JP4359092B2 - 二次電池正極用のリチウムコバルト複合酸化物の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、体積容量密度が大きく、安全性が高く、かつ充放電サイクル耐久性、低温特性、及び特性の安定性にも優れたリチウム二次電池正極用のリチウムコバルト複合酸化物を経済的に安価に製造できる方法、製造されたリチウムコバルト複合酸化物を含む、リチウム二次電池用正極、及びリチウム二次電池に関する。
【従来技術】
【0002】
近年、機器のポータブル化、コードレス化が進むにつれ、小型、軽量でかつ高エネルギー密度を有するリチウム二次電池等の非水電解液二次電池に対する要求がますます高まっている。かかる非水電解液二次電池用の正極活物質には、LiCoO2、LiNiO2、LiNi0.8Co0.2O2、LiMn2O4、LiMnO2等のリチウムと遷移金属の複合酸化物が知られている。
【0003】
なかでも、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)を正極活物質として用い、リチウム合金、グラファイト、カーボンファイバー等のカーボンを負極として用いたリチウム二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高エネルギー密度を有する電池として広く使用されている。
【0004】
しかしながら、LiCoO2を正極活物質として用いた非水系二次電池の場合、正極電極層の単位体積当たりの容量密度及び安全性の更なる向上が望まれるとともに、充放電サイクルを繰り返し行うことにより、その電池放電容量が徐々に減少するというサイクル特性の劣化、あるいは低温での放電容量低下が大きいという問題等があった。
【0005】
これらの問題を解決するために、特許文献1には、正極活物質であるLiCoO2の平均粒径を3〜9μm、及び粒径3〜15μmの粒子群の占める体積を全体積の75%以上とし、かつCuKαを線源とするX線回折によって測定される2θ=約19°と45°回折ピーク強度比を特定値とすることにより、塗布特性、自己放電特性、サイクル性に優れた活物質とすることが提案されている。更に、該特許文献1には、LiCoO2の粒径が1μm以下又は25μm以上の粒径分布を実質的に有さないものが好ましい態様として提案されている。しかし、かかる正極活物質では、塗布特性ならびにサイクル特性は向上するものの、安全性、体積容量密度、重量容量密度を充分に満足するものは得られていない。
【0006】
一方、従来、これらコバルト酸リチウムの製造方法では、コバルト源としては、オキシ水酸化コバルト、水酸化コバルト、酸化コバルト、炭酸コバルトが知られているが、リチウム化が容易であるために酸化コバルトが多く用いられている。しかし、酸化コバルトは、水酸化コバルト等のコバルト源を酸素含有雰囲気下で600〜900℃で焼成して製造されるので、エネルギーコストも高くまた酸化工程を要する。従って、省エネルギー及び省プロセスの観点より、原料の水酸化コバルト等のコバルト源を使用した直接合成によりコバルト酸リチウムを製造することが切望されている。
【0007】
しかし、コバルト源として水酸化コバルトを使用し、これをリチウム源であるリチウム化合物と反応させた場合には、充放電サイクル特性や初期放電容量が低下し、必ずしも特性の優れたコバルト酸リチウムは得られない。その理由は、水酸化リチウムの場合、リチウム化の反応を均一に行い難いためと思われる。水酸化コバルトをリチウム源として使用し、これをリチウム化合物と混合して、一旦ペレット化して、その後焼成する方法も特許文献2に提案されている。しかし、かかる場合はペレット化の工程と焼成後のペレットの強力な粉砕工程を要するとともに特性上の改善もなお充分ではない。
【0008】
また、特許文献3には、平均粒子径0.01〜2μmを有する、コバルト水酸化物やコバルトオキシ水酸化物やコバルト酸化物の一次粒子を凝集させて平均粒子径0.5〜30μmの二次粒子を形成したコバルト化合物粉末をリチウム化することが提案されている。しかし、この場合にも高い体積容量密度の正極物質は得られず、また、サイクル特性、安全性や大電流放電特性の点でもなお充分ではない。
【0009】
【特許文献1】
特開平6−243897号公報
【特許文献2】
特開2002−321921号公報
【特許文献3】
特開2002−60225号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のような従来技術に鑑み、体積容量密度が大きく、安全性が高く、かつ充放電サイクル耐久性、低温特性、及び特性の安定性にも優れたリチウム二次電池正極用のリチウムコバルト複合酸化物を経済的に安価に製造できる方法、製造されたリチウムコバルト複合酸化物を含む、リチウム二次電池用正極、及びリチウム二次電池を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、コバルト源として水酸化コバルトを使用し、かつ一次粒子が凝集して二次粒子が形成された構造を有する水酸化コバルト粉末を使用して、上記の課題を達成するべく鋭意研究を続けたところ、一次粒子が凝集して二次粒子が形成された構造を有する水酸化コバルト粉末を使用した場合の充放電サイクル特性や初期放電容量が低下は、水酸化コバルト粉末を含むリチウム化合物粉末とリチウム源であるリチウム化合物粉末とを混合する過程で、両者が均一に混合せず、部分的にコバルトとリチウムが偏在するためにすることを見出した。
【0012】
更に、本発明者は、これら混合する際の不具合に基づく問題は、上記水酸化コバルト粉末の水分含有量を0.6重量%以下にすれば解決できることを見出した。水酸化コバルト粉末中の水分含有量を0.6重量%以下にすることにより、リチウム化合物粉末との混合粉末の流動性が急速に向上し、水酸化コバルト粉末と炭酸リチウム粉末が均一に混合され、かつこれらを混合する混合機の内面への付着もなくなるために、所望の成分割合を有する均一な混合物が得られることにより所期の電池性能を達成できることを見出した。
【0013】
かくして、本発明は、上記の新規な知見に基づくもので以下の構成を要旨とするものである。
(1)一般式LipCoxMyOzFa(但し、MはTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mn、Mg、Ca、Sr、Ba、及びAlからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である。0.9≦p≦1.1、0.980≦x≦1.000、0≦y≦0.02、1.9≦z≦2.1、x+y=1、0≦a≦0.02)で表されるリチウムコバルト複合酸化物の製造方法であって、一次粒子が凝集した二次粒子からなり、かつ水分含有量が0.6%重量以下である水酸化コバルト粉末、リチウム化合物粉末、及び必要に応じてM元素含有化合物粉末及びフッ素含有化合物粉末を混合し、得られる混合物を酸素含有雰囲気において800〜1050℃で焼成することを特徴とするリチウム二次電池正極用のリチウムコバルト複合酸化物の製造方法。
(2)水酸化コバルト粉末を純水中に分散させた後の平均粒子径D50が、純水中に分散させる前の平均粒子径D50に対して1/4以下である上記(1)に記載の製造方法。
(3)水酸化コバルト粉末は、CuKαを線源とするX線回折によって測定される、2θ=19±1°の(001)面の回折ピークの半値幅が0.18〜0.35°であり、かつ2θ=38±1°の(101)面の回折ピークの半値幅が0.15〜0.35°であり、比表面積が5〜50m2/gであり、プレス密度が1.0〜2.5g/cm3である上記(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)前記水酸化コバルト粉末の一次粒子の平均粒径D50が0.1〜1.2μmであり、かつ二次粒子の平均粒径D50が5〜25μmである上記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)リチウムコバルト複合酸化物のプレス密度が3.15〜3.40g/cm3である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法。
(6)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法により製造されたリチウムコバルト複合酸化物を含むリチウム二次電池用正極。
(7)上記(6)に記載された正極を使用したリチウム二次電池。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明で製造されるリチウム二次電池正極用のリチウムコバルト複合酸化物は、一般式LipCoxMyOzFaで表される。かかる一般式における、M、p、x、y、z及びaは上記に定義される。なかでも、p、x、y、z及びaは下記が好ましい。0.97≦p≦1.03、0.990≦x≦1.0、0.0005≦y≦0.01、1.95≦z≦2.05、x+y=1、0.001≦a≦0.01。ここで、aが0より大きいときには、酸素原子の一部がフッ素原子が置換された複合酸化物になるが、この場合には、得られた正極活物質の安全性が向上する。
【0015】
Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mg、Ca、Sr、Ba、及びAlからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素が選択される。なかでも、容量発現性、安全性、サイクル耐久性等の見地より、Ti、Zr、Hf、Mg又はAlが好ましい。
【0016】
本発明で製造されるリチウムコバルト複合酸化物が上記M元素及び/又はFを含有する場合は、M元素及びFは、いずれもコバルト酸リチウム粒子の表面に存在していることが好ましい。これらの粒子が内部に存在していると、電池特性の改良効果が小さいのみならず、電池特性が低下する場合があるので好ましくない。表面に存在することにより、少量の添加で電池性能の低下を招来することなく、安全性、充放電サイクル特性等の重要な電池特性を改良できる。表面に存在するか否かは正極粒子について、分光分析例えば、XPS分析を行うことにより判断できる。
【0017】
本発明のリチウムコバルト複合酸化物は、コバルト源として二次粒子間の凝集力が小さい水酸化コバルト粉末を使用した場合には、正極活物質として優れた特性を有するリチウムコバルト複合酸化物が得られるので好ましい。上記二次粒子間の凝集力は、水酸化コバルト粉末を純水中に分散させる前の元の平均粒子径D50に対する、水酸化コバルト粉末を純水中に分散させた後の平均粒子径D50の大きさで定義される。上記水酸化コバルト粉末の純水中への分散は超音波(42KHz、40W)を3分間照射しながら行う。二次粒子間の凝集力が大きい場合には、上記のように分散させた後の平均粒子径は元の平均粒子径に対して同じであるが、凝集力が小さい場合は小さくなる。本発明では、上記分散後の水酸化コバルト粉末の平均粒子径が、元の平均粒子径に対して好ましくは1/4以下、特には1/8以下であるのが好適である。
【0018】
また、上記一次粒子が弱く凝集して二次粒子からなる水酸化コバルト粉末は、その一次粒子の平均粒径D50が好ましくは0.1〜1.2μmであるのが好適である。一次粒子の平均粒径が上記の範囲にない場合には、粉体が崇高かったり、又は正極の安全性、あるいはプレス密度が低下したりして好ましくない。なかでも、一次粒子の平均粒径D50が0.3〜1.0μmであるのが好適である。
【0019】
上記二次粒子からなる水酸化コバルトの粉末の平均粒径D50が好ましくは5〜25μmであるのが好適である。粉末の平均粒径が上記の範囲にない場合には、正極のプレス密度が低下したり、大電流放電特性や自己放電特性が低下する。なかでも、平均粒径D50が8〜20μmであるのが好適である。
【0020】
上記水酸化コバルト粉末の形状は、略球形であることが好ましい。粒子の形状が略球形とは、球状、ラグビーボール状、多角体状等を含むが、その有する長径/短径が好ましくは2/1〜1/1、特には1.5/1〜1/1であるのが好適である。なかでも、できるだけ球形の形状を有するのが好ましい。
【0021】
また、本発明で使用する水酸化コバルト粉末の水分含有量は、0.6重量%以下である必要がある。水分含有量を0.6重量%以下にすることにより、その流動性が急速に向上し、リチウム源であるリチウム化合物と均一に混合され、所期の電池性能を達成できる。水分含有量が0.6重量%を超えると水酸化コバルト粉末の流動性が低下すると共に該粉末が混合機の内壁に付着する結果、リチウム化合物と調合された粉末が不均質になりやすい。水分含有量は好ましくは0.4重量%以下、特に0.3重量%以下が好適である。水酸化コバルト粉末の水分含有量の制御は、水酸化コバルト粉末の乾燥条件、すなわち、乾燥温度、乾燥時間、乾燥空気の送風量などの既知の手段によって行われる。
【0022】
さらに、本発明で使用される水酸化コバルト粉末は、CuKαを線源とするX線回折によって測定される2θ=19±1°の(001)面の回折ピークの半値幅が0.18〜0.35°であり、かつ2θ=38±1°の(101)面の回折ピークの半値幅が0.15〜0.35であり、かつ比表面積が5〜50m2/g、プレス密度が1.0〜2.5g/cm3であるのが好ましい。
【0023】
水酸化コバルト粉末の上記2θ=19±1°の(001)面の回折ピークの半値幅及び2θ=38±1°の(101)面の回折ピークの半値幅が上記範囲外の場合には粉体が崇高くなったり、また正極のプレス密度が低下したり、安全性が低下するので好ましくない。なかでも、2θ=19±1°の(001)面の回折ピークの半値幅が0.22〜0.30であり、2θ=38±1°の(101)面の回折ピークの半値幅が0.18〜0.30°であるのが好適である。
【0024】
また、水酸化コバルト粉末の比表面積が5m2/gより小さい場合には、正極のプレス密度が低下したり、安全性が低下する。逆に50m2/gを超える場合には粉体が崇高くなる。特に、比表面積は10〜30m2/gが好適である。また、水酸化コバルト粉末のプレス密度は、1.0g/cm3よりも小さい場合には、粉体が嵩高くなり、一方、2.5g/cm3を超える場合には、正極のプレス密度が低くなるので好ましくない。なかでも、該プレス密度は、1.3〜 2.2g/cm3が好適である。なお、本発明におけるプレス密度は、特に断りのない限り、粒子粉末を0.3t/cm2の圧力でプレス圧縮したときの見かけのプレス密度をいう。
【0025】
本発明のリチウムコバルト複合酸化物の製造に使用される上記の特定の物性を有する水酸化コバルト粉末は、種々の方法で製造され、その製造法は限定されない。例えば、硫酸コバルト水溶液と、水酸化アンモニウムとや水酸化ナトリウム水溶液とを連続的に混合することにより、容易に水酸化コバルトを含むスラリーが製造できる。そして、この際の、pH、撹拌等の反応条件を変えることにより本発明で使用される上記の物性を有する水酸化コバルトが得られる。
【0029】
上記水酸化コバルト粉末を使用してリチウムコバルト複合酸化物を製造する場合、上記水酸化コバルト粉末、リチウム化合物粉末、及び必要に応じて使用されるM元素含有化合物粉末、フッ素含有化合物粉末と調合し、乾式で混合される。混合は、好ましくはヘンシェルミキサー、ドラムミキサー、アキシャルミキサーなどの混合機を使用して混合される。リチウム化合物粉末としては、炭酸リチウム、水酸化リチウムが例示されるが、経済上の理由により炭酸リチウムが好適である。元素M含有化合物の原料としては好ましくは、水酸化物、酸化物、炭酸塩、フッ化物が選択される。フッ素含有化合物としては、金属フッ化物、LiF、MgF2 等が選択される。
【0030】
水酸化コバルト粉末、リチウム化合物粉末、M元素含有化合物粉末、及びフッ素含有化合物粉末の混合物は800〜1050℃で酸素含有雰囲気で好ましくは5〜20時間焼成される。焼成温度が800℃より小さい場合にはリチウム化が不完全となり、逆に1050℃を超える場合には充放電サイクル耐久性や初期容量が低下してしまう。特に、焼成温度は900〜1000℃が好適である。本発明ではスラリーの噴霧乾燥のごとき複雑なリチウム化法を用いない有利性がある。更には、特開2002−60225号公報に開示されるような方法、即ち、水系のスラリーを用いると、二次粒子凝集体が崩壊するので好ましくない。得られた焼成物は冷却後、粉砕、分級することによりリチウムコバルト複合酸化物粒子は製造される。
【0031】
このようにして製造される本発明のリチウムコバルト複合酸化物は、その平均粒径D50が好ましくは5〜15μm、特に好ましくは8〜12μm、比表面積が好ましくは0.3〜0.7m2/g、特に好ましくは0.4〜0.6m2/g、CuKαを線源とするX線回折によって測定される2θ=66.5±1°の(110)面回折ピーク半値幅が好ましくは0.07〜0.14°特に好ましくは0.08〜0.12°、かつプレス密度が好ましくは3.15〜3.40g/cm3、特に好ましくは3.20〜3.35g/cm3あるのが好適である。
【0032】
かかるリチウムコバルト複合酸化物からリチウム二次電池用の正極を製造する場合には、かかる複合酸化物の粉末に、アセチレンブラック、黒鉛、ケッチエンブラック等のカーボン系導電材と結合材を混合することにより形成される。上記結合材には、好ましくは、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミド、カルボキシメチルセルロース、アクリル樹脂等が用いられる。
【0033】
本発明のリチウムコバルト複合酸化物の粉末、導電材及び結合材を溶媒又は分散媒を使用し、スラリー又は混練物とし、これをアルミニウム箔、ステンレス箔等の正極集電体に塗布等により担持せしめてリチウム二次電池用の正極が製造される。
【0034】
本発明のリチウムコバルト複合酸化物を正極活物質に用いるリチウム二次電池において、セパレータとしては、多孔質ポリエチレン、多孔質ポリプロピレンのフィルム等が使用される。また、電池の電解質溶液の溶媒としては、種々の溶媒が使用できるが、なかでも炭酸エステルが好ましい。炭酸エステルは環状、鎖状いずれも使用できる。環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート(EC)等が例示される。鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等が例示される。
【0035】
本発明では、上記炭酸エステルを単独で又は2種以上を混合して使用できる。また、他の溶媒と混合して使用してもよい。また、負極活物質の材料によっては、鎖状炭酸エステルと環状炭酸エステルを併用すると、放電特性、サイクル耐久性、充放電効率が改良できる場合がある。
【0036】
また、本発明のリチウムコバルト複合酸化物を正極活物質に用いるリチウム二次電池においては、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(例えばアトケム社製:商品名カイナー)あるいはフッ化ビニリデン−パーフルオロプロピルビニルエーテル共重合体を含むゲルポリマー電解質としても良い。上記の電解質溶媒又はポリマー電解質に添加される溶質としては、ClO4−、CF3SO3−、BF4−、PF6−、AsF6−、SbF6−、CF3CO2−、(CF3SO2)2N−等をアニオンとするリチウム塩のいずれか1種以上が好ましく使用される。上記リチウム塩からなる電解質溶媒又はポリマー電解質に対して、0.2〜2.0mol/l(リットル)の濃度で添加するのが好ましい。この範囲を逸脱すると、イオン伝導度が低下し、電解質の電気伝導度が低下する。なかでも、0.5〜1.5mol/lが特に好ましい。
【0037】
本発明のリチウムコバルト複合酸化物を正極活物質に用いるリチウム電池において、負極活物質には、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な材料が用いられる。この負極活物質を形成する材料は特に限定されないが、例えばリチウム金属、リチウム合金、炭素材料、周期表14、又は15族の金属を主体とした酸化物、炭素化合物、炭化ケイ素化合物、酸化ケイ素化合物、硫化チタン、炭化ホウ素化合物等が挙げられる。炭素材料としては、種々の熱分解条件で有機物を熱分解したものや人造黒鉛、天然黒鉛、土壌黒鉛、膨張黒鉛、鱗片状黒鉛等を使用できる。また、酸化物としては、酸化スズを主体とする化合物が使用できる。負極集電体としては、銅箔、ニッケル箔等が用いられる。かかる負極は、上記活物質を有機溶媒と混練してスラリーとし、該スラリーを金属箔集電体に塗布、乾燥、プレスして得ることにより好ましくは製造される。
【0038】
本発明のリチウムコバルト複合酸化物を正極活物質に用いるリチウム電池の形状には特に制約はない。シート状、フイルム状、折り畳み状、巻回型有底円筒形、ボタン形等が用途に応じて選択される。
【0039】
【実施例】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されないことはもちろんである。なお、下記において、例1〜例3本発明の実施例であり、例4及び例5は、比較例である。
【0040】
[例1]
水酸化コバルトとして、2種類の水酸化コバルト(以下水酸化コバルトA,水酸化コバルトBと謂う)を用いた。水酸化コバルトA粉末の水分含有量を105℃で2時間乾燥することにより、その重量減少から求めた結果、0.38重量%であった。得られた水酸化コバルトAは、CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=19±1°の(001)面の回折ピーク半値幅は0.28°であり、2θ=38±1°の(101)面の回折ピーク半値幅は0.22°であり、走査型電子顕微鏡観察の結果、微粒子が凝集して、略球状の二次粒子から形成されていることが判った。次いで、該粉末について走査型電子顕微鏡観察の画像解析から求めた体積基準の粒度分布解析の結果、平均粒径D50が17.7μm、D10が7.0μm、D90が25.9μmであった。
【0041】
二次粒子からなる水酸化コバルトA粉末の比表面積は17.0m2/gであり、プレス密度が1.73g/cm3であり、一次粒子が凝集してなる略球状の水酸化コバルト粉末であった。タップ密度は0.73g/cm3であった。その長径と短径の比率が1.2:1であった。得られた水酸化コバルト二次粒子の凝集力を判定するため、これを純水中に分散させたところ、容易に二次粒子が崩壊した。この粉末の粒度分布をレーザー散乱式粒度分布測定装置を用いて純水を分散媒として超音波(42KHz,40W)を3分間照射後測定した結果、平均粒径D50が0.74μm、D10が0.36μm、D90が1.5μmであり、平均粒径D50(0.74μm)は、元の粒子のD50(17.7μm)の約1/24であった。測定後のスラリーを乾燥し、走査型電子顕微鏡観察の結果、測定前の二次粒子形状は認められなかった。
【0042】
一方、水酸化コバルトB粉末は、一次粒子が多数凝集し二次粒子を形成しており、その水分含有量は0.7重量%であった。また、その二次粒子の凝集力を判定するため、これを純水中に分散させた二次粒子が崩壊は認められず一次粒子が強固に凝集して二次粒子を形成していることがわかった。この粉末の粒度分布を測定した結果、平均粒径D50が0.3μm、D10が5.6μm、D90が17.6μmであった。測定後のスラリーを乾燥し、走査型電子顕微鏡観察の結果、測定前の二次粒子形状と同一であった。水酸化コバルトBの比表面積は3.1m2/gであり、タップ密度は2.0g/cm3であった。プレス密度は2.2g/cm3であった。
【0043】
上記凝集体からなる水酸化コバルトAと、水酸化コバルトBとを等重量比でコバルト源として用い、比表面積が1.2m2/gの炭酸リチウム粉末とを混合した。混合は500Lのドラムミキサーで行った。2種の水酸化コバルトと炭酸コバルトの混合比はLiCoO2となるように調合した。これら3種の粉末をドラムミキサーで乾式混合した後、混合粉を一部取り出し、空気中、950℃で12時間焼成した。焼成物を解砕し得られた一次粒子が凝集してなるLiCoO2粉末の粒度分布をレーザー散乱式粒度分布測定装置を用いて水溶媒中にて測定した結果、平均粒径D50が12.7μm、D10が4.4μm、D90が23.4μmであり、BET法により求めた比表面積が0.56m2/gの略球状のLiCoO2粉末を得た。このLiCoO2粉末について、X線回折装置(理学電機社製、RINT2100型)を用いてX線回折スペクトルを得た。CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=66.5±1°の(110)面の回折ピーク半値幅は0.103°であった。LiCoO2粉末のプレス密度は3.18g/cm3であった。
【0044】
上記のLiCoO2粉末と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデン粉末とを90/5/5の質量比で混合し、N−メチルピロリドンを添加してスラリーを作製し、厚さ20μmのアルミニウム箔にドクターブレードを用いて片面塗工した。乾燥し、ロールプレス圧延を行うことによりリチウム電池用の正極体シートを作製した。
【0045】
そして、上記正極体シートを打ち抜いたものを正極に用い、厚さ500μmの金属リチウム箔を負極に用い、負極集電体にニッケル箔20μmを使用し、セパレータには厚さ25μmの多孔質ポリプロピレンを用い、さらに電解液には、濃度1MのLiPF6/EC+DEC(1:1)溶液(LiPF6を溶質とするECとDECとの質量比(1:1)の混合溶液を意味する。後記する溶媒もこれに準じる。)を用いてステンレス製簡易密閉セル型リチウム電池をアルゴングローブボックス内で2個組み立てた。
【0046】
上記の1個の電池については、25℃にて正極活物質1gにつき75mAの負荷電流で4.3Vまで充電し、正極活物質1gにつき75mAの負荷電流にて2.5Vまで放電して初期放電容量を求めた。さらに電極層の密度と重量当たりの容量から体積容量密度を求めた。また、この電池について、引き続き充放電サイクル試験を6回行なった。その結果、25℃、初期重量容量密度は、160mAh/g-LiCoO2であり、6回充放電サイクル後の容量維持率は99.7%であった。
【0047】
また、上記他方の電池については、それぞれ4.3Vで10時間充電し、アルゴングローブボックス内で解体し、充電後の正極体シートを取り出し、その正極体シートを洗滌後、径3mmに打ち抜き、ECとともにアルミカプセルに密閉し、走査型差動熱量計にて5℃/分の速度で昇温して発熱開始温度を測定した。その結果、4.3V充電品の発熱開始温度は163℃であった。
【0048】
[例2]
例1において、同一の水酸化コバルトBと、同じ水酸化コバルトAであるが別ロットの含水量が0.54重量%の水酸化コバルトA粉末を用いた他は例1と同様にしてドラムミキサーを用いて炭酸リチウムと混合して正極活物質を合成した。焼成物を解砕し得られた一次粒子が凝集してなるLiCoO2粉末の粒度分布をレーザー散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した結果、平均粒径D50が12.3μm、D10が4.1μm、D90が22.5μmであり、BET法により求めた比表面積が0.61m2/gの略球状の粉末を得た。X線回折装置(理学電機社製、RINT2100型)を用いてX線回折スペクトルを得た。CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=66.5±1°付近の(110)面の回折ピーク半値幅は0.105°であった。上記粉末のプレス密度は3.18g/cm3であった。
【0049】
例1と同様にして電池性能を測定した結果、初期重量容量密度は、162mAh/-LiCoO2であり、6回充放電サイクル後の容量維持率は99.5%であった。また、発熱開始温度は163℃であった。
【0050】
[例3]
例1と同一の水酸化コバルトBと、同一の水酸化コバルトAと炭酸リチウムを混合するにあたり、酸化チタン粉末とフッ化リチウム粉末を添加した他は例1と同様にして正極活物質を合成した。焼成物を解砕し得られた一次粒子が凝集してなるLiCoO2粉末の粒度分布をレーザー散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した結果、平均粒径D50が13.1μm、D10が4.3μm、D90が22.7μmであり、BET法により求めた比表面積が0.61m2/gの略球状の粉末を得た。この粉末の元素分析の結果、LiCo0.997Ti0.003O1.995F0.005であった。分光分析により調べた結果、チタンとフッ素は表面に局在していた。該LiCo0.997Ti0.003O1.995F0.005粉末について、X線回折装置(理学電機社製、RINT2100型)を用いてX線回折スペクトルを得た。CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=66.5±1°付近の(110)面の回折ピーク半値幅は0.111°であった。上記粉末のプレス密度は3.16g/cm3であった。電池性能を例1と同様にして測定した結果、初期容量は160mAh/g、6回充放電サイクル試験後の容量維持率は99.9%であった。
【0051】
[例4]
例1と同じ水酸化コバルトAであるが、別のロットであり、含水量が1.2重量%である水酸化コバルト粉末を用いた他は例1と同様な方法でLiCoO2を合成した。平均粒径D50が14.6μm、D10が5.9μm、D90が28.1μmであり、BET法により求めた比表面積が0.33m2/gのLiCoO2粉末を得た。LiCoO2粉末について、X線回折装置(理学電機社製、RINT2100型)を用いてX線回折スペクトルを得た。CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=66.5±1°付近の(110)面の回折ピーク半値幅は0.099°であった。得られたLiCoO2粉末のプレス密度は3.15g/cm3であった。
【0052】
例1と同様にして電池特性、発熱開始温度を測定した結果、初期重量容量密度は、157mAh/g-LiCoO2であり、6回充放電サイクル後の容量維持率は90.6%であった。4.3V充電品の発熱開始温度は157℃であった。
【0053】
[例5]
例1と同じ水酸化コバルトAであるが、別のロットであり、含水量が0.8重量%である水酸化コバルトを用いた他は例1と同様な方法でLiCoO2を合成した。平均粒径D50が13.9μm、D10が5.7μm、D90が27.2μmであり、BET法により求めた比表面積が0.37m2/gのLiCoO2粉末を得た。LiCoO2粉末について、X線回折装置(理学電機社製、RINT2100型)を用いてX線回折スペクトルを得た。CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=66.5±1°付近の(110)面の回折ピーク半値幅は0.099°であった。得られたLiCoO2粉末のプレス密度は3.17g/cm3であった。
【0054】
例1と同様にして電池特性、発熱開始温度を測定した結果、初期重量容量密度は、159mAh/g-LiCoO2であり、6回充放電サイクル後の容量維持率は93.5%であった。4.3V充電品の発熱開始温度は159℃であった。
【0055】
【発明の効果】
本発明によれば、体積容量密度が大きく、安全性が高く、充放電サイクル耐久性、低温特性、及び特性の安定性にも優れたリチウム二次電池正極用のリチウムコバルト複合酸化物を経済的に安価に製造できる方法、製造されたリチウムコバルト複合酸化物を含む、リチウム二次電池用正極、及びリチウム二次電池が提供される。
Claims (7)
- 一般式LipCoxMyOzFa(但し、MはTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mn、Mg、Ca、Sr、Ba、及びAlからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である。0.9≦p≦1.1、0.980≦x≦1.000、0≦y≦0.02、1.9≦z≦2.1、x+y=1、0≦a≦0.02)で表されるリチウムコバルト複合酸化物の製造方法であって、一次粒子が凝集した二次粒子からなり、かつ水分含有量が0.6%重量以下である水酸化コバルト粉末、リチウム化合物粉末、及び必要に応じてM元素含有化合物粉末及びフッ素含有化合物粉末を混合し、得られる混合物を酸素含有雰囲気において800〜1050℃で焼成することを特徴とするリチウム二次電池正極用のリチウムコバルト複合酸化物の製造方法。
- 前記水酸化コバルト粉末を純水中に分散させた後の平均粒子径D50が、純水中に分散させる前の平均粒子径D50に対して1/4以下である請求項1に記載の製造方法。
- 前記水酸化コバルト粉末は、CuKαを線源とするX線回折によって測定される、2θ=19±1°の(001)面の回折ピークの半値幅が0.18〜0.35°であり、かつ2θ=38±1°の(101)面の回折ピークの半値幅が0.15〜0.35°であり、比表面積が5〜50m2/gであり、プレス密度が1.0〜2.5g/cm3である請求項1又は2に記載の製造方法。
- 前記水酸化コバルト粉末の一次粒子の平均粒径D50が0.1〜1.2μmであり、かつ二次粒子の平均粒径D50が5〜25μmである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
- リチウムコバルト複合酸化物のプレス密度が3.15〜3.40g/cm3である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により製造されたリチウムコバルト複合酸化物を含むリチウム二次電池用正極。
- 請求項6に記載された正極を使用したリチウム二次電池。
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