JP4336926B2 - ヒトp51遺伝子及びその遺伝子産物 - Google Patents
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Description
本発明は、新規ヒト遺伝子に関する。より詳細には、癌抑制遺伝子として知られている、ヒトp53遺伝子及びヒトp73遺伝子と類似性を有する新規なヒト遺伝子及びその遺伝子産物に関する。
背景技術
p53蛋白はDNA型腫瘍ウイルスSV40の大型T抗原と結合する核内蛋白として発見され、その遺伝子(p53遺伝子)がクローニングされている。当初p53遺伝子は、ras遺伝子と共に細胞に導入することによって胚由来細胞がトランスフォームされることから、癌遺伝子と考えられていた。しかしその後の研究により当初得られたp53遺伝子のクローンは変異型であり、野生型はむしろ変異型のトランスフォーム能を抑制することが明らかになった。今ではp53遺伝子の欠失若しくは異常が多くのヒトの癌において検出されており、また高発癌性遺伝病として知られるLi−Fraumeni症候群においてp53遺伝子の配偶子変異が発見されたこと等から、p53遺伝子は重要な癌抑制遺伝子と考えられるに至っている〔Baker,S.J.,et al.,Science,244,217−221(1989):Nigro,J.M.,Nature,342,705−708(1989)〕。
ヒトp53蛋白は、393個のアミノ酸からなり、大きくN末端ドメイン(1〜101番目のアミノ酸領域)、コアドメイン(102〜292番目のアミノ酸領域)、及びC末端ドメイン(293〜393番目のアミノ酸領域)の3領域に分けられる。N末端ドメインは、酸性アミノ酸や高プロリン領域などの転写制御に必要な領域を含んでおり、転写活性化ドメインであると考えられる。中央のコアドメインは、3カ所の疎水性部位を含んでおり、塩基配列に特異的なDNA結合に関与するドメインである。またC末端ドメインは、多くの塩基性アミノ酸及び四量体形成に必要な領域を含んでおり、非特異的DNA結合やDNA損傷の認識並びにトランスフォーム抑制などの役目を担っていると考えられている。
ヒト癌細胞に検出されるp53遺伝子の異常の多くがミスセンス変異で、その殆どがN末端から100〜300アミノ酸の部位に相当するコアドメイン、特に種を越えて保存されたホット・スポット(Hot Spot)と称される領域に集中している。かかるコアドメイン中のホット・スポット領域はp53蛋白とDNAとの結合に関与する領域であり、実際、当該領域の変異によってDNAとの特異的結合が障害される。
以上のことから、p53蛋白は、他の遺伝子に特異的に結合して当該遺伝子の発現を調節する転写制御因子としての役割をもつことが明らかとなった。
p53蛋白によって転写が誘導される遺伝子としては、p21遺伝子〔WAF1或いはCIP1、或いはSDI1と言われる(EI−Dairy,W.S.,et al.,Cell,75,817(1993));MDM2(Wu.X.,et al.,Genes Dev.,7,1126(1993));MCK(Weintraub.H.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88,4570(1991):Zambetti.G.P,et al.,Genes Dev.,6,1143(1992))〕、GADD45〔Kastan,M.B.,et al.,Cell,71,587(1992)〕、サイクリンG〔Cyclin G:Okamoto,K.,EMBO J.,13,4816(1994)〕、BAX〔Miyashita,T.,et al.,Cell,80,293(1995)〕、及びインスリン様成長因子結合蛋白3〔IGF−BP3:Buckbinder,L.,et al.,Nature,377,646(1995)〕などを例示することができる。
p21遺伝子がコードする蛋白質は、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)の阻害蛋白質であり、野生型p53蛋白がp21を介して細胞周期を抑制的に調節することが判明している〔Harper,J.W.,et al.,Cell,75,805(1993):Xiong,Y.,et al.,Nature,366,707(1993):Gu,Y.,et al.,Nature,366,701(1993)〕。またp21遺伝子は、増殖細胞核抗原(PCNA)に結合して、直接DNAの複製を抑制することも報告されている〔Waga,S.,et al.,Nature,369,574(1994)〕。更にp21遺伝子は、細胞の老化を誘導し、DNA合成を抑制する作用を有するSDI1遺伝子と同一の遺伝子であることが判明している〔Noda,A.,et al.,Exp.Cell Res.,211,90(1994)〕。
MDM2は、p53蛋白に結合して該蛋白の転写制御活性を不活性化することから、負のフィードバック調節因子として作用していると推測されている。
IGF−BP3はIGFシグナル化の負の調節因子である。このためp53蛋白によるIGF−BP3遺伝子の増加は、結果として、p53蛋白がIGF依存性細胞の成長抑制を導く可能性を示唆する。
また、野生型p53蛋白は、骨髄性白血病性細胞のアポトーシスを誘導することが報告されている〔Yonish−Rouach,E.,et al.,Nature,352,345(1991)〕。放射線照射による胸腺細胞アポトーシスの誘導はp53欠損マウスには起こらず〔Lowe,S.W.,Nature,362,847(1993):Clarke,A.R.,et al.,Nature,362,849(1993)〕、またp53蛋白は、水晶体、網膜、脳において正常網膜芽腫遺伝子(RB遺伝子)活性を失っている細胞のアポプティックな死を誘導する〔Pan,H.,and Griep,A.E.,Genes Dev.,8,1285(1994):Morgenbesser,S.D.,et al.,Nature,371,72(1994):Howes,K.A.,Genes Dev.,8,1300(1994):Symonds,H.,et al.,Cell,78,703(1994)〕。ホワイト氏は、p53蛋白はRB遺伝子変異の探索に有用であり、またRB遺伝子変異を含む細胞のアポトーシスを誘導するだろうと提言している〔White,E.,Nature,371,21(1994)〕。
また、温度感受性を持つp53遺伝子のみが発現しているマウス赤芽球性白血病細胞系では温度の下降で変異p53遺伝子が野生型に戻り、アポトーシスを誘導し、そこから取り出した変異p53遺伝子をp53欠損線維芽細胞系が軟寒天培地内で増殖できる能力を付与する(anchorage−independencyを与える)〔Xu et al.,Jpn.J.Cancer Res.86:284−291(1995);Kato et al.,Int.J.Oncol.9:269−277〕。
BAXはアポトーシスの抑制因子であるbcl−2に結合することができ、アポプティックな細胞死を促進する〔Oltvai,Z.M.,et al.,Cell,74,609(1993)〕。p53蛋白によるBAX遺伝子の増加とbcl−2の減少は、マウス白血病細胞株M1のアポトーシスに関連しており〔Miyashita,T.,et al,,Oncogene,9,1799(1994)〕、またアポトーシスに対するシグナル・トランスデューサーの一つであるFasが、非小細胞肺癌と赤白血病において増加しているという報告がある〔Owen−Schaub,L.B.,et al.,Mol.Cell Bioll.,15,3032(1995)〕。
以上述べてきたような多くの研究により、p53蛋白はp21遺伝子に限らず様々の遺伝子の転写を亢進或いは抑制することが明らかになってきている。また、転写調節機能が欠落した変異型p53蛋白においても、細胞内の他の蛋白質と相互作用してシグナルを伝達する能力やDNAの損傷修復機能があることが示されている。
今までわかっているp53蛋白の機能としては、例えば、転写調節機能、他の細胞内蛋白質と結合することによるシグナル伝達機能、DNA複製に関する蛋白質複合体の構成要素、DNA結合能、エキソヌクレアーゼ活性が挙げられ、これらの機能が複合的に作用する結果、細胞の細胞周期停止、アポトーシス誘導、DNA修復、DNA複製調節及び分化誘導を引き起こすものと考えられる。
さらにp53蛋白の機能は、遺伝子に損傷が生じたときのみに働くわけではなく、例えばウイルス感染、サイトカイン刺激、低酸素状態、ヌクレオチドプールの変化、薬物による代謝異常等の各種のストレスが生体組織に及ぶと、その刺激を引き金として、p53蛋白の量的若しくは質的な変化が起こると言われている。量的・質的調節を受けたp53蛋白は、他の蛋白質との相互作用によるシグナル伝達や他の遺伝子の転写制御などの機能を発現し、生体ストレスを受けた生体組織の細胞のDNAを複製調節したり、細胞周期を停止させて細胞を修復したり、アポトーシスによって細胞を排除したり、或いは細胞の分化を促進したりすることで生体組織をストレスから防御するのに寄与していると考えられている〔Ganman,C.E.,et al.,Genes Dev.,9,600−611(1995):Graeber,T.G.,et al.,Nature,379,88−91(1996):Linke,S.P.,et al.,Genes Dev.,10,934−947(1996):Xiang,H.,et al.,J.Neurosci.,16,6753−6765(1996)〕。
ヒト腫瘍の半数にp53遺伝子の変異が存在することから、近年腫瘍の診断や治療に対して、p53遺伝子及びその蛋白の臨床的応用が検討されている。p53遺伝子の変異部位を特異的に認識するプライマーを用いてPCRを行い、リンパ節や体液中に浸潤した腫瘍細胞を検出する方法は、腫瘍の浸潤範囲或いは再発などを予測するための有効な診断方法となりうる〔Hayashi,H.,et al.,Lancet,345,1257−1259(1995)〕。
更にp53蛋白には、アポトーシス誘導能があることから、ウイルス・ベクターを用いて腫瘍細胞に野生型p53遺伝子を導入する遺伝子治療が米国で行われており、その有効性が報告されている〔Roth,J.A.,et al.,Nature Med.,2,985−991(1996)〕。また最近、日本においても数カ所で当該遺伝子治療が開始されている。
その一方で、ヒト腫瘍の半数以上はp53遺伝子の変異を有しておらず、このことからp53蛋白に類似する腫瘍形成抑制機能を有する他の蛋白が存在する可能性が指摘されている。
本発明者らは、先にp53の遺伝子変異が非ホジキン型悪性リンパ腫(NHL)の前兆指標にならないことを見出した。
また、近年、上記のp53遺伝子と高い相同性を有するp73と命名された新規な遺伝子が確認された〔Kaghad,M.,et al.,Cell,90,809−819(1997)〕。上記本発明者らの知見によると、p73蛋白は、転写活性化ドメイン(1〜45番目のアミノ酸領域)においてヒトp53蛋白と29%の相同性を示し、6つの変異のあるホット・スポットと呼ばれる相補的な保存領域を持つDNA結合ドメイン(113〜290番目のアミノ酸領域)における相同性は63%で、オリゴメリゼーション領域(319〜363番目のアミノ酸領域)の相同性は38%である。しかしながら、C末端ドメインに関してはp73蛋白とp53蛋白との間に有意な相同性は認められていない。
p73蛋白の過剰発現によって、神経芽腫細胞株やSAOS2細胞(骨肉腫細胞株)の成長が抑制されること、またp73蛋白の一時的な発現によってSAOS2細胞とベビー・ハムスターの腎細胞のアポトーシスが促進されることが報告されている〔Bruce Clurman and Mark Groudine,Nature,389,122−123(1997):Christine,A.,et al.,Nature,389,191−194(1997)〕。
しかしながら、p73蛋白は、正常組織においては低いレベルでしか発現しない点でp53蛋白と少々異なっている。さらに、神経芽腫細胞株におけるp73蛋白の発現は、紫外線照射や低用量のアクチノマイシンDによっては誘導されない点においてもp53蛋白と異なっていた。
このようにp73蛋白は、p53蛋白と全く同一の機能を保有するものではなく、今後の更なる研究が待たれているのが現状である。今までの観察から、このp73は神経芽腫における推定的な腫瘍抑制因子として位置づけられるとの報告もある。
本発明は、ヒト腫瘍の形態形成に関連する新たな遺伝子及びその遺伝子産物に関する情報を提供することを目的とする。より詳細には、本発明は前述するように癌抑制遺伝子として公知のp53遺伝子と類似性を有する新規な遺伝子並びにその遺伝子産物を提供することを目的とする。
更に本発明は、該遺伝子の部分DNAからなるプライマーやプローブ、該遺伝子を含むベクター、該ベクターが導入された形質転換体、該形質転換体を培養することからなる、上記遺伝子産物の製造方法を提供することを目的とする。
発明の開示
前述するように、ヒト腫瘍組織の半数以上は癌抑制遺伝子であるp53遺伝子の変異体を有していないことから、従来からp53蛋白以外にも腫瘍形成抑制機能を果たしている遺伝子産物(蛋白)が存在している可能性が示唆されている。
このため、本発明者らは、かかる腫瘍形成抑制機能に関連する新規遺伝子並びにその遺伝子産物を探索すべく鋭意研究を重ねていたところ、上記p53蛋白と同様な活性を有する蛋白をコードするヒト由来の新規遺伝子を見いだし、該遺伝子又はその遺伝子産物がアポトーシスに有意に関連していることを確認した。本発明はかかる知見に基づくものである。
すなわち、本発明は下記1〜8に掲げるヒトp51遺伝子及びそれに関連する遺伝子である。
1.以下の(a)又は(b)の蛋白質をコードする遺伝子:
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列を有する蛋白質
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、且つp51活性を有する蛋白質。
2.以下の(a)又は(b)のDNAを有する遺伝子:
(a)配列番号2に示される塩基配列において、塩基番号145〜1488に示される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号2に示される塩基配列において、塩基番号145〜1488に示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つp51活性を有する蛋白質をコードするDNA。
3.配列番号2に示される塩基配列を有する上記2記載の遺伝子。
4.以下の(a)又は(b)のDNAを有するcDNA
:
(a)配列番号2に示される塩基配列において、塩基番号145〜1488に示される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号2に示される塩基配列において、塩基番号145〜1488に示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つp51活性を有する蛋白質をコードするDNA。
5.配列番号2に示される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリ ダイズすることを特徴とするDNA。
6.配列番号2の塩基番号145〜1488に示される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることを特徴とするDNA。
7.プライマーとして用いられる上記5記載のDNA。
8.プローブとして用いられる上記5記載のDNA。
さらに本発明は、下記9〜14に掲げるヒトp51蛋白及びそれに関連する蛋白質若しくは(ポリ)ペプチドである。
9.以下の(a)又は(b)に示す蛋白質:
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列を有する蛋白質
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、且つp51活性を有する蛋白質。
10.配列番号1において、少なくともアミノ酸番号1〜59、アミノ酸番号142〜321及びアミノ酸番号359〜397で示されるアミノ酸 配列を有する上記9記載の蛋白質。
11.配列番号1において、転写活性化機能、DNA結合性及びオリゴメリゼーション機能よりなる群から選択される少なくとも1種の機能を有するアミノ酸配列を有するポリペプチド。
12.以下の(a)又は(b)に示すポリペプチド:
(a)配列番号1においてアミノ酸番号1〜59で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド
(b)(a)に示すアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、且つ転写活性化機能を有するポリペプチド。
13.以下の(a)又は(b)に示すポリペプチド:
(a)配列番号1においてアミノ酸番号142〜321で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド
(b)(a)に示すアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、且つDNA結合性を有するポリペプチド。
14.以下の(a)又は(b)に示すポリペプチド:
(a)配列番号1においてアミノ酸番号359〜397で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド
(b)(a)に示すアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、且つオリゴメリゼーション機能を有するポリペプチド。
更にまた本発明は、前述するp51遺伝子を含有するベクター、該ベクターで形質転換された宿主細胞、並びに該宿主細胞を培地中で培養し、得られる培養物から蛋白質を回収することを特徴とする、p51蛋白の製造方法にかかるものである。
なお、本発明における「p51」という称号は、単に本明細書において便宜上使用するものであって、本発明の遺伝子及びその遺伝子産物(蛋白質)等をなんら限定するものではない。
また、本発明において遺伝子(DNA)とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖及びアンチセンス鎖といった各1本鎖のDNAを包含する趣旨であり、またその長さに何ら制限されるものではない。従って、本発明の遺伝子(DNA)には、特に言及しない限り、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNA、及びcDNAを含む1本鎖DNA(センス鎖)、並びに該センス鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(アンチセンス鎖)、およびそれらの断片のいずれもが含まれる。
以下、本明細書におけるアミノ酸、ペプチド、塩基配列、核酸等の略号による表示は、IUPAC、IUBの規定、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(日本、米国及び欧州の三極特許庁)及び当該分野における慣用記号に従うものとする。
(1)p51遺伝子及びその同効物
本発明は、p53蛋白の作用又はその機能と同様若しくは同等の作用又は機能を有する蛋白質をコードするヒト由来の新規遺伝子に関する。
本発明の遺伝子は、従来公知のp53遺伝子及びp73遺伝子の配列から鋭意探索して選択された特定領域を利用して創意工夫のうえ、新たに創設したプライマーを用いてPCRを行うことによって得られたものである。具体的には、後記実施例で示すような創設プライマーを用いてPCRを行うことによってp53遺伝子及びp73遺伝子とは同一ではないが、両者に類似する遺伝子断片を得た。このDNA断片をプローブとして使用することにより、ヒト骨格筋cDNAライブラリーから任意に選択したcDNAクローン中に、p53蛋白のアミノ酸配列と高い相同性を有する新規蛋白をコードするCDNAクローンを単離することに成功した
得られたcDNAから演繹されたアミノ酸配列の計算分子量は約50,894Daであったので、本発明者らは、便宜上該cDNA(DNA)を「ヒトp51A遺伝子(若しくは単にp51A遺伝子)」と命名し、さらに該遺伝子によってコードされるアミノ酸配列を有する蛋白質を「p51A蛋白質(若しくはp51A蛋白)」と称した。
その後の研究により、p51cDNAクローンがコードする遺伝子には、選択的スプライシング変異体(alternative splicing variant)があることが分かった。また種々のヒト組織における当該遺伝子転写産物の発現産生状況を調べた結果、当該産物(蛋白質)には主に短いフォームと長いフォームとにスプライスされた形態が存在することが明らかとなった。
これらのスプライシング変異体にかかるp51cDNAから演繹したアミノ酸情報によると、短いフォームのスプライシング変異体は、前述する448アミノ酸(分子量約50.9kDa)を有する蛋白質(p51A蛋白)をコードする遺伝子(p51A遺伝子)であり、また長いフォームのスプライシング変異体は641アミノ酸(分子量約71.9kDa)を有する蛋白質をコードする遺伝子であった。本発明において、便宜上、当該後者の遺伝子を「ヒトp51B遺伝子(若しくは単にp51B遺伝子)」と称することにし、また該遺伝子によってコードされるアミノ酸配列を有する蛋白質を「p51B蛋白質(若しくはp51B蛋白)」と称する。
また本発明においては、前記p51A遺伝子及びp51B遺伝子を総括して「p51遺伝子」と呼び、p51A蛋白及びp51B蛋白を総括して「p51蛋白」と呼ぶことにする。
なお、p51遺伝子のスプライシング変異体には、TA領域の一部を欠損しているもの等、複数の存在が確認されている。
これらのp51遺伝子の発現産物を調べたところ、本発明のp51遺伝子産物(p51蛋白)は、p53蛋白と類似の転写活性化作用、細胞の成長抑制活性、及びアポトーシス誘導活性を示した。またp51遺伝子のヒト組織における発現は、p53遺伝子の発現よりも組織限定的であり、また同様に組織限定的に発現するp73遺伝子の組織分布と重複するものの、その組織分布よりも広範囲にわたるものであった。更に、ヒト腫瘍組織又は腫瘍細胞株においてp51遺伝子の変異が確認された。
これらの知見から、本発明のヒトp51遺伝子は、p53腫瘍抑制遺伝子ファミリーの新たなメンバーであることが強く示唆された。
本発明のp51遺伝子の具体例としては、後述する実施例1に示されるクローン(p51A、p51B)が有するDNA配列を有するものを挙げることができる。
p51Aクローンが有する遺伝子としては、後記配列表中、配列番号1に示される448アミノ酸残基からなる蛋白質をコードする遺伝子(1344ヌクレオチド)を挙げることができる。具体的には、配列番号2において、オープンリーディングフレームに相当する145〜1488位に示される塩基配列を有する遺伝子である。
なお、当該p51A cDNAクローンの全長塩基配列は、配列番号2に示すとおり2816ヌクレオチドである。本発明のp51A遺伝子には、当該配列番号2で示される塩基配列を含む遺伝子が含まれる。なお、配列番号2に示す塩基配列において、開始コドン(ATG)は塩基番号145−147番目に位置しており、ポリアデニレーションシグナル(AATAA)は、2786−2791に位置している。
なお、p51A遺伝子でコードされる448個のアミノ酸を有するp51A蛋白のアミノ酸配列を配列番号1に示すが、当該蛋白は、アミノ酸番号1〜59位で示される転写活性化領域、アミノ酸番号142〜321位で示されるDNA結合領域及びアミノ酸番号353〜397位で示されるオリゴメリゼーション領域を有する。
該p51A蛋白の各領域のアミノ酸配列について、公知蛋白質p53及びp73それぞれの相当領域に対する相同性をGCGソフトウェア(ウィスコンシン・配列分析パッケージ、ジェネティクス・コンピューター・グループ製)を使用するFASTAプログラムを使用して(Person,W.R.and Lipmnan,D.J.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,85,1435−1441(1988))調べた結果、表1に示す結果が得られた(図1、図2参照)。参考のため、同じ測定方法によって求めたp53蛋白質とp73β蛋白質との相同性を併記する。
一方、p51Bクローンが有する遺伝子としては、後記配列表中、配列番号4に示される641アミノ酸残基からなる蛋白質をコードする遺伝子(1923ヌクレオチド)を挙げることができる。具体的には、配列番号5において、オープンリーディングフレームに相当する145〜2067位に示される塩基配列を有する遺伝子である。
なお、当該p51B cDNAクローンの全長塩基配列は、配列番号5に示すとおり2270ヌクレオチドである。本発明のp51B遺伝子には、当該配列番号5で示される塩基配列を含む遺伝子が含まれる。
p51B遺伝子でコードされる641個のアミノ酸を有するp51B蛋白のアミノ酸配列を配列番号4に示すが、当該蛋白は、アミノ酸番号1〜59位で示される転写活性化領域、アミノ酸番号142〜321位で示されるDNA結合領域及びアミノ酸番号353〜397位で示されるオリゴメリゼーション領域を有し、更にアミノ酸番号は特定できないがC末端側の領域に付加的配列(SAMドメイン)を有している。ここでは、当該SAMドメインを含むアミノ酸番号353〜641位の領域を広義のオリゴメリゼーション領域とする。
該p51B蛋白の各領域のアミノ酸配列について、P51A蛋白と同様に、公知蛋白質p73αの相当領域に対する相同性をGCGソフトウェアを使用するFASTAプログラムを使用して調べた結果、図3に示す結果が得られた。図3において、四角のボックスで囲まれた部分が、p51B蛋白とp73α蛋白とが共通するアミノ酸配列であり、これから本発明のp51B蛋白のアミノ酸配列は広範囲にわたってp73α蛋白の配列と相同性があることがわかる。
このように本発明のp51遺伝子には、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質をコードする塩基配列を有するヒトp51A遺伝子、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質をコードする塩基配列を有するヒトp51B遺伝子が含まれる。ただし、本発明のP51遺伝子は特にこれらに限定されることなく、当該ヒトp51遺伝子の相同物をも包含するものである。
ここで「ヒトp51遺伝子の相同物」とは、前述するp51A遺伝子またはp51B遺伝子と配列相同性を有し、上記構造的特徴並びに遺伝子発現パターンにおける共通性、及び上記したようなそのもの若しくはその遺伝子産物(蛋白質)の生物学的機能の類似性によりひとつの遺伝子ファミリーと認識される一連の関連遺伝子を意味するものであり、ヒトp51遺伝子のスプライシング変異体やアレル体(対立遺伝子)も当然含まれる。
かかる相同物としては、例えば配列番号1で表される特定のアミノ酸配列において、一乃至は複数の改変を有する蛋白質であって、且つ該配列を有するp51A蛋白と同様な作用又は機能を有する蛋白質をコードする遺伝子を挙げることができる。当該遺伝子としては、好適には配列番号1で表されるアミノ酸配列と一定の相同性を保持したアミノ酸配列をコードするものを挙げることができる。
上記アミノ酸配列における相同性は、前述するGCGソフトウェアを使用するFASTAプログラムを使用した測定において、通常、アミノ酸配列の全体で約45%以上、好ましくは約50%以上であることができる。好ましくは転写活性化領域、DNA結合領域またはオリゴメリゼーション領域のいずれか少なくとも一つ領域において一定以上の相同性を有することが好ましく、例えば、転写活性化領域における相同性として約35%以上、好ましくは45%以上、DNA結合領域における相同性として88%以上、好ましくは約90%以上、オリゴメリゼーション領域における相同性として約70%以上、好ましくは約80%以上のいずれかを挙げることができる。
即ち、本発明の遺伝子には、上記性質を満たす限り、例えば配列番号1に示されるアミノ酸配列において1又は数個乃至複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなる蛋白質をコードする塩基配列を含む遺伝子が包含される。
ここで、「アミノ酸の欠失、置換又は付加」の程度及びそれらの位置等は、改変された蛋白質が、配列番号1または4で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質(p51A蛋白またはp51B蛋白)と同様の機能を有する同効物であれば特に制限されない。すなわち、本発明において「p51活性」とは、p51A蛋白またはp51B蛋白で代表されるp51蛋白が有する活性並びに機能を意味し、具体的には、腫瘍細胞成長抑制活性、アポトーシス誘導活性、細胞における転写調節機能等を挙げることができる。
本発明のp51蛋白は、細胞増殖抑制因子として知られているp53蛋白と同様な作用を有していると思われる。このため本明細書において、p51蛋白の作用又は機能として表わされる「p51活性」とは、公知のp53蛋白の様々な作用又は機能によって定義することも可能である。
ここでp53蛋白の作用又は機能としては、細胞における転写調節機能、他の細胞内蛋白質と結合することによるシグナル伝達機能、DNA複製に関する蛋白質複合体の構成要素としての働き、DNA結合能及びエキソヌクレアーゼ活性等、またこれらの機能が複合的に作用することに発揮される細胞の細胞周期停止機能,アポトーシス誘導作用,DNA修復機能,DNA複製調節又は分化誘導作用等を挙げることができるが、本発明のp51蛋白もこれらの作用又は機能を、一部もしくは全て有しているものと考えられる。
アミノ酸配列の改変(変異)等は、天然において、例えば突然変異や翻訳後の修飾等により生じることもあるが、天然由来の遺伝子に基づいて人為的に改変することもできる。
本発明は、このような改変・変異の原因及び手段等を問わず、本発明のp51蛋白にかかる上記特性を有する蛋白をコードする全ての改変遺伝子を包含するものである。
上記の人為的な改変手段としては、例えばサイトスペシフィック・ミュータジェネシス〔Methods in Enzymology,154,350,367−382(1987);同 100,468(1983);Nucleic Acids Res.,12,9441(1984);続生化学実験講座1[遺伝子研究法II」、日本生化学会編,p105(1986)〕等の遺伝子工学的手法、リン酸トリエステル法やリン酸アミダイト法等の化学合成手段〔J.Am.Chem.Soc.,89,4801(1967);同91,3350(1969);Science,150,178(1968);Tetrahedron Lett.,22,1859(1981);同24,245(1983)〕及びそれらの組合せ方法等が例示できる。より具体的には、DNAの合成は、ホスホルアミダイト法またはトリエステル法による化学合成によることもでき、市販されている自動オリゴヌクレオチド合成装置上で行うこともできる。二本鎖断片は、相補鎖を合成し、適当な条件下で該鎖を共にアニーリングさせるか、または適当なプライマー配列と共にDNAポリメラーゼを用い相補鎖を付加するかによって、化学合成した一本鎖生成物から得ることもできる。
本発明の遺伝子の具体的な態様として、配列番号2に示される塩基配列において、塩基番号145〜1488に示される塩基配列を有する遺伝子、または配列番号5に示される塩基配列において、塩基番号145〜2067に示される塩基配列を有する遺伝子を例示できる。これらの塩基配列は、前述の配列番号1または4に示されるアミノ酸配列の各アミノ酸残基をコードするコドンの一つの組合せ例でもある。このため、本発明の遺伝子はこれら特定の塩基配列を有する遺伝子に限らず、各アミノ酸残基に対して任意のコドンを組合せ、選択した塩基配列を有することも可能である。コドンの選択は、常法に従うことができ、例えば利用する宿主のコドン使用頻度等を考慮することができる〔Ncleic Acids Res.,9,43(1981)〕。
更に、本発明の遺伝子は、前記のとおり、配列番号2に示される塩基配列において、塩基番号145〜1488(以下、単に塩基配列(145−1488)ともいう。)に示される塩基配列と一定の相同性を有する塩基配列からなるものも包含する。
かかる遺伝子としては、例えば、0.1%SDSを含む0.2×SSC中50℃又は0.1%SDSを含む1×SSC中60℃のストリンジェントな条件下で塩基配列(145−1488)からなるDNAとハイブリダイズする塩基配列を有する遺伝子を例示することができる。
本発明の遺伝子は、本発明により具体的に教示された配列番号2の配列情報に基づいて、一般的遺伝子工学的手法により容易に製造・取得することができる〔Molecular Cloning 2d Ed,Cold Spring Harbor Lab.Press(1989);続生化学実験講座「遺伝子研究法I、II、III」、日本生化学会編(1986)等参照]。
具体的には、本発明p51遺伝子が発現される適当な起源より、常法に従ってcDNAライブラリーを調製し、該ライブラリーから、本発明のp51遺伝子に特有の適当なプローブや抗体を用いて所望クローンを選択することにより実施できる〔Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,78,6613(1981);Science,222,778(1983)等〕。
上記において、cDNAの起源としては、本発明の遺伝子を発現する各種の細胞、組織やこれらに由来する培養細胞等が例示される。また、これらからの全RNAの分離、mRNAの分離や精製、cDNAの取得とそのクローニング等はいずれも常法に従って実施することができる。また、cDNAライブラリーは市販されてもおり、本発明においてはそれらcDNAライブラリー、例えばクローンテック社(Clontech Lab.Inc.)等より市販されている各種cDNAライブラリー等を用いることもできる。
本発明の遺伝子をcDNAライブラリーからスクリーニングする方法も、特に制限されず、通常の方法に従うことができる。
具体的には、例えばcDNAによって産生きれる蛋白質に対して、該蛋白質特異抗体を使用した免疫的スクリーニングにより対応するcDNAクローンを選択する方法、目的のDNA配列に選択的に結合するプローブを用いたプラークハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーション等やこれらの組合せ等を例示できる。
ここで用いられるプローブとしては、本発明の遺伝子の塩基配列に関する情報をもとにして化学合成されたDNA等が一般的に例示できるが、既に取得された本発明遺伝子そのものやその断片も良好に利用できる。また、本発明のp51遺伝子の塩基配列情報に基づき設定したセンス・プライマー、アンチセンス・プライマーをスクリーニング用プローブとして用いることもできる。
本発明の遺伝子の取得に際しては、PCR法〔Science,230,1350(1985)〕またはその変法によるDNA若しくはRNA増幅法が好適に利用できる。殊に、ライブラリーから全長のcDNAが得られ難いような場合には、RACE法〔Rapid amplification of cDNA ends;実験医学、12(6),35(1994)〕、特に5’−RACE法〔M.A.Frohman,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,8,8998(1988)〕等の採用が好適である。
かかるPCR法の採用に際して使用されるプライマーは、本発明によって明らかにされたp51遺伝子の配列情報に基づいて適宜設定することができ、これは常法に従って合成できる。尚、増幅させたDNA若しくはRNA断片の単離精製は、前記の通り常法に従うことができ、例えばゲル電気泳動法、ハイブリダイゼーション法等によることができる。
また、上記の方法で得られるp51遺伝子或いはp51遺伝子の各種DNA断片は、常法、例えばジデオキシ法〔Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,74,5463(1977)〕やマキサム−ギルバート法〔Methods in Enzymology,65,499(1980)〕等に従って、また簡便には市販のシークエンスキット等を用いて、その塩基配列を決定することができる。
本発明のp51遺伝子によれば、例えば該遺伝子の一部又は全部の塩基配列を利用することにより、ヒトなどの個体もしくは各種組織における本発明p51遺伝子の発現の有無を特異的に検出することができる。
かかる検出は常法に従って行うことができ、例えばRT−PCR〔Reverse transcribed−Polymerase chain reaction;E.S.Kawasaki,et al.,Amplification of RNA.In PCR Protocol,A Guide to methods and applications,Academic Press,Inc.,SanDiego,21−27(1991)〕によるRNA増幅やノーザンブロッティング解析〔Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Lab.(1989)〕、in situ RT−PCR〔Nucl.Acids Res.,21,3159−3166(1993)〕やin situハイブリダイゼーション等を利用した細胞レベルでの測定、NASBA法〔Nucleic acid sequence−based amplification,Nature,350,91−92(1991)〕及びその他の各種方法を挙げることができる。好適的には、RT−PCR−SSCPによる検出法を挙げることができる。
尚、ここでPCR法に用いられるプライマーとしては、本発明p51遺伝子(部分DNAを含む)を特異的に増幅できる該遺伝子特有のものである限り、特に制限はなく、本発明のp51遺伝子の配列情報に基いて適宜設定することができる。通常プライマーとして10〜35程度のヌクレオチド、好ましくは15〜30ヌクレオチド程度の長さを有する本発明のp51遺伝子の部分配列を有するものを挙げることができる。
このように、本発明の遺伝子には、本発明にかかるヒトp51遺伝子を検出するための特異プライマー及び/又は特異プローブとして使用されるDNA断片もまた包含されるものである。
当該DNA断片は、塩基配列(145−1488)からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることを特徴とするDNAとして規定することできる。ここで、ストリンジェントな条件としては、プライマー又はプローブとして用いられる通常の条件を挙げることができ、特に制限はされないが、例えば、前述するような0.1%SDSを含む0.2×SSC中50℃の条件又は0.1%SDSを含む1×SSC中60℃の条件を例示することができる。
本発明のヒトp51遺伝子によれば、通常の遺伝子工学的手法を用いることにより、該遺伝子産物(p51蛋白)を含む蛋白質を容易に大量に、安定して製造することができる。
(2)p51蛋白
ゆえに、本発明は前述する本発明の遺伝子によってコードされるp51蛋白を提供する。
本発明の蛋白質の具体的態様としては、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するp51A蛋白及び配列番号4に示されるアミノ酸配列を有するp51B蛋白と称される蛋白質を挙げることができるが、本発明の蛋白質は、当該特定のp51A蛋白及びp51B蛋白に限定されることなくそれらと相同物であればよい。相同物としては、上記各蛋白質のアミノ酸配列において、1若しくは数個乃至複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有しており、且つ前述するp51活性を有する蛋白質を有するものを挙げることができる。具体的には、前述するp51遺伝子の相同物(スプライシング変異体及びアレル体を含むp51関連遺伝子)の遺伝子産物を挙げることができる。
本発明の蛋白質は、本発明で提供するヒトp51遺伝子の配列情報に基づいて、常法の遺伝子組換え技術〔例えば、Science,224,1431(1984);Biochem.Biophys.Res.Comm.,130,692(1985);Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,80,5990(1983)等参照〕に従って調製することができる。
(3)p51蛋白の機能的領域を含むポリペプチド
さらに本発明は上記p51蛋白の一部領域を含むポリペプチドに関する。
当該ポリペプチドは、p51蛋白を構成する各種機能的領域のいずれかのアミノ酸配列を有するものであることが好ましく、具体的にはp51蛋白が有する転写活性化領域、DNA結合領域及びオリゴメリゼーション領域よりなる群から選択される少なくとも1つの領域のアミノ酸配列を有するポリペプチドである。
前述するようにp51A蛋白の転写活性化領域、DNA結合領域及びオリゴメリゼーション領域は、それぞれ配列番号1で示されるp51A蛋白のアミノ酸配列においてアミノ酸番号1〜59位、アミノ酸番号142〜321位及びアミノ酸番号359〜397位に位置する。
従って、本発明のポリペプチドには下記のものが含まれる。
(i)配列番号1のアミノ酸番号1〜59で示されるアミノ酸配列(以下、単にアミノ酸配列1(1−59)という。)を有するポリペプチド並びにその同効物。
なお、当該同効物にはアミノ酸配列1(1−59)において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、且つ転写活性化機能を有するポリペプチドを挙げることができる。アミノ酸配列の改変の程度は、転写活性化機能を有する限り、特に制限されないが、アミノ酸配列1(1−59)との相同性が約35%以上、好ましくは45%以上保持されているものであることが望ましい。
(ii)配列番号1のアミノ酸番号142〜321で示されるアミノ酸配列(以下、単にアミノ酸配列1(142−321)という。)を有するポリペプチド並びにその同効物。
なお、当該同効物にはアミノ酸配列1(142−321)においで、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、且つDNA結合性を有するポリペプチドを挙げることができる。アミノ酸配列の改変の程度は、DNA結合性を有する限り、特に制限されないが、アミノ酸配列1(142−321)との相同性が約88%以上、好ましくは90%以上保持されているものであることが望ましい。
(iii)配列番号1のアミノ酸番号353〜397で示されるアミノ酸配列(以下、単にアミノ酸配列1(353−397)という。)を有するポリペプチド並びにその同効物。
なお、当該同効物にはアミノ酸配列1(353−397)において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、且つオリゴメリゼーション機能を有するポリペプチドを挙げることができ、例えばp51B蛋白の広義のオリゴメリゼーション領域(配列番号4のアミノ酸番号353〜641位)を包含する。アミノ酸配列の改変の程度は、オリゴメリゼーション機能を有する限り、特に制限されないが、アミノ酸配列1(353−397)との相同性が約70%以上、好ましくは80%以上保持されているものであることが望ましい。
なお、本発明は、上記アミノ酸配列1(1−59)若しくはその同効物、アミノ酸配列1(142−321)若しくはその同効物、アミノ酸配列1(353−397)若しくはその同効物のいずれか一つのアミノ酸配列を一領域に含むポリペプチドであっても、また当該任意の二以上のアミノ酸配列を連続的または非連続的な領域として含むポリペプチドであってもよい。
更に本発明には、これらのポリペプチドをコードする塩基配列を有する遺伝子(DNA)が含まれる。具体的には、前述のアミノ酸配列1(1−59)をコードする塩基配列としては配列番号2において塩基番号145〜321で示される塩基配列を、アミノ酸配列1(142−321)をコードする塩基配列としては配列番号2において塩基番号568〜1107で示される塩基配列を、アミノ酸配列1(353−397)をコードする塩基配列としては配列番号2において塩基番号1201〜1335で示される塩基配列を挙げることができる。
(4)p51蛋白の製造法及び製造に使用するもの
また本発明は、該p51蛋白の製造方法、並びにその製造に用いられる、例えば上記遺伝子を含有するベクター、該ベクターによって形質転換された宿主細胞を提供するものである。
該蛋白質の製造は、より詳細には、該所望の蛋白をコードする遺伝子が宿主細胞中で発現できるように組換えDNA(発現ベクター)を作成し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、該形質転換体を培養し、次いで得られる培養物から所望の蛋白質を回収することにより行なわれる。
ここで宿主細胞としては、真核生物及び原核生物のいずれをも用いることができる。
真核生物の細胞には、脊椎動物、酵母等の真核微生物の細胞が含まれる。脊椎動物細胞としては、例えばサルの細胞であるCOS細胞〔Cell,23,175(1981)〕、チャイニーズ・ハムスター卵巣細胞及びそれらのジヒドロ葉酸レダクターゼ欠損株〔Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,77,4216(1980)〕等が通常よく用いられるが、これらに限定される訳ではない。また、真核微生物としては、酵母が一般によく用いられ、中でもサッカロミセス属酵母が有利に利用できる。
原核生物の宿主としては、大腸菌や枯草菌が一般によく用いられる。大腸菌のなかでも、特にエシエリヒア・コリ(Escherichia coli)K12株等がよく用いられる。
発現ベクターは、本発明の遺伝子を含んでおり且つ該遺伝子を発現することができるものであれば特に制限されず、一般に宿主細胞との関係から適宜選択される。
宿主細胞として脊椎動物細胞を使用する場合、発現ベクターとしては、通常発現しようとする本発明の遺伝子の上流に位置するプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位及び転写終了配列等を保有するものを使用でき、これは更に必要により複製起点を有していてもよい。該発現ベクターの例としては、例えば、SV40の初期プロモーターを保有するpSV2dhfr〔Mol.Cell.Biol.,1,854(1981)〕等を例示することができる。
宿主細胞として酵母等の真核微生物の細胞を使用する場合、発現ベクターとしては、例えば酸性ホスファターゼ遺伝子に対するプロモーターを有するpAM82〔Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,80,1(1983)〕等を利用でき、本発明のベクターは該プロモーターの上流域に本発明の遺伝子を挿入することによって調製することができる。好適には、原核生物遺伝子と融合した融合ベクターを挙げることができ、該ベクターの具体例としては、例えば分子量26000のGSTドメイン(S.japonicum由来)を有するpGEX−2TKやpGEX−4T−2等が例示される。
宿主細胞として原核生物の細胞を使用する場合、発現ベクターとしては、例えば該宿主細胞中で複製可能なプラスミドベクターであって、このベクター中に所望遺伝子が発現できるように該遺伝子の上流にプロモーター及びSD(シャイン・アンド・ダルガーノ)塩基配列、更に蛋白合成開始に必要な開始コドン(例えばATG)を付与した発現プラスミドを挙げることができる。特に大腸菌(例えばエシエリヒア・コリK12株等)を宿主細胞をして用いる場合は、発現ベクターとしては一般にpBR322及びその改良ベクターがよく用いられる。ただしこれらに限定されず公知の各種の菌株及びベクターをも利用できる。なお、上記プロモーターとしては、例えばトリプトファン(trp)プロモーター、lppプロモーター、lacプロモーター、PL/PRプロモーター等を使用できる。
かかる本発明の発現ベクターを宿主細胞に導入する方法並びにこれによる形質転換方法は、特に限定されず、一般的な各種方法を採用することができる。
また得られる形質転換体は、常法に従い培養でき、該培養により所望のように設計した遺伝子によりコードされる本発明の目的の蛋白が、形質転換体の細胞内、細胞外又は細胞膜上に発現、生産(蓄積、分泌)される。
該培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択利用でき、培養も宿主細胞の生育に適した条件下で実施できる。
斯くして得られる本発明の組換え蛋白は、所望により、その物理的性質、化学的性質等を利用した各種の分離操作〔「生化学データーブックII」、1175−1259頁、第1版第1刷、1980年6月23日株式会社東京化学同人発行;Biochemistry,25(25),8274(1986);Eur.J.Biochem.,163,313(1987)等参照〕により分離、精製できる。
該方法としては、具体的には、通常の再構成処理、蛋白沈澱剤による処理(塩析法)、遠心分離、浸透圧ショック法、超音波破砕、限外濾過、分子篩クロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の各種液体クロマトグラフィー、透析法、これらの組合せが例示でき、特に好ましい方法としては、本発明の蛋白質に対する特異的な抗体を結合させたカラムを利用したアフィニティクロマトグラフィー等を例示することができる。
尚、本発明の蛋白質をコードする所望の遺伝子の設計に際しては、配列番号2において塩基配列(145−1488)で示されるヒトp51A遺伝子の塩基配列または配列番号5において塩基配列(145−2067)で示されるヒトp51B遺伝子の塩基配列を良好に利用することができる。該遺伝子は、所望により、各アミノ酸残基を示すコドンを適宜選択変更して利用することも可能である。
また、ヒトp51A遺伝子又はヒトp51B遺伝子でコードされるアミノ酸配列において、その一部のアミノ酸残基ないしはアミノ酸配列を置換、欠失、付加等により改変する場合には、例えばサイトスペシフィック・ミュータゲネシス等の前記した各種方法により行うことができる。
本発明の蛋白質は、また、配列番号1に示されるアミノ酸配列または配列番号4に示されるアミノ酸配列に従って、一般的な化学合成法により製造することができる。該方法には、通常の液相法及び固相法によるペプチド合成法が包含される。
かかるペプチド合成法は、より詳しくは、アミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させ鎖を延長させていく所謂ステップワイズエロンゲーション法と、アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメント・コンデンセーション法とを包含し、本発明ペプチドの合成は、そのいずれによってもよい。
上記ペプチド合成に採用される縮合法も、常法に従うことができ、例えば、アジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシサクシンアミド、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド等)法、ウッドワード法等を例示できる。
これら各方法に利用できる溶媒も、この種ペプチド縮合反応に使用されることのよく知られている一般的なものから適宜選択することができる。その例としては、例えばジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサホスホロアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル等及びこれらの混合溶媒等を挙げることができる。
尚、上記ペプチド合成反応に際して、反応に関与しないアミノ酸乃至ペプチドにおけるカルボキシル基は、一般にはエステル化により、例えばメチルエステル、エチルエステル、第3級ブチルエステル等の低級アルキルエステル、例えばベンジルエステル、p−メトキシベンジルエステル、p−ニトロベンジルエステル等のアラルキルエステル等として保護することができる。
また、側鎖に官能基を有するアミノ酸、例えばチロシン残基の水酸基は、アセチル基、ベンジル基、ベンジルオキシカルボニル基、第3級ブチル基等で保護されてもよいが、必ずしもかかる保護を行なう必要はない。更に、例えばアルギニン残基のグアニジノ基は、ニトロ基、トシル基、p−メトキシベンゼンスルホニル基、メチレン−2−スルホニル基、ベンジルオキシカルボニル基、イソボルニルオキシカルボニル基、アダマンチルオキシカルボニル基等の適当な保護基により保護することができる。
上記保護基を有するアミノ酸、ペプチド及び最終的に得られる本発明蛋白質におけるこれら保護基の脱保護反応もまた、慣用される方法、例えば接触還元法や、液体アンモニア/ナトリウム、フッ化水素、臭化水素、塩化水素、トリフルオロ酢酸、酢酸、蟻酸、メタンスルホン酸等を用いる方法等に従って実施することができる。
斯くして得られる本発明の蛋白質は、前記した各種の方法、例えばイオン交換樹脂、分配クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、自流分配法等のペプチド化学の分野で汎用される方法に従って、適宜精製を行なうことができる。
本発明の蛋白質は、p51蛋白の特異抗体を作成する為の免疫抗原としても好適に利用でき、これら抗原を利用することにより、所望の抗血清(ポリクローナル抗体)及びモノクローナル抗体を取得することができる。
該抗体の製造方法自体は、当業者によく理解されているところであり、本発明においてもこれら常法に従うことができる〔続生化学実験講座「免疫生化学研究法」、日本生化学会編(1986)等参照〕。かくして得られる抗体は、例えばp51蛋白の精製及びその免疫学的手法による測定ないしは識別等に有利に利用することができる。
また、本発明の蛋白質は、これを有効成分とする医薬品として医薬分野において有用である。
(5)p51蛋白を含む医薬組成物
従って、本発明は前述する本発明の蛋白質を含む医薬に関する。
該蛋白質には、その医薬的に許容される塩もまた包含される。かかる塩には、当業界で周知の方法により調製される、例えばナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、アンモニウム等の無毒性アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩等が包含される。更に上記塩には、本発明ペプチドと適当な有機酸ないし無機酸との反応による無毒性酸付加塩も包含される。代表的無毒性酸付加塩としては、例えば塩酸塩、塩化水素酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、酢酸塩、蓚酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、ラウリン酸塩、硼酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩(トシレート)、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、スルホン酸塩、グリコール酸塩、マレイン酸塩、アスコルビン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩及びナプシレート等が例示される。
また本発明には、上記本発明の蛋白質を活性成分として、それを薬学的有効量、適当な無毒性医薬担体ないし希釈剤と共に含有する医薬組成物又は医薬製剤が含まれる。
上記医薬組成物(医薬製剤)に利用できる医薬担体としては、製剤の使用形態に応じて通常使用される、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤等の希釈剤或は賦形剤等を例示でき、これらは得られる製剤の投与単位形態に応じて適宜選択使用される。
特に好ましい本発明医薬製剤は、通常の蛋白製剤等に使用され得る各種の成分、例えば安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤等を適宜使用して調製される。
上記安定化剤としては、例えばヒト血清アルブミンや通常のL−アミノ酸、糖類、セルロース誘導体等を例示でき、これらは単独で又は界面活性剤等と組合せて使用できる。特にこの組合せによれば、有効成分の安定性をより向上させ得る場合がある。
上記L−アミノ酸としては、特に限定はなく例えばグリシン、システィン、グルタミン酸等のいずれでもよい。
上記糖としても特に限定はなく、例えばグルコース、マンノース、ガラクトース、果糖等の単糖類、マンニトール、イノシトール、キシリトール等の糖アルコール、ショ糖、マルトース、乳糖等の二糖類、デキストラン、ヒドロキシプロピルスターチ、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸等の多糖類等及びそれらの誘導体等を使用できる。
界面活性剤としても特に限定はなく、イオン性及び非イオン性界面活性剤のいずれも使用でき、例えばポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ソルビタンモノアシルエステル系、脂肪酸グリセリド系等を使用できる。
セルロース誘導体としても特に限定はなく、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等を使用できる。
上記糖類の添加量は、有効成分1μg当り約0.0001mg程度以上、好ましくは約0.01〜10mg程度の範囲とするのが適当である。界面活性剤の添加量は、有効成分1μg当り約0.00001mg程度以上、好ましくは約0.0001〜0.01mg程度の範囲とするのが適当である。ヒト血清アルブミンの添加量は、有効成分1μg当り約0.0001mg程度以上、好ましくは約0.001〜0.1mg程度の範囲とするのが適当である。アミノ酸は、有効成分1μg当り約0.001〜10mg程度とするのが適当である。また、セルロース誘導体の添加量は、有効成分1μg当り約0.00001mg程度以上、好ましくは約0.001〜0.1mg程度の範囲とするのが適当である。
本発明医薬製剤中に含まれる有効成分の量は、広範囲から適宜選択されるが、通常約0.00001〜70重量%、好ましくは0.0001〜5重量%程度の範囲とするのが適当である。
また本発明の医薬製剤中には、各種添加剤、例えば緩衝剤、等張化剤、キレート剤等をも添加することができる。ここで緩衝剤としては、ホウ酸、リン酸、酢酸、クエン酸、ε−アミノカプロン酸、グルタミン酸及び/又はそれらに対応する塩(例えばそれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩)等を例示できる。等張化剤としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、糖類、グリセリン等を例示できる。またキレート剤としては、例えばエデト酸ナトリウム、クエン酸等を例示できる。
本発明の医薬製剤は、溶液製剤として使用できる他に、これを凍結乾燥化し保存し得る状態にした後、用時水、生埋的食塩水等を含む緩衝液等で溶解して適当な濃度に調製した後に使用することも可能である。
本発明の医薬製剤の投与単位形態としては、各種の形態が治療目的に応じて選択でき、その代表的なものとしては、錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、カプセル剤等の固体投与形態や、溶液、懸濁剤、乳剤、シロップ、エリキシル等の液剤投与形態が含まれ、これらは更に投与経路に応じて経口剤、非経口剤、経鼻剤、経膣剤、坐剤、舌下剤、軟膏剤等に分類され、それぞれ通常の方法に従い、調合、成形乃至調製することができる。
例えば、錠剤の形態に成形するに際しては、上記製剤担体として例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸、リン酸カリウム等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の結合剤;カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム等の崩壊剤;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド等の界面活性剤;白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン、デンプン等の保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等を使用できる。
更に錠剤は必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠とすることができ、また二重錠ないしは多層錠とすることもできる。
丸剤の形態に成形するに際しては、製剤担体として例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤;アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤;ラミナラン、カンテン等の崩壊剤等を使用できる。
カプセル剤は、常法に従い通常本発明の有効成分を上記で例示した各種の製剤担体と混合して硬質ゼラチンカプセル、軟質カプセル等に充填して調整される。
経口投与用液体投与形態は、慣用される不活性希釈剤、例えば水、を含む医薬的に許容される溶液、エマルジョン、懸濁液、シロップ、エリキシル等を包含し、更に湿潤剤、乳剤、懸濁剤等の助剤を含ませることができ、これらは常法に従い調製される。
非経口投与用の液体投与投与形態、例えば滅菌水性乃至非水性溶液、エマルジョン、懸濁液等への調製に際しては、希釈剤として例えば水、エチルアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びオリーブ油等の植物油等を使用でき、また注入可能な有機エステル類、例えばオレイン酸エチル等を配合できる。これらには更に通常の溶解補助剤、緩衝剤、湿潤剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤、分散剤等を添加することもできる。
滅菌は、例えばバクテリア保留フィルターを通過させる濾過操作、殺菌剤の配合、照射処理及び加熱処理等により実施できる。また、これらは使用直前に滅菌水や適当な滅菌可能媒体に溶解することのできる滅菌固体組成物形態に調製することもできる。
坐剤や膣投与用製剤の形態に成形するに際しては、製剤担体として、例えばポリエチレングリコール、カカオ脂、高級アルコール、高級アルコールのエステル類、ゼラチン及び半合成グリセライド等を使用できる。
ペースト、クリーム、ゲル等の軟膏剤の形態に成形するに際しては、希釈剤として、例えば白色ワセリン、パラフィン、グリセリン、セルロース誘導体、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、シリコン、ベントナイト及びオリーブ油等の植物油等を使用できる。
経鼻又は舌下投与用組成物は、周知の標準賦形剤を用いて、常法に従い調製することができる。
尚、本発明の医薬製剤中には、必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等や他の医薬品等を含有させることもできる。
上記医薬製剤の投与方法は、特に制限がなく、各種製剤形態、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度等に応じて決定される。例えば錠剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤及びカプセル剤は経口投与され、注射剤は単独で又はブドウ糖やアミノ酸等の通常の補液と混合して静脈内投与され、更に必要に応じ単独で筋肉内、皮肉、皮下もしくは腹腔内投与され、坐剤は直腸内投与され、経膣剤は膣内投与され、経鼻剤は鼻腔内投与され、舌下剤は口腔内投与され、軟膏剤は経皮的に局所投与される。
上記医薬製剤中に含有されるべき本発明の蛋白質の量及びその投与量は、特に限定されず、所望の治療効果、投与法、治療期間、患者の年齢、性別その他の条件等に応じて広範囲より適宜選択されるが、一般的には、該投与量は、通常、1日当り体重1kg当り、約0.01μg〜10mg程度、好ましくは約0.1μg〜1mg程度とするのがよく、該製剤は1日に1〜数回に分けて投与することができる。
(6)遺伝子治療
また、本発明は、本発明のヒトp51遺伝子を利用して行う遺伝子治療法を提供する。該治療法は、例えば変異p51遺伝子を有する細胞に、野生型p51機能を供給する方法としてとらえることができる。かかる野生型p51遺伝子若しくはその遺伝子産物が本来的に有する正常な機能を細胞に供給すれば、受容細胞/標的細胞における新生物の増殖を抑制することができる。上記野生型p51遺伝子は、当該遺伝子を染色体外に維持するようなベクターまたはプラスミドを用いて目的の細胞に導入することができる。この場合、当該遺伝子は、染色体外から発現される。
このように変異p51遺伝子を有する細胞に野生型p51遺伝子を導入して正常なp51蛋白を発現させる場合、当該p51遺伝子はその全長である必要はなく、例えば該遺伝子の所望機能と実質的に同質な機能を保持する限りにおいて、前記した改変体であっても、また特定の機能を保持した一部配列からなる遺伝子を使用することもできる。後者の例としては細胞の非腫瘍的増殖(細胞増殖抑制)に必要なp51蛋白の一部をコードする遺伝子を挙げることができる。
野生型p51遺伝子又はその一部分は、細胞に存在する内因的な突然変異p51遺伝子との間で組換えが起こるように突然変異細胞に導入することが好ましい。このような組換えには、p51遺伝子突然変異が修正される二重組換えの発生が必要とされる。
かかる組換え及び染色体外維持の双方のための所望遺伝子の導入のためのベクターは、当該分野において既に知られており、本発明ではかかる既知のベクターのいずれもが使用できる。例えば、発現制御エレメントに連結したp51遺伝子のコピーを含み、かつ目的の細胞内で当該遺伝子産物を発現できるウイルスベクターまたはプラスミドベクターを挙げることができる。かかるベクターとして、通常前述する発現用ベクターを利用することもできるが、好適には、例えば起源ベクターとして、米国特許第5252479号明細書及びPCT国際公開WO93/07282号明細書に開示されたベクター(pWP−7A、pwP−19、pWU−1、pWP−8A、pWP−21及び/又はpRSVLなど)又はpRC/CMV(Invitrogen社製)等を用いて、調製されたベクターを挙げることができる。より好ましくは、後述する各種ウイルス・ベクターである。
なお、遺伝子導入治療において用いられるベクターに使用されるプロモーターとしては、各種疾患の治療対象となる患部組織に固有のものを好適に利用することができる。
その具体例としては、例えば、肝臓に対しては、アルブミン、α−フェトプロティン、α1−アンチトリプシン、トランスフェリン、トランススチレンなどを例示できる。結腸に対しては、カルボン酸アンヒドラーゼI、カルシノエンブロゲンの抗原などを例示できる。子宮及び胎盤に対しては、エストロゲン、アロマターゼサイトクロームP450、コレステロール側鎖切断P450、17アルファーヒドロキシラーゼP450などを例示できる。
前立腺に対しては、前立腺抗原、gp91−フォックス遺伝子、前立腺特異的カリクレインなどを例示できる。乳房に対しては、erb−B2、erb−B3、β−カゼイン、β−ラクトグロビン、乳漿蛋白質などを例示できる。肺に対しては、活性剤蛋白質Cウログロブリンなどを例示できる。皮膚に対しては、K−14−ケラチン、ヒトケラチン1又は6、ロイクリンなどを例示できる。
脳に対しては、神経膠繊維質酸性蛋白質、成熟アストロサイト特異蛋白質、ミエリン、チロシンヒドロキシラーゼ膵臓ヴィリン、グルカゴン、ランゲルハンス島アミロイドポリペプチドなどを例示できる。甲状腺に対しては、チログロブリン、カルシトニンなどを例示できる。骨に対しては、α1コラーゲン、オステオカルシン、骨シアログリコプロティンなどを例示できる。腎臓に対してはレニン、肝臓/骨/腎臓アルカリ性ホスフォターゼ、エリスロポエチンなどを、膵臓に対しては、アミラーゼ、PAP1などを例示できる。
なお遺伝子導入用ベクターの製造において、導入される遺伝子(全部又は一部)は、本発明のp51遺伝子の塩基配列情報に基づいて、前記の如く、一般的遺伝子工学的手法により容易に製造・取得することができる。
かかる遺伝子導入用ベクターの細胞への導入は、例えばエレクトロポレーション、リン酸カルシウム共沈法、ウイルス形質導入などを始めとする、細胞にDNAを導入する当該分野において既に知られている各種の方法に従って行うことができる。なお、野生型p51遺伝子で形質転換された細胞は、それ自体単離状態で癌の抑制ないしは癌転移の抑制のための医薬や、治療研究のためのモデル系として利用することも可能である。
遺伝子治療においては、上記の遺伝子導入用ベクターは、患者の腫瘍部位に局所的にまたは全身的に注射投与することにより患者の腫瘍細胞内に導入することができる。この際全身的投与によれば、他の部位に転移し得るいずれの腫瘍細胞にも到達させることができる。形質導入された遺伝子が各標的腫瘍細胞の染色体内に恒久的に取り込まれない場合には、該投与を定期的に繰り返すことによって達成できる。
本発明の遺伝子治療方法は、前述する遺伝子導入用の材料(遺伝子導入用ベクター)を直接体内に投与するインビボ(in vivo)法と、患者の体内より一旦標的とする細胞を取り出して体外で遺伝子を導入して、その後、該細胞を体内に戻すエクスビボ(ex vivo)法の両方の方法を包含する。
またヒトp51遺伝子を直接細胞内に導入し、RNA鎖を切断する活性分子であるリボザイムによる遺伝子治療も可能である。
後述する、本発明ヒトp51遺伝子若しくはその断片を含有する遺伝子導入用ベクター及び該ベクターによりヒトp51遺伝子が導入された細胞を有効成分とする本発明の遺伝子治療剤は、特に癌をその利用対象とするものであるが、上記の遺伝子治療(処置)は、癌以外にも遺伝性疾患、AIDSのようなウイルス疾患の治療、並びに遺伝子標識をも目的として行うことができる。
また、遺伝子を導入する標的細胞は、遺伝子治療(処置)の対象により適宜選択することができる。例えば、標的細胞として、癌細胞や腫瘍組織以外に、リンパ球、線維芽細胞、肝細胞、造血幹細胞、如き細胞などを挙げることができる。
上記遺伝子治療における遺伝子導入方法には、ウイルス的導入方法及び非ウイルス的導入方法が含まれる。
ウイルス的導入方法としては、例えば、ヒトp51遺伝子が正常細胞に発現する外来遺伝子であることに鑑みて、ベクターとしてレトロウイルスベクターを用いる方法を挙げることができる。その他のウイルスベクターとしては、アデノウイルスベクター、HIV(human immunodeficiency virus)ベクター、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV,adeno−associated virus)、ヘルペスウイルスベクター、単純ヘルペスウイルス(HSV)ベクター及びエプスタイン−バーウイルス(EBV,Epstein−Barr virus)ベクターなどがあげられる。
非ウイルス的な遺伝子導入方法としては、リン酸カルシウム共沈法;DNAを封入したリポソームと予め紫外線で遺伝子を破壊した不活性化センダイウイルスを融合させて膜融合リポソームを作成し、細胞膜と直接融合させてDNAを細胞内に導入する膜融合リポソーム法〔Kato,K.,et al.,J.Biol.Chem.,266,22071−22074(1991)〕;プラスミドDNAを金でコートして高圧放電によって物理的に細胞内にDNAを導入する方法〔Yang,N.S.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,87,9568−9572(1990)〕;プラスミドDNAを直接インビボで臓器や腫瘍に注入するネイキッド(naked)DNA法〔Wolff,J.A.,et al.,Science,247,1465−1467(1990)〕;多重膜正電荷リポソームに包埋した遺伝子を細胞に導入するカチオニック・リポソーム法〔八木国夫,医学のあゆみ,Vol.175,No.9,635−637(1995)〕;特定細胞のみに遺伝子を導入し、他の細胞に入らないようにするために、目的とする細胞に発現するレセプターに結合するリガンドをDNAと結合させてそれを投与するリガンド−DNA複合体法〔Frindeis,et al.,Trends Biotechnol.,11,202(1993);Miller,et al.,FASEB J.,9,190(1995)〕などを使用することができる。
上記リガンド−DNA複合体法には、例えば肝細胞が発現するアシアロ糖蛋白レセプターをターゲットとしてアシアロ糖蛋白をリガンドとして用いる方法〔Wu,et al.,J.Biol.Chem.,266,14338(1991);Ferkol,et al.,FASEB J.,7,1081−1091(1993)〕や、腫瘍細胞が強く発現しているトランスフェリン・レセプターを標的としてトランスフェリンをリガンドとして用いる方法〔Wagner et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,87,3410(1990)〕などが含まれる。
また本発明で用いられる遺伝子導入法は、上記の如き各種の生物学的及び物理学的な遺伝子導入法を適宜組合せたものであってもよい。該組合せによる方法としては、例えばあるサイズのプラスミドDNAをアデノウイルス・ヘキソン蛋白質に特異的なポリリジン抱合抗体と組合わせる方法を例示できる。該方法によれば、得られる複合体がアデノウイルスベクターに結合し、かくして得られる三分子複合体を細胞に感染させることにより本発明遺伝子の導入を行い得る。この方法では、アデノアイルスベクターにカップリングしたDNAが損傷される前に、効率的な結合、内在化及びエンドソーム分解が可能となる。また、前記リポソーム/DNA複合体は、直接インビボにて遺伝子導入を媒介できる。
以下、具体的な本発明の遺伝子導入用ウイルスベクターの作成法並びに標的細胞又は標的組織への遺伝子導入法について述べる。
レトロウイルスベクター・システムは、ウイルスベクターとヘルパー細胞(パッケージング細胞)からなっている。ここでヘルパー細胞は、レトロウイルスの構造蛋白質gag(ウイルス粒子内の構造蛋白質)、pol(逆転写酵素)、env(外被蛋白質)などの遺伝子を予め発現しているが、ウイルス粒子を生成していない細胞を言う。一方、ウイルスベクターは、パッケージングシグナルやLTR(long terminal repeats)を有しているが、ウイルス複製に必要なgag、pol、envなどの構造遺伝子を持っていない。パッケージングシグナルはウイルス粒子のアセンブリーの際にタグとなる配列で、選択遺伝子(neo,hyg)とクローニングサイトに組込まれた所望の導入遺伝子(p51遺伝子またはその断片)がウイルス遺伝子の代りに挿入される。ここで高力価のウイルス粒子を得るにはインサートを可能な限り短くし、パッケージングシグナルをgag遺伝子の一部を含め広くとることと、gag遺伝子のATGを残さぬようにすることが重要である。
所望のp51遺伝子を組み込んだベクターDNAをヘルパー細胞に移入することによって、ヘルパー細胞が作っているウイルス構造蛋白質によりベクターゲノムRNAがパッケージされてウイルス粒子が形成され、分泌される。組換えウイルスとしてのウイルス粒子は、標的細胞に感染した後、ウイルスゲノムRNAから逆転写されたDNAが細胞核に組み込まれ、ベクター内に挿入された遺伝子が発現する。
尚、所望の遺伝子の導入効率を上げる方法として、フイブロネクチンの細胞接着ドメインとヘパリン結合部位と接合セグメントとを含む断片を用いる方法〔Hanenberg,H.,et al.,Exp.Hemat.,23,747(1995)〕を採用することもできる。
なお、上記レトロウイルスベクター・システムにおいて用いられるベクターとしては、例えばマウスの白血病ウイルスを起源とするレトロウイルス〔McLachlin,J.R.,et al.,Proc.Natl.Acad.Res.Molec,Biol.,38,91−135(1990)〕を例示することができる。
アデノウイルスベクターを利用する方法につき詳述すれば、該アデノウイルスベクターの作成は、バークネル〔Berkner,K.L.,Curr.Topics Microbiol.,Immunol.,158,39−66(1992)〕、瀬戸口康弘ら〔Setoguchi,Y.,et al.,Blood,84,2946−2953(1994)〕、鐘カ江裕美ら〔実験医学,12,28−34(1994)〕及びケナーら〔Ketner,G.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,91,6186−6190(1994)〕の方法に準じて行うことができる。
例えば、非増殖性アデノウイルスベクターを作成するには、まずアデノウイルスの初期遺伝子のE1及び/又はE3遺伝子領域を除去する。次に、目的とする所望の外来遺伝子発現単位(目的とする導入遺伝子、本発明においてはp51遺伝子、その遺伝子を転写するためのプロモーター、転写された遺伝子の安定性を賦与するポリAから構成)及びアデノウイルスゲノムDNAの一部を含むプラスミドベクターと、アデノウイルスゲノムを含むプラスミドとを、例えば293細胞に同時にトランスフェクションする。この2者間で相同性組換えを起こさせて、遺伝子発現単位とE1とを置換することにより、所望のp51遺伝子を包含する本発明ベクターである非増殖性アデノウイルスベクターを作成することができる。また、コスミドベクターにアデノウイルスゲノムDNAを組み込んで、末端蛋白質を付加した3’側アデノウイルスベクターを作成することもできる。更に組換えアデノウイルスベクターの作成には、YACベクターも利用可能である。
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの製造につき概略すると、AAVはアデノウイルスの培養系に混入してくる小型のウイルスとして発見された。これには、ウイルス複製にヘルパーウイルスを必要とせず宿主細胞内で自律的に増殖するパルボウイルス属と、ヘルパーウイルスを必要とするディペンドウイルス属の存在が確認されている。該AAVは宿主域が広く、種々の細胞に感染するありふれたウイルスであり、ウイルスゲノムは大きさが4680塩基の線状一本鎖DNAからなり、その両端の145塩基がITR(inverted terminal repeat)と呼ばれる特徴的な配列を持って存在している。このITRの部分が複製開始点となり、プライマーの役割をなす。更にウイルス粒子へのパッケージングや宿主細胞の染色体DNAへの組込みにも、該ITRが必須となる。また、ウイルス蛋白質に関しては、ゲノムの左半分が非構造蛋白質、即ち複製や転写をつかさどる調節蛋白質のRepをコードしている。
組換えAAVの作成は、AAVが染色体DNAに組み込まれる性質を利用して行うことができ、かくして所望の遺伝子導入用ベクターが作成できる。この方法は、より詳しくは、まず野生型AAVの5’と3’の両端のITRを残し、その間に所望の導入用遺伝子(ヒトp51遺伝子)を挿入したプラスミド(AAVベクタープラスミド)を作成する。一方、ウイルス複製やウイルス粒子の形成に必要とされるウイルス蛋白質は、別のヘルパープラスミドにより供給させる。この両者の間には共通の塩基配列が存在しないようにし、遺伝子組換えによる野生型ウイルスが出現しないようにする必要がある。その後、両者のプラスミドを例えば293細胞へのトランスフェクションにより導入し、さらにヘルパーウイルスとしてアデノウイルス(293細胞を用いる場合は非増殖型のものでもよい)を感染させると、非増殖性の所望の組換えAAVが産生される。続いて、この組換えAAVは核内に存在するので、細胞を凍結融解して回収し、混入するアデノウイルスを56℃加熱により失活させる。更に必要に応じて塩化セシウムを用いる超遠心法により組換えAAVを分離濃縮する。上記のようにして所望の遺伝子導入用の組換えAAVを得ることができる。
HIVベクターの作成は、例えば島田らの方法に準じて行うことができる〔Shimada,T.,et al.,J.Clin.Invest.,88,1043−1047(1991)〕。
HIVウイルスはCD4をレセプターとしヘルパーT細胞に特異的に感染するので、その利用によれば、ヒトCD4陽性細胞に特異的に遺伝子導入の可能な組織特異的遺伝子導入ベクターとしてのHIVベクターを作成することができる。該HIVベクターは、AIDSの遺伝子治療に最適といえる。
組換えHIVベクターの作成は、例えばまずパッケージングプラスミドであるCGPEをgag、pol、envの構造遺伝子とこれらの発現に必要な調節遺伝子(tat、revなど)をサイトメガロウイルス(CMV)のプロモーターとヒトグロビン遺伝子のポリAシグナル(poly A)により発現するように作成する。次にベクタープラスミドHXNを、HIVの両LTRの間に、標識遺伝子としてチミジンキナーゼ(TK)のプロモーターをもつバクテリアのネオマイシン耐性遺伝子(neoR)を挿入し、さらに基本となるプラスミドベクターにSV40の複製機転を挿入することにより、COS細胞内で効率よく増殖できるように構築できる。これらのパッケージングプラスミドであるCGPEとベクタープラスミドHXNを同時にCOS細胞にトランスフェクションさせることにより大量のneoR遺伝子が組み込まれた所望の組換えウイルスを作成し、培養培地中に放出させることができる。
EBVベクターの製造は、例えば清水らの方法に準じて行うことができる〔清水則夫ら、細胞工学,14(3),280−287(1995)〕。
本発明の遺伝子導入用EBVベクターの製造につき概略すると、EBウイルス(Epstein−Barr virus:EBV)は、1964年にエプスタイン(Epstein)らによりバーキット(Burkitt)リンパ腫由来の培養細胞より分離されたヘルペス科に属するウイルスである〔Kieff,E.and Liebowitz,D.:Virology,2nd ed.Raven Press,New York,1990,pp.1889−1920〕。該EBVには細胞をトランスフォームする活性があるので、遺伝子導入用ベクターとするためには、このトランスフォーム活性を欠いたウイルスを調製しなければならない。これは次の如くして実施できる。
即ち、まず、所望の外来遺伝子を組み込む標的DNA近傍のEBVゲノムをクローニングする。そこに外来遺伝子のDNA断片と薬剤耐性遺伝子を組込み、組換えウイルス作製用ベクターとする。次いで適当な制限酵素により切り出された組換えウイルス作製用ベクターをEBV陽性Akata細胞にトランスフェクトする。相同組換えにより生じた組換えウイルスは抗表面免疫グロブリン処理によるウイルス産生刺激により野生型AkataEBVとともに回収できる。これをEBV陰性Akata細胞に感染し、薬剤存在下で耐性株を選択することにより、野生型EBVが共存しない所望の組換えウイルスのみが感染したAkata細胞を得ることができる。さらに組換えウイルス感染Akata細胞にウイルス活性を誘導することにより、目的とする大量の組換えウイルスベクターを産生することができる。
組換えウイルスベクターを用いることなく所望の遺伝子を標的細胞に導入する、非ウイルスベクターの製造は、例えば膜融合リポソームによる遺伝子導入法により実施することができる。これは膜リポソーム(脂質二重膜からなる小胞)に細胞膜への融合活性をもたせることにより、リポソームの内容物を直接細胞内に導入する方法である。
上記膜融合リポソームによる遺伝子の導入は、例えば中西らの方法によって行うことができる〔Nakanishi,M.,et al,,Exp.Cell Res.,159,399−499(1985);Nakanishi,M.et al.Gene introduction into animal tissues.In Trends and Future Perspectives in Peptide and Protein Drug Delivery(cd.by Lee,V.H.et al.).,Harwood Academic Publishers Gmbh.Amsterdam,1995,pp.337−349〕。
以下、該膜融合リポソームによる遺伝子の導入法につき概略する。即ち、紫外線で遺伝子を不活性化したセンダイウイルスと所望の遺伝子や蛋白質などの高分子物質を封入したリポソームを37℃で融合させる。この膜融合リポソームは、内側にリポソーム由来の空洞を、外側にウイルス・エンベロープと同じスパイクがある疑似ウイルスともよばれる構造を有している。更にショ糖密度勾配遠心法で精製後、標的とする培養細胞又は組織細胞に対して膜融合リポソームを4℃で吸着させる。次いで37℃にするとリポソームの内容物が細胞に導入され、所望の遺伝子を標的細胞に導入できる。ここでリポソームとして用いられる脂質としては、50%(モル比)コレステロールとレシチン及び陰電荷をもつ合成リン脂質で、直径300nmの1枚膜リポソームを作製して使用するのが好ましい。
また、別のリポソームを用いて遺伝子を標的細胞に導入する方法としては、カチオニック・リポソームによる遺伝子導入法を挙げることができる。該方法は、八木らの方法に準じて実施できる〔Yagi,K.,et al.,B.B.R.C.,196,1042−1048(1993)〕。この方法は、プラスミドも細胞も負に荷電していることに着目して、リポソーム膜の内外両面に正の電荷を与え、静電気によりプラスミドの取り込みを増加させ、細胞との相互作用を高めようとするものである。ここで用いられるリポソームは正荷電を有する多重膜の大きなリポソーム(multilamellar large vesicles: MLV)が有用であるが、大きな1枚膜リポソーム(large unilamellar vesicles: LUV)や小さな1枚膜リポソーム(small unilamellar vesicles: SUV)を使用してプラスミドとの複合体を作製し、所望の遺伝子を導入することも可能である。
プラスミト包埋カチオニックMLVの調製法について概略すると、これはまず脂質TMAG(N−(α−trimethy lammonioacetyl)−didodecyl−D−glutamate chloride)、DLPC(dilauroyl phosphatidylcholine)及びDOPE(dioleoyl phosphatidylethanolamine)をモル比が1:2:2となる割合で含むクロロホルム溶液(脂質濃度として1mM)を調製する。次いで総量1μmolの脂質をスピッツ型試験管に入れ、ロータリーエバポレーターでクロロホルムを減圧除去して脂質薄膜を調製する。更に減圧下にクロロホルムを完全に除去し、乾燥させる。次いで20μgの遺伝子導入用プラスミドを含む0.5mlのダルベッコのリン酸緩衝生理食塩液−Mg,Ca含有を添加し、窒素ガス置換後、2分間ボルテックスミキサーにより攪袢して、所望の遺伝子を含有するプラスミド包埋カチオニックMLV懸濁液を得ることができる。
上記で得られたプラスミド包埋カチオニックMLVを遺伝子治療剤として使用する一例としては、例えば発現目的遺伝子のcDNAを組み込んだ発現プラスミドを上記カチオニックMLVにDNA量として0.6μg、リポソーム脂質量として30nmolになるように包埋し、これを2μlのリン酸緩衝生理食塩液に懸濁させて患者より抽出した標的細胞または患者組織に対して隔日投与する方法が例示できる。
ところで、遺伝子治療とは「疾病の治療を目的として、遺伝子または遺伝子を導入した細胞をヒトの体内に投与すること」と日本国の厚生省ガイドラインに定義されている。しかしながら、本発明における遺伝子治療とは、該ガイドラインの定義に加えて、前記した標的細胞にヒトp51遺伝子等の癌抑制遺伝子として特徴付けられる遺伝子を導入することによって癌を始めとする各種疾患の治療のみならず、更に標識となる遺伝子または標識となる遺伝子を導入した細胞をヒト体内に導入することも含むものとする。
本発明の遺伝子治療において、所望遺伝子の標的細胞または標的組織への導入方法には、代表的には2種類の方法が含まれる。
その第1法は、治療対象とする患者から標的細胞を採取した後、該細胞を体外で例えばインターロイキン−2(IL−2)などの添加の下で培養し、レトロウイルスベクターに含まれる目的とするp51遺伝子を導入した後、得られる細胞を再移植する手法(ex vivo法)である。該方法はADA欠損症を始め、欠陥遺伝子によって発生する遺伝子病や癌、AIDSなどの治療に好適である。
第2法は、目的遺伝子(ヒトp51遺伝子)を直接患者の体内や腫瘍組織などの標的部位に注入する遺伝子直接導入法(直接法)である。
上記遺伝子治療の第1法は、より詳しくは、例えば次のようにして実施される。即ち、患者から採取した単核細胞を血液分離装置を用いて単球から分取し、分取細胞をIL−2の存在下にAIM−V培地などの適当な培地で72時間程度培養し、導入すべき遺伝子(ヒトp51遺伝子)を含有するベクターを加える。遺伝子の導入効率をあげるために、プロタミン存在下に32℃で1時間、2500回転にて遠心分離した後、37℃で10%炭酸ガス条件下で24時間培養してもよい。この操作を数回繰り返した後、更にIL−2存在下にAIM−V培地などで48時間培養し、細胞を生理食塩水で洗浄し、生細胞数を算定し、遺伝子導入効率を前記in situ PCRや、例えば所望の対象が酵素活性であればその活性の程度を測定することにより、目的遺伝子導入効果を確認する。
また、培養細胞中の細菌・真菌培養、マイコプラズマの感染の有無、エンドトキシンの検索などの安全度のチェックを行い、安全性を確認した後、予測される効果用量の遺伝子(ヒトp51遺伝子)が導入された培養細胞を患者に点滴静注により戻す。かかる方法を例えば数週間から数カ月間隔で繰り返することにより遺伝子治療が施される。
ここでウイルスベクターの投与量は、導入する標的細胞により適宜選択される。通常、ウイルス価として、例えば標的細胞 1×108細胞に対して1×103cfuから1×108cfuの範囲となる投与量を採用することが好ましい。
上記第1法の別法として、目的遺伝子(ヒトp51遺伝子)を含有するレトロウイルスベクターを含有するウイルス産生細胞と例えば患者の細胞とを共培養して、目的とする細胞へ遺伝子(ヒトp51遺伝子)を導入する方法を採用することもできる。
遺伝子治療の第2法(直接法)の実施に当たっては、特に体外における予備実験によって、遺伝子導入法によって、実際に目的遺伝子(ヒトp51遺伝子)が導入されるか否かを、予めベクター遺伝子cDNAのPCR法による検索やin situPCR法によって確認するか、或いは目的遺伝子(ヒトp51遺伝子)の導入に基づく所望の治療効果である特異的活性の上昇や標的細胞の増殖増加や増殖抑制などを確認することが望ましい。また、ウイルスベクターを用いる場合は、増殖性レトロウイルスなどの検索をPCR法で行うか、逆転写酵素活性を測定するか、或は膜蛋白(env)遺伝子をPCR法でモニターするなどにより、遺伝子治療に際して遺伝子導入による安全性を確認することが重要であることはいうまでもない。
本発明の遺伝子治療法において、特に癌や悪性腫瘍を対象とする場合は、患者から癌細胞を採取後、酵素処理などを施して培養細胞を樹立した後、例えばレトロウイルスにて所望の遺伝子を標的とする癌細胞に導入し、G418細胞にてスクリーニングした後、IL−12などの発現量を測定(in vivo)測定し、次いで放射線処理を施行し、患者腫瘍内または傍腫瘍に接種する癌治療法を一例として挙げることができる。
ヘルペス単体ウイルス−チミジンキナーゼ(HSV−TK)遺伝子は、特にヌクレオチドアナログであるガンシクロビル(GCV)を毒性中間体に転換して、分裂性細胞の死をもたらすことが報告され、該遺伝子を腫瘍に対して用いる遺伝子治療が知られている〔米国特許第5631236号明細書;特表平9−504784号公報参照〕。該方法は自殺遺伝子といわれる前記HSV−TK遺伝子を組み込んだレトロウイルスベクター産生細胞を注入して1週間後に抗ウイルス剤として知られているGCVを投与すると、遺伝子導入細胞ではGCVがリン酸化を受けて活性化されて遺伝子導入細胞を自殺に導くと同時に、ギャップ・ジャンクションを介した細胞接触により、周囲の非導入細胞にも細胞死をもたらすことを利用した遺伝子治療法である。本発明の遺伝子導入ベクターもしくは該ベクターを含む細胞は、上記遺伝子療法にも利用することができる。
別の遺伝子治療法としては、標的細胞表面に結合する抗体を結合させた遺伝子(ヒトp51遺伝子)含有イムノリポゾームを作製し、包埋したcDNAを選択的に効率よく標的細胞に導入させる方法があげられる。また、前記したサイトカイン遺伝子含有ウイルスベクターと自殺遺伝子含有アデノウイルスとを同時に投与する結合遺伝子療法も可能である。これらの方法は当該分野における当業者の技術レベルある。
(7)遺伝子治療用医薬組成物
本発明はまた、本発明の遺伝子導入用ベクター又は目的遺伝子(ヒトp51遺伝子など)が導入された細胞を活性成分とし、それを薬学的有効量、適当な無毒性医薬担体ないしは希釈剤と共に含有する医薬組成物又は医薬製剤(遺伝子治療剤)を提供する。
本発明の医薬組成物(医薬製剤)に利用できる医薬担体としては、製剤の使用形態に応じて通常使用される、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤などの希釈剤ないし賦形剤などを例示でき、これらは得られる製剤の投与単位形態に応じて適宜選択使用できる。
本発明医薬製剤の投与単位形態としては、前記したp51蛋白製剤の製剤例を同様に挙げることができ、治療目的に応じて各種の形態から適宜選択することができる。
例えば、本発明の遺伝子導入用ベクターを含む医薬製剤は、該ベクターをリポソームに包埋された形態あるいは所望の遺伝子が包含されるレトロウイルスベクターを含むウイルスによって感染された培養細胞の形態に調製される。
これらは、リン酸緩衝生理食塩液(pH7.4)、リンゲル液、細胞内組成液用注射剤中に配合した形態などに調製することもでき、またプロタミンなどの遺伝子導入効率を高める物質と共に投与されるような形態に調製することもできる。
上記医薬製剤の投与方法は、特に制限がなく、各種製剤形態、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度などに応じて決定される。
上記医薬製剤中に含有されるべき本発明有効成分の量及びその投与量は、特に限定されず、所望の治療効果、投与法、治療期間、患者の年齢、性別その他の条件などに応じて広範囲より適宜選択される。
一般には、医薬製剤としての所望遺伝子含有レトロウイルスベクターの投与量は、1日当り体重1kg当り、例えばレトロウイルスの力価として約1×103pfuから1×1015pfu程度とするのがよい。
また所望の導入用遺伝子が導入された細胞の場合は、1×104細胞/bodyから1×1015細胞/body程度の範囲から選ばれるのが適当である。
該製剤は1日に1〜数回に分けて投与することもでき、1から数週間間隔で間欠的に投与することもできる。尚、好ましくは、プロタミンなど遺伝子導入効率を高める物質又はこれを含む製剤と併用投与することができる。
本発明に従う遺伝子治療を癌の治療に適用する場合は、前記した種々の遺伝子治療を適宜組合わせて行う(結合遺伝子治療)こともでき、前記した遺伝子治療に、従来の癌化学療法、放射線療法、免疫療法などを組合わせて行うこともできる。さらに本発明の遺伝子治療は、その安全性を含めて、NIHのガイドラインを参考にして実施することができる〔Recombinant DNA Advisory Committee,Human Gene Therapy,4,365−389(1993)〕。
(8)腫瘍診断への応用
本発明によれば、人の細胞の腫瘍形成を促すp51変異遺伝子の存在を検出するために、血液又は血清のごとき生物学的試料を調製し、所望により核酸を抽出し、p51の感受性変異遺伝子が存在する否かについて分析することが可能である。また、本発明によれば細胞又は組織における新生物、悪性の前駆障害への進行、または予後指標としての存在を検出するためには、障害を有する生物学的な試料を調製し、p51の新生物変異遺伝子が存在するか否かについて分析できる。この方法を用いることにより細胞叉は組織における新生物、悪性の前駆障害への進行、または予後指標としての存在を検出することが可能となり、これらの診断、例えば癌の診断並びに癌治療効果の判定並びに予後の予測が可能となる。
該検出方法は、例えば、予め腫瘍を有する患者サンプルから得られたp51変異遺伝子に関する情報を基に、例えばp51遺伝子の変異部位及びその変異配列情報に基づき、該変異DNA断片を作成し、変異遺伝子のスクリーニング及び/又はその増幅に用いられるように設計される。より具体的には、例えばプラークハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーション、サザンブロット法、ノーザンブロット法等において用いられるプローブ、PCRにより変異DNA断片を増幅するためのプローブを作成することができる。その為にはまず変異と同じ配列を持つプライマーを作成し、スクリーニング用プローブとして用い、生物学的試料(核酸試料)と反応させることにより、当該p51遺伝子の変異配列を有する遺伝子の存在を確認することが出来る。該核酸試料は、標的配列の検出を容易にするために、例えば変性、制限消化、電気泳動またはドットブロッティング等の種々の方法を用いて調製することができる。
前記スクリーニング方法としては、特にPCR法を用いるのが感度の点から好ましく、該方法は、p51変異断片をプライマーとして用いる方法であればとくに制限されず、従来公知の方法(Science,230,1350−1354(1985))や新たに開発された、或いは将来使用されるPCR変法(榊 佳之、ほか編、羊土社、実験医学、増刊,8(9)(1990);蛋白質・核酸・酵素、臨時増刊、共立出版(株),35(17)(1990))のいずれも利用することが可能である。
プライマーとして使用されるDNA断片は、化学合成したオリゴDNAであり、これらオリゴDNAの合成は自動DNA合成装置等、例えばDNA合成装置(PharmaciaLKB Gene Assembler Plus:ファルマシア社製)を使用して合成することができる。合成されるプライマー(センスプライマー叉はアンチセンスプライマー)の長さは約10〜30ヌクレオチド程度が好ましく例示できる。上記スクリーニングに用いられるプローブは、通常は標識したプローブを用いるが、非標識であってもよく、直接的叉は間接的に標識したリガンドとの特異的結合によって検出してもよい。適当な標識、並びにプローブ及びリガンドを標識する方法は、本発明の技術分野で知られており、ニック・トランスレーション、ランダム・プライミングム又はキナーゼ処理のような、既知の方法によって取り込ませることができる放射性標識、ビオチン、蛍光性基、化学発光基、酵素、抗体などがこれらの技術に包含される。
検出のために用いるPCR法としては、例えばRT−PCR法が例示されるが、当該分野で用いられる種々の変法を適応することが出来る。
PCR法を用いて、野生型p51遺伝子及び/又は変異p51遺伝子の存在とこれら遺伝子のDNAを定量することも可能である。該方法としては、MSSA法の如き競合的定量法(Kinoshita,M.,et al.,CCA,228,83−90(1994))、または一本鎖DNAの高次構造の変化に伴う移動度の変化を利用した突然変異検出法として知られるPCR−SSCP法(Orita,M.,et al.,Genomics,5,874−879(1989))を例示できる。
上記例示された分析法において、例えばp51の変異(例えば癌患者などから得られた部位変異情報を基にした変異配列)を含む1乃至は複数のプライマーを調製し、生物学的試料から得られたDNAとハイブリダイズさせた後、PCR増幅断片とp51野生株のDNA断片をスタンダードのSSCP解析により測定された移動度及びピーク領域と前記プライマーにより増幅した増幅産物としての被検試料における移動度及びピーク領域とを対比することにより、p51の特定領域における変異の検出と当該変異産物の定量とを同時に行うことが可能となる。
前記において、測定対象となる変異p51遺伝子を含む被検試料は、該遺伝子を含むものであれば特に限定なく使用でき、例えば、血液、血清、尿、切除組織などの生体生物材料を例示できる。変異p51遺伝子は、これら被検試料より常法に従い抽出、精製及び調製できる。従って、本発明にかかる上記スタンダードとしてのDNA断片について、予め測定された移動度とp51変異プライマー対を用いる被検試料中のp51DNAのPCR増幅工程における増副産物としての被検試料における移動度とを対比することにより、p51DNAの特定領域における変異の検出を簡便かつ良好に行うことが出来る。
さらに既知段階量に設定したスタンダードを用いた場合には、そのピーク領域と前記方法のp51変異プライマー対を用いる被検試料中のp51DNAのPCR増幅工程における増副産物としての被検試料におけるピーク領域との対比により、被検試料中のp51変異体の定量を同時に行うことができる。該方法において使用されるプライマー対、スタンダード、PCR−SSCP解析及びその検出手段等の改変等は、この分野の当業者にとり適宜なし得るものであり、本発明は勿論それらの改変等をも野生p51遺伝子及び変異p51遺伝子の配列を用いる限り包含されるものである。
上記本発明の測定方法を、より具体的に例示すると、まず癌患者血清からアルカリ、酸処理等の常法によってDNAを抽出し、得られたDNA溶液に、配列番号1に示される塩基配列(145−1488)の一部を含む特定の長さからなるマイナス鎖部分配列、及び蛍光標識した該塩基配列(145−1488)の一部配列を含む、特定長さからなるプラス鎖部分配列のプライマー対とを耐熱性DNAポリメラーゼと作用させて、標識されたDNA断片を増幅させる。一方では、癌患者などから得られたp51部位変異情報を基にして化学合成した変異配列を含む1叉は複数のDNA断片を、プラスミドベクターにそれぞれ組み込み、大腸菌に形質転換して大量培養後、精製した組換え体プラスミドを用いて、例えば103コピー、104コピー、105コピー、106コピー、107コピー及び、108コピーのスタンダードを調製し、これに上記の塩基配列(145−1488)の一部の特定配列を含むマイナス鎖部分配列及び蛍光標識した塩基配列(145−1488)の一部の特定配列を含むプラス鎖部分配列のプライマー対とを耐熱性DNAポリメラーゼと作用させて、標識されたDNA断片を増幅させる。前記で増幅されたDNA溶液を、95℃程度で5分間程度加熱し、直ちに水中で冷却し、ALF自動シークエンサー(ファルマシア社製)等の自動シークエンサーによるSSCP解析を行うことにより、蛍光ピークを検出することができる。尚、該SSCP解析における泳動は、好ましくは約30℃±1℃にて行われる。
かくして患者血清より得られたDNAのピーク(移動度)をスタンダードのピーク(移動度)と比較し、その泳動時間からスタンダードと一致するピークを確認することにより、患者のp51の変異のタイプ(種類)を判定することが出来る。またスタンダードのピーク領域を算出し、これより標準曲線を作成することにより、患者DNAにおけるピーク領域の計算値より、当該p51DNAの定量を行うことができる。
(9)p51遺伝子の変異検出法、及び各種測定法
従って、本発明はかかる測定により、被検試料中のp51DNAの特定領域の変異の検出とその定量方法を同時に行う簡便な検査方法をも提供するものである。
また、本発明の測定方法は、試料中の野生型p51遺伝子及び変異p51遺伝子の検出のための試薬キットを利用することによって、簡便に実施することができる。
故に本発明は上記野生型p51DNA断片及び変異p51DNA断片を含有することを特徴とする野生型p51及び変異p51の検出用試薬キットが提供される。
該試薬キットは、少なくとも配列番号2に示される塩基配列(145−1488)もしくはその相補的塩基配列の一部または全てにハイブリダイズするDNA断片、又は塩基配列(145−1488)の変異配列もしくはその変異配列に相補的塩基配列の一部又は全てにハイブリダイズするDNA断片を必須構成成分として含んでいれば、他の成分として、標識剤、PCR法に必須な試薬(例えば、TaqDNAポリメラーゼ、デオキシヌクレオチド三リン酸、プライマー等)が含まれていても良い。また、上記配列番号2に示される塩基配列(145−1488)に代えて、配列番号5に示される塩基配列(145−2067)を用いることものできる。
標識剤としては、放射性同位元素叉は蛍光物質等の化学修飾物質等が挙げられるが、DNA断片自身が予め該標識剤でコンジュゲートされていてもよい。更に当該試薬キットには、測定の実施の便益のために適当な反応希釈液、標準抗体、緩衝液、洗浄剤、反応停止液等が含まれていてもよい。
更に本発明は、前記測定方法を用いる癌の診断方法及び該方法に用いる診断剤並びに診断用キットをも提供するものである。
また、前記方法を用いることにより、被検試料中から得られたp51変異配列を直接的若しくは間接的に配列決定することにより、野生型p51と相同性の高い相同物である新たなp51遺伝子に関連する関連遺伝子を見出すことができる。
従って、本発明はかかる測定と被検試料中の変異p51DNAの配列決定により、被検試料中のヒトp51遺伝子に関連する関連遺伝子のスクリーニング方法をも提供するものである。
また、本発明の配列番号1で示されるヒトp51A遺伝子でコードされる蛋白質、又は配列番号1において1若しくは数個乃至複数のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列、又はこれらの断片から蛋白を合成し、若しくは該蛋白に対する抗体を合成することによって、野生型p51及び/または変異型p51の測定が可能となる。また、上記ヒトp51A遺伝子でコードされる蛋白質に代えて、配列番号4で示されるヒトp51B遺伝子でコードされる蛋白質を用いることもできる。
従って、本発明は、野生型p51及び/または変異型p51の抗体測定法、抗原測定法を提供するものである。該測定法によって新生物状態の障害の程度、或いは悪性腫瘍の悪性度を野生性型p51蛋白の変化に基づいて検出することも可能である。かかる変化は、この分野における前記慣用技術によるp51配列分析によっても決定できるが、更に好ましくは、抗体(ポリクローナル叉はモノクローナル抗体)を用いて、p51蛋白中の相違、又はp51蛋白の有無を検出することが出来る。本発明の測定法の具体的な例示としては、p51抗体は、血液・血清などのヒトより採取した生体材料試料含有溶液からp51蛋白質を免疫沈降し、かつポリアクリルアミドゲルのウェスタン・ブロット又はイムノブロット上でp51蛋白質と反応することができる。また、p51抗体は免疫組織化学的技術を用いてパラフィン叉は凍結組織切片中のp51蛋白を検出することが出来る。抗体産生技術及び精製する技術は当該分野においてよく知られているので、これらの技術を適宜選択することができる。
野生型p51叉はその突然変異体を検出する方法に関連するより好ましい具体例には、モノクローナル抗体及び/又は、ポリクローナル抗体を用いるサンドイッチ法を含む、酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)、放射線免疫検定法(RIA)、免疫放射線検定法(IRMA)、及び免疫酵素法(IEMA)が含まれる。
また、本発明は、p51蛋白に対するp51結合活性を有す細胞膜画分又は細胞表面上に存在するp51レセプターをも提供することが可能である。該p51レセプターの取得は、細胞膜画分を含む生体材料試料中において標識したp51蛋白をコンジュゲートさせ、p51結合反応物を抽出・単離、精製し、単離物のアミノ酸配列を特定することによって達成され、該p51レセプター蛋白の取得並びに配列決定は、この分野の当業者には容易に達成できる。
(10)薬剤スクリーニングへの応用
また本発明は、p51レセプターポリペプチド叉はその結合断片を種々の薬剤のいずれかをスクリーニングする技術に用いることによって、化合物(p51レセプター反応物:化合物は低分子化合物、高分子化合物、蛋白質、蛋白質部分断片、抗原、又は抗体など言う)をスクリーニングすることに利用可能である。好ましくは、p51レセプターを利用する。かかるスクリーニング試験に用いるp51レセプターポリペプチド叉は、その断片は、固体支持体に付着するか、又は細胞表面に運ばれている溶液中の遊離物であってもよい。薬剤スクリーニングの一例としては、例えば、ポリペプチド叉はその断片を発現する組換えポリペプチドで安定して形質転換した原核生物叉は真核生物の宿主細胞を、好ましくは競合的結合アッセイにおいて利用することができる。また遊離の又は固定した形態のかかる細胞を標準結合アッセイに用いることも出来る。より具体的には、p51レセプターポリペプチド叉はその断片と試験する物質との間の複合体の形成を測定し、p51レセプターポリペプチド叉はその断片とp51ポリペプチド叉はその断片との間の複合体の形成が試験する物質によって阻害される程度を検出することによって化合物をスクリーニングすることが可能である。
かくして、本発明は、当該分野で既知の方法によって、かかる物質とp51レセプターポリペプチド又は、その断片とを接触させ、次いで、該物質とp51レセプターポリペプチド又は、その断片との間の複合体の存在、またはp51レセプターポリペプチド叉は、その断片とリガンドとの間の複合体の存在について測定することを特徴とする薬剤のスクリーニング方法を提供することができる。さらに、p51レセプター活性を測定してかかるつ物質がp51レセプターを阻害でき、かくして上記定義されたp51の活性、例えば細胞周期を調節できるかどうか、或いはアポトーシス誘導の調節ができるかどうか判断する。かかる競合結合アッセイにおいて、より具体的には、p51レセプターポリペプチド叉は、その断片を標識する。遊離のp51レセプターポリペプチド叉は、その断片を、蛋白質:蛋白質複合体で存在するものから分離し、遊離(複合体未形成)標識の量は、各々、試験される因子のp51レセプターに対する結合またはp51レセプター:p51ポリペプチド結合の阻害の尺度となる。p51ポリペプチドの小さなペプチド(ペプチド疑似体)をこのように分析し、p51レセプター阻害活性を有するものを測定できる。
本発明において、薬剤スクリーニングのための他の方法は、p51レセプターポリペプチドに対して適当な結合親和性を有する化合物についてのスクリーニング法であって、該略すると、多数の異なるペプチド試験化合物をプラスチックのピンまたは他の物質の表面のごとき固体支持体上で合成し、次いでペプチド試験化合物をp51レセプターポリペプチドと反応させ、洗浄する。次いで既知の方法を用いて反応結合p51レセプターポリペブチドを検出する方法も例示できる(PCT特許公開番号:WO84−03564号)。精製されたp51レセプターは、直接、前記の薬剤スクリーニング技術で使用するプレート上に被覆することができる。しかしながら、ポリペプチドに対する非−中和抗体を用いて抗体を補足し、p51レセプターポリペプチドを同相上に固定することができる。さらに本発明は、競合薬剤スクリーニングアッセイの使用をも目的とし、p51レセプターポリペプチド又は、その断片に対する結合性につき、p51レセプターポリペプチドに特異的に結合できる中和抗体と試験化合物とを競合させる。抗体による該競合によって、p51レセプターポリペプチドの1叉はそれ以上の抗原決定部位を有するいずれのペプチドの存在をも検出することが可能である。
また、薬剤スクリーニングに関し、さらなる方法としては、非機能性p51遺伝子を含有する宿主真核細胞系または細胞の使用が挙げられる。宿主細胞系または細胞を薬剤化合物の存在下において一定期間増殖させた後、該宿主細胞の増殖速度を測定して、該化合物が例えば、アポトーシスや細胞周期を調節できるかどうかを確認する。増殖速度を測定する1手段として、p51レセプターの生物活性を測定することも可能である。
また本発明によれば、より活性叉は安定した形態のp51ポリペプチド誘導体、または、例えば、イン・ビボ(in vivo)でp51ポリペプチドの機能を高めるか若しくは妨害する薬剤を開発するために、それらが相互作用する目的の生物学的に活性なポリペプチド叉は構造アナログ、例えばp51アゴニスト、p51アンタゴニスト、p51インヒビター、等を作製することが可能である。前記構造アナログは例えばp51と他の蛋白の複合体の三次元構造をX線結晶学、コンピューター・モデリング又は、これらの組み合わせた方法によって決定することが出来る。また、構造アナログの構造に関する情報は、相同性蛋白質の構造に基づく蛋白質のモデリングによって得ることも可能である。
また上記より活性叉は安定した形態のp51ポリペプチド誘導体を得る方法としては、例えばアラニン・スキャンによって分析することが可能である。該方法はアミノ酸残基をAlaで置換し、ペプチドの活性に対するその影響を測定する方法でペプチドの各アミノ酸残基をこのように分析し、当該ペプチドの活性や安定性に重要な領域を決定する方法である。該方法によって、より活性な、または安定なp51誘導体を設計することができる。
また機能性アッセイによって選択した標的−特異的抗体を単離し、次いでその結晶構造を解析することも可能である。原則として、このアプローチにより、続く薬剤の設計の基本となるファーマコア(pharmacore)を得る。機能性の薬理学的に活性な抗体に対する抗−イディオタイプ抗体を生成させることによって、化学的または生物学的に生成したペプチドのバンクよりペプチドを同定したり単離したりすることが可能である。故に選択されたペプチドもファーマコアとして作用すると予測される。
かくして、改善されたp51活性、若しくは安定性、またはp51活性のインヒビター、アゴニスト、アンタゴニスト、などとしての作用を有する薬剤を設計・開発することが出来る。
クローン化p51配列によって、十分な量のp51ポリペプチドを入手して、X線結晶学のような分析研究をも行うことができる。さらに、本発明の配列番号1に示されるアミノ酸配列よりなるp51蛋白の提供により、X線結晶学に代えるか、または加えて、コンピューターモデリング技術に適応可能である。
また本発明によれば、ヒトp51遺伝子含有ノックアウト・マウス(変異マウス)を作成することによってヒトp51遺伝子配列のどの部位が生体内で上記したような多様なp51活性に影響を与えるかどうか、即ちp51遺伝子産物、並びに改変p51遺伝子産物が生体内でどのような機能を有するかを確認することができる。
該方法は、遺伝子の相同組換えを利用して、生物の遺伝情報を意図的に修飾する技術であり、マウスの胚性幹細胞(ES細胞)を用いた方法を例示できる(Capeccchi,M.R.,Science,244,1288−1292(1989))。
尚、上記変異マウスの作製方法はこの分野の当業者にとって既に通常の技術であり、この改変技術(野田哲生編、実験医学,増刊,14(20)(1996)、羊土社)に、本発明のヒト野性型p51遺伝子及び変異p51遺伝子を適応して容易に変異マウスを作製し得る。従って前記技術の適応により、改善されたp51活性、若しくは安定性、またはp51活性のインヒビター、アゴニスト、アンタゴニスト、等としての作用を有する薬剤を設計・開発することが出来る。
なお、本発明には、以下のものが含まれる:
1.p51遺伝子を腫瘍細胞に移すことからなる腫瘍形成抑制方法。
2.p51蛋白を腫瘍細胞に移すことからなる腫瘍形成抑制方法。
3.p51遺伝子又はその同効物、及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
4.p51蛋白又はその同効物、及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
5.p51遺伝子又はその同効物を有効成分とする遺伝子治療剤。
6.p51遺伝子又はその同効物を含有する癌診断剤。
7.p51蛋白又はその同効物を含有する癌診断剤。
8.p51遺伝子又はその同効物を用いるp51又はp53関連遺伝子のスクリーニング方法。
9.p51遺伝子又はその同効物を用いて、細胞の腫瘍形成を抑制作用物をスクリーニングする方法。
10.p51遺伝子またはその同効物を用いるp51遺伝子の誘導及び/又は阻害物質のスクリーニング方法。
11.上記スクリーニング方法より収得されるp51遺伝子の誘導及び/又は阻害物質のp51遺伝子発現異常に起因する疾患治療への利用。
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例及び実験例を挙げる。ただし、本発明はかかる実施例及び実験例により何ら限定されるものではない。
実施例1 ヒトp51遺伝子の単離
(1)ヒトp51遺伝子のクローニング及びDNAシークエンシング
(a)本発明者らは、次に掲げるp73−F1センスプライマー及びp73−R1アンチセンスプライマーを用いてPCRを行い増幅し、次いでp73−F2センスプライマー及びp73−R2アンチセンスプライマーでNestして増幅を行った。
p73−F1:5’−TA(CGT)GCA(CGT)AAA(G)ACA(CGT)TGC(T)CC−3’
p73−R1:3’−TGC(T)GCA(CGT)TGC(T)CCA(CGT)GGA(CGT)A(C)G−5’
p73−F2:5’−TA(CGT)ATA(CT)A(C)GA(CGT)GTA(CGT)GAA(G)GG−3’
p73−R2:3’−ATGAAC(T)A(C)GA(CGT)A(C)GA(CGT)CCA(CGT)AT−5’
具体的には、ヒト骨格筋ポリA+RNA(クローンテック社製)よりランダムプライマーおよびオリゴdTプライマーを用いてcDNAを合成し、λ ZipLox(ギブコBRL社製)をベクターとして構築した約107プラークからなるcDNAライブラリーを増幅し、DNAを抽出した。そのcDNA0.2μgを鋳型として上記プライマーp73−F1及びp73−R1を用いてTag Polymerase(ギブコBRL社製)の説明書に従って、94℃で30秒、45℃で30秒、72℃で30秒を25サイクルで増幅し、次いでその100分の1を鋳型として上記プライマーp73−F2及びp73−R2を用いて同様の反応によって増幅した。
p53遺伝子の構造から推測される172bpのバンドが得られたので、そのバンドの制限酵素地図を作成したところ、p53遺伝子以外の遺伝子があることが判明した。そのバンドをpGEM7(Promega社製)にサブクローニングし、ABI377自動シークエンサー(ABI社製)を用いて、常法に従って塩基配列を決定したところ、p53遺伝子に類似するものの、異なる新規塩基配列を有する新規遺伝子に由来するDNA断片であった。
なお別途、他の臓器(脳等)由来のcDNAライブラリーに対して、同様の解析を行ったところ、更に別個のp53遺伝子に類似性を有する新規遺伝子由来のDNA断片が検出されたが、それはp73遺伝子由来のものであった。
このサブクローンされたDNA断片を切り出し、BcaBest labeling kit(宝酒造製)を用いて標識プローブを作成した。オリゴdtプライマーのみを用いる以外は上記cDNAライブラリーと同様にして構築した未増幅のライブラリー2.4×106プラークをプラークハイブリダイゼーションによってスクリーニングした結果、8個のポジティブクローンが得られた。λ ZipLoxはCre−LoxPの系を用いて、容易にプラスミドに変換できるので、変換プラスミドをLICOR社の自動シークエンサーとABI377自動シークエンサー(ABI社)を用いて、常法に従って塩基配列を決定した。
次いで、得られた遺伝子の塩基配列とp53遺伝子及びp73遺伝子の塩基配列との相同性を、GCGソフトウェア(ウィスコンシン・配列分析パッケージ、ジェネティクス・コンピューター・グループ製)を使用するFASTAプログラムを用いて(Person,W.R.and Lipman,D.J.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,85,1435−1441(1988))、探索した。
かかる相同性検索の結果、上記の方法によって選択され、塩基配列が決定されたクローンのうち2つがp53遺伝子およびp73遺伝子と高い相同性を有していることを見出した。これら2つのクローンが有する遺伝子の配列によりコードされる推定アミノ酸から分子量を掲載したところ、それぞれ50,894Da及び約71,900Daであった。本発明者らは、これらのクローンをそれぞれp51A及びp51Bと命名した。
上記で得られたp51Aクローンが有する遺伝子(p51A遺伝子)の全塩基配列を配列番号2に、またp51Bクローンが有する遺伝子(p51B遺伝子)の全塩基配列を配列番号5に示す。
p51Aクローンは、配列番号2に示すように、配列番号1で示されるアミノ酸配列(448アミノ酸)をコードする塩基配列(1344ヌクレオチド)を、オープン・リーディング・フレームとして145〜1488位に有する遺伝子を有していた。また、このクローンが有する遺伝子の塩基配列によりコードされる推定アミノ酸配列において、転写活性化領域は1〜59位、DNA結合領域は142〜321位、及びオリゴメリゼーション領域は359〜397位であった。
一方、p51Bクローンは、配列番号5に示すように、配列番号4で示されるアミノ酸配列(641アミノ酸)をコードする塩基配列(1923ヌクレオチド)を、オープン・リーディング・フレームとして145〜2067位に有する遺伝子を有していた。また、このクローンが有する遺伝子の塩基配列によりコードされる推定アミノ酸配列において、転写活性化領域は1〜59位、DNA結合領域は142〜321位、及びオリゴメリゼーション領域は353〜397位であり、これは更に、C末端側の領域に付加的配列(SAMドメイン)を有しており、当該付加的配列を含む353〜641位の領域を広義のオリゴメリゼーション領域とみることができる。
本発明のp51A遺伝子でコードされるアミノ酸配列をp53蛋白及びp73β蛋白のアミノ酸配列と比較し、三者間の相同性を調べた(図2)。なお、図中、三者間で同一のアミノ酸を四角で囲んで示す。
また図1に、p51A蛋白の構造的なドメインの特徴を、p53蛋白及びp73β蛋白とともに、シェーマ的に示す。図中「TA」は転写活性化領域、「DNA binding」はDNA結合領域、「oligo」はオリゴメリゼーション領域をそれぞれ示す。尚、p51蛋白とp73β蛋白の構造的特徴はp53蛋白の構造的な特徴から推測した。
これらの結果、全配列、転写活性化領域、DNA結合領域及びオリゴメリゼーション領域における、それぞれのp51A蛋白、p53蛋白及びp73β蛋白の推定アミノ酸配列の相同性は、p51A蛋白及びp53蛋白間では、それぞれ36%、22%、60%、37%;p51A蛋白及びp73蛋白間では、それぞれ42%、30%、87%、65%;更にp53蛋白及びp73蛋白間では、それぞれ28%、27%、63%、83%であった(表1参照)。
また、p51A蛋白の448アミノ酸残基は、p73α蛋白の636アミノ酸残基より短いものの、p51A蛋白の全構造はp73のカルボキシ末端部位が割裂した部分が類似していた。
これらの結果から、p51A蛋白の推定アミノ酸配列は、p53蛋白及びp73β蛋白のいずれとも類似しているものの、p53蛋白のアミノ酸配列よりもp73β蛋白のアミノ酸配列に相同性が高く、またp51A蛋白とp73β蛋白との相同性は、オリゴメリゼーション領域以外の領域で、p53蛋白とp73β蛋白の相同性よりも高いことが判明した。更にp51A蛋白及びp73β蛋白間では、p53蛋白及びp73β蛋白間又はp53蛋白及びp51A蛋白間で相同性がない領域においても、相同性が認められた。これらのことからp51A蛋白は、アミノ酸配列レベルにおいてp53蛋白よりもp73β蛋白により近似しているといえる。
また、同様に本発明のp51B遺伝子でコードされるアミノ酸配列をp73α蛋白のアミノ酸配列と比較し二者間の相同性を調べた(図3)。なお、図において二者間で同一のアミノ酸を四角で囲んで示す。
また、図4にp51(A及びB)遺伝子によってコードされるスプライシング変異体の構造的なドメインの特徴を、p73蛋白(α及びβ)とともに、シェーマ的に示す。p51A蛋白とp51B蛋白の分岐点はイントロン10で始まっているのに対し、p73α蛋白とp73β蛋白の分岐点はイントロン13で始まっていた。
実施例2 正常ヒト組織におけるp51mRNA発現の確認
(1)ノーザンブロット分析
正常ヒト組織におけるp51mRNAの発現を、ランダム・オリゴヌクレオチド・プライミング法によって標識したヒトcDNAクローンをプローブとするノーザンブロット法により評価した。
ノーザンブロット分析は、製品使用法に従い、ヒトMTNブロット(Human Multiple Tissue Nothern blot;クローンテック社製、パロ・アルト、カリフォルニア、米国)を用いて実施した。
即ち、実施例1で得られたDNAクローンのPCR増幅産物のEcoRI断片(600bp:cDNAの5’端に相当する)を〔32P〕−dCTP(ランダムプライムドDNAラベリングキット、ベーリンガーマンハイム社)により標識してプローブとした。
なお、ブロッティングは、ExpressHyb Hybridization Solution(クローンテック社製)を用いて、使用説明書に記載されている条件に従って行い、BAS2000(FUJI)を用いて検出した。
結果を図5及び図6に示す。
なお、図5はクローンテック社よりフィルターを購入して行ったノーザンハイブリダイゼーション、図6はクローンテック社よりRNAを購入して自分でフィルターを作製して行ったノーザンハイブリダイゼーションの結果である。図5は各レーン2μgのポリA+RNA、図6は各レーン0.5μgのポリA+RNAを付して泳動したものである。
図5の各レーンは、1:心臓、2:脳、3:胎盤、4:肺、5:肝臓、6:骨格筋、7:脾臓、8:膵臓についての結果をそれぞれ表わす。図6の各レーンは、1:乳腺(mammary gland)、2:前立腺(prostate)、3:唾液腺(salivary gland)、4:胃(stomach)、5:胸腺(thymus)、6:甲状腺(thyroid)、7:気管(trachea)、8:子宮(uterus)についての結果を示す。
その結果、ヒトp51遺伝子と命名された本発明の遺伝子のmRNA(4.4kb)の発現は、いたるところに発現するp53mRNAの発現パターンとは対照的に、むしろ限定的であり、骨格筋において最も高く発現しており、それに続いて胎盤、trachea、mammary gland、prostate、salivary gland、thymus、uterus、stomach、肺、脳、及び心臓の順で高く発現していることがわかった。その他の組織(例えば、adrenal gland,small intestine,spinal cord,spleen)ではp51mRNAの発現は検出できなかった。
p73遺伝子の発現も組織限定的である。しかし、p51遺伝子の発現は、p73遺伝子の発現と重複しているものの(同じ組織で発現が見られる)、p73遺伝子よりも広い範囲に発現していることがわかった。
このようにヒトp51遺伝子、p53遺伝子及びp73遺伝子は、組織の発現分布に相違があることから、これらの遺伝子は互いに類似した生物活性を有しているにも係わらず、生体内において組織に応じて異なる機能を有している可能性も示唆された。
また、更なる研究によって、種々のヒト組織におけるp51mRNAには、p73蛋白と同様に、p51A蛋白をコードする短いフォームとp51B蛋白をコードするより長いフォームの、選択的スプライスされた形態(alternative splicing variant)が存在することがわかった。なお、後者のp51Bをコードする長いフォームは、舌のグルタミン酸レセプターに対するサーチによって偶然見つかったketと名づけられものに相同性を有していた。骨格筋における主な転写物である3kbのmRNAが、調べた全組織に観察された最も多いmRNAであった。短いフォームのcDNAクローンは、この転写物に由来するものと思われる。興味深いことに、正常組織で観察されるmRNAとは対照的に、腫瘍細胞系の多くではこの短いフォーム(p51A)のp51mRNAが発現していた。
p51蛋白とp73蛋白の各alternative splicing variantの構造の比較をシューマ的に示す図を図4に示す。このp51BのmRNAは、p73αと類似する分子量(計算)を持つ蛋白質をコードしていた。
p51A及びp51Bの両方間の機能的な違いについては不明である。
実施例3 p51遺伝子の染色体マッピング
ラジエーションハイブリッドパネル(GeneBridge 4 Radiation Hybrid Panel; Research Genetics社)を用いて、p51遺伝子をヒト染色体上にマップした。その結果、p51遺伝子は、マーカーAFBM327YD9とWI−1189の間(前者マーカーから5.66cR)、3q28−terに局在した。
実施例4 種々のヒト癌細胞株とヒト腫瘍におけるp51変異
p51遺伝子について最も興味があるのは、p53腫瘍抑制遺伝子が有する特徴を該p51遺伝子が有するかどうか、また該遺伝子の変異とヒト腫瘍の形態形成との関係である。
そこで、各種腫瘍細胞株を用いて、p51遺伝子の変異の有無を検索した。なお検索方法には、以前本発明者らがp53変異を決定する際に用いた、酵母の独立アレイ体の機能分析法(FASAY)を採用した(Ishioka et al.,Nat.Genet.5,124−129(1933))。
ヒトp51A遺伝子をコードする全配列に及ぶ相補的なDNA断片を、先の測定に使用したPCRによって増幅して、p51A遺伝子をコードする全配列をカバーする増幅断片の塩基配列を取得し、この塩基配列を直接配列決定法により決定し変異の有無を検出した。
腫瘍細胞は5%CO2条件下で10%ウシ胎児血清添加ダルベッコの修飾必須培地(Dulbecco’s Modified Essential Media)中で培養した。p51AcDNAの全ては、先の分析においてp53cDNAを増幅することが可能であったので、これによって細胞株のcDNAの品質は保証された。
102の細胞株の中から分析された67株がp51ADNA断片の増幅が可能であった。そのうちの35株について、直接配列決定法によって塩基配列が決定された。
頭頸部の癌細胞株のHo−1−u−1(JCRB0828)、と頸部癌細胞株のSKG−IIIa(JCRB0611)の二つの細胞株に変異が認められた。
前者はSer145からLeu、後者はGln165からLeuの変異であった。p53蛋白に関しては、前者は変異型、後者はヒトパピローマウイルス感染によって、p53蛋白の正常機能が失われていることが推測される。また、腫瘍細胞に由来するmRNAには種々のsplicing variantが存在していた。
ヒト原発腫瘍に関して、SSCP法及びRT−PCR法により得られるDNA増幅産物の塩基配列を直接塩基配列決定法によって決定し、p51A遺伝子変異を検索した。neuroblastoma8例、colon cancer8例、breast cancer8例、lung cancer8例、brain tumor8例、esophageal cancer8例、hepatocellular cancer8例、pancreas cancer6例、renal cancer4例の計66例のヒト腫瘍のうち、肺ガン1例においてAla148からProへの変異を検出した。
これら3例の解析はいずれもcDNAの解析であり、単一の染色対座から発現していることは明らかであった。
実験例1 p51形質転換によるコロニー形成の抑制
p53蛋白はG1期における細胞をブロックする、或いはアポトーシスを誘導する能力を持っている。
本発明のp51蛋白について、コロニー形成抑制能力を調べるためにSAOS2骨肉腫細胞株(寄託番号:ATCC HTB85)中にプロマイシン抵抗性の発現プラスミド(pBABEpuro :Morgenstern J .Nuc.Acids Ru,18,3587,1990)と共にp51A発現コンストラクト、p51AにHA標識した発現コンストラクト(HA標識−ATGTATCCATATGATGTTCCAGATTATGCT:アミノ酸配列MYPYDVPDYAをコードする)、P53発現コンストラクト及びベクターをコ・トランスフェクトしコロニー形成能を調べた。
なお各発現ベクターは、p51ADNAのコード領域断片(2816塩基、配列番号2において塩基番号1〜2816番め)、前記p51A cDNAにHAタグを付けた断片、及びp53cDNAのコード領域断片(1698塩基、塩基番号62〜1760番目)をクローニングすることによってそれぞれ構築した。次いで、骨肉腫細胞株であるSAOS2細胞を5%CO2条件下で10%ウシ胎児血清添加ダルベッコの修飾必須培地中で培養した。6cmシャーレ(1×106細胞/シャーレ)に上記SAOS2細胞を播いて、24時間後にp51A cDNA鎖を含む野生型p51発現ベクター(pRcCMV/p51A)で形質転換させた。同様にp51A cDNAにHAタグを付けたHAp51A、及び野生型p53遺伝子並びに、コントロールとしてpRcCMV発現ベクターのみを形質転換させた。
1μgのpBABEpuroをMammalian transfection Kit(Strategene社)を用いて細胞に導入した。得られた細胞を固定し、クリスタル・バイオレッドで染色した。染色した細胞のコロニーを写真撮影した。各形質転換は各々2回実施し、このようにしてコロニー形成を分析した。
その結果、コロニー数の有意な減少がp53遺伝子並びにp51遺伝子で形質転換した細胞を培養した皿内で観察され、それとは対称的にベクターのみでトランスフェクトした細胞を培養した皿には数多くのコロニーが育っていた。このようにp51遺伝子にはコロニー形成を抑制する能力が認められたが、p53遺伝子の能力よりもやや劣っていた。その一方で、HAタグの付いたp51遺伝子は、p53遺伝子と同等のコロニー抑制能力を持っていた(図7)。
実験例2 p51蛋白の転写活性化機能試験
G1期における細胞の阻止又はアポトーシスの誘導に対するp53蛋白の能力はp53蛋白の転写活性化機能に依存していることから、p51蛋白について、それがその活性を発揮するかどうか試験した。
p53転写活性化機能によって調節されることが知られているWaflプロモーターとRGC(ribosomal gene cluster)配列の下流にルシラーゼ・リポーター・プラスミドと共にp51A遺伝子の発現構築物を実施例5の方法に準じて導入した。具体的には、SAOS2細胞を、上記ルシフェラーゼ・リポーター・プラスミドと、p51A発現ベクター,p53発現ベクター又はコントロール・ベクターのいずれかと一緒にコ・トランスフェクトし、得られた形質転換体から調製したlysateについてルシフェラーゼ活性を測定した。ルシフェラーゼ活性はデュアル−ルシフェラーゼ・リポーター測定システム(プロメガ社製)を用いて形質転換効率を考慮して算出した。
図8に、実験に用いたリポーター構築物をシェーマ的に示す。該図中に、種々のp21WAF1プロモーター下流に調節された3つの蛍光ルシフェラーゼ遺伝子構築物が示される。図中、「WAF−1 promoter luc」は、二つのp53調節エレメントを残している野生型p21WAF1プロモーター構築物、「del 1」は一つの上流エレメントが取り除かれている構築物、及び「del 2」は両エレメントが取り除かれている構築物をそれぞれ示す。
結果を図9及び図10にそれぞれ示す。縦軸のRelative activityは、デュアル−ルシフェラーゼ・リポーター測定システムを用いて形質転換効率を考慮して換算されたルシフェラーゼ活性である。
図9は、図8に示した種々のリポーター構築物を有する各p51発現プラスミド(p51A)、p53発現プラスミド(p53)またはベクターのみ(Rc/CMV)のそれぞれをSAOS2細胞に導入した際のtransactivation活性を示す。その結果から、p51蛋白には、p53蛋白と同様にp53反応性配列の数依存的な発現を誘導する活性を有することが示された。
図10は、p53反応性が実験的に示されているPGCリポーター構築物を用いて、該リポーター構築物を有する各p51A発現プラスミド(p51A)、p51AにHA標識した発現プラスミド(HAp51A)、p53発現プラスミド(p53)またはベクター(RcCMV)を用いて同様な実験を行った結果を示す。その結果から、図9に示した実験結果と同様に、p51A及びHAp51Aはいずれもp53と同じようにp53反応性配列の数依存的な発現を誘導する活性を有することが示された。p51A発現プラスミドを用いた場合に活性が弱いのは、leader sequenceを付加したまま発現ベクターに組み込んだため、発現量が少ないものと推定される。
その後の実験でleader sequenceを欠失させたところ、p51A蛋白は、p53蛋白よりも強い発現誘導能を有し、前出のコロニー形成抑制能の点でも強い活性を有することが判明した。
上記の結果から、p51蛋白は、その転写調節領域を通して転写を誘導する能力を保有していた。該エレメントにおける変異誘導によって転写活性が消失することからp51蛋白も p53蛋白と同一の認識配列を利用している可能性が示唆された。
次にこの転写関係が、in vivoについても言えるかどうかを確認した。HA付加エピトープを持つp51A遺伝子の発現構築物をSAOS2細胞に短期に導入した。細胞がp51A遺伝子を取り込むことから、p51Aが核内に局在することが明らかとなり、それら細胞全てがp21Waf1のレベルを上昇させることが分かった。このことは、p51蛋白もまた、p53蛋白によってコントロールされることが知られているp21Waf1を誘導できることを示唆する。
実験例3 初生腫瘍におけるp51遺伝子変異
p51遺伝子の変異を66名の患者の初生癌細胞(8名の神経芽腫、8名の大腸癌、8名の乳癌、8名の肺癌、8名の脳腫瘍、8名の食道癌、8名の肝細胞癌、6名の膵臓癌、及び4名の腎癌)を対象として、逆転写−PCR一本鎖構造ポリモルフィズム(RT−PCR−SSCP)法及びDNA配列決定法を用いて調べた。
(1)RNAの調製
新鮮腫瘍サンプルを外科的に摘出後、直ちに凍結し、使用するまで−80℃で保存した。RNAはナカガワらの文献記載(Nakagawa,A.,et al.,N.Engl.J.Med.,328,847−854(1993))の方法で抽出した。
(2)RT−PCR−SSCP及びDNA配列決定
全RNAの5μgをSuperscript II逆転写酵素(ギブコ−BRL社製)とランダム・プライマーを用いてcDNAに転写させた。cDNAの第20番目の一つのcDNAをPCR増幅のために使用した。PCR−SSCPはマシヤマらの方法(Mashiyama S.et al.,Oncogene,6,1313−1318(1991))に従って実施した。より具体的にはPCR産物をp51A cDNAに対して3つのプライマーで増幅した。
PCRに使用したプライマーの塩基配列を以下に示す。
p51−F1: 5’−AAAGAAAGTTATTACCGATG−3’
p51−R1: 5’−CGCGTGGTCTGTGTTATAGG−3’
p51−F2: 5’−CATGGACCAGCAGATTCAGA−3’
p51−R2: 5’−CATCACCTTGATCTGGATG−3’
p51−F3: 5’−CCACCTGGACGTATTCCACT−3’
p51−R3: 5’−TGGCTCATAAGGTACCAG−3’
p51−F4: 5’−CATGAGCTGAGCCGTGAAT−3’
p51−R4: 5’−TATCTTCATCCGCCTTCCTG−3’
p51−F5: 5’−ATGAACCGCCGTCCAATT−3’
p51−R5: 5’−GTGCTGAGGAAGGTACTGCA−3’
p51−F6: 5’−TGAAGATCAAAGAGTCCCTG−3’
p51−R6: 5’−CTAGTGGCTTTGTGCCTTTG−3’
ついで、ローディング緩衝液で1:10に32PdCTPをに希釈した。更に 98℃で5分間変性させて、室温で12から14時間の間200ボルトにて5%グリセロールと5%ポリアクリルアミド・ゲル上にて分離した。電気泳動後、ゲルは、乾燥させて、移動したバンドが具体的に見えるようになるまでX線フィルムに一晩露光させた。変異の存在又は不存在を確認するために、PCR産物をpGEM−T イージー・ベクター(プロメガ社製)の中にサブ・クローニングし、続いてABI377DNAシークエンサーを用いて配列決定を行った。
その結果、高度に分化した扁平上皮細胞癌の系統に属する肺癌の組織において、p51A蛋白の推定DNA結合領域がアミノ酸置換した点変異(148位のAlaがProに置換)が見つかった。その腫瘍は、前気管のリンパ節転移と胸膜の浸潤を示していた。無作為に選択した5つのクローンの全てが同じ変異を有していたことから、この腫瘍細胞が有するp51遺伝子は、単一対立性遺伝子であるか又は単一対立性遺伝子的に発現されたものである可能性が示唆された。
実験例4 p51cDNA導入によるアポトーシスの誘導作用
p51蛋白が、p53蛋白同様に、細胞のアポトーシスを誘導するかどうかについて検索した。
p51蛋白のアポトーシス誘導試験は、前述の本発明者らの方法、つまり細胞株を32℃で培養した時、アポトーシスの典型的な特徴を呈するトランジェニック・マウス赤白血病細胞株(1−2−3細胞株)を用いる方法に準じて行った(Kato,M.V.,et al.,Int.J.Oncol.,9,269(1996))。
なお、マウス赤白血病細胞株(1−2−3細胞株)は、Friend spleen focus forming virus gp55遺伝子のトランスジェニックマウス由来のerythroleukemiaから樹立され〔Xu et al.,Jpn.J.Cancer Res.86:284−291(1995);Kato et al.,Int.J.Oncol.9:269−277〕、温度感受性(ts)変異p53蛋白(Ala1353Val:点変異)のみを発現する細胞株である。当該ts−変異p53蛋白は、通常の培養温度である37℃では細胞質内に局在し、p53分子が本来核内で果たすべき制御機能が発揮されないが、32℃では核内に移行してp53の活性が誘導される〔Levine,A.J.et al.,Nature 351:453−456(1991)〕。この細胞株では、32℃で緩慢なアポトーシスが誘導されることが既に報告されている。
1−2−3細胞を、5%CO2条件下で10%仔ウシ胎児血清添加RPMI 1640培地中にて培養した。次いで、該細胞にpRc/CMVを発現ベクターとして、p51A遺伝子を導入し、選択培地で培養してネオマイシン耐性(Neor)に基づいて、G418耐性細胞を選択し、p51A発現細胞でのアポトーシスについて検討した。
すなわち、p51A遺伝子を含む発現ベクター(pRcCMV/p51A)で形質転換した2つのp51A導入1−2−3細胞(以下「1C1細胞」及び「4B1細胞」という)、及び対照としてベクターだけを導入し、p51A遺伝子を含まない1−2−3細胞(以下、「1−2−3細胞」という)を、それぞれ1×105/mlの濃度で10cm径のプレートに植え、37℃と32℃の2つの条件下で、24時間培養後、細胞を回収した。該細胞をProteinaseK及びRNaseA処理によってDNAサンプルとし、得られたDNAサンプルをアガロース電気泳動した。そのエチジウムブロマイド染色像を図11に示す。
図からわかるように、37℃での培養では、1−2−3細胞についてはDNA断片を検出することはできなかった(レーン1)が、p51A遺伝子が導入された1C1細胞及び4B1細胞については、180bpオリゴマーへのDNA断片化が検出できた(レーン2及び3)。
32℃での培養では、1−2−3細胞のDNA断片化が検出されるとともに(レーン4)、1C1細胞及び4B1細胞でのDNA断片化が促進された(レーン5及び6)。この結果は、以下の述べるアポトーシスの形態観察の結果及びp51導入細胞の増殖抑制(32℃、37℃)の結果と一致するものであった。
細胞のアポプティックな形態的変化の有無は、各細胞をグラス・スライドに固定し、ギムザ染色にて染色して、細胞形態及び染色の程度を顕微鏡で観察することにより行った。なお、細胞の生存数は、トリパンブルー染色にて染色し、細胞の生存数カウントして求めた。
その結果、32℃で培養した細胞は、細胞表面上の突起物を持ち、縮み、歪曲又はくびれた形態を呈していた。またギムザ染色細胞標本において、核膜の周囲又は細胞内の集塊内のいずれかにクロマチン凝縮が観察された。一方、37℃で培養した細胞については、このような形態変化は観察されなかった。
また、32℃での培養24時間内ではアポトーシスにより死滅する細胞と、セルサイクルを継続して増殖する細胞が混在し、p51発現細胞の24時間後の細胞数は105/mlで、1−2−3細胞の細胞数は1.7×105/mlであった。
以上のことから、温度32℃で処理したp51遺伝子含有細胞は、p53と共同して急激なアポトーシスを起こしたことが確認された。このことからp51蛋白は、p53蛋白同様、有意にアポトーシスを誘導することが確認された。
実験例5
ヒトp51B蛋白のC末端領域(アミノ酸配列の570〜641位の領域)の特異抗体を作成し、ヒト細胞の免疫染色を行った。
すなわち、ヒトp51B DNAの当該コード領域(塩基配列1851−206位の領域)をGST融合蛋白発現ベクターpGEX−1λT(ファルマシア社)に連結し、大腸菌にて融合蛋白を合成した。この融合蛋白を用いて、常法に従い、BALB/Cマウスを用いて抗血清(ポリクローナル抗体)を調製し、GST蛋白で吸収して、p51B蛋白のC末端領域の特異抗体を取得した。
上記抗体をヒト皮膚組織凍結切片と第1次反応させ、次いで蛍光標識ヤギ抗マウスIgG抗体と第2次反応させた。
その結果、当該抗体は、ヒト皮膚の棘細胞層から基底層にかけての細胞の核を特異的に染色した。この特異性は、上記融合蛋白による処理がこの反応を消去し、GST蛋白による前処理ではこの反応を消去し得なかったことで確認された。
産業上の利用可能性
本発明の遺伝子は、腫瘍抑制遺伝子として知られているp53遺伝子の関連遺伝子と位置づけられる。これらの遺伝子によれば、各細胞での発現レベルや機能を解析でき、またその発現物の解析等によって、これらが関与する疾患(例えば悪性腫瘍等)の病態解明や診断、治療等が可能になるものと考えられる。
また、本発明遺伝子は神経系で発現されるp73と対比して、腺組織(前立腺、乳腺)、筋組織、並びに胸腺などの免疫系に発現し、これらにおける異常に関与する可能性があり、これらの制御物質の開発に貢献するものと考えられる。
本発明によれば、細胞増殖抑制遺伝子として有用な新規ヒトP51遺伝子が提供される。本発明の新規遺伝子は、p53蛋白又はp73蛋白をコードする遺伝子と類似性を有する。このため、解析されたこれらの関連遺伝子の機能と各種疾患との係わりについての研究に利用でき、各種疾患への遺伝子診断並びに該遺伝子の医薬用途への応用研究に用いることが可能である。また、本発明の遺伝子を利用することにより、各種ヒト組織での該遺伝子の発現状況が調べられ、ヒト生体内におけるその機能を解析することが可能となる。
また、該遺伝子によれば、該遺伝子がコードするヒトP51蛋白を遺伝子工学的に大量に製造することができる。すなわち本発明の遺伝子の提供によれば、その遺伝子及び遺伝子断片を発現ベクターに組み込み、リコンビナントヒトP51蛋白を作製し、p51蛋白活性やp51蛋白の結合活性等の機能を調べることができる。
またp51蛋白は、P51遺伝子及びその産物が関与する疾患(例えば、細胞の転写活性に関連する疾患や、アポトーシスに関連する各種疾患等、特に癌)の病態解明や診断、治療等に有用である。
p51蛋白は、p53と同様な生理学的作用又は機能を有し、例えばウイルス感染、サイトカイン刺激、低酸素状態、ヌクレオチドプールの変化、薬物による代謝異常等といった各種生体ストレスが生体組織に及ぶと、他の蛋白質との相互作用によるシグナル伝達や他の遺伝子の転写制御などの機能を生ぜしめ、生体ストレスを受けた生体組織の細胞のDNAの複製を調節したり、細胞周期を停止させて細胞を修復するか、アポトーシスにより細胞を排除するか、或いは細胞の分化を促進したりすることで生体組織をストレスから防御することに寄与していると予想される。
本発明によれば、ヒトp51遺伝子又はそのアレル体を含有する遺伝子治療に有用な遺伝子導入用ベクター,該p51遺伝子又はそのアレル体が導入された細胞及び該ベクター又は細胞を有効成分とする遺伝子治療剤、並びにその利用による遺伝子治療法等が提供される。
また本発明によれば、各種癌細胞の成長抑制作用を有し、該作用による各種癌の疾患及び病態の処置等に使用されるp51蛋白を有効成分とする医薬も提供することができる。
なお、ヒトのp51遺伝子とマウスの当該遺伝子の機能的領域は、TA領域の3個のアミノ酸以外の全て同一で、高度の保存性を示しており、その重要性が示唆される(両者の塩基配列の対比を図12〜14並びに図15に示す。)。
【配列表】
【図面の簡単な説明】
図1は、p51A蛋白の構造的なドメインの特徴を、p53蛋白及びp73β蛋白とともに示した図である。図中、「TA」は転写活性化領域、「DNA binding」はDNA結合領域、及び「oligo」はオリゴメリゼーション領域をそれぞれ示す。
図2は、ヒトp51A遺伝子でコードされるアミノ酸配列をp53蛋白及びp73β蛋白の各アミノ酸配列と比較し、三者間の相同性をみた図である。三者が同一であるアミノ酸を四角で囲んで示す。
図3は、ヒトp51B遺伝子でコードされるアミノ酸配列をp73α蛋白の各アミノ酸配列と比較し、両者の相同性をみた図である。両者が同一であるアミノ酸を四角で囲んで示す。
図4は、p51蛋白のalternative splicing variant(p51A、p51B)の構造を、p73蛋白のalternative splicing variant(p73α、p73β)の構造と模式的に比較した図である。
図5は、種々のヒト組織におけるp51mRNA発現状況を、ノーザンブロッテッング(クローンテック社のフィルター使用)による電気泳動像で示す図面に代わる写真である。各レーンは、1:心臓、2:脳、3:胎盤、4:肺、5:肝臓、6:骨格筋7:脾臓、8:膵臓の結果を示す。
図6は、種々のヒト組織におけるp51mRNA発現状況を、ノーザンブロッティング(クローンテック社より購入したRNAを用いて作製したフィルター使用)による電気泳動像で示す図面に代わる写真である。各レーンは、1:乳腺(mammary gland)、2:前立腺(prostate)、3:唾液腺(salivary gland)、4:胃(stomach)、5:胸腺(thymus)、6:甲状腺(thyroid)、:7:気管(trachea)、8:子宮(uterus)の結果を示す。
図7は、p51A遺伝子のコロニー形成抑制能を示す図面に代わる写真である。具体的には、p51A発現プラスミド(p51A)、p53発現プラスミド(p53)、HAタグの付いたp51A発現プラスミド(HAp51A)及びベクターのみ(RcCMV)で形質転換した各細胞のコロニー形成能を比較した図面に代わる写真である。
図8は、実験例2に用いたリポーター構築物を模式的に示す図である。図中、WAF−1 promoter lucは、二つのp53調節エレメントを残している野生型p21WAF1プロモーター構築物、del 1は一つの上流エレメントが取り除かれている構築物、及びdel 2は両エレメントが取り除かれている構築物をそれぞれ示す。
図9は、図8に示した種々のリポーター構築物を有する各p51A発現プラスミド(p51A)、p53発現プラスミド(p53)またはコントロール・ベクター(Rc/CMV)を、SAOS2細胞に導入した際のtransactivation活性を示す図である(実験例2参照)。
図10は、p53応答性が実験的に示されているPGCリポーター構築物を有する各p51A発現プラスミド(p51A)、HA標識したp51A発現プラスミド(HAp51A)、p53発現プラスミド(p53)またはコントロール・ベクター(RcCMV)を、SAOS2細胞に導入した際のtransactivation活性を示す図である(実験例2参照)。
図11は、実験例4において、ヒトp51A遺伝子を含む1C1細胞及び4B1細胞、及びp51A遺伝子を含まない1−2−3細胞について、32℃及び37℃の異なる温度下で培養した場合のDNAの断片化を調べた結果を示す図面に代わる写真である(アガロース電気泳動のエチジウムブロマイド染色像)。
図中「1−2−3細胞」とはベクターだけを導入し、p51A遺伝子を含まない対照の細胞であり、「1C1細胞」又は「4B1細胞」とは、p51A遺伝子を含む発現ベクター(pRcCMV/p51A)で形質転換したp51A導入1−2−3細胞である。またλ/Hind IIIはλファージDNAの制限酵素Hind IIIによる分解物であり、DNAのサイズマーカーである(New England Biolabs.ind.製)。また、100bp ladderとは100bpの整数倍のサイズを有するDNA断片からなるサイズマーカーである(GIBCO−BRL製)。
図12〜14は、ヒトp51B遺伝子のコード領域の塩基配列(下段)とマウスホモログ(マウスp51B遺伝子)の当該配列(上段)とを比較した図面である。なお、両者間で同一の塩基には図中★印を記している。
図15は、図12〜14で示すヒトp51B遺伝子及びマウスp51B遺伝子でそれぞれコードされるヒトp51B蛋白及びマウスp51B蛋白のアミノ酸配列を比較した図面である。なお、両者間で同一のアミノ酸には図中★印を記している。
Claims (8)
- 以下の(a)又は(b)の蛋白質をコードする遺伝子:
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列を含む蛋白質
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を含み、且つ転写活性化作用、腫瘍細胞成長抑制作用、又はアポトーシス誘導作用のいずれかの作用を有する蛋白質。 - 以下の(a)、(b)又は(c)のDNAのいずれかを含む遺伝子:
(a)配列番号2に示される塩基配列又はその相補鎖配列からなるDNA
(b)配列番号2に示される塩基配列において、塩基番号145〜1488に示される塩基配列からなるDNA又はその相補鎖配列からなるDNA
(c)配列番号2に示される塩基配列において、塩基番号145〜1488に示される塩基配列からなるDNA又はその相補鎖配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ転写活性化作用、腫瘍細胞成長抑制作用、又はアポトーシス誘導作用のいずれかの作用を有する蛋白質をコードするDNA。 - 請求項1又は2に記載の遺伝子を含有するベクター。
- 請求項3に記載のベクターで形質転換された宿主細胞。
- 請求項4に記載の宿主細胞から産生される組換え蛋白質。
- 以下の(a)又は(b)に示す蛋白質:
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列を含む蛋白質
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を含み、且つ転写活性化作用、腫瘍細胞成長抑制作用、又はアポトーシス誘導作用のいずれかの作用を有する蛋白質。 - 請求項5に記載の組換え蛋白質又は請求項6に記載の蛋白質に結合性を有する抗体。
- 請求項4に記載の宿主細胞を培地中で培養し、得られる培養物から蛋白質を回収することを特徴とする、請求項6記載の蛋白質の製造方法。
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