JP4313890B2 - スプリングバック量予測方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、材料が塑性加工の終了後に弾性回復する量であるスプリングバック量を予測する技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
プレス成形等、塑性加工においては、材料が負荷された後に除荷されるが、除荷後に材料にスプリングバックが生じ、材料の除荷終了時における形状(最終形状)が、負荷終了時(除荷開始時)における形状とは異なったものとなる。そのため、材料の塑性加工後の形状精度を確保するために、プレス型等、塑性加工のための工具の形状を、材料の目標形状に対応する工具形状にスプリングバック量を見込んだ工具形状に修正することが必要となる。この工具修正は、形状が暫定的である工具を用いて塑性加工を試行して材料のスプリングバック量を実測することによって取得し、その実測値を考慮して工具形状を修正することによって実現可能であるが、塑性加工の試行を行うことなく高い精度で予測することができれば、工具修正に必要な時間が短縮される。工具修正に必要な時間が短縮されれば、生産準備リードタイムが短縮され、生産効率が向上する。
【0003】
このような事情を背景として、材料が塑性加工の終了後に弾性回復する量であるスプリングバック量を予測する方法が既に提案されている。この従来方法の一例は、実験値取得工程と、材料特性値取得工程と、スプリングバック量予測工程とを含むように構成されている。実験値取得工程は、スプリングバック量を予測すべき材料と材質が実質的に同じ試験片を引張方向に負荷して塑性変形させた後に除荷し、さらに、逆方向すなわち圧縮方向に負荷して塑性変形させるとともに、その間にその試験片の応力−ひずみ関係について実験値を取得する工程である。材料特性値取得工程は、取得された実験値により表される応力−ひずみ関係を線形の材料硬化モデルで近似することにより、スプリングバック量を予測するのに必要な材料特性値を取得する工程である。スプリングバック量予測工程は、材料に塑性加工の直後に存在する塑性ひずみである初期ひずみを予測するとともに、その予測された初期ひずみに基づき、かつ、取得された材料特性値により特定された線形の材料硬化モデルに従ってスプリングバック量を予測する工程である。そして、このスプリングバック量予測工程においては、同じ材料の全体について同じ材料特性値が使用されることにより、スプリングバック量が予測される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題,課題解決手段および発明の効果】
同じ材料の全体について初期ひずみが一様であるということはほとんどなく、位置によって異なるのが普通である。一方、材料の初期ひずみが異なれば、その材料のバウシンガ効果も異なり、よって、その材料の除荷および逆負荷時における材料特性値、すなわち、材料に現れるバウシンガ効果を表現し得るものも異なる。また、バウシンガ効果が異なれば、スプリングバック量も異なる。
【0005】
それらにもかかわらず、上記従来方法においては、上述のように、同じ材料の全体について同じ材料特性値が使用されることにより、スプリングバック量が予測される。そのため、この従来方法では、同じ材料であっても初期ひずみが異なればそれに応じてバウシンガ効果も異なるという事実を考慮してスプリングバック量を予測することができない。よって、この従来方法には、スプリングバック量を十分には高い精度で予測することができず、特に、バウシンガ効果を考慮することが特に重要である高ひずみ領域、例えば、塑性ひずみが20%である如き領域においてスプリングバック量を精度よく予測することができないという問題があった。
【0006】
このような事情を背景として、本発明は、材料の応力−ひずみ関係を線形の材料硬化モデルで近似するにもかかわらず材料のスプリングバック量を精度よく予測することを課題としてなされたものであり、本発明によって下記各態様が得られる。各態様は、請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、本明細書に記載の技術的特徴およびそれらの組合せのいくつかの理解を容易にするためであり、本明細書に記載の技術的特徴やそれらの組合せが以下の態様に限定されると解釈されるべきではない。
【0007】
(1)材料が塑性加工の終了後に弾性回復する量であるスプリングバック量を予測する方法であって、
前記材料と材質が同じ試験片を引張方向と圧縮方向との一方向に負荷して塑性変形させた後に除荷し、さらに、逆方向に負荷して塑性変形させるとともに、その間にその試験片の応力−ひずみ関係について実験値を取得することを、試験片の除荷開始時における塑性ひずみである与ひずみを変化させて、複数回行う実験値取得工程と、
取得された実験値により表される前記応力−ひずみ関係を線形の材料硬化モデルで近似することにより、前記スプリングバック量を予測するのに必要な材料特性値を前記与ひずみに関連付けて取得する材料特性値取得工程と、
(a)前記材料が仮想的に分割された複数の要素の各々について前記除荷開始時に存在する塑性ひずみであって、前記試験片における与ひずみに相当する初期ひずみを、有限要素法により予測する工程と、(b)前記与ひずみの変化領域を複数の与ひずみ区分に分割し、かつ、前記各要素ごとに、分割された複数の与ひずみ区分のうち、その要素について予測された前記初期ひずみが属するものを選択するとともに、各要素ごとに選択された与ひずみ区分に対応する前記材料特性値と、その材料特性値に対応する初期ひずみとに基づいて前記スプリングバック量を、有限要素法により予測する工程とを有するスプリングバック量予測工程と
を含むことを特徴とするスプリングバック量予測方法
この方法においては、同じ材料の、初期ひずみが互いに異なる複数の部分の各々について互いに異なる複数の材料特性値が使用されることにより、材料のスプリングバック量が予測される。したがって、この方法によれば、同じ材料であっても初期ひずみが異なればそれに応じてバウシンガ効果も異なるという事実を考慮してスプリングバック量を予測することが可能となる。よって、この方法によれば、同じ材料の全体について同じ材料特性値が使用されてスプリングバック量が予測される場合におけるより高い精度でスプリングバック量を予測することが可能となる。その結果、この方法によれば、材料の応力−ひずみ関係を線形の材料硬化モデルで近似するにもかかわらず材料のスプリングバック量を精度よく予測することが可能となる。
また、与ひずみの変化領域が複数の区分である与ひずみ区分に分割されるとともに、各要素ごとに、分割された複数の与ひずみ区分のうち、各要素について予測された初期ひずみが属するものが選択され、その選択結果に応じて材料特性値が決定される。したがって、この方法によれば、与ひずみと材料特性値との関係が離散的なものとして取得されることとなり、上記のように連続的なものとして取得される場合に比較して、与ひずみと材料特性値との組合せの数が減少する。よって、この方法によれば、スプリングバック量の予測原理を簡単化し得、例えば、その予測を行うためにコンピュータにより実行されるプログラムの構成の簡単化およびメモリの容量の小形化を容易に図り得る。
ここに「塑性ひずみ」は、多軸応力状態における各座標軸に関する塑性ひずみを意味する場合と、多軸応力状態を一軸応力状態に変換した場合の相当塑性ひずみを意味する場合とがある。
また「線形の材料硬化モデル」は例えば、材料の応力−ひずみ関係を表すグラフを四辺形で、かつ、正負荷時の弾性域における応力−ひずみ関係を表す直線部と、正負荷時の塑性域における応力−ひずみ関係を表す直線部と、除荷時または逆負荷時の弾性域における応力−ひずみ関係を表す直線部と、逆負荷時の塑性域における応力−ひずみ関係を表す直線部とを有するように近似するものとすることができる。ここに「四辺形」は、平行四辺形としたり、一対の直線部のみが平行である四辺形としたり、二対の直線部がいずれも平行でない四辺形とすることができる。また「材料硬化モデル」には、移動硬化モデルを選んだり、複合硬化モデルを選ぶことができる。
また「材料特性値」は、正負荷時または逆負荷時の塑性域における応力−ひずみ関係を近似的に表す直線グラフの勾配である塑性硬化係数を含むように定義することができる。また、正負荷時,除荷時または逆負荷時の弾性域における応力−ひずみ関係を近似的に表す直線グラフの勾配である材料のヤング率を含むように定義することもできる。また、再降伏点が初期降伏点に対して低下する程度を規定する材料軟化係数を含むように定義することもできる。また、初期降伏点と再降伏点との少なくとも一方を含むように定義することもできる。
本項に記載のスプリングバック量予測方法は、それ全体が人間により主体的に実行される態様で実施したり、コンピュータにより主体的に実行される態様で実施することができる。特に、「材料特性値取得工程」または「スプリングバック量予測工程」は、人間の介入を必要とするものとしたり、人間の介入を実質的に必要とせずにコンピュータにより自動的に行うものとすることができる。
(2)前記スプリングバック量予測工程が、前記各要素ごとの初期ひずみを、各要素ごとに選択された材料特性値に対応する前記与ひずみと、その要素について予測された前記初期ひずみとが一致する場合には前記初期ひずみとし、一致しない場合にはその与ひずみに一致するように修正した初期ひずみとする初期ひずみ修正工程を含む(1)項に記載のスプリングバック量予測方法[請求項1]
この方法においては、与ひずみと材料特性値との関係が離散的なものとして取得されるにもかかわらず、各要素についてスプリングバック量予測のために使用される材料特性値と初期ひずみとが整合される。したがって、この方法によれば、与ひずみと材料特性値との関係を離散化することに起因してスプリングバック量の予測精度が大きく低下することを防止し得る。
(3)前記材料特性値取得工程が、取得された実験値に基づき、前記試験片の、除荷開始点から再降伏点までの弾性域における応力−ひずみ関係を近似的に表す第1直線と、その再降伏点から逆負荷終了点までの塑性域における応力−ひずみ関係を近似的に表す第2直線とが前記再降伏点において互いに連結された折れ線の幾何学的特徴を取得し、その取得された幾何学的特徴に基づき、前記スプリングバック量の予測に必要な材料特性値を取得する工程を含む(1)項または(2)項に記載のスプリングバック量予測方法[請求項2]。
応力−ひずみ関係を表すグラフのうち材料のバウシンガ効果が現れるのは、除荷開始点から再降伏点までの弾性域と、その再降伏点から逆負荷終了点までの塑性域とにおいてである。したがって、本項に記載の方法によれば、それら2つの領域における応力−ひずみ関係を近似的に表す折れ線の幾何学的特徴に基づいて材料特性値が取得されるため、バウシンガ効果ができる限り正確に表現されるように材料特性値を取得し得る。
本項に記載の第1直線部は実施例に記載の第2直線部52に対応し、本項に記載の第2直線部は実施例に記載の第4直線部54に対応する。
(4)前記材料特性値取得工程が、前記取得された実験値を表すグラフを平行四辺形で、かつ、前記試験片の、正負荷時の弾性域における応力−ひずみ関係を表す第1直線部と、除荷時または逆負荷時の弾性域における応力−ひずみ関係を表す第2直線部とが互いに平行となるとともに、試験片の、正負荷時の塑性域における応力−ひずみ関係を表す第3直線部と、逆負荷時の塑性域における応力−ひずみ関係を表す第4直線部とが互いに平行となるように近似するとともに、その平行四辺形の幾何学的特徴に基づいて前記材料特性値を取得するものである(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載のスプリングバック量予測方法。
この方法によれば、線形の材料硬化モデルとして応力−ひずみ関係を平行四辺形で近似する材料硬化モデルが使用されるため、スプリングバック量の予測原理を簡単化し得る。
(5)前記材料特性値取得工程が、前記平行四辺形を規定する4本の直線部のうちの少なくとも、前記第2直線部と第4直線部とが互いに連結する部分の幾何学的特徴に基づいて前記材料特性値を取得するものである(4)項に記載のスプリングバック量予測方法。
前記(4)項に記載の平行四辺形の4本の直線部のうち、材料のバウシンガ効果が現れるのは前記第2および第4直線部である。したがって、本項に記載の方法によれば、平行四辺形の4本の直線部のうちバウシンガ効果が現れる部分の幾何学的特徴に基づいて材料特性値が取得されるため、バウシンガ効果ができる限り正確に表現されるように材料特性値を取得し得る。
(6)材料が塑性加工の終了後に弾性回復する量であるスプリングバック量を予測する方法であって、
前記材料と材質が実質的に同じ試験片を引張方向と圧縮方向との一方向に負荷して塑性変形させた後に除荷し、さらに、逆方向に負荷して塑性変形させるとともに、その間にその試験片の応力−ひずみ関係について実験値を取得する実験値取得工程と、
取得された実験値に基づき、前記試験片の、除荷開始点から再降伏点までの弾性域における応力−ひずみ関係を近似的に表す第1直線と、その再降伏点から逆負荷終了点までの塑性域における応力−ひずみ関係を近似的に表す第2直線とが前記再降伏点において互いに連結された折れ線の幾何学的特徴を取得し、その取得された幾何学的特徴に基づき、前記スプリングバック量の予測に必要な材料特性値を取得する材料特性値取得工程と、
取得された材料特性値に基づき、前記スプリングバック量を予測するスプリングバック量予測工程と
を含むことを特徴とするスプリングバック量予測方法。
本項に記載の方法は、前記(1)ないし(5)項のいずれかに記載の特徴と共に実施することが可能である。
(7)(1)ないし(6)項のいずれかに記載のスプリングバック量予測方法を実施するためにコンピュータにより実行されるプログラムを、コンピュータにより読み取り可能に記録した記録媒体〔請求項3〕。
ここに、「記録媒体」には例えば、フレキシブルディスク,磁気テープ,磁気ディスク,磁気ドラム,磁気カード,光ディスク,光磁気ディスク,ROM,CD−ROM,ICカード,穿孔テープ等がある。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のさらに具体的な実施の形態の一つを図面に基づいて詳細に説明する。
【0009】
本発明の一実施形態はスプリングバック量予測方法であり、図1には、そのスプリングバック量予測方法を実施するのに好適なスプリングバック量予測装置(以下、単に「予測装置」という)が示されている。
【0010】
予測装置は、入力装置10とコンピュータ12と出力装置14と外部記憶装置16とを備えている。入力装置10はマウス,キーボード等を含むように構成される。コンピュータ12はCPU等、プロセッサ20と、ROM,RAM,ハードディスク等、メモリ22と、それらプロセッサ20とメモリ22とを接続するバス24とを含むように構成される。出力装置14はディスプレイ,プリンタ,プロッタ等を含むように構成される。外部記憶装置16は、CD−ROM30,書き込み可能なFD32(フレキシブルディスク)等、記録媒体が装填可能となっていて、装填状態においては、記録媒体に対するデータの読み取りおよび書き込みが必要に応じて行われる。
【0011】
本実施形態においては、上記スプリングバック量の予測に必要なプログラムがCD−ROM30に記憶され、また、その予測に必要なデータがFD32に記憶されている。スプリングバック量の予測に必要なプログラムには、材料特性値取得プログラムと、成形シミュレーションプログラムと、材料特性値決定プログラムと、バックストレス計算プログラムと、スプリングバック量予測プログラムとがある。そして、スプリングバック量の予測時には、それらCD−ROM30およびFD32から必要なプログラムおよびデータが読み出されてコンピュータ12のRAMまたはハードディスクに転送され、その後、プロセッサ20によりそのプログラムが実行される。
【0012】
図2には、本実施形態であるスプリングバック量予測方法が工程図で表されている。
【0013】
概略的に説明すれば、スプリングバック量予測方法は、鋼板である材料をプレス成形した後にその材料に生じるスプリングバック量を予測するものである。そのプレス成形は、塑性ひずみが0.15,0.20というように、比較的高い塑性ひずみが生じる部分が存在するように行われる。また、このスプリングバック量予測方法においては、プレス成形されるべき材料と材質が実質的に同じ試験片を用いることにより、その材料の応力−ひずみ関係の実験値が複数の離散値として取得され、その取得された複数の実験値に基づき、その材料のスプリングバック量を予測するのに必要な材料特性値が取得される。この材料特性値は、材料のバウシンガ効果が精度よく表現されるようにその材料の応力−ひずみ関係を定義するのに必要な情報であるということもできる。また、このスプリングバック量予測方法においては、有限要素法を用いることにより、プレス成形直後に材料に残存する応力−ひずみ関係を予測するために、材料のプレス成形をシミュレートする成形シミュレーションが行われ、その後、有限要素法を用いるとともに、取得された材料特性値と、計算されたバックストレスとを用いることにより、材料のスプリングバック量が予測される。
【0014】
さらに具体的に説明すれば、本実施形態においては、同図に示すように、まず、ステップS1において、作業者により、プレス成形されるべき材料と材質が実質的に同じ試験片が準備され、その後、試験機を用いることにより、その試験片に対して一軸応力状態において引張−圧縮試験が行われる。この試験は具体的には、試験片を引張方向に負荷して塑性変形させた後に除荷し、さらに、逆方向すなわち圧縮方向に負荷して塑性変形させるというものであり、その間にその試験片の応力−ひずみ関係の実験値が複数の離散値として取得される。それら複数の実験値は、試験片の除荷開始時における塑性ひずみである与ひずみを変化させるごとに取得される。図3には、除荷および圧縮時における応力−ひずみ関係を表すグラフが5つの与ひずみについてそれぞれ示されている。
【0015】
次に、ステップS2において、コンピュータ12により、前記材料特性値取得プログラムが実行され、それにより、上記取得された複数の実験値に基づいて材料特性値が上記与ひずみごとに決定される。材料特性値取得プログラムの内容については、後に詳述する。
【0016】
その後、ステップS3において、作業者により、前記成形シミュレーションを実行するのに必要なデータ、すなわち、数値解析用データが作成される。数値解析用データは、プレス成形すべき材料を仮想的に複数の要素に分割するためのデータと、プレス成形時に材料に付与される応力に関する条件と、複数の要素に関する境界条件とを含んでいる。
【0017】
続いて、ステップS4において、コンピュータ12により、上記成形シミュレーションプログラムが実行され、それにより、プレス成形直後に材料に残存する応力−ひずみ関係が予測される。さらに、プレス成形直後における材料の形状も予測される。この成形シミュレーションプログラムは、材料の応力−ひずみ関係を近似する材料硬化モデルとして等方硬化モデルを使用する形式である。この成形シミュレーションプログラムは、材料の各要素の番号jに関連付けて、プレス成形直後に各要素に存在する塑性ひずみである初期ひずみをメモリ22に格納する。この成形シミュレーションプログラムの一例は、LSTC社により製造され、「LS−DYNA3D」という名称で日本総合研究所により販売されたものである。
【0018】
その後、ステップS5において、コンピュータ12により、前記材料特性値決定プログラムが実行され、それにより、上記ステップS2において取得された複数の材料特性値を用いることにより、材料の各要素に対応する材料特性値が決定される。材料特性値決定プログラムの内容については、後に詳述する。
【0019】
続いて、ステップS6において、コンピュータ12により、前記バックストレス計算プログラムが実行され、それにより、材料の各要素ごとにバックストレスαが計算される。バックストレス計算プログラムの内容については、後に詳述する。
【0020】
その後、ステップS7において、コンピュータ12により、前記スプリングバック量予測プログラムが実行され、それにより、スプリングバック量が予測される。このスプリングバック量予測プログラムは、材料の各要素ごとに決定された材料特性値と、各要素ごとに計算されたバックストレスとを用いることにより、材料のスプリングバック量を予測する。このスプリングバック量予測プログラムの一例は、日本総合研究所により製造され、同研究所により「JOH−NIKE3D」という名称で販売されたものである。
【0021】
以上で、スプリングバック量予測方法の一回の実行が終了する。
【0022】
上記スプリングバック量予測プログラムは、スプリングバック量を予測すべき材料の応力−ひずみ関係を種々の方式で定義可能に設計されている。その方式の一つに、応力−ひずみ関係を、平行四辺形を用いた線形の材料硬化モデルで近似する方式がある。図4には、試験片を引張方向に負荷(正負荷)して塑性変形させた後に除荷し、引き続いて逆向きすなわち圧縮方向に負荷(逆負荷)して再度塑性変形させた場合に、塑性ひずみεP と応力σとが変化する様子が平行四辺形で示されている。
【0023】
ここで、同図における各種記号を説明すれば、「Y0 」は、材料が初めての塑性変形を開始するときの降伏応力である初期降伏応力を示している。「Y1 」は、材料が再降伏するときの応力である再降伏応力を示している。「H」は、塑性硬化係数を示している。塑性硬化係数Hは、正負荷時および逆負荷時の塑性域における応力−ひずみ関係を表す直線グラフ(後述の第3直線部54)の勾配を角度φで表した場合にtan φで表される。「β」は、再降伏応力Y1 が初期降伏応力Y0 に対して低下する程度を規定する材料軟化係数を示している。「εP 0 」は、除荷開始時における塑性ひずみεP である初期ひずみを示している。
【0024】
スプリングバック量予測プログラムは、応力−ひずみ関係を近似する材料硬化モデルとして、等方硬化モデルと移動硬化モデルと複合硬化モデルとの中から適当なものを選択できる。この選択は、上記材料軟化係数βの値を決定することによって行われる。具体的には、β=0のときには、移動硬化モデルが選択され、このとき、再降伏応力Y1 は、
1 =−Y0 +H・εP 0
なる式で定義される。また、β=1のときには、等方硬化モデルが選択され、このとき、再降伏応力Y1 は、
1 =−Y0 −H・εP 0
なる式で定義される。また、0<β<1のときには、複合硬化モデルが選択され、このとき、再降伏応力Y1 は、
1 =−Y0 +H・(1−2β)εP 0
なる式で定義される。
【0025】
同図のグラフは、プレス成形されるべき材料に関するものであるが、試験片に関しても同じグラフが描かれることになる。そして、試験片の応力−ひずみ関係を表すグラフを平行四辺形で近似する場合には、試験片の、正負荷時の弾性域における応力−ひずみ関係を表す第1直線部50と、除荷時または逆負荷時の弾性域における応力−ひずみ関係を表す第2直線部52とが互いに平行となるとともに、試験片の、正負荷時の塑性域における応力−ひずみ関係を表す第3直線部54と、逆負荷時の塑性域における応力−ひずみ関係を表す第4直線部56とが互いに平行となるように応力−ひずみ関係が近似される。一方、応力−ひずみ関係を表すグラフのうちバウシンガ効果が現れるのは、除荷開始点PS から再降伏点PY までの弾性域と、その再降伏点PY から逆負荷終了点までの塑性域とにおいてである。したがって、本実施形態においては、それら2つの領域における応力−ひずみ関係を近似的に表す折れ線、すなわち、第2直線部52と第4直線部56とが互いに連結されたものの幾何学的特徴が取得されるとともに、その取得された幾何学的特徴に基づき、直接的には試験片、間接的には材料につき、初期降伏応力Y0 と、再降伏応力Y1 と、塑性硬化係数Hと、材料軟化係数βとが取得される。
【0026】
具体的には、再降伏応力Y1 は、上記折れ線の折れ点における応力σとして取得される。塑性硬化係数Hは、第3直線部54が第4直線部56と平行であることを利用することにより、第4直線部の勾配を角度φで取得してそれのtan φを算出することによって取得される。材料軟化係数βは、初期降伏応力Y0 と、再降伏応力Y1 と、塑性硬化係数Hと、与ひずみεP g とを前述の式に類似した、
1 =−Y0 +H・(1−2β)εP g
なる式に代入してβについて解くことにより取得される。なお、初期降伏応力Y0 は、正負荷時における実験値に基づいて取得される。
【0027】
このスプリングバック量予測プログラムは、それら初期降伏応力Y0 ,再降伏応力Y1 ,塑性硬化係数Hおよび材料軟化係数βの他に、材料のヤング率Eを利用することにより、スプリングバック量を予測するように設計されている。すなわち、このスプリングバック量予測プログラムにおいては、それら初期降伏応力Y0 ,再降伏応力Y1 ,塑性硬化係数H,材料軟化係数βおよびヤング率Eがそれぞれ「材料特性値」を構成しているのである。
【0028】
ところで、図4のグラフの横軸に取られているのは、弾性ひずみと塑性ひずみとの和である合計ひずみεではなく、塑性ひずみεP である。したがって、同図のグラフは、例えば、正負荷時の弾性域において、応力σを表す軸に平行に延びている。これに対して、図5のグラフの横軸に取られているのは、合計ひずみεである。したがって、同図のグラフは、例えば、正負荷時の弾性域において、応力σを表す軸に対して傾斜している。よって、それら2つのグラフにおいて、第1ないし第4直線部50,52,54,56の対応関係はそれら2つの図に示すものとなる。
【0029】
したがって、図5における第1直線部50の勾配を角度γで表した場合にtan γとして求めた値は、材料のヤング率Eを表すことになる。一方、第1直線部50と第2直線部52とが互いに平行であると仮定されている。したがって、本実施形態においては、第2直線部52の勾配からヤング率Eが取得される。
【0030】
応力−ひずみ関係は、材料の初期ひずみεP 0 (試験片の与ひずみεP g に相当する)によって変化する。応力−ひずみ関係を近似的に表す平行四辺形の幾何学的特徴が初期ひずみεP 0 によって変化するのであり、よって、上記材料特性値も初期ひずみεP 0 によって変化する。したがって、本実施形態においては、前述のように、試験片の与ひずみεP g を変化させるごとに引張−圧縮試験が繰り返される。
【0031】
図6には、本実施形態で使用される線形の材料硬化モデルが実線グラフで示され、前記従来方法で使用される線形の材料硬化モデルが一点鎖線グラフで示され、等方硬化モデルが二点鎖線グラフで示され、実際の応力−ひずみ関係が破線グラフで示されている。その実際の応力−ひずみ関係は、正負荷時の弾性域および塑性域においては等方硬化モデルで表される関係(二点鎖線)と一致し、逆負荷時の弾性域および初期の塑性域においては本実施形態の材料硬化モデルで表される関係(実線)と一致する。本実施形態で使用される材料硬化モデルは、線形である点で、前記従来方法と共通するが、与ひずみεP g に応じて形状が変化するように定義される点では、与ひずみεP g とは無関係に形状が維持される前記従来方法とは相違する。なお、本実施形態で使用される線形の移動硬化モデルを表す平行四辺形は、同図においては、それの2つの鋭角を含む一対の部分が省略されている。
【0032】
前記従来方法においては、前述のように、初期ひずみεP 0 が材料の全体に一様に分布しないにもかかわらず、一つの材料硬化モデルが使用される。したがって、この従来方法を採用する場合には、材料の複数の要素の中に、バウシンガ効果を精度よく表現していない材料特性値が使用される要素が生じてしまう。また、等方硬化モデルでは、材料のバウシンガ効果すら表現することができない。これに対して、本実施形態においては、材料硬化モデルとして、バウシンガ効果を表現し得る移動硬化モデルまたは複合硬化モデルを使用することができるとともに、材料の各要素について予想される初期ひずみεP 0 に応じて形状が異なる材料硬化モデルが使用される。ただし、各要素について予想される初期ひずみεP 0 が異なっても、材料硬化モデルが平行四辺形で表現されることは維持される。
【0033】
したがって、同図に示すように、本実施形態で使用される線形の材料硬化モデルは、実際の応力−ひずみ関係を表すグラフと全体において一致するわけではないが、バウシンガ効果が現れる領域、すなわち、除荷後に弾性変形する領域と塑性変形する領域とについては、十分に高い精度で一致する。
【0034】
このような理由から、本実施形態においては、材料の応力−ひずみ関係が、平行四辺形を用いた線形の材料硬化モデルで近似させられているのであり、よって、本実施形態によれば、低ひずみ領域のみならず高ひずみ領域においてもバウシンガ効果を精度よくシミュレート可能となり、ひいては、スプリングバック量を精度よく予測可能となる。
【0035】
同図に示すように、前記折れ線は、除荷および逆負荷時における実際の応力−ひずみ関係を表すグラフにできる限り一致するように取得される。具体的には、そのグラフ上に、同一直線上に位置せず、かつ、相互に一定距離以上離れた3点を暫定的に設定することを、そのグラフのうち折れ線として抽出される可能性のある部分の一方の端点から他方の端点に向かって順次行い、それら暫定的な3点により構成される暫定的な折れ線の角度が極大となったときに、それら3点を最終的な3点に決定するとともに、それら最終的な3点により構成される折れ線を最終的な折れ線に決定する。それら3点は、除荷開始点に最も近い第1実測点60と、次に近い第2実測点62と、最も遠い第3実測点64とから構成される。それら3つの実測点60,62,64における各応力−ひずみ関係は、実際の応力−ひずみ関係を表すグラフ上に位置することから、実測値と一致する。なお、同図に示す例においては、折れ線を構成する2本の直線部のうち、除荷開始点(図示しない)に近い方は、前記平行四辺形の第2直線部52と完全にではなく部分的に一致し、また、他方の直線は、平行四辺形の第4直線部56と完全にではなく部分的に一致している。
【0036】
ここで、前記材料特性値取得プログラムの内容を詳述する。
【0037】
図7には、この材料特性値取得プログラムがフローチャートで表されている。まず、ステップS101(以下、単に「S101」で表す。他のステップについても同じとする)において、実験値を表すデータがFD32からコンピュータ12のメモリ22に取り込まれる。次に、S102において、与ひずみεP g に順に付与すべき番号iが1に設定される。その後、S103において、今回の与ひずみεP g(i)に関連する応力−ひずみ関係を表すデータがメモリ22から取り込まれる。
【0038】
続いて、S104において、その取り込まれたデータに基づき、今回の与ひずみεP g(i)に関連する応力−ひずみ関係を表すグラフが想定されるとともに、そのグラフが折れ線で近似させられる。それにより、平行四辺形上の前記3つの実測点60,62,64が前述のようにして抽出される。その後、S105において、第2実測点62と第3実測点64とを結ぶ第2直線52の勾配を角度φで算出することにより、今回の与ひずみεP g(i)に対応する塑性硬化係数H(i) (=tan φ)が算出される。
【0039】
続いて、S106において、前述の、
1 =−Y0 +H・(1−2β)εP g ・・・(1)
なる式(1) を用いることにより、今回の与ひずみεP g(i)に対応する材料軟化係数β(i) が算出される。本実施形態においては、材料軟化係数βが0<β<1の範囲内となること、すなわち、材料硬化モデルが複合硬化モデルとなることを前提に算出される。以下、その算出方法を具体的に説明する。
【0040】
上記式(1) を用いて材料軟化係数βを算出する際、
0<β<1 ・・・(2)
という第1条件と、すべての与ひずみεP g について、
0 >0 ・・・(3)
が成立するという第2条件とが制約条件として採用される。また、上記式(1) における「Y1 」と「H」は、実験値により取得されたものを採用することにする。
【0041】
なお、再降伏応力Y1 については、種々の実験により、与ひずみεP g に関して単調増加を示すことが確認されており、与ひずみεP g =0のときには、
1 =−Y0
という関係が成立し、また、すべての与ひずみεP g について、
1 >−Y0
という関係が成立する。
【0042】
上記式(2) の第1条件を考慮し、かつ、上記式(1) を用いると、
−1<(Y0 +Y1 )/(H・εP g(i))<1 ・・・(4)
が得られる。この式(4) は、
−Y1 −H・εP g(i)<Y0 <−Y1 +H・εP g(i) ・・・(5)
に変形できる。この式(5) を用い、かつ、上記式(3) の第2条件を考慮すると、
0<−Y1 −H・εP g(i) ・・・(6)
が得られ、この式(6) から、
εP g(i)>−Y1 /H ・・・(7)
が得られる。
【0043】
また、上記式(3) の第2条件を考慮し、かつ、上記式(1) を「β」について解くと、
1/2[1−{Y1 /(H・εP g(i))}]>β ・・・(8)
が得られる。
【0044】
そして、本実施形態においては、上記式(7) の条件が成立するか否かを判定し、成立しない場合には、成立するように今回の与ひずみεP g(i)が修正される。この修正は例えば、今回の与ひずみεP g(i)を、
1.01×(−Y1 /H)
として計算したり、実験値のうち上記(7) 式の条件を満たすもののうち最も小さいものを選択することによって行われる。
【0045】
上記式(7) の条件が成立したならば、必要に応じて修正された今回の与ひずみεP g(i)と、実験値により取得された初期降伏応力Y0 ,再降伏応力Y1 および塑性硬化係数H(i) とを上記式(1) に代入することにより、今回の材料軟化係数β(i) を算出する。さらに、その算出された材料軟化係数β(i) が、0<β<1の範囲内にあるか否かを判定し、あればその算出された材料軟化係数β(i) が最終値とされるが、なければ、0<β<1の条件が成立するように材料軟化係数β(i) が修正され、さらに、それに合わせて初期降伏応力Y0 も修正される。
【0046】
材料軟化係数β(i) および初期降伏応力Y0 の修正は例えば、もとの材料軟化係数β(i) が0以下である場合には、材料軟化係数β(i) を0より大きい設定値、例えば、0.1に変更するとともに、材料軟化係数β(i) が0.1である場合の初期降伏応力Y0 を上記式(1) を用いて計算する。その計算された初期降伏応力Y0 が上記式(3) の条件を満たす場合には、最新の材料軟化係数βの(i) 値および初期降伏応力Y0 がそれぞれそのまま最終値として採用される。これに対して、変更された材料軟化係数β(i) の下での初期降伏応力Y0 が上記式(3) の条件を満たさない場合には、材料軟化係数β(i) が例えば0.1増加させられ、同様にして、新たな初期降伏応力Y0 が計算される。このような処理は、材料軟化係数βが1を超えない範囲内で繰り返され、その結果、材料軟化係数β(i) が、上記式(1) ないし式(3) を、実験値に基づく再降伏応力Y1 および塑性硬化係数H(i) の下に満たすものとして修正されることになる。
【0047】
以上、もとの材料軟化係数β(i) が0以下である場合の修正方法を説明したが、1以上である場合には、同様な方法で修正が行われる。
【0048】
図8には、S106の詳細が材料軟化係数算出ルーチンとしてフローチャートで表されている。
【0049】
まず、S251において、前記抽出された第2実測点62を用いることにより、再降伏応力Y1 が決定される。次に、S252において、その決定された再降伏応力Y1 と、前記算出された塑性硬化係数H(i) と、今回の与ひずみεP g(i)とが前記式(7) の条件、すなわち、
εP g(i)>−Y1 /H
を満たすか否かが判定される。今回は、満たすと仮定すれば、判定がYESとなり、S253において、上記決定された再降伏応力Y1 と、前記算出された塑性硬化係数H(i) と、実験値により取得された初期降伏応力Y0 とを前記式(1) に代入することにより、今回の材料軟化係数β(i) が算出される。その後、S254に移行する。
【0050】
これに対して、今回は、前記式(7) の条件を満たさないと仮定すれば、S252の判定がNOとなり、S255において、今回の与ひずみεP g(i)が、前述のようにして、前記式(7) の条件を満たすように修正される。
【0051】
その後、S253において、修正された与ひずみεP g(i)の下で前記式(1) を用いることにより今回の材料軟化係数β(i) が算出される。続いて、S254に移行する。
【0052】
いずれの場合にも、その後、S254において、その算出された材料軟化係数β(i) が、前記式(2) の条件、すなわち、
0<β<1
を満たすか否かが判定される。今回は、満たすと仮定すれば、判定がYESとなり、上記算出された材料軟化係数β(i) と、実験値に基づく初期降伏応力Y0 とがそのまま最終値として採用される。以上で本ルーチンの一回の実行が終了する。
【0053】
これに対して、今回は、満たさないと仮定すれば、判定がNOとなり、S256において、今回の材料軟化係数β(i) が前述のようにして修正される。その後、S257において、修正された材料軟化係数β(i) の下に、前記式(1) を用いることにより、初期降伏応力Y0 が算出される。続いて、S258において、その算出された初期降伏応力Y0 が0より大きいか否かが判定される。今回は、0より大きいと仮定すれば、判定がYESとなり、その修正された材料軟化係数β(i) と、その算出された初期降伏応力Y0 とがそれぞれ最終値として採用される。以上で、本ルーチンの一回の実行が終了する。また、今回は、その算出された初期降伏応力Y0 が0以下であると仮定すれば、S258の判定がNOとなり、S256に戻る。このS256においては、材料軟化係数β(i) が再度、前述のようにして修正され、その後、S257において、再度修正された材料軟化係数β(i) の下に新たな初期降伏応力Y0 が算出される。続いて、S258において、前記の場合と同様にして、その算出された初期降伏応力Y0 が0より大きいか否かが判定される。S256ないしS258の実行が何回か繰り返された結果、S258の判定がYESとなれば、最終的に修正された材料軟化係数β(i) と初期降伏応力Y0 とがそれぞれ最終値として採用される。以上で本ルーチンの一回の実行が終了する。
【0054】
以上のようにしてS106の実行が終了すれば、その後、S107において、第1実測点60と第2実測点62とをつなぐ第2直線52の勾配が角度γで算出され、さらに、tan γとして、今回の与ひずみεP g(i)に対応するヤング率E(i) が算出される。
【0055】
続いて、S108において、番号iが最大値iMAX 以上であるか否かが判定される。複数の実験値のすべてが材料特性値を決定するために利用されたか否かが判定されるのである。今回は、番号iが最大値iMAX 以上ではないと仮定すれば、判定がNOとなり、S109において、番号iが1増加させられ、その後、S103に移行する。以下、S103ないしS108が、新たな与ひずみεP g(i)に関連して実行されることになる。
【0056】
S103ないしS109の実行が何回か繰り返された結果、S108の判定がYESとなれば、S110において、与ひずみεP g の変化領域が、設定された最小値と最大値との間において、一定間隔で複数の区分に分割される。このとき、各区分に対応する与ひずみεP g に対応する材料特性値が存在しない場合には、材料特性値が存在しない与ひずみεP g に近接する複数の与ひずみεP g であって材料特性値が存在するものを内挿することにより、必要な材料特性値を生成する。その結果、与ひずみεP g と材料特性値との関係が、図9に表形式で表されるように、与ひずみεP g の複数の代表値について離散的に取得されることになる。
【0057】
以上でこの材料特性値取得プログラムの一回の実行が終了する。
【0058】
次に、前記材料特性値決定プログラムの内容を詳述する。
【0059】
図10には、この材料特性値決定プログラムがフローチャートで示されている。まず、S201において、材料が仮想的に分割された複数の要素に順に付与された番号jが1に設定される。次に、S202において、メモリ22から、今回の要素jに対応する初期ひずみεP 0 (j) が読み出される。その後、S203において、その今回の初期ひずみεP 0 (j) が、前記複数のひずみ区分のいずれに属するかが判定され、さらに、その属すると判定されたひずみ区分に対応する材料特性値と、今回の要素の番号jとを互いに関連付けるデータがメモリ22に格納される。したがって、前記スプリングバック量予測プログラムは、そのデータを参照することにより、各要素ごとに選択された材料特性値を用いることにより、材料のスプリングバック量を予測することができる。
【0060】
続いて、S204において、今回の初期ひずみεP 0 (j) に対して必要な修正が行われる。具体的には、上記S203において選択された材料特性値に厳密に対応する与ひずみεP g が厳密に今回の初期ひずみεP 0 (j) に一致するとは限らないという事情を考慮し、一致しない場合には、一致するように今回の初期ひずみεP 0 (j) が修正される。さらに、今回の要素の番号jと、修正された初期ひずみεP 0 (j) とを互いに関連付けるデータがメモリ22に格納される。したがって、前記スプリングバック量予測プログラムは、そのデータを参照することにより、各要素ごとに修正された材料特性値を用いることにより、材料のスプリングバック量を予測することができる。
【0061】
その後、S205において、番号jが最大値jMAX 以上であるか否か、すなわち、材料の複数の要素についてすべて材料特性値が選択されたか否かが判定される。今回は、番号jが最大値jMAX 以上ではないと仮定すれば、判定がNOとなり、S206において、番号jが1増加させられ、その後、S202に移行する。以下、S202ないしS206が、新たな要素について実行される。
【0062】
S202ないしS206の実行が何回か繰り返された結果、S205の判定がYESとなれば、この材料特性値決定プログラムの一回の実行が終了する。
【0063】
次に、前記バックストレス計算プログラムの内容を詳述する。
【0064】
図11には、このバックストレス計算プログラムがフローチャートで示されている。まず、S301において、材料の前記複数の要素に順に付与された番号kが1に設定される。次に、S302において、メモリ22から、今回の要素kに対応する初期応力−ひずみ関係が読み出される。この初期応力−ひずみ関係は、材料の今回の要素kにプレス成形直後に残存する応力とひずみとの関係を意味しており、前記成形シミュレーションプログラムによりシミュレートされたものである。なお、材料を仮想的に複数の要素に分割する仕方は、バックストレスの計算と前記材料特性値の決定とで異ならないが、説明の便宜上、材料特性値の決定においては各要素の番号がjで表されているに対して、バックストレスαの計算においてはkで表されている。
【0065】
その後、S303において、その読み出された初期応力−ひずみ関係に基づき、今回の要素kのバックストレスαが計算される。さらに、その計算されたバックストレスαと今回の要素の番号kとを互いに関連付けるデータがメモリ22に格納される。したがって、前記スプリングバック量予測プログラムは、そのデータを参照することにより、前記材料特性値のみならず、各要素ごとに計算されたバックストレスαをも用いることにより、材料のスプリングバック量を予測することができる。
【0066】
ここで、バックストレスαの計算手法を説明する。
【0067】
プレス成形シミュレーションにおいては、プレス成形されるべき材料が仮想的に複数のシェル要素に分割されるとともに、各シェル要素について平面応力状態が仮定される。したがって、各シェル要素においては、
σzz=τyz=τxz=0 ・・・(11)
となる。ここに「σ」は垂直応力を意味し、「τ」はせん断応力を意味している。
【0068】
このように仮定された各シェル要素においては、偏差応力ベクトル(σ’xx,σ’yy,σ’xy)の方向と、求めるべきバックストレスαの偏差成分(α’xx,α’yy,α’xy)の方向とが同じであると仮定すると、
(α’xx,α’yy,α’xy)=A・(σ’xx,σ’yy,σ’xy)・・・(12)
なる式が成立する。ここに「A」は定数を意味する。
【0069】
一方、偏差応力ベクトルσ’ijについては、
σ’ij=σij−δijσm ・・・(13)
なる式が成立する。ここに「σij」は応力(垂直応力のみならずせん断応力も含む)、「δij」はクロネッカーのデルタ、「σm 」は静水圧下における応力σijをそれぞれ意味する。応力σm は、
σm =(σxx+σyy)/3 ・・・(14)
なる式により求めることができる。
【0070】
さらに、バックストレスαに関しては、
(3/2)(α’xx 2 +α’yy 2 +2α’xy 2 )=(1−β)2 ・H2 ・εP2・・・(15)
なる式が成立する。したがって、上記定数Aが、
2 ={(1−β)2 ・H2 ・εP2}/(σxx 2 −σxxσyy+σyy 2 +3σxy 2 ) ・・・(16)
なる式により求められる。
【0071】
一方、上記式(12)により、
α’xx=Aσ’xx
α’yy=Aσ’yy ・・・(17)
α’xy=Aσ’xy
なる3式で表される関係が成立する。さらに、バックストレスαの偏差成分α’については、偏差応力ベクトルσ’と同様に、
α’ij=αij−δijαm ・・・(18)
なる式が成立する。ここに「αij」はバックストレス、「δij」はクロネッカーのデルタ、「αm 」は静水圧下におけるバックストレスαijをそれぞれ意味する。応力αm は、
αm =(αxx+αyy)/3 ・・・(19)
なる式により求めることができる。
【0072】
したがって、それら式(16)ないし式(19)を用いることにより、バックストレスαが計算される。図12には、求めるべきバックストレスαの相当値が応力σの相当値との関係においてグラフで示されている。
【0073】
以上のようにしてバックストレスαが計算された後、S304において、番号kが最大値kMAX 以上であるか否か、すなわち、材料の複数の要素についてすべてバックストレスαが計算されたか否かが判定される。今回は、番号kが最大値kMAX 以上ではないと仮定すれば、判定がNOとなり、S305において、番号kが1増加させられ、その後、S302に移行する。以下、S302ないしS305が、新たな要素について実行される。
【0074】
S302ないしS305の実行が何回か繰り返された結果、S304の判定がYESとなれば、このバックストレス計算プログラムの一回の実行が終了する。
【0075】
図13には、本実施形態による予測値と、前記従来方法による予測値と、実験値との関係が示されている。それら2種類の予測値および実験値は、平らな薄板を絞り加工により、図14に断面図で示すように、ハット状に成形する条件下で取得された。また、それら予測値および実験値は、ハット状を成す材料の底部の肩部の内側角θ1 と、フランジ部の肩部の外側角θ2 と、側壁部の縦断面形状の曲率半径ρとについて取得された。実験は、その条件下で複数回行われ、よって、図13には実験値として、複数回の実験により取得された複数の実験値の平均値である実験平均と、複数の実験値の上限値および下限値と、複数の実験値の標準偏差とが示されている。
【0076】
同図の比較結果から明らかなように、本実施形態による予測値は実験結果に十分に一致するの対して、従来方法による予測値は十分には一致しない。
【0077】
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、図2のステップS1が「実験値取得工程」を構成し、ステップS2が「材料特性値取得工程」を構成し、ステップS3ないしS7が互いに共同して「スプリングバック量予測工程」を構成しているのである。
【0078】
なお付言すれば、本実施形態においては、スプリングバック量を予測するために材料を近似する材料硬化モデルとして線形のものが用いられており、その線形の材料硬化モデルは、非線形の材料硬化モデルであって一般に関数式により定義されるものと比べて、実験値により容易に定義可能である。線形の材料硬化モデルは、比較的少数の実験値に対して複雑な計算を行うことなく定義可能であるのに対して、非線形の材料硬化モデルは、比較的多数の実験値に対して複雑な計算を行うことによって定義可能なのである。したがって、本実施形態によれば、材料硬化モデルを定義するために実験値に対して複雑な計算を行うことが不可欠ではなくなり、比較的簡単にスプリングバック量を予測し得る。
【0079】
以上、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明したが、これは例示であり、前記〔発明が解決しようとする課題,課題解決手段および発明の効果〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変形,改良を施した形態で本発明を実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態であるスプリングバック量予測方法を実施するのに好適なスプリングバック量予測装置を示す系統図である。
【図2】上記スプリングバック量予測方法を示す工程図である。
【図3】上記スプリングバック量予測方法において応力−ひずみ関係の実験値が与ひずみごとに取得される様子を説明するためのグラフである。
【図4】図2のスプリングバック量予測に使用される材料硬化モデルおよびそのスプリングバック量予測に必要な材料特性値を説明するためのグラフである。
【図5】上記スプリングバック量予測に必要な材料特性値を説明するための別のグラフである。
【図6】上記スプリングバック量予測に使用される材料硬化モデルを、従来の材料硬化モデル,等方硬化モデルおよび実際の応力−ひずみ関係と対比しつつ説明するためのグラフである。
【図7】図2の材料特性値取得を行うためにコンピュータにより実行される材料特性値取得プログラムを示すフローチャートである。
【図8】図7のS106の詳細を材料軟化係数算出ルーチンとして示すフローチャートである。
【図9】図7の材料特性値取得プログラムにより、与ひずみと材料特性値との関係が離散的に取得される様子を表形式で示す図である。
【図10】図2の材料特性値決定を行うためにコンピュータにより実行される材料特性値決定プログラムを示すフローチャートである。
【図11】図2のバックストレス計算を行うためにコンピュータにより実行されるバックストレス計算プログラムを示すフローチャートである。
【図12】図11のバックストレス計算プログラムの内容を説明するためのグラフである。
【図13】材料をある条件で成形した場合にその成形後にその材料に生じるスプリングバック量を、上記実施形態により予測した値と、上記従来の材料硬化モデルを用いて予測した値と、実験値とについて示すグラフである。
【図14】図13において材料が成形される条件を説明するとともに、成形後にその材料において上記予測値および実験値が取得される部位を説明するための断面図である。
【符号の説明】
12 コンピュータ
16 外部記憶装置
30 CD−ROM
32 FD
50 第1直線部
52 第2直線部
54 第3直線部
56 第4直線部
60 第1実測点
62 第2実測点
64 第3実測点

Claims (3)

  1. 材料が塑性加工の終了後に弾性回復する量であるスプリングバック量を予測する方法であって、
    前記材料と材質が同じ試験片を引張方向と圧縮方向との一方向に負荷して塑性変形させた後に除荷し、さらに、逆方向に負荷して塑性変形させるとともに、その間にその試験片の応力−ひずみ関係について実験値を取得することを、試験片の除荷開始時における塑性ひずみである与ひずみを変化させて、複数回行う実験値取得工程と、
    取得された実験値により表される前記応力−ひずみ関係を線形の材料硬化モデルで近似することにより、前記スプリングバック量を予測するのに必要な材料特性値を前記与ひずみに関連付けて取得する材料特性値取得工程と、
    (a)前記材料が仮想的に分割された複数の要素の各々について前記除荷開始時に存在する塑性ひずみであって、前記試験片における与ひずみに相当する初期ひずみを、有限要素法により予測する工程と、(b)(i)前記与ひずみの変化領域を複数の与ひずみ区分に分割し、かつ、前記各要素ごとに、分割された複数の与ひずみ区分のうち、その要素について予測された前記初期ひずみが属するものを選択するとともに、各要素ごとに選択された与ひずみ区分に対応する前記材料特性値と、(ii)その材料特性値に対応する初期ひずみであって、前記各要素ごとに選択された材料特性値に対応する前記与ひずみとその要素について予測された前記初期ひずみとが一致する場合には前記初期ひずみ、一致しない場合にはその与ひずみに一致するように修正した初期ひずみとに基づいて、前記スプリングバック量を有限要素法により予測する工程とを有するスプリングバック量予測工程と
    を含むことを特徴とするスプリングバック量予測方法。
  2. 前記材料特性値取得工程が、取得された実験値に基づき、前記試験片の、除荷開始点から再降伏点までの弾性域における応力−ひずみ関係を近似的に表す第1直線と、その再降伏点から逆負荷終了点までの塑性域における応力−ひずみ関係を近似的に表す第2直線とが前記再降伏点において互いに連結された折れ線の幾何学的特徴を取得し、その取得された幾何学的特徴に基づき、前記スプリングバック量の予測に必要な材料特性値を取得する工程を含む請求項に記載のスプリングバック量予測方法。
  3. 請求項1または2に記載のスプリングバック量予測方法を実施するためにコンピュータにより実行されるプログラムをコンピュータにより読み取り可能に記録した記録媒体。
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