しかし、鉄材をはじめとする一般的な鋼材は、低温脆性を持つことが知られている。インホイールモータを搭載する車両は例えば冬季や寒冷地等で低温環境下に晒される場合が多々あると共に、電気駆動であるため、運転者は搭乗後すぐに車両をスタートさせることが可能である。そのため、低温状態のハウジング等は脆い状態で継続的な振動を受けたり、路面の凹凸を通過するとき等に強い衝撃を受ける可能性がある。その結果、脆い状態のハウジングの強度不足が発生する場合がある。低温脆性の対策としては、肉厚の増加等が考えられるが、前述のように重量化を招き好ましくない。そこで、インホイールモータの構成部材に安価な薄肉の鉄材等の鋼材を用いた場合でも、低温脆性を回避するこのとのできるインホイールモータが望まれている。特に、機械的な構成を大きく変化させることなく、インホイールモータの制御で低温脆性を回避する手法が望まれている。
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、薄肉の鋼材で構成されるインホイールモータの構成部品の低温脆性を回避することのできるインホイールモータの制御装置を提供することにある。
本発明は、車輪を回転駆動可能な回転電機を車輪内部に収納したインホイールモータの制御装置であって、前記インホイールモータの温度を取得する温度取得手段と、前記温度取得手段の取得した温度に基づき、回転電機に供給する電力量を制御して暖機駆動する暖機駆動手段と、を含み、前記暖機駆動手段は、要求される走行トルクに対して、前輪側と後輪側に逆方向で同量のトルクを発生させる電力を上乗せし暖機を行うことを特徴とする。
回転電機を構成するロータに巻回されたコイルに電圧を印加し電流を流すことによりジュール熱を発生させることができる。従って、温度取得手段により取得されるインホイールモータの温度に応じて、発熱を期待して回転電機に供給する電力量を適宜制御することにより、所望の量のジュール熱を確保することが可能となり、インホイールモータを暖機することができる。その結果、インホイールモータの低温脆性を回避することができる。このとき、例えば、前輪側のインホイールモータに対しアクセルペダルの踏力等に応じて決まる正規の走行トルク指令が供給される場合、この走行トルクに加え、先進方向に+α%のトルクを上乗せするようにトルク指令を提供する。一方、後輪側のインホイールモータには正規の走行トルク指令に、−α%のトルクを上乗せしたトルク指令、すなわち後退方向に同量のトルクを正規の走行トルクに上乗せする。その結果、見かけ上、車両はアクセルペダルの踏力等に応じて決まる正規の走行トルク指令にしたがって走行しているように見えるが、上乗せする±トルク分の電力を消費し、インホイールモータにジュール熱が発生する。上述の場合、前輪側が加熱される。後輪側の加熱を行う場合には、前輪側を−α%、後輪側を+α%とする制御を行う。その結果、車両が走行を開始した状態でも暖機駆動手段によるインホイールモータの暖機制御を行うことが可能になる。もちろん、要求される走行トルクが「ゼロ」の場合、すなわち、車両が停止状態の場合でも、前輪側と後輪側に逆方向で同量のトルクを発生する電力を上乗せすることによって、インホイールモータの暖機制御を行うことができる。
また、上記構成において、前記暖機駆動手段は、インホイールモータの外郭を構成するハウジングの温度増加を行うことが好適である。
インホイールモータのハウジングは、外気に晒されている。従って、低温脆性が顕著に表れる。しかし、暖機駆動手段の制御で発生するジュール熱により当該ハウジングの温度増加を行うことでインホイールモータの低温脆性を容易かつ確実に回避することができる。
また、上記構成において、前記温度取得手段は、インホイールモータ自体の温度を直接検出する温度検出器から温度を取得することができる。
例えば、インホイールモータのハウジングに温度検出器を設けることにより、インホイールモータ自体の温度を直接取得し、暖機駆動手段の制御に反映させることができる。この態様によれば、インホイールモータの低温脆性を確実かつ迅速に回避することができる。
また、上記構成において、前記温度取得手段は、車両の取得する情報に基づきインホイールモータの温度を推定するようにしてもよい。
例えば、車両には例えば空気調和装置用に外気温センサが備えられている。また、ナビゲーション装置やFM多重受信器、その他の外部情報取得手段により、車両周囲の温度を取得することができる。そして、取得した外気温を例えば、予め準備しておいた車両周囲温度とインホイールモータの温度との相関テーブル等を用いてインホイールモータの温度に変換することにより、外気温からインホイールモータの温度を容易に推定することができる。
この態様によれば、車両に既設の温度取得手段を利用することが可能になり、新たなセンサ等を設けることなく容易に暖機駆動手段の制御を行うことができる。
また、上記構成において、前記暖機駆動手段は、回転電機の回転トルクを発生しない電力供給制御を行うようにしてもよい。
例えば、回転電機が三相コイルの場合、所定量タイミングをずらしながら各相のコイルに所定量の電圧を順次印加することにより、回転磁界が発生し回転電機のロータに所望のトルクを発生させることができる。しかし、各コイルに三相同時に同量の電圧を印加することにより回転磁界を発生させることなく、電力消費を行うことができる。この場合、回転磁界が発生しないのでロータに回転トルクは発生しないが、各相のコイルに電流のみが流れることになりジュール熱が発生する。
この態様によれば、車両が停止中にインホイールモータの暖機を行うことが可能であり、低温脆性の回避を確実に行うことができる。
また、上記構成において、前記暖機駆動手段は、回転電機の各コイルへの電力供給を所定時間オーバーラップさせるようにしてもよい。
この場合、電力供給がオーバーラップしている間、オーバーラップしている電力により回転トルクは発生せず、電力のみが消費される。すなわち、この部分でジュール熱が発生する。この態様によれば、車両が走行を開始した状態でも暖機駆動手段によるインホイールモータの暖機制御を行うことが可能になる。
本発明によれば、インホイールモータの温度に応じてインホイールモータの駆動制御を行うことにより、インホイールモータの低温脆性を容易に回避することができる。
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態という)を、図面に基づいて説明する。
本実施形態のインホイールモータの制御装置は、インホイールモータの温度を直接または間接的に取得し、取得した温度が所定温度以下であった場合に、インホイールモータに低温脆性が現れていると判断し、インホイールモータを通常動作と異なる電力のみを消費する形態または、通常動作に加え過剰な電力消費を行うような制御を行い、故意にインホイールモータを発熱させ、インホイールモータの低温脆性が現れている部品、例えば外郭を形成してるハウジングの温度を上昇させ、低温脆性を回避するものである。
図1には、本実施形態のインホイールモータの制御装置を適用可能な車両10の概念構成が示されている。車体12の各車輪装着位置には、図示を省略したサスペンションに接続されたインホイールモータ100が配置されている。このインホイールモータ100を駆動する場合、例えば、アクセルペダル14から入力される運転者の操作量に基づき、インホイールモータ100の制御部であるECU16がインバータ等を含む各アンプ18にトルク指令値を供給する。アンプ18には、バッテリ20が接続されており、必要なタイミングで必要量の電力をインホイールモータ100に提供し運転者の操作量を反映した回転駆動を実現している。なお、ECU16には、この他、ブレーキペダル22からその踏み込み操作量を示す信号や、ステアリング24から舵角等を示す信号が入力され、必要に応じて、インホイールモータ100の制御に反映できるようになっている。例えば、ブレーキペダル22が操作され、運転者が減速要求を行った場合には、ECU16は、インホイールモータ100を発電機として機能させて回生制動を行うと共に、必要の応じてバッテリ20への充電を行う。これにより、常用の油圧ブレーキの代わりまたは、油圧ブレーキに加え制動力を確保することが可能になり、安定した制動を行うことができる。また、ステアリング24の操舵に基づき、ECU16は左右のインホイールモータ100の出力バランスを変化させ、旋回のアシストを行ったりすることができる。
また、ECU16には、インホイールモータ100の直接の温度または間接的な温度を取得する温度取得手段として、温度取得部26が設けられている。この温度取得部26には、各インホイールモータ100を構成する例えばハウジングHの温度を測定する温度検出器28から実測温度が提供される。この温度検出器28は、ハウジングHの温度をできるだけ正確に測定できるように、直射日光が当たったり、風雨に晒されたりしない位置を選んで取り付けられることが望ましい。
また、温度取得部26は、温度検出器28からの情報に代えた、或いは加えて車両10で取得可能な温度情報の提供を受けてもよい。車両10で取得可能な温度情報とは、例えば、空気調和装置制御用として車両10に通常搭載されている外気温センサ30から提供される車両周囲の温度情報や、近年普及がめざましいナビゲーション装置32から取得可能な位置情報や時刻、地域情報等に基づき得られる温度情報、また、FM多重受信器や各種ビーコン、各種情報提供システムの端末器等任意の外部情報受信器34を介して得られる情報、または、推定される車両周囲の温度である。温度取得部26がこのような車両周囲の温度情報を取得した場合、予め準備しておいた車両周囲温度とインホイールモータの温度との相関テーブル等を用いて、車両周囲の温度をインホイールモータの温度に推定変換する。後者のように車両10の周囲温度を検出する場合、温度検出器28等の新たなセンサを設ける必要がないので、本実施形態のインホイールモータの制御装置のコスト抑制に寄与することができる。もちろん、温度検出器28と後者の車両周囲に温度取得手段の全て、または任意に選択した温度取得手段とを組み合わせてインホイールモータ100の温度認識を行ってもよく、温度認識精度の向上や信頼性の向上を行うことができる。
また、ECU16には、温度取得部26の取得したインホイールモータ100の温度に応じて、インホイールモータ100の暖機運転を行う暖機駆動手段としての暖機駆動部36が含まれている。この暖機駆動部36は、温度取得部26が取得したインホイールモータ100の温度が所定温度以下、例えば、−5℃以下の場合、暖機制御を行うべくインホイールモータを駆動するアンプ18に対して暖機を考慮した電力量を制御する制御指令を送出する。この場合、インホイールモータ100において、回転トルクを発生することなく電力消費が行われ、その時に発生するジュール熱によりインホイールモータ100の暖機が行われる。このときの暖機制御は、インホイールモータ100が所定温度以下の場合、温度に関わりなく一律に制御するようにしてもよいが、温度レベルに応じて、暖機強さを変更することが望ましい。例えば、インホイールモータ100の温度Xが−10℃<X≦−5℃の場合、連続的な弱加熱、例えば0.5℃/分、−20℃<X≦−10℃の場合、間欠的な強加熱、例えば2℃/分、X≦−20℃の場合、連続的な強加熱、例えば4℃/分とすることができる。もちろん、加熱スピードや加熱間隔等の加熱パターンは適宜選択することが好ましい。また、加熱による温度推移に応じて加熱パターンを変更するようにしてもよい。このように、インホイールモータ100の温度状態に応じて暖機制御レベルを変化させることにより経済的な暖機制御を行うことができる。
図2には、車両用のインホイールモータ100の概念構成図が示されている。図2に示されるように、タイヤ102を装着したホイール104がハブナット106により、ハブホイール108に固定されている。ハブホイール108は、モータハウジング110から突出した出力軸112に固定され共に回転する。モータハウジング110の内部には回転電機114が収納されている。また、モータハウジング110の車体側側面には、回転電機114のロータ116の回転を減速する歯車減速機118を収納したギアハウジング120が接続固定されている。回転電機114の発生する回転出力は歯車減速機118を介して出力軸112、ホイール104に伝達され、この伝達された回転力によってホイール104がタイヤ102と共に回転駆動される。
モータハウジング110は、図2において、例えば左右方向に2分割可能な椀型形状を呈し、ホイール104側には、ギアハウジング120側から延びる出力軸112を挿通可能な開口部122が形成されている。開口部122には、ベアリング124が配置され、モータハウジング110に対して、出力軸112を回転自在に軸支している。一方、モータハウジング110のギアハウジング120接続側には、ロータ116を挿通可能な開口部126が形成されている。開口部126には、ベアリング128が配置され、ロータ116をモータハウジング110に対して回転自在に軸支している。
モータハウジング110は、図示しないサスペンションのバネ下重量の軽量化および耐久性、コスト削減等を考慮して鉄材で構成されている。
モータハウジング110の内壁面には、環状のステータ130が固定され、当該ステータ130の内側に、ロータ116が配置され、さらにそのロータ116の内部に出力軸112が回転自在に収納されている。
ステータ130は、例えば板状の電磁鋼板が複数積層され、中心方向、すなわちロータ116の中心方向に延びるスロット部とティース部とが交互に形成される環状の鉄心132aと、当該鉄心132aの各ティース部に巻回配置される3相の磁界コイル132bとで構成されている。なお、ステータ130を構成する鉄心132aは内周側に磁界コイル132bを配置するため、磁界コイル132bの組付性を考慮し、半径方向に複数に分割される分割鉄心として、磁界コイル132bの組み付け後環状に組み立てられることが望ましい。このように組み付けられた磁界コイル132bに順次所定のタイミングで電圧を印加することにより、ステータ130に回転磁界を発生させ、ロータ116を回転させることができる。
一方、ステータ130の内周側に配置されるロータ116は、その軸長全体に亘って中心部に出力軸112を回転自在に挿通するための挿通孔116aが形成されている。出力軸112は挿通孔116aに配置された複数のベアリング134により、ロータ116に対して独立的に回転するようになっている。ロータ116は、ステータ130と対向する大径部分とそれに連なり歯車減速機118側に延びる小径部分とで構成されている。大径部分の外周面には等間隔で複数の永久磁石が136が配列され、ステータ130が発生する回転磁界の移動に伴い永久磁石136を介して吸着作用と反発作用が繰り返され、当該ロータ116を所望の方向に所望の速度で回転させている。
ロータ116の小径部分は、ギアハウジング120の内部まで延び、その先端部には、歯車減速機118の第1ギア138aと噛合するロータギア140が形成されている。ギアハウジング120もモータハウジング110と同様に例えば、鉄材によって形成された分割構造とすることが好ましい。その内部には、第1ギア138aを支持するギアシャフト142が複数のベアリング144によって軸支されている。このギアシャフト142には、小径の第2ギア138bが固定されている。さらに、第2ギア138bは、出力軸112に固定されている大径の第3ギア138cに噛合している。従って、ロータ116の回転力は、歯車減速機118によって所定速度に減速されつつ、トルク増加を行いながら出力軸112へと伝達され、ホイール104およびタイヤ102を回転駆動する。なお、出力軸112は、ギアハウジング120内部に配置されたベアリング146にも軸支され、スムーズな回転駆動を行うようになっている。また、図2の構造の場合、ギアハウジング120の車両側には、図示しないストラットブラケットに固定するためのボス部148が一体的に形成され、図示しないストラットサスペンションを介して、車体側に固定されるようになっている。
なお、図2の構成においては、モータハウジング110とギアハウジング120とは、別構成として示されているが、一体化されていてもよく、図1においては、両者をまとめてインホイールモータ100のハウジングHとして示している。
このように構成されるインホイールモータ100は、ECU16からのトルク指令により、アンプ18のインバータを介して所定の交流が、ステータ130の磁界コイル132b供給される。その結果、ステータ130は、回転磁界を発生させてロータ116を回転させる。つまり、ホイール104と共にタイヤ102を所望の方向に所望の回転量だけ駆動する。
上述のように構成されるインホイールモータ100を搭載する車両10において、インホイールモータ100の低温脆性を回避する手順を図3のフローチャートに基づき説明する。
インホイールモータ100全体の制御を行う制御装置としてのECU16は、まず、車両10が駆動可能状態に移行したか否かの判断を行う。この判断は、例えば、イグニッションスイッチがONされたか否かによって判断することができる(S100のYまたはN)。もし、イグニッションスイッチがONされた場合、ECU16は、近い将来インホイールモータ100の駆動により車両10が走行を開始する可能性が大きいと判断し、インホイールモータ100の例えばハウジングHが低温脆性を示す温度まで低下しているか否か判断するために、モータ温度の取得を行う(S102)。この時の温度取得は、前述したように、ハウジングHの任意の位置に配置された温度検出器28によって、直接的に行ってもよいし、車両10側で取得可能な車両10周囲の温度情報に基づいて、インホイールモータ100のハウジングHの温度を推定してもよい。
ECU16の暖機駆動部36は、温度取得部26が取得したハウジングHの温度が所定温度以下、例えば、−5℃以下か否かの判断を行う(S104)。もし、ハウジングHの温度が所定値より高い場合(S104のN)、ハウジングHを含むインホイールモータ100は低温脆性に関し配慮する必要がないと判断し、通常のインホイールモータ100の制御を可能として(S106)、暖機制御を終了する。すなわち、ECU16は、運転者が操作するアクセルペダル14の踏力等に基づきトルク指令値を決定し、最も効率的にインホイールモータ100を駆動する制御を行うモードに移行し、実際のアクセルペダル14の操作が発生するのを待つ。
一方、ECU16の暖機駆動部36は、温度取得部26が取得したハウジングHの温度が所定温度以下であると判断した場合(S104のY)、現在、車両10が走行状態か否かの判断を行う(S108のNまたはY)。この判断は、車速センサや車輪速センサ、アクセルペダルの状態等により容易に認識することができる。
ステップS108において、走行中ではないと判断された場合(S108のN)、ECU16の暖機駆動部36は、暖機制御を開始する(S110)。前述したように、この暖機制御は、一律の加熱パターンを形成するように制御されてもよいし、温度取得部26が取得したハウジングHの温度に応じた加熱パターンを選択してもよい。インホイールモータ100の暖機を行う方法としては、回転トルクを発生させないようなタイミングと方法で各コイルに電力を供給し、消費することによりジュール熱を発生させる。
例えば、デルタ結線の三相モータの場合、図4に示す(1)〜(6)の順番でコイルU,V,Wに所定時間電圧を印加することにより、効率的な回転磁界が発生し、ロータがスムーズに回転する。すなわち、インホイールモータ100の駆動を最も効率的に行い、発生するジュール熱を最小に抑えることができる。一方、各コイルU,V,Wに同時に同量の電圧を印加した場合、回転磁界は発生しない。つまり、インホイールモータ100に回転トルクが発生することなく、各コイルU,V,Wに電流のみが流れ、ジュール熱として消費される。もちろん、このとき印加する電圧を調整することにより、所望のスピードでジュール熱による加熱効果を得ることができる。また、電圧の印加を連続的に行ったり、間欠的に行うことによってもジュール熱による加熱スピードの調節を行うことができる。そして、コイル部分で発生したジュール熱は、ステータ130を介してモータハウジング110、ギアハウジング120へと伝搬する。つまりハウジングHが加熱され、低温脆性を回避することが可能となる。
温度取得部26は、常時ハウジングHの温度を温度検出器28を介して監視しており、ハウジングHが低温脆性の影響を受けない温度、例えば−5℃以上になり暖機か完了したか否かの判断を行う(S112のYまたはN)。もし、所定温度まで温度が上昇していない場合(S112のN)、ステップS110の暖機制御を継続するように暖機駆動部36へ信号を送出する。また。ハウジングHの温度が所定温度以上に加熱されたことが確認できた場合(S112のY)、暖機駆動部36へ暖機制御完了の信号を送出し、暖機制御を完了し(S114)、一連の暖機制御を終了する。なお、車両周囲の温度からインホイールモータの温度を推定した場合、車両周囲の温度からは暖機完了を判断することができない。そこで、例えば、タイマー等を用い、予め行ったシミュレーションに基づき、所定時間の暖機を行うようにしてもよい。この場合も、最初に推定したインホイールモータ100の温度に応じて、タイマーの時間を変化させることが望ましい。
一方、ステップS108において、車両10が走行中、或いは走行を開始しようとしていると判断できた場合(S108のY)、ECU16は、インホイールモータ100の暖機制御と走行のための通常制御とを同時に行う(S116)。
この場合の暖機制御は、インホイールモータ100の走行に必要な回転トルクを発生させつつ、コイルU,V,Wにおいて、所望のジュール熱を発生させる必要がある。図5の上段には、ステップS106で行う通常制御時の電圧印加のタイミングチャートが示されている。各タイミングにおける電圧印加は、オーバーラップすることなく、切り替えられ、エネルギロスを最小に抑え、効率的かつスムーズな回転磁界を発生させ、ロータ116が回転するようになっている。一方、暖機制御を行う場合、図5の下段に示すように、各コイルU,V,Wに印加する電圧の切り替えタイミングを所定時間、例えばt秒間オーバーラップさせる。正規の切り替えタイミングの前後で供給される電力は、回転トルクの発生に寄与することなく消費される。すなわち、ジュール熱に変わる。このとき発生するジュール熱を利用し、インホイールモータ100のハウジングHの加熱を行うことができる。オーバーラップさせる時間は必要とされる加熱温度に応じて適宜選択可能であるが、オーバーラップする時間が長く成りすぎると、回転磁界が不安定に成るおそれがあるので、実測等によりオーバーラップの許容最高値を設定しておくことが望ましい。
走行中に暖機制御を行う場合も、温度取得部26は、常時ハウジングHの温度を温度検出器28を介して監視しており、ハウジングHが低温脆性の影響を受けない温度、例えば−5℃以上になり暖機が完了したか否かの判断を行う(S118のYまたはN)。もし、所定温度まで温度が上昇していない場合(S118のN)、ステップS116の暖機制御を継続するように暖機駆動部36へ信号を送出する。また。ハウジングHの温度が所定温度以上に加熱されたことが確認できた場合(S118のY)、暖機駆動部36へ暖機制御完了の信号を送出し、暖機制御を完了し(S114)、一連の暖機制御を終了する。
このように、本実施形態においては、インホイールモータ100の温度を取得し、電圧印加のタイミングを適宜調整することにより、インホイールモータ100により車両10が停止状態の時でも、また走行状態の時でも、ハウジングHの暖機を良好に行い低温脆性を回避することが可能となる。なお、図3に示すフローチャートの場合、暖機制御を行うか否かを単一の閾値温度、例えば−5℃で判断したが、段階的に、例えば、−5℃、−10℃、−20℃等で判断し、それぞれ検出温度に適した暖機制御を行うようにしてもよい。この場合、さらに経済的で迅速な暖機制御を行うことができる。
なお、インホイールモータ100の駆動によるジュール熱の発生方法は、上述したような各コイルに一斉に等しい電圧を印加したり、電圧印加の切り替えタイミングをオーバーラップさせる方法の他、例えば、アクセルペダル14の操作により要求される走行トルクに対して、前輪側と後輪側に逆方向で同量のトルクを発生させる電力を上乗せしてインホイールモータ100を駆動することにより、要求される走行トルクを維持したまま、上乗せ分の電圧消費により暖機を行うことができる。例えば、図1に示すように、暖機駆動部36を含むECU16から各インホイールモータ100のアンプ18に提供するトルク指令値を、前輪側で+20%、後輪側で−20%をアクセルペダル14の操作等により決まる正規の走行トルクに上乗せする。つまり、前輪右側の上乗せトルクは後輪右側で打ち消し、前輪左側の上乗せトルクは後輪左側で打ち消すように制御する。この場合、前輪側のインホイールモータ100の温度と後輪側のインホイールモータ100の温度とが略同一の場合は、前輪側+、後輪側−とする制御と前輪側−、後輪側+とする制御を同時間行う。また、各インホイールモータ100の温度が不均一の場合には、その温度に応じて、上乗せするトルクや上乗せしている時間を左側前後、右側前後で適宜調節する。もちろん、車両10が停止している時は、要求される走行トルクが「ゼロ」であるので、ゼロに対して前輪側+、後輪側−とする上乗せ制御または前輪側−、後輪側+とする上乗せ制御のいずれか一方を行う。この場合も左右で同じ上乗せトルクとする必要はなく、左右それぞれが前後で逆向きで同量のトルクが上乗せされていればよい。
このように、前後のインホイールモータ100で逆方向で同量のトルクを発生するように電圧を上乗せすることにより、車両10の走行、非走行に関わりなく、インホイールモータ100の暖機制御を容易に行うことができる。
なお、本実施形態においては、走行が要求された場合には、走行制御を行いつつ暖機制御を行う例を示したが、必要に応じて、暖機が必要な旨を音声や表示メッセージ等で運転者に通知し、車両10の走行スタートをしばらく待つように指示するようにしてもよい。
なお、上述した本実施形態において示した各図の構成は一例であり、インホイールモータの温度を取得し、その温度が所定値以下の場合に、インホイールモータで故意に電力を消費させてジュール熱を発生させ、インホイールモータの暖機を行うものであれば、その構成を適宜変更可能であり、本実施形態と同様の効果を得ることができる。また、インホイールモータで故意に電力を消費させてジュール熱を発生させ方法は任意であり、車両の停止時状態や走行状態に影響を与えない方法であれば、上述の方法以外でも利用可能であり、同様な効果を得ることができる。
10 車両、12 車体、14 アクセルペダル、16 ECU、18 アンプ、20 バッテリ、22 ブレーキペダル、24 ステアリング、26 温度取得部、28 温度検出器、30 外気温センサ、32 ナビゲーション装置、34 外部情報受信器、36 暖機駆動部、100 インホイールモータ、110 モータハウジング、120 ギアハウジング、H ハウジング。