JP2004193263A - 結晶性薄膜の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】走査型溶融再結晶によって得られる結晶性薄膜において、結晶粒位置を高度に制御する。
【解決手段】薄膜に特定領域を設け出発薄膜とすること、該出発薄膜の一部領域を局所的に溶融させること、および、局所的に溶融した該一部領域を連続的に移動し前記特定領域を通過させることで、特定領域から優先的に結晶粒を成長させ、結晶性薄膜の結晶粒の位置を制御する。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、フラットパネルディスプレイやイメージセンサ、磁気記録装置、情報処理装置など高い空間的均質性を要する大規模集積回路に用いられる結晶性薄膜及びその製造方法、該結晶性薄膜を用いた素子、該素子を用いた回路、該素子もしくは該回路を含む装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
液晶ディスプレイ等に代表されるフラットパネルディスプレイは、画素駆動用の回路のパネルへのモノリシックな実装とその高性能化によって、画像表示の高精細化、高速化、及び多階調化を図ってきた。単純マトリクス駆動のパネルは画素毎にスイッチングトランジスタを備えたアクティヴマトリクス駆動に発展し、さらにそのアクティヴマトリクス駆動に用いるシフトレジスタ回路を同一パネル上周辺に作製することによって、今日、動画像にも対応するフルカラーの高精細液晶ディスプレイが提供されている。
【0003】
このような周辺駆動回路まで含めたモノリシック実装が実用的な製造コストで可能となったのは、電気的特性に優れた多結晶シリコン薄膜の安価なガラス基体上への形成技術に負うところが大きい。即ち、ガラス基体上に堆積した非晶質シリコン薄膜をエキシマレーザーなどの紫外域の短時間パルス光によって、ガラス基体を低温に保ったままを溶融再固化させて多結晶シリコン薄膜を得る技術である。同じ非晶質シリコン薄膜を出発材料としてこれを固相で結晶化させた多結晶薄膜を構成する結晶粒に比べて、溶融再固化法によって得られる結晶粒は内部の結晶欠陥密度が低く、該薄膜を活性領域として用いて構成した薄膜トランジスタは高いキャリア移動度を示す。そのためサブミクロン程度の平均粒径を持つ多結晶シリコン薄膜でも、対角数インチ程のサイズで高々100ppi以下の精細度の液晶ディスプレイには十分な性能を示すアクティヴマトリクス駆動用モノリシック回路を製造することができる。
【0004】
【非特許文献1】
A.Hara,F.Takeuchi,M.Takei,K.Suga,K.Yoshino,M.Chiba,Y.Sano,and N.Sasaki,Jpn.J.Appl.Phys.,Part 2,Vol.41,pp.L311−L313(2002)
【非特許文献2】
A.Hara,F.Takeuchi,M.Takei,K.Suga,K.Yoshino,M.Chiba,Y.Sano,and N.Sasaki,AM−LCD‘02 Digest of Technical Papers,pp.227−230(2002)
【非特許文献3】
M.Tai,M.Hatano,S.Yamaguchi,S.K.Park,T.Noda,M.Hongo,T.Shiba,and M.Ohkura,AM−LCD‘02 Digest of Technical Papers,pp.231−234(2002)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、次世代に望まれるより大画面或いは高精細な液晶ディスプレイに対して、現行の溶融再固化多結晶シリコン薄膜を用いる薄膜トランジスタは性能が不足していることが明らかとなっている。また、液晶ディスプレイよりも高電圧或いは大電流での駆動を要するプラズマディスプレイやエレクトロルミネッセンスディスプレイの駆動回路用素子、或いは医療用大画面X線イメージセンサの高速駆動回路用の素子など、今後発展が期待されている用途においても上記多結晶シリコン薄膜は性能不足である。いかに結晶粒内の欠陥密度が低いとは言え、多結晶シリコン薄膜の平均粒径が高々サブミクロン程度ではこれらの高性能素子は得られない。なぜなら、ミクロン程度のサイズを有する素子の活性領域内に、電荷移動の大きな障害となる結晶粒界が多く含まれるからである。
【0006】
このような多結晶薄膜における結晶粒界の密度とその空間分散を同時に小さくするための方法のひとつに領域溶融再結晶化法(Zone Melting Recrystallization:ZMR法)がある。ZMR法では、出発薄膜の一部の領域を局所的に加熱し溶融させ、この溶融領域を薄膜面内に連続的に走査することにより、走査方向と逆側の帯状領域端において既に固化した結晶粒を種結晶として連続的な固化と結晶化を行う。溶融再固化によって形成された結晶粒は走査方向に長く横方向成長した帯状になり、粒界密度の面内二方向の成分は走査方向に最も大きくなる。言い換えれば、粒界の位置が1次元的に制御される。その結果、粒界密度は低減する。
【0007】
ZMR法は本来、酸化膜付きシリコン基板上のミクロン程度に厚いシリコン薄膜の溶融再結晶によるSOI基板の作成技術のひとつとして発明された。最近になって、全く同じ考え方をガラス基板上のTFTへの応用を目的とする低温多結晶シリコン薄膜の形成に応用した結果が報告されている。Haraら〔非特許文献1,2〕は、50〜150nmの厚さの非晶質シリコン薄膜に線状の連続発振レーザー光を秒速数十cmで走査しながら照射した。Taiら〔非特許文献3〕は、50nmの厚さの非晶質シリコン薄膜に線状の連続発振レーザー光を秒速数cmで走査しながら照射した。いずれの場合も、レーザー光の走査方向に長く延びた最大幅数μmの帯状の結晶粒が成長し、ここに作成したTFTの最高性能は単結晶シリコン上のトランジスタのそれに匹敵した。しかしながら、そのTFT特性は単結晶シリコン上のトランジスタに比べて大きくばらついており、それらTFTを用いて回路を構成した場合、その回路の性能は単結晶シリコン上のそれには到底及ばなかった。
【0008】
上記二件の従来例において複数のTFTの間で特性がおおきくばらついてしまった理由は、粒界位置制御の不完全さにある。すなわち、レーザー光の走査方向に沿って帯状の結晶粒が横方向成長することにより粒界の位置が一次元的には制御されているものの、隣り合う結晶粒の帯の幅には大小様々なものがランダムに並んでいる。さらに、その幅も走査方向に対して必ずしも一定ではなく、粒界が斜めに走る個所も少なくない。そのためにTFTのチャネル領域の粒界密度には相変わらずばらつきが生じ、ひいてはこれらTFTを構成要素とする回路の性能を制限する。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、上記したような走査型溶融再結晶法による結晶性薄膜の製造方法において結晶粒位置を高度に制御する新たな方法を実現し、該製造方法によって結晶粒位置を高度に制御した結晶性薄膜を提供し、さらには該薄膜を用いて高性能な素子、回路、並びに装置を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の第一は、薄膜に特定領域を設け出発薄膜とすること、出発薄膜の一部領域を局所的に溶融させること、および、局所的に溶融した一部領域を移動し特定領域を通過させることを特徴とする結晶性薄膜の製造方法である。局所的に溶融した一部領域の通過する位置でその時間変化を追うならば、その位置の薄膜は固相から溶融し、再固化して結晶性の固相に変質する。
【0011】
上記本発明の結晶性薄膜の製造方法においては、出発薄膜の溶融により変質する領域が、変質後の結晶性薄膜と連続する結晶構造をもたない表面にのみ接することを好ましい態様として含む。ここで「結晶性薄膜と連続する結晶構造をもたない表面にのみ接する」とは、たとえば非晶質のガラス基板上に出発薄膜が堆積されているような態様を指し、出発薄膜の溶融により変質する領域の一部たりとも結晶性薄膜を構成する結晶粒と同じ結晶からなる単結晶基板の表面などには接していないことを意味する。
【0012】
また上記本発明の結晶性薄膜の製造方法においては、上記特定領域から所望の数の結晶粒もしくは結晶性クラスターが成長することを好ましい態様として含む。
【0013】
上記特定領域に所望の数の結晶粒もしくは結晶性クラスターが成長する態様においては、それら結晶粒もしくは結晶性クラスターが、出発薄膜の溶融時に特定領域において融け残った結晶粒もしくは結晶性クラスターであることをより好ましい態様として含む。
【0014】
上記特定領域から成長する所望の数の結晶粒もしくは結晶性クラスターが、出発薄膜の溶融時に特定領域において融け残った結晶粒もしくは結晶性クラスターである態様においては、特定領域における溶融のための蓄積エネルギー密度の最大値が特定領域の完全溶融の臨界エネルギー密度より小さく、その周囲の領域における溶融のための蓄積エネルギー密度の最大値が周囲の領域の完全溶融の臨界エネルギー密度より大きいことをより好ましい態様として含む。薄膜を溶融させるために薄膜表面からエネルギーを投入すると、投入エネルギーの一部は薄膜表面で反射され、他の一部は薄膜を透過し、残りが吸収エネルギーとして薄膜に吸収される。さらに、薄膜の今着目している領域が完全に断熱されていない限り、吸収エネルギーの一部はその領域と薄膜面内で隣接する領域や薄膜のふたつの表面に接する物体へ熱伝導もしくは輻射で流出し、残りが蓄積エネルギーとしてその領域の内部エネルギーに加えられる。上記「溶融のための蓄積エネルギー密度」とは、溶融する一部領域の単位体積あたりの蓄積エネルギーである。溶融する一部領域からの熱流出の速度より単位時間あたりの吸収エネルギーが大きければ、エネルギーの投入開始直後、蓄積エネルギー密度は時間とともに増大する。吸収エネルギーが時間的に極大をもつなら、蓄積エネルギー密度も極大を示す。また、「特定領域における溶融のための蓄積エネルギー密度」もしくは「その周囲の領域における溶融のための蓄積エネルギー密度」とは、それぞれの領域における溶融のための蓄積エネルギー密度の空間的平均値を指す。さらに「完全溶融の臨界エネルギー密度」とは、溶融する一部領域が完全に溶融するために必要な最小の蓄積エネルギー密度である。溶融が固相の母質に囲まれた溶融領域の核形成に始まる場合、溶融過程は新たな溶融領域の核形成とそれらの成長によって進行し、薄膜はその間液相にある溶融領域と固相の未溶融領域の混相状態におかれる。蓄積エネルギー密度の増大とともに溶融領域の体積比率は増大し、蓄積エネルギー密度が最大となった時点で溶融領域の体積比率が最大となる「最大溶融」状態に達する。蓄積エネルギー密度の最大値が臨界エネルギー密度を越えていれば、最大溶融時に溶融する一部領域は全域に亙って溶融相となる(完全溶融)。しかし、蓄積エネルギー密度の最大値が臨界エネルギー密度を下回れば、溶融する一部領域は全域に亙って溶融相となることなく、未溶融の領域を残したまま最大溶融を迎える(不完全溶融)。もし薄膜全域が完全溶融したならば、その再固化は溶融相からの自発的な結晶核形成を待たねばならない。溶融相からの自発的な結晶核形成には、薄膜が冷却して相応の過冷却度を与える必要である。一方、不完全溶融の場合、未溶融領域が結晶粒もしくは結晶性クラスターを含むなら、薄膜の冷却を待たずとも、それらを種結晶として結晶領域を拡大することにより再固化させることができる。
【0015】
上記特定領域における溶融のための蓄積エネルギー密度の最大値が特定領域の完全溶融の臨界エネルギー密度より小さく、その周囲の領域における溶融のための蓄積エネルギー密度の最大値が周囲の領域の完全溶融の臨界エネルギー密度より大きい態様においては、特定領域の完全溶融の臨界エネルギー密度が、その周囲の領域の完全溶融の臨界エネルギー密度より大きいことを好ましい態様として含む。本態様の実現のためには下記二つのさらに好ましい態様がある。
【0016】
第一のさらに好ましい態様は、特定領域の結晶粒もしくは結晶性クラスター濃度が、その周囲の結晶粒もしくは結晶性クラスター濃度よりも大きいこと、または、特定領域の結晶粒もしくは結晶性クラスターの平均サイズが、その周囲の結晶粒もしくは結晶性クラスターの平均サイズよりも大きいことである。ここで「結晶粒もしくは結晶性クラスター濃度のサイズ分布」とは、あるサイズ、g、の結晶粒もしくは結晶性クラスターの単位体積当たりの個数、f(g)をgの関数として定義する物理量である。従って、二つの「結晶粒もしくは結晶性クラスター濃度のサイズ分布」を比較するに際して、サイズ空間全域(g>0)にわたる全てのgにおいてf(g)が等しくない限り、それらは異なる「結晶粒もしくは結晶性クラスター濃度のサイズ分布」である。言い換えれば、薄膜中の二つの領域について、単位体積当たりに含まれる結晶粒もしくは結晶性クラスターについて、その粒径、及び、各粒径における結晶粒もしくは結晶性クラスターの個数の絶対値が一致して初めてこれら領域は「結晶粒もしくは結晶性クラスター濃度のサイズ分布」が同じである。したがって「結晶粒もしくは結晶性クラスターの平均サイズ」は、∫gf(g)dg/∫f(g)dgをサイズ空間全域(g>0)に亙って積分した値に対応する。本態様はその極限として、特定領域がその領域と同じかそれ以上のサイズgの単一の結晶粒からなる(f(g)=0 for
g≠g)場合をも含む。
【0017】
第二のさらに好ましい態様は、出発薄膜の特定領域の固相結晶化における結晶核形成自由エネルギー障壁が、その周囲の領域の固相結晶化における結晶核形成自由エネルギー障壁より低いことである。さらに本態様は、特定領域の内外で上記薄膜の元素組成比、含有不純物濃度、表面吸着物質、出発薄膜が接している基体との界面状態のいずれかが異なることによって、上記結晶核形成自由エネルギー障壁の大きさの相異が生じることをさらに好ましい態様のひとつとして含む。
【0018】
上記特定領域における溶融のための蓄積エネルギー密度の最大値が特定領域の完全溶融の臨界エネルギー密度より小さく、その周囲の領域における溶融のための蓄積エネルギー密度の最大値が周囲の領域の完全溶融の臨界エネルギー密度より大きい態様は、特定領域の膜厚が、その周囲の領域の膜厚より大きいことをさらに好ましい態様のひとつとして含む。膜厚の増加は特定領域の体積の増加と等価であり、蓄積エネルギー密度の減少を招く。ここで、特定領域の膜厚は薄膜の上面、下面のいずれの方向に凸であってもよく、あるいは両方向に凸であってもよい。また、膜厚の変化は連続、不連続のいずれでもよい。
【0019】
上記特定領域における溶融のための蓄積エネルギー密度の最大値が特定領域の完全溶融の臨界エネルギー密度より小さく、その周囲の領域における溶融のための蓄積エネルギー密度の最大値が周囲の領域の完全溶融の臨界エネルギー密度より大きい態様は、特定領域からの熱流出速度がその周囲の領域からの熱流出速度より大きいことをより好ましい態様として含む。
【0020】
また、上記特定領域における溶融のための蓄積エネルギー密度の最大値が特定領域の完全溶融の臨界エネルギー密度より小さく、その周囲の領域における溶融のための蓄積エネルギー密度の最大値が周囲の領域の完全溶融の臨界エネルギー密度より大きい態様は、特定領域の吸収エネルギー密度がその周囲の領域の吸収エネルギー密度より小さいことをより好ましい態様として含む。ここで「吸収エネルギー密度」とは、前述のとおり、薄膜に投入したエネルギーのうち薄膜表面で反射される部分と薄膜裏面から透過する部分を除いた吸収エネルギーの薄膜表面における単位面積あたりの量である。本態様は、さらに、特定領域への投入エネルギー密度がその周囲の領域への投入エネルギー密度より小さいこともさらに好ましい態様のひとつとして含む。この投入エネルギー密度も薄膜表面における単位面積あたりの量である。薄膜のエネルギー反射率および透過率が投入エネルギー密度と無関係ならば、吸収エネルギー密度は投入エネルギー密度に比例する。
【0021】
一方、上記特定領域から所望の数の結晶粒もしくは結晶性クラスターが成長する態様においては、結晶粒もしくは該結晶性クラスターが、特定領域の溶融後の再固化において溶融相から核形成した結晶粒もしくは結晶性クラスターであることをもうひとつのより好ましい態様として含む。本態様は、特定領域およびその周囲の領域がともに完全溶融することをさらに好ましい態様として含む。
【0022】
上記特定領域に成長する所望の数の結晶粒もしくは結晶性クラスターが、特定領域の溶融後の再固化工程において溶融相から核形成した結晶粒もしくは結晶性クラスターである態様およびその態様が含むより好ましい態様においては、特定領域の再固化における溶融相からの結晶核形成自由エネルギー障壁が、その周囲の領域の再固化における溶融相からの結晶核形成自由エネルギー障壁より低いことをさらに好ましい態様として含む。
【0023】
上記特定領域の内外で溶融相からの結晶核形成自由エネルギー障壁の大きさが異なる態様においては、特定領域の内外で上記薄膜の元素組成比、含有不純物濃度、表面吸着物質、出発薄膜が接している基体との界面状態のいずれかに相異が生じることをさらに好ましい態様として含む。
【0024】
上記特定領域から成長する所望の数の結晶粒もしくは結晶性クラスターが、特定領域の溶融後の再固化工程において溶融相から核形成した結晶粒もしくは結晶性クラスターである態様およびその態様が含むより好ましい態様においては、出発薄膜の特定領域が最大溶融に達した後に、特定領域の温度がこれと接する周囲の近傍領域の温度より低い期間が含まれることをより好ましい態様として含む。
【0025】
上記特定領域の温度がこれと接する周囲の近傍領域の温度より低い期間が含まれる態様は、特定領域からの熱流出速度がその周囲の領域からの熱流出速度より大きいことをより好ましい態様として含む。
【0026】
また、上記特定領域の温度がこれと接する周囲の近傍領域の温度より低い期間が含まれる態様は、特定領域の吸収エネルギー密度がその周囲の領域の吸収エネルギー密度より小さいことをより好ましい態様として含む。本態様は、さらに、特定領域への投入エネルギー密度がその周囲の領域への投入エネルギー密度より小さいこともさらに好ましい態様のひとつとして含む。
【0027】
さらに、上記本発明の結晶性薄膜の製造方法は、出発薄膜における特定領域の空間的位置を制御することによって、結晶性薄膜における連続した結晶構造を有する結晶粒の少なくとも一部の空間的位置を制御することを好ましい態様として含む。
【0028】
本発明の第二は、上記本発明の結晶性薄膜の製造方法によって製造されたことを特徴とする結晶性薄膜である。
【0029】
本発明の第三は、上記本発明の結晶性薄膜を用いてなることを特徴とする素子であり、好ましくは、結晶性薄膜において、連続した結晶構造を有する結晶粒の少なくとも一部の空間的位置が、出発薄膜における特定領域の空間的位置によって定まり、その空間的位置を制御された結晶粒を活性領域に用いた素子であり、さらに望ましくは、その活性領域が、上記結晶性薄膜の単一の結晶粒の内部に形成されている素子である。
【0030】
さらに、本発明の第四は、上記本発明の素子を用いて構成したことを特徴とする回路であり、第五は、該本発明の素子もしくは回路を含むことを特徴とする装置である。
【0031】
本発明の結晶性薄膜の製造方法では、上記の様々な態様を有する特定領域を設けた出発薄膜に走査型溶融再結晶法を適用することにより、走査とともに連続的に横方向成長する結晶粒の種結晶を特定領域において供給する。その動的な過程、本発明の素子、回路、装置を以下の実施の形態においてより詳しく説明する。
【0032】
【発明の実施の形態】
本発明の結晶性薄膜の製造方法は、特定領域から成長する結晶粒もしくは結晶性クラスターの起源に関して、それらが「出発薄膜の溶融時に特定領域において融け残った結晶粒もしくは結晶性クラスターである」場合と「特定領域の溶融後の再固化工程において溶融相から核形成した結晶粒もしくは結晶性クラスターである」場合に大別できる。それぞれの最も基本的な実施形態をそれぞれ図1および図2を用いて説明する。図中、薄膜はその表面もしくは界面および溶融領域の走査方向に垂直な平面で薄膜の一部を切り出した断面によって模式的に表されている。尚、本発明にかかる薄膜はその上下に設けた別の層と接していてもよいが、図1および図2においては便宜上それらを省略し、薄膜のみを図示する。尚、図中、1は特定領域、2は特定領域の周囲の領域、3は出発薄膜、4は溶融のための投入エネルギー、5は溶融した一部領域、6はランダムな結晶粒群による再固化領域、7は位置制御された結晶粒もしくは結晶性クラスター、8は位置制御された結晶粒とランダムな結晶粒群の衝突による結晶粒界、9は位置制御された結晶粒と溶融した一部領域の間の固液界面、10は位置制御された結晶粒である。
【0033】
まず、「特定領域から成長する結晶粒もしくは結晶性クラスターが、出発薄膜の溶融時に特定領域において融け残った結晶粒もしくは結晶性クラスターである」場合を説明する。はじめに図1(a)に示すように薄膜に特定領域1および特定領域の周囲の領域2を設け、出発薄膜3とする。これに溶融のための投入エネルギー4を図面上特定領域1の左に位置する特定領域の周囲の領域2の一部に局所的に投入し、一部領域5を溶融させる〔図1(b)〕。次に溶融のための投入エネルギー4の投入位置を移動させることにより、溶融した一部領域5を図面上右に位置する特定領域1の方向へ移動させる〔図1(c)〕。このとき、溶融された特定領域の周囲の領域2は完全溶融するので、溶融のための投入エネルギー4が通過した後もしばらくの間溶融状態を保つ。その後、過冷却度がおおきくなると、溶融相からの自発的結晶核形成が爆発的に生じ、ランダムな結晶粒群による再固化領域6が形成される〔図1(d)〕。このランダムな結晶粒群による再固化領域6の多結晶構造は、上述した従来技術により得られるものと本質的に同じである。一方、溶融した一部領域5の移動によりその全域が最大溶融状態となった特定領域1には、所望の数の結晶粒もしくは結晶性クラスター7が融け残る〔図1(d)〕。特定領域1に融け残った結晶粒もしくは結晶性クラスター7は、溶融した一部領域5のさらなる移動によりその部分の温度が低下すると同時に成長する〔図1(e)〕が、他方、ランダムな結晶粒群による再固化領域6も溶融した一部領域5の移動方向にその領域を拡大する〔図1(e)〕。溶融した一部領域5の移動とともにさらに成長した結晶粒もしくは結晶性クラスター7は、薄膜の表面にまで達した後、専ら横方向成長する〔図1(f)〕が、溶融した一部領域5の移動方向とは逆方向の横方向成長は、やがて対向するランダムな結晶粒群による再固化領域6と衝突し、結晶粒界8をなす〔図1(f)〕。一方、溶融した一部領域5の移動方向には常に固液界面9が存在するため、溶融した一部領域5の移動を追うようにこの固液界面9が移動し、結晶粒もしくは結晶性クラスター7は成長を続ける〔図1(g)、(h)〕。結果として、特定領域1近傍に端を発し、溶融した一部領域5の移動方向に横方向成長することで位置を制御された結晶粒10を得る〔図1(i)〕。
【0034】
図1に例示した本発明の実施形態では、溶融した一部領域5が特定領域の周囲の領域2にある時刻から出発し、特定領域1を通過して、再び周囲の領域2へ移動する形態を示したが、溶融した一部領域5が特定領域1を含む位置から出発することも可能である。
【0035】
図1に例示した本発明の実施形態では、特定領域1を断面図中ひとつ設けた例を示したが、この断面とは垂直方向へ出発薄膜が広がる空間の中に、同様の特定領域が複数設けられていてもよい。もし特定領域1から単一の結晶粒が成長するような複数の特定領域1を図1の断面の奥行き方向に等間隔に設ければ、この溶融再固化後の結晶性薄膜の平面から見たとき、そこにはほぼ等しい幅をもつ結晶粒群が溶融した一部領域5の移動方向に並んで伸びることになる。また、溶融した一部領域5の移動方向にかような特定領域1を複数個設けてもよい。この場合、位置制御された結晶粒10の溶融した一部領域5の移動方向の大きさは、次の特定領域1の近傍までに制限され、そこに結晶粒界の位置が定まる。
【0036】
上述のとおり、図1の特定領域1およびその周囲の領域2は、溶融のための投入エネルギー4に対して、それぞれ不完全溶融(あるいは完全溶融に近い不完全溶融である近完全溶融)および完全溶融でなければならない。そのためには、「特定領域1の蓄積エネルギー密度<特定領域1の臨界エネルギー密度」、かつ、「その周囲の領域2の蓄積エネルギー密度≧周囲の領域の完全溶融の臨界エネルギー密度」なる関係が必要である。ここで、「特定領域1の蓄積エネルギー密度≧その周囲の領域2の蓄積エネルギー密度」ならば、少なくとも「特定領域1の完全溶融の臨界エネルギー密度>その周囲の領域の完全溶融の臨界エネルギー密度」でなければならない。本発明では下記のように、そのための様々な方法を開示している。
【0037】
第一の方法は、特定領域1が結晶粒もしくは結晶性クラスターを含み、かつ「特定領域1の結晶粒もしくは結晶性クラスター濃度>その周囲の領域2の結晶粒もしくは結晶性クラスター濃度」であるか、あるいは、「特定領域1の結晶粒もしくは結晶性クラスターの平均サイズ>その周囲の領域2の結晶粒もしくは結晶性クラスターの平均サイズ」であるように特定領域1およびその周囲の領域2を設けることである。たとえば、周囲の領域2を完全な非晶質、特定領域1を結晶粒もしくは結晶性クラスターを含む非晶質とすればよい。あるいは、特定領域1がこれと同じ体積かそれ以上の単一の結晶粒により占められており、他方その周囲の領域2は特定領域1の単一の結晶粒より十分小さい結晶粒群としてもよい。
【0038】
第二の方法は、「特定領域1の固相結晶化における結晶核形成自由エネルギー障壁の大きさ<その周囲の領域2の固相結晶化における結晶核形成自由エネルギー障壁の大きさ」であるように特定領域1およびその周囲の領域2を設けることである。第一の方法のように出発薄膜3が予め結晶粒もしくは結晶性クラスターを含まず完全な非晶質であっても、上記結晶核形成自由エネルギー障壁に関する条件が満たされていれば、出発薄膜3の溶融前に発生する固相結晶化過程において、特定領域1に優先的に結晶核形成が生じ、溶融の直前には結果として第一の方法における条件と同じ状況を与えることができる。固相結晶化における結晶核形成自由エネルギー障壁は、元素組成比、含有不純物濃度、表面吸着物質、出発薄膜が接している基体との界面状態などの物性に依存し、これらの何れかを特定領域1およびその周囲の領域2の間で違えることにより、結晶核形成自由エネルギー障壁の大きさに相異を与えることができる。
【0039】
第三の方法は、「特定領域1の膜厚>その周囲の領域2の膜厚」となるように特定領域1およびその周囲の領域2を設けることである。出発薄膜3が結晶粒もしくは結晶性クラスターを含むか否かに関わらず、膜厚の増大により同じ吸収エネルギー密度に対して蓄積エネルギー密度が減少するために、この方法が有効となる。周囲の領域2に対する特定領域1の膜厚の増加は、出発薄膜3のふたつある表面のいずれの方向に凸であっても、あるいは双方に凸であってもよい。また、この第三の方法を第一もしくは第二の方法と併用することも可能である。
【0040】
第四の方法は、薄膜からの熱流出が十分に速い場合、「特定領域からの熱流出速度>その周囲の領域からの熱流出速度」とすることである。たとえば、出発薄膜3が基体と接している場合、特定領域1と基体の界面における熱抵抗が周囲の領域2と基体の界面における熱抵抗より小さいか、特定領域1直下の基体内部に周囲より熱伝導率の高い部材を埋め込むことで両領域の熱流出速度を違えることができる。
【0041】
第五の方法は、吸収エネルギー密度を変えて「特定領域1の吸収エネルギー密度<その周囲の領域2の吸収エネルギー密度」とすることである。たとえば、特定領域1の投入エネルギーの吸収係数がとその周囲の領域2のそれより低ければ直接この手段を用いることができる。あるいは、投入エネルギー4がビーム状で出発薄膜3に投入され、かつ、その反射手段もしくは反射防止手段となる薄膜が利用可能なら、それらを特定領域1もしくはその周囲の領域のエネルギー投入側表面上に設ければよい。さらに第六の方法として、投入エネルギー密度そのものを変えて、「特定領域1の投入エネルギー密度<その周囲の領域2の投入エネルギー密度」とする直接的な方法もとり得る。たとえば、投入エネルギー4がその走査とともに強度変調可能であれば、特定領域1を通過する期間だけ投入エネルギーを減じればよいし、投入エネルギー4がビーム状であり、その減衰手段となる部分透過マスクが利用可能ならば、これを特定領域1上にのみ設ければよい。
【0042】
次に、「特定領域から成長する結晶粒もしくは結晶性クラスターが、特定領域の溶融後の再固化において溶融相から核形成した結晶粒もしくは結晶性クラスターである」場合を、図2を用いて説明する。はじめに図2(a)に示すように薄膜に特定領域1および特定領域の周囲の領域2を設け、出発薄膜3とする。これに溶融のための投入エネルギー4を図面上特定領域1の左に位置する特定領域の周囲の領域2の一部に局所的に投入し、一部領域5を溶融させる〔図2(b)〕。次に溶融のための投入エネルギー4の投入位置を移動させることにより、溶融した一部領域5を図面上右に位置する特定領域1の方向へ移動させる〔図2(c)〕。このとき、溶融された特定領域の周囲の領域2は完全溶融するので、溶融のための投入エネルギー4が通過した後もしばらくの間溶融状態を保つ。その後、過冷却度がおおきくなると、溶融相からの自発的結晶核形成が爆発的に生じ、ランダムな結晶粒群による再固化領域6が形成される〔図2(d)〕。このランダムな結晶粒群による再固化領域6の多結晶構造は、上述した従来技術により得られるものと原理的に同じである。一方、溶融した一部領域5の移動によりその全域が最大溶融状態となった特定領域1も完全溶融する〔図1(d)〕。しかし、溶融した一部領域5のさらなる移動により冷却が始まるや否や、特定領域1には溶融相から核形成した結晶粒もしくは結晶性クラスター7が発生する〔図1(e)〕。結晶粒もしくは結晶性クラスター7はさらに成長する〔図1(f)〕が、他方、ランダムな結晶粒群による再固化領域6も溶融した一部領域5の移動方向にその領域を拡大する〔図1(f)〕。溶融した一部領域5の移動とともにさらに成長した結晶粒もしくは結晶性クラスター7は、薄膜の表面にまで達した後、専ら横方向成長する〔図1(g)〕が、溶融した一部領域5の移動方向とは逆方向の横方向成長は、やがて対向するランダムな結晶粒群による再固化領域6と衝突し、結晶粒界8をなす〔図1(g)〕。一方、溶融した一部領域5の移動方向には常に固液界面9が存在するため、溶融した一部領域5の移動を追うようにこの固液界面9が移動し、結晶粒もしくは結晶性クラスター7は成長を続ける〔図1(h)〕。結果として、特定領域1近傍に端を発し、溶融した一部領域5の移動方向に横方向成長することで位置を制御された結晶粒10を得る〔図1(i)〕。特定領域1の空間的配置と結晶粒10からなる位置制御された結晶粒群の関係は図1において説明したとおりである。
【0043】
上述のとおり、図2の特定領域1およびその周囲の領域2は、溶融のための投入エネルギー4に対して共に完全溶融する。すなわち、特定領域1およびその周囲の領域2の蓄積エネルギー密度がそれぞれの臨界エネルギー密度より大きい。溶融後の冷却過程において、特定領域1にのみ優先的に結晶粒もしくは結晶性クラスター7の核形成を生じさせるには、「特定領域1における結晶核形成頻度>>周囲の領域2における結晶核形成頻度」なる状況を設定すればよい。結晶核形成頻度、J、は結晶核形成自由エネルギー障壁、W、と温度、T、の比の指数関数に比例する(J∝exp(−W/kT)、k:ボルツマン定数)ので、上記の状況を実現するための方法として、下記の二つが考えられる。
【0044】
第一の方法は、特定領域1の再固化における溶融相からの結晶核形成自由エネルギー障壁を、その周囲の領域2の再固化における溶融相からの結晶核形成自由エネルギー障壁より低くすることである。両領域の結晶核形成自由エネルギー障壁の間に相異をもたらすには、元素組成比、含有不純物濃度、表面吸着物質、出発薄膜が接している基体との界面状態のいずれかを違えればよい。
【0045】
第二の方法は、少なくとも出発薄膜の特定領域1が最大溶融に達した後の再固化過程において、特定領域1の温度をこれと接する周囲の領域2の温度より低くすることである。下記のとおり、これを実現するための二通りの手段がある。
【0046】
第一の手段は、薄膜からの熱流出が十分に速い場合、「特定領域からの熱流出速度>その周囲の領域からの熱流出速度」とする手段である。たとえば、出発薄膜3が基体と接している場合、特定領域1と基体の界面における熱抵抗が周囲の領域2と基体の界面における熱抵抗より小さいか、特定領域1直下の基体内部に周囲より熱伝導率の高い部材を埋め込むことで両領域の熱流出速度を違えることができる。ただし、図1にて説明した例とは異なり、特定領域1の蓄積エネルギー密度も完全溶融の臨界エネルギー密度を越えていなければならない。
【0047】
第二の手段は、吸収エネルギー密度を変えて「特定領域1の吸収エネルギー密度<その周囲の領域2の吸収エネルギー密度」とすることである。さらに第六の方法として、投入エネルギー密度そのものを変えて、「特定領域1の投入エネルギー密度<その周囲の領域2の投入エネルギー密度」とする直接的な方法もとり得る。
【0048】
次に、以上のような溶融再固化工程によって形成された結晶性薄膜を用いる、本発明の素子、回路、および装置の実施形態の典型的一例を、図3を用いて説明する。図3は、半導体材料からなる結晶性薄膜に設けたMOS型薄膜トランジスタ(TFT)を主たる構成要素とするスイッチング回路を有する画像表示装置の一部断面を示している。ここで、1001はスイッチング回路の範囲、1002および1003はそれぞれ1001のスイッチング回路を構成する第一および第二のTFT、1000は基体、10および110は図1および図2の10に対応する特定領域から成長した位置制御された結晶粒、11および111は結晶粒10および110内に形成したゲート領域、12および112はゲート絶縁膜、13および113はゲート電極、14および114はソース電極、15は第一のTFT1002のドレイン電極兼第二のTFT1003のゲート配線電極兼前二者間の電極配線、16は第一のTFT1002のゲート配線電極、17は層間絶縁層、18は画素電極、19は発光層もしくは光透過度可変層、20は上部電極である。結晶粒10および110は、図1もしくは図2に示した工程において複数の特定領域1から成長した結晶粒の一部をそれぞれパターニングすることにより形成することができる。
【0049】
本発明の結晶性薄膜では、結晶粒10の位置および大きさが、特定領域1を設ける位置および溶融した一部領域の移動方向と距離によって決定され既知である。従って、結晶粒10を活性領域とする素子を形成するに際して、結晶粒10を用いる素子の活性領域を結晶粒10の位置と容易に関係させることができる。すなわち図3に例示するように、本装置の素子であるTFT1002の活性領域であるゲート領域11を結晶粒10の内部に限定することが可能である。この場合、TFT1002の活性領域内に結晶粒界は含まれないために、素子特性が向上するばかりでなく、複数の素子間のバラツキを抑制することができる。
【0050】
図3のスイッチング回路では、ゲート電極13により制御される第一のTFT1002のドレイン電極15は配線を介して第二のTFT1003のゲート電極113に接続され、それら電極や配線は層間絶縁層17によって互いに絶縁されている。即ちゲート電極113により制御される第二のTFT1003は、第一のTFT1001のドレイン電圧によって制御される。このような回路では、第一及び第二のTFTの素子特性が精密に制御されていることが肝要であり、活性領域に結晶粒界を含まない素子からなる本回路はその条件を満たすことができる。
【0051】
図3の画像表示装置では、画素電極18及び上部電極20によって発光層もしくは光透過度可変層19に印加される電圧もしくは注入される電流は、第一のTFT1002のドレイン電圧によって制御される第二のTFT1003のドレイン電圧もしくは電流によって決定される。そして、発光層もしくは光透過度可変層19の発光強度もしくは光透過度は、そこに印加される電圧もしくは注入される電流によって制御される。本例の画像表示装置は、このような素子構成を一画素の表示単位とし、これを格子状に複数個配することで構成されている。画像表示装置として均一な光強度及び時間応答を得るためには、各画素間の特性のバラツキを抑制することが肝要であり、活性領域に結晶粒界を含まない素子からなる回路を用いる本装置はその条件を満たすことができる。
【0052】
【実施例】
[実施例1]
本発明第一の実施例として、図1に示した工程によって形成される結晶性シリコン薄膜の第一の例を記す。
【0053】
はじめに前駆物質として、低圧化学気相堆積法により結晶性シリコンクラスターを含む膜厚50nmの非晶質シリコン薄膜を、基体である溶融石英基板上に堆積した。この非晶質シリコン薄膜表面にフォトレジストを塗布し、これをフォトリソグラフィー工程で、5μm間隔毎に1μm角のフォトレジスト島が一直線上に残るようにパターニングした。この表面からフォトレジスト島をマスクにして、シリコンイオンを加速エネルギー25keV、ドーズ1×1015cm−2の条件にて注入した。その後マスクであるフォトレジスト島を除去し、これを出発薄膜とした。この出発薄膜の結晶性を調べたところ、フォトレジスト島マスクを設けた5μm間隔で一直線に並んだ1μm角の領域では結晶性シリコンクラスターを含む非晶質シリコン薄膜から変化がなかったのに対して、それ以外のシリコンイオンが注入された領域では結晶性シリコンクラスターは観察されず、その観察の範囲では完全な非晶質であった。
【0054】
次に、レーザーダイオード励起の連続発振Nd:YVO3固体レーザーの二次高調波光(波長:532nm)を幅20μm、長さ400μmのスポットに整形し、このレーザービームをスポットの幅の方向に200mms−1の走査速度で走査しながら出発薄膜に照射した。レーザービームの照射に際しては、スポットの長さ方向と、出発薄膜のフォトレジスト島マスクを設けた1μm角の領域が5μm間隔で一直線に並ぶ方向を一致させた。また、レーザービームの走査は出発薄膜のフォトレジスト島マスクを設けた1μm角の領域が5μm間隔で並ぶ直線の手前100μmの位置から開始し、そこから200μm走査したところで終了し、結晶性薄膜を得た。
【0055】
得られた結晶性薄膜を観察したところ、レーザービームを走査した約200μm×400μm角の領域のみが結晶化していた。この結晶化領域はそれぞれ約100μm×400μm角の二つの領域に別れており、それらの境界がレーザービームスポットの長さ方向と平行な、出発薄膜のフォトレジスト島マスクを設けた1μm角の領域が5μm間隔で並ぶ直線上に位置していた。この境界のレーザービーム走査の開始側で結晶粒構造をさらに詳細に観察すると、結晶粒界の主成分方向こそレーザービームの走査方向と一致するもののその異方性は弱く、結晶粒界は衝突と分岐を繰り返し、またそれら結晶粒界の間隔は平均値1.5μmを中心に広く分布していた。一方、レーザービームが境界を通過した後の領域では、5μm幅の等間隔に並んだ結晶粒界がレーザービームの走査方向と平行に並んでいた。換言するなら、幅5μm×長さ100μmの結晶粒で埋め尽くされていると言える。これら結晶粒は、上記の境界近傍においてそれぞれ5μm間隔で並ぶ直線上の点列に収束していることから、出発薄膜にフォトレジスト島マスクを設けた1μm角の領域からレーザービームの走査とともに横方向成長したものと考えられる。
【0056】
本実施例の出発薄膜において、フォトレジスト島でマスクされていた1μm角の領域では、シリコンイオンが注入された周囲の領域より結晶性クラスター濃度のサイズ分布の平均値と濃度が高く、それぞれ図1における「特定領域1」と「周囲の領域2」をなしている。また溶融再固化後の結晶性薄膜においては、フォトレジスト島でマスクされていた1μm角の領域からレーザービームの走査とともに横方向成長した幅5μm×長さ100μmの結晶粒が図1における位置制御された結晶粒10に、フォトレジスト島でマスクされていた1μm角の領域が並ぶ境界よりレーザービーム走査の開始側の結晶粒群が図1におけるランダムな結晶粒群による再固化領域6に対応する。ちなみにシリコンイオンを注入した薄膜と注入しない薄膜に関して、同じレーザービームの走査による溶融再固化過程を実時間観察したところ、前者は完全溶融したのに対して、後者では不完全溶融であることが確認された。
【0057】
即ち本実施例は、フォトレジスト島でマスクされていた1μm角の領域を特定領域とする出発薄膜が、結晶性薄膜と連続する結晶構造をもたない溶融石英基板表面にのみ接し、レーザービームスポットによって出発薄膜の一部領域を局所的に溶融し、レーザービームスポットの走査によって局所的に溶融した一部領域を連続的に移動し特定領域を通過させる結晶性薄膜の製造例であって、特定領域の結晶粒もしくは結晶性クラスター濃度(有限)がその周囲の領域の結晶粒もしくは結晶性クラスター濃度(0)よりも大きく、かつ、特定領域の結晶粒もしくは結晶性クラスターの平均サイズ(有限)がその周囲の領域の結晶粒もしくは結晶性クラスターの平均サイズ(0)よりも大きいために、特定領域の完全溶融の臨界エネルギー密度が、その周囲の領域の完全溶融の臨界エネルギー密度より大きい出発薄膜に、特定領域の完全溶融の臨界エネルギー密度より小さく、かつ、その周囲の領域の完全溶融の臨界エネルギー密度より大きい蓄積エネルギー密度をもたらすレーザービームを照射することで、特定領域に結晶粒もしくは結晶性クラスターが融け残り、これを種結晶として特定領域から所望の数(1)の結晶粒もしくは結晶性クラスターが成長した結果、特定領域の空間的位置の制御により、結晶性薄膜における連続した結晶構造を有する結晶粒の少なくとも一部の空間的位置が制御された例である。
【0058】
[実施例2]
本発明第二の実施例として、図1に示した工程によって形成される結晶性シリコン薄膜の第二の例を記す。
【0059】
はじめに前駆物質として、プラズマ化学気相堆積法により膜厚100nmの結晶性シリコンクラスターを含まない水素化非晶質シリコン薄膜を、基体である非晶質酸化シリコン表面を有するガラス基板上に堆積し、熱処理により脱水素処理を行った。この非晶質シリコン薄膜表面にスパッタ法で厚さ150nmの非晶質酸化シリコン膜を堆積し、これをフォトリソグラフィー工程で、10μm×50μmの矩形の格子点上に1μm角の非晶質酸化シリコン島が残るようにパターニングした。この表面から非晶質酸化シリコン島をマスクにして、シリコンイオンを加速エネルギー40keV、ドーズ2×1015cm−2の条件にて注入し、その後マスクである非晶質酸化シリコン島を除去した。次に、半値幅30nsのパルス光を出力するKrFエキシマレーザー光を400mJ・cm−2のエネルギー密度で非晶質シリコン薄膜に照射して溶融再固化させ、これを出発薄膜とした。この出発薄膜では、1μm角の非晶質酸化シリコン島のマスクが設けられていた10μm×50μmの矩形の格子点上に粒径約1.5μmの単一結晶粒が成長しており、その周囲は平均粒径50nm程度の微細な結晶粒がランダムに埋めていた。
【0060】
次に、レーザーダイオード励起の連続発振Nd:YVO3固体レーザーの二次高調波光(波長:532nm)を幅10μm、長さ500μmのスポットに整形し、このレーザービームをスポットの幅の方向に50mms−1の走査速度で走査しながら出発薄膜に照射した。レーザービームの照射に際しては、スポットの長さ方向と、出発薄膜の粒径約1.5μmの単一結晶粒が並ぶ10μm×50μmの矩形の格子点の短軸方向を一致させた。また、レーザービームの連続した走査は基体上の出発薄膜の端から開始し、もう一方の端まで及んだ後第一走査を終え、引き続き走査方向とは垂直方向に500μmずらした位置から次の走査を開始する工程を繰り返すことにより、出発薄膜全域を溶融再固化させて結晶性薄膜を得た。
【0061】
得られた結晶性薄膜を観察したところ、薄膜全域が平均幅10μm×長さ50μmの結晶粒で埋め尽くされており、かつ、それらは矩形の格子状に配列していた。それら結晶粒を子細に観察すると、矩形というよりは、長さ50μmの方向の両端にそれぞれ凸部と凹部をもつシェブロン形状を有していることが分かった。さらに、そのシェブロン形状の凸部にはマスクイオン注入に用いた1μm角の非晶質酸化シリコン島の痕跡らしきものが観察された。一方、本実施例の出発薄膜の形成工程において、シリコンイオン注入を行った非晶質シリコン薄膜と行わない非晶質シリコン薄膜を用意し、それぞれ上記条件にてKrFエキシマレーザー光を照射したものに、Nd:YVO3固体レーザーの二次高調波光を蒸気条件にて走査したときの溶融再固化過程を実時間観察したところ、前者は完全溶融し、後者は不完全溶融したことが確認された。以上の事実を総合すると、本実施例の結晶性薄膜を構成するシェブロン形状の結晶粒は、出発薄膜の10μm×50μmの矩形の格子点にあった粒径約1.5μmの単一結晶粒が融け残った結晶粒を種結晶とし、ここからレーザービームの走査とともに横方向成長したものと考えられる。したがって、出発薄膜の10μm×50μmの矩形の格子点にあった粒径約1.5μmの単一結晶粒の領域の平均粒径(1.5μm)が、その周囲の領域の平均粒径(50nm)より大きく、それぞれ図1における「特定領域1」と「周囲の領域2」をなしていると言える。
【0062】
即ち本実施例は、特定領域の結晶粒もしくは結晶性クラスターの平均サイズ(1.5μm)がその周囲の領域の結晶粒もしくは結晶性クラスターの平均サイズ(50nm)よりも大きいために、特定領域の完全溶融の臨界エネルギー密度が、その周囲の領域の完全溶融の臨界エネルギー密度より大きくなった点において[実施例1]と異なる例である。
【0063】
[実施例3]
本発明第三の実施例として、図1に示した工程によって形成される結晶性シリコン薄膜の第三の例を記す。
【0064】
はじめに、SUS基板上に膜厚1μmの酸化シリコン膜を堆積し基体とした。この基体上に、[実施例2]と同じ前駆物質を膜厚50nmで形成し、さらに[実施例2]と同じマスクイオン注入工程を施して、出発薄膜とした。
【0065】
次に、この出発薄膜に対して、レーザービームの走査速度のみを100mms−1に速めた以外は[実施例2]と同じレーザービーム照射を施した。
【0066】
得られた結晶性薄膜を構成する結晶粒形状も、ほぼ[実施例2]の結晶性薄膜に等しかった。
【0067】
本実施例の出発薄膜において、非晶質酸化シリコン島でマスクされていた1μm角の領域とそれ以外の領域は、ともに結晶性クラスターを含まない非晶質である。しかし同じ出発薄膜を、窒素雰囲気中600℃で等温的にアニールしたところ、非晶質酸化シリコン島でマスクされていた1μm角の領域において優先的に固相結晶化の始まることが確認された。これは、非晶質酸化シリコン島でマスクされていた1μm角の領域では固相結晶化における結晶核形成自由エネルギー障壁が、その周囲の領域のそれより低いことを示している。その起因としては、出発薄膜と基体の間の界面近傍に達する加速エネルギー40keVのシリコンイオン注入によって、出発薄膜が接している基体との界面状態が変化したことが考えられる。また、シリコンイオンを注入した薄膜と注入しない薄膜に関して、同じレーザービームの走査による溶融再固化過程を実時間観察したところ、前者は完全溶融したのに対して、後者では不完全溶融であることが確認された。これらの事実から、本実施例においても、非晶質酸化シリコン島でマスクされていた1μm角の領域とそれ以外の領域がそれぞれ図1における「特定領域1」と「周囲の領域2」をなしていると言える。
【0068】
即ち本実施例は、特定領域の内外で上記出発薄膜が接している基体との界面状態が異なることによって、特定領域の固相結晶化における結晶核形成自由エネルギー障壁が、その周囲の領域の固相結晶化における結晶核形成自由エネルギー障壁より低くなった結果、特定領域の完全溶融の臨界エネルギー密度が、その周囲の領域の完全溶融の臨界エネルギー密度より大きくなった点において[実施例1]と異なる例である。
【0069】
[実施例4]
本発明第四の実施例として、図1に示した工程によって形成される結晶性シリコン薄膜の第四の例を記す。
【0070】
はじめに基体として、膜厚2μmの酸化シリコン膜でコートされたプラスチックフィルムを用意し、この表面に真空蒸着法で膜厚50nmの非晶質シリコン薄膜を前駆物質として堆積した。次に、集束イオンビーム描画法を用いて、2価の錫イオンを加速エネルギー110keV、ドーズ1×1015cm−2の条件にて、5μm間隔毎一直線上にならぶ0.5μm角の領域に注入し、出発薄膜とした。すなわち、本実施例の出発薄膜においてはそれら領域のみに、シリコンに対する不純物となる錫が含まれる。
【0071】
次に、この出発薄膜に対して、[実施例1]と同じレーザービーム照射を施した結果、得られた結晶性薄膜は、これを構成する結晶粒形状も、ほぼ[実施例1]と同等であった。
【0072】
得られた結晶性薄膜の局所的な元素分析を行ったところ、境界よりレーザービーム走査方向に延びる幅5μm×長さ100μmの結晶粒が、境界近傍においてそれぞれ収束する5μm間隔の各点を中心として、高濃度の錫が検出された。錫が検出されたこれらの個所は、出発薄膜において錫を注入した5μm間隔毎一直線上にならぶ0.5μm角の領域に対応することに疑問の余地は無い。一方、同じ出発薄膜を窒素雰囲気中600℃で等温的にアニールしたところ、錫を注入した0.5μm角の領域において優先的に固相結晶化の始まることも確認された。さらに、錫を注入した薄膜としない薄膜に関して、同じレーザービームの走査による溶融再固化過程を実時間観察したところ、前者は不完全溶融したのに対して、後者では完全溶融であることが確認された。以上の事実から、本実施例において位置制御された幅5μm×長さ100μmの結晶粒は、錫を注入した5μm間隔毎一直線上にならぶ0.5μm角の領域において優先的に固相で核形成した結晶粒が、溶融時に融け残り、これを種結晶としてレーザービームの走査とともに横方向成長したものであると判断される。したがって、錫を注入した0.5μm角の領域とそれ以外の領域が、それぞれ図1における「特定領域1」と「周囲の領域2」に対応する。
【0073】
即ち本実施例は、特定領域の含有不純物濃度(錫:有限)がその周囲の領域の含有不純物濃度(錫:検出限界以下)と異なるために、特定領域の固相結晶化における結晶核形成自由エネルギー障壁が、その周囲の領域の固相結晶化における結晶核形成自由エネルギー障壁より低くなった結果、特定領域の完全溶融の臨界エネルギー密度が、その周囲の領域の完全溶融の臨界エネルギー密度より大きくなった点において[実施例1]と異なる例である。
【0074】
[実施例5]
本発明第五の実施例として、図1に示した工程によって形成される結晶性シリコン薄膜の第五の例を記す。
【0075】
はじめに[実施例4]と同じ基体と前駆物質を用意し、[実施例1]と同じ工程およびパターンでフォトレジストマスクを形成した。そしてこの上に、再び真空蒸着法でニッケルを数原子層分堆積した後、フォトレジストマスクを剥離するリフトオフ法で、5μm間隔毎一直線上にならぶ1μm角の領域の非晶質シリコン薄膜上にのみニッケルが表面吸着している出発薄膜を形成した。
【0076】
次に、この出発薄膜に対して、[実施例1]と同じレーザービーム照射を施した結果、得られた結晶性薄膜は、これを構成する結晶粒形状も、ほぼ[実施例1]と同等であった。
【0077】
本実施例では、おそらく出発薄膜の一部に表面吸着していた絶対量が少ないニッケルが薄膜中に拡散したために、[実施例4]のように得られた結晶性薄膜において不純物としてニッケルの局在を検証することは困難であった。しかし、[実施例4]と同じ等温アニールの実験では、ニッケルが表面吸着していた1μm角の領域において優先的な固相結晶化が確認されたことから、溶融再固化で位置制御された幅5μm×長さ100μmの結晶粒は、それら領域を起点としているものと考えられる。また、ニッケルを蒸着した薄膜としない薄膜に関して、同じレーザービームの走査による溶融再固化過程を実時間観察したところ、前者は不完全溶融したのに対して、後者では完全溶融であることが確認された。以上の事実から、本実施例において位置制御された幅5μm×長さ100μmの結晶粒は、ニッケルを蒸着した5μm間隔毎一直線上にならぶ1μm角の領域において優先的に固相で核形成した結晶粒が、溶融時に融け残り、これを種結晶としてレーザービームの走査とともに横方向成長したものであると判断される。したがって、ニッケルを蒸着した1μm角の領域とそれ以外の領域が、それぞれ図1における「特定領域1」と「周囲の領域2」に対応する。
【0078】
即ち本実施例は、特定領域の表面吸着物質(ニッケルあり)がその周囲の領域の表面吸着物質(ニッケルなし)が異なるために、特定領域の固相結晶化における結晶核形成自由エネルギー障壁が、その周囲の領域の固相結晶化における結晶核形成自由エネルギー障壁より低くなった結果、特定領域の完全溶融の臨界エネルギー密度が、その周囲の領域の完全溶融の臨界エネルギー密度より大きくなった点において[実施例1]と異なる例である。
【0079】
[実施例6]
本発明第六の実施例として、図1に示した工程によって形成される結晶性シリコン薄膜の第六の例を記す。
【0080】
はじめに[実施例3]と同じ基体と前駆物質を用意し、フォトリソグラフィー工程およびドライエッチング工程により、10μm×50μmの矩形の格子点上に配した1μm角の領域を除いて、非晶質シリコン薄膜の膜厚をその表面から20%減じた出発薄膜を得た。すなわちこの出発薄膜の膜厚は、10μm×50μmの矩形の格子点上に配した1μm角の領域において100nm、それら以外の領域では80nmである。
【0081】
次に、この出発薄膜に対して、[実施例3]と同じレーザービーム照射を施した結果、結晶粒形状がほぼ[実施例3]と等しい結晶性薄膜を得た。
【0082】
得られた結晶性薄膜の結晶粒構造を観察したところ、平均幅10μm×長さ50μmのシェブロン形状結晶粒の凸部先端には他より薄膜の厚さ方向に盛り上がった領域が見られた。これら盛り上がった領域は、出発薄膜において10μm×50μmの矩形の格子点上に配した周囲より膜厚の大きい1μm角の領域の立体形状が、溶融再固化の過程における質量移動のために、なだらかになった結果であると推察される。また、膜厚100nmの薄膜と80nmの薄膜に対して、同じレーザービームの走査による溶融再固化過程を実時間観察したところ、前者は不完全溶融したのに対して、後者では完全溶融であることが確認された。本実施例の結晶性薄膜を構成するシェブロン形状の結晶粒は、膜厚の厚い領域に融け残った結晶粒を種結晶とし、ここからレーザービームの走査とともに横方向成長したものと考えられる。したがって、出発薄膜の10μm×50μmの矩形の格子点にあった1μm角の領域とその周囲の領域が、それぞれ図1における「特定領域1」と「周囲の領域2」をなしていると言える。
【0083】
即ち本実施例は、特定領域の膜厚(100nm)がその周囲の領域の膜厚(80nm)より大きいために、特定領域における溶融のための蓄積エネルギー密度の最大値が該特定領域の完全溶融の臨界エネルギー密度より小さく、その周囲の領域における溶融のための蓄積エネルギー密度の最大値が該周囲の領域の完全溶融の臨界エネルギー密度より大きくなった点において[実施例1]と異なる例である。
【0084】
[実施例7]
本発明第七の実施例として、図1に示した工程によって形成される結晶性シリコン薄膜の第七の例を記す。
【0085】
はじめに、単結晶シリコン基板上に、プラズマ化学気相堆積法で膜厚10nmの窒化シリコン薄膜を、次いで膜厚1μmの酸化シリコン膜を堆積し、フォトリソグラフィー工程およびウェットエッチング工程により、この酸化シリコン膜の10μm×50μmの矩形の格子点に上面直径2μmすり鉢状のディンプルを形成してこれを基体とした。これらすり鉢状ディンプルの中心にある底部には窒化シリコン薄膜の表面がわずかに直径約50nmほど露出しているばかりであった。この基体上に[実施例3]と同じ前駆物質を堆積し、これを出発薄膜とした。
【0086】
次に、この出発薄膜に対して、レーザービームの走査速度のみを70mms−1に減速した以外は[実施例3]と同じレーザービーム照射を施した結果、結晶粒形状がほぼ[実施例3]と等しい結晶性薄膜を得た。
【0087】
得られた結晶性薄膜を表面から観察したところ、平均幅10μm×長さ50μmのシェブロン形状結晶粒の凸部先端には外周直径2μmほどの凹んだ領域が見られた。この部分の断面観察の結果、これら凹んだ領域は出発薄膜の基体に形成したすり鉢状のディンプルに対応することが明らかとなった。一方、同じ出発薄膜に対する窒素雰囲気中600℃の等温的アニールでは、固相の結晶核形成はランダムな位置と時刻に発生するだけで、すり鉢状ディンプル部における優先性は見られなかった。また、単結晶シリコン基板上に膜厚10nmの窒化シリコン薄膜のみを設けた試験基体と、この上にさらに膜厚1μmの酸化シリコン膜を設けた試験基体を用意し、それぞれに本実施例の前駆物質を堆積して、同じレーザービームの走査による溶融再固化過程を実時間観察したところ、前者は不完全溶融であって後者は完全溶融することと、前者の薄膜の到達最高温度が後者より100℃近く低いことが確認された。これらの事実から、すり鉢状ディンプルの周囲の領域では非晶質シリコン薄膜が単結晶シリコン基板と十分に厚い酸化シリコン膜によって断熱されているのに対して、すり鉢状ディンプルの底部において、熱伝導率の大きい単結晶シリコン基板と非晶質シリコン薄膜のはわずか10nm厚の窒化シリコン薄膜で隔てられているに過ぎず、この部分から加熱された非晶質シリコン薄膜の熱が単結晶シリコン基板へ高速に流出したために、ここに固相で結晶化した結晶粒もしくは結晶性クラスターが融け残り、これを種結晶としてレーザービームの走査とともに横方向成長したものが平均幅10μm×長さ50μmのシェブロン形状結晶粒であると考えられる。したがって、出発薄膜の10μm×50μmの矩形の格子点にあったすり鉢状ディンプルの領域とその周囲の領域が、それぞれ図1における「特定領域1」と「周囲の領域2」をなしていると言える。
【0088】
即ち本実施例は、特定領域からの熱流出速度がその周囲の領域からの熱流出速度より大きいために、特定領域における溶融のための蓄積エネルギー密度の最大値が該特定領域の完全溶融の臨界エネルギー密度より小さく、その周囲の領域における溶融のための蓄積エネルギー密度の最大値が該周囲の領域の完全溶融の臨界エネルギー密度より大きくなった点において[実施例1]と異なる例である。
【0089】
[実施例8]
本発明第八の実施例として、図1に示した工程によって形成される結晶性シリコン薄膜の第八の例を記す。
【0090】
はじめに、[実施例3]と同じ基体および前駆物質を用意し、この上に[実施例2]と同じ工程で、膜厚150nmで1μm角の酸化シリコン島を10μm×50μmの矩形の格子点に配して、これを出発薄膜とした。
【0091】
次に、この出発薄膜に酸化シリコン島を残したまま、レーザービームの走査速度のみを80mms−1に減速した以外は[実施例3]と同じレーザービーム照射を施した結果、結晶粒形状がほぼ[実施例3]と等しい結晶性薄膜を得た。
【0092】
得られた結晶性薄膜を観察したところ、平均幅10μm×長さ50μmのシェブロン形状結晶粒の凸部先端には1μm角の酸化シリコン島が残留していた。同じ出発薄膜に対する窒素雰囲気中600℃の等温的アニールでは、固相の結晶核形成はランダムな位置と時刻に発生するだけで、1μm角の酸化シリコン島下の領域における優先性は見られなかった。一方、膜厚150nmの酸化シリコン薄膜を全面に設けた薄膜と設けない薄膜に関して、同じレーザービームの走査による溶融再固化過程を実時間観察したところ、前者は不完全溶融であるが後者は完全溶融することが確認された。膜厚150nmの酸化シリコン薄膜は波長532nmのレーザービームの強度のうち23%程度を反射する。これらから、本実施例では、1μm角の酸化シリコン島を設けた領域の非晶質シリコン薄膜に投入されるレーザービームのエネルギーがその周囲の領域よりその程度少ないと考えられる。その結果、1μm角の酸化シリコン島を設けた非晶質シリコン薄膜の領域への投入エネルギーがその臨界投入エネルギーを下回ったため、ここに固相で結晶化した結晶粒もしくは結晶性クラスターが融け残り、これを種結晶としてレーザービームの走査とともに横方向成長したものが平均幅10μm×長さ50μmのシェブロン形状結晶粒となった。したがって、出発薄膜の10μm×50μmの矩形の格子点にあった1μm角の酸化シリコン島を設けた非晶質シリコン薄膜の領域とその周囲の領域が、それぞれ図1における「特定領域1」と「周囲の領域2」をなしていると言える。
【0093】
即ち本実施例は、特定領域への投入エネルギー密度がその周囲の領域への投入エネルギー密度より小さいために、特定領域における吸収エネルギー密度がその周囲の領域の吸収エネルギー密度より小さくなった結果、特定領域における溶融のための蓄積エネルギー密度の最大値が該特定領域の完全溶融の臨界エネルギー密度より小さく、その周囲の領域における溶融のための蓄積エネルギー密度の最大値が該周囲の領域の完全溶融の臨界エネルギー密度より大きくなった点において[実施例1]と異なる例である。
【0094】
[実施例9]
本発明第九の実施例として、図2に示した工程によって形成される結晶性シリコン薄膜の第一の例を記す。
【0095】
レーザービームの走査速度のみを70mms−1に減速した以外は、[実施例3]と同じ出発薄膜とレーザービーム照射により、[実施例3]と同等の結晶性薄膜を得た。
【0096】
シリコンイオンを注入した薄膜と注入しない薄膜に関して、本実施例のレーザービームの走査による溶融再固化過程を実時間観察したところ、[実施例3]の場合と異なり両者とも完全溶融することが確認された。ただし、溶融後の再固化の開始時刻は後者の方が早かった。その起因としては、出発薄膜と基体の間の界面近傍に達する加速エネルギー40keVのシリコンイオン注入によって、出発薄膜が接している基体との界面状態が変化したことにより、前者の再固化における溶融相からの結晶核形成自由エネルギー障壁が増大したことが考えられる。したがって、本実施例では、非晶質酸化シリコン島でマスクされていた1μm角の領域とそれ以外の領域がそれぞれ図2における「特定領域1」と「周囲の領域2」をなしている。
【0097】
即ち本実施例は、特定領域の内外で上記出発薄膜が接している基体との界面状態が異なることによって、特定領域の再固化における溶融相からの結晶核形成自由エネルギー障壁が、その周囲の領域の再固化における溶融相からの結晶核形成自由エネルギー障壁より低くなった結果、溶融後の再固化工程において結晶粒もしくは結晶性クラスターが優先的に特定領域に核形成し、これを種結晶として横方向成長したために、特定領域およびその周辺の領域ともども完全溶融したにも関わらず、特定領域から所望の数の結晶粒もしくは結晶性クラスターが成長した例である。
【0098】
[実施例10]
本発明第十の実施例として、図2に示した工程によって形成される結晶性シリコン薄膜の第二の例を記す。
【0099】
レーザービームの走査速度のみを150mms−1に減速した以外は、[実施例4]と同じ出発薄膜とレーザービーム照射により、[実施例4]と同等の結晶性薄膜を得た。
【0100】
錫を注入した薄膜と注入しない薄膜に関して、本実施例のレーザービームの走査による溶融再固化過程を実時間観察したところ、[実施例4]の場合と異なり両者とも完全溶融することが確認された。ただし、溶融後の再固化の開始時刻は前者の方が早かった。その起因としては、不純物である錫の注入によって、前者の再固化における溶融相からの結晶核形成自由エネルギー障壁が低下したことが考えられる。したがって、本実施例では、錫を注入した1μm角の領域とそれ以外の領域がそれぞれ図2における「特定領域1」と「周囲の領域2」をなしている。
【0101】
即ち本実施例は、特定領域の含有不純物濃度(錫:有限)がその周囲の領域の含有不純物濃度(錫:検出限界以下)と異なるために、特定領域の再固化における溶融相からの結晶核形成自由エネルギー障壁が、その周囲の領域の再固化における溶融相からの結晶核形成自由エネルギー障壁より低くなった点において[実施例9]と異なる例である。
【0102】
[実施例11]
本発明第十一の実施例として、図2に示した工程によって形成される結晶性シリコン薄膜の第三の例を記す。
【0103】
レーザービームの走査速度のみを150mms−1に減速した以外は、[実施例5]と同じ出発薄膜とレーザービーム照射により、[実施例5]と同等の結晶性薄膜を得た。
【0104】
ニッケルを蒸着した薄膜としない薄膜に関して、本実施例のレーザービームの走査による溶融再固化過程を実時間観察したところ、[実施例5]の場合とは異なり両者とも完全溶融することが確認された。ただし、溶融後の再固化の開始時刻は前者の方が早かった。その起因としては、ニッケルの表面吸着によって、前者の再固化における溶融相からの結晶核形成自由エネルギー障壁が低下したことが考えられる。したがって、本実施例では、ニッケルを蒸着した1μm角の領域とそれ以外の領域がそれぞれ図2における「特定領域1」と「周囲の領域2」をなしている。
【0105】
即ち本実施例は、特定領域の表面吸着物質(ニッケルあり)がその周囲の領域の表面吸着物質(ニッケルなし)が異なるために、特定領域の再固化における溶融相からの結晶核形成自由エネルギー障壁が、その周囲の領域の再固化における溶融相からの結晶核形成自由エネルギー障壁より低くなった点において[実施例9]と異なる例である。
【0106】
[実施例12]
本発明第十二の実施例として、図2に示した工程によって形成される結晶性シリコン薄膜の第四の例を記す。
【0107】
レーザービームの走査速度のみを60mms−1に減速した以外は、[実施例7]と同じ出発薄膜とレーザービーム照射により、[実施例7]と同等の結晶性薄膜を得た。
【0108】
単結晶シリコン基板上に膜厚10nmの窒化シリコン薄膜のみを設けた試験基体と、この上にさらに膜厚1μmの酸化シリコン膜を設けた試験基体を用意し、それぞれに本実施例の前駆物質を堆積して、同じレーザービームの走査による溶融再固化過程を実時間観察したところ、[実施例7]の場合とは異なり両者とも完全溶融すること、および薄膜の最大溶融の前後で前者の温度が後者より100℃以上低いこと、そして溶融後の再固化の開始時刻は前者の方がかなり早いことが確認された。これらの事実から、すり鉢状ディンプルの周囲の領域では非晶質シリコン薄膜が単結晶シリコン基板と十分に厚い酸化シリコン膜によって断熱されているのに対して、すり鉢状ディンプルの底部において、熱伝導率の大きい単結晶シリコン基板と非晶質シリコン薄膜のはわずか10nm厚の窒化シリコン薄膜で隔てられているに過ぎず、この部分から加熱された非晶質シリコン薄膜の熱が単結晶シリコン基板へ高速に流出したために、すり鉢状ディンプルの領域が最大溶融に達した後に、すり鉢状ディンプルの領域の温度がこれと接する周囲の領域の温度より低い期間が生まれ、そのためにすり鉢状ディンプルの領域において優先的に溶融相からの結晶核形成が生じ、これを種結晶としてレーザービームの走査とともに横方向成長し、平均幅10μm×長さ50μmのシェブロン形状結晶粒になったと考えられる。したがって、出発薄膜の10μm×50μmの矩形の格子点にあったすり鉢状ディンプルの領域とその周囲の領域が、それぞれ図2における「特定領域1」と「周囲の領域2」をなしている。
【0109】
即ち本実施例は、特定領域からの熱流出速度がその周囲の領域からの熱流出速度より大きいために、特定領域が最大溶融に達した後に、特定領域の温度がこれと接する周囲の領域の温度より低い期間が生じなった結果、溶融後の再固化工程において結晶粒もしくは結晶性クラスターが優先的に特定領域に核形成し、これを種結晶として横方向成長する点において[実施例9]と異なる例である。
【0110】
[実施例13]
本発明第十三の実施例として、図2に示した工程によって形成される結晶性シリコン薄膜の第五の例を記す。
【0111】
レーザービームの走査速度のみを80mms−1に減速した以外は、[実施例8]と同じ出発薄膜とレーザービーム照射により、[実施例8]と同等の結晶性薄膜を得た。
【0112】
膜厚150nmの酸化シリコン薄膜を全面に設けた薄膜と設けない薄膜に関して、同じレーザービームの走査による溶融再固化過程を実時間観察したところ、[実施例8]の場合とは異なり両者とも完全溶融すること、および薄膜の最大溶融の前後で前者の温度が後者より100℃以上低いこと、そして溶融後の再固化の開始時刻は前者の方がかなり早いことが確認された。これらの事実から、1μm角の酸化シリコン島を設けた非晶質シリコン薄膜の領域およびその周辺の領域への投入エネルギーはいずれもそれら領域の臨界投入エネルギーよりは大きいものの、前者への投入エネルギーが後者への投入エネルギーより小さいために、前者が最大溶融に達した後に、その温度がこれと接する周囲の領域の温度より低い期間が生まれ、そのためにそこに優先的な溶融相からの結晶核形成が生じ、これを種結晶としてレーザービームの走査とともに横方向成長し、平均幅10μm×長さ50μmのシェブロン形状結晶粒になったと考えられる。したがって、出発薄膜の10μm×50μmの矩形の格子点にあった1μm角の酸化シリコン島を設けた非晶質シリコン薄膜の領域とその周囲の領域が、それぞれ図2における「特定領域1」と「周囲の領域2」をなしていると言える。
【0113】
即ち本実施例は、特定領域への投入エネルギー密度がその周囲の領域への投入エネルギー密度より小さいために、特定領域における吸収エネルギー密度がその周囲の領域の吸収エネルギー密度より小さくなり、そのために、特定領域が最大溶融に達した後に、特定領域の温度がこれと接する周囲の領域の温度より低い期間が生じた結果、溶融後の再固化において結晶粒もしくは結晶性クラスターが優先的に特定領域に核形成した点において[実施例9]と異なる例である。
【0114】
[実施例14]
本発明第7の実施例として、図3に示した構造を有するMOS型TFT素子、TFT集積回路、およびEL画像表示装置の例を記す。
【0115】
はじめに、[実施例2]に記した工程により、表面にシリコン窒化膜及び酸化膜を積層したガラス基板上に、平均幅10μm×長さ50μmの結晶粒の単一シリコン結晶粒のマトリクスを設けた。次に、通常のシリコン薄膜トランジスタの低温形成工程に従って、シリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜とゲート電極膜を堆積し、単一結晶粒中央部の幅1μmの領域を除いてゲート電極膜層を除去した。次に残されたゲート電極膜をマスクとするセルフアライン方式で、それ以外の領域にボロンをドープし、ゲート領域、ソース領域及びドレイン領域を形成した。これにより、ゲート領域は全域単一結晶粒の内部に含まれることとなった。その後、絶縁膜からなるパッシベーション層を堆積し、各領域上のパッシベーション層に開口部を設けた。最後に、アルミ配線層を堆積し、これをパターニングすることによってゲート電極、ソース電極及びドレイン電極を形成し、MOS型TFTを得た。
【0116】
得られたMOS型TFTの動作特性を計測したところ、本発明における「特定領域1」を設けないランダムな多結晶薄膜に同一工程、同一形状で形成した素子に比べて、移動度の平均値で2倍以上高速に動作することが確認された。また、素子特性のバラツキの比較では、移動度は約半分、閾値電圧に至っては約1/4に低減した。
【0117】
次にこれらMOS型TFTの隣接する2素子に対して各電極を次のように接続した。即ち、第一のTFTのドレイン電極は第二のTFTのゲート電極と接続した。また、第二のTFTのゲート電極はコンデンサ素子を介して自らのソース電極に接続した。これにより、TFT2素子及びコンデンサ素子からなる集積回路が構成された。本回路では、第二のTFTのソースに供給された電源電流がそのドレインから出力される量がコンデンサ素子の蓄積容量で制御され、一方、コンデンサ素子の蓄積容量及び蓄積のスイッチングは第一のTFTのゲート電圧によって制御される。本回路は、例えばアクティブマトリクス型表示装置において各画素のスイッチングと電流量制御を担う要素回路などに用いることができる。
【0118】
本実施例にて形成した回路の基本動作特性を計測し、本発明における「特定領域4」を設けないランダムな多結晶薄膜に同一工程、同一形状で形成した回路の特性と比較した。その結果、動作可能なスイッチング周波数に関して3倍以上高速に動作すること、そして第二のTFTのドレイン電極から出力される電流量の制御可能な範囲が2倍ほど拡大することが確認された。また、複数形成した同一回路の特性バラツキの比較では、それぞれ約半分以下に低減した。これは、各回路における第一のTFT間のバラツキ、第二のTFT間のバラツキのみならず、一回路における第一のTFTと第二のTFTの相対特性が比較対象に対してより均一であることを意味する。
【0119】
次に、ガラス基板上100μm間隔の正方格子点の各点に位置するこれらTFT集積回路を要素回路として、それら正方格子の単位胞を画像表示装置の画素とすべく、要素回路に接続する配線を次のように設けた。先ず、正方格子の一軸方向を貫く走査線を一格子毎に設け、各要素回路における第一のTFTのゲート電極をこれに接続した。一方、走査線と直交する方向には一格子毎に信号線及び電源線を配線し、それぞれを各要素回路における第一のTFTのソース電極、及び第二のTFTのソース電極に接続した。次に、これら要素回路の集積回路上に絶縁層を積層し、これに各要素回路における第二のTFTのドレイン電極が露出する開口部を設けた。次いで、金属電極を積層し、この金属電極を各画素毎に絶縁分離した。最後にエレクトロルミネッセンス(EL)発光層と上部透明電極層を積層した。これにより、上記TFT集積回路により各画素のスイッチングと注入電流量制御を行う、アクティブマトリクス型多階調EL画像表示装置が構成された。
【0120】
即ち、本画像表示装置では、走査線の電圧に応じた第一のTFTの起動によって信号線に与える電流値に対応した電荷容量が電源線からコンデンサ素子に蓄積され、この蓄積容量に応じた第二のTFTのゲート電圧に制御された電流が電源線からEL発光層に注入される。
【0121】
本実施例にて形成した画像表示装置の基本動作特性を計測し、本発明における「特定領域1」を設けないランダムな多結晶薄膜に同一工程、同一形状で形成した画像表示装置の特性と比較した。その結果、静的特性として最大輝度及び最大コントラストが2倍程度向上し、階調再現域は約1.5倍拡大していること、そして画素欠損率及び明度ムラがそれぞれ1/3及び1/2まで低減していることが確認された。また、動的特性としては、最大フレームレートが2倍ほど向上した。これら動作特性の向上は全て、上記記した要素回路特性の向上とバラツキの低減に由来し、さらにそれらは各要素回路を構成する薄膜トランジスタ特性の向上とバラツキの低減に起因し、従って、それら薄膜トランジスタの活性領域が単一の結晶粒内に形成されていることの効果である。
【0122】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明は、走査型溶融再結晶によって形成する結晶性薄膜において、特定領域を設けた出発薄膜の溶融する一部領域が該特定領域を通過することにより、結晶性薄膜を構成する結晶粒および結晶粒界の高度な空間的位置制御を容易に実現する。
【0123】
即ち、本発明において、薄膜に特定領域を設け出発薄膜とし、出発薄膜の一部領域を局所的に溶融させる、局所的に溶融した該一部領域を連続的に移動し特定領域を通過させること、出発薄膜の溶融により変質する領域が、上記結晶性薄膜と連続する結晶構造をもたない表面にのみ接すること、そして、特定領域の結晶粒もしくは結晶性クラスター濃度が、その周囲の領域の結晶粒もしくは結晶性クラスター濃度よりも大きいか、特定領域の結晶粒もしくは結晶性クラスターの平均サイズが、その周囲の領域の結晶粒もしくは結晶性クラスターの平均サイズよりも大きいか、もしくは、特定領域の内外で上記薄膜の元素組成比、含有不純物濃度、表面吸着物質、出発薄膜が接している基体との界面状態のいずれかに相異が生じたために、特定領域の固相結晶化における結晶核形成自由エネルギー障壁が、その周囲の領域の固相結晶化における結晶核形成自由エネルギー障壁より低いことによって、特定領域の完全溶融の臨界エネルギー密度が、その周囲の領域の完全溶融の臨界エネルギー密度より大きくなるか、あるいは、特定領域の膜厚が、その周囲の領域の膜厚より大きくなるか、特定領域からの熱流出速度がその周囲の領域からの熱流出速度より大きいか、特定領域への投入エネルギー密度がその周囲の領域への投入エネルギー密度より小さいか、特定領域の吸収エネルギー密度がその周囲の領域の吸収エネルギー密度より小さいために、特定領域における溶融のための蓄積エネルギー密度の最大値が該特定領域の完全溶融の臨界エネルギー密度より小さく、その周囲の領域における溶融のための蓄積エネルギー密度の最大値が該周囲の領域の完全溶融の臨界エネルギー密度より大きくなったために、出発薄膜の溶融時に特定領域において結晶粒もしくは結晶性クラスターが融け残り、これを種結晶として特定領域から所望の数の結晶粒もしくは結晶性クラスターが成長するか、もしくは、特定領域の内外で上記薄膜の元素組成比、含有不純物濃度、表面吸着物質、出発薄膜が接している基体との界面状態のいずれかに相異が生じたために、特定領域の再固化における溶融相からの結晶核形成自由エネルギー障壁が、その周囲の領域の再固化における溶融相からの結晶核形成自由エネルギー障壁より低くなるか、特定領域からの熱流出速度がその周囲の領域からの熱流出速度より大きいか、特定領域の吸収エネルギー密度がその周囲の領域の吸収エネルギー密度より小さいか、特定領域への投入エネルギー密度がその周囲の領域への投入エネルギー密度より小さいことにより、特定領域およびその周囲の領域がともに完全溶融しても、特定領域の溶融後の再固化において溶融相から結晶粒もしくは結晶性クラスターが優先的に核形成し、これを種結晶として特定領域から所望の数の結晶粒もしくは結晶性クラスターが成長することによって、特定領域の空間的位置を制御することによって、結晶性薄膜における連続した結晶構造を有する結晶粒の少なくとも一部の空間的位置を制御することができる。
【0124】
本発明の結晶性薄膜は、これを構成する結晶粒の制御された位置と素子の特定領域を空間的に関係づけるか、或いは、位置制御された単一結晶粒の内部に素子の特定領域を形成することにより、従来のランダムな結晶粒のみからなる結晶性薄膜を用いる場合に比べて、当該素子の動作特性を著しく向上させ、そのバラツキを低減することができる。
【0125】
さらに、上記本発明の素子を用いて構成した回路は、従来の、位置制御されないランダムな結晶粒のみからなる結晶性薄膜を用いた素子からなる回路に比べて、その動作特性を著しく向上させ、そのバラツキを低減することができる。
【0126】
さらにまた、本発明の素子もしくは回路を含む本発明の装置においては、当該素子もしくは回路の動作特性の向上及びバラツキの低減によって、動作特性を著しく向上することができる。然して、本発明の装置は、位置制御されないランダムな結晶粒のみからなる結晶性薄膜を用いる場合では実現できない、高性能な装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の結晶性薄膜及びその製造方法の第一の基本的な実施形態を説明するための製造工程図である。
【図2】本発明の結晶性薄膜及びその製造方法の第二の基本的な実施形態を説明するための製造工程図である。
【図3】本発明の素子、回路、および装置の一実施形態を説明する図である。
【符号の説明】
1 特定領域
2 特定領域の周囲の領域
3 出発薄膜
4 溶融のための投入エネルギー
5 溶融した一部領域
6 ランダムな結晶粒群による再固化領域
7 位置制御された結晶粒もしくは結晶性クラスター
8 位置制御された結晶粒とランダムな結晶粒群の衝突による結晶粒界
9 位置制御された結晶粒と溶融した一部領域の間の固液界面
10,110 特定領域から成長した位置制御された結晶粒
11,111 結晶粒10および110内に形成したゲート領域
12,112 ゲート絶縁膜
13,113 ゲート電極
14,114 ソース電極
15 第一のTFTのドレイン電極兼第二のTFTのゲート配線電極
16 第一のTFTのゲート配線電極
17 層間絶縁層
18 画素電極
19 発光層もしくは光透過度可変層
20 上部電極
1000 基体
1001 スイッチング回路
1002 第一のTFT
1003 第二のTFT

Claims (1)

  1. 薄膜に特定領域を設け出発薄膜とすること、該出発薄膜の一部領域を局所的に溶融させること、および、局所的に溶融した該一部領域を連続的に移動し前記特定領域を通過させることを特徴とする結晶性薄膜の製造方法。
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