本発明は、上記従来例に鑑みてなされたもので、優れた再現性および定量性を発揮し、経済的に核酸を検出可能な電極を提供することを目的とする。
また、本発明は、核酸の検出に際し、優れた再現性および定量性を発揮するとともに、検出に要する時間の短縮と操作性の向上が図られた、検出時の経済性にも優れる検出装置を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、核酸の検出に際し、優れた再現性および定量性を発揮するとともに、検出感度の高感度化が達成され、検出に要する時間の短縮と操作性の向上が図られた、検出時の経済性にも優れる検出装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、核酸の検出に際し、優れた再現性および定量性を発揮するとともに、検出感度の高感度化が達成され、検出に要する時間の短縮と操作性の向上が図られた、検出時の経済性にも優れるセンサを提供することを目的とする。
本願第1の発明に係る電極は、基板と、前記基板上に配置した導電体と、前記導電体の表面を、外部に対する接続領域を確保しつつ被覆した絶縁体と、前記導電体を露出するよう前記絶縁体に設けた開口部と、前記開口部より露出した前記導電体に固定化した核酸とを具備したことを特徴としている。
本願第1の発明における電極によれば、基板上に配置した導電体を被覆した絶縁体の一部に、導電体が露出するように開口部を設け、該開口部より露出した導電体に核酸を固定化したことにより、表面積が制御された導電体上へ核酸を固定化することができるので、固定化する核酸の量を制御することが可能となる。また、基板上に導電体を配置したことにより、導電体の特性を制御することができるので、導電体上に固定化する核酸の量を制御することが可能となる。
本願第1の発明に係る電極において、基板の材質はとくに限定されるものではなく、無機絶縁材料および有機材料等を用いることができる。無機絶縁材料としては、ガラス、石英ガラス、アルミナ、サファイア、フォルステライト、炭化ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素およびその他の金属酸化物等を挙げることができる。また、有機材料としては、ポリエチレン、エチレン、ポリプロビレン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、不飽和ポリエステル、含フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、スチレン・アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル・ブタジエンスチレン共重合体、シリコーン樹脂、ポリフェニレンオキサイドおよびポリスルホン等を挙げることができる。
また、基板上に配置する導電体の材質としては、金が好ましいが、その他の材質も使用可能である。例えば、金の合金、銀、プラチナ、水銀、ニッケル、パラジウム、シリコン、ゲルマニウム、ガリウムおよびタングステン等の金属単体またはそれらの合金、グラファイト、グラシーカーボン等の炭素やこれらの酸化物もしくは化合物を挙げることができる。
さらに、基板上への導電体の配置は、蒸着、スパッタ、メッキおよび印刷等の方法により行うことができる。蒸着法としては、抵抗加熱法、高周波加熱法および電子ビーム加熱法等を挙げることができる。また、スパッタとしては、直流二極スパッタリング、バイアススパッタリング、非対称交流スパッタリング、ゲッタスパッタリングおよび高周波スパッタリング等を挙げることができる。
また、基板上へ配置する導電体においては、結晶構造の(111)面の配向指数を大きくすることがより好ましく、これにより導電体上に固定化される核酸の量を制御することが可能となる。なお、配向指数は、ウィルソンの方法により、以下の式から求められる。
配向指数(h k l)=IF(hkl)/IFR(hkl)
ここで、hklは面指数、IF(hkl)は(h k l)面の相対強度、ΙFR(hkl)はASTMカードに記載されている標準金としてのIF(hkl)である。
本願第1の発明に係る電極においては、上記配向指数が1以上3以下であることが好ましく、2以上3以下であることがより好ましい。導電体の配向指数を高くするためには、例えば、導電体を蒸着またはスパッタリングで基板上に配置する場合、基板を加熱しておくことが有効である。加熱温度は特に限定されるものではないが、50℃以上500℃以下であることが好ましい。
また、基板上に導電体を配置する際、該基板と該導電体との間に、該導電体に用いた材質とは異なった材質からなる接着層を介在させ、導電体が接着層になじむように構成すると、導電体の安定性を向上させることが可能となる。接着層の材質としては、チタン、クロム、銅、ニッケルの単体、これら単体の合金およびこれら単体もしくは合金を組み合わせたものを挙げることができる。この場合にも、導電体を蒸着またはスパッタリングで接着層上に配置する際、接着層を加熱しておくことが有効である。
さらに、絶縁体の材質としては、好ましくは樹脂、より好ましくはフォトポリマーおよびフォトレジストを挙げることができる。フォトレジストとしては、光露光用フォトレジスト、遠紫外用フォトレジスト、X線用フォトレジストおよび電子線用フォトレジストを挙げることができる。光露光用フォトレジストとしては、環化ゴム、ポリけい皮酸およびノボラック樹脂等を主原料とするものを挙げることができる。遠紫外用フォトレジストとしては、環化ゴム、フェノール樹脂、ポリメチルイソプロペニルケトン(PMIPK)およびポリメチルメタクリレート(PMMA)等を主原料とするものを挙げることができる。また、X線用レジストとしては、COPおよびメタルアクリレートを主原料とするものの他、薄膜ハンドブック(オーム社)に記載された、当該技術分野で知られているものを挙げることができる。さらに、電子線用レジストとしては、PMMAをはじめとする、上記ハンドブックに記載されたものを挙げることができる。なお、絶縁体の膜厚は絶縁性確保のために100オングストローム以上が好ましく、また、核酸の固定化のために1mm以下であることが好ましい。
さらに、導電体を露出するよう絶縁体に設けられた開口部は、導電体を絶縁体で被覆した後に、当該技術分野で知られているリソグラフィーを用いて形成できる。したがって、開口部の大きさ、換言すれば絶縁体より露出した導電体の表面積を制御することが可能となり、固定化された核酸の量を制御することができる。なお、絶縁体より露出した導電体の表面の形状は、曲率変化が連続する形状、例えば、円、楕円あるいは正六角形以上の多角形であることが望ましい。
リソグラフィーを行うに際し、絶縁体の好ましい態様の一つは上述したレジストである。従来、レジストは最終的に除去するのが一般的であるが、本願第1の発明である電極の場合には、絶縁体として電極の一部に用いることが可能であり、上述した耐水性の高い材質でなければならない。また、レジストの他、ケイ素、チタン、アルミニウム、亜鉛、鉛、カドミウム、タングステン、モリブデン、クロム、タンタル、ニッケル等の酸化物、窒化物および炭化物、またはその他の合金を用いて、スパッタ、蒸着またはCVD等の方法により薄膜を形成した後に、フォトリソグラフィー等のリソグラフィーを行うことで開口部のパターニングを行って、開口部の大きさ、換言すれば絶縁体より露出した導電体の表面積を制御することができる。
また、開口部に絶縁体より露出した導電体に対して核酸を固定化する場合には、導電体の表面を活性化する処理を行うことが望ましい。この処理は、絶縁体の表面に存在する異物を除去し、絶縁体の表面を完全に暴露することにより、絶縁体の表面における自由エネルギーを増加させ、核酸の固定化を確実にする目的で行われる。具体的には、はじめに、導電体を脱イオン水で洗浄する。洗浄後、0.1〜10Mの硫酸溶液中で−0.5〜2V(vs Ag/AgCl)の範囲で、1〜100000v/sの範囲で電位を走査させる。なお、活性化は、硫酸の溶液だけでなく、混酸、王水、過塩素酸等を使用して行ってもよい。こうして表面が活性化された導電体に核酸を固定化するが、固定化に際し、核酸の5´または3´末端にチオール基を導入しておく。チオール化された核酸は、主としてチオール基の酸化を防ぐ観点から、DTT等の還元剤の存在する溶液中に保存される。DTT等の還元剤は、核酸の固定化の直前にゲルろ過又は酢酸エチルによる抽出操作等により除去される。チオール基を導入した核酸を、表面が活性化された導電体に固定化するには、イオン強度が0.01〜5、pHが5〜10の範囲内に調整された緩衝液中に核酸を溶解し、この緩衝液に活性化した直後の電極を浸漬することにより行う。導電体への核酸の固定化は、緩衝液の温度を4〜100℃の範囲とし、10分から1晩放置して行う。チオール基は、金等の導電体の表面に吸着され、強い相互作用で固定化されるので、チオール基を導入した核酸は導電体の表面に強固に固定化されることとなる。導電体に固定化される核酸の量は、上述した緩衝液に溶解させる核酸の量を調整することにより制御されるが、一般的には、緩衝液中の核酸の最終濃度が1ng/ml〜1mg/mlとなるように調整される。この条件のもとでは、核酸は導電体の表面に109 copy/cm2〜1014copy/cm2 程度固定化される。核酸を固定化した電極は、 DNaseや RNase等の核酸分解酵素(ヌクレアーゼ)が存在しない条件で保存し、好ましくは遮光することにより保存することができる。保存期間が比較的短い場合には、ハイブリダイゼーション溶液、トリス−EDΤA緩衝液(TE)または滅菌した脱イオン水中に浸して保存することが可能である。電極の保存温度は4℃以下が好ましいが、より好ましくは−20℃程度で保存する。なお、長期間にわたり電極を保存する場合には、固定化された核酸を安定に保つためにドライ条件下で保存することが好ましい。電極をドライにする方法としては、凍結乾燥や風乾等を挙げることができ、アルゴン等の不活性ガス、窒素または乾燥空気等の気相の下、あるいは真空状態の下で好適に実施することができる。
さらに、導電体の表面に固定化される核酸は、DNA(一本鎖)のほかRNA(一本鎖)でもよく、塩基数も限定されるものではない。しかしながら、特定の核酸をバックグラウンドを生じることなく確実に検出するために、核酸は15塩基〜3000塩基程度の長さにすることが好ましい。また、導電体の表面に固定化される核酸の塩基配列は検出する核酸の塩基配列にしたがって決定されるが、1種類の塩基配列だけでなく複数種類の塩基配列からなる核酸を導電体の表面に固定化することができる。検出する核酸としては、種々のウイルス、細菌、寄生虫および真菌等に由来する核酸や腫瘍をはじめとする種々の疾患を有する細胞に由来する核酸であってもよい。なお、検出する核酸は、種々のウイルス、細菌、寄生虫、真菌および腫瘍をはじめとする種々の疾患を有する細胞に由来する遺伝子や遺伝子の一部であってもよく、また、遺伝子以外の核酸であってもよい。ここで、遺伝子とは、ゲノム上のある長さをもった特定の区画(構造遺伝子)を指すものである。ウイルスとしては、肝炎ウイルス(A、Β、C、D、E、FおよびG型)、ヒト免疫不全症ウイルス、インフルエンザウイルス、ヘルペスウイルス、アデノウイルス、ポリオーマウイルス、パピローマウイルス、パルボウイルス、ムンプスウイルス、ロタウイルス、エンテロウイルス、日本脳炎ウイルス、デングウイルス、風疹ウイルス、ヒトΤ細胞白血病ウイルス、サイトメガロウイルス等を挙げることができる。また、細菌および真菌としては、黄色ブドウ球菌、溶血性連鎖球菌、病原性大腸菌、腸炎ビブリオ菌、ヘリコバクタービロリ菌、カンビロバクター、コレラ菌、赤痢菌、サルモネラ菌、エルシニア、淋菌、リステリア菌、レプトスビラ、レジオネラ菌、スピロヘータ、肺炎マイコプラズマ、リッケチア、クラジミア、マラリア、赤痢アメーバおよび病原真菌等を挙げることができる。また、種々の疾患を有する細胞としては、網膜芽細胞腫、ウィルムス腫瘍、家族性大腸ポリポーシス、遺伝性ポリポーシス大腸癌、神経繊維腫症、家族性乳癌、色素性乾皮症、脳腫瘍、口腔癌、食道癌、胃癌、大腸癌、肝臓癌、膵臓癌、肺癌、甲状腺腫瘍、泌尿器腫瘍、男性器腫瘍、女性器腫瘍、皮膚腫瘍、骨・軟部腫瘍、白血病、リンパ腫、固形腫瘍に由来する細胞を挙げることができる。さらに、導電体の表面に固定化される核酸は、例えば、血
液、血清、白血球、尿、便、精液、唾液、組織、培養細胞および喀痰等の試料から抽出してもよく、また、DNA合成機等により化学合成してもよい。上記試料から核酸を抽出する方法としては、特に限定されるものではなく、フェノール−クロロホルム法等の液−液抽出法や、担体を用いる固−液抽出法を用いることができ、また、QIAmp(QIAGEN社製)やスマイテスト(住友金属社製)等の市販の核酸抽出キットを用いることも可能である。
本願第1の発明による電極は、核酸の検出が必要であるならば、種々の疾患や疾病の進行の程度を検出する医療分野のみならず、例えば、食品検査、検疫、医薬品検査、法医学、農業、畜産、漁業および林業等の全ての分野に適用することができる。
また、本願第2の発明に係る検出装置は、基板と、前記基板上に配置した導電体と、前記導電体の表面を、外部に対する接続領域を確保しつつ被覆した絶縁体と、前記導電体を露出するよう前記絶縁体に設けた開口部と、前記開口部より露出した前記導電体に固定化した第1の核酸とを有する電極と、前記電極に固定化された第1の核酸と第2の核酸とを共存させ、設定した条件下でハイブリダイゼーションを実行する反応部と、前記電極に固定化された第1の核酸に電圧を印加する印加手段と、前記印加手段の動作によって生じた信号を測定する測定手段とを具備したことを特徴としている。
本願第2の発明における検出装置によれば、電極に定量的に固定化した第1の核酸と第2の核酸とを反応部でハイブリダイゼーションさせ、第1の核酸に電圧を印加して生じた信号を測定することにより、該信号の測定量と第2の核酸の量とを一義的に対応させることができるので、再現性および定量性に優れるとともに高い感度で第2の核酸を検出することが可能となる。また、検出に要する時間の短縮と操作性の向上が達成されるので、第2の核酸を経済的に検出することが可能となる。
本願第2の発明に係る検出装置において、電極は、上述した本願第1の発明に係る電極と同等のものである。
また、反応部は、電極に固定化された第1の核酸と第2の核酸とを共存させ、ハイブリダイゼーションを実行可能な構成をとるものであるならば、特に限定されないが、ハイブリダイゼーションは一般にイオン強度0.01〜5、pΗ5〜10の範囲の緩衝液を用い、10〜90℃の温度で1分以上1晩程度反応させるので、緩衝液の蒸発を防止するとともに温度管理が可能な構造を有するものが好ましい。
さらに、電極に固定化された第1の核酸に電圧を印加する印加手段としては、該電極の第1の核酸を固定化した領域を作用極とし、該作用極に対応する対極を設け、作用極と対極との間に電圧を印加するように構成されていれば限定はされない。また、作用極と対極との他に、グランドを基準系とする参照電極を設置してもよい。また、通常、作用極と対極とは液体を介して配置されており、該液体は核酸を分解するヌクレアーゼを含まず、第1の核酸に対する電圧の印加と後述する測定を妨げるものでなければ限定はされない。
また、印加手段の動作によって生じた信号を測定する測定手段としては、電流値、電気伝導度、電位、抵抗値、電気容量、インダクタンスおよびインピーダンス等の電気的な信号を検出する手段や、蛍光、化学発光および電気化学発光を検出する手段が挙げられる。核酸は、電圧を印加すると自身より発光するので、発光強度を測定することにより、電極に存在する核酸の量、換言すれば、第1の核酸とハイブリッド形成した第2の核酸の量を検出することができる。また、第2の核酸の検出に際し、電気的な信号を得るために、ヘキスト33258、アクリジンオレンジ、キナクリン、ドウノマイシン、メタロインターカレーター、ビスアクリジン等のビスインターカレーター、トリスインターカレーターおよびポリインターカレーター等の挿入剤、フィロセン類および金属錯体等の電気化学的に活性な物質により電極上の核酸を標識し、第1の核酸に電圧を印加することにより該電気化学的に活性な物質に由来する反応電流値等の電気的な信号を検出して、第1の核酸とハイブリッド形成した第2の核酸の量を検出することができる。電気的な測定は、3電極タイプ(参照電極、対極、作用極)または2電極タイプ(対極、作用極)で行われ、挿入剤等が電気的に反応するように電圧を印加し、挿入剤等に由来する電流値等を測定する。この際、電圧は定速で掃引するか、パルスで印加するか、又は定電圧を印加することができる。測定には、ポテンショスタット、デジタルマルチメータ、フアンクションジェネレータ等の装置を用いて電流や電圧を制御する。そして、得られた電流値等をもとに、検量線から第2の核酸の濃度を算出する。また、第2の核酸の検出に際し、光学的な信号を増幅するために発光物質および蛍光物質を添加してもよい。蛍光物質としては、ヘキスト33258、アクリジンオレンジ、キナクリン、ドウノマイシン、メタロインターカレーター、ビスアクリジン等のビスインターカレーター、トリスインターカレーターおよびポリインターカレーター等の挿入剤を挙げることができる。これらの挿入剤は、紫外線等の照射により蛍光を発する。また、ローダミン、フルオレッセイン類等の蛍光物質やルシフェリン、アクリジニウムエステル類等の発光物質により第2の核酸を標識し、紫外線等の照射や酵素等を添加することにより光子を発生させ、第1の核酸とハイブリッド形成した第2
の核酸の量を検出することができる。さらに、ルシゲニンおよびルテニウム錯体等の電気化学発光物質で第2の核酸を標識して発光させることにより、第1の核酸とハイブリッド形成した第2の核酸の量を検出することができる。また、アルカリフォスファターゼやパーオキシダーゼ等を用いて、第1の核酸とハイブリッド形成した第2の核酸の量を検出することができる。また、標識に際し、挿入剤、発光物質、電気化学発光物質、蛍光物質および酵素の濃度はその種類により異なるが、−般には1ng/ml〜1mg/mlの範囲で使用する。このとき、標識は、イオン強度0.01〜5、pH5から10の範囲の緩衝液を用いて行うとよい。したがって、測定手段は、必要に応じ最適なものが単独あるいは組み合わされて用いられる。なお、挿入剤、発光物質、電気化学、発光物質、蛍光物質等の標識剤の非特異吸着を抑制するために、第1の核酸の固定化後あるいは固定化時に、第1の核酸を固定化する領域の表面を何らかの物質で被覆することが望ましい。該物質は、特に限定される物ではないが、センサが金からなる場合には、チオール化合物であることがより望ましい。チオール化合物としては、チオール化核酸を用いることができる。チオール化核酸にはヌクレオチド、デオキシヌクレオチド、ヌクレオシド、デオキシヌクレオシドがあり、アデニン、チミン、ヒポキサンチン、キサンチン、シトシン、グアニン、ウラシル、イノシン、アデノシン、チミジン、グアノシン、シチジン、ウリジンおよびリボチミジンまたはこれらのオリゴマー等を挙げることができる。また、ジチオスレイトール、ジチオビスベンゼン安息香酸およびアルカンチオール、メルカプトエタノール等のチオール化合物も用いることができる。該物質で第1の核酸を固定化する領域の表面を被覆すると、該領域に対する標識剤の非特異的な吸着が抑制され、S/Nが向上することになる。また、印加手段を動作させ、生じた信号を測定手段により測定をする場合には、バックグラウンドを低減する目的からハイブリダイゼーション後の電極をハイブリダイゼーション溶液や滅菌水等で洗浄することが好ましい。
さらに、本願第3の発明に係る検出装置は、第1の核酸を、第2の核酸の検出に必要な最小の面積を有する領域内に固定化した電極と、前記電極に固定化された第1の核酸と前記第2の核酸とを共存させ、設定した条件下でハイブリダイゼーションを実行する反応部と、前記電極に固定化された第1の核酸に電圧を印加する印加手段と、前記印加手段の動作によって生じた信号を測定する測定手段とを具備したことを特徴としている。
本願第3の発明における検出装置によれば、第2の核酸の検出に必要な最小の面積を有する領域内に定量的に固定化した第1の核酸と第2の核酸とを反応部でハイブリダイゼーションさせ、第1の核酸に電圧を印加して生じた信号を測定することにより、該信号の測定量と第2の核酸の量とを一義的に対応させるとともにバックグラウンドを低減することができるので、再現性および定量性に優れるとともに高い感度で第2の核酸を検出することが可能となる。また、検出に要する時間の短縮と操作性の向上が達成されるので、第2の核酸を経済的に検出することが可能となる。
上述したように、現在、C型肝炎ウイルスの検査では、治療の指標に最低でも105 copy/mLの感度が要求されている。また、HIVやHBV等の検査あるいは細菌感染症、癌遺伝子等の検出でも同等あるいはそれ以上の高い検出感度が求められている。一般に、核酸の検出をハイブリッド形成を行って実行する検出装置では、挿入剤、光学的および電気化学的に活性な標識物質等が電極の表面で直接反応してしまったり、挿入剤や光学的、電気化学的に活性な標識物質等が電極に固定化された核酸(プローブ)に結合してしまうことで、バックグランドが大きくなってしまう。したがって、非特異的な信号(バックグランド)により核酸の検出感度を低下させる原因となっている。核酸の検出感度を向上させるためには、非特異的な信号(バックグランド)を低減させ、ハイブリッドの形成に由来する特異的な信号のみを測定することが重要である。すなわち、電極上で形成したハイブリッドに由来する特異的な信号だけを確実に検出できれば、核酸の検出に関して高感度化が期待できる。上述した非特異的な信号を低減するためには、挿入剤、光学的および電気化学的に活性な標識物質等が電極の表面で直接反応してしまったり、挿入剤や光学的、電気化学的に活性な標識物質等が電極に固定化された核酸(プローブ)に結合することを抑制すればよい。そして、該抑制を達成するためには、核酸を固定化する領域の面積を小さくすることが有効になる。すなわち、核酸を固定化する領域の面積を小さくすることで、挿入剤、光学的および電気化学的に活性な標識物質等が電極の表面、特に、核酸を固定化する領域に非特異的に結合する量を減少させるとともに、電極に固定化される核酸の量も減少することから、結果として、核酸に非特異的に結合する挿入剤、光学的および電気化学的に活性な標識物質等の量も減少することになる。したがって、核酸を固定化する領域の面積を小さくするだけで、挿入剤等に由来する非特異的な信号を抑制できることになる。ここで、基礎的解析より、電気化学的な反応を用いた核酸の検出方法における検出感度と核酸を固定化する領域の面積との関係は、式(1)で示されることが判明した。
y=0.72x+8.0……(1)
ここで、xは核酸を固定化する領域の面積(cm2 )の対数、yは検出感度(copy/mL)の対数である。
よって、式(1)より、例えば、105 copy/mL以下の核酸の検出を達成するためには、電極に核酸を固定化する領域の面積を7×10-4cm2 以下にする必要がある。このように、式(1)より、第2の核酸の検出限界を設定することにより、第1の核酸を固定化するに必要な最小の面積を算出することができる。ところで、上述したような微小な領域を均一に作製する手段として、フォトリソグラフィーが利用できる。式(1)から明らかなように、検出感度を向上させるためには、第1の核酸を固定化する領域の面積を更に微小にする必要がある。しかしながら、フォトリソグラフィーを用いても、10-8cm2 以下の領域を再現性よく作製することは困難であり、場合によっては再現性が低下することもある。したがって、第1の核酸を固定化する領域の面積は10-8cm2 以上であることが望ましい。ここで、第1の核酸を固定化する領域の面積を小さくすると、電極に固定化される核酸(プローブ)の量が減るので、ハイブリダイゼーションに要する反応時間が短い場合には特異的なハイブリッドの形成が少なくなり、得られる信号の絶対量も減少する可能性がある。この場合には、ハイブリダイゼーションを行う時間を長くすることで信号の絶対量を確保することができる。
本願第3の発明に係る検出装置において、電極は、第1の核酸を固定化する領域の面積が、第2の核酸の検出限界に対応して求められた面積を有してさえいれば特に限定はされず、例えば、本願第1の発明に係る電極の構成をとることが可能である。また、反応部、印加手段および測定手段については、上述した本願第2の発明に係る検出装置と同様の構成および手法をとることができる。
また、本願第4の発明に係る検出装置は、第1の核酸を固定化した第1の電極と、第2の核酸を固定化するとともに、前記第1および前記第2の核酸に対して第3の核酸がハイブリッドを形成できるように配置された第2の電極と、前記第1および前記第2の電極に接続された電源と、前記電源の動作によって生じた信号を測定する測定手段とを具備したことを特徴としている。
本願第4の発明における検出装置によれば、第1および第2の核酸を固定化した第1および第2の電極を該第1および前記第2の核酸に対して第3の核酸がハイブリッドを形成できるように配置し、第1および第2の電極に接続された電源より電圧を印加して生じた信号を測定することにより、第3の核酸に由来する信号をバックグラウンドを低減しつつ確実に得ることができるので、再現性および定量性に優れるとともに高い感度で第3の核酸を検出することが可能となる。また、検出に要する時間の短縮と操作性の向上が達成されるので、第3の核酸を経済的に検出することが可能となる。
本願第4の発明における検出装置は、核酸を導電体とみなし、核酸に電圧をかけることにより生じる電流あるいは光子の放出(発光)を検出して第3の核酸を検出しようとしたものである。すなわち、第3の核酸が第1および第2の核酸とハイブリッドを形成すると、ハイブリッドの形成部を通じて回路が構成される。ここに、第1および第2の電極に接続された電源より電圧を印加すると、第3の核酸を通じて電流が流れる。そこで、電流値、電気伝導度、電位、抵抗値、電気容量、インダクタンスおよびインピーダンス等の電気的な信号を検出すれば、第3の核酸に由来する信号のみを検出したことになる。また、第3の核酸を通じて電流が流れると、ハイブリッドを形成した第1、第2および第3の核酸より光子が放出され核酸が発光する。そこで、発光強度を測定すれば、第3の核酸に由来する信号を検出したことになる。したがって、電気的あるいは光学的な信号を測定することにより、再現性および定量性に優れるとともに高い感度で第3の核酸を検出することが可能となる。
本願第4の発明に係る検出装置において、第1および第2の電極は、第1および第2の核酸を固定化されたものであれば限定されるものではないが、核酸の検出に際し再現性および定量性を向上させる目的から、本願第1の発明による電極や本願第2の発明に適用した電極を好適に用いることができる。さらに、バックグラウンドの発生を防止する観点から、本願第3の発明に適用した電極を好適に用いることができる。第1および第2の電極に固定化する第1および第2の核酸の配列は、各々1種類の塩基配列を示すものでもよいし、複数種類の塩基配列からなるものでもよい。また、一般的には、第1および第2の核酸の配列は異なるように選択するが、第1および第2の核酸の配列を同じにしてもよい。第1および第2の電極の位置関係は、第3の核酸とハイブリッドを形成可能な位置に配置されていれば限定されないが、安定したハイブリッドの形成を促すために対向して配置することが望ましい。第1および第2の電極を対向して配置した場合、第1および第2の電極の間隔は第3の核酸の長さに依存して決定される。すなわち、第3の核酸は、第1および第2の核酸の双方と端部(5´端および3´端)の領域でハイブリッドを形成するので、第1、第2および第3の核酸の長さをA、BおよびCとすれば、第1および第2の電極の間隔Lは、C+2α≦L<A+B+C+2α(αは第1および第2の核酸に導入されたチオール基等による余剰の長さ)の範囲となるように設定される。しかしながら、第1および第2の核酸に第3の核酸が安定して結合するためには、第1および第2の核酸と第3の核酸とが5〜30塩基程度に渡ってハイブリッドを形成する必要があり、また、第1および第2の核酸においてハイブリッドを形成する領域が30塩基を越えると非特異的なハイブリッドの形成を引き起こす可能性が高くなることから、第1および第2の電極の間隔LはL=A+B+C+2α−(10塩基〜60塩基の長さ)の範囲で調整されることが望ましい。具体的には、第1および第2の電極の間隔Lは10nm〜1mm、好ましくは、50nm〜1μm 程度に設定される。また、第1および第2の核酸と第3の核酸とがハイブリッドを形成するように第1および第2の電極を配置するためには、例えば、第1および第2の電極をキャピラリーの内部にフォトリソグラフィーを用いて作り込むようにするとよい。このような構成によれば、第1および第2の電極を配置したキャピラリーの内部でハイブリダイゼーションを行うことができ、ハイブリダイゼーション後における第1および第2の電極の洗浄や、第1および第2の電極に接続された電源より電圧を印加して生じた信号の測定も容易に行うことができる。さらに、前記第1および前記第2の電極に接続された電源としては、第1および第2の核酸とハイブリッドの形成が行われた第3の核酸に電圧を印加できるものであれば特に限定はされない。また、電源の動作によって生じた信号を測定する測定手段としては、上述した本願第2および第3の発明に係る検出装置と同様の構成および手法をとることができる。
さらに、本願第5の発明に係るセンサは、第1の核酸を固定化した第1の電極と、第2の核酸を固定化するとともに、前記第1および前記第2の核酸に対して第3の核酸がハイブリッドを形成できるように配置された第2の電極とを具備したことを特徴としている。
本願第5の発明におけるセンサによれば、第1および第2の核酸を固定化した第1および第2の電極を、第1および第2の核酸に対して第3の核酸がハイブリッドを形成できるように配置したことにより、第1および第2の核酸に対して第3の核酸が安定したハイブリッドを容易に形成することが可能となる。
本願第5の発明におけるセンサにおいて、第1および第2の電極は、第1および第2の核酸を固定化されたものであれば限定されるものではないが、核酸の検出に際し再現性および定量性を向上させる目的から、本願第1の発明による電極を好適に用いることができる。さらに、バックグラウンドの発生を防止する観点から、本願第3の発明に適用した電極を好適に用いることができる。また、第1および第2の電極の位置関係は、第1および第2の核酸に対し第3の核酸がハイブリッドを形成可能な位置に配置されていれば限定されないが、例えば、本願第4の発明に係る検出装置と同様の構成および手法をとることができる。
次に、検出の対象となる核酸の調整方法について説明する。
一般に、核酸の調整に際しては、全血、血清、白血球、細胞、組織、喀痰、尿、精液、唾液、種々の食品群、土壌、河川の水や海水等を試料として用いている。そして、いずれの場合でも、微量の核酸を効率よく抽出しなければならない。例えば、C型肝炎の検査等では血清1mL中に含まれる数個から数十個のウイルスの核酸を抽出しなければならない。また、病原性大腸菌O−157は数百個の細菌の存在で感染するので、食品等に付着した、わずかな細菌に由来する核酸を抽出しなければならない。通常、微量の核酸を抽出するためには、抽出効率をあげるため、キャリアとしてダミーの核酸、例えば、サケ精子DNAや牛胸腺DNA等を添加する。しかしながら、該DNAの塩基配列は完全には知られていないため、本願発明において検出の対象となる核酸と同じまたは類似の配列が含まれている可能性がある。キャリア核酸が導電体や電極に固定化された核酸(プローブ)と類似の配列を持つ場合には、検出対象となる核酸ではなく、添加したキャリア核酸が導電体や電極に固定化された核酸(プローブ)と反応してしまうことになる。したがって、実際には検出対象となる核酸が存在しない場合(陰性)であっても、誤って、検出対象となる核酸が存在する(陽性)との判定(偽陽性)を下してしまう。極めて低濃度に存在する核酸の検出が求められている現在、上記偽陽性の発生は大きな問題となる。また、核酸間でのハイブリッドの形成により核酸の検出をする際には、検出対象となる核酸自身のセルフハイブリダイゼーションによって、導電体や電極に固定化された核酸(プローブ)と検出対象となる核酸との反応が阻害されることが問題となる。すなわち、一部のウイルスを除いて核酸は互いに相補的に結合した二本鎖のDNAであるため、一度、熱またはアルカリにより一本鎖に解離させても、検出対象となる核酸はハイブリダイゼーションの際にプローブではなく、元の二本鎖のDNAに復元してしまうのである。この反応は、検出対象となる核酸の量が比較的多い場合に起こりやすく、高濃度側の検出範囲を狭め定量性を低下させる要因となる。そこで、試料より核酸を抽出する際に、キャリア核酸として、既知の塩基配列からなる核酸、例えば、polyA、polyT等の合成したホモオリゴヌクレオチド、poly(AT)等をはじめとする合成したヘテロオリゴヌクレオチド、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)およびシトシン(C)がランダムに配列したオリゴヌクレオチド、一般に使用されているプラスミドやプラスミドの分解物等の核酸を0.1 ng/ml〜100 ng/ml程度となるように添加して核酸の抽出を行うと、微量の核酸であっても効率よく試料より抽出することができる。ただし、上記方法にしたがって抽出した核酸を用いてハイブルダイゼーションを行う場合には、試料より核酸を抽出する際に添加する核酸の配列が、検出の際に使用する核酸(プローブ)の配列と相補的でないことを確認しておかなければならない。また、添加するキャリア核酸は一種類に限定されるわけではなく、一つの試料に複数種類のキャリア核酸を添加することができる。また、キャリア核酸の分子量も特に限定されるものではないが数塩基から数千塩基程度の範囲が好ましい。試料より核酸を抽出する方法は特に限定されるものではなく、フェノール−クロロホルム法等の液−液抽出法、担体を用いる固液抽出法あるいはQIAamp(QIAGEN社製)やスマイテス卜(住友金属社製)等の市販のキットを利用することも可能である。
抽出した核酸は、本願発明のみならず、各種の用途に用いることができる。例えば、RIや蛍光物質で標識したプローブを用いたドットブロット法、サザンブロット法、ノ一ザンブロット法およびマイクロプレート法を挙げることができる。また、プローブ側を担体に固定化するタイプの検出法に用いることもできる。なお、本法により調整した核酸を本願発明の電極、センサあるいは検出装置を用いて検出する場合、検出の対象となる核酸は二本鎖であることが多く、この場合、検出の対象となる核酸間でのセルフハイブリダイゼーションにより導電体や電極上に固定化された核酸(プローブ)との反応が阻害されてしまう。しかし、試料より核酸を抽出する際に添加したキャリア核酸が検出の対象となる核酸の一部に相補的な配列または類似の配列を持てば、該配列の領域でキャリア核酸と検出の対象となる核酸との間でハイブリッドが形成され、検出の対象となる核酸間でのセルフハイブリダイゼーションを抑えることができる。このとき、キャリア核酸と検出の対象となる核酸との間での反応性を考慮して、キャリア核酸は数塩基から数十塩基程度の長さとすると効果的である。なお、キャリア核酸は、導電体や電極上に固定化された核酸(プローブ)と検出の対象となる核酸間でのハイブリッドの形成を妨げることのないように選択されるのは当然である。このように、キャリア核酸の塩基配列を、検出の対象となる核酸に相補的で、導電体や電極上に固定化された核酸等(プローブ)とはハイブリッドを形成しない配列に設定すれば、試料からの核酸の抽出の効率を高めるだけでなく、検出の対象となる核酸間でのハイブリッドの形成を抑えて定量的な核酸の検出を行うことが可能となる。 上述した核酸の抽出方法は、電極、光ファイバーおよび水晶振動子等を用いた核酸の検出に適用すると非常に効果的である。電極、光ファイバーおよび水晶振動子等を用いた核酸の検出の原理は、これらに固定化された核酸(プローブ)によって検出の対象となる核酸が釣り上げられ、その後の状態変化(一本鎖から二本鎖への変化および重量の変化)を直接的あるいは間接的に測定して読み取ることである。そこで、検出の対象となる核酸と相補的な配列(電極、光ファイバーおよび水晶振動子等に固定化された核酸すなわちプローブとハイブリッドを形成する領域の配列を除く)を持つキャリア核酸を用いれば、釣り上ってきた検出の対象となる核酸の未反応部分(通常は一本鎖のまま)にキャリア核酸がハイブリダイズし部分的に二本鎖を形成する。その結果、電極、光ファイバーおよび水晶振動子等上の核酸の状態を大きく変化させることになり、検出に要する信号を増大させる。すなわち、水晶振動子を用いた場合であれば該水晶振動子上の重量の変化量が大きくなり、検出信号である周波数減少量が増大する。また、電極を用いた場合であれば、電極上の二本鎖DNAの増加により測定に用いる電気化学的な信号が増大する。さらに、標識剤として、核酸の二重鎖にインターカレートする挿入剤、例えばヘキスト33258を用いる場合、本剤はAT配列に結合することが知られているため、AT−richな領域に対してキャリア核酸の配列を設定すればヘキスト33258の結合量を増やすことができ、さらに効果的に測定時の信号が増幅される。また、キャリア核酸として一部あるいは全部が標識剤で標識されているものを用いれば、さらに信号の増幅が期待できる。使用する標識剤は、特に限定されるものではないが、上述した各種の標識剤を好適に用いることができる。以上から、上述した方法により試料から核酸を抽出することにより試料からの核酸の抽出効率を向上させ、該抽出した試料を用いてハイブリダイゼーションにより対象とする核酸の存在を検出する場合には、類似配列の存在による偽陽性を防止するとともに対象とする核酸自身のセルフハイブリダイゼーションを抑制し、測定に要する信号を増大させることが可能となる。
次に、本願第2〜第4の発明による検出装置において、ハイブリダイゼーションを行う際の条件について説明する。
ハイブリダイゼーションは、通常、イオン強度0.01〜5、pΗ5〜10の範囲の緩衝液中で行う。緩衝液中にはハイブリダイゼーションの促進剤である硫酸デキストラン、サケ精子DNAやウシ胸腺DNA等のキャリア核酸、核酸の分解を防止するためにEDΤΑおよび界面活性剤等を添加することが可能である。なお、上述したように、ハイブリダイゼーションを行う際にキャリア核酸が混在する場合にはハイブリダイゼーションを阻害する可能性があるのでキャリア核酸の添加には慎重を期し、必要に応じて既知の塩基配列からなるキャリア核酸を添加するとよい。一方、試料より抽出した核酸を90℃以上で熱変性させ緩衝液中に混合する。なお、試料より抽出した核酸を90℃以上で熱変性させた後、0℃で急冷して緩衝液中に混合することもできる。反応中は、攪拌又は震盪等の操作を行って反応速度を高めることも可能である。そして、10〜90℃の下、1分以上1晩程度の反応時間でハイブリダイゼーションを行う。ところで、上述したように、電極に固定された核酸(プローブ)は、検出対象となる核酸をバックグラウンドを生じることなく確実に検出するために15塩基〜3000塩基程度の長さにすることが多い。そして、電極に固定された核酸(プローブ)の塩基配列は、該核酸(プローブ)と検出対象となる核酸とが特異的にハイブリッドを形成することができるよう、検出対象となる核酸に特徴的な塩基配列と相補鎖を形成するように設計する。上述した反応温度は、電極に固定された核酸(プローブ)の塩基配列と検出の対象となる核酸とのホモロジーによって最適値を選択するが、一般に、ハイブリダイゼーションに際する適切な反応温度は、核酸が変性(融解)する温度(Tm)より20〜25℃低い温度に設定する。ここで、Tmは、以下の式より算出できる。
Tm=81.5+16.6(log10[Ci]) +0.41(% G+C) −0.63(% formamide)−(600/n) −1.5(% mismuch)ただし、Ciは一価の陽イオンの濃度、 nはプローブの塩基数である。
また、簡便なTmの算出方法として、以下の計算式を用いることができる。
Tm= 2℃(A+T)%+ 4℃(G+C)%(特に、プローブが18mer以下の場合)
ハイブリダイゼーションに際し、Tmより20〜25℃低い温度に設定した場合には、反応の平衡がほぼ二本鎖形成側に偏っている。よって、反応時間を長くすることで、特異的なハイブリッドの形成は経時的に多くなっていく。また、特異的なハイブリッドの形成を、電気化学的に促進することも可能である(特開平5−199898)。ハイブリダイゼーションの際、核酸(プローブ)を固定化した電極にプラス電位を印加すると、反応液中のDNAやRNAは負に帯電していることから、DNAやRNAを電極の近傍に引き寄せることができる。そのため、電極に固定化した核酸(プローブ)の近傍においてDNAやRNAの濃度が高くなる。液相中での核酸の検出反応は、1960年にMarmurらによって解析されており(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,46,456,1960)、核酸の濃度に対して2次反応であることが示されている。よって、電極の近傍で核酸の濃度が高くなれば、反応速度は速くなるわけである。すなわち、電気化学的にハイブリダイゼーションを促進することができることになる。なお、本願第4の発明に係る検出装置においては、第1の電極にプラス電位を印加してハイブリダイゼーションを行った後、第2の電極にプラス電位を印加してハイブリダイゼーションを行うようにするとよい。なお、測定時のバックグラウンドを低減させるため、ハイブリダイゼーションを行った後、測定手段により測定を行う前に、電極は緩衝液(例えば、ハイブリダイゼーション溶液)や滅菌した純水等で洗浄することが望ましい。
以上詳述したように、本願第1の発明に係る電極によれば、基板上に配置した導電体を被覆した絶縁体の一部に、導電体が露出するように開口部を設け、該開口部より露出した導電体に核酸を固定化したことにより、表面積が制御された導電体上へ核酸を固定化することができる。また、基板上に導電体を配置したことにより、導電体の特性を制御することができる。プローブを固定化する電極の表面積及び結晶楕造を制御することができる。したがって、優れた再現性および定量性を発揮し、経済的に核酸を検出可能な電極を提供することができる。
また、本願第2の発明に係る検出装置によれば、電極に定量的に固定化した第1の核酸と第2の核酸とを反応部でハイブリダイゼーションさせ、第1の核酸に電圧を印加して生じた信号を測定することにより該信号の測定量と第2の核酸の量とを一義的に対応させることができ、また、検出に要する時間の短縮と操作性の向上が達成される。したがって、核酸の検出に際し、優れた再現性および定量性を発揮するとともに、検出に要する時間の短縮と操作性の向上が図られた、検出時の経済性にも優れる検出装置を提供することができる。
さらに、本願第3の発明に係る検出装置によれば、第2の核酸の検出に必要な最小の面積を有する領域内に定量的に固定化した第1の核酸と第2の核酸とを反応部でハイブリダイゼーションさせ、第1の核酸に電圧を印加して生じた信号を測定することにより、該信号の測定量と第2の核酸の量とを一義的に対応させるとともにバックグラウンドを低減することができ、検出に要する時間の短縮と操作性の向上を達成することができる。したがって、核酸の検出に際し、優れた再現性および定量性を発揮するとともに、検出感度の高感度化が達成され、検出に要する時間の短縮と操作性の向上が図られた、検出時の経済性にも優れる検出装置を提供することができる。
また、本願第4の発明に係る検出装置によれば、第1および第2の核酸を固定化した第1および第2の電極を該第1および前記第2の核酸に対して第3の核酸がハイブリッドを形成できるように配置し、第1および第2の電極に接続された電源より電圧を印加して生じた信号を測定することにより、第3の核酸に由来する信号をバックグラウンドを低減しつつ確実に得ることができる。したがって、核酸の検出に際し、優れた再現性および定量性を発揮するとともに、検出感度の高感度化が達成され、検出に要する時間の短縮と操作性の向上が図られた、検出時の経済性にも優れる検出装置を提供することができる。
また、本願第5の発明に係る検出装置によれば、第1および第2の核酸を固定化した第1および第2の電極を、第1および第2の核酸に対して第3の核酸がハイブリッドを形成できるように配置したことにより、第3の核酸は第1および第2の核酸に対して安定したハイブリッドを容易に形成することができる。したがって、核酸の検出に際し、優れた再現性および定量性を発揮するとともに、検出感度の高感度化が達成され、検出に要する時間の短縮と操作性の向上が図られた、検出時の経済性にも優れるセンサを提供することができる。
(実施例1)
本実施例では、図2に示された実施の形態に対応する電極を製造した。
7.62cm(3インチ)のパイレックス(登録商標)ガラス基板12を硫酸・過酸化水素溶液で洗浄した後、電子ビーム法により、まず常法によりチタンを500オングストロームの厚さとなるように蒸着し、次いで同様に金を5000オングストロ−ムの厚さとなるように蒸着した。次に、光露光用フォトレジストAZ4620を用いて蒸着金属のリソグラフイーを行い導電体11を形成した。次いで、同じフォトレジストを塗布し、露光現像して、導電体11を露出させる開口部13(面積:10-4cm2 )を持った電極を形成した。
次いで、この電極にΒ型肝炎ウイルス(ΗBV)の検出用の核酸(プローブ)を固定化(1012 copy/cm2 )した。また、比較のために、金ワイヤーを樹脂で抱埋し、本実施例における電極と同一の核酸(プローブ)を固定化(1012 copy/cm2 )した電極も同様に使用した。プローブの固定および核酸の検出は、実施の形態に示す方法により実施した。検出実験の結果、金ワイヤー型の電極の場合、ばらつきは変動係数で10〜20%であったが、本実施例における電極では変動係数が5%以下であった。
(実施例2)
本実施例では、図2に示された実施の形態に対応する電極を作成した。
7.62cm(3インチ)のHOYA製NA−40基板12を硫酸・過酸化水素溶液で洗浄した後、スパッタリングで、まず常法によりクロムを500オングストロームの厚さとなるように成膜し、次に、同様にして金を5000オングストロームの厚さとなるように成膜した。次いで、光露光用フォトレジストAZ4620を用いてリソグラフィーを行い、接着層15および導電体11を同時に形成した。次いで、同じフォトレジストを塗布し、露光現像して、導電体11を露出させる開口部13(面積:10-4cm2 )を持った電極を形成した。
次いで、この電極に結核菌の検出用の核酸(プローブ)を固定化(1012 copy/cm2 )した。プローブの固定は、実施の形態に示す方法により実施した。また、比較のために、金ワイヤーを樹脂で抱埋し、本実施例における電極と同一の核酸(プローブ)を固定化(1012 copy/cm2 )した電極も同様に使用した。
はじめに、キャリアより喀痰を採取し、フェノール−クロロホルム法を用いて核酸の抽出を行った。抽出した核酸は、150mMの塩化ナトリウム、15mMのクエン酸ナトリウム(pH7.0)の溶液に溶解しハイブリダイゼーションに用いた。ハイブリダイゼーションの後、電極を洗浄して挿入剤ヘキスト33258の溶液に浸漬した後、電気化学的な測定を行った。検出実験の結果、金ワイヤー型の電極の場合、ばらつきは変動係数で10〜20%であったが、本実施例における電極では変動係数が5%以下であった。
(実施例3)
本実施例では、図2に示された実施の形態に対応する電極を作成した。
7.62cm(3インチ)のSiO2(111)およびSiO2 (100)の基板12上にスパッタリングで、まず常法によりチタンを500オングストロームの厚さとなるように成膜し、次いで同様にして、金を5000オングストロームの厚さとなるように成膜した。そして、各々の基板上の金(111)の配向指数を測定した結果、SiO2 (111)上では約2、SiO2 (100)上では約1であった。次に、光露光用フォトレジストAZ4620を用いてリソグラフィーを行い、接着層15および導電体11を同時に形成した。次いで、同じフォトレジストを塗布し、露光現像して、導電体11を露出させる開口部13(面積:10-4cm2 )を持った電極を形成した。
次いで、この電極にC型肝炎ウイルス(ΗCV)のRNAを検出するための核酸(プローブ)を固定化(1012 copy/cm2 )した。核酸プローブの固定は、実施の形態に示す方法により実施した。
はじめに、キャリアより血清を採取し、フェノール法を用いてRNAの抽出を行った。抽出した核酸(RNA)は、150mMの塩化ナトリウム、15mMのクエン酸ナトリウム(pΗ7.0)の溶液に溶解しハイブリダイゼーションに用いた。ハイブリダイゼーションの後、電極を洗浄して挿入剤ヘキスト33258の溶液に浸漬した後、電気化学的な測定を行った。検出実験の結果、SiO2(111)基板を備えた電極の変動係数が4%であったのに対し、SiO2 (100)基板を備えた電極では変動係数が8%であった。以上より、導電体上にプローブを固定化する際には、配向性の高い導電体を用いたほうが再現性に優れることがわかった。
(実施例4)
本実施例では、図2に示された実施の形態に対応する電極を作成した。
7.62cm(3インチ)のアルミナ基板12を硫酸・過酸化水素溶液で洗浄した後、スパッタリングで、まず常法によりチタンを500オングストロームの厚さとなるように成膜し、次に、同様にして金を5000オングストロームの厚さとなるように成膜した。次いで、光露光用フォトレジストAZ4620を用いてリソグラフィーを行い、接着層15および導電体11を同時に形成した。次いで、同じフォトレジストを塗布し、露光現像して、導電体11を露出させる開口部13(面積:10-4cm2 )を持った電極を形成した。
次いで、この電極にヒト免疫不全症ウイルス(HIV)のenv遺伝子に結合するSK38プローブを固定化(1012 copy/cm2 )した。プローブの固定は、実施の形態に示す方法により実施した。また、比較のために、金ワイヤーを樹脂で抱埋し、本実施例における電極と同一の核酸(プローブ)を固定化(1012 copy/cm2 )した電極も同様に使用した。
はじめに、キャリアより血清を採取し、フェノール法を用いてHIVのRNAの抽出を行った。抽出した核酸(RNA)は、150mMの塩化ナトリウム、15mMのクエン酸ナトリウム(pΗ7.0)の溶液に溶解しハイブリダイゼーションに用いた。ハイブリダイゼーションの後、電極を洗浄して挿入剤ヘキスト33258の溶液に浸漬した後、電気化学的な測定を行った。検出実験の結果、金ワイヤー型の電極の場合、ばらつきは変動係数で10〜20%であったが、本実施例における電極では変動係数が5%以下であった。
(実施例5)
本実施例では、図3に示された実施の形態に対応する電極を作成した。
7.62cm(3インチ)のパイレックス(登録商標)ガラス基板34を硫酸・過酸化水素溶液で洗浄した後、スパッタリングで、まず常法によりチタンを500オングストロームの厚さとなるように成膜し、次いで同様にして金を5000オングストロームの厚さとなるように成膜した。次に、光露光用フォトレジストΑZ4620を用いてリソグラフィーを行い、接着層、導電体およびリード線33のパターンを形成した。次いで同じフォトレジストを塗布し、露光現像して、導電体を露出させる開口部31(面積:10-4cm2 )を持ったレジストパターン(絶縁体)を備えた電極を形成した。このリソグラフィーにより、1つの電極上に4つの開口部31を作成した。
次いで、HBVのサブタイプである、 adr、 adw、 ayrおよび aywの各々にのみ相補的な20塩基の核酸(プローブ)を、電極上の開口部31にひとつづつ(1対1に)固定化(1012 copy/cm2 )した。プローブの固定は、実施の形態に示す方法により実施した。
上記の実施例と同様にして、キャリアの血清よりHBVに由来する核酸を抽出した。抽出した核酸を、上記プローブとハイブリッドを形成可能な領域を含むようにΡCRで増幅した後に、ハイブリダイゼーションを上記と同様に行った。検出実験の結果、該キャリアから採取した血清では、サブタイプ adrに相補的なプローブを固定化した開口部のみにおいて信号が得られた。したがって、1つの電極を用いることで簡単にHBVの遺伝子型を決定することができた。
(実施例6)
本実施例では、図5に示された実施の形態に対応する電極を作成した。
7.62cm(3インチ)のパイレックス(登録商標)ガラス基板54を硫酸・過酸化水素溶液で洗浄した後、電子ビーム法により、まず常法によりチタンを500オングストロームの厚さとなるように蒸着し、次いで同様に金を5000オングストロームの厚さとなるように蒸着した。次に、光露光用フォトレジストAZ4620を用いてリソグラフィーを行い、接着層、導電体およびリード線55のパターンを形成した。さらに、CVDで窒化ケイ素膜を2000オングストロームの厚さとなるように成膜して絶縁体53を形成させた。次いで同じフォトレジストを塗布し、露光現像して、導電体を露出させる開口部41(面積:10-4cm2 )を持ったレジストパターン(絶縁体)を備えた電極を形成した。このリソグラフィーにより、1つの電極上に4つの開口部51と1つの参照電極52とを作成した。
次いで、この電極の4つの開口部51より露出した導電体の各々に、Β型肝炎ウイルス(ΗBV)の検出用の核酸(プローブ)を固定化(1012 copy/cm2 )した。プローブの固定および核酸の検出は、実施の形態に示す方法により実施した。検出実験の結果、一度に4検体の検出が可能であり、また、すべてにおいて変動係数が5%以下であった。
(実施例7)
本実施例では、図3に示された実施の形態に対応する電極を作成した。
7.62cm(3インチ)のパイレックス(登録商標)ガラス基板34を硫酸・過酸化水素溶液で洗浄した後、銀を5000オングストロームの厚さとなるように成膜し、次に、SiO2 を5000オングストロームの厚さとなるように成膜して絶縁体32を形成させ、光露光用フォトレジストAZP4620を用いてSiO2 のリソグラフィーを行った。このリソグラフィーにより、1つの電極上に4つの開口部31を作成した。そして、最後に、AZリムーバを用いてレジストを除去した。
この電極を用いて、実施例5と同様に検出実験を行った。検出実験の結果、該キャリアから採取した血清では、サブタイプ adrに相補的なプローブを固定化した開口部のみにおいて信号が得られた。したがって、1つの電極を用いることで簡単にHBVの遺伝子型を決定することができた。
(実施例8)
実施の形態に記載の検出装置80を用いて、血清中よりHCVの検出を試みた。電極には、HCVの非翻訳領域に相補的な5´−CCTGTGAGGAΑCTACTACTGTC−3´をプローブとして固定した。プローブの固定は、実施の形態に示された方法によって実施した。ハイブリダイゼーションの温度は53℃に設定し、洗浄、ハイブリッドを形成した領域への挿入剤の挿入、分析工程は37℃で制御して行った。その結果、検出装置80に試料をセットした後、約1時間30分でΗCVに由来する核酸の濃度を定量することができた。
(実施例9)
本実施例では、図2に示された実施の形態に対応する電極を製造した。
7.62cm(3インチ)のパイレックスガラス基板12を硫酸・過酸化水素溶液で洗浄した後、電子ビーム法により、まず常法によりチタンを500オングストロームの厚さとなるように蒸着し、次いで同様に金を5000オングストロ−ムの厚さとなるように蒸着した。次に、光露光用フォトレジストAZ4620を用いてリソグラフィーを行い、開口部13の直径が、1mm、0.1mmおよび0.05mmの三種類の電極を作製した。
次いで、この電極にΒ型肝炎ウイルス(ΗBV)の検出用の核酸(プローブ)を実施の形態に示す方法により固定化(順に1012 copy/cm2 、1011 copy/cm2 および1010 copy/cm2 )した。プローブの固定および核酸の検出は、実施の形態に示す方法により実施した。
はじめに、キャリアより血清を採取し、フェノール−クロロホルム法を用いてΗBVに由来する核酸の抽出を行った。抽出した核酸は、150mMの塩化ナトリウム、15mMのクエン酸ナトリウム(pH7.0)の溶液に溶解しハイブリダイゼーションに用いた。ハイブリダイゼーションの後、電極を洗浄して挿入剤ヘキスト33258の溶液に浸漬した後、ヘキスト33258に由来する電気化学的な信号を測定した。なお、ハイブリダイゼーションの際には、電極にプラス0.5Vの電位を生じさせて、ハイブリダイゼーションの反応を促進させた。そして、三種類の電極について検出感度を比較したところ、表1に示す結果となり、開口部の面積が小さい電極で感度が高くなることが分かった。
(実施例10)
本実施例では、図2に示された実施の形態に対応する電極を作成した。
7.62cm(3インチ)のHOYA製NA−40基板12を硫酸・過酸化水素溶液で洗浄した後、スパッタリングで、まず常法によりクロムを500オングストロームの厚さとなるように成膜し、次に、同様にして金を5000オングストロームの厚さとなるように成膜した。次いで、光露光用フォトレジストAZ4620を用いてリソグラフィーを行い、接着層15および導電体11を同時に形成した。次いで、同じフォトレジストを塗布し、露光現像して、導電体11を露出させる開口部13を持った電極を形成した。この際、開口部13の形状を円形(直径1.6mm、周囲の長さ0.5cm、面積0.02cm2 )、正方形(1.5×1.5mm、周囲の長さ0.6cm、面積0.0225cm2 )とした2種類の電極を作製した。
次いで、これらの電極にΒ型肝炎ウイルス(ΗBV)の検出用の核酸(プローブ)を固定化(1012 copy/cm2 および1012 copy/cm2 )した。プローブの固定および核酸の検出は、実施の形態に示す方法により実施した。そして、各々の電極について検出感度を比較した。検出実験の結果、表2に示すように、検出感度は各電極でほぼ同じであったが、円形の開口部を備えた電極を用いた場合ばらつきが減少することが分かった。
(実施例11)
本実施例では、図2に示された実施の形態に対応する電極を作成した。
7.62cm(3インチ)のHOYA製NA−40基板12を硫酸・過酸化水素溶液で洗浄した後、スパッタリングで、まず常法によりチタンを500オングストロームの厚さとなるように成膜し、次に、同様にして金を5000オングストロームの厚さとなるように成膜した。次いで、光露光用フォトレジストAZ4620を用いてリソグラフィーを行い、接着層15および導電体11を同時に形成した。次いで、同じフォトレジストを塗布し、露光現像して、導電体11を露出させる開口部13を持った電極を形成した。この際、開口部13の形状を円形とし、直径が10mmおよび0.1mmの2種類の電極を作製した。
次いで、これらの電極にΒ型肝炎ウイルス(ΗBV)の検出用の核酸(プローブ)を固定化(1012 copy/cm2 および1012 copy/cm2 )した。プローブの固定および核酸の検出は、実施の形態に示す方法により実施した。そして、各々の電極について検出感度および測定に必要なサンプル量を比較した。検出実験の結果、表3に示すように、開口部(核酸の固定化領域)の面積が小さい電極で検出感度が高くなるとともに、より少ない量のサンプルで測定することができた。
(実施例12)
本実施例では、図4に示された実施の形態に対応する電極を作成した。
7.62cm(3インチ)のパイレックスガラス基板12を硫酸・過酸化水素溶液で洗浄した後、電子ビーム法により、まず常法によりチタンを500オングストロームの厚さとなるように蒸着し、次いで同様に金を5000オングストロ−ムの厚さとなるように蒸着した。次に、光露光用フォトレジストAZ4620を用いてリソグラフィーを行い、1つの電極上に面積の異なる2つの開口部31(直径0.5mm、面積2×10-3cm2 )および開口部32(直径0.05mm、面積2×10-5cm2 )からなる組を2組(AおよびB)作製した。
次いで、この電極にΒ型肝炎ウイルス(ΗBV)の検出用の核酸(プローブ)を実施の形態に示す方法により固定化(開口部31および開口部32ともに1012copy/cm2 )した。プローブの固定および核酸の検出は、実施の形態に示す方法により実施した。なお、A側にはHBVのサブタイプ adrを検出するプローブを、B側にはHBVのサブタイプ ayrに相補的な20塩基のプローブを固定化した。 上記の実施例と同様にして、キャリアの血清よりHBVに由来する核酸を抽出した。抽出した核酸に対し、サブタイプ間で共通のプライマーでΡCRを行った後に、段階希釈してハイブリダイゼーションを上記と同様に行った。ハイブリダイゼーションの後、電極を洗浄して挿入剤ヘキスト33258の溶液に浸漬した後、ヘキスト33258に由来する電気化学的な信号を測定した。検出実験の結果、 adrに相補的なプローブを固定化した開口部からのみポジティブな信号が得られた。したがって、サンプルに含まれたHBVは、 adrであることが分かった。また、段階希釈したサンプルを用いた検出実験では、開口部の面積の異なる電極を用いることで、6桁のダイナミックレンジで測定が可能であった。
(実施例13)
7.62cm(3インチ)のパイレックスガラス基板を硫酸・過酸化水素溶液で洗浄した後、スパッタリングでチタンを500オングストロームの厚さとなるように成膜し、次いで同様に金を5000オングストロ−ムの厚さとなるように成膜した。次に、光露光用フォトレジストAZ4620を用いてリソグラフィーを行ない、1つの電極上に面積の異なる2つの開口部(直径0.5mm、面積2×10-3cm2 ;直径0.05mm、面積2×10-5cm2 )を備えた電極を作製した。次いで、この電極の開口部より露出した導電体にΒ型肝炎ウイルス(ΗBV)の検出用の核酸(プローブ)を実施の形態に示す方法により固定化(2つの開口部ともに1012 copy/cm2 )した。
そして、キャリアより血清を採取し、フェノール−クロロホルム法を用いてΗBVに由来する核酸の抽出を行った。抽出した核酸は、150mMの塩化ナトリウム、15mMのクエン酸ナトリウム(pH7.0)の溶液に溶解しハイブリダイゼーションに用いた。ハイブリダイゼーションの後、電極を洗浄して挿入剤ヘキスト33258の溶液に浸漬し、ヘキスト33258に由来する蛍光を測定して検出感度を比較した。その結果、1時間程度では両者の間でS/N比に差は認められなかったが、時間の経過とともに直径0.05mmの開口部の領域において蛍光強度のS/Nが向上し、24時間後には、直径0.5mmの開口部の領域におけるS/Nの約3倍にまで向上した。また、検出感度は直径0.5mmの開口部の領域では5×106copy/mLが限界であったが、0.05mmの開口部の領域ではでは106copy/mLが限界であった。以上から、光学的な信号を検出する場合も、プローブを固定化する領域の面積が小さい方が検出感度が高いことがわかった。
(実施例14)
本実施例では、図11に示された実施の形態に対応する電極を備えたセンサを作成した。
2×2cmのパイレックスガラス基板91および92を硫酸・過酸化水素溶液で洗浄した後、スパッタリングで、該パイレックスガラス基板91および92上に直径2mmの金からなる電極94および電極93を作製した。そして、電極93にはHBVのサブタイプ間で共通の配列(チオール標識−ACTTCTCTCAATTTTCTAGG)からなる核酸をプローブ95として固定化(1012 copy/cm2 )し、電極94には別の共通配列(チオール標識−CGTCCCGTCGGCGCTGAATC)からなる核酸をプローブ96として固定化(1012 copy/cm2 )した。なお、電極93および電極94において、プローブを固定化した領域の面積は10-2cm2 である。次に、電極93および電極94間に厚さ2000オングストロームのスペーサー112を挟んで、電極93および電極94間の距離を一定(2000オングストローム)に固定した。また、プローブ95およびプローブ96の固定、および核酸の検出は、実施の形態に示す方法により実施した。 はじめに、キャリアより血清を採取し、フェノール−クロロホルム法を用いてΗBVに由来する核酸の抽出を行った。抽出した核酸は、150mMの塩化ナトリウム、15mMのクエン酸ナトリウム(pH7.0)の溶液に溶解してサンプルとした。次に、電極93および電極94の間に熱変性した該サンプルを、1000μl/ hrの流量で流して1時間のハイブリダイゼーションを行った後、電極93および電極94を超純水で十分に洗浄した。次いで、電極93および電極94の間を超純水で満たして電気伝導度を測定し、HBVの検出を行った。なお、HBVの検出は、段階希釈した複数のサンプルを用いて行った。その結果、電極93および電極94の間の電気伝導度とHBVのDNAの濃度はほぼ比例関係にあることが確かめられた。したがって、電極間の電気伝導度の測定によりHBVのDNAの濃度を定量できることが確認された。
(実施例15)
2×4cmおよび2×2cmのパイレックスガラス基板101および102、103を硫酸・過酸化水素溶液で洗浄した後、スパッタリングで、該パイレックスガラス基板101、102および103上に直径2mmの金からなる電極104、105および106を作製した。そして、電極104にはHBVのサブタイプ間で共通の配列(チオール標識−ACTTCTCTCAATTTTCTAGG)からなる核酸をプローブ107として固定化(1012 copy/cm2 )した。一方、電極105にはHBVのサブタイプ ayrに選択的な配列(チオール標識−CGTCCCGTCGGCGCTGAATC)を固定化(1012 copy/cm2 )し、電極106にはHBVのサブタイプ adwに選択的な配列(チオール標識−CGTCCCGTCGGCGCTGAATC)を固定化(1012 copy/cm2 )して、図10に示すような構成を備えたセンサを作成した。次に、電極104および電極105、電極104および電極106間に厚さ2000Aのスペーサーを挟んで、電極104および電極105、電極104および電極106の間の距離を一定(2000オングストローム)に固定した。また、プローブ95およびプローブ96の固定、および核酸の検出は、実施の形態に示す方法により実施した。次に、電極104および電極105、電極104および電極106の間に、実施例14と同様にして得たサンプルを熱変性して1000μl/ hrの流量で流通させ、1時間のハイブリダイゼーションを行った。なお、ハイブリダイゼーションの工程を通じ、電極104、電極105およ電極106を各々30分ずつ正に帯電させるようにした。そして、電極104、電極105および電極106を超純水で十分に洗浄した。次いで、電極104および電極105、電極104および電極106の間を超純水で満たして電気伝導度を測定し、HBVの検出を行った。その結果、電極104と電極105との間では電気伝導度が低下したが、電極104と電極106との間では電気伝導度に変化がなかった。よって、上記サンプルに含まれるHBVは、 ayr型であることが確認された。
(実施例16)
本実施例では、図11に示された実施の形態に対応する電極を備えたセンサを作成した。
2×2cmのパイレックスガラス基板91および92を硫酸・過酸化水素溶液で洗浄した後、スパッタリングで、該パイレックスガラス基板91および92上に直径2mmの金からなる電極94および93を作製した。そして、電極93にはHBVのサブタイプ間で共通の配列(チオール標識−ACTTCTCTCAATTTTCTAGG)からなる核酸をプローブ95として固定化(1012 copy/cm2 )し、電極94には別の共通配列(チオール標識−CGTCCCGTCGGCGCTGAATC)からなる核酸をプローブ96として固定化(1012 copy/cm2)した。なお、電極93および電極94において、プローブを固定化した領域の面積は10-2cm2 である。次に、電極93および電極94間に厚さ2000オングストロームのスペーサー112を挟んで、電極93および電極94間の距離を一定(2000オングストローム)に固定した。また、プローブ95およびプローブ96の固定、および核酸の検出は、実施の形態に示す方法により実施した。
次に、電極93および電極94の間に熱変性した該サンプルおよびルシゲニンで標識したプローブ111を、1000μL/ hr の流量で流して1時間のハイブリダイゼーションを行った後、電極93および電極94を超純水で十分に洗浄した。そして、電極93および電極94の間に電圧を印加して発生した発光強度を測定し、HBVの検出を行った。なお、HBVの検出は、段階希釈した複数のサンプルを用いて行った。その結果、測定された発光強度とHBVのDNAの濃度はほぼ比例関係にあることが確かめられた。したがって、発光強度の測定によりHBVのDNAの濃度を定量できることが確認された。
(実施例17)
本実施例では、図11に示された実施の形態に対応する電極を備えたセンサを作成した。
2×2cmのパイレックスガラス基板91および92を硫酸・過酸化水素溶液で洗浄した後、スパッタリングで、該パイレックスガラス基板91および92上に直径2mmの金からなる電極94および電極93を作製した。そして、電極93にはHBVのサブタイプ間で共通の配列(チオール標識−ACTTCTCTCAATTTTCTAGG)からなる核酸をプローブ95として固定化(1012 copy/cm2 )し、電極94には別の共通配列(チオール標識−CGTCCCGTCGGCGCTGAATC)からなる核酸をプローブ96として固定化(1012 copy/cm2 )した。なお、電極93および電極94において、プローブを固定化した領域の面積は10-2cm2 である。次に、電極93および電極94間に厚さ2000オングストロームのスペーサー112を挟んで、電極93および電極94間の距離を一定(2000オングストローム)に固定した。また、プローブ95およびプローブ96の固定、および核酸の検出は、実施の形態に示す方法により実施した。 次に、電極93および電極94の間に熱変性した実施例14と同様のサンプルおよびフィロセンで標識したプローブ111を、1000μL/ hr の流量で流して1時間のハイブリダイゼーションを行った後、電極93および電極94を超純水で十分に洗浄した。次いで、電極93および電極94の間を超純水で満たして電圧を印加するとともに銀/塩化銀電極(参照電極)を電極93および電極94間の超純水中に挿入し、フェロセン由来の電流値を測定してHBVの検出を行った。その結果、作用極(電極93および電極94)で得られるフェロセン由来の電流値とHBVのDNAの濃度はほぼ比例関係にあることが確かめられた。したがって、電極間に流れる電流値の測定によりHBVのDNAの濃度を定量できることが確認された。
(実施例18)
本実施例では、図11に示された実施の形態に対応する電極を備えたセンサを作成した。
2×2cmのパイレックスガラス基板91および92を硫酸・過酸化水素溶液で洗浄した後、スパッタリングで、該パイレックスガラス基板91および92上に直径2mmの炭素からなる電極94および93を作製した。そして、電極93および94の表面を3−アミノプロピリトリエトキシシランで処理した後、電極93にはHBVのサブタイプ間で共通の配列(アミノ基−ACTTCTCTCAATTTTCTAGG)からなる核酸をプローブ95として固定化(1013 copy/cm2 )し、電極94には別の共通配列(アミノ基−CGTCCCGTCGGCGCTGAATC)からなる核酸をプローブ96として固定化(1013 copy/cm2 )した。なお、電極93および電極94において、プローブを固定化した領域の面積は10-4cm2 である。次に、電極93および電極94間に厚さ2000オングストロームのスペーサー112を挟んで、電極93および電極94間の距離を一定(2000オングストローム)に固定した。また、プローブ95およびプローブ96の固定、および核酸の検出は、グルタルアルデヒドの共存下および実施の形態に示す方法により実施した。
次に、電極93および電極94の間に熱変性した実施例14と同様のサンプルを1000μl/ hrの流量で流して1時間のハイブリダイゼーションを行った後、電極93および電極94を超純水で十分に洗浄した。次いで、電極93および電極94の間を超純水で満たし、該超純水中に白金電極(対極)および銀/塩化銀電極(参照電極)を挿入して電極93および電極94(作用極)間に電圧を印加した。そして、核酸から生じる微弱な発光を測定してHBVの検出を行った。その結果、核酸から生じる微弱な発光とHBVのDNAの濃度はほぼ比例関係にあることが確かめられた。したがって、核酸から生じる微弱な発光の測定によりHBVのDNAの濃度を定量できることが確認された。
次に、核酸の抽出効率の向上と偽陽性を呈することなく高感度に核酸の検出を実行した実施例について詳述する。
(実施例19)
B型肝炎の患者に由来するパネル血清および健常者(ノンキャリア)に由来するHBV未感染血清の各々1mLに、プロテイナーゼKおよび界面活性剤(0.5% SDS)を作用させ、ウイルスの外殻を壊してDNAを露出させた後、各々に5 〜100merからなる合成核酸(poly A)を100ng/ mLとなるように添加し、フェノ一ル・クロロホルム法を用いてDNAの抽出を行った。抽出したDNAをアルカリ変性させた後、ニトロセルロース膜にブロットし、RIでラベルしたプローブ(ΗBVのX領域に相補的な5′−CGTCCCGTCGGCGCTGAATC−3′)を用いてドットブロット法による検出を行った。また、コントロールとして、牛胸腺DNAを添加して抽出したDNAおよびキャリア核酸を未添加で抽出したDNAを用いて同様の操作を行った。なお、上記血清においては、ウイルス量は既知であり、低濃度から高濃度までのウイルス量を示す複数の血清が用意されていた。
操作の結果、高濃度のウイルス量を示す血清に対しては、上記いずれの方法でも同等の強度のスポットをフィルム上に確認することができたが、低濃度のウイルス量を示す血清に対しては、キャリア核酸を未添加で抽出したDNAにおいてシグナルの強度が弱かった。また、HBV未感染血清については、合成核酸(poly A)を添加してDNAの抽出を行った場合には全くスポットが見られなかったが、牛胸腺DNAを添加してDNAの抽出を行った場合には弱くスポットが見られ、低濃度のウイルス量を示す血清のスポットとの区別がつかなかった。
以上のことから、キャリア核酸を添加することで、存在量の少ない(低濃度)核酸も効率よく抽出できることが確かめられた。また、牛胸腺DNAをキャリア核酸として用いた場合には、わずかながらプローブとの間で反応を起こし(ハイブリッドの形成)、HBV未感染血清を陽性と判定してしまう危険性が示された。これは、キャリアDNAにHBVに類似の塩基配列が存在するためと推測される。 また、キャリアDNAとしてpoly Aを用いた場合には、偽陽性の危険性はないことが確認された。
(実施例20)
ΗBV−DNAをプラスミドpSP 65に組み込んで作製したpYRB 259を用いて以下のようなモデル実験を行った。
マイクロタイタープレートにΗBVのX領域に相補的なプローブ(5′−CGTCCCGTCGGCGCTGAATC−3′)を吸着させた後、紫外線を照射して、マイクロタイタープレートにプローブを固定化(1012 copy/cm2 )した。一方、ターゲットとしてビオチンでラベルしたpYRB 259を作製した。次に、ビオチン化したpYRB 259を100ng/ mLとなるように、また、キャリア核酸としてHBV−DNAに相補的な配列を備えた合成オリゴマー(5′−ACTTCTCTCAATTTTCTAGG−3′、5′−CGTCGCAGΑΑGATCTCAATC−3′、5′−TCGTGTTACAGGCGGGGTTT−3′および5′−CGAACCACTGAACAAATGGC−3′)を各々1ng/ mLとなるようにハイブリダイゼーション溶液(150m mol/ Lの塩化ナ卜リウム、15m mol/ Lのクエン酸ナトリウム、pH7.0)に溶解し、熱変性させた後、プローブを固定化したプレートのウェルに100μlずつ入れ、43℃で1時間ハイブリダイゼーションを行った。
次に、ハイブリダイゼーションを行った後、反応液中に残存するpYRB 259の量およびプレート上のプローブとハイブリッドを形成したpYRB 259の量を、ウサギ抗ビオチン抗体および HRP標識抗ウサギ IgG抗体を用いて免疫化学的に測定した。また、コントロールとして、合成オリゴマーを添加しない場合についても、同様の操作を行った。
その結果、表4に示す通り、合成オリゴマーを添加した場合には、マイクロタイタープレート上のプローブとハイブリッドを形成したターゲット(pYRB 259)の量は、合成オリゴマーが未添加であったコントロールと比較して約2.6倍、反応液に残存するターゲット(pYRB 259)の量は、合成オリゴマーが未添加であったコントロールと比較して約3分の1であった。
以上から、キャリア核酸の添加によって、ターゲット自身のセルフハイブリダイゼーションが抑制され、ターゲットがマイクロタイタープレート上のプローブとハイブリッドを形成する効率が向上することが確認された。
(実施例21)
ATカット、振動周波数9MHz、電極面積0.196cm2 、電極材料が金である水晶振動子にΗBVのX領域に相補的な5′−CGTCCCGTCGGCGCTGAATC−3′をチオール基を介して固定化し、ΗBV−DNA検出センサを作製した。ターゲットとしてpYRB 259およびキャリア核酸としてプラスミドpSP 65の超音波分解物をそれぞれ100ng/ mLとなるようハイブリダイゼーション溶液(150m mol/ Lの塩化ナ卜リウム、15m mol/ Lのクエン酸ナトリウム、pH7.0)に溶解し、該溶液の5mLを熱変性させた後に上記の水晶振動子を該溶液に挿入し、43℃で1時間ハイブリダイゼーションを行った。一方、コントロールとして、pSP 65の超音波分解物を添加しない場合についても同様の操作を行った。
その結果、pSP 65の超音波分解物を添加しなかった場合には、水晶振動子の振動数の減少量は約100Hzであったが、pSP 65の超音波分解物を添加した場合では水晶振動子の振動数の減少量は約350Hzであった。この結果は、水晶振動子上のプローブとハイブリッドを形成したpYRB 259に対して、さらに、pSP 65の超音波分解物がハイブリダイズしたために、水晶振動子の振動数の変化量が増大したことを示しており、キャリア核酸の添加により検出信号が増大することが確認された。
(実施例22)
本実施例では、図2に示された実施の形態に対応する電極を製造した。
7.62cm(3インチ)のパイレックス(登録商標)ガラス基板12を硫酸・過酸化水素溶液で洗浄した後、スパッタリングにより、まず常法によりチタンを500オングストロームの厚さとなるように成膜し、次いで同様に金を5000オングストロ−ムの厚さとなるように成膜した。次に、光露光用フォトレジストAZ4620を用いて蒸着金属のリソグラフイーを行い導電体11を形成した。次いで、同じフォトレジストを塗布し、露光現像して、導電体11を露出させる開口部13(面積:0.07cm2 )を持った電極を形成した。
次いで、この電極に、プローブとしてΒ型肝炎ウイルス(ΗBV)のX領域に相補的な核酸(5′−CGTCCCGTCGGCGCTGAATC−3′)をチオール基を介して固定化(1012 copy/cm2 )した。
次に、ターゲットとしてpYRB 259およびキャリア核酸としてプラスミドpSP 65の超音波分解物をそれぞれ103 copy/ mLとなるようハイブリダイゼーション溶液(150m mol/ Lの塩化ナ卜リウム、15m mol/ Lのクエン酸ナトリウム、pH7.0)に溶解し、該溶液の100μL を加熱してDNAを熱変性させた後に上記の電極を該溶液中に入れ、43℃で1時間ハイブリタイゼーションを行った。そして、ハイブリダイゼーションを行った後、電極を洗浄して挿入剤へキスト33258の溶液に浸漬した後、電気化学的な測定を行った。一方、コントロールとして、pSP 65の超音波分解物を添加しない以外は上記の場合と同様にして操作を行った。
その結果、ヘキスト33258に由来する電流値は、pSP 65の超音波分解物を添加した場合には、pSP 65の超音波分解物を添加しないコントロールと比較して5nAの有意な差が認められた。この結果は、電極上のプローブにハイブリダイズしたpYRB 259にさらにpSP 65の超音波分解物がハイブリダイズしたために、ヘキスト33258の結合量が増大したことを示しており、キャリア核酸の添加により検出信号が増大することが確認された。
(実施例23)
本実施例では、図2に示された実施の形態に対応する電極を製造した。
7.62cm(3インチ)のパイレックス(登録商標)ガラス基板12を硫酸・過酸化水素溶液で洗浄した後、電子ビーム法により、まず常法によりチタンを500オングストロームの厚さとなるように蒸着し、次いで同様に金を5000オングストロームの厚さとなるように蒸着した。次に、光露光用フォトレジストAZ4620を用いてリソグラフィーを行い、接着層15および導電体11を同時に形成した。さらに、CVDにより窒化ケイ素膜を2000オングストロームの厚さとなるように成膜して絶縁体14を形成させた。次いで同じフォトレジストを塗布し、露光現像して、導電体を露出させる開口部13(面積:0.07cm2 )を持ったレジストパターン(絶縁体)を備えた電極を形成した。
次いで、この電極の開口部13に露出した導電体上に、プローブとしてΗBVのX領域に相補的な塩基配列5′−CGTCCCGTCGGCGCTGAATC−3′を持つ核酸を、チオール基を介して固定化した。
一方、B型肝炎の患者に由来する血清500μL をプロテイナーゼΚおよび界面活性剤(0.5% SDS)で処理した後、キャリア核酸として5 〜100merからなる合成核酸(poly A)およびΗBVに相補的な塩基配列である合成オリゴマー(5′−ACTTCTCTCAATTTTCTAGG−3′、5′−CGTCGCAGAAGATCTCAATC−3′、5′−TCGTGTTACAGGCGGGGTTT−3′および5′−CGAACCACTGAACAAATGGC−3′)を各々0.1ng/ mLとなるように添加し、フェノ一ル・クロロホルム法を用いてDNAの抽出を行った。そして、抽出したDNAをハイブリダイゼーション溶液(150m mol/ Lの塩化ナ卜リウム、15m mol/ Lのクエン酸ナトリウム、pH7.0) 500μlに溶解し、該溶液の 100μlを加熱してDNAを熱変性させた後に上記の電極を溶液中に入れ、43℃で1時間ハイブリタイゼーションを行った。そして、ハイブリダイゼーションを行った後、電極を洗浄して挿入剤へキスト33258の溶液に浸漬した後、電気化学的な測定を行った。さらに、コントロールとして、キャリア核酸を添加しない以外は上記の場合と同様にして操作を行った。一方、検量線用のサンプルとして、既知濃度のHBV−DNAを血清抽出液(正常人血清で同様の抽出操作を経たもの)で希釈し、前述のキャリア核酸を加えたものを用いて同様に測定した。
その結果、キャリア核酸の添加を行わなかったコントロールにおいては、図16のBに示すように検量線の直線範囲が105 −107 copy/ mLであるため、検量線の上限あるいは下限をはずれるサンプルが多く存在したが、キャリア核酸を添加した場合には、図16のAに示すように検量線の直線範囲が103 −108copy/ mLと広がったため、HBV−DNAを検出可能な範囲(コピー数)が拡大し、この範囲からはずれるサンプルは著しく減少した。したがって、キャリア核酸を添加することにより、検出限界の顕著な向上が達成されることが確認された。 なお、上述したすべての電極は、90℃以上の熱水処理、あるいは0.2mol/ L程度以上でのアルカリ溶液処理あるいは尿素等の変性剤による処理で簡単に再生することができ、繰り返して使用することが可能である。