JP4302842B2 - 鉄さび安定化剤、安定化鉄さび層の形成方法および安定化鉄さび層を有する鉄鋼材 - Google Patents

鉄さび安定化剤、安定化鉄さび層の形成方法および安定化鉄さび層を有する鉄鋼材 Download PDF

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Description

【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、橋梁、建築等の鉄鋼構造物などに、大気腐食環境において保護性を有する安定化鉄さび層を形成する技術に関するものであり、従来の表面保護層(例えば、さび層や塗装膜)などの補修においても有効に利用することができる。
【0002】
【従来の技術】
橋梁や建築などに用いられてきた耐候性鋼は表面に生成した鉄さびで鋼を保護する鋼材として知られ、JISには溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材(SMA:JISG3114)と高耐候性圧延鋼材(SPA:JISG3125)の2種が挙げられている。耐候性鋼は塗装を施すことなく、裸のままで使用することができ、経済的であるが、表面の鉄さびが緻密で安定な良いさびになるまでの間に流れさびが発生し、外観上問題となることが多々ある。
【0003】
また、海岸地区や冬季に融雪塩を散布する塩化物環境下では層状の剥離しやすい鉄さび(剥離さび:例えば粗大粒子からなるβさび等が含有されていると考えられる。)が発生し、耐食性に優れる緻密で安定な鉄さびが形成されない。
【0004】
これらの欠点を補う方法として、例えば、特公昭56−33991号には化成皮膜を形成することにより、耐食性を向上させる技術が記載されており、また特許第2699733号には、1.0〜45.0wt%の硫酸クロム水溶液を塗布液として、鋼材表面あるいは鋼材のさび層に塗布することによって安定化鉄さび層を形成し、防食性を向上させる技術が記載されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の化成皮膜処理は前処理が煩雑、複雑である割りには耐食性の良好な鉄さび層が得られず、硫酸クロム水溶液を塗布する方法においても、海岸地帯などの塩化物環境下では剥離さびが生成しやすいため、必ずしも満足な耐食性が得られていない。
【0006】
本発明はかかる問題に鑑みなされたもので、鉄鋼材の表面に外部との遮断性に優れた安定化鉄さび層を形成することにより、鉄鋼材の耐食性を向上させることができる鉄さび安定化剤、安定化鉄さび層の形成方法および安定化鉄さび層を有する鉄鋼材を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
鉄さびの生成過程には未だ不明な点が多いが、鉄鋼材の腐食溶解により生じたFe3+イオンあるいはFe2+イオンが元となり、これらが加水分解、重合、核生成成長、凝集、凝縮等を経て、結晶化し、さびとして沈殿するとされている。この加水分解の段階で、さびの成長を抑制することができれば、さび粒子は成長しなくなり、微細化、緻密化され、外部との遮断性が向上する。本発明はかかる着想を基に完成されたものである。なお、鉄さびには、前記βさび、αさびのほか、γさび、マグネタイトおよび非晶質さびがあり、αさびおよび非晶質さびは元来、耐食性の観点からは好ましいものである。
【0008】
本発明の鉄さび安定化剤は、鉄鋼材の上に供給することによって鉄鋼材の表面に安定化鉄さび層を被覆形成するものであるが、まず、本発明のベースとなる二種のベース安定化剤について説明する。
第1のベース安定化剤は、ある金属元素Mの金属イオンの加水分解定数をK(M)と表したとき、下記式(1) の条件を満足するZr、Sn、Sc、Bi、Vから選択された1種または2種以上の金属元素のイオンおよびTiのイオンを合計量で0.001M/l以上含む水溶液からなるものである。
K(Fe3+)−3.5<K(M)<K(Fe3+)+2.5 ……(1)
但し、加水分解定数K(M)は、加水分解反応が下記式(A) で表されるとき、下記式(B) によって求められる値である。
xMz++yH2O=Mx(OH)y (xz-y)++yH+ ……(A)
K(M)=log Qxy=log [Mx(OH)y (xz-y)+][H+]y /[Mz+]x ……(B)
【0009】
鋼材が腐食してFe3+イオンからさびを形成するときには、式(1) の条件を満足する加水分解定数を有するZr、Sn、Sc、Bi、Vから選択された1種または2種以上の金属元素(1種の場合を含めて、これらの元素の集合を「a群」という。)及びTi(a群の元素とTiとの集合を「A群」という。)の各元素のイオン(A群に属する個々の元素のイオンを「A群元素イオン」という場合がある。)があれば、これらのイオンがさびの核や粒子表面に吸着したり、さび中に取り込まれたりして、さびの生成に影響を及ぼし、成長を抑制する。しかも、A群の属する金属元素のイオンを単独で用いる場合に比べて、複合して用いることにより、種々のA群元素イオンがさびの生成過程における様々な段階でさびの生成に寄与する。その結果、さびの核生成、粒成長、結晶化が阻止され、生成するさびが微細、緻密になり、外部から塩素イオンや水分などの腐食因子の侵入を防止しうる保護層として機能する安定化鉄さび層を鉄鋼材の表面に形成することができ、鉄鋼材の耐食性を向上させることができる。
【0010】
この際、加水分解定数が(K(Fe3+)−3.5)よりも小さいと、Fe3+イオンがさびとして先に生成、沈殿するために生成さびの結晶粒径には影響を与えない。一方、(K(Fe3+)+2.5)よりも大きいと、Fe3+イオンがさびとして生成、沈殿する前に上記条件を満足するイオンが先に沈殿してしまい、さびには影響を与えない。つまり、加水分解定数が大き過ぎても小さ過ぎてもFe3+イオンから生成するさびの生成、成長に影響を与えることができない。このため、さびを微細化、緻密化するには、加水分解定数が、(K(Fe3+)−3.5)<K(M)<(K(Fe3+)+2.5)の条件を満足するイオンを添加材として選択することが必要である。前記Zr、Sn、Sc、Bi、V及びTiの各元素は上記条件を満足するものであり、さらにAlも上記加水分解定数の条件式を満足するものであるため、前記A群にAlを含めることができる。
【0011】
鉄さび安定化剤を構成する水溶液におけるA群元素イオンの濃度(各種A群元素イオンの合計量)としては、A群元素イオンによるさびの微細化作用を得るには、少なくとも0.001M/l(モル/リットル)は必要である。このため、A群元素イオンの濃度の下限を0.001M/l、好ましくは0.005M/lとする。なお、A群元素イオンの濃度の上限は特に規定せず、A群元素イオンの飽和水溶液としてもよいが、過多に含有させても微細化作用は飽和し、経済的でないので、A群元素イオン濃度の上限は10M/l程度に止めるのがよい。
【0012】
また、第2のベース安定化剤は、ある金属元素Mの金属イオンの加水分解定数をK(M)と表したとき、下記式(2) の条件を満足するCo、La、Pbから選択された1種または2種以上の金属元素のイオンを合計量で0.001M/l以上含む水溶液からなるものである。但し、加水分解定数K(M)は、加水分解反応が前記式(A) で表されるとき、前記式(B) によって求められる値である。
K(Fe2+)−3.5<K(M)<K(Fe2+)+2.5 ……(2)
【0013】
この第2のベース安定化剤は、Fe2+オンから生成するさびに着目してなされたものであり、鉄鋼材が腐食してFe2+イオンからさびを形成するときに、式(2) の条件を満足する加水分解定数を有するCo、La、Pbから選択された1種または2種以上の金属元素(1種の場合を含めて、これらの元素の集合を「b群」という。)のイオンがあれば、前記Fe3+イオンから生成するさびの微細化、緻密化と同様の機構によって、Fe2+イオンから生成するさび粒子の成長を抑制し、微細化することができ、外部との遮断性に優れた安定化鉄さび層を形成することができる。
【0014】
この際、加水分解定数が(K(Fe2+)−3.5)よりも小さいと、Fe2+イオンがさびとして先に生成、沈殿するためにFe2+イオンから生成するさびの結晶粒径には影響を与えない。一方、(K(Fe2+)+2.5)よりも大きいと、Fe2+イオンがさびとして生成、沈殿する前に上記条件を満足するイオンが先に沈殿してしまい、さびの結晶粒径には影響を与えない。このため、さびを微細化、緻密化するには、加水分解定数が、(K(Fe2+)−3.5)<K(M)<(K(Fe2+)+2.5)の条件を満足するイオンを添加材として選択することが必要である。前記Co、La、Pbの各元素は上記条件を満足するものである。上記加水分解定数の条件式を満足するものとして、さらにZnやMnがあり、b群の金属元素と共にこれらの金属元素(b群の元素とこれらの元素との集合を「B群」とい、B群に属する個々の元素のイオンを「B群元素イオン」という場合がある。)を用いることができる。また、鉄さび安定化剤を構成する水溶液におけるB群元素イオンの濃度(各種B群元素イオンの合計量)も、さびの微細化作用を得るには、少なくとも0.001M/l(モル/リットル)が必要であり、好ましくは0.005M/lとするのがよい。B群元素イオン濃度の上限も特に規定されないが、経済性からは10M/l程度に止めるのがよい。
【0015】
本発明の鉄さび安定化剤は、上記第2のベース安定化剤を基にするものであり、前記式(2) の条件を満足するCo、La、Pbから選択された1種または2種以上の金属元素のイオン、あるいはさらにZnのイオンを合計量で0.001M/l以上含み、かつTiイオンを0.001M/l以上含み、さらに硫酸イオンを0.01〜10M/lを含む水溶液からなるものである。
また、本発明の他の鉄さび安定化剤は、上記第1及び第2のベース安定化剤を基にするものであって、前記式(1) の条件を満足するZr、Sn、Sc、Bi、Vから選択された1種または2種以上の金属元素のイオンおよびTiのイオンを合計量で0.001M/l以上含み、かつCo、La、Pbから選択された1種または2種以上の金属元素のイオンを合計量で0.001M/l以上含み、さらに硫酸イオンを0.01〜10M/lを含む水溶液からなるものである。
後者の鉄さび安定化剤においては、さらにAlイオン及びMnイオンを含ませ、前記Zr、Sn、Sc、Bi、Vから選択された1種または2種以上の金属元素のイオン、Tiイオン及びAlイオンを合計量で0.001M/l以上含むようにし、かつ前記Co、La、Pbから選択された1種または2種以上の金属元素のイオン及びMnイオンを合計量で0.001M/l以上含むようにすることができる。
【0016】
本発明に係るこれらの鉄さび安定化剤によれば、前記式(2) 及び式(1) を満足する所定の金属元素のイオンを所定量複合添加し、さらに熱力学的に安定なαさびの生成を助長する硫酸イオンを所定量添加したものであるので、Fe2+イオンおよびFe3+イオンから生成するすべてのさびを微細化、緻密化することができ、これによって腐食因子の遮断性に極めて優れた保護膜として機能する安定化鉄さび層を鉄鋼材の表面に形成することができ、鉄鋼材の耐食性をより向上させることができる。
【0017】
また、本発明の安定化鉄さび層の形成方法は、鉄鋼材の上に上記鉄さび安定化剤を供給し、前記鉄鋼材の表面に安定化鉄さび層を形成するものである。
この発明によれば、前記鉄さび安定化剤の作用により、生成さびを微細化、緻密化することができ、鉄鋼材の表面に遮断性に優れた保護層として安定化鉄さび層を容易に形成することができる。
【0018】
また、本発明の安定化鉄さび層を有する鉄鋼材は、鉄鋼材の上に上記鉄さび安定化剤が供給され、前記鉄鋼材の表面に安定化鉄さび層が形成されたものである。
この安定化鉄さび層は、前記鉄さび安定化剤によって生成さびが微細化、緻密化されたものであり、鉄鋼材の表面に遮断性に優れた保護層として機能するので、鉄鋼材の耐食性を向上させることができる。前記鉄鋼材としては、wt%でTi:0.01%以上、Cu:0.1%以上、Ni:0.1%以上の1種以上を含む材質が好ましい。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明者らは金属材料の腐食機構とさびの生成過程を鋭意検討した結果、耐食性とさびの種類や構造には相関があることを知見した。すなわち、鉄さび層の中で塩化物環境下で生成しやすく脆くて剥離しやすいβさび(β−FeOOH)が少ないほど、また、熱力学的に安定なαさび(α−FeOOH)や非晶質さびが多いほど耐食性に優れるのであるが、おなじさびの種類であっても、粒子サイズが小さいほど耐食性に優れるという知見を得た。つまり、(1) 塩化物環境下で生成しやすく、脆くて剥離しやすい粗大なβさびを微細化させること、(2) 耐食性にとって良い影響を及ぼすαさびをさらに微細化させることによって、耐食性に優れる微細で緻密なさび層を形成することが出来る。そして、鉄さびの生成過程でさびの成長速度、粒子サイズを決定する要因(加水分解定数)を見い出し、本発明を完成するに至った。なお、非常に微細化したβさびは非晶質さびと区別し難くなるが、非晶質さびは元々耐食性の向上に資するものなので、両者を厳格に区別する実益はない。また、αさびは元来、熱力学的に安定なさびであり、耐食性の付与には好適なものである。本発明によってかかるαさびも微細化、緻密化されることで、外部との遮断性はより一層向上する。
【0020】
まず、加水分解定数について詳細に説明する。加水分解は金属イオンと水とが反応してOH結合を切断し、水酸化物(イオン)とプロトンH+ を与える酸塩基反応である。例えば、m価の金属イオンMm+が強い酸で、M(OH)(m-1)+がその共役弱塩基である場合、酸塩基反応は次式で与えられる。
m++H2O=M(OH)(m-1)++H+
一般に加水分解反応は可逆的で、この平衡定数は加水分解定数とよばれる。ある金属元素Mの金属イオンの加水分解定数K(M)は、加水分解反応が下記式(A) で表されるとき、下記式(B) によって求められる値である。
xMz++yH2O=Mx(OH)y (xz-Y)++yH+ ……(A)
K(M)=log Qxy=log [Mx(OH)y (xz-y)+][H+]y /[Mz+]x ……(B)
【0021】
Fe3+イオンが元になって生成するさび、例えば塩化物環境下で生成しやすいβさびの微細化、緻密化を図るには、上記加水分解定数を用いて下記式(1) を満足する金属元素のイオンを合計量で0.001M/l以上、好ましくは0.005M/l以上含む水溶液を鉄鋼材に供給することが有効である。
K(Fe3+)−3.5<K(M)<K(Fe3+)+2.5 ……(1)
【0022】
上記式(1)を満足する金属元素のイオンは、その加水分解定数がK(Fe3+)に近い方がさびの微細化、緻密化作用は顕著であるので、好ましくは
K(Fe3+)−1.5<K(M)<K(Fe3+)+1.5……(1A)
を満足するものがよい。
【0023】
Fe3+イオンの加水分解定数K(Fe3+)は室温での一般的な値は−2.4(「Hydrolysis of Cations」:Charles F.Jr.Baes,Robert E.Mesmer、Krieger Publishing Company、1986、p230)であるので、式(1) は−5.9<K(M)<0.1、式(1A) は−3.9<K(M)<−0.9と表される。
【0024】
加水分解定数が−5.9から0.1の範囲にある金属元素は多々あるが、経済性、処理性、取り扱い性などから、本発明ではZr(加水分解定数K=−0.6)、Sn(K=−3.4)、Sc(K=−4.3)、Bi(K=−1.1)、V(K=−3.3)から選択された1種または2種以上の金属元素からなるa群およびTi(K=−2.3)を必須元素として用いる。さらに必要によりAl(K=−5.0)を併用することができる。本発明では前記a群に属する元素およびTi、あるいはさらにAlの元素の集合をA群と呼ぶ。これらの金属元素のイオンを複合して用いることにより、これらのイオンをさびの生成過程における様々な段階で作用させることができ、単独で用いるより効果的である。本発明に係る鉄さび安定化剤では、これらのA群に属する元素のイオンに、さらに後述するように熱力学的に安定なαさびの生成を助長する硫酸イオン及び以下説明するb群の金属元素のイオンと共に所定量併用するので、より優れた耐食性が得られる。
【0025】
一方、Fe2+イオンが元になって生成すると考えられているさびの微細化、緻密化を図るには、上記加水分解定数を用いて下記式(2) を満足する金属元素のイオンを合計量で0.001M/l以上、好ましくは0.005M/l以上含む水溶液を鉄鋼材に供給することが有効である。
K(Fe2+)−3.5<K(M)<K(Fe2+)+2.5 ……(2)
【0026】
上記式(2)を満足する金属元素のイオンも、その加水分解定数がK(Fe2+)に近い方がさびの微細化、緻密化作用は顕著であるので、好ましくは
K(Fe3+)−1.5<K(M)<K(Fe3+)+1.5 ……(2A)
を満足するものがよい。
【0027】
Fe2+の加水分解定数K(Fe2+)は室温での一般的な値として−9.5(「Hydrolysis of Cations」前出)であるので、式(2) は−13<K(M)<−7.0、式(2A) は−11<K(M)<−8と表される。
【0028】
加水分解定数が−13から−7.0の範囲にある元素は多々あるが、経済性、処理性、取り扱い性などから、本発明ではCo(K=−9.7)、La(K=−9.0)、Pb(K=−7.7)から選択された1種または2種以上の金属元素からなるb群を必須元素として用いる。さらに必要によりMn(K=−10.6)、Zn(K=−9.0)を併用することができる。本発明では前記b群元素およびMn、あるいはさらにZnの元素の集合をB群と呼ぶ。これらの金属元素のイオンを複合して用いることにより、これらのイオンをさびの生成過程における様々な段階で作用させることができ、単独で用いるより効果的である。本発明に係る鉄さび安定化剤では、これらのB群に属する元素のイオンに、さらにTiイオンおよび後述するように熱力学的に安定なαさびの生成を助長する硫酸イオンを所定量併用するので、より優れた耐食性が得られる。
【0029】
また、本発明の鉄さび安定化剤において、前記a群の金属元素のイオン前記b群の金属元素のイオンと併用して用いるが、前記a群、b群の各元素のイオンをそれぞれ合計量で0.001M/l以上含むようにする。この場合、前記a群とTiとAlによってA群とし、かつ前記b群とMnによってB群とし、前記A群、B群の各元素のイオンをそれぞれ合計量で0.001M/l以上含むようにすることができる。これらの元素のイオンを成分とすることで、Fe2+イオン、Fe3+イオンから生成するすべてのさび、すなわちβさび、αさび、γさび、マグネタイトおよび非晶質さびのすべてを微細化、緻密化することができ、非常に遮断性に優れたさび層を形成することができる。もっとも、鉄さび安定化剤の水溶液には前記イオンのほか、これらのイオンによるさびの微細化、緻密化作用を妨げない成分、あるいはかかる作用を向上させる成分を含めることができる。
【0030】
本発明の鉄さび安定化剤においては、前記B群、またはA群およびB群に属する金属元素のイオンを含むほか、必須成分としてαさびの生成を助長する作用を有する硫酸イオン(SO4 2- )を0.01〜10M/l含むものである。鉄さび安定化剤を塗布する鉄鋼材の表面を腐食する方が新たなさび層を早期に生成させるという観点から、水溶液はある程度の酸性であることが望ましい。硫酸イオンを含有させることにより、かかる作用も得ることができる。なお、金属元素としてTiを必須成分として用い、硫酸イオンを同時に含有させるには、硫酸チタンを水に溶かせばよい。
【0031】
また、安定化鉄さび層の形成対象である鉄鋼材の表面に、鉄さび安定化剤を均一に供給するには、鉄さび安定化剤の水溶液の表面張力を低下させることが望ましい。かかる観点から、常温で水より表面張力の小さい水溶性溶媒を混合させることが有効である。このような溶媒としては、経済性や安全性、取扱性などから例えば、エタノール、メタノールなどの低級アルコールやアセトンを例示することができる。混合量については、0.1M/l程度以上含有させることが好ましい。
【0032】
鉄さび安定化剤の鉄鋼材への供給方法は任意であり、スプレーにより、あるいは刷毛により鉄鋼材表面に散布、塗布してもよく、また、鉄さび安定化剤の浴に処理対象の鉄鋼材を浸漬してもよい。経済性、施工性を考慮すると、スプレーによる散布が好適である。また、鉄さび安定化剤の鉄鋼材への供給乾燥後に、塗装を施してもよい。
【0033】
本発明の鉄さび安定化剤は、耐候性鋼を初めとして、鉄さびを形成するような材料であればいかなる鉄鋼材に対しても有効である。とくに、鋼成分として、wt%でTi:0.01%以上(好ましくは0.03%以上)、Cu:0.1%以上(好ましくは0.3%以上)、Ni:0.1%以上(好ましくは0.3%以上)の1種以上を含む鉄鋼材は、鉄さびの生成が進行する限り、鉄鋼材そのものからこれらの元素のイオンを供給することができるので、耐食性の向上には効果的である。また、鉄鋼材の表面に塗装膜やさび層が形成されていてもよい。すなわち、本発明は、腐食がすでに進行している鉄鋼材、さびの補修、塗装膜欠陥部の補修等においても有効に利用することができる。
【0034】
以下、本発明を実施例によってより具体的に説明するが、本発明はかかる実施例によって限定的に解釈されるものではない。
【0035】
【実施例】
下記表1、表2に示す種々の成分を含む水溶液からなる鉄さび安定化剤を調製した。金属元素はそのイオンを意味し、硫酸イオン(SO4 2- )は、硫酸チタンを水に溶かして付与したものである。この鉄さび安定化剤を下記化学組成(単位wt%、残部実質的にFe)の普通鋼板、低合金鋼板の表面に散布し、乾燥後、工業地帯にて促進大気暴露試験を行った。暴露試験は、150×70×厚さ6mmの試験片を南向きに45°の角度で立てかけ、週に1回、0.1%NaCl水溶液を散布して腐食を促進させ、12ケ月暴露後に、外観評価、腐食減量調査を行うものである。
・普通鋼成分
C:0.09%、Si:0.35%、Mn:1.45%、P:0.015%、
S:0.015%、Cu:0.01%、Ni:0.01%、Al:0.02%
・低合金鋼成分
C:0.07%、Si:0.34%、Mn:1.50%、P:0.012%、
S:0.013%、Cu:0.51%、Ni:0.50%、Al:0.02%、Ti:0.05%
【0036】
暴露試験の外観評価は、下記の基準により◎◎〜×の5段階評価を行った。腐食率は、試験前後の重量から腐食減量を求め、鉄さび安定化剤を塗布しなかった普通鋼板(未処理材、表1のNo. 1)の減量に対する割合として求めた。
・外観評価基準
◎◎:剥離さび、流れさびが面積的に0〜10%
◎ :剥離さび、流れさびが面積的に11〜20%
○ :剥離さび、流れさびが面積的に21〜30%
△ :剥離さび、流れさびが面積的に31、50%
× :剥離さび、流れさびが面積的に51%以上
【0037】
【表1】
Figure 0004302842
【0038】
【表2】
Figure 0004302842
【0039】
表1、表2より、本発明の鉄さび安定化剤を塗布した鋼板(試料No. 29〜33:発明例)は、未処理鋼板(試料No. 1)や所定の金属元素のイオンを単独添加した鉄さび安定化剤を塗布した鋼板(試料No. 2〜13、19〜28)に比べ、外観評価、腐食減量のいずれにおいても優れている。また、発明例においても鉄さび安定化剤中に鉄さびの微細化、緻密化作用を有する金属イオンを種々含む方が、より耐食性に優れることがわかる。また、鉄さび安定化剤の塗布対象鋼材としては、Ti等の有効元素を含む低合金鋼板の方が腐食減量が低減し、耐食性がより優れている。
【0040】
【発明の効果】
本発明によれば、鉄さび安定化剤の成分として、鉄さびの元となるFeイオンの加水分解定数に近似した所定の金属元素から選択された1種または2種以上からなるb群、あるいはa群及びb群に属する金属元素のイオン及びTiのイオン、さらに硫酸イオンが所定量含まれるので、鉄鋼材に鉄さび安定化材を供給することによって、前記各元素のイオンがさびの生成過程における様々な段階でさびの生成に寄与し、鉄鋼材の表面に形成されるβさび、αさび、γさびなどを微細化、緻密化することができ、鉄鋼材の表面に外部との遮断性に優れた安定化鉄さび層が形成され、これによって鉄鋼材に優れた耐食性を付与することができる。

Claims (7)

  1. 鉄鋼材の上に供給することによって鉄鋼材の表面に安定化鉄さび層を被覆形成する鉄さび安定化剤であって、
    ある金属元素Mの金属イオンの加水分解定数をK(M)と表したとき、下記式(2) の条件を満足するCo、La、Pbから選択された1種または2種以上の金属元素のイオンを合計量で0.001M/l以上含み、かつTiイオンを0.001M/l以上含み、さらに硫酸イオンを0.01〜10M/lを含む水溶液からなる、鉄さび安定化剤。
    K(Fe2+)−3.5<K(M)<K(Fe2+)+2.5 ……(2)
    但し、加水分解定数K(M)は、加水分解反応が下記式(A) で表されるとき、下記式(B) によって求められる値である。
    xMz++yH2O=Mx(OH)y (xz-y)++yH+ ……(A)
    K(M)=log Qxy=log [Mx(OH)y (xz-y)+][H+]y /[Mz+]x ……(B)
  2. 鉄鋼材の上に供給することによって鉄鋼材の表面に安定化鉄さび層を被覆形成する鉄さび安定化剤であって、
    ある金属元素Mの金属イオンの加水分解定数をK(M)と表したとき、下記式(1) の条件を満足するZr、Sn、Sc、Bi、Vから選択された1種または2種以上の金属元素のイオン及びTiのイオンを合計量で0.001M/l以上含み、さらに硫酸イオンを0.01〜10M/lを含み、さらにCo、La、Pbから選択された1種または2種以上の金属元素のイオンを合計量で0.001M/l以上含む、鉄さび安定化剤。
    K(Fe 3+ )−3.5<K(M)<K(Fe 3+ )+2.5 ……(1)
    但し、加水分解定数K(M)は、加水分解反応が下記式(A) で表されるとき、下記式(B) によって求められる値である。
    xM z+ +yH 2 O=M x (OH) y (xz-y)+ +yH + ……(A)
    K(M)=log Q xy =log [M x (OH) y (xz-y)+ ][H + ] y /[M z+ ] x ……(B)
  3. 請求項に記載した鉄さび安定化材であって、さらにZnイオンを含み、前記Co、La、Pbから選択された1種または2種以上の金属元素のイオン及びZnイオンを合計量で0.001M/l以上含む、鉄さび安定化剤。
  4. 請求項に記載した鉄さび安定化材であって、さらにAlイオン及びMnイオンを含み、前記Zr、Sn、Sc、Bi、Vから選択された1種または2種以上の金属元素のイオン、Tiイオン及びAlイオンを合計量で0.001M/l以上含み、かつ前記Co、La、Pbから選択された1種または2種以上の金属元素のイオン及びMnイオンを合計量で0.001M/l以上含む、鉄さび安定化剤。
  5. 鉄鋼材の上に請求項1〜のいずれか1項に記載した鉄さび安定化剤を供給し、前記鉄鋼材の表面に安定化鉄さび層を形成する、安定化鉄さび層の形成方法。
  6. 鉄鋼材の上に請求項1〜のいずれか1項に記載した鉄さび安定化剤が供給され、前記鉄鋼材の表面に安定化鉄さび層が形成された、安定化鉄さび層を有する鉄鋼材。
  7. 鉄鋼材は、wt%でTi:0.01%以上、Cu:0.1%以上、Ni:0.1%以上の1種以上を含む、請求項に記載した、安定化鉄さび層を有する鉄鋼材。
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