JP4353402B2 - 希土類永久磁石の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は希土類元素R、遷移金属元素T、ホウ素Bを主成分とする希土類永久磁石の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
R−Fe−B系焼結磁石、特にNd−Fe−B系焼結磁石は、磁気特性に優れていること、主成分であるNdが資源的に豊富で比較的安価であることから、需要は年々、増大している。Nd−Fe−B系焼結磁石の磁気特性を向上するための研究開発も精力的に行われており、様々な希土類永久磁石の製造方法が提案されている。
【0003】
希土類永久磁石の製造方法の一例として粉末冶金法があるが、粉末冶金法は低コストでの製造が可能なことから広く用いられている。粉末冶金法では、磁石合金インゴットを粗粉砕および微粉砕し、数μmの微粉末を得る。このようにして得られた微粉末を静磁場中で磁場配向させ、磁場がかかった状態のままプレス成形を行う。この場合、粉砕粉末だけでは成形時の粉末同士の摩擦や粉末と金型壁面との摩擦により配向性が上がらず、磁気特性の向上を十分に図ることができない。また、金型面および成形体表面に傷、むしれ、割れ等が生じやすく、品質上および製品歩留まり上好ましくなく、この解決策として図2(a)に示すように微粉砕後に潤滑剤を添加し、潤滑剤を磁石粉末表面へ被覆することが行われている。つまり、潤滑剤は、磁場中成形時の合金粉末の流動性を確保することにより配向性を向上し、かつ金型からの離型を容易にする、等を目的として添加されるものであり、通常、ステアリン酸亜鉛などの有機系材料が用いられる。
【0004】
しかしながら、上述した図2(a)に示した工程を経て製造されたR−Fe−B系希土類永久磁石には以下のように問題があった。すなわち、(1)潤滑剤は凝集性が極めて高いため、混合攪拌機により長時間攪拌した後にも凝集粒子として存在する。そして、潤滑剤は焼結により蒸発するため、潤滑剤の凝集粒子が存在していたところは、焼結後に巨大な空孔となってしまう。(2)微粉末の状態で潤滑剤を添加し混合すると、酸化しやすい希土類元素Rを含む微粉末が酸素にさらされる時間が長くなる。しかも、微粉末は粗粉末よりも酸化されやすい。よって、製品の酸素含有量が高くなってしまう。(3)潤滑剤が凝集粒子として存在するため潤滑効果および離型効果が低くなるので、大量の潤滑剤を添加しなければならず、焼結後の残留炭素の影響で磁石の保磁力低下を招く。
【0005】
かかる問題点を解決すべく、図2(b)に示すように、出発原料の粗粉砕後かつ微粉砕前に潤滑剤を添加することが提案されている。上述の通り、潤滑剤は凝集性が高く、微粉砕後に潤滑剤を添加すると分散性が悪くなるが、潤滑剤を微粉砕前に添加することによって分散性を向上させることができる。具体的には、特許第2915560号公報、特許第2682619号公報、特開平8−111308号公報には、高級脂肪酸塩等の固体もしくは液状潤滑剤を粗粉末に添加した後に気流粉砕機で微粉砕することが記載されている。さらに特開平7−240329号公報には、希土類金属間化合物磁石合金粗粉末に炭化水素系潤滑剤を添加混合した後、気流粉砕法により微粉砕し、この微粉砕混合体に脂肪酸または脂肪酸の誘導体を添加混合することが記載されている。特許第2915560号公報、特許第2682619号公報、特開平8−111308号公報および特開平7−240329号公報(以下、「特許第2915560号公報等」という)に記載の方法によれば、粉砕効率の向上、潤滑剤の分散性の向上、配向度の向上という効果を奏する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許第2915560号公報等に記載の方法を用いて潤滑剤の潤滑性を十分発揮できる量を添加した場合には、粉砕機の配管などの摩耗が激しくなってしまうという問題が生じる。
そこで本発明は、潤滑剤添加による配向度の向上等の効果を享受しつつ、粉砕機器の損耗を低減することができる新規な希土類永久磁石の製造方法を提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
粗粉末に液体状の潤滑剤を添加し粉砕を行ういわゆる湿式粉砕によれば潤滑効果が高いため、粉砕機の摩耗が助長されるという欠点がある。一方、固体状の潤滑剤を添加して粉砕を行ういわゆる乾式粉砕を用いた場合には、湿式粉砕よりも潤滑効果が低い。そしてこれを補うべく潤滑剤の量を増やすと、やはり粉砕機の摩耗が生じてしまう。また、大量の潤滑剤を添加すると、焼結後の残留炭素の影響で磁石の保磁力Hcjが低下してしまうことから、潤滑剤の量は少ないことが好ましい。
そこで本発明者は、希土類永久磁石の製造方法において、潤滑剤を添加するタイミングおよび潤滑剤の添加方法について様々な検討を行ったところ、固体状の潤滑剤を微粉砕前に添加しかつ液体状の潤滑剤を微粉砕後に添加することにより、少ない潤滑剤で効果的に潤滑効果を発揮できることを知見した。つまり、磁場中成形時の合金粉末の流動性を確保することにより配向性を向上すること、および金型からの離型を容易にすること、というのが潤滑剤添加の主たる目的であるのならば、潤滑剤添加による潤滑効果はプレス成形前に最大限発揮されればよい。そして、高い潤滑効果を得るためには液体状の潤滑剤を添加することが望ましいが、この液体状の潤滑剤は必ずしも粉砕前に添加されている必要はなく、粉砕後かつプレス成形前に添加されていれば十分である、ということを知見した。すなわち、本発明は、R−T−B(R=Yを含む希土類元素の1種または2種以上、T=遷移金属元素の1種または2種以上、B=ホウ素)系希土類永久磁石の出発原料を粗粉砕する粗粉砕工程と、粗粉砕工程で得られる粗粉末を微粉砕する微粉砕工程と、微粉砕工程で得られる微粉を成形し成形体を得る工程と、成形体を焼結する焼結工程とを含む希土類永久磁石の製造方法において、微粉砕工程前に固体状の第1の潤滑剤として脂肪酸アミドを添加する工程と、微粉砕工程後に液体状の第2の潤滑剤として脂肪酸エステルを添加する工程とをさらに含むことを特徴とする希土類永久磁石の製造方法を提供する。本発明によれば、潤滑剤添加による配向度の向上等の効果を享受しつつ、粉砕機器の損耗を低減することができる。
【0008】
本発明において、この第1の潤滑剤および第2の潤滑剤の添加量をそれぞれ0.03〜0.4wt%、さらには0.05〜0.2wt%とすることが望ましい。この範囲で潤滑剤を添加した場合には、焼結後の残留炭素の量を低減することができ、希土類永久磁石の磁気特性を向上させる上で有効である。また、第1の潤滑剤および第2の潤滑剤の合計量は0.7wt%以下にすることが望ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態について図1を用いて説明する。
本発明は、いわゆる粉末冶金法を用いた希土類永久磁石の製造方法であり、微粉砕前に固体の潤滑剤(以下、固体の潤滑剤を「潤滑剤A」と称する)を添加しかつ微粉砕後に液体の潤滑剤(以下、液体の潤滑剤を「潤滑剤B」と称する)を添加することを特徴とする。以下、本発明による製造方法を詳述する。
【0010】
図1(a)および(b)に示すように、本発明は、出発原料の粗粉砕工程、潤滑剤A添加工程、混合工程、微粉砕工程、潤滑剤B添加工程、混合工程、成形工程、焼結工程とを含む。なお、出発原料の粗粉砕工程に前段階として、出発原料の調整が行われる。
以下、図1(a)を用いて、本発明の希土類永久磁石の製造方法を説明するが、本発明の希土類永久磁石の製造方法は図1(b)に示す工程をも含むものである。つまり、潤滑剤A添加工程は微粉砕工程の前であればよく、出発原料の粗粉砕工程前に潤滑剤Aを添加してもよい。但し、この場合には、原料となる金属および/または合金の水素吸蔵放出処理がなされた後に潤滑剤Aを添加することが望ましい。
【0011】
<出発原料の調整>
原料となる金属および/または合金を配合し、これを不活性ガス、好ましくはAr雰囲気中で溶解し鋳造することにより、所望の組成の合金を得る。原料金属としては、純希土類元素あるいは希土類合金、純鉄、フェロボロン、さらにはこれらの合金等を使用することができる。得られたインゴットは、凝固偏析がある場合は必要に応じて溶体化処理を行う。その条件は真空またはAr雰囲気下、700〜1500℃領域で1時間以上保持すれば良い。
【0012】
<出発原料の粗粉砕工程>
粗粉砕は、出発原料である合金が粒径数百μm程度になるまで行う。粗粉砕は、スタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等を用い、不活性ガス雰囲気中にて行うことが望ましい。粗粉砕性を向上させるために、水素を吸蔵させた後、水素を放出させる水素粉砕処理を行った後、粗粉砕を行うことが効果的である。
【0013】
<潤滑剤A添加工程>
出発原料を粗粉砕した後に得られる粗粉末に潤滑剤Aを添加する。本発明における潤滑剤Aは、脂肪酸アミドとする。脂肪酸アミドの中でも、特にカプリル酸アミド、カプリン酸アミド、ラウリン酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、ベヘン酸アミドの1種又は2種以上を用いることが好ましい。
添加する潤滑剤Aの形態は特に制約はないが、効率よく均一な分散を行うためには粉末状の潤滑剤が好ましい。また、添加する際の潤滑剤Aの平均粒径についても特に制約はないが、通常、1〜20μm程度とすることが好ましい。
【0014】
潤滑剤Aの添加量は0.03〜0.4wt%とする。潤滑剤Aの添加量が0.03wt%未満では十分な潤滑性を得ることができない。一方、潤滑剤Aの添加量が0.5wt%程度になると、粉砕機の損耗が著しい。よって、潤滑剤Aの添加量は0.03〜0.4wt%であることが望ましく、さらに望ましい添加量は0.04〜0.3wt%であり、より望ましい添加量は0.05〜0.2wt%である。
【0015】
<混合工程>
この混合工程は必須のものではないが、潤滑剤Aを添加後、出発原料の粗粉末と潤滑剤Aとを混合することが好ましい。後述する微粉砕の際に出発原料の粗粉末と潤滑剤Aとは強力に混合分散されるため、微粉砕前の混合は、例えばナウターミキサー等により5〜30分間ほど行なう程度でよい。
なお、図1(a)および(b)においては、潤滑剤添加工程と混合工程とがそれぞれ存在するが、潤滑剤A添加工程と混合工程を同時に実行することももちろん可能である。
【0016】
<微粉砕工程>
潤滑剤Aを添加した後、微粉砕工程に移る。合金粉末(粗粉末)および潤滑剤Aは微粉砕機により微粉砕される。微粉砕の際の条件は、用いる微粉砕機の構成に応じて適宜設定することができるが、合金粉末が微粉砕機により平均粒径1〜10μm程度まで微粉砕することが好ましい。また、潤滑剤Aは、平均粒径5μm以下程度まで微粉砕ないし解砕されることが好ましい。
微粉砕機としてはジェットミルを用いることが好ましい。ジェットミルは、高圧の不活性ガス(例えば窒素ガス)を狭いノズルより開放して高速のガス流を発生させ、この高速のガス流により粉体の粒子を加速し、粉体の粒子同士の衝突やターゲットあるいは容器壁との衝突を発生させて粉砕する方法である。
【0017】
<潤滑剤B添加工程>
微粉砕の後、潤滑剤Bを添加する。本発明における潤滑剤Aが常温において固体であるのに対し、この潤滑剤Bは常温において液体であるもの、若しくは固体の潤滑剤を溶剤で液体状にしたものとする。潤滑剤Bを液体状のものとすることにより、分散状態を向上させることができる。
【0018】
潤滑剤Bとして用いることができる常温において液体の潤滑剤としては、脂肪酸エステルが挙げられる。脂肪酸エステルは、入手が容易であり、かつ潤滑性および分散性に優れるため好ましい。脂肪酸エステルの中でも、特にカプリル酸エチル、カプリル酸ブチル、ラウリン酸エチル、ラウリン酸ブチル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸ブチルの1種又は2種以上を用いるのが好ましい。
【0019】
潤滑剤Bの添加量は0.03〜0.4wt%とする。潤滑剤Bの添加量が0.03wt%未満では十分な潤滑性を得ることができない。一方、潤滑剤Bの添加量が0.5wt%程度になると、保磁力Hcjの低下が著しい。よって、潤滑剤Bの添加量は0.03〜0.4wt%であることが望ましく、さらに望ましい添加量は0.04〜0.3wt%であり、より望ましい添加量は0.05〜0.2wt%である。
【0020】
なお、潤滑剤A、潤滑剤Bの添加量をそれぞれ0.05〜0.2wt%と、極微量にした場合は、磁石中の残留炭素量を減らすことができる。具体的には、磁石中の炭素含有量を、通常、1000ppm以下、特に300〜600ppmとすることができる。よって、良好な磁気特性を有する磁石を得ることができる。
【0021】
また、固体の潤滑剤を溶剤で液体状にして潤滑剤Bとする場合には、脂肪酸系化合物等の潤滑剤を用いることができる。脂肪酸系化合物としては、ステアリン酸等の脂肪酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の脂肪酸の金属セッケン、脂肪酸アミドなどが好ましい。これらの固体の潤滑剤を溶剤で液体状にする場合には、潤滑剤が溶解するような溶剤を用いるとともに、用いる潤滑剤の溶解度に応じて溶剤の添加量を決定する。以下に潤滑剤および溶剤の組合せ例、および潤滑剤に対する溶剤の添加量の目安を示す。
(組合せ1)
ショウノウ(カンファ):トルエン(溶剤)1g:0.5〜1.5g
(組合せ2)
脂肪酸(ラウリン酸):エタノール(溶剤)1g:1〜2g
(組合せ3)
脂肪酸アミド(オレイン酸アミド):エタノール(溶剤)1g:5〜15g
【0022】
なお、固体の潤滑剤を溶剤で液体状にする場合における潤滑剤と溶剤の組合せは上記の組合せ1〜組合せ3に限られるものではない。固体の潤滑剤の種類によっては、アセトン、キシレンまたは石油系溶剤等を溶剤に用いることも可能である。また、常温において液体である潤滑剤を5〜20wt%に希釈することにより、潤滑剤Bとしてもよい。この場合においても、常温において液体である潤滑剤Bをそのままの濃度で用いた場合と同様の効果を得ることができる。固体の潤滑剤を溶剤で液体状にして潤滑剤Bとする場合、常温において液体である潤滑剤を所定の濃度に希釈して潤滑剤Bとする場合には、希釈前の潤滑剤Bの量を0.03〜0.4wt%とすればよい。
【0023】
<混合工程>
この混合工程は必須のものではないが、潤滑剤Bを添加した後、微粉砕後の粉末(合金粉末と潤滑剤Aの混合粉末)と潤滑剤Bとを混合することが望ましい。混合時間は潤滑剤Bの添加量、混合器具の種類に基づき適宜定められる。混合器具としてはナウターミキサー等を用いることができる。例えば、潤滑剤Bとして脂肪酸エステルを0.1wt%添加し混合器具をナウターミキサーとする場合には、5〜30分程度混合すればよい。
なお、図1(a)および(b)においては、潤滑剤B添加工程と混合工程とがそれぞれ存在するが、潤滑剤B添加工程と混合工程を同時に実行することももちろん可能である。つまり、潤滑剤Bを添加しながら微粉末と混合してもよい。
【0024】
<成形工程>
混合工程の後、磁場中にて成形する。具体的には、混合工程にて得られた混合物を電磁石に抱かれた金型内に充填し、磁場印加によってその結晶軸を配向させた状態で磁場中成形する。この磁場中成形は、800〜1300kA/mの磁場中で、100〜160Mpa前後の圧力で行えばよい。
【0025】
<焼結工程>
磁場中成形後、その成形体を真空または不活性ガス雰囲気中で焼結する。焼結温度は、組成、粉砕方法、粒度と粒度分布の違い等、諸条件により調整する必要があるが、1000〜1200℃で0.5〜5時間程度焼結すればよく、焼結後、急冷することが好ましい。なお、望ましい焼結温度は1010〜1070℃、さらに望ましい焼結温度は1010〜1050℃である。
焼結後、得られた焼結体に時効処理を施すことができる。この工程は、保磁力Hcjを制御する重要な工程であり、不活性ガス雰囲気中あるいは真空中で時効処理を施すことが好ましい。この時効処理としては、二段時効処理が好ましい。一段目の時効処理工程では、700〜900℃の範囲内に1〜3時間保持する。次いで、室温〜200℃の範囲内にまで急冷する第1急冷工程を設ける。二段目の時効処理工程では、500〜700℃の範囲内に1〜3時間保持する。次いで、室温まで急冷する第2急冷工程を設ける。600℃近傍の熱処理で保磁力Hcjが大きく増加するため、時効処理を一段で行う場合には、600℃近傍の時効処理を施すとよい。
【0026】
<磁石組成>
本発明において、組成は目的に応じ選択すればよいが、磁気特性に優れた希土類永久磁石を得るためには、焼結後の磁石組成において希土類元素R:20〜40wt%、ホウ素B:0.5〜4.5wt%、遷移金属元素T:残部、となるような配合組成とすることが望ましい。ここで、希土類元素Rは、Yを含む希土類元素(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,YbおよびLu)の1種または2種以上である。希土類元素Rの量が20wt%未満であると、希土類永久磁石の主相となるR2Fe14B相の生成が十分ではなく軟磁性を持つα−Feなどが析出し、保磁力Hcjが著しく低下する。一方、希土類元素Rが40wt%を超えると主相であるR2Fe14B相の体積比率が低下し、残留磁束密度Brが低下する。また希土類元素Rが酸素と反応し、含有する酸素量が増え、これに伴い保磁力発生に有効なR−rich相が減少し、保磁力Hcjの低下を招くため、希土類元素Rの量は20〜40wt%とする。Ndは資源的に豊富で比較的安価であることから、希土類元素Rとしての主成分をNdとすることが好ましい。またDyは異方性磁界が大きく、保磁力Hcjを向上させる上で有効である。
また、ホウ素Bが0.5wt%未満の場合には高い保磁力Hcjを得ることができない。但し、ホウ素Bが4.5wt%を超えると残留磁束密度Brが低下する傾向がある。したがって、上限を4.5wt%とする。望ましいホウ素Bの量は0.5〜1.5wt%である。
さらに、保磁力Hcjを改善するために、Mを加えてR−T−B−M系の希土類永久磁石とすることもできる。ここで、Mとしては、Al,Cr,Mn,Mg,Si,Cu,C,Nb,Sn,W,V,Zr,Ti,Moなどの元素を1種または2種以上添加することができるが、添加量が6wt%を超えると残留磁束密度Brが低下してくる。
【0027】
以上の組成および製造方法による本発明の希土類永久磁石は、良好な磁気特性を有する。つまり、本発明によれば、保磁力Hcjおよび残留磁束密度Brがともに優れた希土類永久磁石を得ることができる。しかも、本発明の製造方法によれば、粉砕機器の損耗を低減しながら良好な磁気特性を有する希土類永久磁石を得ることができる。
【0028】
【実施例】
次に、具体的な実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
(実施例1)
原料金属をAr雰囲気中で高周波溶解することにより、所望の組成(33Nd−0.4Co−1.0B−bal.Fe)を有するNd−Fe−B系合金を調整し、得られた合金を以下の条件にて粗粉砕した(なお、組成の表示はwt%で表示している)。得られた粗粉末に潤滑剤Aとして脂肪酸アミド(オレイン酸アミド、以下の実施例、比較例も同様)を0.3wt%添加した後、以下の条件で微粉砕した。微粉砕後の粒径は3〜5μmである。得られた微粉末に潤滑剤Bとして脂肪酸エステル(オレイン酸ブチル、以下の比較例3、4、5及び6も同様)を0.2wt%添加し、混合した後、以下の条件で磁場中成形を行い、成形体を得た。この成形体を真空中において1010〜1070℃で4時間焼結した後、急冷した。次いで得られた焼結体に以下の条件で二段時効処理を施した。
粗粉砕:ブラウンミル使用(水素粉砕処理後、窒素雰囲気中にて行った。)
微粉砕:ジェットミル使用(高圧窒素ガス雰囲気中にて行った。)
磁場中成形条件:1185kA/mの磁場中で147Mpaの圧力で成形
二段時効処理:850℃×1時間、540℃×1時間(Ar雰囲気中にて行った。)
【0029】
(比較例1)
脂肪酸エステル(潤滑剤B)を添加しない以外は実施例1と同一条件で焼結体を作製した。
(比較例2)
脂肪酸アミド(潤滑剤A)の添加量を0.5wt%とし、かつ脂肪酸エステル(潤滑剤B)を添加しない点を除き、実施例1と同一条件で焼結体を作製した。
(比較例3)
脂肪酸アミド(潤滑剤A)を添加しない以外は実施例1と同一条件で焼結体を作製した。
(比較例4)
0.1wt%の脂肪酸アミド(潤滑剤A)を、0.1wt%の脂肪酸エステルとともに微粉砕前に添加した点を除き、実施例1と同一条件で焼結体を作製した。
(比較例5)
0.1wt%の脂肪酸エステルを、微粉砕前および微粉砕後にそれぞれ添加した点を除き、実施例1と同一条件で焼結体を作製した。
(比較例6)
0.1wt%の脂肪酸アミドを、0.1wt%の脂肪酸エステル(潤滑剤B)とともに微粉砕後に添加した点を除き、実施例1と同一条件で焼結体を作製した。
【0030】
実施例1、比較例1〜比較例3にて作製した希土類永久磁石の残留磁束密度Br、保磁力HcjをB−Hトレーサーにより測定した。その結果を表1に示す。また、比較例4〜比較例6にて作製した希土類永久磁石の残留磁束密度Br、保磁力Hcjを同様にB−Hトレーサーにより測定した結果を表2に示す。
【0031】
また表1には、実施例1、比較例1〜比較例3を実施した後の粉砕機の摩耗状態を、表2には、比較例4〜比較例6を実施した後の粉砕機の摩耗状態を、併せて示してある。粉砕機の摩耗状態の測定にあたっては、粉砕機配管内において最も摩耗が生じやすい屈曲部を観察した。表1の「粉砕機の摩耗状態」の欄において、「○」、「×」の基準は以下の通りである。
○(粉砕機の摩耗が軽微):500kgの原料を粉砕した際に粉砕機配管内の屈曲部の肉厚の摩耗が3%未満である。
×(粉砕機の摩耗が著しい):500kgの原料を粉砕した際に粉砕機配管内の屈曲部の肉厚が3%以上減少している。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
はじめに、実施例1と比較例1を比較すると、両者は比較例1が脂肪酸エステル(潤滑剤B)を添加していないことを除けば、同一条件で実施されたものである。表1の「粉砕機の摩耗状態」の欄を見ると、実施例1と比較例1はともに粉砕機の摩耗が軽微である。ところが、表1の「Br」の欄を見ると、実施例1の残留磁束密度Br(1.35T)は比較例1の残留磁束密度Br(1.33T)よりも良好な値を示す。よって、潤滑剤Bを添加することにより、粉砕機の摩耗を低減しながら、高い残留磁束密度Brを有する希土類永久磁石を得ることができるといえる。
【0035】
次に、実施例1と比較例2を比較すると、比較例2は潤滑剤Bを添加していないものの、潤滑剤Aの量が0.5wt%であり、この値は実施例1の潤滑剤の合計量(潤滑剤A:0.3wt%、潤滑剤B:0.2wt%)と等しい。ここで、表1の「Br」の欄を見ると、実施例1と比較例2の残留磁束密度Brはそれぞれ1.35T、1.34Tと、ともに良好な値を示している。ところが、表1の「粉砕機の摩耗状態」の欄を見ると、実施例1の粉砕機の摩耗が軽微であるのに対し、比較例2の粉砕機の摩耗は著しい。また、表1の「Hcj」の欄を見ると、実施例1が1227kA/mという良好な保磁力Hcjを示しているのに対し、比較例2の保磁力Hcjは1208kA/mという低い値を示す。よって、潤滑剤Aの添加量が多くなると粉砕機の摩耗が進み、かつ保磁力Hcjが低下してしまうことがわかった。
【0036】
さらに、実施例1と比較例3を比較すると、両者は比較例3が脂肪酸アミド(潤滑剤A)を添加していないことを除けば、同一条件で実施されたものである。表1の「粉砕機の摩耗状態」の欄を見ると、実施例1と比較例3はともに粉砕機の摩耗が軽微である。ところが、表1の「Br」の欄を見ると、比較例3の残留磁束密度Brは1.32Tであるに対し、実施例1は、1.35Tという良好な残留磁束密度Brを示す。よって、微粉砕前に添加する潤滑剤Aは、残留磁束密度Brを向上させる上で効果的であることがわかった。但し、表2に示すように、脂肪酸アミド(潤滑剤A)を脂肪酸エステルとともに微粉砕前に添加した場合(比較例4)には粉砕機の摩耗が著しいため、微粉砕前に添加する潤滑剤Aは固体状のまま添加することが好ましいといえる。また、微粉砕前および微粉砕後に添加する潤滑剤をともに液体状の脂肪酸エステルとした場合(比較例5)には、比較例4と同様に粉砕機の摩耗が著しいことが確認された。さらに、微粉砕前に何ら潤滑剤を添加せずに、固体状の脂肪酸アミドと液体状の脂肪酸エステルを微粉砕後に同時に添加した場合(比較例6)には、残留磁束密度Brが1.32Tにとどまった。
【0037】
以上の結果から、本発明が推奨する方法、すなわち微粉砕前に固体状の潤滑剤Aを添加しかつ液体状の潤滑剤Bを微粉砕後に添加することによって、良好な磁気特性を有する希土類永久磁石を得ることができるとともに、粉砕機の摩耗を低減することができることが明らかとなった。
【0038】
(実施例2、実施例3、実施例4)
脂肪酸エステル(潤滑剤B)の添加量を0.2wt%に固定し、脂肪酸アミド(潤滑剤A)の添加量をそれぞれ0.03wt%(実施例2)、0.1wt%(実施例3)、0.2wt%(実施例4)と変動させた。また脂肪酸エステル(潤滑剤B)として、実施例2はラウリン酸ブチルを、実施例3はカプリル酸ブチルを、実施例4はオレイン酸ブチルを用いた。これらの点を除き、実施例1と同一条件で焼結体を作製した。
【0039】
実施例2、実施例3、実施例4において作製した希土類永久磁石の残留磁束密度Br、保磁力HcjをB−Hトレーサーにより測定した。その結果を表3に示す。また表3には、実施例2、実施例3、実施例4を実施した後の粉砕機の摩耗状態を併せて示してある。なお、「粉砕機の摩耗状態」の欄における評価の基準は上述の場合と同様である。また、比較の便宜のために、表3には実施例1を実施した後の粉砕機の摩耗状態、実施例1において作製した希土類永久磁石の残留磁束密度Br、保磁力Hcjについても示している。
【0040】
【表3】
【0041】
表3の「粉砕機の摩耗状態」の欄を見ると、実施例2〜実施例4はいずれも粉砕機の摩耗が軽微である。また、「Hcj」および「Br」の欄を見ると、いずれも1230kA/m以上の保磁力Hcjを示しつつ、1.34T以上の残留磁束密度Brを得ていることがわかる。よって、潤滑剤Aを0.03〜0.2wt%の範囲で添加した場合には、粉砕機の摩耗を押さえつつ、高い磁気特性を得ることができる。但し、潤滑剤Aの添加量が0.2wt%(実施例4)から0.3wt%(実施例1)になると、保磁力Hcjが1249kA/mから1227kA/mに低下する。したがって、1220kA/m以上の保磁力Hcjを維持しつつ、1.34T以上の残留磁束密度Brを得るためには、潤滑剤Aの添加量は0.4wt%以下(0を含まず)、さらには0.3wt%以下、より望ましくは0.2wt%以下とすることが有効であるといえる。ここで、実施例2については潤滑剤Aの添加量はわずかに0.03wt%、潤滑剤Aと潤滑剤Bの合計量についても0.23wt%と少量であるのにも拘わらず、良好な磁気特性を得ている。よって、本発明が推奨する方法は、微粉砕前に添加する潤滑剤Aの量が0.03wt%と少量である場合においても有効であることがわかった。
【0042】
(実施例5、実施例6、実施例7)
脂肪酸アミド(潤滑剤A)の添加量を0.1wt%に固定し、脂肪酸エステル(カプリル酸ブチル:潤滑剤B)の添加量をそれぞれ0.05wt%(実施例5)、0.1wt%(実施例6)、0.3wt%(実施例7)と変動させた。これらの点を除き、実施例1と同一条件で焼結体を作製した。
【0043】
実施例5、実施例6、実施例7において作製した希土類永久磁石の残留磁束密度Br、保磁力HcjをB−Hトレーサーにより測定した。その結果を表4に示す。また表4には、実施例5、実施例6、実施例7を実施した後の粉砕機の摩耗状態を併せて示してある。なお、「粉砕機の摩耗状態」の欄における評価の基準は上述の場合と同様である。また、比較の便宜のために、表4には実施例3を実施した後の粉砕機の摩耗状態、実施例3において作製した希土類永久磁石の残留磁束密度Br、保磁力Hcjについても示している。
【0044】
【表4】
【0045】
表4の「粉砕機の摩耗状態」の欄を見ると、実施例5〜実施例7はいずれも粉砕機の摩耗が軽微である。また、「Hcj」および「Br」の欄を見ると、いずれも1220kA/m以上の保磁力Hcjを示しつつ、1.35T以上の残留磁束密度Brを得ていることがわかる。ここで、「Hcj」の欄を見ると、潤滑剤Bの添加量が0.05wt%(実施例5)、0.1wt%(実施例6)、0.2wt%(実施例3)、0.3wt%(実施例7)と増加するにしたがって、保磁力Hcjが1248kA/m、1236kA/m、1233kA/m、1224kA/mと減少する。よって、潤滑剤Bは0.4wt%以下(0を含まず)、より望ましくは0.3wt%以下、さらに望ましくは0.2wt%以下の範囲で添加することが望ましいことがわかった。
【0046】
(実施例8)
脂肪酸エステル(潤滑剤B)を溶剤(トルエン)で10wt%に希釈させたものを1wt%添加した以外は、実施例6と同一条件で焼結体を作製した。脂肪酸エステル(潤滑剤B)の添加量は、実施例6と同様に0.1wt%である。
(実施例9)
微粉砕後に、0.1wt%の脂肪酸エステル(潤滑剤B)と0.1wt%の脂肪酸アミドを複合添加した以外は、実施例6と同一条件で焼結体を作製した。
(実施例10)
脂肪酸アミドを溶剤(エタノール)で10wt%に希釈させたものを1wt%添加した以外は、実施例6と同一条件で焼結体を作製した。脂肪酸アミドの添加量は0.1wt%である。
【0047】
実施例8、実施例9、実施例10において作製した希土類永久磁石の残留磁束密度Br、保磁力HcjをB−Hトレーサーにより測定した。その結果を表5に示す。また表5は、実施例8、実施例9、実施例10を実施した後の粉砕機の摩耗状態を併せて示してある。なお、「粉砕機の摩耗状態」の欄における評価の基準は上述の場合と同様である。
【0048】
【表5】
【0049】
表5に示すように、実施例8〜実施例10はいずれも粉砕機の摩耗が軽微である。また、表5の「Br」および「Hcj」の欄を見ると、微粉砕後に溶剤(トルエン)に溶かした脂肪酸エステル(潤滑剤B)を添加した場合(実施例8)、微粉砕後に脂肪酸エステル(潤滑剤B)と脂肪酸アミドを複合添加した場合(実施例9)、微粉砕後に溶剤(エタノール)に溶かした脂肪酸アミドを添加した場合(実施例10)についても、上述した実施例1〜実施例7と同等の磁気特性を示すことが確認された。よって、微粉砕後に添加する潤滑剤Bは、必ずしも常温で液体状である必要はなく、固体状の潤滑剤を液体状の潤滑剤と複合添加する場合、固体状の潤滑剤を溶剤で溶かして添加する場合についても粉砕機の摩耗を押さえつつ、高い磁気特性を得ることができることが確認された。
【0055】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、潤滑剤添加による効果を享受しつつ、粉砕機器の損耗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の希土類永久磁石の製造工程を示すフローチャートである。
【図2】 従来の希土類永久磁石の製造工程を示すフローチャートである。
Claims (4)
- R−T−B(R=Yを含む希土類元素の1種または2種以上、T=遷移金属元素の1種または2種以上、B=ホウ素)系希土類永久磁石の出発原料を粗粉砕する粗粉砕工程と、前記粗粉砕工程で得られる粗粉末を微粉砕する微粉砕工程と、前記微粉砕工程で得られる微粉を成形し成形体を得る工程と、前記成形体を焼結する焼結工程とを含む希土類永久磁石の製造方法において、
前記微粉砕工程前に固体状の第1の潤滑剤として脂肪酸アミドを添加する工程と、
前記微粉砕工程後に液体状の第2の潤滑剤として脂肪酸エステルを添加する工程と、
をさらに含むことを特徴とする希土類永久磁石の製造方法。 - 前記第1の潤滑剤および前記第2の潤滑剤の添加量はそれぞれ0.03〜0.4wt%であることを特徴とする請求項1に記載の希土類永久磁石の製造方法。
- 前記第1の潤滑剤および前記第2の潤滑剤の添加量はそれぞれ0.05〜0.2wt%であることを特徴とする請求項1に記載の希土類永久磁石の製造方法。
- 前記第1の潤滑剤および前記第2の潤滑剤の合計量が0.7wt%以下であることを特徴とする請求項1に記載の希土類永久磁石の製造方法。
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