JP4350843B2 - 超臨界乾燥装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、固相と液相からなる湿潤ゲルから超臨界雰囲気中で液相を除去して乾燥することによって、半導体装置の素材として有用な多孔質誘電体を製造する為の半導体プロセス用超臨界乾燥装置に関するものであり、特に高い処理能力(高スループット性)を備えた超臨界乾燥装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
コンピュータ等の電子機器に用いられる半導体集積回路(LSI)の演算速度を向上させ、消費電力を低減する為に、配線部分の容量性接合(配線容量)の低減が要望されている。そして、配線容量を低減する為の最も根本的な方法は、導体同士がショートしない様に分離する絶縁体(誘電体)の比誘電率を低減することである。LSIに用いられる最も一般的な誘電体は、二酸化ケイ素(SiO2:比誘電率約3.9)である。これに対して、空気の比誘電率は1.0を僅かに超えるに過ぎないので、少なくとも部分的に固体誘電体を空気で置換することによって、誘電体の比誘電率を劇的に低減することが可能である。
【0003】
この様に固体誘電体を空気で置換した構造として、超臨界乾燥した多孔質体(エアロゲル)が知られている。このエアロゲルを形成するには、まず原料となる金属アルコキシドと有機溶媒を混合した溶液を調整し、これを加水分解して湿潤ゲルを得る。そして、湿潤ゲルを溶媒中で十分熟成した後、超臨界乾燥法によって溶媒を乾燥させるものである。こうした超臨界乾燥法では、殆ど収縮を起こさずに上記湿潤ゲルから液相を除去して極めて気孔率の高い多孔質体を得ることができる。
【0004】
LSIに用いるSiO2の多孔質体(シリカエアロゲル)は、テトラメトキシシラン(TMOS)、或はテトラエトキシシラン(TEOS)を出発原料として、溶媒にメタノールやエタノール等のアルコール類、加水分解の為の触媒としてアンモニア水を用いる方法が一般的である。また、薄膜形状のシリカエアロゲルを形成するには、スピンコート法やディップコート法等のより基材上に湿潤ゲルを形成して超臨界乾燥する手法が用いられている。
【0005】
上記エアロゲルを形成する為の超臨界乾燥の手法としては、溶媒(通常、アルコール類)そのものを超臨界状態にした後に、乾燥させる「アルコール乾燥法」と、超臨界状態にした流体(通常液化二酸化炭素:CO2)を流し込み、溶媒を溶かし込んでから取り去る「CO2抽出法」の2つの方法が知られている。
【0006】
上記方法のうちアルコール乾燥法では、溶媒がアルコールの単相であるため、CO2抽出法に比べて圧力・温度の制御が単純でありプロセスが容易であるというメリットがある。しかしながらこの方法では、アルコールの超臨界状態まで加熱・加圧する必要があり、特に温度面において処理装置にかかる負担が大きくなるという問題がある。例えば、エタノールの超臨界点は241℃、6.1MPaであるが、これを超える条件として通常260℃、8.0MPa程度で処理されている。これに対して、CO2抽出法の場合の処理条件は、80℃、15MPa程度である。
【0007】
従来、アルコール乾燥法に使用する超臨界装置としては、圧力保持と温度保持を兼ねた単一容器を容器ごとに加圧・加熱するオートクレーブ(圧力釜)方式が採用されている。例えば、特開平5−296662号には、典型的な例としてオートクレーブ型超臨界乾燥装置が開示されている。この超臨界乾燥装置について図面を用いて説明する。
【0008】
図1は、従来の超臨界乾燥装置の概略説明図である。この装置では、図示する様に圧力容器と温度容器を兼ね備えたステンレス製容器1、加圧の為の窒素を容器内に圧送する窒素ボンベ2、および圧力を調整する為の圧力調整弁3が備えられている。また、容器1内はOリング5やパッキン6によって、密閉された状態とされる。そして、容器1内は容器の外側に設置されたヒータ4によって加熱され、容器1内に溶媒7および被処理物8を収納した状態で超臨界状態を達成するように構成されている。しかしながら、こうした超臨界乾燥装置においては、下記(1)〜(4)に示す様な問題がある。
【0009】
(1)高圧保持の要請から厚い容器壁が必要となり、容器の熱容量が極めて大きくなるため、容器の昇温・降温に長時間を要し、結果的に超臨界乾燥のプロセスのスループット(単位時間当たりの処理能力)を低下させる。
【0010】
(2)容器そのものが約260℃までに加熱されるために、圧力保持のための機構が難しくなる。具体的には、パッキンやOリングに耐熱性および耐アルコール性が要求されるが、生産装置として繰り返し使用できる材料ではない。
【0011】
(3)上記の様な超臨界乾燥では、周囲雰囲気からパーティクル等の流入を防止できる程度の高い清浄性が要求されるのであるが、その為には装置全体をクリーンルーム或はこれに相当する環境に常時設置する必要があり、また装置自体の素材にも高い清浄性が要求されることになる。
【0012】
(4)乾燥中に圧力調整弁を介して容器から吹き出した高温のアルコール蒸気がヒータに接触すると、爆発の危険性がある。このため、特に生産装置としてはヒータを隔離するなどの防爆の手段を講じる必要がある。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、容器の熱容量を大幅に小さくすることができると共に、圧力を保持する為の機構も比較的容易に達成することのでき、しかも溶媒が高熱部分に接触して爆発する危険性を回避できる様な超臨界乾燥装置の構造を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することのできた本発明に係る超臨界乾燥装置とは、温度と圧力により超臨界状態を制御して被処理物を乾燥する超臨界乾燥装置において、温度制御装置を備えた超臨界溶媒収納容器を外部容器内に配置し、外部容器内圧力を介して超臨界溶媒収納容器内の圧力を制御する様に構成したものである点に要旨を有するものである。
【0015】
本発明の超臨界乾燥装置における具体的な構成として、前記超臨界溶媒収納容器は、溶媒および被処理物を収納した後に密閉できる構造であり、且つこの超臨界溶媒収納容器の外壁には、外部容器内圧力が超臨界溶媒収納容器内圧力よりも一定圧力以上高くなったときに開口動作する圧力調整弁と、外部容器内圧力が超臨界溶媒収納容器内圧力よりも一定圧力以上下がったときに開口動作する溶媒排出弁とを備えたものである構成が挙げられる。
【0016】
本発明の超臨界乾燥装置では、前記溶媒排出弁から排出される溶媒は、超臨界溶媒収納容器の外側で且つ外部容器の内側に設置された回収容器により回収する様にすれば良く、また前記温度制御装置としては発熱体または誘導加熱体を採用できる。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、上記した従来技術における課題を解決するという観点から、温度と圧力により超臨界状態を制御して被処理物を乾燥する超臨界乾燥装置の構成について様々な角度から検討した。その結果、上記のように温度制御装置を備えた超臨界溶媒収納容器を外部容器内に配置した二重容器の構造とし、外部容器内圧力を介して超臨界溶媒収納容器内の圧力を制御する様に構成すれば、上記目的が見事に達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0018】
上記の様な本発明の超臨界乾燥装置では、上記の様に二重容器構造とすることによって、次のような作用・効果が発揮される。まず、本発明の超臨界乾燥装置によれば、内部容器に相当する超臨界溶媒収納容器かかる圧力(容器の内外の圧力差)を比較的小さくすることができるので、容器の構造強度に対する要求が小さくなり、容器厚を大幅に薄くすることができる。従って、超臨界溶媒収納容器の熱容量を大幅に小さくすることが可能となり、超臨界乾燥処理プロセスに関わる昇温・降温時間を飛躍的に短くすることができ、高スループット性が達成される。
【0019】
一方、外部容器は比較的低温(常温〜60℃程度)に保持することができるので、パッキンやO−リングの素材として、テフロン等の耐アルコール性を有し繰り返し使用できる樹脂材料を用いることができる。また、外部容器そのものを、テフロンやFRP(繊維強化プラスチックス)等の材料で構成することも可能である。
【0020】
内部容器に相当する超臨界溶媒収納容器は、密閉したまま容易に外部容器から取り出すことができるので、この容器のみを清浄な環境に移動して開封・封止することが可能である。これによって、装置全体をクリーンルーム或はこれに相当する環境に設置する必要がない。また、外部容器にはそれほど清浄性が要求されないので、材料・構成が比較的自由に選択できる。
【0021】
超臨界溶媒収納容器の外側から加熱する構成を採用できるので、加熱によってこの容器内に収納された溶媒や被処理物が汚染されることがなくなる。また、超臨界溶媒収納容器から排出される溶媒を、超臨界溶媒収納容器の外側で且つ外部容器の内側に設置された回収容器により回収する様にするか、或は高周波誘導によって加熱する構成を採用する場合には、溶媒が高熱部分に接触して爆発する危険性を回避することができる。
【0022】
次に、実施例を挙げて本発明の構成および作用効果をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0023】
【実施例】
図2は、本発明に係る超臨界乾燥装置の一構成例を示す概略説明図である。この装置は、溶媒7および被処理物8を収納する超臨界溶媒収納容器10、およびこの超臨界溶媒収納容器10を内部に設置することのできる外部容器11とからなる。そして外部容器11は例えばFRPからなり、O−リング12によって密閉され、窒素ボンベ13からの窒素ガスが流量調整弁14を介して外部容器11内に圧送されることによって、外部容器11内の圧力が高圧になるようにされる。尚、図中15は、超臨界乾燥が終了したときに開いて、外部容器11内の窒素ガスを排出する為の排出弁である。
【0024】
一方、超臨界溶媒収納容器10は例えばステンレス鋼からなり、溶媒7および被処理物8を収納した状態で密閉できる構造であり、その外側には、温度制御装置としての誘導コイル18a(誘導発熱体)が備えられている。そして、誘導コイル18aは外部容器11の外側に置かれた高周波誘導電源18bに接続されており、この高周波誘導電源18bからの電圧を誘導コイル18aに印加することによって超臨界溶媒収納容器10が加熱される。尚、誘導コイル18aは、通常のヒータ(発熱体)を採用しても良いが、溶媒が高熱部分に接触しても爆発する危険性がないという観点からして、高周波誘導によって加熱する構成を採用することが好ましい。
【0025】
超臨界溶媒収納容器10の外壁(この図では上部外壁)には、外部容器11内圧力(以下、便宜上「外圧」と呼ぶことがある)が超臨界溶媒収納容器10内圧力(以下、便宜上「内圧」と呼ぶことがある)よりも一定圧力以上(例えば、0.1MPa以上)高くなると開口動作する様に調整された圧力調整弁16aが備えられている。また、内部容器へのパーティクル流入を抑えるという観点からして、この圧力調整弁16aには、フィルター(図示せず)を介在させることが好ましい。
【0026】
一方、超臨界溶媒収納容器10の外壁の他の部分(この図では下部外壁)には、外圧が内圧よりも一定圧力以上(例えば、0.1MPa以上)下がったときに開口動作する様に調整された溶媒排出弁16bが備えられている。また、超臨界溶媒収納容器10の外側で且つ外部容器11の内側には、回収容器17aが設置されており、前記溶媒排出弁16bから適宜排出される溶媒は、この回収容器17aに回収される様に構成されている。尚、この回収容器17aに関連して、図示する様に、外部容器11の外側に第2回収容器17bを設け、前記回収容器17a内に一旦蓄えられた溶媒を、プロセス終了後の適切な時期に弁19を開いて第2回収容器17bに回収する様にしても良い。
【0027】
次に、本発明の装置を用いた超臨界乾燥プロセスについて説明する。まず、表面に2000Åの酸化膜と1000Åのアルミ薄膜(下部電極)を形成したシリコン基板上に、TMOSを出発原料とした湿潤ゲル膜を回転塗布法によって形成した。
【0028】
そして、前記図2に示した装置を用い、図3に示した圧力・温度相図(超臨界溶媒収納容器10内)に従って前記湿潤ゲル膜を超臨界乾燥した。クリーンルーム内において、前記湿潤ゲル膜とエタノールを前記図2に示した装置の超臨界溶媒収納容器10内に封入し、次いでこの超臨界溶媒収納容器10を外部容器11内に配置した後、外部容器11を密閉した。
【0029】
その後、前記流量調整弁14を開いて窒素ボンベ13からの窒素ガスを外部容器11内に圧送して外部容器11内圧力(外圧)を8.1MPaまで加圧する。この過程で圧力調整弁16aが開口動作し、エタノールと湿潤ゲル膜を収納した超臨界溶媒収納容器10内が8.0MPaまで加圧(内圧)されることになる(図3の経路a)。
【0030】
引き続き、超臨界溶媒収納容器10を誘導コイル18aによって260℃まで昇温する。この昇温過程で、超臨界溶媒収納容器10内圧力(内圧)が外部容器11内圧力(外圧)よりも高くなると、溶媒排出弁16bが開口動作してエタノールが排出され、回収容器17aに回収される。即ち、溶媒排出弁16bは、この段階では安全弁としての機能を発揮することになる。また、このとき排出される溶媒は超臨界状態であるが、内部容器から吐出すると同時に冷却されて液体状態に戻る。そして結果的に、内圧は8.0MPa程度に保持され(図3の経路b)、超臨界状態が維持されて超臨界乾燥が進行する。
【0031】
その後、前記排出弁15を開いて、外部容器11内の窒素ガスを排出し、外部容器11内を0.1MPa(大気圧)まで減圧すると(図3の経路c)、溶媒排出弁16bが開口動作し、超臨界溶媒収納容器10からエタノールが排出されて回収容器17aに回収される。また、窒素ボンベ13から圧力:0.2MPa程度になる様に乾燥窒素ガスを流通させ、超臨界溶媒収納容器10内のエタノールを完全に除去した後、、超臨界溶媒収納容器10を室温まで冷却する。そして、最終的に超臨界溶媒収納容器10を外部容器11から取り出し、クリーンルーム内で開封して被処理物8を取り出す。
【0032】
通常のオートクレーブによれば、昇温に8時間、降温に10時間を要するものとなるが、本発明の装置を用いれば昇温に1時間、降温に2時間程度で済み、処理時間を大幅に短縮することができた。しかも、超臨界処理後の6インチ基板のパーティクル数(0.2μm以上)は20個以下であり、LSIレベルでの清浄性を確保することができた。
【0033】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されており、容器の熱容量を大幅に小さくすることができ、しかも圧力を保持する為の機構も比較的容易に達成することのできる超臨界乾燥装置の構造が実現できた。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の超臨界乾燥装置の概略説明図である。
【図2】本発明に係る超臨界乾燥装置の一構成例を示す概略説明図である。
【図3】本発明の装置を用いたときの超臨界乾燥プロセスの圧力・温度相図である。
【符号の説明】
7 溶媒
8 被処理物
10 超臨界溶媒収納容器
11 外部容器
13 窒素ボンベ
16a 圧力調整弁
16b 溶媒排出弁
17a 回収装置
18a 誘導コイル
18b 高周波誘導電源
Claims (3)
- 温度と圧力により超臨界状態を制御して被処理物を乾燥する超臨界乾燥装置において、
温度制御装置を備えた超臨界溶媒収納容器を外部容器内に配置し、圧力調整弁を介して外部容器と超臨界溶媒収納容器とを連通させて外部容器内圧力により超臨界溶媒収納容器内の圧力を制御する様に構成し、
該超臨界溶媒収納容器は、溶媒および被処理物を収納した後に密閉できる構造であり、且つ、
該超臨界溶媒収納容器の外壁には、
外部容器内と超臨界溶媒収納容器内との間に形成され、かつ、外部容器内圧力が超臨界溶媒収納容器内圧力よりも一定圧力以上高くなったときに開口動作する前記圧力調整弁と、
外部容器内圧力が超臨界溶媒収納容器内圧力よりも一定圧力以上下がったときに開口動作する溶媒排出弁とを備えたものであることを特徴とする超臨界乾燥装置。 - 前記溶媒排出弁から排出される溶媒を、超臨界溶媒収納容器の外側で且つ外部容器の内側に設置された回収容器により回収する様に構成されたものである請求項1に記載の超臨界乾燥装置。
- 前記温度制御装置は発熱体または誘導加熱体である請求項1または2に記載の超臨界乾燥装置。
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