本発明は、円盤状基板の第一面上に記録層が形成された、いわゆる単板構造の光ディスクに関する。本発明は、詳しくは、光ディスクと温度差のある光ディスク駆動装置内に光ディスクを装着した直後に発生する光ディスクの瞬間的な反りを抑制する光ディスク用基板、光ディスク及び光ディスク駆動装置に関する。
近年、情報記録の分野においては、光学的記録方式に関する研究が行われている。この光学的記録方式は、非接触で記録や再生が行えること、磁気記録方式に比べて一桁以上も高い記録密度が達成できること、再生専用型や追記型や書換可能型のそれぞれのメモリー形態に対応できること等の利点を有している。そして、光学的記録方式は、大容量のファイルを安価に実現する方式として、産業用や民生用における幅広い用途が検討されている。
再生専用型の記録媒体としては、デジタルオーディオディスクや光学式ビデオディスク等の光ディスクが普及している。書換可能型の記録媒体としては、光磁気ディスク等の光ディスクが普及している。
上記光ディスクは、いずれも、ポリカーボネート等の樹脂材料からなる透明な円盤状の光ディスク用基板上に、各種機能膜からなる記録層が形成された構成となっている。
さらに、いずれの光ディスクにおいても、記録層への水分の侵入による腐食防止や、多重干渉による信号増大を目的に、記録層の上層及び/又は下地層として、SiN,SiO等よりなる誘電体膜が形成されることが多い。
また、いずれの光ディスクにおいても、反射膜が形成されることが多い。この反射膜としては、高反射率であって熱的に良導体であるアルミニウムが使用されることが多い。
なお、再生専用型の光ディスクにおいては、光ディスク用基板の表面に情報信号を表す凹凸部を形成し、その上に機能膜として反射膜を設けるようにして上記凹凸部と反射膜とによって記録層を形成している。
これらの光ディスクは、一枚で使用されて第一面のみに記録層を有する単板タイプのものと、第一面に記録層を有する光ディスクを二枚貼り合わせて表面及び裏面の両方から記録再生することのできる複板タイプのものとがある。
ところで、上記のような光ディスクにおいては、その接線方向(周方向)及び径方向に反りが生じることがある。
光ディスクでの反りは、以下のような理由によるものと考えられている。すなわち、光ディスク用基板として使用されるポリカーボネート等の樹脂材料は、周囲環境の温度が変動するときに、体積が膨張あるいは収縮するという性質を有している。一方、記録層としての金属膜や誘電体膜等も、周囲環境の温度変動によって体積が膨張あるいは収縮するが、その膨張率は樹脂基板のそれと比較して1〜2桁も小さい値である。従って、周囲環境の温度が上昇した場合、樹脂基板と記録層との間で膨張あるいは収縮の度合いが異なっているために、光ディスクに反りが発生する。なお、接線方向(周方向)の反りは径方向の反りと比較して非常に小さい。そのために、一般に、光ディスクの反りは、径方向の反りのみを考慮している。
このように光ディスクに反りが生じると、情報の記録あるいは再生時において光ディスクに対して対物レンズから照射されるレーザ光が、基板に対して垂直方向に入射しなくなる。その結果、反射光は、対物レンズ等の光学検出系に正確に戻らなくなり、サーボ制御や信号の記録あるいは再生が正しく行われなくなる。
なお、光ディスクの反り量は、水平方向の基準面に対する光ディスク用基板の記録層形成面の反り角θにより表される。
基板の記録層形成面と、当該記録層形成面の反対側に位置する第二面とは平行であることから、上記記録層形成面の反対側に位置する第二面の反り角は記録層形成面の反り角と同じである。
そこで、上記のような周囲環境の温度変化による光ディスクの反りの発生を抑えるために、基板の記録層形成面の反対側に位置する第二面上に、熱膨張係数の小さい無機材料からなる透明薄膜、例えばリチウム酸化物や酸化アルミニウムや二酸化珪素や酸化チタン等を形成し、記録層としての金属膜や誘電体膜等の無機材料膜と上記無機材料よりなる透明薄膜とで光ディスク用基板の両側を挟み込むという手法も提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
また、主面の中心部近傍に、基板材料よりも熱膨張係数の小さい材料からなる円盤状の反り防止板を配置するという方法も提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
特開平4−195745号公報
特開平8−321079号公報
しかしながら、上述した特許文献1及び2は、ある温度環境下に長期間保持された後の光ディスクの反り、いわば光ディスクの信頼性を問題にしている。このような長期間保持後の反りのほかに、ある温度環境から別の温度環境に移された直後において、瞬間的な反りが発生することを本出願人は見出した。
図1に示すような、光ディスク用基板1の第一面側に記録層2及び保護層3を形成するとともに、記録層2の反対側の第二面に反り防止膜4を形成した光ディスク10が準備される。光ディスク10を25℃の恒温槽に静置して光ディスク10の全体の温度を25℃にしたあと、長時間の駆動によって60℃に暖まった光ディスク駆動装置に光ディスク10が素早く装着される。光ディスク駆動装置に装着された光ディスク10は、図2に示すように、クランパ42とターンテーブル44との間で保持される。そして、光ディスク10が光ディスク駆動装置に装着された瞬間から、光ディスク10が反る様子を経時的に測定した。
図3は、従来技術に係る光ディスク10の反り変化の測定結果を示している。25℃における光ディスク10の反り状態を0すなわち基準としている。光ディスク10が記録層2の側に凸状に反った場合にはマイナスの値で表記している。光ディスク10が反り防止膜4の側に凸状に反った場合にはプラスの値で表記している。60℃に保持された光ディスク駆動装置に光ディスク10を装着した瞬間、光ディスク10が急激に反り防止膜4の側に約0.3度の角度で凸状に反り返る。その後、光ディスク10が緩やかに記録層2の側に(すなわち反対側に)約0.3度の角度で凸状に反っている。
ところで、光ディスク10を光ディスク駆動装置に装着してから光ディスク10のスキャンを開始することのできるまでの立ち上がり時間を短縮することが要望されている。この立ち上がり時間を短縮すればするほど、光ディスク10の瞬間的な反りの影響が顕著に出てしまう。その結果、記録あるいは再生を正確に行うことが困難になるという問題がある。
したがって、本発明の解決すべき技術的課題は、ある温度環境に保持された光ディスクを別の温度環境にある光ディスク駆動装置に装着したときに、光ディスクが瞬間的に反ることを抑制する光ディスク用基板、光ディスク及び光ディスク駆動装置を提供することである。
課題を解決するための手段および作用・効果
上記技術的課題を解決するために、本発明によれば、以下の光ディスク用基板、光ディスク及び光ディスク駆動装置が提供される。
すなわち、本発明に係る光ディスク用基板は、光ディスク駆動装置内に設けられた保持手段及びターンテーブルによって両面から保持される光ディスク用基板であって、保持手段及びターンテーブルに当接する当接領域が、非当接領域よりも低熱伝導であり、前記当接領域の両面が、凹凸部を備えることを特徴としている。
上記光ディスク用基板において、光ディスク駆動装置の保持手段及びターンテーブルに当接する当接領域が、非当接領域よりも低熱伝導であり、当接領域の両面が、凹凸部を備えるので、光ディスク用基板が他の部材に接触しても、他の部材との間で熱の移動が起こりにくくなっている。光ディスク用基板に記録膜が形成された光ディスクが光ディスク駆動装置内に装着される場合、光ディスクは光ディスク駆動装置の保持手段によって保持される。光ディスク駆動装置が暖まっているとき、装置内部の空気や構成部材は比較的高温(例えばおおよそ60℃)になっている。空気はその熱伝導率が低いために、空気を介して光ディスクに熱が伝わるまでには少し時間がかかる。これに対して、金属や樹脂等が成形された構成部材は、一般に熱伝導率が高いために、熱を瞬間的に伝える。構成部材の一つである保持部材及びターンテーブルを介して光ディスクが両面から保持されると、保持部材の熱が光ディスクに瞬間的に伝わる。保持部材及びターンテーブルに接触した領域は瞬間的に高温になり、保持部材及びターンテーブルに接触することなく空気に接触している領域は緩やかに低温から高温に変化する。光ディスク駆動装置に装着された光ディスクではこのような温度の高低ができているために、温度分布に起因した反りが発生する。しかしながら、本願発明のように、光ディスク用基板の当接領域を低熱伝導な要素とし、当接領域の両面が凹凸部を備えることによって、保持部材からの急激な伝熱を防止することができる。その結果、温度環境の変化に伴って光ディスクが瞬間的に反ることを抑制することができる。
前記凹凸部は、粗面によって構成することができる。粗面化された当接領域の表面は、微視的な凹凸が形成されている。この凸部分と凹部分との隙間には、低熱伝導率の空気の層が存在している。それとともに、保持部材及びターンテーブルが当接領域に対して面状に接触するのではなく点状に接触する。したがって、保持部材及びターンテーブルからの熱が当接領域に伝わりにくくなっている。
凹凸部は、多数の微小な突起や溝によって形成することができる。
上記粗面化は、当接領域の表面に薄い空気の一層が形成されていることとほとんど等価な構成であると考えられるが、凹凸部を、多数の微小な気泡を含む発泡体によって構成することもできる。気泡中には低熱伝導率の空気が存在していることから、多数の微小な気泡を含む発泡体は、複層の空気層が形成されていると考えられる。したがって、保持部材及びターンテーブルからの熱が当接領域に伝わりにくくなっている。
凹凸部を、低熱伝導材料からなる微粒子を多数含む層によって構成することができる。例えば、セラミックビーズ等の低熱伝導の微粒子を樹脂中に分散させた塗料を当接領域に塗布した構成とすることができる。
また、記録層が円盤状光ディスク用基板の第一面上に形成され、光ディスク駆動装置内に設けられた保持手段及びターンテーブルによって両面から保持される光ディスクであって、該光ディスクは、第一面の中心近傍に位置して、記録層が形成されていない第一の非記録領域と、該第一の非記録領域の外周に位置して、記録層が形成されている第一の記録領域と、を備え、前記第一の非記録領域の両面に凹凸部を備え、前記第一の非記録領域は、第一の記録領域よりも低熱伝導である光ディスクが提供される。
上述した光ディスク用基板では、当接領域が低熱伝導であるようになっていたが、基板の当接領域が光ディスクの非記録領域に実質的に対応する。したがって、光ディスク用基板と同様に、第一の非記録領域の両面に凹凸部を備え、前記第一の非記録領域は、第一の記録領域よりも低熱伝導であるので、保持部材及びターンテーブルからの急激な伝熱が防止されて、その結果、温度環境の変化に伴って光ディスクが瞬間的に反ることを抑制することができる。
光ディスク用基板の当接領域及び光ディスクの非記録領域を低熱伝導な要素とする一方、光ディスク駆動装置のクランパ及びターンテーブルも低熱伝導な要素とすることは有効である。すなわち、光ディスクを再生あるいは記録する光ディスク駆動装置であって、前記光ディスク装置はクランパ及びターンテーブルを備え、光ディスクが当接する前記クランパ及びターンテーブルの面に、低熱伝導部材が配置されていて、前記低熱伝導部材の熱伝導率は、光ディスク用基板の熱伝導率より低い光ディスク駆動装置が提供される。
以下に、本発明の一実施形態に係る光ディスク用基板及び光ディスクについて、図1、4、5及び14を参照しながら詳細に説明する。
図4は、本発明の一実施形態に係る光ディスク用基板の概略図である。図5は、図4に示した光ディスク用基板の一部破断断面図である。図1は、光ディスク用基板上に各種薄膜が形成された光ディスクの一般的な構成を示す断面図である。図14は、光ディスクが光ディスク駆動装置の保持手段であるクランパで把持されている様子を模式的に説明する図である。
図4に示すように、ポリカーボネート等の樹脂材料からなる光ディスク用基板1は、いわゆるレコード盤のような円盤形状をしている。光ディスク用基板1の中心には、貫通したセンターホール6が設けられている。
センターホール6の外周領域には、後述する低熱伝導要素12が配設されている。この低熱伝導要素12が設けられた低熱伝導領域50には、後述する記録層2等が形成されることはない。したがって、光ディスク用基板1が光ディスク10として構成されたときには、低熱伝導要素12の設けられた低熱伝導領域50は、非記録領域16の全部又は一部分を構成する。低熱伝導要素12の設けられた低熱伝導領域50のさらなる外周には、低熱伝導要素12よりも熱伝導率が高い光ディスク用基板1の基体領域14が設けられている。この基体領域14は、平滑面であり、後述する記録層2等が形成されることになっている。したがって、光ディスク用基板1が光ディスク10として構成されたときには、基体領域14は記録領域18と実質的に等価であり、クランパ42で把持されることはない。低熱伝導要素12の設けられた低熱伝導領域50の一部又は全部は、光ディスク駆動装置に装着されて光ディスク10として使用されるときには、クランパ42で把持される当接領域40として使用される。
光ディスク用基板1の一般的な形状は、厚みが1.1mmであり、直径が120mmであり、センターホール6の直径が15mmであり、低熱伝導領域50の外径すなわち基体領域14の内径が30mmである。
図1に示すように、光ディスク用基板1の基体領域14すなわち記録領域18には、記録層2等の薄膜が公知の薄膜形成プロセスによって形成される。光ディスク用基板1の第一面7の基体領域14には、記録層2及び保護層3が形成される。そして、第一面7の反対側に位置する第二面8の基体領域14には、反り防止膜4が形成されて、光ディスク10が完成される。
光ディスク10は、光ディスク駆動装置のトレイに装着される。トレイ内では、光ディスク10が、様々な形態によって保持されながら、回転軸5を中心に回転駆動される。例えば、図14に示すように、光ディスク10は、駆動モーターによって回転駆動されるターンテーブル44と、光ディスク10をターンテーブル44の側に押圧する平板状のクランパ(保持手段)42との間で挟持された状態で回転駆動される。このとき、円環状の低熱伝導領域50(すなわち非記録領域16)において円板状のクランパ42が光ディスク10に当接した状態で光ディスク10が挟持されている。あるいは、回転シャフト46から径方向に弾性的に出没自在のボール状突出体(保持手段)と、ターンテーブル44との間で光ディスク10が把持される構成であってよい。このとき、センターホール6の側周面と第二面の低熱伝導領域50とによって画定する縁部がボール状突出体に弾性的に係着した状態で、光ディスク10が把持されている。なお、低熱伝導領域50がクランパ42によって保持されることによって、低熱伝導領域50が当接領域40となる。
室温(例えば25℃)であった光ディスク駆動装置が長時間に作動すると、モーター等の駆動部材から発生した熱が装置内部に貯留するために、光ディスク駆動装置の内部は、おおよそ60℃の一定温度に均衡する。測定用の光ディスク10を25℃の恒温槽内に24時間保存して、光ディスク10を25℃の一定温度にする。25℃の恒温槽に保持された光ディスク10の反り量が測定される。また、25℃に保持された光ディスク10を直ぐに60℃に保たれた光ディスク駆動装置に移し替えて、装着直後からの光ディスク10の反り量が時系列的に測定される。
なお、得られた測定結果は、25℃における光ディスク10の反り状態を0すなわち基準としている。光ディスク10が記録層2の側に凸状に反った場合にはマイナスの値で表記している。光ディスク10が反り防止膜4の側に凸状に反った場合にはプラスの値で表記している。
以下、光ディスク用基板1の低熱伝導要素12に関する様々な具体的な実施例について詳細に説明する。
図6に示すような、断面が矩形形状をした溝21を同心円状に形成した低熱伝導要素12を有する低熱伝導領域50を非記録領域16に設けた。センターホール6の外周端部(すなわち非記録領域16の内周端部)から非記録領域16の外周端部までの径方向の15mmの領域において、幅0.8mm、深さ0.1mmの5本の溝21を、1.5mmピッチで形成した。このような溝21は、光ディスク用基板1の第一面7及び第二面8の非記録領域16にそれぞれ形成した。このような複数の微小な溝21が形成された低熱伝導領域50は、粗面となっている。そして、これらの複数の微小な溝21が粗面化手段として用いられている。この場合、非記録領域16のおおよそ半分の領域に、低熱伝導領域50が形成されている。なお、光ディスク用基板1を切削工具で切削加工したり、光ディスク用基板1を研削工具で研削加工したり、溝21に対応する凸条があらかじめ形成された金型でプレス成形あるいは射出成形したりすることによって、溝21を形成することができる。
この光ディスク用基板1から図1に示したような構成の光ディスク10を作成した。すなわち、光ディスク用基板1の第一面7の基体領域14には、例えば、銀合金と亜鉛合金等が積層された記録層2(200nm厚)、例えばアクリレート樹脂からなる保護層3(100ミクロン厚)を形成した。そして、第一面7の反対側に位置する第二面8の基体領域14には、例えば、窒化シリカ等からなる反り防止膜4(20nm厚)を形成して、光ディスク10を完成した。
このようにして作成された光ディスク10に関して、上述した方法に従って、25℃の恒温槽での反り具合と、おおよそ60℃の光ディスク駆動装置内での反り具合とをそれぞれ経時的に測定し、その結果を図15に示した。ここで、横軸は、25℃に保持された光ディスク10を60℃の光ディスク駆動装置のトレイに装着してからの経過時間(分)である。縦軸は、25℃の恒温槽での反り具合を基準としたときの、60℃の光ディスク駆動装置内での反り具合の相対的な反り変化量(度)である。なお、低熱伝導領域50がクランパ42によって保持されることによって、低熱伝導領域50が当接領域40となる。
図15から分かるように、光ディスク駆動装置への装着した直後の光ディスク10は防止膜4の側に瞬間的に凸状に反り、その反り量は、約0.05度である。この反り量は、従来技術に係る図3の結果(約0.3度)と比較して大幅に小さくなっている。そのあと、光ディスク10が記録層2の側に凸状に徐々に反り、その反り量は約0.3度である。この反り具合は、従来技術に係る図3の結果とほぼ同じような挙動をしているが、光ディスク10の瞬間的な反りは大幅に低減されている。
このことは、非記録領域16におけるクランパ42との当接領域40を、複数の溝21で粗面化することによって、クランパ42が当接領域40に接触する接触面積が少なくなり、クランパ42を介して光ディスク駆動装置からの熱がクランパ42との当接領域40に伝導することが起こりにくくなったからだと考えられる。
なお、溝21の大きさや数や深さやピッチなどは、上述したもの以外であってもよい。また、溝21は、規則的にあるいは不規則に配置されていてもよい。その際、クランパ42との接触面積ができるだけ少なくなるように構成することが有効である。溝21を、非記録領域16の全面に、あるいは、少なくともクランパ42との当接領域40に形成することができる。
次に、光ディスク用基板1に設けられる低熱伝導要素12の実施例2に関して、図7を参照しながら説明する。なお、低熱伝導要素12の形状を除いて、上記実施例1と大略同じ構成であるので、両者の相違点を中心に説明する。
実施例2において、粗面化手段としての溝22は、図7に示すように、断面がV字形状をしている。断面がV字形状をした溝22を同心円状に形成した低熱伝導要素12を有する低熱伝導領域50を非記録領域16に設けた。センターホール6の外周端部(すなわち非記録領域16の内周端部)から非記録領域16の外周端部までの径方向の15mmの領域において、幅0.8mm、深さ0.1mmの5本のV字状の溝22を、1.5mmピッチで形成した。このような溝22は、光ディスク用基板1の第一面7及び第二面8の非記録領域16にそれぞれ形成した。このような複数の微小な溝22が形成された低熱伝導領域50は、粗面となっている。そして、これらの複数の微小な溝22が粗面化手段として用いられている。この場合、非記録領域16のおおよそ半分の領域に、低熱伝導領域50が形成されている。なお、光ディスク用基板1を切削工具で切削加工したり、光ディスク用基板1を研削工具で研削加工したり、溝22に対応する凸条があらかじめ形成された金型でプレス成形あるいは射出成形したりすることによって、溝22を形成することができる。
この光ディスク用基板1から図1に示したような構成の光ディスク10を作成するとともに、上述した方法に従って、25℃の恒温槽での反り具合と、おおよそ60℃の光ディスク駆動装置内での反り具合とをそれぞれ経時的に測定した。
実施例2の光ディスク10は、図15に示した測定結果と同様に、光ディスク駆動装置への装着した直後に光ディスク10は防止膜4の側に瞬間的に凸状に約0.05度反り、そのあと、光ディスク10が記録層2の側に凸状に徐々に約0.3度に反った。したがって、従来よりも、光ディスク10の瞬間的な反りが大幅に低減されていた。
なお、溝22の大きさや数や深さやピッチなどは、上述したもの以外であってもよい。また、溝22は、規則的にあるいは不規則に配置されていてもよい。その際、クランパ42との接触面積ができるだけ少なくなるように構成することが有効である。溝22を、非記録領域16の全面に、あるいは、少なくともクランパ42との当接領域40に形成することができる。
次に、光ディスク用基板1に設けられる低熱伝導要素12の実施例3に関して、図8を参照しながら説明する。なお、低熱伝導要素12の形状を除いて、上記実施例1と大略同じ構成であるので、両者の相違点を中心に説明する。
実施例3において、粗面化手段としての突起23は、図8に示すように、記録層等が形成される基体領域14の平滑な基準面から突出している。突起23を同心円状に形成した低熱伝導要素12を有する低熱伝導領域50を非記録領域16に設けた。センターホール6の外周端部(すなわち非記録領域16の内周端部)から非記録領域16の外周端部までの径方向の15mmの領域において、幅0.8mm、深さ0.1mmの5本の突起23を、1.5mmピッチで形成した。このような突起23は、光ディスク用基板1の第一面7及び第二面8の非記録領域16にそれぞれ形成した。このような複数の突起23が形成された低熱伝導領域50は、粗面となっている。そして、これらの複数の微小な突起23が粗面化手段として用いられている。この場合、非記録領域16のおおよそ半分の領域に、低熱伝導領域50が形成されている。なお、光ディスク用基板1の低熱伝導領域50に対応する領域の厚さを予め厚くしてしておいて、その対応領域を切削工具で切削加工したり、研削工具で研削加工したり、突起23に対応する溝部があらかじめ形成された金型でプレス成形あるいは射出成形したりすることによって、突起23を形成することができる。
この光ディスク用基板1から図1に示したような構成の光ディスク10を作成するとともに、上述した方法に従って、25℃の恒温槽での反り具合と、おおよそ60℃の光ディスク駆動装置内での反り具合とをそれぞれ経時的に測定した。
実施例3の光ディスク10は、図15に示した測定結果と同様に、光ディスク駆動装置への装着した直後に光ディスク10は防止膜4の側に瞬間的に凸状に約0.05度反り、そのあと、光ディスク10が記録層2の側に凸状に徐々に約0.3度に反った。したがって、従来よりも、光ディスク10の瞬間的な反りが大幅に低減されていた。
なお、突起23の大きさや数や深さやピッチなどは、上述したもの以外であってもよい。また、突起23は、規則的にあるいは不規則に配置されていてもよい。その際、クランパ42との接触面積ができるだけ少なくなるように構成することが有効である。突起23を、非記録領域16の全面に、あるいは、少なくともクランパ42との当接領域40に形成することができる。
次に、光ディスク用基板1に設けられる低熱伝導要素12の実施例4に関して、図9を参照しながら説明する。なお、低熱伝導要素12の形状を除いて、上記実施例1と大略同じ構成であるので、両者の相違点を中心に説明する。
実施例4では、表面を粗面にして微視的な凹凸がランダムに形成された低熱伝導要素12としての粗面24を、非記録領域16の表面に設けた。粗面24の設けられた領域は、低熱伝導領域50を構成する。粗面化することによって、クランパ42が非記録領域16の表面に接触する実質的な接触面積が減少するが、平坦面の場合での接触面積の半分以下となるように粗面24の面粗さを調整した。センターホール6の外周端部(すなわち非記録領域16の内周端部)から非記録領域16の外周端部までの径方向の15mmの領域において、低熱伝導領域50としての粗面24を形成した。また、粗面24は、光ディスク用基板1の第一面7及び第二面8にそれぞれ形成した。なお、光ディスク用基板1をサンドペーパーやヤスリでこすったり、粗面24に対応する粗面があらかじめ形成された金型でプレス成形あるいは射出成形したりすることによって、粗面24を形成することができる。
この光ディスク用基板1から図1に示したような構成の光ディスク10を作成するとともに、上述した方法に従って、25℃の恒温槽での反り具合と、おおよそ60℃の光ディスク駆動装置内での反り具合とをそれぞれ経時的に測定した。
実施例4の光ディスク10は、図15に示した測定結果と同様に、大略同じ挙動で反りが起こったが、実施例1の結果よりもわずかに瞬間的な反り量が大きかった。しかしながら、従来の反り量よりも、大幅に低減されていた。
なお、クランパ42との実質的な接触面積は、この場合に限定されるものではない。クランパ42との実質的な接触面積が小さくなるように調整することによって、低熱伝導効果を高めることができる。
次に、光ディスク用基板1に設けられる低熱伝導要素12の実施例5に関して、図10を参照しながら説明する。なお、低熱伝導要素12の形態を除いて、上記実施例1と大略同じ構成であるので、両者の相違点を中心に説明する。
実施例5において、低熱伝導要素12としての塗膜25が形成された低熱伝導領域50は、図10に示すように、光ディスク用基板1の非記録領域16に設けた。センターホール6の外周端部(すなわち非記録領域16の内周端部)から非記録領域16の外周端部までの径方向の15mmの領域において、低熱伝導領域50を形成した。低熱伝導領域50に形成された塗膜25は、粒径10ミクロンのセラミックビーズ27をアクリレート樹脂26に分散させたものである。10重量部のセラミックビーズ27がアクリレート樹脂26に対して添加されている。塗膜25の膜厚はピーク値が30ミクロン程度になるように調整されている。セラミックビーズ27は、それ自身が低熱伝導材料であることに加えて、中空部を有するので、熱伝導率が低くなっている。このような塗膜25は、光ディスク用基板1の第一面7及び第二面8の非記録領域16の当接領域40にそれぞれ形成した。このような塗膜25が形成された低熱伝導領域50は、低熱伝導である。
この光ディスク用基板1から図1に示したような構成の光ディスク10を作成するとともに、上述した方法に従って、25℃の恒温槽での反り具合と、おおよそ60℃の光ディスク駆動装置内での反り具合とをそれぞれ経時的に測定した。
実施例5の光ディスク10は、図15に示した測定結果と同様に、大略同じ挙動で反りが起こったが、実施例1の結果よりもわずかに瞬間的な反り量が大きかった。しかしながら、実施例5の反り量は、従来の反り量よりも大幅に低減されていた。
なお、クランパ42との接触面積が少なくなるように塗料の調整をすることは、反り低減に更に効果的である。また、光ディスク10を製造した後に、塗膜25を非記録領域16の当接領域40に形成するという方法でも、同様の効果を得ることができた。
次に、光ディスク用基板1に設けられる低熱伝導要素12の実施例6に関して、図11を参照しながら説明する。なお、低熱伝導要素12の形態を除いて、上記実施例1と大略同じ構成であるので、両者の相違点を中心に説明する。
実施例6において、低熱伝導要素12としての低熱伝導シート28を、図11に示すように、光ディスク用基板1の非記録領域16に配接した。センターホール6の外周端部(すなわち非記録領域16の内周端部)から非記録領域16の外周端部までの径方向の15mmの領域にシート部材28を貼り付けて、低熱伝導領域50を形成した。シート部材28として、シート状の紙を使用した。ポリカーボネートは0.2W/m・Kであり、銀は430W/m・Kであることと比較して、紙の熱伝導率は常温で0.06W/m・Kである。したがって紙は低熱伝導な素材である。用いた紙の厚さは、接着剤込みで0.1mmである。このような紙28は、光ディスク用基板1の第一面7及び第二面8の非記録領域16の当接領域40にそれぞれ貼り付けられた。このような紙28が貼り付けられた低熱伝導領域50は、低熱伝導である。
この光ディスク用基板1から図1に示したような構成の光ディスク10を作成するとともに、上述した方法に従って、25℃の恒温槽での反り具合と、おおよそ60℃の光ディスク駆動装置内での反り具合とをそれぞれ経時的に測定した。
実施例6の光ディスク10は、図15に示した測定結果と同様に、大略同じ挙動で反りが起こり、実施例1の結果とほとんど同じ大きさの瞬間的な反り量であった。したがって、実施例6の反り量は、従来の反り量よりも大幅に低減されていた。
なお、ここで用いられる低熱伝導材料は、基板材料(ここではポリカーボネート)よりも熱伝導率が低いものである。例えば、天然ゴム、シリコンゴム、ポリウレタンゴム、塩化ビニル樹脂、シリコン樹脂、フェノール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂あるいはグラスウール等が使用可能である。
次に、光ディスク用基板1に設けられる低熱伝導要素12の実施例7に関して、図12を参照しながら説明する。なお、低熱伝導要素12の形態を除いて、上記実施例1と大略同じ構成であるので、両者の相違点を中心に説明する。
実施例7において、低熱伝導要素12としての発泡成形部29を、図12に示すように、光ディスク用基板1の非記録領域16に配接した。センターホール6の外周端部(すなわち非記録領域16の内周端部)から非記録領域16の外周端部までの径方向の15mmの領域の表層部分に発泡成形部29を設けて、低熱伝導領域50を形成した。発泡成形部29は、光ディスク基板1を製造する際に、該当場所を発泡成形することによって作成した。発泡成形部29は主として空気で構成されている。空気の熱伝導率は、常温で約0.026W/m・Kであり、非常に低い。したがって、内部に空気を含む発泡成形部29は、低熱伝導である。このような発泡成形部29は、光ディスク用基板1の第一面7及び第二面8の非記録領域16の当接領域40にそれぞれ形成された。
この光ディスク用基板1から図1に示したような構成の光ディスク10を作成するとともに、上述した方法に従って、25℃の恒温槽での反り具合と、おおよそ60℃の光ディスク駆動装置内での反り具合とをそれぞれ経時的に測定した。
実施例7の光ディスク10は、図15に示した測定結果と同様に、大略同じ挙動で反りが起こり、実施例1の結果とほとんど同じ大きさの瞬間的な反り量であった。したがって、実施例7の反り量は、従来の反り量よりも大幅に低減されていた。
なお、上記発泡成形部29に含まれる気体は、通常、空気であるが、アルゴン等の不活性ガスや窒素ガス等も使用可能である。
次に、光ディスク用基板1に設けられる低熱伝導要素12の実施例8に関して、図12を参照しながら説明する。なお、低熱伝導要素12の形態を除いて、上記実施例7と大略同じ構成であるので、両者の相違点を中心に説明する。
実施例8において、低熱伝導要素12としての発泡成形部29を、図13に示すように、光ディスク用基板1の非記録領域16に配接した。センターホール6の外周端部(すなわち非記録領域16の内周端部)から非記録領域16の外周端部までの径方向の15mmの領域の厚み方向に発泡成形部29を設けて、低熱伝導領域50を形成した。発泡成形部29は、光ディスク基板1を製造する際に、該当場所を発泡成形することによって作成した。発泡成形部は主として空気で構成されている。発泡成形部29は、光ディスク用基板1の第一面7及び第二面8の非記録領域16の当接領域40にそれぞれ形成された。
この光ディスク用基板1から図1に示したような構成の光ディスク10を作成するとともに、上述した方法に従って、25℃の恒温槽での反り具合と、おおよそ60℃の光ディスク駆動装置内での反り具合とをそれぞれ経時的に測定した。
実施例8の光ディスク10は、図15に示した測定結果と同様に、大略同じ挙動で反りが起こり、実施例1の結果とほとんど同じ大きさの瞬間的な反り量であった。したがって、実施例8の反り量は、従来の反り量よりも大幅に低減されていた。
なお、上記発泡成形部29に含まれる気体は、空気であるが、アルゴン等の不活性ガスや窒素ガス等も使用可能である。
次に、光ディスク駆動装置のクランパ42及び/又はターンテーブル44に低熱伝導要素12が設けられる実施例9に関して説明する。
上述した実施例1乃至8は、いずれも、低熱伝導要素12を光ディスク10の基板1に配設したものである。実施例9においては、上述した低熱伝導要素12をクランパ42及び/又はターンテーブル44に設けた。すなわち、溝や突起や粗面等の粗面化手段又は塗膜や低熱伝導シートや発泡成形部等の低熱伝導手段を、クランパ42が基板1に対して当接するクランパ当接面及び/又はターンテーブル44が基板1に対して当接するテーブル当接面にそれぞれ設けた。したがって、クランパ42の熱伝導率は、光ディスク用基板1の熱伝導率より低くなっている。
図1に示したような通常構成の光ディスク10を、低熱伝導要素12を当接面に配設した光ディスク駆動装置に装着するとともに、上述した方法に従って、25℃の恒温槽での反り具合と、おおよそ60℃の光ディスク駆動装置内での反り具合とをそれぞれ経時的に測定した。
実施例9の光ディスク10は、図15に示した測定結果と同様に、大略同じ挙動で反りが起こり、実施例1の結果とほとんど同じ大きさの瞬間的な反り量であった。したがって、実施例9の反り量は、従来の反り量よりも大幅に低減されていた。
次に、低熱伝導要素12が、光ディスク駆動装置のクランパ42及び/又はターンテーブル44に設けられるとともに、光ディスク用基板1に設けられた実施例10に関して説明する。
実施例10は、上述した実施例1乃至9の全てを含む構成である。すなわち、光ディスク10の基板1と、光ディスク駆動装置のクランパ42及び/又はターンテーブル44とに対して、両者の当接部分に低熱伝導要素12をそれぞれ配設した。低熱伝導要素12としては、上述したような、溝や突起や粗面等の粗面化手段又は塗膜や低熱伝導シートや発泡成形部等の低熱伝導手段の中から適宜選択したものを使用した。
低熱伝導要素12を当接面に配設したクランパ42及び/又はターンテーブル44を介して、低熱伝導要素12を配設した光ディスク10を光ディスク駆動装置に装着するとともに、上述した方法に従って、25℃の恒温槽での反り具合と、おおよそ60℃の光ディスク駆動装置内での反り具合とをそれぞれ経時的に測定した。
実施例10の光ディスク10は、図15に示した測定結果と同様に、大略同じ挙動で反りが起こり、実施例1の結果とほとんど同じ大きさの瞬間的な反り量であった。したがって、実施例9の反り量は、従来の反り量よりも大幅に低減されていた。
また、上述した光ディスク駆動装置は、クランパ42とターンテーブル44との間で光ディスク10を挟持する挟持タイプのものである。このタイプ以外にも、例えば、回転シャフトから径方向に弾性的に出没自在のボール状突出体(保持手段)と、ターンテーブルとの間で光ディスクを係着する係着タイプのものもある。この場合、センターホールの側周面と第二面の低熱伝導領域とによって画定する縁部がボール状突出体に弾性的に係着されている。したがって、光ディスク用基板1のセンターホール6の側周面にも、上述したような、溝や突起や粗面等の粗面化手段又は塗膜や低熱伝導シートや発泡成形部等の低熱伝導手段の中から適宜選択した低熱伝導要素12を設けることができる。
光ディスクの一般的な構成を示す断面図である。
従来技術に係る光ディスクの保持状態を模式的に説明する断面図である。
従来技術に係る光ディスクの反り量の経時変化を示すグラフである。
本発明に係る光ディスク用基板の概略図である。
本発明に係る光ディスク用基板の一部破断断面図である。
本発明の実施例1に係る光ディスク用基板の一部破断拡大断面図である。
本発明の実施例2に係る光ディスク用基板の一部破断拡大断面図である。
本発明の実施例3に係る光ディスク用基板の一部破断拡大断面図である。
本発明の実施例4に係る光ディスク用基板の一部破断拡大断面図である。
本発明の実施例5に係る光ディスク用基板の一部破断拡大断面図である。
本発明の実施例6に係る光ディスク用基板の一部破断拡大断面図である。
本発明の実施例7に係る光ディスク用基板の一部破断拡大断面図である。
本発明の実施例8に係る光ディスク用基板の一部破断拡大断面図である。
本発明に係る光ディスクの保持状態を模式的に説明する断面図である。
本発明に係る光ディスクの反り量の経時変化を示すグラフである。
符号の説明
1 光ディスク用基板
2 記録膜
3 保護膜
4 反り防止膜
5 回転軸
6 センターホール
7 第一面
8 第二面
10 光ディスク
12 低熱伝導要素
14 基体領域(非当接領域)
16 非記録領域(当接領域)
18 記録領域(非当接領域)
21 溝(粗面)
22 溝(粗面)
23 突起(粗面)
24 粗面
25 塗膜
26 樹脂
27 セラミックビーズ(微粒子)
28 紙(低熱伝導シート)
29 発泡成型部分
40 当接領域
42 クランパ(保持手段)
44 ターンテーブル
46 回転シャフト
50 低熱伝導領域