[第1の実施の形態]
図1及び図2には、本発明の第1の実施の形態に係るクラッチ装置10の全体構成が分解斜視図にて示されている。
このクラッチ装置10は、出力軸12を備えている。出力軸12の基端部分(後端部分)には、軸線方向に沿って複数の突条が形成された回止部14と、後端部突端に形成された抜止部16と、回止部14と抜止部16との間に設けられた相対回転軸部18と、が設けられている。
出力軸12の回止部14には、クラッチベース20が固着されている。クラッチベース20は、中央部分に支持孔22が形成された円盤状に形成されており、支持孔22が回止部14に固着されることで常に出力軸12と一体回転する。また、クラッチベース20の周縁には、径方向(出力軸12の径方向)に沿って突出する嵌入部24及び嵌入部26が互いに周方向において反対側(180度反対側、すなわち出力軸12の軸線を中心に点対称位置)に設けられている。嵌入部26は嵌入部24よりも径方向へ長く突出している。これらの嵌入部24及び嵌入部26は、後述するクラッチディスク38に対応している。
また、出力軸12の抜止部16には、入力ディスク28が取り付けられている。入力ディスク28は、中央部分に軸孔30が形成された歯車状に形成されており、軸孔30に出力軸12の抜止部16が挿通すると共に抜止部16の突端に取り付けられた抜止めクリップ32によって抜け止めされることで、出力軸12に対して軸線方向一側(クラッチベース20と反対側)へ抜止め状態でかつ回転自在に支持されている。この入力ディスク28に駆動力が入力されると、入力ディスク28が出力軸12周りに回転する。また、入力ディスク28の表面側(クラッチベース20の側、出力軸12の軸線方向他側)には、クラッチベース20の側へ向けて一対二組の噛合係合部34及び噛合係合部36が突出して設けられている。
ここで、一対の噛合係合部34は、互いに周方向において反対側(180度反対側)に設けられており、また、一対の噛合係合部36は、互いに周方向において反対側(180度反対側)に設けられている。しかも、噛合係合部34及び噛合係合部36はそれぞれ等間隔に(すなわち、周方向に沿って90度の間隔で)形成されており、一対の噛合係合部34は、一対の噛合係合部36よりも、径方向において外側に位置しており、入力ディスク28の「歯」の部分にまで跨って形成されている。これらの一対二組の噛合係合部34及び噛合係合部36も、後述するクラッチディスク38に対応している。
一方、出力軸12の相対回転軸部18には、クラッチディスク38が支持されている。クラッチディスク38は、出力軸12に対応した軸孔40が形成された底壁42と、この底壁42の周縁から出力軸12の軸線方向に沿って立設形成された周壁44と、を有する有底円筒形に形成されており、軸孔40に出力軸12(相対回転軸部18)が挿通することで、入力ディスク28に対し出力軸12の軸線方向他側(クラッチベース20の側)に位置すると共に出力軸12に対して軸線方向に沿って移動可能に支持されている。
周壁44の開口側周縁部分には、前述したクラッチベース20の嵌入部24及び嵌入部26に対応して、案内被嵌入部46及び案内被嵌入部48が形成されている。これらの案内被嵌入部46及び案内被嵌入部48に、クラッチベース20の嵌入部24及び嵌入部26がそれぞれ出力軸12の軸線方向に沿って相対移動可能に嵌入している(入り込んでいる)。これにより、クラッチディスク38は、常にクラッチベース20(すなわち、出力軸12)と一体的に回転すると共に、クラッチベース20に対して出力軸12の軸線方向に沿って相対移動可能となっている。
また、クラッチディスク38の底壁42の裏面側(入力ディスク28の側、出力軸12の軸線方向一側)には、一対二組の噛合被係合部50及び噛合被係合部52が凹設して(窪んで)設けられている。
これらの噛合被係合部50及び噛合被係合部52は、入力ディスク28の噛合係合部34及び噛合係合部36にそれぞれ対応しており、一対の噛合被係合部50は、互いに周方向において反対側(180度反対側)に設けられており、また、一対の噛合被係合部52は、互いに周方向において反対側(180度反対側)に設けられており、しかも、噛合被係合部50及び噛合被係合部52はそれぞれ等間隔に(すなわち、周方向に沿って90度の間隔で)形成されている。この噛合被係合部50に入力ディスク28の噛合係合部34が嵌入可能であり、また、噛合被係合部52に入力ディスク28の噛合係合部36が嵌入可能となっている。これにより、通常の使用状態(回転状態)では、入力ディスク28が回転した場合にこの入力ディスク28の回転力がクラッチディスク38へ伝達されてクラッチディスク38が供に回転される構成である。
またここで、入力ディスク28の噛合係合部34及び噛合係合部36と、クラッチディスク38の噛合被係合部50及び噛合被係合部52とは、それぞれ側壁部分が傾斜面とされている(換言すれば、断面形状が所謂「台形」に形成されている)。これにより、入力ディスク28が回転しこの入力ディスク28からクラッチディスク38への回転伝達力によって、クラッチディスク38に出力軸12軸線方向に沿った(クラッチベース20へ向いた)分力が生じる構成となっている。
なお、前述の如く入力ディスク28の噛合係合部34及び噛合係合部36と、クラッチディスク38の噛合被係合部50及び噛合被係合部52のそれぞれの側壁を共に「傾斜面」とする構成に限らず、少なくとも何れか一方に、出力軸12の周方向に対して傾斜する傾斜面を形成する構成としてもよい。この場合であっても、入力ディスク28からクラッチディスク38への回転伝達力によってクラッチディスク38に出力軸12軸線方向に沿った分力を生じせしめることができる。
またさらに、クラッチディスク38の内部、すなわち底壁42及び周壁44によって形成される内部スペースは収容部54とされており、当該収容部54を閉塞する状態で、クラッチベース20がクラッチディスク38の周壁44の開口側周縁部分に入り込んでいる。
前記収容部54には、弾性部材としての複数(本実施の形態においては、2枚)のウエーブワッシャ56が収容されている。ウエーブワッシャ56は、クラッチディスク38(底壁42)とクラッチベース20との間に配置されており、入力ディスク28の噛合係合部34、36とクラッチディスク38の噛合被係合部50、52との係合状態からのクラッチディスク38の出力軸12軸線方向他側(クラッチベース20の側)へ向けた軸線方向移動に対して、所定の抗力(クラッチディスク38の軸線方向移動によって弾性圧縮変形された際の復元力)を付与するようになっている。
換言すれば、通常は、入力ディスク28の噛合係合部34及び噛合係合部36が、クラッチディスク38の噛合被係合部50及び噛合被係合部52に入り込むと共に、ウエーブワッシャ56はこの嵌入状態を維持しており、入力ディスク28の噛合係合部34及び噛合係合部36が、クラッチディスク38の噛合被係合部50及び噛合被係合部52から抜け出そうとしてクラッチディスク38がクラッチベース20の側へ向けて軸線方向移動しようとすると、これに抗する付勢力(復元力)を発揮するように構成されている。
なお、通常状態(クラッチディスク38がクラッチベース20の側へ向けて移動しようとしない状態)において、既にウエーブワッシャ56がクラッチベース20とクラッチディスク38との間で押圧力が付与されるように構成してもよく、あるいは、クラッチディスク38がクラッチベース20の側へ向けて移動したときだけに(噛合係合部34及び噛合係合部36が、噛合被係合部50及び噛合被係合部52から抜け出そうとした場合に)、ウエーブワッシャ56がこれに抗する付勢力(復元力)を発揮するように構成してもよい。
次に、本第1の実施の形態の作用を説明する。
上記構成のクラッチ装置10は、通常の使用状態では、入力ディスク28の噛合係合部34がクラッチディスク38の噛合被係合部と係合しており(互いに嵌り合っており)、しかも、この噛合係合部34と噛合被係合部50の係合状態からクラッチディスク38が出力軸12軸線方向に移動しようとしてもウエーブワッシャ56によって所定の抗力が付与されるので、前記係合状態が維持される。また、クラッチディスク38の案内被嵌入部46及び案内被嵌入部48には、クラッチベース20の嵌入部24及び嵌入部26がそれぞれ出力軸12の軸線方向に沿って相対移動可能に嵌入している(入り込んでいる)。このため、入力ディスク28に駆動力(例えば、モータの回転力)が入力されて出力軸12周りに回転すると、噛合係合部34、36及び噛合被係合部50、52を介して入力ディスク28からクラッチディスク38へ回転駆動力が伝達される。そして、クラッチディスク38は、出力軸12に固定されたクラッチベース20と係合しているため、クラッチディスク38へ伝達された回転駆動力はクラッチディスク38からクラッチベース20へと伝達されて、このクラッチディスク38及びクラッチベース20と一体で出力軸12が回転される。
ここで、このクラッチ装置10では、通常の使用状態(回転状態)においては、前述の如く入力ディスク28から出力軸12への回転駆動力の伝達に際し、各部の何れの箇所においても部材の摺動を発生させることなく回転駆動力を伝達することができる。換言すれば、入力ディスク28の噛合係合部34、36とクラッチディスク38の噛合被係合部50、52との係合状態維持のために、クラッチディスク38の前記係合状態からの軸線方向移動に対して付与されるウエーブワッシャ56による抗力が、摺動摩擦力として無駄に消費されることがない。したがって、回転伝達効率の低下を防止できる。また、部材の摺動を発生させることなく回転駆動力を伝達することができるため、部材の摺動に伴う異音の発生も防止される。
またしかも、前述の如く、噛合係合部34、36と噛合被係合部50、52との係合状態維持のために当該係合状態からのクラッチディスク38の軸線方向移動に対して付与されるウエーブワッシャ56による抗力は、出力軸12に固定されたクラッチベース20と、出力軸12に対して軸線方向一側へ抜止め状態で支持された入力ディスク28とで受け止められる。すなわち、出力軸12に取り付けられた2つの構成部品(クラッチベース20と入力ディスク28)によって、前記係合状態維持のための力が受け止められる。すなわち、本クラッチ装置10は、「出力軸12のサブアッセンブリ」として完結する構成のものであり、ハウジングなどの他の部品等に依存して完結する構成のものでない。したがって、本クラッチ装置10を、「出力軸12サブアッセンブリ」とした1つの部品として取扱いができる。
一方、例えば、出力軸12に過大外力(荷重)が作用すると、出力軸12が逆転もしくは拘束されることになる。すると、出力軸12(クラッチベース20)と一体回転するクラッチディスク38には、クラッチベース20を介して、入力ディスク28と相対回転する方向に回転力が作用する。ここで、入力ディスク28の噛合係合部34及び噛合係合部36と、クラッチディスク38の噛合被係合部50及び噛合被係合部52とは、それぞれ側壁部分が傾斜面とされているため(断面形状が所謂「台形」に形成されているため)、入力ディスク28とクラッチディスク38との間の相対回転力によって、クラッチディスク38に出力軸12軸線方向に沿った(クラッチベース20へ向いた)分力が生じる。すなわち、入力ディスク28とクラッチディスク38との間の相対回転力の一部が、クラッチディスク38を出力軸12軸線方向に移動させて入力ディスク28の噛合係合部34、36とクラッチディスク38の噛合被係合部50、52との係合を解除しようとする分力として作用する。この相対回転力(分力)が所定値以上となると、ウエーブワッシャ56により付与される抗力に打ち勝って、クラッチディスク38が出力軸12軸線方向に強制的に移動されて前記係合状態が解除される(入力ディスク28の噛合係合部34、36がクラッチディスク38の噛合被係合部50、52から抜け出して嵌合が解除される)。これにより、クラッチディスク38すなわち出力軸12は、入力ディスク28に対して空転する。
これにより、各部品の損傷や入力ディスク28に接続された例えばモータの焼損等を防止することができる。またしかも、このような過大な外力(荷重)の作用を想定した各部品の強度設定を行う必要がなくなる。
さらに、このクラッチ装置10では、複数の突条が形成された出力軸12の回止部14にクラッチベース20が固着されて一体化されており、特に軸線周りの回転方向に対しては強固に固着されている。一方、入力ディスク28は出力軸12の抜止部16によって抜止め状態とされており、さらに、出力軸12の相対回転軸部18(すなわち、クラッチベース20と入力ディスク28との間)に、クラッチディスク38が軸線方向に移動可能に支持されている。すなわち、何れの部品も出力軸12を基準に取り付けられた構成であり、クラッチベース20と入力ディスク28との間の一定スペース(一定の軸方向寸法間)にクラッチディスク38が設けられた構成であるため、前述した如きクラッチディスク38の軸線方向移動に要する力(クラッチ解除力)の設定を容易に行うことができる。しかもこの場合、入力ディスク28の噛合係合部34及び噛合係合部36と、クラッチディスク38の噛合被係合部50及び噛合被係合部52とは、それぞれ側壁部分が傾斜面とされているため、当該傾斜面の傾斜角度及びウエーブワッシャ56の抗力(弾性変形力)に基づいて、前記クラッチ解除力を容易に設定することができる。
またさらに、このクラッチ装置10では、弾性部材をウエーブワッシャ56とし、クラッチディスク38の軸線方向移動に対して付与される抗力を、クラッチディスク38の軸線方向移動によって弾性圧縮変形される当該ウエーブワッシャ56の復元力としたので、過大外力(荷重)作用時には、クラッチディスク38がウエーブワッシャ56の弾性圧縮変形に伴う復元力に打ち勝って軸線方向移動することにより、クラッチディスク38(噛合被係合部50、52)と入力ディスク28(噛合係合部34、36)との係合状態が解除され、両者が相対的に空転可能となる。
このように、弾性部材をウエーブワッシャ56とすることにより、グリス等の油分に侵されることがなく、これによっても劣化が防止される。
また、クラッチディスク38の軸線方向移動に対して付与される抗力を、弾性圧縮変形される当該ウエーブワッシャ56の復元力としたので、クラッチディスク38の軸線方向移動に要する力(すなわち、クラッチ解除力)が安定し、クラッチ性能が向上する。またさらに、弾性部材をウエーブワッシャ56とすることにより配置スペースを小さく(薄く)することが可能になり、装置を小型化することができる。
さらに、このクラッチ装置10では、クラッチディスク38の収容部54にウエーブワッシャ56が収容配置され、しかも、収容部54はクラッチベース20によって閉塞状態とされているため、出力軸12周りにクラッチベース20やクラッチディスク38と位置ズレ無くウエーブワッシャ56が配置されることとなり、両部材に安定した押圧力(弾性圧縮変形力)を作用させることができる。
以上説明した如く、本第1の実施の形態に係るクラッチ装置10では、出力軸12がロックされた場合などの万一の場合には各部品の損傷やモータの焼損等を防止することができるのみならず、通常の動作時においては摺動ロスが少なく回転力伝達効率が高効率となり、異音の発生も防止されて静粛となる。しかも、このクラッチ装置10は、「出力軸12のサブアッセンブリ」として完結する構成のものであり、1つの部品として取扱いができる。
なお、前述した第1の実施の形態においては、弾性部材としてウエーブワッシャ56を適用した構成として説明したが、弾性部材としてはこれに限るものではない。
例えば、図3に示すクラッチ装置11の如く、弾性部材として円盤状のゴム部材58を適用し、クラッチディスク38の軸線方向移動に対して付与される抗力を、弾性圧縮変形される当該ゴム部材58の復元力とする構成としてもよい。このように弾性部材をゴム部材58とすることにより、通常動作時(通常の使用状態)は、弾性圧縮変形の無いゴム部材58が所謂スペーサとしてクラッチディスク38(噛合被係合部50、52)と入力ディスク28(噛合係合部34、36)との係合状態維持に寄与する。また、通常動作時においてクラッチディスク38(噛合被係合部50、52)と入力ディスク28(噛合係合部34、36)との係合状態維持のために押圧力を付与しない設定とすることができるので、変形などに伴う長期ストレスの作用が低減されて劣化が防止される。
またさらに、このようなウエーブワッシャ56やゴム部材58に限らず、圧縮コイルスプリングや皿バネ等であってもよい。
さらに、これらの場合において、通常状態(クラッチディスク38がクラッチベース20の側へ向けて移動しようとしない状態)において、既に前記ゴム部材58等の各弾性部材がクラッチベース20とクラッチディスク38との間で押圧力を付与するように構成してもよく、あるいは、クラッチディスク38がクラッチベース20の側へ向けて移動したときだけに(噛合係合部34及び噛合係合部36が、噛合被係合部50及び噛合被係合部52から抜け出そうとした場合に)、前記ゴム部材58等の各弾性部材がこれに抗する付勢力(復元力)を発揮するように構成してもよい。
次に、本発明に他の実施の形態を説明する。
なお、前記第1の実施の形態と基本的に同一の部品には、前記第1の実施の形態と同一の符号を付与しその説明を省略する。
[第2の実施の形態]
図4には、第2の実施の形態に係るクラッチ装置60の構成が分解斜視図にて示されている。
クラッチ装置60は、前記第1の実施の形態に係るクラッチ装置10と基本的に同じ構成であるが、クラッチベース20に代えてクラッチベース62を備えると共に、クラッチディスク38に代えてクラッチディスク64を備えている。
クラッチベース62は、出力軸12に対応した支持孔66が形成された底壁68と、この底壁68の周縁から出力軸12の軸線方向に沿って立設形成された周壁70と、を有する有底円筒形に形成されており、支持孔66が出力軸12の回止部14に固着されることで常に出力軸12と一体回転する。また、周壁70の開口側周縁部分には、案内被嵌入部72及び案内被嵌入部74が形成されている。
一方、クラッチディスク64は、出力軸12に対応した軸孔76が形成された円盤状に形成されており、軸孔76に出力軸12(相対回転軸部18)が挿通することで、入力ディスク28に対し出力軸12の軸線方向他側(クラッチベース62の側)に位置すると共に出力軸12に対して軸線方向に沿って移動可能に支持されている。また、クラッチディスク64の周縁には、クラッチベース62の案内被嵌入部72及び案内被嵌入部74に対応して、径方向(出力軸12の径方向)に沿って突出する一対の嵌入部78及び嵌入部80が互いに周方向おいて反対側(180度反対側)に設けられている。これらの嵌入部78、嵌入部80がそれぞれクラッチベース62の案内被嵌入部72、案内被嵌入部74に軸線方向に沿って相対移動可能に嵌入している(入り込んでいる)。これにより、クラッチディスク64は、常にクラッチベース62(すなわち、出力軸12)と一体的に回転すると共に、クラッチベース62に対して出力軸12の軸線方向に沿って相対移動可能となっている。
また、クラッチディスク64の裏面側(入力ディスク28の側、出力軸12の軸線方向一側)には、前記第1の実施の形態と同様の、一対二組の噛合被係合部50及び噛合被係合部52が凹設して(窪んで)設けられている。
またさらに、クラッチベース62の内部、すなわち底壁68及び周壁70によって形成される内部スペースは収容部82とされており、当該収容部82を閉塞する状態で、クラッチディスク64がクラッチベース62の周壁70の開口側周縁部分に入り込んでいる。
前記収容部82には、弾性部材としてのゴム部材84が収容されている。ゴム部材84は、クラッチベース62(底壁68)とクラッチディスク64との間に配置されており、入力ディスク28の噛合係合部34、36とクラッチディスク64の噛合被係合部50、52との係合状態からのクラッチディスク64の出力軸12軸線方向他側(クラッチベース62の側)へ向けた軸線方向移動に対して、所定の抗力(クラッチディスク64の軸線方向移動によって弾性圧縮変形された際の復元力)を付与するようになっている。
他の構成部品は、前記第1の実施の形態に係るクラッチ装置10と同じ構成である。
次に、本第2の実施の形態の作用を説明する。
上記構成のクラッチ装置60は、前記第1の実施の形態に係るクラッチ装置10と同様の作用効果を奏する。
すなわち、通常の使用状態では、入力ディスク28に駆動力が入力されて出力軸12周りに回転すると、噛合係合部34、36及び噛合被係合部50、52を介して入力ディスク28からクラッチディスク64へ回転駆動力が伝達される。そして、クラッチディスク64は、出力軸12に固定されたクラッチベース62と係合しているため、クラッチディスク64へ伝達された回転駆動力はクラッチディスク64からクラッチベース62へと伝達されて、このクラッチディスク64及びクラッチベース62と一体で出力軸12が回転される。
ここで、このクラッチ装置60においても、通常の使用状態(回転状態)では、前述の如く入力ディスク28から出力軸12への回転駆動力の伝達に際し、各部の何れの箇所においても部材の摺動を発生させることなく回転駆動力を伝達することができる。換言すれば、入力ディスク28の噛合係合部34、36とクラッチディスク64の噛合被係合部50、52との係合状態維持のために、クラッチディスク64の前記係合状態からの軸線方向移動に対して付与されるゴム部材84による抗力が、摺動摩擦力として無駄に消費されることがない。したがって、回転伝達効率の低下を防止できる。また、部材の摺動を発生させることなく回転駆動力を伝達することができるため、部材の摺動に伴う異音の発生も防止される。
またしかも、前述の如く、噛合係合部34、36と噛合被係合部50、52との係合状態維持のために当該係合状態からのクラッチディスク64の軸線方向移動に対して付与されるゴム部材84による抗力は、出力軸12に固定されたクラッチベース62と、出力軸12に対して軸線方向一側へ抜止め状態で支持された入力ディスク28とで受け止められる。すなわち、出力軸12に取り付けられた2つの構成部品(クラッチベース62と入力ディスク28)によって、前記係合状態維持のための力が受け止められる。すなわち、本クラッチ装置60は、「出力軸12のサブアッセンブリ」として完結する構成のものであり、ハウジングなどの他の部品等に依存して完結する構成のものでない。したがって、本クラッチ装置60を、「出力軸12サブアッセンブリ」とした1つの部品として取扱いができる。
一方、例えば、出力軸12に過大外力(荷重)が作用すると、出力軸12が逆転もしくは拘束されることになる。すると、出力軸12(クラッチベース62)と一体回転するクラッチディスク64には、クラッチベース62を介して、入力ディスク28と相対回転する方向に回転力が作用する。ここで、入力ディスク28の噛合係合部34及び噛合係合部36と、クラッチディスク64の噛合被係合部50及び噛合被係合部52とは、それぞれ側壁部分が傾斜面とされているため(断面形状が所謂「台形」に形成されているため)、入力ディスク28とクラッチディスク64との間の相対回転力によって、クラッチディスク64に出力軸12軸線方向に沿った(クラッチベース62へ向いた)分力が生じる。この相対回転力(分力)が所定値以上となると、ゴム部材84により付与される抗力に打ち勝って、クラッチディスク64が出力軸12軸線方向に強制的に移動されて前記係合状態が解除される(入力ディスク28の噛合係合部34、36がクラッチディスク64の噛合被係合部50、52から抜け出して嵌合が解除される)。これにより、クラッチディスク64すなわち出力軸12は、入力ディスク28に対して空転する。
これにより、各部品の損傷や入力ディスク28に接続された例えばモータの焼損等を防止することができる。またしかも、このような過大な外力(荷重)の作用を想定した各部品の強度設定を行う必要がなくなる。
以上の如く、本第2の実施の形態に係るクラッチ装置60は、前述した第1の実施の形態に係るクラッチ装置10と同様の効果を奏するものであり、出力軸12がロックされた場合などの万一の場合には各部品の損傷やモータの焼損等を防止することができるのみならず、通常の動作時においては摺動ロスが少なく回転力伝達効率が高効率となり、異音の発生も防止されて静粛となる。しかも、このクラッチ装置60は、「出力軸12のサブアッセンブリ」として完結する構成のものであり、1つの部品として取扱いができる。
[第3の実施の形態]
図5及び図6には、第3の実施の形態に係るワイパモータ90の全体構成が斜視図にて示されており、図7には、このワイパモータ90の構成が分解斜視図にて示されている。さらに、図8及び図9には、ワイパモータ90の主要部分の構成が斜視図にて示されており、図10乃至図14には、ワイパモータ90の構成が断面図にて示されている。
ワイパモータ90は、車両のワイパ装置を駆動するためのワイパ駆動用モータとされており、モータ本体92と、運動変換機構94と、及びクラッチ装置10とによって構成されている。
クラッチ装置10は、前述した第1の実施の形態に係るクラッチ装置10が適用されており、ハウジング96内に収容支持されて出力軸12が外部に突出して設けられている。
一方、モータ本体92のヨークハウジング98は、軸線方向一端部が絞り加工された有底でしかも回転軸110の直交方向断面が出力軸12の軸線方向を短手方向とする偏平形状の筒状に形成されており、開口側がハウジング96に一体的に取り付けられている。ヨークハウジング98の底壁100には、軸受102が配置されている。一方、ヨークハウジング98の他端部には、絶縁樹脂製のエンドハウジング104が固定されている。
また、エンドハウジング104の中央部分には軸受106が配置されている。この軸受106及びヨークハウジング98の軸受102とによってアーマチャ108の回転軸110が支持されアーマチャ108がヨークハウジング98内に収容されている。アーマチャ108に対向するヨークハウジング98の内周壁にはマグネット112が固着されている。
エンドハウジング104には、ブラシケースを介してブラシ114が保持されている。ブラシ114は角柱状に形成されており、アーマチャ108のコンミテータ116に圧接されている。また、ブラシ114からは連結用ピッグテール118が引き出されており、ピッグテール118の先端部は、給電用の接続線に接続されている。
モータ本体92(アーマチャ108)の回転軸110は、カップリング120によって運動変換機構94のウォームギヤ122に連結されている。
ウォームギヤ122は、その一端部が軸受124を介してハウジング96に回転自在に支持されると共に、他端部は軸受126を介してハウジング96に回転自在に支持されている。このウォームギヤ122は、ウォームホイール128に噛み合っている。
ウォームホイール128は、ウォームギヤ122に噛合した状態でハウジング96内に収容されており、ウォームギヤ122(回転軸110)の軸線と垂直な回転軸130周りに回転する。
また、ウォームホイール128には、揺動部材としてのセクタギヤ132が連結されている。セクタギヤ132は、図10及び図12に示す如く、ウォームホイール128の回転軸130と異なる位置(径方向に変位した位置)に設けられた支軸134によって一端が回転自在に連結されると共に、他端には歯部136が形成されており、当該歯部136がクラッチ装置10の入力ディスク28に噛合している。またさらに、セクタギヤ132には、保持レバー138の一端が支軸140によって連結されており、さらに、保持レバー138の他端は入力ディスク28の回転中心部分(すなわち、出力軸12)に回転自在に連結されている。これにより、支軸140と出力軸12との軸間ピッチが維持され、セクタギヤ132と入力ディスク28との噛合い状態が維持される。こうして、ウォームホイール128が回転することによってセクタギヤ132が往復揺動され、このセクタギヤ132の往復揺動動作によって、入力ディスク28が往復回転駆動される構成である。
またここで、クラッチ装置10は、前記第1の実施の形態に係るクラッチ装置10が適用されたものであるが、クラッチベース20に設けられた嵌入部24及び嵌入部26のうち、径方向へ長く突出する一方の嵌入部26に対応して、ハウジング96にはストッパ突起142が形成されている。
ストッパ突起142は円弧状に形成されており、嵌入部26の回動軌跡内に位置している。ストッパ突起142の周方向一端部及び周方向他端部は、それぞれ回転制限部144、回転制限部146とされている。すなわち、ストッパ突起142の回転制限部144及び回転制限部146は、それぞれ嵌入部26に当接可能となっており、嵌入部26がストッパ突起142の回転制限部144あるいは回転制限部146に当接した状態では、それ以上のクラッチベース20の回転が阻止される構成である。したがって、入力ディスク28の回転駆動力よってクラッチベース20(出力軸12)がクラッチディスク38と共に回転し嵌入部26がストッパ突起142の回転制限部144あるいは回転制限部146に当接した後には、それ以後のクラッチベース20(出力軸12)の回転が強制的に阻止されるため、入力ディスク28が相対回転(空回り)する構成となっている。
また、前述した如く、入力ディスク28の噛合係合部34及び噛合係合部36が、クラッチディスク38の噛合被係合部50及び噛合被係合部52にそれぞれ入り込むことで、入力ディスク28からクラッチディスク38へ回転力が伝達されるが、入力ディスク28の噛合係合部34及び噛合係合部36が、クラッチディスク38の噛合被係合部50及び噛合被係合部52から抜け出した状態でも(クラッチディスク38がクラッチベース20の側へ向けて移動した状態でも)、前記ウエーブワッシャ56が発揮する付勢力(復元力)によって、入力ディスク28の噛合係合部34及び噛合係合部36とクラッチディスク38の底壁42との間に所定の摩擦力が生じ、これにより、入力ディスク28とクラッチディスク38とが供回りするようにウエーブワッシャ56の付勢力等が設定されている。
さらに、以上の構成の運動変換機構94及びクラッチ装置10を収容したハウジング96の裏面側は、カバープレート148によって閉鎖されている。
またさらに、入力ディスク28によって往復回転駆動される出力軸12には、ワイパ(図示省略)が直接的に連結されており、または、リンクやロッド等を介して間接的に連結されており、当該ワイパが出力軸12の往復回転に伴って往復駆動する構成である。
次に、本第3の実施の形態の作用を説明する。
上記構成のワイパモータ90では、モータ本体92(アーマチャ108)が回転すると、ウォームギヤ122を介してウォームホイール128へ回転力が伝達されてウォームホイール128が回転する。ウォームホイール128が回転すると、このウォームホイール128の連結されたセクタギヤ132が往復揺動され、このセクタギヤ132の往復揺動動作によって、入力ディスク28が往復回転駆動される。
ここで、通常の使用状態では、前述した第1の実施の形態において説明した如く、クラッチ装置10の入力ディスク28の噛合係合部34、噛合係合部36が、クラッチディスク38の噛合被係合部50、噛合被係合部52と係合しており(互いに嵌り合っており)、しかも、この噛合係合部34、36と噛合被係合部50、52の係合状態からクラッチディスク38が出力軸12軸線方向に移動しようとしてもウエーブワッシャ56によって所定の抗力が付与されるので、前記係合状態が維持される。また、クラッチディスク38の案内被嵌入部46及び案内被嵌入部48には、クラッチベース20の嵌入部24及び嵌入部26がそれぞれ出力軸12の軸線方向に沿って相対移動可能に嵌入している(入り込んでいる)。このため、図8、図11及び図13に示す如く、クラッチ装置10は「クラッチ結合状態」となっており、入力ディスク28が往復回転駆動されると、噛合係合部34、36及び噛合被係合部50、52を介して入力ディスク28からクラッチディスク38へ回転駆動力が伝達される。そして、クラッチディスク38は、出力軸12に固定されたクラッチベース20と係合しているため、クラッチディスク38へ伝達された回転駆動力はクラッチディスク38からクラッチベース20へと伝達されて、このクラッチディスク38及びクラッチベース20と一体で出力軸12が回転される。
これにより、出力軸12に連結されたワイパが出力軸12の往復回転に伴って往復駆動する。
ここで、このワイパモータ90では、通常の使用状態(回転状態)においては、前述の如くクラッチ装置10の入力ディスク28から出力軸12への回転駆動力の伝達に際し、各部の何れの箇所においても部材の摺動を発生させることなく回転駆動力を伝達することができる。換言すれば、入力ディスク28の噛合係合部34、36とクラッチディスク38の噛合被係合部50、52との係合状態維持のために、クラッチディスク38の前記係合状態からの軸線方向移動に対して付与されるウエーブワッシャ56による抗力が、摺動摩擦力として無駄に消費されることがない。したがって、回転伝達効率の低下を防止できる。また、部材の摺動を発生させることなく回転駆動力を伝達することができるため、部材の摺動に伴う異音の発生も防止される。
一方、例えば、ワイパを介して出力軸12に過大外力(荷重)が作用すると、出力軸12が逆転もしくは拘束されることになる。すると、出力軸12(クラッチベース20)と一体回転するクラッチディスク38には、クラッチベース20を介して、入力ディスク28と相対回転する方向に回転力が作用する。ここで、入力ディスク28の噛合係合部34及び噛合係合部36と、クラッチディスク38の噛合被係合部50及び噛合被係合部52とは、それぞれ側壁部分が傾斜面とされているため(断面形状が所謂「台形」に形成されているため)、入力ディスク28とクラッチディスク38との間の相対回転力によって、クラッチディスク38に出力軸12軸線方向に沿った(クラッチベース20へ向いた)分力が生じる。すなわち、入力ディスク28とクラッチディスク38との間の相対回転力の一部が、クラッチディスク38を出力軸12軸線方向に移動させて入力ディスク28の噛合係合部34、36とクラッチディスク38の噛合被係合部50、52との係合を解除しようとする分力として作用する。この相対回転力(分力)が所定値以上となると、ウエーブワッシャ56により付与される抗力に打ち勝って、クラッチディスク38が出力軸12軸線方向に強制的に移動されて前記係合状態が解除される(入力ディスク28の噛合係合部34、36がクラッチディスク38の噛合被係合部50、52から抜け出して嵌合が解除される)。すなわち、図9及び図14に示す如く、クラッチ装置10は「クラッチ解除状態」となる。これにより、クラッチディスク38すなわち出力軸12は、入力ディスク28に対して空転する。
これにより、クラッチ装置10の各部品、あるいは入力ディスク28に接続されたセクタギヤ132や保持レバー138等の運動変換機構94の各部品やウォームギヤ122及びウォームホイール128の損傷、さらには、モータ本体92の焼損等を防止することができる。またしかも、このような過大な外力(荷重)の作用を想定した各部品の強度設定を行う必要がなくなる。
このように、本第3の実施の形態に係るワイパモータ90では、前記第1の実施の形態に係るクラッチ装置10が有する効果と同様の効果を奏し、出力軸12がロックされた場合などの万一の場合には、出力軸12以降の駆動力伝達部品(セクタギヤ132、ウォームホイール128、ウォームギヤ122、モータ本体92等の出力軸12からアーマチャ108側に向けての構成)を保護することができると共に、モータ本体92の焼損等をも防止することができ、しかも、出力軸12に連結されたワイパもクラッチ装置10による空転により衝撃が吸収されるので破損から保護することもできる。
さらに、通常の動作時においては、摺動ロスが少なく回転力伝達効率が高効率となり、異音の発生も防止されて静粛なワイパ駆動用モータとなる。また、入力ディスク28は、運動変換機構94(ウォームギヤ122、ウォームホイール128、及びセクタギヤ132)によって減速往復回転駆動されるため、出力軸12を大きなトルクで駆動することができ、出力軸12に連結されたワイパを好適に往復駆動することができる。
したがって、本ワイパモータ90は、ワイパを介して出力軸12に過大外力(荷重)が作用する(例えば、車両の屋根に堆積した積雪がガラス面に沿って略垂直落下してワイパアームに当たり大きな外力が当該ワイパモータ90に作用する場合等)蓋然性が高い車両、例えばキャブオーバータイプのコックピットを有するトラックや建設機械用のワイパ駆動用モータや車両のリヤウインドを払拭するためのリヤワイパ用モータとしても好適である。
なお、前述した第3の実施の形態においては、ワイパモータ90は、第1の実施の形態に係るクラッチ装置10が適用されて構成されたものとして説明したが、これに限らず、前記図4に示した第2の実施の形態に係るクラッチ装置60を適用して構成してもよい。
この場合であっても、前述したワイパモータ90と同様の作用・効果を奏する。また、前記図4に示した第2の実施の形態に係るクラッチ装置60を適用して構成した場合に、ストッパ突起142の回転制限部144、回転制限部146に当接する突起71(図4参照)を、クラッチベース62の周壁70に形成する構成とすることができ、これによってクラッチベース62(出力軸12)の回転を所定範囲で制限することができる。
[第4の実施の形態]
図15には、第4の実施の形態に係るモータ装置150の構成が断面図にて示されている。
モータ装置150は、前記第3の実施の形態に係るワイパモータ90と基本的に同じ構成であり、モータ本体92と、運動変換機構152と、及びクラッチ装置154とによって構成されている。
モータ本体92は、前述した第3の実施の形態に係るモータ本体92と同様構成であるが、第3の実施の形態ではモータ本体92(アーマチャ108)を同一方向に連続回転させるものであり、本実施の形態ではストッパ突起142の回転制限部144、回転制限部146の間で正逆回転駆動させるものである。
一方、運動変換機構152は、前記第3の実施の形態におけるセクタギヤ132や保持レバー138は省略されており、ウォームギヤ122及びウォームホイール128によって構成されている。
さらに、ウォームホイール128は、クラッチ装置154における「入力ディスク」を兼ねた構成、すなわち、ウォームホイール128自体がクラッチ装置154における「入力ディスク」として機能する構成となっている。換言すれば、クラッチ装置154は、前記第1の実施の形態や第3の実施の形態におけるクラッチ装置10と基本的に同一の構成であるが、その入力ディスク28に、「ウォームホイール歯」を形成しかつウォームギヤ122に噛合させた構成となっている。
このモータ装置150では、モータ本体92(アーマチャ108)が回転すると、ウォームギヤ122を介してウォームホイール128へ回転力が伝達されてウォームホイール128が回転する。
ここで、ウォームホイール128は、クラッチ装置154における「入力ディスク」を兼ねた構成(ウォームホイール128自体がクラッチ装置154における「入力ディスク」として機能する構成)となっているため、通常の使用状態では、前述した第3の実施の形態において説明した如く、ウォームホイール128と一体で出力軸12が回転される。
このモータ装置150においても、通常の使用状態(回転状態)においては、前述の如くクラッチ装置154における回転駆動力の伝達に際し、各部の何れの箇所においても部材の摺動を発生させることなく回転駆動力を伝達することができるため、回転伝達効率の低下を防止できる。また、部材の摺動を発生させることなく回転駆動力を伝達することができるため、部材の摺動に伴う異音の発生も防止される。
一方、例えば、出力軸12に過大外力(荷重)が作用すると、出力軸12が逆転もしくは拘束されることになる。すると、前述した第3の実施の形態において説明した如く、出力軸12がウォームホイール128に対して空転する。これにより、クラッチ装置154の各部品、あるいはウォームホイール128に接続されたウォームギヤ122等の運動変換機構152の各部品の損傷や、モータ本体92の焼損等を防止することができる。またしかも、このような過大な外力(荷重)の作用を想定した各部品の強度設定を行う必要がなくなる。
このように、本第4の実施の形態に係るモータ装置150では、前記第1の実施の形態に係るクラッチ装置10が有する効果、あるいは、前記第3の実施の形態に係るワイパモータ90が有する効果と同様の効果を奏し、出力軸12がロックされた場合などの万一の場合には、出力軸12以降の駆動力伝達部品(ウォームホイール128、ウォームギヤ122、モータ本体92等の出力軸12からアーマチャ108側に向けての構成)を保護することができると共に、モータ本体92の焼損等をも防止することができる。
さらに、通常の動作時においては、摺動ロスが少なく回転力伝達効率が高効率となり、異音の発生も防止されて静粛なモータ装置となる。しかも、ウォームホイール128(クラッチ装置154における「入力ディスク」)は、モータ本体92の回転軸110に設けたウォームギヤ122に噛合して減速回転されるため、出力軸12を大きなトルクで駆動することができ、例えば、車両のワイパ装置やサンルーフ装置の駆動源として好適である。
[第5の実施の形態]
図16には、本発明の第5の実施の形態に係るクラッチ装置210が適用されて構成されたワイパモータ290の全体構成が断面図にて示されている。
ワイパモータ290は、全体としては前記第1の実施の形態に係るワイパモータ90と同様の構成とされているが、クラッチ装置210を備えている。
図17及び図18に示す如く、クラッチ装置210が適用された出力軸12は、先端側(図17及び図18では上側)が断面円形に形成されて円柱部213とされ、基端側(図17及び図18では下側)が断面略矩形(周方向において互いに180度反対側に形成された一対の平面と、これらの平面に連続する一対の円周面とを備えた所謂「断面ダブルDカット形状」)に形成されて相対回転規制部214とされている。
出力軸12の円柱部213は、図16に示す如く、ハウジング96に固定された軸受部材250によって回転自在に支持されている。一方、相対回転規制部214の先端側(円柱部213側)には、前記円周面とされた部分に軸線方向に沿った複数の突条が形成されて回止部216が設けられており、基端部突端には抜止部218が設けられている。
相対回転規制部214の回止部216には、出力軸12の径方向に大径とされた大径部としての係合ベース220が出力軸12と同軸的に固着されている。係合ベース220は、中央部分に出力軸12の相対回転規制部214に対応する断面略矩形(断面ダブルDカット形状)の支持孔222が形成された円盤状に形成されており、支持孔222が回止部216に固着されることで常に出力軸12と一体回転する(出力軸12に対して軸線方向移動不能とされる)。また、係合ベース220の周縁には、径方向(出力軸12の径方向)に沿って突出するストッパ部226が設けられている。このストッパ部226は、ハウジング96に形成された後述するストッパ突起142に対応している。
なお、前述の如く出力軸12と係合ベース220とを別体に形成して固着する構成に限らず、例えば、冷間鍛造等により出力軸12と係合ベース220とを一体に形成する構成(出力軸にツバ状の大径部を一体に形成する構成)としてもよい。
一方、相対回転規制部214の抜止部218には、入力ディスクとしての歯車部材228が出力軸12と同軸的に取り付けられている。歯車部材228は、中央部分に断面円形の軸孔230が形成された円筒状に形成されており、軸孔230に出力軸12の抜止部218が挿通すると共に抜止部218の突端に取り付けられた抜止めクリップ32によって抜け止めされることで、出力軸12に対して軸線方向一側(係合ベース220と反対側)へ抜止め状態でかつ回転自在に支持されている。この歯車部材228は、本第5の実施の形態では、粉末合金を成型金型に入れ、圧縮成形し、加熱焼結する所謂「粉末冶金法」により製造された焼結金属であり、該焼結金属内に潤滑油が含油されている。
歯車部材228の軸線方向一端側(係合ベース220とは反対側)の外周には、ギヤ歯234が形成されている。このギヤ歯234は、前述した揺動機構94のセクタギヤ132の歯部136に噛合しており、セクタギヤ132から駆動力が入力されると、歯車部材228が出力軸12周りに回転するようになっている。
また、図18に示す如く、歯車部材228には、ギヤ歯234の軸線方向他端側(係合ベース220側、前述した保持レバー138とは反対側)において、ギヤ歯234の端部を連結する連結壁235が形成されている。この連結壁235は、保持レバー138と共にセクタギヤ132の歯部136を厚さ方向両側で挟み込んでいる(連結壁235が、歯部136厚さ方向一方側の端面に対向すると共に、保持レバー138が歯部136の厚さ方向他方側の端面に対向することで、セクタギヤ132の厚さ方向の移動が制限されている)。
さらに、歯車部材228は、連結壁235を介してギヤ歯234とは反対側の外周が、出力軸12と同心の円周面236とされており、この円周面236は、ハウジング96に固定された軸受部材252によって回転可能に保持(支持)されている。すなわち、歯車部材228は、ギヤ歯234の軸線方向他端側に出力軸12と同軸的な円盤状のツバ部を備えており、このツバ部の外周面(円周面236)が、軸受部材252に支持されている。
またさらに、歯車部材228の軸線方向他端側(係合ベース220の側、出力軸12の軸線方向他側)の端面には、その周縁部に係合ベース220側へ向けて突出する4つの係合突起237が設けられている。これら4つの係合突起237は、歯車部材228に対して同心状に設けられると共に、歯車部材228の周方向に沿って互いに等間隔にならないように(周方向に沿って隣接する間隔がそれぞれ異なるように)設けられている。これらの係合突起237は、後述する係合プレート238に対応している。
一方、出力軸12の相対回転規制部214には、前述した係合ベース220と歯車部材228との間において、クラッチディスクとしての係合プレート238が出力軸12と同軸的に支持されている。係合プレート238は、相対回転規制部214に対応する断面略矩形(断面ダブルDカット形状)の軸孔240が中央部分に形成された円盤状に形成されており、軸孔240に出力軸12(相対回転規制部218)が挿通することで、歯車部材228に対し出力軸12の軸線方向他側(係合ベース220の側)に位置すると共に、出力軸12に対して軸線回りに回転不能でかつ軸線方向に沿って移動可能に支持されている。これにより、係合プレート238は、常に出力軸12と一体的に回転すると共に、歯車部材228に対して出力軸12の軸線方向に沿って相対移動可能となっている。この係合プレート238は、本第5の実施の形態では、前述した所謂「粉末冶金法」により製造された焼結金属であり、該焼結金属内に潤滑油が含油されている。
係合プレート238の裏面側(歯車部材228の側、出力軸12の軸線方向一側)には、その周縁部において4つの係合凹部242が凹設して(窪んで)設けられている。これらの係合凹部242は、歯車部材228の前述した4つの係合突起237に対応しており、係合プレート238に対して同心状に設けられると共に、係合プレート238の周方向に沿って互いに等間隔にならないように(周方向に沿って隣接する間隔がそれぞれ異なるように)設けられている。
これら4つの係合凹部242には、歯車部材228の4つの係合突起237がそれぞれ嵌入可能となっている(すなわち、係合プレート238は、歯車部材228に噛合係合可能となっている)。これにより、通常の使用状態(回転状態)では、歯車部材228が回転した場合にこの歯車部材228の回転力が係合プレート238へ伝達されて係合プレート238が供に回転される構成である。
但し、前述した如く、各係合突起237と各係合凹部242とは、それぞれ歯車部材228及び係合プレート238の周方向に沿って等間隔にならないように(隣接する間隔がそれぞれ異なるように)設けられているため、係合プレート238(出力軸12及びワイパ)と歯車部材228とは、周方向に沿った相対関係位置が所定の一位置にあるときにのみ噛合係合するようになっている。すなわち、上記所定の一位置以外の位置では、1個の係合突起237が係合凹部242に対応しても、他の3個の係合突起237は係合凹部242に対応しないようになっている。したがって、係合突起237が係合凹部242から抜け出した状態では、係合プレート238は、少なくとも3個の係合突起237を介して歯車部材228と接触するようになっている(3点支持状態となる構成である)。
またここで、歯車部材228の係合突起237と、係合プレート238の係合凹部242とは、それぞれ側壁部分が傾斜面とされている(換言すれば、断面形状が所謂「台形」に形成されている)。これにより、歯車部材228が回転しこの歯車部材228から係合プレート238への回転伝達力によって、係合プレート238に出力軸12軸線方向に沿った(係合ベース220へ向いた)分力が生じる構成となっている。
なお、前述の如く歯車部材228の係合突起237と、係合プレート238の係合凹部242のそれぞれの側壁を共に「傾斜面」とする構成に限らず、少なくとも何れか一方に、出力軸12の周方向に対して傾斜する傾斜面を形成する構成としてもよい。この場合であっても、歯車部材228から係合プレート238への回転伝達力によって係合プレート238に出力軸12軸線方向に沿った分力を生じせしめることができる。
またさらに、係合プレート238と係合ベース220との間には、出力軸12回りに巻き回されて出力軸12の軸線方向に圧縮可能とされた圧縮コイルスプリング244が配置されている。この圧縮コイルスプリング244は、歯車部材228の係合突起237と、係合プレート238の係合凹部242との係合状態からの係合プレート238の出力軸12軸線方向他側(係合ベース220の側)へ向けた軸線方向移動に対して、所定の抗力(係合プレート238の軸線方向移動によって弾性変形された際の復元力)を付与するようになっている。
換言すれば、通常は、歯車部材228の係合突起237が、係合プレート238の係合凹部242に入り込むと共に、圧縮コイルスプリング244はこの嵌入状態を維持しており、歯車部材228の係合突起237が、係合プレート238の係合凹部242から抜け出そうとして係合プレート238が係合ベース220の側へ向けて軸線方向移動しようとすると、これに抗する付勢力(復元力)を発揮するように構成されている。
また、前述した如く、歯車部材228の係合突起237が、係合プレート238の係合凹部242にそれぞれ入り込むことで、歯車部材228から係合プレート238へ回転力が伝達されるが、歯車部材228の係合突起237が、係合プレート238の係合凹部242から抜け出した状態でも(係合プレート238が係合ベース220の側へ向けて移動した状態でも)、前記圧縮コイルスプリング244が発揮する付勢力(復元力)によって、歯車部材228の係合突起237と、係合プレート238の裏面との間に所定の摩擦力が生じ、これにより、歯車部材228と係合プレート238とが供回りするように圧縮コイルスプリング244の付勢力等が設定されている。
なお、通常状態(係合プレート238が係合ベース220の側へ向けて移動しようとしない状態)において、既に圧縮コイルスプリング244が係合ベース220と係合プレート238との間で押圧力が付与されるように構成してもよく、あるいは、係合プレート238が係合状態から係合ベース220の側へ向けて移動したときだけに(係合突起237が、係合凹部242から抜け出そうとした場合に)、圧縮コイルスプリング244がこれに抗する付勢力(復元力)を発揮するように構成してもよい。
一方、図16に示す如く、ハウジング96には、前述した係合ベース220のストッパ部226に対応して、ストッパ突起142が形成されている。
ストッパ突起142は円弧状に形成されており、ストッパ部226の回転軌跡内に位置している。ストッパ突起142の周方向一端部及び周方向他端部は、それぞれ回転制限部144、回転制限部146とされている。すなわち、ストッパ突起142の回転制限部144及び回転制限部146は、それぞれストッパ部226に当接可能となっており、ストッパ部226がストッパ突起142の回転制限部144あるいは回転制限部146に当接した状態では、それ以上の係合ベース220(出力軸12)の回転が阻止される構成である。したがって、歯車部材228の回転駆動力によって、係合ベース220(出力軸12)が係合プレート238と共に回転し、ストッパ部226がストッパ突起142の回転制限部144あるいは回転制限部146に当接した後には、それ以後の係合ベース220(出力軸12)の回転が強制的に阻止されるため、歯車部材228が相対回転(空回り)する構成となっている。
さらに、歯車部材228によって往復回転駆動される出力軸12には、ワイパ(図示省略)が直接的に連結されており、またはリンクやロッド等を介して間接的に連結されており、当該ワイパが出力軸12の往復回転に伴って往復駆動する構成である。
次に、本第5の実施の形態の作用を説明する。
上記構成のワイパモータ290では、モータ本体92(アーマチャ108)が回転すると、ウォームギヤ122を介してウォームホイール128へ回転力が伝達されてウォームホイール128が回転する。ウォームホイール128が回転すると、このウォームホイール128に連結されたセクタギヤ132が往復揺動され、このセクタギヤ132の往復揺動動作によって、歯車部材228が往復回転駆動される。
ここで、通常の使用状態では、歯車部材228の係合突起237が、係合プレート238の係合凹部242と係合しており(互いに嵌り合っており)、しかも、この係合突起237と係合凹部242の係合状態から係合プレート238が出力軸12軸線方向に移動しようとしても圧縮コイルスプリング244によって所定の抗力が付与されるので、前記係合状態が維持される。また、係合プレート238は、出力軸12に対して軸線回りに回転不能とされている。このため、歯車部材228が往復回転駆動されると、係合突起237及び係合凹部242を介して歯車部材228から係合プレート238へ回転駆動力が伝達されて、この係合プレート238と一体で出力軸12が回転される。
これにより、出力軸12に連結されたワイパが出力軸12の往復回転に伴って往復駆動する。
一方、例えば、ワイパを介して出力軸12に過大外力(荷重)が作用すると、出力軸12が逆転もしくは拘束されることになる。すると、出力軸12と一体回転する係合プレート238には、歯車部材228と相対回転する方向に回転力が作用する。ここで、歯車部材228の係合突起237と係合プレート238の係合凹部242とは、それぞれ側壁部分が傾斜面とされているため(断面形状が所謂「台形」に形成されているため)、歯車部材228と係合プレート238との間の相対回転力によって、係合プレート238に出力軸12軸線方向に沿った(係合ベース220へ向いた)分力が生じる。すなわち、歯車部材228と係合プレート238との間の相対回転力の一部が、係合プレート238を出力軸12軸線方向に移動させて歯車部材228の係合突起237と係合プレート238の係合凹部242との係合を解除しようとする分力として作用する。この相対回転力(分力)が所定値以上となると、圧縮コイルスプリング244により付与される抗力に打ち勝って、係合プレート238が出力軸12軸線方向に強制的に移動されて前記係合状態が解除される(歯車部材228の係合突起237が係合プレート238の係合凹部242から抜け出して嵌合が解除される)。これにより、係合プレート238すなわち出力軸12は、歯車部材228に対して空転する。
したがって、本ワイパモータ290では、例えば、ワイパが回動範囲内での正規の停止位置において凍結して被払拭面に張り付いている状態、或いは正規の停止位置に位置するワイパの上に雪が積もって拘束された状態でモータ本体92が作動され、出力軸12に過大な負荷もしくは急激な負荷が作用した場合などは勿論のこと、ワイパの回動範囲内(正規の払拭範囲内)での作動途中においてワイパを介して出力軸12に過大な外力が作用した場合(例えば、ワイパの払拭作動時に下側の反転位置以外の位置にあるワイパの上に屋根に堆積した積雪がガラス面に沿って落下してきた場合など)においても、クラッチ装置210による空転によって、歯車部材228以降の駆動力伝達部品(セクタギヤ132、ウォームホイール128、ウォームギヤ122、モータ本体92等の出力軸12からアーマチャ108側に向けての構成)に過大な外力が作用することを防止できる。これにより、歯車部材228以降の前記各部品を保護することができ、前記各部品の損傷及びモータ本体92の焼損等を防止することができる。
また、歯車部材228以降の各部品の強度設計を、歯車部材228と係合プレート238との間の回転伝達力(クラッチ解除力)に基づいて設定すればよいため、上記過大な外力(荷重)の作用を想定した各部品の過剰な強度設定を行う必要がなくなり、安価な構成とすることができる。
またしかも、出力軸12に連結された被駆動部材(ワイパ等)も、クラッチ装置210による空転により衝撃が吸収されるので破損から保護することもできる。
またここで、本ワイパモータ290では、セクタギヤ132の揺動中心軸140と出力軸12とは、セクタギヤ132の厚さ方向一方側に設けられた保持レバー138によって連結されているので、セクタギヤ132の揺動中心軸140と出力軸12との軸間距離(軸間ピッチ)が一定に維持される。しかも、セクタギヤ132の歯部136は、その厚さ方向の一方側の保持レバー138と、他方側(係合プレート238側)の歯車部材228の連結壁235とで厚さ方向両側が挟まれているので、セクタギヤ132の厚さ方向両側に保持部材(保持レバー)がなくとも、セクタギヤ132の厚さ方向に沿ったギヤ歯136と歯部234との噛合い代が維持される(セクタギヤ132の厚さ方向のガタツキが抑制される)。これにより、セクタギヤ132と歯車部材228との良好な噛合い状態を維持することができる。
また、このワイパモータ290では、保持レバー138は、セクタギヤ132の厚さ方向においてウォームホイール128とは反対側に配置されている。したがって、保持レバー138がウォームホイール128に干渉することはなく、これにより、セクタギヤ132とウォームホイール128との連結位置の設定自由度が向上する(支軸134のウォームホイール128への取り付け位置の設定自由度が向上する)。
さらに、このワイパモータ290では、従来のワイパモータのように、セクタギヤ132の厚さ方向両側にそれぞれ保持部材(保持レバー)が配置された構成ではなく、セクタギヤ132の厚さ方向一方側に単一の保持レバー138が配置された構成であるので、保持部材の配置のためのスペースを低減でき、これにより、装置の全体構成を小型軽量化できる。
このように、本第5の実施の形態に係るワイパモータ290では、セクタギヤ132と歯車部材228との良好な噛合い状態を維持できると共に、装置の小型化を図ることができる。
また、従来のワイパモータのように、セクタギヤの厚さ方向両側(歯車部材の厚さ方向両側)にそれぞれ保持部材が配置されている場合、一方の保持部材が邪魔になり、クラッチ装置の係合プレートを歯車部材に係合させることができないが、このワイパモータ290では、保持レバー138は、セクタギヤ132の厚さ方向(歯車部材228の厚さ方向)において係合プレート238とは反対側にのみ配置された構成である。したがって、保持レバー138が歯車部材228と係合プレート238との係合の邪魔になることがなく、これにより、クラッチ装置210の配置に制約が生じることを防止できる。
さらに、本ワイパモータ290では、複数の突条が形成された出力軸12の回止部216に係合ベース220(大径部)が固着されて一体化されており、特に軸線周りの回転方向に対しては強固に固着されている。一方、歯車部材228は出力軸12の抜止部218によって抜止め状態とされており、さらに、出力軸12の相対回転規制部214(すなわち、係合ベース220と歯車部材228との間)に、係合プレート238が軸線方向に移動可能に支持されている。すなわち、何れの部品も出力軸12を基準に取り付けられた構成であり、係合ベース220と歯車部材228との間の一定スペース(一定寸法)に係合プレート238及び圧縮コイルスプリング244が設けられた構成である。したがって、前述した如き係合プレート238の軸線方向移動に要する力(クラッチ解除力)の設定を容易に行うことができる。
またさらに、本ワイパモータ290では、弾性部材を圧縮コイルスプリング244としたため、バネ特性が安定的である。すなわち、例えば、弾性部材をゴム部材とした場合、クラッチ装置210に塗布されたグリス等が当該ゴム部材に付着して劣化する恐れがあるが、圧縮コイルスプリング244の場合には、グリス等の付着による劣化の恐れがなくバネ特性が安定的である。
しかも、この圧縮コイルスプリング244は、出力軸12回りに巻き回されると共に、出力軸12の径方向に大径とされた軸方向移動不能な係合ベース220と、係合プレート238との間に配置された構成である。このため、係合プレート238を歯車部材228に対して安定的に押圧できると共に安定的な抗力を付与できる。すなわち、圧縮コイルスプリング244の弾性力は、係合プレート238によって歯車部材228と係合プレート238との係合部分に一様に分布される。したがって、歯車部材228と係合プレート238との係合状態が安定し、歯車部材228と係合プレート238との間(係合突起237と係合凹部242との間)の回転伝達力(クラッチ解除力)の値も安定する。これにより、安定したクラッチ性能を得ることができ、前記クラッチ解除力の値をより好適に設定することができるので、ワイパモータ290の各構成部材をより確実に保護することができる。
また、本ワイパモータ290では、出力軸12に支持された歯車部材228は、連結壁235を介してギヤ歯234とは反対側の外周が円周面236とされており、この円周面236がハウジング96に固定された軸受部材252に回転可能に保持(支持)されている。すなわち、このワイパモータ290では、セクタギヤ132から荷重が入力される歯車部材228が、直接ハウジング96の軸受部材252に支持された構成である。したがって、歯車部材228の支持剛性が向上し、これによっても、歯車部材228とセクタギヤ132との噛合い状態が安定する。しかも、出力軸12は、その基端部が歯車部材228を介してハウジング96(軸受部材252)に支持された構成である。このため、出力軸12の基端部をハウジング96に支持するための特別なスペースが不要(歯車部材228の設置スペースと出力軸12基端部の支持スペースが共通)であると共に、出力軸12の基端部を支持する軸受部材252と、出力軸12の先端側を支持する軸受部材250との出力軸12軸線方向に沿った距離寸法を長く確保できる。これにより、出力軸12のハウジング96に対する支持剛性も向上する。
さらに、本ワイパモータ290では、歯車部材228および係合プレート238の両方が、粉末合金を成型した焼結金属であるので、これらの部材を粉末冶金法により高精度に製造でき、しかも材料の歩留まりがよい。さらに、焼結金属とされた歯車部材228及び係合プレート238は、該焼結金属内に潤滑油を含油しているので、互いに係合する部位(係合突起237及び係合凹部242など)に自己潤滑性を持たせることができると共に、セクタギヤ132の歯部136と係合する歯車部材228のギヤ歯234にも自己潤滑性を持たせることができ、摩耗及び異音発生を防止できる。
またさらに、本ワイパモータ290では、歯車部材228の各係合突起237と係合プレート238の各係合凹部242は、それぞれ歯車部材228及び係合プレート238の周方向に沿って等間隔にならないように(隣接する間隔がそれぞれ異なるように)設けられており、各係合突起237が各係合凹部242から抜け出したクラッチ解除状態においても、係合プレート238は、少なくとも3個の係合突起237を介して歯車部材228に接触するので(3点支持状態となるので)、クラッチ解除状態における係合プレート238と歯車部材228との係合状態が安定する。
しかも、歯車部材228と係合プレート238(出力軸12及びワイパ)とは、周方向に沿った相対位置関係が所定の一位置にあるときにのみ係合可能とされている。このため、各係合突起237が各係合凹部242から抜け出したクラッチ解除状態(歯車部材228と係合プレート238が所定の一位置以外の相対位置関係にあるとき)において、例えば、乗員等が手動によりワイパを回動させれば、必ず所定の一位置にて歯車部材228と係合プレート238とが係合する。したがって、係合プレート238(出力軸12及びワイパ)を、歯車部材228に対して元のセット状態(初期設定状態)に容易かつ迅速に復帰させることができると共に、ワイパ装置を破損させることなく再度作動させることができる。特に、上記所定の一位置を、ストッパ突起142の回転制限部144及び回転制限部146によって制限された角度範囲よりも小さな角度範囲で設定された往復回転角度範囲(ワイパの往復払拭回動角度範囲)内の所定の一位置とすることにより、過大な外力を取り除いた後でワイパ装置を再び作動させることにより、上記歯車部材228と係合プレート238とがワイパの1往復払拭の間で係合状態が復活し、自己復帰させることができる。
また、本ワイパモータ290のクラッチ装置210では、歯車部材228は、揺動機構94(ウォームギヤ122、ウォームホイール128、及びセクタギヤ132)によって減速往復回転駆動されるため、出力軸12を大きなトルクで駆動することができ、出力軸12に連結されたワイパを好適に往復駆動することができる。
したがって、本ワイパモータ290は、ワイパを介して出力軸12に過大外力(荷重)が作用する(例えば、車両の屋根に堆積した積雪がガラス面に沿って略垂直落下してワイパアームに当たり大きな外力が当該ワイパモータ290に作用する場合等)蓋然性が高い車両、例えばキャブオーバータイプのコックピットを有するトラックや建設機械用のワイパ駆動用モータとしても好適である。
さらに、このワイパモータ290のクラッチ装置210では、歯車部材228の係合突起237が、係合プレート238の係合凹部242に入り込むことで、歯車部材228から係合プレート238へ回転力が伝達される構成としたので、歯車部材228と係合プレート238との間の駆動力の伝達をより確実に行うことができる。しかも、歯車部材228の係合突起237と、係合プレート238の係合凹部242とは、それぞれ側壁部分が傾斜面とされているため、当該傾斜面の傾斜角度及び圧縮コイルスプリング244の抗力(弾性変形力)に基づいて、前記クラッチ解除力を容易に設定することができる。
また、このワイパモータ290では、通常の使用状態(回転状態)においては、前述の如くクラッチ装置210の歯車部材228から出力軸12への回転駆動力の伝達に際し、各部の何れの箇所においても部材の摺動を発生させることなく回転駆動力を伝達することができる。換言すれば、歯車部材228の係合突起237と係合プレート238の係合凹部242との係合状態維持のために、係合プレート238の前記係合状態からの軸線方向移動に対して付与される圧縮コイルスプリング244による抗力が、摺動摩擦力として無駄に消費されることがない。したがって、回転伝達効率の低下を防止できる。また、部材の摺動を発生させることなく回転駆動力を伝達することができるため、部材の摺動に伴う異音の発生も防止される。
またしかも、前述の如く、係合突起237と係合凹部242との係合状態維持のために当該係合状態からの係合プレート238の軸線方向移動に対して付与される圧縮コイルスプリング244による抗力は、出力軸12に固定された係合ベース220と、出力軸12に対して軸線方向一側へ抜止め状態で支持された歯車部材228とで受け止められる。すなわち、出力軸12に取り付けられた2つの構成部品(係合ベース220と歯車部材228)によって、前記係合状態維持のための力が受け止められる。すなわち、本ワイパモータ290のクラッチ装置210は、「出力軸12のサブアッセンブリ」として完結する構成のものであり、ハウジング96などの他の部品等に依存して完結する構成のものでない。したがって、このクラッチ装置210を、「出力軸12サブアッセンブリ」とした1つの部品として取扱いができる。
以上説明した如く、本第5の実施の形態に係るワイパモータ290(クラッチ装置210)では、セクタギヤ132と歯車部材228との良好な噛合い状態を維持できると共に、装置の小型化を図ることができる。
なお、上記第5の実施の形態においては、クラッチ装置210を構成する歯車部材228と係合プレート238の両方を「潤滑油を含油する焼結金属」としたが、これに限らず、歯車部材228と係合プレート238の何れか一方を「潤滑油を含油する焼結金属」としてもよい。
また、上記第5の実施の形態においては、ワイパモータ290は、揺動機構94とクラッチ装置210の両方を備える構成としたが、本発明はこれに限らず、ワイパモータは、クラッチ装置を省略した構成としてもよい。その場合、歯車部材を出力軸に一体的(相対移動不能)に設ける構成となる。
10・・・クラッチ装置、12・・・出力軸、14・・・回止部、16・・・抜止部、18・・・対回転軸部、20・・・クラッチベース、24・・・嵌入部、26・・・嵌入部、28・・・入力ディスク、34・・・噛合係合部、36・・・噛合係合部、38・・・クラッチディスク、42・・・底壁、44・・・周壁、46・・・案内被嵌入部、48・・・案内被嵌入部、50・・・噛合被係合部、52・・・噛合被係合部、54・・・収容部、56・・・ウエーブワッシャ(弾性部材)