。
長さ200mmの筒体の基本横断面である凸多角形の辺を、非直線として円弧とした場合について、590MPa級の厚さ1.6mmの高張力鋼板を対象材料として、軸圧壊のFEM数値解析を行って、座屈安定化及び底付きまでのストロークを確保することができる、元の辺に与える円弧の曲率を検討した。軸圧壊は、64km/hの速度で底付きを生じるまで圧壊した。
なお、代表的な凸多角形として、上述した図4に示すように、正八角形及び正十二角形の二種を選択し、正八角形及び正十二角形が内接する円の直径はいずれも120mmとした。
そして、凸多角形が正八角形であるものについては、八の辺の一つおきに円弧の非直線部を形成し、円弧の曲率を種々変更することにより軸圧壊の解析を行った。また、凸多角形が正十二角形であるものについても、同様に十二の辺の一つおきに円弧の非直線部を形成し、円弧の曲率を種々変更することにより軸圧壊の解析を行った。
軸圧壊の解析の結果(円弧の部分の長さ(l)及び一の辺の長さ(L)の比(l/L)と、単位周長底付EA、底付きストロークSとの関係)を図6にグラフにまとめて示す。図6(a)は正八角形について比(l/L)が0.95以上1.05以下の範囲と単位周長底付EAとの関係との関係を示し、図6(b)は正八角形について比(l/L)が0.9以上1.5以下の範囲と単位周長底付EAとの関係との関係を示し、図6(c)は正十二角形について比(l/L)が0.9以上1.5以下の範囲と単位周長底付EAとの関係との関係を示す。なお、図6(a)〜図6(c)における大プロットは底付きストロークSを示し、小プロットは単位周長底付きEAを示す。
図6(a)にグラフで示すように、正八角形の比(l/L)が1.005以上であると、衝撃エネギの吸収量が急激に上昇するとともに、底付きまでのストローク量を大幅に増加することができる。一方、図6(b)にグラフで示すように、正八角形の比(l/L)が1.207を超えると、逆に衝撃エネルギの吸収量が減少し、底付きまでのストローク量も減少する。比(l/L)が1.207を超えると、円弧である非直線の両端部である筒体の稜線が鋭角化し、稜線の強度が過剰に強くなり、繰り返し座屈を生じずに折れ曲がりを発生し易くなるとともに、円弧の周方向の長さが大きくなって一つ一つのしわの体積が増加するために、底付きを早期に生じ易くなる。しかし正十二角形では、図6(c)に示すように、未だ比(l/L)が1.0である時の底付きまでのストローク量を上回っており、十分に有効である。
このように、正八角形及び正十二角形について検討すると、比(l/L)は1.005以上1.207以下であることが望ましいことがわかるが、各稜線間の辺に生成されるしわの発生挙動は、断面内の稜線の数には依存せず、各辺の形状とその両端の稜線の座屈挙動によって辺毎に決まるものであることから、この好適な条件は上述した凸四角形〜凸十六角形についても成り立つものである。
このため、凸多角形の内部へ膨出した非直線が円弧であるとともに、この円弧の部分の長さ(l)と一の辺の長さ(L)との比(l/L)が1.005以上1.207以下であることが望ましい。同様の観点から、比(l/L)は1.01以上1.200以下であることが望ましい。
このように、本実施の形態の衝撃吸収部材は、軸方向の少なくとも一部におけるこの筒体の横断面形状が、複数の頂点を有する閉断面であり、この閉断面の外側にフランジを具備しないとともに、複数の頂点のうちの2n個(nは2以上の自然数)を直線で連結して得られる最大の輪郭からなる基本断面が凸多角形であり、この凸多角形のうちの少なくとも一つの辺の全域がこの凸多角形の内部を通過する円弧に形成され、この円弧の部分の長さ(l)と少なくとも一の辺の長さ(L)とが1.005≦(l/L)≦1.207の関係を満足する筒体を備える衝撃吸収部材である。筒体は、軸方向の一方の端部からこの軸方向と略平行な方向へ向けて衝撃荷重を負荷されると、座屈することにより衝撃エネルギを十分に吸収する。これにより、これまでよりも短い全長でいっそう効率的に衝撃エネルギを吸収することができること、例えば、長さ200mmの衝撃吸収部材に64km/hの衝突速度の条件での軸圧壊を、底付きによる荷重の上昇が生じるまでFEM数値解析により行った場合に(底付きまでのストローク/衝撃吸収部材全長)×100が85%以上であることから、本実施の形態の衝撃吸収部材は、例えば、いわゆるショートノーズのデザインが採用された自動車の車体を構成するクラッシュボックスやフロントサイドメンバ等にも適用することができる。
本実施の形態の衝撃吸収部材は以上のように構成されるが、さらに、稜線間の部分に潰れビードを有してもよいし、穴あけ加工等を行われていてもよい。また、組み立てを完了した後に、高周波焼入れやレーザー焼入れ等の後処理を施して、さらなる強度の上昇を図ることも有効である。
このように、本実施の形態により、衝撃荷重を負荷されることにより圧壊が進行する際における底付きを生じるまでの変位量(ストローク)を長くすることができ、これにより、安定した衝撃吸収量を確保することができる衝撃吸収部材を提供できる。
さらに、本発明を、実施例を参照しながら、より具体的に説明する。
以下に説明する内容の衝突試験を行うことにより、本発明に係る衝撃吸収部材の効果を検証した。
材質には590MPa級、板厚1.6mmの高張力鋼板を用い、200kgfの重量の錘を16.1mの高さから自由落下させ、64km/hで衝撃吸収部材に軸方向に衝突させた。
この際、衝撃吸収部材の長さはいずれも200mmとし、各衝撃吸収部材の断面形状は、全長に渡り変化せず一定なものとした。
そして、直径120mmの円に内接する正八角形(一辺の長さ45.9mm)の横断面形状を有する筒体を備える比較例1と、直径120mmの円に内接する正十二角形(一辺の長さ31mm)の横断面形状を有する筒体を備える比較例2と、比較例1の正八角形の辺をひとつおきに内部側へ向けて凸となる半径60mmの円弧とした実施例1と、比較例1の正八角形の辺をひとつおきに内部側へ向けて凸となる半径25mmの円弧とした実施例2と、比較例2の正十二角形の辺をひとつおきに内部側へ向けて凸となる内部側へ向けて凸となる半径26mmの円弧とした実施例3と、さらに、比較例2の正十二角形の辺をひとつおきに内部側へ向けて凸となる半径17mmの円弧とした実施例4とについて、底付きを生じたストロークと、底付き時の衝撃エネルギの吸収量とを比較した。
比較例1、2と実施例1〜4とについて、初期最大荷重及び140mmまでの衝撃エネルギの吸収量を、表1にまとめて示す。
Figure 0004375239
表1に示す実施例2及び4では、圧壊途中で衝撃吸収部材が太鼓状に大きく膨らむ変形を生じ、圧壊荷重が減少した。
また、実施例1及び3では、周方向に隣接する辺同士のしわが互い違いの方向に順次生成され、元の多角形である比較例1、2に比較して圧壊ストロークが増加するとともに、衝撃エネルギの吸収量が増加した。
表1における比較例1、2と実施例1〜4とを対比することにより、衝撃吸収部材を構成する筒体の横断面形状を、複数の頂点を有する閉断面であり、この閉断面の外側にフランジを具備しないとともに、複数の頂点のうちの一部を直線で連結して得られる最大の輪郭からなる基本断面が凸多角形であり、この凸多角形のうちの少なくとも一つの辺の全域がこの凸多角形の内部を通過する非直線に形成される
構造とすることによって、底付きを生じるまでの変位量(ストローク)を長く確保することができ、これにより、衝撃エネルギの吸収量を安定して確保できることが分かる。
また、表1における比較例1、2と実施例1、3とを対比することにより、基本横断面形状である凸多角形が2n個(nは2以上の自然数)の頂点を有する場合には、2n個の辺のうちで一つおきのn個の辺それぞれの全域が凸多角形の内部を通過する非直線からなるようにすることにより、圧壊の進行に伴って繰り返し生成される座屈しわを、常に隣り合う辺同士で互い違いの方向に向かうように形成でき、これにより、底付きまでの圧壊ストロークをさらに向上して衝撃エネルギの吸収量をいっそう大きくできることが分かる。
表1における比較例1、2と実施例1〜4とを対比することにより、凸多角形の辺のうちの少なくとも一つの辺の全域を非直線を円弧とし、この円弧の部分の長さ(l)と一の辺の長さ(L)とが1.005≦(l/L)≦1.207の関係を満足することにより、底付きを生じるまでの変位量(ストローク)をさらに確保できることが分かる。
FEM数値解析による四角形の横断面を有する衝撃吸収部材の圧壊の様子を示す説明図であり、図1(a)は外部へ向けたフランジを具備する筒体を備える衝撃吸収部材を示し、図1(b)は外部へ向けたフランジを具備しない筒体を備える衝撃吸収部材を示す。 軸圧壊のFEM数値解析結果(変位−荷重曲線)を示すグラフである。 正八角形、正十二角形の横断面を有する筒体を備える衝撃吸収部材の圧壊途中の形状をFEM解析により模式的に示す説明図である。 基本横断面形状が正八角形又は正十二角形である筒体の横断面形状を示す説明図であって、図4(a)は筒体の横断面形状が正八角形である場合を示し、図4(b)は基本横断面形状が正八角形である筒体の8個の辺のうちの一つおきの4個の辺それぞれの全域を、凸多角形の内部を通過する非直線(円弧)に形成した場合を示し、図4(c)は筒体の横断面形状が正十二角形である場合を示し、さらに,図4(d)は基本横断面形状が正十二角形である筒体の十二個の辺のうちの一つおきの6個の辺それぞれの全域を、凸多角形の内部を通過する非直線(円弧)に形成した場合を示す。 図4(a)に示す正八角形の横断面形状を有する筒体の軸圧壊時における荷重−変位曲線(破線)と、図4(b)に示す、基本横断面形状が正八角形である筒体の8個の辺のうちの一つおきの4個の辺それぞれの全域を、凸多角形の内部を通過する非直線(円弧)に形成した筒体の軸圧壊時における荷重−変位曲線(実線)とを示すグラフである。 軸圧壊の解析の結果(円弧の部分の長さ(l)及び一の辺の長さ(L)の比(l/L)と、単位周長底付EAとの関係)をまとめて示すグラフであり、図6(a)は正八角形について比(l/L)が0.95以上1.05以下の範囲と単位周長底付EAとの関係との関係を示し、図6(b)は正八角形について比(l/L)が0.9以上1.5以下の範囲と単位周長底付EAとの関係との関係を示し、図6(c)は正十二角形について比(l/L)が0.9以上1.5以下の範囲と単位周長底付EAとの関係との関係を示す。
符号の説明
1〜8 衝撃吸収部材(筒体)
5a〜5h、6a〜6h、7a〜7l、8a〜8l 辺

Claims (5)

  1. 軸方向の一方の端部から該軸方向の略平行な方向へ向けて衝撃荷重を負荷されて座屈することにより衝撃エネルギを吸収するための筒体を備える衝撃吸収部材であって、前記軸方向の少なくとも一部における当該筒体の横断面形状は、複数の頂点を有する閉断面であり、該閉断面の外側にフランジを具備しないとともに、前記複数の頂点のうちの一部を直線で連結して得られる最大の輪郭からなる基本断面が凸多角形であり、該凸多角形は2n個(nは2以上の自然数)の頂点を有するとともに、前記筒体の軸方向への圧壊変形の際に前記凸多角形の隣接する辺それぞれにおいて発生するしわが互いに逆向きとなるように、前記凸多角形の2n個の辺のうちの一つおきのn個の辺の全域は前記凸多角形の内部を通過する非直線形状に形成され、かつ該非直線形状は前記筒体の軸方向に延びて形成されることを特徴とする衝撃吸収部材。
  2. 前記非直線形状は円弧であるとともに、該円弧の部分の長さ(l)と前記少なくとも一の辺の長さ(L)とは、1.005≦(l/L)≦1.207の関係を満足する請求項1に記載された衝撃吸収部材。
  3. 前記非直線形状は、筒体の軸方向の全域に形成される請求項1又は請求項2に記載された衝撃吸収部材。
  4. 前記横断面形状は、筒体の軸方向の全域において同一の位相を有する請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された衝撃吸収部材。
  5. 軸方向の一方の端部から該軸方向の略平行な方向へ向けて衝撃荷重を負荷されて座屈することにより衝撃エネルギを吸収するための筒体を備える衝撃吸収部材により衝撃エネルギを吸収する方法であって、
    前記衝撃吸収部材の軸方向の少なくとも一部における当該筒体の横断面形状は、複数の頂点を有する閉断面であり、該閉断面の外側にフランジを具備しないとともに、前記複数の頂点のうちの一部を直線で連結して得られる最大の輪郭からなる基本断面が凸多角形であり、該凸多角形は2n個(nは2以上の自然数)の頂点を有するとともに、該2n個の辺のうちの一つおきのn個の辺の全域は前記凸多角形の内部を通過する非直線形状に形成され、かつ該非直線形状が筒体の軸方向に延びるように形成され、
    前記筒体が衝撃荷重を受けて軸方向へ圧壊変形する際に前記凸多角形の隣接する辺それぞれにおいて発生するしわが互いに逆向きに形成されることによって衝撃エネルギを吸収すること
    を特徴とする衝撃エネルギの吸収方法。
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