JP4321040B2 - 固体高分子型燃料電池 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は細孔を備えた多孔質の酸化剤ガスセパレータをもつタイプの固体高分子型燃料電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、環境保護、エネルギ等の面から固体高分子型燃料電池が着目されている。一般に、固体高分子型燃料電池は、酸化剤及び燃料に基づいて発電を行うものである。固体高分子型燃料電池は、イオン伝導性をもつ電解質膜と、電解質膜の厚み方向の一方側に設けられた燃料極と、電解質膜の厚み方向の他方側に設けられた酸化剤極と、燃料極に燃料を供給する燃料通路を形成する燃料セパレータと、酸化剤極に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス通路を形成する酸化剤ガスセパレータとを備えている。MEAは、電解質膜と燃料極と酸化剤極とで形成される。一般的には、酸化剤ガスセパレータ及び燃料セパレータは、ガスリークが生じないように緻密体で形成されている。
【0003】
上記した固体高分子型燃料電池によれば、イオン伝導性をもつ電解質膜が過剰乾燥すると、電解質膜のイオン伝導性が低下する。そこで電解質膜の過剰乾燥を抑える必要がある。上記した従来の固体高分子型燃料電池によれば、固体高分子型燃料電池に供給される酸化剤ガス、燃料を加湿することが行われている。
【0004】
また、近年、細孔をもつ多孔質体で酸化剤ガスセパレータ、燃料セパレータを形成した固体高分子型燃料電池も開発されている。このものによれば、液相としての水を細孔に浸透させてMEAに供給すると共に、水を酸化剤ガスセパレータ、燃料セパレータの細孔に浸透させて細孔を封止することができる。
【0005】
上記したように細孔をもつ多孔質体をもつ固体高分子型燃料電池として、特許文献1には、燃料セパレータを多孔質体で形成すると共に、酸化剤ガスセパレータを多孔質体で形成し、更に燃料セパレータの裏面側に通水路を形成すると共に、酸化剤ガスセパレータの裏面側に通水路を形成したものが開示されている。このものによれば、各通水路の水を多孔質の燃料セパレータの細孔、酸化剤ガスセパレータの細孔を介してMEA側に供給することができ、電解質膜の過剰乾燥を抑制することができる。
【0006】
また特許文献2には、多数の細孔をもつ導電性多孔質体で親水性をもつ燃料セパレータを形成すると共に、燃料セパレータの裏面側には、MEAと背向する位置に、撥水性をもつ導電性多孔質体で形成した加湿水透過体を配置した固体高分子型燃料電池が開示されている。このものによれば、加湿水透過体に保持されている液相としての水は、導電性多孔質体で形成された燃料セパレータの細孔を経てMEA側に移行し、電解質の過剰乾燥を抑える。このものによれば、燃料セパレータは親水性をもつので、燃料セパレータの細孔には液相としての水が浸透し、細孔を封止できる。
【0007】
更に特許文献3,4には、アノード側の燃料セパレータを多孔質体で形成した燃料電池が開示されている。
【0008】
【特許文献1】
特開平6−338338号
【特許文献2】
特許番号第2922132号(特開平8−250130号公報)
【特許文献3】
米国特許公報 5,853,909
【特許文献4】
米国特許公報 5,700,595
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上記した固体高分子型燃料電池によれば、酸化剤ガス(一般的には、酸素を含む空気)の流れの下流領域では、発電反応に基づいて生成された水が溜まるため、電解質膜の乾燥の不具合は生じにくい。しかしながら酸化剤ガスの流れの上流領域では、発電反応に基づいて生成された水が溜まりにくいため、多孔質体の細孔を介して水を電解質膜に供給しているといえども、酸化剤ガスの流れの上流領域では、運転条件によっては、電解質膜の乾燥の不具合が生じるおそれがある。一方、酸化剤ガス通路の下流領域では生成水が余剰に滞留して、フラッディング現象が生じるおそれがある。フラッディング現象とは、水が酸化剤ガスや燃料の流路を水が閉鎖するため、MEAに対して酸化剤ガスや燃料の供給が制約されることをいう。
【0010】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、酸化剤ガス通路の上流領域の酸化剤ガスを、酸化剤ガスセパレータから放出させる水蒸気によって積極的に加湿させることができ、上流領域において電解質膜の乾燥の不具合を抑制するのに効果的に寄与することができ、しかも酸化剤ガス通路の下流領域におけるフラッディング現象を抑制するのに寄与することができる固体高分子型燃料電池を提供することを課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
(1)本発明者は、細孔をもつ多孔質性の酸化剤ガスセパレータを組み付けた固体高分子型燃料電池について鋭意開発を鋭意進めている。そして本発明者は、Kelvinの式を見い出し、Kelvinの式における因子を調整すれば、細孔における水蒸気分圧を上流領域及び下流領域において調整でき、これにより酸化剤ガスセパレータのうち酸化剤ガス通路に対向する側における細孔内の水蒸気分圧を、下流領域よりも上流領域が大きくなるように設定することができ、ひいては上流領域における加湿速度を相対的に増加させると共に、下流領域における加湿速度を相対的に減少させることができ、上流領域における乾燥、下流領域におけるフラッディング現象を抑制できることを知見した。
【0012】
数式1で示されるKelvinの式は、細孔における水蒸気分圧を示す。ここで、Pは細孔内における液体の平衡蒸気圧、Poはその温度における液体の飽和蒸気圧、σはその液体の表面張力、Mはその液体の分子モル質量、θはその液体の接触角、ρはその液体の密度、Rは気体定数、Tは絶対温度を示す。一般的には、親水性はθが0〜90度以下とされ、疎水性はθが90度越え〜180度とされる。
【0013】
【数1】
【0014】
更に、Kelvinの式によれば、細孔の内壁面が疎水性である場合には、θが90度越え〜180度とされるため、cosθは負の値となり(cosθ<0)、PはPoよりも大きくなる(P>Po)。Kelvinの式によれば、細孔の内壁面が疎水性である場合には、細孔径rが小さければ小さいほど、細孔の水蒸気分圧Pは大きくなる。これにより酸化剤ガスセパレータのうち酸化剤ガス通路に対向する側における細孔の細孔径について、上流領域における細孔径を下流領域よりも相対的に小さく設定すれば、低い湿度になりがちの上流領域の酸化剤ガスを加湿する加湿速度を増加させることができると共に、フラッディング現象が生じるおそれがある下流領域の酸化剤ガスを加湿する加湿速度を減少させることができることを知見し、第2発明に係る燃料電池を開発した。
【0015】
また、Kelvinの式によれば、細孔の内壁面が親水性である場合には、θが0〜90度以下とされるため、cosθは正の値となり(cosθ≧0)、PはPoよりも小さくなる(P<Po)。そしてKelvinの式によれば、細孔径rが大きければ大きいほど、細孔の水蒸気分圧Pは大きくなる。これにより酸化剤ガスセパレータのうち酸化剤ガス通路に対向する側における細孔の細孔径について、上流領域における細孔径を下流領域よりも相対的に大きく設定すれば、低い湿度になりがちの上流領域における加湿速度を増加させることができると共に、フラッディング現象が生じるおそれがある下流領域における加湿速度を減少させることができることを知見し、第3発明に係る燃料電池を開発した。
【0016】
(2)第1発明に係る固体高分子型燃料電池は、イオン伝導性をもつ電解質膜と、電解質膜の厚み方向の一方側に設けられた燃料極と、電解質膜の厚み方向の他方側に設けられた酸化剤極と、燃料極に燃料を供給する燃料通路を形成する燃料セパレータと、酸化剤極に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス通路を形成する酸化剤ガスセパレータと、酸化剤ガスセパレータのうち酸化剤極に背向する位置に通水路を形成する通水板とを具備する固体高分子型燃料電池において、
酸化剤ガスセパレータの厚み方向に沿った断面において、
酸化剤ガス通路において酸化剤ガスが流れる上流を上流領域とし、酸化剤ガスが流れる下流を下流領域とするとき、
酸化剤ガスセパレータは、上流領域から下流領域にかけて且つ酸化剤ガスセパレータの厚み方向に連通する多数の細孔をもつ多孔質性を有しており、
酸化剤ガスセパレータのうち少なくとも酸化剤ガス通路に対向する側における細孔における水蒸気分圧は、酸化剤ガスセパレータから放出させる水蒸気によって加湿を行い得るように、下流領域よりも上流領域が大きくなるように設定されていることを特徴とするものである。
【0017】
第1発明に係る固体高分子型燃料電池によれば、酸化剤ガスセパレータのうち酸化剤ガス通路に対向する側における細孔における水蒸気分圧は、下流領域よりも上流領域が大きくなるように設定されている。このため低い湿度になりがちの上流領域の酸化剤ガスを加湿する加湿速度を増加させることができると共に、フラッディング現象が生じるおそれがある下流領域の酸化剤ガスを加湿する加湿速度を減少させることができる。
【0018】
(3)第2発明に係る固体高分子型燃料電池は、イオン伝導性をもつ電解質膜と、電解質膜の厚み方向の一方側に設けられた燃料極と、電解質膜の厚み方向の他方側に設けられた酸化剤極と、燃料極に燃料を供給する燃料通路を形成する燃料セパレータと、酸化剤極に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス通路を形成する酸化剤ガスセパレータと、酸化剤ガスセパレータのうち酸化剤極に背向する位置に通水路を形成する通水板とを具備する固体高分子型燃料電池において、
酸化剤ガスセパレータの厚み方向に沿った断面において、
酸化剤ガスセパレータのうち少なくとも通水路に対向する対向面は親水性を有しており、且つ、
酸化剤ガスセパレータのうち酸化剤ガス通路に対向する対向面は、疎水性を有しており、
酸化剤ガス通路において酸化剤ガスが流れる上流を上流領域とし、酸化剤ガスが流れる下流を下流領域とするとき、
酸化剤ガスセパレータは、上流領域から下流領域にかけて且つ酸化剤ガスセパレータの厚み方向に連通する多数の細孔をもつ多孔質性を有しており、酸化剤ガスセパレータのうち少なくとも酸化剤ガス通路に対向する側における細孔の細孔径は、酸化剤ガスセパレータから放出させる水蒸気によって加湿を行い得るように、上流領域よりも下流領域が大きくなるように設定されていることを特徴とするものである。
【0019】
第2発明に係る固体高分子型燃料電池によれば、酸化剤ガスセパレータのうち少なくとも酸化剤ガス通路に対向する側における細孔の細孔径は、上流領域よりも下流領域が大きくなるように設定されている。このためKelvinの式によれば、低い湿度になりがちの上流領域の酸化剤ガスを加湿する加湿速度を増加させることができると共に、フラッディング現象が生じるおそれがある下流領域の酸化剤ガスを加湿する加湿速度を減少させることができる。第2発明に係る固体高分子型燃料電池によれば、酸化剤ガスセパレータのうち少なくとも通水路に対向する対向面は親水性を有しているため、当該対向面に通水路の水を浸透させることができ、当該対向面における細孔を水で封止して効果的にシールすることができ、酸化剤ガスが酸化剤ガスセパレータを介して通水路に漏れることが抑制される。
【0020】
(4)第3発明に係る固体高分子型燃料電池は、イオン伝導性をもつ電解質膜と、電解質膜の厚み方向の一方側に設けられた燃料極と、電解質膜の厚み方向の他方側に設けられた酸化剤極と、燃料極に燃料を供給する燃料通路を形成する燃料セパレータと、酸化剤極に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス通路を形成する酸化剤ガスセパレータと、酸化剤ガスセパレータのうち酸化剤極に背向する位置に通水路を形成する通水板とを具備する固体高分子型燃料電池において、
酸化剤ガスセパレータの厚み方向に沿った断面において、
酸化剤ガスセパレータのうち少なくとも通水路に対向する対向面、及び、酸化剤ガス通路に対向する対向面は、親水性を有しており、
酸化剤ガス通路において酸化剤ガスが流れる上流を上流領域とし、酸化剤ガスが流れる下流を下流領域とするとき、
酸化剤ガスセパレータは、上流領域から下流領域にかけて且つ酸化剤ガスセパレータの厚み方向に連通する多数の細孔をもつ多孔質性を有しており、
酸化剤ガスセパレータのうち少なくとも酸化剤ガス通路に対向する側における細孔の細孔径は、下流領域よりも上流領域が大きくなるように設定されていることを特徴とするものである。
【0021】
第3発明に係る固体高分子型燃料電池によれば、酸化剤ガスセパレータのうち少なくとも酸化剤ガス通路に対向する側における細孔の細孔径は、下流領域よりも上流領域が大きくなるように設定されている。このためKelvinの式によれば、低い湿度になりがちの上流領域の酸化剤ガスを加湿する加湿速度を増加させることができると共に、フラッディング現象が生じるおそれがある下流領域の酸化剤ガスを加湿する加湿速度を減少させることができる。第3発明に係る固体高分子型燃料電池によれば、酸化剤ガスセパレータのうち少なくとも通水路に対向する対向面は親水性を有しているため、当該対向面に通水路の水を浸透させることができ、当該対向面における細孔を水で封止してシールすることができ、酸化剤ガスが酸化剤ガスセパレータを介して通水路に漏れることが抑制される。
【0022】
【発明の実施の形態】
第1発明〜第3発明に係る固体高分子型燃料電池によれば、次の形態のうちの少なくとも一つを採用することができる。
【0023】
・酸化剤ガスセパレータのうち少なくとも酸化剤ガス通路に対向する側における親水性は、上流領域よりも下流領域が大きくなるように設定されている。このためKelvinの式によれば、低い湿度になりがちの上流領域の酸化剤ガスを加湿する加湿速度を増加させることができると共に、フラッディング現象が生じるおそれがある下流領域の酸化剤ガスを加湿する加湿速度を減少させることができる。この場合、上流領域から下流領域にかけて、親水性を連続的にまたは段階的に増加させることができる。
【0024】
・酸化剤ガスセパレータの厚み方向に沿った断面において、酸化剤ガスセパレータは、通水路に対向すると共に親水性をもつ第1層と、酸化剤ガス通路に対向する共に親水性または疎水性をもつ第2層とを有する形態を採用することができる。
【0025】
・下流領域について、酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス通路のうち下流領域の圧力をPa’とし、通水路のうち下流領域に背向する通水路部分の圧力をPw’とすると、Pa’はPw’よりも大きく設定されている形態を採用することができる。この場合、Pa’>Pw’であるため、酸化剤ガス通路のうち下流領域に滞留している余剰水を酸化剤ガスセパレータの細孔を介して通水路に戻すことができ、通水路の水を補充できる。酸化剤ガスセパレータの細孔は、酸化剤ガスセパレータの厚み方向に連通する連通孔とされている。
【0026】
・酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス通路のうち上流領域の圧力をPaとし、通水路のうち上流領域に背向する通水路部分の圧力をPwとすると、PwはPaよりも大きく設定されている形態を採用することができる。この場合、Pw>Paであるため、当該通水路部分の水を酸化剤ガス通路のうち上流領域に浸透させるのに寄与することができ、湿度が低めになりがちの上流領域を加湿させるのに寄与することができる。但し、細孔の毛細管圧により通水路の水が酸化剤ガスセパレータの細孔に浸透し易いときには、上流領域では、毛細管圧を考慮すると、Pw=Pa、Pw≒Paでも良いし、Pw<Paでも良い。
【0027】
・酸化剤ガスセパレータの厚み方向に沿った断面において、酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス通路の上流領域と通水路の上流領域とは、酸化剤ガスセパレータ介して対向するように設定されている形態を採用することができる。酸化剤ガス通路の上流領域は、湿度が低めとなりがちである。このため酸化剤ガス通路の上流領域と通水路の上流領域とを、酸化剤ガスセパレータ介して対向するように設定されている場合には、通水路の水を酸化剤ガス通路の上流領域に浸透させるのに寄与することができる。
【0028】
・電解質膜、燃料極、酸化剤極を膜・接合体(MEA)としたとき、酸化剤ガスセパレータの厚み方向に沿った断面において、酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス通路の上流領域と燃料通路の下流領域とは、膜・接合体(MEA)を介して対向するように設定されている形態を採用することができる。この場合、燃料通路の下流領域は、燃料通路の上流領域よりも湿分が多めとなりがちとなる。このため燃料通路の下流領域の湿分を酸化剤ガス通路の上流領域に浸透させて加湿させるのに寄与することができる。
【0029】
・酸化剤ガス通路の通路幅について、下流領域は上流領域よりも小さく設定されている形態を採用することができる。下流領域の通路幅は上流領域の通路幅よりも小さいため、下流流域を流れる酸化剤ガスの流速を増加させることができ、下流流域における生成水の排出性を溜めることができる。
【0030】
・上記したように酸化剤ガスセパレータは細孔を有する。細孔径としては適宜選択できるが、1〜200μm、1〜100μm、殊に2〜30μm、2〜15μm、更に3〜4μmを例示することができる。酸化剤ガスセパレータの気孔率としては適宜選択できるが、体積比で10〜90%、15〜60%、殊に20〜40%とすることができる。但し細孔径、気孔率は上記した範囲に限定されるものではない。なお、固体高分子型燃料電池としては、車載用、定置用、ポータブル用、家庭用、業務用等を問わない。
【0031】
・第1発明に係る燃料電池によれば、酸化剤ガスセパレータのうち少なくとも通水路に対向する対向面は親水性を有している形態を採用することができる。当該対向面に通水路の水を浸透させることができ、当該対向面における細孔を水で封止してシールすることができ、酸化剤ガスが酸化剤ガスセパレータを介して通水路に漏れることが抑制される。
【0032】
・第2発明に係る燃料電池によれば、酸化剤ガスセパレータのうち酸化剤ガス通路に対向する対向面は、疎水性を有しているため、水を液相よりも水蒸気として存在させるのに一層有利となる。このため水蒸気によって酸化剤ガス通路の酸化剤ガスを加湿させ易くなる。
【0033】
・第2発明に係る燃料電池によれば、酸化剤ガスセパレータのうち酸化剤ガス通路に対向する疎水性を有する対向面については、上流領域から下流領域に向かうにつれて、細孔径が次第に大きくなるように設定されている形態を採用することができる。この場合、上流領域から下流領域に向かうにつれて、細孔径を連続的に増加させても良いし、段階的に増加させても良い。
【0034】
・第3発明に係る燃料電池によれば、酸化剤ガスセパレータのうち酸化剤ガス通路に対向する親水性を有する対向面については、上流領域から下流領域に向かうにつれて、細孔径が次第に小さくなるように設定されている形態を採用することができる。この場合、上流領域から下流領域に向かうにつれて、細孔径を連続的に減少させても良いし、段階的に減少させても良い。
【0035】
【実施例】
以下、本発明の第1実施例について図1〜図9を参照して説明する。図1は本実施例に係る固体高分子型燃料電池の概念図を模式的に示し、電解質膜の厚み方向に沿った断面を模式的に示す。図1に示すように、本実施例に係る固体高分子型燃料電池のMEA1は、プロトン伝導性を有する電解質膜11と、電解質膜11の厚み方向の一方側に設けられアノードとも呼ばれる燃料極12と、電解質膜11の厚み方向の他方側に設けられカソードとも呼ばれる酸化剤極15とを有する。
【0036】
更に、固体高分子型燃料電池は、MEA1の燃料極12の外側に配置され燃料極12にガス状の燃料を供給する溝状の燃料通路21を形成する燃料配流板として機能できる燃料セパレータ2と、MEA1の酸化剤極15の外側に配置され酸化剤極15に酸化剤ガス(一般的には空気)を供給する溝状の酸化剤ガス通路31を形成する酸化剤ガス配流板として機能できる酸化剤ガスセパレータ3と、酸化剤ガスセパレータ3のうち酸化剤極15に背向する位置に通水路41を形成する通水板4とを有する。
【0037】
図1に示すセル構造が厚み方向に積層されて固体高分子型燃料電池が形成される。図1ではMEA1、燃料セパレータ2、酸化剤ガスセパレータ3等は縦方向に沿って図示されているが、図1は概念図であり、水平方向に沿って配置されていても良い。
【0038】
図1において、酸化剤極15は、多孔質性及び導電性をもつカーボン系の第1ガス拡散層16と、触媒を主要成分とする多孔質性及び導電性をもつ第1触媒層17とを有する。燃料極12は、多孔質性及び導電性をもつカーボン系の第2ガス拡散層13と、触媒を主要成分とする多孔質性及び導電性をもつ第2触媒層14とを有する。触媒としては、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、金、銀等のうちの少なくとも1種を例示できる。
【0039】
燃料セパレータ2は燃料配流板とも呼ばれるものであり、導電性をもつ材料(カーボン系材料)で形成されており、封止用の樹脂を含浸させた緻密体とされている。従って燃料通路21からの燃料リークは抑制される。
【0040】
酸化剤ガスセパレータ3は、空気配流板とも呼ばれるものであり、これの厚み方向に連通する連通孔となりうる多数の細孔をもつ多孔質体で形成されており、多孔質性及び導電性を有し、一般的にはカーボン系材料を基材とする。酸化剤ガスセパレータ3は、水蒸気を利用した加湿機能を有する。酸化剤ガス通路31において、酸化剤ガスが流れる上流を上流領域91とする。酸化剤ガスが流れる下流を下流領域93とする。
【0041】
本実施例に係る固体高分子型燃料電池は、多孔質の酸化剤ガスセパレータ3の細孔を利用して、酸化剤ガス通路31の酸化剤ガスに積極的に水分を付与させるものである。
【0042】
酸化剤ガスセパレータ3は溝状の酸化剤ガス通路31を形成するものであり、図8に示すように、厚み方向に複層構造とされていても良い。また図9に示すように、単一層構造とされていても良い。酸化剤ガスセパレータ3が複層構造とされているとき、図8に示すように、酸化剤ガスセパレータ3は、通水路41に対向するように配置された薄い第1層32と、酸化剤ガス通路31及び酸化剤極15に対向するように第1層32に積層された薄い第2層33とを有する。従って、酸化剤ガスセパレータ3は、第1層32と第2層33とを一体的に積層することにより形成されている。第1層32は、導電性をもつ材料(カーボン材料等)を基材として形成されており、第1層32の厚み方向に連通する連通孔となる多数の細孔をもつ。第2層33は、導電性をもつ材料(カーボン材料等)を基材として形成されており、第1層32の厚み方向に連通する連通孔となる多数の細孔をもつ。第1層32の全体は親水性処理を施されており、親水性物質を有する親水性領域X1とされている。従って第1層32の細孔の内壁面は親水性をもつ。第2層33の全体は、疎水性処理を施されており、疎水性物質を有する疎水性領域X2を備えている。従って第2層33の細孔の内壁面は疎水性をもつ。
【0043】
図9に示すように、酸化剤ガスセパレータ3が単一層構造とされているときには、通水路41に対向する対向面30は親水性とされており、酸化剤ガス通路31に対向する対向面34は疎水性とされている。
【0044】
本実施例によれば、酸化剤ガスセパレータ3の細孔径については、上流領域91よりも下流領域93が大きくなるように設定されている。図2は、酸化剤ガスセパレータ3における細孔径の大小の変化を模式的に示す。図2の横軸は酸化剤ガスセパレータ3の第2層33の上流端91aから下流端93aまでの位置を示す。図2の縦軸は酸化剤ガスセパレータ3における細孔径の大きさを示す。図2の特性線S1,S2,S3に示すように、酸化剤ガスセパレータ3については、上流領域91の細孔径が相対的に小さく設定されていると共に、下流領域93の細孔径が相対的に大きく設定されている。換言すれば、酸化剤ガスセパレータ3については、上流領域91の上流端91aの細孔径が最も小さく設定されており、上流領域91から下流領域93に向かうにつれて、細孔径が次第に傾斜的にまたは段階的に大きくなるように設定されている。これにより前述したように、酸化剤ガスセパレータ3の第2層33の細孔の内壁面が疎水性であり、θが90度越え〜180度とされるため、Kelvinの式によれば、cosθは負の値となり(cosθ<0)、PはPoよりも大きくなる(P>Po)。Kelvinの式によれば、酸化剤ガスセパレータ3の第2層33の細孔の内壁面が疎水性であるため、細孔径rが小さければ小さいほど、細孔の水蒸気分圧Pは大きくなる。これにより本実施例によれば、低い湿度になりがちの上流領域における加湿速度を増加させることができると共に、フラッディング現象が生じるおそれがある下流領域における加湿速度を減少させることができる。
【0045】
図1に示すように、酸化剤ガス通路31の酸化剤ガス入口35は、搬送源47に繋がれている。燃料通路21の燃料入口25は燃料搬送源28に繋がれている。
【0046】
図1に示すように、通水路41は冷却及び加湿兼用の水を配流するためのものであり、給水源45に繋がる給水口43と、吐水口44とをもつ。更に給水源45からの水を通水路41に供給する通水駆動部49が設けられている。通水駆動部49は例えばポンプで形成できる。通水駆動部49は、通水路41の給水口43の上流側に設けられている。
【0047】
固体高分子型燃料電池を運転する際には、酸化剤ガス(一般的にはガス状の空気)が搬送源47により酸化剤極15用の酸化剤ガスセパレータ3の溝状の酸化剤ガス通路31に供給される。この酸化剤ガスは、酸化剤ガス通路31から酸化剤極15の第1ガス拡散層16、第1触媒層17に向けて矢印E1方向(図1参照)に流入する。更に、ガス状の燃料(純水素ガスや改質ガス等の水素含有ガス)は、燃料搬送源28により、燃料セパレータ2の溝状の燃料通路21に供給される。ガス状の燃料は、燃料通路21から燃料極12の第2ガス拡散層13及び第2触媒層14に向けて矢印E2方向(図1参照)に流入する。
【0048】
そして、第2触媒層14の触媒作用により、燃料に含まれている水素からプロトン(水素イオン)と電子(e−)とが生成される。生成されたプロトンは、電解質膜11を厚み方向に透過して酸化剤極15に至る。電子は導電経路60を流れ、導電経路60の負荷61で電気的仕事を行った後に、酸化剤極15に至る。そして酸化剤極15では、酸化剤極15の第1触媒層17の触媒作用により、酸化剤極15に供給された酸化剤ガス(一般的に空気)とプロトンと電子とが反応して水が生成される。このような発電反応により熱が発生するが、通水路41の水により固体高分子型燃料電池は冷却される。
【0049】
上記した発電反応に基づいてMEA1では水が生成され、その生成水が下流領域93に移送される等の理由により、酸化剤ガスの上流領域91よりも下流領域93の方が生成水が相対的に多くなる傾向となる。上記したMEA1では、上流領域91では、下流領域93よりも湿度が低めとなり、乾燥が生じるおそれがあり、下流領域93では余剰水が滞留するおそれがある。
【0050】
なお固体高分子型燃料電池の酸化剤ガス通路31の酸化剤ガス入口35に供給される酸化剤ガスとしては、加湿されていないものでも良いし、加湿されているものでも良い。固体高分子型燃料電池の燃料通路21に供給される燃料についても、同様に、加湿されていないものでも良いし、加湿されているものでも良い。
【0051】
図3は酸化剤ガスセパレータ3を示す。図3に示すように、酸化剤ガスセパレータ3には、酸化剤ガスが流れる凹状の酸化剤ガス通路31が案内凸部37と共に形成されている。酸化剤ガスセパレータ3の一辺部3a(下辺部)に、酸化剤ガス入口35、酸化剤ガス出口36が隣設して形成されている。酸化剤ガス通路31は、上下方向に延設された仕切壁38で仕切られている。酸化剤ガスセパレータ3のうち一辺部3aに対向する他辺部3b(上辺部)には、中間口39が形成されている。酸化剤ガスは、酸化剤ガス入口35から酸化剤ガス通路31に流入し、上流領域91→中間口39→下流領域93→酸化剤ガス出口36のように、矢印K1方向に流れる。
【0052】
図3に示すように、酸化剤ガス入口35から導入された酸化剤ガスは、中間口39に至るまでは上向きに流れ、中間口39から酸化剤ガス出口36までは下向きに流れる。即ち、酸化剤ガスセパレータ3においては、酸化剤ガスは逆U字形状に流れる。このため図3、図4に示すように、下流領域93では、酸化剤ガスは下向きに流れるため、重力を利用して生成水を酸化剤ガス出口36に排出させ易くなり、下流領域93におけるフラッディング現象を抑制するのに一層寄与することができる。
【0053】
図3に示すように、酸化剤ガスセパレータ3のうち一辺部3aに隣設する隣設辺部3cには、燃料入口25及び吐水口44が隣設して形成されている。酸化剤ガスセパレータ3のうち他辺部3bに隣設する隣設辺部3dには、燃料出口26及び給水口43が隣設して形成されている。
なお、図3に示すように、酸化剤ガス通路31の通路幅は、仕切壁38によって、上流側の通路幅L1と下流側の通路幅L2として仕切られ、且つ、L1>L2に設定されているため、下流側を流れる酸化剤ガスの流速を増加させるのに寄与でき、余剰水を酸化剤ガス出口36に排出させ易くなる効果を期待できる。
【0054】
ここで、酸化剤ガスセパレータ3は多孔質であり、細孔をもつため、燃料入口25及び燃料出口26を流れるガス状の燃料が細孔を介して酸化剤ガス通路31に混入するおそれがある。そこで本実施例によれば、図4に示すように、酸化剤ガスセパレータ3のうち燃料入口25及び燃料出口26の付近に緻密体部分3r(図4においてハッチングで示す領域)を設けており、緻密体部分3rにより上記した燃料の混入が抑えられている。緻密体部分3rは樹脂を含浸させて、当該部分3rにおける細孔を封止してガスシール性を高めることにより形成できる。なお必要に応じて、仕切壁38にも樹脂を含浸させて、仕切壁38の細孔を封止させて緻密体とすることができる。
【0055】
図5は燃料セパレータ2を示す。図5に示すように、燃料セパレータ2には、ガス状の燃料が流れる凹状の燃料通路21が案内凸部27と共に形成されている。燃料セパレータ2の一辺部に燃料入口25、吐水口44が形成されている。燃料セパレータ2の他辺部には燃料出口26、給水口43が形成されている。燃料は燃料入口25→燃料通路21→燃料出口26に向けて矢印K3方向に流れる。なお、図5において、燃料セパレータ2のうち一辺部に対向する他辺部には、中間口39が形成されている。燃料セパレータ2には、酸化剤ガス入口35、酸化剤ガス出口36が形成されている。
【0056】
上記したように燃料通路21において燃料は矢印K3方向(図5参照)に流れる。図5及び図3を比較すれば、矢印K3方向における上流は、酸化剤ガスの流れの下流領域93に相当するといえる。また、矢印K3方向における下流は、酸化剤ガス入口35の近傍に配置されており、酸化剤ガスの流れの上流領域91に相当するといえる。この結果本実施例によれば、燃料通路21における燃料の主流れ方向と、酸化剤ガス通路31の酸化剤ガスの主流れ方向とは、基本的には逆の配向性とされている。
【0057】
図6は通水板4を示す。図6に示すように、通水板4には、水料が流れる凹状の通水路41が案内凸部47と共に形成されている。通水板4の一辺部に燃料入口25、吐水口44が形成されている。通水板4の他辺部には燃料出口26、給水口43が形成されている。水は給水口43→通水路41→吐水口44に向けて矢印K4方向に流れる。なお、図6において、通水板4には、中間口39が形成されている。通水板4には、酸化剤ガス入口35、酸化剤ガス出口36が形成されている。
【0058】
上記したように通水路41において水は矢印K4方向(図6参照)に流れる。図6及び図4を比較すれば、矢印K4方向における上流は、酸化剤ガス入口35の近傍に配置されており、酸化剤ガスの流れの上流領域91に相当するといえる。また、矢印K4方向における下流は、酸化剤ガス出口36の近傍に配置されており、酸化剤ガスの流れの下流領域93に相当するといえる。この結果本実施例によれば、通水路41における燃料の主流れ方向と、酸化剤ガス通路31の酸化剤ガスの主流れ方向とは、基本的には同じ配向性をもつ。
【0059】
以上説明したように本実施例によれば、酸化剤ガスセパレータ3においては、図2に示すように、上流領域91では細孔径が相対的に小さく設定されており、Kelvinの式に基づけば、細孔における水蒸気分圧は相対的に高めとなるため、上流領域91の酸化剤ガスを水蒸気により効果的に加湿させることができる。また図2に示すように、下流領域93では細孔径が相対的に大きく設定されており、Kelvinの式に基づけば、細孔における水蒸気分圧は相対的に低めとなるため、下流領域93の酸化剤ガスを加湿する加湿速度を低減させ、余剰水の滞留防止に有利である。この結果、酸化剤ガスセパレータ3において加湿量の均一化、湿分付与の均一化を図るのに寄与することができる。上記したように生成水が余剰になりがちの下流領域93において、加湿速度を減少させることができるため、フラッディング現象を抑えるのに寄与できる。
【0060】
図8,図9は、酸化剤ガスセパレータ3の細孔構造をモデル化して示す。本実施例によれば、酸化剤ガスセパレータ3のうち通水路41に対面する対向面30側は親水性を有するため、図8に示すように、通水路41に存在する液相としての水を、毛細管圧により、酸化剤ガスセパレータ3において矢印A1方向に向けて移動させて細孔に浸透させることができる。この結果、液相としての水が酸化剤ガスセパレータ3のうち通水路41側の細孔に浸透させて細孔を封止できるため、酸化剤ガスセパレータ3の細孔のシールを図ることができ、酸化剤ガス通路31の酸化剤ガスが通水路41に洩れることが抑えられ、発電反応を良好に行うことができる。
【0061】
本実施例によれば、前述したように酸化剤ガスセパレータ3のうち通水路41に対面する対向面30側は親水性を有するため、通水路41に存在する液相としての水を、毛細管圧により酸化剤ガスセパレータ3において矢印A1方向(図8参照)に向けて浸透させることができる。この結果、酸化剤ガスセパレータ3のうち酸化剤ガス通路31に対向する対向面34付近の細孔の近くまで、水を近づけることができる。しかし酸化剤ガスセパレータ3のうち酸化剤ガス通路31に対向する対向面34は疎水性をもつため、水は液相よりも水蒸気として存在し易くなる。この結果、酸化剤ガスセパレータ3の対向面34側の細孔では、水蒸気化が促進され、酸化剤ガス通路31の酸化剤ガスを水蒸気によって加湿させ易くなる利点が得られる。
【0062】
殊に本実施例によれば、酸化剤ガス通路31のうち上流領域91の細孔径は、図2に示すように、下流領域93よりも小さいため、上記したKelvinの式に基づけば、酸化剤ガス通路31の上流領域91の水蒸気分圧を下流領域93よりも高くすることができる。このため、酸化剤ガスセパレータ3の上流領域91の細孔に存在する水蒸気を、酸化剤ガス通路31に矢印A3方向に効率よく拡散させることができる。この意味においても、酸化剤ガスセパレータ3のうち上流領域91の酸化剤ガスを水蒸気によって加湿させ易くなる利点が得られる。
【0063】
更に本実施例によれば、図1において、酸化剤ガス通路31のうち上流領域91の酸化剤ガスの圧力をPaとし、通水路41のうち上流領域91に背向する上流通水路部分41u(上流領域)の水の圧力をPwとすると、水の圧力Pwは圧力Paよりも大きくなるように、通水路41及び酸化剤ガス通路31の溝構造、通水条件、酸化剤ガスの供給条件等が設定されている(Pw>Pa)。この結果、通水路41の上流通水路部分41uの水を、酸化剤ガスセパレータ3の厚み方向(図1の矢印A1方向)に浸透させるのに有利となり、酸化剤ガス通路31の上流領域91に湿分を与えることができる。即ち、酸化剤ガスセパレータ3は、酸化剤ガス通路31の上流領域91を加湿させる加湿機能を有する。但し、通水路41の水が毛細管圧や親水性により酸化剤ガスセパレータ3の細孔に浸透して細孔シールを行い易いとき等には、上流領域91では、Pw=Pa、Pw≒Paでも良いし、Pw<Paでも良い。
【0064】
加えて本実施例によれば、図1において、酸化剤ガス通路31のうち下流領域93の酸化剤ガスの圧力をPa’とし、通水路41のうち下流通水路部分41dの水の圧力をPw’とすると、圧力Pa’は圧力Pw’よりも大きくなるように、通水路41及び酸化剤ガス通路31の溝構造、通水条件、酸化剤ガスの供給条件等が設定されている(Pa’>Pw’)。この結果、酸化剤ガス通路31のうち下流領域93に溜まった余剰水を、酸化剤ガスセパレータ3をこれの厚み方向(図1の矢印A2方向)に浸透させて、通水路41の下流通水路部分41dに戻すことができ、酸化剤ガス通路31の下流領域93におけるフラッディング現象を抑えるのに貢献できる。即ち、酸化剤ガスセパレータ3は、酸化剤ガス通路31の下流領域93を吸湿させる吸湿機能を有する。
【0065】
上記したように本実施例によれば、酸化剤ガス通路31のうち下流領域93に溜まった余剰水を、酸化剤ガスセパレータ3の細孔を経て、通水路41の下流通水路部分41dに矢印A2方向に戻すことができるため、加湿水を戻すためのエネルギ損失を低減させることができる利点が得られる。
【0066】
ところで、酸化剤ガス通路31の上流領域91では、酸化剤ガス通路31の下流領域93よりも湿度が低いため、乾燥が生じるおそれがある。これに対して、燃料通路21の下流領域21dでは、生成水の影響で、燃料通路21の上流領域21uよりも湿分が多くなりがちである。この点本実施例によれば、図1に示すように、燃料通路21における燃料の主流れ方向(矢印K3方向)と、酸化剤ガス通路31の酸化剤ガスの主流れ方向(矢印K1方向)とは、基本的には逆の配向性とされている。そして図1に示すように、電解質膜11、燃料極12、酸化剤極15を膜・接合体であるMEA1としたとき、酸化剤ガスセパレータ3の厚み方向に沿った断面において、酸化剤ガス通路31の上流領域91は、燃料通路21の下流領域21dとMEA1を介して対向するように設定されている。このため、燃料通路21の下流領域21dにおける湿分を酸化剤ガス通路31の上流領域91に向けて図1の矢印B1方向に移行させるのに貢献でき、電解質膜11の過剰乾燥を抑制するのに有利であり、発電性能を高めることができる。
【0067】
更に本実施例によれば、図1に示すように、通水路41における水の主流れ方向(矢印K4方向)と、酸化剤ガス通路31の酸化剤ガスの主流れ方向(矢印K1方向)とは、基本的には同じ配向性を有する。従って、図1に示すように、酸化剤ガスセパレータ3の厚み方向に沿った断面において、酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス通路31の上流領域91と通水路41の上流通水路部分41u(上流領域)とは、酸化剤ガスセパレータ3を介して対向するように設定されている。ここで、通水路41の上流通水路部分41uの水圧は、圧損の影響を受ける下流通水路部分41d(下流領域)の水圧よりも高い。このため、通水路41の上流通水路部分41uの水を、酸化剤ガスセパレータ3を厚み方向(図1の矢印A1方向)に浸透させて、酸化剤ガス通路31のうち乾燥しがちの上流領域91に供給させるのに有利となる。殊に前述したようにPw>Paに設定されているため、通水路41の上流通水路部分41uの水を、酸化剤ガスセパレータ3の厚み方向(図1の矢印A1方向)に浸透させるのに有利となる。この結果、酸化剤ガス通路31のうち乾燥しがちの上流領域91に湿分を与えることができ、発電性能を高めることができる。
【0068】
図7は、酸化剤極15に用いられる第1ガス拡散層16が親水性及び疎水性を有する形態を模式的に示す。図7に示すように、第1ガス拡散層16については、上流領域91は親水性処理されており、親水性物質を有する親水性領域200を有すると共に、下流領域93は疎水性処理されており、疎水性物質を有する疎水性領域210を有する。図7に示すように、酸化剤ガスが透過する第1ガス拡散層16においては、上流領域91が親水性領域200とされているため、水蒸気が第1ガス拡散層16の親水性領域200において凝縮し易くなり、その水をMEA1の電解質膜11に供給することができる。また図7に示すように、酸化剤ガスが透過する第1ガス拡散層16については、下流領域93が疎水性領域210とされている。このため、水が余剰となりがちの下流領域93において水がはじかれ、フラッディング現象を抑制するのに寄与できる。
【0069】
(第2実施例)
図10及び図11は第2実施例を示す。第2実施例は第1実施例と基本的には同様の構成を有し、同様の作用効果を奏する。本実施例においては、酸化剤ガスセパレータ3Cは単一層で形成されており、酸化剤ガスセパレータ3Cの全体は親水性処理を施され、親水性をもつ。このため通水路41に対向する対向面30、酸化剤ガス通路31に対向する対向面34は、親水性を有する。
【0070】
本実施例によれば、酸化剤ガスセパレータ3Cにおける細孔の細孔径は、下流領域93よりも上流領域91が大きくなるように設定されている。図11は、酸化剤ガスセパレータ3Cにおける細孔径の大小の変化を模式的に示す。図11の横軸は酸化剤ガスセパレータ3Cの上流端91aから下流端93aまでの位置を示す。図11の縦軸は細孔径の大きさを示す。図11の特性線S11,S12,S13に示すように、親水性とされた酸化剤ガスセパレータ3Cについては、上流領域91の細孔径が相対的に大きく設定されていると共に、下流領域93の細孔径が相対的に小さく設定されている。換言すれば、酸化剤ガスセパレータ3Cについては、上流領域91の上流端91aの細孔径が最も大きく設定されており、上流領域91から下流領域93に向かうにつれて、細孔径が次第に傾斜的にまたは段階的に小さくなるように設定されている。これにより前述したように、酸化剤ガスセパレータ3Cの細孔の内壁面が親水性であるため、Kelvinの式によれば、θが0度〜90度とされるため、cosθは正の値(cosθ≧0)となる。Kelvinの式によれば、細孔の内壁面が親水性であるため、細孔径rが大きければ大きいほど、細孔の水蒸気分圧Pは大きくなる。これにより低い湿度になりがちの上流領域91の酸化剤ガスを加湿する加湿速度を増加させ得る。
【0071】
本実施例によれば、親水性に設定されている酸化剤ガスセパレータ3Cにおいては、下流領域93では細孔径が相対的に小さく設定されており、Kelvinの式に基づけば、細孔における水蒸気分圧は相対的に低めとなる。この結果、酸化剤ガス通路31のうち生成水が余剰になりがちの下流領域93では、酸化剤ガスを加湿する加湿速度を減少させることができ、フラッディング現象を抑えるのに寄与できる。従って、酸化剤ガスセパレータ3において加湿量の均一化を図るのに寄与することができる。
【0072】
上記したように酸化剤ガスセパレータ3Cのうち上流領域91の上流端91aの細孔径が最も大きく設定されているため、細孔径が大きい上流端91aの細孔部位を経て、酸化剤ガス通路31の酸化剤ガスが通水路41に進入するおそれがある。この点本実施例によれば、酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス通路31のうち上流領域91の圧力をPaとし、通水路41のうち上流領域91に背向する上流通水路部分41uの圧力をPwとすると、PwはPaよりも大きく設定されている(Pw>Pa)。このため、酸化剤ガス通路31の上流領域91の酸化剤ガスが、細孔径が大きい部位から通水路41に進入することを抑制することができる利点が得られる。更にPw>Paであるため、通水路41の上流通水路部分41uの水を、酸化剤ガスセパレータ3の細孔にこれの厚み方向に浸透させるのに有利となり、酸化剤ガス通路31の上流領域91に湿分を与えることができる。即ち、酸化剤ガスセパレータ3は、酸化剤ガス通路31の上流領域91を加湿させる加湿機能を有する。但し、通水路41の水が毛細管圧により酸化剤ガスセパレータ3の細孔に浸透して酸化剤ガス通路31に到達し易いときには、上流領域91では、Pw=Pa、Pw≒Paでも良いし、Pw<Paでも良い。
【0073】
加えて本実施例によれば、酸化剤ガス通路31のうち下流領域93の酸化剤ガスの圧力をPa’とし、通水路41のうち下流通水路部分41d(下流領域)の水の圧力をPw’とすると、酸化剤ガス通路31の酸化剤ガスの圧力Pa’は、圧力Pw’よりも大きく設定されている(Pa’>Pw’)。この結果、酸化剤ガス通路31のうち下流領域93に溜まった余剰水を、酸化剤ガスセパレータ3を図10の矢印A2方向に浸透させて、通水路41の下流通水路部分41dに戻すことができ、酸化剤ガス通路31の下流領域93におけるフラッディング現象を抑えるのに貢献できる。このように酸化剤ガスセパレータ3は、酸化剤ガス通路31の下流領域93を吸湿させる吸湿機能を有する。
【0074】
なお、酸化剤ガスセパレータ3Cの下流領域93については、細孔径が上流領域91よりも小さく設定されているため、酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス通路31の下流領域93の酸化剤ガスが通水路41に進入することは抑制されている。
【0075】
(第3実施例)
図12,図13は第3実施例を示す。第3実施例は第1実施例と基本的には同様の構成を有し、同様の作用効果を奏する。本実施例においては、酸化剤ガスセパレータ3Dは単一層で形成されており、酸化剤ガスセパレータ3Dの全体は親水性処理を施され、親水性をもつ。このため酸化剤ガスセパレータ3Dのうち、通水路41に対向する対向面30、酸化剤ガス通路31に対向する対向面34は、親水性を有する。
【0076】
本実施例によれば、酸化剤ガスセパレータ3Dの細孔の細孔径は、下流領域93から流領域91にかけてほぼ同じ程度とされている。
【0077】
図13は、酸化剤ガスセパレータ3Dにおける親水性の強弱を模式的に示す。図13の横軸は、酸化剤ガスセパレータ3Dの上流端91aから下流端93aまでの位置を示す。図13の縦軸は酸化剤ガスセパレータ3Dの対向面34における親水性の強さを示す。図13の特性線S21,S22,S23に示すように、酸化剤ガスセパレータ3Dのうち酸化剤極15に対向する対向面34については、上流領域91の親水性が相対的に弱く設定されていると共に、下流領域93の親水性が相対的に強く設定されている。換言すれば、酸化剤ガスセパレータ3Dのうち上流領域91の上流端91aの親水性が最も弱く設定されており、上流領域91から下流領域93に向かうにつれて、親水性が次第に傾斜的にまたは段階的に強くなるように設定されている。
【0078】
本実施例によれば、親水性に設定されている酸化剤ガスセパレータ3Dにおいては、下流領域93では親水性が相対的に強く設定されており、θが小さくなり、cosθが大きくなり、Kelvinの式に基づけば、細孔における水蒸気分圧は相対的に低めとなる。これに対して上流領域91では親水性が相対的に弱くされており、θが大きくなり、cosθが小さくなり、Kelvinの式に基づけば、細孔における水蒸気分圧は相対的に高めとなる。
【0079】
このため本実施例によれば、酸化剤ガス通路31のうち乾燥が生じがちの上流領域91では、酸化剤ガスを加湿する加湿速度を増加させることができる。また、酸化剤ガス通路31のうち生成水が余剰になりがちの下流領域93では、酸化剤ガスを加湿する加湿速度を減少させることができる。この結果、酸化剤ガスセパレータ3Dにおいて加湿量の均一化を図るのに寄与することができる。このように生成水が余剰になりがちの下流領域93において、酸化剤ガスの加湿速度を減少させることができるため、フラッディング現象を抑えるのに寄与できる。
【0080】
なお、酸化剤ガスセパレータ3Dにおいて親水性に勾配を形成するに当たっては、親水性物質を液状媒体(水、アルコール等)に溶解または分散させた溶液を用い、その溶液に酸化剤ガスセパレータ3Dの下流領域93から所定の速度で次第に浸漬させ、下流領域93の浸漬時間を長くし、上流領域91の浸漬時間を短くすることにより行い得る。
【0081】
本実施例においても、酸化剤ガス通路31の酸化剤ガスの圧力Pa’は、圧力Pw’よりも大きく設定されている(Pa’>Pw’)。この結果、酸化剤ガス通路31のうち下流領域93に溜まった余剰水を、酸化剤ガスセパレータ3Dを図12の矢印A2方向に浸透させて、通水路41の下流通水路部分41dに戻すことができ、酸化剤ガス通路31の下流領域93におけるフラッディング現象を抑えるのに貢献できる。このように酸化剤ガスセパレータ3は、酸化剤ガス通路31の下流領域93を吸湿させる吸湿機能を有する。
【0082】
(製造例)
上記した多孔質な酸化剤ガスセパレータ3,3C,3Dは次のように形成できる。即ち、カーボン系材料(天然黒鉛、人造黒鉛等)とバインダ(熱硬化性樹脂、例えばフェノール樹脂)と消失可能な造孔材(セルロース系有機質材)とを混合した混合材料を用いる。この混合材料を成形型のキャビティ型面でプレス成形して成形体とし、その成形体を焼成温度(例えば500〜600℃)において焼成し、成形体の造孔材を消失させることにより、多数の細孔をもつ酸化剤ガスセパレータ3,3C,3Dを形成することができる。細孔径を上流領域から下流領域にかけて変化させるには、造孔材のサイズを上流領域から下流領域にかけて変化させることにより行い得る。造孔材のサイズが大きいと、細孔径が大きくなる。造孔材のサイズが小さいと、細孔径が小さくなる。細孔径としては1〜100μm、2〜30μm、2〜15μm、殊に3〜4μmとすることができる。気孔率としては体積比で10〜90%、15〜60%、殊に20〜40%とすることができる。
【0083】
酸化剤ガスセパレータ3に疎水性を与える疎水性物質としては、フッ素原子、CF2,CF3基,CH3基,CH2基等を有するものが挙げられ、フッ素、フッ素樹脂(PTFE、FEP、PFA、PVDF等)、フッ化黒鉛、疎水性カーボン、シラン化合物、パラフィン等を例示できる。
【0084】
疎水処理を行う改質ガスとしては、フッ素ガス、あるいは、フッ素ガスと不活性ガス(窒素等)とを主要成分とするガスを用いることができる。疎水処理室103の雰囲気温度としては適宜選択できるが、一般的には、室温から400℃程度とすることができる。
【0085】
親水処理としては、親水性物質を液状媒体(水、アルコール等)に溶解または分散させた溶液を用い、その溶液と酸化剤ガスセパレータ3とを接触させることにより行い得る。親水性物質としては、過酸化水素水、二酸化珪素の粉末、酸化アルミニウムの粉末等を例示することができ、その表面に水酸基やカルボキシル基等の親水性の官能基を多量に含むものを例示することができる。更に、吸水性の樹脂である、デンプン・アクリル酸共重合体、ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール等を用いることもできる。また、イオン交換樹脂、吸水性多糖類を親水性物質として例示できる。いずれもその構造内に、水酸基、カルボキシル基、アルデヒド基、アミノ基、スルホ基等の親水性の官能基のうちの少なくとも1種を有するものを例示することができる。
【0086】
(その他)
上記した実施例によれば、燃料セパレータ2は緻密体とされているが、これに限らず、細孔をもつ多孔質体とすることもでき、その細孔を水で封止してシールすることができる。第1触媒層17及び第2触媒層14は電解質膜11の表裏に直接的に被覆されていても良い。上記した実施例によれば、酸化剤ガスは逆U字形状に流れるが、これに限らず、U字形状に流れても良いし、横U字形状に流れても良い。その他、本発明は上記した実施例のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できるものである。
【0087】
上記した記載から次の技術的思想を把握できる。
(付記項1)各請求項において、酸化剤ガスセパレータは、上流領域では、酸化剤ガス通路を加湿できる加湿機能を有し、下流領域では、酸化剤ガス通路の水分を吸収する吸湿機能を有することを特徴とする固体高分子型燃料電池。通水路における水の循環に寄与できる。
(付記項2)燃料電池の酸化剤極に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス通路を形成する酸化剤ガスセパレータであって、酸化剤ガスセパレータは、多数の細孔をもつ多孔質性を有しており、酸化剤ガスセパレータの厚み方向に沿った断面において、酸化剤ガスが流れる上流を上流領域とし、酸化剤ガスが流れる下流を下流領域とするとき、酸化剤ガスセパレータのうち少なくとも酸化剤ガス通路に対向する側における細孔における水蒸気分圧は、下流領域よりも上流領域が大きくなるように設定されていることを特徴とする固体高分子型燃料電池用の酸化剤ガスセパレータ。
(付記項3)燃料電池の酸化剤極に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス通路を形成する酸化剤ガスセパレータであって、酸化剤ガスセパレータは、多数の細孔をもつ多孔質性を有しており、酸化剤ガスセパレータの厚み方向に沿った断面において、酸化剤ガスが流れる上流を上流領域とし、酸化剤ガスが流れる下流を下流領域とするとき、酸化剤ガスセパレータのうち少なくとも酸化剤ガス通路に対向する側における細孔の細孔径は、上流領域よりも下流領域が大きくなるように設定されていることを特徴とする固体高分子型燃料電池用の酸化剤ガスセパレータ。
(付記項4)燃料電池の酸化剤極に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス通路を形成する酸化剤ガスセパレータであって、酸化剤ガスセパレータは、多数の細孔をもつ多孔質性を有しており、酸化剤ガスセパレータの厚み方向に沿った断面において、酸化剤ガスが流れる上流を上流領域とし、酸化剤ガスが流れる下流を下流領域とするとき、酸化剤ガスセパレータのうち少なくとも酸化剤ガス通路に対向する側における細孔の細孔径は、下流領域よりも上流領域が大きくなるように設定されていることを特徴とする固体高分子型燃料電池葉の酸化剤ガスセパレータ。
(付記項5)イオン伝導性をもつ電解質膜と、電解質膜の厚み方向の一方側に設けられた燃料極と、電解質膜の厚み方向の他方側に設けられた酸化剤極と、燃料極に燃料を供給する燃料通路を形成する燃料セパレータと、酸化剤極に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス通路を形成する酸化剤ガスセパレータと、酸化剤ガスセパレータのうち酸化剤極に背向する位置に通水路を形成する通水板とを具備する固体高分子型燃料電池において、
酸化剤ガスセパレータは、多数の細孔をもつ多孔質性を有しており、酸化剤ガスセパレータの厚み方向に沿った断面において、酸化剤ガスセパレータのうち酸化剤ガス通路に対向する対向面は、疎水性を有しており、酸化剤ガスが流れる上流を上流領域とし、酸化剤ガスが流れる下流を下流領域とするとき、酸化剤ガスセパレータのうち少なくとも酸化剤ガス通路に対向する側における細孔の細孔径は、上流領域よりも下流領域が大きくなるように設定されていることを特徴とする固体高分子型燃料電池。
(付記項6)イオン伝導性をもつ電解質膜と、電解質膜の厚み方向の一方側に設けられた燃料極と、電解質膜の厚み方向の他方側に設けられた酸化剤極と、燃料極に燃料を供給する燃料通路を形成する燃料セパレータと、酸化剤極に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス通路を形成する酸化剤ガスセパレータと、酸化剤ガスセパレータのうち酸化剤極に背向する位置に通水路を形成する通水板とを具備する固体高分子型燃料電池において、酸化剤ガスセパレータは、多数の細孔をもつ多孔質性を有しており、酸化剤ガスセパレータの厚み方向に沿った断面において、
酸化剤ガスが流れる上流を上流領域とし、酸化剤ガスが流れる下流を下流領域とするとき、酸化剤ガスセパレータのうち少なくとも酸化剤ガス通路に対向する側における細孔の細孔径は、下流領域よりも上流領域が大きくなるように設定されていることを特徴とする固体高分子型燃料電池。
【0088】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、上流領域において酸化剤ガスを加湿する加湿速度を増加させることができるため、上流領域において電解質膜の乾燥の不具合を抑制できる。更に下流領域において酸化剤ガスを加湿する加湿速度を減少させることができるため、液相の余剰水に起因するフラッディング現象を抑制するのに寄与することができる。このように上流領域の酸化剤ガスを加湿する加湿速度を増加させることができると共に、下流領域の酸化剤ガスを加湿する加湿速度を減少させることができるたため、酸化剤ガス通路の全体をできるだけ均一に加湿させるのに寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施例に係り、固体高分子型燃料電池の概念を模式的に示す断面図である。
【図2】第1実施例に係り、酸化剤ガスセパレータの上流端から下流端にかけて細孔径の変化を示すグラフである。
【図3】酸化剤ガス通路をもつ酸化剤ガスセパレータの正面図である。
【図4】シール用の緻密体部分を有する酸化剤ガスセパレータの正面図である。
【図5】燃料通路をもつ燃料セパレータの正面図である。
【図6】通水路をもつ通水板の正面図である。
【図7】疎水性及び親水性をもつ酸化剤ガス用のガス拡散層を模式的に示す正面図である。
【図8】酸化剤ガスセパレータの断面における細孔構造をモデル化して示す断面図である。
【図9】酸化剤ガスセパレータの断面における細孔構造をモデル化して示す断面図である。
【図10】第2実施例に係り、固体高分子型燃料電池の概念を模式的に示す断面図である。
【図11】第2実施例に係り、酸化剤ガスセパレータの上流端から下流端にかけて細孔径の変化を示すグラフである。
【図12】第3実施例に係り、固体高分子型燃料電池の概念を模式的に示す断面図である。
【図13】第3実施例に係り、酸化剤ガスセパレータの上流端から下流端にかけて親水性の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
図中、1はMEA、11は電解質膜、12は燃料極、15は酸化剤極、2は燃料セパレータ、21は燃料通路、3は酸化剤ガスセパレータ、31は酸化剤ガス通路、32は第1層、33は第2層、4は通水板、41は通水路、43は給水口、44は吐水口、49は通水駆動部、91は上流領域、91aは上流端、93は下流領域、93aは下流端を示す。
Claims (9)
- イオン伝導性をもつ電解質膜と、前記電解質膜の厚み方向の一方側に設けられた燃料極と、前記電解質膜の厚み方向の他方側に設けられた酸化剤極と、前記燃料極に燃料を供給する燃料通路を形成する燃料セパレータと、前記酸化剤極に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス通路を形成する酸化剤ガスセパレータと、前記酸化剤ガスセパレータのうち前記酸化剤極に背向する位置に通水路を形成する通水板とを具備する固体高分子型燃料電池において、
前記酸化剤ガスセパレータの厚み方向に沿った断面において、
前記酸化剤ガス通路において酸化剤ガスが流れる上流を上流領域とし、酸化剤ガスが流れる下流を下流領域とするとき、
前記酸化剤ガスセパレータは、前記上流領域から前記下流領域にかけて且つ前記酸化剤ガスセパレータの厚み方向に連通するように多数の細孔をもつ多孔質性を有しており、
前記酸化剤ガスセパレータのうち少なくとも前記酸化剤ガス通路に対向する側における細孔における水蒸気分圧は、前記酸化剤ガスセパレータから放出させる水蒸気によって加湿を行い得るように、前記下流領域よりも前記上流領域が大きくなるように設定されていることを特徴とする固体高分子型燃料電池。 - イオン伝導性をもつ電解質膜と、前記電解質膜の厚み方向の一方側に設けられた燃料極と、前記電解質膜の厚み方向の他方側に設けられた酸化剤極と、前記燃料極に燃料を供給する燃料通路を形成する燃料セパレータと、前記酸化剤極に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス通路を形成する酸化剤ガスセパレータと、前記酸化剤ガスセパレータのうち前記酸化剤極に背向する位置に通水路を形成する通水板とを具備する固体高分子型燃料電池において、
前記酸化剤ガスセパレータの厚み方向に沿った断面において、
前記酸化剤ガスセパレータのうち少なくとも前記通水路に対向する対向面は親水性を有しており、且つ、
前記酸化剤ガスセパレータのうち前記酸化剤ガス通路に対向する対向面は、疎水性を有しており、
前記酸化剤ガス通路において酸化剤ガスが流れる上流を上流領域とし、酸化剤ガスが流れる下流を下流領域とするとき、
前記酸化剤ガスセパレータは、前記上流領域から前記下流領域にかけて且つ前記酸化剤ガスセパレータの厚み方向に連通するように多数の細孔をもつ多孔質性を有しており、
前記酸化剤ガスセパレータのうち少なくとも前記酸化剤ガス通路に対向する側における細孔の細孔径は、前記酸化剤ガスセパレータから放出させる水蒸気によって加湿を行い得るように、前記上流領域よりも前記下流領域が大きくなるように設定されていることを特徴とする固体高分子型燃料電池。 - イオン伝導性をもつ電解質膜と、前記電解質膜の厚み方向の一方側に設けられた燃料極と、前記電解質膜の厚み方向の他方側に設けられた酸化剤極と、前記燃料極に燃料を供給する燃料通路を形成する燃料セパレータと、前記酸化剤極に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス通路を形成する酸化剤ガスセパレータと、前記酸化剤ガスセパレータのうち前記酸化剤極に背向する位置に通水路を形成する通水板とを具備する固体高分子型燃料電池において、
前記酸化剤ガスセパレータの厚み方向に沿った断面において、
前記酸化剤ガスセパレータのうち少なくとも前記酸化剤ガス通路に対向する対向面は、親水性を有しており、
前記酸化剤ガス通路において酸化剤ガスが流れる上流を上流領域とし、酸化剤ガスが流れる下流を下流領域とするとき、
前記酸化剤ガスセパレータは、前記上流領域から前記下流領域にかけて且つ前記酸化剤ガスセパレータの厚み方向に連通するように多数の細孔をもつ多孔質性を有しており、
前記酸化剤ガスセパレータのうち少なくとも前記酸化剤ガス通路に対向する側における細孔の細孔径は、前記下流領域よりも前記上流領域が大きくなるように設定されていることを特徴とする固体高分子型燃料電池。 - 請求項1〜請求項3のいずれか一項において、酸化剤ガスが流れる前記酸化剤ガス通路のうち前記上流領域の圧力をPaとし、前記通水路のうち前記上流領域に背向する通水路部分の圧力をPwとすると、Pw>Pa,Pw<Pa、Pw=Paのいずれかに設定されていることを特徴とする固体高分子型燃料電池。
- 請求項1〜請求項4のうちのいずれか一項において、酸化剤ガスが流れる前記酸化剤ガス通路のうち前記下流領域の圧力をPa’とし、前記通水路のうち前記下流領域に背向する通水路部分の圧力をPw’とすると、Pa’はPw’よりも大きく設定されていることを特徴とする固体高分子型燃料電池。
- 請求項1〜請求項5のうちのいずれか一項において、前記電解質膜、前記燃料極、前記酸化剤極を膜・接合体としたとき、前記酸化剤ガスセパレータの厚み方向に沿った断面において、酸化剤ガスが流れる前記酸化剤ガス通路の前記上流領域と前記燃料通路の前記下流領域とは、
前記膜・接合体を介して対向するように設定されていることを特徴とする固体高分子型燃料電池。 - 請求項1〜請求項6のうちのいずれか一項において、前記酸化剤ガスセパレータの厚み方向に沿った断面において、酸化剤ガスが流れる前記酸化剤ガス通路の前記上流領域と前記通水路の上流通水路部分とは、前記酸化剤ガスセパレータを介して対向するように設定されていることを特徴とする固体高分子型燃料電池。
- 請求項1〜請求項7のうちのいずれか一項において、前記酸化剤ガス通路の通路幅について、前記下流領域は前記上流領域よりも小さく設定されていることを特徴とする固体高分子型燃料電池。
- 請求項1,3,4,5,6,7,8のうちのいずれか一項において、前記酸化剤ガスセパレータのうち少なくとも前記酸化剤ガス通路に対向する側は親水性を有しており、前記酸化剤ガスセパレータのうち前記酸化剤ガス通路に対向する側における親水性は、前記上流領域よりも前記下流領域が大きくなるように設定されていることを特徴とする固体高分子型燃料電池。
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