JP4353606B2 - 発進クラッチ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、車両の動力伝達装置に用いられる発進クラッチに関する。
【0002】
【従来の技術】
「新型車解説書 NISSAN マーチ K11型系車 181頁:日産自動車株式会社 平成4年1月発行」に図7のような動力伝達装置301が記載されている。
【0003】
この動力伝達装置301は、前輪駆動車(FWD車:FF車)用のトランスミッションであり、電磁式の発進クラッチ303、前後進切換機構305、無段変速機307、ギヤ伝動機構309、フロントデフ311(エンジンの駆動力を左右の前輪に配分するデファレンシャル装置)などから構成されている。
【0004】
エンジン起動後、発進クラッチ303を連結すると、エンジンの駆動力は前後進切換機構305から無段変速機307に伝達されて変速され、ギヤ伝動機構309を介してフロントデフ311に伝達され、左右の前輪に配分される。
【発明が解決しようとする課題】
最近では、車両に搭載される発進クラッチと変速機構とデファレンシャル装置からなる動力伝達装置(トランスミッション)をコンパクトで軽量にしたいという要求があり、この要求は、FF車やRR車で特に大きい。
【0005】
ところが、上記のように、発進クラッチ303が、エンジンと無段変速機307との間に配置され、エンジンの軸方向に隣接して配置された従来の動力伝達装置301では、エンジンを含めた軸方向寸法が長くなり、車載性が低下するという問題があった。
【0006】
特に、エンジンの径方向に形成される空きスペースを利用できないから、スペースの利用効率が悪くなってしまう。
【0007】
しかし、このような動力伝達装置をコンパクトに構成しようとしても、充分な容量を持った発進クラッチを配置できるスペースが得られなくなり、成立させることが難しい。
【0008】
又、上記のような配列によって、動力伝達装置301を構成する各要素のレイアウトが大きな規制を受けると共に、エンジン回りに配置される動力伝達装置301自身のレイアウトにも大きな規制を受けるという問題があった。
【0009】
このように、従来の動力伝達装置301ではレイアウトにどうしても制限がある。
【0010】
又、発進クラッチ303が、無段変速機307、ギヤ伝動機構309、フロントデフ311などの他の構成要素から独立しているので、発進クラッチ303専用のケーシングやベアリングなどが必要であり、動力伝達装置301はそれだけ軽量化とコンパクト化が難しく、車載性の改善も難しい。
【0011】
又、無段変速機307がエンジンから見て発進クラッチ303の後段に配置されているから、発進クラッチ303の連結が解除されている停車中は、エンジンが回転していても、無段変速機307の回転も停止してしまう。
【0012】
つまり、次の発進に備えて無段変速機307を予め変速しておくことができず、発進時の加速応答性が不充分になることがある。
【0013】
そこで、この発明は、トランスミッションをコンパクトに構成し、レイアウトの自由度及びスペースの利用効率を高めることのできる発進クラッチの提供を目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発進クラッチは、エンジンの駆動力を変速する変速機構と、小径のギヤと大径のファイナルギヤとからなり前記変速機構によって変速された駆動力を減速する減速機構と、減速された駆動力を車輪側に配分する差動機構とを備えた動力伝達装置に用いられる発進クラッチであって、前記ファイナルギヤと前記差動機構とに同軸に配置され、前記ファイナルギヤから前記差動機構の入力側が授受する駆動力を断続制御することを特徴とする。
【0015】
発進クラッチは、ファイナルギヤと差動機構とに同軸に配置される。
【0016】
発進クラッチを連結すると、エンジンの駆動力はファイナルギヤから発進クラッチを介して差動機構に授受され、各車輪側に配分される。
【0017】
又、発進クラッチの連結を解除すると、差動機構から車輪までが切り離され、駆動力伝達が停止し、車輪は実質的に切り離される。
【0018】
そこで、発進クラッチの連結を解除すれば、エンジンを起動することができるようになり、発進クラッチを連結すると、車両は発進する。
【0019】
これに加えて、本発明の発進クラッチは、差動機構と同軸に配置されたことにより、発進クラッチ303がエンジンと無段変速機307の間に配置され、エンジンの軸方向に隣接して配置されている従来例と異なって、自身の配置スペースによるレイアウト上の制約から解放される。
【0020】
従って、エンジンの径方向に形成される空きスペースを利用して発進クラッチを配置することができるから、エンジンと動力伝達装置とを含めた軸方向寸法が短くなる。
【0021】
又、このようにスペースの利用効率が向上するから、本発明の発進クラッチを用いた動力伝達装置の車載性が大きく向上する。
【0023】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の発進クラッチであって、前記発進クラッチが、前記ファイナルギヤを固定すると共に前記差動機構を収容するケーシング内部に配置されたことを特徴とする。
【0024】
又、この構成では、発進クラッチを差動機構のケーシングに収容したことによって、デファレンシャル装置と発進クラッチとがユニット化されるので、ユニット化によって、両者の配置スペースが狭くてすみ、コンパクトになるから、組み付け性が大幅に向上すると共に、動力伝達装置が更に軽量でコンパクトになる。
【0025】
又、発進クラッチが、ケーシングだけでなく、ベアリングなどの支持部材を差動機構(デファレンシャル装置等)と共用できるから、動力伝達装置は更に軽量でコンパクトになる。
【0026】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2の発進クラッチであって、前記発進クラッチが、前記差動機構の外周に配置され入力する駆動力を断続制御することを特徴とする。
【0027】
又、この構成では、車両が停車しているときにエンジンを回転させていても、発進クラッチによって差動機構以降が切り離され回転が停止するから、差動機構に無用な負担が掛からず、耐久性がそれだけ向上する。
【0028】
又、発進クラッチを差動機構の入力側に配置するこの構成では、発進クラッチを差動機構の径方向外側に配置することができるから、発進クラッチとユニット化したことによる差動機構(デファレンシャル装置)の軸方向寸法増加が極めて少なくてすむ。
【0029】
従って、デファレンシャル装置の軸方向で、駆動車軸及びサスペンション部材の配置スペースに余裕が得られ、これらの設計やレイアウト上の自由度が高く保たれる。
【0030】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発進クラッチであって、変速機構が、無段変速機であることを特徴とし、請求項1〜3の構成と同等の作用・効果が得られる。
【0031】
又、この構成では、発進クラッチが無段変速機(変速機構)の後段に配置されている本発明の基本的な構成により、従来例と異なって、エンジンを回転させておけば、無段変速機は停車中でも回転している。
【0032】
従って、発進に備えて予め変速しておくことが可能であり、発進時に充分な加速応答性が得られる。
【0033】
更に、変速機構に無段変速機を用いると、ギヤの噛み合いを変えて変速する機械的な変速機構を用いた場合と異なって、変速用の補助クラッチが不要になるから、動力伝達装置は、構造がそれだけ簡単になると共に、更に軽量でコンパクトになる。
【0034】
【発明の実施の形態】
図1〜3によって発進クラッチ1(本発明の第1実施形態)を説明する。
【0035】
この発進クラッチ1は請求項1,2,3,4の特徴を備えている。図1は発進クラッチ1を用いたトランスミッション3(動力伝達装置)を示し、図2はユニット化された発進クラッチ1を示し、図3はトランスミッション3を用いたFF車の動力系を示す。各図の左右の方向はこの車両の左右の方向である。又、符号を与えていない部材等は図示されていない。
【0036】
図3のように、この動力系は、エンジン5、トランスミッション3、前車軸7,9、左右の前輪11,13などから構成されている。
【0037】
図1のように、トランスミッション3は、前後進切換機構15、ベルト式の無段変速機17(CVT)、オイルポンプ19、ギヤ伝動機構21、フロントデフ23と発進クラッチ1などから構成されている。
【0038】
前後進切換機構15は、車両の走行方向に応じて、エンジン5の駆動力の回転方向を切り換えてベルト式無段変速機17の入力軸25に伝達する。
【0039】
ベルト式無段変速機17は、駆動側の変速プーリ27、被駆動側の変速プーリ29、これらを連結するスチール製のベルト31、油圧アクチュエータ33、スプリング35などから構成されている。
【0040】
各変速プーリ27,29はそれぞれ、入力軸25と出力軸37と一体の固定プーリ39,41、軸25,37上に移動自在に配置された可動プーリ43,45などから構成されており、下記のように、可動プーリ43,45が移動操作されて固定プーリ39,41との間隔が変わることにより、各変速プーリ27,29のベルトピッチ径が変わって、変速比を無段階に調整する。
【0041】
スプリング35は、被駆動側変速プーリ29の可動プーリ45を固定プーリ41側に付勢している。
【0042】
オイルポンプ19は軸25の回転によって駆動され、油圧アクチュエータ33に油圧を送り、油圧アクチュエータ33は、駆動側変速プーリ27の可動プーリ43を固定プーリ39側に移動操作する。
【0043】
油圧アクチュエータ33による可動プーリ43の押圧力を強めると、駆動側変速プーリ27では、可動プーリ43が固定プーリ39側に移動してベルトピッチ径が大きくなり、被駆動側変速プーリ29では、ベルト31の張力によってスプリング35が撓み、可動プーリ45と固定プーリ41との間隔が広がってベルトピッチ径が小さくなる。
【0044】
又、可動プーリ43の押圧力を弱くすると、スプリング35の付勢力によって、ベルトピッチ径は被駆動側変速プーリ29で大きくなり、駆動側変速プーリ27で小さくなる。
【0045】
ベルト式無段変速機17の出力軸37の回転数は、駆動側変速プーリ27のベルトピッチ径が大きくなる程高くなり、ベルトピッチ径が小さくなる程低くなる。
【0046】
ギヤ伝動機構21は、2組の減速ギヤ組47,49から構成されている。
【0047】
減速ギヤ組47は互いに噛み合った小径のギヤ51と大径のギヤ53から構成されており、小径ギヤ51はベルト式無段変速機17の出力軸37に固定され、大径ギヤ53は中間軸55に固定されている。
【0048】
減速ギヤ組49は互いに噛み合った小径のギヤ57と大径のファイナルギヤ59から構成されており、小径ギヤ57は中間軸55に固定され、ファイナルギヤ59は、下記のように、フロントデフ23のアウターケース61に固定されている。
【0049】
エンジン5の駆動力は前後進切換機構15から無段変速機17に伝達されて変速され、ギヤ伝動機構21の各減速ギヤ組47,49でそれぞれ減速されてフロントデフ23に伝達される。
【0050】
図2のように、フロントデフ23は、アウターケース61(差動機構のケーシング)と、インナーケース63と、ベベルギヤ式の差動機構65とから構成されている。
【0051】
アウターケース61はスラストベアリング67,69を介してそれぞれトランスミッションケース71とその隔壁73に支承されており、上記のファイナルギヤ59はボルト75でアウターケース61に固定されている。
【0052】
差動機構65は、インナーケース63に両端を固定されたピニオンシャフト77、ピニオンシャフト77上に支承されたピニオンギヤ79、左右からピニオンギヤ79と噛み合ったサイドギヤ81,83から構成されている。
【0053】
左のサイドギヤ81は左前車軸7に連結されており、右のサイドギヤ83は右前車軸9に連結されている。
【0054】
発進クラッチ1は、多板クラッチ85と油圧アクチュエータ87と押圧部材89などから構成されている。
【0055】
多板クラッチ85は、アウターケース61の内周とインナーケース63の外周との間に配置されている。
【0056】
又、油圧アクチュエータ87は、トランスミッションケース71の隔壁73に形成されたシリンダ91と、このシリンダ91にOリング93,95を介して往復動自在に係合したリング状のピストン97から構成されており、シリンダ91には、エンジン駆動のオイルポンプから油圧が送られる。
【0057】
押圧部材89は、アウターケース61に貫入して多板クラッチ85と対向しており、回転側の押圧部材89と静止側のピストン97の間には、これらの相対回転を吸収するスラストベアリング99が配置されている。
【0058】
上記のように、発進クラッチ1はアウターケース61の内部に配置したことによって、フロントデフ23にユニット化されている。
【0059】
又、トランスミッション3は、エンジン5の径方向に形成されたスペースに発進クラッチ1が入るように配置されている。
【0060】
油圧アクチュエータ87のシリンダ91に油圧が送られると、ピストン97、スラストベアリング99、押圧部材89を介して多板クラッチ85が押圧され、発進クラッチ1によってアウターケース61とインナーケース63とが連結される。一方、油圧の供給を停止すると、発進クラッチ1の連結が解除される。
【0061】
発進クラッチ1を連結すると、エンジン5の駆動力がアウターケース61からインナーケース63(差動機構65)に伝達され、発進クラッチ1の連結を解除すると、インナーケース63から前輪11,13までが切り離される。
【0062】
そこで、発進クラッチ1の連結を解除すると、エンジン5を起動できるようになり、発進クラッチ1を連結すると、車両は発進する。
【0063】
インナーケース63を回転させるエンジン5の駆動力は、ピニオンシャフト77からピニオンギヤ79に伝達され、サイドギヤ81、77を介して左右の前輪11,13に配分される。
【0064】
又、発進時、加速時、悪路走行時、旋回時などで前輪11,13の間に駆動抵抗差が生じると、エンジン5の駆動力はピニオンギヤ79の自転によって左右の前輪11,13に差動配分される。
【0065】
こうして、発進クラッチ1が構成されている。
【0066】
発進クラッチ1は、上記のように、トランスミッション3のフロントデフ23(差動機構65)の入力側(無段変速機17の後段)に同軸配置されており、発進クラッチ303がエンジンと無段変速機307の間に配置されている従来例と異なって、トランスミッション3は発進クラッチ1の配置スペースによるレイアウト上の制約から解放される。
【0067】
又、図1のように、エンジン5の軸方向には、従来例と異なって、破線枠101が示すような大型の発進クラッチ303が配置されていないから、トランスミッション3をそれだけ軸方向の右側に、エンジン5に近づけて配置することができると共に、その結果、上記のようにエンジン5の径方向に形成される空きスペースに発進クラッチ1が入るようにトランスミッション3を配置することができる。
【0068】
このように、エンジン5回りの空きスペースを有効に利用することが可能になり、エンジン5とトランスミッション3とを含めた軸方向寸法が短くなり、トランスミッション3の車載性が大きく向上する。
【0069】
又、車両が停車しているときにエンジン5を回転させていても、差動機構65(フロントデフ23)の入力側に配置された発進クラッチ1によってインナーケース63(差動機構65)以下が切り離され回転が停止するから、差動機構65は停車中に掛かる無用な負担から解放され、耐久性が大きく向上する。
【0070】
又、発進クラッチ1をフロントデフ23のアウターケース61に収容したことによって、発進クラッチ1とフロントデフ23とがユニット化されている。
【0071】
発進クラッチ1は、このユニット化によって、アウターケース61とスラストベアリング67,69などをフロントデフ23と共用しているから、両者がそれだけ軽量でコンパクトになり、これらの配置に必要なスペースが狭くなって、トランスミッション3が更にコンパクトになる。
【0072】
又、ユニット化されたことによって、発進クラッチ1とフロントデフ23の組み付け性が大幅に向上している。
【0073】
更に、発進クラッチ1を差動機構65の入力側に配置したこの構成では、発進クラッチ1とユニット化したことによるフロントデフ23の軸方向寸法増加が極めて僅かである。
【0074】
従って、フロントデフ23の軸方向で、前車軸7,9及びサスペンションの配置スペースに余裕が得られ、これらの設計及びレイアウト上の自由度が高く保たれる。
【0075】
又、無段変速機17が発進クラッチ1の前段に配置されているから、従来例と異なって、エンジン5を回転させておけば、無段変速機17は停車中でも回転している。
【0076】
従って、発進に備えて無段変速機17を予め変速しておくことが可能になり、発進時に充分な加速応答性が得られる。
【0077】
更に、変速機構に無段変速機17を用いたことにより、ギヤの噛み合いを変えて変速する機械的な変速機構では必要であった変速用の補助クラッチが不要になるから、トランスミッション3は、構造がそれだけ簡単になると共に、更に軽量でコンパクトになる。
【0078】
このように、無段変速機17は、発進クラッチが変速機構の後段に配置される本発明に極めて好適である。
【0079】
次に、図3と図4によって発進クラッチ201(本発明の第2実施形態)を説明する。以下、第1実施形態の発進クラッチ1と同機能の部材等には同一の符号を与えて引用する。
【0080】
この発進クラッチ201は請求項1,2,3,4の特徴を備えている。図3は、前述の第1実施形態同様、発進クラッチ201を用いたトランスミッション203(動力伝達装置)とこれを用いたFF車の動力系を示し、図4はユニット化された発進クラッチ201とフロントデフ23を示している。
【0081】
又、各図の左右の方向はこの車両の左右の方向であり、符号を与えていない部材等は図示されていない。
【0082】
この動力系は、エンジン5、トランスミッション203、前車軸7,9、左右の前輪11,13などから構成されている。
【0083】
トランスミッション203は、前後進切換機構15、ベルト式無段変速機17、オイルポンプ19、ギヤ伝動機構21、フロントデフ23と発進クラッチ201などから構成されている。
【0084】
また、フロントデフ23は、アウターケース61とインナーケース63とベベルギヤ式差動機構65とから構成されている。
【0085】
アウターケース61は、アルミニューム合金製のケーシング本体207と磁性材料製のカバー209とから構成されており、これらはボルト75によってギヤ伝動機構21のファイナルギヤ59と共締めされている。アウターケース61の左端と右端はそれぞれボールベアリング211,213を介してトランスミッションケース71とその隔壁73に支承されている。又、
発進クラッチ201は、多板式のメインクラッチ215及びパイロットクラッチ217、カムリング219、ボールカム221、プレッシャープレート223、アーマチャ225、リング状の電磁石227、コントローラなどから構成されている。
【0086】
メインクラッチ215は、アウターケース61とインナーケース63との間に配置されており、パイロットクラッチ217は、アウターケース61とカムリング219との間に配置されている。
【0087】
ボールカム221は、カムリング219とプレッシャプレート223との間に配置されている。プレッシャプレート223は、インナーケース63の外周に形成され、メインクラッチ215のインナープレートが係合するスプライン部に軸方向移動自在に連結されている。
【0088】
又、カムリング219とアウターケース61のカバー209との間には、ボールカム221のカム反力を受けるスラストベアリングとワッシャとが配置されている。
【0089】
アーマチャ225は、パイロットクラッチ217とプレッシャプレート223との間に配置されている。
【0090】
電磁石227のコア229は、隔壁73に形成された凹部231に圧入されており、アウターケース61(カバー209)との間でエアギャップ233を形成している。上記のボールベアリング213はこのコア229を介してアウターケース61の左端を隔壁73に支承している。
【0091】
電磁石227のリード線はグロメットを介して外部に引き出されており、車載のバッテリに接続されている。
【0092】
アウターケース61のカバー209は、ステンレス鋼のような非磁性材料のリング235によって外周側と内周側とに分断されており、電磁石227の磁力はこのリング235によってカバー209上での短絡が防止され、アーマチャ225に集中する。
【0093】
コントローラは、車速、操舵角、横Gなどから旋回走行を検知し、あるいは、路面状態などに応じて、電磁石227の励磁、励磁電流の制御、励磁停止などを行う。
【0094】
電磁石227が励磁されると、磁力のル−プ237が形成されてアーマチャ225を吸引し、パイロットクラッチ217を押圧して締結させる。パイロットクラッチ217が締結されると、アウターケース61とインナーケース63の間のトルクがボールカム221に掛かり、生じたカムスラスト力によりプレッシャプレート223を介してメインクラッチ215が押圧され、発進クラッチ201が連結される。
【0095】
又、電磁石227の励磁を停止すると、パイロットクラッチ217が開放されてボールカム221のカムスラスト力が消失し、メインクラッチ215が開放されて発進クラッチ201の連結が解除される。
【0096】
発進クラッチ201を連結すると、エンジン5の駆動力がアウターケース61からインナーケース63(差動機構65)に伝達され、発進クラッチ201の連結を解除すると、インナーケース63から前輪11,13までが切り離される。
【0097】
そこで、発進クラッチ201の連結を解除すると、エンジン5を起動できるようになり、発進クラッチ201を連結すると、車両は発進する。
【0098】
又、電磁石227の励磁電流を制御すると、パイロットクラッチ217の滑りによってボールカム221のカムスラスト力が変化し、メインクラッチ215(発進クラッチ201)の連結力が変化して前輪11,13に送られる駆動力が調整される。
【0099】
そこで、例えば、悪路走行時、急発進時、加速時などで、駆動力が大きすぎて前輪11,13が空転したときは、発進クラッチ201の連結力を適度に弱めれば、前輪11,13の空転が防止され、悪路走行性、発進性、加速性が向上する。
【0100】
こうして、発進クラッチ201が構成されている。
【0101】
発進クラッチ201は、上記のように、フロントデフ23(差動機構65)の入力側(無段変速機17の後段)に同軸配置されており、従来例と異なって、自身の配置スペースによるレイアウト上の制約から解放されたことにより、上記実施形態の発進クラッチ1と同等の効果が得られる。
【0102】
これに加えて、発進クラッチ201は、メインクラッチ215を連結させるアクチュエータに電磁石227を用いたことにより、その励磁電流制御によって、前輪11,13に送られる駆動力を精密に調整できるから、車両の走行性、操縦性、安定性などを向上させることができる。
【0103】
又、電磁石227を用いていても、メインクラッチ215の連結力をボールカム221によって増幅しているから、充分なトルク伝達容量が得られる。
【0104】
又、ボールカム221を用いたことによって、電磁石227を小型にすることができ、トランスミッション201がそれだけ軽量でコンパクトになる。
【0105】
又、電磁石227が小型になることにより、バッテリの負担が軽減され、エンジン5の燃費が向上する。
【0106】
又、電磁石227を用いた構成は、流体圧のアクチュエータを用いた構成と較べて、ポンプや圧力配管が不要であるから、構造が簡単で、軽量であり、その上、ポンプと圧力ライン各部での圧漏れがないから、信頼性が高い。
【0107】
次に、図5によって発進クラッチ301(本発明の第3実施形態)を説明する。
【0108】
以下、第1実施形態の発進クラッチ1及び第2実施形態の発進クラッチ201と同機能の部材等には同一の符号を与えて重複する説明を省略する。
【0109】
この発進クラッチ301は請求項1,3,4の特徴を備えている。図5は発進クラッチ301を用いたトランスミッション303(動力伝達装置)とこれを用いたFF車の動力系を示す。又、符号を与えていない部材等は図示されていない。
【0110】
この第3実施形態では、図5に示すように、発進クラッチ301をギヤ伝導機構21の減速ギヤ49の大径のファイナルギヤ59と、フロントデフ23のアウターケース61との間に設け、差動機構65の入力側に発進クラッチ301を設けてある。
【0111】
なお、この第3実施形態においては、発進クラッチ301の具体的な構造を示していないが、前述の第1実施形態に示した油圧アクチュエータを用いたものや、第2実施形態に示した電磁石を用いたものを適用することができる。
【0112】
従って、この第3実施形態の構造によれば、前述の第1実施形態及び第2実施形態と同等の作用・効果を得ることができる。
【0113】
次に、図6によって発進クラッチ251(参考例)を説明する。
【0114】
以下、第1実施形態の発進クラッチ1と同機能の部材等には同一の符号を与えて引用する。
【0115】
この発進クラッチ251は請求項1,2の特徴を備えている。
【0116】
図6は発進クラッチ251を用いたトランスミッション253(動力伝達装置)とこれを用いたFF車の動力系を示す。又、符号を与えていない部材等は図示されていない。
【0117】
この動力系は、エンジン5、トランスミッション253、前車軸7,9、左右の前輪11,13などから構成されている。
【0118】
トランスミッション253は、サブクラッチ255、切換操作が自動化されたマニュアル式変速機257(変速機構)、フロントデフ23、発進クラッチ251などから構成されている。
【0119】
サブクラッチ255は、エンジン5の駆動力をマニュアル式変速機257に伝達する。下記のように、サブクラッチ255は変速時に操作される補助クラッチであり、発進クラッチ251より小さい容量で充分な機能が得られる。
【0120】
マニュアル式変速機257は、変速ギヤの噛み合いを変えて、駆動力を変速する。
【0121】
マニュアル式変速機257の出力ギヤ259はフロントデフ23のファイナルギヤ59と噛み合っており、変速された駆動力はフロントデフ23を回転させる。
【0122】
フロントデフ23は、デフケース261(差動機構のケーシング)とベベルギヤ式の差動機構65から構成されている。
【0123】
デフケース261はベアリングを介してトランスミッションケース71に支承されており、上記のファイナルギヤ59はボルトでデフケース261に固定されている。
【0124】
差動機構65は、デフケース261に両端を固定されたピニオンシャフト77、ピニオンシャフト77上に支承されたピニオンギヤ79、左右からピニオンギヤ79と噛み合ったサイドギヤ81,83から構成されている。
【0125】
左サイドギヤ81は左の前車軸7に直接連結されており、右サイドギヤ83は、発進クラッチ251を介して右の前車軸9に連結されている。
【0126】
発進クラッチ251は、右のサイドギヤ83と前車軸9とを断続する多板クラッチと、これを開閉操作するアクチュエータから構成されている。
【0127】
この多板クラッチの容量は、上記のように、サブクラッチ255の容量より大きい。又、アクチュエータは、第1実施形態に用いられたような油圧アクチュエータでも、あるいは、第2実施形態に用いられたような電磁石とカム機構とを組み合わせたものでもよい。
【0128】
又、発進クラッチ251はデフケース261の内部に配置したことによって、フロントデフ23とユニット化されている。
【0129】
アクチュエータによって発進クラッチ251を連結すると、右サイドギヤ83と右前輪13とが連結され、発進クラッチ251の連結を解除すると、これらは切り離される。
【0130】
発進クラッチ251の連結を解除すると、右前輪13が切り離されると共に、差動機構65の差動回転が自由になり、ピニオンギヤ79の自転によってデフケース261が空転し、左の前輪11にも駆動力が伝達されなくなる。
【0131】
従って、車両が発進するときは、サブクラッチ255を連結した状態で、発進クラッチ251の連結を解除すると、トランスミッション253が前輪11,13から切り離されて、エンジン5を起動できるようになり、発進クラッチ251を連結すると、車両は発進する。
【0132】
ファイナルギヤ59を介してデフケース261を回転させるエンジン5の駆動力は、ピニオンシャフト77からピニオンギヤ79に伝達され、1/2の駆動トルクでサイドギヤ81、83に配分される。
【0133】
車両の走行中はサブクラッチ255と発進クラッチ251の両方が連結されており、サイドギヤ81の回転は車軸7を介して左の前輪11に伝達され、サイドギヤ83の回転は、発進クラッチ251から車軸9を介して右の前輪13に伝達される。
【0134】
又、発進時、加速時、悪路走行時、旋回時などで前輪11,13の間に駆動抵抗差が生じると、エンジン5の駆動力はピニオンギヤ79の自転によって左右の前輪11,13に差動配分される。
【0135】
又、変速に当たっては、発進クラッチ251を連結した状態で、サブクラッチ255の連結を解除すると、マニュアル式変速機257がエンジン5から切り離されて、変速が可能になる。
【0136】
上記のように、大きな駆動力を扱う発進時は、発進クラッチ251によって駆動力を断続し、扱う駆動力が小さい変速時は、サブクラッチ255によって駆動力を断続する。
【0137】
こうして、発進クラッチ251が構成されている。
【0138】
発進クラッチ251は、上記のように、フロントデフ23(差動機構65)に同軸配置されており、従来例と異なって、自身の配置スペースによるレイアウト上の制約から解放される。
【0139】
又、エンジン5の軸方向に、従来例ような大型の発進クラッチが配置されていないから、トランスミッション253をエンジン5に近づけて(軸方向右側に)配置することが可能になり、エンジン5の径方向に形成される空きスペースに発進クラッチ251が入るようにトランスミッション253を配置することができる。
【0140】
このように、エンジン5回りの空きスペースを有効に利用することが可能になり、エンジン5とマニュアル式変速機257の軸方向寸法が短くなるから、トランスミッション253は車載性に優れている。
【0141】
このように、発進クラッチ251は、上記各実施形態の発進クラッチ1,201と同等の効果が得られる。
【0142】
これに加えて、発進クラッチ251を用いたトランスミッション253は、変速時に、サブクラッチ255によってエンジン5とマニュアル式変速機257とを切り離すから、マニュアル式変速機257は、変速に伴うギヤの噛み合い解除、ギヤの位相合わせ、ギヤの噛み合いなどが容易になり、円滑な変速が行える。
【0143】
従って、発進クラッチ251は、マニュアル式変速機257のような切換操作が自動化された機械式変速機構との併用に、極めて好適である。
【0144】
又、差動機構65の出力側(差動機構65と車軸9との間)に配置したことによって、発進クラッチ251に掛かる駆動トルクが半減するから、発進クラッチ251を構成する多板クラッチとそのアクチュエータの両方を小型に構成することができる。
【0145】
従って、発進クラッチ251とトランスミッション253が更に軽量でコンパクトになり、車載性が向上する。
【0146】
なお、以上の第1実施形態〜第3実施形態では何れも、前輪駆動車(FF車)に適用した例を示したが、本発明の発進クラッチは、後輪駆動車(RR車)の動力伝達装置で、リヤデフ(エンジンの駆動力を左右の後輪に配分するデファレンシャル装置)と同軸に配置し、リヤデフが授受する駆動力を断続するように構成してもよい。
【0147】
又、4輪駆動車のセンターデフ(エンジンの駆動力を前輪と後輪に配分するデファレンシャル装置)と同軸に配置し、センターデフが授受する駆動力を断続するように構成してもよい。
【0148】
又、本発明において、差動機構はベベルギヤ式のように内部摩擦を伴わないものが望ましい。
【0149】
更に、内部摩擦を伴わない差動機構であれば、ベベルギヤ式に限らず、例えば、プラネタリーギヤ式の差動機構でもよい。
【0150】
又、発進クラッチを構成するクラッチ機構は、充分なトルク伝達容量が得られるものならば、多板クラッチに限らない。
【0151】
例えば、単板クラッチやコーンクラッチのような摩擦クラッチ、磁粉を用いたパウダークラッチ、あるいは、噛み合いクラッチなどでもよい。
【0152】
更に、このクラッチ機構を断続操作するアクチュエータは、各実施形態のように、電磁式、あるいは、油圧アクチュエータのような流体圧式のものでもよい。
【0153】
又、無段変速機は、ベルト式に限らず、他の形式のものでもよい。
【0154】
【発明の効果】
請求項1に記載の発進クラッチは、差動機構と同軸に配置したことによって、自身の配置スペースによるレイアウト上の制約から解放され、動力伝達装置内部のレイアウトと、動力伝達装置のレイアウトの自由度が大きく向上すると共に、車両の空きスペース利用効率と、車載性とが向上する。
【0155】
又、発進クラッチをファイナルギヤと差動機構とに同軸に配置したことにより、動力伝達装置の軸方向の小型化が可能になり、動力伝達装置もそれだけコンパクトで軽量になる。
【0156】
請求項2に記載の発進クラッチは、請求項1の構成と同等の効果が得られると共に、発進クラッチとデファレンシャル装置とがユニット化されて両者がコンパクトになり、動力伝達装置のコンパクト化に寄与すると共に、両者の組み付け性が向上する。
【0157】
又、デファレンシャル装置のケーシングやベアリングなどを利用できるから、更に軽量でコンパクトになる。
【0158】
請求項3に記載の発明は、請求項1,2の構成と同等の効果が得られると共に、車両の停車中に差動機構が無用な負担から解放され、耐久性が向上する。
【0159】
又、発進クラッチとユニット化したことによるデファレンシャル装置(差動機構)の軸方向寸法増加が極めて僅かであるから、デファレンシャル装置の軸方向で、駆動車軸及びサスペンションの配置スペースに余裕が得られ、これらの設計やレイアウト上の自由度が高く保たれる。
【0160】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の構成と同等の効果が得られると共に、停車中でも発進に備えて無段変速機を予め変速しておくことが可能であり、発進時に充分な加速応答性が得られる。
【0161】
又、変速用の補助クラッチが不要であり、動力伝達装置がそれだけ構造簡単になり、軽量でコンパクトになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 第1実施形態の発進クラッチを用いたトランスミッションを示す要素構成図である。
【図2】 フロントデフの入力側に同軸配置してユニット化された第1実施形態の発進クラッチを示す断面図である。
【図3】 図1の発進クラッチとトランスミッションを用いた車両の動力系を示すスケルトン機構図である。
【図4】 フロントデフの入力側に同軸配置してユニット化された第2実施形態の発進クラッチを示す断面図である。
【図5】 第3実施形態の発進クラッチとトランスミッションを用いた車両の動力系を示すスケルトン機構図である。
【図6】 参考例の発進クラッチとマニュアル式の変速機構を用いた車両の動力系
を示すスケルトン機構図である。
【図7】 従来例の発進クラッチを用いたトランスミッションを示す要素構成図である。
【符号の説明】
1,201,251,301 発進クラッチ
3,203,253,303 トランスミッション(動力伝達装置)
5 エンジン
11,13 前輪(車輪)
17 無断変速機(変速機構)
61 アウターケース(差動機構のケーシング)
65 ベベルギヤ式差動機構
85 多板クラッチ(発進クラッチを構成するクラッチ)
87 油圧アクチュエータ(発進クラッチを構成するアクチュエータ)
215 メインクラッチ(発進クラッチを構成するクラッチ)
217 パイロットクラッチ(発進クラッチを構成するアクチュエータ)
221 ボールカム(発進クラッチを構成するアクチュエータ)
227 電磁石(発進クラッチを構成するアクチュエータ)
257 マニュアル式変速構(変速機構)
261 デフケース(差動機構のケーシング)
Claims (4)
- エンジンの駆動力を変速する変速機構と、小径のギヤと大径のファイナルギヤとからなり前記変速機構によって変速された駆動力を減速する減速機構と、減速された駆動力を車輪側に配分する差動機構とを備えた動力伝達装置に用いられる発進クラッチであって、
前記ファイナルギヤと前記差動機構とに同軸に配置され、前記ファイナルギヤから前記差動機構の入力側が授受する駆動力を断続制御することを特徴とする発進クラッチ。 - 請求項1記載の発進クラッチであって、前記発進クラッチが、前記ファイナルギヤを固定すると共に前記差動機構を収容するケーシング内部に配置されたことを特徴とする発進クラッチ。
- 請求項1又は請求項2の発進クラッチであって、前記発進クラッチが、前記差動機構の外周に配置され入力する駆動力を断続制御することを特徴とする発進クラッチ。
- 請求項1〜3の何れか一項に記載の発進クラッチであって、変速機構が、無段変速機であることを特徴とする発進クラッチ。
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