JP4338270B2 - プラスチック製光ファイバの製造方法 - Google Patents

プラスチック製光ファイバの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、結晶性ポリマーを用いたプラスチック製光ファイバの製造方法に関するものであり、この光ファイバは、通信や、光電センサー、ライトガイド等の光ファイバが使用され得るあらゆる分野で利用される。また本発明は、このようなプラスチック製光ファイバを高品質で、高速に且つ安定して生産する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、プラスチック製光ファイバにおいては、耐屈曲性の向上を目的として、光伝送路となる芯以外の被覆領域に結晶性ポリマーが用いられている。
【0003】
しかし、このような結晶性ポリマーが用いられた光ファイバは、例えば特開平4−225303号公報に記載の方法のように、高温に設定された紡糸口金からファイバを吐出後、空気冷却によってゆっくりと冷却する方法で作製すると、ファイバを引き取る過程でポリマーが再結晶化して大きな結晶が形成し、得られた光ファイバの外観が白っぽくなっていた。
【0004】
近年、通信分野においては、耐屈曲性に優れた多芯のプラスチック製光ファイバの使用が試みられている。多芯の光ファイバにおいても、一般に単芯の光ファイバに用いられるものと同様な樹脂が用いられ、その製造方法も、紡糸口金の構造は異なるが、その他の工程はほぼ単芯の光ファイバの製造方法と同様であるため、やはり出来上がった多芯の光ファイバ中の結晶性ポリマーの結晶サイズは大きく、外観は白っぽくなっていた。
【0005】
一方、単芯のプラスチック製光ファイバの製造方法において、紡糸ノズルから吐出後のファイバの冷却方法としては以下のような技術が開示されている。
【0006】
特開平1−232305号公報には、単芯の光ファイバの水冷時の直径変動の低減を目的として、複合紡糸法による押し出し後の光ファイバを冷却水槽内で層流状態の水流によって冷却固化する方法が記載されている。
【0007】
また、特開平7−72341号公報には、複合紡糸による吐出後の150℃以上のファイバを15℃以下の流水等の冷却液で急冷することによって単芯の光ファイバに楕円球状の気泡(ボイド)を形成する方法が記載されている。
【0008】
また、特開昭61−65209号公報には、芯材層、鞘材層および保護層を基本構成単位とする単芯の光ファイバにおいて、保護層に芯材層ポリマーより高いガラス転移点を有するポリマーを用い、複合紡糸方式による押出し後の冷却を、保護層ポリマー及び芯材層ポリマーのガラス転移温度を含む温度領域においては特定の冷却速度で行うことによって、光学性能の優れた光ファイバが得られることが記載されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
従来、光ファイバ中の結晶性ポリマーの結晶サイズに関しては、単芯の光ファイバが装飾用に用いられる場合や、ポイントセンサー等の短距離用デバイスに用いられる場合は大きな問題となることはなかった。しかし、通信用に使用される光ファイバにおいては、特に多芯の光ファイバを用いた場合には、光ファイバ中の結晶性ポリマーの結晶サイズに起因する問題が顕著になる。
【0010】
通常、多芯の光ファイバは複数の島部を有する海島構造で構成されており、前記特開平4−225303号公報に記載の方法のように吐出後のファイバの冷却を空気冷却などの徐冷で行うと、光ファイバの中心付近と外周付近で冷却速度が大きく異なってしまう。結晶性ポリマーは、島部の芯を被覆する鞘や、その鞘を被覆する保護層等の被覆層、あるいは海部に用いられるが、光ファイバの中心付近で結晶化が進み数十μm程度の大きな結晶が形成されてしまい、光ファイバの外観が白っぽくなる。また、多芯の光ファイバの特徴は、1つの島から漏れた光が隣接する他の島内へ入ることで再び伝搬する点にあるが、このような大きな結晶が形成されると、その部分で光の散乱・吸収が起こるため光ファイバの出射光量が低下する。また、光ファイバの直径よりも十分に小さい光源、或いは受光素子を使用して高速通信を行う場合、結合効率が場所によって異なり高い信頼性が得られない。
【0011】
さらに、光ファイバの吐出後の冷却を空気冷却等の徐冷で行う場合は、紡糸速度を大きくしていくと、その速度に比例して冷却距離を長くする必要がある。30m/分を超える紡糸速度では、通常の製造スペースにおいては十分な冷却距離を取ることができないため、引き取り機までに光ファイバ表面が十分に冷却されず、表面に傷が入りやすくなり、また直径斑も増大し、その結果、光ファイバの光学性能が低下してしまう。
【0012】
一方、複合紡糸による吐出後の150℃以上のファイバを急冷する前記従来の方法(特開平7−72341号公報)は、単芯の光ファイバにボイドを発生させるためのものであり、また、多芯の光ファイバの製造においてこのような冷却を行うと、内部でのポリマーの収縮速度差によって空洞が発生し、光学特性が損なわれる場合がある。
【0013】
また、複合紡糸法による押し出し後の光ファイバを冷却水槽内で層流状態の水流によって冷却固化する従来の方法(特開平1−232305号公報)は、水の流速が変化すると光ファイバ外径も変化するという問題を有しており、また、流れ落ちる水の処理も必要であることから、実際のプロセスには適用困難である。
【0014】
また、特開平1−232305号公報には、比較例2として、第4図のようにオーバーフロータイプの冷却水槽中にガイドを設置し冷却水槽の外部に引取り装置を設置して、押し出し後のファイバを引き取りながら冷却する方法が記載されているが、水温が不適切であるため、結晶化抑制および直径斑低減効果は認められない。
【0015】
また、複合紡糸方式による押出し後の冷却において、芯材層と保護層に用いられたポリマーのガラス転移温度を含む範囲における冷却速度を規定する前記従来の方法(特開昭61−65209号公報)は、非晶性ポリマーを用いた場合の冷却条件を規定したものであるので、得られる光ファイバについてそもそも結晶化の問題は生じない。
【0016】
そこで本発明の目的は、光学特性に優れ、信頼性の高い、芯の被覆領域に結晶性ポリマーが用いられたプラスチック製光ファイバを提供することである。また、このような光ファイバを高速で且つ安定して製造できる方法を提供することである。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明は、主として光の伝送路となる芯とその被覆領域を有し、該被覆領域の少なくとも1部に結晶性ポリマーからなる領域を有するプラスチック製光ファイバの製造方法であって、200℃以上に保持された紡糸ノズルからファイバを吐出後、このファイバを20〜80℃の液体中へ導入して冷却しながら引き取る工程を有し、前記液体中に設置した前記紡糸ノズル直下の引き取り用駆動ローラを用いて、前記ファイバを、前記紡糸ノズルからの糸道をまっすぐに前記紡糸ノズル直下から前記液体中へ引き取り、前記液体を20〜80℃の範囲内の所定の温度に調整しながら前記ファイバの引き取りを行い、前記ファイバを前記結晶性ポリマーの融点より20℃以上低い温度へ冷却し、前記紡糸ノズルからファイバを吐出後、前記液体中へ導入するまでの間にこのファイバに冷却風を与える、プラスチック製光ファイバの製造方法に関する。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0021】
本発明は、主として光の伝送路となる芯とその被覆領域を有するプラスチック光ファイバに適用されるものであって、単芯あるいは多芯の光ファイバのいずれにも好適であり、特に多芯の光ファイバにおいてその効果がより顕著にみられる。
【0022】
単芯の光ファイバの場合は、芯−鞘の2層構造、あるいは芯−鞘の2層構造にさらに被覆層が形成された3層以上の構造とすることができる。通常、芯材には透明性に優れたポリマーが用いられ、鞘材には芯材より低屈折率のポリマーが使用される。
【0023】
一方、多芯の光ファイバの場合は、複数の島部が海部によって互いに隔てられた海島構造を有する構成が好ましく、この海島構造の島部は、例えば、芯のみ、芯−鞘の2層構造、あるいは芯−鞘の2層構造にさらに被覆層が形成された3層以上で構成することができる。なお、島部が複数の層からなっている場合は、中心が芯、その外周に向かって2層目、3層目と数える。
【0024】
図2に、多芯の光ファイバの断面構造の一例を示す。芯(l)が鞘(m)で被覆されて島部が構成され、これら島部は海部(n)によって互いに隔てられている。海部(n)は保護層(o)によって被覆されている。以上の構成からなる光ファイバの周囲に後述の樹脂(ケーブル材)からなるケーブル材被覆層(p)を形成して光ファイバケーブルとして使用される。
【0025】
芯材としては、メチルメタクリレート単独重合体(PMMA)、メチルメタクリレートを主成分とする共重合体や、ベンジルメタクリレートを主成分とする共重合体、フッ素化アルキルメタクリレート系重合体が望ましい。本発明に用いる芯材ポリマーとしてはPMMAが特に好ましい。
【0026】
結晶性ポリマーは、単芯の光ファイバにおいては、鞘、鞘より外側に形成された被覆層の少なくとも1つに用いられ、多芯の光ファイバにおいては、島部を構成する鞘および3層目以降、海部、保護層、被覆層の少なくとも1つに用いられる。また、本発明においては、光ファイバの白化を防ぎ、光学特性や通信用に用いた場合の信頼性を向上させるため、結晶性ポリマーの結晶サイズは3μm以下である。
【0027】
結晶性ポリマーとしては、より透明性の高いポリマーを用いることが好ましく、ポリ4−メチルペンテン、フッ化ビニリデン単位を50モル%以上含有する共重合体が挙げられる。フッ化ビニリデン単位を50モル%以上含有する共重合体としては、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロアセトン共重合体が挙げられ、特にフッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体が好ましい。
【0028】
結晶性ポリマーを用いる被覆領域以外の被覆領域に好適に使用されるポリマーとしては、フッ素化アルキルメタクリレート(共)重合体、フッ素化アルキルメタクリレート−メタクリル酸エステル(共)重合体、α−フルオロメタクリレート(共)重合体、フッ化ビニリデン系樹脂、またはそれらの混合物が挙げられる。例えば、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートの単独重合体、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート単位を含む共重合体、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルメタクリレートの単独重合体、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルメタクリレート単位を含む共重合体、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレートの単独重合体、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート単位を含む共重合体、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート/1,1,2,2,−テトラヒドロキシパーフルオロデシルメタクリレート/メチルメタクリレ−ト/メタクリル酸の共重合体、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート/1,1,2,2−テトラヒドロキシパーフルオロデシルメタクリレート/メチルメタクリレ−ト/メタクリル酸の共重合体、1,1,2,2−テトラヒドロキシパーフルオロデシルメタクリレート単位20〜45質量%とメタクリル酸単位0.05〜2質量%を含む共重合体が挙げられる。
【0029】
光ファイバは、中心から外側に向かって屈折率を低くするのが一般的であるが、多芯の光ファイバにおいては、一つの島から漏れた光が隣接する他の島内を伝搬するように、芯以外の島部を形成する層、海部に比較的屈折率の高い層を設けてもよい。
【0030】
以上に説明した構成を有するプラスチック製光ファイバは、紡糸工程において次のような冷却工程を有する製造方法によって作製される。
【0031】
紡糸ノズル(紡糸口金)から吐出された光ファイバの冷却は、用いた結晶性ポリマーの結晶性を考慮して行われ、200℃以上に保持された紡糸口金からファイバを吐出後、用いた結晶性ポリマーの融点以上の温度から、その結晶性ポリマーの融点より20℃以上低い温度、好ましくは30℃以上低い温度まで急冷することが好ましい。用いた結晶性ポリマーの融点より20℃未満低い温度まで冷却するだけでは未だ結晶が成長する可能性がある。
【0032】
このような急冷に用いる冷却液の温度は、20〜80℃の範囲が好ましい。20℃未満、特に15℃以下の冷却液で急冷すると光ファイバにボイドが発生したり、外観が白っぽくなるため、20℃以上とすることが好ましい。冷却液が80℃を超えると、結晶化が起こり易くなくため、80℃以下とすることが好ましい。また、作業者の火傷の事故防止など安全性等の点から60℃以下が更に望ましい。
【0033】
冷却にはガス等を用いることも考えられるが、伝熱効率を考慮すると液体が好ましい。冷却液としては、上記冷却温度範囲において液状であり、光ファイバに用いられるポリマー材料を溶解しないものを用いる。このような冷却液としては、水、エチレングリコール、シリコーン等が挙げられ、中でも後工程での付着物の除去が容易な水が好ましい。設備の防錆を考慮してイオン交換水を用いてもよい。
【0034】
冷却液に水を用いた場合、ファイバを冷却した後の水の除去は、紡糸速度が低い場合は自然蒸発で良いが、紡糸速度が高い場合は空気を吹き付けて除去することができる。光ファイバの最外周部にフッ素系樹脂を用いている場合は撥水効果が期待できる。
【0035】
紡糸口金の温度は、200℃以上に保持する。200℃未満では口金内でのポリマーの押出し圧力が上昇するので好ましくない。また、必要以上に温度を上げると、ポリマーの熱劣化によって光学性能が低下するので、PMMAを使用する場合は260℃以下とすることが好ましい。
【0036】
以上のように冷却液を利用して、しかも光ファイバに用いた結晶性ポリマーに最適な温度で冷却することによって、結晶サイズを3μm以下の状態に保持した透明な光ファイバを容易に得ることができる。一般に、光ファイバにおいて、結晶性ポリマーを用いる層の厚さは0.2〜数十μmの範囲が考えられる。特に多芯の光ファイバの場合には、芯部の占有率を高める目的で、層の厚さは5μm以下程度に薄くする場合が多い。
【0037】
結晶性ポリマーの結晶サイズの測定方法としては、透過偏光顕微鏡でクロスニコル観察する方法と、He−Neレーザー(波長633nm)を用いて小角光散乱(LAXS)パターンにより評価する方法がある。後者は、特に小さい結晶の場合の測定に適しており、本発明では、前者の透過偏光顕微鏡でのクロスニコル観察により結晶サイズを測定した。測定用サンプルは、光ファイバの軸方向に対して垂直に100μm程度の厚さに切り落としたものを用いた。
【0038】
紡糸工程における上記の冷却に用いられる冷却装置およびその装置を用いた冷却方法の一例を図1を用いて説明する。
【0039】
冷却水槽(c)内には所定の温度に調整した冷却水(j)を満たす。水温は系外で温度調整して循環式にしたり、所定の温度にした水を1パスで流す方式を採ることができる。例えば、系外で温度調整された冷却水は、吸水口(e)から冷却水槽(c)内へ供給され、オーバーフロー用堰(せき)(d)から溢れた冷却水は排水口(f)から系外へ排出される。このとき、排出口(f)と吸水口(e)を温度調節機および循環ポンプ等を介して接続することにより、循環式にすることができる。
【0040】
紡糸口金(a)から吐出された光ファイバ(k)は、冷却水中に設置された駆動ローラ(g)により引き取られる。その際、図1に示すように、駆動ローラ(g)と従動ローラ(h)からなるニップローラにより引き取ることが好ましい。また、紡糸口金(a)のほぼ直下から糸道を曲げることなく紡糸口金の吐出口から真っ直ぐに冷却液中に引き取ることが好ましい。これにより、ガイドでの抵抗や水面の揺れの影響を無くし、直径斑の非常に小さい光ファイバを得ることができる。この場合、液面からニップローラまでの距離は光ファイバ断面がニップローラによって変形しない程度に冷却される距離に調整する。駆動ローラ(g)が冷却水中に設置されていることにより、紡糸口金の吐出口から真っ直ぐに冷却液中に引き取ることが可能となるとともに、光ファイバが十分に冷却されるため、ノズルから駆動ローラまでの距離を短くしながらも駆動ローラで光ファイバの表面に傷をつける等の問題を起こすことなく引き取ることができる。また、単にガイドローラを設けた場合に比べて、ローラの回転や接触抵抗が良好となり、糸揺れや速度のばらつきを抑えることができる。駆動ローラ(g)と従動ローラ(h)からなるニップローラは、ニップローラ前後で光ファイバの張力に変化が生じた場合の光ファイバの滑りを防止し、引き取りを安定化させるため、糸道を変更する場合は駆動ローラ(g)に沿わせてローラとの接触長を長くすることが好ましい。一般に、ローラの材質はシリコンゴム、バイトン、ネオプレン等が好ましく用いられるが、駆動側は磨耗が懸念されるので金属ローラが好ましい。ニップローラを通過した後の光ファイバはガイド(i)に接触させても何ら問題は無く、ガイドの位置や数も限定されない。
【0041】
紡糸口金と冷却槽あるいは冷却液面との間の距離は特に限定されないが、冷却槽の冷却液により口金が冷却されたり、冷却液の蒸気が口金に触れないように適当な距離をおくことが好ましい。また、紡糸口金と冷却槽との間の領域においてファイバの側面あるいは周囲から冷却風(b)を与えることが好ましい。冷却風(b)を与えることにより、ファイバ表面の冷却が促進されるとともに、ノズル下の雰囲気が安定化され、直径斑をさらに小さくすることができる。
【0042】
以上のようにして吐出後のファイバを引き取りながら冷却することによって、紡糸速度が20m/分以上、更には30m/分以上であっても、紡糸口金から引き取り機(ここでは駆動ローラ(g))までの距離をさほど長く取らなくても、光ファイバを十分に冷却でき、直径斑の少ない光ファイバを得ることができる。
【0043】
本発明の冷却方法は、上記のような単芯の光ファイバ及び多芯の光ファィバの製造に限定されるものではなく、芯およびその被覆領域を有する光ファイバであれば、多層光ファイバやGI光ファイバ等のあらゆる光ファイバの紡糸工程に適用できる。
【0044】
通常、光ファイバは、通信用として使用する場合はケーブル材を被覆して、例えば図2に示す構成として使用される。このケーブル材の被覆は、一般的には紡糸工程とは別工程で行われるが、工程の短縮や、光ファイバとケーブル材の密着性を向上させる目的で同時に行うこともできる。
【0045】
ケーブル材に用いられる材料としては、各種の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、形状記憶樹脂、金属微粉末等を含んだ樹脂等が使用できる。熱可塑性樹脂で好ましいものは、塩化ビニル、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニルとエチレン−酢酸ビニル共重合体のブレンド品が挙げられ、また、ポリウレタン樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、各種の形状記憶樹脂、金属微粉や金属短繊維、金属長繊維を含んだ各種熱可塑性樹脂が挙げられる。中でも、エチレン−酢酸ビニル共重合体、PVCとエチレン−酢酸ビニル共重合体のブレンド品等の弾性率の小さい樹脂が好ましく用いられる。また、各種樹脂に可塑剤を添加してもよく、塩化ビニルの場合、例えばジオクチルフタレート、トリオクチルトリメリテート、トリクレジルフォスフェート等が用いられる。但し、可塑剤は光ファイバへ移行して光ファイバの光学性能、機械特性に支障を来す場合が有るので注意が必要である。また、熱硬化性樹脂としてはフェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂等が用いられ、光硬化性樹脂としては例えばメチルメタクリレート(MMA)に光重合開始剤を用いた物等、形状記憶樹脂としてはアクリル樹脂、トランスイソプレン、ポリウレタン、ポリノルボンネル、スチレン/ブタジエン共重合体等が用いられる。
【0046】
光ファイバの延伸は、光ファイバの冷却硬化後あるいはその光ファイバにケーブル材を被覆した後に行う。延伸倍率は好ましくは0.8〜3.5倍の範囲内で必要な光学特性と機械的特性を満足するように決定する。必要に応じて、延伸前の予熱炉、或いは延伸後の熱セット炉を設置して延伸工程を実施してもよい。延伸炉の前に温水槽を設置して予熱することによって延伸の予備加熱を行うことも可能である。紡糸と延伸をインラインで実施する場合は、ノズル下の冷却水槽の温度を調整することによって、紡糸直後のファイバの冷却と延伸の予備加熱を兼ねることができる。延伸工程において、光ファイバが結晶性ポリマーの融点以上に加熱される場合には、延伸工程後に吐出後の冷却工程と同様な液体冷却工程を設置することが好ましい。
【0047】
【実施例】
以下、本発明を実施例を挙げて説明する。
【0048】
本実施例において、全モード励振における伝送帯域は、52m−2mカットバック法により、励振NAが0.65における50m長の光−3dB帯域をインパルス応答法にて測定した。測定装置として浜松ホトニクス(株)製の光サンプリングオシロスコープ、光源として東芝(株)製半導体レーザーTOLD9410を用い、発光波長は650nmとした。
【0049】
また伝送損失は、光源からの光を分光器を用いて波長650nmに単色化し、励振NAはレンズを用いて0.1に合わせ、25m−5mカットバック法により測定した。
【0050】
また屈折率は、アッベの屈折計を用いて温度20℃におけるnDを測定した。
【0051】
(実施例1)
本実施例では3層構造の単芯の光ファイバを作製した。芯材としては、第1コアとして屈折率1.492のPMMA、2層目の第2コアとして屈折率1.46の、1,1,2,2−テトラヒドロパーフルオロデシルメタクリレート(17FM)25質量%とMMA74質量%とメタクリル酸(MAA)1質量%との共重合体を用いた。鞘となる3層目には、結晶性ポリマーを用い、この結晶性ポリマーとして屈折率1.402のフッ化ビニリデン(VdF)/テトラフルオロエチレン(TFE)(80/20mol%)共重合体を用いた。
【0052】
上記の各ポリマーを220℃に設定された紡糸口金に供給して紡糸を行い、その後、図1に示す冷却装置を用いて冷却を行った。口金下1mの領域で20℃、0.3m/minの冷却風を与え、30℃の冷却水を供給している冷却水槽中で光ファイバを50℃まで急冷し、水中に設けたニップローラにて31m/分の速度で引き取り、外径φ1.4mm±4μmの光ファイバを得た。
【0053】
次に、この光ファイバを150℃に設定された加熱BOXで加熱して約2倍の延伸を行い、30℃の水槽で冷却してファイバの温度を40℃にして引き取り、外径φ1mmの多芯の光ファイバを得た。
【0054】
得られた光ファイバの3層目には結晶が疎らに観られ、その結晶サイズは1μm以下であった。この光ファイバは極めて透明で、伝送損失は145dB/km、伝送帯域は500MHzであった。
【0055】
(実施例2)
本実施例では海島構造を有する多芯の光ファイバを作製した。
【0056】
島部は、3層からなり、芯材として屈折率1.492、メルトフローレート3g/10分のPMMAを用い、2層目として屈折率1.488の17FM/MMA/MAA=4/95/1(質量%)の共重合体を用い、3層目として屈折率1.402のVdF/TFE=80/20(mol%)の共重合体を用いた。海部および保護層として屈折率1.478の17FM/MMA/MAA=14/85/1(質量%)の共重合体を用いた。
【0057】
上記の各ポリマーを210℃に設定された紡糸口金に供給して紡糸を行い、その後、図1に示す冷却装置を用いて冷却を行った。口金下1mの領域で20℃、0.2m/minの冷却風をファイバの周囲から与え、その後、30℃の冷却水を供給している冷却水槽中でファイバを50℃まで冷却し、水中に設けたニップローラにて35m/minの速度で引き取り、外径φ1.75mm±3μmで、芯の占有率が65%、2層目の占有率が15%、保護層の占有率が10%、芯の数が37個の多芯の光ファイバを得た。
【0058】
次に、この光ファイバを155℃に設定された加熱BOXで加熱して約2倍の延伸を行い、30℃の水槽で冷却してファイバの温度を50℃にして引き取り、外径φ0.75mmの多芯の光ファイバを得た。
【0059】
得られた多芯の光ファイバの外観は極めて透明であった。結晶サイズ確認のため、3層目の樹脂を海材に用いて同様の紡糸を行い、得られたファイバから結晶サイズを測定したところ、2μm以下であった。
【0060】
得られた多芯の光ファイバの外周に塩化ビニルとエチレン/酢酸ビニル共重合体のブレンド品(東洋インキ社製:314)の被覆を施し、外径φ2.2mmの光ファイバケーブルを得た。伝送損失は155dB/km、伝送帯域は550MHzであった。
【0061】
この光ファイバケーブルの一端に650nmのLED光源を設置し、受光側に250μmの受光素子を取り付けた。受光素子の位置を光ファイバ断面の中心付近に設置した場合と外周付近に設置した場合とで、受光レベルに全く差が無かった。
【0062】
(比較例1)
紡糸口金から吐出後のファイバの冷却を20℃、0.5m/分の冷却風の送付のみで行ってファイバを引き取り、延伸工程においても水槽による冷却を行わなかった以外は、実施例2と同様にして多芯の光ファイバを作製した。
【0063】
得られた光ファイバの断面は変形しており、外観も白っぽくなっていた。この部分の結晶サイズは30μm程度と推定される。また、直径斑も延伸前で±25μmと大きかった。
【0064】
この光ファイバの外周に塩化ビニルとエチレン/酢酸ビニル共重合体のブレンド品(東洋インキ社製:314)の被覆を施し、外径φ2.2mmの光ファイバケーブルを得た。この光ファイバケーブルの伝送損失は200dB/km、伝送帯域は450MHzであった。
【0065】
この光ファイバケーブル一端に650nmのLED光源を設置し、受光側に250μmの受光素子を取り付けた。受光素子の位置を多芯光ファイバ断面の中心付近に設置した場合は外周付近に設置した場合に対して、受光レベルが−1.5dB(相対値)であった。
【0066】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように本発明によれば、芯の被覆領域に結晶性ポリマーを用いても、その結晶化を抑制することができ、直径斑の低減された、光学特性に優れ信頼性の高いプラスチック製光ファイバが得られる。
【0067】
また、吐出後のファイバを比較的省スペースで十分に冷却することができ、20m/分以上の高速で引き取っても直径斑の低減された光ファイバを得ることができる。よって、光学特性に優れた光ファイバを高速に且つ安定して生産できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の光ファイバの製造に用いられる冷却装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】 本発明の光ファイバの構造の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
a 紡糸口金
b 冷却風
c 冷却水槽
d オーバーフロー用堰
e 吸水口
f 排水口
g 駆動ローラ
h 従動ロ−ラ−
i ガイド
j 冷却水
k 光ファイバ
l 芯
m 鞘
n 海部
o 保護層
p ケーブル材被覆層

Claims (7)

  1. 主として光の伝送路となる芯とその被覆領域を有し、該被覆領域の少なくとも1部に結晶性ポリマーからなる領域を有するプラスチック製光ファイバの製造方法であって、
    200℃以上に保持された紡糸ノズルからファイバを吐出後、このファイバを20〜80℃の液体中へ導入して冷却しながら引き取る工程を有し、
    前記液体中に設置した前記紡糸ノズル直下の引き取り用駆動ローラを用いて、前記ファイバを、前記紡糸ノズルからの糸道をまっすぐに前記紡糸ノズル直下から前記液体中へ引き取り、
    前記液体を20〜80℃の範囲内の所定の温度に調整しながら前記ファイバの引き取りを行い、前記ファイバを前記結晶性ポリマーの融点より20℃以上低い温度へ冷却し、
    前記紡糸ノズルからファイバを吐出後、前記液体中へ導入するまでの間にこのファイバに冷却風を与える、プラスチック製光ファイバの製造方法。
  2. 前記ファイバを前記結晶性ポリマーの融点より30℃以上低い温度冷却する、請求項1に記載のプラスチック製光ファイバの製造方法。
  3. 前記液体による冷却後の前記結晶性ポリマーの結晶サイズが3μm以下である、請求項1又は2に記載のプラスチック製光ファイバの製造方法。
  4. 前記結晶性ポリマーとして、ポリ4−メチルペンテン、フッ化ビニリデン単位を50モル%以上含有する共重合体、から選ばれる1種類以上を用いる、請求項1、2又は3に記載のプラスチック製光ファイバの製造方法。
  5. 前記液体の温度調整は、前記液体を収容する槽内へ温度調整された液体を供給し、前記槽内から液体を排出し、排出された液体を温度調整した後に前記槽内へ供給する循環方式によって行う、請求項1から4のいずれか一項に記載のプラスチック製光ファイバの製造方法。
  6. 前記液体の温度調整は、前記液体を収容する槽内へ温度調整された液体を供給し、前記槽内から液体を排出する1パス方式によって行う、請求項1から4のいずれか一項に記載のプラスチック製光ファイバの製造方法。
  7. 前記ファイバの引き取りは、前記引き取り用駆動ローラと該引き取り用駆動ローラに従動する従動ローラとの間に前記ファイバを挟んで行う、請求項1から6のいずれか一項に記載のプラスチック製光ファイバの製造方法。
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