JP4357078B2 - Fe−Ni系合金熱延鋼帯の製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、シャドウマスク材,リードフレーム材等として好適に使用される表面性状の良好なFe−Ni系合金熱延鋼帯を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
Fe−Ni系合金スラブを熱間圧延して熱延鋼帯を製造するとき、熱間圧延に先立ってスラブが加熱される。この加熱段階で粒界酸化が生じる。粒界酸化したままのスラブを熱間圧延すると、粒界酸化に起因した疵が熱延鋼帯に多発し、後工程で疵除去のための表面研削量が増大し、歩留の低下を招く。
そこで、本発明者等は、ケイ酸系ガラスにSiCを配合した酸化防止剤を所定厚みで塗布することにより、実操業上で問題とならない程度まで粒界酸化が低減することを見出した(特願平10−331570号)。ケイ酸系ガラス−SiCの酸化防止剤は、スラブ表面に密着性に優れガラス質の緻密皮膜を形成し、炉内雰囲気に対して優れた遮蔽作用を呈する。また、皮膜中に含まれるSiCが還元作用を呈し、皮膜下のスラブ表面を還元雰囲気に維持する。そのため、加熱処理されたスラブ表面が炉内雰囲気中の酸素と直接接触せず、粒界酸化がほとんど検出されなくなる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ケイ酸系ガラス質の塗膜によって粒界酸化が大幅に抑制され、粒界酸化起因の疵が解消される。しかし、製造された熱延鋼帯の表面を詳細に観察すると、熱延時に発生した微細な押込み疵が検出されることがある。この押込み疵が防止されると、熱延鋼帯の表面性状が更に改善され、後工程での表面研削量を軽減でき、歩留が一層向上する。
本発明は、このような要求に応えるべく案出されたものであり、高圧水を吹き付けてケイ酸系ガラス質の塗膜を除去することにより、粒界酸化疵や押込み疵のない健全な表面をもつFe−Ni系合金熱延鋼帯を製造することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明の製造方法は、その目的を達成するため、Ni:20〜50質量%,Cr:0〜5質量%を含み、残部が実質的にFeの組成をもつFe−Ni系合金スラブの表面に、ケイ酸系ガラスにSiCを配合した酸化防止剤を0.1mm以上の膜厚で塗布し、塗膜乾燥後にFe−Ni系合金スラブを加熱炉に装入して熱延開始温度まで加熱し、圧力15〜30MPaの高圧水をFe−Ni系合金スラブの表面に吹き付けて酸化防止剤を除去し、熱間圧延することを特徴とする。また、タンデム配置した複数の熱間圧延機で熱間圧延する場合には、各熱延スタンドの入側で高圧水をスラブ又は熱延鋼帯に吹き付けることが好ましい。
【0005】
【作用】
本発明者等は、ケイ酸系ガラス−SiC皮膜が形成されたFe−Ni系合金を熱間圧延したときに生じる押込み疵の発生原因について詳細に調査検討した。その結果、Fe−Ni系合金スラブ又は鋼帯の表面に残留しているケイ酸系ガラス−SiC皮膜片が熱延鋼帯に押し込まれ、熱延完了時点で押込み疵になることが判った。
ケイ酸系ガラス−SiC皮膜は、優れた酸化防止作用を呈するものの、スラブ表面に強固に付着している。また、ケイ酸系ガラス−SiC皮膜の耐酸化度を向上させるほど除去されがたくなる。そのため、ケイ酸系ガラス−SiC皮膜は、熱延前の加熱炉から熱間圧延機にFe−Ni系合金スラブが送り出される際に一般的に使用されているスプレー水で大半が除去されるものの、一部が除去されることなくスラブ又は鋼帯に付着したままで熱延が進行する。スラブ又は鋼帯に付着残留しているケイ酸系ガラス−SiC皮膜片は、熱延ロールによって熱延鋼帯に押込まれ、押込み疵になる。
【0006】
そこで、本発明では、加熱されたFe−Ni系合金スラブ又は鋼帯に圧力15〜30MPaの高圧水を吹き付けることによりケイ酸系ガラス−SiC皮膜を除去している。高圧水の圧力を15〜30MPaに設定するとき、ケイ酸系ガラス−SiC皮膜がFe−Ni系合金スラブ又は鋼帯の表面から完全に除去される。すなわち、高圧水の吹付けで急冷されたケイ酸系ガラス−SiC皮膜に微細なクラックが入ってスラブ表面に対する密着性が低下し、そこに高圧水の圧力が加わるため、ケイ酸系ガラス−SiC皮膜が完全に剥離するものと考えられる。
高圧水の吹き付けによりスラブ表面からケイ酸系ガラス−SiC皮膜が除去されているため、該スラブを熱間圧延してもケイ酸系ガラス−SiC皮膜片に由来する押込み疵の発生がない。また、各熱延スタンドの入側で高圧水をスラブ又は熱延鋼帯に吹き付けるとき、表面から異物が除去されたスラブ又は熱延鋼帯が熱間圧延されるので、健全な表面をもつ熱延鋼帯が製造される。
【0007】
【実施の形態】
本発明が対象とするFe−Ni系合金は、20〜50質量%のNi及び0〜5質量%のCrを含んでいる。Niは、シャドウマスク材やリードフレーム材の熱膨張係数を決定する上で重要な合金成分であり、必要とする低熱膨張特性のために20〜50質量%の範囲に含有量が設定される。Crは、Fe−Ni系合金をリードフレーム材として使用する場合に必要強度を付与する合金成分であるが、5質量%を超える含有量では低熱膨張特性が劣化する。また、シャドウマスク材としての用途では、Crを含まないFe−Ni系合金が使用される。
【0008】
転炉−RH脱ガス法等で所定組成に溶製されたFe−Ni系合金は、連続鋳造,造塊法等でスラブに製造される。スラブには、ケイ酸系ガラスにSiCを配合した酸化防止剤が熱間圧延に先立って塗布される。
ケイ酸系ガラスは、SiO2を主成分とし、Cr2O3,Al2O3,B2O3,ZrO2,Na2O,K2O,Li2O,CaO,ZnO等を含むことができる。ケイ酸系ガラスは、Fe−Ni系合金の熱延加熱温度の上限値1350℃より低い軟化点又は融点をもち、加熱前のスラブ表面に塗布した酸化防止剤がスラブ加熱時に炉内雰囲気の酸素からスラブ表面を遮断する遮蔽膜として働く。ケイ酸系ガラスの軟化点又は融点は、副成分の配合量を調整することにより、Fe−Ni系合金の熱間圧延温度に応じて適宜定められる。
【0009】
ケイ酸系ガラスに配合されるSiCは、溶融状態で粘性を呈するガラス成分に含まれている酸化作用のある物質によりSiO2,SiO,CO,CO2に分解される。生成したCO,CO2は、ケイ酸系ガラス−SiC皮膜中で微細な気泡となり、気泡内部を還元性雰囲気に維持する。そのため、炉内雰囲気の酸素がスラブ表面に直接接触することがなく、粒界酸化が効果的に抑制される。SiCによる粒界酸化抑制作用は、配合量20〜85質量%のSiCで顕著になる。
酸化防止剤の塗布量は、Fe−Ni系合金スラブの酸化防止に有効な膜厚のケイ酸系ガラス−SiC皮膜が形成されるように定められる。具体的には、膜厚0.1〜2mmのケイ酸系ガラス−SiC皮膜に必要な塗布量とすることが好ましい。
【0010】
SiCを配合したケイ酸系ガラス質酸化防止剤は、ブラシ,ロールコータ,スプレー等の適宜の方法でFe−Ni系合金スラブ表面に塗布され、十分に乾燥させるときスラブに対して密着性の高いケイ酸系ガラス−SiC皮膜となる。酸化防止剤の乾燥には自然乾燥や冷風,熱風等をスラブ表面に吹き付ける強制乾燥が採用されるが、スラブ表面に形成されるケイ酸系ガラス−SiC皮膜の膜厚d(mm)との関係でlogt≧0.6×d−1.0を満足する乾燥時間t(時)に設定することが好ましい。logt<0.6×d−1.0の乾燥時間tでは、ケイ酸系ガラス−SiC皮膜の密着力が不充分なため、熱延に先立ってスラブを加熱炉に装入するまでの段階でスラブ表面から酸化防止剤が剥離しやすくなる。酸化防止剤の剥離部分は、スラブ表面が加熱炉の雰囲気に直接曝されるため、粒界酸化疵の原因となる。
【0011】
ケイ酸系ガラス−SiCの酸化防止剤を塗布したFe−Ni系合金スラブは、加熱炉に装入され、好ましくは1140〜1320℃に加熱され、熱間圧延に必要な状態に均質化処理される。ケイ酸系ガラス−SiCの酸化防止剤は、この加熱により軟化し、スラブ表面を覆う緻密なガラス質緻密皮膜となる。加熱温度が1140℃を下回ると、均質化処理に長時間がかかる。逆に1320℃を超える加熱温度では、ガラス質緻密皮膜で覆われた状態でも粒界酸化が進行し易くなる。
【0012】
加熱後、Fe−Ni系合金スラブの表面に圧力15〜30MPaの高圧水をスラブに吹き付けてガラス質緻密皮膜を除去する。高圧水は、熱延開始時及び各熱延スタンドの入側で、従来のデスケーリング水に比較して大幅に高い吹付け圧でFe−Ni系合金スラブ又は熱延鋼帯に吹き付けられる。因みに、特開平8−253811号公報では25〜51kgf/cm2(2.49〜5.08MPa)の衝突圧でデスケーリング水を吹き付ける例が掲げられているが、この程度の衝突圧では強固に付着しているガラス質緻密皮膜をスラブ表面から除去できない。
【0013】
スラブ又は鋼帯に吹き付ける高圧水の圧力が15MPa以上になると、スラブ表面からケイ酸系ガラス−SiC皮膜が完全に除去される。また、高圧水の吹付けでガラス質緻密皮膜が急冷され、微細なクラックがガラス質緻密皮膜に入り、後続する熱延工程でスラブ表面から除去され易くなる。しかし、30MPaを超える高圧は、スラブ又は鋼帯温度を必要以上に低下させ、材質特性上必要な熱延完了後の熱延鋼帯の温度が確保できなくなる。高圧水の吹付けによりケイ酸系ガラス−SiC皮膜をスラブ又は鋼帯表面から完全に除去するため、ケイ酸系ガラス−SiC皮膜片に起因する押込み疵が無く、表面性状の良好な熱延鋼帯が製造される。したがって、熱間圧延後に表面欠陥部を除去する研磨が省略又は軽減され、生産性及び歩留の向上が図られる。
【0014】
【実施例】
C:0.002質量%,Si:0.03質量%,Mn:0.3質量%,P:0.004質量%,S:0.004質量%,Ni:36.2質量%,Cr:0.03質量%を含むFe−Ni系合金を溶製し、厚み190mm,幅800mm,長さ7000mmのスラブを複数製造した。
ケイ酸系ガラスにSiCを50質量%配合した酸化防止剤を各スラブの全表面に塗布した後、加熱乾燥してケイ酸系ガラス−SiC皮膜をスラブ表面に形成した。次いで、スラブを加熱炉に装入し1150℃に加熱した。
【0015】
均熱処理されたスラブを加熱炉から抽出し、熱延工程に搬送した。熱延工程では、粗圧延を含めて合計9スタンドの熱間圧延機でスラブを圧延し、仕上げ温度960℃,巻取り温度800℃で板厚6mmの熱延鋼帯を製造した。このとき、各スタンドの入側で高圧水をスラブ又は熱延鋼帯に吹き付けた。
製造された熱延鋼帯の表面を観察し、押込み疵及び粒界酸化の有無を調査した。調査結果を、SiCを含まないケイ酸系ガラスを塗布した場合及び高圧水を噴射しない場合と比較して表1に示す。表1から明らかなように、試験番号1〜5(本発明例)では、押込み疵及び粒界酸化が検出されず、良好な表面性状をもつ熱延鋼帯であった。
【0016】
これに対し、ケイ酸系ガラス−SiC皮膜を形成しても皮膜厚みが不足する試験番号6,7(比較例)では、酸化防止作用が十分でなく、粒界酸化に起因する疵が検出された。所定厚みのケイ酸系ガラス−SiC皮膜を形成したが高圧水を噴射しなかった試験番号8〜10(比較例)や高圧水の噴射圧が低い試験番号11(比較例)では、スラブ又は鋼帯表面に残存するケイ酸系ガラス−SiC皮膜片に起因する押込み疵が検出された。逆に、高圧水の噴射圧が高すぎる試験番号12(比較例)では、熱延鋼帯の仕上げ温度が目標温度を下回り、必要な材質特性が得られなかった。
【0017】
この対比から明らかなように、ケイ酸系ガラスにSiCを配合した酸化防止剤をFe−Ni系合金スラブに膜厚0.1mm以上で塗布して加熱炉の雰囲気からスラブ表面を完全に遮断した状態でスラブを加熱し、熱延開始前及び熱延中に15〜30MPaの高圧水を吹き付けることによりケイ酸系ガラス−SiC皮膜を完全に除去するとき、粒界酸化疵や押込み疵の発生が防止され、健全な表面をもつ熱延鋼帯が製造されることが確認される。
【0018】
【0019】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明においては、熱間圧延に先立ってFe−Ni系合金スラブを加熱するとき、ケイ酸系ガラスにSiCを配合した酸化防止剤をスラブ表面に塗布して十分乾燥することにより、スラブに対する密着性及び遮蔽能が高いケイ酸系ガラス−SiC皮膜を形成し、熱間圧延時に高圧水を吹き付けてケイ酸系ガラス−SiC皮膜をスラブ表面から完全に除去している。そのため、スラブ加熱時に炉内雰囲気中の酸素との接触による粒界酸化が防止され、熱延工程ではケイ酸系ガラス−SiC皮膜片がないため、粒界酸化疵や押込み疵のない健全な表面をもつ熱延鋼帯が製造される。したがって、後続する研磨ラインでの負担が軽減され、歩留も向上する。
Claims (1)
- Ni:20〜50質量%,Cr:0〜5質量%を含み、残部が実質的にFeの組成をもつFe−Ni系合金スラブの表面に、ケイ酸系ガラスにSiCを配合した酸化防止剤を0.1mm以上の膜厚で塗布し、塗膜乾燥後にFe−Ni系合金スラブを加熱炉に装入して熱延開始温度まで加熱し、圧力15〜30MPaの高圧水をFe−Ni系合金スラブの表面に吹き付けて酸化防止剤を除去し、熱間圧延することを特徴とするFe−Ni系合金熱延鋼帯の製造方法。
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