JP4399654B2 - p53ファミリーのキメラ遺伝子及びキメラタンパク - Google Patents

p53ファミリーのキメラ遺伝子及びキメラタンパク Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、p53ファミリーのキメラ遺伝子並びにキメラタンパクに関する。本発明のキメラ遺伝子は、その優れた特性に基づいて悪性腫瘍とくにp53変異ヒト腫瘍の遺伝子治療に有用であり、またp53ファミリー遺伝子の機能分析において有用なツールとなるものと期待される。
【0002】
【従来の技術】
p53はDNA型腫瘍ウイルスSV40の大型T抗原と結合する核内タンパクとして発見され、既にその遺伝子(p53遺伝子)がクローニングされている。当初p53遺伝子は、ras遺伝子と共に細胞に導入することによって胚由来細胞がトランスフォームされることから癌遺伝子と考えられていたが、その後の研究により当初得られたp53遺伝子のクローンは変異型であり、野生型p53遺伝子はむしろ変異型のトランスフォーム能を抑制することが明らかになった。p53遺伝子の欠失若しくは異常が多くのヒト癌細胞で検出されており、また高発癌性遺伝病として知られるLi−Fraumeni症候群においてp53遺伝子の配偶子変異が発見されたこと等から、今ではp53遺伝子は重要な癌抑制遺伝子と考えられるに至っている〔Baker,S.J.,et al.,Science,244,217−221(1989):Nigro,J.M.,Nature,342,705−708(1989)〕。
【0003】
ヒトp53は、393個のアミノ酸からなり、大きくN末端ドメイン(1〜101位)、コアドメイン(102〜292位)、及びC末端ドメイン(293〜393位)の3領域に分けられる。N末端ドメインは、1〜45位に酸性アミノ酸やプロリンを多く含む転写活性化領域(1〜45位)を有しており、転写の制御に寄与しているものと考えられる。中央のコアドメインは、3カ所の疎水性部位を含むDNA結合領域を有している(113〜290位)。またC末端ドメインは、四量体形成に必要なオリゴメリゼーション領域(319〜363位)及びそのC末側に塩基性アミノ酸を多く含む領域を有しており、非特異的DNA結合やDNA損傷の認識並びにトランスフォーム抑制などの役目を担っていると考えられている。
【0004】
ヒト癌細胞に検出されるp53遺伝子の異常の多くがミスセンス変異で、その殆どがN末端から100〜300アミノ酸の部位に相当するコアドメイン、特に種を越えて保存されたホット・スポット(Hot Spot)と称される領域に集中している。かかるコアドメイン中のホット・スポット領域はp53とDNAとの結合に関与する領域であり、実際、当該領域の変異によってDNAとの特異的結合が障害される。
【0005】
これらのことから、p53は、他の遺伝子に特異的に結合して当該遺伝子の発現を調節する転写制御因子としての役割をもつことが明らかとなった。
【0006】
p53によって転写が誘発される遺伝子の産物としては、p21〔WAF1或いはCip1、或いはSDI1と言われる(EI−Dairy,W.S.,etal.,Cell,75,817(1993))〕、MDM2(Wu.X.,et al.,Genes Dev.,7,1126(1993)、MCK(Weintraub.H.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88,4570(1991):Zambetti.G.P.,etal.,Genes Dev.,6,1143(1992))、GADD45〔Kastan,M.B.,et al.,Cell,71,587(1992)〕、サイクリンG〔Cyclin G:Okamoto,K.,EMBO J.,13,4816(1994)〕、Bax〔Miyashita,T.,et al.,Cell,80,293(1995)〕、及びインスリン様成長因子結合蛋白3〔IGF−BP3:Buckbinder,L.,et al.,Nature,377,646(1995)〕などを例示することができる(Sameshima,Y.,et al.,:Oncogene,7,451−457(1992))。
【0007】
p21は、サイクリン−サイクリン−依存性キナーゼ(CDK)の阻害タンパクであり、野生型p53がp21を介して細胞周期を抑制的に調節することが判明している〔Harper,J.W.,et al.,Cell,75,805(1993):Xiong,Y.,et al.,Nature,366,707(1993):Gu,Y.,et al.,Nature,366,701(1993)〕。またp21遺伝子は、増殖細胞核抗原(PCNA)に結合して、直接DNAの複製を抑制することも報告されている〔Waga,S.,et al.,Nature,369,574(1994)〕。更にp21遺伝子は、細胞の老化を誘導し、DNA合成を抑制する作用を有するSDI1遺伝子と同一の遺伝子であることが判明している〔Noda,A.,et al.,Exp.Cell Res.,211,90(1994)〕。
【0008】
MDM2は、p53に結合して該タンパクの転写制御活性を不活性化することから、負のフィードバック調節因子として作用していると推測されている。
【0009】
IGF−BP3は、IGFシグナル化の負の調節因子である。このためp53によるIGF−BP3遺伝子の増加は、結果としてp53がIGF依存性細胞の成長抑制を導く可能性を示唆する。
【0010】
また、野生型p53は、骨髄性白血病性細胞のアポトーシスを誘導することが報告されている〔Yonish−Rouach,E.,et al.,Nature,352,345(1991)〕。放射線照射による胸腺細胞アポトーシスの誘導はp53欠損マウスには起こらず〔Lowe,S.W.,Nature,362,847(1993):Clarke,A.R.,et al.,Nature,362,849(1993)〕、またp53タンパクは、水晶体、網膜、脳において正常網膜芽腫遺伝子(RB遺伝子)活性を失っている細胞のアポプティックな死を誘導する〔Pan,H.,and Griep,A.E.,Genes Dev.,8,1285(1994):Morgenbesser,S.D.,et al.,Nature,371,72(1994):Howes,K.A.,Genes Dev.,8,1300(1994):Symonds,H.,et al.,Cell,78,703(1994)〕。ホワイト氏は、p53はRB遺伝子変異の探索に有用であり、またRB遺伝子変異を含む細胞のアポトーシスを誘導するだろうと提言している〔White,E.,Nature,371,21(1994)〕。
【0011】
また、温度感受性を持つp53遺伝子のみが発現しているマウス赤芽球性白血病細胞系では温度の下降で変異p53遺伝子が野生型に戻り、アポトーシスを誘導し、そこから取り出した変異p53遺伝子をp53欠損線維芽細胞系が軟寒天培地内で増殖できる能力を付与する(anchorage−independencyを与える)〔Xu et al.,Jpn.J.Cancer Res.86:284−291(1995);Kato et al.,Int.J.Oncol.9:269−277〕。
【0012】
Baxは、アポトーシスの抑制因子であるBcl−2に結合することができ、アポプティックな細胞死を促進する〔Oltvai,Z.M.,et al.,Cell,74,609(1993)〕。p53によるBax遺伝子の増加とBcl−2の減少は、マウス白血病細胞株M1のアポトーシスに関連しており〔Miyashita,T.,et al.,Oncogene,9,1799(1994)〕、またアポトーシスに対するシグナル・トランスデューサーの一つであるFasが、非小細胞肺癌と赤白血病において増加しているという報告がある〔Owen−Schaub,L.B.,et al.,Mol.Cell Bioll.,15,3032(1995)〕。
【0013】
以上述べてきたような多くの研究により、p53はp21遺伝子に限らず様々の遺伝子の転写を亢進或いは抑制することが明らかになってきている。また、転写調節機能が欠落した変異型p53においても、細胞内の他のタンパク質と相互作用してシグナルを伝達する能力やDNAの損傷修復機能があることが示されている。
【0014】
今までわかっているp53の機能としては、例えば、転写調節機能、他の細胞内蛋白質と結合することによるシグナル伝達機能、DNA複製に関するタンパク質複合体の構成要素、DNA結合能、エキソヌクレアーゼ活性が挙げられ、これらの機能が複合的に作用する結果、細胞の細胞周期停止、アポトーシス誘導、DNA修復、DNA複製調節及び分化誘導を引き起こすものと考えられる。
【0015】
さらにp53の機能は、遺伝子に損傷が生じたときのみに働くわけではなく、例えばウイルス感染、サイトカイン刺激、低酸素状態、ヌクレオチドプールの変化、薬物による代謝異常等の各種のストレスが生体組織に及ぶと、その刺激を引き金として、p53の量的若しくは質的な変化が起こると言われている。量的・質的調節を受けたp53は、他のタンパク質との相互作用によるシグナル伝達や他の遺伝子の転写制御などの機能を発現し、生体ストレスを受けた生体組織の細胞のDNAを複製調節したり、細胞周期を停止させて細胞を修復したり、アポトーシスによって細胞を排除したり、成いは細胞の分化を促進したりすることで生体組織をストレスから防御するのに寄与していると考えられている〔Ganman,C.E.,et al.,Genes Dev.,9,600−611(1995):Graeber,T.G.,et al.,Nature,379,88−91(1996):Linke,S.P.,et al.,Genes Dev.,10,934−947(1996):Xiang,H.,et al.,J.Neurosci.,16,6753−6765(1996)〕。
【0016】
ヒト腫瘍の半数にp53遺伝子の変異が存在することから、近年腫瘍の診断や治療に対して、p53遺伝子及びそのタンパクの臨床的応用が検討されている。p53遺伝子の変異部位を特異的に認識するプライマーを用いてPCRを行い、リンパ節や体液中に浸潤した腫瘍細胞を検出する方法は、腫瘍の浸潤範囲或いは再発などを予測するための有効な診断方法となりうる〔Hayashi,H,et al.,Lancet,345,1257−1259(1995)〕。
【0017】
更にp53には、アポトーシス誘導能があることから、ウイルスベクターを用いて腫瘍細胞に野生型p53遺伝子を導入する遺伝子治療が米国で行われており、その有効性が報告されている〔Roth,J.A.,et al.,Nature Med.,2,985−991(1996)〕。また最近、日本においても数カ所でこのような遺伝子治療が開始されている。
【0018】
その一方で、ヒト腫瘍の半数以上はp53遺伝子の変異を有しておらず、このことからp53に類似する腫瘍形成抑制機能を有する他のタンパクが存在する可能性が指摘されていた。
【0019】
このような情況のもと、1997年8月、フランスのCaputらのグループによって偶然にもp53遺伝子と高い相同性を有する新規な遺伝子(p73遺伝子)が発見された〔Kaghad,M.,et al.,Cell,90,809−819(1997)〕。上記p73遺伝子の産物であるp73(タンパク)は、p53と同様に、転写活性化領域(1〜54位)、DNA結合領域(131〜310位)及びオリゴメリゼーション領域(345〜380位)の機能的領域を有しており、p53の各領域との相同性は、転写活性化領域において29%、DNA結合領域において63%で、オリゴメリゼーション領域において38%と、DNA結合領域で最も高いことが明らかになっている。
【0020】
その後、p73には、スプライシングの違いによる2種の分子量のタンパクがあることがわかり、先に見いだされた分子量約70Kのものがp73α、後に見いだされた分子量約50Kのものがp73βと称されている。最近ではさらにp73γ及びp73δと呼ばれる別の大きさのp73も見いだされている。これらのp73のスプライシング変異体は、p72αのC末端側のエキソン間の抜け方が異なっており、p73βはエキソン12とエキソン14の間が抜け、p73γはエキソン10とエキソン12の間が抜け、p73δはエキソン10とエキソン14の間が抜けた形を有している。
【0021】
p73の機能については、p53と同様に、その過剰発現によって神経芽腫細胞株やSAOS2細胞(骨肉腫細胞株)の増殖が抑制されること、またp73の一時的な発現によってSAOS2細胞とベビー・ハムスターの腎細胞のアポトーシスが促進されるなどが報告されている〔Bruce Clurman andMark Groudine,Nature,389,122−123(1997):Christine,A.,et al.,Nature,389,191−194(1997)〕。
【0022】
かかるp73の発見に続いて、本発明者らは、ヒト骨格筋のcDNAライブラリーからp53遺伝子に類縁する新規遺伝子(p51遺伝子)を見いだし、その単離に成功した。p51にも、p73と同様にmRNAスプライシングの違いによる2種類の分子量のタンパクがあり、分子量約51Kの短いほうをp51A、分子量約70Kの長いほうをp51Bと名付けた。このp51もまた、p53及びp73と同様に、転写活性化領域(1〜59位)、DNA結合領域(142〜321位)及びオリゴメリゼーション領域(p51A:353〜397位、p51B:353〜641位)の機能的領域を有している。p51A、p53及びp73βの各領域間でのアミノ酸レベルの相同性から、各タンパクともDNA結合領域で最も相同性が高く、またp51Aがp73βにより近い構成を有することが明らかになっている(図1参照)(Osada,M.,et al.,:Nature Med.,4,839−843(1998))
さらに本発明者らの研究により、p51は、p53と同様に骨肉腫細胞系SAOS−2細胞に対してp53と同程度のコロニー形成抑制能を示すこと、トランスジェニックマウス赤白血病細胞株等に対する実験でアポトーシス誘導作用を示すこと、並びにp53と同様にp21WAF1プロモーターが有するp53反応性配列を介してその転写活性能を活性化させる機能を有することが明らかになった(Osada,M.,et al.,:Nature Med.,4,839−843(1998))。
【0023】
これらのことから、p73及びp51は、p53とともにp53ファミリーを形成するp53類縁タンパクと考えられている。また、p73遺伝子及びp51遺伝子のp53ファミリー遺伝子は、前述するようにいずれもmRNAのスプライシングに起因する分子量の異なるタンパクを複数種コードすることが分かっており、さらにp51遺伝子からは前述のp51A及びp51Bのほかに、p40(Trink,B.,et al.,:Nature Med.,4,747−748(1998))やp63(Yang,A.,et al.,:Mol.Cell,2,305−316(1998))などが作られることが報告されている。
【0024】
このことから、p53、p73及びp51(及びp40、p63)とともに、p53ファミリーを形成するタンパク及びその遺伝子が新たに見いだされることも期待される。
【0025】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、優れた細胞増殖抑制能を発揮し得る新規遺伝子を提供することを目的とする。より詳細には、本発明はp53遺伝子またはそのタンパクよりも有意に優れた特性を有するp53ファミリーのキメラ遺伝子並びにそのタンパクを提供することを目的とする。
【0026】
【課題を解決するための手段】
本発明者らが先に見いだしたp51A及びp51Bは、互いに共通するアミノ末端側の408アミノ酸残基からなるポリペプチドと、更にそれに続いてp51Aは追加の40アミノ酸残基からなるポリペプチド、及びp51Bは追加の233アミノ酸残基からなるポリペプチドとからなるタンパクである。両者は互いに共通する転写活性化領域及びDNA結合領域を有しており、C末端側のアミノ酸配列のみ相違している。これらは、前述の通り、p53やp73と同様にアポトーシス誘導作用を奏するが、本発明者らのその後の研究により、その転写活性能及びアポトーシス誘導能は互いに相違しており、いずれもp51Aのほうがp51Bよりも強い能力を有することがわかった。
【0027】
本発明者らは、この相違を明らかにするため、p53のN末端側(転写活性化領域及びDNA結合領域を含む)とp51A又はp51BのC末端側(オリゴメリゼーション領域を含む)とからなるp53−p51Aおよびp53−p51Bの融合タンパク(キメラタンパク)を発現するキメラ遺伝子構築物を作成し、それを用いて、p53欠損SAOS−2細胞を用いたBAX−2プロモーター−ルシフェラーゼアッセイを行ったところ、これらのキメラタンパクは、p53及びp51A自身の転写活性能の約30倍に至る強い活性化能を示すことが判明した。これは、p51A及びp51Bのオリゴメリゼーション領域が単に転写抑制に機能するだけでなく、何らかのp53の機能活性に関与していることを示唆するものである。
【0028】
かかる知見を発端に、本発明者らはさらにp53ファミリーに属するp51、p53及びp73に由来する転写活性化領域、DNA結合領域及びオリゴメリゼーション領域を含む種々のキメラタンパクを発現するようにキメラ遺伝子構築物を作成し、それを用いて上記と同様にルシフェラーゼアッセイを行ったところ、期せずして、1)あるキメラは、p53、p51及びp73そのものよりも20倍もの高い転写活性能を示すこと、2)キメラはp53によって転写調節をうける各種の遺伝子(プロモーター)に対して著しく異なった選択性を示すこと、3)あるキメラは、野生型p53の機能をドミナントネガティブに阻害する変異p53の作用に強い抵抗性を示し、さらには変異p53の存在下においてp53よりも50倍もの強い転写活性能を示すこと、を見いだした。
【0029】
p53遺伝子の細胞増殖抑制能、細胞周期におけるG1期停止の誘導及びアポトーシス誘導作用などの機能は、p53反応性配列を介したプロモーターの転写活性能に依存することが分かっている。
【0030】
このことから、本発明者らは、上記p53ファミリー遺伝子間における種々のキメラによれば、p53が有する生物学的機能ないしは生理活性等の特性を向上ないしは改善することができ、ひいては悪性腫瘍等の遺伝子治療への適用において有用であると確信して、またp53ファミリータンパクの機能解析に極めて有用であると確信して、本発明を開発するにいたった。
【0031】
すなわち、本発明は下記(1)及び(2)に示すp53ファミリーのキメラ遺伝子である:
(1)下流方向に向けて、p53ファミリーに属するいずれかのタンパクの転写活性化領域をコードする塩基配列;p53ファミリーに属するいずれかのタンパクのDNA結合領域をコードする塩基配列;及びp53ファミリーに属するいずれかのタンパクのオリゴメリゼーション領域をコードする塩基配列を有するp53ファミリーのキメラ遺伝子(但し、上記転写活性化領域、DNA結合領域及びオリゴメリゼーション領域の各領域がいずれも同一のタンパクに由来するものを除く)。
(2)下流方向に向けて、p51、p53及びp73よりなる群から選択されるいずれかのタンパクの転写活性化領域をコードする塩基配列;p51、p53及びp73よりなる群から選択されるいずれかのタンパクのDNA結合領域をコードする塩基配列;及びp51、p53及びp73よりなる群から選択されるいずれかのタンパクのオリゴメリゼーション領域をコードする塩基配列を有するp53ファミリーのキメラ遺伝子(但し、上記転写活性化領域、DNA結合領域及びオリゴメリゼーション領域の各領域がいずれも同一のタンパクに由来するものを除く)。
【0032】
さらに本発明は、下記(3)及び(4)に示すp53ファミリーのキメラタンパクである:
(3)p53ファミリーに属するいずれかのタンパクの転写活性化領域のアミノ酸配列、p53ファミリーに属するいずれかのタンパクのDNA結合領域のアミノ酸配列、及びp53ファミリーに属するいずれかのタンパクのオリゴメリゼーション領域のアミノ酸配列を有するp53ファミリーのキメラタンパク(但し、上記転写活性化領域、DNA結合領域及びオリゴメリゼーション領域の各領域がいずれも同一のタンパクに由来するものを除く)。
(4)p51、p53及びp73よりなる群から選択されるいずれかのタンパクの転写活性化領域のアミノ酸配列、p51、p53及びp73よりなる群から選択されるいずれかのタンパクのDNA結合領域のアミノ酸配列、及びp51、p53及びp73よりなる群から選択されるいずれかのタンパクのオリゴメリゼーション領域のアミノ酸配列を有するp53ファミリーのキメラタンパク(但し、上記転写活性化領域、DNA結合領域及びオリゴメリゼーション領域の各領域がいずれも同一のタンパクに由来するものを除く)。
【0033】
なお、本発明において遺伝子(DNA)とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖及びアンチセンス鎖といった各1本鎖のDNAを包含する趣旨であり、またその長さに何ら制限されるものではない。従って、本発明の遺伝子(DNA)には、特に言及しない限り、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNA、及びcDNAを含む1本鎖DNA(センス鎖)、並びに該センス鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(アンチセンス鎖)、およびそれらの断片のいずれもが含まれる。
【0034】
以下、本明細書におけるアミノ酸、ペプチド、塩基配列、核酸等の略号による表示は、IUPAC、IUBの規定、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(日本、米国及び欧州の三極特許庁)及び当該分野における慣用記号に従うものとする。
【0035】
【発明の実施の形態】
(1)p53ファミリーのキメラ遺伝子
前述するように、p53ファミリータンパクは、N末領域から順に、転写活性化領域、DNA結合領域、及びオリゴメリゼーション領域と称される少なくとも3つの機能的領域を有している。
【0036】
本発明のキメラ遺伝子は、かかる3つの機能的領域のうち少なくとも1つの領域が、p53ファミリーに属する個々の異なるタンパクに由来する領域となるように再構成されたキメラタンパクをコードするように構成される。
【0037】
具体的には、上流から下流に向けて、p53ファミリーに属するいずれかのタンパクの転写活性化領域をコードする塩基配列、p53ファミリーに属するいずれかのタンパクのDNA結合領域をコードする塩基配列、及びp53ファミリーに属するいずれかのタンパクのオリゴメリゼーション領域をコードする塩基配列を有するキメラ遺伝子である。但し、この場合各機能的領域がいずれも同一のタンパクに由来するものは除外される。
【0038】
本発明において「p53ファミリー」とは、癌抑制遺伝子であるヒトp53遺伝子及びその遺伝子産物(タンパク)と、構造的特徴並びに生物学的機能や生理機能などの類似性によりひとつの遺伝子ファミリーと認識される一連の関連遺伝子及びそのタンパクを意味するものであり、スプライシング変異体やアレル体(対立遺伝子)をも包含するものである。
【0039】
また、当該「p53ファミリー」には、将来、該ファミリーに属するものとして見いだされ得るp53類縁遺伝子及びそのタンパクも包含されるものとする。なお、本明細書において遺伝子とタンパクの別を明確にするために、p53ファミリー遺伝子及びp53ファミリータンパクという場合がある。
【0040】
「p53ファミリー」として、中でも好ましくはp53、p51、p73である。
【0041】
かかるp53、p51及びp73を例に挙げると、本発明の具体的なキメラ遺伝子は、下流方向に向けて、p53、p51及びp73よりなる群から選択されるいずれかのタンパクの転写活性化領域をコードする塩基配列、p53、p51及びp73よりなる群から選択されるいずれかのタンパクのDNA結合領域をコードする塩基配列、及びp53、p51及びp73よりなる群から選択されるいずれかのタンパクのオリゴメリゼーション領域をコードする塩基配列を有するキメラ遺伝子である。但し、上記各領域がいずれも同一のタンパクに由来するものは除外される。なお、ここでp51及びp73には、いずれも選択的スプライシングによって生じるアイソタイプが含まれる。
【0042】
より具体的に本発明のキメラ遺伝子としては、例えば表1に示す各種の態様で、転写活性化領域、DNA結合領域及びオリゴメリゼーション領域の各領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するものを挙げることができる。
【0043】
【表1】
Figure 0004399654
【0044】
より詳細には、p53の転写活性化領域、DNA結合領域及びオリゴメリゼーション領域は、p53のアミノ酸配列を示す図2(b)(配列番号5)において、それぞれアミノ酸番号1〜45位、アミノ酸番号113〜290位及びアミノ酸番号319〜363位で特定される。
【0045】
また、p51の転写活性化領域、DNA結合領域及びオリゴメリゼーション領域は、p51A又はBのアミノ酸配列を示す配列番号1又は3において、それぞれアミノ酸番号1〜59位、アミノ酸番号142〜321位及びアミノ酸番号353〜397位で特定される。
【0046】
また、p73の転写活性化領域、DNA結合領域及びオリゴメリゼーション領域は、p73α,β、γ及びδそれぞれのアミノ酸配列を示す図3(b)(配列番号6)、図4(b)(配列番号7)、図5(b)(配列番号8)及び図6(b)(配列番号9)において、それぞれアミノ酸番号1〜54位、アミノ酸番号131〜310位及びアミノ酸番号345〜380位で特定される。
【0047】
なお、上記の各p53ファミリーのオリゴメリゼーション領域は、各タンパクのC末端位まで延長された領域として特定することもできる。例えば、p51Bのオリゴメリゼーション領域は、p51Bのアミノ酸配列を示す配列番号3において、アミノ酸番号353〜641位として特定できる。
【0048】
なお、上記各領域は、前述する特定の位置及びアミノ酸配列によって限定されるものではなく、各アミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有するものであってもよい。その限度として、各領域を種々組み合わせて構築される本発明のキメラタンパクがp53と同等もしくはそれ以上の生理学的活性(生理的機能)を有することが望まれる。ここでp53の機能又は活性としては、細胞における転写調節機能、他の細胞内蛋白質と結合することによるシグナル伝達機能、DNA複製に関する蛋白質複合体の構成要素としての働き、DNA結合能及びエキソヌクレアーゼ活性等、またこれらの機能が複合的に作用することに発揮される細胞の細胞周期停止機能,アポトーシス誘導作用,DNA修復機能,DNA複製調節又は分化誘導作用等のいずれかを挙げる子ができる。好ましくは転写活性能または細胞増殖抑制活性である。
【0049】
アミノ酸配列の改変は、天然において、例えば突然変異や翻訳後の修飾等により生じることもあるが、天然由来の遺伝子に基づいて人為的に改変することもできる。本発明は、このような改変の原因及び手段等を問わず、上記する少なくとも3つの機能的領域を含むキメラタンパクをコードする全てのキメラ遺伝子を包含するものである。
【0050】
上記の人為的な改変手段としては、例えばサイトスペシフィック・ミュータジェネシス〔Methods in Enzymology,154,350,367−382(1987);同100,468(1983);Nucleic Acids Res.,12,9441(1984);続生化学実験講座1「遺伝子研究法II」、日本生化学会編,p105(1986)〕等の遺伝子工学的手法、リン酸トリエステル法やリン酸アミダイト法等の化学合成手段〔J.Am.Chem.Soc.,89,4801(1967);同91,3350(1969);Science,150,178(1968);Tetrahedron Lett.,22,1859(1981);同24,245(1983)〕及びそれらの組合せ方法等が例示できる。より具体的には、DNAの合成は、ホスホルアミダイト法またはトリエステル法による化学合成によることもでき、市販されている自動オリゴヌクレオチド合成装置上で行うこともできる。二本鎖断片は、相補鎖を合成し、適当な条件下で該鎖を共にアニーリングさせるか、または適当なプライマー配列と共にDNAポリメラーゼを用い相補鎖を付加するかによって、化学合成した一本鎖生成物から得ることもできる。
【0051】
なお、上記各転写活性化領域、DNA結合領域及びオリゴメリゼーション領域は、連続的又は非連続的を問わず、上流から下流方向にむかって順次配列されていればよい。非連続的に配列されている場合、各領域間のアミノ酸配列は特に制限されず、任意に定めることができるが、p53、p51及びp73で代表されるp53ファミリータンパクに由来する配列であるのが好ましく、具体的には、各タンパクの転写活性化領域を含むN末端ドメイン、DNA結合領域を含むコアドメイン及びオリゴメリゼーション領域を含むC末端ドメインからなるキメラタンパクをコードするものを例示することができる。
【0052】
本発明のキメラ遺伝子のより具体的な態様を例示すれば、図2(a)(配列番号10)に示される塩基配列において塩基番号1〜291で特定される塩基配列、配列番号2又は4に示される塩基配列において塩基番号145〜522で特定される塩基配列、または図3(a)(配列番号11)、図4(a)(配列番号12)、図5(a)(配列番号13)及び図6(a)(配列番号14)に示される塩基配列において塩基番号1〜345で特定される塩基配列のいずれかの塩基配列(転写活性化領域をコードする塩基配列);図2(a)(配列番号10)に示される塩基配列において塩基番号292〜912で特定される塩基配列、配列番号2又は4に示される塩基配列において塩基番号523〜1149で特定される塩基配列、または図3(a)(配列番号11)、図4(a)(配列番号12)、図5(a)(配列番号13)及び図6(a)(配列番号14)に示される塩基配列において塩基番号346〜978で特定される塩基配列のいずれかの塩基配列(DNA結合領域をコードする塩基配列);及び図2(a)(配列番号10)に示される塩基配列において塩基番号913〜1179で特定される塩基配列、配列番号2に示される塩基配列において塩基番号1150〜1488で特定される塩基配列、配列番号4に示される塩基配列において塩基番号1150〜2067で特定される塩基配列、図3(a)(配列番号11)に示される塩基配列において塩基番号979〜1908で特定される塩基配列、図4(a)(配列番号12)に示される塩基配列において塩基番号979〜1497で特定される塩基配列、図5(a)(配列番号13)に示される塩基配列において塩基番号979〜1425で特定される塩基配列または図6(a)(配列番号14)に示される塩基配列において塩基番号979〜1209で特定される塩基配列のいずれかの塩基配列(オリゴメリゼーション領域をコードする塩基配列)を、下流方向に向かって順に連続的若しくは非連続的に有する遺伝子を例示することができる。但し、上記3つの各領域をコードする塩基配列がいずれも同一のp53ファミリー遺伝子に由来するものは除外される。
【0053】
これらの塩基配列は、前述の各領域のアミノ酸配列の各アミノ酸残基をコードするコドンの一つの組合せ例でもある。このため、本発明の遺伝子はこれら特定の塩基配列を有する遺伝子に限らず、各アミノ酸残基に対して任意のコドンを組合せ、選択した塩基配列を有することも可能である。コドンの選択は、常法に従うことができ、例えば利用する宿主のコドン使用頻度等を考慮することができる〔Ncleic Acids Res.,9,43(1981)〕。
【0054】
更に、本発明の遺伝子は、前記の塩基配列と一定の相同性を有する塩基配列からなるものも包含する。かかる遺伝子としては、例えば、0.1%SDSを含む0.2×SSC中50℃又は0.1%SDSを含む1×SSC中60℃のストリンジェントな条件下で上記塩基配列からなるDNAとハイブリダイズする塩基配列を有する遺伝子を例示することができる。
【0055】
本発明の遺伝子は、本発明により特定される塩基配列の情報に基づいて、一般的遺伝子工学的手法により容易に製造・取得することができる〔Molecular Cloning 2d Ed,Cold Spring Harbor Lab.Press(1989);続生化学実験講座「遺伝子研究法I、II、III」、日本生化学会編(1986)等参照〕。
【0056】
具体的には、p53ファミリー遺伝子を利用して、例えばPCR法及び制限酵素処理等の常法に従って、それらの機能的領域を所望の通りに再構成することにより実施することができる。
【0057】
なお、上記においてp53ファミリー遺伝子が既知のものを利用でき、あるいは公知の配列に基づいて常法に従って調製することができる。例えば、各p53ファミリーのcDNAの起源としては、p53ファミリー遺伝子を発現する各種の細胞、組織やこれらに由来する培養細胞等が例示される。また、これらからの全RNAの分離、mRNAの分離や精製、cDNAの取得とそのクローニング等はいずれも常法に従って実施することができる。また、cDNAライブラリーは市販されてもおり、本発明においてはそれらcDNAライブラリー、例えばクローンテック社(Clontech Lab.Inc.)等より市販されている各種cDNAライブラリー等を用いることもできる。
【0058】
p53ファミリー遺伝子をcDNAライブラリーからスクリーニングする方法も、特に制限されず、通常の方法に従うことができる。
【0059】
具体的には、例えばp53ファミリーcDNAによって産生されるタンパク質に対して、該タンパク質特異抗体を使用した免疫的スクリーニングにより対応するp53ファミリーのcDNAクローンを選択する方法、目的の塩基配列に選択的に結合するプローブを用いたプラークハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーション等やこれらの組合せ等を例示できる。
【0060】
ここで用いられるプローブとしては、本発明のp53ファミリー遺伝子の塩基配列に関する情報をもとにして化学合成されたDNA等が一般的に例示できるが、既に取得されたp53ファミリー遺伝子そのものやその断片も良好に利用できる。また、p53ファミリー遺伝子の塩基配列情報に基づき設定したセンス・プライマー、アンチセンス・プライマーをスクリーニング用プローブとして用いることもできる。
【0061】
p53ファミリー遺伝子の取得に際しては、PCR法〔Science,230,1350(1985)〕またはその変法によるDNA若しくはRNA増幅法が好適に利用できる。殊に、ライブラリーから全長のcDNAが得られ難いような場合には、RACE法〔Rapid amplification of cDNA ends;実験医学、12(6),35(1994)〕、特に5’−RACE法〔M.A.Frohman,etal.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,8,8998(1988)〕等の採用が好適である。
【0062】
かかるPCR法の採用に際して使用されるプライマーは、p53ファミリー遺伝子の配列情報に基づいて適宜設定することができ、これは常法に従って合成できる。尚、増幅させたDNA若しくはRNA断片の単離精製は、前記の通り常法に従うことができ、例えばゲル電気泳動法、ハイブリダイゼーション法等によることができる。
【0063】
上記の方法で得られる本発明のキメラ遺伝子は、例えばジデオキシ法〔Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,74,5463(1977)〕やマキサム−ギルバート法〔Methods in Enzymology,65,499(1980)〕等の常法に従って、また簡便には市販のシークエンスキット等を用いて、その塩基配列を決定することができる。
【0064】
本発明のキメラ遺伝子は、現在癌抑制遺伝子として位置づけられているp53遺伝子と同様に、癌の遺伝子治療剤として有用である。
【0065】
本発明のキメラ遺伝子又はその遺伝子産物としては、好ましくはp53遺伝子またはその産物が有する生理学的活性(生理的機能)と同等もしくはそれ以上の活性(機能)を有することによって特徴づけられるものを例示することができる。ここでp53の機能又は活性としては、細胞における転写調節機能、他の細胞内蛋白質と結合することによるシグナル伝達機能、DNA複製に関する蛋白質複合体の構成要素としての働き、DNA結合能及びエキソヌクレアーゼ活性等、またこれらの機能が複合的に作用することに発揮される細胞の細胞周期停止機能,アポトーシス誘導作用,DNA修復機能,DNA複製調節又は分化誘導作用等を挙げることができる。
【0066】
また本発明のキメラ遺伝子又はその遺伝子産物としては、より好ましくは、上記の機能又は活性、具体的にはp53によって転写調節を受ける各種遺伝子への異なった選択性を示すことによって特徴づけられるものを例示することができる。これらは、例えばBAX2、MDM2−P2、p21WAF1、14−3−3s及びRGCプロモーターのいずれかへの転写活性能の選択性により特徴づけられる。
【0067】
さらにまた本発明のキメラ遺伝子又はその遺伝子産物としては、より好ましくは、野生型p53の上記機能及び活性をドミナントネガティブに阻害する変異p53の効果(dominant−negative function of mutant p53)に強い抵抗性を有することによって特徴づけられるものを例示することができる。
【0068】
これらの本発明のキメラ遺伝子又はその遺伝子産物のより好ましい具体的態様は、後述する実施例において詳述される。
(2)p53ファミリーのキメラタンパク
従って、本発明は前述するキメラ遺伝子によってコードされるキメラタンパクを提供する。
【0069】
本発明のキメラタンパクの具体的態様としては、N端からC端方向に向けて、連続的若しくは非連続的に、図2(b)(配列番号5)で示されるアミノ酸番号1〜45位、配列番号1または3で示されるアミノ酸番号1〜59位、又は図3(b)(配列番号6)、図4(b)(配列番号7)、図5(b)(配列番号8)及び図6(b)(配列番号9)で示されるアミノ酸番号1〜54位でのいずれかで特定されるアミノ酸配列(転写活性化領域);図2(b)(配列番号5)で示されるアミノ酸番号113〜290位、配列番号1または3で示されるアミノ酸番号142〜321位、又は図3(b)(配列番号6)、図4(b)(配列番号7)、図5(b)(配列番号8)及び図6(b)(配列番号9)で示されるアミノ酸番号131〜310位でのいずれかで特定されるアミノ酸配列(DNA結合領域);および図2(b)(配列番号5)で示されるアミノ酸番号319〜363位、配列番号1のアミノ酸番号353〜397位、配列番号3で示されるアミノ酸番号353〜641位、図3(b)(配列番号6)で示されるアミノ酸番号345〜636位、図4(b)(配列番号7)で示されるアミノ酸番号345〜499位、図5(b)(配列番号8)で示されるアミノ酸番号345〜475位または図6(b)(配列番号9)で示されるアミノ酸番号345〜403位のいずれかで特定されるアミノ酸配列(オリゴメリゼーション領域)を有することで特徴づけられるものを挙げることができる。ただし、本発明のキメラタンパクは、上記特定のアミノ酸配列に限定されず、それらと相同物であればよい。
【0070】
相同物としては、上記各キメラタンパクのアミノ酸配列において、細胞増殖抑制活性、好ましくはp53の該活性よりも優れた細胞増殖抑制活性を有することを限度として、各アミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたものを挙げることができる。
【0071】
本発明のキメラタンパクは、本発明で提供するアミノ酸配列に基づいて化学合成により、または前述するキメラ遺伝子の配列情報に基づいて常法の遺伝子組換え技術〔例えば、Science,224,1431(1984);Biochem.Biophys.Res.Comm.,130,692(1985);Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,80,5990(1983)等参照〕に従って調製することができる。
(3)p53ファミリー・キメラタンパクの製造法及び製造に使用するもの
また本発明は、p53ファミリー・キメラタンパクの製造方法、並びにその製造に用いられる、例えば上記キメラ遺伝子を含有するベクター、該ベクターによって形質転換された宿主細胞を提供するものである。
【0072】
該タンパクの製造は、より詳細には、該所望のタンパクをコードする遺伝子が宿主細胞中で発現できるように組換えDNA(発現ベクター)を作成し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、該形質転換体を培養し、次いで得られる培養物から所望のタンパクを回収することにより行なわれる。
【0073】
ここで宿主細胞としては、真核生物及び原核生物のいずれをも用いることができる。
【0074】
真核生物の細胞には、脊椎動物、酵母等の真核微生物の細胞が含まれる。脊椎動物細胞としては、例えばサルの細胞であるCOS細胞〔Cell,23,175(1981)〕、チャイニーズ・ハムスター卵巣細胞及びそれらのジヒドロ葉酸レダクターゼ欠損株〔Proc.Natl.Acad.Scl.,USA.,77,4216(1980)〕等が通常よく用いられるが、これらに限定される訳ではない。また、真核微生物としては、酵母が一般によく用いられ、中でもサッカロミセス属酵母が有利に利用できる。
【0075】
原核生物の宿主としては、大腸菌や枯草菌が一般によく用いられる。大腸菌のなかでも、特にエシエリヒア・コリ(Escherichia coli)K12株等がよく用いられる。
【0076】
発現ベクターは、本発明のキメラ遺伝子を含んでおり且つ該遺伝子を発現することができるものであれば特に制限されず、一般に宿主細胞との関係から適宜選択される。
【0077】
宿主細胞として脊椎動物細胞を使用する場合、発現ベクターとしては、通常発現しようとする本発明の遺伝子の上流に位置するプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位及び転写終了配列等を保有するものを使用でき、これは更に必要により複製起点を有していてもよい。該発現ベクターの例としては、例えば、SV40の初期プロモーターを保有するpSV2dhfr 〔Mol.Cell.Biol.,1,854(1981)〕等を例示することができる。
【0078】
宿主細胞として酵母等の真核微生物の細胞を使用する場合、発現ベクターとしては、例えば酸性ホスフアターゼ遺伝子に対するプロモーターを有するpAM82〔Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,80,1(1983)〕等を利用でき、本発明のベクターは該プロモーターの上流域に本発明の遺伝子を挿入することによって調製することができる。好適には、原核生物遺伝子と融合した融合ベクターを挙げることができ、該ベクターの具体例としては、例えば分子量26000のGSTドメイン(S.japonicum由来)を有するpGEX−2TKやpGEX−4T−2等が例示される。
【0079】
宿主細胞として原核生物の細胞を使用する場合、発現ベクターとしては、例えば該宿主細胞中で複製可能なプラスミドベクターであって、このベクター中に所望遺伝子が発現できるように該遺伝子の上流にプロモーター及びSD(シヤイン・アンド・ダルガーノ)塩基配列、更にタンパク合成開始に必要な開始コドン(例えばATG)を付与した発現プラスミドを挙げることができる。特に大腸菌(例えばエシエリヒア・コリK12株等)を宿主細胞をして用いる場合は、発現ベクターとしては一般にpBR322及びその改良ベクターがよく用いられる。ただしこれらに限定されず公知の各種の菌株及びベクターをも利用できる。なお、上記プロモーターとしては、例えばトリプトファン(trp)プロモーター、lppプロモーター、lacプロモーター、PL/PRプロモーター等を使用できる。
【0080】
かかる本発明の発現ベクターを宿主細胞に導入する方法並びにこれによる形質転換方法は、特に限定されず、一般的な各種方法を採用することができる。
【0081】
また得られる形質転換体は、常法に従い培養でき、該培養により所望のように設計した遺伝子によりコードされる本発明の目的のタンパクが、形質転換体の細胞内、細胞外又は細胞膜上に発現、生産(蓄積、分泌)される。
【0082】
該培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択利用でき、培養も宿主細胞の生育に適した条件下で実施できる。
【0083】
斯くして得られる本発明の組換えタンパクは、所望により、その物理的性質、化学的性質等を利用した各種の分離操作〔「生化学データーブックII」、1175−1259頁、第1版第1刷、1980年6月23日株式会社東京化学同人発行;Biochemistry,25(25),8274(1986);Eur.J.Biochem.,163,313(1987)等参照〕により分離、精製できる。
【0084】
該方法としては、具体的には、通常の再構成処理、タンパク沈澱剤による処理(塩析法)、遠心分離、浸透圧ショック法、超音波破砕、限外濾過、分子篩クロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の各種液体クロマトグラフィー、透析法、これらの組合せが例示でき、特に好ましい方法としては、本発明のタンパクに対する特異的な抗体を結合させたカラムを利用したアフィニティクロマトグラフィー等を例示することができる。
【0085】
また、キメラ遺伝子でコードされるアミノ酸配列において、その一部のアミノ酸残基ないしはアミノ酸配列を置換、欠失、付加等により改変する場合には、例えばサイトスペシフィック・ミュータゲネシス等の前記した各種方法により行うことができる。
【0086】
本発明のタンパクはまた、本発明によって提供されるアミノ酸配列の情報に基づいて、一般的な化学合成法により製造することができる。該方法には、通常の液相法及び固相法によるペプチド合成法が包含される。
【0087】
かかるペプチド合成法は、より詳しくは、アミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させ鎖を延長させていく所謂ステップワイズエロンゲーション法と、アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメント・コンデンセーション法とを包含し、本発明ペプチドの合成は、そのいずれによってもよい。
【0088】
上記ペプチド合成に採用される縮合法も、常法に従うことができ、例えば、アジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシサクシンアミド、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド等)法、ウッドワード法等を例示できる。
【0089】
これら各方法に利用できる溶媒も、この種ペプチド縮合反応に使用されることのよく知られている一般的なものから適宜選択することができる。その例としては、例えばジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサホスホロアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル等及びこれらの混合溶媒等を挙げることができる。
【0090】
尚、上記ペプチド合成反応に際して、反応に関与しないアミノ酸乃至ペプチドにおけるカルボキシル基は、一般にはエステル化により、例えばメチルエステル、エチルエステル、第3級ブチルエステル等の低級アルキルエステル、例えばベンジルエステル、p−メトキシベンジルエステル、p−ニトロベンジルエステル等のアラルキルエステル等として保護することができる。
【0091】
また、側鎖に官能基を有するアミノ酸、例えばチロシン残基の水酸基は、アセチル基、ベンジル基、ベンジルオキシカルボニル基、第3級ブチル基等で保護されてもよいが、必ずしもかかる保護を行なう必要はない。更に、例えばアルギニン残基のグアニジノ基は、ニトロ基、トシル基、p−メトキシベンゼンスルホニル基、メチレン−2−スルホニル基、ベンジルオキシカルボニル基、イソボルニルオキシカルボニル基、アダマンチルオキシカルボニル基等の適当な保護基により保護することができる。
【0092】
上記保護基を有するアミノ酸、ペプチド及び最終的に得られる本発明タンパク質におけるこれら保護基の脱保護反応もまた、慣用される方法、例えば接触還元法や、液体アンモニア/ナトリウム、フッ化水素、臭化水素、塩化水素、トリフルオロ酢酸、酢酸、蟻酸、メタンスルホン酸等を用いる方法等に従って実施することができる。
【0093】
斯くして得られる本発明のタンパク質は、前記した各種の方法、例えばイオン交換樹脂、分配クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、向流分配法等のペプチド化学の分野で汎用される方法に従って、適宜精製を行なうことができる。
【0094】
また、本発明のキメラタンパクは、これを有効成分とする医薬品として医薬分野において有用である。
(4)p53ファミリー・キメラタンパクを含む医薬組成物(医薬製剤)
本発明は前述する本発明のキメラタンパクを有効成分として含む医薬組成物(医薬製剤)に関する。
【0095】
該タンパクは、その医薬的に許容される塩の態様で配合されていてもよい。かかる塩は当業界で周知の方法により調製され、例えばナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、アンモニウム等の無毒性アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩等が包含される。更に上記塩には、本発明のタンパクと適当な有機酸ないし無機酸との反応による無毒性酸付加塩も包含される。代表的無毒性酸付加塩としては、例えば塩酸塩、塩化水素酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、酢酸塩、蓚酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、ラウリン酸塩、硼酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩(トシレート)、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、スルホン酸塩、グリコール酸塩、マレイン酸塩、アスコルビン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩及びナプシレート等が例示される。
【0096】
本発明の医薬組成物は、p53ファミリー・キメラタンパクを薬学的有効量含むものであればよいが、他成分として、薬学的に許容される無毒性医薬担体ないしは希釈剤と含むことができる。
【0097】
上記医薬組成物(医薬製剤)に利用できる医薬担体としては、製剤の使用形態に応じて通常使用される、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤等の希釈剤或は賦形剤等を例示でき、これらは得られる製剤の投与形態に応じて適宜選択使用される。
【0098】
また、当該医薬組成物は、通常のタンパク製剤に使用され得る各種の成分、例えば安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤等を適宜配合することもできる。
【0099】
上記安定化剤としては、例えばヒト血清アルブミンや通常のL−アミノ酸、糖類、セルロース誘導体等を例示でき、これらは単独で又は界面活性剤等と組合せて使用できる。特にこの組合せによれば、有効成分の安定性をより向上させ得る場合がある。
【0100】
上記L−アミノ酸としては、特に限定はなくいずれのものをも使用できるが、例えばグリシン、システィン、グルタミン酸等が例示される。
【0101】
糖類としても特に限定はなく、例えばグルコース、マンノース、ガラクトース、果糖等の単糖類;マンニトール、イノシトール、キシリトール等の糖アルコール;ショ糖、マルトース、乳糖等の二糖類;デキストラン、ヒドロキシプロピルスターチ、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸等の多糖類等及びそれらの誘導体等を使用できる。
【0102】
界面活性剤としても特に限定はなく、イオン性(カチオン性、アニオン性)及び非イオン性界面活性剤のいずれも使用でき、例えばポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ソルビタンモノアシルエステル系、脂肪酸グリセリド系等を使用できる。
【0103】
セルロース誘導体としても特に限定はなく、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等を使用できる。
【0104】
上記糖類の添加量は、有効成分であるキメラタンパク1μg当り約0.0001mg程度以上、好ましくは約0.01〜10mg程度の範囲とするのが適当である。界面活性剤の添加量は、有効成分であるキメラタンパク1μg当り約0.00001mg程度以上、好ましくは約0.0001〜0.01mg程度の範囲とするのが適当である。ヒト血清アルブミンの添加量は、有効成分1μg当り約0.0001mg程度以上、好ましくは約0.001〜0.1mg程度の範囲とするのが適当である。アミノ酸は、有効成分1μg当り約0.001〜10mg程度とするのが適当である。また、セルロース誘導体の添加量は、有効成分1μg当り約0.00001mg程度以上、好ましくは約0.001〜0.1mg程度の範囲とするのが適当である。
【0105】
本発明の医薬組成物中に含まれるキメラタンパクの量は、制限されることなく広い範囲から適宜選択されるが、通常約0.00001〜70重量%、好ましくは0.0001〜5重量%程度の範囲とするのが適当である。
【0106】
また本発明の医薬組成物中には、各種添加剤、例えば緩衝剤、等張化剤、キレート剤等をも添加することができる。
【0107】
ここで緩衝剤としては、ホウ酸、リン酸、酢酸、クエン酸、ε−アミノカプロン酸、グルタミン酸及び/又はそれらに対応する塩(例えばそれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩)等を例示できる。等張化剤としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、糖類、グリセリン等を例示できる。またキレート剤としては、例えばエデト酸ナトリウム、クエン酸等を例示できる。
【0108】
本発明の医薬組成物は、溶液製剤として使用できる他に、これを凍結乾燥し保存し得る状態にした後、用時水、生埋的食塩水等を含む緩衝液等で溶解して適当な濃度に調製した後に使用することも可能である。
【0109】
本発明の医薬製剤はその投与形態を治療目的に応じて選択でき、その代表的なものとしては、錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、カプセル剤等の固体投与形態や、溶液、懸濁剤、乳剤、シロップ、エリキシル等の液剤投与形態が含まれ、これらは更に投与経路に応じて経口剤、非経口剤(注射剤、点滴剤)、経鼻剤、経膣剤、坐剤、舌下剤、軟膏剤等に分類され、それぞれ通常の方法に従い、調合、成形乃至調製することができる。
【0110】
例えば、錠剤の形態に成形するに際しては、上記製剤担体として例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸、リン酸カリウム等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の結合剤;カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム等の崩壊剤:ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド等の界面活性剤;白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン、デンプン等の保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等を使用できる。
【0111】
更に錠剤は必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠とすることができ、また二重錠ないしは多層錠とすることもできる。
【0112】
丸剤の形態に成形するに際しては、製剤担体として例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤;アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤;ラミナラン、カンテン等の崩壊剤等を使用できる。
【0113】
カプセル剤は、常法に従い通常本発明の有効成分を上記で例示した各種の製剤担体と混合して硬質ゼラチンカプセル、軟質カプセル等に充填して調製される。
【0114】
経口投与用の液体投与形態は、慣用される不活性希釈剤、例えば水、を含む医薬的に許容される溶液、エマルジョン、懸濁液、シロップ、エリキシル等を包含し、更に湿潤剤、乳剤、懸濁剤等の助剤を含ませることができ、これらは常法に従い調製される。
【0115】
非経口投与用の液体投与形態は、希釈剤として例えば滅菌水、エチルアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びオリーブ油等といった植物油等を使用し、例えば液体、エマルジョン、懸濁液等の形状を有する注射剤や点滴剤に調製することができる。またこれらの非経口投与剤には、注入投与可能な有機エステル類、例えばオレイン酸エチル等を配合することもでき、更に通常の溶解補助剤、緩衝剤、湿潤剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤、分散剤等を添加することもできる。
【0116】
滅菌は、例えばバクテリア保留フィルターを通過させる濾過操作、殺菌剤の配合、照射処理及び加熱処理等により実施できる。また、これらは使用直前に滅菌水や適当な滅菌可能媒体に溶解することのできる滅菌固体組成物形態に調製することもできる。
【0117】
坐剤や膣剤の形態に成形するに際しては、製剤担体として、例えばポリエチレングリコール、カカオ脂、高級アルコール、高級アルコールのエステル類、ゼラチン及び半合成グリセライド等を使用できる。
【0118】
ペースト、クリーム、ゲル等の軟膏剤の形態に成形するに際しては、希釈剤として、例えば白色ワセリン、パラフイン、グリセリン、セルロース誘導体、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、シリコン、ベントナイト及びオリーブ油等の植物油等を使用できる。
【0119】
経鼻又は舌下投与用組成物は、周知の標準賦形剤を用いて、常法に従い調製することができる。
【0120】
尚、本発明の医薬組成物には、必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等や他の医薬有効成分等を含有させることもできる。
【0121】
上記医薬組成物(医薬製剤)の投与方法は、特に制限がなく、各種製剤形態、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度等に応じて決定される。例えば錠剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤及びカプセル剤は経口投与され、注射剤は単独で又はブドウ糖やアミノ酸等の通常の補液と混合して静脈内投与され、更に必要に応じ単独で筋肉内、皮内、皮下もしくは腹腔内投与され、坐剤は直腸内投与され、膣剤は膣内投与され、経鼻剤は鼻腔内投与され、舌下剤は口腔内投与され、軟膏剤は経皮的に局所投与される。
【0122】
上記医薬組成物中に含有される本発明のキメラタンパクの量及びその投与量は、特に限定されず、所望の治療効果、投与法、治療期間、患者の年齢、性別その他の条件等に応じて広範囲より適宜選択されるが、一般的には、該投与量は、通常、1日当り体重1kg当り、約0.01μg〜10mg程度、好ましくは約0.1μg〜1mg程度とするのがよく、該製剤は1日に1〜数回に分けて投与することができる。
(5)遺伝子治療
また本発明は、前述する本発明のキメラ遺伝子を利用して行う遺伝子治療法を提供する。該治療法は、例えば変異p53遺伝子を有するか若しくは野生型(正常)p53遺伝子を欠損した細胞に、野生型p53機能以上の機能を供給する方法としてとらえることができる。かかる野生型p53遺伝子若しくはその遺伝子産物が本来的に有する機能以上の優れた機能を細胞に供給すれば、受容細胞/標的細胞における新生物の増殖を有意に抑制することができる。上記キメラ遺伝子は、当該遺伝子を染色体外に維持するようなベクターまたはプラスミドを用いて目的の細胞に導入することができる。この場合、当該遺伝子は、染色体外から発現される。
【0123】
このように変異p53遺伝子を有するか若しくはp53遺伝子を欠損した細胞に、本発明のキメラ遺伝子を導入して所望の機能を発現させる場合、当該キメラ遺伝子は前述するように特定の塩基配列を有するものである必要はなく、例えば上記キメラ遺伝子の所望機能と実質的に同質な機能を保持する限りにおいて、前記塩基配列の1若しくは複数の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列を有する改変体であることもできる。
【0124】
キメラ遺伝子又はその一部分は、細胞に存在する内因的な突然変異体との間で組換えが起こるように突然変異細胞に導入することが好ましい。このような組換えには、p51遺伝子突然変異が修正される二重組換えの発生が必要とされる。
【0125】
かかる組換え及び染色体外維持の双方のための所望遺伝子の導入のためのベクターは、当該分野において既に知られており、本発明ではかかる既知のベクターのいずれもが使用できる。例えば、発現制御エレメントに連結したキメラ遺伝子のコピーを含み、かつ目的の細胞内で当該遺伝子産物を発現できるウイルスベクターまたはプラスミドベクターを挙げることができる。かかるベクターとして、通常前述する発現用ベクターを利用することもできるが、好適には、例えば起源ベクターとして、米国特許第5252479号明細書及びPCT国際公開WO93/07282号明細書に開示されたベクター(pWP−7A、pWP−19、pWU−1、pWP−8A、pWP−21及び/又はpRSVLなど)又はpRC/CMV(Invitrogen社製)等を用いて、調製されたベクターを挙げることができる。より好ましくは、後述する各種ウイルス・ベクターである。
【0126】
なお、遺伝子導入治療において用いられるベクターに使用されるプロモーターとしては、各種疾患の治療対象となる患部組織に固有のものを好適に利用することができる。
【0127】
その具体例としては、例えば、肝臓に対しては、アルブミン、α−フェトプロティン、α1−アンチトリプシン、トランスフェリン、トランススチレンなどを例示できる。結腸に対しては、カルボン酸アンヒドラーゼI、カルシノエンブロゲンの抗原などを例示できる。子宮及び胎盤に対しては、エストロゲン、アロマターゼサイトクロームP450、コレステロール側鎖切断P450、17アルファーヒドロキシラーゼP450などを例示できる。
【0128】
前立腺に対しては、前立腺抗原、gp91−フォックス遺伝子、前立腺特異的カリクレインなどを例示できる。乳房に対しては、erb−B2、erb−B3、β−カゼイン、β−ラクトグロビン、乳漿タンパク質などを例示できる。肺に対しては、活性剤タンパク質Cウログロブリンなどを例示できる。皮膚に対しては、K−14−ケラチン、ヒトケラチン1又は6、ロイクリンなどを例示できる。
【0129】
脳に対しては、神経膠繊維質酸性タンパク質、成熟アストロサイト特異タンパク質、ミエリン、チロシンヒドロキシラーゼ膵臓ヴィリン、グルカゴン、ランゲルハンス島アミロイドポリペプチドなどを例示できる。甲状腺に対しては、チログロブリン、カルシトニンなどを例示できる。骨に対しては、α1コラーゲン、オステオカルシン、骨シアログリコプロティンなどを例示できる。腎臓に対してはレニン、肝臓/骨/腎臓アルカリ性ホスフォターゼ、エリスロポエチンなどを、膵臓に対しては、アミラーゼ、PAP1などを例示できる。
【0130】
なお遺伝子導入用ベクターの製造において、導入される遺伝子(全部又は一部)は、本発明のキメラ遺伝子の塩基配列情報に基づいて、前記の如く、一般的遺伝子工学的手法により容易に製造・取得することができる。
【0131】
かかる遺伝子導入用ベクターの細胞への導入は、例えばエレクトロポレーション、リン酸カルシウム共沈法、ウイルス形質導入などを始めとする、細胞にDNAを導入する当該分野において既に知られている各種の方法に従って行うことができる。なお、野生型p51遺伝子で形質転換された細胞は、それ自体単離状態で癌の抑制ないしは癌転移の抑制のための医薬や、治療研究のためのモデル系として利用することも可能である。
【0132】
遺伝子治療においては、上記の遺伝子導入用ベクターは、患者の腫瘍部位に局所的にまたは全身的に注射投与することにより患者の腫瘍細胞内に導入することができる。この際全身的投与によれば、他の部位に転移し得るいずれの腫瘍細胞にも到達させることができる。形質導入された遺伝子が各標的腫瘍細胞の染色体内に恒久的に取り込まれない場合には、該投与を定期的に繰り返すことによって達成できる。
【0133】
本発明の遺伝子治療方法は、前述する遺伝子導入用の材料(遺伝子導入用ベクター)を直接体内に投与するインビボ(in vivo)法と、患者の体内より一旦標的とする細胞を取り出して体外で遺伝子を導入して、その後、該細胞を体内に戻すエクスビボ(ex vivo)法の両方の方法を包含する。
【0134】
またキメラ遺伝子を直接細胞内に導入し、RNA鎖を切断する活性分子であるリボザイムによる遺伝子治療も可能である。
【0135】
後述する、キメラ遺伝子若しくはその断片を含有する遺伝子導入用ベクター及び該ベクターによりキメラ遺伝子が導入された細胞を有効成分とする本発明の遺伝子治療剤は、特に癌治療を対象とするものであるが、上記の遺伝子治療(処置)は、癌以外にも遺伝性疾患、AIDSのようなウイルス疾患の治療、並びに遺伝子標識をも目的として行うことができる。
【0136】
また、遺伝子を導入する標的細胞は、遺伝子治療(処置)の対象により適宜選択することができる。例えば、標的細胞として、癌細胞や腫瘍組織以外に、リンパ球、線維芽細胞、肝細胞、造血幹細胞などの細胞などを挙げることができる。
【0137】
上記遺伝子治療における遺伝子導入方法には、ウイルス的導入方法及び非ウイルス的導入方法が含まれる。
【0138】
ウイルス的導入方法としては、例えば、キメラ遺伝子が正常細胞に発現する外来遺伝子であることに鑑みて、ベクターとしてレトロウイルスベクターを用いる方法を挙げることができる。その他のウイルスベクターとしては、アデノウイルスベクター、HIV(human immunodeficiency virus)ベクター、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV,adeno−associated virus)、ヘルペスウイルスベクター、単純ヘルペスウイルス(HSV)ベクター及びエプスタイン−バーウイルス(EBV,Epstein−Barr virus)ベクターなどがあげられる。
【0139】
非ウイルス的な遺伝子導入方法としては、リン酸カルシウム共沈法;DNAを封入したリポソームと予め紫外線で遺伝子を破壊した不活性化センダイウイルスを融合させて膜融合リポソームを作成し、細胞膜と直接融合させてDNAを細胞内に導入する膜融合リポソーム法〔Kato,K.,et al.,J.Biol.Chem.,266,22071−22074(1991)〕;プラスミドDNAを金でコートして高圧放電によって物理的に細胞内にDNAを導入する方法〔Yang,N.S.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,87,9568−9572(1990)〕;プラスミドDNAを直接インビボで臓器や腫瘍に注入するネイキッド(naked)DNA法〔Wolff,J.A.,et al.,Science,247,1465−1467(1990)〕;多重膜正電荷リポソームに包埋した遺伝子を細胞に導入するカチオニック・リポソーム法〔八木国夫,医学のあゆみ,Vol.175,No..9,635−637(1995)〕;特定細胞のみに遺伝子を導入し、他の細胞に入らないようにするために、目的とする細胞に発現するレセプターに結合するリガンドをDNAと結合させてそれを投与するリガンド−DNA複合体法〔Frindeis,et al.,Trends Biotechnol.,11,202(1993);Miller,et al.,FASEB J.,9,190(1995)〕などを使用することができる。
【0140】
上記リガンド−DNA複合体法には、例えば肝細胞が発現するアシアロ糖タンパクレセプターをターゲットとしてアシアロ糖タンパクをリガンドとして用いる方法〔Wu,et al.,J.Biol.Chem.,266,14338(1991);Ferkol,et al.,FASEBJ.,7,1081−1091(1993)〕や、腫瘍細胞が強く発現しているトランスフェリン・レセプターを標的としてトランスフェリンをリガンドとして用いる方法〔Wagner etal.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,87,3410(1990)〕などが含まれる。
【0141】
また本発明で用いられる遺伝子導入法は、上記の如き各種の生物学的及び物理学的な遺伝子導入法を適宜組合せたものであってもよい。該組合せによる方法としては、例えばあるサイズのプラスミドDNAをアデノウイルス・ヘキソンタンパク質に特異的なポリリジン抱合抗体と組合わせる方法を例示できる。該方法によれば、得られる複合体がアデノウイルスベクターに結合し、かくして得られる三分子複合体を細胞に感染させることにより本発明のキメラ遺伝子を導入できる。この方法では、アデノアイルスベクターにカップリングしたDNAが損傷される前に、効率的な結合、内在化及びエンドソーム分解が可能となる。また、前記リポソーム/DNA複合体は、直接インビボにて遺伝子導入を媒介できる。
【0142】
以下、具体的な遺伝子導入用ウイルスベクターの作成法並びに標的細胞又は標的組織への遺伝子導入法について述べる。
【0143】
レトロウイルスベクター・システムは、ウイルスベクターとヘルパー細胞(パッケージング細胞)からなっている。ここでヘルパー細胞は、レトロウイルスの構造タンパク質gag(ウイルス粒子内の構造タンパク質)、pol(逆転写酵素)、env(外被タンパク質)などの遺伝子を予め発現しているが、ウイルス粒子を生成していない細胞を言う。一方、ウイルスベクターは、パッケージングシグナルやLTR(long terminal repeats)を有しているが、ウイルス複製に必要なgag、pol、envなどの構造遺伝子を持っていない。パッケージングシグナルはウイルス粒子のアセンブリーの際にタグとなる配列で、選択遺伝子(neo,hyg)とクローニングサイトに組込まれた所望の導入遺伝子(p51遺伝子またはその断片)がウイルス遺伝子の代りに挿入される。ここで高力価のウイルス粒子を得るにはインサートを可能な限り短くし、パッケージングシグナルをgag遺伝子の一部を含め広くとることと、gag遺伝子のATGを残さぬようにすることが重要である。
【0144】
所望のキメラ遺伝子を組み込んだベクターDNAをヘルパー細胞に移入することによって、ヘルパー細胞が作っているウイルス構造タンパク質によりベクターゲノムRNAがパッケージされてウイルス粒子が形成され、分泌される。組換えウイルスとしてのウイルス粒子は、標的細胞に感染した後、ウイルスゲノムRNAから逆転写されたDNAが細胞核に組み込まれ、ベクター内に挿入された遺伝子が発現する。
【0145】
尚、所望のキメラ遺伝子の導入効率を上げる方法として、フイブロネクチンの細胞接着ドメインとヘパリン結合部位と接合セグメントとを含む断片を用いる方法〔Hanenberg,H.,et al.,Exp.Hemat.,23,747(1995)〕を採用することもできる。
【0146】
なお、上記レトロウイルスベクター・システムにおいて用いられるベクターとしては、例えばマウスの白血病ウイルスを起源とするレトロウイルス〔McLachlin,J.R.,et al.,Proc.Natl.Acad.Res.Molec.Biol.,38,91−135(1990)〕を例示することができる。
【0147】
アデノウイルスベクターを利用する方法につき詳述すれば、該アデノウイルスベクターの作成は、バークネル〔Berkner,K.L.,Curr.Topics Microbiol.Immunol.,158,39−66(1992)〕、瀬戸口康弘ら〔Setoguchi,Y.,et al.,Blood,84,2946−2953(1994)〕、鐘カ江裕美ら〔実験医学,12,28−34(1994)〕及びケナーら〔Ketner,G.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,91,6186−6190(1994)〕の方法に準じて行うことができる。
【0148】
例えば、非増殖性アデノウイルスベクターを作成するには、まずアデノウイルスの初期遺伝子のE1及び/又はE3遺伝子領域を除去する。次に、目的とする所望の外来遺伝子発現単位(目的とする導入遺伝子、本発明においてはキメラ遺伝子、その遺伝子を転写するためのプロモーター、転写された遺伝子の安定性を賦与するポリAから構成)及びアデノウイルスゲノムDNAの一部を含むプラスミドベクターと、アデノウイルスゲノムを含むプラスミドとを、例えば293細胞に同時にトランスフェクションする。この2者間で相同性組換えを起こさせて、遺伝子発現単位とE1とを置換することにより、所望のp51遺伝子を包含する本発明ベクターである非増殖性アデノウイルスベクターを作成することができる。また、コスミドベクターにアデノウイルスゲノムDNAを組み込んで、末端タンパク質を付加した3’側アデノウイルスベクターを作成することもできる。更に組換えアデノウイルスベクターの作成には、YACベクターも利用可能である。
【0149】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの製造につき概略すると、AAVはアデノウイルスの培養系に混入してくる小型のウイルスとして発見された。これには、ウイルス複製にヘルパーウイルスを必要とせず宿主細胞内で自律的に増殖するパルボウイルス属と、ヘルパーウイルスを必要とするディペンドウイルス属の存在が確認されている。該AAVは宿主域が広く、種々の細胞に感染するありふれたウイルスであり、ウイルスゲノムは大きさが4680塩基の線状一本鎖DNAからなり、その両端の145塩基がITR(inverted terminal repeat)と呼ばれる特徴的な配列を持って存在している。このITRの部分が複製開始点となり、プライマーの役割をなす。更にウイルス粒子へのパッケージングや宿主細胞の染色体DNAへの組込みにも、該ITRが必須となる。また、ウイルスタンパク質に関しては、ゲノムの左半分が非構造タンパク質、即ち複製や転写をつかさどる調節タンパク質のRepをコードしている。
【0150】
組換えAAVの作成は、AAVが染色体DNAに組み込まれる性質を利用して行うことができ、かくして所望の遺伝子導入用ベクターが作成できる。この方法は、より詳しくは、まず野生型AAVの5’と3’の両端のITRを残し、その間に所望の導入用遺伝子(ヒトp51遺伝子)を挿入したプラスミド(AAVベクタープラスミド)を作成する。一方、ウイルス複製やウイルス粒子の形成に必要とされるウイルスタンパク質は、別のヘルパープラスミドにより供給させる。この両者の間には共通の塩基配列が存在しないようにし、遺伝子組換えによる野生型ウイルスが出現しないようにする必要がある。その後、両者のプラスミドを例えば293細胞へのトランスフェクションにより導入し、さらにヘルパーウイルスとしてアデノウイルス(293細胞を用いる場合は非増殖型のものでもよい)を感染させると、非増殖性の所望の組換えAAVが産生される。続いて、この組換えAAVは核内に存在するので、細胞を凍結融解して回収し、混入するアデノウイルスを56℃加熱により失活させる。更に必要に応じて塩化セシウムを用いる超遠心法により組換えAAVを分離濃縮する。上記のようにして所望の遺伝子導入用の組換えAAVを得ることができる。
【0151】
HIVベクターの作成は、例えば島田らの方法に準じて行うことができる〔Shimada,T.,et al.,J.Clin.Invest.,88,1043−1047(1991)〕。
【0152】
HIVウイルスはCD4をレセプターとしヘルパーT細胞に特異的に感染するので、その利用によれば、ヒトCD4陽性細胞に特異的に遺伝子導入の可能な組織特異的遺伝子導入ベクターとしてのHIVベクターを作成することができる。該HIVベクターは、AIDSの遺伝子治療に最適といえる。
【0153】
組換えHIVベクターの作成は、例えばまずパッケージングプラスミドであるCGPEをgag、pol、envの構造遺伝子とこれらの発現に必要な調節遺伝子(tat、revなど)をサイトメガロウイルス(CMV)のプロモーターとヒトグロビン遺伝子のポリAシグナル(poly A)により発現するように作成する。次にベクタープラスミドHXNを、HIVの両LTRの間に、標識遺伝子としてチミジンキナーゼ(TK)のプロモーターをもつバクテリアのネオマイシン耐性遺伝子(neoR)を挿入し、さらに基本となるプラスミドベクターにSV40の複製機転を挿入することにより、COS細胞内で効率よく増殖できるように構築できる。これらのパッケージングプラスミドであるCGPEとベクタープラスミドHXNを同時にCOS細胞にトランスフェクションさせることにより大量のneoR遺伝子が組み込まれた所望の組換えウイルスを作成し、培養培地中に放出させることができる。
【0154】
EBVベクターの製造は、例えば清水らの方法に準じて行うことができる〔清水則夫ら、細胞工学,14(3),280−287(1995)〕。
【0155】
本発明の遺伝子導入用EBVベクターの製造につき概略すると、EBウイルス(Epstein−Barr virus:EBV)は、1964年にエプスタイン(Epstein)らによりバーキット(Burkitt)リンパ腫由来の培養細胞より分離されたヘルペス科に属するウイルスである〔Kieff,E.and Liebowitz,D.:Virology,2nd ed.Raven Press,New York,1990,pp.1889−1920〕。該EBVには細胞をトランスフォームする活性があるので、遺伝子導入用ベクターとするためには、このトランスフォーム活性を欠いたウイルスを調製しなければならない。これは次の如くして実施できる。
【0156】
即ち、まず、所望の外来遺伝子を組み込む標的DNA近傍のEBVゲノムをクローニングする。そこに外来遺伝子のDNA断片と薬剤耐性遺伝子を組込み、組換えウイルス作製用ベクターとする。次いで適当な制限酵素により切り出された組換えウイルス作製用ベクターをEBV陽性Akata細胞にトランスフェクトする。相同組換えにより生じた組換えウイルスは抗表面免疫グロブリン処理によるウイルス産生刺激により野生型AkataEBVとともに回収できる。これをEBV陰性Akata細胞に感染し、薬剤存在下で耐性株を選択することにより、野生型EBVが共存しない所望の組換えウイルスのみが感染したAkata細胞を得ることができる。さらに組換えウイルス感染Akata細胞にウイルス活性を誘導することにより、目的とする大量の組換えウイルスベクターを産生することができる。
【0157】
組換えウイルスベクターを用いることなく所望の遺伝子を標的細胞に導入する、非ウイルスベクターの製造は、例えば膜融合リポソームによる遺伝子導入法により実施することができる。これは膜リポソーム(脂質二重膜からなる小胞)に細胞膜への融合活性をもたせることにより、リポソームの内容物を直接細胞内に導入する方法である。
【0158】
上記膜融合リポソームによる遺伝子の導入は、例えば中西らの方法によって行うことができる〔Nakanishi,M.,et al.,Exp.CellRes.,159,399−499(1985);Nao.kanishi,M.,et al.,Gene introduction into animal tissues.In Trends and Future Perspectives in Peptide and Protein Drug Delivery(ed.byLee,V.H.etal.).,Harwood Academic Publishers Gmbh.Amsterdam,1995,pp.337−349〕。
【0159】
以下、該膜融合リポソームによる遺伝子の導入法につき概略する。即ち、紫外線で遺伝子を不活性化したセンダイウイルスと所望の遺伝子やタンパク質などの高分子物質を封入したリポソームを37℃で融合させる。この膜融合リポソームは、内側にリポソーム由来の空洞を、外側にウイルス・エンベロープと同じスパイクがある疑似ウイルスともよばれる構造を有している。更にショ糖密度勾配遠心法で精製後、標的とする培養細胞又は組織細胞に対して膜融合リポソームを4℃で吸着させる。次いで37℃にするとリポソームの内容物が細胞に導入され、所望の遺伝子を標的細胞に導入できる。ここでリポソームとして用いられる脂質としては、50%(モル比)コレステロールとレシチン及び陰電荷をもつ合成リン脂質で、直径300nmの1枚膜リポソームを作製して使用するのが好ましい。
【0160】
また、別のリポソームを用いて遺伝子を標的細胞に導入する方法としては、カチオニック・リポソームによる遺伝子導入法を挙げることができる。該方法は、八木らの方法に準じて実施できる〔Yagi,K.,et al.,B.B.R.C.,196,1042−1048(1993)〕。この方法は、プラスミドも細胞も負に荷電していることに着目して、リポソーム膜の内外両面に正の電荷を与え、静電気によりプラスミドの取り込みを増加させ、細胞との相互作用を高めようとするものである。ここで用いられるリポソームは正荷電を有する多重膜の大きなリポソーム(multilamellar large vesicles:MLV)が有用であるが、大きな1枚膜リポソーム(large unilamellar vesicles:LUV)や小さな1枚膜リポソーム(small unilamellar vesicles:SUV)を使用してプラスミドとの複合体を作製し、所望の遺伝子を導入することも可能である。
【0161】
プラスミト包埋カチオニックMLVの調製法について概略すると、これはまず脂質TMAG(N−(α−trimethylammonioacetyl)−didodecyl−D−glutamate chloride)、DLPC(dilauroyl phosphatidylcholine)及びDOPE(dioleoyl phosphatidylethanolamine)をモル比が1:2:2となる割合で含むクロロホルム溶液(脂質濃度として1mM)を調製する。次いで総量1μmolの脂質をスピッツ型試験管に入れ、ロータリーエバポレーターでクロロホルムを減圧除去して脂質薄膜を調製する。更に減圧下にクロロホルムを完全に除去し、乾燥させる。次いで20μgの遺伝子導入用プラスミドを含む0.5mlのダルベッコのリン酸緩衝生理食塩液−Mg,Ca含有を添加し、窒素ガス置換後、2分間ボルテックスミキサーにより攪袢して、所望の遺伝子を含有するプラスミド包埋カチオニックMLV懸濁液を得ることができる。
【0162】
上記で得られたプラスミド包埋カチオニックMLVを遺伝子治療剤として使用する一例としては、例えば発現目的遺伝子のcDNAを組み込んだ発現プラスミドを上記カチオニックMLVにDNA量として0.6μg、リポソーム脂質量として30nmolになるように包埋し、これを2μlのリン酸緩衝生理食塩液に懸濁させて患者より抽出した標的細胞または患者組織に対して隔日投与する方法が例示できる。
【0163】
ところで、遺伝子治療とは「疾病の治療を目的として、遺伝子または遺伝子を導入した細胞をヒトの体内に投与すること」と日本国の厚生省ガイドラインに定義されている。これに基づいて、本発明における遺伝子治療とは、癌を始めとする各種疾患の治療並びに処置を目的として、前述の本発明のキメラ遺伝子または該遺伝子を導入した標的細胞若しくは標的組織をヒト体内に投与することを包含する。
【0164】
本発明の遺伝子治療において、所望遺伝子の標的細胞または標的組織への導入方法には、代表的には2種類の方法が含まれる。
【0165】
その第1法は、治療対象とする患者から標的細胞を採取した後、該細胞を体外で例えばインターロイキン−2(IL−2)などの添加の下で培養し、レトロウイルスベクターに含まれる目的とするキメラ遺伝子を導入した後、得られる細胞を再移植する手法(ex vivo法)である。該方法はADA欠損症を始め、欠陥遺伝子によって発生する遺伝子病や癌、AIDSなどの治療に好適である。
【0166】
第2法は、キメラ遺伝子を直接患者の体内や腫瘍組織などの標的部位に注入する遺伝子直接導入法(直接法)である。
【0167】
上記遺伝子治療の第1法は、より詳しくは、例えば次のようにして実施される。即ち、患者から採取した単核細胞を血液分離装置を用いて単球から分取し、分取細胞をIL−2の存在下にAIM−V培地などの適当な培地で72時間程度培養し、導入すべきキメラ遺伝子を含有するベクターを加える。遺伝子の導入効率をあげるために、プロタミン存在下に32℃で1時間、2500回転にて遠心分離した後、37℃で10%炭酸ガス条件下で24時間培養してもよい。この操作を数回繰り返した後、更にIL−2存在下にAIM−V培地などで48時間培養し、細胞を生理食塩水で洗浄し、生細胞数を算定し、遺伝子導入効率を前記insituPCRや、例えば所望の対象が酵素活性であればその活性の程度を測定することにより、目的遺伝子導入効果を確認する。
【0168】
また、培養細胞中の細菌・真菌培養、マイコプラズマの感染の有無、エンドトキシンの検索などの安全度のチェックを行い、安全性を確認した後、予測される効果用量のキメラ遺伝子が導入された培養細胞を患者に点滴静注により戻す。かかる方法を例えば数週間から数カ月間隔で繰り返することにより遺伝子治療が施される。
【0169】
ここでウイルスベクターの投与量は、導入する標的細胞により適宜選択される。通常、ウイルス価として、例えば標的細胞1×10細胞に対して1×10cfuから1×10cfuの範囲となる投与量を採用することが好ましい。
【0170】
上記第1法の別法として、キメラ遺伝子を含有するレトロウイルスベクターが導入されたウイルス産生細胞と例えば患者の細胞とを共培養して、目的とする細胞へキメラ遺伝子を導入する方法を採用することもできる。
【0171】
遺伝子治療の第2法(直接法)の実施に当たっては、特に体外における予備実験によって、遺伝子導入により実際に目的のキメラ遺伝子が導入されるか否かを、予めベクター遺伝子cDNAのPCR法による検索やin situPCR法によって確認するか、或いはキメラ遺伝子の導入に基づく所望の治療効果である特異的活性の上昇や標的細胞の増殖増加や増殖抑制などを確認することが望ましい。また、ウイルスベクターを用いる場合は、増殖性レトロウイルスなどの検索をPCR法で行うか、逆転写酵素活性を測定するか、或は膜タンパク(env)遺伝子をPCR法でモニターするなどにより、遺伝子治療に際して遺伝子導入による安全性を確認することが重要であることはいうまでもない。
【0172】
本発明の遺伝子治療法において、特に癌や悪性腫瘍を対象とする場合は、患者から癌細胞を採取後、酵素処理などを施して培養細胞を樹立した後、例えばレトロウイルスにて所望の遺伝子を標的癌細胞に導入し、G418細胞にてスクリーニングした後、IL−12などの発現量を測定(in vivo)測定し、次いで放射線処理を施行し、患者腫瘍内または傍腫瘍に接種する癌治療法を一例として挙げることができる。
【0173】
ヘルペス単体ウイルスーチミジンキナーゼ(HSV−TK)遺伝子は、特にヌクレオチドアナログであるガンシクロビル(GCV)を毒性中間体に転換して、分裂性細胞の死をもたらすことが報告され、該遺伝子を腫瘍に対して用いる遺伝子治療が知られている〔米国特許第5631236号明細書;特表平9−504784号公報参照〕。該方法は自殺遺伝子といわれる前記HSV−TK遺伝子を組み込んだレトロウイルスベクター産生細胞を注入して1週間後に抗ウイルス剤として知られているGCVを投与すると、遺伝子導入細胞ではGCVがリン酸化を受けて活性化されて遺伝子導入細胞を自殺に導くと同時に、ギャップ・ジャンクションを介した細胞接触により、周囲の非導入細胞にも細胞死をもたらすことを利用した遺伝子治療法である。本発明の遺伝子導入ベクターもしくは該ベクターを含む細胞は、上記遺伝子療法にも利用することができる。
【0174】
別の遺伝子治療法としては、標的細胞表面に結合する抗体を結合させたキメラ遺伝子含有イムノリポゾームを作製し、包埋したcDNAを選択的に効率よく標的細胞に導入させる方法があげられる。また、前記したサイトカイン遺伝子含有ウイルスベクターと自殺遺伝子含有アデノウイルスとを同時に投与する結合遺伝子療法も可能である。これらの方法は当該分野における当業者の技術レベルある。
(6)遺伝子治療用医薬組成物(遺伝子治療剤)
本発明はまた、本発明の遺伝子導入用ベクター又は目的のキメラ遺伝子が導入された細胞を有効成分とし、それを薬学的有効量、適当な無毒性医薬担体ないしは希釈剤と共に含有する医薬組成物又は医薬製剤(遺伝子治療剤)を提供する。
【0175】
本発明の医薬組成物に利用できる医薬担体としては、製剤の使用形態に応じて通常使用される、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤などの希釈剤ないし賦形剤などを例示でき、これらは製剤の投与形態に応じて適宜選択使用できる。
【0176】
本発明の医薬製剤の投与形態としては、前記したキメラタンパク製剤の製剤例を同様に挙げることができ、治療目的に応じて各種の形態から適宜選択することができる。
【0177】
例えば、本発明の遺伝子導入用ベクターを含む医薬製剤は、該ベクターをリポソームに包埋された形態あるいは所望の遺伝子が包含されるレトロウイルスベクターを含むウイルスによって感染された培養細胞の形態に調製される。
【0178】
これらは、リン酸緩衝生理食塩液(pH7.4)、リンゲル液、細胞内組成液用注射剤中に配合した形態などに調製することもでき、またプロタミンなどの遺伝子導入効率を高める物質と共に投与されるような形態に調製することもできる。
【0179】
上記医薬製剤の投与方法は、特に制限がなく、各種製剤形態、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度などに応じて決定される。
【0180】
上記医薬製剤中に含有されるべき本発明有効成分の量及びその投与量は、特に限定されず、所望の治療効果、投与法、治療期間、患者の年齢、性別その他の条件などに応じて広範囲より適宜選択される。
【0181】
一般には、医薬製剤としての所望のキメラ遺伝子含有レトロウイルスベクターの投与量は、1日当り体重1kg当り、例えばレトロウイルスの力価として約1×10pfuから1×1015pfu程度とするのがよい。
【0182】
また所望のキメラ遺伝子が導入された細胞の場合は、1×10細胞/bodyから1×1015細胞/body程度の範囲から選ばれるのが適当である。
【0183】
該製剤は1日に1〜数回に分けて投与することもでき、1から数週間間隔で間欠的に投与することもできる。尚、好ましくは、プロタミンなど遺伝子導入効率を高める物質又はこれを含む製剤と併用投与することができる。
【0184】
本発明に従う遺伝子治療を癌の治療に適用する場合は、前記した種々の遺伝子治療を適宜組み合わせて行う(結合遺伝子治療)こともでき、前記した遺伝子治療に、従来の癌化学療法、放射線療法、免疫療法などを組合わせて行うこともできる。さらに本発明の遺伝子治療は、その安全性を含めて、NIHのガイドラインを参考にして実施することができる〔Recombinant DNA Advisory Committee,Human Gene Therapy,4,365−389(1993)〕。
(7)新規薬剤の設計
また本発明によれば、より活性叉は安定した形態のキメラタンパク誘導体、または、例えば、イン・ビボ(in vivo)でキメラタンパクの機能を高めるか若しくは妨害する薬剤を開発するために、それらが相互作用する目的の生物学的に活性なタンパク叉は構造アナログを作製することが可能である。前記構造アナログは例えばキメラタンパクと他のタンパクの複合体の三次元構造をX線結晶学、コンピューター・モデリング又は、これらの組み合わせた方法によって決定することが出来る。また、構造アナログの構造に関する情報は、相同性タンパク質の構造に基づくタンパク質のモデリングによって得ることも可能である。
【0185】
また上記より活性叉は安定した形態のキメラタンパク誘導体を得る方法としては、例えばアラニン・スキャンによって分析することが可能である。該方法はアミノ酸残基をAlaで置換し、ペプチドの活性に対するその影響を測定する方法でペプチドの各アミノ酸残基をこのように分析し、当該ペプチドの活性や安定性に重要な領域を決定する方法である。該方法によって、より活性な、または安定なキメラタンパク誘導体を設計することができる。
【0186】
また機能性アッセイによって選択した標的−特異的抗体を単離し、次いでその結晶構造を解析することも可能である。原則として、このアプローチにより、続く薬剤の設計の基本となるファーマコア(pharmacore)を得る。機能性の薬理学的に活性な抗体に対する抗−イディオタイプ抗体を生成させることによって、化学的または生物学的に生成したペプチドのバンクよりペプチドを同定したり単離したりすることが可能である。故に選択されたペプチドもファーマコアとして作用すると予測される。
【0187】
かくして、改善されたp53活性、特に細胞増殖抑制能性を有する薬剤を設計・開発することが出来る。
【0188】
クローン化p51配列によって、十分な量のp51ポリペプチドを入手して、X線結晶学のような分析研究をも行うことができる。さらに、本発明のキメラタンパクの提供により、X線結晶学に代えるか、または加えて、コンピューターモデリング技術に適応可能である。
【0189】
また本発明によれば、キメラタンパク含有ノックアウト・マウス(変異マウス)を作成することによってキメラ遺伝子配列のどの部位が生体内で上記したような多様なp53活性に影響を与えるかどうか、即ちキメラ遺伝子並びにその産物が生体内でどのような機能を有するかを確認することができる。
【0190】
該方法は、遺伝子の相同組換えを利用して、生物の遺伝情報を意図的に修飾する技術であり、マウスの胚性幹細胞(ES細胞)を用いた方法を例示できる(Capeccchi,M.R.,Science,244,1288−1292(1989))。
【0191】
尚、上記変異マウスの作製方法はこの分野の当業者にとって既に通常の技術であり、この改変技術(野田哲生編、実験医学,増刊,14(20)(1996)、羊土社)に、本発明のキメラ遺伝子を適応して容易に変異マウスを作製し得る。従って前記技術の適応により、改善されたp53活性を有する薬剤を設計・開発することが出来る。
【0192】
なお、本発明には、以下のものが含まれる:
1.p53ファミリーのキメラ遺伝子を腫瘍細胞に移すことからなる腫瘍形成抑制方法。
2.p53ファミリーのキメラタンパクを腫瘍細胞に移すことからなる腫瘍形成抑制方法。
3.p53ファミリーのキメラ遺伝子又はその同効物、及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
4.p53ファミリーのキメラタンパク又はその同効物、及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
5.p53ファミリーのキメラ遺伝子又はその同効物を有効成分とする遺伝子治療剤。
6.p53ファミリーのキメラ遺伝子又はその同効物を含有する癌治療剤。
9.p53ファミリーのキメラ遺伝子又はその同効物を用いて、細胞の腫瘍形成を抑制作用物をスクリーニングする方法。
【0193】
【実施例】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例及び実験例を挙げる。ただし、本発明はかかる実施例及び実験例により何ら限定されるものではない。
参考例1 ヒトp51遺伝子の単離
(1)ヒトp51遺伝子のクローニング及びDNAシークエンシング
(a)本発明者らは、次に掲げるp73−F1センスプライマー及びp73−R1アンチセンスプライマーを用いてPCRを行い増幅し、次いでp73−F2センスプライマー及びp73−R2アンチセンスプライマーでNestして増幅を行った。
【0194】
p73−F1: 5’−TA(CGT)GCA(CGT)AAA(G)ACA(CGT)TGC(T)CC−3’
p73−R1: 3’−TGC(T)GCA(CGT)TGC(T)CCA(CGT)GGA(CGT)A(C)G−5’
p73−F2: 5’−TA(CGT)ATA(CT)A(C)GA(CGT)GTA(CGT)GAA(G)GG−3’
p73−R2: 3’−ATGAAC(T)A(C)GA(CGT)A(C)GA(CGT)CCA(CGT)AT−5’
具体的には、ヒト骨格筋ポリA+RNA(クローンテック社製)よりランダムプライマーおよびオリゴdTプライマーを用いてcDNAを合成し、λ ZipLox(ギブコBRL社製)をベクターとして構築した約10プラークからなるcDNAライブラリーを増幅し、DNAを抽出した。そのcDNA0.2μgを鋳型として上記プライマーp73−F1及びp73−R1を用いてTag Polymerase(ギブコBRL社製)の説明書に従って、94℃で30秒、45℃で30秒、72℃で30秒を25サイクルで増幅し、次いでその100分の1を鋳型として上記プライマーp73−F2及びp73−R2を用いて同様の反応によって増幅した。
【0195】
p53遺伝子の構造から推測される172bpのバンドが得られたので、そのバンドの制限酵素地図を作成したところ、p53遺伝子以外の遺伝子があることが判明した。そのバンドをpGEM7(Promega社製)にサブクローニングし、ABI377自動シークエンサー(ABI社製)を用いて、常法に従って塩基配列を決定したところ、p53遺伝子に類似するものの、異なる新規塩基配列を有する新規遺伝子に由来するDNA断片であった。
【0196】
このサブクローンされたDNA断片を切り出し、BcaBest labeling kit(宝酒造製)を用いて標識プローブを作成した。オリゴdtプライマーのみを用いる以外は上記cDNAライブラリーと同様にして構築した未増幅のライブラリー2.4×10プラークをプラークハイブリダイゼーションによってスクリーニングした結果、8個のポジティブクローンが得られた。λ ZipLoxはCre−LoxPの系を用いて容易にプラスミドに変換できるので、変換プラスミドをLICOR社の自動シークエンサーとABI377自動シークエンサー(ABI社)を用いて、常法に従って塩基配列を決定した。
【0197】
次いで、得られた遺伝子の塩基配列とp53遺伝子及びp73遺伝子の塩基配列との相同性を、GCGソフトウェア(ウィスコンシン・配列分析パッケージ、ジェネティクス・コンピューター・グループ製)を使用するFASTAプログラムを用いて(Person,W.R.and Lipman,D.J.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,85,1435−1441(1988))、探索した。
【0198】
かかる相同性検索の結果、上記の方法によって選択され、塩基配列が決定されたクローンのうち2つがp53遺伝子およびp73遺伝子と高い相同性を有していることを見出した。これら2つのクローンが有する遺伝子の配列によりコードされる推定アミノ酸から分子量を掲載したところ、それぞれ50,894Da及び約71,900Daであった。本発明者らは、これらのクローンをそれぞれp51Aクローン及びp51Bクローンと命名した。
【0199】
上記で得られたp51Aクローンが有する遺伝子(p51A遺伝子)の全塩基配列を配列番号2に、またp51Bクローンが有する遺伝子(p51B遺伝子)の全塩基配列を配列番号4に示す。
【0200】
p51Aクローンは、配列番号2に示すように、配列番号1で示されるアミノ酸配列(448アミノ酸)をコードする塩基配列(1344ヌクレオチド)を、オープン・リーディング・フレームとして145〜1488位に有する遺伝子を有していた。また、このクローンが有する遺伝子の塩基配列によりコードされる推定アミノ酸配列において、転写活性化領域は1〜59位、DNA結合領域は142〜321位、及びオリゴメリゼーション領域は359〜397位であった。
【0201】
一方、p51Bクローンは、配列番号4に示すように、配列番号3で示されるアミノ酸配列(641アミノ酸)をコードする塩基配列(1923ヌクレオチド)を、オープン・リーディング・フレームとして145〜2067位に有する遺伝子を有していた。また、このクローンが有する遺伝子の塩基配列によりコードされる推定アミノ酸配列において、転写活性化領域は1〜59位、DNA結合領域は142〜321位、及びオリゴメリゼーション領域は353〜397位であり、これは更に、C末端側の領域に付加的配列(SAMドメイン)を有しており、当該付加的配列を含む353〜641位の領域を広義のオリゴメリゼーション領域とみることができる。
【0202】
p51A遺伝子でコードされるp51Aのアミノ酸配列をp53及びp73βのアミノ酸配列と比較し、三者間の相同性を調べた(図7)。なお、図中、三者間で同一のアミノ酸を四角で囲んで示す。
【0203】
また図1に、p51Aの構造的なドメインの特徴を、p53及びp73βとともに、シェーマ的に示す。図中「TA」は転写活性化領域、「DNA binding」はDNA結合領域、「oligo」はオリゴメリゼーション領域をそれぞれ示す。
【0204】
これらの結果、全配列、転写活性化領域、DNA結合領域及びオリゴメリゼーシヨン領域における、それぞれのp51A、p53及びp73βの推定アミノ酸配列の相同性は、表2に示す通りであった。
【0205】
【表2】
Figure 0004399654
また、p51Aの448アミノ酸残基は、p73αの636アミノ酸残基より短いものの、p51Aの全構造はp73のカルボキシ末端部位が割裂した部分が類似していた(図8参照)。
【0206】
これらの結果から、p51Aの推定アミノ酸配列は、p53及びp73βのいずれとも類似しているものの、p53のアミノ酸配列よりもp73βのアミノ酸配列に相同性が高く、またp51Aとp73βとの相同性は、オリゴメリゼーション領域以外の領域で、p53とp73βの相同性よりも高いことが判明した。更にp51A及びp73β間では、p53及びp73β間又はp53及びp51A間で相同性がない領域においても、相同性が認められた。これらのことからp51Aは、アミノ酸配列レベルにおいてp53よりもp73βにより近似しているといえる。
【0207】
また、同様に本発明のp51B遺伝子でコードされるアミノ酸配列をp73αタンパクのアミノ酸配列と比較し二者間の相同性を調べた(図9)。なお、図において二者間で同一のアミノ酸を四角で囲んで示す。
【0208】
実施例1 キメラp53/p51A/p73γ発現ベクターの構築
基本的にPCRの変法(Senanayake,S.D.,and Brian,D.A.:Molecular Biotechnology,4,13−15(1995))を用いて、キメラを作成した。
(1)まず、哺乳動物発現ベクターpRc/CMV(インビトロゲン社製)中にp53、p51A及びp73γ遺伝子を挿入してcDNA発現構築物を構築した(後述する表4中、便宜上キメラ1、キメラ14及びキメラ27として示す。)。また、表3に示すように、12個のハイブリッドプライマーと6個のアンチセンスプライマーをデザインして作成した。
【0209】
【表3】
Figure 0004399654
PCR増幅を、鋳型として上記p53、p51A及びp73γのcDNA発現構築物(キメラ1、キメラ14及びキメラ27)を用いて、アンチセンスプライマー(表3)とT7プライマー(pRc/CMVベクター中に挿入された遺伝子の5’位に位置する)、及び対応するハイブリッドプライマー(表3)とSP6プライマー(pRc/CMVベクター中に挿入された遺伝子の3’位に位置する)を使用して行った(94℃で30秒、60℃で30秒、72℃で1分、20サイクル、EXTaq(宝酒造製)使用)。図10において具体的には、まずアンチセンスプライマー及びT7プライマー及び鋳型としてp53cDNA発現構築物(キメラ1)を用いてPCR増幅を行い、また別個の試験管内でハイブリッドプライマー、SP6プライマー及び鋳型としてp51AcDNA発現構築物(キメラ14)を用いてPCR増幅を行った(図10(a))。
【0210】
得られた増幅フラグメントをゲル精製し、次いで得られた精製増幅フラグメントの各相当ペアを混合して、再度T7プライマー及びSP6プライマーを用いてPCR増幅(94℃で30秒、60℃で30秒、72℃で2分、20サイクル、ExTaq)を行った(図10(b))。得られたキメラフラグメントをpRc/CMVベクターにサブクローニングして、完全なコード領域を有していることが確認された。
(2)上記で得られたキメラクローンを、変異のないことを確認した後、2つのジャンクションを有するキメラの構築に使用した。具体的には、上記で作成したキメラのDNA結合領域、及びpRc/CMVベクターの両方に存在する制限酵素認識部位を利用して作成することができる。例えば図11では、キメラ10及びキメラ2を利用し、これらのDNA結合領域及びpRc/CMVベクターに存在する部位を認識する制限酵素Bsu36Iで消化し、得られる消化フラグメントを結合することによってキメラ11(p51−p53−p51A)を構築する工程を示す。また図12では、キメラ2及びp53B遺伝子をpRc/CMVベクターに挿入して構築したcDNA発現構築物(キメラ32、表4参照)を利用し、これらに存在する共通部位を認識する制限酵素MfeIで消化し、得られる消化フラグメントを結合することによってキメラ28(p53−p53−p51B、表4参照)を構築する工程を示す。
【0211】
なお、図10〜12において黒ボックスはp53由来、白ボックスはp51A由来、ストライプボックスはpRc/CMVベクター由来、スティップル(stippled)ボックスはp51BのSAMドメインを示す。また、図中、TAは転写活性化領域、DNAはDNA結合領域及びOLIGOはオリゴメリゼーション領域を意味する。
【0212】
このようにして得られた各種のキメラ遺伝子及びその産物を表4に示す(なお、キメラ1、14、27及び32は、それぞれp53、p51A、p73γ及びp51Bに対応するものでありキメラではないが、説明の都合上表に掲げたものである。)。
【0213】
【表4】
Figure 0004399654
細胞分裂周期におけるG1期停止を誘導したり、またアポトーシスを誘導するといったp53の能力は、p53の転写活性能に依存している。このことから、実施例1で調製した各p53ファミリー・キメラタンパク(キメラ1〜27、表4参照)について、それらが転写活性能を有するかどうかを試験した。
【0214】
(1)p53タンパクの転写活性能によって調節されることが知られているBAX2プロモーターをターゲットプロモーターとして、ルシフェラーゼリポーターアッセイにより、各p53ファミリー・キメラタンパクの転写活性能を評価した。具体的には、400ngの各種キメラ構築物(キメラ1〜27)及び100ngのpBAX2lucを、p53欠損ヒト骨肉腫細胞系SAOS−2細胞にトランスフェクトして、デュアル(Dual)−ルシフェラーゼ・リポーター測定システム(プロメガ社製)及びルミノメーター(ATTO;Luminescencer JNR AB−2100)を用いて、ルシフェラーゼアッセイを行った。なお、pBAX2lucはPCRによってBAX2のプロモーター全領域を増幅し、pGL3basic(プロメガ社製)に挿入することによって作成した。
【0215】
3回の実験から集計して得られた結果を、相対光量ユニット(RLU)として、図13に示す。なお、図の左に示すキメラの番号は表4に記載するキメラ1〜27に対応するものであり、黒ボックスはp53由来、白ボックスはp51A由来、及びドット(点)ボックスはp73γ由来を意味する。また、図中、TAは転写活性化領域、DNAはDNA結合領域及びOligoはオリゴメリゼーション領域を意味する。
【0216】
この結果からわかるように、転写活性化領域がp53に由来するキメラ構築物(キメラ2〜9)は、p53(キメラ1)そのものよりも強い転写活性能を示し、中でもキメラ2、5及び8はp53の2倍もの強い転写活性能を有していた。さらに、キメラ1〜3、キメラ4〜6及びキメラ7〜9間でそれぞれこれらのキメラ構築物のオリゴメリゼーション領域の由来に関して検討するに、p51に由来するオリゴメリゼーション領域を有するキメラ構築物の転写活性能が最も強く、次いで強いのがp73に由来するものであった。また、一般的にp51由来の転写活性化領域を有するキメラは転写活性能を低い傾向が見られた(キメラ10〜18)。
【0217】
さらに、p51またはp73に由来する転写活性化領域を有するキメラの場合、転写活性能の強さは、DNA結合性領域によって決まるようである。p51に由来する転写活性化領域を有するキメラ構築物において、p73に由来するDNA結合領域を有するものが最も高い転写活性能を示し、次いで強いのはp51に由来するDNA結合領域を有するものであった。一方、p73に由来する転写活性化領域を有するキメラ構築物において、p53に由来するDNA結合領域を有するものが最も高い転写活性能を示し、次いでp51に由来するDNA結合領域を有するものが強かった。
【0218】
(2)実施例1で調製したキメラ2(p53−p53−P51A)及びキメラ28(p53−p53−P51B)について、上記(2)と同様にしてルシフェラーゼアッセイを行い、ルシフェラーゼ活性から各キメラの転写活性化能を評価した。結果を、p53そのもの(キメラ1)、p51Aそのもの(キメラ14)、p51B(キメラ32)及びpRc/CMVベクターについて実験を行った結果と合わせて図14に示す。結果からわかるように、p53及びp51Aそのものよりも、p51B由来のオリゴメリゼーション領域を有するキメラ28及びp51A由来のオリゴメリゼーション領域を有するキメラ2は、それぞれ30倍及び20倍強い転写活性を示した。このことから、本来転写抑制領域と考えられているp51BのC末端ドメインは、単に転写抑制に機能しているだけでなく、上記キメラにおいて強いトランスアクチベーターとしてp53の機能活性に関与していることが示唆された。
【0219】
実験例2 種々のプロモーターに対するキメラの転写活性能
BAX2プロモーターと同様にp53の転写活性能によって調節されることが知られているRGCプロモーター、14−3−3σプロモーター、p21WAF1プロモーター及びMDM2プロモーター、並びにBAX2プロモーターを用いて、実験例1と同様にして各種キメラ構築物の転写活性能を調べた。具体的には、100ngの各リポータープラスミド(pBAX2luc、pGL2hmdm2−HX−luc、pWAF1luc、14−3−3sluc)を400ngのキメラ発現構築物とともに、SAOS−2細胞株に導入して、デュアル(Dual)−ルシフェラーゼ・リポーター測定システム(プロメガ社製)を用いて、ルシフェラーゼアッセイを行った(n=3)。
【0220】
結果を図15に示す。なお、図中横軸は各キメラの番号を示すが、ターゲットプロモーターとしてBAX2プロモーターを用いた場合に得られる各種キメラの転写活性能の強さの順の並び変えたものである(図15(e)参照)。また図中、黒の棒グラフはp53そのもの(p53発現構築物:キメラ1)の転写活性能を示す。
【0221】
これらの結果から、各キメラはp53の転写活性能によって調節される異なるターゲットプロモーターに対して、顕著に異なる選択性を示すことがうかがわれた。
【0222】
実験例3 変異p53のドミナントネガティブ効果に対するキメラの抵抗性
実験例2から、キメラの転写活性能は種々のプロモーターを用いた場合も強いことが判明したので、標的腫瘍中の野生型(正常)p53の機能消失を復活させる遺伝子治療への利用の可能性が考えられる。しかしながら、多くの腫瘍で検出される変異p53はしばしばドミナントネガティブ作用を発揮し、外来性のp53機能を阻害する。このため、本発明のp53ファミリーキメラについて、ドミナントネガティブ活性を有する変異p53の存在下での転写活性能を調べた。なお、以下の実験において、変異p53として、変異p53試験を行った10個の中で最も強いコンペティターであった、249位に変異を有するSer249変異体を用いた。
【0223】
BAX2プロモーターに対する種々のキメラの転写活性能を、種々の量のドミナントネガティブp53プラスミドの存在下で測定した。具体的には、200ngキメラプラスミド及び50ngのpBAX2lucを、種々の量の変異p53(800、400、200、100及び0ng)(pRc/CMVベクターでDNA量を調整した)と一緒にトランスフェクトし、デュアル(Dual)−ルシフェラーゼ・リポーター測定システム(プロメガ社製)を用いて、ルシフェラーゼアッセイに供した(n=3)。
【0224】
結果を図16及び図17に示す。結果は、pRc/CMVベクターの存在下で検出されるルシフェラーゼ活性に対する、変異プラスミドの存在下でのルシフェラーゼ活性の、相対(比較)ルシフェラーゼ活性として示す(図16)。図16のa〜iは、表4に示すキメラ1〜27をDNA結合領域及びオリゴメリゼーション領域の由来に基づいて、下記のように分類したものに対応する。
【0225】
図a,b,c:p53由来のDNA結合領域を有するキメラ
図d,e,f:p51A由来のDNA結合領域を有するキメラ
図g,h,i:p73γ由来のDNA結合領域を有するキメラ
図b,e,h:p51A由来のオリゴメリゼーション領域を有するキメラ
図c,f,i:p73γ由来のオリゴメリゼーション領域を有するキメラ
図a,d,g:p53由来のオリゴメリゼーション領域を有するキメラ
また、各図中、点線はp53由来の転写活性化領域を有するキメラ、実線はp51A由来の転写活性化領域を有するキメラ、及びダッシュ線はp73γ由来の転写活性化領域を有するキメラを意味する。
【0226】
また図17の(j)及び(k)は、それぞれ800ngのドミナントネガティブp53プラスミド及び800ngのpRc/CMVベクターの存在下で得られるルシフェラーゼ活性の絶対値を比較光量ユニット(relative light unit:RLU)として示すものである。また図17の(l)は、上記(j)及び(k)から得られる値の比(変異p53/ベクター:(j)/(k))を各キメラについて示すものである。なお、各図中、VはpRc/CMVベクターのトランスフェクションから得られるルシフェラーゼ活性(RLU)の結果を示すものである。
【0227】
これらの結果から、p53に由来するDNA結合領域及びオリゴメリゼーション領域を有するキメラは、その転写活性化領域の由来に関わらず、用量依存的に変異p53発現によるドミナントネガティブ作用にセンシティブであることがわかる(図16(a)、図17(j)〜(l):キメラ1、19及び10)。このことは、変異p53とオリゴメライズして変異p53に対してドミナントネガティブ阻害を働かせることを可能とするには、DNA結合領域とオリゴメリゼーション領域の完全性が必須の成分であることを示唆するものである。
【0228】
一方、p51又はp73に由来するDNA結合領域及びオリゴメリゼーション領域を有するキメラは、その転写活性化領域の由来に関わらず、変異p53発現によるドミナントネガティブ作用に抵抗性を示した。またそれらは、変異p53自体は転写活性能を全く有していないにも関わらず、変異p53の存在によって転写活性能が増強された。この現象は、これらのキメラがオリゴマー成分として変異p53を取り込み、それによって転写活性能が増大している、または変異p53がそのタンパクへの誘き寄せ(decoy)機能を果たし、それによってMDM2タンパクといったキメラ性タンパクの活性を打ち消している、という理由によって説明できるかもしれない。
【0229】
特にキメラ5、6、8及び9は、変異p53の存在下で、p53そのものよりも50倍以上も高いルシフェラーゼ活性(転写活性能)を示した(図17(j))。
【0230】
実験例4 p53ファミリーキメラの転写活性能に対するMDM2及びp19ARFの影響
本発明のp53ファミリーキメラについて、その転写活性能に対するMDM2及びp19ARFの影響を分析した。具体的には、800ngのpMDM2/Rc/CMV、200ngキメラプラスミド及び50ngpBAX2lucをSAOS細胞株にコトランスフェクトし、デュアル(Dual)−ルシフェラーゼ・リポーター測定システム(プロメガ社製)を用いて、ルシフェラーゼアッセイを行った(n=3)。
【0231】
結果を図18に示す。なお、図18の(a)及び(b)は、それぞれ800ngのMDM2/Rc/CMV及び800ngのpRc/CMVベクターの存在下で得られるルシフェラーゼ活性の絶対値を比較光量ユニット(relativelight unit:RLU)として示すものである。また図18の(c)は、上記(a)及び(b)から得られる値の比(MDM2/ベクター:(a)/(b))を各キメラについて示すものである。なお、各図中、VはpRc/CMVベクターのトランスフェクションから得られるルシフェラーゼ活性(RLU)の結果を示すものである。
【0232】
これらの結果から、強い転写活性能を有するキメラの中でもp51に由来するオリゴメリゼーション領域を有するキメラは、MDM2の過剰の発現によって著しく減少することが示された(キメラ2、5、8及び20)。このことから、MDM2がp51A由来オリゴメリゼーション領域に依存するユビキチン経路を活性化する可能性が示唆された。一方、pSRα−msv−p19ARF−tk−cD8をコトランスフェクションすることによるp19ARFの発現は余り影響しなかった。
【0233】
以上の実験から、本発明のp53ファミリーからなるキメラタンパクの転写活性能に関して、
1)あるキメラはp53、p51及びp73そのものよりも20倍もの高い転写活性能を示すこと、
2)キメラはp53によって転写調節をうける各種の遺伝子(プロモーター)に対して著しく異なった選択性を示すこと、
3)あるキメラは、野生型p53をドミナントネガティブ的に阻害する変異p53作用に強い抵抗性を示し、さらには変異p53の存在下においてp53よりも50倍もの強い転写活性能を示すこと、
が明らかになった。
【0234】
このような本発明のp53ファミリーのキメラ遺伝子及びキメラタンパクは、p53ファミリータンパクの機能を検討並びに解明する上で有用である。p53ファミリータンパクのメンバーから形成されるヘテロオリゴマー(4量体)により、p53ファミリータンパクの機能を様々なレベルで精巧に制御することができる。例えば、▲1▼タンパクの発現レベル、▲2▼オリゴメリゼーションレベル(ヘテロオリゴマー形成を含む)、▲3▼種々のヘテロオリゴマーのDNA結合能レベル、▲4▼種々のオリゴマーの存在下でのDNA結合オリゴマーの転写活性能及び転写抑制能レベル、▲5▼ターゲットプロモーターレベルを挙げることができる。本発明のキメラによれば、免疫共沈実験(co−immunoprecipitation experiment)、ゲルシフトアッセイ、トランスアクチベーションアッセイ、及びアポトーシス分析などの各種の方法を組み合わせることにより、更なる素晴らしい進展が得られることが期待される。
【0235】
また本発明のp53ファミリーキメラの種々のプロモーターに対する異なった選択性は、p53ファミリータンパクのターゲット遺伝子の検索に利用できる。すなわち、本発明のキメラは、好適なターゲット遺伝子の分別に役立ち、またさらに結合部位選択法、SAGEまたはマイクロアレイ技術等の方法を組み合わせることにより、真なるp53ファミリータンパクのターゲット遺伝子の同定を導くものと期待される。さらに、選択性における顕著な相違は、あるp53ファミリー遺伝子におけるエフェレントシグナル(efferent signal)を、他のp53ファミリー遺伝子の下流ターゲットに対するアフェレントシグナル(afferent signal)に変換できるであろうことを示す。
【0236】
本発明のp53ファミリーキメラ遺伝子は、遺伝子治療においても有用である。
【0237】
p53欠損性腫瘍について、遺伝子治療によって正常p53機能を復活させることにより、癌性細胞を死滅させるか、または癌性細胞を良好状態に変えることができることを示す多くの証拠がある。しかしながら、実際は癌細胞への正常p53遺伝子の導入は必ずしも成功裡を収めるわけではない。正常なp53は、多くの腫瘍において原因となる変異p53のドミナントネガティブ作用に十分強くなく、または阻害され得る。また最近、p53経路の異常(不全機能)は変異p53だけでなく、p14ARF変異及びMDM2増幅によっても生じることが分かっている。種々の性質を有すると考えられる本発明のキメラ遺伝子によれば、このような変異p53のドミナントネガティブ作用やp14ARF変異及びMDM2増幅等の障害を回避することが可能となり、その結果腫瘍に対する遺伝子治療において有用なツール(遺伝子治療剤)となるものと期待される。さらに、遺伝子の異なるレパートリーを転写活性化するキメラの利用は、癌の治療により一層有効と思われる。また、本発明のp53ファミリーのキメラ遺伝子を種々組み合わせて使用することにより、単一のキメラでは得られない有用な性質が得られる可能性も期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】p51A蛋白の構造的なドメインの特徴を、p53蛋白及びp73β蛋白とともに示した図である。図中、「TA」は転写活性化領域、「DNA binding」はDNA結合領域、及び「oligo」はオリゴメリゼーション領域をそれぞれ示す。
【図2】p53遺伝子の塩基配列(a)及びp53のアミノ酸配列(b)を示す図である。
【図3】p73α遺伝子の塩基配列(a)及びp73αのアミノ酸配列(b)を示す図である。
【図4】p73β遺伝子の塩基配列(a)及びp73βのアミノ酸配列(b)を示す図である。
【図5】p73γ遺伝子の塩基配列(a)及びp73γのアミノ酸配列(b)を示す図である。
【図6】p73δ遺伝子の塩基配列(a)及びp73δのアミノ酸配列(b)を示す図である。
【図7】ヒトp51A遺伝子でコードされるアミノ酸配列をp53蛋白及びp73β蛋白の各アミノ酸配列と比較し、三者間の相同性をみた図である。三者が同一であるアミノ酸を四角で囲んで示す。
【図8】p51蛋白のalternative splicing variant(p51A、p51B)の構造を、p73蛋白のalternativesplicingvariant(p73α、p73β)の構造と模式的に比較した図である。
【図9】ヒトp51B遺伝子でコードされるアミノ酸配列をp73α蛋白の各アミノ酸配列と比較し、両者の相同性をみた図である。両者が同一であるアミノ酸を四角で囲んで示す。
【図10】本発明のキメラ(キメラ2)を作成する方法を示す図である(実施例1)。
【図11】本発明のキメラ(キメラ11)を作成する方法を示す図である(実施例1)。
【図12】本発明のキメラ(キメラ28)を作成する方法を示す図である(実施例1)。
【図13】実験例1(1)でおこなったp53ファミリーキメラタンパクの転写活性化機能試験の結果を示す図である。グラフの横軸は相対光量ユニット(RLU)を示す。図の左に示すキメラの番号は表4に記載するキメラ1〜27に対応する。黒ボックスはp53由来、白ボックスはp51A由来、及びドット(点)ボックスはp73γ由来を意味する。また、図中、TAは転写活性化領域、DNAはDNA結合領域及びOligoはオリゴメリゼーション領域を意味する。
【図14】実験例1(2)でおこなったキメラ2(p53−p53−P51A)及びキメラ28(p53−p53−P51B)の転写活性化機能試験の結果を示す図である。グラフの縦軸は相対光量ユニット(RLU)を示す。図の横軸の番号は次のキメラ構築物に対応する:1.キメラ構築物(キメラ28)、2.キメラ構築物(キメラ2)、3.p53(キメラ1)、4.p51A(キメラ14)、5.p51B(キメラ32)、6.pRc/CMVベクター。
【図15】種々のプロモーターに対するキメラの転写活性能の結果を示す図である(実験例)。(a)RGCプロモーター、(b)14−3−3σプロモーター、(c)p21WAF1プロモーター、(d)及びMDM2プロモーター、及び(e)BAX2プロモーターを使用した結果をそれぞれ示す。図の横軸の番号は表4に記載するキメラ1〜27に対応するものであり、縦軸は相対光量ユニット(RLU)を示す。
【図16】変異p53のドミナントネガティブ効果に対するキメラの抵抗性の結果を示す図である(実験例3)。図16のa〜iは、表4に示すキメラ1〜27をDNA結合領域及びオリゴメリゼーション領域の由来に基づいて、下記のように分類したものに対応する:図a,b,c:p53由来のDNA結合領域を有するキメラ;図d,e,f:p51A由来のDNA結合領域を有するキメラ;図g,h,i:p73γ由来のDNA結合領域を有するキメラ;図b,e,h:p51A由来のオリゴメリゼーション領域を有するキメラ;図c,f,i:p73γ由来のオリゴメリゼーション領域を有するキメラ;図a,d,g:p53由来のオリゴメリゼーション領域を有するキメラ。各図中、点線はp53由来の転写活性化領域を有するキメラ、実線はp51A由来の転写活性化領域を有するキメラ、及びダッシュ線はp73γ由来の転写活性化領域を有するキメラを意味する。横軸は、変異p53の量(ng)を、縦軸はpRc/CMVベクターの存在下で検出されるルシフェラーゼ活性に対する、変異プラスミドの存在下でのルシフェラーゼ活性の、相対(比較)ルシフェラーゼ活性を示す。
【図17】変異p53のドミナントネガティブ効果に対するキメラの抵抗性の結果を示す図である(実験例3)。図17の(j)及び(k)は、それぞれドミナントネガティブp53プラスミド及びpRc/CMVベクターの存在下で得られるルシフェラーゼ活性を比較光量ユニット(RLU)として示すものである。(l)は、上記(j)及び(k)から得られる値の比((j)/(k))を各キメラについて示すものである。
【図18】p53ファミリーキメラの転写活性能に対するMDM2及びp19ARFの影響を見た実験例4の結果を示す図である。図18の(a)及び(b)は、それぞれMDM2/Rc/CMV及びpRc/CMVベクターの存在下で得られるルシフェラーゼ活性を比較光量ユニット(RLU)として示したものである。(c)は、上記(a)及び(b)から得られる値の比((a)/(b))を各キメラについて示すものである。各図中、VはpRc/CMVベクターのトランスフェクションから得られるルシフェラーゼ活性(RLU)の結果を示す。

Claims (5)

  1. 以下の(a)転写活性化領域、(b)DNA結合領域及び(c)オリゴメリゼーション領域アミノ酸配列を含むことを特徴とする(1)〜(9)のいずれかに示すキメラタンパク:
    (1)下流方向に向けて、(a)配列番号5の1〜45番目のアミノ酸配列、(b)配列番号5の113〜290番目のアミノ酸配列、及び(c)配列番号1の353〜397番目のアミノ酸配列を含むタンパク;
    (2)下流方向に向けて、(a)配列番号5の1〜45番目のアミノ酸配列、(b)配列番号5の113〜290番目のアミノ酸配列、及び(c)配列番号8の345〜475番目のアミノ酸配列を含むタンパク;
    (3)下流方向に向けて、(a)配列番号5の1〜45番目のアミノ酸配列、(b)配列番号1の142〜321番目のアミノ酸配列、及び(c)配列番号1の353〜397番目のアミノ酸配列を含むタンパク;
    (4)下流方向に向けて、(a)配列番号5の1〜45番目のアミノ酸配列、(b)配列番号1の142〜321番目のアミノ酸配列、及び(c)配列番号8の345〜475番目のアミノ酸配列を含むタンパク;
    (5)下流方向に向けて、(a)配列番号5の1〜45番目のアミノ酸配列、(b)配列番号6の131〜310番目のアミノ酸配列、及び(c)配列番号1の353〜397番目のアミノ酸配列を含むタンパク;
    (6)下流方向に向けて、(a)配列番号5の1〜45番目のアミノ酸配列、(b)配列番号6の131〜310番目のアミノ酸配列、及び(c)配列番号8の345〜475番目のアミノ酸配列を含むタンパク
    (7)下流方向に向けて、(a)配列番号6の1〜54番目のアミノ酸配列、(b)配列番号5の113〜290番目のアミノ酸配列、及び(c)配列番号1の353〜397番目のアミノ酸配列を含むタンパク;
    (8)下流方向に向けて、(a)配列番号6の1〜54番目のアミノ酸配列、(b)配列番号5の113〜290番目のアミノ酸配列、及び(c)配列番号8の345〜475番目のアミノ酸配列を含むタンパク;及び
    (9)下流方向に向けて、(a)配列番号5の1〜45番目のアミノ酸配列、(b)配列番号5の113〜290番目のアミノ酸配列、及び(c)配列番号3の353〜641番目のアミノ酸配列を含むタンパク。
  2. 以下(1’)〜(9’)のいずれかに示すキメラDNA:
    (1’)下流方向に向けて、配列番号10の1〜291番目の塩基配列、配列番号10の292〜912番目の塩基配列、及び配列番号2の1150〜1488番目の塩基配列を含むキメラDNA;
    (2’)下流方向に向けて、配列番号10の1〜291番目の塩基配列、配列番号10の292〜912番目の塩基配列、及び配列番号13の979〜1425番目の塩基配列を含むキメラDNA;
    (3’)下流方向に向けて、配列番号10の1〜291番目の塩基配列、配列番号2の523〜1149番目の塩基配列、及び配列番号2の1150〜1488番目の塩基配列を含むキメラDNA;
    (4’)下流方向に向けて、配列番号10の1〜291番目の塩基配列、配列番号2の523〜1149番目の塩基配列、及び配列番号13の979〜1425番目の塩基配列を含むキメラDNA;
    (5’)下流方向に向けて、配列番号10の1〜291番目の塩基配列、配列番号11の346〜978番目の塩基配列、及び配列番号2の1150〜1488番目の塩基配列を含むキメラDNA;
    (6’)下流方向に向けて、配列番号10の1〜291番目の塩基配列、配列番号11の346〜978番目の塩基配列、及び配列番号13の979〜1425番目の塩基配列を含むキメラDNA;
    (7’)下流方向に向けて、配列番号11の1〜345番目の塩基配列、配列番号10の292〜912番目の塩基配列、及び遺伝子番号2の1150〜1488番目の塩基配列を含むキメラDNA及び
    (8’)下流方向に向けて、配列番号11の1〜345番目の塩基配列、配列番号10の292〜912番目の塩基配列、及び配列番号13の979〜1425番目の塩基配列を含むキメラDNA;及び
    (9’)下流方向に向けて、配列番号10の1〜291番目の塩基配列、配列番号10の292〜912番目の塩基配列、及び配列番号4の1150〜2067番目の塩基配列を含むキメラDNA。
  3. 請求項に記載のキメラDNAを含有するベクター。
  4. 請求項に記載のベクターで形質転換された宿主細胞。
  5. 請求項に記載の宿主細胞から産生される組換タンパク。
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