JP4365578B2 - アルミニューム合金と樹脂の複合体とその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子機器の筐体、家電機器の筐体、構造用部品、機械部品等に用いられるアルミニューム合金と樹脂の複合体とその製造方法に関する。更に詳しくは、各種機械加工方法で製造されたアルミニューム合金形状物に、熱可塑性樹脂を一体化した構造物に関し、モバイル用の各種電子機器、家電製品、医療機器、車両用構造部品、車両搭載用品、建築資材の部品、その他の構造用部品や外装用部品等に用いられるアルミニューム合金と樹脂の複合体とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
金属と樹脂を一体化する技術は、自動車、家庭電化製品、産業機器等の部品製造等の広い分野から求められており、このために多くの接着剤が開発されている。この中には非常に優れた接着剤がある。常温、又は加熱により機能を発揮する接着剤は、金属と合成樹脂を一体化する接合に使われ、この接合方法は現在では一般的な技術である。
【0003】
しかしながら、接着剤を使用しない、より合理的な接合方法がないか従来から研究されて来た。マグネシューム、アルミニュームやその合金である軽金属類、ステンレスなど鉄合金類に対して、接着剤の介在なしで高強度のエンジニアリング樹脂を一体化する方法、例えば、金属側に樹脂成分を射出成形等の方法で接着(固着)する方法、略して本発明者が定義し銘々する「射出接着」(射出成形による成形方法に限定する意味ではない。)法は、現在のところ実用化されていない。
【0004】
本発明者らは鋭意研究開発を進め、水溶性還元剤の水溶液にアルミニウム合金形状物を浸漬した後、アルキレンテレフタレート樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂組成物と高温高圧下で接触させると特異的に接着力(本発明では、「固着力」と同義に用いる。)が上昇することを発見した。これを特許文献1として提案した。
【0005】
本発明者らは、金属合金のうち特にアルミニューム合金に注目した。アルミニュームは軽量であり資源としても豊富である。この合金化や表面処理で、本来の物性である優れた伸展性、電導性、熱伝導性に加え、合金化で高強度化、高耐食性化、快削性化、高伸展性化などが可能であり、現在、広い分野で用いられているためである。特に今後、個人の情報化が更に進展しモバイル電子機器が汎用的に使われるようになれば、これらの機器の軽量化への要望はがより高くすることが予想される。この点でアルミニューム合金は更に利用度が大きくなると予想される。
【0006】
本発明者らは、本発明者らによる前述した発明のうちアルミニュ−ム合金とポリブチレンテレフタレート(以下、「PBT」という。)を主に含有する熱可塑性樹脂組成物に対象を絞って、前述した発明に関する水平展開に関し実験を繰り返した。前述した発明ではアルミニューム合金を、水溶性還元剤の水溶液で処理するのが特徴であったが、還元剤を使用しても処理水溶液から取り出すと空気中の酸素により瞬時に表面は酸化され、最終的な表面状態で言えば表面はゼロ価のアルミニューム金属状態ではないことがX線電子分光法(XPS)による表面分析等で観察された。
【0007】
一方、前述した発明で主に使用したヒドラジンは特に危険なものではないが、これ以外で表面処理した有効な処理薬品を確認することも大事なことと考えた。これらを勘案し、射出接着理論の仮説作りと実証実験を行なうこととした。これは、確実な射出接着法を開発する上で役立つと考えたからである。
【特許文献1】
特願2001−314854号。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
前述した本発明者らの発明を発展させ、ヒドラジンや高価な水素化ホウ素ナトリューム(NaBH4)、扱いが難しい水素化アルミニウムリチューム(LiAlH4)等の還元剤を使用しないでアルミニューム合金の表面を処理し、同じ目的を達成する方法を開発しようとした。
【0009】
また、アルミニューム合金には強度やその他の性質を改良した多くの種類がある。マグネシューム、珪素、銅、その他の金属が含有されるアルミニューム合金に対しても満足できる射出接着力で樹脂が接着できるような前処理方法も必要であった。
【0010】
【課題を解決するための手段】
第1の本発明のアルミニューム合金と樹脂の複合体は、
アルミニューム合金を塑性加工、鋸加工、フライス加工、放電加工、ドリル加工、プレス加工、研削加工、及び研磨加工から選択される1種以上の機械加工により所望の形状に加工され、かつ
ヒドラジンの2〜30%の水溶液で、浸漬時間が常温〜60℃で数分〜30分間浸漬する工程を経たアルミニューム合金形状物と、
前記アルミニューム合金形状物の表面に、ポリブチレンテレフタレート、前記ポリブチレンテレフタレートを主体とする共重合体、及び前記ポリブチレンテレフタレートを成分として含む熱可塑性樹脂組成物から選択される1種以上が射出成形により一体に付着していることを特徴とする。
【0011】
第1の本発明のアルミニューム合金と樹脂の複合体の製造方法は、
アルミニューム合金と樹脂の複合体の製造方法であって、
アルミニューム合金を塑性加工、鋸加工、フライス加工、放電加工、ドリル加工、プレス加工、研削加工、及び研磨加工から選択される1種以上の機械加工によりアルミニューム合金形状物とする加工工程と、
前記アルミニューム合金形状物をヒドラジンの2〜30%の水溶液で、浸漬時間が常温〜60℃で数分〜30分間浸漬する浸漬工程と、
成形用の金型に前記浸漬工程で浸漬処理された前記アルミニューム合金形状物を挿入して、前記アルミニューム合金形状物の表面に、ポリブチレンテレフタレート、前記ポリブチレンテレフタレートを主体とする共重合体、及び前記ポリブチレンテレフタレートを成分として含む熱可塑性樹脂組成物から選択される1種以上を加圧、加熱して射出成形により一体にする成形工程とからなることを特徴とする。
【0016】
以下、前述した各本発明のアルミニューム合金と樹脂の複合体の製造を構成する各要件毎に詳細に説明する。
〔アルミニューム合金形状物〕
アルミニューム合金形状物の素材として使用されるアルミニューム合金は、JIS規格化されている1000〜7000番系の物、またダイキャストグレードの各種のものが使用できる。1000番系は高純度アルミ系の合金であるが、その他はアルミニューム以外にマグネシューム、珪素、銅、マンガン、その他が含まれた多種の目的に合わせた合金系である。この表面の前処理工程は、アルミニューム以外の金属が比較的多く含まれる合金種では、後述する「前処理工程/処理法II」が好ましい方法であるが、必ずしもこの前処理工程は必要なものではない。何れにせよ、高純度アルミニューム合金のみならず現在実際に使用されているアルミニューム合金の多くが使用可能である。
【0017】
射出成形による樹脂の接着を行う場合、アルミニューム合金形状物は、アルミニューム合金の塊、板材、棒材などから塑性加工、鋸加工、フライス加工、放電加工、ドリル加工、プレス加工、研削加工、研磨加工等を単独、又はこれらの加工を組み合わせて所望の形状に機械加工する。この機械加工により、射出成形加工のインサート用として必要な形状、構造に加工される。必要な形状、構造に加工されたアルミニューム合金形状物は、接着すべき表面が酸化や水酸化された錆等の厚い被膜がないことが必要であり、長期間の自然放置で表面に錆の存在が明らかなものは研磨して取り除くことが必要である。
【0018】
研磨と兼ねてもよいが、以下に述べる水溶液を使った表面処理工程の直前にサンドブラスト加工、ショットブラスト加工、研削加工、バレル加工等で表面層を機械加工により除去することが好ましい。後述する熱可塑性樹脂組成物と接着(固着)する面がこれらの加工によって表面が粗い面、即ち表面粗さが大きくなり、より接着効果を高めることが好ましい。
【0019】
加えて、表面加工は、金属加工工程で残った表面の油脂層、機械加工後にアルミニューム合金形状物の保存保管期間中に、その表面に生じた酸化物層、腐食物層等を剥ぎ取ってアルミニューム合金表面を更新するなどの重要な役目がある。これで次工程の効果を更新された表面全体に均一に作用させることができる。また、本発明者らによれば、ブラスト処理をしたアルミニューム合金形状物は、乾燥空気下での1週間程度の保管であれば、即日、次工程で処理したものとその表面状態は大差ないようであった。
【0020】
〔洗浄工程〕
この洗浄工程は、前述した機械加工で表面を加工するので必ずしも必要ではない。しかしながら、アルミニューム合金形状物の表面には、油脂類や微細な塵が付着している。特に、機械加工された表面には、機械加工時に用いられるクーラント液、切粉等が付いておりこれらを洗浄することが好ましい。汚れの種類によるが、有機溶剤での洗浄と水洗浄の組合せで行なうのが好ましい。水溶性の有機溶剤、例えば、アセトン、メタノール、エタノールなどであれば、有機溶剤に浸漬して油性汚れを除いた後で水洗して溶剤を除くのが容易である。もし強く油性物が付着している状況であれば、ベンジン、キシレンなどの有機溶剤で洗浄する。
【0021】
この場合も後で水洗浄して乾燥することが好ましい。洗浄後の保存期間も可能な限り短くする。出来れば、洗浄工程と次に示す工程(前処理工程)は時間を置かずに引き続いて処理されるのが好ましい。連続的に処理する場合は、洗浄工程の後に乾燥する必要はない。
【0022】
〔前処理工程/処理法I〕
アルミニューム合金形状物をアンモニア(NH3)、ヒドラジン(N2H4)、ヒドラジン誘導体、及び水溶性アミン系化合物から選択される1種以上の水溶液に浸漬する。アンモニアの水溶液は、市販のアンモニア水が使用できる。ヒドラジンを使用するときは、ヒドラジン水和物やヒドラジン60%水溶液が市販されておりこれも使用できるし、ヒドラジン誘導体の水溶液、例えばカーボジヒドラジド(NH2-NH-CO-NH-NH2)の水溶液も使用できる。水溶性アミン系化合物としては低級アミン類が使え、特にメチルアミン(CH3NH2)、ジメチルアミン((CH3)2NH)、トリメチルアミン((CH3)3N)、エチルアミン(C2H5NH2)、ジエチルアミン((C2H5)2NH)、トリエチルアミン((C2H5)3N)、エチレンジアミン(H2NCH2CH2NH2)、エタノールアミン(モノエタノールアミン(HOCH2CH2NH2)、アリルアミン(CH2CHCH2NH2)、ジエタノールアミン((HOCH2CH2)2NH)、等が好ましい。
【0023】
使用する水溶液での上記化合物濃度は、2〜30%程度が使用でき、浸漬時間は常温〜60℃で数分〜30分である。例えば、アンモニアであれば、濃度10〜30%、常温下で15〜120分が好ましい。これらの水溶液で浸漬処理後、水洗して乾燥する。
【0024】
アンモニア水溶液にアルミニューム合金を浸漬することで、アルミニュームは水素を発泡しつつアルミン酸イオンとなって溶解し、表面は微細なエッチング面となる。このアンモニア水溶液に浸漬し、水洗乾燥した後のアルミニューム合金の表面のX線電子分光法(XPS)による分析では、確かではないがアルミニューム合金の表面に窒素が残存しており、これが射出接着に有効なように推定される。
【0025】
〔前処理工程/処理法II〕
前述した前処理Iの前に次に説明する前処理IIを行うと、アルミニューム合金形状物と熱可塑性樹脂組成物との接着が効果的である。アルミニューム合金表面に微細なエッチング面を形成するための処理である。アルミニューム合金形状物をまず塩基性水溶液(pH>7)に浸漬し、その後にアルミニューム合金形状物を水洗する。塩基性水溶液に使う塩基としては、水酸化ナトリューム(NaOH)、水酸化カリューム(KOH)等の水酸化アルカリ金属類の水酸化物、又はこれらが含まれた安価な材料であるソーダ灰(Na2CO3、無水炭酸ナトリウム)、アンモニア等が使用できる。
【0026】
また、水酸化アルカリ土類金属(Ca,Sr,Ba,Ra)類も使用できるが、実用上は安価で効能のよい前者の群から選べばよい。水酸化ナトリューム使用の場合は0.1〜数%濃度の水溶液、ソーダ灰使用の場合も0.1〜数%が好ましく、浸漬時間は常温では数分である。この浸漬処理後、水洗する。塩基性水溶液に浸漬することにより、アルミニューム合金の表面は水素を放ちつつアルミン酸イオンになって溶解しアルミニューム合金表面は微細なエッチング面になる。
【0027】
中和処理
次に酸水溶液に浸漬し、その後水洗する。酸水溶液を使用する目的は中和である。水酸化ナトリュームなどが前工程でアルミニューム表面に残存すると、製品として使用されるとき腐食の進行を早めることが予想されるので中和が必要である。また、マグネシューム、銅、珪素等のアルミニューム合金内に固溶していた金属が塩基性水溶液の前工程では完全溶解せずに表面近傍に水酸化物その他の組成物となって存在しているので、酸水溶液に浸漬することでこれらを取り除くこともできる。
【0028】
従って、この目的に合う酸水溶液であれば如何なる酸水溶液であってもよい。具体的には、希硝酸が好ましく、珪素含有のアルミニューム合金では酸化ケイ素対策でフッ化水素酸を添加することも好ましい。硝酸(HNO3)の濃度は数%程度、フッ化水素酸(液体フッ化水素の水溶液)の濃度は0〜0.5%が好ましく使用できる。硝酸の濃度が高いと、アルミニューム合金の表面がアルマイト状態に近づき次工程で不都合が生じ易い。浸漬時間は数分で十分である。前工程で、表面に灰汁の様な物(アルミニュームに添加されている金属の水酸化物や酸化ケイ素が主成分)が付着して汚れ付着の様になっている場合は、この灰汁状物が溶けるか剥がれればこの工程を終了してよいと判断する。次に、アルミニューム合金形状物を酸水溶液から引き上げて水洗する。
【0029】
アミン系化合物等への浸漬
次に、前述した前処理Iと同様に、アンモニア、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体、及び水溶性アミン系化合物から選択される1種以上の水溶液に浸漬し水洗し乾燥する。水溶液とするこれら化合物の濃度は薄くてもよく、0.05〜10%で十分である。常温で数分浸漬し、水洗乾燥する。
【0030】
〔前処理工程/処理法III〕
前述した前処理Iの前に次に説明する前処理IIIを行うと、アルミニューム合金形状物と熱可塑性樹脂組成物との接着が効果的である。アルミニューム合金形状物をまず水溶性還元剤の水溶液に浸漬し水洗する。水溶性還元剤としては、亜硫酸アルカリ金属、亜硫酸水素アルカリ金属、ヒドラジン(N2H4)、水素化ホウ素アルカリ金属(例えば、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)等)、水素化アルミニュームアルカリ金属(例えば、水素化アルミニウムリチューム(LiAlH4)等)等が使用できるが、特に、亜硫酸ナトリュームが好ましく使用できる。亜硫酸ナトリューム水溶液を使用する場合、濃度は1〜5%程度、浸漬時間は常温で数分〜10分である。
【0031】
次に、前述した前処理I及び前処理IIと同様に、アンモニア、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体、及び水溶性アミン系化合物から選択される1種以上の水溶液に浸漬し水洗し乾燥する。水溶液とするこれら化合物の濃度は薄くてよく、0.05〜1%で十分である。常温で数分浸漬し、水洗乾燥する。
【0032】
〔前処理後のアルミニューム合金形状物の保管〕
乾燥後のアルミニューム合金形状物は乾燥空気下で保管する。この保管時間は短いほうがよいが、常温で1週間以内であれば問題はない。
【0033】
〔熱可塑性樹脂組成物〕
アルミニウム合金形状物に固着される熱可塑性樹脂組成物について述べる。ポリアルキレンテレフタレート、ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合体、及びポリアルキレンテレフタレートを成分として含む熱可塑性樹脂組成物から選択される1種以上からなる。ポリアルキレンテレフタレートとしてポリブチレンテレフタレート(PBT)が好ましい。
【0034】
このPBTを含むポリマーは、PBT単独のポリマー、PBTとポリカーボネート(以下、「PC」という。)のポリマーコンパウンド、PBTとアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(以下、「ABS」という。)のポリマーコンパウンド、PBTとポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」という。)のポリマーコンパウンド、PBTとポリスチレン(以下、「PS」という。)のポリマーコンパウンドから選択される1種以上が好ましく使用できる。
【0035】
また、これらポリマーにフィラーを含有させて機械的特性を改善する。フィラーの含有は、特にアルミニューム合金形状物と熱可塑性樹脂組成物との線膨張率を一致させるという観点から非常に重要である。フィラーとしては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、その他これらに類する高強度繊維が良い。
【0036】
前記ポリマーコンパウンドには、物性を改良するための充填材が加えられていると良い。充填材は、カーボンブラック、炭酸カルシューム、ケイ酸カルシウム、炭酸マグネシューム、シリカ、タルク、粘土、リグニン、アスベスト、雲母、石英粉、ガラス球等のように公知の材料から選択される1種以上からなると良い。
【0037】
前記フィラーを含まない場合でも強固に接着し、金属に接着した樹脂成形物を取り去るには非常に強い力が必要である。しかしながら成形された複合体を温度サイクル試験にかけると、前記フィラーを含まない熱可塑性樹脂組成物の系ではサイクルを重ねることで急速に接着強度が低下する。これには二つの原因があると推定される。
【0038】
一つは、線膨張率でアルミニューム合金形状物と熱可塑性樹脂組成物に大きな差があることによる。純アルミニュームの線膨張率は金属の中では大きい方だが、それでも熱可塑性樹脂組成物よりかなり小さい。フィラーの存在は熱可塑性樹脂組成物の線膨張率を下げ、アルミニューム合金の線膨張率(純アルミニュームで2.386×10−5)に近づける。フィラーの種類とその含有率を選べば線膨張率はアルミニューム合金にかなり近い値にできる。
【0039】
もう一つは、インサート成形後のアルミニューム合金形状物の冷却縮みと熱可塑性樹脂組成物の成形収縮の関係である。フィラーを含まない熱可塑性樹脂組成物の成形収縮率は小さなものでも0.6%程度である。一方、アルミニューム合金の冷却縮み、例えば熱可塑性樹脂組成物を射出してから室温まで100℃程度冷えるとして約0.2%、は熱可塑性樹脂組成物の成形収縮率よりずっと小さく、差がある。射出成形金型から離型して時間が経ち、熱可塑性樹脂組成物が落ち着いてくると、界面に内部歪が生じ僅かな衝撃で界面破壊が起こって剥がれてしまう。
【0040】
この現象をより具体的に述べると次のようになる。アルミニューム合金では熱膨張率、詳しくは温度変化に対する線膨張率は2〜3×10-5℃-1である。一方、PBTやPBT含有のポリマーコンパウンドのそれは7〜8×10-5℃-1である。線膨張率を下げるため、フィラーの熱可塑性樹脂組成物における含有率は高い方が好ましく、含有率は20%以上、より好ましくは30%以上が好ましい。PBTやPBT含有のポリマーコンパウンドに高強度繊維や無機フィラーを含有率で30〜50%含ませると線膨張率は2〜3×10-5℃-1となりアルミニュームとほぼ一致する。
【0041】
また、このとき成形収縮率も低下する。成形収縮率について言えば、PBTの高い結晶性が収縮率を上げているので、結晶性の低い樹脂、PET、PC、ABS、PS、その他を混ぜてコンパウンド化した方が更に低下できる。しかし、PBT濃度も下がるのでその最適含有率はまだ詳細には調べていない。
【0042】
〔成形/射出成形〕
射出成形金型を用意し、金型を開いてその一方にアルミニューム合金形状物をインサートし、金型を閉め、前記の熱可塑性樹脂組成物を射出し、金型を開き離型する方法である。形状の自由度、生産性など最も優れた成形法である。大量生産では、インサート用にロボットを用意すればよい。
【0043】
次に、射出条件について述べる。金型温度、射出温度は高い方が良い結果が得られるが無理に上げることはなく、前記の熱可塑性樹脂組成物を使う通常の射出成形時とほぼ同様の条件で十分な接着効果が発揮できる。接着力を上げるためには、むしろ金型のゲート構造において出来るだけピンゲートを使うことに留意した方がよい。ピンゲートでは樹脂通過時に生じるせん断摩擦で瞬時に樹脂温度が上がりこれが良効果を生むことが多い。要するに、円滑な成形を阻害しない範囲で出来るだけ接着面に高温の樹脂溶融物が接するように工夫するのが良いようにみられた。
【0044】
〔成形/射出成形以外の方法〕
金型にアルミニューム合金形状物と薄い熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂形状物の双方をインサートし、他方の金型で閉めて加熱しつつ押し付ける成形法、即ち加熱プレス成形でも一体化品を得ることができる。量産に適した方法ではないが、形状によっては使える可能性はある。接着の原理は、前記した射出接着と同じである。
【0045】
その他に、パイプ状物、板状物などの一体化品が求められる場合に、押し出し成形という方法が使用されるが、この押し出し成形でも本発明は利用可能である。前述した熱可塑性樹脂組成物が、加熱溶融状態の時に処理されたアルミニューム合金形状物の表面と接触することが重要であるだけであり、理論的には成形方法を選ばないはずである。ただ、押し出し成形では溶融樹脂とアルミニューム合金形状物の表面の間にかかる圧力が射出成形等と比較すると著しく低い。この点で最強の接着力を示すことは期待できないが実用性との関係で十分使用に耐える設計があるはずである。
【0046】
【作用】
本発明によれば、アルミニューム合金形状物をアンモニア、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体、及び水溶性アミン系化合物から選択される1種以上の水溶液に浸漬する。この工程を経たアルミニューム合金形状物とポリアルキレンテレフタレートを含む熱可塑性樹脂組成物は、インサートを使った射出成形、その他による手法で強固に接着することができる。実用的には、この熱可塑性樹脂組成物として、高濃度のフィラーを含むPBTやPBTを主成分とするコンパウンドが好ましい。
【0047】
この様なことが可能になった理由は、アルミニューム合金をアミン系化合物の水溶液で処理したことにある。この処理によりアルミニューム合金の表面が親PBT表面に変わったものと推定される。更に、各種のアルミニューム合金に対して前記の熱可塑性樹脂組成物を強固に付けられるようにするため、アミン系化合物水溶液処理の前に化学的エッチングや、塩基/酸水溶液への浸漬処理を加えた方法が使えることについて開示するものである。
【0048】
本発明を使用することで、モバイル電子機器や家電機器の軽量化や、車載機器や部品の軽量化、ロボットの腕や足の軽量化、その他多くの分野で部品、筐体の供給に役立つものとみている。
【0049】
【発明の実施の形態】
図1は、携帯電話ケースカバーの外観図である。図2は、図1で示す携帯電話ケースカバーをI−I線で切断したときの断面図である。ケースカバー1は、アルミニューム合金製の板材から機械加工により作られた金属フレーム2から形成されている。金属フレーム2は、詳細にはプレス機とこれで駆動される金型により塑性加工し、更に必要に応じて切削加工して作られたものである。
【0050】
金属フレーム2の内面には、隔壁と補強にために熱可塑性樹脂組成物のリブ3が一体に固着されている。この固着は後述する方法により射出成形されて金属フレーム2と一体化されている。射出に使用する熱可塑性樹脂組成物については前述したものである。リブ3を射出成形する前に金属フレーム2の表面は前述した各種水溶液による浸漬処理が既になされている。
【0051】
以下、リブ3等を射出成形法で固着する方法(射出固着)について詳細に説明する。前述した金属フレーム2は、浸漬による表面処理後、可能な限り保管開始1週間以内に取り出され、リブ3を射出するための射出成形金型にインサートされる。図3は、金属フレーム2の表面に射出成形により熱可塑性樹脂組成物が充填される射出成形金型の断面図である。可動側型板10のキャビティーに、前処理された金属フレーム2を挿入配置する。
【0052】
金属フレーム2をキャビティーに挿入した状態で可動側型板10を閉じる。キャビティー11は、可動側型板10と固定側型板13とを閉めた状態で、金属フレーム2、可動側型板10、固定側型板13で形成された空間である。このキャビティー11にランナー15、ゲート14を介してリブ3を構成する溶融樹脂が供給され、リブ3の成形を行う。完成されたケースカバー1の筐体は、金属フレーム2と熱可塑性樹脂組成物で作られたリブ3とが一体に接合されて、強度的にも、外観のデザイン上も金属の特徴を生かし、しかも筐体内部の形状、構造も複雑な形状とすることができる。
【0053】
【実施例】
以下、本発明の実施例を実験例に代えて詳記する。
実験例1
市販の1mm厚のA1100アルミニューム合金板を購入した。20mm×50mmの長方形片100個に切断した。このアルミニュウーム片を両面テープでゴムシートに貼り付けブラスト装置(図示せず)に入れた。研磨量が約5μレベルになるようにエヤーパルス時間を設定し、エヤーブラスト処理した。ブラスト装置から取り出し、平均で5時間以内置いた後、アセトン4リットルに10分浸漬して取り出し、イオン交換水4リットルに漬けてかき混ぜプラスチック製ザルにあけ、更にイオン交換水2リットルをかけて洗浄した。
【0054】
次に、28%濃度のアンモニア水をポリエチレン製ビーカーに0.5リットル用意し、先ほどのアルミニューム片を浸漬した。これを25分後に引き上げ、水道水で十分に洗浄した。更に、ビーカーに満たしたアセトンに数秒漬けた後、高圧空気を吹き付けて乾燥し、乾燥空気で満たされている保管箱内に収納した。
【0055】
2日後、保管箱からアルミニューム片を取り出て、油分等が付着せぬよう手袋で摘まんで射出成形金型にインサートした。金型を閉め、ガラス繊維20%、炭素繊維10%、超微粉炭酸カルシューム10%含有のPBT/PET樹脂(PBT約85%とPET約15%、三菱レイヨン(株)社製)を射出し、図4で示すように一体化した複合体を得た。
【0056】
図4に示す矩形の基台は板状の金属片21である。これは先ほど得たアルミニューム片と同じ厚さ1mmであり20mm×50mmの長方形形状である。ここへ2個のピンゲート22、23から樹脂組成物が注入されボス形状物24とリブ形状物25が形成される。ボス形状物24は接着面が直径8mmの円形状であり、リブ形状物25は接着面が8mm×25mmの長方形状である。ボス形状物24、リブ形状物25とも高さが8mmあり、ボス形状物24の方は中心に直径2mmの穴が開いておりトルク測定用のネジ山付き測定端をねじ込めるようにしてある。
【0057】
金型温度は90℃とし、射出成形機の加熱筒の最終部分温度とノズル温度は260℃とした。成形品を成形後室内に1週間放置した後、接着力を検査した。アルミ板部分を机の上に押さえ付けボス形状物24およびリブ形状物25の先端を親指で水平方法に強く押して樹脂部分を剥がそうとしたが指に傷が行きそうになるまで押しても剥がすことは出来なかった。この簡易的な試験を10個の成形品について実施したが全て同じであった。
【0058】
この10個を含む計70個について、ペンチでリブ形状物25の樹脂部を真上から(ペンチが垂直方向になるようにして)掴み、そのままペンチを傾けリブ形状物25を剥がそうとした。しかし、70個とも接着面は全く剥がれずリブ形状物25が途中から折れた。ボス形状物24を同様にペンチで挟んで折り曲げたところ、17個はアルミニューム板から剥がすことが出来たが、ボス形状物24の接着していたアルミ面には点々と小さな樹脂残砕が残っており材料破壊が生じていた。残りの53個は剥がすことはできずボス形状物24が途中で折れた。
【0059】
更に、別の10個についてボス形状物24にある穴にネジ山付き測定端を突っ込んでトルク測定器を回した。ボス形状物24が剥がれる時のトルクを測ろうとしたが、全てのものでトルクが約200Ncmを過ぎた辺りで樹脂側の穴が削れてしまい空回りしボス形状物24は剥がれなかった。
【0060】
更に、別の10個を取って金属皿の上に乗せ、85℃と−40℃の間の温度サイクル試験を実施した。室温から+0.7℃/分で昇温して85℃にして2時間置き、次に0.7℃/分の速度で室温(実験時は25℃)まで戻し、1時間置いてからまた同じ速度で−20℃まで冷やした。−40℃に2時間置き、今度は+0.7℃/分で昇温して室温に戻し1時間置いてからまた昇温するという温度サイクル試験である。全100サイクルしてから前記と同じペンチとトルク測定器を使った試験をした。結果は温度サイクル試験をしない場合の試験結果と同じであった。
【0061】
更に、別の10個について高温高湿試験を実施した。具体的には85℃、60%湿度の条件下に24時間放置し室温下に1時間かけて戻してから前期と同じペンチとトルク測定器を使った試験をした。結果は高温高湿試験を行っていない前記試験結果と同じであった。全体として見た場合、接着物の破壊試験としては驚くほど安定した結果を得た。
【0062】
実験例2
市販の1mm厚のA5052アルミニューム合金板を購入した。20mm×50mmの長方形片50個に切断した。これを実施例1と同じ方法で洗浄した。次に、1%濃度の水酸化ナトリューム水溶液をポリエチレン製ビーカーに500g用意し、前述したアルミニューム片を浸漬した。2分後に引き上げ、水道水で十分に洗浄した。
【0063】
次に、1%濃度の硝酸と0.2%濃度のフッ化水素酸を含む水溶液をポリエチレン製ビーカーに500cc用意し、先ほどのアルミニューム片を1分間浸漬して中和した。引き上げて水道水で十分に洗浄した。次に、1%濃度のメチルアミン水溶液をポリエチレン製ビーカーに500g用意し、先ほどのアルミニューム片を1分間浸漬し、引き上げて水道水で十分に洗浄した。
【0064】
更に、ビーカーに満たしたアセトンに数秒漬けた後、高圧空気を吹き付けて乾燥し、乾燥空気で満たされている保管箱内に収納した。2日後、保管箱からアルミニューム片を取り出し、油分等が付着せぬよう手袋で摘まんで射出成形金型にインサートした。その後は実施例1と全く同様に成形を実施した。得られた一体化物のうち10個について、アルミ板部分を机の上に押さえつけボス形状物24およびリブ形状物25の先端を親指で水平方法に強く押して樹脂部分を剥がそうとしたが、全て、指に傷が行きそうになるまで押しても剥がすことは出来なかった。
【0065】
この10個を含む計50個について、ペンチでリブ形状物25の樹脂部を真上から(ペンチが垂直方向になるようにして)掴み、そのままペンチを傾けリブ形状物25を剥がそうとした。しかし、50個とも接着面は全く剥がれずリブ形状物25が途中から折れた。ボス形状物24を同様にペンチで挟んで折り曲げたところ、7個はアルミニューム板から剥がすことが出来たが、ボス形状物24の接着していたアルミ面には点々と小さな樹脂残砕が残っており材料破壊が生じていた。残りの43個は剥がすことはできずボス形状物24が途中で折れた。
【0066】
実験例3
市販の1mm厚のA1100アルミニューム合金板を購入した。20mm×50mmの長方形片50個に切断した。これを実施例1と同じ方法で洗浄した。次に、5%濃度の亜硫酸ナトリューム水溶液をポリエチレン製ビーカーに500g用意し、先ほどのアルミニューム片を浸漬した。10分後に引き上げ、水道水で十分に洗浄した。
【0067】
次に、1%濃度のエチレンジアミン水溶液をポリエチレン製ビーカーに500g用意し、先ほどのアルミニューム片を1分間浸漬し、引き上げて水道水で十分に洗浄した。更に、ビーカーに満たしたアセトンに数秒漬けた後、高圧空気を吹き付けて乾燥し、乾燥空気で満たされている保管箱内に収納した。
【0068】
2日後、保管箱からアルミニューム片を取り出し、油分等が付着せぬよう手袋で摘まんで射出成形金型にインサートした。その後は実施例1と全く同様に成形を実施した。得られた一体化物のうち10個についてアルミ板部分を机の上に押さえつけボス形状物24およびリブ形状物25の先端を親指で水平方法に強く押して樹脂部分を剥がそうとしたが、全て、指に傷が行きそうになるまで押しても剥がすことは出来なかった。
【0069】
この10個を含む計50個について、ペンチでリブ形状物25の樹脂部を真上から(ペンチが垂直方向になるようにして)掴み、そのままペンチを傾けリブ形状物25を剥がそうとした。しかし、50個とも接着面は全く剥がれずリブ形状物25が途中から折れた。ボス形状物24を同様にペンチで挟んで折り曲げたところ、10個はアルミニューム板から剥がすことが出来たが、ボス形状物24の接着していたアルミ面には点々と小さな樹脂残砕が残っており材料破壊が生じていた。残りの40個は剥がすことはできずボス形状物24が途中で折れた。
【0070】
実験例4
市販の1mm厚のA1100アルミニューム合金板を20mm×50mmの長方形片に切断した。これを実験例1と同様にブラスト装置にかけ研磨量が約5μmレベルになることを想定した条件で研磨した。これを、超音波を振動させたエタノール1リットルの中で洗浄し、取り出して風乾した。
【0071】
翌日、5%の一水和ヒドラジンを含む水溶液1リットルを50℃に過熱し、ここへ先ほどのアルミ片を2分間浸漬し取り出した。その後、イオン交換水1リットルに浸漬した後、70℃に保った温風乾燥機に20分入れて乾燥し、プラスチック製の保管容器(密閉できる)に保管した。
【0072】
その2日後、保管容器からアルミニューム片を取り出して、油分等が付着せぬよう手袋で摘んで射出成形金型にインサートした。100℃に維持した金型を閉め、ガラス繊維20%、微粉タルク20%含有のPBT/PC樹脂(若干の黒顔料含むPBT約75%とPC約25%からなる混合物、三菱レイヨン(株)社製)を射出温度270℃で射出し、図4で示すように一体化した複合体を得た。
【0073】
ペンチを使用して成形され接着した樹脂製ボスを挟み強く折り曲げて強引に剥がした。樹脂製ボスは剥がれたが、その跡には微細な黒点(樹脂残り)がアルミ板上に残された。この点々とある黒点部分に注目し、赤外線吸収分析をフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)で行なった。
【0074】
場所によって明らかに吸収の様子は異なる。例えば、(1)黒点に焦点を合わせて吸収グラフを取ると、これはPBT及びPCの独自の吸収グラフから得られる吸収線が明確であり、樹脂が構成要素であることが分かった。
【0075】
次に、(2)ボスの接着していなかった箇所のアルミ合金部分に焦点を合わせると処理後のアルミ合金表面による吸収が得られる。又、更に、(3)ボスの剥がれた跡域の中で黒点に見える極近傍で目視ではアルミ地肌に見える部分に焦点を当てて赤外線吸収のデータも得た。FT−IR装置では、差スペクトルを取ることができるので、(3)と(2)の差スペクトルを計算させグラフ化できた。この操作で、目視ではアルミ地肌には見えているが、アルミとは異なる何か、その何かは射出接着によって生じたもの、による吸収線が明確になる可能性があった。
【0076】
差スペクトルを示すグラフ(縦軸は赤外線吸収量、横軸は波数(cm-1))で得られたピークは、低波数側から例示すると、733、1019、1100、1124、1163、1216、1268、1295、1421、1468、1645、1725、1787、2853、2926、3188、3376、3397が得られた。
【0077】
一方、日本電子株式会社から提供されたFT−IRの吸収線ライブラリーから類似のものをコンピュータ検索したところ驚くべきことに酸アミドがピックアップされた。ピックアップされたライブラリーによる酸アミドの吸収線は、722、1119、1421、1467、1644、2850、2926、3170、3395、であり、これらの全てが極僅かな数字差で上記差スペクトルのグラフに含まれていた。
【0078】
これらから、射出接着前のアルミ合金表面にはアミン系化合物、本実験ではヒドラジンが誘導されたもの、が存在していて、溶融したPBTが接触してきたときにアンモノリシス反応やその類似反応が起こってエステル結合部が分解し、片方は酸アミドに片方はアルコールになるというプロセスが想定できることになる。 面白いことにエステルのアンモノリスは明確な発熱反応である。
【0079】
おそらく、アンモノリシスやアンモノリシス類似反応によって発熱があり、それが、アルミ合金表面が為す微細凹部や微細穴部への樹脂の浸入を許しているものと思われる。アルミ合金表面の微細凹部の隅々まで樹脂が入り込むと樹脂とアルミ板の間で強烈な接着力を示すのは当然である。何故、このような簡便な処理で、アルミ合金とアンモニア、ヒドラジン、アミン系化合物との間で比較的安定な結合状態ができるのかは従来の常識では不可解である。
【0080】
アンモニア水溶液や、ヒドラジン水溶液に浸漬した後で、水洗し、温風乾燥し、しかも射出接着時には短時間といえ100℃の高温下となるから、これらが物理的に吸着していた場合には既に脱離しているはずである。従って、アルミとアンモニア等の間に高温にも耐える結合らしきものがあると想定するのが自然である。大気中にオープンにされた水溶液中でアルミと窒素の化学結合ができることは想定し難いがあり得ないことでもなかろう。この点での解明が今後求められるが、少なくとも射出接着の大枠の機構は明確になった。
【0081】
実施例5
実施例4と全く同様でA1100アルミニューム合金板を処理して準備し、射出成形金型にインサートした。100℃に維持した金型を閉め、ガラス繊維20%、微粉タルク20%含有のポリブチレンナフタレート樹脂(三菱レイヨン(株)社試作品)を射出温度270℃で射出し、図4で示すように一体化した複合体を得た。10枚の成形品の全てで、リブ部を指で剥がそうとしたが剥すことはできなかった。ポリブチレンナフタレート系樹脂も同様に射出接着することがわかった。
【0082】
【発明の効果】
以上の詳記したように、本発明のアルミニューム合金と樹脂の複合体とその製造方法は、一体にされる熱可塑性樹脂組成物とアルミニューム合金形状物とは容易に剥がれることなく一体になる。従って、形状、構造上も機械的強度の上でも問題がない各種機器の筐体や部品、構造物等を作ることができる。本発明によって製造した筐体、部品、構造物は、軽量化や機器製造工程の簡素化に役立つものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、携帯電話ケースカバーの外観図である。
【図2】図2は、図1で示す携帯電話ケースカバーのI−I線で切断したときの断面図である。
【図3】図3は、金属フレームの表面に射出成形により熱可塑性樹脂組成物が充填される射出成形金型の断面図である。
【図4】図4は、アルミニューム合金と樹脂の複合体の実験片である。
【符号の説明】
1…ケースカバー
2…金属フレーム
3…リブ
Claims (13)
- アルミニューム合金を塑性加工、鋸加工、フライス加工、放電加工、ドリル加工、プレス加工、研削加工、及び研磨加工から選択される1種以上の機械加工により所望の形状に加工され、かつ
ヒドラジンの2〜30%の水溶液で、浸漬時間が常温〜60℃で数分〜30分間浸漬する工程を経たアルミニューム合金形状物と、
前記アルミニューム合金形状物の表面に、ポリブチレンテレフタレート、前記ポリブチレンテレフタレートを主体とする共重合体、及び前記ポリブチレンテレフタレートを成分として含む熱可塑性樹脂組成物から選択される1種以上が射出成形により一体に付着している
ことを特徴とするアルミニューム合金と樹脂の複合体。 - 請求項1に記載のアルミニューム合金と樹脂の複合体において、
前記ポリブチレンテレフタレートのポリマーが、ポリブチレンテレフタレート単独のポリマー、ポリブチレンテレフタレートとポリカーボネートのポリマーコンパウンド、ポリブチレンテレフタレートとアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂のポリマーコンパウンド、ポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートのポリマーコンパウンド、及びポリブチレンテレフタレートとポリスチレンのポリマーコンパウンドから選択される1種以上である
ことを特徴とするアルミニューム合金と樹脂の複合体。 - 請求項2に記載のアルミニューム合金と樹脂の複合体において、
前記ポリマーには、機械的強度を高めるために繊維が加えられている
ことを特徴とするアルミニューム合金と樹脂の複合体。 - 請求項3に記載のアルミニューム合金と樹脂の複合体において、
前記繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、及びアラミド繊維から選択される1種以上からなる
ことを特徴とするアルミニューム合金と樹脂の複合体。 - 請求項2に記載のアルミニューム合金と樹脂の複合体において、
前記ポリマーには、物性を改良するための充填材が加えられている
ことを特徴とするアルミニューム合金と樹脂の複合体。 - 請求項5に記載のアルミニューム合金と樹脂の複合体において、
前記充填材は、カーボンブラック、炭酸カルシューム、ケイ酸カルシウム、炭酸マグネシューム、シリカ、タルク、粘土、リグニン、アスベスト、雲母、石英粉、及びガラス球から選択される1種以上からなる
ことを特徴とするアルミニューム合金と樹脂の複合体。 - アルミニューム合金と樹脂の複合体の製造方法であって、
アルミニューム合金を塑性加工、鋸加工、フライス加工、放電加工、ドリル加工、プレス加工、研削加工、及び研磨加工から選択される1種以上の機械加工によりアルミニューム合金形状物とする加工工程と、
前記アルミニューム合金形状物をヒドラジンの2〜30%の水溶液で、浸漬時間が常温〜60℃で数分〜30分間浸漬する浸漬工程と、
成形用の金型に前記浸漬工程で浸漬処理された前記アルミニューム合金形状物を挿入して、前記アルミニューム合金形状物の表面に、ポリブチレンテレフタレート、前記ポリブチレンテレフタレートを主体とする共重合体、及び前記ポリブチレンテレフタレートを成分として含む熱可塑性樹脂組成物から選択される1種以上を加圧、加熱して射出成形により一体にする成形工程と
からなることを特徴とするアルミニューム合金と樹脂の複合体の製造方法。 - 請求項7に記載のアルミニューム合金と樹脂の複合体の製造方法において、
前記成形工程は、射出成形で行うものである
ことを特徴とするアルミニューム合金と樹脂の複合体の製造方法。 - 請求項8に記載のアルミニューム合金と樹脂の複合体の製造方法において、
前記ポリブチレンテレフタレートのポリマーが、ポリブチレンテレフタレート単独のポリマー、ポリブチレンテレフタレートとポリカーボネートのポリマーコンパウンド、ポリブチレンテレフタレートとアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂のポリマーコンパウンド、ポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートのポリマーコンパウンド、及びポリブチレンテレフタレートとポリスチレンのポリマーコンパウンドから選択される1種以上である
ことを特徴とするアルミニューム合金と樹脂の複合体の製造方法。 - 請求項9に記載のアルミニューム合金と樹脂の複合体の製造方法において、
前記ポリマーには、機械的強度を高めるために繊維が加えられている
ことを特徴とするアルミニューム合金と樹脂の複合体の製造方法。 - 請求項10に記載のアルミニューム合金と樹脂の複合体の製造方法において、
前記繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、及びアラミド繊維から選択される1種以上からなる
ことを特徴とするアルミニューム合金と樹脂の複合体の製造方法。 - 請求項9又は10に記載のアルミニューム合金と樹脂の複合体の製造方法において、
前記ポリマーには、物性を改良するための充填材が加えられている
ことを特徴とするアルミニューム合金と樹脂の複合体の製造方法。 - 請求項12に記載のアルミニューム合金と樹脂の複合体の製造方法において、
前記充填材は、カーボンブラック、炭酸カルシューム、ケイ酸カルシウム、炭酸マグネシューム、シリカ、タルク、粘土、リグニン、アスベスト、雲母、石英粉、及びガラス球から選択される1種以上からなる
ことを特徴とするアルミニューム合金と樹脂の複合体の製造方法。
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