JP4341172B2 - 多層盛溶接におけるトーチ位置の制御方法 - Google Patents

多層盛溶接におけるトーチ位置の制御方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶接ワイヤを電極とするアーク溶接法による多層盛溶接の自動化に係わり、特に、光学式センサで検出される検出情報に基づいて、該当する溶接パスに必要なトーチ位置や溶接ビード幅を適正に自動修正しながら多層盛溶接を良好に行うのに好適なトーチ位置の制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
発電プラントや化学プラントや船舶など厚板溶接構造物は、一般的に開先継手部がガスカット面で精度が悪いとか、蛇行しているとか、ギャップ変化が大きいとか、また、溶接ワークと溶接装置との配置誤差や溶接中の変形が生じることもある。このような開先継手の多層盛溶接を自動的に行う場合、例えば、据付け型の溶接ロボットを使用する方法では、溶接パス毎にビード形状に合わせて溶接線の位置教示(ティーチング)をして溶接するか、溶接1パス目にティーチングした軌跡を記憶しておき、この記憶した軌跡に対して開先断面の高さ方向や左右方向に所定量をシフトさせた所に順次位置決めをして2パス目以降の溶接を行うようにしている。また、アークセンサを使用する方法では、開先内で溶接トーチを左右方向に揺動させて電流変化又は電圧変化を検出して、その変化量が左右同等になるように溶接トーチの位置制御を行うのが一般的である。
【0003】
また、最近では、レーザー変位センサやレーザースリット光センサなどの光学式センサを用いてトーチ位置制御、溶接条件制御を行う溶接装置や溶接方法が提案されている。例えば、特開平3−47680号公報の開先倣い制御装置では、開先内の形状を検出するレーザー変位センサと、開先左右端位置及びワイヤ先端位置の情報を検出するITVカメラと、これらの情報から溶接トーチの位置を演算する手段を備えて、溶接トーチの位置ずれを演算してトーチ位置制御を可能にしている。また、特開平8−33979号公報の多層盛溶接方法では、溶接前の開先形状の画像と、1パス前の同じ位置で求めた開先形状の画像とを重ね合せて、その重なり部分から離れようとする部分の接点を求め、その位置を基準にして溶接トーチの狙い位置を求めて制御するようにしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記した据付け型の溶接ロボットを用いて溶接パス毎にビード形状に合わせてティーチングするのは大変な手間と時間がかかる。また、ギャップ変化が大きい又は溶接中に変形が生じる易い製品や1品製品の溶接への適用は難しい。また、溶接ロボットの可動範囲を超える大物製品や工場外の現地で組立溶接が必要な構造物の溶接を行うことができない。
【0005】
また、アークセンサを用いる溶接方法では、1パス溶接で仕上る溶接や開先幅の狭い1層1パスの積層溶接は可能であるが、溶接ビード同士が重なり合うような1層多パスの積層溶接は、左右の電流変化(又は電圧変化)の検出がしにくくなることから、溶接トーチの位置制御が難しいため実用化するまでに至っていない。
【0006】
一方、特開平3−47680号公報の開先倣い制御装置は、溶接トーチの位置ずれを演算してトーチ位置制御を行うことが可能な1つの装置として有効と考えられる。しかしながら、レーザー変位センサの場合は、開先内を走査するための回転ミラー機構や揺動機構を必要とし、装置が大型になるばかりなく、溶接速度が速くなると、検出する開先断面形状の歪みによって誤差が生じる恐れがある。なお、左右方向のトーチ位置制御を行う機構はあるが、上下方向のトーチ位置制御を行う機能や方法については開示されていない。
【0007】
また、特開平8−33979号公報の多層盛溶接方法では、溶接パス毎の開始位置と終了位置にて溶接トーチの狙い位置を求めて、その2点間を直線補関して溶接を行うようにしている。このため、ギャップ変化のない継手や直線の継手の多層盛溶接には有効と考えられるが、ギャップ変化の大きい継手や蛇行しているような継手の溶接には困難である。
【0008】
この他、レーザースリット光による開先切断画像と溶接トーチを含む溶融池部のアーク溶接画像を同時に撮像するITVカメラを設けて、その画像情報より溶接トーチの位置ずれを求めてトーチ位置制御を行うものもある。しかしながら、光の強烈なアーク溶接画像と微光の開先切断画像を両立させるための特殊なフィルタや装置が必要となる。また、開先が深さ又は広い継手の多層盛溶接の場合には、撮像する画像の視野範囲を大きくする必要があるため、その視野範囲の拡大に伴って、検出すべき位置や形状の検出精度が著しく低下して正常な制御ができなくなる恐れがある。さらに、開先底部の溶接から開先上部の溶接を行う過程で、アーク溶接画像が上昇していくため、レーザースリット光による開先切断画像がアーク溶接画像と重なり合って見えなくなり、検出が不可能となる恐れがある。
【0009】
そこで、本発明は上記の問題に鑑みてなされたもので、その目的は、溶接線の蛇行やギャップ変化のある多層盛溶接が必要な開先継手に対して、溶接中に光学式センサで検出される左右位置ずれ、上下位置ずれ、ギャップ又は前層ビード幅などの検出情報に基づいて、溶接パス毎のトーチ位置ずれを適正に修正しながら溶接を良好に行うことができるトーチ位置の制御方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成する本発明の第1の手段は、多層盛溶接が必要な2つの厚板長尺部材を突合わせた継手部が蛇行していたりギャップ変化があったりする開先継手に対し、この開先継手の溶接線方向にガイドレールを設置して、溶接ワイヤを電極とするガスシールドアーク溶接を行う可動式の溶接トーチと、この溶接トーチを駆動するトーチ駆動機構、溶接トーチより先行する位置の開先継手の断面形状を撮像する光学式センサとを搭載した自走式の溶接台車をガイドレールに設け、前記光学式センサより得られる開先断面形状の画像を処理する画像処理装置と、前記溶接台車の駆動制御、トーチ先端の溶接ワイヤへ給電する溶接電源の出力制御、画像処理装置への検出指令、トーチ位置及び溶接条件のデータ処理及び制御が可能な溶接制御装置とを設けて、溶接データファイルに記載してある前記開先継手の多層盛溶接に適した溶接パス毎のトーチ位置及び溶接条件を順次に設定及び実行する溶接運転プログラムにしたがって、自動溶接を行うトーチ位置の制御方法において、溶接前に前記溶接台車を移動させて、トーチ先端の溶接ワイヤを溶接スタート位置に誘導して溶接位置座標の原点とセンサ座標の原点を合わせる位置決めを行ってから溶接運転に入り、前記溶接制御装置の指令によって溶接トーチ及び光学式センサを搭載した溶接台車を駆動させ、また、溶接中に前記画像処理装置を介して光学式センサに開先中心の左右位置ずれ、上下位置ずれ、開先底部のギャップ又は前層ビード幅などを検出させると共に、ほぼ一定時間間隔で取得するその検出データ群の中から開先中心の左右位置ずれと、開先底部のギャップ又は前層ビード幅の値を抽出して、この抽出値から左右方向のトーチ位置ずれを順次算出して所定数の平均化の処理を行い、処理後の左右位置ずれの算出値と左右トーチ位置の目標値との偏差から該当する溶接パスの左右方向の位置修正量を算出して、この位置ずれ分を相殺するように特定移動点で溶接トーチの左右位置の修正制御を溶接台車に行わせるようにしたことを特徴とする。
【0011】
上記目的を達成する本発明の第2の手段は、検出データ群の中から開先中心の左右位置ずれと、開先底部のギャップ又は前層ビード幅の値を抽出して、この抽出値から左右方向のトーチ位置ずれを順次算出して所定数の平均化の処理を行い、処理後の左右位置ずれの算出値と左右トーチ位置の目標値との偏差から該当する溶接パスの左右方向の位置修正量を算出し、また、平均化の処理をした他の上下位置ずれの検出値と上下トーチ位置の目標値との偏差から該当する溶接パスの上下方向の位置修正量を算出して、各々の位置ずれ分を相殺するように特定移動点で溶接トーチの左右位置及び上下位置の修正制御を溶接台車に行わせるようにしたことを特徴とする。
【0012】
すなわち、本発明の多層盛溶接におけるトーチ位置の制御方法では、多層盛溶接が必要な2つの厚板長尺部材を突合わせた継手部が蛇行していたりギャップ変化があったりする開先継手に対し、光学式センサで検出される開先中心の左右位置ずれ、開先底部のギャップ(初層溶接時)又は前層ビード幅(初層以後の溶接時)の検出値より求める左右位置ずれの算出値と予測値との偏差から該当する溶接パスの左右方向のトーチ位置修正量を算出しており、1層1パスの積層溶接はもとより、溶接位置がパス毎に異なる1層多パス振分けの積層溶接のトーチ左右位置ずれを適正に修正することができる。また、前層のビード高さに該当する上下位置ずれの検出値と予測値との偏差から該当する溶接パスの上下方向の位置修正量を算出しており、1層多パス振分けの積層溶接のトーチ上下位置ずれを適正に修正制御することができ、溶接線方向に良好な溶接ビードを形成することができる。また、上記の位置修正量を算出する以前に各々の検出値の特定数を平均化処理することにより、過剰な動作をなくして滑らかな位置修正を行うことができ、良好な溶接ビードを得ることができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の内容を実施例に基づいて説明する。図1は本発明の制御に係わる自動溶接装置の一実施例を示す構成図である。また、図2は、図1に示した自動溶接装置における溶接制御盤11の内容を示す構成ブロック図である。最初の図1において、1a,1bは2つの厚板部材からなる溶接ワーク、2はその溶接ワーク1a,1bの突合わせ部に形成された多層盛溶接が必要な開先継手である。その開先継手2はV形(又はX形又はU形)の形状をしており、加工精度や組立精度が悪いために、溶接すべき継手の長手方向にギャップ変化や曲がりが生じている。3は長手方向の溶接ワーク1a上に設置されたガイドレールで、溶接台車4の走行を案内する。自走式の溶接台車4には、溶接ワイヤ5を電極とするアーク溶接を行う溶接トーチ6と、この溶接トーチ6を左右・上下方向に任意移動できるトーチ駆動機構9と、ワイヤリール7に巻かれている溶接ワイヤ5を溶接トーチ6先端へ送給するワイヤ送り機構8と、開先継手2の断面形状を撮像する光学式センサ10とを搭載している。
【0014】
光学式センサ10は、溶接トーチ6より所定距離だけ先行する独立した位置の溶接台車4に設置されており、溶接制御盤11に内臓の画像処理置22と一対で開先中心の左右位置ずれ、開先肩幅、開先底部のギャップ又は前層ビード幅などの情報を検出するものである。12は溶接電源であり、溶接トーチ6先端へ送給する溶接ワイヤ5と溶接ワーク1a,1bとの間に給電を行い、また、アーク溶接で使用するシールドガスを供給するガスボンベ16、溶接トーチ6及び光学式センサ10を水冷するための冷却水循環ポンプを備えている。
【0015】
溶接制御盤11は、前記溶接台車4の駆動制御、溶接電源12の出力制御、光学式センサ10と一対の画像処理装置22への検出指令及び取得する検出デ−タの情報処理、溶接トーチ6位置及び溶接条件の制御、及び構成機器の統括管理を行うものである。13は溶接電源12と溶接トーチ6及びワイヤ送り機構8を結ぶ配線ケーブル、14a,14bは溶接制御盤11と溶接台車4、光学式センサ10、溶接電源12を結ぶ配線ケーブルである。
【0016】
一方、図2において、15aは操作盤であり、自動運転に必要な初期設定、開先継手2の形状寸法、基本溶接条件の入力設定を行う。15bは画面表示装置であり、溶接データファイル作成時の入力と演算結果の表示、自動溶接時に必要な溶接トーチ位置、溶接条件、センサの検出情報の表示、その他、自動運転時に必要な情報の表示を行う。統括制御装置17はパソコンなどからなり、任意形状寸法の開先継手2の多層盛溶接に必要なパス毎の溶接位置や溶接条件を予め決定して登録しておく溶接データファイル18bを自動作成する溶接演算プログラム18aや、溶接データファイル18bと画像処理装置22より取得する検出データに基づいて、多層盛溶接及びその制御を行う自動運転プログラム19を備えている。また、自動溶接で必要な溶接位置演算制御部20a、溶接条件演算制御部20b、溶接中のデータを記録する制御データ記録ファイル21a、検出データ記録ファイル21bなどを備えている。
【0017】
多層盛溶接では、その溶接パス数に応じて割付けた所定の位置に溶接トーチを持っていく必要があり、また、溶接パス毎の溶接条件も事前に決めておく必要がある。例えば、図3(1)は、溶接対象の一つであるV開先継手の任意形状寸法を示すもので、Tは板厚、θ1は開先角度、Gとfは開先底部のギャップとルートフェイスであり、溶接ワーク1a,1bの開先底部には裏当て材25が設けられている。図3(2)は、1層1パス溶接から1層3パス振分け溶接(合計:6層12パス溶接)に至るまでのパス毎の溶接順序(パス番号)及び溶接トーチ位置(黒丸印の点)を示す一例である。図中のYp,Zpは開先底部の中心を原点(0、0)とする左右方向と高さ方向の位置を示す溶接位置座標である。1層1パスの溶接個所は、開先底部より溶接パス(番号:1,2)を順次上方向に積上げ、各々のビード底部の形状がほぼ左右対称になるように積層溶接を行う。一方、1層2パス以上の多パス振分けの溶接個所は、各層毎に溶接パス(番号:3・4,5・6,7・8・9,10・11・12) を右側から左側方向に並べながら積層溶接を行う。
【0018】
図4(1)は表側と裏側の両面溶接を必要とするX開先継手の任意形状寸法を示す。図4(2)は開先角度θ1,θ2が狭い又は板厚Tが小さい時の1層1パス溶接(表側3層3パス、裏側3層3パスの多層盛溶接)におけるパス毎の溶接順序及び目標の溶接トーチ位置を示す一例である。また、図4(3)は開先角度θ1,θ2が広い又は板厚Tが大きい時の1層多パス溶接(表側5層9パス、裏側3層4パスの多層盛溶接)の一例である。いずれも表側の溶接を先に行い、終了後に溶接台車4及びガイドレール3を取外して溶接ワーク1a,1bを反転し、溶接台車4及びガイドレール3を再度設置して、溶接開始のトーチ位置決めをしてから裏側の溶接を順次に行うことになる。
【0019】
溶接パス毎のトーチ位置及び溶接条件の決定方法については、溶接演算プログラム18aを使って、任意の開先形状寸法や基本溶接条件の入力設定値から演算する。この溶接演算プログラム18aは、事前の溶接実験で蓄積した溶接デ−タ及び溶接現場に携わる熟練溶接員による溶接施工技術及び経験に基づいて作成してある。詳細な演算方法は省略するが、目標の各溶接トーチ位置(黒丸印の点)は、開先断面積、パス当りの溶着面積から層数とパス数を算出した後に、積層ビードの幅と高さから算出し、積層ビード幅を各層のパス数で分割した位置にしている。例えば、1層1パス溶接の個所における左右方向の各トーチ位置は、前層の積層ビード幅(初層溶接時はギャップ)の中央となる位置(開先中心でYp=0)である。1層2パス振分け溶接の箇所は、前層の積層ビード幅を4分割して両開先面寄りの右位置と左位置になるように算出している。また、1層3パス振分けの溶接個所では、各積層ビード幅を6分割して開先中心位置と両開先面寄りの右位置と左位置になるように算出している。高さ方向の各トーチ位置は、前層溶接までの積層ビード高さの位置になるように算出している。
【0020】
一方、溶接条件は、入力された基本条件、アーク溶接現象に基づく事前解析の溶接データ、算出した積層ビードの幅と高さなどの情報から、溶接電流と電圧、溶接速度、ワイヤ送り速度、ウィービングなど適正条件の目標値を算出するようにしている。
【0021】
【表1】
Figure 0004341172
【0022】
表1はV開先継手の溶接データ演算結果の一部を示す表示例である。ここでは、V開先継手の例を説明したが、X開先継手やU開先継手に対しても、溶接演算プログラム18aを使って溶接パス毎の目標となる適正なトーチ位置及び溶接条件を演算して作成した溶接データファイル18bに基づいて多層盛溶接を行う。
【0023】
次に、本発明の溶接制御で使用する光学式センサによる検出方法の概要について説明する。図5は光学式センサ10と関連機器の構成を示す概略図である。光学式センサ10は、溶接トーチ6より先行する開先継手2(V形)の上部位置にあり、その開先継手2を直角に切断する垂直方向にスリット状の光26bを照射するレーザ投光器26aと、その反射像を干渉フィルタ27bを介して撮像するカメラ27aを備えている。干渉フィルタ27bは特定波長のレーザ光のみを抽出する。23は投光受光制御器であり、レーザ投光器26aとカメラ27aを制御すると共に、撮像された光切断画像を画像処理装置22に送信する。
【0024】
この画像処理装置22には、自動溶接を行う時に必要な開先中心の位置ずれ、開先肩幅、溶接残存面積、開先底部のギャップ又は前層ビード幅などの検出情報を抽出する溶接検出プログラムを内臓しており、統括制御装置17からの検出指令と検出結果の報告要求に対応できるようにしている。省略してあるが、光学式センサ10の筐体部分は、過熱を防止する水冷構造、支障のある微粒子の侵入を防止するガス流出構造にしている。なお、スリット状のレーザ投光器26aの代りに、スポット状のレーザ光を照射及び高速で左右揺動させる機構を備えた揺動式レーザ投光器を使用しても良い。
【0025】
図6は溶接前に行うトーチ位置(ワイヤ先端位置)座標の原点とセンサ座標の原点の位置基準合わせを示す概略図である。溶接台車4を駆動して溶接トーチ6を溶接開始地点に移動し、図6(2)に示したように溶接ワイヤ5先端を開先継手2の底部にあるギャップGの中心位置(黒丸点)に合わせ、該ギャップGの中心位置に合わせたワイヤ先端位置を溶接位置座標の原点(Yp=0,Zp=0)とする。一方、センサ側では、図6(1)に示したように光学式センサ10の設置位置で撮像される開先断面の線画像30を画像処理装置22で処理して、ギャップG部の中央位置(黒丸点)を検出し、その検出位置をセンサ座標の原点(Ys=0,Zs=0)として、左右上下方向のトーチ位置ずれをΔYs=0,ΔZs=0する。
【0026】
図7は光学式センサで検出する内容を示す説明図であり、図中には検出項目とその記号名称を記している。光学式センサ10で撮像される開先断面の線画像(30a〜f)を画像処理装置22に取込んで主要の検出項目を抽出する。例えば、開先肩幅Wsは、左右上面30f,30aと左右の開先斜面30d,30bが各々交わる交点(d点とc点を結ぶ長さ)の距離で求められる。このd点とc点の距離を2等分した中点が左右方向の開先中心である。開先斜面の角度が左右異なる又は加工精度が悪い場合に、開先継手の上部と底部とで中心ずれが生じることになる。それを避けるために、ここでは溶接部に近い位置で開先中心を求めている。すなわち、開先の右斜面30dと開先底部のビード面30eとが交わる交点(b点)より1mm程度上の位置に水平線29を描き、その水平線29と左右の開先斜面30d,30bとが交わる交点(j点とi点を結ぶ長さ)の距離を2等分した中点位置(f点)を開先中心とすることで、中心ずれをなくすことができる。この中点位置f点と初期設定時の原点位置(Ys=0)との偏差(水平方向の距離)を左右位置ずれ△Ysとしている。
【0027】
一方、開先底部の上下位置ずれ△Zsについては、開先底部の最も深い位置(e点)を求め、又は開先の左斜面30bと左底面30cとが交わる交点a点を通る他の水平線と前記f点の垂直線とが交わる交点位置(e点近傍)を求めた後に、初期設定時の原点位置(Zs=0)との偏差(垂直方向の距離)を計測して上下位置ずれ△Zsとしている。この上下位置ずれ△Zsは、前層ビード高さに相当する値である。また、溶接残存面積Asは、まだ溶接が残っている部分の開先内の面積を計測している。
【0028】
図8(1),(2),(3)は、2パス以上の多パス溶接(例えば1層3パス振分け溶接)を行う時の前層ビード幅を抽出する方法を示す説明図である。最初の右側溶接31を行う時は、(1)に示したように開先底部に前層のビード面30cがそのまま確保されているので、a点とb点を結ぶ長さを計測することにより前層のビード幅Bsを容易に抽出することができる。しかし、中間部の溶接32や左側(最後)の溶接33を行う時には、前層ビードが前記溶接によってb点部分が埋められてなくなるため、これを補う検出手法を用いる必要がある。したがって、ここでは図8(2),(3)に示したように、前層ビードがあるa点(開先の左斜面30bと開先左底部のビード面30cが交わる交点)を通る水平線を描き、この水平線と開先の右斜面30dの延長線とが交わる交点をb点と仮定し、a,b点間の長さを計測して前層のビード幅Bsとするようにした。このようにしてb点を見出すことにより、多パス溶接の制御に使用する前層のビード幅Bsを検出することができる。なお、開先の右斜面30dと開先右底部のビード面30eとが交わる交点がm点である。ビード面30c,30e同士が接する交点(n点)の抽出や、このn点とa点を結ぶ長さ(残存ビード長さRs)を計測して抽出することも可能である。
【0029】
次に、本発明の多層盛溶接におけるトーチ位置(ワイヤ位置)の制御方法について説明する。図9は1層3パス振分け溶接を行う時の各ワイヤ位置を示す説明図である。また、図10は、ワイヤ位置ずれを適正に修正する方法の一例を示す説明図である。図中のYpは該当する溶接でワイヤ5がそれぞれ目標としている目標位置であり、開先中心の座標軸28(Yp=0,Zp)から左右に割当てた適正な位置を事前にそれぞれ算出設定している。例えば、前層溶接で形成されると予想している積層ビード幅の基準値をBwとし、その積層ビード幅を埋める溶接に必要なパス数をK(2パス溶接の時はK=2,3パス溶接の時はK=3,4パス溶接の時はK=4となる変数)とする。また、各々該当する溶接パスの番号を変数n=1〜Kとすると、Ypは下記の(数1)式で求めることができる。
【0030】
【数1】
Yp=[(1/2)−(2・n−1)/2・K]・Bw …(数1)
すなわち、図9(1),(2),(3)に示した1層3パス(K=3)溶接においては、n=1の時が右側溶接31であり、開先中心軸28からのワイヤ5位置はYp=Bw/3となり、n=2の時が中間溶接32であり、Yp=0の開先中心となる。また、n=3の時が左側溶接33であり、ワイヤ5位置はYp=−Bw/3となるように算出している。図中のBsは溶接中にセンサで検出する前層ビード幅の値であり、上述した基準値Bwと常に一致するとは限らず、変化する要因を持っている。
【0031】
このため、図10に示したように、開先中心の左右位置ずれ△Ysの他に、前層ビード幅の検出値Bsと基準値Bwとの偏差分(△Bs=Bs−Bw)を溶接パス数(K=3、n=1〜K)に割当てて位置修正をする必要がある。ビード幅変化△Bsに該当するワイヤ5位置の修正値△Ybは(数2)式で求められる。開先中心の中間溶接32の時は、この値△Ybが0となる算出式である。また、開先中心の左右位置ずれ△Ysとの偏差の位置ずれ△Ywは(数3)式となる。
【0032】
【数2】
△Yb=[(1/2)−(2・n−1)/2・K]・[Bs−Bw] …(数2)
【0033】
【数3】
△Yw=△Ys−△Yb …(数3)
溶接中にほぼ一定時間間隔(2秒程度)で検出及び取得する検出データは、ばらついている恐れがあるので、(数3)式で順次算出した値(△Yw1,△Yw2,・・△Ywa)を所定数(a個)集めて平均化の処理を(数4)式にて行う。平均化の処理は、古いデータを1つ捨てて新しいデータを1つ加えて平均化する処理を繰り返し行うことにより、データのばらつきを緩和することができる。
【0034】
【数4】
△Yw=[△Yw1+△Yw2+・・+△Ywa]/a …(数4)
修正すべき左右方向のワイヤ5位置の修正量△Ymは、平均化の処理をした検出デ−タの算出値△Ywと、初期設定の目標値Ypとの偏差となり(数5)式で求めることができる。
【0035】
【数5】
ΔYm=Yp−ΔYw=Yp−(ΔYs−ΔYb) …(数5)
また、ここでは過剰な修正や過小な修正を避けるため、上限下限領域(±C1<ΔYm<±C2)を設けて1回当たりの修正量を抑制することで、過剰な修正動作や不要な動きが防止でき、溶接の悪化防止を図ることができる。
【0036】
図11は、図10に示したトーチ位置ずれを適正に修正する方法を示す制御ブロック線図の一例である。左右方向のワイヤ5位置の修正制御は、(数5)式で算出される修正量ΔYmをなくす方向に、溶接トーチ6が修正位置38に到達した特定移動点で溶接台車4に行わせる。溶接線方向に走行しながらアーク溶接を行う溶接トーチ6及び溶接台車4の制御、光学式センサ10と一対の画像処理装置22からの検出デ−タの取得、その検出データ処理と位置ずれ計算35a,35b、修正値の計算37、位置修正の制御指令39からなる一連の動作は、トーチ現在位置40を把握しながら溶接終了位置に溶接トーチ6が到達するまで繰り返し行うようにしている。修正位置でない時には、他の計算処理42も行っている。このようにして、左右方向のワイヤ位置(トーチ位置)の修正制御を行うことにより、継手部の溶接線が曲がって蛇行していたり開先低部にギャップがあったりする開先継手の多層盛多溶接であっても、該当する溶接パス毎のトーチ位置を常に適正な位置に合わせることができ、良好な溶接ビードをパス毎に得ることができる。
【0037】
次に、上下方向のトーチ位置の制御方法について説明する。図12は溶接中に上下左右方向に位置ずれが生じた時に位置修正制御を行う一実施例を示す。30は溶接中にセンサで検出(左右上下の位置ずれ△Ys,△Zs、前層のビード幅Bs)する開先断面画像、34は溶接前の開先断面形状であり、既に溶接済みの右側溶接31と中間溶接32のトーチ上下位置を記している。また、左右方向及び上下方向の位置ずれを修正するように記しているが、ここではトーチ上下位置の制御に絞って説明する(トーチ左右位置の制御は前述したので省略)。溶接層毎の上下方向のワイヤ5位置は、多パスでも前層のビード表面の高さ位置に横並びである。また、センサで検出される上下位置ずれの検出値△Zsは、開先底部の溶接原点(Y0,Z0)からビード表面までの距離としている。したがって、修正すべき上下方向の位置ずれ△Zmは、センサで検出される上下位置ずれの検出値△Zsと、前層までの積層ビード高さHpに該当する上下トーチ位置の目標値Zpとの偏差となり、下記の(数6)式で求めることができる。
【0038】
【数6】
ΔZm=ΔZs−Zp …(数6
検出データはばらついている恐れがあるので、順次取得する検出値(ΔZs1,ΔZs2、・・Zsa)を所定数(a個)集めて平均化の処理[Zs=(ΔZs1+ΔZs2+・・+ΔZsa)/a]を行う。平均化の処理は、前述したように古いデータを1つ捨てて新しいデータを1つ加えて平均化する処理を繰り返し行うと良い。また、上下位置ずれΔZmの修正を行う時は、上限下限領域(±C3<ΔZm<±C4)を設けて1回当たりの修正量を抑制すると良い。過剰な修正動作や不要な動きが防止でき、溶接の悪化を防止することができる。
【0039】
トーチ上下位置の制御を行う制御ブロック線図の一例を図13に示す。上下方向のワイヤ5位置の修正制御は、上記の(数6)式で算出される修正量ΔZmをなくす方向に、溶接トーチ6が修正位置38に到達した特定移動点で溶接台車4に行わせる。溶接中の検出からトーチ位置の修正制御に至る一連の動作は、トーチ現在位置40を把握しながら溶接終了位置に到達するまで繰り返し行う。このようにして、上下方向の位置制御を上述した左右方向の位置制御と合わせて行うことにより、該当する溶接パスのトーチ位置を常に適正な上下左右位置に合わせることができ、良好な溶接ビードをパス毎に得ることができる。
【0040】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明のトーチ位置の制御方法によれば、2つの厚板長尺部材を突合わせた継手部が蛇行していたりギャップ変化があったりする開先継手の多層盛溶接であっても、溶接ワイヤを電極とするアーク溶接を行う溶接パス毎のトーチ左右・上下位置を適正に修正制御することができ、溶接欠陥のない良好なパス毎の溶接ビード及び多層盛溶接の結果を得ることができる。さらに、本発明のトーチ位置の制御方法を発電プラントや化学プラントや船舶など厚板構造物の溶接に適用することにより、溶接自動化による能率向上、原価低減、生産性向上及び作業改善に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の制御に係わる自動溶接装置の一実施例を示す斜視図である。
【図2】図1に示した自動溶接装置における溶接制御盤11の内容を示す説明図である。
【図3】多層盛溶接が必要な開先継手の形状とパス毎の溶接順序及び溶接位置を示す概略図である。
【図4】多層盛溶接が必要な他の開先継手の形状とパス毎の溶接順序及び溶接位置を示す概略図である。
【図5】本発明の制御に使用する光学式センサ10と関連機器の構成及び検出方法を示す斜視図である。
【図6】センサ座標の原点と溶接座標の原点の基準合わせを溶接前に行う方法を説明図である。
【図7】図5に示した光学式センサで検出する内容を示す説明図である。
【図8】2パス以上の多パス溶接を行う時の前層ビード幅を抽出する方法を示す説明図である。
【図9】本発明の制御方法に係わる1層3パス振分け溶接を行う時の各ワイヤ位置を示す説明図である。
【図10】本発明の制御方法に係わる左右方向のトーチ位置ずれを適正に修正制御する方法の一実施例を示す説明図である。
【図11】図10に示したトーチ左右位置ずれを適正に修正制御する方法の一実施例を示す制御ブロック線図である。
【図12】本発明の制御方法に係わる上下及び左右方向の位置ずれを適正に修正制御する方法の一実施例を示す説明図である。
【図13】図12に示した上下方向の位置ずれを適正に修正制御する方法の一実施例を示す制御ブロック線図である。
【0026】
【符号の説明】
1a…溶接ワーク、1b…溶接ワーク、2…開先継手、3…ガイドレール、4…溶接台車、5…溶接ワイヤ、6…溶接トーチ、8…ワイヤ送り機構、9…トーチ駆動機構、10…光学式センサ、11…溶接制御盤、12…溶接電源、15a…操作盤、、15b…画面表示装置、17…統括制御装置、18a…溶接データファイル、22…画像処理装置、23…投光受光制御器、24…各軸駆動装置、26a…レーザー投光器、26b…スリット光、27a…カメラ、27b…干渉フィルター、28…開先中心軸、30…開先形状の画像線、30a…開先形状の画像線、30b開先形状の画像線、30c開先形状の画像線、30d開先形状の画像線、30e開先形状の画像線、30f…開先形状の画像線、31…右側溶接、32…中間溶接、33…左側溶接。

Claims (3)

  1. 多層盛溶接が必要な2つの厚板長尺部材を突合わせた開先継手であって、開先底部にギャップがある開先継手に対し、溶接ワイヤを電極とするガスシールドアーク溶接を行う可動式の溶接トーチと、溶接トーチより先行する位置の開先継手の断面形状を撮像する光学式センサと、前記光学式センサより得られる開先断面形状の画像を処理する画像処理装置と、前記溶接台車の駆動制御、溶接電源の出力制御、画像処理装置への検出指令、トーチ位置及び溶接条件のデータ処理及び制御が可能な溶接制御装置とを設けて、溶接データファイルに記載してある前記開先継手の多層盛溶接に適した溶接パス毎のトーチ位置及び溶接条件を順次に設定及び実行する溶接運転プログラムにしたがって、自動溶接を行うトーチ位置の制御方法において、
    溶接開始地点で溶接トーチのワイヤ先端位置を開先継手の底部にあるギャップの中心位置に合わせ、該ギャップの中心位置に合わせたワイヤ先端位置を溶接位置座標の原点(Yp=0,Zp=0)にすると共に、前記ギャップの中心位置を検出させてその位置をセンサ座標の原点(Ys=0,Zs=0)とし、1層多パス振分けの溶接箇所において、溶接動作中にほぼ一定時間間隔で画像処理装置より取得した検出データ群の中から、開先底部の前層ビード幅中央位置の左右位置ずれ又はこの開先底部近傍の開先幅中央位置の左右位置ずれ、残存する前層ビード幅を抽出し、この抽出した左右位置ずれの値ΔYs及び前層ビード幅の値Bsと、溶接パスデータファイルに記載されているトーチ左右位置の目標値Yp及びビード幅の基準値Bwとの偏差から該当する溶接パスの左右方向の位置修正量ΔYmを算出し、この位置修正量ΔYmを相殺する方向に特定移動点で溶接トーチの左右位置の修正制御を行うことを特徴とする多層盛溶接におけるトーチ位置の制御方法。
  2. 請求項1に記載されたトーチ位置の制御方法であって、
    初層の溶接箇所若しくは1層1パスの溶接箇所おいて、溶接動作中にほぼ一定時間間隔で画像処理装置より取得した検出データ群の中から、開先底部のギャップ中央位置の左右位置ずれ又は前層ビード幅の中央位置の左右位置ずれを抽出し、この抽出した左右位置ずれの値ΔYsと、前記溶接パスデータファイルに記載されているトーチ左右位置の目標値Ypとの偏差から該当する溶接パスの左右方向の位置修正量ΔYmを算出し、前記位置修正量を相殺する方向に特定移動点で溶接トーチの左右位置の修正制御を行うことを特徴とするトーチ位置の制御方法。
  3. 請求項1または2に記載されたトーチ位置の制御方法であって、
    初層の溶接パスを含む1層1パス及び1層多パスの溶接箇所では、溶接動作中にほぼ一定時間間隔で画像処理装置より取得した検出データ群の中から、開先底部のギャップ中央位置の上下位置ずれ又は前層ビード底面の深い位置の上下位置ずれを抽出し、この抽出した上下位置ずれの値ΔZsと、前記溶接パスデータファイルに記載されているトーチ上下位置の目標値Zpとの偏差から該当する溶接パスの上下方向の位置修正量ΔZmを算出し、この位置修正量ΔZmをなくす方向に特定移動点で溶接トーチの上下位置の修正制御を行うことを特徴とする多層盛溶接におけるトーチ位置の制御方法。
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