JP4374075B1 - 壁取付具、及び建物の壁構造 - Google Patents

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Abstract

【課題】柱を切削することなく、一対の柱の間に比較的簡単に耐力壁を構築することを可能にする壁取付具を提供する。
【解決手段】壁取付具1は、柱に突合せられ固定される取付面24と、取付面24に対して略直角方向に延出して形成され、構造壁の端部に当接することで構造壁における前後方向の取付位置を定める当接面27を有する第一位置決め部25と、補強壁の端部の凸条が嵌挿されることで補強壁における前後方向の取付位置を定める溝部30を有する第二位置決め部26とを備える。また、壁取付具1の側面には、土などの壁材の一部が入り込む第一食込部32a及び第二食込部33aが形成され、塗り壁が剥がれ落ちないように構成されている。
【選択図】図3

Description

本発明は、壁取付具、及び建物の壁構造に関するものであり、特に歴史的建造物である重要文化財や世界遺産等の修復に適した耐力壁構造を構築する際に用いられる壁取付具、及びそれを用いた建物の壁構造に関するものである。
従来、木造建築の壁構造として、軸組における一対の柱の間に、小舞下地(竹や細木を縦横に組んで構成されたもの)や、ラス下地(小幅な板からなるもの)を取付け、これらの上から、あるいは金網状のラスをさらに介して、土や漆喰等を塗り込むことにより、塗り壁を構築したものが知られている。ところが、このような構造の塗り壁では、一般的に剛性が低いことから、例えば地震の横揺れや大風時の強風等、横から受ける力に対しては非常に弱いものとなっていた。
ところで、軸組の剛性を高めるため、一対の柱の間に比較的厚みのある木質の板材を複数枚積層することで、耐力壁を構築したものが提案されている(例えば特許文献1)。具体的に説明すると、一対の柱の互いに対向する面に、板材の左右両端側が嵌入される凹状の溝部を上下方向に沿って形成し、複数枚の板材(以下、「横板」という)を凹溝に対して上方から順に落とし込むこと、すなわち、複数の横板を互いに密着させながら積み上げることにより、一対の柱の間に木質の横板からなる構造壁を構築するものである。また、構造壁の裏面において複数枚の縦板を左右方向に並設することで一対の柱の間に補強壁を構築することも考えられている。これによれば、横からの力に対する剛性が高められ、耐震性及び耐風性に優れた壁構造となる。しかも、柱間の空間を構造壁及び補強壁からなる二層の木質壁によって閉鎖するため、断熱効果及び蓄熱効果が大幅に高められ、ひいては省エネを図るとともに、屋内での快適性を高めることが可能となる。
ところが、上記のような耐力壁では、構造壁及び補強壁における板厚を比較的大きくする必要があるため、その外側に塗り壁を構築しようとすると、板材の厚さに小舞下地やラス下地の厚み、さらには金網状のラスの厚みが加わることとなり、壁全体の厚みがかなり大きくなっていた。特に、壁の両側(例えば屋外側及び屋内側に相当する構造壁の表面及び補強壁の表面)に塗り壁を構築するものでは、さらに厚みが増加することとなり、「比較的狭い土地に建物を構築する」という現在の日本の状況から考えると、好ましくない状態となっていた。また、積層された板材の上からラス下地等を一枚ずつ取付けるという工程が必要となるため、現場での作業工程が多くなり、作業者の負担を増大させることが懸念されていた。
なお、横板や縦板に、土や漆喰等の壁材を直接塗り付けるようにすれば、小舞下地やラス下地が不要となるが、これによれば、塗り付けた壁材が剥離したり落下したりしやすいものとなり、塗り壁の耐久性を低下させるおそれがある。
そこで、本願出願人は、複数枚の板材を積層してなる耐力壁において、厚みを大幅に増加させることなく現場で簡単に塗り壁を構築することができ、しかも塗り付けた壁材が剥離したり落下したりすることを防止できる建物の壁構造を先に提案した(特願2009−091825)。具体的には、横板及び縦板の表面に複数の狭口溝(すなわち開口側の溝幅が奥側の溝幅よりも狭く設定された溝)を形成し、それらの狭口溝内に充填されるように、土等の壁材を、横板及び縦板の表面に直接塗り込むことで塗り壁を構築するものである。これによれば、横板及び縦板の表面に壁材を塗り込む際、その一部が狭口溝内に入り込むことから、壁材が乾燥し固化した状態では、構造壁及び補強壁に食い込んだ状態となり、壁材の剥離や落下を防止することが可能になる。
しかしながら、上記の耐力壁を構築する場合、一対の柱の互いに対向する面には、横板を落とし込むため(すなわち横板及び縦板における前後方向の取付位置を定めるため)に、上下方向に沿った凹状の溝部を形成させる必要があることから、既存の建物の修復に上記の構成を採用することが困難となっていた。つまり、立設された柱に対して直線状の溝部を上下方向に形成しなければならず、現場における作業効率を低下させるとともに、作業者の負担が大きくなる虞があった。特に、重要文化財や世界遺産等の修復にあたっては、それらの軸組である柱を切削することは禁止されており、ひいてはその耐力壁の採用に躊躇することが懸念されていた。
そこで、本発明は、上記の実状に鑑み、柱を切削することなく、一対の柱の間に比較的簡単に耐力壁を構築することを可能にする壁取付具、及びそれを用いた建物の壁構造の提供を課題とするものである。
本発明にかかる壁取付具は、「軸組の構成要素である少なくとも一対の柱の間に積層されて構造壁を構築する複数枚の横板、
長さが前記構造壁の高さと略一致し、該構造壁の裏面側で左右方向に複数枚並設されることにより前記一対の柱の間に補強壁を構築する縦板、
前記横板及び前記縦板の表面に形成され、開口側の溝幅が奥側の溝幅よりも狭く設定された複数の狭口溝、
及び、該複数の狭口溝内に充填されるように、土等の壁材が、前記構造壁及び前記補強壁の表面に直接塗り込まれることにより構築される塗り壁
を具備する壁構造、を構築する際に用いられ、前記構造壁及び前記補強壁の両端部を、前記一対の柱の互いに対向する面に取付けるための壁取付具であって、
前記柱に突合せられ固定される取付面と、
該取付面に対して略直角方向に延出して形成され、前記構造壁の端部に当接することで該構造壁における前後方向の取付位置を定める第一位置決め部と、
前記取付面に対して略直角方向に延出して形成され、前記補強壁の端部に当接することで該補強壁における前後方向の取付位置を定める第二位置決め部と
を備える」ことを特徴とするものである。
ここで、「横板」及び「縦板」の材質としては、木材、集成材、パーティクルボード、MDF等のファイバーボード、及び合板等を挙げることができる。なお、製材工場で発生する廃材、森林の手入れのときに発生する間伐材、またはリサイクル材等を用いることも可能であり、これによれば資源の有効利用を図ることができる。また、木以外の材質、例えばパルプ材、アルミニウム等の金属、または合成樹脂から形成することも可能である。また、「狭口溝」は、開口側の溝幅が奥側(溝の奥)の幅よりも狭くなっていれば、断面形状は特に限定されるものではない。ただし、溝の奥に向うほど幅広となるように溝の側面を傾斜面とすれば、壁材が塗り込まれた際、狭口溝の奥に向って壁材を円滑に案内することが可能となる。また、「壁材」としては、土及び漆喰等を例示することができる。なお、壁材の上に仕上材を塗りつけたり取付けたりしてもよい。
また、「壁取付具」の材質としては、木材、金属、及び合成樹脂等を例示することができる。また、「壁取付具」の「取付面」を柱に固定させる構成としては、例えば取付面に透孔を穿設し、その透孔を通して木ねじを締付ける構成を採用することができる。なお、壁取付具が木材からなる場合には、釘によって打付けるようにしてもよい。さらに、「構造壁」及び「補強壁」は、「壁取付具」に対して、必ずしも固着させる必要はなく、単に位置決めされるだけであってもよい。
本発明の壁取付具によれば、一対の柱の間に壁構造を構築する際、一対の柱の互いに対向する面に、壁取付具の取付面がそれぞれ突合せられ固定される。壁取付具には、取付面に対して略直角方向に延出する第一位置決め部が形成されており、横板を積層する際、横板の端部を第一位置決め部に当接させることで前後方向の取付位置が定められる。このため、複数枚の横板を同一鉛直面上で並べることができ、これにより平滑な構造壁を構築することが可能になる。
また、壁取付具には第二位置決め部も形成されており、構造壁の裏面側に補強壁を構築する際、柱に隣接して配置される左右両側の縦板の端部を第二位置決め部に当接させることにより、該縦板の前後方向の取付位置が定められるとともに、それらの縦板と壁取付具とが一体的に組みつけられる。つまり、左右両側の縦板は、構造壁に固定されることに加え、壁取付具によっても前後方向の動きが規制されるため、一層強固に保持された状態となる。
このように、壁取付具を用いることにより、柱に切削加工を行うことなく、一対の柱間に構造壁及び補強壁を構築することが可能になる。
また、本発明の壁取付具において、「上下方向に沿って形成され、前記構造壁または前記補強壁の端部が嵌挿される凹状の溝部をさらに備える」構成とすることができる。
これによれば、壁取付具には、上下方向に沿った凹状の溝部が形成されており、構造壁または補強壁を構築する際、積層される複数枚の横板の端部、または柱に隣接する左右両側の縦板の端部が溝部に嵌挿される。すると、それらの横板または縦板の前後方向の動きが規制され支持された状態となる。つまり、第一位置決め部または第二位置決め部に対し横板または縦板の端部をネジや釘等によって固定しなくても、壁取付具のみによって保持することができ、作業性を高めることが可能になる。
さらに、本発明の壁取付具において、「前記柱と前記構造壁及び前記補強壁との間に位置し、表面に前記壁材が直接塗り込まれる塗布面をさらに備え、
該塗布面は、前記壁材の一部が食込まれる食込部を有する」構成とすることができる。
これによれば、壁取付具には、構造壁の表面及び補強壁の表面に連なる塗布面が形成されているため、一対の柱の間全体に対して壁材を塗り込むことが可能になる。したがって、壁取付具の表面が露出されることによる見栄えの低下を防止することができる。特に、壁取付具の塗布面には、壁材の一部が食込まれる食込部が形成されているため、狭口溝と同様、壁材の一部が壁取付具に食い込んだ状態となり、壁取付具の表面から壁材が剥離したり落下したりすることを防止することが可能になる。特に、壁取付具は、柱に当接して配設されるものであることから、この部材の表面において壁材を食い込ませることにより、塗り壁の端部の剥離を効果的に阻止し、塗り壁の耐久性を大幅に向上させることができる。
一方、本発明にかかる建物の壁構造は、「軸組の構成要素である少なくとも一対の柱の間に積層されて構造壁を構築する複数枚の横板と、
長さが前記構造壁の高さと略一致し、該構造壁の裏面側で左右方向に複数枚並設されることにより前記一対の柱の間に補強壁を構築する縦板と、
前記横板及び前記縦板の表面に形成され、開口側の溝幅が奥側の溝幅よりも狭く設定された複数の狭口溝と、
該複数の狭口溝内に充填されるように、土等の壁材が、前記構造壁及び前記補強壁の表面に直接塗り込まれることにより構築される塗り壁と、
前記構造壁及び前記補強壁の両端部を、前記一対の柱の互いに対向する面に取付けるための壁取付具であって、前記柱に突合せられ固定される取付面、該取付面に対して略直角方向に延出して形成され前記構造壁の端部に当接することで該構造壁における前後方向の取付位置を定める第一位置決め部、及び前記取付面に対して略直角方向に延出して形成され前記補強壁の端部に当接することで該補強壁における前後方向の取付位置を定める第二位置決め部を有する壁取付具と
を具備する」ことを特徴とするものである。
本発明の建物の壁構造は、上記の壁取付具を用いた建物の壁構造であり、上記の発明と同様の作用を奏する。さらに、このように構築された構造壁及び補強壁、及びそれらの表面に塗られた塗り壁によれば、軸組における剛性が大幅に高められ、地震の横揺れや強風等に対して耐え得ることが可能になる。また、構造壁及び補強壁の表面に、土等の壁材が直接塗り込まれるが、その表面には複数の狭口溝が形成されているため、壁材の一部が狭口溝内に入り込み構造壁及び補強壁に食い込んだ状態となり、壁材の剥離や落下を防止することができる。
このように、本発明によれば、壁取付具によって構造壁及び補強壁における前後方向の取付位置が定められるため、柱を切削することなく、一対の柱の間に、塗り壁を備えた耐力壁を比較的簡単に構築することができる。したがって、現場における作業性を高めるともに、歴史的建造物である重要文化財や世界遺産等の修復においても適用することが可能となる。
本実施形態の壁取付具を用いた建物の壁構造を示す断面図である。 (a)は横板の要部を示す拡大斜視図であり、(b)は縦板の要部を示す拡大斜視図である。 壁取付具の要部を示す拡大斜視図である。 壁構造の製造方法を示す説明図である。 (a)は他の例の壁取付具を示す斜視図であり、(b)はその壁取付具に横板及び縦板を組付けた構成を示す平面図である。 (a)はさらに他の例の壁取付具を示す斜視図であり、(b)はその壁取付具に横板及び縦板を組付けた構成を示す平面図である。
以下、本発明の一実施形態である壁取付具1を用いた建物の壁構造2について、図1〜図4に基づき説明する。本例の壁構造2は、図1に示すように、軸組の構成要素である少なくとも一対の柱4の間に構築される構造壁5と、構造壁5の裏面に構築される補強壁6と、構造壁5の表面(屋内側)に塗られた塗り壁7と、補強壁6の表面(屋外側)に塗られた塗り壁8と、を具備して構成されている。特に、構造壁5及び補強壁6の両端部分は、壁取付具1を介して一対の柱4の互いに対向する面に取付けられている。各構成について詳細に説明する。
軸組は、屋根や床等の荷重を支えて基礎(図示しない)に伝えるための骨組であり、水平方向に配設された土台3(図4参照)、土台3の上で鉛直方向に配設された複数本の柱4、及び柱4の上に横架された梁(図示しない)等により構成されている。なお、本発明を重要文化財や世界遺産等の歴史的構造物または一般の古建築に適用する場合には、既設の軸組がそのまま用いられる。
構造壁5は、隣合う一対の柱4の間に積層された複数枚の横板13によって構成されている。なお、上下方向に積層される横板13同士の間には僅かな隙間が形成されるようになっている。本例の横板13は、木材で形成され板厚が約36mmに設定されている。図2(a)に示すように、横板13の表面には、複数本(例えば6本)の狭口溝16が長手方向(すなわち水平方向)に沿って形成されている。この狭口溝16は、開口側の溝幅(図2(a)では上下方向の長さ)が奥側の溝幅(溝底の幅)よりも狭くなっている。特に、本例では狭口溝16の側面が傾斜面となっており、溝の奥に向うほど幅が広くなっている。なお、本例では溝の深さが6mmで、開口側の溝幅が15mm、溝底の幅が20mmに設定されている。また、横板13の上面13aは奥側に向って僅かに下り勾配に形成され、下面13bは奥側に向って僅かに上り勾配に形成されている。つまり、横板13における上下方向の寸法は、奥側ほど短くなるように設定されている。換言すれば、複数枚の横板13を上下方向に並べた際、横板13同士の間に形成される隙間は、奥側に向って広がるようになっている。
補強壁6は、図1に示すように、隣合う一対の柱4の間において、左右方向に並設された複数枚の縦板18によって構成されている。縦板18の長さは構造壁5の高さと略一致しており、複数枚並設した際の左右方向の長さが、一対の柱4に夫々取付けられた壁取付具1の内寸と略一致している。なお、本例の縦板18は木材で形成されており、釘19によって構造壁5の裏面に打付けられている。
また、図2(b)に示すように、縦板18の表面(屋外側に現れる面)には、複数本(例えば6本)の狭口溝20が長手方向(すなわち鉛直方向)に沿って形成されている。この狭口溝20は、横板13における狭口溝16と同一の形状であり、溝の奥に向うほど幅が広くなっている。なお、本例では、縦板18の板厚が30mm、溝の深さが6mm、開口側の溝幅が15mm、溝底の幅が20mmに設定されている。また、左右両端側に配置される縦板18a(すなわち柱4に隣接して配置される縦板18a)は他の縦板18と異なった形状を呈しており、壁取付具1側の端面に、柱4の方向に突出する凸条21が上下方向に連続して形成されている。また、図1に示すように、縦板18も横板13と同じように、並設方向(左右方向)の寸法は、奥側ほど短くなっており、複数枚の縦板18を左右方向に並べた際、隣合う縦板18同士の間には、奥側に向って広がる隙間Sが形成されるようになっている。
壁取付具1は、図1及び図3に示すように、構造壁5及び補強壁6を一対の柱4の互いに対向する面に取付けるための部材であり、長さが構造壁5の高さ(すなわち縦板18の長さ)と略一致している。なお、本例の壁取付具1は木材で形成されているが、断面形状が一定の長尺物であることから、アルミニウム製の押出成形品で構成することも可能である。また、壁取付具1は、柱4に突合せられ釘23a等によって固定される取付面24と、構造壁5(複数の横板13)における前後方向の取付位置を定める第一位置決め部25と、補強壁6(詳しくは左右両側に配置された縦板18a)における前後方向の取付位置を定める第二位置決め部26とを備えて構成されている。ここで、第一位置決め部25は、横板13の板厚と一致する奥行L1を有しており、その一端側(図3では奥側)には取付面24に対して略直角方向に突出した当接面27が形成され、複数の横板13の端部が当接するように構成されている。なお、横板13は当接面27に当接した状態で固定されるように釘23bによって当接面27に打付けられている。
一方、第二位置決め部26は、縦板18の板厚と一致する奥行L2を有しており、第一位置決め部25の内壁面28よりも内側に突出して形成されるとともに、その内面には凹状の溝部30が上下方向に連続して形成されている。つまり、縦板18aにおける凸条21(図2(b)参照)が溝部30に嵌挿されることで、縦板18aにおける前後方向の動きが規制されるようになっている。
また、壁取付具1の一方の側面32には鋭角状に切欠かれた第一食込部32aが上下方向に連続して形成されている。この第一食込部32aは、縦板18aの狭口溝20の一部と等しい形状を呈しており、奥に向うほど幅が広くなるように傾斜面に形成されている。また、同様に、壁取付具1の他方の側面33においても鋭角状に切欠かれた二つの第二食込部33aが上下方向に連続して形成されている。ここで、側面32及び側面33が本発明の塗布面に相当する。
一方、図1に示すように、塗り壁7は、土及び粉炭を含む壁材が、構造壁5の表面、及び壁取付具1の側面32に、直接塗り込まれることにより構築されている。ここで、前述したように、構造壁5を構成する各横板13の表面には複数の狭口溝16(図2(a)参照)が形成されているため、構造壁5の表面に壁材を塗り込む際、その一部が狭口溝16内に入り込むことになる。したがって、壁材が乾燥し固化した状態では、その壁材は構造壁5に食い込んだ状態となる。また、塗り壁7は、壁取付具1の側面32にも連続して構築されるが、側面32には第一食込部32aが形成されているため、壁材は第一食込部32a(図3参照)にも食い込んだ状態となる。さらに、前述したように、横板13同士の間には、奥側に向って広がる隙間が形成されているため、横板13同士の境界部分に塗られた壁材は、この隙間にも入り込み食い込んだ状態となる。
また、塗り壁8は、壁材が、補強壁6の表面、及び壁取付具1の側面33に、直接塗り込まれることにより構築されている。なお、補強壁6を構成する複数の縦板18の表面には複数の狭口溝20(図2(b)参照)が形成され、また壁取付具1の側面33には第二食込部33a(図3参照)が形成され、さらに縦板18同士の間には奥側に向って広がる隙間Sが形成されているため、補強壁6の表面及び壁取付具1の側面33に壁材を塗り込む際、その一部が狭口溝20内、第二食込部33a、及び隙間S内に入り込むことになり、壁材が乾燥し固化した状態では、その壁材は補強壁6及び壁取付具1に食い込んだ状態となる。
次に、壁構造2の製造方法について、図1及び図4に基づき説明する。なお、図4では、壁構造2の一部分のみを拡大して示している。まず図4(a)に示すように、一対の柱4の互いに対向する面に、壁取付具1を取付ける。具体的には、壁取付具1の長さ方向が上下方向となるように壁取付具1の取付面24を柱4に突合せ、釘23a(図1参照)によって壁取付具1を柱4に打付ける。その後、図4(b)に示すように、一対の壁取付具1の間に複数枚の横板13を互いに隙間を設けた状態で積層し、構造壁5を構築する。この際、各横板13の左右両端側を、第一位置決め部25の当接面27に当接させることで前後方向の位置決めを行い、その後、釘23b(図1参照)によって当接面27に横板13を打付ける。これにより、複数枚の横板13を同一鉛直面上で並べることができ、構造壁5を構築することが可能になる。
続いて、図4(c)に示すように、構造壁5の裏面側において、複数枚の縦板18を互いに隙間を設けた状態で左右方向に並設し、釘19によって構造壁5に打付けることにより補強壁6を構築する。この際、柱4に隣接して配置される左右両側の縦板18aにおいては、端部に形成された凸条21を溝部30に嵌挿させることで前後方向の位置決めを行う。これにより、左右両側の縦板18aは、構造壁5に固定されることに加え、壁取付具1によっても前後方向の動きが規制されるため、一層強固に保持された状態となる。
その後、図1に示すように、構造壁5の表面及び壁取付具1の側面32に壁材を塗り込み、塗り壁7を構築する。この際、壁材が、横板13の狭口溝16(図2(a)参照)及び壁取付具1の第一食込部32a(図3参照)に入り込むため、乾燥すると食い込んだ状態となり構造壁5及び壁取付具1から剥れることが防止される。また、同様に、補強壁6の表面及び壁取付具1の側面33に壁材を塗り込み、塗り壁8を構築する。この際、壁材が、縦板18の狭口溝20(図2(b)参照)及び壁取付具1の第二食込部33a(図3参照)に入り込むため、補強壁6及び壁取付具1から剥れることが防止される。さらに、壁材は、横板13同士の間、及び縦板18同士の間に形成された隙間に入り込むため、横板13同士の境界部分及び縦板18同士の境界部分における、乾燥後のひび割れを防止することも可能になる。
このように、本実施形態の壁構造2によれば、複数枚の横板13によって構造壁5が構築され、また構造壁5の裏面には、複数枚の縦板18を左右方向に並設することによって補強壁6が構築され、さらに構造壁5及び補強壁6の表面には塗り壁7,8が構築されているため、軸組における剛性を大幅に高めることができ、耐震性及び耐風性に対し優れた建物を提供することが可能となる。具体的には、筋交いによる耐力壁の強さ(倍率)が1.5〜2.0であるのに対し、構造壁5及び補強壁6の構築によれば倍率を2.5とすることができ、さらに両面に塗り壁7,8を構築することにより倍率を3.0とすることが可能になる。
また、本実施形態の壁構造2によれば、壁取付具1を用いることにより、柱4に切削加工を行うことなく、一対の柱4間に構造壁5及び補強壁6を構築することができる。したがって、現場における作業性を高めるともに、重要文化財や世界遺産等の歴史的構造物の修復においても適用することが可能となる。つまり、既設の軸組を残したまま、一対の柱間に構造壁5、補強壁6、及び塗り壁7,8を構築することで、その後何百年もの間、地震や台風から持ちこたえさせることができ、しかも、柱及び塗り壁等における外観を建築当初のまま維持することができる。なお、本実施形態の壁構造2は日本国内の構造物だけではなく、同様の塗り壁を有する中国や韓国の構造物においても好適に用いることができる。
また、本実施形態の壁構造2によれば、構造壁5及び補強壁6の表面に、壁材を直接塗り込むため、壁の厚みを大幅に増加させることなく、塗り壁7,8が施された耐力壁を構築することができる。また、構造壁5及び補強壁6の表面に形成された狭口溝16,20、及び壁取付具1に形成された食込部32a,33aに、壁材の一部を食い込ませた状態で塗り壁7,8が塗工されるため、塗り壁7,8全体に亘って壁材の剥離や落下を防止することができる。また、小舞下地やラス下地が不要となるため、現場で簡単に塗り壁7,8を構築することができ、作業者の負担を大幅に軽減することができる。さらに、塗り壁7,8の下地として、木材からなる構造壁5及び補強壁6が存在するため、塗り壁7,8の表面から釘を打付けたり木ねじを締め付けたりすることも可能になる。
さらに、本実施形態の壁構造2によれば、構造壁5または補強壁6に塗り込まれた壁材の中に、粉炭が含まれているため、炭の吸収性を利用して、塗り壁における調湿作用を高めることが可能になり、ひいては室内の結露等を防止することが可能になる。また、粉炭によって室内の空気が浄化され、シックハウス症候群等を抑制することが可能になる。
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
すなわち、上記実施形態では、壁取付具1として木材から形成されたものを示したが、金属や合成樹脂から形成することも可能である。例えば、図5に示すものは、金属製の壁取付具40であり、柱4に突合せられ固定される取付面41と、その取付面41に対して略直角方向に延出して形成され、横板13の端部に当接することで横板13における前後方向の取付位置を定める第一位置決め壁42と、縦板18aの端部に当接することで縦板18aにおける前後方向の取付位置を定める第二位置決め壁43とを具備して構成されている。なお、取付面41には、複数の取付孔46が穿設されており、取付孔46を通して打込まれる釘47によって固着されるようになっている。また、第一位置決め壁42及び第二位置決め壁43の外側には、壁取付具1と同様、第一食込部44及び第二食込部45が形成されており、塗り壁(図示しない)が入り込むようになっている。ここで、第一位置決め壁42が本発明の第一位置決め部に相当し、第二位置決め壁43が本発明の第二位置決め部に相当する。このように金属製の壁取付具40によれば、比較的薄い材料でも十分な強度を得ることができるため、構造を一層簡単にし、且つ小型化することが可能になる。
また、上記の壁取付具40では、断面略コ字形に形成され、横板13及び縦板18aを、第一位置決め壁42及び第二位置決め壁43によって外側から挟み込むものを示したが、図6に示す壁取付具50のように、取付面41及び仕切壁52から断面略T字形に形成し、横板13及び縦板18aの間に仕切壁52が挿入されるものとすることもできる。この場合には、仕切壁52における一方の面が、横板13の取付位置を定める第一位置決め面53(本発明の第一位置決め部)となり、仕切壁52における他方の面が、縦板18aの取付位置を定める第二位置決め面54(本発明の第二位置決め部)となる。また、仕切壁52には、ボルト用透孔56が穿設されており、ボルト用透孔56と、横板13及び縦板18aに穿設された貫通孔(図示しない)とを通してボルト58を挿通させることが可能になっている。つまり、ボルト58を挿通して先端にナット59を螺合させることで、横板13及び縦板18aを仕切壁52に締付けることが可能となっている。この壁取付具50によれば、横板13及び縦板18aの表面側に壁取付具50が現れないため、壁材を食い込ませるための食込部が不要となり、構成を一層簡単にすることができる。
また、上記実施形態では、壁取付具1の長さを構造壁5の高さに一致させ、一本の壁取付具1を、積層される全ての横板13に対応させるものを示したが、壁取付具を比較的短いものとし、上下方向に所定の間隔で、または連続的に並設させるように構成してもよい。
また、上記実施形態では、構造壁5及び補強壁6の厚みを具体的に例示したが、柱の大きさ(幅)が大きいほど、構造壁5及び補強壁6の厚みが大きくなるように個々の設定することが好ましい。
また、上記実施形態では、狭口溝16,20を、横板13及び縦板18の長手方向に沿って形成するものを示したが、狭口溝16,20の方向は特に限定されるものではなく、横板13及び縦板18の短手方向に沿って形成してもよく、斜め方向に形成してもよい。また、狭口溝16と狭口溝20とが同一方向を向くように形成してもよい。
さらに、上記実施形態では、縦板18において、狭口溝20を、長手方向(すなわち鉛直方向)に連続して形成したものを示したが、長手方向に沿って、所定長さ(例えば50mm)の狭口溝を、所定の間隔で形成するようにしてもよい。これによれば、鉛直方向における狭口溝同士の間に、溝が形成されていない部分が生じるため、狭口溝に食い込んだ壁材が自重によって鉛直方向にずれることを防止することが可能になる。
また、上記実施形態では、土の壁7,8を構築するものを示したが、漆喰の壁を構築する場合も、本発明の構成を適用することができる。また、土壁の上から仕上げ材を塗るようにしてもよい。なお、屋外側となる塗り壁8に対しては雨が当たる可能性があることから、モルタルまたは漆喰を仕上げ材として塗ることが好ましい。
さらに、上記実施形態では、横板13及び縦板18として木材から形成されたものを示したが、集成材、パーティクルボード、ファイバーボード、及び合板等の木質材から形成するようにしてもよい。さらに、パルプ材、アルミニウム等の金属、または合成樹脂から形成するようにしてもよい。
1 壁取付具
2 壁構造(建物の壁構造)
4 柱
5 構造壁
6 補強壁
7 塗り壁
8 塗り壁
13 横板
16 狭口溝
18 縦板
20 狭口溝
24 取付面
25 第一位置決め部
26 第二位置決め部
30 溝部
32 側面(塗布面)
32a 第一食込部
33 側面(塗布面)
33a 第二食込部
40 壁取付具
41 取付面
42 第一位置決め壁(第一位置決め部)
43 第二位置決め壁(第二位置決め部)
44 第一食込部
45 第二食込部
50 壁取付具
53 第一位置決め面(第一位置決め部)
54 第二位置決め面(第二位置決め部)
特開2000−192574号

Claims (4)

  1. 軸組の構成要素である少なくとも一対の柱の間に積層されて構造壁を構築する複数枚の横板、
    長さが前記構造壁の高さと略一致し、該構造壁の裏面側で左右方向に複数枚並設されることにより前記一対の柱の間に補強壁を構築する縦板、
    前記横板及び前記縦板の表面に形成され、開口側の溝幅が奥側の溝幅よりも狭く設定された複数の狭口溝、
    及び、該複数の狭口溝内に充填されるように、土等の壁材が、前記構造壁及び前記補強壁の表面に直接塗り込まれることにより構築される塗り壁
    を具備する壁構造、を構築する際に用いられ、前記構造壁及び前記補強壁の両端部を、前記一対の柱の互いに対向する面に取付けるための壁取付具であって、
    前記柱に突合せられ固定される取付面と、
    該取付面に対して略直角方向に延出して形成され、前記構造壁の端部に当接することで該構造壁における前後方向の取付位置を定める第一位置決め部と、
    前記取付面に対して略直角方向に延出して形成され、前記補強壁の端部に当接することで該補強壁における前後方向の取付位置を定める第二位置決め部と
    を備えることを特徴とする壁取付具。
  2. 上下方向に沿って形成され、前記構造壁または前記補強壁の端部が嵌挿される凹状の溝部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の壁取付具。
  3. 前記柱と前記構造壁及び前記補強壁との間に位置し、表面に前記壁材が直接塗り込まれる塗布面をさらに備え、
    該塗布面は、前記壁材の一部が食込まれる食込部を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の壁取付具。
  4. 軸組の構成要素である少なくとも一対の柱の間に積層されて構造壁を構築する複数枚の横板と、
    長さが前記構造壁の高さと略一致し、該構造壁の裏面側で左右方向に複数枚並設されることにより前記一対の柱の間に補強壁を構築する縦板と、
    前記横板及び前記縦板の表面に形成され、開口側の溝幅が奥側の溝幅よりも狭く設定された複数の狭口溝と、
    該複数の狭口溝内に充填されるように、土等の壁材が、前記構造壁及び前記補強壁の表面に直接塗り込まれることにより構築される塗り壁と、
    前記構造壁及び前記補強壁の両端部を、前記一対の柱の互いに対向する面に取付けるための壁取付具であって、前記柱に突合せられ固定される取付面、該取付面に対して略直角方向に延出して形成され前記構造壁の端部に当接することで該構造壁における前後方向の取付位置を定める第一位置決め部、及び前記取付面に対して略直角方向に延出して形成され前記補強壁の端部に当接することで該補強壁における前後方向の取付位置を定める第二位置決め部を有する壁取付具と
    を具備することを特徴とする建物の壁構造。
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