JP4330235B2 - 立形ポンプ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は樹脂材料を用いたすべり軸受装置を用いた立形ポンプに係り、特に、伝熱特性が良好で摺動熱を良好に除去することができる、許容すべり速度、許容面圧が高いすべり軸受装置を用いた立形ポンプに関する。また、すべり面に加工された溝により、大気運転、異物混入水中運転において、耐焼付き性能、耐摩耗性が良好なすべり軸受装置を用いた立形ポンプに関する。
【0002】
【従来の技術】
樹脂、或いは比較的短い炭素繊維又はガラス繊維等を封入した繊維強化樹脂製の軸受は、樹脂の有する良好な潤滑性能のため、事務機械、ターボポンプ等の回転機械等にドライ摺動可能なすべり軸受として広く使用されている。これらの樹脂或いは繊維強化樹脂製のすべり軸受は、ふっ素、ポリイミド、ポリアミド、ポリエチレン等をベースとなる樹脂として、これに特殊充填材を加え成形したものである。これらの軸受はベースとなる樹脂材料によりそれぞれ特徴があり、例えばふっ素樹脂を用いた軸受は、低摩擦・耐磨耗性、非粘着性、耐熱性、耐薬品性、耐候性に極めて優れているという特徴がある。またポリイミド系の樹脂軸受は、優れた耐熱性、強度特性を有するという特徴がある。
【0003】
高許容すべり速度、高許容面圧を指向した樹脂軸受としては、樹脂に炭素繊維、ガラス繊維、固体潤滑材などを混合して成形した繊維強化樹脂材が用いられている。これらの軸受の使用限界はポリイミドを基材とした軸受材料でも許容すべり速度3.3m/sec、限界pv値(許容すべり速度と許容面圧との積)3.3MPam/sec、と報告されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した軸受を構成する樹脂は潤滑材であるとともに断熱材として働く。このため軸受が接触する軸スリーブ(相手材料)との摺動熱が伝熱せず、樹脂温度が上昇する。樹脂の耐熱性が良好でない場合には、樹脂の溶解あるいは熱劣化が生じ、低い限界pv値となる。また一般に円筒状の軸受の外周が金属シェルで拘束されているので、軸スリーブ(相手材料)との摺動による発熱で軸受の内径が減少し、固着が生じるという問題がある。
【0005】
また水ポンプでは水に土砂等の混ざった異物混入水が軸受面に侵入してくることがある。土砂の主成分であるSiO2は樹脂材料と比較して硬度が大きいため、軸受材料を切削しながら摩耗する。従って、異物混入水中運転では樹脂製軸受の摩耗量は増大し軸受寿命が短くなるという問題がある。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、良好な伝熱特性による冷却効果が高く、許容すべり速度、許容面圧が高い樹脂材料からなり、異物が混入した水中での異物除去効果が高く、しかもドライ条件(空気中)での運転が可能なすべり軸受装置を用いた立形ポンプを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上述の目的を達成するため、本発明の立形ポンプは、回転軸と該回転軸を支持するすべり軸受装置とを備え、軸受すべり面がドライ条件で運転される先行待機運転が可能な立形ポンプであって、前記すべり軸受装置の軸受部分は軸芯に対してコイル状に巻回された炭素繊維を熱可塑性樹脂中に埋めた炭素繊維強化樹脂材料からなり、軸受すべり面には軸方向に貫通した複数の溝が設けられ、前記溝は、軸受すべり面のすべり面全体の面積に対して溝の占める全面積の割合(溝の面積率)が10〜25%になるように形成されていることを特徴とするものである。
【0008】
本発明によれば、熱伝導率の高い長尺の炭素繊維がコイル状に巻回され、かつ軸受すべり面にはすべり面の全体の面積に対して溝の占める全面積の割合が所定範囲、例えば10〜25%になるように軸方向に貫通した一本あるいは複数の溝が加工されたすべり軸受装置が用いられているので、軸スリーブ(相手材料)との摺動熱を速やかに除去することができる。また、炭素繊維は、樹脂材料と比較して線膨張係数が極めて低い。このため、円筒状の軸受の外周が金属セルで拘束されていても、摺動による発熱で内径が減少し、固着が生じるという問題が防止され、軸受の高許容すべり速度、高許容面圧が達成される。
【0009】
また水に土砂等が混ざった異物混入水が軸受面に侵入した場合に軸受の寿命を向上させるには、軸受面を切削する作用のある異物を軸受面からすみやかに除去しなければならない。そこで軸受すべり面にはすべり面の全体の面積に対して溝の占める全面積の割合が10〜25%になるように、軸方向に貫通した一本あるいは複数の溝が加工された場合、溝を加工していない軸受面と比較して、異物の除去作用が大きい。従って耐摩耗性能が向上する。
本発明の好ましい態様では、前記樹脂材料はPA,POM,PBT,PET,PPE,PC,UHMW−PE,PTFE,PPS,PI,PEEK,PAR,PSF,PEI,PAI,PESのうち少なくとも一種類を含む。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図1乃至図10を参照して説明する。
図1(a)は、すべり軸受装置を示す斜視図である。この軸受の外形は、通常の樹脂軸受と同様である。この例の場合は、内径が75mmФ、外径が90mmФ、長さ32mm程度のものである。この軸受1は、樹脂コーティングした炭素繊維を軸芯に対してコイル状に巻回して形成されたものであり、炭素繊維強化樹脂材料の一種である。
【0011】
図1(b)は、軸芯に平行な断面での軸受内部の部分拡大断面図である。図1(b)に示すように、太さ数μm程度の極細の炭素繊維を縒り合せたストランド状の炭素繊維2が、樹脂3中に埋込まれて成形されている。この樹脂3は、炭素繊維の回りにコーティングされた熱可塑性樹脂、例えばPEEK(ポリ・エーテル・エーテル・テトン)又はPI(ポリイミド)等が、加温と加圧により塑性変形して融合した後に、固化して形成されたものである。即ち、熱伝導率が大きく、線膨張係数が小さい、長尺の炭素繊維が耐熱性、潤滑性の高い熱可塑性樹脂中に埋められた構造となっている。樹脂材料はPA(ポリアミド),POM(ポリアセタール),PBT(ポリブチレンテレフタレート),PET(ポリエチレンテレフタレート),PPE(ポリフェニルン・エーテル),PC(ポリカーボネート),UHMW−PE(超高分子ポリエチレン),PTFE(ポリ四フッ化エチレン),PPS(ポリフェニレンサルファイド),PI(ポリイミド),PEEK(ポリ・エーテル・エーテル・テトン),PAR(ポリアリレート),PSF(ポリサルフォン),PEI(ポリエーテルイミド),PAI(ポリアミドイミド),PES(ポリエーテルスルホン)のうち少なくとも一種類を含むものである。
【0012】
この例の炭素繊維強化樹脂は、長尺の連続性のある繊維であるので、軸受の軸スリーブとの摩擦により摺動熱が生じた場合に、急速な熱伝導が生じ、熱を速やかに逃がすことができる。これは、従来技術における比較的短い炭素繊維又はガラス繊維を、熱可塑性樹脂に混入した場合と異なり、強化繊維が分散していることによる異材間の伝熱による熱伝達率の低下を生じることなく、速やかな軸受の冷却を行うことができる。また、炭素繊維の線膨張係数が小さいことから、発熱時の円周方向の伸びを抑えることができ、軸受の外側が金属シェルで拘束されていても、軸スリーブとの摺動による発熱で内径が減少し、スティックが生じるという問題が防止される。
【0013】
図2は、図1に示すすべり軸受の使用状態を示す図である。回転軸10には、その外周に軸受の相手材料であるステンレス鋼等の金属製のスリーブ11が嵌着されている。スリーブ11の外周面は、上述したすべり軸受1の内周面と摺動する。すべり軸受1は、その外周が金属の軸受ケース12によりつば部12aを介して回転機械のケーシング13に固定されている。
【0014】
乾燥摺動試験の結果では、上述したすべり軸受(種類D)は、オーステナイト系ステンレス綱を摺動の相手材料として、次の表1に示すような良好な摺動特性が得られている。
【0015】
【表1】
【0016】
即ち、軸受種類AはPI(ポリイミド樹脂)からなる軸受で、比較的低い軸受すべり速度(3.9m/s)で120秒後にトルク大で停止している。軸受種類BはPEEK(ポリ・エーテル・エーテル・テトン)からなる軸受で、比較的低い軸受すべり速度(3.9m/s)で起動直後にトルク大で停止している。軸受種類Cは比較的短いガラス繊維を混入した繊維強化樹脂軸受で、比較的低い軸受すべり速度(3.9m/s)で摺動面の溶融が生じている。
【0017】
軸受種類Dは、上記の軸受であり、従来の使用限界を超えて、すべり速度13m/sec.以上、軸受面圧0.30MPa、限界PV値3.9MPa/sを超える良好な特性が得られている。
【0018】
図3は、上述したすべり軸受の製造工程を示す図である。長尺の炭素繊維をPEEKでコーティングした極細線をより合わせたストランド状の細線2をボビン20に温度と圧力をローラ21で加えながら巻き付ける。ローラ21の加温と加圧により、炭素繊維をコーティングしている樹脂(PEEK)が熱可塑性を有するため、軟化して相隣接する細線2の樹脂と融和する。そして、ローラ21による加温加圧部分を過ぎると、冷却されるので、樹脂が固化する。そして、図1(B)の拡大断面図に示すような連続した長尺の炭素繊維2を樹脂3で包み込んだ繊維強化樹脂が成形される。そして、ボビン20を引き抜き、必要な寸法に切削加工することにより、すべり軸受1が製造される。
【0019】
図4は、大気運転、異物混入水中運転での摩擦摩耗特性に溝形状が与える効果を調べた試験に使用した軸受形状を示す図である。軸受材はPTFE(ポリ四フッ化エチレン)、軸スリーブ材はSUS316を用いて試験を行なった。図4において、図4(a)はすべり軸受1の断面図を示し、図4(b)乃至図4(f)は各軸受供試体の半分を示す側面図である。軸受供試体の内径は75mmФ、外径が95mmФ、長さ32mmである。そして、軸受供試体Iは溝なしであり、軸受供試体II,III,IV,Vは、軸受すべり面のすべり面全体の面積に対して溝の占める全面積の割合がそれぞれ50%、25%、10%、25%である。なお、各供試体の各溝は軸受の軸方向に平行に形成されている。軸受供試体IIIとVは、同一割合(25%)ではあるが、溝の個数と溝幅が異なっている。
【0020】
図5は大気運転試験の試験条件と試験結果を示すグラフである。試験は、図4で示す各軸受供試体について大気中で運転し、軸受に加わる面圧0.25MPa、周速6.0m/sの条件で行ない、トルクが2.0kgmを超えるまでの時間を測定した。図5から明らかなように、焼付くまでの時間はIIが最も短く、その次が溝を加工していないIで、III,IV,Vは最も長い。従って、溝の面積率を10〜25%とした場合、溝による良好な冷却効果が得られ、耐焼付き性能が向上することが判明した。
【0021】
図6は異物混入水中運転試験の試験条件と試験結果を示すグラフである。試験は、図4で示す各軸受供試体について異物濃度100ppm、周速度5.0m/s、軸受面圧0.12MPa、運転時間20hの条件で行ない、供試体の寸法変化量(mm)を測定した。軸スリーブは図4の場合と同一のSUS316である。図6において、黒の棒グラフは軸受の寸法変化量(mm)を表わし、斜線の棒グラフは軸スリーブの寸法変化量(mm)を表わしている。図6から明らかなように、軸受内径変化量、軸スリーブ外径変化量はIが最も大きい。溝を加工したII,III,IV,Vの寸法変化量はIと比較して著しく減少している。従って、溝の面積率を10〜50%とした場合、溝による異物の除去効果により耐摩耗性能が向上する。
【0022】
表2は溝付きと溝なしのすべり軸受装置の大気運転試験結果である。
【表2】
表2において溝付きのすべり軸受装置は、溝の面積率が20%のものを使用した。軸受材として炭素繊維強化PEEK材料を使用し、軸スリーブ材としてWC−Ni−Cr合金を使用した。溝付きのすべり軸受装置および溝なしのすべり軸受装置はともに2時間の連続運転が可能であり、表2に示すようにすべり面に溝加工を施したすべり軸受装置は溝なしのすべり軸受装置よりも温度上昇幅が小さく、より優れた冷却効果が得られた。
【0023】
表3は溝付きと溝なしのすべり軸受装置の異物混入水中運転試験結果である。
【表3】
表3において溝付きのすべり軸受装置は、溝の面積率が20%のものを使用した。軸受材として炭素繊維強化PEEK材料を使用し、軸スリーブ材としてWC−Ni−Cr合金を使用した。表3に示すように、すべり面に溝加工を施したすべり軸受装置は、溝なしのすべり軸受装置よりも優れた耐摩耗性能を示した。
【0024】
次に、表2および表3に示す試験で使用した複数溝付軸受の形状を図7に示す。図7において、図7(a)はすべり軸受1の正面図、図7(b)は図7(a)のVII−VII線断面図である。供試体は、内径が75mmФ、外径が95mmФ、長さ32mmのものである。溝1aは半円形状の断面を有している。
【0025】
図8および図9は、すべり軸受装置の他の例を示す断面図である。図8に示す例においては、すべり軸受1aに形成された1本の溝1aが軸受の軸方向にスパイラル状に形成されている。また図9に示す例においては、すべり軸受1に形成された複数の溝1aが軸受の軸方向に対して傾斜して形成されている。またすべり面全体の面積に対して溝の占める全面積の割合は10〜25%に設定されている。
【0026】
図10は、本発明の実施形態の立形斜流ポンプを示す断面図である。図10に示す立形斜流ポンプにおいては、駆動用モータ(図示せず)は保守点検が容易なように陸上に設けられ、駆動用モータの回転は軸継手を介して軸25,25’に伝達され、軸25’の先端部に固定されたインペラ22を回転することとなる。なお符号26は軸25と軸25’とを接続する中間軸継手である。インペラ22の回転によって水は吸込みベル27から吸い込まれ吐出ボウル28、吊下げ管29を通過して吐出エルボ30から吐出される。軸25,25’は上部軸受32および下部軸受33によって支持されている。また軸25’が吐出エルボ30を貫通する部分にはフローティングシール34が設けられている。図10に示す構造の軸受32,33においては、ポンプ起動時には大気中で運転される。すなわち、軸受はドライ条件で運転される。また起動後の定常運転時においては、軸受32,33は異物が混入した水中において運転される。このような、過酷な条件で使用される軸受32,33に、図4(ただし図4(b)及び図4(c)を除く)乃至図7で示した溝付のすべり軸受装置が使用される。軸受材料は、例えば、PEEKが使用される。
【0027】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明によれば、立形ポンプに用いられているすべり軸受装置は、軸受部がドライ条件であっても少なくとも2時間の運転が可能であるので、立形ポンプは、都市型洪水に要求される先行待機運転が可能となる。従って、従来のように軸受部へ清水を供給するための装置が不要となり、ポンプ構造の簡素化、製造コスト削減、管理費の削減が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1(a)はすべり軸受装置の斜視図であり、図1(b)は軸芯に平行な断面での軸受内部の部分拡大断面図である。
【図2】 図1に示すすべり軸受の使用状態を示す図である。
【図3】 図1に示すすべり軸受の製造工程を示す図である。
【図4】 大気運転、異物混入水中運転での摩擦摩耗特性に溝形状が与える効果を調べた試験に使用した軸受形状を示す図である。
【図5】 大気運転試験の試験条件と試験結果を示すグラフである。
【図6】 異物混入水中運転試験の試験条件と試験結果を示すグラフである。
【図7】 大気運転試験、異物混入水中運転試験で使用した複数溝付軸受の形状を示す図である。
【図8】 すべり軸受装置の他の例を示す断面図である。
【図9】 すべり軸受装置の更に他の例を示す断面図である。
【図10】 本発明の実施形態の立形斜流ポンプを示す断面図である。
【符号の説明】
1 すべり軸受
2 炭素繊維
3 樹脂
10 回転軸
11 スリーブ
12 軸受ケース
12a つば部
13 ケーシング
20 ボビン
21 ローラ
22 インペラ
25、25’ 軸
26 中間軸継手
27 吸込みベル
28 吐出ボウル
29 吊下げ管
30 吐出エルボ
32 上部軸受
33 下部軸受
Claims (2)
- 回転軸と該回転軸を支持するすべり軸受装置とを備え、軸受すべり面がドライ条件で運転される先行待機運転が可能な立形ポンプであって、
前記すべり軸受装置の軸受部分は軸芯に対してコイル状に巻回された炭素繊維を熱可塑性樹脂中に埋めた炭素繊維強化樹脂材料からなり、軸受すべり面には軸方向に貫通した複数の溝が設けられ、
前記溝は、軸受すべり面のすべり面全体の面積に対して溝の占める全面積の割合(溝の面積率)が10〜25%になるように形成されていることを特徴とする立形ポンプ。 - 前記樹脂材料はPA,POM,PBT,PET,PPE,PC,UHMW−PE,PTFE,PPS,PI,PEEK,PAR,PSF,PEI,PAI,PESのうち少なくとも一種類を含むものであることを特徴とする請求項1記載の立形ポンプ。
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