JP4362868B2 - 圧電体、圧電体素子、インクジェット式記録ヘッド及びプリンタ - Google Patents

圧電体、圧電体素子、インクジェット式記録ヘッド及びプリンタ Download PDF

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本発明は、圧電性セラミックスなどの圧電体の製造方法に係り、特にペロブスカイト結晶構造を有する圧電体を水熱法を用いて製造する方法に関する。また、本発明はこのような圧電体を利用した圧電体素子、特にオンデマンド型インクジェット式記録ヘッドのインク吐出駆動源として機能する圧電体素子の製造方法に係る。
式ABO3で示すことのできる圧電体の多くは、ペロブスカイト型結晶構造を有する。かかる圧電体のうち特定の組成を有するものは電気機械変換作用を呈し、圧電体素子として利用されている。例えばAには鉛(Pb)、Bにはジルコニウム(Zr)とチタン(Ti)の混合を適用したチタン酸ジルコン酸鉛(通称PZT)は、非常に優れた圧電特性を示し、インクジェット式記録ヘッドのようなアクチュエータとして重要な圧電体材料となっている。
従来、このような圧電体の製造方法として、種々の方法がある。その第1の例として、酸化物を混合・焼結する方法が知られている。これは、例えば酸化鉛(PbO)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、二酸化チタン(TiO2)等の酸化物を混合し、仮焼し、磨砕して得られた粉末を焼結するものである。この方法は、特にバルク体の形成も可能にするものである。
第2の例として、ゾル−ゲル法が知られている。これは例えば、鉛(Pb)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)等を含んだ金属アルコキシド溶液(ゾル)をスピンコート法等で基板上に塗布し、ゲル化させ、得られた非晶質薄膜を焼結するものである。
第3の例として、スパッタ法がある。これは例えば、鉛(Pb)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)等の合金をターゲットとして用いてスパッタリングを行い、得られた非晶質薄膜を熱処理して結晶化するものである。
上述した方法によれば、原料に含まれる金属元素の組成を決定することによって、最終生成物である圧電体を構成する金属元素の組成を、ある程度制御することができる。
また、圧電体の製造方法の他の例として、論文"Application of HydrothermalMechanism for Tailor-making Perovskite Titanate Films", IEEE Proc. of the 9th Int'l Symp. on Electrets, Shanghai, China, Sept. 25-30, pp. 617-622(1996), W-ping Xu, Masanori Okuyama, et al.,には、水熱法で圧電体膜前駆体を結晶化させる技術が開示されている。この水熱法は、アモルファス状態の有機金属のゾルを基板上に塗布してからアルカリ水溶液中で水熱処理することにより、金属原子の配列を促し、ペロブスカイト型結晶構造に結晶化させるものである。
この水熱法によれば、上記第1乃至第3の各方法で成膜するよりも比較的低温で圧電体膜前駆体を結晶化させることができるため、多くの利点がある。例えば、低温プロセスにより、圧電体膜前駆体の結晶化の過程で発生する膜の内部応力の発生を少なくすることができるため、クラックの発生を防ぎ、圧電体膜の厚膜化が可能になる。圧電体膜の厚膜化が可能になれば、電圧を印加する際、膜内に生じる電場が弱いため、膜の信頼性を向上できる。また低温プロセスにより、膜の内部応力が小さいため、ラインプリンタを実現できる。
ところで、上記論文には、圧電体膜前駆体を結晶化する際にアルカリ水溶液を処理液として用いる旨の記載がある。しかし、例えばインクジェット式記録ヘッドの圧力室基板はシリコン基板を微細加工したものを用いるため、処理液として水酸化カリウム等の強アルカリ性水溶液を使用すると、基板や圧電体がエッチングされてしまうため、好ましくない。そこで、基板等に対する耐エッチング性、圧電体膜前駆体の結晶化促進等の観点から、処理液として水酸化バリウム水溶液や、水酸化鉛水溶液を用いていた。
"Application of HydrothermalMechanism for Tailor-making Perovskite Titanate Films", IEEE Proc. of the 9th Int'l Symp. on Electrets, Shanghai, China, Sept. 25-30, pp. 617-622(1996), W-ping Xu, Masanori Okuyama, et al.,
しかし、本発明者は、処理液として水酸化バリウムを用いてジルコニウム酸チタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3:PZT)等の圧電体膜前駆体を結晶化させると、圧電体膜中の鉛の含有量が低下することを見出した。
図5は水酸化バリウムのみで水熱処理して結晶化させた圧電体膜(Pb(Zr0.56Ti0.44)O3)のEDX(Energy Dispersive X-ray Analysis)スペクトルであり、図6はゾル・ゲル法で成膜した圧電体膜(Pb(Zr0.56Ti0.44)O3)のEDXスペクトルである。これらの図において、横軸は特性X線のエネルギーを表しており、縦軸はX線強度を表している。この実験結果から、水酸化バリウムで水熱処理して結晶化させた圧電体膜の鉛の含有量がゾル・ゲル法で成膜した圧電体膜の鉛の含有量より少ないことがわかる。
圧電体膜中の鉛の含有量が低下すると、低誘電性となり、圧電特性が低下する。このため、水酸化バリウムを用いる水熱処理によって結晶化された圧電体を用いた圧電体素子をインク吐出駆動源として用いると、従来に比べてインク吐出特性が低下する場合がある。同様に、水熱処理により圧電体の結晶膜を製造する場合に、当初の圧電体に含まれていた金属元素が失われ、思ったように製造物の組成制御ができないという不都合もある。一方、処理液として水酸化鉛水溶液を用いると、SEM(Scanning Electron Microscopy)観察により、結晶化しにくいことが判明した。
また、従来行われていた焼結による結晶化方法では、高温条件下による焼結の工程が不可欠であるため、加熱中に、鉛(Pb)等の金属成分が蒸発し飛散してしまう。これにより、予定する圧電体の成分比と実際得られる圧電体の成分比がずれやすいという問題があるとともに、気化した金属成分(鉛等)を外部環境に排出しないよう対策を講じる必要があり、コストが嵩む。
そこで、本発明は、水熱法で圧電体を製造する場合において、圧電体膜中における鉛の含有量を確保し、圧電特性の低下を防ぐことのできる製造方法を提供することを課題とする。更に、本発明は、圧電体を構成する金属元素の成分比を、容易に制御する方法を提供する。また、金属流出防止等の環境対策の負担が少ない圧電体の製造方法を提供する。
また、インク吐出駆動源である圧電体素子を上記製造方法で製造し、インク吐出特性に優れたインクジェット式記録ヘッドを製造する方法を提供することを課題とする。また、このインクジェット式記録ヘッドを備えたインクジェットプリンタを提供することを課題とする。
上記不都合に鑑み、本願発明者が水熱処理の組成変化について検討したところ、これらの不都合は、水熱処理の過程で2価の金属元素(Aサイト元素)が水溶液中の金属元素と置き換わることが原因であることが判明した。そしてこの現象を利用して最終生成物である圧電体の組成を制御することに本願発明者は想到した。
本発明の圧電体の製造方法は、式ABO3で表され、前記Aで表される元素として元素aを含み、かつペロブスカイト型結晶構造を有する圧電体の製造方法であって、元素a'を含む酸化物を生成する、第一のステップと、前記第一のステップにより生成される前記酸化物に対し、前記元素aを含む水溶液を使用して水熱処理を実行し、圧電体を生成する、第二のステップとを備え、前記第二のステップにより生成される圧電体に含まれる前記元素aの量は、前記第一のステップにより生成された前記酸化物に含まれていた前記元素aの量より増加することを特徴とする。このような製法によれば、式ABO3で表され、ペロブスカイト型結晶構造を有する圧電体において、上記Aで表される元素(Aサイト元素)を制御することが可能となる。また、焼結法で圧電体を形成するよりも低温の温度環境下で製造することができ、圧電体膜の厚膜化、大型化およびバルク体の製造が可能となる。
また、前記第二のステップで使用される前記元素aは、前記第一のステップで生成された前記酸化物に含まれていなかった元素であってもよい。これにより、上記Aサイトに含ませたい元素を、上記第二のステップにおける水熱処理を実行する前の酸化物に含ませなくても、最終生成物のAサイトに含ませることができる。
また、前記第一のステップで生成される前記酸化物は、式ABO3で表され、前記Aで表される元素として元素a'を含み、かつペロブスカイト型結晶構造を有する圧電体であってもよい。このように、第二のステップによる水熱処理は、既にペロブスカイト型結晶構造に結晶化された圧電体に対して施してもよく、この圧電体のAサイトにある元素a'を、元素aに置換することができる。
また、前記第一のステップは、アモルファス状態の酸化物に対して前記元素a'を含む水溶液を使用して水熱処理を実行し、前記アモルファス状態の前記酸化物を結晶化させるものであってもよい。このように、第一のステップ及び第二のステップで、計2段階の水熱処理を実行してもよい。
また、本発明の圧電体の製造方法は、前記第一のステップで生成される前記酸化物は、アモルファス状態の酸化物であって、前記第二のステップにおける水熱処理は、前記第一のステップで生成された前記酸化物を結晶化させるものであってもよい。このように、第二のステップにおける水熱処理によって、アモルファス状態の酸化物を結晶化させる処理と、最終生成物である圧電体のAサイトに所望の元素を導入させる処理とを同時に行ってもよい。
また、前記第二のステップにおける水熱処理は、前記元素aと、前記元素a'又はその他の前記Aで表される元素とを、ともに含む水溶液を使用して実行することが望ましい。これにより、例えば元素aは最終生成物に導入された場合に圧電特性を向上させる元素(例えばPb)とし、元素a'は水熱処理に使用するアルカリ水溶液とした場合に結晶化を促進させる元素(例えばBa,Sr,Ca)として、酸化物の結晶化と圧電特性の向上とを十分に図ることができる。
また、前記水溶液中における前記元素aと元素a'又はその他の前記Aで表される前記元素との存在比を、2:8乃至4:6の範囲に調整することが望ましい。この範囲とすることにより、最終生成物である圧電体中のAサイトの組成比を制御することができる。
また、前記元素aを含む前記水溶液は、式a(OH)n(n=1,2,3)で表わされる化合物のアルカリ水溶液であることが望ましい。また、前記元素a'を含む前記水溶液は、式a'(OH)n(n=1,2,3)で表わされる化合物のアルカリ水溶液であることが望ましい。
また、前記元素aは鉛であることが望ましい。これにより、最終生成物である圧電体の圧電特性を向上させることができる。また、前記元素a'は、バリウム、ストロンチウム、ランタン、または、カルシウムの組から選択される一つの元素であることが望ましい。これにより、アモルファス状態の酸化物の結晶化を十分に促進させることができる。また、前記Bで表される元素は、ジルコニウム及び/又はチタンであることが望ましい。
また、前記第二のステップにおける水熱処理に使用される前記水溶液の濃度は、0.05M(mol/l)以上2.0M(mol/l)以下の範囲であることが望ましい。また、前記第二のステップにおける水熱処理における処理温度は120℃以上200℃以下の範囲であることが望ましい。更に、前記第二のステップにおける水熱処理における処理圧力は、2気圧以上20気圧以下の範囲であることが望ましい。また、前記第二のステップにおける水熱処理における処理時間は15分以上120分以下の範囲であることが望ましい。
また、前記アモルファス状態の酸化物は、有機金属を含むゾルを塗布し脱脂して生成してもよい。
また、前記圧電体の組成は、チタン酸鉛(PbTiO3)、ジルコン酸チタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO3)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO3)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O3)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O3)のうち何れであってもよい。
また、本発明の圧電体素子の製造方法は、下部電極を形成する工程と、上記の圧電体の製造方法により、圧電性を示す圧電体膜を前記下部電極上に成膜する工程と、前記圧電体膜上に上部電極を形成する工程と、を備える。
また、本発明のインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、基板上に振動板膜を成膜する工程と、上記の圧電体素子の製造方法により前記振動板膜上に圧電体素子を製造する工程と、前記基板を加工し、前記圧電体素子の駆動による前記振動板膜の変位を伝達可能な箇所に、加圧室を形成する工程と、を備える。
また、本発明の圧電体の他の製造方法は、前記元素aはバリウムであり、前記元素a'は鉛であり、前記Bで表される元素はチタンであることを特徴とする。更に、前記第一のステップで生成される前記酸化物は、柱状結晶粒よりなるチタン酸鉛(PbTiO3)であることが望ましい。そして更に、前記第一のステップは、MOD法を用いて前記酸化物を生成することが望ましい。これにより、従来の方法では製造困難な、柱状で粒径の大きな結晶粒からなるBaTiO3、より正確には、化学式(BaxPb1-x)TiO3で表されるチタン酸バリウム鉛である圧電体を製造することができる。
また、本発明による圧電体は、化学式(Ba,Pb)TiO3で表され、前記圧電体は柱状結晶粒よりなり、格子欠陥が存在する転位層が一定間隔をおいて存在し、隣接する転位層の間隔が10nm以上であることを特徴とする。これにより、耐電圧性にすぐれ、圧電特性の良好なチタン酸バリウム鉛を提供することができる。特に、化学式(BaxPb1-x)TiO3 で表されるチタン酸バリウム鉛を提供することができる。
また、本発明の圧電体素子は、上記の圧電体と、この圧電体に電圧を印加可能な電極とを備える。これにより、耐電圧性に優れ、電圧の印加に対し良好な変位(歪み)量を呈する圧電体素子を提供することができる。また、本発明のインクジェット式記録ヘッドは、上記圧電体素子が圧電アクチュエータとして設けられていることを特徴とする。また、本発明によるプリンタは、上記のインクジェット式記録ヘッドを印字手段として備えていることを特徴とする。
本発明の圧電体の製造方法によれば、水熱法で圧電体を製造する場合において、圧電体膜中における鉛の含有量を確保し、圧電特性の低下を防ぐことのできる製造方法を提供することができる。更に、圧電体を構成する金属元素の成分比を、容易に制御する方法を提供することができる。また、金属流出防止等の環境対策の負担が少ない圧電体の製造方法を提供することができる。更に、前駆体に含まれていなかった金属元素を最終生成物のペロブスカイト構造のAサイト原子として添加させる方法を提供することができる。
本発明のインクジェット式記録ヘッドの製造方法によれば、圧電体膜中における鉛の含有量を確保しつつ、インク吐出特性に優れたインクジェット式記録ヘッドを製造する方法を提供することができる。
以下、各図を参照して本実施の形態について説明する。
(原理説明)
図7は、圧電体の結晶構造の一種であるペロブスカイト型結晶構造の模式図である。この結晶構造において、元素Aは2価の金属元素(Pb等)であり、元素Bは4価の金属元素(TiやZr等)であり、元素Oは通常酸素(O)である。これら複数の金属元素の酸化物である圧電体の多くは、ペロブスカイト型結晶構造を有する。この結晶構造は自発分極を有する。この結晶構造を備える圧電体は、電気機械変換作用、俗に言う圧電作用を示すようになる。
従来、最終生成物の組成が前駆体形成時の組成と異なり、圧電特性の不十分な圧電体ができていたことが問題とされていた。
本願発明者は、数々の実験の結果、圧電体結晶化のための水熱処理過程で、アルカリ水溶液に含まれる元素、例えばバリウム(Ba)が、元となるアモルファス状態の前駆体に含まれていた鉛元素と置換し結晶化してしまうことを発見した。すなわち、俗にAサイトといわれる配位位置にある元素Aは、処理液とするアルカリ水溶液にある他の金属元素(Ba)に置換されながら結晶化が促進されていくのである。従来の水熱法では、前駆体膜中の鉛元素が水熱処理の過程でアルカリ水溶液中の金属元素と置換されていたため、鉛元素が欠落し、十分な分極を示さなくなっていたのである。
そこで、水熱処理の過程でAサイトの金属元素が水溶液中の金属元素と置換し易いことを逆に利用し、本願発明者は、最終生成物である圧電体結晶体に添加したい元素(例えば鉛元素)を、水熱処理のためのアルカリ水溶液中に予め含ませておくことに想到した。水熱処理前の酸化物中のバリウム元素は、水熱処理の過程で、アルカリ水溶液に含まれる鉛など他の元素に置換される。この置換現象により、最終生成物である圧電体膜中の鉛元素の存在比を、従来の水熱法に比べはるかに多くできることになるのである。
逆に言えば、水熱法で使用するアルカリ水溶液に複数の金属元素を含ませることで、最終生成物である両金属元素を含む結晶構造の元素の存在比を制御できることにもなる。アルカリ水溶液中における種類ごとの金属元素の存在比と、最終生成物における金属元素の存在比との関係を実験等で明らかにしておけば、従来難しかった水熱法による組成制御が比較的容易に行えることになる。
また、Aサイトに添加したい元素を含む水溶液を用いて酸化物を水熱処理すると、水熱処理後の圧電体のAサイトに該元素を添加できることにもなる。
(インクジェットプリンタの構成)
図1を参照してインクジェットプリンタの構成について説明する。インクジェットプリンタは、主にインクジェット式記録ヘッド100、本体102、トレイ103、ヘッド駆動機構106を備えて構成されている。インクジェット式記録ヘッド100は、イエロー、マゼンダ、シアン、ブラックの計4色のインクカートリッジ101を備えており、フルカラー印刷が可能なように構成されている。
また、このインクジェットプリンタは、内部にCPU、メモリ、インタフェース回路等を含み、コネクタを介してネットワークに接続されている各クライアントからの印刷データを受け取る。CPUはこの印刷データをメモリにバッファリングし、ページ記述言語で記述されたプリントイメージを所定アドレスに展開する。そして、CPUはプリントイメージを基に、インクジェット式記録ヘッド100のインク吐出タイミング、及び、ヘッド駆動機構106の走査を制御する。また、本体102は背面にトレイ103を備えるとともに、その内部にオートシートフィーダ(自動連続給紙機構)105を備え、用紙107を自動的に送り出し、正面の排出口104から用紙107を排紙する。
(インクジェット式記録ヘッドの構成)
図2にインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図を示す。ここではインクの共通通路が加圧室基板内に設けられるタイプを示す。同図に示すように、インクジェット式記録ヘッドは加圧室基板1、ノズルプレート2及び基体3から構成される。加圧室基板1はシリコン単結晶基板をエッチング加工等された後、各々に分離される。加圧室基板1には複数の短冊状の加圧室10が設けられ、全ての加圧室10にインクを供給するための共通通路12を備える。加圧室10の間は側壁11により隔てられている。加圧室基板1の基体3側には圧電体素子が設けられている。また、各圧電体素子からの配線はフレキシブルケーブルである配線基板4に収束され、基体3の外部回路と接続される。
ノズルプレート2は加圧室基板1に貼り合わされる。ノズルプレート2における加圧室10の対応する位置にはインク滴を吐出するためのノズル21が形成されている。ノズル21間のピッチは印刷精度に応じて適宜設定され、例えば、400dpi等の解像度が設定されている。基体3はプラスチック、金属等の剛体であり、加圧室基板1の取付台となる。
次に、図3(E)を参照してインク吐出の原理について説明する。同図は、インクジェット式記録ヘッドの主要部の断面図である。この図は加圧室の長手方向に直角な面で当該主要部を切断した断面形状を示している。同図中、図2と同一構造については同一記号で示し、その説明を省略する。シリコン単結晶基板から構成される基板1上には振動板膜20を介して圧電体素子5が形成されている。圧電体素子5は上部電極50と下部電極30に挟まれた圧電体膜40を備える。同図では、下部電極30を各圧電体素子の共通電極として用いる場合を示している。この圧電体素子5に所望の電圧を印加することで、圧電体膜40が変形し、振動板膜20を介して加圧室10内に充填されるインクを加圧する。すると、加圧室10内に充填されているインクはノズル21から吐出し、所定の記録紙に付着することで印字等が可能になる。
(インクジェット式記録ヘッドの製造方法)
次に、インクジェット式記録ヘッドの製造方法を、圧電体の第一の製造方法と併せて説明する。図3はインクジェット式記録ヘッドの第1の製造方法を示す製造工程断面図であり、同図(A)〜同図(C)が圧電体の第一の製造方法と共通する。
第一の製造方法は、アモルファス状態の酸化物に対して元素a'(Baなど)を含む水溶液を使用して水熱処理を実行し、アモルファス状態の酸化物を結晶化させるステップと、このステップにより生成される圧電体に対して元素a(Pbなど)を含む水溶液を使用して水熱処理を実行するステップとを備えていることを特徴とする。
薄膜積層工程(図3(A))
本工程により、基板1上に振動板膜20、下部電極30、圧電体膜前駆体41〜44を順次成膜する。まず、基板1上に振動板膜20を成膜する。基板1として、例えば、厚さ220μmのシリコン単結晶基板を用いる。インクジェット式記録ヘッドをラインプリンタ用に用いる場合は、細長く成形されたシリコン単結晶基板を用い、その厚みは側壁の高さが高くなりすぎないように、例えば、200μm程度とする。熱酸化法により膜厚1.0μmの二酸化珪素から成る振動板膜20を成膜する。この工程では、酸素或いは水蒸気を含む酸素雰囲気中で高温処理する。この振動板膜20は、圧電体素子の変形を加圧室に伝え、加圧室内のインク圧を高める機能を有する。二酸化珪素膜に限られず、酸化ジルコニウム膜、酸化タンタル膜、窒化シリコン膜、酸化アルミニウム膜でもよく、さらに、振動板自体をなくして後述する下部電極に振動板の役割を兼ねてもよい。また、振動板膜20の成膜は、熱酸化法に限らず、CVD(chemical vapor deposition)法でもよい。
次に、振動板膜20上に下部電極30を成膜する。例えば、スパッタ法でチタンを100nmの膜厚で振動板膜20上に成膜し、下部電極30を得る。また、下部電極30が白金である場合、振動板膜20と下部電極30間の密着力を向上させるためにチタン、クロム等の密着層(図示せず)を介在させてもよい。この密着層は、例えば、スパッタ法で50nmの膜厚でチタンを成膜してもよい。
次に、下部電極30上に圧電体膜前駆体を成膜する。圧電体膜としては圧電特性を有する圧電性セラミックスを用いる。例えば、PZT系圧電性材料や、この系にニオブ酸、ニッケル又はマグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等が圧電体膜として好適である。具体的には、チタン酸鉛(PbTiO3)、ジルコン酸チタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3:PZT)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO3)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO3)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O3)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O3:PZT−PMN)等が好適である。
本工程では、圧電体膜の組成として、Pb(Zr0.56Ti0.44)O3を用い、圧電体膜前駆体41〜44をゾル・ゲル法で成膜する場合を説明する。ゾル・ゲル法で成膜する場合は、圧電体膜を形成可能な金属成分の水酸化物の水和錯体、即ち、ゾルを下電極上に塗布し脱脂処理して圧電体膜前駆体とし、この圧電体膜前駆体を水熱処理で結晶化して無機酸化物(圧電体膜)を得る。具体的には、チタン酸鉛とジルコン酸鉛のモル混合比が44%:56%となるようなアモルファス状態のPZT系圧電体膜前駆体を、最終的な膜厚が0.4μmとなるまで所望の回数の塗布/乾燥/脱脂を繰り返して成膜する。
まず、下電極30上に塗布するゾルを調製する。例えば、2−n−ブトキシエタノールを主溶媒として、これにチタニウムテトライソプロポキシド、テトラ−n−プロポキシジルコニウムを混合し、室温下で20分間攪拌する。次いで、ジエタノールアミンを加えて室温で更に20分間攪拌する。更に酢酸鉛を加え、80℃に加熱する。加熱した状態で20分間攪拌し、その後、室温になるまで自然冷却する。この工程でゾルが得られる。
このゾルを下部電極30上に0.1μmの厚さでスピンコーティングする。ゾルの膜厚を均一にするために最初は500rpmで30秒間、次に1500rpmで30秒間、最後に500rpmで10秒間、スピンコーティングする。この段階で圧電体膜を構成する各金属原子は有機金属錯体として分散している。
ゾルを下部電極30に塗布した後、例えば、180℃で10分間乾燥させる。次いで、大気雰囲気下において、例えば、350℃で60分間脱脂する。脱脂工程は、ゾル組成物の膜をゲル化し、且つ、膜中から有機物を除去するのに充分な温度で、十分な時間加熱することで行う。その後、圧電体膜前駆体41を形成する。この工程で残留有機物を実質的に含まない非晶質の金属酸化物からなる多孔質の圧電体前駆体薄膜とする。脱脂により金属に配位している有機物が金属から解離し、酸化燃焼反応を生じて大気中に拡散する。このゾルの塗布/乾燥/脱脂を4回繰り返すことで、圧電体膜前駆体41、42、43及び44を積層する。このように、圧電体膜前駆体を多層化することでクラックの発生を防止しながら厚膜化することができる。
以上の工程を経て4層に積層された膜厚0.4μmの圧電体膜前駆体を得る。尚、圧電体膜前駆体を成膜する工程は上述のゾル・ゲル法の他に、RFスパッタ法、イオンビームスパッタ法、MOD法(Metal Organic Decomposition Process)、電子ビーム蒸着法等で成膜することもできる。
水熱処理工程(同図(B))
本工程は圧電体膜前駆体を水熱処理して結晶化を促進させる工程および結晶化した圧電体膜内のPb含有量を確保する工程であり、2回に分けて水熱処理を行う。まず、1回目の水熱処理工程では、水酸化バリウム水溶液(Ba(OH)2)を処理液6として調製する。処理液の濃度は0.05M(mol/l)〜0.5M(mol/l)程度とする。水酸化バリウムは水酸化カリウムと比較してシリコン基板に対する食刻が少ないため基板1の材質の自由度が広がる利点がある。この処理液6を水槽7に満たす。上述の工程で得られた圧電体膜前駆体を基板1ごと水槽7に浸漬し、オートクレーブ(autoclave)中で結晶化を促進させる。
このときの水熱処理の温度は120℃〜200℃の範囲に設定する。この範囲より低い温度では結晶化が促進されず、この範囲より高い温度では圧電体膜前駆体や基板1がエッチングされる不都合が生じるからである。特に、140℃の処理温度が好適である。処理圧力は2気圧以上で10気圧以下に設定することで良質な結晶を得ることができる。特に、4気圧の処理圧力が好適である。処理時間は30分〜120分の範囲とし、特に、60分程度が好ましい。処理時間が短いと十分な結晶を得ることができず、処理時間が必要以上に長いと基板がエッチングされてしまうからである。
この1回目の水熱処理工程で圧電体膜前駆体41〜44を結晶化させることができる。結晶化した圧電体膜前駆体41〜44は、圧電体膜40になる。
但し、この1回目の水熱処理工程により圧電体膜40中にバリウムが多量に存在し、鉛の含有量が低下する。圧電体膜中の鉛の含有量が低下すると、低誘電性となり、圧電特性が低下する。このため、水酸化バリウムのみを用いて水熱処理された圧電体を備える圧電体素子をインク吐出駆動源として用いると、従来に比べてインク吐出特性が低下する場合がある。そこで、このバリウムを鉛に置換し、鉛の欠損を補うために、2回目の水熱処理を行う。
まず、水槽7から基板を取り出し、水酸化バリウム水溶液を排水する。次に、処理液として水槽7に水酸化鉛水溶液(Pb(OH)2)を満たす。処理液の濃度は0.05M(mol/l)〜0.2M(mol/l)とし、特に、0.1M(mol/l)程度が好ましい。基板を処理液中に侵漬し、温度を120℃〜200℃、好ましくは、140℃とする。処理圧力は2気圧以上で10気圧以下、好ましくは、4気圧とする。この2回目の水熱処理工程により、1回目の水熱処理で結晶中に侵入されたバリウム原子を鉛原子に置換することができる。
上部電極成膜工程(同図(C))
水熱処理工程後、圧電体膜40上に上部電極50を成膜する。電子ビーム蒸着法、スパッタ法等の薄膜積層技術を用いて、圧電体膜40の上に白金を200nm成膜し、上部電極50とする。但し、白金に限らず、イリジウム、白金とイリジウムの合金、酸化イリジウム、アルミニウム等でもよい。
圧電体素子分離工程(同図(D))
本工程はインク吐出駆動源となる圧電体素子を各加圧室毎に対応して分離させる工程である。上部電極50上にレジスト(図示せず)をスピンコーティングし、加圧室が形成されるべき位置に合わせて露光・現像し、パターニングする。このレジストをマスクとしてイオンミリング、あるいはドライエッチング法等を適用して、上部電極50及び圧電体膜40から成る積層構造をエッチングする。この工程で加圧室が形成されるべき位置に合わせて圧電体素子5が分離される。
加圧室形成・ノズルプレート接合工程(同図(E))
本工程は基板1に加圧室10を形成し、ノズルプレート2を接合する工程である。平行平板型反応性イオンエッチング等の活性気体を用いた異方性エッチングを用いて、加圧室10が形成される空間をエッチングする。エッチングされずに残された基板部分が側壁11になる。エッチング終了後、基板1にノズルプレート2を接合する。このとき、各ノズル21が加圧室10の各々の空間に対応して配置されるよう位置合せする。加圧室10が形成された基板1を基体3に取り付ければ、インクジェット式記録ヘッドが完成する。尚、ノズルプレート2と基板1を一体的にエッチングして形成する場合は、ノズルプレート2の接合工程は不要である。
(実施例)
本実施の形態で製造した圧電体膜のEDXスペクトルを図4に、従来の製法(水酸化バリウムで水熱処理)で製造した圧電体膜のEDXスペクトルを図5に示す。圧電体膜の組成はいずれもPb(Zr0.56Ti0.44)O3である。これらの図を比較すればわかるように、本実施の形態で製造した圧電体膜の鉛の含有量は、従来の製法で製造した圧電体膜の鉛の含有量よりも多いことがわかる。この結果から、1回目の水熱処理工程で水酸化バリウムで圧電体膜を結晶化させた後、2回目の水熱処理工程でバリウム原子を鉛原子に置換し、圧電体膜中の鉛の含有量を確保できたことがわかる。また、本実施の形態で製造した圧電体膜のEDXスペクトル(図4)を従来のゾル・ゲル法で成膜した圧電体膜のEDXスペクトル(図6)と比較すると、本実施の形態の製法で成膜した圧電体膜はゾル・ゲル法で成膜した圧電体膜の組成とほぼ同じ組成を有することがわかる。また、本実施の形態の製法で製造した圧電体膜の結晶中に含まれるバリウム含量は5at%以下であった。
以上の実験結果から考察すると、本実施の形態の製法によれば、水酸化カリウム等の強アルカリ水溶液を処理液として使用せず、水酸化バリウム水溶液と水酸化鉛水溶液を処理液とするため、水熱処理工程の際に基板や圧電体素子のエッチングを防止できるとともに、圧電体膜前駆体を確実に結晶化することができる。また、水酸化バリウムによる水熱処理の後に水酸化鉛で水熱処理をすることで、圧電体膜の結晶中のバリウム原子を鉛原子に置換することができ、ゾル・ゲル法で成膜した場合の圧電体膜とほぼ同一の組成に製造することができる。この結果、ゾル・ゲル法で成膜するよりも低温の温度環境下で同一の組成を有する圧電体を製造することができる。
一般にゾル・ゲル法での成膜はRTA(Rapid Thermal Annealing)によるファイナルアニールで900℃前後の温度を必要とするが、本実施の形態の製法によれば、200℃以下の低温で圧電体を製造することができるため、成膜時における膜内部の応力を低減することができる。このため、圧電体素子の大型化(大面積化)が可能になり、ラインプリンタのような大面積印刷装置のインクジェット式記録ヘッドのインク吐出駆動源に好適である。また、低温環境下における圧電体膜の成膜により、圧電体膜の厚膜化が可能になり、膜に電圧を印加する場合に膜内に生ずる電場が弱電場となるため、膜の信頼性を向上できる。
また、本実施の形態の製法によれば、圧電体膜中の鉛の含有量を十分に確保することができ、ゾル・ゲル法で成膜した場合と同様の圧電特性を維持することができる。このため、水酸化バリウムのみを用いて水熱処理する従来の製法に比べてインク吐出特性が向上する。
(第2の製造方法)
次に、本発明の圧電体の第2の製造方法について説明する。上記第1の製造方法においては、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)の前駆体膜を生成し、その後水酸化バリウム(Ba(OH)2)水溶液中で水熱処理して結晶化させるステップと、この結晶体を水酸化鉛(Pb(OH)2)水溶液中で水熱処理して鉛を補うステップとを有していた。これに対し、第2の製造方法においては、チタン酸ジルコン酸バリウム(Ba(Zr,Ti)O3)の結晶体を生成するステップと、これを水酸化鉛(Pb(OH)2)水溶液中で水熱処理して、結晶中のAサイト原子を鉛で置換するステップとを備える。それ以外の各工程については前記第1の製造方法と同様であるので、詳細な説明を省略する。
上記水酸化鉛水溶液の濃度は、0.05〜2.0[mol/リットル]とすることが好ましい。この範囲のアルカリ濃度でAサイト原子の置換が好適に行われることが実験から得られたからである。例えば、0.1[mol/リットル]とする。
また、水熱処理の条件として、処理温度は、120℃乃至200℃の範囲内の温度で実施することが好ましい。この範囲より低い温度では置換が促進されず、この範囲より高い温度では、圧電体層およびシリコン基板がエッチングされるからである。例えば処理温度を140℃程度にする。オートクレーブの圧力は、2気圧乃至20気圧の範囲内の圧力であることが好ましい。この範囲から外れる圧力では、良好な原子置換が得られないからである。例えば圧力を5気圧程度にする。処理時間は、15分乃至120分の範囲内の時間で実施することが好ましい。この範囲より短い時間では十分な置換ができず、この範囲より長い時間では圧電体層や基板が侵食されたりするおそれがあるからである。例えば処理時間を60分程度にする。
(実施例)
上記製造方法に基づいて、組成式PbXBa(1-X)(Zr56Ti44)O3で表わされる圧電体を備えた圧電体素子である圧電アクチュエータを製造した。図8に、水熱処理前の組成としてBa(Zr56Ti44)O3で表わされる圧電体結晶体薄膜のEDXスペクトル図を示す。図9に、0.1M(mol/l)のPb(OH)2を含んだアルカリ水溶液で、140℃、5気圧の条件下で60分にわたって水熱処理した場合の最終生成物のEDXスペクトル図を示す。
図8を見ると、バリウム元素(Ba)が多く存在し、他にはO、Zr、Tiのピークが見られる。これに水熱処理を施した場合、図9に示すように、結晶体膜の組成は、処理前の膜の組成に比べ、鉛元素(Pb)が大幅に増加し、代わりにBa元素が減少していることが確認できる。
なお、ここで水熱処理されるチタン酸ジルコン酸バリウムの結晶体は、水熱法により生成してもよく、焼結法、スパッタ法等により生成しても良い。また、電子ビーム蒸着法、MOD法およびCVD法によって得られた圧電体結晶体膜に対しても本発明が適用できる。特に、チタン酸ジルコン酸バリウムのように鉛を含まない結晶体の製造は、生成中に鉛が飛散することもなく、環境に優しいという利点を有する。
上記第2の製造方法によれば、水溶液に混ぜる金属元素を選択することで、任意の組成の圧電体を形成可能である。つまり当初の結晶生成段階から総ての金属元素を含んでいなくても、水熱処理に用いるアルカリ溶液中に含まれる金属元素に含んでおけば、ペロブスカイト結晶構造のAサイト原子に、当初から含まれる金属元素および水熱処理の水溶液に含まれる金属元素を共に配置することが可能である。
また、上記第2の製造方法によれば、結晶生成段階では鉛元素(Pb)を原料として使用せず、最後の水熱処理によって鉛元素をペロブスカイト型結晶構造のAサイトに添加することができるため、鉛に対する高熱処理を避けることができ、鉛元素等の流出防止管理が行いやすくなる。また、高熱を使用しないのでエネルギー資源の利用も削減できる。
(第3の製造方法)
次に、本発明の圧電体の第3の製造方法について説明する。第3の製造方法は、PZTの前駆体であるアモルファス状態の酸化物を、Pb(OH)2及びBa(OH)2の混合溶液を用いて水熱処理するものである。これにより、前駆体膜を結晶化させると同時に、圧電体結晶のAサイト原子として、Pb及びBaを配位させる。特に、上記Pb(OH)2及びBa(OH)2の混合比により、Aサイト原子の混合比を制御することができる。なお、これ以外の各工程については前記第1の製造方法と同様であるので、詳細な説明を省略する。
ここで、鉛元素(Pb)はPZTの圧電特性に重要な役割を果たし、バリウム元素(Ba)は水熱法に適するアルカリ環境に寄与する。
このアルカリ水溶液における鉛元素およびバリウム元素の存在比を調節しておく点は重要である。例えば、鉛元素とバリウム元素との存在比は、2:8乃至4:6の範囲に調整しておくことが好ましい。この存在比の範囲では、好適な圧電特性を示す圧電体の結晶が得られることが実験から明らかだからである。そのために、これら元素の水酸化物、Pb(OH)2とBa(OH)2とを上記したモル比で混合し前駆体膜を水熱処理する。両元素の合計モル数を0.05〜0.5[Mol/リットル]になるように調整して水熱処理をすることが好ましい。この範囲のアルカリ濃度で好適な結晶化が促進されることが実験から判明しているからである。
水熱処理の条件として、処理温度は、120℃乃至200℃の範囲内の温度で実施することが好ましい。この範囲より低い温度では結晶化が促進されず、この範囲より高い温度では、圧電体層およびシリコン基板がエッチングされるからである。例えば処理温度を140℃程度にする。オートクレーブの圧力は、2気圧乃至20気圧の範囲内の圧力であることが好ましい。この範囲からはずれる圧力では、良好な結晶が得られないからである。例えば圧力を5気圧程度にする。処理時間は、15分乃至90分の範囲内の時間で実施することが好ましい。この範囲より短い時間では十分な結晶ができず、この範囲より長い時間では圧電体層や基板が侵食されたりするおそれがあるからである。例えば処理時間を30分程度にする。
なお、圧電アクチュエータ用の圧電体を得るために、バリウムの他に、ストロンチウム、ランタン、または、カルシウムの組から選択される一つの元素としてもよい。
この水熱処理の過程では、圧電体前駆体膜に含まれる鉛元素が、水溶液中のバリウム元素に置換されて結晶化し、結晶構造のAサイトにあるバリウム元素が、再び水溶液中の鉛元素と置換され、最終的にアルカリ水溶液中の金属組成比に相関関係のある組成比で圧電体の結晶が形成される。
(実施例)
上記第3の製造方法に基づいて、組成式PbXBa(1-X)(Zr56Ti44)O3で表わされる圧電体を備えた圧電体素子である圧電アクチュエータを製造した。図13に、水熱処理前の組成として圧電体前駆体膜のEDXスペクトル図を示す。従来法による比較例として、図10に、Ba(OH)2のみのアルカリ水溶液で水熱処理した場合(バリウム元素と鉛元素のモル比1:0)の最終生成物のEDXスペクトル図を示す。本発明の実施例1として、図11に、バリウム元素と鉛元素とのモル比を6:4に調整したアルカリ水溶液で水熱処理した場合の最終生成物のEDXスペクトル図を示す。本発明の実施例2として、図12に、バリウム元素と鉛元素とのモル比を4:6に調整したアルカリ水溶液で水熱処理した場合の最終生成物のEDXスペクトル図を示す。
図13を見ると、金属アルコキシド溶液の組成通りに金属が存在している。これに従来法で水熱処理を施した場合、図10に示すように、圧電体膜の組成は、前駆体膜の組成に比べ、バリウム元素(Ba)が多く組成内に入り込み、鉛元素(Pb)が大幅に減少している。これが従来の問題点であった。
これに対し、本発明の水溶液を使用して水熱処理を施すと、図11や図12に示すように、鉛元素の欠乏が劇的に回復していることが確認できる。
図11と図12とを比較すると判るように、アルカリ水溶液中の鉛元素の存在比が上がると、圧電体における鉛元素量がそれに対応して増えている。しかし、アルカリ水溶液中の鉛元素の存在比をさらに増やし、鉛元素のみ(すなわちバリウム元素と鉛元素との存在比が0:1)にした場合には圧電体が結晶しなかった。アルカリ環境を保つためには、バリウム元素と鉛元素との存在比は、2:8程度が限度であることが判った。
一方、最終生成物としてバリウム元素と鉛元素を共に含む圧電体を製造するために、金属アルコキシドのゾルにバリウム元素を混入させ、前駆体膜の段階から複数の金属元素が混ざるようにして実験したところ、バリウム元素の化合物による沈殿が生じ、複数元素による圧電体を結晶化できなかった。
上記第3の製造方法によれば、以下の利点を生ずる。
a)本実施形態によれば、圧電特性に影響する鉛元素を含んだ水溶液を使用して水熱処理したので、従来発生していた圧電体における鉛元素の欠乏を防止することが可能である。
b)本実施形態によれば、複数の金属を含むように調合した水溶液を用いて水熱処理したので、ペロブスカイト結晶構造のAサイト原子として複数の金属元素を有する圧電体を製造することができる。
すなわち水溶液に混ぜる金属元素を選択することで、任意の組成の圧電体を形成可能である。つまり当初のゾルからすべての金属元素を含んだ溶液を調合しなくても、水熱処理に用いるアルカリ溶液中に含まれる金属元素に含んでおけば、ペロブスカイト結晶構造のAサイト原子に、当初のゾルに含まれていなかった金属元素を配置することが可能である。
また、上記第1及び第2の製造方法と異なり、アモルファス状態の酸化物を結晶化させる処理と、ペロブスカイト型結晶構造のAサイトに所望の金属元素を添加する処理とを、1回の水熱処理で行うことができる。
(第4の製造方法)
次に、本発明の圧電体の第4の製造方法について説明する。第4の製造方法は、上記第2の製造方法と類似しており、MOD法を用いて柱状結晶粒よりなるチタン酸鉛(PbTiO3)を生成するステップと、このチタン酸鉛を、水酸化バリウム(Ba(OH)2)水溶液を用いて水熱処理することによってチタン酸バリウム鉛((Ba,Pb)TiO3)を生成するステップとを備えている。なお、それ以外の各工程については前記第1の製造方法と同様であるので、詳細な説明を省略する。
一般に圧電体の圧電特性を向上させるためには、柱状で粒径の大きな結晶粒とすることが望ましい。しかし、チタン酸バリウム(BaTiO3)は、柱状で粒径の大きな結晶粒とすることが困難であり、例えばゾルゲル法やMOD法で製造すると結晶粒が小さくなってしまう。これに対し、チタン酸鉛(PbTiO3)は、MOD法によって、柱状で粒径の大きな結晶粒を生成することが比較的容易である。そこで、MOD法によってチタン酸鉛の結晶体を生成したのち、これを水酸化バリウム水溶液で水熱処理することによって、Aサイトの95%以上をBaに置換することができる。
上記第4の製造方法により製造した圧電体は、粒径の大きな柱状結晶粒となるばかりでなく、格子欠陥が存在する転位層の数も少なくなる。図14は、第4の製造方法により製造される圧電体の柱状結晶粒および転位層を説明する概念図である。従来の方法により生成されるチタン酸バリウムでは、転位層の間隔が10nmに満たず、転位層の数が多くならざるを得なかった。これに対し、本製造方法により製造されるチタン酸バリウム鉛は、図14に示すように、柱状結晶粒141中に形成される転位層142の間隔を、10nm以上、更には200nm以上にまで広くすることができる。
転位層の間隔が広いことは、格子欠陥の数が少ないことを意味する。従って、耐電圧性が向上し、圧電体膜の破壊に至る限界歪みが向上する。また、圧電定数の向上も見られる。
図15は、ある圧電体膜について、歪みの電界強度依存性を、一定膜厚あたりの転位層の数ごとに比較したグラフである。このグラフの各折れ線における歪みの最大値は、各折れ線において膜の破壊に至る限界歪みを示している。このグラフによれば、転位層の数が少ないほど膜の破壊に至る限界歪みが向上していることがわかる。また、転位層の数が少ないほど電界強度に対する歪み(変位量)が向上していることがわかる。
従って、この圧電体を利用して圧電体素子を製造した場合には、耐電圧性および圧電特性に優れた圧電体素子を製造することができる。また、この圧電体素子を圧電アクチュエータとして備えるインクジェット式記録ヘッドを製造した場合には、丈夫で吐出特性に優れたインクジェット式記録ヘッドを製造することができる。
(その他の変形例)
本発明は、上記各実施形態によらず種々に変形して適応することが可能である。例えば、上記実施形態では、PZTを例示したが、Bサイト原子としてジルコニウムやチタン以外の金属元素が配置された圧電体であってもよい。
またゾルの組成や製造工程は例示であり、本発明の技術的思想を超えない範囲で他の方法を適用可能である。
また、本発明を適用し得る圧電体結晶体は、薄膜のみならずバルク体であっても良い。
本発明によって形成される圧電体は、圧電アクチュエータやインクジェット式記録ヘッド等のための圧電素子として適用可能である。
尚、本実施の形態の圧電体素子は、圧電体素子の大型化が可能であるため、ラインプリンタのような大面積に印刷ができるプリンタを提供することができる。
インクジェットプリンタの構成図である。 インクジェット式記録ヘッドの分解斜視図である。 本実施の形態のインクジェット式記録ヘッドの製造工程断面図である。 第1の製造方法で製造した圧電体膜のEDXスペクトルである。 従来の水熱法で製造した圧電体膜のEDXスペクトルである。 従来のゾル・ゲル法で製造した圧電体膜のEDXスペクトルである。 本発明の水熱処理中におけるAサイト原子の置換を説明する原理図である。 本発明の水熱処理を実行する前の結晶体(一例)のEDXスペクトル図である。 第2の製造方法における製造物のEDXスペクトル図である。 従来法の水熱処理による比較例のEDXスペクトル図である。 第3の製造方法において、バリウム元素:鉛元素が6:4の場合における製造物のEDXスペクトル図である。 第3の製造方法において、バリウム元素:鉛元素が4:6の場合における製造物のEDXスペクトル図である。 圧電体前駆体における組成を説明するEDXスペクトル図である。 第4の製造方法により製造される圧電体の柱状結晶粒および転位層を説明する概念図である。 ある圧電体膜について、歪みの電界強度依存性を、一定膜厚あたりの転位層の数ごとに比較したグラフである。
符号の説明
1 基板、10 加圧室、20 振動板膜、30 下部電極、40 圧電体膜、50 上部電極、100 インクジェット式記録ヘッド、103 トレイ、106 ヘッド駆動機構、141 柱状結晶粒、142 転位層

Claims (6)

  1. Ba、Pb、及びTiを含み、ペロブスカイト型結晶構造を有する圧電体であって、
    前記圧電体は柱状結晶粒と、前記柱状結晶粒中に形成され格子欠陥が存在する転位層と、を有し、隣接する前記転位層の間隔が10nm以上であることを特徴とする圧電体。
  2. 請求項1に記載の圧電体であって、前記転位層の間隔が200nm以上であることを特徴とする圧電体。
  3. 請求項1又は2に記載の圧電体であって、前記圧電体はチタン酸バリウム鉛であることを特徴とする圧電体。
  4. 請求項1から3のいずれか1項に記載の圧電体と、前記圧電体に電圧を印加する電極とを備える圧電体素子。
  5. 請求項に記載の圧電体素子を備えることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
  6. 請求項に記載のインクジェット式記録ヘッドを備えることを特徴とするプリンタ。
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