JP4325257B2 - 記憶媒体の製造方法および再生針アセンブリの製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、記憶媒体の製造方法および信号再生装置に用いる再生針アセンブリの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
コンピュータの利用形態が、PC(パーソナルコンピュータ)を用いて大容量の映像や音声信号処理を頻繁に行うようになってきている。これに伴ない、小型の高密度の不揮発データストレイジに対する要望が更に強くなってきている。従来、この種の分野におけるデータストレイジとしては、ハードディスクが中心的な存在であった。ハードディスクの現状と将来については、非特許文献1に以下のように記載されている。
【0003】
現在市販されているハードディスクは、横方向の磁化を利用した面内磁気記録方式であるが、将来、記録密度を向上させ得るとしても、熱エネルギーにより媒体に記録された磁化情報が徐々に消失する熱揺らぎ効果により、1平方インチ当たり150ギガビットの面記録密度が限界とされている。これを解決すべく、周知の技術として、磁化が媒体の面内にある、面内磁化(ハードディスクならディスク面内、磁気テープならテープ面内)ではなく、磁化される方向が媒体の面の厚さ方向、つまり媒体面に垂直な、垂直磁化の方式の開発が進められている。しかしながら、現在、垂直磁化材料として研究されているものは、実用化へ最も近いと見られているCoCr(コバルトクロム)合金を始めとした、限られた物質のみであり、磁気性能や安定性、コスト等、実用化へ向けての多様な要求には応えきれていない。
【0004】
一方、メカニカルな構成を用いないMRAM (Magnetic Random Access Memory ) が最近注目を集めている。MRAMでは磁気コアの代わりにわずか数原子分という極めて薄い絶縁物の層を磁性体ではさんだTMR (Tunneling Magneto Resistive)素子を使用する。TMR素子は、磁性体の層の磁化の方向によって、薄い絶縁物の層をトンネル効果によって電流の流れやすさが変化し電気抵抗が変化する性質を利用するものである。MRAMもその原理はすでに周知技術であり、現在は、特許文献1等に記載されている如くその実用化が検討されている。
【0005】
ハードディスク、MRAMは、RAM(Random Accesses Memory:書き込み可能メモリ)媒体として、PCの内部で使用する場合には機能的な問題はそれほどないが、データの配布を行う、いわゆるディストリビューション・メディアとして多くの人が同じデータを共用する用途には不向きである。その理由としては、同じ情報を予め記録するROMとしての大量生産に不向きであることに加え、信号が物理的な形状として保存されないことによるデータの保存信頼性が低いこと等が挙げられる。
【0006】
ディストリビューション・メディアの分野では、ROM(Read Only Memory:読み出し専用メモリ)媒体が好適であり、ROM光ディスクが従来多用されている。ROM光ディスクとしては、CD−ROM、DVD−ROMが広く使われている。CD−ROMでは、変調方式として、マーク変調方式の一つであるEFM(Eight to Fourteen Modulation)を用いているので、最短ピット長(3T長)が833nmで、トラックピッチは1.6μmであり、その容量は640MB(Mega Byte)である。記録密度は1平方インチ当たり0.5ギガビットである。DVD―ROMでは、最短ピット長(3T長)が400nmで、トラックピッチは0.74μmであり、容量4.7GB(Giga Byte )である。記録密度は1平方インチ当たり3.8ギガビットである。なお,変調方式等を含め光ディスクの従来技術は非特許文献2に種々記載がされている。
【0007】
これらのROM光ディスクの製造においては、基板(スタンパー盤)を製造し、この基板を用いてPC(ポリカーボネイト)を射出成型する技術が一般的である。基板の製造においては、記録すべき信号に応じて変調を施したレーザビームを0.9以上のNA(Numerical Aperture)のレンズで収束して、ガラス基板上のフォトレジストに照射してピットを露光して形成し、このピットを電鋳により金属表面に転写して製造するのが、一般的であり特許文献2に従来の技術の一例が開示されている。
【0008】
従来の光ディスクのマスタリング技術として、最も微細な加工をする電子ビームを用いる方法が非特許文献3に記載されており、トラックピッチを0.29μmとすることが実現できた旨が開示されている。
【0009】
また、これらの記録再生原理とは異なる記録再生原理に基づく高密度データ記録再生方式が種々開示されており、特許文献3には、針状構造体を記録マークとして、トンネル電流を検出することにより針状構造の有無を情報として利用する記録方式および針状構造体の作成をトンネル電流の作用により行う技術が記載されている。特許文献4には、原子オーダの凹凸によって信号を記録するディスク基板を回転させ、原子オーダの凹凸の形状をトンネル電流により検出する技術と、ディスク基板との距離をサーボを用いて所定の距離に保つ技術とを用いた再生装置が記載されている。
【0010】
一方、ナノ材料の分野では、1991年にカーボンナノチューブが発見されて以来、電子産業においてカーボンナノチューブの応用をしようとする学会や、産業界の研究が活発となり、非特許文献4にもその紹介がされている。特許文献5にはカーボンナノチューブをSPM(走査型プローブ顕微鏡)の探針として用いる技術が開示されている。
【0011】
【特許文献1】
特開2002−314164号公報
【特許文献2】
特開2002−251795号公報
【特許文献3】
特開平9−282724号公報
【特許文献4】
特開平5−274725号公報
【特許文献5】
特開2002−122529号公報
【非特許文献1】
「日経エレクトロニクス」、平成14年9月23日号、p.67―72
【非特許文献2】
「光ディスク技術」、ラジオ技術社、平成元年2月10日
【非特許文献3】
Yoshiaki Kojima 、外3名,High Density Mastering Using Electron Beam,「ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス」(“Japanese Journal Of Applied Physics ”)、1998年4月、第37巻、第4B号、p.2137−2143
【非特許文献4】
「別冊 日経サイエンス ここまで来たナノテク」、日経サイエンス社、2002年10月9日
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
将来、画像処理がPC(パーソナル・コンピュータ)において更に頻繁に行われるのは必至であり、急速に普及するブロードバンド・インターネット時代においては、ディストリビューション・メディアの記録容量は、1平方インチ当たり、500Gビット以上、CD−ROMと同サイズの媒体で1TB(Tera Byte)は必要と思われる。しかしながら、従来の技術ではこのような高記録密度は達成することができない。
【0013】
その理由の1つには、そのような高密度を記録する記録方法自体が存在しないことがあるが、他の理由としては、そのような高密度の記録基板の製造が可能になったとしても、ROM光ディスクで採用されるスタンパーにPC等の樹脂を流し込み、樹脂を硬化させることにより複製を製作する大量生産の方法を用いることが、樹脂を流しこむ空間のサイズを従来より一桁以上微細な寸法にした場合においては、困難となるからである。
【0014】
また、ディストリビューション・メディアとしてのROMの分野においては、従来の技術は、映像を記録する場合においては、データ圧縮技術に大きな比重がおかれている。例えば、再生時間が二時間の映画のような映像ですら圧縮技術を用いずに記録するに十分な記録容量を有する媒体が存在しない現状である。しかしながら、圧縮技術を用いる場合には情報の欠落が生じるために映像データの再加工を行う用途には不向きであるので、将来のPC上での映像情報の処理に大きな問題となり、更に大容量の媒体が必要とされる。
【0015】
また、このような新規な記憶媒体を再生する装置の具体的構成については、従来の発明には十分に開示がなされておらず、特に信号の記憶媒体の記録面より記録された信号を取り出す構成については、精度面、量産面でその実現が困難であった。
【0016】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、従来にない、高密度な記憶媒体の製造方法を提供することにある。
【0018】
更に、本発明の第の目的は、このような記憶媒体の信号再生装置において必要不可欠である再生針アセンブリの製造方法を提供することにある。
【0023】
【課題を解決するための手段】
本発明の記憶媒体(再生専用媒体)の製造方法は、記録信号に応じて空間的に配置された複数の突起部を有する原盤と、再生基板とを密接または圧接させることにより、再生基板の突起部の先端に対向する位置に突起部を構成する材料を触媒として配置する触媒配置工程と、再生基板の触媒が配置された位置より記録構造体を成長させる記録構造体成長工程と、少なくとも複数の記録構造体の間に記録構造体とは異なる電気特性を有するコーティング材料を埋め込む埋込工程と、記録構造体の先端およびコーティング材料の表面を平坦化する平坦化工程とを含むものである。
【0029】
本発明の第1の再生針アセンブリの製造方法は、導電性材料の表面に収束されたエネルギービームを照射する照射工程と、導電性材料の表面を溶融させる溶融工程と、溶融工程において溶融した部分から放熱をさせることにより突起部を形成する突起部形成工程とを含むものである。
【0030】
本発明の第2の再生針アセンブリの製造方法は、絶縁基板の上に複数の分割された導電材料のブロックを形成する工程と、導電性材料の分割方向と略直交する方向に相対的に移動させながら、導電性材料の表面に収束されたエネルギービームを照射する照射工程と、導電性材料の表面を溶融させる溶融工程と、溶融工程において溶融した部分から放熱させることにより突起部を形成する突起部形成工程とを含むものである。
【0033】
【発明の実施の形態】
以下、具体的な実施の形態の説明に先立ち、本発明の概要(基本的原理)を説明する。まず、本発明に係る記憶媒体およびその製造方法を説明し、次に、その記憶媒体からの信号再生装置および信号再生方法、更に再生針アセンブリおよびその製造方法について順に説明する。
【0034】
〔記憶媒体およびその製造方法〕
本発明において「記憶媒体」とは、従来よりも高密度で、所定の信号(情報)を記録し、記録された信号が再生可能な記録・再生媒体と、予め所定の信号が記録された再生専用媒体(ROM)とを包含するものである。ここでは、(1)記録・再生媒体およびその製造方法と、(2)再生専用媒体およびその製造方法とを分けて説明する。
【0035】
(1)記録・再生媒体およびその製造方法
本発明の記録・再生媒体には、記録する信号(情報)に応じて、導電体,半導体または絶縁体からなる突起部が形成される。突起部の配置には、突起構造が生じる位置を信号に対応させて記録する方式(ポジション方式記録)、突起構造の連続する長さを信号に対応させて記録する方式(マーク長方式記録)のいずれを用いてもよい。
【0036】
以下、この記録・再生媒体の製造方法(第1の製造方法)について説明する。
【0037】
突起部が形成される基板は、導電体特性あるいは半導体特性の導電性特性、または、絶縁体特性のいずれかの性質を有し、かつ、熱可塑性を有する材料(以下記録材料と称する。)からなり、信号を記録する前は表面が平坦である。基板は単一の記録材料で構成されたものでもよいが、これらの記録材料を保持するに十分な剛性を有する保持板の表面に記録材料を配置した平坦なものであってもよい。
【0038】
この基板に対して信号が記録されると、基板の表面に記録信号に対応して複数の突起部が形成される。ここで、形成された突起部の形状が微細に加工されているほど、信号の記録密度は向上したものとなる。
【0039】
本発明では、突起部を微細加工するために、常温では固体の記録材料の微細領域にエネルギービームを収束させて、記録材料の表面の温度を局所的に上昇させる。すなわち、記録材料を溶融して液体となし、冷却により再び固体となるときに最後に固体となる部分に突起部が生じるという、記録材料そのものが有する特性を利用するものである。
【0040】
ここで、収束ビームが所定の領域に均一のエネルギー密度で照射されたとしても、温度分布は所定の境界条件の下で、給熱と放熱とが均衡を保つ熱方程式によって支配されるので、収束ビーム内における温度の分布は均一ではない。すなわち、収束ビームを所定の場所に照射し続けると、ビームの外周部では、熱は、温度がより低い場所であるビームの外側に移動するので、温度上昇はあまり生じない。一方、収束ビームの中心では、周囲も加熱されるので、熱の拡散はあまりなく大きな温度上昇が生じる。更に、一般的に、平行ビームを収束させる場合の収束領域内のエネルギー分布は中心部ほど大きな値をとる。
【0041】
その結果として、ビームの中心部ほど温度は高くなる。記録材料は、一定の温度を境として、固体から液体へ、または液体から固体へと可逆的に変化する。従って、温度が高い中心部ほど固体に戻る時間の経過が長くなる。そして、最後に固体となるビームの中心部に突起部を生じる。この場合において、突起部の生じる部分の面積はエネルギービーム照射部の面積に比較して極めて狭小となる。よって、エネルギースポットより小さいサイズで突起部を形成することができ、高密度に信号を記録することが可能になる。
【0042】
このような現象を利用して突起部を形成するために、記録材料としては、熱拡散特性がエネルギービームの照射方向と直交する方向には良好であり、エネルギービームの照射方向と平行する方向には熱拡散をしない特性を有するものが望ましい。弱いエネルギービーム強度で記録材料の表面に容易に突起部を形成できるからである。
【0043】
信号を記録するに際しては、エネルギービームと記録材料との相対関係を移動させながら、信号に応じてエネルギービームの照射と停止を行う。これにより、記録材料の表面には、記録信号の時系列情報に応じた空間的な突起部の有無として信号が記録される。このようにして信号が記録された媒体は、突起部の構造を読み出すことにより信号を再生できるので、記録・再生媒体としての機能を有する。
【0044】
記録・再生媒体の他の構成例として、上記記録・再生媒体において突起部の周辺を、突起部を構成する記録材料と電気的な性質が異なる材料で埋めるようにしてもよい。
【0045】
このような記録・再生媒体を製造するには、例えば、突起部が導電体である場合には、突起部の周辺を半導体または絶縁体で埋めるコーティングをし、記録材料が半導体である場合には、突起部の周辺を導電体または絶縁体でコーティングをし、記録材料が絶縁体である場合には、突起部の周辺を半導体または導電体でコーティングをする。更に、表面の凹凸をなくすために、記録材料で構成される突起部および突起部の周辺のコーティング材料の表面を研磨するようにしてもよい。
【0046】
また、本発明の他の記録・再生媒体の製造方法(第2の製造方法)として、突起部の周辺を突起部を構成する記録材料と電気的な性質が異なるコーティング材料で埋め込む工程に加え、あるいは、突起部の周辺を突起部をコーティング材料で埋めた後の、突起部およびコーティング材料の表面を研磨する工程に加え、媒体の表面を表面絶縁材料で絶縁する工程を含めることができる。このような方法により得られる記録・再生媒体は、突起部の周囲を異なる電気的性質のコーティング材料で埋め、突起部およびコーティング材料の表面を絶縁材料で覆った構成を有するものとなる。
【0047】
ここに、エネルギービームとしては、例えば、レーザビームや電子ビームを用いることができ、エネルギービームの集束手段としては、レーザビームにあっては光学レンズ、電子ビームにあっては電子レンズを用いることができる。
【0048】
記録材料としては、導電体では、金属材料、例えば、少なくともTa(タンタル)、W(タングステン)、Pt(白金)、V(バナジウム),Mn(マンガン),Fe(鉄),Co(コバルト),Ni(ニッケル),Mo(モリブデン)のうちのいずれか一種を含むもの、およびその合金を用いることができる。半導体としては、例えば、少なくともSi(シリコン)、Ge(ゲルマニュウム)のうちの一種を含む半導体を用いることができる。絶縁体としては、例えば、熱可塑性樹脂である、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミドを用いることができる。
【0049】
表面絶縁材料としては、例えば、SiO2 (二酸化珪素),SiN(窒化珪素), ポリイミド、PMMA(Poly Methyl Methacrylate)を用いることができる。
【0050】
コーティング材料で突起部の周辺を埋める方法や、媒体の表面を表面絶縁材料で絶縁する方法は、例えば、PECVD(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition) 法、PVD法(Physical Vapor Deposition)法、SOG(Spin On Glass) を用いることができる。
【0051】
コーティング材料や、表面絶縁材料を研磨する方法としては、例えば、CMP(Chemical Mechanical Polishing ;化学的機械研磨)法を用いることができる。
【0052】
(2)再生専用媒体およびその製造方法
上述した記録・再生媒体は、再生専用媒体として用いることができる。上述の記録・再生媒体に一度信号が記録されると、それ以降は、記録材料の全面を溶融させないと、再び信号を書き込むことができないという意味で、容易に情報が消失しない再生専用媒体としての好適な性質を備えているからである。しかしながら、上述の方法では一枚ごとに製造する必要があるという問題がある。すなわち、1 枚ごとに信号の書き込みを時系列で行うために、複製に時間がかかり、大量のディストリビューション・メディアの製造には好適とは言えない。
【0053】
本発明の再生専用媒体は、記録される信号に応じて、導電体,半導体または絶縁体の構造体が基板の表面に対して垂直に針状に若しくは壁状に形成されたものである(このような構造体を,以下,記録構造体と称する。)。この再生専用媒体では、構造体の有無を再生針を用いて検出することが可能となり、微細な構造であっても高いS/N比(Signal to Noise Ratio )を得ることができる。
【0054】
このような再生専用媒体は、以下のように「触媒配置工程」および「記録構造体成長工程」を経て製造することができる。
【0055】
まず、「触媒配置工程」において、再生基板の所定の位置に触媒を配置する。次いで、「記録構造体成長工程」において、記録構造体の原料ガスを触媒表面に還流させ、触媒が存在する位置に記録構造体を成長させる。
【0056】
「触媒配置工程」は、再生専用媒体の多量生産の観点より、一枚の原盤となる基板に配置された触媒をそのまま再生媒体用の基板(再生基板)に転写することにより行われる。記録する信号に応じて触媒を表面に有する多数の突起部を備える原盤と、表面が電極膜により覆われた再生媒体用の基板とを密接し、若しくは、圧力を加えて圧接し、または、更に100℃〜600℃の温度を加えながら密接、若しくは、圧接することにより、原盤の触媒を基板に転写することができる。このような「触媒配置工程」により、原盤とおなじ位置に触媒が配置された基板(触媒配置基板)を製造することができる。この方法では、原盤の触媒の一部は基板に移動するが、その大部分は原盤側に残るために、一枚の原盤から、多量の再生専用媒体を製造するための触媒配置基板を製造することができる。
【0057】
ここに、記録構造体としての針状構造物としては、例えば、カーボンナノチューブの単体を用いることができ、壁状構造体としては、例えば、カーボンナノチューブを線上に配列したものを用いることができる。
【0058】
触媒としては、例えば記録構造体として、カーボンナノチューブを用いる場合においては、少なくともV(バナジウム),Mn(マンガン),Fe(鉄),Co(コバルト),Ni(ニッケル),Mo(モリブデン)のうちのいずれか一種を含むものを用いることができる。
【0059】
「記録構造体成長工程」は、例えば記録構造体として、カーボンナノチューブを成長させる場合においては、CVD,PECVD,MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition )法等を使用することができる。いずれの方法においても、カーボンナノチューブは時間の経過に伴って触媒面より離れる方向に、その長さが成長するものとなる。
【0060】
「記録構造体成長工程」に用いる原料ガスとしては、例えば記録構造体としてカーボンナノチューブを成長させる場合においては、CH4 ,C2 4 ,C3 8 ,C4 10,C2 2 を用いることができる。
【0061】
本発明の他の再生専用媒体として、記録構造体の周辺を、記録構造体とは電気的な性質が異なる材料で埋める構成を有するものとしてもよい。
【0062】
このような再生専用媒体を製造するには、記録構造体が導電体である場合には、記録構造体の周辺を半導体または絶縁体でコーティングし、記録構造体が半導体である場合には、記録構造体の周辺を導電体または絶縁体でコーティングし、記録構造体が絶縁体である場合には、記録構造体の周辺を半導体または導電体でコーティングする。更に、表面の凹凸をなくすために、記録構造体およびコーティング材料の表面を研磨することもできる。
【0063】
コーティングの方法としては、例えばPECVD,PVD,SOG法を用いることができる。また、コーティングの材料としては、例えば、SiO2 ,SiN, ポリイミド,PMMAを用いることができる。研磨の方法としては、例えばCMP法を用いることができる。
【0064】
本発明の更に他の再生専用媒体として、記録構造体の周辺を記録構造体と電気的な性質が異なるコーティング材料で埋める構成に加え、さらに再生専用媒体の全面に絶縁性を有する表面塗布剤を塗布する構成を有するものとしてもよい。
【0065】
このような再生専用媒体を製造するには、記録構造体の周辺を異なる電気特性の材料でコーティングした後、あるいは、記録構造体の周辺を異なる電気特性の材料でコーティングして記録構造体およびコーティング材料の表面を研磨した後、更に、絶縁材料を表面に塗布すればよい。更に、表面の凹凸をなくすために表面絶縁材料を研磨するようにしてもよい。
【0066】
表面絶縁材料としては、例えば、SiO2 ,SiN, ポリイミド,PMMAを用いることができる。表面塗布の方法は、例えば、PECVD,SOGを用いることができる。また、表面絶縁材料を研磨する方法としては、例えばCMP法を用いることができる。
【0067】
以下、本発明の具体的な実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0068】
〔第1の実施の形態〕
まず、図1乃至図3を参照して第1の実施の形態に係る記録・再生媒体およびその製造方法について説明する。
【0069】
(記録・再生媒体製造装置)
図1はこの方法に用いる記録・再生媒体製造装置10Aの構成を表すものである。この記録・再生媒体製造装置10Aはターンテーブル100を備えており、ターンテーブル100上に記録・再生媒体となる基板101が配置されるようになっている。基板101は、例えば0.6mmの厚さの石英板の上に膜厚40nmのFe膜が配置されたものであり、そのFe膜側が表面となる。この基板101の表面に後述のビームスポットBSが収束されるようになっている。
【0070】
ターンテーブル100の中心には電動機(回転装置102)の駆動軸102Aが連結されており、ターンテーブル100が水平に回転するようになっている。回転装置102は、回転位置信号102aを回転装置駆動部103に送出し、この回転装置駆動部103より発生される回転制御信号103aにより制御されるようになっている。回転装置102は移動台104に固着されており、基準面S上を転がり軸104a,104bを介して紙面で左右方向に移動可能となっている。
【0071】
移動台104と基準面Sとの間には移動量検出装置105が設けられている。この移動量検出装置105によりビームスポットBSの基板101の基準位置(例えば基板中心)からの相対的な移動量が検出され、その移動量信号105aが移動量検出回路106において移動量に応じたパルス数の変化に変換されるようになっている。移動台104は電動機を含む移動力発生装置107により基準面S上を移動し、これにより基板101とビームスポットBSとの位置関係が設定されるようになっている。移動力発生装置107は移動力発生装置駆動部108により発生される移動装置駆動信号108aにより駆動されるようになっている。以上の回転装置駆動部103、移動量検出回路106および移動力発生装置駆動部108はバスライン109を介して制御部110に接続されており、この制御部110により後述のような装置全体の制御がなされる。
【0072】
制御部110からは基板101に対する記録情報に応じたデータ110aが出力されるようになっている。このデータ110aは変調部111において変調されて記録信号111aとなり、レーザ光発生部112へ送られる。変調方式は例えばEFMである。レーザ光発生部112は記録信号111aに応じて発光して、波長と位相の揃った平行なレーザビーム112aを発生する。レンズ113はこれを集光し、ビームスポットBSを基板101上に形成する。レーザ光発生部112は、基準面Sに対して固着されており、レーザビーム112aと基準面Sとの位置関係は一定に保たれている。
【0073】
レンズ113は図示しないフォーカス・アクチュエータによりZ軸方向に移動可能である。レーザビーム112aの基板101からの反射光の一部は図示しないフォーカスエラー検出機構により検出される。フォーカスエラー検出機構は、この検出信号によりZ軸方向のレンズ113と基板101との距離を認識し、フォーカスエラー信号をフォーカス・アクチュエータにフィードバックする。これにより、ビームスポットBSの大きさが調整される。フォーカスサーボは、アスティグマ法などの光ディスク製造における慣用技術により行われる。レーザ光を完全にオフ(OFF)とするとフォーカスサーボに影響を及ぼすような変調方式を採用する場合には、変調信号に応じて完全にオフとはせずに、基板101の表面の温度上昇により表面の溶融が生じない程度の微量のレーザ光を発光させてフォーカスサーボを行うことが望ましい。
【0074】
以下、この記録・再生媒体製造装置10Aの作用について説明する。
【0075】
まず、その制御部110による制御動作について説明する。ここでは、基板101に対して、記録情報に基づいた信号を例えばCLV(Constant Linear Velocity)方式で螺旋状(Spiral)に記録する場合について説明する。勿論、CAV(Constant Angular Velocity )方式や、同心円状(Concentric)に信号を記録する方式も光ディスク製造技術の慣用技術として確立されているのでこれを使用することもできる。
【0076】
まず、移動量検出装置105により、基板101におけるビームスポットBSの基板中心からの相対的な位置が検出される。この移動量信号105aは移動量検出回路106で電気信号(パルス)に変換をされた後、バスライン109を通じて制御部110に送られる。制御部110では、この移動量信号105aのパルス値に応じて回転基準信号を発生する。すなわち、ビームスポットBSと基板101の中心位置との距離を移動量信号105aより演算して、この距離に逆比例した周期の回転基準信号を発生する。一方、回転装置102からは回転位置信号102aが出力され、この回転位置信号102aが回転装置駆動部103を介して制御部110に送られる。制御部110は、この回転位置信号102aと上記回転基準信号との位相を比較して、その位相差に応じた回転位相誤差信号をバスラインを通じて回転装置駆動部103に送る。
【0077】
回転装置駆動部103はこの回転位相誤差信号に基づいて回転制御信号103aを発生し、これを回転装置102に与える。これにより回転装置102すなわちターンテーブル100に対して線速度が一定の制御がなされる。ここで、データ110aが一定の転送レートで送られるとすれば、基板101に対してCLVモードで記録がなされる。
【0078】
制御部110は、また、所定の時間とともに変化する移動基準信号を内部で発生し、この移動基準信号と移動量検出装置105から出力された移動量信号105aとの位相比較を行い、その位相差に応じた信号に基づき移動力発生装置駆動部108より移動装置駆動信号108aを発生させて、基準面すなわちレーザスポットBSの基板101上における位置を常に所定の量だけ内周から外周(あるいは外周から内周)へ移動させる。これにより基板101に対して螺旋状に信号を記録することができる。
【0079】
次に、この記録・再生媒体製造装置10Aによる記録・再生媒体の製造工程を説明する。
【0080】
(照射工程)
この記録・再生媒体製造装置10Aでは、ビームスポットBSと基板101との相対位置を移動させながら記録信号111aに応じてレーザ光発生部112におけるレーザ光のオン(照射)とオフ(停止)が行われる。相対的な位置の移動は、製造装置の説明において上述したように移動力発生装置駆動部108の制御により基板の中心からの位置(ラジアル方向の位置)を移動させ、回転装置102により回転方向の位置(ラジアル方向の位置)を移動させる。ビームスポットBSはフォーカス・サーボの作用によりエネルギービームが効率よく収束される。
【0081】
ここで、均一な分布で位相と波長が揃った平行光であるレーザビーム112aを円状のレンズ113で集光すると基板101の表面におけるビームスポットBSは、図2(A)に示したように円形となる。ここで、D1はスポット直径を示している。ビームスポットBS内のエネルギー強度は、図に示したように中心部ほど大きく、裾野は大きく広がっている。
【0082】
一般的にスポット径を表す場合には、全ビームエネルギーの略84%が含まれる半径であるAiryディスク半径を用いる。Airyディスク半径は0.61×λ(レーザ波長)÷NA(Numerical Aperture)で表される。例えば、Krレーザ(λ=351nm)とNA=0.9のレンズを用いれば、Airyディスク半径は略240nmである。なお、従来の基板製造方法においては、フォトリソグラフィを用いていたので、図2(A)に示すようにAiryディスク半径の2倍であるD0として示す略480nm以下にはトラックピッチ(信号記録列の中心をトラックと定義し、信号記録列と信号記録列との間隔をトラックピッチと定義する。以下同じ。)を狭めることは困難であった。
【0083】
(溶融工程)
しかしながら、本実施の形態においては、照射工程の後に溶融工程を経ることから事情が異なる。以下にこの点につき説明する。図2(B)に示したD1は、短パルスのレーザ発光を行ったときの、Airyディスク半径の2倍の値(Airyディスク直径)を示している。ここで、レーザ光が照射された部分では温度上昇が生じるが、Airyディスク半径内のすべての領域でFeの溶融が生じるということではない。Feの溶融が起こる領域は直径D2となる領域である。D2の大きさは、記録材料ごとにレーザの出力を制御することにより決定される。ここで、レーザがオン状態を維持すれば、基板101とビームスポットBSが相対的に移動し、略D2の幅を有しながら線状に溶融が進行する。
【0084】
(突起部形成工程)
基板101とビームスポットBSが相対的に移動する場合の既照射部(既照射部とは、光スポットが通過して現在は照射を受けていない部分、あるいは、照射のエネルギーの裾がかかっている部分をいう。)についての熱の分布を考える。現在照射されている部分から拡散により熱の供給を受けるものの、既照射部からの拡散により放熱する熱の量が多くなって表面温度は下がり、再び固体状態に戻る。このとき突起部が形成される。
【0085】
ここで、「突起部」を、基準面からの先端の高さ(最も高さが高い部分を先端と定義する。)Hの1/10の高さの部分を含む領域と定義し、レーザ光がパルスである場合あるいは媒体とレーザとの相対運動が生じていないときの直径を図2(B)にD3で表わす。レーザ光が連続光である場合には、略D3の幅を有する連続する突起部となる。突起部の先端の高さHの9/10の高さとなる部分の領域を「先端部」と定義し、このときの直径(レーザ光がパルスである場合)または幅(レーザ光が連続光である場合)を図2(B)にD4で表わす。本実施の形態では、例えば、D1は480nm、D2は100nm、D3は20nm、D4は3nmとする。
【0086】
突起部が形成された後、回転が一周すると、突起部の横をビームスポットBSが再び通過する。このときビームスポットBSにより溶融が生じる位置と、隣接トラックの突起部が形成された位置とが接するまで寄ったとしても、このビームスポットBSが既に形成された突起部を破壊することは殆どない。よって、形成可能な最小のトラックピッチの値は、図2(B)に示したように、D2とD3との和の半分の値となる。ここで、D2を100nm,D3を20nmとすると、トラックピッチは60nmまで狭めることが可能となる。
【0087】
D1はレーザ波長λとNAにより定めることができ、D2,D3,D4は、パルス発光においてはレーザの照射時間とレーザのビーム強度、連続発光においてはレーザのビーム強度により、記録材料の特性を加味して定めうるものであり、例えば、D2を13nm〜16μmの範囲、D3を2nm〜3μmの範囲、D4を0.4nm〜500nmの範囲にそれぞれ選ぶこともできる。このようにD2〜D4の値を選択することによって、トラックピッチは最小8nmまで微細化することが可能になる。
【0088】
突起部の幅は、レーザビームの強度を弱くすれば、それに応じて小さくできるので、原理的な微細化の限界は、突起部の幅は原子1個の寸法、また、トラックピッチも原子1個の寸法とすることが可能である。最微細化技術である電子線ビームを用いても、従来は、290nmのトラックピッチが限界であったが、本実施の形態によれば、250nm以下のトラックピッチも実現可能となる。再生針の製造の容易さの観点からは、トラックピッチは150nm程度が望ましいが、記録密度向上の面からは100nm以下とすることが望ましく、より好適には60nm以下、最適には20nm以下とすることが望ましい。
【0089】
以上のようにビームスポットBSと基板101とを相対的に移動させながら、記録信号111aに応じてレーザ光発生部112におけるレーザ光のオン(照射)とオフ(停止)を行いつつ、基板101にビームスポットBSを照射する「照射工程」、基板101の表面を溶融させる「溶融工程」、冷却により突起部を生じさせる「突起部形成工程」とを繰り返すことにより本実施の形態の記録・再生媒体を作製することができる。
【0090】
図3はこのようにして得られる記録・再生媒体200Aの斜断面図を示したものである。円盤状の基板201は、表面が平らな厚さ略0.6mmの石英からなり、その表面には、例えば厚さが略40nmのFe膜202が形成されている。なお、Feに限らずその他の遷移金属をもちいてもよい。Fe膜202にはマーク長記録方式によって多数の突起部203が形成されている。各突起部203の長さd1,d2,d3…が記録情報に対応している。ちなみに、図4はポジション記録方式によって形成された突起部204の構造を表しており、長さd1,d2,d3…が記録情報に対応している。どちらの記録方式とするかは、変調部111において選択することができる。
【0091】
突起部203の高さHは略50nmである。この突起部203の遷移金属(ここではFe)と接する根元部の幅Wwは略20nm(高さHが5nm以上の領域の幅)であり、先端部の幅Wnは略3nm(高さHが45nm以上の領域の幅)である。突起部の長さLは、EFM変調の場合、1Tの長さ(1チャンネルビットの長さ)を3nmまで微小化することができる。
【0092】
3nm長の1Tの突起部を形成する場合には、連続発光ではなく、記録媒体上のビームスポットBSの移動速度によって定まる照射領域の移動時間が、レーザのパルス発光時間に比べて十分長ければ、3nmの直径の円状の突起部を形成できる。1T以上の長さの突起を形成する場合には、レーザパルスを複数回に分けてオンしても、形成する突起部の長さに応じて連続してレーザをオンするようにしてもよい。
【0093】
1Tの長さをどの程度とするかは、記録信号111aの転送レート(時間当たりの記録信号の送出量)と記録媒体上のビームスポットBSの移動速度とにより定め得る。レーザの発光時間を短くすれば、1Tの長さは、原理的には原子1個の寸法まで小さくすることができる。
【0094】
本実施の形態では、最短が略9nm(3T長)で、最長は略33nm(11T長)である。変調方式としてEFMを用いれば、1Tを3nmとして突起部の長さは略9nmから略33nmの範囲で略3nm単位で変化する。突起部203は、最内周の一点を中心として螺旋状に配置される。
【0095】
この突起部203の先端が情報を媒介すれば、トラック方向への密度はEFMの場合で、従来のCD−ROMと比較すると、トラック方向への記録密度は833nm(3チャンネルビット)÷9nm(3チャンネルビット)≒92(倍)、トラックピッチは1.6μm÷60nm≒27(倍)であるので、記録密度は2468倍となる。容量は1平方インチ当たり980Gビットとなり、CD−ROMと同サイズの媒体を用いる場合の容量は1.57Tバイトとなる。
【0096】
このような記録・再生媒体200Aから信号を再生するには、再生針と突起部203との間で接触電流、変位電流あるいはトンネル電流を検出すればよい。このような電流を検出するには、突起部203を上述のようにFe等の導電体で構成することが望ましいが、半導体で構成するようにしてもよい。
【0097】
(埋込工程1)
上述の記録・再生媒体、すなわち、突起部形成工程までの処理が行われた記録・再生媒体200Aから信号を再生するには、再生針が突起部203の先端部を精確にトレースする必要がある。但し、再生針がトラックの間に落ちることもあり得るので、再生面から見た場合には、媒体のより好ましい形状が望まれる。このようなことから本埋込工程1では、突起部形成工程の後、記録・再生媒体200Aの多数の突起部203の間を突起部203とは異なる材料で埋め込むものである。具体的には、図5に示したように、多数の突起部203の間にコーティング材料、例えばSiO2 膜205をSOG法により形成して記録・再生媒体200Bとしたものである。このとき突起部203の先端はSiO2 膜205より露出している。
【0098】
このように導電体(Fe)からなる突起部203間が絶縁体(SiO2 膜205)により埋め込まれた記録・再生媒体200Bは、突起部203の表面が露出しているので、トンネル電流を読み出す方式だけでなく、再生針との間で接触電流を読み出す方式にも好適な記録・再生媒体となる。
【0099】
勿論、突起部とコーティング材料との組み合わせは任意であり、その他、導電体からなる突起部と半導体からなるコーティング材料、半導体からなる突起部と絶縁体または導電体からなるコーティング材料、絶縁体からなる突起部と導電体または半導体からなるコーティング材料などの組み合わせとしてもよい。
【0100】
(埋込工程2)
図5に示した埋込工程1では、突起部203の先端はSiO2 膜205より露出しているが、図6に示したように、突起部203を先端を含めてSiO2 膜205に埋没させるようにしてよい。
【0101】
このような記録・再生媒体200Cは、突起部203の表面が露出しないので、再生針との間で変位電流やトンネル電流を読み出す方式に好適である。突起部が半導体である場合も同様である。変位電流を検出する方式では、S/N比の点から、再生針との間における静電容量が突起部203の近傍とその他の部分で大きく異なることが要求される。本実施の形態においては、変位電流を検出する方式では、突起部203の先端とSiO2 膜205の表面までの間隔が0.5nm〜10nmの範囲が望ましく、トンネル電流を検出する方式では0.5nm〜1nmの範囲が望ましい。
【0102】
(平坦化工程1)
図7に示した記録・再生媒体200Dは、上記埋込工程1または埋込工程2まで工程を進めた後、更に例えばCMPによる研磨工程を経て表面を平坦化させたものである。ここでは、突起部203とSiO2 膜205とが均一に平坦化された平面となっている。
【0103】
このような記録・再生媒体200Dは、突起部203の表面が露出しているので、再生針との間で接触電流を読み出す方式に用いることが望ましい。その他、導電体からなる突起部と半導体からなるコーティング材料、半導体からなる突起部と絶縁体または導電体からなるコーティング材料、絶縁体からなる突起部と導電体または半導体からなるコーティング材料の組み合わせの場合も同様である。
【0104】
(表面塗布工程)
図7に示した記録・再生媒体200Dにおいては、接触方式で信号を読み出す場合には接触抵抗の値が不安定要因となることがあり、変位電流やトンネル電流によって信号の再生を行うことが好ましい場合もある。図8に示した記録・再生媒体200Eは、平坦化工程1の後に、絶縁材料例えばSiO2 膜206を塗布形成したものであり、変位電流やトンネル電流による信号検出を行うことができる。SiO2 膜206の膜厚は、変位電流を検出する場合には0.5nm〜10nmの範囲が望ましく、トンネル電流を検出する方式では0.5nm〜1nmの範囲が望ましい。
【0105】
(平坦化工程2)
図8に示した記録・再生媒体200Eの表面を更に例えばCMP法による平坦化工程2を経て研磨し平坦化させるようにしてもよい。
【0106】
以上第1の実施の形態およびその変形例によれば、記録材料自身が持つ特性を利用するようにしたので、エネルギースポットより小さいサイズで突起部を形成することができ、高密度に信号を記録することが可能になり、従来にない、高密度な記録・再生媒体を製造することができる。
【0107】
以下、本発明の他の実施の形態について説明する。
【0108】
〔第2の実施の形態〕
本実施の形態は、方形形状の記録・再生媒体の製造方法に係るものであり、図9は、その製造装置の構成を表すものである。なお、第1の実施の形態(図1)と同じ機能および作用を果たす要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0109】
(記録・再生媒体製造装置)
記録・再生媒体製造装置10Bはターンテーブル300を備えており、このターンテーブル300上に記録・再生媒体となる方形形状の基板301が配置される。基板301は、例えば0.6mmの厚さの石英板の上に膜厚40nmのFe膜が配置されたものであり、そのFe膜側が表面となる。この基板301の表面にビームスポットBSが収束されることは第1の実施の形態と同様である。
【0110】
ターンテーブル300は、Y軸方向に移動可能とする転がり軸300a,300bを備えている。このターンテーブル300は移動台104に固着されたY軸移動力発生装置302によりY軸方向に移動可能となっている。Y軸移動力発生装置302は、Y軸位置検出機構(図示せず)によりターンテーブル300のY軸方向の移動量をY軸移動量信号302aとして発生し、このY軸移動量信号302aがY軸駆動部303を介して制御部110へ送られるようになっている。制御部110は、内部で発生する基準信号と入力したY軸移動量信号302aとを比較演算し、制御信号をバスライン109を通してY軸駆動部303に送出する。Y軸駆動部303は、この制御信号に基づきY軸移動装置駆動信号303aをY軸移動力発生装置302に対して出力するようになっている。
【0111】
次に、この記録・再生媒体製造装置10Bの作用について説明する。
【0112】
(照射工程)
この記録・再生媒体製造装置10Bでは、移動台104をX軸方向に移動させながら、レーザ光発生部112から記録信号111aに応じたビームスポットBSが基板301に照射される。移動台104はX軸方向に所定の位置まで移動した後、Y軸移動力発生装置302によりY軸方向に移動して停止する。このときのY軸方向の移動距離が、トラックピッチとなる。再び、記録信号111aに応じたビームスポットBSを基板301に照射しながら、移動台104をX軸方向の反対方向に所定の位置まで移動させる。この動作を繰り返すことにより、図10(A)に矢印で示したように順次信号が記録される。移動台104をX軸の方向に移動させる際に一旦レーザをオフにするか、基板301に変化を与えない程度にレーザ光を微少として、X軸の反対方向へ移動させた後、最初の方向と同じ方向へレーザ光を変調しながら移動させることにより、図10(B)に示したように、同じ方向に順次信号を記録することができる。
【0113】
照射工程以外の他の工程は、第1の実施の形態と同様であるので、その説明は省略する。本実施の形態においては、基板301の方形の面に信号が記録されるので、螺旋状、または、同心円状に記録する場合に比べて、デッドスペースを減少させて記録面積を増やすことができる。
【0114】
〔第3の実施の形態〕
次に、図11乃至図14を参照して再生専用媒体およびその製造方法について説明する。本実施の形態では、上記第1または第2の実施の形態で得られた記録・再生媒体を原盤として、触媒配置工程を経て再生専用媒体を作製するものである。
【0115】
(触媒配置工程)
図11は、転写用の原盤400を表すものであり、記録信号に応じて多数の突起部403を有している。この原盤400は、第1の実施の形態において得られる記録・再生媒体200A(図3参照)と実質的に同じものであり、突起部403は、記録構造体が成長するための触媒となる材料(例えばFe)で構成されている。なお、記録・再生媒体200Aに限らず、記録・再生媒体200B(図5)や記録・再生媒体200D(図7)と同じものを原盤400としてもよい。
【0116】
再生専用媒体となる基板(再生基板)500は、保持基板501上に導電性の電極膜502を形成してなる複合基板である。電極膜502は、記録構造体が成長するための触媒とならない材料である必要がある。本実施の形態では、電極膜502として例えば20μmの厚みのシリコン(Si)膜を用い、保持基板501としては例えば0.6mmの厚みの石英基板を用いる。なお、基板500は、複合材料に限らず、全体が均一な導電性材料により形成され、自ら形状を保てるようなものであってもよい。
【0117】
本実施の形態では、原盤400と、記録前の基板500とを所定の位置となるように対向させる。所定の位置とは、原盤400および基板500が円盤状である場合においては、両者の中心の位置が合うように対向させることをいう。その位置関係を保ちつつ、図11に示したように原盤400と基板500とを密着あるいは圧着させる。そうすると、原盤400に設けられた多数の突起部403の先端の触媒は基板500に移動する。この工程を、雰囲気温度が100℃〜600℃の範囲で行うと、より容易に触媒は基板500に移動する。ここに、突起部403は、原盤400の全面に均一に配置されているのではなく記録信号に応じて選択的に配置されているので、基板500においても触媒は記録信号に応じて選択的に配置される。
【0118】
図12に沿って基板500が円盤状である場合の触媒の配置について説明する。原盤400と基板500とを密接等させることにより基板500の表面の電極膜502の上には、触媒503が多数配置されたものとなる。触媒503は、突起部403の先端部と略同じ幅を有し、原盤400(第1の実施の形態における記録・再生媒体200A等)に記録された信号に応じて、長手方向(これをトラック方向と定義する。)の長さが異なり、電極膜502の上に、図13(A)に示したような同心円状、または、図13(B)に示したような螺旋状に配置されものとなる。触媒503が同心円状に配置されるか螺旋状に配置されるかは、既に述べたように原盤400の製造における照射工程においてどのようにビームスポットBSと媒体とを相対的に移動させるかに依存している。
【0119】
(記録構造体成長工程)
上記触媒配置工程の後、基板500上に記録構造体を成長させる。本実施の形態では、記録構造体として、例えばCH4 を原料ガスとするCVD法を用いて、触媒503の配置された位置よりカーボンナノチューブを成長させる。図14(A)および図14(B)はその成長工程を表すものである。触媒503の表面に形成されるカーボンナノチューブ504の本数は触媒503の領域の大きさにより定まる。本実施の形態では、記録密度を上げる目的で、触媒の幅は例えば3nmである。この程度の寸法であれば、直径が略3nmのカーボンナノチューブを一列に形成することが可能となるからである。この場合に、カーボンナノチューブの直径(3nm)を1Tに選択すれば、トラック方向の記録密度を最も高いものとすることができる。カーボンナノチューブの直径は略0.4nmから略300nmの範囲で区々であるので、触媒の幅と原料ガスを選択することにより、他の寸法のカーボンナノチューブを成長させるように選択することもできる。
【0120】
このような条件の下、CVD法を用いれば、カーボンナノチューブ504は電極膜502から離れる方向に成長する。電極膜502と対向する電極(図示せず)との間に電圧を印加しながらこの工程を行えば、カーボンナノチューブの電極膜502に対する垂直度が向上する。通常、カーボンナノチューブ504の成長の長さは、図14(B)に示したように区々である。
【0121】
(埋込工程)
次に、図14(C)に示したように、SOG法を用いて、例えばSiO2 からなるコーティング材料505でカーボンナノチューブ504を覆う。なお、同図では、コーティング材料505はカーボンナノチューブ504の全体を覆っているが、カーボンナノチューブ504の一部を覆うものであってもよい。コーティング材料505の表面にはカーボンナノチューブ504の長さの違いに応じて凹凸が存在する。
【0122】
(平坦化工程1)
次いで、CMP法により、カーボンナノチューブ504およびコーティング材料505の表面を研磨する。これにより、図15(A)に示したように、表面が平坦で、長さの揃った多数のカーボンナノチューブ504を備えた再生専用媒体200Fを得ることができる。このような再生専用媒体200Fはカーボンナノチューブ504の先端が露出している。このときのカーボンナノチューブ504の成長方向の寸法は設計事項であり、記録構造体成長工程の時間的長さを管理するなどして、ある程度は任意に定め得るものである。再生装置により、信号の記録部であることが明確に認識されるためには、カーボンナノチューブ504の成長方向の寸法は20nm以上であることが望ましく、成長したカーボンナノチューブの整列特性を考慮すると、200nm以下であることが望ましい。このような再生専用媒体200Fは、カーボンナノチューブ504の表面が露出しているので、変位電流を検出する方式、トンネル電流を検出する方式のみならず、接触電流を検出する方式でも好適に信号の再生ができる。
【0123】
(表面塗布工程)
更に、図15(B)に示したように、再生専用媒体200Fの表面に表面塗布剤506としてSiO2 を塗布形成することにより再生専用媒体200Gとしてもよい。このような再生専用媒体200Gは、変位電流検出方式あるいはトンネル電流検出方式により信号の再生ができる。
【0124】
(平坦化工程2)
トンネル電流検出方式においては、表面塗布剤506の厚さを0.5nm〜1nmの範囲とする必要があるので、表面の凹凸は極力なくさなければならない。CMP法で再び研磨すると、図15(C)に示したように表面が平坦な再生専用媒体200Hを得ることができる。このような再生専用媒体200Hは、変位電流検出方式あるいはトンネル電流検出方式により信号の再生が好適にできる。
【0125】
〔第4の実施の形態〕
続いて、図16を参照して本発明の第4の実施の形態を説明する。本実施の形態は、第2の実施の形態で製造した、突起部を触媒となる材料で形成し、かつ、突起部が絶縁材料で覆われることなく露出する記録・再生媒体200Aを原盤として用いて再生専用媒体を製造するものである。
【0126】
(触媒配置工程)
本実施の形態では、図16に示したように、方形の記録・再生媒体200Aを転写用の原盤400Aとし、この原盤400Aを再生専用媒体となる基板500Aとを所定の位置で対向させる。ここで、基板500Aの構成は形状が方形となる以外は、第3の実施の形態と同様なものである。その位置関係を保ちつつ原盤400Aと基板500Aとを密着、あるいは圧着させる。そうすると、原盤400Aに設けられた突起部403の先端の触媒は基板500Aに転写される。雰囲気温度を100℃〜600℃の範囲でこの工程を行うと、触媒はより容易に基板500Aに移動する。ここにおいても、原盤400Aの突起部403は記録信号に応じて配置されているので、図17に示したように基板500Aにおいても触媒は記録信号に応じて選択的に配置されるものとなる。
【0127】
触媒配置工程以外の他の工程は第3の実施の形態と同様にして、方形の再生専用媒体を製造することができる。
【0128】
〔信号再生装置および信号再生方法〕
次に、本発明の信号再生装置および信号再生方法について説明する。この信号再生装置は、上述のようにして作製された記録・再生媒体または再生専用媒体から信号を再生するものであり、これら記録・再生媒体等と再生針とを相対的に移動させて、記録・再生媒体等の全面に記録された信号の再生を可能とするものである。ここに、記録・再生媒体等の形状は、円盤状であっても、方形状であっても、その他のいかなる形状であってもよい。
【0129】
本発明の信号再生装置における信号検出原理として、例えば以下の3種類の方式がある。第1は、記録・再生媒体(例えば、本発明の記録・再生媒体の突起部が該当する。)に設けられた突起部、または、再生専用媒体(例えば、本発明の再生専用媒体が該当する。)に設けられた記録構造体としての針状構造体若しくは壁状構造体と、再生針との間に絶縁物を介することによる静電容量を検出する方式である。第2は、同じく、記録・再生媒体や再生専用媒体に設けられた突起部または針状構造体若しくは壁状構造体と再生針との間のトンネル効果を検出する方式である。また、第3は、同じく、記録・再生媒体または再生専用媒体に設けられた突起部または針状構造体若しくは壁状構造体が、直接に再生針に接することによる抵抗値の変化を検出する方式である。以上の静電容量は変位電流の大きさ、トンネル効果はトンネル電流の大きさ、抵抗値の変化は接触電流の大きさによりそれぞれ検出することができる。
【0130】
記録された信号を時系列として再生するためには、再生針が記録・再生媒体や再生専用媒体に設けられた突起部または針状構造体若しくは壁状構造体を精確にトレースする手段が必要である。本発明では、前述のように各々のトラックの間隔が微細であるために、サーボを用いたトラック追従手段により、再生針を略トラックと直交する方向に移動させてトラックに追従させることが望ましい。トラック追従手段におけるサーボの方式としては、例えば、ウォブリング法、補助再生針を使う方法がある。また、より再生信号を安定して得るためにサーボを用いて記録・再生媒体の表面と再生針の先端との間隔を一定に保つ距離保持手段を用いることが好適である。更に、トラック追従手段と距離保持手段とを併用することもできる。
【0131】
〔第5の実施の形態〕
以下、再生装置の具体例について説明する。
(再生装置の構成)
図18は装置全体を表す概念図であり、各部の寸法は、見易いように一部の要素については拡大されている。本実施の形態の再生装置600は、記録・再生媒体200Iを保持するための媒体テーブル601、記録・再生媒体回転装置602、再生針603、再生針駆動部604、駆動部案内軸605、駆動部移動軸606、移動軸回転装置607、案内軸支持板608および再生・制御部609を主要な要素として構成されている。記録・再生媒体回転装置602および移動軸回転装置607は電動機である。
【0132】
記録・再生媒体200Iは、円盤状の形状をしており、媒体テーブル601により、再生針603に対向する面の反対側の面(裏面)を基準面として保持される。媒体テーブル601は、記録・再生媒体回転装置602の回転軸602Aに対して、再生表面が垂直となるように記録・再生媒体200Iを保持する。回転軸602Aは記録・再生媒体200Iのセンターホール700Aに密着する寸法に設定されており、回転軸602Aの回転中心と記録・再生媒体200Iの中心とが略一致するように装着される。記録・再生媒体回転装置602および案内軸支持板608は、図示しない再生装置の基準面となる装置フレームに固着されている。装着確認装置610は、例えば、光を記録・再生媒体200Iに照射して、その光の反射により記録・再生媒体200Iが媒体テーブル601に装着されたことを検出するものである。
【0133】
再生針駆動部604は、駆動部案内軸605と駆動部移動軸606とにより、駆動部案内軸605および駆動部移動軸606の軸に沿って図18に示したX軸方向に移動自由となるように配置されている。ここで、X軸は、駆動部案内軸605および駆動部移動軸606の軸に沿う方向に平行であり、Y軸は、X軸と直交する。X軸およびY軸を含む面は、記録・再生媒体テーブル601および記録・再生媒体200Iの再生表面と平行になる。Z軸は、X軸およびY軸を含む面と直交する。
【0134】
再生針603と記録・再生媒体200Iとの位置関係は、再生針603と回転軸602Aの中心とを結ぶ直線がX軸と平行となるように配置される。再生針603は針状構造体であり、その先端は斜め方向に切断されている。記録・再生媒体200Iに設けられた突起部(または針状構造体若しくは壁状構造体)を正確に検出するためには、再生針603のトラック方向の寸法は、記録・再生媒体200Iにおける最短記録信号長と略同程度以下のサイズであることが望ましく、再生針603のラジアル方向のサイズは、トラックピッチの略1/2程度以下のサイズを有することが望ましい。本実施の形態では、再生針603としてカーボンナノチューブを用いることにより、この条件を満たしている。
【0135】
駆動部案内軸605は、案内軸支持板608に少なくとも一端が固定されており、基準面であるフレームに対して一定の位置関係を常に保っている。駆動部移動軸606は、案内軸支持板608に設けられた図示しない駆動部移動軸受けによってZ軸とY軸が作る平面内で滑らかに回転可能とされている。駆動部移動軸606は、軸結合部611を介して駆動部移動軸回転装置607の回転軸に結合されて回転力を伝達される。ここで、駆動部移動軸606の駆動部移動軸受けに接する部分以外の軸の表面には、軸の中心を回転中心とする螺旋状の溝が設けられている。
【0136】
再生・制御部609は、各要素と以下の信号または電力のやり取りを行う。すなわち、再生・制御部609は、装着確認装置610からの装着検出信号610aを受けて、記録・再生媒体200Iが媒体テーブル601へ装着されたことを確認する。そののち、再生・制御部609は、再生針駆動部604から、記録・再生媒体200Iに予め記録された構造的な変化を電気信号に変換した再生信号604a、記録・再生媒体回転装置602から記録・再生媒体200Iの回転位置を示す記録・再生媒体回転検出信号602aをそれぞれ受けて、記録・再生媒体回転装置602に対して記録・再生媒体回転制御信号609a、移動軸回転装置607に対して移動制御信号609bを出力し、それぞれの回転を制御する。再生・制御部609は、また、再生針駆動部604に対してX軸制御信号609cおよびZ軸制御信号609dを出力し、再生針603のX方向およびZ方向への位置を制御する。
【0137】
図19は、記録・再生媒体200I、再生針603および再生針603を駆動するための再生針駆動部604の位置関係を表したものである。この図も概念図であり、各部の寸法は、見易いように一部の要素については拡大されており、Y軸およびZ軸を含む断面図を示している。再生針603は、微細な導電体または半導体であることが望ましいために、直径3nm、長さ100nmのカーボンナノチューブが用いられる。
【0138】
記録・再生媒体200Iは、前述の方法と同様にして、保持基板700上に形成された電極膜701からカーボンナノチューブ702が成長し、カーボンナノチューブ702の周囲にコーティング材料である絶縁剤703が埋め込まれ、その表面(平坦面)に表面塗布膜704が形成されたものである。保持基板700は、例えば厚さ0.6mmの石英基板、電極膜701は例えば厚さ40μmのシリコン膜、カーボンナノチューブ702は、1本の直径が3nmで長さが100nmのもの、絶縁剤703はSiO2 、塗布膜704は例えば厚み0.5nm〜10μmの範囲のSiO2 膜である。
【0139】
再生針駆動部604は軸受け部604Aを有し、この軸受け部604Aには、駆動部案内軸605が微小な空間を介して案内される案内軸孔604B、および駆動部移動軸606が螺接するように螺旋状の溝が形成された移動軸孔604Cが設けられている。これにより軸受け部604Aは、X軸方向に駆動部案内軸605の回転に伴ない移動可能となっている。再生針保持板604Dは再生針603を保持するものであり、X方向に再生針603を移動させるためのX軸アクチュエータ604EとZ方向に再生針603を移動させるZ軸アクチュエータ604Fとを介して軸受け部604Aに結合されている。X軸アクチュエータ604EおよびZ軸アクチュエータ604Fは、例えば、電圧を印加すると電圧値に応じて変位する圧電素子である。再生信号検出部604Gは、再生針603を介してカーボンナノチューブの有無を検出するために必要な電子回路により構成されている。
【0140】
再生信号検出部604Gは、カーボンナノチューブの検出にトンネル電流検出方式を採用する場合には、例えば、高圧直流電圧発生部、トンネル電流検出素子として抵抗器やホール効果を用いた電流センサ、トンネル電流増幅回路などが含まれる。変位電流検出方式を採用する場合には、例えば、高周波電力発生部、トンネル電流検出素子として抵抗器やホール効果を用いた電流センサ、エンベロープ検波回路、エンベロープ検波信号増幅器が含まれる。接触電流検出方式を採用する場合には、抵抗器やホール効果を用いた電流センサ、接触電流増幅器が含まれる。再生信号検出部604Gには、更に、全ての方式において、トラック追従手段の一部をなすアクチュエータ駆動回路およびトラッキング誤差信号演算部、あるいは、距離保持手段の一部をなすアクチュエータ駆動回路および距離保持誤差信号演算部が含まれる。
【0141】
次に、図18乃至図21を参照して本実施の形態の再生装置600の作用について説明する。
【0142】
(相対移動ステップ)
まず、記録・再生媒体200Iの回転制御系について説明する。記録・再生媒体200Iが記録・再生媒体テーブル601に装着されると、それを装着確認装置610が検出し、装着検出信号610aを再生・制御部609に送る。再生・制御部609は装着検出信号610aを検出すると、記録・再生媒体回転制御信号609aを記録・再生媒体回転装置602へと送出する。このとき、再生・制御部609は、記録・再生媒体回転装置602から記録・再生媒体回転検出信号602aを受け取り、内部で発生する基準クロックと記録・再生媒体回転検出信号602aとの位相差に応じた信号を発生し、これを記録・再生媒体回転制御信号609aとして記録・再生媒体回転装置602に送出し、位相制御を行なう。これにより記録・再生媒体回転装置602においては、基準クロックと記録・再生媒体回転検出信号602aとの位相差が一定に保たれるように回転制御が行なわれる。ここで、記録・再生媒体回転装置602は、再生針603とカーボンナノチューブ702のトラック方向(Y軸)方向への相対的な移動をもたらすY軸アクチュエータとして作用する。
【0143】
再生・制御部609は、基準のクロックと記録・再生媒体回転検出信号602aとの位相差を検出するだけではなく、制御系の最適化のための演算、例えば、位相補償も行う。ここで、基準のクロックが時間的に一定の周期波である場合には、記録・再生媒体回転装置602と記録・再生媒体200IとはCAV(Constant Angular Velocity )モードで回転をする。なお、記録・再生媒体200Iにおける再生針603の位置と記録・再生媒体200Iの回転中心(図示せず)との距離に逆比例して基準のクロックの周期が変化するものである場合には、CLV(Constant Linear Velocity)モードで回転をすることになる。
【0144】
(距離維持ステップ)
続いて、図20(A)〜(C)および図21(A)〜(F)を参照して、再生針603のZ軸方向への制御について説明する。ここで、図21(A)〜同図(C)は、記録・再生媒体を回転させて得られるトラックnの変位電流信号の波形を表し、同図(E)は記録・再生媒体を回転させて得られるトラックnの変位トンネル電流信号または接触電流の波形、同図(F)は記録・再生媒体を回転させて得られるトラックnのパラメータ変化電流信号の波形をそれぞれ表したものである。
【0145】
再生針603とカーボンナノチューブ702とは表面塗布膜704(誘電体膜)を介してその両方の先端が対峙しており、導電性を有するカーボンナノチューブ702と表面塗布膜704と再生針603とは静電容量を形成する。この状態で、再生針保持板604Dと電極膜701との間に高周波電力を印加すると、変位電流が流れる。ここで、再生針603はその先端が斜め方向に切断をされており、図20(A)〜同図(C)に示したように、再生針603が表面塗布膜704に押し付けられると、その圧力により再生針603と表面塗布膜704との接触面積が異なる。そのために、変位電流信号の大きさは、図20(A)に示したように再生針603が表面塗布膜704から離れている場合には小さく(図21(A))、図20(B)に示したように再生針603が表面塗布膜704に接すると大きくなり(図21(B))、図20(C)に示したように再生針603が表面塗布膜704に押し付けられるとより大きくなり(図21(C))、再生針603の先端部が広い面積に渡り信号の再生に寄与するようになる。
【0146】
具体的には、静電容量として関与する再生針603とカーボンナノチューブ702との射影面積が増加し、トンネル電流が再生針603の先端部以外から流れ出すこととなり、後述する接触方式においては接触面積が増加することになる。このことは、解像度が低下することを意味する。そのために符号間干渉が生じ周波数特性は悪くなり再生される信号の品質は却って悪化する。よって、図20(B)に示した位置関係で常に再生するのが望ましい。
【0147】
カーボンチューブ702の斜め方向の切断面は、カーボンナノチューブ702を酸化処理することにより得られる。再生針603が斜めの先端形状を有し、距離変化により変位電流の値が変化するので、予め定める所定の変位電流が流れるようにZ軸アクチュエータ604Fを制御して、再生針603と表面塗布膜704との位置関係を常に一定にすることができる。トンネル電流検出方式においては、電界強度は先端部で最大となり先端部から電流が流れ始め、カーボンナノチューブ702と再生針603との距離が接近するにつれ、再生針603の尖った先端部のより広い範囲からトンネル電流が流れ始めるので、トンネル電流の大きさで距離を測定することができる。
【0148】
ここで、図21(A)〜同図(C)に示したようにカーボンナノチューブ702が存在する領域と絶縁剤703が存在する領域とでは、変位電流の大きさが異なる。すなわち、カーボンナノチューブ702が存在する領域では、大きな変位電流が流れ、絶縁剤703が存在する領域では変位電流はほとんど流れない。
【0149】
よって、Z軸アクチュエータ604Fを安定して動作させるためには、変位電流のピーク、すなわち、カーボンナノチューブ702の存在する領域における変位電流をピークホールドして、そのピークホールド値と予め定めた基準値との差を誤差信号としてZ軸アクチュエータ604Fにフィードバックすることにより、ピークホールド値が所定の基準値に一致するように制御をすればよい。または、再生信号が、いわゆるDCフリーである場合には、再生信号のエンベロープの平均値が所定の基準値と一致するように制御をすればよい。このフィードバック制御は、再生・制御部609において行う。なお、再生・制御部609は、必要であれば、所定のゲインを掛けたZ軸制御信号609dをZ軸アクチュエータ604Fに印加することにより位相補償を行うことができる。
【0150】
また、再生針603と表面塗布膜704とを図20(B)の状態に維持する他の方法として、再生針603の弾性力を用いることもできる。再生針603の先端を表面塗布膜704に押し付けた状態で再生すれば、記録・再生媒体200Iの表面が平坦な場合には、再生針603の弾性力により、サーボ機構を不要として、カーボンナノチューブ702の有する弾性力により再生信号の振幅の変化を許容される範囲に留めながら読み取ることもできる。
【0151】
再生信号はカーボンナノチューブ702の存在する領域(以下,オン領域という。)の信号と、絶縁剤703の存在する領域(以下、オフ領域という。)からの信号との組み合わせにより得られる。オン領域とオフ領域をどのように組み合わせるかは、ディジタル信号の変調方式として従来より種々知られている。例えば、DCフリー信号の代表例は、CD(Compact Disc)に使用されているEFMである。このような信号は、再生信号とサーボ信号とを帯域分割により容易に分割できるという利点がある。
【0152】
図21(D)は、表面塗布膜704を透視して見たカーボンナノチューブ702の分布状態を表したものである。カーボンナノチューブ702は局所的に見ると、記録・再生媒体200Iの中心に対して略同心円とみなせる螺旋状に配列されており、オン領域とオフ領域が交互に繰り返される。トラックピッチTp は、図21(D)の破線で表したトラックセンターと隣接するトラックセンターとの距離であり、例えば、60nm程度である。EFMを採用する場合には、1ピットの長さをカーボンナノチューブの直径とすれば、代表的なカーボンナノチューブの直径は3nmであるので、トラック方向への寸法は、例えば、最短のオンの長さ(3T)は3nm×3=9nmである。
【0153】
再生針としては、先端処理をしないカーボンナノチューブをも用いることができる。図22(A)〜同図(C)はその再生針603Aによる再生状態を表すものである。再生針603Aを構成するカーボンナノチューブの先端は閉じており、先端が細くなっている。この再生針603Aでは、前述の再生針603に比べて先端処理が不要という利点があるが、先端を酸化処理した場合に比べては、先端部は鋭角ではないので、信号の解像度が少し落ちることとなる。しかしながら、距離を近づけるとトンネル電流が生じる部分が先端部からより広い部分にまで広がるので、このような形状の再生針603Aにおいても距離を検出することができる。
【0154】
(微トラッキングステップ(ウォブリング法))
記録・再生媒体200Iの中心と回転の中心がずれている場合や、振動等の外乱が再生針603,603Aと記録・再生媒体200Iとの位置関係をずらす場合において、3nmの直径のカーボンナノチューブを正確にトレースするためには、X軸方向へのサーボを用いないと、再生針603がトラックセンター上に設けられた記録構造体を正しくトレースすることができない。これを可能とするためには、再生針603と記録・再生媒体200Iの針状若しくは壁状構造体との離間距離を検出し、この離間距離に応じた信号をX軸アクチュエータ604Fにフィードバックして再生針603が自動的に針状若しくは壁状構造体を追従するようなサーボ方式を採用すればよい。
【0155】
X軸方向へのサーボは、例えば、ウォブリング法を用いて行うことができる。ウォブリング法の概略を図23(A)〜同図(D)に沿って説明する。同図の時間軸はmsec の単位で表せるものであり、nsec の単位で表せる図21の時間軸を圧縮したものである。ここに、図23(A)はX軸方向の変位量、同図(B)はトラックセンターを通過中の再生信号のエンベロープ、同図(C)はトラックセンターから外周よりを通過しているときの再生信号のエンベロープ、同図(D)はトラックセンターから内周よりを通過しているときの再生信号のエンベロープをそれぞれ表している。
【0156】
図21(D)において破線で表すトラックセンターの位置を再生針603が通過する場合に、再生針603にX軸アクチュエータ604Eによって微小な変位(例えば、Tpの1/10の変位)を図23(A)に示したように与えると再生信号のエンベロープは、図23(B)に示したように変化する。このとき、このエンベロープの正側、または、エンベロープの絶対値信号をサンプリングする。サンプリングのポイントは、図23(A)に示したP1,P2である。ここで、P1はX軸方向変位が外周側に最大となる点であり、P2はX軸方向変位が内周側に最大となる点である。再生針603が正しくトラックセンター付近を通過する場合には、P1点におけるエンベロープ振幅AP1の値とP2点におけるエンベロープ振幅AP2の値とは、図23(B)に示したように等しくなる。
【0157】
一方、再生針603がトラックセンターの位置より外周側を通過する場合に、X軸アクチュエータ604Eによって再生針603に微小な変位を与えると、再生信号のエンベロープは図23(C)に示したように変化する。このとき、P1とP2の位置でサンプリングを行えば、P1点におけるエンベロープ振幅AP1の値はP2点におけるエンベロープ振幅AP2の値より小さくなる。
【0158】
また、破線の位置より内周側を再生針603が通過する場合に、再生針603にX軸アクチュエータ604Eによって微小な変位を与えると、再生信号のエンベロープは、図23(D)に示したように変化する。このとき、P1とP2の位置でサンプリングを行えば、エンベロープ振幅AP1の値はP2点におけるエンベロープ振幅AP2の値より大きくなる。
【0159】
なお、必要であれば、AP1−AP2で表される値に所定のフィードバックゲインを掛けて位相補償を施すことにより、X軸変位補正制御信号を得、このX軸変位補正制御信号と、X軸アクチュエータ604Eを図23(A)に示したようにX軸方向に振るための所定の周期信号とを加算してX軸制御信号609cを得ることができる。以上のAP1−AP2の値の算出、フィードバックゲインの掛け算、位相補償、周期信号の発生、周期信号とX軸変位補正制御信号との加算は、再生・制御部609において行われる。ウォブリング法においては、1本の再生針でトラッキングが可能という利点がある。ここで、トラック方向への再生針603のずれ量をトラッキング誤差と定義する。AP1−AP2の値はトラッキング誤差に対応しているのでトラッキング誤差信号と称する。
【0160】
上述した、Z軸方向およびX軸方向のサーボ制御が行なわれることにより、記録・再生媒体200Iにカーボンナノチューブの有り無しとして記録された信号が安定して再生される。ここで、再生信号604aは、例えば、EFMのような変調された信号であるので、再生・制御部609において復調させることにより、記録信号(ディジタル信号)を再生することができる。
【0161】
(信号再生ステップ(変位電流検出法))
再生信号の検出方法について更に詳細に説明する。図19に示したように記録・再生媒体200Iの再生針603と対向する面の表面に誘電体膜(表面塗布膜704)を備える場合において、誘電体膜の厚さが、略1nm以上である場合、またはカーボンナノチューブ702の表面における電界強度が小さい場合には、トンネル効果は生じない。この場合、再生針603とカーボンナノチューブ702と誘電体膜(表面塗布膜704)とはコンデンサとして作用する。ここで、カーボンナノチューブ702は導電体あるいは半導体として導電性を有する。また、電極膜701と再生針保持板604Dとは導電性を有する材料によって構成されている。
【0162】
電極膜701と再生針保持板604Dとの間の静電容量は、再生針603が、カーボンナノチューブ702の存在部分の近くにある場合と、絶縁剤703の存在部分の近くにある場合とでは大きく異なる。よって、この静電容量の変化を検出することにより再生信号を検出することが可能となる。静電容量の変化を検出する方法の一つとして、電極膜701と再生針保持板604Dとの間に高周波の電力を印加して変位電流を検出する方式を用いることができる。このような変位電流を検出するための回路は再生信号検出部604Gに設けることができる。ここで、高周波の電力の周波数は、記録信号の周波数の数十倍となるように選択することが望ましい。記録信号検出は、高周波信号の周期の1/2の時間のジッター(時間揺らぎ)として、誤差を生じ、解像度の低下をもたらすからである。
【0163】
変位電流(Id)の大きさは、V:再生針保持板604Dと電極膜701との間の電圧、Rn:再生針の抵抗、Rr:電流が流れる記録構造体の抵抗、Rc:接触抵抗、C:再生針603とカーボンナノチューブ702と誘電体膜(表面塗布膜704)とで形成される静電容量、J:虚数単位、Ω:角周波数とすれば、次の数式1で表される。
【0164】
【数1】
Id∝V/{(Rn+Rr+Rc)+1/jΩC}
【0165】
1/ΩC>Rn+Rr+Rcである場合には、変位電流Idは、静電容量の大きさに略比例することとなる。ここで、d:再生針と媒体との間の距離、ε:誘電体の誘電率、S:再生針と媒体との対向する面積とすると、Cの大きさは次の数式2で表される。
【0166】
【数2】
C∝εS/d
【0167】
(信号再生ステップ(パラメータ変化電流検出法))
変化電流検出法は高周波の電源を必要とするので、ノイズを回路系に対して与えるという好ましくない点があるが、静電容量の変化を直流電源を用いて検出できればこの問題は解決する。以下、静電容量の変化を検出するための他の方法を説明する。
【0168】
Q:静電容量に保存される電荷、V:静電容量を構成する電極間の電圧(再生針保持板604Dと電極膜701との間の電圧)、C:静電容量とすると、次の数式3が成立する。
【0169】
【数3】
Q=C・V
【0170】
数3より静電容量に所定の電荷Qを保存し、静電容量の値を変化すると、次の数式4が成立する。
【0171】
【数4】
dV∝Q/dC
【0172】
ここで、Cはカーボンナノチューブ領域に再生針が突入する場合には時間とともに増加し、長いカーボンナノチューブの領域を通過中は略一定の値を取り、カーボンナノチューブ領域から抜け出す場合には時間と共に減少する時間関数である(以下、C(t)と記す。)。
【0173】
よって、再生針がカーボンナノチューブ領域に突入する場合には、電荷Qは次の数式5で表される。
【0174】
【数5】
Q=∫Ip・dt
【0175】
ここで、再生針が絶縁領域からカーボンナノチューブ領域に突入する場合には、初期の静電容量C(t)および初期の電荷Qも零と考えてよいので、数式5に数式3を代入すると、次の数式6を得る。
【0176】
【数6】
C(t)・V(t)=∫Ip・dt
【0177】
ここで、V(t)は、最大Vまで増加する。また、1/{(Rn+Rc)・C}で表される時定数がC(t)の増加の割合に比べて十分小さいと考えられる範囲では、ほとんどV(t)=Vと考えてもよい。そうすると、数6は、次の数式7で近似できる。
【0178】
【数7】
dC(t)/dt・V=Ip
【0179】
数7は静電容量C(t)の時間変化にIpが比例することを示している。すなわち、カーボンナノチューブ領域に突入するに伴ってIpが増加する。やがて、再生針がカーボンナノチューブの真上にくるとCの増加は止まり、電流Ipも流れなくなる。カーボンナノチューブ領域から再生針が離れるに伴ってC(t)の値は減少するので、電流Ipは負方向へと流れるようになる。図21(F)にIpを示す。Ipの立上り点と、立下り点とを検出して記録された信号を再生することができる。
【0180】
(信号再生ステップ(トンネル電流検出法))
更に、他の信号再生方法について説明する。図19に示したように記録・再生媒体200Iの再生針603と対向する面の表面に誘電体膜(表面塗布膜704)を備える場合において、誘電体膜の厚さが、略1nm以下である場合には、トンネル効果を生じさせることができる。よって、再生針603とカーボンナノチューブ702との間に絶縁膜を介して直流電圧を印加することにより、10の7乗ボルト/m程度の電界を生じさせれば、カーボンナノチューブ702の存在部分の近くに再生針603がある場合にはトンネル電流が流れ、絶縁剤703の存在部分の近くに再生針603がある場合にはトンネル電流は流れない。このような場合には、再生信号検出部604Gに、直流電圧発生部および検出回路を設けることによりトンネル電流を検出することができる。トンネル電流を検出する方法では、高周波の電力が不要であるという利点がある。また、再生信号もエンベロープ検波ではなく、図21(E)に示したように直接に得ることができる。
【0181】
トンネル電流(It)の大きさは、V:再生針保持板604Dと電極膜701との間の電圧、φ:トンネル障壁、d:再生針と媒体との間の距離とすると、次の数式8で表される。
【0182】
【数8】
It∝Vexp(- φ1/2 d)
【0183】
なお、距離(d) が0.1nm変化すると、トンネル電流Itは約1桁変わることとなる。すなわち、Z軸方向のサーボは、安定に信号を再生するのに効果的である。
【0184】
(信号再生ステップ(接触電流検出法))
図24に示したように誘電体膜を設けないでカーボンナノチューブの表面を露出させると、再生針603Bとカーボンナノチューブ702の先端とが接触するので、接触により流れる電流を検出することができる。このような接触電流を検出する方式では、高電界や高周波を発生させるための電源が不要であるという利点がある。再生信号もエンベロープ検波ではなく、図21(E)に示したように直接に得ることができる。ここで、接触電流の大きさは、カーボンナノチューブ702と再生針603Bの先端との接触面積に比例する。
【0185】
接触電流(Ic)の大きさは、V:再生針保持板604Dと電極膜701との間の電圧、Rn:再生針の抵抗、Rr:電流が流れる記録構造体の抵抗、Rc:接触抵抗とすると、次の数式9で表される。
【0186】
【数9】
Ic=V/(Rn+Rr+Rc)
【0187】
Rc>Rn,Rrである場合には、接触電流Icは、略接触抵抗に反比例することとなる。再生信号は、図21(E)に示したように直接に得ることができる。
【0188】
(粗トラッキングステップ)
変位電流を検出する方式、トンネル電流を検出する方式、接触電流を検出する方式のいずれの方式においても、再生針603の表面塗布膜704あるいはカーボンナノチューブ702への接触面の面積が増加すると、それぞれ電流の大きさが増加するので、これらの変化を検出することにより、上述のZ軸方向へのサーボを行うことができる。
【0189】
ここで、記録・再生媒体200Iに設けられたトラック構造が、同心円状(Concentric)である場合には、同一のトラックを再生し続けることとなる。一方、記録・再生媒体200Iに設けられたトラック構造が、螺旋状(Spiral)である場合には、記録・再生媒体200Iの回転に伴い、再生針603はX軸方向のサーボによって内周から外周(または、外周から内周)へとトラックをトレースする。
【0190】
しかしながら、所定の数以上のトラックをX軸アクチュエータ604Eのみで追従すると定常偏差が大きくなり、また、可動範囲を逸脱して、トラックのセンターを追従することが不可能となってしまう。同心円状である場合においても、広い範囲のトラックをカバーするには、X軸アクチュエータ604Eの作用のみでは困難である。このような問題の発生を防止するために、本実施の形態では、X軸方向への大きな変位を生じさせる大変位移動機構が採用されている。
【0191】
大変位移動機構は、図18に示したように、駆動部案内軸605,駆動部移動軸606,移動軸回転装置607,案内軸支持板608および軸結合部611とからなる。移動軸回転装置607は再生・制御部609から出力される移動制御信号609bにより駆動されるのであるが、この移動制御信号609bはX軸制御信号609cを低域フィルタにより濾波して低域信号のみを検出したものである。低域フィルタの実現あるいは低域フィルタと等価な演算は、再生・制御部609で行なわれる。
【0192】
移動軸回転装置607は移動制御信号609bにより回転し、その回転力は軸結合部611を介して駆動部移動軸606に伝わる。その結果、再生針駆動部604が駆動部案内軸605にガイドされてX軸方向に変位し、再生針603の位置を外周方向あるいは内周方向へと移動させる。大変位移動機構は、サーボループを構成しており、移動制御信号609bが零となるように再生針603の位置が制御される。
【0193】
本実施の形態の再生装置600は、針状構造体であるカーボンナノチューブを再生針603として用いることにより、記録・再生媒体200Iに記録された高密度信号を再生することができる。ここにおいて、記録・再生媒体は円盤状であるために、トラックセンターに追従するX軸のサーボと回転サーボを備えれば、容易に再生信号を得られるという利点がある。また、トラッキングの方法として、ウォブリング法を用いるために再生針が1本で済むという利点がある。
【0194】
〔第6の実施の形態〕
(微トラッキングステップ(3針法))
本実施の形態は、X軸方向へのサーボ方式として他の例を採用したものである。図25(A)は再生針603が図25(D)に示した「a」の位置にあるときの変位電流信号、図25(B)は再生針603が「b」の位置にあるときの変位電流信号、図25(C)は再生針603が「c」の位置にあるときの変位電流信号をそれぞれ示している。ここで、「a」,「b」,「c」で示した位置における変位信号の大きさは、再生針603と記録・再生媒体200Iの針状構造体若しくは壁状構造体との重なり面積によって異なる。よって、図25(A)に示したように、例えば、「a」の位置での重なり面積に対しての「b」で示した位置での重なり面積が半分になれば信号の大きさも略半分となる。
【0195】
図26はトラッキング信号検出回路の構成を表すものである。この検出回路は再生針駆動部604に設けられる。第1のトラッキング信号検出針801は、再生針603に対して内周方向(X軸方向)に所定の量ずらして設けられている。第2のトラッキング信号検出針802は、再生針603に対して外周方向(X軸方向)に所定の量ずらして設けられる。所定の量とは、例えば、突起部または針状構造体の直径の1/2程度である。再生針603からは再生信号が検出される。変位電流検出方式においては、エンベロープを検波することにより信号が再生され、トンネル電流検出方式、接触電流検出方式においては直接再生信号が検出される。3本の針は近接して再生針駆動部604に設けられるために、接触を防止するためにトラック方向(Y軸方向)にずらして設けることが好ましい。
【0196】
第1のトラッキング信号検出針801からの信号は、再生信号エンベロープ検波部803でエンベロープ検波された後、低域濾波部806で低域成分のみが検出され、トラッキング誤差信号となる。トラッキング誤差信号は低域成分に含まれており、低域成分のみを検出することによって信号のS/N比が向上する。第2のトラッキング信号検出針802からの信号も同様に再生信号エンベロープ検波部805でエンベロープ検波された後、低域濾波部807で低域成分のみが検出され、トラッキング誤差信号となる。低域濾波部806,807から出力される両トラッキング誤差信号は減算部808で減算され、その結果トラッキングエラー信号が得られる。
【0197】
〔第7の実施の形態〕
(微トラッキングステップ(2針法))
本実施の形態は、トラッキング誤差信号を他の方法(2針法)により検出するものである。図27はその例を表したものである。再生専用の針が存在しない点以外は3針法と同じである。第1のトラッキング信号検出針801からの信号は再生信号エンベロープ検波部803でエンベロープ検波された後、低域濾波部806において低域成分のみが検出され、トラッキング誤差信号となる。第2のトラッキング信号検出針802からの信号も同様に再生信号エンベロープ検波部805でエンベロープ検波された後、低域濾波部807で低域成分のみが検出され、トラッキング誤差信号となる。減算部808で両方の信号を減算することによりトラッキングエラー信号を得ることができることは、第6の実施の形態と同様である。
【0198】
再生信号604aは、第1のトラッキング信号検出針801からの出力と第2のトラッキング信号検出針802からの出力とを加算部810において加算し、再生信号エンベロープ検波部804でエンベロープ検波されることにより得られる。ここで、第1のトラッキング信号検出針801と第2のトラッキング信号検出針802とはトラック方向でずれているので、このずれに対応する時間応答のずれ分をディレイ809で吸収し、その後に両方の検出針801,802からの信号を加算するとS/N比を向上させることができる。
【0199】
〔第8の実施の形態〕
図28は第8の実施の形態に係る再生装置600Aを表すものである。この再生装置600Aは、方形状の記録・再生媒体200Kの複数の直線状トラックに沿って記録された信号を再生するものである。ここに、第5の実施の形態(図18)と同一の作用効果を生じる要素については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0200】
本実施の形態では、Y軸移動軸612は軸結合部613を介してY軸回転装置615の回転軸に結合されている。Y軸移動軸612は螺旋状のねじが形成され、Y軸移動部614に設けられたねじ受けに螺接してY軸移動軸612の回転に伴ないY軸移動部614をY軸方向に移動させる。ここにおいて、移動軸回転装置607は、Y軸移動部614とともに移動する。Y軸移動部614には図示しないY軸ガイド溝が設けられ、このガイド溝を図示しないガイドシャフトが密接して貫設されている。これにより、Y軸移動部614は回転することなく、Y軸方法に滑らかに移動する。これにより、再生針603は記録・再生媒体200Kに記録された信号の読み出しが可能となる。
【0201】
Y軸回転装置615は、その回転角度よりY軸方向の位置を示すY軸回転位置検出信号615aを出力する。Y軸回転位置検出信号615aは、Y軸回転装置615が所定の回転位置に変位すると所定の変位毎に発生されるパルス信号である。再生・制御部616は、このパルス信号の発生周期と予め定めた所定の時間間隔との差を検出して、この差の信号に所定の係数を掛け、位相補償を施してY軸制御信号616aを発生する。再生・制御部616の他の機能は第1の実施の形態の再生・制御部609と同じである。このように、本実施の形態では、Y軸方向の移動がサーボループにより安定して行なわれる。このとき、X軸方向のサーボの動作は第5の実施の形態におけるそれと同じである。
【0202】
円盤状の記録・再生媒体では半径が一定値以下の内周では信号の記録が困難になるのに対して、本実施の形態においては、方形の記録・再生媒体200Kの全面に信号を記録することができるので、記録密度が、円盤形状に比べて向上するという利点がある。
【0203】
〔再生針アセンブリおよびその製造方法〕
本発明の再生針アセンブリは、本発明の再生装置に用いるのに好適なものである。上述の実施の形態では、図18に示した再生装置600において、再生針603としてカーボンナノチューブを用いる場合について説明したが、このようにカーボンナノチューブを用いると、その形状を確認する必要があり、また、再生針保持板604Dに再生針603を接合するに際してSTMで監視しながら行わざるを得ず、量産性にはあまり適していない。
【0204】
本発明の再生針アセンブリは、再生装置における媒体とのインターフェイスであり、上述の記録・再生媒体の製造方法を利用して作製される。すなわち、上述の記録・再生媒体の製造法において説明した「突起部形成工程」、「埋込工程」、「表面塗布工程」および「平坦化工程」が再生針アセンブリの製造に適用される。照射工程については、本発明の再生針アセンブリの場合は、一般的には先端の形状は円形であることが望ましいために、エネルギービームを照射中においてエネルギービームと導電性材料との相対移動は生じさせる必要はない。しかし、楕円形、あるいは、細長い断面積の先端構造を有する再生針アセンブリを製造する場合には、エネルギービームを照射中にエネルギービームと導電性材料との相対移動を生じさせる必要があり、記録・再生媒体と同様の照射工程となる。
【0205】
本発明の再生針アセンブリは、再生針と再生針保持板とが一体となり構成されるものであり、照射工程において再生針の位置、すなわち突起部を形成する位置、および突起部の形状(円形,楕円形,長方形等の形状)を定めることができる。突起部は、溶融工程を経て突起部形成工程において形成するものであり、溶融工程における導電材料の溶融の程度に応じて再生針(突起部)の形状を所定の値(突起部の大きさ、すなわち突起部の直径,または幅および高さ)とするように定めることができる。更に、突起部の周りをコーティング材で埋める埋込工程を備えることにより、突起部の構造を堅牢なものとすることができる。更に、平坦化工程を備えれば、再生針(突起部)の先端の断面形状を均一化し、突起部の高さを均一なものとすることができる。更に、表面塗布工程を備えれば再生針の先端に絶縁剤を塗布することができ、更に平坦化工程を備えることにより、再生針アセンブリの媒体接触面を均一な厚さの表面塗布剤で覆うことができる。
【0206】
上述の再生針アセンブリの形状は、突起部の高さ、および先端部の直径で表される。更に、複数の再生針を含む再生針アセンブリにおいては、隣り合う再生針のトラック方向に対して垂直方向、すなわちラジアル方向での間隔によっても特徴づけられる。
【0207】
これらの形状を表す数値のうち、突起部の高さと先端部の直径は相互に依存するものである。「突起部形成工程」を用いて再生針アセンブリを製造する場合においては、最小の先端部の直径は理論的に原子サイズまで微小化でき、このときの突起部の高さも同様に原子サイズとなる。
【0208】
カーボンナノチューブを用いた媒体からの記録再生を行う場合においては、信号の劣化を防ぐために、再生針の先端部の直径の最小値を、カーボンナノチューブの最小直径である0.4nmとすることが望ましい。また、再生針が隣りのトラックの信号をクロストークとして検出しないための条件は、その先端部の直径をトラックピッチの2倍の寸法からカーボンナノチューブの直径を差し引いた値とすることである。記録密度の観点からみれば、トラックピッチは小さい程望ましく、トラックピッチが250nmの場合においては、カーボンナノチューブの直径が針先端部の直径に比べて無視できるほど小さいので、先端部の直径は略500nmとなる。しかしながら、信号のS/N(Signal to Noise Ratio)を最も大きくするためには、記録信号の領域をトラックピッチと同じ幅にすることが望ましく、この場合には先端部の直径がトラックピッチ以下でなければクロストークを生じるので、250nmのトラックピッチに対しては先端部の直径を略250nmとすることが望ましい。なお、「突起部形成工程」を用いて再生針を製造する場合の先端部の直径は、理論的には、突起部の高さを高くすれば、先端部の直径は突起部の高さに応じて大きくすることができる。
【0209】
複数の再生針を用いる再生針アセンブリにおいて、隣り合う再生針のラジアル方向での間隔は、トラックピッチの間隔に設定される。カーボンナノチューブを用いた媒体では、記録密度の点から見た場合にはトラックピッチは250nm以下とすることが望ましい。この場合のトラックピッチの最小値はカーボンナノチューブの直径まで近接させることができるので、現在発見されているナノチューブの最小直径である0.4nmとなる。従って、隣り合う再生針のラジアル方向での間隔も同様に、0.4nm乃至250nmの範囲とすることが望ましい。
【0210】
複数の再生針を用いる再生針アセンブリにおいて、隣り合う再生針のトラック方向の間隔は、方形の媒体を用いる場合では制限はない。しかしながら、円盤状の媒体を用いる場合においては、内周トラックと外周トラックとで曲率が異なるので、微小サイズの円盤を用いる場合や、半径と再生針の相互のトラック方向の間隔との比が1.0近くなる場合には、再生針間で、内周トラックと外周トラックとでトラッキング誤差が生じることとなる。従って、隣り合う再生針のトラック方向の間隔は、最内周トラックの直径の1/100程度以下に設定することが望ましい。通常はこの条件はあまり問題となることはない。
【0211】
〔第9の実施の形態〕
以下、再生針アセンブリの具体例について説明する。
【0212】
(再生針アセンブリの構成)
図29は、3針法に用いる再生針アセンブリ900の構成を表すものである。絶縁材料により形成された基板900aは、再生針901〜903および導電膜911〜913を保持している。再生針901〜903は、レーザビームを照射することにより設けた突起部であり、導電材料と同じ材料で構成される。導電膜911〜913は、公知のフォトリソグラフィ技術により基板900aに形成される。ここで、再生針901は信号再生専用に用いられ、再生針902,903はトラッキング誤差の検出に用いられる。
【0213】
例えば、この再生針アセンブリ900は以下の材料および寸法で作製される。絶縁材料からなる基板900aは、厚さ100μmの石英板であり、導電膜911〜913は厚さ5μmのFeからなり、突起部(再生針901〜903)の高さは20nm、その先端部の直径は3nmである。導電膜911〜913は図示しない接続線が接続され回路部に導かれ信号の処理がなされる。D1とD2は等しく、記録・再生媒体の記録構造体の直径または幅の半分であり、1.5nm程度である。L1,L2はフォトリソグラフィ技術で製造が可能な300nm程度の値である。
【0214】
続いて、図30〜図34を参照して再生針アセンブリの他の構成例を説明する。
【0215】
図30に示した再生針アセンブリ900Aは、上述の再生針アセンブリ900において再生針901〜903に加え、再生専用針(突起部)904を更に有している。再生針904は再生針901とトラックピッチTpと同じ距離だけ離間して設けられている。L1〜L3はフォトリソグラフィ技術で製造が可能な300nm程度の値である。この再生針アセンブリ900Aでは、トラッキング誤差を再生針902,903で検出しながら、記録・再生媒体に記録された信号を再生針901,904で他のトラックから同時に読み出すことが可能になる。よって、信号再生の専用針(突起部)の数に応じて読み出し速度を高速にすることができる。
【0216】
図31は、単一の再生針(突起部)901を有する再生針アセンブリ900Bを表すものである。単一針のアセンブリにおいても、導電性材料911と一体加工されていることによる配線処理の容易さ、再生針901を基板900a(石英板)に対して垂直に立てることが容易になるという利点を有する。
【0217】
図32に示した再生針アセンブリ900Cは、その表面をコーティング材で保護したものである。すなわち、図30で示した再生針アセンブリ900Aにおいて再生針902〜903を形成した後、コーティング材914を積層し、表面を平坦となるように研磨し、研磨された再生針902〜903の先端面が露出するようにしたものである。
【0218】
図33の再生針アセンブリ900Dは、図32で示した再生針アセンブリ900Cの表面を表面絶縁剤915で被覆し、この表面絶縁剤915の表面を平坦化したものである。このような再生針アセンブリ900Dは、記録・再生媒体における記録構造体が媒体表面に露出している場合においても、変位電流またはトンネル電流を検出することができるという利点を有する。
【0219】
図34の再生針アセンブリ900Eは、上述の再生針アセンブリ900において、そのトラック方向に垂直な方向、すなわち、ラジアル方向に伸びた形状の再生針(突起部)905を更に有するものである。このような形状は、レーザビームの照射を導電性材料に対して矢印で示す方向に移動させることにより形成することができる。この再生針905を用いると、トラックピッチが記録構造体のラジアル方向の幅に対して十分大きい場合には、トラック追従特性が向上するという利点がある。すなわち、トラックピッチTpは媒体ごとに誤差範囲でずれが生じる場合や、一枚の同一媒体においても製造時のバラツキによりトラックごとにTpが若干異なる場合があり得るからである。
【0220】
例えば、前述の第1の実施の形態においては、トラックピッチTpが60nmであり、突起部の幅Wwが3nmであるので、原理的には、再生針のラジアル方向の幅DrはTp−Ww、すなわち、60nm−3nmの幅まで可能となる。しかしながら、ここまで広げると、逆に隣のトラックからのクロストークを検出することになるので、幅DrはトラックピッチTpの半分の値以下に設定することが望ましい。このようなラジアル方向に長い形状を有する再生針905を複数本用いれば、一本または一組の再生針からの信号に基づきトラック追従サーボを行いながら、複数のトラックからの記録信号を安定して再生することができる。
【0221】
複数のトラックからの再生信号は、図示しない再生信号復号器において、整列して解読され、1つの時系列信号に変換される。このようにすれば、再生針の数Nに比例して転送レートが向上する。再生針の数がnである場合において、トラッキングサーボを行う再生針が、現在、nトラック目を再生している場合、次には、n+Nトラックを再生し、更にn+2N,n+3Nと飛び飛びにトレースすることにより、他のN−1本の再生針からも信号を再生することが可能となる。
【0222】
なお、上記再生針アセンブリ900,900A〜900Dの製造には、例えば、前述の記憶媒体の製造方法において説明した突起部形成工程が適用できるものである。すなわち,レーザビームを照射して、再生針の原料となる導電材料の表面を溶融し、更に冷却して導電材料が再び固体になるときに生じる突起を再生針とする。このときの再生針の形状は、その断面積が先端部ほど小さく、導電材料側ほど大きくなる特徴を有し、突起が伸びる方向への断面は傾斜面を有するものとなる。このような方法であれば、先端部の断面積を微細に加工することができるので、再生針の製造方法として好ましいものである。
【0223】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなくその均等の範囲で種々変形可能である。
【0226】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の記憶媒体(再生専用媒体)の製造方法によれば、記録信号に応じて空間的に配置された複数の突起部を有する原盤と、再生基板とを密接または圧接させることにより、前記再生基板に触媒を配置し、この触媒より記録構造体を成長させたのち、少なくとも複数の記録構造体の間に記録構造体とは異なる電気特性を有するコーティング材料を埋め込むようにしたので、従来達成が困難であった大容量の再生媒体の量産が可能となる。
【0229】
更に、本発明の再生針アセンブリの製造方法によれば、再生針の量産が可能であるため、装置の低廉化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1の実施の形態に係る記録・再生媒体を製造するための記録・再生媒体製造装置の概略構成図である。
【図2】図1に示した記録・再生媒体製造装置を用いた記録・再生媒体の製造方法を説明するための説明図であり、図2(A)は溶融工程、図2(B)は突起部形成工程を表す。
【図3】図1に示した記録・再生媒体製造装置を用いて製造された記録・再生媒体の一例を表す斜断面図である。
【図4】図1に示した記録・再生媒体製造装置を用いて製造された記録・再生媒体の他の例を表す斜断面図である。
【図5】図3に示した記録・再生媒体の変形例を表す断面図である。
【図6】図3に示した記録・再生媒体の他の変形例を表す断面図である。
【図7】図3に示した記録・再生媒体の更に他の変形例を表す断面図である。
【図8】図3に示した記録・再生媒体の更に他の変形例を表す断面図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係る記録・再生媒体を製造するための記録・再生媒体製造装置の概略構成図である。
【図10】図9に示した記録・再生媒体製造装置の作用を説明するための説明図であり、図10(A)はX軸方向において往復しながら信号を記録する場合、図10(B)はX軸に沿って同じ方向に順次信号を記録する場合を表す。
【図11】本発明の第3の実施の形態に係る再生専用媒体の製造方法における触媒配置工程を説明するための概略断面図である。
【図12】図11に示した転写用の原盤を用いて触媒配置工程を行った後の基板における触媒の微視的な配置の例を説明するための説明図である。
【図13】図12に示した基板における触媒の全体的な配置の例を説明するための説明図であり、図13(A)は同心円状に配置する場合、図13(B)は螺旋状に配置する場合を表す。
【図14】図11に続く工程を説明するための説明図であり、図14(A)および図14(B)は記録構造体成長工程、図14(C)は埋込工程を表す。
【図15】図14に続く工程を説明するための説明図であり、図15(A)は平坦化工程1、図15(B)は表面塗布工程、図15(C)は平坦化工程2を表す。
【図16】本発明の第4の実施の形態に係る再生専用媒体の製造方法における触媒配置工程を説明するための概略断面図である。
【図17】図16に示した転写用の原盤を用いて触媒配置工程を行った後の基板における触媒の微視的な配置を説明するための説明図である。
【図18】本発明の第5の実施の形態に係る再生装置の全体構成を表す概略構成図である。
【図19】図18に示した再生装置における記録・再生媒体、再生針および再生針駆動部の位置関係を説明するための説明図である。
【図20】図18に示した再生装置を用いた再生方法の距離維持ステップにおいて、再生針のZ軸方向の制御を説明するための説明図であり、図20(A)は再生針が記録・再生媒体の表面塗布膜から離れている場合、図20(B)は再生針が表面塗布膜に接する場合、図20(C)は再生針が表面塗布膜に押し付けられた場合を表す。
【図21】図18に示した再生装置の距離維持ステップにおいて、再生針のZ軸方向の制御を説明するためのタイミングチャートであり、図21(A)は図20(A)の場合において記録・再生媒体を回転させて得られるトラックnの変位電流信号の波形、図21(B)は図20(B)の場合におけるトラックnの変位電流信号の波形、図21(C)は図20(C)の場合におけるトラックnの変位電流信号の波形、図21(D)は記録・再生媒体のトラックn、n+1、n−1におけるカーボンナノチューブの分布状態、図21(E)はトラックnの変位トンネル電流信号または接触電流の波形、図21(F)はトラックnのパラメータ変化電流信号の波形を表す。
【図22】図18に示した再生装置において先端処理をしないカーボンナノチューブを再生針として用いた場合の距離維持ステップで、再生針のZ軸方向の制御を説明するための説明図であり、図22(A)は再生針が記録・再生媒体の表面塗布膜から離れている場合、図22(B)は再生針が表面塗布膜に近づけられた場合、図20(C)は再生針が表面塗布膜に接する場合を表す。
【図23】図18に示した再生装置を用いた再生方法の微トラッキングステップにおいて、再生針のX軸方向における制御の一例(ウォブリング法)を説明するためのタイミングチャートであり、図23(A)は再生針のX軸方向への変位量、図23(B)は再生針がトラックセンターを通過中である場合の再生信号のエンベロープ、図23(C)は再生針がトラックセンターから外周よりを通過しているときの再生信号のエンベロープ、図23(D)は再生針がトラックセンターから内周よりを通過しているときの再生信号のエンベロープを表す。
【図24】図18に示した再生装置を用いた再生方法の信号再生ステップ(接触電流検出法)を説明するための説明図である。
【図25】本発明の第6の実施の形態に係る再生方法の微トラッキングステップにおいて、再生針のX軸方向における制御の例(3針法)を説明するためのタイミングチャートであり、図25(A)は再生針が図25(D)の「a」の位置にある場合において記録・再生媒体を回転させて得られるトラックnの変位電流信号の波形、図25(B)は再生針が図25(D)の「b」の位置にある場合におけるトラックnの変位電流信号の波形、図25(C)は再生針が図25(D)の「c」の位置にある場合におけるトラックnの変位電流信号の波形、図25(D)は記録・再生媒体のトラックn、n+1、n−1におけるカーボンナノチューブの分布状態を表す。
【図26】図25に示した制御に用いられるトラッキング信号検出回路の構成を表すブロック図である。
【図27】本発明の第7の実施の形態に係る再生方法の微トラッキングステップにおける再生針のX軸方向における制御(2針法)に用いられるトラッキング信号検出回路の構成を表すブロック図である。
【図28】本発明の第8の形態に係る再生装置の全体構成を表す概略構成図である。
【図29】本発明の第9の実施の形態に係る再生針アセンブリの一構成例を表す斜視図である。
【図30】図29に示した再生針アセンブリの他の構成例を表す斜視図である。
【図31】図29に示した再生針アセンブリの更に他の構成例を表す斜視図である。
【図32】図29に示した再生針アセンブリの更に他の構成例を表す斜視図である。
【図33】図29に示した再生針アセンブリの更に他の構成例を表す斜視図である。
【図34】図29に示した再生針アセンブリの更に他の構成例を表す斜視図である。
【符号の説明】
10A…記録・再生媒体製造装置、100…ターンテーブル、101…基板(記録・再生媒体)、102…回転装置、102A…駆動軸、102a…回転位置信号、103…回転装置駆動部、103a…回転制御信号、104…移動台、104a,104b…転がり軸、105…移動量検出装置、105a…移動量信号、106…移動量検出回路、107…移動力発生装置、108…移動力発生装置駆動部、108…移動装置駆動信号、109…バスライン、110…制御部、110a…データ、111…変調部、111a…記録信号、112…レーザ光発生部、112a…レーザビーム、113…レンズ、BS…ビームスポット、S…基準面、
200A,200B,200C,200D,200E…記録・再生媒体、201…基板、202…Fe膜、203,204…突起部、205,206…SiO2 膜、
10B…記録・再生媒体製造装置、300…ターンテーブル、301…基板(記録・再生媒体)、300a,300b…転がり軸、302…移動力発生装置、302a…Y軸移動量信号、303…Y軸駆動部、303a…Y軸移動装置駆動信号、
400,400A…原盤、403…突起部、500,500A…基板(再生専用媒体)、501…保持基板、502…電極膜、503…触媒、504…カーボンナノチューブ、505…コーティング材料、506…表面塗布剤、200F,200G,200H…再生専用媒体、
600…再生装置、200I…記録・再生媒体、601…媒体テーブル、602…記録・再生媒体回転装置、602a…記録・再生媒体回転検出信号、602A…回転軸、603,603A,603B…再生針、604…再生針駆動部、604A…軸受け部、604B…案内軸孔、604C…移動軸孔、604D…再生針保持板、604E…X軸アクチュエータ、604F…Z軸アクチュエータ、604G…再生信号検出部、605…駆動部案内軸、606…駆動部移動軸、607…駆動部移動軸回転装置、608…案内軸支持板、609…再生・制御部、609a…記録・再生媒体回転制御信号、609b…移動制御信号、609c…X軸制御信号、609d…Z軸制御信号、610…装着確認装置、610a…装着検出信号、再生信号604a、611…軸結合部、700…保持基板、700A…センターホール、701…電極膜、702…カーボンナノチューブ、703…絶縁剤、704…表面塗布膜、AP1,AP2…エンベロープ振幅、AP1−AP2…トラッキング誤差信号、
801…第1のトラッキング信号検出針、802…第2のトラッキング信号検出針、803,804,805…再生信号エンベロープ検波部、806,807…低域濾波部、808…減算部、809…ディレイ、810…加算部、
600A…再生装置、200K…記録・再生媒体、612…Y軸移動軸、613…軸結合部、614…Y軸移動部、615…Y軸回転装置、615a…Y軸回転位置検出信号、616…再生・制御部、616a…Y軸制御信号、
900,900A,900B,900C,900D,900E…再生針アセンブリ、900a…基板、901〜903,904,905…再生針(突起部)、911〜913…導電膜、914…コーティング材、915…表面絶縁剤

Claims (6)

  1. 記録信号に応じて空間的に配置された複数の突起部を有する原盤と、再生基板とを密接または圧接させることにより、前記再生基板の前記突起部の先端に対向する位置に前記突起部を構成する材料を触媒として配置する触媒配置工程と、
    前記再生基板の触媒が配置された位置より複数の記録構造体を成長させる記録構造体成長工程と、
    少なくとも前記複数の記録構造体の間に前記記録構造体とは異なる電気特性を有するコーティング材料を埋め込む埋込工程と、
    前記記録構造体の先端およびコーティング材料の表面を平坦化する平坦化工程と
    を含む記憶媒体の製造方法。
  2. 前記平坦化された突起部およびコーティング材料の表面を絶縁剤で覆い、その表面を平坦化する表面被覆工程
    を含む請求項記載の記憶媒体の製造方法。
  3. 前記記録構造体はカーボンナノチューブにより構成され
    求項記載の記憶媒体の製造方法。
  4. 前記触媒は、Ta(タンタル),W(タングステン),Pt(白金),V(バナジウム),Mn(マンガン),Fe(鉄),Co(コバルト),Ni(ニッケル)およびMo(モリブデン)からなる遷移金属の群のうちの少なくとも1種、またはその合金であ
    求項記載の記憶媒体の製造方法。
  5. 記憶媒体から信号を検出するための再生針アセンブリの製造方法であって、
    導電性材料の表面に収束されたエネルギービームを照射する照射工程と、
    前記導電性材料の表面を溶融させる溶融工程と、
    前記溶融工程において溶融した部分から放熱をさせることにより少なくとも1つの突起部を形成する突起部形成工程と
    を有する再生針アセンブリの製造方法。
  6. 記憶媒体から信号を検出するための再生針アセンブリの製造方法であって、
    絶縁基板の上に複数の分割された導電材料のブロックを形成する工程と、
    前記導電性材料の分割方向と略直交する方向に相対的に移動させながら、前記導電性材料の表面に収束されたエネルギービームを照射する照射工程と、
    前記導電性材料の表面を溶融させる溶融工程と、
    前記溶融工程において溶融した部分から放熱をさせることにより突起部を形成する突起部形成工程と
    を含む再生針アセンブリの製造方法。
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