JP4366566B2 - 制御定数調整装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ロボットや工作機械等の制御装置において、特に、その動作中に負荷のイナーシャに変動を生ずる場合、該イナーシャの同定およびそれに伴い必要となる制御系のゲインを調整する機能を有する制御定数調整装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、モータの動作中に制御対象である負荷のイナーシャに変動を生ずる場合、そのイナーシャを同定する装置として、例えば、本出願人が特許文献1にて提案した制御定数調整装置がある。
【0003】
この装置は、入力された速度指令と実際のモータ速度が一致するようにトルク指令を決定し、モータ速度を制御する速度制御部と、前記モータ速度にモデルの速度が一致するように速度制御部をシミュレートする推定部と、前記トルク指令を所定のハイパスフィルタに通した値の絶対値を所定の区間で時間積分した値と、推定部のモデルトルク指令を所定のハイパスフィルタに通した値の絶対値を同じ区間で時間積分した値との比からイナーシャを同定する同定部とを備え、速度制御部内のモータ速度と推定部内のモデルの速度がゼロでない値で一致する場合にのみ、同定部内でイナーシャを同定することを特徴とするものである。
【0004】
この装置は、任意の速度指令に対してリアルタイムで同定ができるため、時々刻々に負荷のイナーシャが変化する場合でもその同定が可能である。
【0005】
【特許文献1】
特許3185857号
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記の従来の制御定数調整装置では、速度制御部が比例積分制御(以下、PI制御と呼ぶ)で構成されている場合、重力などの一定外乱は定常状態において速度制御部内の積分器で補償できるため、実際に駆動するために必要なトルクは速度偏差で代用でき問題はないが、速度制御部が積分比例(以下、IP制御と呼ぶ)制御で構成されている場合、外乱を補償するために必要なトルク成分と実際に駆動するために必要なトルク成分が分離できないため、このIP制御ではイナーシャの同定ができないという問題が生ずる。
【0007】
また、上記の従来の制御定数調整装置では、モータ速度をモデル速度制御部の速度指令としているため、モデル速度制御系の遅れが生じ、モータ速度とモデルモータ速度が一致しにくいために同定するまでの時間がかかるという問題がある。さらに、メカ振動や摩擦などの負荷外乱がある場合、実際の速度制御部内の速度積分値には負荷外乱補償分が積算されるが、モデルにはこの負荷外乱補償分は反映されにくい。従来技術ではハイパスフィルタに通してトルク指令を積算するという処理をしているが、外乱の周波数によってはハイパスフィルタが有効に動かない場合があり、同定精度が悪化するという問題がある。
【0008】
また、上記の従来の制御定数調整装置では、摩擦の項を考慮しておらず、摩擦が比較的大きい機械では同定精度が悪化するという問題がある。
【0009】
本発明の目的は、速度制御がPI制御、IP制御いずれの場合であっても、イナーシャの同定を確実に行うことができ、2慣性系のような振動系においても、リアルタイムで同定精度のよいチューニングを実現することができる制御定数調整装置を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1の制御定数調整装置は、
速度指令Vrefを出力する指令発生部と、
速度指令Vrefと実際のモータ速度Vfbが一致するように速度制御器で比例積分制御または積分比例制御演算してトルク指令Trefを決定し、該トルク指令によりモータ速度を制御する速度制御部と、
モータ速度Vfbを速度指令入力としてモデル速度Vfb'がモータ速度Vfbに一致するように速度制御部をシミュレートするモデル速度制御器で比例積分制御または積分比例制御演算してモデルトルク指令Tref'を決定し、該モデルトルク指令Tref'により前記モデル速度Vfb'を制御する推定部と、
トルク指令Trefと速度指令Vref、およびモデルトルク指令Tref'と前記モデル速度Vfb'を入力として、モータイナーシャと負荷イナーシャの合計イナーシャJ(以下「モータイナーシャJ」と呼ぶ)とモデルモータイナーシャJ'のイナーシャ比J/J'を算出する同定部と、
イナーシャ比J/J'に基づいて速度制御部の制御ゲインの調整を行う調整部と、
を備え、
同定部はトルク指令Trefを所定のローパスフィルタに通して得られた値を、トルク指令Trefから減算した値FTrを算出し、かつモデルトルク指令Tref'をローパスフィルタと同一特性のローパスフィルタに通して得られた値を、モデルトルク指令Tref'から減算した値FTr'を算出し、FTrの絶対値|FTr|を所定の区間[a、b]で時間積分した値|SFTr|と、FTr'の絶対値|FTr'|を同じ区間で時間積分した値|SFTr'|とから前記モータイナーシャJの値を下式
J=(|SFTr|/|SFTr'|)×J'
に基づいて同定する。
【0011】
速度制御部のトルク指令Trefを所定のハイパスフィルタに通した値FTrの絶対値|FTr|を所定の区間[a、b]で時間積分した値|SFTr|と、推定部のモデルトルク指令Tref’を所定のハイパスフィルタに通した値FTr’の絶対値|FTr’|を同じ区間で時間積分した値|SFTr’|との比から求めるイナーシャJの同定を、速度制御部内のモータ速度Vfbと推定部内のモデルの速度Vfb’とがゼロでない値で一致する場合のみ行うことにより、速度制御がPI制御またはIP制御いずれの場合であっても、イナーシャの同定を確実に行うことができ、しかも、2慣性系のような振動系においても、安定したチューニングを行うことができるばかりでなく、一定外乱の影響も受けない。
【0012】
本発明の第2の制御定数調整装置は、
速度指令Vrefを出力する指令発生部と、
速度指令Vrefと実際のモータ速度Vfbを入力し、速度指令Vrefからモータ速度Vfbを減じて速度偏差Veを算出し、該速度偏差Veを積分時定数Tiで積分して速度積分値を算出する積分項と、速度指令Vrefに所定の定数α(α≧0)を乗じた値からモータ速度Vfbを減じて速度比例値を算出する比例項とを加算して速度比例積分値を算出し、該速度比例積分値にモータイナーシャ値Jmと負荷イナーシャ値JLの合計値を推定したイナーシャ推定値Jを乗じてトルク指令Trefを決定し、該トルク指令Trefによりモータ速度を制御する速度制御部と、
モータ速度Vfbにモデル速度Vfb'が一致するように速度制御部をシミュレートする推定部と、
速度比例積分値を推定部で同様に演算されているモデル速度比例積分値に加えて新たなモデル速度比例積分値とするフィードフォワード補償機能を備え、前記速度制御部のトルク指令Trefを所定のハイパスフィルタに通した値FTrの絶対値|FTr|を所定の区間[a、b]で時間積分した値|SFTr|と、推定部のモデルトルク指令Tref'を所定のハイパスフィルタに通した値FTr'の絶対値|FTr'|を同じ区間で時間積分した値|SFTr'|との比から求めるイナーシャJの同定を行う同定部と、
同定部で同定されたイナーシャ推定値Jと推定部のイナーシャJ'の比J/J'に基づいて制御ゲインの調整を行う調整部と、
を有する。
【0013】
速度制御部からフィードフォワード信号を推定部に加えることで、誤差を小さくでき、さらに収束時間も短縮できる。
【0014】
推定部のモデル速度制御器内に、摩擦項としてモデル摩擦係数D’を追加し、摩擦同定部で同定された摩擦係数値をリアルタイムでモデル摩擦係数D’に反映するようにしてもよい。
【0015】
摩擦同定部は、速度指令が入力されると(一定速時のトルク指令T(1)/そのときの速度V(1))で摩擦係数D(1)を同定し、直ちにモデル摩擦係数D’を更新し、次反転の速度指令が入力されると(T(1)―一定速時のトルク指令T(2))/(V(1)―そのときの速度V(2))で摩擦係数D(2)を同定し、D’を更新し、続けてさらに反転の速度指令が入力されると(T(1)―一定速時のトルク指令T(3))/(V(1)―そのときの速度V(3))で摩擦係数D(3)求め、次に反転の速度指令が入力されると(DP4+DN4)/2(ただし、DP4=(T(1)―T(3))/(V(1)―V(3))、DN 4=(T(2)―一定速時のトルク指令T(4))/(V(2)―そのときの速度V(4))である。)で摩擦係数D(4)を求め、速度指令が入力される度にモデル摩擦係数D’を同定するようにしてもよい。
【0016】
正転・逆転の速度指令がさらに2回づつ以上、入力されてきた場合は、以降を移動平均でD’=(D(x)+D(x―1)+D(x―2))/3のようにモデル摩擦係数D’を同定してもよい。
【0017】
結果的に、安定性の向上、チューニング精度の向上を実現可能な制御定数調整装置が実現できる。
【0018】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0019】
図1は本発明の第1の実施の形態の制御定数調整装置のブロック図である。
【0020】
本実施形態の制御定数調整装置は指令発生部11と速度制御部12と推定部13と同定部14と調整部15を含む。
【0021】
指令発生部11は、速度指令Vrefを速度制御部12に出力する。
【0022】
速度制御部12は、入力された速度指令Verfにモータ速度Vfbが一致するように速度制御を行い、トルク指令Trefとモータ速度Vfbを同定部14に出力するとともに、モータ速度Vfbを推定部13に出力する。
【0023】
推定部13は、目標指令として入力されたモータ速度Vfbに、この推定部13においてモータモデルを用いて推定されるモデル速度Vfb’が一致するように速度制御を行い、モデルトルク指令Tref’とモデル速度Vfb’を同定部14に出力する。
【0024】
同定部14は速度制御部12より入力されたトルク指令Trefとモータ速度Vfb、推定部13より入力されたモデルトルク指令Tref’とモデル速度Vfb’を用い、モータとモータモデルのイナーシャ比J/J’を求め、そのイナーシャ比J/J’を調整部15に出力する。
【0025】
調整部15は、このイナーシャ比J/J’を受け取り、所定のフィルタに通した値に基づいて、速度制御部12内の比例ゲインKvおよび積分ゲインKiを決定するとともに、速度制御部12内の積分器12cの値を調節し、前述のイナーシャの変動に対応できるようにする。
【0026】
図2は速度制御部12、推定部13、同定部14、調整部15の各部の構成をより詳細に示す図である。
【0027】
速度制御部12は、指令発生部11より速度指令Vrefを入力すると、この速度指令Vrefに実際のモータ速度Vfbが一致するように図に示す速度制御器12aおよび電流制御器12bにより所定の速度制御を行う。なお、モータには負荷JLが取り付けられており、モータからは実際のモータ速度Vfbが検出され、出力されているとする。
【0028】
ここで、本実施形態の速度制御器は、制御の形態はPI(比例積分)制御でも、前述のIP(積分比例)制御のいずれでもよく、速度制御器12aは、トルク指令をモータ駆動する電流制御器12bに出力する。
【0029】
すなわち、速度制御部12および推定部13のさらに詳細を示す図3中、速度制御部12のαは、α≧0なる所定の値とし、αを1に設定すればPI制御となり、αを0に設定すればIP制御となる。
【0030】
そして、速度制御部12は、図2に示すように、モータ速度Vfbを推定部13に出力するとともに、トルク指令Trefおよびモータ速度Vfbを同定部14に出力する。
【0031】
推定部13は、速度制御部12内より入力したモータ速度Vfbを指令とし、図に示すモデル速度制御器13aおよびモデル電流制御器13bにより、モデル速度Vfb’がモータ速度Vfbに一致するような速度制御を行う。なお、このモデル速度制御器13aの制御方法は、速度制御部12内の速度制御器12aと同じでもよいし、P(比例)制御でもよい。
【0032】
モデル速度制御器13aは、モデルトルク指令Tref’をモデル電流制御器13bに出力し、このモデル電流制御器13bによりモデル化されたモータモデル13c(1/J’s)が駆動される。なお、モータモデル13cのイナーシャ値J’は既知の値であり、モータモデル13cからはモデル速度Vfb’が出力されているとする。そして、推定部13は、モデルトルク指令Tref’およびモデル速度Vfb’を同定部14に出力する。
【0033】
同定部14は、速度制御部12から出力されるトルク指令Tref および速度Vfb、ならびに、推定部13から出力されるモデルトルク指令Tref’およびモデル速度Vfb’を入力し、トルク指令Trefとモデルトルク指令Tref’を時定数Tkのハイパスフィルタに通した値であるFTrとFTr’の絶対値をとる。
【0034】
このハイパスフィルタは、図3に示すように、予め速度制御部12において、トルク指令Trefから、トルク指令に時定数Tkのローパスフィルタを通した値に減じて実現すればよく、推定部13においてモデルトルク指令を通すハイパスフィルタについても同様に実現すればよい。
【0035】
次に、ハイパスフィルタからの各出力の絶対値|FTr|および|FTr’|をとり、それぞれの絶対値|FTr|または|FTr’|を用い、所定の区間[a、b]で時間積分を行い、求められた時間積分値|SFTr|および|SFTr’|と既知の値である推定部13のイナーシャJ’から、速度制御部12のイナーシャJを下記の式(1)により演算することができる。
【0036】
J=(|SFTr|/|SFTr’|)×J’ (1)
ここで、イナーシャ同定原理について簡単に説明する。
【0037】
トルク指令または電動機電流のそれぞれの時間積分からイナーシャを正確に求めるには、トルク指令または電動機電流から速度までの伝達関数がイナーシャのみで表され、かつ速度がゼロでない場合、トルク指令または電動機電流のそれぞれの時間積分値と速度の比から、簡単にイナーシャを求めることができる。
【0038】
この関係を利用して、実際の速度制御部12とそのモデルに同じ速度指令を入力し、モータ速度とモデル速度がゼロでない値で一致する状態で、その状態でのトルク指令または電動機電流の時間積分値と速度からイナーシャを求めることができる。
【0039】
ただし、上記トルク指令または電動機電流には、指令応答成分の他に、機械部分での摩擦やトルクリップル等の外乱補償成分が含まれているため、これらの影響は速度制御器の積分器に蓄積されてしまう。
【0040】
このため、蓄積されたこの補償成分を除去するため、トルク指令または電動機電流の信号をハイパスフィルタに通すようにしている。したがって、ハイパスフィルタの時定数は、速度制御部12の積分時定数と同じ値とすることが望ましい。
【0041】
以下、この点について述べると、例えば、一定外乱トルクFdがある場合、速度制御部12がP制御であれば、その速度偏差E(∞)は、次式で与えられるように、最終値の定理により一定の速度偏差を生じる。
【0042】
【数1】
【0043】
一方、速度制御部12がPI制御であれば、同様に速度偏差E(∞)は、次式で与えられるように、速度偏差を生じない。
【0044】
【数2】
【0045】
つまり、一定外乱Fdは、速度制御部12の積分器により補償され、その補償量がトルク指令として速度制御部12から出力される。
【0046】
この補償分のトルクは、イナーシャのみを動作させるために必要なトルクではないので、イナーシャを同定する場合は除去する必要がある。したがって、この実施形態では、この積分器で補償された一定外乱トルクを除去するためにハイパスフィルタに通し、その時定数を積分時定数と同じとすることで積分器で過渡的に補償された外乱トルク(一定外乱以外の粘性摩擦など)もキャンセルできるようにしている。
【0047】
また、モータ速度とモデル速度が、ゼロでない値で互いに一致する条件ができるだけ満たされるように、モータ速度を推定部13の速度指令としている。
【0048】
一方、調整部15は、同定部14内で求められたイナーシャの比J/J’を所定のフィルタに通した値に基づき、速度制御部12内の比例ゲインKvおよび積分時定数Tiの更新を行うとともに、トルク指令が不連続にならないよう、速度制御部12内の積分器12cの値の調節を行う。
【0049】
次に、上記実施形態を用いたシミュレーション結果を、図4および図5に示す。
【0050】
図4は、速度制御部12をPI制御で構成した場合であって、負荷イナーシャはモータイナーシャ(Jm=0.000019kgm2)の10倍、力学系を2慣性系でモデル化し、共振周波数を270Hz、反共振周波数を80Hz、粘性摩擦定数を0.00005Nms/radとし、一定外乱として0.005Nmを設定したシミュレーション結果である。なお、モデルイナーシャJ’は、モータイナーシャJmと同じに設定しており、イナーシャ同定値は、調整部16内で時定数50msのローパスフィルタを通している。
【0051】
図から明らかなように、チューニングを開始してから350ms後、イナーシャ同定値Jが、モデルイナーシャJ’の11.0倍に同定されており、この同定値を元に速度制御部12内のKv、Ti、積分器の値を修正した結果、速度指令に対し非常に滑らかで安定した応答が実現できていることがわかる。
【0052】
また、図5は、速度制御器12をIP制御で構成した場合であって、他の条件は図4のPI制御の場合と同じである。図から明らかなように、IP制御で構成した場合であっても、PI制御で構成した場合と同様、精度よくチューニングを行えることがわかる。
【0053】
図6は、本発明の第2の実施の形態の制御定数調整装置のブロック図である。
【0054】
本実施形態の制御定数調整装置は、図1に示した第1の実施の形態の制御定数調整装置とは速度制御部12’、推定部13’の処理が一部異なるだけであり、その他は第1の実施形態の制御定数調整装置と同じである。
【0055】
速度制御部12’は、入力された速度指令Vrefにモータ速度Vfbが一致するように速度制御を行い、トルク指令Trefおよびモータ速度Vfbを同定部14に出力するとともに、モータ速度Vfbとフィードフォワード信号FFaを推定部13’に出力する。
【0056】
推定部13’は、モータ速度Vfbおよびフィードフォワード信号FFaを入力し、目標指令として入力されたモータ速度Vfbに、この推定部13’においてモータモデルを用いて推定されるモデル速度Vfb’が一致するように速度制御を行い、モデルトルク指令Tref’およびモデル速度Vfb’を同定部14に出力する。
【0057】
図7は速度制御部12'、推定部13'、同定部14、調整部15の各部の構成をより詳細に示す図である。
【0058】
速度制御部12’は、指令発生部11より速度指令Vrefを入力すると、この速度指令Vrefに実際のモータ速度Vfbが一致するように、図に示す速度制御器12aおよび電流制御器12bにより、所定の速度制御を行う。なお、モータには負荷JLが取り付けられており、モータからは実際のモータ速度Vfbが検出され、出力されているとする。
【0059】
ここで、本実施形態の速度制御部12'による制御方法では、制御の形態はPI(比例積分)制御でも、前述のIP(積分比例)制御のいずれでもよく、速度制御器12aは、トルク指令をモータ駆動する電流制御器12bに出力する。
【0060】
すなわち、図8に速度制御部12’および推定部13’のさらに詳細を示すが、図中、速度制御部12’および推定部13’のαを1に設定すればIP制御となり、αを0に設定すればIP制御となる。
【0061】
そして、速度制御部12'は、図7に示すように、モータ速度Vfbおよびフィードフォワード信号FFaを推定部13'に出力するとともに、トルク指令Trefおよびモータ速度Vfbを同定部14に出力する。
【0062】
推定部13’は、速度制御部12’内よりモータ速度Vfbおよびフィードフォワード信号FFaを入力し、モータ速度Vfbを指令とし、図に示すモデル速度制御器13aおよび電流制御器13bにより、モデル速度Vfb’がモータ速度Vfbに一致するような速度制御を行う。
【0063】
モデル速度制御器13aは、モデルトルク指令Tref’をモデル電流制御器13bに出力し、このモデル電流制御器13bによりモデル化されたモータモデル13c(1/J’s)が駆動される。ここで、モータモデル13cのイナーシャ値J’は既知の値であり、モータモデル13cからはモデル速度Vfb’が出力されているとする。そして、推定部13’は、モデルトルク指令Tref’およびモデル速度Vfb’を同定部14に出力する。なお、モデル速度制御器13a内の比例ゲインKv’および積分時定数Ti’は速度制御器12内の比例ゲインKvおよび積分時定数Tiと同じ値が望ましい。
【0064】
同定部14は、速度制御部12’から出力されるトルク指令Trefおよび速度Vfb、ならびに推定部13’から出力されるモデルトルク指令Tref’およびモデル速度Vfb’を入力し、トルク指令Trefとモデルトルク指令Tref’に時定数Tkのハイパスフィルタを通した値であるFTrとFTr’の絶対値をとる。
【0065】
このハイパスフィルタは、図8に示すように、予め速度制御部12’において、トルク指令Trefから、トルク指令に時定数Tkのローパスフィルタを通した値を減じて実現すればよく、推定部13’においてもモデルトルク指令に通すハイパスフィルタについても同様に実現すればよい。
【0066】
次に、ハイパスフィルタからの各出力の絶対値|FTr|および|FTr’|をとり、それぞれの絶対値|FTr|または|FTr’|を用い、所定の区間[a、b]で時間積分を行い、求められた時間積分値|SFTr|および|SFTr’|と、既知の値である推定部13’のイナーシャJ’から、速度制御部12’のイナーシャJを演算することができる。
【0067】
本実施形態では速度制御部12’内の速度比例積分項をフィードフォワード信号として推定部13’に入力することにより、ハイパスフィルタで除去できなかった外乱成分の影響を抑えることができるとともに、モータ速度とモデル速度がフィードフォワード信号を入力することで従来技術よりも一致しやすくなるようにしている。
【0068】
次に、本実施形態を用いたシミュレーション結果を図9および図10に示す。
【0069】
図9は、本発明を適用した場合であって、負荷イナーシャはモータイナーシャ(Jm=0.000019kgm2)の10倍、力学系を2慣性系でモデル化し、共振周波数を270Hz、反共振周波数を80Hz、粘性摩擦定数を0.00005Nms/radとし、一定外乱として0.005Nmを設定したシミュレーション結果である。ここで、モデルイナーシャJ’はモータイナーシャJmと同じに設定し、閾値βはゼロとしている。また、イナーシャ同定値は、調整部15内で時定数100msのローパスフィルタを通している。なお、閾値はサーボロック時に高周波の細かい振動を除去したい場合に設定すればよい。
【0070】
図から明らかなように、イナーシャ同定値Jが、同定開始後50ms以内でモデルイナーシャJ'の11.0倍に同定されており、この同定値を元に速度制御部12'内のKv、Ti、積分器12cの値を修正した結果、速度指令に対し非常に滑らかで安定した応答が実現できていることがわかる。
【0071】
一方、図10は、従来技術を適用した場合であって、他の条件は図9の場合と同じである。図から明らかなように、本方法の特徴であるフィードフォワード信号を入力しない場合は、同定値の真値になるまでの時間が長く、1.5秒後においても同定誤差を生じていることがわかる。
【0072】
図11は、本発明の第3の実施の形態の制御定数調整装置のブロック図である。本実施形態の制御定数調整装置は、図1に示した第1の実施の形態の制御定数調整装置、および図6に示した第2の実施の形態の制御定数調整装置とは推定部13および推定部13’と処理が一部異なり、摩擦同定部16をさらに備えるだけであり、その他は第1の実施形態および第2の実施形態の制御定数調整装置と基本的に同じである。第1の実施の形態と第2の実施の形態とは、信号FFaが構造上異なるだけであり、本実施形態は第1の実施形態でも第2の実施形態でも実施可能である。よって、ここでは第1の実施の形態と異なる部分についてのみ説明することとする。
【0073】
本実施形態の制御定数調整装置は指令発生部11と速度制御部12と推定部13と同定部14と調整部15と摩擦同定部16を含む。速度制御部12は、入力された速度指令Vrefにモータ速度Vfbが一致するように速度制御を行い、トルク指令Trefおよびモータ速度Vfbを同定部14に出力するとともに、一定速度時のモータ速度とそのときのトルク指令を摩擦同定部16に出力する。摩擦同定部16は速度制御部12からのモータ速度とトルク指令から摩擦係数を算出し、算出した摩擦係数を推定部13に出力する。
【0074】
図12は推定部13の詳細なブロック図である。推定部13内のモデル速度制御器13aは、モデルトルク指令Tref’をモデル電流制御器13bに出力し、このモデル電流制御器13bによりモデル化されたモータモデル13c(1/J’s)とモデル摩擦係数13dが駆動される。なお、モータモデル13cのイナーシャ値J’は既知の値であり、モータモデル13cからはモデル速度Vfb’が出力されているとする。モデル摩擦係数13dはモデル速度Vfb’と乗算され、モデル電流制御器13bに出力されたモデルトルク指令Tref’から乗算された値を減算する。減算されたモデルトルク指令Tref’によって、また、モデル化されたモータモデル13c(1/J’s)とモデル摩擦係数13dが駆動される。そして、推定部13は、モデル摩擦係数13dとモデル速度Vfb’の乗算された値を減ずる前のモデルトルク指令Tref’およびモデル速度Vfb’を同定部14に出力する。モデル摩擦係数13dは摩擦同定部16によって随時更新されている。
【0075】
次に、モデル摩擦係数13dの同定方法について図13を用いて説明する。ここで、D(x)はある区間で求めた摩擦係数、F(x)はある区間内でのトルク指令値、W(x)はある区間内での速度指令値である。
【0076】
区間B〜区間Eが摩擦係数を求める区間である。まず、区間Bで摩擦係数D(1)を次式で求め、直ちに摩擦係数D’を更新する。
【0077】
D(1)=F1/W1
次に、区間Cで摩擦係数D(2)を次式で求め、
D(2)=(F1―F2)/(W1―W2)
区間Dで摩擦係数D(3)を次式で求め、
D(3)=(F1―F3)/(W1―W3)
区間Eで摩擦係数D(4)を次式で求める。
【0078】
D(4)=(DP4+DN4)/2
ただし、DP4=(F1―F3)/(W1―W3)、 DN4=(F2―F4)/W2―W4)である。
【0079】
速度指令がさらに続けて入力される場合は、以降、次式のように移動平均で摩擦係数Dを同定していく。
【0080】
D=(D(x)+D(x―1)+D(x―2))/3
以上のように正転・逆転(または逆転・正転)と速度指令が入力される度に摩擦係数Dを同定し、同定後は摩擦モデルD’を更新する。更新すると速度制御部12をシミュレートする推定部13のモデルトルクに直ちに反映される。
【0081】
次に、本実施形態を用いたシミュレーション結果を、図14および図15に示す。
【0082】
図14は、本発明を適用した場合であって、負荷イナーシャはモータイナーシャ(Jm=0.000127kgm2)の5倍、力学系は剛体系でモデル化し、粘性摩擦定数を0.01Nms/radとし、一定外乱として0.001Nmを設定したシミュレーション結果である。ここで、モデルイナーシャJ’はモータイナーシャJmと同じに設定し、閾値βはゼロとしている。また、イナーシャ同定値は、調整部15内で時定数10msのローパスフィルタを通している。なお、閾値はサーボロック時に高周波の細かい振動を除去したい場合に設定すればよい。
【0083】
図から明らかなように、イナーシャ同定値Jが、同定開始後4秒以内でモデルイナーシャJ’の5.0倍に同定されており、この同定値を元に速度制御部12内のKv、Ti、積分器12cの値を修正した結果、速度指令に対し非常に滑らかで安定した応答が実現できていることがわかる。また、摩擦係数も同定できている。
【0084】
一方、図15は、従来技術を適用した場合であっても、他の条件は図13の場合と同じである。図から明らかなように、本方法の特徴であるモデル摩擦係数を設定しない場合は、同定値にオフセットが生じていることがわかる。
【0085】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、下記のような効果がある。
【0086】
速度制御がPI制御またはIP制御いずれの場合であっても、イナーシャの同定を確実に行うことができ、しかも、2慣性系のような振動系においても、安定したチューニングを行うことができるばかりでなく、一定外乱の影響も受けないため、リアルタイムで同定精度のよいチューニングを実現することができる。
【0087】
また、フィードフォワード信号を入力することにより実速度とモデル速度が一致しやすくなるばかりでなく、負荷外乱がある場合もその影響を考慮することができるため、同定誤差が小さく、かつ、真値に収束する時間が短いために、リアルタイムで同定精度のよいチューニングを実現することができる。
【0088】
さらに、摩擦係数を考慮したモデルにし、摩擦係数の同定を行うと摩擦が大きい機械の場合もその影響を考慮することができるため、リアルタイムで同定精度のよいチューニングを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態の制御定数調整装置のブロック図である。
【図2】図1中の速度制御部、推定部、同定部、および調整部の詳細を示すブロック図である。
【図3】図1中の速度制御部および推定部のより詳細を示すブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態をPI制御で実現したシミュレーション結果を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態をIP制御で実現したシミュレーション結果を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態の制御定数調整装置のブロック図である。
【図7】図6中の速度制御部、推定部、同定部および調整部の詳細を示すブロック図である。
【図8】速度制御部および推定部のより詳細を示すブロック図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態をPI制御で実現したシミュレーション結果を示す図である。
【図10】従来技術を適用した場合のミュレーション結果を示す図である。
【図11】本発明の第3の実施の形態の制御定数調整装置のブロック図である。
【図12】図11中の速度制御部、推定部、同定部および調整部の詳細を示すブロック図である。
【図13】摩擦係数を同定するための方法の説明図である。
【図14】本発明の第3の実施の形態で摩擦係数大の場合のシミュレーション結果を示す図である。
【図15】従来技術で摩擦係数大の場合のシミュレーション結果を示す図である。
【符号の説明】
11 指令発生部
12、12' 速度制御部
12a 速度制御器
12b 電流制御器
12c 積分器
13、13' 推定部
13a モデル速度制御器
13b モデル電流制御器
13c モータモデル
13d モデル摩擦係数
14 同定部
15 調整部
16 摩擦同定部
Claims (9)
- 速度指令Vrefを出力する指令発生部と、
前記速度指令Vrefと実際のモータ速度Vfbが一致するように速度制御器で比例積分制御または積分比例制御演算してトルク指令Trefを決定し、該トルク指令によりモータ速度を制御する速度制御部と、
前記モータ速度Vfbを速度指令入力としてモデル速度Vfb'が前記モータ速度Vfbに一致するように前記速度制御部をシミュレートするモデル速度制御器で比例積分制御または積分比例制御演算してモデルトルク指令Tref'を決定し、該モデルトルク指令Tref'により前記モデル速度Vfb'を制御する推定部と、
前記トルク指令Trefと前記速度指令Vref、および前記モデルトルク指令Tref'と前記モデル速度Vfb'を入力として、モータイナーシャと負荷イナーシャの合計イナーシャJ(以下「モータイナーシャJ」と呼ぶ)とモデルモータイナーシャJ'のイナーシャ比J/J'を算出する同定部と、
前記イナーシャ比J/J'に基づいて前記速度制御部の制御ゲインの調整を行う調整部と、
を備え、
前記同定部は前記トルク指令Trefを所定のローパスフィルタに通して得られた値を、前記トルク指令Trefから減算した値FTrを算出し、かつ前記モデルトルク指令Tref'を前記ローパスフィルタと同一特性のローパスフィルタに通して得られた値を、前記モデルトルク指令Tref'から減算した値FTr'を算出し、前記FTrの絶対値|FTr|を所定の区間[a、b]で時間積分した値|SFTr|と、前記FTr'の絶対値|FTr'|を同じ区間で時間積分した値|SFTr'|とから前記モータイナーシャJの値を下式
J=(|SFTr|/|SFTr'|)×J'
に基づいて同定する
制御定数調整装置。 - 前記モデル速度制御器の制御演算を比例制御とする、請求項1に記載の制御定数調整装置。
- 前記トルク指令Trefおよび前記モデルトルク指令Tref'を通す前記ローパスフィルタの時定数が、前記速度制御部の積分時定数と同一の値である、請求項1に記載の制御定数調整装置。
- 速度指令Vrefを出力する指令発生部と、
前記速度指令Vrefと実際のモータ速度Vfbを入力し、前記速度指令Vrefから前記モータ速度Vfbを減じて速度偏差Veを算出し、該速度偏差Veを積分時定数Tiで積分して速度積分値を算出する積分項と、前記速度指令Vrefに所定の定数α(α≧0)を乗じた値から前記モータ速度Vfbを減じて速度比例値を算出する比例項とを加算して速度比例積分値を算出し、該速度比例積分値にモータイナーシャ値Jmと負荷イナーシャ値JLの合計値を推定したイナーシャ推定値Jを乗じてトルク指令Trefを決定し、該トルク指令Trefによりモータ速度を制御する速度制御部と、
前記モータ速度Vfbにモデル速度Vfb'が一致するように前記速度制御部をシミュレートする推定部と、
前記速度比例積分値を前記推定部で同様に演算されているモデル速度比例積分値に加えて新たなモデル速度比例積分値とするフィードフォワード補償機能を備え、前記速度制御部の前記トルク指令Trefを所定のハイパスフィルタに通した値FTrの絶対値|FTr|を所定の区間[a、b]で時間積分した値|SFTr|と、前記推定部のモデルトルク指令Tref'を所定のハイパスフィルタに通した値FTr'の絶対値|FTr'|を同じ区間で時間積分した値|SFTr'|との比から求めるイナーシャJの同定を行う同定部と、
前記同定部で同定された前記イナーシャ推定値Jと前記推定部のイナーシャJ'の比J/J'に基づいて制御ゲインの調整を行う調整部と、
を有する制御定数調整装置。 - 前記推定部のモデル速度制御器が前記速度制御部の速度制御器と同じ制御構成であり、前記モデル速度制御器の速度ループゲインと積分時定数が前記速度制御部の速度ループゲインと積分時定数と同じである、請求項4に記載の制御定数調整装置。
- 前記トルク指令および前記モデルトルク指令の絶対値を積算する際、前記ハイパスフィルタを通った後のトルク指令の絶対値|FTr|および前記ハイパスフィルタを通った後のモデルトルク指令の絶対値|FTr'|が予め設定された閾値βを越える場合は積算する、請求項4に記載の制御定数調整装置。
- 前記推定部のモデル速度制御器に、摩擦項としてモデル摩擦係数D'が追加され、摩擦同定部で同定された摩擦係数をリアルタイムでモデル摩擦係数D'に反映する、請求項1または請求項4に記載の制御定数調整装置。
- 前記摩擦同定部は、前記速度指令Vrefが入力されると、
1.(一定速度時のトルク指令T(1)/そのときのモータ速度V(1)で摩擦係数D(1)を同定し、直ちにモデル摩擦係数D'を更新し、
2.次反転の速度指令が入力されると(T(1)―一定速度時のトルク指令T(2))/(V(1)―そのときのモータ速度V(2))で摩擦係数D(2)を同定し、D'を更新し、
3.続けてさらに反転の速度指令が入力されると(T(1)―一定速度時のトルク指令T(3))/(V(1)―そのときのモータ速度V(3))で摩擦係数D(3)求め、
4.次の反転の速度指令が入力されると(DP4+DN4)/2
ただし、DP4=(T(1)―T(3))/(V(1)―V(3))、DN4=(
T(2)―一定速度時のトルク指令T(4))/(V(2)―そのときの
速度V(4))
で摩擦係数D(4)を求め、
前記速度指令Vrefが入力される度にモデル摩擦係数D'を同定する、請求項7に記載の制御定数調整装置。 - 正転・逆転の速度指令がさらに続けて入力される場合は、次式
D'=(D(x)+D(x―1)+D(x―2))/3
で示す移動平均値でモデル摩擦係数D'を同定する、請求項8に記載の制御定数調整装置。
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