以下、図面に沿い、本発明の実施形態を説明する。図1は本発明を適用した車両用自動変速機の第1実施形態のギヤトレインをスケルトンで示す。この自動変速機は、フロントエンジン・リヤドライブ(FR)車用の縦置式の形態を採っており、減速プラネタリギヤG1と、減速プラネタリギヤG1を経た減速回転を伝達する2つのクラッチを含む3つのクラッチ(C−1〜C−3)と、そのうちの第1及び第3の2つのクラッチ(C−1,C−3)を経た減速回転が入力されるプラネタリギヤセットGとにより多段の変速段を達成するものとされている。
そして、プラネタリギヤセットGは、その第1の要素S3が第1のクラッチ(C−1)の出力側部材に連結され、第2の要素S2が第3のクラッチ(C−3)の出力側部材に連結されるとともに、第1の係止手段(B−1,F−1,B−2)により変速機ケース10に係止可能とされ、第3の要素C2(C3)が非減速回転を入力する第2のクラッチ(C−2)の入力側部材に連結されるとともに、第2の係止手段(B−3,F−2)により変速機ケース10に係止可能とされ、第4の要素R3(R2)が出力部材としての出力軸19に連結されている。このギヤトレイン構成により、この自動変速機では、各クラッチ及び係止手段が、図示しない油圧制御装置によるそれらクラッチ及び係止手段の各油圧サーボの油圧の給排により選択的に係合解放されて、前進6速・後進1速の変速段が達成可能とされている。
以下、この実施形態のギヤトレインを更に詳細に説明する。図1を参照して、この自動変速機では、その変速機構の最前部に、図示しないエンジンに連結されるロックアップクラッチ20付のトルクコンバータ2が配置され、その後部に変速機構が配置された構成が採られている。トルクコンバータ2は、ポンプインペラ21と、タービンランナ22と、それらの間に配置されたステータ23と、ステータ23を変速機ケース10に一方向回転係合させるワンウェイクラッチ24と、ワンウェイクラッチのインナレースを変速機ケース10に固定するステータシャフト25とを備える。
変速機構の主体をなすプラネタリギヤセットGは、第1の要素としての小径のサンギヤS3と、第2の要素としての大径のサンギヤS2と、互いに噛合するピニオンであって、その一方が大径のサンギヤS2に噛合するとともに第4の要素としてのリングギヤR3(R2)に噛合するロングピニオンP2と、他方が小径のサンギヤS3に噛合するショートピニオンP3とからなる一対のピニオンP2,P3を支持する第3の要素としての一体化されたキャリアC2,C3とからなるラビニヨ式のギヤセットとされている。なお、上記要素のうち、リングギヤR3(R2)とキャリアC2,C3は、理論的には、それぞれ異なる2つの要素と捉えられるが、前者は実際に1つの要素であり、後者は一体化により回転要素として見れば1つの要素といえるので、以後の説明において、前者についてはサンギヤS2,S3との位置関係に応じて、サンギヤS2の外周側にある場合に符号R2、サンギヤS3の外周側にある場合に符号R3を付し、後者については一方の符号の併記を省略する。
減速プラネタリギヤG1は、シンプルプラネタリギヤで構成され、その入力要素としてのリングギヤR1を前記トルクコンバータのタービンランナに連なる入力軸11に連結され、出力要素としてのキャリアC1を第1のクラッチ(C−1)の入力側部材に連結されるとともに、該入力側部材を介して、第3のクラッチ(C−3)の入力側部材に連結され、反力を取る1要素としてのサンギヤS1を変速機ケース10に固定されている。
こうした構成からなる自動変速機は、図示しない電子制御装置と油圧制御装置とによる制御で、運転者により選択されたレンジに応じた変速段の範囲で車両負荷に基づき、変速を行う。図3は各クラッチ及びブレーキの係合及び解放(○印で係合、無印で解放、△印でエンジンブレーキ時のみの係合、●印で変速段の達成に直接作用しない係合を表す)で達成される変速段を図表化して示す。また、図2は各クラッチ及びブレーキの係合(●印でそれらの係合を表す)により達成される変速段と、そのときの各変速要素の回転数比との関係を速度線図で示す。
図2及び図3を併せ参照してわかるように、第1速(1ST)は、クラッチ(C−1 )とブレーキ(B−3)の係合(本形態において、作動表を参照してわかるように、このブレーキ(B−3)の係合に代えてワンウェイクラッチ(F−2)の自動係合が用いられているが、この係合を用いている理由及びこの係合がブレーキ(B−3)の係合に相当する理由については後に詳述する。)により達成される。この変速段では、図1に示す入力軸11から減速プラネタリギヤG1を経て減速された回転がクラッチ(C−1)経由で小径サンギヤS3に入力され、ワンウェイクラッチ(F−2)の係合により係止されたキャリアC3に反力を取って、リングギヤR3の最大減速比の減速回転が出力軸19に出力される。
次に、第2速(2ND)は、クラッチ(C−1 )とブレーキ(B−1)の係合に相当するワンウェイクラッチ(F−1)の係合とそれを有効にするブレーキ(B−2)の係合(これらの係合がブレーキ(B−1)の係合に相当する理由についても後に詳述する。)により達成される。この変速段では、入力軸11から減速プラネタリギヤG1を経て減速された回転がクラッチ(C−1)経由で小径サンギヤS3に入力され、ブレーキ(B−2)及びワンウェイクラッチ(F−1)の係合により係止された大径サンギヤS2に反力を取って、リングギヤR3の減速回転が出力軸19に出力される。このときの減速比は、図2にみるように、第1速(1ST)より小さくなる。
また、第3速(3RD)は、クラッチ(C−1)とクラッチ(C−3)の同時係合により達成される。この場合、入力軸11から減速プラネタリギヤG1を経て減速された回転が、それぞれクラッチ(C−1)とクラッチ(C−3)経由で同時に大径サンギヤS2と小径サンギヤS3に入力され、プラネタリギヤセットGが直結状態となるため、両サンギヤへの入力回転と同じリングギヤR3の回転が、入力軸11の回転に対しては減速された回転として、出力軸19に出力される。
更に、第4速(4TH)は、クラッチ(C−1)とクラッチ(C−2)の同時係合により達成される。この場合、一方で入力軸11から減速プラネタリギヤG1を経て減速された回転がクラッチ(C−1)経由でサンギヤS3に入力され、他方で入力軸11からクラッチ(C−2)経由で入力された非減速回転がキャリアC3に入力され、2つの入力回転の中間の回転が、入力軸11の回転に対しては僅かに減速されたリングギヤR3の回転として出力軸19に出力される。
次に、第5速(5TH)は、クラッチ(C−2)とクラッチ(C−3)の同時係合により達成される。この場合、一方で入力軸11から減速プラネタリギヤG1を経て減速された回転がクラッチ(C−3)経由でサンギヤS2に入力され、他方で入力軸11からクラッチ(C−2)経由で入力された非減速回転がキャリアC2に入力され、リングギヤR3の入力軸11の回転より僅かに増速された回転が出力軸19に出力される。
そして、第6速(6TH)は、クラッチ(C−2)とブレーキ(B−1)の係合により達成される。この場合、入力軸11からクラッチ(C−2)経由で非減速回転がキャリアC2にのみ入力され、ブレーキ(B−1)の係合により係止されたサンギヤS2に反力を取り、リングギヤR3の更に増速された回転が出力軸19に出力される。
なお、後進(REV)は、クラッチ(C−3)とブレーキ(B−3)の係合により達成される。この場合、入力軸11から減速プラネタリギヤG1を経て減速された回転がクラッチC−3経由でサンギヤS2に入力され、ブレーキ(B−3)の係合により係止されたキャリアC2に反力を取り、リングギヤR3の逆転が出力軸19に出力される。
このようにして達成される各変速段は、図2の速度線図上で、リングギヤR2,R3の速度比を示す○印の上下方向の間隔を参照して定性的にわかるように、各変速段に対して比較的等間隔の良好な速度ステップとなる。この関係を具体的に数値を設定して、定量的に表すと、図3に示すギヤ比及びギヤ比間のステップとなる。この場合のギヤ比は、減速プラネタリギヤG1のサンギヤS1とリングギヤR1の歯数比λ1=0.556、プラネタリギヤセットGの大径サンギヤ側のサンギヤS2とリングギヤR3の歯数比λ2=0.458、小径サンギヤ側のサンギヤS3とリングギヤR3の歯数比λ3=0.375に設定した場合であり、ギヤ比幅は6.049となる。
ここで、先に触れたワンウェイクラッチ(F−2)とブレーキ(B−3)との関係及びワンウェイクラッチ(F−1)と両ブレーキ(B−1,B−2)との関係について説明する。上記の第1速と第2速時の両ブレーキ(B−1,B−3)の係合・解放関係にみるように、これら両ブレーキは、両変速段間でのアップダウンシフト時に、一方の解放と同時に他方の係合が行われる、いわゆる掴み替えされる摩擦要素となる。こうした摩擦要素の掴み替えは、それらを操作する油圧サーボの係合圧と解放圧の精密な同時制御を必要とし、こうした制御を行うには、そのためのコントロールバルブの付加や油圧回路の複雑化等を招くこととなる。そこで、本形態では、第1速と第2速とで、キャリアC2にかかる反力トルクが逆転するのを利用して、ワンウェイクラッチ(F−2)の係合方向を第1速時の反力トルク支持方向に合わせた設定とすることで、ワンウェイクラッチ(F−2)に実質上ブレーキ(B−3)の係合と同等の係止機能と、該ブレーキでは得られない自動解放機能を発揮させて、第1速時のブレーキ(B−3)の係合に代えて(ただし、ホイール駆動の車両コースト状態ではキャリアC2にかかる反力トルクの方向がエンジン駆動の状態に対して逆転するので、エンジンブレーキ効果を得るためには、図3に△印で示すようにブレーキ(B−3)の係合を必要とする)、キャリアC2の係止を行っているわけである。したがって、変速段を達成する上では、ワンウェイクラッチを設けることなく、ブレーキ(B−3)の係合により第1速を達成する構成を採ることもできる。
上記と同様の関係がサンギヤS2の場合について成り立ち、この場合は、ワンウェイクラッチ(F−1)の係合方向を第2速時の反力トルク支持方向に合わせた設定とすることで、ワンウェイクラッチ(F−1)に実質上ブレーキ(B−1)の係合と同等の機能を発揮させることができる。ただし、このサンギヤS2は、キャリアC2とは異なり、第2速時のエンジンブレーキ効果を得るために係合するだけでなく、第6速達成のためにも係止される変速要素であるため、ブレーキ(B−1)が必要となる。また、サンギヤS2は、図2の速度線図でも分かるように、第1速達成時には入力回転方向に対して逆方向に回転するが、第3速以上の変速段の場合は、入力回転方向と同じ方向に回転する。したがって、ワンウェイクラッチ(F−1)は、直接固定部材に連結することができないため、ブレーキ(B−2)との直列配置により係合状態の有効性を制御可能な構成としている。
次に、図4は上記ギヤトレインの変速機構部を更に詳細に模式化した断面で示す。先にスケルトンを参照して説明した各構成要素については、同じ参照符号を付して説明に代えるが、スケルトンから参照し得ない細部について、次に説明する。なお、本明細書を通じて、クラッチという用語は、摩擦部材と、その支持部材兼動力伝達部材としてのドラム及びハブと、更に摩擦部材を係合操作する操作手段としての油圧サーボを総称するものとし、また、ブレーキについては、それがクラッチを同様の多板構成である場合は、その摩擦部材と、その支持部材兼トルク伝達部材としてのハブと、摩擦部材を係合操作する手段としての油圧サーボを総称するものとし、バンドブレーキ構成の場合は、ブレーキバンドと、その係合面を構成するドラムと、ブレーキバンドを締結させる油圧サーボを総称するものとする。
まず、変速機ケース10は、その前端壁部10aから内部に向かって延材された円筒ボス部10bと、後端壁部10cから内部に向かって延材された円筒ボス部10dとを有する筒状に構成され、変速機ケース10のほぼ中央に固定してサポート壁10Aが設けられている。サポート壁10Aは、変速機ケース10に連結された径方向壁部10eと、径方向壁部10eの内周側で軸方向に前方に延びる前側円筒部10f’とを有する。なお、符号Snは、変速制御のために変速機構の入力回転を検出する入力回転センサを示す。
次に、変速機構にトルクコンバータ経由の動力を入力する入力軸11は、この形態では、主として加工上の便宜のために前側部分11Aと後側部分11Bとに分割されているが、互いにスプライン等で緊密に嵌合させて実質上一体化させた構成とされている。入力軸11の前側部分11Aは、トルクコンバータ2のタービンランナ22に連結され、変速機ケース10内において、前端部をベアリングを介して変速機ケースの前端壁部10aの内周に支持され、後端部をベアリングを介して円筒ボス部10bの先端内周に支持され、変速機ケース10に対して回転自在とされている。入力軸後側部分11Bの後端部は、出力軸19の凹部にベアリングを介して嵌挿支持され、出力軸19を介して変速機ケース10の円筒ボス部10dに回転自在に支持されている。そして、減速プラネタリギヤG1への入力部は、前側部分11Aの後端部付近に形成されたフランジとされ、このフランジがリングギヤR1に連結されている。また、第2のクラッチ(C−2)への連結は、後側部分11Bの後端部付近に不動に固定され、第2のクラッチ(C−2)の油圧サーボ50の内周側を構成するスリーブ部材11Cのフランジとされ、該フランジにクラッチドラム51を固定することでなされている。
出力軸19は、その前端部をベアリングを介して変速機ケースの円筒ボス部10dの内周に回転自在に支持され、後端部をベアリングを介して変速機ケース10の最後部に固定されたエクステンションハウジングに回転自在に支持されている。そして、プラネタリギヤセットGのリングギヤR3への連結部は、出力軸19先端のフランジとされ、それに固定されたドラム状部材がリングギヤR3に連結した構成とされている。
プラネタリギヤセットGは、入力軸の後側部分11Bの軸方向ほぼ中央部分の外周側に配置され、後側部分11Bの外周に小径サンギヤS3が回転自在に支持され、更にその外周に大径サンギヤS2が回転自在に支持されている。ロングピニオンP2とショートピニオンP3を支持するキャリアC2,C3は一体化され、その前端部はサンギヤS2から前方に延びる軸部11Eに回転自在に支持され、後端部は後側部分11Bに回転自在に支持されている。このプラネタリギヤセットGは、その一方の第1のプラネタリギヤG2側の外周にリングギヤがないことから、リングギヤR3のある第2のプラネタリギヤG3側とは互いに外径が異なっている。
減速プラネタリギヤG1は、変速機ケースの円筒ボス部10bの先端外周に配置され、その固定要素としてのサンギヤS1は、円筒ボス部10bにスプライン嵌合等で固定されている。減速プラネタリギヤG1の出力要素を構成するキャリアC1は、円筒ボス部10bの外周にベアリングを介して片持支持されている。
本発明の基本的特徴に従い、プラネタリギヤセットGの一方側すなわち本形態において前側に、減速プラネタリギヤG1と、それを経た減速回転をそれぞれプラネタリギヤセットGのサンギヤS3とサンギヤS2へ入力する第1及び第3のクラッチ(C−1,C−3)が、第3のクラッチ(C−3)を第1のクラッチ(C−1)よりプラネタリギヤセット側にして配置されている。そして、第1のクラッチ(C−1)の入力側部材としてのクラッチドラム31は、減速プラネタリギヤG1のキャリアC1と第3のクラッチ(C−3)の入力側部材46に連結されている。また、第1のクラッチ(C−1)の出力側部材としてのクラッチハブ36は、第3のクラッチ(C−3)の内周を通してプラネタリギヤセットGのサンギヤS3に連結されている。
第1のクラッチ(C−1)は、多板構成の摩擦材とセパレータプレートからなる摩擦部材35と、摩擦部材にトルクを伝達する入力側部材としてのクラッチドラム31と、摩擦部材35の係合により伝達されたトルクを出力する出力側部材としてのクラッチハブ36と、摩擦部材を係合させる油圧サーボ30とから構成されている。クラッチドラム31は、その内外周に筒状部を有し、内周側の筒状部と外周側の小径の筒状部との間に油圧サーボ30のシリンダを画定して油圧サーボ30を内包する構成とされ、拡径された大径の筒状部を摩擦部材35の支持部としている。摩擦部材35は、そのセパレータプレートの外周側をスプライン係合でクラッチドラム31の大径円筒部の内周に支持され、摩擦材の内周側をスプライン係合でクラッチハブ36の外周に支持されて、クラッチドラム31とクラッチハブ36との間に配置されている。油圧サーボ30は、クラッチドラム31の内側をシリンダとし、それに軸方向摺動自在に嵌挿されたピストン32と、クラッチドラム31の内周部に軸方向止めされたキャンセルプレートと、ピストン32とキャンセルプレートとの間に配設されたリターンスプリングとを備えた構成とされている。
こうした構成からなる第1のクラッチ(C−1)は、その油圧サーボ30が、減速プラネタリギヤG1の前方で、円筒ボス部10bの外周に配置され、摩擦部材35が、減速プラネタリギヤG1の外周に配置されている。この第1のクラッチ(C−1)のクラッチドラム31は、それに内包された油圧サーボ30のシリンダが減速プラネタリギヤG1側に開口する向きに向けて配置され、クラッチドラム31の内周側の筒状部を減速プラネタリギヤG1のキャリアC1に連結されている。そして、クラッチハブ36は、入力軸の前側部分11Aの外周にベアリングを介して支持された動力伝達部材11Dに連結され、該動力伝達部材を介してプラネタリギヤセットGのサンギヤS3に連結されている。
第3のクラッチ(C−3)は、多板構成の摩擦材とセパレータプレートからなる摩擦部材45と、摩擦部材にトルクを伝達する入力側部材としてのクラッチハブ46と、摩擦部材45の係合により伝達されたトルクを出力する出力側部材としてのクラッチドラム41と、摩擦部材を係合させる油圧サーボ40とから構成されている。クラッチドラム41は、その内外周に筒状部を有し、内周側の筒状部と外周側の小径の筒状部との間に油圧サーボ40のシリンダを画定して油圧サーボ40を内包する構成とされ、拡径された大径の筒状部を摩擦部材45の支持部としている。摩擦部材45は、そのセパレータプレートの外周側をスプライン係合でクラッチドラム41の大径円筒部の内周に支持され、摩擦材の内周側をスプライン係合でクラッチハブ46の外周に支持されて、クラッチドラム41とクラッチハブ46との間に配置されている。油圧サーボ40は、クラッチドラム41の内側をシリンダとし、それに軸方向摺動自在に嵌挿されたピストン42と、クラッチドラム41の内周部に軸方向止めされたキャンセルプレートと、ピストン42とキャンセルプレートとの間に配設されたリターンスプリングとを備えた構成とされている。
こうした構成からなる第3のクラッチ(C−3)は、その油圧サーボ40が、減速プラネタリギヤG1の後方で、サポート壁10Aの前側円筒部10f’の外周にベアリングを介して支持され、摩擦部材45が、減速プラネタリギヤG1の外周に、前記第1のクラッチ(C−1)の摩擦部材35と並べて、その後方に配置されている。この第1のクラッチ(C−3)のクラッチドラム41は、それに内包された油圧サーボ40のシリンダが減速プラネタリギヤG1側に開口する向きに向けて配置され、クラッチドラム41の内周側の筒状部を動力伝達部材11Dの外周に嵌挿された動力伝達部材11Eを介してプラネタリギヤセットGの大径サンギヤS2に連結されている。そして、クラッチハブ46は、第1のクラッチ(C−1)のクラッチドラム31に連結されている。
第2のクラッチ(C−2)も同様に、多板構成の摩擦材とセパレータプレートからなる摩擦部材55と、摩擦部材にトルクを伝達する入力側部材としてのクラッチドラム51と、摩擦部材55の係合により伝達されたトルクを出力する出力側部材としてのクラッチハブ56と、摩擦部材を係合させる油圧サーボ50とから構成されている。クラッチドラム51は、その外周に筒状部を有し、内周側の前記スリーブ部材11Cと外周側の小径の筒状部との間に油圧サーボ50のシリンダを画定して油圧サーボ50を内包する構成とされ、拡径された大径の筒状部を摩擦部材55の支持部としている。摩擦部材55は、そのセパレータプレートの外周側をスプライン係合でクラッチドラム51の大径円筒部の内周に支持され、摩擦材の内周側をスプライン係合でクラッチハブ56の外周に支持されて、クラッチドラム51とクラッチハブ56との間に配置されている。油圧サーボ50は、クラッチドラム51の内側をシリンダとし、それに軸方向摺動自在に嵌挿されたピストン52と、クラッチドラム51の内周部に軸方向止めされたキャンセルプレートと、ピストン52とキャンセルプレートとの間に配設されたリターンスプリングとを備えた構成とされている。
この第2のクラッチ(C−2)は、その油圧サーボ50が、プラネタリギヤセットGの後方で、入力軸11に固定して支持され、摩擦部材55が、油圧サーボ50の前方に配置されている。そして、クラッチハブ56は、プラネタリギヤセットGのキャリアC2に連結支持されている。
第1の係止手段の一方を構成するブレーキ(B−1)は、第3のクラッチ(C−3)のクラッチドラム41の外周面に係合するバンド6を備え、クラッチドラム41をブレーキドラムとするバンドブレーキとされている。このように、ブレーキをバンドブレーキ構成とした場合、ブレーキ締結時の径方向負荷でドラムの振れ回りによりドラム軸を傾斜させるモーメントが作用するが、この形態では、前記のようにサポート壁10Aの前側円筒部10f’に支持された第3のクラッチ(C−3)のクラッチドラム41をブレーキドラムとすることで、バンド締結部の径方向内側において、ドラムを変速機ケースに支持した構造となるため、他の部材にブレーキ締結時の負荷を及ぼすことがない構成となっている。なお、このブレーキ(B−1)の油圧サーボについては、図示を省略されている。
第1の係止手段の他方を構成するワンウェイクラッチ(F−1)は、そのインナレースを第3のクラッチ(C−3)のドラム41に連結され、アウタレースをブレーキ(B−2)のハブ86と一体化された構成とされ、第1のクラッチ(C−1)の前方、すなわち変速機構の最前部に配置されている。アウタレースを変速機ケース10に係止するブレーキ(B−2)は、ハブ86に係合支持された摩擦材と、変速機ケース10の内周スプラインに係合支持されたセパレータプレートを摩擦部材85とする多板構成のブレーキとされている。ブレーキ(B−2)の油圧サーボ80は、変速機ケース10の前端壁部10aをシリンダとし、それに摺動自在に嵌挿されたピストン82と、変速機ケース10の前端壁部10aに軸方向止めされてピストン82に当接するリターンスプリングとを備えた構成とされている。
第2の係止手段の一方を構成するブレーキ(B−3)は、多板の摩擦材とセパレータプレートを摩擦部材75とする多板ブレーキとされ、セパレータプレートが変速機ケース10内周のスプラインに係止支持され、摩擦材がキャリアC2に固定されたハブ76に係合支持されて、プラネタリギヤセットGのリングギヤのないプラネタリギヤG2側の外周側スペースに径方向に重合させて配置されている。ブレーキ(B−3)の油圧サーボ70は、変速機ケース10の後端壁部10cと円筒ボス部10dをシリンダとし、それに摺動自在に嵌挿されたピストン72と、変速機ケース10の円筒ボス部10dに軸方向止めされてピストン72に当接するリターンスプリングとを備えた構成とされている。ピストン72の変速機ケース10の周壁に沿って延長されて摩擦部材75の後端に至る延長部は、その外周を変速機ケース10周壁のスプラインに嵌合させて回り止めされている。
そして、第2の係止手段の他方を構成するブレーキ(B−3)と並列なワンウェイクラッチ(F−2)は、そのインナレースをキャリアC2の前端部に連結され、アウタレースを変速機ケース10の内周に係合させて、サポート壁10AとプラネタリギヤセットGとの間に配置されている。
このように、第1実施形態の構成では、変速機構にラビニヨ式のプラネタリギヤセットGを用い、その2つの要素S3,S2に2つのクラッチ(C−1,C−3)を介する減速プラネタリギヤG1の減速回転を入力することで、コンパクトかつ良好な6速のギヤ比の変速機構を実現している。そして、減速プラネタリギヤG1のサンギヤS1を変速機ケース10を用いて固定しているため、固定のための専用の支持手段としてのサポートの配設が不要とされている。更に、減速プラネタリギヤG1前方の円筒ボス部10b外周に第1のクラッチC−1の油圧サーボ30を配置し、減速プラネタリギヤG1後方のサポート壁10Aの前側円筒部10f’外周に第3のクラッチC−3の油圧サーボ40を配置する構造としているので、両クラッチの油圧サーボの油圧供給油路を、他の軸を経ることなく、円筒ボス部10bと前側円筒部10f’に直接接続することができ、それにより油を充満させなければならない空間としての油路容積を小さくし、油圧供給に対する応答性をよくしている。また、第3のクラッチ(C−3)の油圧サーボ40へ、サポート壁10Aの円筒部10f’から、他の回転部材を経ることなく直接油圧供給できるため、供給油路の漏れ止めのためのシールリング数を少なくして、シールリングにより生じる摺動抵抗が低減されている。また、第1の係止手段を径方向配設スペースを極めて小さくすることができるバンドブレーキとすることで、共にプラネタリギヤセットGのサンギヤS2に連結されるブレーキ(B−1)と第3のクラッチ(C−3)を径方向に重ねた配置としながら第3のクラッチ(C−3)の外径方向のスペースを確保して、該クラッチの大径化を図っており、それによるトルク伝達容量の確保で、摩擦部材45の構成枚数を減らして、クラッチの軸長を短縮している。
ところで、前記第1実施形態では、ワンウェイクラッチ(F−1)及びブレーキ(B−2)を第1のクラッチ(C−1)の前方、すなわち変速機構の最前部に配置したが、これらの配設位置は適宜変更することができる。図5は、ワンウェイクラッチ(F−1)及びブレーキ(B−2)をサポート壁10Aの前方、すなわち第3のクラッチ(C−3)の後方に配置した第2実施形態の自動変速機の断面構造を模式化して示す。以下、重複を避ける意味で、この形態における前記第1実施形態との相違点のみ説明する。
この第2実施形態では、上記のように、第1実施形態に対してワンウェイクラッチ(F−1)及びブレーキ(B−2)の配置が変更されているため、それに伴って、ブレーキ(B−2)の油圧サーボ80もサポート壁10Aに内包される形態で設けられている。この構成の利点は、ワンウェイクラッチ(F−1)のインナレースを第1のクラッチ(C−1)の外周側を引き回して第1のクラッチ(C−1)のドラム31に連結することなく、第3のクラッチ(C−3)のドラム41の内周部に最短距離で連結することができるため、減速プラネタリギヤG1の出力回転を伝達する第1のクラッチ(C−1)のドラム31の外周側が開放される点にあり、それにより第1のクラッチ(C−1)のドラム31外周部での入力回転の検出が可能となる点にある。したがって、この形態では、入力回転センサSnは、変速機ケース10の外周壁部に設けられている。
特にこの形態の構成では、第3のクラッチ(C−3)のクラッチハブ46を第1のクラッチ(C−1)のクラッチドラム31を介して減速プラネタリギヤG1のキャリアC1に連結することで、第1及び第3のクラッチへ減速プラネタリギヤG1の出力回転を伝達するために両クラッチの外周を通る部材をなくした利点が生かされ、減速プラネタリギヤG1を経て増幅されたトルクを伝達する第1及び第3のクラッチの大径化が可能となり、トルク増大に伴う軸方向寸法の増加を抑えながら、伝達トルクに見合ったトルク伝達容量の確保が容易となり、変速機をコンパクトに構成することができる。また、第1のクラッチのクラッチドラム31を減速プラネタリギヤG1のキャリアC1に連結しているので、常時回転する第1のクラッチのドラムを変速機構の最外周に露出させることができ、それにより変速機制御のために必須の入力回転の検出を、センサSnを変速機ケース10の奥部に埋め込むことなく容易に行うことができるようになるとともに、前端壁部10aをセンサSnを埋め込むために厚肉とする必要がないので、軸長を短縮できる。また、サポート壁10Aの配設により軸長が伸びる分を、第1及び第3のクラッチ(C−1,C−3)の外周を通る部材をなくすことで、両クラッチの大径化によりトルク伝達容量を確保した分だけ両クラッチの軸長を短縮することにより相殺することができるため、変速機の軸長の伸びを最小限に抑えることができる。
そして、更にこの形態では、1→2変速時のクラッチ係合ショック軽減のために配置されたワンウェイクラッチ(F−1)とそれに直列配置の第2のブレーキ(B−2)について、第2のブレーキ(B−2)の油圧サーボ80が、サポート壁10Aを利用して、それに包含させる形態で配置されているので、第2のブレーキ(B−2)の配設に伴う油圧サーボシリンダの配設が不要となっており、それにより部品点数の増加が抑えられている。
次に、図6は、ワンウェイクラッチ(F−1)及びブレーキ(B−2)をサポート壁10Aの後方、すなわち第2のワンウェイクラッチ(F−2)の前方に配置した第3実施形態を模式化した断面で示す。この第3実施形態の場合の変更点は、ワンウェイクラッチ(F−1)の連結部と、ブレーキ(B−2)の油圧サーボの向きの点である。この場合、ワンウェイクラッチ(F−1)のインナレースは、第3のクラッチ(C−3)のドラム31とプラネタリギヤセットGのサンギヤS2とを連結する動力伝達部材11Eの途中に連結され、ブレーキ(B−2)の油圧サーボ80は、その後方に配置された摩擦部材85に向けて後ろ向きにサポート壁10Aに内包されている。これにより、第3のクラッチ(C−3)の油圧サーボ40と径方向壁部10eとの間にワンウェイクラッチ(F−1)、ブレーキ(B−2)やその油圧サーボ80が配置されないので、前側円筒部10f’内の油路を短くすることができる。
次に、図7は、これまでの変形と異なり、ワンウェイクラッチ(F−1)及びブレーキ(B−2)をなくした第4実施形態を示す。こうした形態は、ブレーキ(B−1)の係合制御に関して、特にそれがバンドブレーキである場合の油圧サーボの制御が複雑になる点は否めないが、変速機の軸長の短縮には極めて有効である。
こうしたブレーキ(B−1)の制御性の意味から、ワンウェイクラッチ(F−1)及びブレーキ(B−2)の併設をなくした場合、ブレーキ(B−1)をバンドブレーキより制御の容易な多板ブレーキとするのも有効である。図8は、この趣旨から、第4実施形態に対して、ブレーキ(B−1)を多板構成に変更した第5実施形態を示す。この形態の場合、第1及び第3のクラッチ(C−1,C−3)の摩擦部材35,45と、ブレーキ(B−1)の摩擦部材65が軸方向に並ぶ配置となるため、第1及び第3のクラッチ(C−1,C−3)の摩擦部材35,45は相対的に前方に寄せられ、第1のクラッチ(C−1)の摩擦部材35が、その油圧サーボ30の外周、第3のクラッチ(C−3)の摩擦部材45が、減速プラネタリギヤG1の外周に位置する配置となる。そして、ブレーキ(B−1)の油圧サーボ60は、サポート壁10Aの径方向壁部10eに内包させて、摩擦部材65に向けて前向きに配置される。この場合、摩擦部材65は、そのセパレータプレートを変速機ケース10の周壁の内周に形成されたスプラインに係合支持され、摩擦材を第3のクラッチ(C−3)のドラム41に、それをハブとして支持された配置となる。
次に、図9は第4実施形態に対して、サポート壁10Aの円筒部をなくした第6実施形態を示す。この形態の場合、第3のクラッチ(C−3)の油圧サーボ40への油圧の供給油路LR は、動力伝達部材11D,11E及びブッシュ11F,11Gにより形成される空間11Hを油路とすることで、サポート壁10Aと動力伝達部材11Eとの相対回転部の前後一対のシールリングのみで、漏止め連結は可能である。この構成の利点は、第3のクラッチ(C−3)の油圧サーボ40への油圧供給において、円筒部を介する場合に比して油路接続部の径を小さくすることができるため、油圧供給時の遠心力の影響を小さくすることができ、それにより第3のクラッチの制御性が向上する点にある。
以上の各実施形態では、いずれも第2のクラッチ(C−2)をプラネタリギヤセットGの後方に配置しているが、第2のクラッチ(C−2)は、減速プラネタリギヤG1の直後に隣接されて配置することもできる。図10は、こうした形態を採る第7実施形態をスケルトンで示し、図11は、より具体的な断面構造を模式的に示す。図10のスケルトンに見るように、この形態の場合も、第2のクラッチ(C−2)の位置を除いて各要素の配置は、第1実施形態の場合と同様となるので、対応する要素に同様の略号を付して、この場合の各要素配置の説明に代える。
この形態の場合、図11に示すように、入力軸11の構成が大幅に異なるものとなる。すなわち、これまでの実施形態と異なり、入力軸11は、その全長の大部分がクラッチ(C−2)を経た入力回転を伝達する中間軸となるため、前側部分11Aに対して、中間軸としての後側部分11Bは相対回転可能とされ、後側部分11B前端の前側部分11Aへの嵌合部はベアリングを介して支持されている。そして、減速プラネタリギヤG1の直後に配置された第2のクラッチ(C−2)の油圧サーボ50は、入力軸の前側部分11Aの後端部と、それに固定されたクラッチドラム51とに内包される構成とされ、クラッチハブ56は、入力軸の後側部分11Bの前端に連結されている。
サポート壁10Aは、この場合、円筒部10fが径方向壁部10eに対して軸方向前後に延びる形態とされ、前側円筒部10f’に第3のクラッチ(C−3)の油圧サーボ40とワンウェイクラッチ(F−1)のインナレースが回転自在に支持され、後側円筒部10f”にワンウェイクラッチ(F−2)のインナレースが固定されている。サポート壁10Aの径方向壁部10eには、ブレーキ(B−2)の油圧サーボ80とブレーキ(B−3)の油圧サーボ70が、背中合わせに内包されている。この配置の利点は、非減速回転を伝達する第2のクラッチ(C−2)のトルク伝達容量が相対的に小さくて済むことから、その外径の小さな摩擦部材55と、トルク容量を大径化により確保したい第3のクラッチ(C−3)の摩擦部材45との径方向への重合により、変速機構の軸方向寸法の大幅な短縮が可能となる点にある。
また、この形態の利点は、第2のクラッチ(C−2)のクラッチドラム51を減速プラネタリギヤG1への連結部材と共通化できる点にもあり、これにより変速機構を径方向に横断する動力伝達部材を減らして、変速機構の軸長を短縮できる。
次に、図12は、上記第7実施形態において、ブレーキ(B−3)の油圧サーボ70を第1〜第6実施形態の場合と同様に変速機構の最後部に配置した第8実施形態の構成を示す。
次に、図13に示す例は、第8実施形態におけるワンウェイクラッチ(F−1)とブレーキ(B−2)をなくした場合の第9実施形態の配置を示す。この場合の利点は、同一寸法比で示す図12の第8実施形態との対比で明らかなように、大幅な軸長の短縮が可能となる点にある。
次に、図14は、当初の第1実施形態に対して、第1及び第3のクラッチ(C−1,C−3)と減速プラネタリギヤG1の配置順序はそのままで、ワンウェイクラッチ(F−1)及びブレーキ(B−2)を減速プラネタリギヤG1と第3のクラッチ(C−3)との間に移設した第10実施形態を示す。この場合、第3のクラッチ(C−3)は、その出力側部材を構成するクラッチドラム41に内包された油圧サーボ40のシリンダがサポート壁10Aと反対方向に開口する向きに向けて、プラネタリギヤセットGのサンギヤS2に連結させた配置が採られる。詳しくは、サポート壁10Aは軸方向後ろ向きに延びる円筒部10f”を有する構成とされ、その外周に第3のクラッチ(C−3)のクラッチドラム41に内包された油圧サーボ40が支持された構成とされる。この配置による利害得失は、第1実施形態に対する第2実施形態の関係と同様であるが、第1のブレーキ(B−1)のブレーキドラムを兼ねる第3のクラッチ(C−3)のクラッチドラム41を油圧サーボ40とサンギヤS2とで両持ち支持できるため、ブレーキ締結時のドラムの振れを一層確実に防ぐことができるようになる利点が得られる。
次に、図15は、上記第10実施形態に対して第1のクラッチ(C−1)と減速プラネタリギヤG1の位置関係を逆にし、それに伴って第1のクラッチ(C−1)の向きも逆向きとした第11実施形態を示す。この場合、減速プラネタリギヤG1は、変速機ケース10の前端壁部から延びるボス部10bの外周に、そのサンギヤS1を固定して配置され、代わって第1のクラッチ(C−1)の油圧サーボ30を内包するクラッチドラム31がサポート壁10Aから軸方向前方に延びる前側円筒部10f’の外周に支持される。この配置の前記各実施形態に対する本質的に異なる利点は、変速ケースの前端壁部10aを専ら減速プラネタリギヤG1の支持に用いることになるため、通常オイルポンプボディで構成されることで油路が錯綜する変速機ケースの前端壁部10aに油圧サーボ30用の供給油路を設ける必要がなくなる点にある。また、第1及び第3のクラッチの油圧サーボ30,40への油圧の供給を、共に両クラッチに隣接するサポート壁10Aから行うことができるため、両クラッチの油圧サーボ30,40への油圧の供給路を短くし、しかも油路の長さをほぼ均等化することができるため、油圧供給に対する個々のクラッチの応答性をよくし、かつ制御特性を合わせることができる。
次に、図16は、前記第10実施形態に対して第2のクラッチ(C−2)を減速プラネタリギヤG1の直後に配置した第12実施形態を示す。この場合の利点は、前記第7実施形態の場合と同様に、第2のクラッチ(C−2)のクラッチドラム51を減速プラネタリギヤG1への連結部材と共通化できる点にある。
次に、図17は、前記第12実施形態に対して第1のクラッチ(C−1)の位置を変更した第13実施形態を示す。この場合、第1のクラッチ(C−1)は、サポート壁10A側に移され、その円筒部10f’上に油圧サーボ30が支持される。この配置の利点は、第11実施形態の利点と同様である。
以上の各実施形態は、FR車用の縦置式の形態で本発明を具体化したものであるが、最後に、本発明をフロントエンジン・フロントドライブ(FF)又はリヤエンジン・リヤドライブ(RR)車用の横置式トランスアクスルの形態で具体化した2つの実施形態を例示する。
図18及び図19は、第14実施形態を示す。この形態では、先に図1に示した第1実施形態のギヤトレインのスケルトンと、図18に示す本形態のギヤトレインのスケルトンの比較で明らかなように、実質上同様の構成が採られているが、横置化に伴い、変速機構1Aを第1軸上に配置し、カウンタギヤ機構1Bを第2軸、ディファレンシャ装置1Cを第3軸上に配置した3軸構成が採られている。そして、第1軸上には、リングギヤR2の出力部材として出力軸に代えてカウンタドライブギヤ19Aが設けられている。
カウンタギヤ機構1Bは、カウンタ軸12上にそれに固定してカウンタドリブンギヤ13と、デフドライブピニオンギヤ14を有する構成とされ、カウンタドリブンギヤ13が、入力軸11のほぼ中央部でカウンタドライブギヤ19Aに噛合し、デフドライブピニオンギヤ14が、変速機構の最前部でディファレンシャ装置1Cのデフリングギヤ15に噛合する配置とされている。ディファレンシャ装置1Cは、デフリングギヤ15に固定され、内部に差動ギヤが配設されたデフケース16を備えるものとされ、差動ギヤの両出力軸17が車輪に連結される構成とされている。
図19により具体的な構成を模式化した断面で示すように、この形態では、カウンタドライブギヤ19Aは、第3のクラッチ(C−3)に対してサポート壁10Aの他方側に配置され、サポート壁10Aは、カウンタギヤドライブギヤ19Aを支持する円筒部10f”を有するものとされ、その外周にベアリングを介してカウンタギヤドライブギヤ19Aが回転自在に支持されている。
そして、この形態では、前記各形態に比べて変速機機構の軸長が車両搭載性との関係で著しく制約されることから、前記第4実施形態の構成と同様に第1の係止手段としてのブレーキ(B−1)と並列配置のワンウェイクラッチとブレーキの組み合わせはなくされている。この形態におけるプラネタリギヤセットG、減速プラネタリギヤG1、第1〜第3のクラッチ(C−1〜C−3)並びに第1及び第2の係止手段としてのブレーキ(B−1,B−3)とワンウェイクラッチ(F−2)の配置関係と相互の連結関係は、実質上前記第4実施形態の場合と同様である。
ただし、細部の構成として、第2のクラッチ(C−2)は、その油圧サーボ50への入力軸11を介しない油圧供給を可能とすべく、変速ケース10のボス部10dの外周に配置され、これに伴い第2のクラッチ(C−2)の摩擦部材55は前方に寄せて、プラネタリギヤセットGの外周に配置されている。また、ブレーキ(B−3)の油圧サーボ70は、第2のクラッチ(C−2)の油圧サーボ50の外周に、それに径方向に重ねた形態で、変速機ケース10の後端壁部10cに内蔵させた構成とされている。
次に、図20は、上記第14実施形態に対して変速機構全体の前後を逆にした第15実施形態を模式化して示す。こうした配置と採る場合、通常オイルポンプボディで構成される変速機ケース10の前端壁部10aに油圧サーボ70を内蔵させることは油路配置の関係で困難なことから、ブレーキ(B−3)の油圧サーボ70は、変速機ケース10の周壁に別付けとされ、プラネタリギヤセットGの外周に配置されている。これに伴い、プラネタリギヤセットGの外周から前方に寄せられた第2のクラッチ(C−2)の摩擦部材55は、その径方向外方のスペースの余裕の利用して油圧サーボ50の大径化と、摩擦部材55の大径化により、摩擦部材55の構成枚数を削減して軸方向寸法を小さくし、変速機軸長の増大を回避している。
以上、本発明を想定される多数の実施形態を挙げて詳説したが、これら各実施形態はいずれも例示のためのものであり、本発明は、特許請求の範囲の個々の請求項に記載の事項の範囲内で種々に具体的な構成を変更して実施することができるものである。