JP4328519B2 - 結晶性薄膜の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フラットパネルディスプレイやイメージセンサ、磁気記録装置、情報処理装置など高い空間的均質性を要する大規模集積回路に用いられる結晶性薄膜及びその製造方法、該結晶性薄膜を用いた素子、該素子を用いた回路、該素子もしくは該回路を含む装置に関する。
【0002】
【背景技術】
液晶ディスプレイ等に代表されるフラットパネルディスプレイは、画素駆動用の回路のパネルへのモノリシックな実装とその高性能化によって、画像表示の高精細化、高速化、及び多階調化を図ってきた。単純マトリクス駆動のパネルは画素毎にスイッチングトランジスタを備えたアクティヴマトリクス駆動に発展し、さらにそのアクティヴマトリクス駆動に用いるシフトレジスタ回路を同一パネル上周辺に作製することによって、今日、動画像にも対応するフルカラーの高精細液晶ディスプレイが提供されている。
【0003】
このような周辺駆動回路まで含めたモノリシック実装が実用的な製造コストで可能となったのは、電気的特性に優れた多結晶シリコン薄膜の安価なガラス基体上への形成技術に負うところが大きい。即ち、ガラス基体上に堆積した非晶質シリコン薄膜をエキシマレーザーなどの紫外域の短時間パルス光によって、ガラス基体を低温に保ったままを溶融再固化させて多結晶シリコン薄膜を得る技術である。同じ非晶質シリコン薄膜を出発材料としてこれを固相で結晶化させた多結晶薄膜を構成する結晶粒に比べて、溶融再固化法によって得られる結晶粒は内部の結晶欠陥密度が低く、該薄膜を活性領域として用いて構成した薄膜トランジスタは高いキャリア移動度を示す。そのためサブミクロン程度の平均粒径を持つ多結晶シリコン薄膜でも、対角数インチ程のサイズで高々100ppi以下の精細度の液晶ディスプレイには十分な性能を示すアクティヴマトリクス駆動用モノリシック回路を製造することができる。
【0004】
【非特許文献1】
H.Kumomi and T.Yonehara,Jpn.J.Appl.Phys.36,1383(1997)
【非特許文献2】
H.Kumomi and F.G.Shi,”Handbook of Thin Films Materials ”Volume 1,Chapter 6,”Nucleation,Growth,and Crystallization of Thin Films”edited by H.S.Nalwa(Academic Press,New York,2001)
【非特許文献3】
P.Ch.van der Wilt,B.D.van Dijk,G.J.Bertens,R.Ishihara,and C.I.M.Beenakker, Appl.Phys.Lett.,Vol.79,No.12,1819 (2001)
【非特許文献4】
R.Ishihara, P.Ch.van der Wilt,B.D.van Dijk,A.Burtsev,J.W.Metselaar,and C.I.M.Beenakker, Digest of Technical Papers, AM−LCD 02, 53(The Japan Society of Applied Physics,2002)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、次世代に望まれるより大画面或いは高精細な液晶ディスプレイに対して、現行の溶融再固化多結晶シリコン薄膜を用いる薄膜トランジスタは性能が不足していることが明らかとなっている。また、液晶ディスプレイよりも高電圧或いは大電流での駆動を要するプラズマディスプレイやエレクトロルミネッセンスディスプレイの駆動回路用素子、或いは医療用大画面X線イメージセンサの高速駆動回路用の素子など、今後発展が期待されている用途においても上記多結晶シリコン薄膜は性能不足である。いかに結晶粒内の欠陥密度が低いとは言え、多結晶シリコン薄膜の平均粒径が高々サブミクロン程度ではこれらの高性能素子は得られない。なぜなら、ミクロン程度のサイズを有する素子の活性領域内に、電荷移動の大きな障害となる結晶粒界が多く含まれるからである。
【0006】
このような多結晶薄膜における結晶粒界の密度とその空間分散を同時に小さくするための一般論が存在する。それは結晶粒の形成位置を制御することにより、結晶粒界の位置と粒径分布を制御するというアイデアであり、これまでに多結晶薄膜の化学気相堆積や薄膜の固相結晶化などにおいて実証されてきた〔例えば非特許文献1、2を参照のこと〕。
【0007】
溶融再固化による結晶性薄膜形成においても、同じアイデアを実現しようとする試みがこれまでいくつか報告されている。それらのうちでこれまでに最も成功しているものは、Wiltら〔非特許文献3、4〕によって初めて報告された方法である。彼らは先ず、シリコン単結晶基板上のシリコン酸化膜層の表面から深さ1μmに及ぶ直径0.1μm以下の細孔を設け、これを埋めるように膜厚90−272nmの非晶質シリコン薄膜を形成し、この表面から細孔の内部を除く薄膜が完全溶融するようにエキシマレーザーを照射した。これにより、細孔の位置を中心として結晶粒の位置が制御されたと報告されている。しかしながら、細孔における単一結晶粒の選択収率が不十分であるために結晶粒界の位置制御という所期の目的を十分には達成していない。また、深さ1μmに及ぶ直径0.1μm以下の細孔を大面積に亙って均一に形成すること、及びそこに非晶質シリコンを埋めることは極めて困難であり、生産工程としての現実性に乏しい。
【0008】
本発明の課題は、上記したように、ガラス基体等へも適用可能な汎用性の高い溶融再固化による結晶性薄膜の製造方法において結晶粒位置を高度に制御する新たな方法を実現し、該製造方法によって結晶粒位置を高度に制御した結晶性薄膜を提供し、さらには該薄膜を用いて高性能な素子、回路、並びに装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の第一は、非晶質薄膜に、特定位置とその周囲の領域に対して前記非晶質薄膜を溶融させない互いに異なる条件で電磁波を照射することにより、前記特定位置を、前記周囲の領域より完全溶融の臨界エネルギーが大きな状態の非晶質領域にする工程と、前記特定位置と前記周囲の領域の両方を溶融して、前記特定位置を不完全溶融もしくは近完全溶融し、前記周囲の領域を完全溶融させる工程と、前記特定位置において単一の結晶粒もしくは結晶性クラスターを前記周囲の領域に対して優先的に成長させる工程と、を有する非晶質薄膜を溶融溶融再固化させる結晶性薄膜の製造方法である。ここで電磁波とは光子のことである。
【0011】
また、上記本発明の結晶性薄膜の製造方法においては、上記特定領域とその周囲の領域に対する電磁波の照射条件として、上記電磁波の照射エネルギー密度、照射時間、パワー密度の時間的プロファイル、分光強度、可干渉性、偏光度の何れかにおいて異なっていることを好ましい態様として含む。ここで照射エネルギー密度とは、薄膜表面の単位面積あたりに照射される電磁波のエネルギーの総量である。パワー密度の時間的プロファイルとは薄膜表面の単位面積あたりに照射される電磁波の単位時間あたりのエネルギーの時間変化であり、その全照射時間に亙る積分値は照射エネルギー密度に等しい。分光強度とは薄膜表面の単位面積あたりに照射される電磁波のエネルギーの波長分布であり、その全波長帯域に亙る積分値は照射エネルギー密度に等しい。
【0012】
上記特定領域の電磁波の照射エネルギー密度が、周囲の領域の照射エネルギー密度より大きいこと、または上記特定領域にのみ電磁波を照射することも好ましい態様である。
【0013】
また、上記電磁波の照射が薄膜の昇温下で行われることも好ましい態様である。
【0015】
上記特定領域に所望の数の結晶粒もしくは結晶性クラスターが成長する態様においては、該結晶粒もしくは該結晶性クラスターが、上記薄膜の溶融時に該特定領域において融け残った結晶粒もしくは結晶性クラスターであることをより好ましい態様として含む。
【0016】
上記特定領域に成長する所望の数の結晶粒もしくは結晶性クラスターが、上記薄膜の溶融時に該特定領域において融け残った結晶粒もしくは結晶性クラスターである態様においては、上記溶融再固化工程における投入エネルギーが、特定領域の完全溶融の臨界エネルギーより小さく、その周囲の領域の完全溶融の臨界エネルギーより大きいことも好ましい態様である。
【0017】
また、上記特定領域に成長する所望の数の結晶粒もしくは結晶性クラスターが、上記薄膜の溶融時に該特定領域において融け残った結晶粒もしくは結晶性クラスターである態様においては、上記電磁波の異なる条件での照射により、上記特定領域の内外で巨視的な融点に相異が生じること、なかんずく特定領域の巨視的な融点がその周囲の領域の巨視的な融点よりも高いことをさらに好ましい態様として含む。
【0018】
また、上記特定領域に成長する所望の数の結晶粒もしくは結晶性クラスターが、上記薄膜の溶融時に該特定領域において融け残った結晶粒もしくは結晶性クラスターである態様においては、上記電磁波の異なる条件での照射により、上記特定領域の内外で結晶粒もしくは結晶性クラスター濃度のサイズ分布に相異が生じること、なかんずく、特定領域の結晶粒もしくは結晶性クラスター濃度が、その周囲の結晶粒もしくは結晶性クラスター濃度よりも大きいこと、または、特定領域の結晶粒もしくは結晶性クラスター濃度のサイズ分布の平均値が、その周囲の結晶粒もしくは結晶性クラスター濃度のサイズ分布の平均値よりも大きいことをさらに好ましい態様として含む。ここで「結晶粒もしくは結晶性クラスター濃度のサイズ分布」とは、あるサイズ、g、の結晶粒もしくは結晶性クラスターの単位体積当たりの個数、f(g)をgの関数として定義する物理量である。従って、二つの「結晶粒もしくは結晶性クラスター濃度のサイズ分布」を比較するに際して、サイズ空間全域(g>0)にわたる全てのgにおいてf(g)が等しくない限り、それらは異なる「結晶粒もしくは結晶性クラスター濃度のサイズ分布」である。言い換えれば、薄膜中の二つの領域について、単位体積当たりに含まれる結晶粒もしくは結晶性クラスターについて、その粒径、及び、各粒径における結晶粒もしくは結晶性クラスターの個数の絶対値が一致して初めてこれら領域は「結晶粒もしくは結晶性クラスター濃度のサイズ分布」が同じである。
【0019】
また、上記特定領域に成長する所望の数の結晶粒もしくは結晶性クラスターが、上記薄膜の溶融時に該特定領域において融け残った結晶粒もしくは結晶性クラスターである態様においては、上記電磁波の異なる条件での照射により、上記所定領域の内外で固相結晶化における結晶核形成自由エネルギー障壁の大きさに相異が生じること、なかんずく、特定領域の固相結晶化における核形成自由エネルギー障壁が、その周囲の領域の固相結晶化における核形成自由エネルギー障壁よりも低いことをさらに好ましい態様として含む。
【0020】
さらに、上記本発明の結晶性薄膜の製造方法は、上記特定領域の空間的位置によって、結晶性薄膜における連続した結晶構造を有する結晶粒の少なくとも一部の空間的位置を定めることを好ましい態様として含む。
【0021】
本発明の第二は、上記本発明の結晶性薄膜の製造方法によって製造されたことを特徴とする結晶性薄膜である。
【0022】
本発明の第三は、上記本発明の結晶性薄膜を用いてなることを特徴とする素子であり、好ましくは、該結晶性薄膜において、連続した結晶構造を有する結晶粒の少なくとも一部の空間的位置が、上記特定領域の空間的位置によって定まり、該空間的位置の定められた結晶粒を活性領域に用いた素子であり、さらに望ましくは、その活性領域が、上記結晶性薄膜の単一の結晶粒の内部に形成されている素子である。
【0023】
さらに、本発明の第四は、上記本発明の素子を用いて構成したことを特徴とする回路であり、第五は、該本発明の素子もしくは回路を含むことを特徴とする装置である。
【0024】
本発明の発明者は、発明に先立ち「電磁波の照射が薄膜の溶融再固化に影響を及ぼす現象」を発見した。以下本発明と発明に到る経緯の理解の補助として、その現象について簡単に説明する。
【0025】
薄膜の溶融再固化においては、溶融のために投入するエネルギーに応じて最大溶融時における薄膜の相構成が変化し、延いては固化後の多結晶粒構造に変化をきたす。投入するエネルギーが十分大きければ最大溶融時に薄膜全体が溶融し(完全溶融)、その後薄膜が冷却し過冷却度が大きくなった時点で急速な液相中の結晶核形成が生じて微細な結晶粒からなる多結晶構造となる。完全溶融の場合の結晶粒平均粒径は主として結晶核形成の自由エネルギー障壁、W*、の大きさによって決定される。一方、投入するエネルギーが小さいと、最大溶融時薄膜には溶融相中に未溶融の結晶粒が高密度で残留し(不完全溶融)、その後薄膜が冷却すると同時にこれら未溶融結晶粒を種結晶として結晶化が進むため、結果としてこれも微細な結晶粒からなる多結晶構造となる。したがって、不完全溶融の条件からエネルギーを増していくにつれて最大溶融時に融け残る結晶粒の密度が低下し、固化後の多結晶平均粒径は増大するが、ある臨界エネルギー、Ec、を境に完全溶融に至り再び平均粒径が小さくなる。換言すれば、Ecを与えたときの薄膜の最高到達温度がこの薄膜の巨視的な融点である。Ecを越える直前(近完全溶融)には、未溶融で残留する結晶粒の密度が極めて小さくなるために、薄膜の大半の領域では完全溶融と同じく溶融相からの結晶核形成により固化するが、未溶融で残留した結晶粒は上記結晶核形成が生じるまでの時間に大きく横方向成長(Super Lateral Growth:SLG)するために、結果として微細な多結晶粒領域のなかにSLG結晶粒が点在する粒構造となる。不完全溶融および近完全溶融の場合、未溶融で残留する結晶粒の濃度は、薄膜が最大溶融に至るまでの固相結晶化過程に強く依存する。出発薄膜が結晶粒もしくは結晶性クラスターを含み、固相結晶化過程が主としてこれら結晶粒もしくは結晶性クラスターの固相成長に支配される場合、未溶融で残留する結晶粒の濃度は出発薄膜に含まれる結晶粒もしくは結晶性クラスターの濃度で決定される。出発薄膜がほとんど非晶質からなり、固相結晶化過程が主として非晶質からの固相結晶核形成過程に支配される場合、未溶融で残留する結晶粒の濃度は固相核形成の自由エネルギー障壁、W*、の大きさで決定される。
【0026】
本発明の発明者は、上記の臨界エネルギー、Ec、が溶融再固化に先立つ薄膜への電磁波の照射によって変化する現象を発見した。たとえばシリコン薄膜に赤外光を照射した場合、赤外光強度や照射時間に応じてEcが小さくなった。他の系においては電磁波の照射によりEcが大きくなる場合もある。これら現象の起源を調べたところ、対象とする系によって上記手段の項に記載のとおり様々な機構が起因となっていることも分かった。
【0027】
本発明は、上記現象を利用したものである。それぞれの現象がどのように利用されるかは、以下の実施の形態において説明する。
【0028】
【発明の実施の形態】
本発明の結晶性薄膜及びその製造方法の最も基本的な実施形態を図1に、そのひとつの発展形態を図2に示す。図中、薄膜はその表面もしくは界面に鉛直な方向に薄膜の一部を切り出した断面によって模式的に表されている。尚、本発明にかかる薄膜はその上下に設けた別の層と接していてもよいが、図1および図2においては便宜上それらを省略し、薄膜のみを図示する。尚、図1および図2中、1は成膜直後の一様な状態にある薄膜、2は第一の条件による電磁波の照射、3は第二の条件による電磁波の照射、4はあらかじめ空間位置を定めた小領域、5は小領域の周囲の領域、6は溶融再固化のためのエネルギー、7は結晶粒もしくは結晶性クラスター、8は未再固化領域、9は結晶粒、10はランダムな結晶性クラスター群、11は結晶粒界である。
【0029】
はじめに、図1(a)に示すように、薄膜1に対して、特定の小さな領域に局所的に第一の条件2で電磁波を照射し、その他の領域に第二の条件3で電磁波を照射することにより、小領域4およびその周囲の領域5を形成する〔図1(b)〕。第一の条件による照射2および第二の条件による照射3は同時に行ってもよいし、それぞれ独立した工程において順次行ってもよい。後者の場合、2種の照射の順は問わない。第一の条件による照射2および第二の条件による照射3は必ずしも共に局所的である必要はなく、いずれかひとつが局所的であればよい。たとえば、第一の条件による均一な照射を行った後に第二の条件による局所的な照射を行う、あるいはその逆であっても、小領域4とその周囲の領域5に対して互いに異なる条件で電磁波を照射することができる。局所的な照射は、走査電磁波ビームのブランキング、あるいは出発薄膜1の上方に設けたマスクを用いる均一電磁波照射により行うことができる。また、第一の条件による照射2および第二の条件による照射3の照射エネルギー密度に関して、何れかひとつの照射が照射エネルギー密度0、すなわち「照射を行わない」条件であってもよい。
【0030】
次にこの薄膜に溶融再固化のためのエネルギー6を投与し、薄膜を溶融させる〔図1(c)〕。このとき周囲の領域5は必ず完全溶融する一方で、小領域4は近完全溶融する。ここでは、局所的な第一の条件による照射2および第二の条件による照射3によって、小領域4の周囲の領域5の臨界エネルギーEc<エネルギー6〜<小領域4の臨界エネルギーEcなる関係が成立するように小領域の内外のEcが調整されている。これにより、溶融再固化のためのエネルギー6の投与終了後に、小領域4には結晶粒もしくは結晶性クラスター7が未溶融で残留する〔図1(d)〕。
【0031】
この後薄膜の冷却が進むにつれて結晶粒もしくは結晶性クラスター7が成長して結晶粒7となる〔図1(e)〕。結晶粒7はさらに成長して薄膜1の表面に届き、小領域4を越えてその周囲の領域5へ専ら横方向に成長する〔図1(f)〕。やがて薄膜が冷却し、小領域の外部の未再固化領域8の過冷却度が増大すると、ここにランダムな結晶核9が高速発生する〔図1(g)〕。そして、結晶粒7と衝突してそこに結晶粒7の粒界11が形成される。結果として、本実施形態においては、特定領域4を中心として結晶粒7の位置が定められた溶融再固化による結晶性薄膜を形成することができる。
【0032】
図1では結晶粒7の形成位置を規定する特定小領域4を中心として単一の結晶粒7を成長させる例を示したが、小領域4に2個以上の所望の数だけ結晶粒7を成長させることも可能である。
【0033】
また図1では、特定領域4が、周囲の領域5に囲まれた単一のドメインである場合の実施形態を示した。本発明においては、当該形態に限らず、特定領域4を不連続且つ離散的に複数設けてもよい。この場合、隣接する特定領域4が十分離れていれば、それぞれの特定領域4に成長した結晶粒8の間にランダムな結晶性クラスター群10が挟まれることになる。逆に隣接する特定領域4が十分近接していれば、それぞれの特定領域4に成長した結晶粒7は間に結晶性クラスター群10を挟むことなく直接接し、結晶粒界11をなすこともできる。さらにそのような間隔で特定領域4を周期的に配せば、薄膜全体を位置制御された結晶粒7で構成することも可能である。
【0034】
また、図1に示した実施形態では、特定領域4及び周囲の領域5を薄膜1の面内方向に二次元的に設けた例を示した。本発明においては、薄膜1の厚さ方向の次元も加えた三次元的な構成も可能である。
【0035】
また、図1に示した実施形態では、薄膜1がその面内方向に連続している範囲が、少なくとも小領域4もしくは結晶粒7或いは複数の小領域4の間隔より遥かに広い場合の例を示した。一方、両者を比較し得る大きさに設定することも可能である。例えば、図2に示すとおり、図1の結晶粒7ほどの広さの薄膜1において周囲の領域5に囲まれた小領域4を設け〔図2(b)〕るならば、未再固化領域8においてランダムな結晶核9が高速発生する前に、結晶粒7の成長が薄膜1全域に及び、結晶粒7のみからなる再固化薄膜を得ることも可能である〔図2(h)〕。図2に示した薄膜1は、図中では省略されている基体上もしくは基体中に離散的に複数設けられていてもよい。
【0036】
次に、以上のような溶融再固化工程によって形成された結晶性薄膜を用いる、本発明の素子、回路、および装置の実施形態の典型的一例を、図3を用いて説明する。図3は、半導体材料からなる結晶性薄膜に設けたMOS型薄膜トランジスタ(TFT)を主たる構成要素とするスイッチング回路を有する画像表示装置の一部断面を示している。ここで、1001はスイッチング回路の範囲、1002および1003はそれぞれ1001のスイッチング回路を構成する第一および第二のTFT、100は基体、4および104は図1および図2の4に対応する特定領域、7および107は図1および図2の7に対応する特定領域に成長した結晶粒、12および112はゲート絶縁膜、13および113はゲート電極、14および114はソース電極、15は第一のTFT1002のドレイン電極兼第二のTFT1003のゲート配線電極兼前二者間の電極配線、16は第一のTFT1002のゲート配線電極、17は層間絶縁層、18は画素電極、19は発光層もしくは光透過度可変層、20は上部電極である。結晶粒7および107は、図1に示した工程において基体100上に複数の特定領域4を設けて得られる結晶性薄膜を、位置制御した結晶粒7の領域内を残すようにパターニングすることか、あるいは図2に示した工程において複数の薄膜1を基体100上に設けることにより形成することができる。
【0037】
本発明の結晶性薄膜では、結晶粒7の位置が小領域4を設ける位置によって決定され、そのサイズもまた既知である。従って、結晶粒7を活性領域とする素子を形成するに際して、結晶粒7を用いる素子の活性領域を結晶粒6の位置と容易に関係させることができる。すなわち図3に例示するように、本装置の素子であるTFT1002の活性領域を結晶粒7の内部に限定することが可能である。この場合、TFT1002の活性領域内に結晶粒界は含まれないために、素子特性が向上するばかりでなく、複数の素子間のバラツキを抑制することができる。
【0038】
図3のスイッチング回路では、ゲート電極13により制御される第一のTFT1002のドレイン電極15は配線を介して第二のTFT1003のゲート電極113に接続され、それら電極や配線は層間絶縁層17によって互いに絶縁されている。即ちゲート電極113により制御される第二のTFT1003は、第一のTFT1001のドレイン電圧によって制御される。このような回路では、第一及び第二のTFTの素子特性が精密に制御されていることが肝要であり、活性領域に結晶粒界を含まない素子からなる本回路はその条件を満たすことができる。
【0039】
図3の画像表示装置では、画素電極18及び上部電極20によって発光層もしくは光透過度可変層19に印加される電圧もしくは注入される電流は、第一のTFT1002のドレイン電圧によって制御される第二のTFT1003のドレイン電圧もしくは電流によって決定される。そして、発光層もしくは光透過度可変層19の発光強度もしくは光透過度は、そこに印加される電圧もしくは注入される電流によって制御される。本例の画像表示装置は、このような素子構成を一画素の表示単位とし、これを格子状に複数個配することで構成されている。画像表示装置として均一な光強度及び時間応答を得るためには、各画素間の特性のバラツキを抑制することが肝要であり、活性領域に結晶粒界を含まない素子からなる回路を用いる本装置はその条件を満たすことができる。
【0040】
【実施例】
[実施例1]
本発明第一の実施例として、図1に示した工程によって形成される結晶性シリコン薄膜の第一の例を記す。
【0041】
はじめに、非晶質酸化シリコン表面を有するガラス基体上に、プラズマ化学気相堆積法により厚さ100nmの水素化非晶質シリコン薄膜を堆積し、熱処理により脱水素処理を行った。この非晶質シリコン薄膜表面にスパッタ法で厚さ160nmの非晶質酸化シリコン膜を堆積し、これをフォトリソグラフィー工程でパターニングして、5μm間隔の正方格子点に1μm角の開口を設けた。この表面から非晶質酸化シリコン膜をマスクにして、パルス半値幅30nsのKrFエキシマレーザー光を約200mJ・cm−2のエネルギー密度で照射した。このときKrFエキシマレーザー光の大半は厚さ160nmの非晶質酸化シリコン膜で反射される。また、約200mJ・cm−2のエネルギー密度では厚さ100nmの非晶質シリコン薄膜は溶融しない。
【0042】
その後マスクである非晶質酸化シリコン膜を除去し、これを出発薄膜とした。この出発薄膜の結晶性を調べたところ、非晶質酸化シリコン膜に設けた5μm間隔の正方格子点にある1μm角の開口部では結晶性シリコンクラスターが観察されたのに対して、それ以外のマスクされていた領域では結晶性シリコンクラスターは観察されず、完全な非晶質であった。すなわち、上記開口部には、その周囲の領域に比べて結晶性クラスター濃度が高い領域が形成されている。
【0043】
次に、この出発薄膜に対して、KrFエキシマレーザー光を約400mJ・cm−2のエネルギー密度で照射し、出発薄膜を溶融再固化させ、結晶性薄膜を得た。
【0044】
得られた結晶性薄膜を構成する結晶粒形状を観察したところ、5μm間隔の各正方格子点に配した1μm角の領域を中心として、直径約3μmに達する単一の結晶粒が成長していた。その周囲は平均直径約50nmの様々なサイズの微結晶粒で埋め尽くされており、且つ、それらの位置は全くランダムであった。
【0045】
本実施例の出発薄膜において、1μm角の開口部では周囲の領域より結晶性クラスター濃度のサイズ分布の平均値と濃度が高く、それぞれ図1における「特定領域4」と「周囲の領域5」をなしている。また溶融再固化後の結晶性薄膜においては、直径約3μmの単一結晶粒が図1における結晶粒7に、その周囲の微結晶粒が図1における結晶性クラスター郡10に対応する。ちなみにKrFエキシマレーザー光を約200mJ・cm−2のエネルギー密度で照射した薄膜と照射しない薄膜に関して溶融再固化過程を実時間観察したところ、上記溶融再固化条件において前者は近完全溶融したのに対して、後者では完全溶融であることが確認された。これは、上記開口部領域の融点がその周囲の領域の融点よりも高くなったこと、すなわち、上記電磁波の異なる条件での照射により、上記特定領域の内外で完全溶融の臨界エネルギーに相異が生じ、特定領域の完全溶融の臨界エネルギーが、その周囲の領域の完全溶融の臨界エネルギーより大きくなったことを示している。
【0046】
また、上記観察により、上記溶融再固化工程におけるエキシマレーザー光の投入エネルギーは、特定領域の完全溶融の臨界エネルギーより小さく、その周囲の領域の完全溶融の臨界エネルギーより大きく設定されていることも確かめられた。
【0047】
即ち本実施例は、電磁波が約200mJ・cm−2のエネルギー密度で照射したKrFエキシマレーザー光であり、約200mJ・cm−2のエネルギー密度で照射したKrFエキシマレーザー光の照射が薄膜を溶融させず、特定領域およびその周囲の領域が非晶質酸化シリコン膜のマスクによって設定され、両領域に対する照射条件が電磁波の照射エネルギー密度(約200mJ・cm−2/0)、照射時間(30ns以上/0)、パワー密度の時間的プロファイル(半値幅30nsのパルス/0)、分光強度(波長248nmを中心とするガウス分布/0)、可干渉性(ある/ない)、偏光度(有限/0)の点において異なっており、特定領域に所望の数(1)の結晶粒が成長し、特定領域に成長する所望の数(1)の結晶粒が薄膜の溶融時に特定領域において融け残った結晶粒もしくは結晶性クラスターであり、特定領域の内外で巨視的な融点に相異が生じ、出発薄膜の特定領域の内外で結晶性クラスター濃度のサイズ分布に相異が生じた結果、結晶性薄膜における連続した結晶構造を有する結晶粒の少なくとも一部の空間的位置が制御された例である。
【0048】
[実施例2]
本発明第二の実施例として、図1の工程によって形成される結晶性シリコン薄膜の第二の例を記す。
【0049】
はじめに、溶融石英からなる基体上に、低圧化学気相堆積法により厚さ100nmの非晶質シリコン薄膜を堆積した。SiC表面を有するサセプタにこの基体を設置し、斜方から赤外線ランプ光を照射して非晶質シリコン薄膜を500℃まで昇温した。そしてそのまま、非晶質シリコン薄膜表面の3μm間隔の六方格子点毎に直径1μmに集束させたX線領域の放射光を照射し、これを出発薄膜とした。この出発薄膜の結晶性を調べたところ、X線領域の放射光を照射した3μm間隔の六方格子点にある直径約0.6μmの領域では観察された結晶性シリコンクラスターの平均粒径が約20nmであったのに対して、それ以外の領域では約3nmであった。
【0050】
次に、この出発薄膜に対して、XeClエキシマレーザー光を約360mJ・cm−2のエネルギー密度で照射し、出発薄膜を溶融再固化させ、結晶性薄膜を得た。
【0051】
得られた結晶性薄膜を構成する結晶粒形状を観察したところ、薄膜は形状がほぼ六角形で大きさもほぼ揃った結晶粒によって六方稠密に埋め尽くされていた。最近接結晶粒の重心間距離はちょうど3μmであり、これら結晶粒はX線領域の放射光が照射された領域から成長したことが判明した。
【0052】
本実施例の出発薄膜では、X線領域の放射光が照射された領域の結晶性クラスター濃度のサイズ分布が、その周囲の領域のそれよりもより大きい方へ偏移しており、それぞれが図1における「特定領域4」と「周囲の領域5」をなしている。すなわち、特定領域の結晶粒もしくは結晶性クラスター濃度のサイズ分布の平均値が、その周囲の結晶粒もしくは結晶性クラスター濃度のサイズ分布の平均値よりも大きくなっている。ちなみに同じ出発薄膜に等温アニールにて固相結晶化を施したところ、X線領域の放射光が照射された領域に結晶粒が選択成長した。またX線領域の放射光を照射した薄膜と照射しない薄膜に関して溶融再固化過程を実時間観察したところ、前者は不完全溶融したのに対して、後者では完全溶融であることが確認された。
【0053】
即ち本実施例は、電磁波が赤外線およびX線領域の放射光であり、特定領域およびその周囲の領域がX線領域の放射光の照射パターンによって設定され、赤外線およびX線領域の放射光の照射が薄膜を溶融させず、両領域に対する照射条件が照射エネルギー密度(赤外線の照射エネルギー密度+X線領域の放射光の照射エネルギー密度/赤外線の照射エネルギー密度のみ)、照射時間とパワー密度の時間的プロファイル(パルス光+定常光/定常光のみ)、分光強度(赤外域+X線領域の合成分布/赤外域の分布のみ)、可干渉性と偏光度(あり/なし)の点において異なっており、特定領域に所望の数(1)の結晶粒が成長し、特定領域に成長する所望の数(1)の結晶粒が薄膜の溶融時に特定領域において融け残った結晶粒もしくは結晶性クラスターであり、特定領域の内外で巨視的な融点に相異が生じ、特定領域の内外で結晶粒もしくは結晶性クラスター濃度のサイズ分布に相異が生じ、結晶性薄膜における連続した結晶構造を有する全ての結晶粒の空間的位置が制御された例である。
【0054】
[実施例3]
本発明第三の実施例として、図1の工程によって形成される結晶性シリコン薄膜の第三の例を記す。
【0055】
はじめに、プラスチック基体上に、スパッタ法により厚さ50nmの非晶質シリコン薄膜を堆積した。次いで、レーザー干渉露光法を用いてArレーザー光を非晶質シリコン薄膜の10μm間隔の各正方格子点に配した0.5μm角の領域に照射し、これを出発薄膜とした。この出発薄膜の結晶性を調べたところ、Arレーザー光の照射領域とその周囲の領域共に非晶質であったが、前者の構造緩和が後者のそれより大きいことが分かった。
【0056】
次に、この出発薄膜に対して、ArFエキシマレーザー光を約250mJ・cm−2のエネルギー密度で照射し、出発薄膜を溶融再固化させ、結晶性薄膜を得た。
【0057】
得られた結晶性薄膜を構成する結晶粒形状を観察したところ、10μm間隔の各正方格子点に配した0.5μm角の領域を中心として、直径約2μmに達する単一の結晶粒が成長していた。その周囲は平均直径約50nmの様々なサイズの微結晶粒で埋め尽くされており、且つ、それらの位置は全くランダムであった。
【0058】
本実施例の出発薄膜では、Arレーザー光を照射した0.5μm角の領域はその周囲の領域より構造緩和が進行しており、固相結晶化における核形成自由エネルギー障壁が低いことが予測される。ちなみに同じ出発薄膜に等温アニールにて固相結晶化を施したところ、Arレーザー光が照射された領域に結晶粒が選択成長した。またArレーザー光を照射した薄膜と照射しない薄膜に関して溶融再固化過程を実時間観察したところ、前者は不完全溶融したのに対して、後者では完全溶融であることが確認された。したがってArレーザー光の照射領域が図1における「特定領域4」をなしている。
【0059】
即ち本実施例は、電磁波がArレーザー光であり、特定領域およびその周囲の領域がArレーザー光の照射パターンによって設定され、Arレーザー光の照射が薄膜を溶融させず、両領域に対する照射条件が照射エネルギー密度(有限/0)、照射時間とパワー密度の時間的プロファイル(有限/0)、分光強度(525nmを中心とするガウス分布/0)、可干渉性と偏光度(あり/なし)の点において異なっており、特定領域に所望の数(1)の結晶粒が成長し、特定領域に成長する所望の数(1)の結晶粒が薄膜の溶融時に特定領域において融け残った結晶粒もしくは結晶性クラスターであり、特定領域の内外で巨視的な融点に相異が生じ、特定領域の内外で固相結晶化における結晶核形成自由エネルギー障壁の大きさに相異が生じ、結晶性薄膜における連続した結晶構造を有する全ての結晶粒の空間的位置が制御された例である。
【0060】
[実施例4]
本発明第四の実施例として、図2の工程によって形成される結晶性シリコン薄膜の例を記す。
【0061】
実施例1に記した結晶性シリコン薄膜の例における薄膜を、非晶質シリコン島マスクを設けた5μm間隔の正方格子点にある1μm角の領域を中心とした3μm角の領域のみを残してパターンニングし、他は実施例1と同様にして薄膜1の溶融再固化を行い、結晶性薄膜を得た。
【0062】
得られた結晶性薄膜を構成する結晶粒形状を観察したところ、3μm角の薄膜全域が単一の結晶粒によって占められており、結晶粒界は存在しなかった。
【0063】
本実施例における、結晶性薄膜を構成する結晶粒の空間的位置制御の過程は実施例1と同様である。また、本実施例のような単一の結晶粒からなる薄膜を形成する溶融再固化は、実施例2〜3の結晶性薄膜にも適用可能である。
【0064】
[実施例5]
本発明第5の実施例として、図3に示した構造を有するMOS型TFT素子、TFT集積回路、およびEL画像表示装置の例を記す。
【0065】
はじめに、実施例4に記した工程により、表面にシリコン窒化膜及び酸化膜を積層したガラス基板上に、3μm角の単一シリコン結晶粒を設けた。次に、通常のシリコン薄膜トランジスタの低温形成工程に従って、シリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜とゲート電極膜を堆積し、単一結晶粒中央部の幅1μmの領域を除いてゲート電極膜層を除去した。次に残されたゲート電極膜をマスクとするセルフアライン方式で、それ以外の領域にボロンをドープし、ゲート領域、ソース領域及びドレイン領域を形成した。これにより、ゲート領域は全域単一結晶粒の内部に含まれることとなった。その後、絶縁膜からなるパッシベーション層を堆積し、各領域上のパッシベーション層に開口部を設けた。最後に、アルミ配線層を堆積し、これをパターニングすることによってゲート電極、ソース電極及びドレイン電極を形成し、MOS型TFTを得た。
【0066】
得られたMOS型TFTの動作特性を計測したところ、本発明における「特定領域4」を設けないランダムな多結晶薄膜に同一工程、同一形状で形成した素子に比べて、移動度の平均値で2倍以上高速に動作することが確認された。また、素子特性のバラツキの比較では、移動度は約半分、閾値電圧に至っては約1/4に低減した。
【0067】
次にこれらMOS型TFTの隣接する2素子に対して各電極を次のように接続した。即ち、第一のTFTのドレイン電極は第二のTFTのゲート電極と接続した。また、第二のTFTのゲート電極はコンデンサ素子を介して自らのソース電極に接続した。これにより、TFT2素子及びコンデンサ素子からなる集積回路が構成された。本回路では、第二のTFTのソースに供給された電源電流がそのドレインから出力される量がコンデンサ素子の蓄積容量で制御され、一方、コンデンサ素子の蓄積容量及び蓄積のスイッチングは第一のTFTのゲート電圧によって制御される。本回路は、例えばアクティブマトリクス型表示装置において各画素のスイッチングと電流量制御を担う要素回路などに用いることができる。
【0068】
本実施例にて形成した回路の基本動作特性を計測し、本発明における「特定領域4」を設けないランダムな多結晶薄膜に同一工程、同一形状で形成した回路の特性と比較した。その結果、動作可能なスイッチング周波数に関して3倍以上高速に動作すること、そして第二のTFTのドレイン電極から出力される電流量の制御可能な範囲が2倍ほど拡大することが確認された。また、複数形成した同一回路の特性バラツキの比較では、それぞれ約半分以下に低減した。これは、各回路における第一のTFT間のバラツキ、第二のTFT間のバラツキのみならず、一回路における第一のTFTと第二のTFTの相対特性が比較対象に対してより均一であることを意味する。
【0069】
次に、ガラス基板上100μm間隔の正方格子点の各点に位置するこれらTFT集積回路を要素回路として、それら正方格子の単位胞を画像表示装置の画素とすべく、要素回路に接続する配線を次のように設けた。先ず、正方格子の一軸方向を貫く走査線を一格子毎に設け、各要素回路における第一のTFTのゲート電極をこれに接続した。一方、走査線と直交する方向には一格子毎に信号線及び電源線を配線し、それぞれを各要素回路における第一のTFTのソース電極、及び第二のTFTのソース電極に接続した。次に、これら要素回路の集積回路上に絶縁層を積層し、これに各要素回路における第二のTFTのドレイン電極が露出する開口部を設けた。次いで、金属電極を積層し、この金属電極を各画素毎に絶縁分離した。最後にエレクトロルミネッセンス(EL)発光層と上部透明電極層を積層した。これにより、上記TFT集積回路により各画素のスイッチングと注入電流量制御を行う、アクティブマトリクス型多階調EL画像表示装置が構成された。
【0070】
即ち、本画像表示装置では、走査線の電圧に応じた第一のTFTの起動によって信号線に与える電流値に対応した電荷容量が電源線からコンデンサ素子に蓄積され、この蓄積容量に応じた第二のTFTのゲート電圧に制御された電流が電源線からEL発光層に注入される。
【0071】
本実施例にて形成した画像表示装置の基本動作特性を計測し、本発明における「特定領域4」を設けないランダムな多結晶薄膜に同一工程、同一形状で形成した画像表示装置の特性と比較した。その結果、静的特性として最大輝度及び最大コントラストが2倍程度向上し、階調再現域は約1.5倍拡大していること、そして画素欠損率及び明度ムラがそれぞれ1/3及び1/2まで低減していることが確認された。また、動的特性としては、最大フレームレートが2倍ほど向上した。これら動作特性の向上は全て、上記記した要素回路特性の向上とバラツキの低減に由来し、さらにそれらは各要素回路を構成する薄膜トランジスタ特性の向上とバラツキの低減に起因し、従って、それら薄膜トランジスタの活性領域が単一の結晶粒内に形成されていることの効果である。
【0072】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明は、溶融再固化によって形成する結晶性薄膜において、薄膜に、特定領域とその周囲の領域に対して互いに異なる条件で電磁波を照射した後に、該薄膜を溶融再固化させることにより、結晶性薄膜を構成する結晶粒の空間的位置制御を容易に実現する。
【0073】
即ち、本発明において、薄膜に特定領域を設け、電磁波を特定領域とその周囲の領域に対して互いに異なる条件で照射すること、電磁波の照射が薄膜を溶融させないこと、さらには、電磁波の照射に際して特定領域の内外で上記電磁波の照射エネルギー密度、照射時間、パワー密度の時間的プロファイル、分光強度、可干渉性、偏光度の何れかの条件が異なっていることによって、特定領域の内外で結晶粒もしくは結晶性クラスター濃度のサイズ分布に相異が生じるか、あるいは、特定領域の内外で固相結晶化における結晶核形成自由エネルギー障壁の大きさに相異が生じ、その結果、特定領域の内外で巨視的な融点に相異が生じ、溶融後の再固化工程において溶融相から核形成した結晶粒もしくは結晶性クラスターが特定領域に成長し、溶融後の再固化工程において溶融相から核形成した結晶粒もしくは結晶性クラスターが特定領域に成長することで、結晶性薄膜を構成する結晶粒の空間的位置制御することができる。
【0074】
本発明の結晶性薄膜は、これを構成する結晶粒の位置を素子の所定位置に空間的に関係づけるか、或いは、素子を位置制御された単一結晶粒の内部に形成することにより、従来のランダムな結晶粒のみからなる結晶性薄膜を用いる場合に比べて、当該素子の動作特性を著しく向上させ、そのバラツキを低減することができる。
【0075】
さらに、上記本発明の素子を用いて構成した回路は、従来の、位置制御されないランダムな結晶粒のみからなる結晶性薄膜を用いた素子からなる回路に比べて、その動作特性を著しく向上させ、そのバラツキを低減することができる。
【0076】
さらにまた、本発明の素子もしくは回路を含む本発明の装置においては、当該素子もしくは回路の動作特性の向上及びバラツキの低減によって、動作特性を著しく向上することができる。然して、本発明の装置は、位置制御されないランダムな結晶粒のみからなる結晶性薄膜を用いる場合では実現できない、高性能な装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の結晶性薄膜及びその製造方法の第一の基本的な実施形態を説明するための製造工程図である。
【図2】本発明の結晶性薄膜及びその製造方法の第二の基本的な実施形態を説明するための製造工程図である。
【図3】本発明の素子、回路、および装置の一実施形態を説明する図である。
【符号の説明】
1 薄膜
2 第一の条件による電磁波の照射
3 第二の条件による電磁波の照射
4 特定領域
5 特定領域の周囲の領域
6 溶融のためのエネルギー
7 結晶粒もしくは結晶性クラスター
8 未固化領域
9 ランダムな結晶性クラスター
10 ランダムな結晶性クラスター群
11 結晶粒界
12,112 ゲート絶縁膜
13,113 ゲート電極
14,114 ソース電極
15 第一のTFTのドレイン電極兼第二のTFTのゲート配線電極
16 第一のTFTのゲート配線電極
17 層間絶縁層
18 画素電極
19 発光層もしくは光透過度可変層
20 上部電極
100 基体
1001 TFT集積回路
1002 第一のTFT
1003 第二のTFT
Claims (8)
- 非晶質薄膜に、特定位置とその周囲の領域に対して前記非晶質薄膜を溶融させない互いに異なる条件で電磁波を照射することにより、前記特定位置を、前記周囲の領域より完全溶融の臨界エネルギーが大きな状態の非晶質領域にする工程と、
前記特定位置と前記周囲の領域の両方を溶融して、前記特定位置を不完全溶融もしくは近完全溶融し、前記周囲の領域を完全溶融させる工程と、
前記特定位置において単一の結晶粒もしくは結晶性クラスターを前記周囲の領域に対して優先的に成長させる工程と、
を有する非晶質薄膜を溶融再固化させる結晶性薄膜の製造方法。 - 前記特定位置と前記周囲の領域に対する電磁波の照射条件として、前記電磁波の照射エネルギー密度、照射時間、パワー密度の時間的プロファイル、分光強度、可干渉性、偏光度の何れかにおいて異なっていることを特徴とする請求項1に記載の結晶性薄膜の製造方法。
- 前記電磁波の照射条件として、前記特定位置の電磁波の照射エネルギー密度が、周囲の領域の照射エネルギー密度より大きいこと、又は前記特定位置のみ電磁波を照射することを特徴とする請求項2に記載の結晶性薄膜の製造方法。
- 前記特定位置において優先的に成長させる前記単一の結晶粒もしくは結晶性クラスターは、前記溶融時に前記特定位置において未溶融で残留した単一の結晶粒もしくは結晶性クラスターであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の結晶性薄膜の製造方法。
- 前記異なる条件での照射により、前記特定位置の巨視的な融点が前記周囲の領域の領域の巨視的な融点よりも高くなることを特徴とする請求項4に記載の結晶性薄膜の製造方法。
- 前記異なる条件での照射により、前記特定位置の結晶粒もしくは結晶性クラスター濃度が、前記周囲の結晶粒もしくは結晶性クラスター濃度よりも大きくなること、または、前記特定位置の結晶粒もしくは結晶性クラスター濃度のサイズ分布の平均値が、前記周囲の結晶粒もしくは結晶性クラスター濃度のサイズ分布の平均値よりも大きくなることを特徴とする請求項4に記載の結晶性薄膜の製造方法。
- 前記異なる条件での照射により、特定位置の固相結晶化における結晶核形成自由エネルギー障壁が、その周囲の領域の固相結晶化における結晶核形成自由エネルギー障壁よりも低くなることを特徴とする請求項4に記載の結晶性薄膜の製造方法。
- 前記特定位置と前記周囲の領域の両方を溶融する際に投入するエネルギーとして、前記特定位置の完全溶融の臨界エネルギーより小さく、前記周囲の領域の完全溶融の臨界エネルギーよりも大きなエネルギーを投入することを特徴とする請求項4に記載の結晶性薄膜の製造方法。
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