JP4373785B2 - 基材の熱被覆用金属粉末 - Google Patents

Description

本発明は、溶射粉末、並びにその製造方法および使用に係り、とりわけ、アルミニウム基材を熱被覆するための溶射粉末に関するものである。

アルミニウム基材に被覆を施すための種々の方法が以前から知られている。これらの方法は、例えば、溶射によって形成された、シリンダ・ライナーを有するアルミニウムのエンジン・ブロックに使用されている。

米国特許第２５８８４２２号には、溶射によって形成された、シリンダ・ライナーを有するアルミニウムのエンジング・ブロックが開示されている。これらのライナーはエンジン・ブロックの未処理の表面に二層をなして形成され、上層は厚さが１ｍｍの例えば鋼のような硬質の摺動層であり、下層は厚さが約５０ミクロンのモリブデンの中間層である。少なくとも６０％のモリブデンを含有する中間層は摺動層を構成しないが、硬質の摺動層をアルミニウム・ブロックに結合させるために必要である。中間層は純モリブデンで形成することが好ましい。摺動層は、例えば炭素鋼、青銅、またはステンレス鋼のような硬質金属の層であり、前記鋼はニッケル、クロム、バナジウムまたはモリブデンを含有する合金でよい。原理的には、この二層構造は良好な摺動層を提供するが、二重被覆のコストは多大となる。

最近の溶射方法においては、溶射粉末は、例えば米国特許第６０９５１０７号の記載のようにモリブデン粉末と鋼粉末との混合物から構成されている。しかし、母材となる鋼粉末と粉砕したモリブデン粉末との間の特性の差により偏析が起こる危険性があり、この問題は非均一な被覆をもたらす可能性がある。別の欠点は、この偏析作用のため、比較的大量のモリブデンが必要とされることである。

本発明の主要な目的は、基材、とりわけアルミニウムの熱被覆のための安価な金属粉末を提供することである。
本発明の別の目的は、偏析を起こさず、高価なモリブデンの合金量を現在使用されている方法と比較して低減できる粉末を提供することである。
本発明の別の目的は、高い溶着効率を有し、優れた被覆品質を与える熱被覆粉末を提供することである。
本発明の別の目的は、適当な気孔率と酸化物含有率とを有する被膜であって、気孔が概ね閉じて孤立しており、気孔径が有利な範囲にある被覆を作製できる熱被覆粉末を提供することである。

これらの目的は、例えば三酸化モリブデンを還元したようなモリブデン粉末を母材粉末粒体に拡散合金化により予め合金化された鉄基粉末を含む金属粉末によって達成される。

鉄基粉末の種類および粒径は、最終の被覆および基材に要求される特性を考慮して選択される。母材粉末は、被覆に対して要求される成分によって予め合金化されることが好ましい。また、モリブデン含有量の一部が、予め合金化する粉末に含まれてもよい。予め合金化する母材粉末に含有させることができる他の成分はＣ，Ｓｉ，Ｍｎ，Ｃｒ，ＶおよびＷである。予め合金化する粉末は、水アトマイズまたはガス・アトマイズによって作製できる。母材粉末の粒径はＰＴＡに対しては５００ミクロン未満、好ましくは２５〜２１０ミクロンで、ＨＶＯＦ又はプラズマ溶射に対しては９０ミクロン未満、好ましくは６５ミクロン未満である。

本発明によれば、母材の粉末と、好ましくは三酸化モリブデンである合金化粉末（すなわち、合金成分源）とは所定の配合で混合され、該混合物は、その融点未満の温度に加熱される。部分的な合金化または拡散合金化された粉末を形成するために、この温度は十分高くし、それにより合金化成分を鉄基粉末中へ適当に拡散されるのを保証するべきである。他方、この温度は完全に予め合金化するのに必要とされる温度より低くするべきである。この温度は、通常７００℃〜１０００℃、好ましくは７５０℃〜９００℃であり、還元は還元雰囲気、例えば水素中で、好適なモリブデン源である三酸化モリブデンを還元するために３０分〜２時間までの時間実行される。代替のモリブデン源として、金属モリブデンが使用できる。この点に関しては、母材粉末粒体にモリブデンを拡散合金化した金属粉末は日本の特許公開公報第８−２０９２０２号、第６３−１３７１０２号および第３−２６４６４２号により知られている。しかし、これらの既知の粉末は各種形状および寸法の焼結製品を製造するために粉末冶金工業において使用されている。更に、本発明による粉末とは対照的に、これらの既知の粉末は母材粉末に、モリブデンのみならず銅および／またはニッケルを拡散合金化したものもある。これらの既知の粉末においては、拡散合金化されたモリブデン含有量は通常低く、一方本発明による熱被覆のための粉末においては拡散合金化したモリブデンの含有量は効率的な摺動を達成するために高くするべきである。これまで、約４重量％を超える拡散合金化したモリブデン含有量を有する粉末によって最も興味のある結果が達成された。また、本発明による溶射用粉末においては、母材粉末粒体にモリブデンのみが拡散合金化されることも認識すべきである。この拡散合金化されたモリブデンの上限は、母材粒体にどの程度のモリブデンを含有できるかにより決定されるが、以下に示すように約１５重量％であると考えられる。

三酸化モリブデンが還元されるときに得られるモリブデンの粒体が、母材粉末粒体と比較して極めて小さいので、最終的な溶射粉末の粒径は、予め還元した母材の粉末と基本的に同じである。母材の粉末に拡散合金化されるＭｏ量は、全体の粉末成分の重量の少なくとも２％とするべきである。Ｍｏ量は２〜１５重量％が好ましく、最も好ましいのは３〜１０重量％である。

母材金属の基材上に拡散合金化した粉末を付与する種々の方法は、例えば火炎溶射、ＨＶＯＦおよびプラズマ溶射、またはＰＴＡのような、溶射または溶接クラッデイング法である。

本発明を限定すべきではないが、以下の作製例によって更に説明する。

水アトマイズによるＦｅ母材（Ｆｅ−３Ｃｒ−０．５Ｍｏ）に５％Ｍｏを加えた熱被覆用の新規材料の実験。

使用した母材と化学分析：
水アトマイズした鉄粉末（Ｆｅ−３Ｃｒ−０．５Ｍｏ）〜７１μｍ
三酸化モリブデンＭｏＯ₃ （平均粒径 ３〜７μｍ）

製法
９２．４６％の水アトマイズ粉（Ｆｅ−３Ｃｒ−０．５Ｍｏ粉末）および７．５４％のＭｏＯ₃ とがレディゲ（Ｌｏｅｄｉｇｅ）混合機で一緒に混合され、以下の熱処理が施された。
温度：８２０℃
時間：６０分
雰囲気：還元雰囲気（Ｈ₂，Ｎ₂，ＣＯ₂およびこれらのガスの混合物）
熱処理後、粉末の固まりが粉砕され、７５μｍ未満の粒径をふるい分けた。

得られた粉末はアルミニウム基の基材を被覆するためにプラズマ溶射工程で使用された。最少量のＭｏによって、予期せぬ均質の優れた被覆が得られた。

母材粉末の粒体の表面にモリブデンを拡散合金化した粉末の顕微鏡写真。 図２は被覆を示す。

Claims (13)

1. 基材に熱被覆するための金属粉末の使用において、
   該金属粉末が、実質的に、母材の粉末粒体にモリブデン粒体を拡散合金化により予め合金化された鉄基粉末粒体からなり、
   前記モリブデン粒体が、三酸化モリブデンの還元により得られ、
   前記母材の粉末粒体に拡散合金化されるモリブデンの量が、金属粉末の２〜１５重量％である、基材の熱被覆用金属粉末の使用。
2. 前記母材の粉末粒体に拡散合金化されるモリブデンの量が、金属粉末の３〜１０重量％である、請求項１に記載された基材の熱被覆用金属粉末の使用。
3. 前記母材の粉末粒体に拡散合金化されるモリブデンの量が、金属粉末の４〜１０重量％である請求項１又は請求項２に記載された基材の熱被覆用金属粉末の使用。
4. 基材に熱被覆するための金属粉末において、
   該金属粉末が、実質的に、母材の粉末粒体にモリブデン粒体を拡散合金化により予め合金化された鉄基粉末粒体からなり、
   前記モリブデン粒体が、三酸化モリブデンの還元により得られ、
   前記母材の粉末粒体に拡散合金化されるモリブデン量が、金属粉末の４〜１５重量％である、基材の熱被覆用金属粉末。
5. 前記母材の粉末粒体に拡散合金化されるモリブデン量が、金属粉末の４〜１０重量％である請求項４に記載された基材の熱被覆用金属粉末。
6. 前記予め合金化される母材粉末がガス・アトマイズ粉である請求項４または請求項５に記載された基材の熱被覆用金属粉末。
7. 前記母材粉末が水アトマイズ粉である請求項４または請求項５に記載された基材の熱被覆用金属粉末。
8. 前記予め合金化される母材粉末が、炭素、珪素、マンガン、クロム、モリブデン、バナジウム、およびタングステンから成る群から選択された少なくとも一つの成分を含む請求項４から請求項７までのいずれか１項に記載された基材の熱被覆用金属粉末。
9. 前記母材粉末の粒径が５００ミクロン未満である請求項４から請求項８までのいずれか１項に記載された基材の熱被覆用金属粉末。
10. 前記母材粉末の粒径が２５〜２１０ミクロンである請求項４から請求項９までのいずれか１項に記載された基材の熱被覆用金属粉末。
11. 前記母材粉末の粒径が９０ミクロン未満である請求項４から請求項１０までのいずれか１項に記載された基材の熱被覆用金属粉末。
12. 前記母材粉末の粒径が６５ミクロン未満である請求項４から請求項１１までのいずれか１項に記載された基材の熱被覆用金属粉末。
13. アルミニウム基材に熱被覆するためのものである請求項４から請求項１２までのいずれか１項に記載された基材の熱被覆用金属粉末。