JP4329418B2 - 焼入れ方法および焼入れ用冷却装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、焼入れ方法および焼入れ用冷却装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
アルミニウム合金材からなるパネル品や鋳造品の機械的特性を改善つまり調質するために、種々の熱処理を施すことが広く知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
熱処理のなかで溶体化処理を伴う過飽和固溶体組織とする場合には、溶体化処理温度から急冷することが必要であり、冷却速度が速いほど、機械的特性に対して好影響を及ぼすことが知られている。
【0004】
急冷する方法としては、ワークを10〜90℃の水温中に浸漬させて冷却する方法が一般的である。体積が小さいワークや、薄肉のワークの場合には、空気を吹き付けて冷却する方法も採用されている。
【0005】
【特許文献1】
特開平10−280111号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
自動車の構造を構成する部品にアルミニウム合金材を適用する場合、その形態は大型で、薄い肉厚が必要とされ、さらには、機械的特性についても高い特性が求められている。
【0007】
このような大型で薄肉なアルミニウム合金製ワーク、例えば、アルミニウム鋳造品を焼入れする場合に、冷却速度を高めるために当該鋳造品を水に浸漬させると、鋳造品の表面近傍の水が瞬時に沸騰し、蒸気の泡を形成する。この蒸気の泡は、水中において、不均一な断熱状態を形成する。この結果、鋳造品の冷却が部位ごとに不均一な状態となり、製品に大きな歪みが生じ易いという問題がある。
【0008】
空気を吹き付けて冷却する場合には、上記のような断熱状態が形成されないので、冷却の不均一を改善することはできる。しかしながら、冷却速度が遅くなるため、良好な機械的特性を得ることが困難になる。
【0009】
本発明は、上記従来技術に伴う課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ワークに歪みが生じることを抑制しつつ、当該ワークを急速に冷却して良好な機械的特性を得ることが可能な焼入れ方法および焼入れ用冷却装置を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための本発明は、下記の手段により達成される。
【0011】
アルミニウム合金材からなるワークを焼入れする方法において、
冷却媒体としての水ミストを帯電させて前記ワークに噴霧して、前記ワークの冷却を行うことを特徴とする焼入れ方法である。
【0012】
また、アルミニウム合金材からなるワークを焼入れするために用いられる冷却装置において、
冷却媒体としての水ミストを帯電させる帯電手段と、
帯電した水ミストを前記ワークに向けて噴霧するミスト発生手段と、を有することを特徴とする焼入れ用冷却装置である。
【0013】
【発明の効果】
本発明によれば、ワークに歪みが生じることを抑制しつつ、当該ワークを急速に冷却して良好な機械的特性を得ることが可能となる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。
【0015】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る焼入れ用冷却装置10の全体構成を示す概略図、図2は、図1に示される焼入れ用冷却装置10の要部を示す斜視図である。
【0016】
図1に示される焼入れ用冷却装置10は、アルミニウム合金材からなるワークWを焼入れするために用いられ、概説すれば、冷却ブース20と、冷却ブース20に対してワークWを搬入搬出する移送手段30と、冷却媒体としての水ミスト41をワークWに向けて噴霧するミスト発生手段40と、水ミスト41に運動エネルギーを付加する空気51の流れを発生する空気流発生手段50と、を有している。本明細書では、水ミスト41に運動エネルギーを付加する空気51を、ドライブエアーとも称する。
【0017】
図2にも示すように、前記ワークWは、アルミニウム合金材からなる例えば鋳造品であり、断面ハット形状をなす長尺体に形成されている。
【0018】
冷却ブース20内の床面には、ガイドローラ21が回動自在に取り付けられたコンベヤ22が敷設されている。図2において、左奥側に溶体化炉(図示せず)が配置され、溶体化炉から搬出された移送手段30は、右手前に配置された冷却ブース20に運ばれてくる。冷却ブース20内には、ミスト発生手段40および空気流発生手段50が取り付けられる一対の保持プレート23が配置されている。一対の保持プレート23は、コンベヤ22を挟んで対向して配置されている。
【0019】
前記移送手段30は、ワークWを吊り下げるフレーム形状のハンガー31から構成されている。ハンガー31は、その基部がガイドローラ21上に載置され、矢印で示される方向に沿ってスライド移動自在となっている。
【0020】
前記ミスト発生手段40は、例えば、スプレーノズル42から構成されている。スプレーノズル42は、保持プレート23のそれぞれに複数個取り付けられ、ワークWの両側面に向けて水ミスト41を噴霧する。スプレーノズル42は、水ミストの形成方式から、加圧空気と水とを混合させて水ミストを形成する方式と、加圧空気を用いずに水を霧状に拡散させる方式とに大別できる。いずれの方式のスプレーノズル42でもよいが、本実施の形態では、前者の加圧空気と水とを混合させて水ミストを形成する方式のスプレーノズル42を用いている。このため、焼入れ用冷却装置10には、各スプレーノズル42に加圧空気を供給する系統(図示せず)と、水を供給する系統(図示せず)とが設けられている。なお、水ミスト41の噴霧圧力および噴霧流量は、ワークWの大きさ、体積、冷却すべき温度などに応じて適宜変更されるものであり、特に限定されるものではない。また、スプレーノズル42から噴霧される水ミスト41の噴霧パターンは、円錘形や扇形など種々あるが、特に限定されるものではない。
【0021】
前記空気流発生手段50は、例えば、エアーノズル52から構成されている。エアーノズル52は、保持プレート23のそれぞれに複数個取り付けられ、ワークWの両側面に向けて空気を噴出する。エアーノズル52は、一般的なガス用ノズルが用いられる。各エアーノズル52は、スプレーノズル42の間に位置するように配置するのが好ましい。焼入れ用冷却装置10には、各エアーノズル52に加圧空気を供給する系統53と、コンプレッサやブロワーなどの供給源54とが設けられている(図1を参照)。エアーノズル52からドライブエアー51を噴出してワークWに当てると、そのドライブエアー51の流れは、スプレーノズル42から噴霧された水ミスト41にワークWに向かう運動エネルギーを付加することになる。
【0022】
水ミスト41は、その質量が比較的小さく、そのままでは、ワークWへの付着率あるいは到達率が比較的少なくなることが懸念される。第1の実施の形態では、ドライブエアー51により微小水滴に運動エネルギーを付加してあるので、水ミスト41は、ワークWまで確実に吹き付けられ、ワークWへの付着率が高まる。さらに、水ミスト41は、ドライブエアー51の作用により、ワークWに衝突する際の流速(衝突流速)が高められる。
【0023】
ワークWの冷却の均一化を図る観点から、スプレーノズル42からワークWに向けて噴霧する水ミスト41を、ワークWに対して相対的に移動させながら、ワークWの冷却を行うのが好ましい。このため、第1の実施の形態にあっては、コンベヤ22上にスライド移動自在に載置されたハンガー31を移動するための移動手段60を有している。移動手段60は、ハンガー31に接続される偏心カムと、当該偏心カムを回転駆動するモータ(いずれも図示せず)などから構成されている。モータを駆動すると、偏心カムの偏心量に応じた距離だけハンガー31が往復動し、ハンガー31に吊り下げられたワークWが往復動する。これにより、ワークWを水ミスト41に対して移動させてある。
【0024】
次に、作用を説明する。
【0025】
図2に示すように、ワークWは、ハンガー31に吊されている。溶体化炉から搬出されたハンガー31は、搬出後速やかに、冷却ブース20に運ばれてくる。
【0026】
ハンガー31が冷却ブース20に入ると、各スプレーノズル42から、ワークWの両側面に向けて水ミスト41を噴霧する。さらに、各エアーノズル52から、ワークWの両側面に向けてドライブエアー51を噴出する。水ミスト41は、ドライブエアー51により、ワークWに向かう運動エネルギーが付加される。これにより、水ミスト41は、ワークWに確実に付着し、さらに、衝突流速も高められる。また、移動手段60が作動され、ワークWは往復動している。
【0027】
そして、ワークWは、多量の水ミスト41が高速で吹き付けられることによって、急速に冷却される。さらに、ワークWの冷却は、水ミスト41をワークWに対して相対的に移動させながら行われる。
【0028】
ここで、冷却媒体は水ミスト41であるので、ワークWに吹き付けられるとすぐに蒸発するため、水に浸漬させた場合のような蒸気の泡がワークW表面に存在ないし滞留することがない。このため、蒸気の泡による不均一な断熱状態が形成されない。したがって、ワークWのすべての部位が均一に冷却され、ワークWの変形がほとんど生じなくなる。
【0029】
さらに、冷却媒体は水ミスト41であるので、水滴粒径が非常に小さく、水滴の表面積/体積で表される比が大きくなる。このため、蒸発に伴う気化熱量が増え、ワークWの冷却効率が上がる。このときの冷却速度は、空冷の場合に比べて速く、その結果、空冷の場合に比べてワークWの機械的特性が向上する。
【0030】
水ミスト41の粒径を小さくすると、冷却効率は上がるが、その質量が比較的小さく、ワークWへの付着率あるいは到達率が比較的少なくなることが懸念される。しかしながら、第1の実施の形態にあっては、ドライブエアー51により微小水滴に運動エネルギーが付加されているため、水ミスト41のワークWへの付着率が高められている。したがって、ワークWは、効率よく冷却される。
【0031】
しかも、ドライブエアー51の流れによって、冷却時に発生した蒸気がワークW近傍から随時除去される形態となる。常に新しい水ミスト41がワークWに付着することから、ワークWの冷却の均一性がより向上し、冷却効率も増大する。
【0032】
ワークWが大型の場合には、第1の実施の形態のように、スプレーノズル42を複数個設けて、水ミスト41をワークWの全面に噴霧する必要がある。このように複数個のスプレーノズル42から水ミスト41を噴霧した場合、噴霧された水ミスト41同士の一部が重なり合って、単位面積当たりに噴霧される水ミスト41の流量分布が均一にならない虞がある。しかしながら、第1の実施の形態にあっては、ワークWを移動しながら当該ワークWの冷却を行っているので、複数個のスプレーノズル42から水ミスト41を噴霧しても、単位面積当たりに噴霧される水ミスト41の流量分布の均一化を図ることができる。したがって、ワークWは、均一に冷却される。
【0033】
以上説明したように、第1の実施の形態に係る焼入れ方法によれば、アルミニウム合金材からなるワークWを焼入れする方法において、冷却媒体としての水ミスト41をワークWに向けて噴霧するとともに、水ミスト41に運動エネルギーを付加するドライブエアー51の流れをワークWに当てて、ワークWの冷却を行っているので、蒸気の泡による不均一な断熱状態が形成されなくなり、ワークWのすべての部位を均一に冷却することができ、さらに、ドライブエアー51により水ミスト41のワークWへの付着率を高めて、ワークWを効率よく冷却することができる。よって、ワークWに歪みが生じることを抑制しつつ、当該ワークWを急速に冷却して良好な機械的特性を得ることが可能となる。
【0034】
また、ワークWに向けて噴霧する水ミスト41を、ワークWに対して相対的に移動させながら、ワークWの冷却を行っているので、ワークWをより均一に冷却することができる。
【0035】
また、第1の実施の形態に係る焼入れ用冷却装置10によれば、アルミニウム合金材からなるワークWを焼入れするために用いられる冷却装置において、冷却媒体としての水ミスト41をワークWに向けて噴霧するスプレーノズル42と、水ミスト41に運動エネルギーを付加するドライブエアー51の流れを発生するエアーノズル52と、を有するので、蒸気の泡による不均一な断熱状態が形成されなくなり、ワークWのすべての部位を均一に冷却することができ、さらに、ドライブエアー51により水ミスト41のワークWへの付着率を高めて、ワークWを効率よく冷却することができる。よって、ワークWに歪みが生じることを抑制しつつ、当該ワークWを急速に冷却して良好な機械的特性を得ることが可能となる。
【0036】
(第2の実施の形態)
図3は、本発明の第2の実施の形態に係る焼入れ用冷却装置10aの全体構成を示す概略図である。なお、図1および図2に示される部材と共通する部材には同一の符号を付し、その説明は一部省略する。
【0037】
第2の実施の形態は、空気流発生手段50に代えて、水ミスト41を帯電させる帯電手段70を備えた点で、第1の実施の形態と相違している。
【0038】
図3に示される焼入れ用冷却装置10aは、アルミニウム合金材からなるワークWを焼入れするために用いられ、概説すれば、冷却ブース20と、移送手段30と、冷却媒体としての水ミスト41を帯電させる帯電手段70と、帯電した水ミスト41をワークWに向けて噴霧するミスト発生手段40と、移動手段60と、を有している。
【0039】
前記帯電手段70は、高電圧(静電気)を発生する高電圧発生装置71と、発生した高電圧を水ミスト41に付加する電気ケーブル72などから構成されている。コンベヤ22がアースされ、当該コンベヤ22上のハンガー31に吊り下げられたワークWがアースされている。
【0040】
前記ミスト発生手段40は、第1の実施の形態と同様にスプレーノズル42から構成され、さらに、電気ケーブル72に接続されるとともに水ミスト41を帯電させるための機構が接続されている。
【0041】
水ミスト41は、その質量が比較的小さく、そのままでは、ワークWへの付着率あるいは到達率が比較的少なくなることが懸念される。第2の実施の形態では、帯電手段70により水ミスト41を帯電させ、ワークWをアースしているので、水ミスト41は、静電作用により、ワークWまで確実に吹き付けられ、ワークWへの付着率が高まる。さらに、水ミスト41は、静電作用により、ワークWに衝突する際の流速(衝突流速)が高められる。
【0042】
第2の実施の形態では、ハンガー31が冷却ブース20に入ると、高電圧発生装置71を作動して水ミスト41を帯電させ、各スプレーノズル42から、ワークWの両側面に向けて帯電した水ミスト41を噴霧する。水ミスト41は、静電作用により、ワークWに確実に付着し、さらに、衝突流速も高められる。また、移動手段60が作動され、ワークWは往復動している。
【0043】
ワークWは、多量の水ミスト41が高速で吹き付けられることによって、急速に冷却される。さらに、ワークWの冷却は、水ミスト41をワークWに対して相対的に移動させながら行われる。
【0044】
ここで、冷却媒体は水ミスト41であるので、第1の実施の形態と同様に、蒸気の泡による不均一な断熱状態が形成されず、ワークWのすべての部位が均一に冷却され、ワークWの変形がほとんど生じなくなる。さらに、空冷の場合に比べて、冷却速度が速く、ワークWの機械的特性が向上する。
【0045】
水ミスト41の粒径を小さくすると、冷却効率は上がるが、その質量が比較的小さく、ワークWへの付着率あるいは到達率が比較的少なくなることが懸念される。しかしながら、第2の実施の形態にあっては、水ミスト41が帯電されているため、静電作用により、水ミスト41のワークWへの付着率が高められている。したがって、ワークWは、効率よく冷却される。
【0046】
また、第1の実施の形態と同様に、ワークWを移動しながら当該ワークWの冷却を行っているので、ワークWは、均一に冷却される。
【0047】
以上説明したように、第2の実施の形態に係る焼入れ方法によれば、アルミニウム合金材からなるワークWを焼入れする方法において、冷却媒体としての水ミスト41を帯電させてワークWに噴霧して、ワークWの冷却を行っているので、蒸気の泡による不均一な断熱状態が形成されなくなり、ワークWのすべての部位を均一に冷却することができ、さらに、静電作用により水ミスト41のワークWへの付着率を高めて、ワークWを効率よく冷却することができる。よって、ワークWに歪みが生じることを抑制しつつ、当該ワークWを急速に冷却して良好な機械的特性を得ることが可能となる。
【0048】
また、ワークWに向けて噴霧する水ミスト41を、ワークWに対して相対的に移動させながら、ワークWの冷却を行っているので、ワークWをより均一に冷却することができる。
【0049】
また、第2の実施の形態に係る焼入れ用冷却装置10aによれば、アルミニウム合金材からなるワークWを焼入れするために用いられる冷却装置において、冷却媒体としての水ミスト41を帯電させる帯電手段70と、帯電した水ミスト41をワークWに向けて噴霧するスプレーノズル42と、を有するので、蒸気の泡による不均一な断熱状態が形成されなくなり、ワークWのすべての部位を均一に冷却することができ、さらに、静電作用により水ミスト41のワークWへの付着率を高めて、ワークWを効率よく冷却することができる。よって、ワークWに歪みが生じることを抑制しつつ、当該ワークWを急速に冷却して良好な機械的特性を得ることが可能となる。
【0050】
(発明の効果の確認について)
図4は、水ミストの平均粒径と冷却速度との関係、および、水ミストの平均粒径とワークの変形量との関係を概念的に示す図である。
【0051】
本発明による焼入れ方法の効果を確認するために、アルミニウム合金材からなる試験片の冷却実験を、水ミストの平均粒径を変化させながら行った。実験は、水ミストの噴霧のみで冷却する場合、水ミストの噴霧にドライブエアーを付加して冷却する場合(第1の実施の形態に相当)、および、水ミストの噴霧に当該水ミストの帯電を付加して冷却する場合(第2の実施の形態に相当)、の各条件について行った。各条件とも、水の噴霧流量は一定にしたままで、水ミストの平均粒径を変化させた。実験においては、噴出口径が異なるスプレーノズルを多数用いて、水ミストの平均粒径を変化させた。そして、各条件において冷却速度および変形量を測定した。
【0052】
実験結果の概要を図4に示す。なお、変形量については、各条件とも大差がなかったので、3つの条件下での平均を示してある。
【0053】
図示するように、水ミストの平均粒径が細かくなるほど、冷却速度は大きくなり、変形量は小さくなった。また、水ミストの噴霧のみで冷却する場合に比べて、水ミストの噴霧に当該水ミストの帯電を付加して冷却する場合の方が冷却速度は大きかった。水ミストの噴霧にドライブエアーを付加して冷却すると、冷却速度がさらに大きくなった。
【0054】
しかしながら、水ミストの平均粒径が50μm未満では冷却速度が小さくなる傾向にあり、十分な焼入れ効果を得ることができなかった。
【0055】
また、水ミストの平均粒径が500μmより大きくなると、試験片に大きな変形が発生した。これは、平均粒径が500μmより大きくなると、冷却媒体がいわゆるシャワー状となって吹き付けられてしまい、沸騰による空気層が試験片の表面に存在ないし滞留し易くなり、沸騰空気層が断熱層となり、冷却に「むら」が生じたものと考えられる。
【0056】
したがって、水ミストの平均粒径が50μm〜500μmの範囲において、十分な焼入れ効果を得ることができる大きな冷却速度を得ることができ、かつ、試験片の変形量を可及的に小さくできることがわかった。
【0057】
以上より、ワークWに歪みが生じることを抑制しつつ、当該ワークWを急速に冷却できるという、本発明による効果を確認した。なお、「ミスト」と「シャワー」との境界をなす粒径について、一義的に定まる値はない。但し、本明細書においては、上記の結果より、「水ミスト」とは、水滴の平均粒径が50μm〜500μmの範囲にあるものと定義される。
【0058】
(変形例)
水ミスト41とワークWとは相対的に移動していればよく、実施の形態のようにワークW側を移動させる形態に限られない。例えば、ワークW側を固定しておき、個々のスプレーノズル42自体を首振り運動する形態や、複数のスプレーノズル42を取り付けた保持プレート23をスライド移動する形態でもよい。第1の実施の形態では、ドライブエアー51の噴出方向を変化させることにより、水ミスト41とワークWとを相対的に移動することもできる。また、ミスト発生手段40とワークWとの間の距離が変化しないように、水ミスト41とワークWとを相対的に移動させる形態のほか、ミスト発生手段40とワークWとの間の距離が変化する方向、つまり、スプレーノズル42とワークWとを相対的に接近離反移動させる方向に、水ミスト41とワークWとを相対的に移動させる形態でもよい。
【0059】
また、ワークWの大きさを考慮して複数個のスプレーノズル42を配置した実施の形態について説明したが、ワークWが比較的小さい場合には、1個のスプレーノズル42を配置するだけでよいことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1の実施の形態に係る焼入れ用冷却装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】 図1に示される焼入れ用冷却装置の要部を示す斜視図である。
【図3】 本発明の第2の実施の形態に係る焼入れ用冷却装置の全体構成を示す概略図である。
【図4】 水ミストの平均粒径と冷却速度との関係、および、水ミストの平均粒径とワークの変形量との関係を概念的に示す図である。
【符号の説明】
10、10a…冷却装置
20…冷却ブース
30…移送手段
31…ハンガー
40…ミスト発生手段
41…水ミスト
42…スプレーノズル
50…空気流発生手段
51…ドライブエアー(水ミストに運動エネルギーを付加する空気)
52…エアーノズル
60…移動手段
70…帯電手段
71…高電圧発生装置
W…アルミニウム合金材からなるワーク

Claims (3)

  1. アルミニウム合金材からなるワークを焼入れする方法において、
    冷却媒体としての水ミストを帯電させて前記ワークに噴霧して、前記ワークの冷却を行うことを特徴とする焼入れ方法。
  2. 前記ワークに向けて噴霧する水ミストを、前記ワークに対して相対的に移動させながら、前記ワークの冷却を行うことを特徴とする請求項1に記載の焼入れ方法。
  3. アルミニウム合金材からなるワークを焼入れするために用いられる冷却装置において、
    冷却媒体としての水ミストを帯電させる帯電手段と、
    帯電した水ミストを前記ワークに向けて噴霧するミスト発生手段と、を有することを特徴とする焼入れ用冷却装置。
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