JP4321960B2 - 抵抗溶接用電極 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、抵抗溶接用電極に関し、一層詳細には、導電率が高く、しかも耐久性に富むとともに耐はりつき性を向上させた抵抗溶接用電極に関する。
【0002】
【従来の技術】
亜鉛メッキ合板等の被溶接部材を溶接するときに、抵抗溶接法が広汎に採用されるに至っている。この抵抗溶接法では、例えば、相対向して設けられた一対の電極間に前記亜鉛メッキ合板等の被溶接部材を一部重ね合わせて位置決めし、該重畳部分に一対の電極を圧接した状態で電力を供給して金属板の電気抵抗によりジュール熱を発生させて被溶接部分を溶着する。
【0003】
特に、前記の如く亜鉛メッキ等の表面処理がなされた鋼板を溶接する際に、この抵抗溶接法では、千数百アンペアの電流を前記一対の電極間に流す。このために、前記電極は、導電性がよく、耐熱性に優れ、しかも熱伝導性の高い材質であることが要求される。すなわち、電極の素材自体、導電性、耐熱性および熱伝導性に優れた特性が要求されるために、従来から電極材料として主に純銅が採用されている。しかしながら、該電極は純銅であるが故に耐久性にさほど優れているとはいえない。具体的には、銅板を押圧する結果、電極の先端形状が変形し、この電極に流れる電流密度が不安定になり、溶接品質が劣化し、剥離等の不都合が露呈する懸念がある。
【0004】
この難点を克服すべく、銅を基体とし、この銅にクロム、ジルコニウム、ベリリウム等を添加して析出強化合金とした電極材料が採用されるに至っている。この場合、例えば、純銅の導電率を100とした場合、他の材料、例えば、クロム、ジルコニウム、ベリリウム等の合金を添加した複合材料からなる電極を採用するとき、その導電率を割合で示す相対的導電率(IACS%)が85%から20%程度まで低下した電極素材となる。
【0005】
さらに、この抵抗溶接にあっては、継続的に高温かつ高圧条件下で電極が使用されるために、当初の素材特性が経時的に劣化する。すなわち、析出強化合金を用いた場合、クロム、ジルコニウム、ベリリウム等が抵抗溶接中に発生する熱により再固溶する結果、導電率がさらに低くなり、なおかつ耐久性がさらに劣化するという難点が指摘されている。
【0006】
そこで、このような析出強化合金を用いる電極素材固有の問題を克服すべく、酸化物を分散した酸化物分散強化合金が開発されるに至った。この酸化物として、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウムが特に電極にとって効果的であることが知られている。しかしながら、前記の如き酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム等の酸化物分散強化合金は、電極としての観点から高い導電率を期待しようとすると耐久性に劣ることになり、結局、相反する材料特性を示すことから、高い耐久性と被溶接物に対する耐はりつき性を兼備した電極を得ることは困難であった。
【0007】
このような欠点に鑑み、さらに、部分的に異なる素材を電極として組み合わせる、所謂、複合電極も考え出されている。この複合電極によれば、被溶接物と接する電極先端に硬度の高い銅を基体とした合金素材を圧入等により組み込む、すなわち、異種の素材を組み合わせることにより耐久性を向上させようとしたものである(特開平9−76074号公報参照)。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、この種の電極は、圧入された合金素材によって電極性能が律促され、所期の効果が期待できない。さらにまた、抵抗溶接時に溶接電流は電極周囲の電気抵抗の低い部位を流れ、この結果、被溶接物のナゲットがドーナツ状に形成されるため、溶接品質において必ずしも優れた製品が得られないという難点も指摘されている。
【0009】
本発明は、前記の不都合を克服するためになされたものであり、耐久性が一層向上するとともに、導電率に優れ、さらに電極の被溶接物に対する耐はりつき性にも優れた抵抗溶接用電極を提供することを目的とする。
【0010】
本発明は、以下のような知見に基づく。
【0011】
本出願人によれば、導電率(IACS%)とはりつき力(Kgf)との相関関係を実験により求めると、正の相関が存在することが確認された。すなわち、純銅は、導電率が最も高いにも拘わらず、最もはりつき力が小さいことが確認された。一方、電極の導電率と電極の発熱量とは、Q=I×2Rの関係があることが知られている。ところが、IACS50%以下で急激に発熱量が大きくなり、電極自体の温度が上昇してワークと電極とが溶着する、すなわち、耐はりつき性が十分でないことも確認された。
【0012】
しかしながら、前記のように純銅では耐久性が低い。この結果、溶接工程を継続すると、電極先端が潰れ等によって変形し、積層した被溶接物同士の溶け込みが十分でなくなる。この結果、溶接不良となり、溶接後に被溶接物が相互に剥離する可能性が増大する。その理由として、潰れて電極先端面積が50%増えると仮定すると、電極先端相互間に流れる電流密度が約30%低下し、この結果、抵抗溶接に必要なジュール熱の発生量が不足する。従って、被溶接物同士の溶け込み量が不十分となり、被溶接物が相互に剥離する可能性が高くなることが確認された。
【0013】
一方、同じ導電率の電極によれば、耐久性の高い素材ほど長寿命であることが確認されている。ここで長寿命とは、被溶接物の溶接物の引張強度がある規定値以下になった状態で電極の寿命が尽きたという判断基準による。従って、耐久性の高い素材ほど長寿命であるには、電極先端部の経時的な変形量が小さく、従って、抵抗溶接に必要かつ十分な電流密度を確保できることが必要である。
【0014】
このような知見から、本出願人は、電極先端の軸部に高導電率の電極素材を用い、さらにこの高導電率の電極素材の経時的変形量を可及的に低減させるように、当該電極素材の周囲を耐久性に富む素材で保護する構造の電極を開発するに至った。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ホルダの先端に電極を連結し、被溶接部材を前記電極を介して抵抗溶接する抵抗溶接用電極において、
前記電極は電極本体と支持部材とからなり、
前記電極本体は前記ホルダに取り付けられる円柱状の保持部と、前記保持部から延在する電極本体中央部からなり、前記電極本体中央部と前記保持部とは銅製材料で一体的に形成されるとともに前記保持部の直径は前期電極本体中央部の直径より大であり、
前記支持部材は前記電極本体中央部先端周囲からテーパ状に拡径して前記保持部の下端部まで延在し、且つ該支持部材は銅含浸鉄合金、ベリリウム銅合金またはホウ化ジルコニウムのいずれかであることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、銅製材料、好ましくは純銅で電極本体中央部を形成しているために、高導電率下に抵抗溶接がなされる。しかも、前記電極本体中央部をそれよりも高剛性の材料で囲繞しているので電極先端部の経時的変形が惹起されにくく、長期間にわたって十分に安定した電流密度を得ることができる。従って、高品質で耐はりつき性に優れた抵抗溶接を行うことができる。
【0017】
この場合、前記電極本体中央部の導電率がIACSで75%以上であり、前記電極本体を純銅とし、この電極本体の高剛性の材料を、銅含浸鉄合金(Cu−Fe)、ベリリウム銅合金またはホウ化ジルコニウム(ZrB2)のいずれかで構成すると好適である。
【0018】
前記高剛性の材料によって電極本体が囲繞されているために、被溶接材に対する加圧力によって該電極本体が変形することなく耐久性が向上し、さらに電流密度も安定するために高品質の溶接が行われるからである。
【0019】
【発明の実施の形態】
図1と図2は、本発明の実施形態に係る抵抗溶接用電極10を示す。抵抗溶接用電極10は電極本体12を有し、該電極本体12は図示しない電極ホルダに取り付けられる円柱状の保持部14と、前記保持部14からさらに図1において下方に延在する電極本体中央部16とから構成される。この保持部14の直径は、前記電極本体中央部16の直径よりも大であり、該電極本体中央部16の反対側には電極ホルダの一部に取着される長孔17が形成されている。この場合、前記保持部14と前記電極本体中央部16とは同一の素材で一体的に形成されるものであり、その導電率はIACS%で75%以上である。IACS50%程度あるいはそれ以下では、溶接時に亜鉛メッキ鋼板等の被溶接部材側に電極素材の一部分が薄い膜状に溶着し、溶接工程を繰り返すことによって電極本体が消耗され易い。さらに、溶接工程初期に電極が被溶接部材に溶着し、電極が電極ホルダから抜け落ちてしまう可能性もある。
【0020】
本実施の形態に係る電極構造では、さらに前記電極本体中央部16を囲繞するように支持部材18が設けられる。前記支持部材18は、前記電極本体中央部16の先端周囲からテーパ状に拡径して保持部14の下端部に至る。この場合、前記支持部材18は、電極本体12を構成する素材より耐久性のある材料が好ましく、例えば、銅含浸鉄合金、ベリリウム銅合金、ホウ化ジルコニウム等を用いることが可能である。
【0021】
以上のような構成において、溶接時に千数百アンペアからなる溶接電流は、電極本体12を構成する保持部14から電極本体中央部16へと流れる。対向する一対の電極間でこの溶接用電流が流れ、図示しない被溶接部材、例えば、積層された亜鉛メッキ鋼板の溶接部位に電流が集中し、ジュール熱が発生して被溶接部材にナゲットが形成される。これによって、引張強度の強い、すなわち、耐剥離性が向上した溶接製品が得られる。換言すれば、電極本体中央部16に十分に高い電流密度の電流が流れ、これによって抵抗溶接に必要とされる十分なジュール熱が発生して被溶接部材の溶接工程が営まれる。
【0022】
【実施例】
本発明の実施例1では、電極本体12を純銅で構成し、支持部材18には銅含浸鉄合金を採用した。一方、被溶接部材として、亜鉛鋼板を用いた。その板厚は約0.7mmであり、この約0.7mmの亜鉛鋼板を2枚積重した。そして、溶接電流として、11KAを電極本体12に流した。なお、電極相互間に加える加圧力は250Kgfに設定した。この間、電極本体12を1分間当たり約2lの冷却水で冷却した。
【0023】
比較例として、アルミナ分散銅を用いた電極(比較例1)、クロム銅を用いた電極(比較例2)を採用した。
【0024】
耐久性(寿命)と耐はりつき性の試験を行ったところ、実施例1に係る電極本体12によれば、連続打点数が3000回に近づいても何ら電極先端での変形は認められず、しかもはりつき力は約3Kgfであった。ここで変形とは電極本体12の変形率が面積で3%に至った状態をいう。これに対して、比較例1では、連続打点数が1000回で電極先端に変形が認められ、その際、はりつき力は55Kgfとなったことが確認された。さらに、比較例2では、連続打点数が700に至ったとき電極先端に変形が認められ、その際、はりつき力は60Kgfとなったことが確認された(図3および図4参照)。
【0025】
さらに、実施例2として電極本体12を純銅で構成し、支持部材18にベリリウム銅を採用し、実施例3として電極本体12を純銅で構成し、支持部材18にホウ化ジルコニウムを採用した。被溶接部材、溶接条件、冷却条件は前記実施例1と同じとした。
【0026】
耐久性(寿命)と耐はりつき性の試験を行ったところ、実施例2の電極では連続打点数が2400回に至っても何ら電極先端での変形は認められず、はりつき力は約5Kgfであった。実施例3の電極では連続打点数が1600回に至っても何ら電極先端での変形は認められず、はりつき力は約10Kgfであった。
【0027】
なお、前記実施例1、2および3では、いずれも電極本体12の導電率はIACS100%であった。
【0028】
【発明の効果】
本発明によれば、以上のように抵抗溶接用電極の電極本体中央部を高剛性の支持部材で囲繞している。従って、溶接電流は電極本体中央部を高導電率で流れ、一方、耐久性、耐はりつき性は前記電極本体中央部を囲繞する支持部材で確保される。その結果、電極自体が高寿命化し、しかも電極密度が安定するために、長期間にわたって安定して高品質の溶接製品を得ることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態に係る抵抗溶接用電極の概略縦断面説明図である。
【図2】図1に示す抵抗溶接用電極の一部切欠斜視説明図である。
【図3】図1に示す抵抗溶接用電極を採用した実施例1乃至3と比較例1、2とについて、導電率とはりつき力との関係で対比した結果を示すグラフである。
【図4】図1に示す抵抗溶接用電極を採用した実施例1乃至3と比較例1、2とについて、先端変形率が3%に達するまでの連続打点数で対比した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
10…抵抗溶接用電極 12…電極本体
14…保持部 16…電極本体中央部
18…支持部材
Claims (3)
- ホルダの先端に電極を連結し、被溶接部材を前記電極を介して抵抗溶接する抵抗溶接用電極において、
前記電極は電極本体と支持部材とからなり、
前記電極本体は前記ホルダに取り付けられる円柱状の保持部と、前記保持部から延在する電極本体中央部からなり、前記電極本体中央部と前記保持部とは銅製材料で一体的に形成されるとともに前記保持部の直径は前記電極本体中央部の直径より大であり、
前記支持部材は前記電極本体中央部先端周囲からテーパ状に拡径して前記保持部の下端部まで延在し、且つ該支持部材は銅含浸鉄合金、ベリリウム銅合金またはホウ化ジルコニウムのいずれかであることを特徴とする抵抗溶接用電極。 - 請求項1記載の抵抗溶接用電極において、前記電極本体中央部の導電率がIACSで75%以上であることを特徴とする抵抗溶接用電極。
- 請求項1または2に記載の抵抗溶接用電極において、前記電極本体が純銅であることを特徴とする抵抗溶接用電極。
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