JP4298992B2 - ダンパーディスク組立体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、トルクを伝達するとともに捩じり振動を吸収・減衰するためのダンパーディスク組立体に関する。
【0002】
【従来の技術】
車輌に用いられるクラッチディスク組立体は、フライホイールに連結・切断されるクラッチ機能と、フライホイールからの捩じり振動を吸収・減衰するためのダンパー機能とを有している。一般に車両の振動には、アイドル時異音(ガラ音)、走行時異音(加速・減速ラトル,こもり音)及びティップイン・ティップアウト(低周波振動)がある。これらの異音や振動を取り除くことがクラッチディスク組立体のダンパーとしての機能である。
【0003】
アイドル時異音とは、信号待ち等でシフトをニュートラルに入れ、クラッチペダルを放したときにトランスミッションから発生する「ガラガラ」と聞こえる音である。この異音が生じる原因は、エンジンアイドリング回転付近ではエンジントルクが低く、エンジン爆発時のトルク変動が大きいことにある。このときにトランスミッションのインプットギアとカウンターギアとが歯打ち現象を起こしている。
【0004】
ティップイン・ティップアウト(低周波振動)とは、アクセルペダルを急に踏んだり放したりしたときに生じる車体の前後の大きな振れである。駆動伝達系の剛性が低いと、タイヤに伝達されたトルクが逆にタイヤ側から車体に伝わり、その揺り返しとしてタイヤに過大トルクが発生し、その結果車体を過渡的に前後に大きく振らす前後振動となる。
【0005】
アイドリング時異音に対しては、クラッチディスク組立体の捩じり特性においてゼロトルク付近が問題となり、そこでの捩じり剛性は低い方が良い。一方、ティップイン・ティップアウトの前後振動に対しては、クラッチディスク組立体の捩じり特性をできるだけソリッドにすることが必要である。
【0006】
以上の問題を解決するために、2種類のばね部材を用いることにより2段特性を実現したクラッチディスク組立体が提供されている。そこでは、捩じり特性における1段目(低捩じり角度領域)における捩じり剛性及びヒステリシストルクを低く抑えているために、アイドリング時の異音防止効果がある。また、捩じり特性における2段目(高捩じり角度領域)では捩じり剛性及びヒステリシストルクを高く設定しているため、ティップイン・ティップアウトの前後振動を十分に減衰できる。
【0007】
さらに、捩じり特性2段目においてたとえばエンジンの燃焼変動に起因する微小捩じり振動が入力されたときに、2段目の大摩擦機構を作動させないことで、微小捩じり振動を効果的に吸収するダンパー機構も知られている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
一般に、捩り特性においては、正側(加速側)と負側(減速側)とで、異なる剛性を実現することが望まれている。具体的には、正側では高剛性が好ましく、負側では低剛性が好ましい。そのような特性では、捩じり特性の正側では共振点通過時の回転速度変動を抑えることができ、捩じり特性の負側では全体にわたって良好な減衰率が得られるからである。そのための構造としては、例えば、正側で圧縮される弾性部材の本数を負側で圧縮される弾性部材の本数より多くするダンパー機構が知られている。それとは別に、弾性部材を正側で圧縮されるものと負側で圧縮されるものとに分けて、負側で圧縮される弾性部材の剛性を正側で圧縮される弾性部材の剛性より低くするダンパー機構も知られている。後者の場合は、正側で圧縮される弾性部材の回転方向片側には支持部材との間に回転方向の隙間が確保され、そのためその弾性部材が負側で圧縮されないようになっている。
【0009】
以上に述べたように、エンジンの振動特性に合わせて捩り特性の正負両側の剛性を異ならせたダンパー機構は、回転方向に並んで配置された複数の弾性部材を有している。弾性部材は、各円板状部材の窓部に収容されている。また、回転部材の相対回転を規制するための捩り角ストッパーは、一対の円板状部材同士を固定するためのピン部材と、一対の円板状部材間に配置された円板状部材の外周縁に形成された突起とから構成されている。ピン部材は、各突起の間に形成された切り欠き内に配置され、回転方向に移動可能になっている。
【0010】
このように、捩り角ストッパーが各弾性部材の回転方向間に配置されているため、切り欠きの回転方向長さつまりダンパー機構の捩り角度を十分に確保することができず、ダンパーを広捩り角化することが困難になる。
【0011】
本発明の課題は、エンジンの振動特性に合わせて捩り特性の正負両側の剛性を異ならせたダンパー機構において、広捩り角化への対応を容易にすることにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載のダンパーディスク組立体は、一対の第1円板状部材と、第2円板状部材と、第1弾性部材と、第2弾性部材と、ピン部材とを備えている。一対の第1円板状部材は、軸方向に対向して互いに固定されている。第2円板状部材は、一対の第1円板状部材の間に、一対の第1円板状部材に相対回転可能に配置されている。第1弾性部材は、第1円板状部材と第2円板状部材を回転方向に弾性的に連結するための部材であり、捩り特性の正側において高剛性を実現するための部材である。第2弾性部材は、第1円板状部材と第2円板状部材を回転方向に弾性的に連結するための部材であり、第1弾性部材に対して回転方向に並んで配置され、捩り特性の負側において低剛性を実現するための部材である。ピン部材は一対の第1円板状部材同士を互いに固定するための部材である。ピン部材と第2円板状部材の外周縁に設けられたストッパー部とによって、第1円板状部材と第2円板状部材の相対回転を規制するための捩り角ストッパーが形成されている。第2円板状部材は、円周方向に並んで配置されるとともにそれぞれが円周方向に延びて形成された第1窓孔及び第2窓孔を有し、第1窓孔には第1弾性部材が収容可能であり、第2窓孔は第2弾性部材が収容可能である。また、ストッパー部は、第1窓孔が形成された部分において外周に突出しかつ第1窓孔よりも円周方向長さが長く形成された第1突起と、第2窓孔が形成された部分において第2窓孔の外周側において外周に突出しかつ第2窓孔よりも円周方向長さが短く形成された第2突起と、を有している。さらに、捩り角ストッパーは、第1突起と第2突起との間に形成された切欠きを含み、切欠きは第1窓孔の側方から第2窓孔の外周側の一部にまで延びており、ピン部材は切欠き内において第1窓孔の側方から第2窓孔の外周側にまで移動可能である。
【0013】
このダンパーディスク組立体では、一対の第1円板状部材と第2円板状部材との間では、第1弾性部材と第2弾性部材を介してトルクが伝達される。捩り振動がダンパーディスク組立体に入力されると、一対の第1円板状部材と第2円板状部材とが相対回転して、第1弾性部材と第2弾性部材が回転方向に圧縮される。この結果、捩り振動が吸収・減衰される。
【0014】
このダンパーディスク組立体では、捩じり特性の正側(加速側)で第1弾性部材が圧縮されて高剛性の特性が得られ、捩じり特性の負側(減速側)で第2弾性部材が圧縮されて低剛性の特性が得られる。この結果、捩じり特性の正側では共振点通過時の回転速度変動を抑えることができ、捩じり特性の負側では全体にわたって良好な減衰率が得られる。
【0015】
特に、捩り角ストッパーは第2弾性部材より半径方向外側に配置されており、ピン部材は第2弾性部材が収容された第2窓孔の外周側に移動可能である。言い換えると、捩り角ストッパーは第1弾性部材と第2弾性部材の回転方向間に配置されておらず、ダンパーの広捩り角化が容易である。
【0016】
請求項2に記載のダンパーディスク組立体では、請求項1において、捩り特性の正側は、第1弾性部材のみが圧縮される第1領域と、第1領域より捩り角度の大きな領域であり第1弾性部材と第2弾性部材が並列に圧縮される第2領域とを含んでいる。
【0017】
このダンパーディスク組立体では、捩り特性の正側に第1領域と第2領域が設けられ、捩り特性正側の多段化が実現されている。
【0018】
請求項3に記載のダンパーディスク組立体では、請求項1又は2において、捩り特性の負側は、第2弾性部材のみが圧縮される第3領域と、第3領域より捩り角度の大きな領域であり第1弾性部材と第2弾性部材が並列に圧縮される第4領域とを含んでいる。
【0019】
このダンパーディスク組立体では、捩り特性の負側に第3領域と第4領域が設けられ、捩り特性負側の多段化が実現されている。
【0020】
請求項4に記載のダンパーディスク組立体は、請求項1〜3のいずれかにおいて、所定の摩擦を発生する摩擦発生部と、捩り特性の負側における微小捩り角度範囲においては摩擦発生部を作動させない摩擦抑制部とを有している摩擦発生機構をさらに備えている。
【0021】
このダンパーディスク組立体では、捩り特性の負側では、車両の前後振動などの大きな振幅の捩り振動に対しては摩擦発生部が摩擦を発生させて振動を減衰する。その一方、定常減速時の微小捩り振動に対しては摩擦抑制部によって摩擦発生部は作動せず、所定の摩擦を発生させない。この結果、摩擦による減衰性能の悪化を抑えることができる。
【0022】
このように、捩り特性の負側のみが微小捩じり振動に対して高ヒステリシストルクを発生しないため、例えば実用回転域に共振ピークが残るFF車などに本ダンパーディスク組立体を採用すると、ティップイン・ティップアウト減衰機能を維持しつつ、捩じり特性の正側の共振点ピークを小さくでき、さらに負側の騒音レベルを低く抑えることができる。
【0023】
請求項5に記載のダンパーディスク組立体は、請求項1〜4のいずれかにおいて、一対の第1円板状部材に摩擦係合する中間回転部材と、第2弾性部材の半径方向内側に配置され、中間回転部材と第2円板状部材とを回転方向に連結するための低剛性弾性部材とをさらに備えている。
【0024】
このダンパーディスク組立体では、低剛性弾性部材によって、捩り特性の捩り角度0度付近両側に低剛性の領域が得られる。このため、アイドリング時の微少捩り振動に対して振動吸収効果が高くなる。ここでは特に、低剛性弾性部材を第2弾性部材の半径方向内側に配置しているため、省スペース効果が得られる。
【0025】
請求項6に記載のダンパーディスク組立体では、請求項5において、中間回転部材は低剛性弾性部材の回転方向両端を支持する支持部を有している。
【0026】
このダンパーディスク組立体では、中間回転部材が低剛性弾性部材を回転方向に支持しているため、部品点数が少なくなり、さらに構造が簡単になる。
【0027】
請求項7に記載のダンパーディスク組立体は、請求項6において、中間回転部材と第2円板状部材が相対回転すると摩擦を発生するための摩擦部材をさらに備えている。
【0028】
このダンパーディスク組立体では、中間回転部材と第2円板状部材とが相対回転する際に摩擦部材が摩擦を発生させる。この結果、低剛性弾性部材が圧縮される捩り特性の1段目において適切なヒステリシストルクが得られる。
【0029】
請求項8に記載のダンパーディスク組立体では、請求項7において、摩擦部材はばね部材である。
【0030】
このダンパーディスク組立体では、摩擦部材はばね部材単体であるため、部品点数が少なくなる。
【0031】
請求項9に記載のダンパーディスク組立体では、請求項8において、摩擦部材は板ばねである。
【0032】
このダンパーディスク組立体では、摩擦部材が板ばねであるため、省スペース効果が得られる。
【0033】
請求項10に記載のダンパーディスク組立体では、請求項7〜9のいずれかにおいて、中間回転部材と第2円板状部材との相対回転範囲内で、摩擦部材を作動させないための回転方向隙間が設けられている。
【0034】
このダンパーディスク組立体では、回転方向隙間が設けられているため、その捩り角度範囲内であれば低剛性弾性部材が圧縮される捩り特性の1段目において摩擦部材が作動しない。したがって、中立点付近の微少捩り振動を吸収する効果が高くなる。
【0035】
【発明の実施の形態】
1.第1実施形態
(1)全体の構成
図1及び図2に本発明の一実施形態としてのクラッチディスク組立体1の断面図を示し、図3にその平面図を示す。クラッチディスク組立体1は、車両(特にFF車)のクラッチ装置に用いられる動力伝達装置であり、クラッチ機能とダンパー機能とを有している。クラッチ機能とは、フライホイール(図示せず)に連結及び離反することによってトルクの伝達及び遮断を行う機能である。ダンパー機能とは、フライホイール側から入力されるトルク変動等をばね等によって吸収・減衰する機能である。
【0036】
図1及び図2においてO−Oがクラッチディスク組立体1の回転軸である。図1の左側にエンジン及びフライホイール(図示せず)が配置され、図1の右側にトランスミッション(図示せず)が配置されている。さらに、図3の矢印R1側がクラッチディスク組立体1の駆動側(回転方向正側)であり、矢印R2側がその反対側(回転方向負側)である。なお、以下の説明で「回転(円周)方向」、「軸方向」及び「半径方向」とは、特に断らない限り、回転体としてのクラッチディスク組立体1の各方向をいうものとする。
【0037】
クラッチディスク組立体1は、主に、入力回転部材2と、出力回転部材3と、両回転部材2,3間に配置された弾性連結機構4とから構成されている。また、各部材によって、トルクを伝達するとともに捩じり振動を減衰するためのダンパー機構が構成されていることになる。
【0038】
(2)入力回転部材
入力回転部材2はフライホイール(図示せず)からトルクが入力される部材である。入力回転部材2は主にクラッチディスク11とクラッチプレート12とリティーニングプレート13とから構成されている。クラッチディスク11は、図示しないフライホイールに押し付けられて連結される部分である。クラッチディスク11は、クッショニングプレート15と、その軸方向両側にリベット18によって固定された一対の摩擦フェーシング16,17とからなる。
【0039】
クラッチプレート12とリティーニングプレート13は、ともに板金製の円板状かつ環状の部材であり、互いに対して軸方向に対して所定の間隔を開けて配置されている。クラッチプレート12は軸方向エンジン側に配置され、リティーニングプレート13は軸方向トランスミッション側に配置されている。リティーニングプレート13の外周縁には、円周方向に等間隔で複数の(4つの)箇所に、ストップピン22が配置されている。ストップピン22は軸方向に延びる円柱形状の部材である。ストップピン22は、図11に示すように、プレート12,13の軸方向間に挟まれた胴部22aと、その両側から延びてプレート12,13の孔内に配置された首部22bと、プレート12,13の軸方向外側面に当接する頭部22cとを有している。一方の頭部22cはかしめて形成されている。これにより、クラッチプレート12とリティーニングプレート13は一体回転するようになり、さらに軸方向の間隔が定められている。さらに、ストップピン22は、クッショニングプレート15の内周部をクラッチプレート12の外周部に固定している。なお、本発明に係るピン部材は、ストップピン22の構造や形状に限定されない。
【0040】
クラッチプレート12及びリティーニングプレート13にはそれぞれ中心孔が形成されている。この中心孔内には後述のボス7が配置される。
【0041】
クラッチプレート12及びリティーニングプレート13の各々には、円周方向に並んだ複数の窓部(41,42)が形成されている。各窓部(41,42)は同一形状であり、同一半径方向位置で円周方向に並んで複数(4つ)形成されている。各窓部(41,42)は概ね円周方向に長く延びている。
【0042】
ここで、図3において上下方向に対向して配置された一対の窓部を第1窓部41といい、図3において左右方向に対向して配置された一対の窓部を第2窓部42ということにする。図7に示すように、各窓部41,42は、軸方向に貫通した孔と、その孔の縁に沿って形成された支持部とからなる。
【0043】
第1窓部41の支持部は、外周側支持部45と内周側支持部46と回転方向支持部47とから構成されている。平面視で、外周側支持部45は概ね円周方向に沿った形状に湾曲しており、内周側支持部46はほぼ直線状に延びている。また、回転方向支持部47は、概ね半径方向に直線状に延びており、窓部41,42の円周方向中心とクラッチディスク組立体1の中心Oとを通る直線に平行である。外周側支持部45及び内周側支持部46は他のプレート部分から軸方向に起こされた部分である。
【0044】
第2窓部42の支持部は、外周側支持部48と内周側支持部49と回転方向支持部50とから構成されている。平面視で、外周側支持部48は概ね円周方向に沿った形状に湾曲しており、内周側支持部49はほぼ直線状に延びている。図7に示すように、第1窓部41の回転方向中心同士を結ぶ直線をC1とし、それに垂直な直線をC2とすると、第2窓部42の回転方向中心同士を結ぶ直線C3は直線C2に対して回転方向R2側に所定角度だけずれている。すなわち、各第2窓部42は、回転方向R1側の第1窓部41より回転方向R2側の第1窓部に近接している。第2窓部42は、第1窓部41に比べて、回転方向長さ及び半径方向幅も短くなっている。さらに、第2窓部42の内径は第1窓部41の内径と概ね同じであるが、第2窓部42の外径は第1窓部41の外径より小さい。
【0045】
ストップピン22のプレート12,13における位置について説明する。ストップピン22は、プレート12,13の外周部に設けられており、各窓部41,42の回転方向間に配置されている。さらに、詳細には、ストップピン22は、窓部41,42の間でより第2窓部42側にずれて配置されている。ストップピン22は、第1窓部41の外周縁より半径方向内側であるが、第2窓部42の外周縁より半径方向外側に位置している。より詳細には、ストップピン22の半径方向最内側部分でも第2窓部42の外周縁より半径方向外側に位置している。
【0046】
(3)出力回転部材
出力回転部材3は、入力回転部材から弾性連結機構4を介してトルクが入力され、さらに図示しないトランスミッション入力シャフトにトルクを出力するための部材である。出力回転部材3は主にハブ6によって構成されている。図8に示すように、ハブ6はボス7とフランジ8とからなる。
【0047】
ボス7はクラッチプレート12及びリティーニングプレート13の中心孔内に配置された筒状の部材である。ボス7はその中心孔に挿入されたトランスミッション入力シャフト(図示せず)に対してスプライン係合している。フランジ8は、ボス7の外周に一体に形成され、外周側に延びる円板形状部分である。フランジ8は、クラッチプレート12とリティーニングプレート13との軸方向間に配置されている。フランジ8は、最内周側の内周部8aと、その外周側に設けられ内周部8aより軸方向厚みが小さい外周部8bとからなる。
【0048】
フランジ8の外周部8bには、窓部41,42に対応して窓孔(43,44)が形成されている。すなわち、同一半径方向位置で円周方向に並んだ複数の(4つの)窓孔(43,44)が形成されている。ここで、図3において上下方向に対向して配置された一対の窓部を第1窓孔43といい、図3において左右方向に対向して配置された一対の窓部を第2窓孔44ということにする。各窓孔43は、軸方向に打ち抜かれた孔であり、円周方向に長く延びている。各窓孔43は外周側支持部63と内周側支持部64と回転方向支持部65とを有する。平面視で、外周側支持部63及び内周側支持部64は円周方向に沿った湾曲形状である。また、回転方向支持部65は概ね半径方向に直線状に延びており、より詳細には、回転方向支持部65は、窓孔43の回転方向中心とクラッチディスク組立体1の中心Oとを結ぶ直線に対して平行である。ただし、回転方向R1側の回転方向支持部65には、内周側に回転方向凹部65aが形成されている。回転方向凹部65aは、その外周側の部分に対して回転方向R1側にわずかに凹んでいる。内周側支持部64の回転方向中間には、半径方向凹部64aが形成されている。半径方向凹部64aはその回転方向の両側の部分に対して半径方向内側に凹んでいる。第1窓部41は、第1窓孔43に比べて回転方向に短く、かつ、第1窓孔43の回転方向R1側に寄っている。このため、第1窓部41の回転方向R1側の回転方向支持部47は第1窓孔43の回転方向R1側の回転方向支持部65に一致しているが、第1窓部41の回転方向R2側の回転方向支持部47は第1窓孔43の回転方向R2側の回転方向支持部65との間に第4回転方向隙間38を確保している。
【0049】
第2窓孔44は、軸方向に打ち抜かれた孔であり、円周方向に長く延びている。各窓孔44は外周側支持部67と内周側支持部68と回転方向支持部69とを有する。平面視で、外周側支持部67及び内周側支持部68は円周方向に沿った湾曲形状である。また、回転方向支持部69は概ね半径方向に直線状に延びており、より詳細には、回転方向支持部69は、第2窓孔44の回転方向中心とクラッチディスク組立体1の中心Oとを結ぶ直線に対して平行である。内周側支持部68の回転方向中間には、半径方向凹部68aが形成されている。半径方向凹部68aはその回転方向の両側の部分に対して半径方向内側に凹んでいる。第2窓部42は、第2窓孔44に比べて回転方向に短く、かつ、第2窓孔44の回転方向R2側に寄っている。このため、第2窓部42の回転方向R2側の回転方向支持部50は第2窓孔44の回転方向R2側の回転方向支持部69に一致しているが、第2窓部42の回転方向R1側の回転方向支持部50は第2窓孔44の回転方向R1側の回転方向支持部69との間に第3回転方向隙間37を確保している。
【0050】
フランジ8の外周縁には、ストップピン22が軸方向に通過している切り欠き8cが形成されている。切り欠き8cは、各窓孔(43,44)の回転方向間に位置しており、その中をストップピン22が回転方向に移動可能である。切り欠き8cは、第1窓孔43が形成された部分の半径方向突起83と、第2窓孔44の外周側の半径方向突起84とによって形成されている。つまり、各切り欠き8cは、フランジ8の外周縁8dと、各突起83,84の回転方向面83a,84aとによって形成されている。ストップピン22からみて、回転方向R1側の回転方向面(83a,84a)との間には第1回転方向隙間35が確保され、回転方向R2側の回転方向面(83a,84a)との間には第2回転方向隙間36が確保されている。以上より、ストップピン22と突起83,84及び切り欠き8cによってクラッチディスク組立体1のストッパー機構86が形成されていることになる。
【0051】
突起84は、第2窓孔44に対応して形成されており、回転方向中心同士は一致している。しかし、突起84は第2窓孔44に比べて回転方向長さが短いため、回転方向面84aは回転方向支持部69より回転方向内側に位置している。つまり、切り欠き8cは第2窓孔44の外周側(の一部)まで延びており、ストップピン22は第2窓孔44の外周側にまで移動可能となっている。これを言い換えると、ストッパー機構86(具体的にはストップピン22)が第2窓孔44と回転方向に干渉していない。その結果、ストッパー機構86の捩り可能角度が従来より大きくなっている。
【0052】
(4)弾性連結機構
弾性連結機構4は、入力回転部材2から出力回転部材3にトルクを伝達するとともに、捩り振動を吸収・減衰するための機構である。弾性連結機構4は複数の弾性部材(30,31)から構成されている。この実施形態では4つの弾性部材(30,31)が用いられている。各弾性部材(30,31)は第1窓孔43,44及び窓部41,42内に配置されている。弾性部材(30,31)は、第1窓孔43及び第1窓部41内に配置された第1弾性部材30と、第2窓孔44及び第2窓部42内に配置された第2弾性部材31との2種類から構成されている。
【0053】
第1弾性部材30は、回転方向に延びるコイルスプリングであって、回転方向両端が第1窓部41の両回転方向支持部47に支持されている。したがって、第1弾性部材30は、第1窓孔43内において回転方向R1側に寄って配置されている。より具体的には、第1弾性部材30の回転方向R1側端は第1窓孔43の回転方向支持部65に当接又は近接しているが、第1弾性部材30の回転方向R2側端は第1窓孔43の回転方向支持部65との間に第4回転方向隙間38を確保している。
【0054】
第2弾性部材31は、回転方向に延びるコイルスプリングであって、第1弾性部材に比べて回転方向長さやコイル径が小さく、さらにばね定数が小さい(剛性が低い)。回転方向両端が第2窓部42の両回転方向支持部50に支持されている。したがって、第2弾性部材31は、第2窓孔44内において回転方向R2側に寄って配置されている。より具体的には、第2弾性部材31の回転方向R2側端は第2窓孔44の回転方向支持部50に当接又は近接しているが、第2弾性部材31の回転方向R1側端は第2窓孔44の回転方向支持部69との間に第3回転方向隙間37を確保している。
【0055】
(5)中間回転部材
中間回転部材10は、入力回転部材2と出力回転部材3との間で相対回転可能に配置された部材であり、出力回転部材3に対して回転方向に係合するとともに、入力回転部材2との間に第2摩擦発生部71(後述)を形成している。中間回転部材10は、ブッシュ51と、プレート52とから構成されている。ブッシュ51は、クラッチプレート12の内周部とフランジ8との間に配置された環状の部材であり、例えば樹脂からなる。
【0056】
図12及び図13に示すように、ブッシュ51は、中心孔51jが形成された円板状の部材であり、筒状のボス51aと、正方形状のフランジ51bとから主に構成されている。フランジ51bの各辺(外周縁)の回転方向中央部には、軸方向に延びる突出部51cが各々形成されている。各突出部51cは、回転方向に細長く延びる薄壁形状を有しており、さらにその先端には回転方向に並んだ複数の半円形状の突起部51dが形成されている。各突出部51cは、第1窓孔43の半径方向凹部64aと第2窓孔44の半径方向凹部68a内をそれぞれ延びている。フランジ51bの対角線に位置する2箇所には、突起51eが形成されている。突起51eは、第1窓孔43の回転方向R1側の回転方向支持部65の近傍に配置され、より具体的には、回転方向支持部65の半径方向内側部分のさらに回転方向R1側に配置されている。各突起51eの回転方向R2側面には小さな凸部51fが形成されている。
【0057】
ブッシュ51の軸方向エンジン側の面51kは、クラッチプレート12の内周面側の側面に当接している。さらにブッシュ51の最内周部の軸方向トランスミッション側の面51lは、フランジ8の内周部8aの軸方向エンジン側面に当接している。さらに、ブッシュ51のボス51aは、クラッチプレート12の内周面とボス7の外周面7aとの間に挟まれ、プレート12をボス7に対して半径方向に位置決めしている。
【0058】
プレート52は、フランジ8とリティーニングプレート13との間に配置された部材であり、例えば板金製である。図14及び図15に示すように、プレート52は、中心孔52jが形成されさらに半径方向両側に延びる形状であり、中心部52aと、そこから半径方向両側に延びる部分52bとから構成されている。プレート52には、部分52bに沿って延びる直線状側面52eが形成されている。プレート52の半径方向方向両側に延びる部分52bには、第2窓孔44に対応した一対の窓孔52cが形成されている。窓孔52cは第2窓孔44と同一形状であり、窓孔52cの回転方向支持部52dは第2弾性部材31の回転方向両端に当接又は近接している。また、直線状側面52e及び各窓孔52cの内周側支持部には、回転方向に並んだ複数の半円形状の凹部52fが形成されている。この凹部52fには、ブッシュ51の突起部51dが係合しており、この結果両部材51,52は一体回転するようになっている。プレート52の外周縁で窓孔52cの回転方向R2側の部分には、突起部52gが形成されている。突起部52gの回転方向R2側の縁には、軸方向に延びている折り曲げ爪52hが形成されている。折り曲げ爪52hは、図10に示すように、第1窓孔43の回転方向凹部65a内に収納され、回転方向支持部65とともに第1弾性部材30の回転方向R1側端面を支持している。この結果、爪52hは、第1窓孔43の回転方向R1側の回転方向支持部65と第2弾性部材31の回転方向R1側端との間に挟まれ、フランジ8に対して回転方向R2側に離れることはできるが、回転方向R1側には移動不能となっている。なお、折り曲げ爪52hの先端には切り欠き52iが形成され、そこにはブッシュ51の凸部51fが係合している。
【0059】
以上に述べたように、ブッシュ51とプレート52は軸方向に当接するとともに回転方向に係合しており、一体回転する1つの部材(中間回転部材10)を構成している。なお、ブッシュ51とプレート52との軸方向距離はフランジ8の軸方向厚みより大きいため、フランジ8の軸方向両側面は両側の部材51,52から離れて配置されている。
【0060】
このように、中間回転部材10がブッシュ51とプレート52という2つの部材からなり、ブッシュ51がプレート52と係合する突出部51cを有している。したがって、従来のサブピンを省略することができ、部品点数が少なくなることでコストを低くできる。
【0061】
ブッシュ51の突出部51cは、各窓孔43,44の半径方向凹部64a,68a内を軸方向に延びている。突出部51cと半径方向凹部64a,68aの回転方向R2側の端面64b,68bとの間には、図9に示すように、第5回転方向隙間39が形成されている。
【0062】
以上より中間回転部材10とフランジ8の関係をまとめると、中間回転部材10はフランジ8に対して、折り曲げ爪52hが第1窓孔43の回転方向R1側の回転方向支持部65に当接しているため、回転方向R1側には相対回転不能である。しかし、中間回転部材10はフランジ8に対して、回転方向R2側には突出部51cが半径方向凹部64a,68aの回転方向R2側の端面64b,68bに当接するまで相対回転可能である。つまり、爪52hは回転方向凹部65aから所定角度だけ回転方向R2側に離れて第6回転方向隙間40を形成することができる。このように、中間回転部材10は、フランジ8に対して、回転方向隙間39,40の捩り角度分だけ相対回転可能となっている。このように、中間回転部材10は、出力回転部材3に対して捩じり特性の正側では一体回転するが、負側では所定角度範囲内で相対回転できるようになっている。
【0063】
(6)摩擦発生機構
クラッチディスク組立体1は、弾性連結機構4に対して並列に機能するように配置された摩擦発生機構79をさらに備えている。摩擦発生機構79は、低ヒステリシストルクを発生するための第1摩擦発生部70と、高ヒステリシストルクを発生するための第2摩擦発生部71とを有している。
【0064】
第1摩擦発生部70は、弾性連結機構4が作用している全領域すなわち捩じり特性の正側及び負側両方でヒステリシストルクを発生するための機構である。第1摩擦発生部70は、第1ブッシュ72と、第1コーンスプリング73とを有している。第1ブッシュ72と第1コーンスプリング73は、フランジ8の内周部8aとリティーニングプレート13の内周部との間に配置されている。第1ブッシュ72は、ワッシャ状の部材であり、フランジ8の内周部8aの軸方向トランスミッション側面に摺動可能に当接する摩擦面を有している。第1コーンスプリング73は、第1ブッシュ72とリティーニングプレート13の内周部との軸方向間に配置され、軸方向に圧縮されている。
【0065】
以上に述べた構造によって、第1摩擦発生部70では、第1コーンスプリング73の弾性力によって、クラッチプレート12及びリティーニングプレート13と一体回転する第1ブッシュ72が、フランジ8に対して軸方向から押し付けられ、回転方向に摺動可能となっている。
【0066】
第2摩擦発生部71は、第2ブッシュ76と、第2コーンスプリング77とから構成されている。
【0067】
第2ブッシュ76と第2コーンスプリング77は、プレート52の中心部52aとリティーニングプレート13の内周部との軸方向間、すなわち第1ブッシュ72及び第1コーンスプリング73の外周側に配置されている。第2ブッシュ76は、プレート52の中心部52aの軸方向トランスミッション側面に当接する摩擦面を有している。また、第2ブッシュ76は、環状本体部分から軸方向に延びリティーニングプレート13に形成された孔内に挿入された突起76aを有している。この係合によって第2ブッシュ76はリティーニングプレート13に対して軸方向には移動可能であるが相対回転は不能になっている。第2コーンスプリング77は第2ブッシュ76とリティーニングプレート13の内周部との軸方向間に配置され、両者の間で軸方向に圧縮されている。第2ブッシュ76の内周部には第1ブッシュ72から延びる突起が回転方向に係合する凹部が形成されており、この係合により第1ブッシュ72は第2ブッシュ76及びリティーニングプレート13と一体回転する。
【0068】
以上に述べた構造によって、第2摩擦発生部71では、第2コーンスプリング77の弾性力によって、クラッチプレート12及びリティーニングプレート13と一体回転する第2ブッシュ76が、中間回転部材10に対して軸方向から押し付けられ、回転方向に摺動可能となっている。第2摩擦発生部71で発生するヒステリシストルクは第1摩擦発生部70で発生するヒステリシストルクよりかなり大きく、10〜20倍の範囲にある。
【0069】
(7)回転方向隙間
各回転方向隙間35〜40の捩り角度の大きさの意味を関係について説明する。なお、以下に示す具体的な数値は単なる例示である。
【0070】
第1回転方向隙間35は、ダンパーディスク組立体1の捩り特性の正側の全捩り角度を意味している。θ1の具体的な数値は16.5度であるが、その数値に限定されない。第2回転方向隙間36は、ダンパーディスク組立体1の捩り特性の負側の全捩り角度を意味しており、その大きさをθ2で示す。θ2の具体的な数値は13.0度であり、θ1より小さい。以上より、θ1とθ2の合計がクラッチディスク組立体1の全捩り角度を示す。
【0071】
第3回転方向隙間37は、捩り特性の正側において、第2弾性部材31の圧縮が開始されるまで(第1弾性部材30のみが圧縮されている領域)の捩り角度である。第2弾性部材31が圧縮されている領域の捩り角度の大きさはθ2であり、第3回転方向隙間37の捩り角度の大きさはθ1−θ2である。この実施形態では、θ1−θ2は3.5度である。この結果、捩り特性の正側は、第1弾性部材30のみが圧縮される第1領域(0〜3.5度)と、第1領域より捩り角度の大きな領域であり第1弾性部材30と第2弾性部材31が並列に圧縮される第2領域(3.5〜16.6度)とを含んでおり、捩り特性正側の多段化が実現されている
第4回転方向隙間38は、捩り特性の負側において、第1弾性部材30の圧縮が開始されるまで(第2弾性部材31のみが圧縮されている領域)の捩り角度である。第1弾性部材30が圧縮されている領域の捩り角度の大きさをθ3とすると、第4回転方向隙間38の捩り角度の大きさはθ2−θ3である。この実施形態では、θ3が2度なので、θ2−θ3は11度である。この結果、捩り特性の負側は、第2弾性部材31のみが圧縮される第3領域(0〜11度)と、第3領域より捩り角度の大きな領域であり第1弾性部材30と第2弾性部材31が並列に圧縮される第4領域(11〜13度)とを含んでおり、
捩り特性負側の多段化が実現されている。
【0072】
第5回転方向隙間39及び第6回転方向隙間40は、捩り特性の負側において所定範囲の捩り振動に対しては第2摩擦発生部71において摩擦抵抗を発生させないための隙間である。第5回転方向隙間39及び第6回転方向隙間40の捩り角度はθ4で示す。この実施形態では、θ4は2度である。
【0073】
(8)捩じり特性
次に、図16及び図17に示すダンパー機構の模式図及び図18に示す捩じり特性線図を用いて、クラッチディスク組立体1の捩じり特性について説明する。なお、図18に表れた具体的な数値は本発明の一実施例として開示するものであり、本発明を限定するものではない。
【0074】
最初に、図16の中立状態から入力回転部材2を固定しておき、それに対してハブ6を回転方向R2側に捩じっていく捩じり特性正側領域の動作(このとき入力回転部材2が出力回転部材3に対して回転方向R1側に捩じれることになる)を説明する。
【0075】
捩じり角度の小さな領域では、2個の第1弾性部材30が圧縮される。捩じり角度がθ1−θ2より大きくなると、第2窓孔44の回転方向R1側の回転方向支持部69が第2弾性部材31の回転方向R1側端に当接する。これ以降は、2個の第1弾性部材30が2個の第2弾性部材31と並列に圧縮され、高剛性の特性が得られる。また、第1摩擦発生部70及び第2摩擦発生部71が作動し、高ヒステリシストルクの特性が得られる。第2摩擦発生部71では、中間回転部材10は、折り曲げ爪52hが第1窓孔43のR1側の回転方向支持部65に押されることで、フランジ8と回転方向R2側に一体回転し、第2ブッシュ76に対して摺動する。
【0076】
この捩じり特性正側において微小捩じり振動がクラッチディスク組立体1に入力された場合に、中間回転部材10の折り曲げ爪52hは常に第1弾性部材30によって第1窓孔43の回転方向R1側の回転方向支持部65に押し付けられている。したがって、中間回転部材10はフランジ8に対して相対回転することができず、微少振動入力時であっても弾性部材30,31の弾性力は常に中間回転部材10を介して第2摩擦発生部71に作用している。つまり、入力回転部材2と出力回転部材3とが相対回転するときは、捩じり特性正側では常に第2摩擦発生部71が作動し、高ヒステリシストルクを発生している。
【0077】
次に、図17の中立状態から入力回転部材2を固定しておきそれ対してハブ6を回転方向R1側に捩じっていく捩じり特性負側領域の動作(このとき入力回転部材2が出力回転部材3に対して回転方向R2に捩じれることになる)を説明する。
【0078】
捩じり角度の小さな領域では、2個の第2弾性部材31のみが圧縮され、正側に比べて低剛性の特性が得られる。また、第1摩擦発生部70及び第2摩擦発生部71が作動し、高ヒステリシストルクの特性が得られる。このとき第2摩擦発生部71では、中間回転部材10は、ブッシュ51の突出部51cが半径方向凹部64a及び/又は68aの回転方向R2側端に押されることで、フランジ8と回転方向R1側に一体回転し、第2ブッシュ76に対して摺動する。すなわち、折り曲げ爪52hは凹部65aから回転方向R2側にθ4分離れている。
【0079】
捩じり角度がθ2−θ3になると、第1窓孔43の回転方向R2側の回転方向支持部65が第1弾性部材30の回転方向R2側端に当接する。これ以降は、2個の第1弾性部材30が2個の第2弾性部材31に並列に圧縮される。この結果、高剛性・高ヒステリシストルクの捩じり特性が得られる。
【0080】
以上に述べたように、第2弾性部材31は、捩り特性正側において、捩り角度θ2の範囲のみ(正側全角度θ1より小さい範囲)で圧縮されるようになっており、正側で圧縮される角度が負側で圧縮される角度(負側全角度)と同じである。他の実施例としては、第2弾性部材31が正側で圧縮される角度が負側で圧縮される角度(負側全角度)より小さくてもよい。このように、第2弾性部材31が正側で圧縮される角度が負側で圧縮される角度(負側全角度)より大きくないことによって、第2弾性部材を低剛性でかつ低トルク容量のものにすることができる。この結果、第2弾性部材31の形状を前述のように第1弾性部材30より小さくすることができ、結果として第2弾性部材31をストップピン22の作動範囲より内側に配置することができる。
【0081】
次に、図18の捩じり特性線図を参照して、具体的にクラッチディスク組立体1に各種捩り振動が入力された時の捩り特性について説明する。
【0082】
車両の前後振動のように振幅の大きな捩り振動が発生すると、捩り特性は正負両側にわたって変動を繰り返す。この時、正負両側で発生する高ヒステリシストルクによって車両の前後振動は速やかに減衰される。
【0083】
次に、例えばエンジンブレーキをかけた減速時においてエンジンの燃焼変動に起因する微小捩り振動がクラッチディスク組立体1に入力されたとする。このとき、中間回転部材10は、第5回転方向隙間39においてフランジ8に対して相対回転し、第2摩擦発生部71において第2ブッシュ76及びクラッチプレート12に摺動しない。この結果、微小捩じり振動に対しては高ヒステリシストルクが発生しない。すなわち捩り特性線図において隙間角度θ4範囲内では第2弾性部材31が作動するが、第2摩擦発生部71では滑りが生じない。つまり、捩じり角度θ4の範囲では、負側のヒステリシストルクよりはるかに小さなヒステリシストルク(第1摩擦発生部70によるヒステリシストルク)が得られる。このθ4内のヒステリシストルクは全体にわたるヒステリシストルクの1/10程度であることが好ましい。このように、捩じり特性の負側において第2摩擦発生部71を所定角度範囲内では作動させない回転方向隙間を設けたため、エンジンブレーキをかけた減速時の振動・騒音レベルを大幅に低くすることができる。
【0084】
捩じり特性の正側において第2摩擦発生部71を所定角度範囲内で作動させない回転方向隙間を設けなかったため、実用回転域に共振ピークが残ることが多いFF車などの場合、共振回転数付近で音・振動性能が悪化しない。
【0085】
このように、捩じり特性の正負両側のうち一方にのみ摩擦機構を所定角度範囲内で作動させない回転方向隙間を確保しているため、加速・減速の両方で音・振動性能が向上する。
【0086】
以上に述べたように、本発明に係るダンパー機構では、捩じり特性の正側と負側とで捩じり剛性を異ならせるのみでなく、微小捩じり振動に対して高ヒステリシストルクを発生させない構造を捩じり特性の一方のみに設けることで、全体として好適な捩じり特性を実現している。
【0087】
特に、本発明に係るダンパー機構では、中間回転部材10を用いた簡単な構造によって、捩じり特性の一方側のみに微小捩じり振動に対して高ヒステリシストルクを発生させない摩擦抑制機構を実現している。具体的には、中間回転部材10は、ブッシュ51の突出部51cと折り曲げ爪52hという回転方向に離れた2箇所によって、フランジ8に対して第5回転方向隙間39及び第6回転方向隙間40の範囲内で相対回転可能となっている。これにより中間回転部材10は、入力回転部材2に対して摩擦摺動する摩擦部材として機能するとともに、所定の捩じり角度範囲では摩擦を発生させない摩擦抑制機構をも構成している。さらに、中間回転部材10の折り曲げ爪52hは、図10に示すように、フランジ8の第1窓孔43の回転方向R1側の回転方向支持部65と第1弾性部材30の回転方向R1側端との間に挟まれているため、捩じり特性正側では第1弾性部材30によって常に第1窓孔43の回転方向支持部65に押し付けられており、フランジ8に対して回転方向R2側に移動することができない。つまり、捩じり特性の正側で微小捩じり振動が入力された場合でも、中間回転部材10はフランジ8と一体回転する。それに対して、捩じり特性負側では第1弾性部材30の回転方向R1側端は第1窓孔43の回転方向支持部65から回転方向R2側に離れているため、折り曲げ爪52hは凹部65aから回転方向R2側に離れることができる。つまり、捩じり特性の負側で微小捩じり振動が入力された場合には、中間回転部材10はフランジ8に対して捩じり角度θ4内で相対回転可能である。
【0088】
2.第2実施形態
(1)全体の構成
図19及び図20に本発明の一実施形態としてのクラッチディスク組立体101の断面図を示し、図21にその平面図を示す。クラッチディスク組立体101は、車両(特にFF車)のクラッチ装置に用いられる動力伝達装置であり、クラッチ機能とダンパー機能とを有している。クラッチ機能とは、フライホイール(図示せず)に連結及び離反することによってトルクの伝達及び遮断を行う機能である。ダンパー機能とは、フライホイール側から入力されるトルク変動等をばね等によって吸収・減衰する機能である。
【0089】
図19及び図20においてO−Oがクラッチディスク組立体101の回転軸である。図19の左側にエンジン及びフライホイール(図示せず)が配置され、図19の右側にトランスミッション(図示せず)が配置されている。さらに、図21の矢印R1側がクラッチディスク組立体101の駆動側(回転方向正側)であり、矢印R2側がその反対側(回転方向負側)である。なお、以下の説明で「回転(円周)方向」、「軸方向」及び「半径方向」とは、特に断らない限り、回転体としてのクラッチディスク組立体101の各方向をいうものとする。
【0090】
クラッチディスク組立体101は、主に、入力回転部材102と、出力回転部材103と、両回転部材102,103間に配置された弾性連結機構104とから構成されている。また、各部材によって、トルクを伝達するとともに捩じり振動を減衰するためのダンパー機構が構成されていることになる。
【0091】
(2)入力回転部材
入力回転部材102はフライホイール(図示せず)からトルクが入力される部材である。入力回転部材102は主にクラッチディスク111とクラッチプレート112とリティーニングプレート113とから構成されている。クラッチディスク111は、図示しないフライホイールに押し付けられて連結される部分である。クラッチディスク111は、クッショニングプレート115と、その軸方向両側にリベット118によって固定された一対の摩擦フェーシング116,117とからなる。
【0092】
クラッチプレート112とリティーニングプレート113は、ともに板金製の円板状かつ環状の部材であり、互いに対して軸方向に対して所定の間隔を開けて配置されている。クラッチプレート112はエンジン側に配置され、リティーニングプレート113はトランスミッション側に配置されている。リティーニングプレート113の外周縁には、円周方向に所定の間隔で複数の(4つの)箇所に、ストップピン122が配置されている。ストップピン122は軸方向に延びる円柱形状の部材である。ストップピン122は、プレート112,113の軸方向間に挟まれた胴部122aと、その両側から延びてプレート112,113の孔153内に配置された首部122bと、プレート112,113の軸方向外側面に当接する頭部122cとを有している。一方の頭部122cはかしめて形成されている。これにより、クラッチプレート112とリティーニングプレート113は一体回転するようになり、さらに軸方向の間隔が定められている。さらに、ストップピン122は、クッショニングプレート115の内周部をクラッチプレート112の外周部に固定している。なお、本発明に係るピン部材は、ストップピン122の構造や形状に限定されない。
【0093】
クラッチプレート112及びリティーニングプレート113にはそれぞれ中心孔が形成されている。この中心孔内には後述のボス107が配置される。
【0094】
クラッチプレート112及びリティーニングプレート113の各々には、円周方向に並んだ複数の窓部(141,142)が形成されている。各窓部(141,142)は同一形状であり、同一半径方向位置で円周方向に並んで複数(4つ)形成されている。各窓部(141,142)は概ね円周方向に長く延びている。
【0095】
ここで、図21及び図22において上下方向に対向して配置された一対の窓部を第1窓部141といい、図21及び図22において左右方向に対向して配置された一対の窓部を第2窓部142ということにする。各窓部141,142は、軸方向に貫通した孔と、その孔の縁に沿って形成された支持部とからなる。
【0096】
第1窓部141の支持部は、外周側支持部145と内周側支持部146と回転方向支持部147とから構成されている。平面視で、外周側支持部145は概ね円周方向に沿った形状に湾曲しており、内周側支持部146はほぼ直線状に延びている。また、回転方向支持部147は、概ね半径方向に直線状に延びており、窓部141,142の円周方向中心とクラッチディスク組立体101の中心Oとを通る直線に平行である。外周側支持部145及び内周側支持部146は他のプレート部分から軸方向に起こされた部分である。
【0097】
第2窓部142の支持部は、外周側支持部148と内周側支持部149と回転方向支持部150とから構成されている。平面視で、外周側支持部148は概ね円周方向に沿った形状に湾曲しており、内周側支持部149はほぼ直線状に延びている。図21に示すように、第1窓部141の回転方向中心同士を結ぶ直線をC1とし、それに垂直な直線をC2とすると、第2窓部142の回転方向中心同士を結ぶ直線C3は直線C2に対して回転方向R2側に所定角度だけずれている。すなわち、各第2窓部142は、回転方向R1側の第1窓部141により回転方向R2側の第1窓部141に近接している。第2窓部142は、第1窓部141に比べて、回転方向長さ及び半径方向幅も短くなっている。さらに、第2窓部142の内径は第1窓部141の内径と概ね同じであるが、第2窓部142の外径は第1窓部141の外径より小さい。
【0098】
ストップピン122のプレート112,113における位置について説明する。ストップピン122は、プレート112,113の外周部に設けられており、各窓部141,142の回転方向間に配置されている。さらに、詳細には、ストップピン122は、窓部141,142の間でより第2窓部142側にずれて配置されている。ストップピン122は、第1窓部141の外周縁より半径方向内側であるが、第2窓部142の外周縁より半径方向外側に位置している。より詳細には、ストップピン122は、その半径方向最内側部分ですら、第2窓部142の外周縁より半径方向外側に位置している。
【0099】
図22に示すように、クラッチプレート112及びリティーニングプレート113において、第1窓部141の回転方向R2側にあるストップピン122の回転方向R1両側には、ピン取付孔154,155が設けられている。つまり、この箇所にはストップピン122が実際に取り付けられている孔153を含めて、合計3つの孔153〜155が回転方向に並んで形成されていることになる。ピン取付孔155とピン取付孔154との間の回転方向角度はθ11であり、ピン取付孔155とピン取付孔153との間の回転方向角度はθ12である。また、クラッチプレート112及びリティーニングプレート113において、第1窓部141の回転方向R1側にあるストップピン122の回転方向R2側には、ピン取付孔157が設けられている。つまり、この箇所にはストップピン122が実際に取り付けられている孔156を含めて、合計2つの孔156,157が回転方向に並んで形成されていることになる。ピン取付孔156とピン取付孔157との間の回転方向角度はθ13である。
【0100】
この実施形態では、θ11〜θ13の大きさは同一であり、9度である。
【0101】
(3)出力回転部材
出力回転部材103は、入力回転部材102から弾性連結機構104を介してトルクが入力され、さらに図示しないトランスミッション入力シャフトにトルクを出力するための部材である。出力回転部材103は主にハブ106によって構成されている。ハブ106はボス107とフランジ108とからなる。
【0102】
ボス107はクラッチプレート112及びリティーニングプレート113の中心孔内に配置された筒状の部材である。ボス107はその中心孔に挿入されたトランスミッション入力シャフト(図示せず)に対してスプライン係合している。フランジ108は、ボス107の外周に一体に形成され、外周側に延びる円板形状部分である。フランジ108は、クラッチプレート112とリティーニングプレート113との軸方向間に配置されている。フランジ108は、最内周側の環状の内周部108aと、その外周側に設けられた外周部108bとからなる。
【0103】
フランジ108の外周部108bには、窓部141,142に対応して窓孔(143,144)が形成されている。すなわち、同一半径方向位置で円周方向に並んだ複数の(4つの)窓孔(143,144)が形成されている。ここで、図21及び図23において上下方向に対向して配置された一対の窓部を第1窓孔143といい、図21及び図23において左右方向に対向して配置された一対の窓部を第2窓孔144ということにする。各窓孔143は、軸方向に打ち抜かれた孔であり、円周方向に長く延びている。各窓孔143は外周側支持部163と内周側支持部164と回転方向支持部165とを有する。平面視で、外周側支持部163及び内周側支持部164は円周方向に沿った湾曲形状である。また、回転方向支持部165は概ね半径方向に直線状に延びており、より詳細には、回転方向支持部165は、窓孔143の回転方向中心とクラッチディスク組立体101の中心Oとを結ぶ直線に対して平行である。ただし、回転方向R1側の回転方向支持部165には、内周側に回転方向凹部165aが形成されている。回転方向凹部165aは、その外周側の部分に対して回転方向R1側にわずかに凹んでいる。内周側支持部164の回転方向中間には、半径方向凹部164aが形成されている。半径方向凹部164aはその回転方向の両側の部分に対して半径方向内側に凹んでいる。
【0104】
第1窓部141は、第1窓孔143に比べて回転方向に短くなっている。このため、第1窓部141の回転方向R1側の回転方向支持部147は第1窓孔143の回転方向R1側の回転方向支持部165との間に回転方向隙間139(θ15)を確保している。また、第1窓部141の回転方向R2側の回転方向支持部147は第1窓孔143の回転方向R2側の回転方向支持部165との間に第4回転方向隙間138(θ6)を確保している。
【0105】
第2窓孔144は、軸方向に打ち抜かれた孔であり、円周方向に長く延びている。各窓孔144は外周側支持部167と内周側支持部168と回転方向支持部169とを有する。平面視で、外周側支持部167及び内周側支持部168は円周方向に沿った湾曲形状である。また、回転方向支持部169は概ね半径方向に直線状に延びており、より詳細には、回転方向支持部169は、第2窓孔144の回転方向中心とクラッチディスク組立体1の中心Oとを結ぶ直線に対して平行である。第2窓部142は、第2窓孔144に比べて回転方向に短い。このため、図27に示すように、第2窓部142の回転方向R2側の回転方向支持部150は第2窓孔144の回転方向R2側の回転方向支持部169との間に回転方向隙間140(θ16)を確保している。第2窓部142の回転方向R1側の回転方向支持部150は第2窓孔144の回転方向R1側の回転方向支持部169との間に所定角度の第3回転方向隙間137(θ5)を確保している。
【0106】
フランジ108の外周縁には、ストップピン122が軸方向に通過している切り欠き108cが形成されている。切り欠き108cは、各窓孔(143,144)の回転方向間に位置しており、その中をストップピン122が回転方向に移動可能である。切り欠き108cは、第1窓孔143が形成された部分の半径方向突起183と、第2窓孔144の外周側の半径方向突起184とによって形成されている。つまり、各切り欠き108cは、フランジ108の外周縁108dと、各突起183,184の回転方向面183a,184aとによって形成されている。ストップピン122からみて、回転方向R1側の回転方向面184aとの間には第1回転方向隙間135(θ1)が確保され、回転方向R2側の回転方向面183aとの間には第2回転方向隙間136(θ2)が確保されている。以上より、ストップピン122と突起183,184及び切り欠き108cによってクラッチディスク組立体101の捩り角ストッパー186が形成されていることになる。
【0107】
なお、クラッチプレート112及びリティーニングプレート113のピン取付孔153〜157は、切り欠き108cの円周方向範囲内に配置されている。言い換えると、切り欠き108cは、複数のピン取付孔153〜157の円周方向外側端より円周方向に大きい両端を有している。この結果、いずれのピン取付孔にストップピン122を取り付けても捩り角ストッパー186が実現される。
【0108】
突起184は、第2窓孔144に対応して形成されており、回転方向中心同士は一致している。なお、突起184は第2窓孔144に比べて回転方向長さが短くすることができ、その場合は回転方向面184aは回転方向支持部169より回転方向内側に位置する。つまり、切り欠き108cは第2窓孔144の外周側(の一部)まで延びており、ストップピン122は第2窓孔144の外周側にまで移動可能となる。これを言い換えると、捩り角ストッパー186(具体的にはストップピン122)が第2窓孔144と回転方向に干渉していない。その結果、捩り角ストッパー186の捩り可能角度が従来より大きくなる。
【0109】
(4)弾性連結機構
弾性連結機構104は、入力回転部材102から出力回転部材103にトルクを伝達するとともに、捩り振動を吸収・減衰するための機構である。弾性連結機構104は複数の弾性部材(130,131)から構成されている。この実施形態では4つの弾性部材(130,131)が用いられている。各弾性部材(130,131)は第1窓孔143,144及び窓部141,142内に配置されている。弾性部材(130,131)は、第1窓孔143及び第1窓部141内に配置された第1弾性部材130と、第2窓孔144及び第2窓部142内に配置された第2弾性部材131との2種類から構成されている。
【0110】
第1弾性部材130は、回転方向に延びるコイルスプリングであって、回転方向両端が第1窓部141の両回転方向支持部147に支持されている。したがって、第1弾性部材130の回転方向R1側端は第1窓孔143の回転方向支持部165との間に回転方向隙間139(θ15)を確保しており、第1弾性部材130の回転方向R2側端は第1窓孔143の回転方向支持部165との間に第4回転方向隙間138(θ6)を確保している。
【0111】
第2弾性部材131は、回転方向に延びるコイルスプリングであって、第1弾性部材130に比べて回転方向長さやコイル径が小さく、さらにばね定数が小さい(剛性が低い)。第2弾性部材131は回転方向両端が第2窓部142の両回転方向支持部150に支持されている。したがって、第2弾性部材131の回転方向R2側端は第2窓孔144の回転方向支持部150との間に回転方向隙間140(θ16)を確保しており、第2弾性部材131の回転方向R1側端は第2窓孔144の回転方向支持部169との間に第3回転方向隙間137(θ5)を確保している。
【0112】
(5)中間回転部材
中間回転部材110は、入力回転部材102と出力回転部材103との間で相対回転可能に配置された部材であり、出力回転部材103に対して回転方向に係合するとともに、入力回転部材102との間に第2摩擦発生部171(後述)を形成している。中間回転部材110は、ブッシュ151と、プレート152とから構成されている。
【0113】
ブッシュ151は、クラッチプレート112の内周部とフランジ108との間に配置された環状の部材であり、例えば樹脂からなる。ブッシュ151は、軸方向トランスミッション側に延び、第1窓孔143の半径方向凹部164a内を軸方向に延びる突出部151aを有している。図28に示すように、突出部151aの回転方向長さ(角度)は半径方向凹部164aの回転方向長さ(角度)より小さくなっており、そのため突出部151aは半径方向凹部164a内を回転方向に移動可能となっている。図28に示す中立状態では、突出部151aの回転方向R1側端と半径方向凹部164aの回転方向R1側の壁部との間には回転方向隙間182(θ15)が確保され、突出部151aの回転方向R2側端と半径方向凹部164aの回転方向R2側の壁部との間には回転方向隙間181(θ16)が確保されている。このように、フランジ108と中間回転部材110は所定角度範囲内で相対回転可能となっており、さらに突出部151aと凹部164aによって第1ダンパー機構159(後述)の捩り角ストッパーが実現されている。
【0114】
プレート152は、フランジ108とリティーニングプレート113との間に配置された部材であり、例えば板金製である。プレート152にはブッシュ151の突出部151aが係合しており、この結果両部材151,152は一体回転するようになっている。プレート152の外周縁には、半径方向外側に延びる突出部152aが形成されている。突出部152aの回転方向R2側の縁には、軸方向エンジン側に延びる折り曲げ爪152bが形成されている。折り曲げ爪152bは、第1窓孔143の回転方向凹部165aから回転方向R2側にθ15離れており、第1弾性部材130の回転方向R1側端面に当接又は近接している。したがって、折り曲げ爪152bはハブ106に対して回転方向R1側にθ15移動すると、凹部165a内に収納され、回転方向支持部165とともに第1弾性部材130の回転方向R1側端面を支持する。この状態で、爪152bは、第1窓孔143の回転方向R1側の回転方向支持部165と第2弾性部材131の回転方向R1側端との間に挟まれ、フランジ108に対して回転方向R2側に離れることはできるが、回転方向R1側には移動不能となる。
【0115】
突出部152aの回転方向R1側縁152cは、図27に示すように、第2弾性部材131の回転方向R2側端に近接して配置されており、回転方向隙間133(θ4)を確保している。
【0116】
以上に述べたように、ブッシュ151とプレート152は軸方向に当接するとともに回転方向にも係合しており、一体回転する1つの部材(中間回転部材110)を構成している。なお、ブッシュ151とプレート152との軸方向距離はフランジ108の軸方向厚みより大きいため、フランジ108の軸方向両側面は両側の部材151,152から離れて配置されている。
【0117】
このように、中間回転部材110がブッシュ151とプレート152という2つの部材からなり、ブッシュ151がプレート152と係合する突出部151aを有している。したがって、従来のサブピンを省略することができ、部品点数が少なくなることでコストを低くできる。
【0118】
(6)摩擦発生機構
クラッチディスク組立体101は、弾性連結機構104に対して並列に機能するように配置された摩擦発生機構179をさらに備えている。摩擦発生機構179は、低ヒステリシストルクを発生するための第1摩擦発生部170と、高ヒステリシストルクを発生するための第2摩擦発生部171とを有している。
【0119】
第1摩擦発生部170は、弾性連結機構104が作用している全領域すなわち捩じり特性の正側及び負側両方でヒステリシストルクを発生するための機構である。第1摩擦発生部170は、第1ブッシュ172と、第1コーンスプリング173とを有している。第1ブッシュ172と第1コーンスプリング173は、フランジ108の内周部108aとリティーニングプレート113の内周部との間に配置されている。第1ブッシュ172は、ワッシャ状の部材であり、フランジ108の内周部108aの軸方向トランスミッション側面に摺動可能に当接する摩擦面を有している。第1コーンスプリング173は、第1ブッシュ172とリティーニングプレート113の内周部との軸方向間に配置され、軸方向に圧縮されている。
【0120】
以上に述べた構造によって、第1摩擦発生部170では、第1コーンスプリング173の弾性力によって、クラッチプレート112及びリティーニングプレート113と一体回転する第1ブッシュ172が、フランジ108に対して軸方向から押し付けられ、回転方向に摺動可能となっている。
【0121】
第2摩擦発生部171は、第2ブッシュ176と、第2コーンスプリング177とから構成されている。
【0122】
第2ブッシュ176と第2コーンスプリング177は、プレート152の中心部とリティーニングプレート113の内周部との軸方向間、すなわち第1ブッシュ172及び第1コーンスプリング173の外周側に配置されている。第2ブッシュ176は、プレート152の中心部の軸方向トランスミッション側面に当接する摩擦面を有している。また、第2ブッシュ176は、環状本体部分から軸方向に延びリティーニングプレート113に形成された孔内に挿入された突起を有している。この係合によって第2ブッシュ176はリティーニングプレート113に対して軸方向には移動可能であるが相対回転は不能になっている。第2コーンスプリング177は第2ブッシュ176とリティーニングプレート113の内周部との軸方向間に配置され、両者の間で軸方向に圧縮されている。第2ブッシュ176の内周部には第1ブッシュ172から延びる突起が回転方向に係合する凹部が形成されており、この係合により第1ブッシュ172は第2ブッシュ176及びリティーニングプレート113と一体回転する。
【0123】
以上に述べた構造によって、第2摩擦発生部171では、第2コーンスプリング177の弾性力によって、リティーニングプレート113と一体回転する第2ブッシュ176及びクラッチプレート112が、中間回転部材110に対して軸方向から押し付けられ、回転方向に摺動可能となっている。第2摩擦発生部171で発生するヒステリシストルクは第1摩擦発生部170で発生するヒステリシストルクよりかなり大きく、10〜20倍の範囲にある。
【0124】
(7)第1ダンパー機構
第1ダンパー機構159について説明する。第1ダンパー機構159は、中間回転部材110とハブ106とを回転方向に弾性的に連結するための機構であり、捩り特性のゼロ角度付近で低剛性の特性を実現することでアイドリング時の微少捩り振動を吸収・減衰することを目的としている。つまり、前述の弾性連結機構104は車両の通常走行時における捩り振動を吸収・減衰するための第2ダンパー機構160であるといえる。
【0125】
第1ダンパー機構159は、主に、小コイルスプリング161と板ばね162とから構成されている。小コイルスプリング161は、中間回転部材110とハブ106との間でトルクを伝達するとともに両部材が相対回転するとその間で回転方向に圧縮され所望の剛性を発生させるための部材である。板ばね162は、中間回転部材110とハブ106とが相対回転すると摩擦抵抗を発生させるための部材である。
【0126】
小コイルスプリング161は、第2弾性部材131の半径方向内側に配置されている。さらに、小コイルスプリング161は、コイル径及び自由長が第2弾性部材131より大幅に短く、回転方向中心位置がほぼ一致している。したがって、小コイルスプリング161の回転方向両端は、第2弾性部材131の回転方向内側に位置している。小コイルスプリング161は、図24に示すように、フランジ108の内周部108aの窓孔108eに収容されている。すなわち、小コイルスプリング161の回転方向両端は、窓孔108eの円周方向両端に支持されている。さらに、ブッシュ151及びプレート152には、それぞればね支持部151e,152eが設けられている。ばね支持部151e,152eは各部材の軸方向内側面において軸方向外側に凹んだ凹部であり、小コイルスプリング161の軸方向外側と回転方向両側を支持している。すわなち、小コイルスプリング161の回転方向両端は、ばね支持部151e,152eの回転方向両端に支持されている。なお、窓孔108eは第2窓孔144から連続していてもよいし、不連続でもよい。
【0127】
板ばね162は、ブッシュ151の突出部151aの軸方向トランスミッション側(プレート152側)に形成された溝151f内に配置されている。溝151fは、図28に示すように、回転方向に弧状に延びており、両端が回転方向に開口している。板ばね162は、溝151fとほぼ同等の軸方向高さを有しており、溝151fに沿って回転方向に弧状に延びている。板ばね162は溝151f内で半径方向に圧縮されており、回転方向両端は溝151fの外周側壁に押しつけられ、回転方向中間部は溝151fの内周側壁に押しつけられている。さらに、板ばね162の回転方向長さ(角度)は溝151fの回転方向長さ(角度)より大きく、その結果板ばね162の両端又は片側端は溝151fつまり突出部151aから回転方向に飛び出している。板ばね162の回転方向角度は半径方向凹部164aの回転方向角度より小さく、回転方向隙間158を確保している。回転方向隙間158の捩り角度はθ17であり、この実施形態ではθ17の大きさは4度である。
【0128】
(8)回転方向隙間
各回転方向隙間135〜137等の捩り角度の大きさの意味を関係について説明する。なお、以下に示す具体的な数値は単なる例示である。
【0129】
第1回転方向隙間135は、クラッチディスク組立体101の捩り特性の正側の全捩り角度を意味しており、その大きさをθ1で表す。この実施形態では、θ1の具体的な数値は23度であるが、その数値に限定されない。
【0130】
第2回転方向隙間136は、クラッチディスク組立体101の捩り特性の負側の全捩り角度を意味しており、その大きさをθ2で示す。この実施形態では、θ2の具体的な数値は13度であり、θ1より小さい。以上より、θ1とθ2の合計がクラッチディスク組立体101の全捩り角度を示す。
【0131】
第3回転方向隙間137は、捩り特性の正側において、第2弾性部材131の圧縮が開始されるまでの捩り角度を意味しており、その捩り角度をθ5で表している。この実施形態では、θ5の具体的な数値は7度である。第2弾性部材131が圧縮されている領域の捩り角度の大きさはθ2であり、θ5はθ1−θ2である。この結果、捩り特性の正側2段目は、第1弾性部材130のみが圧縮される第1領域(7〜12度)と、第1領域より捩り角度の大きな領域であり第1弾性部材130と第2弾性部材131が並列に圧縮される第2領域(12〜23度)とを含んでおり、捩り特性正側2段目の多段化が実現されている。
【0132】
第4回転方向隙間138は、捩り特性の負側において、第1弾性部材130の圧縮が開始されるまでの捩り角度である。第4回転方向隙間138の捩り角度をθ6で表しており、θ6の具体的な数値は9度である。第1弾性部材130が圧縮されている領域の捩り角度の大きさをθ3とすると、θ6はθ2−θ3である。この結果、捩り特性の負側2段目は、第2弾性部材131のみが圧縮される第3領域(2〜11度)と、第3領域より捩り角度の大きな領域であり第1弾性部材130と第2弾性部材131が並列に圧縮される第4領域(11〜13度)とを含んでおり、捩り特性負側2段目の多段化が実現されている。
【0133】
第1窓孔143の回転方向R1側の回転方向支持部165と第1弾性部材130の回転方向R1側端との間には回転方向隙間139が確保されている。また、フランジ108の半径方向凹部164aの回転方向R1側端とブッシュ151の突出部151aの回転方向R1側端との間には回転方向隙間182が確保されている。回転方向隙間139と回転方向隙間182の捩り角度はともにθ15であり、この実施形態ではθ15は7度である。第1窓孔143の回転方向R2側の回転方向支持部165と第1弾性部材130の回転方向R2側端との間には回転方向隙間140が確保されている。また、フランジ108の半径方向凹部164aの回転方向R2側端とブッシュ151の突出部151aの回転方向R2側端との間には回転方向隙間181が確保されている。回転方向隙間140と回転方向隙間181の捩り角度はともにθ16であり、この実施形態ではθ16は2度である。
【0134】
以上より、第1ダンパー機構159の作動角度範囲は、図29に示すように、捩り角度0度から正側にθ15までで、負側にθ16までの領域になる。そして、第1ダンパー機構159の作動角度範囲内では、主に、小コイルスプリング161によって剛性が得られ、さらに板ばね162がブッシュ151の溝151fに摺動することで小ヒステリシストルクが得られる。
【0135】
回転方向隙間133は、捩り特性の負側2段目において、第2弾性部材131のトルクが第2摩擦発生部171に作用するのを所定角度だけ防止するための回転方向隙間である。回転方向隙間133の捩り角度はθ4であり、この実施形態ではθ4は1度である。
【0136】
(9)捩じり特性
次に、図29及び図30示す模式図と図31に示す捩じり特性線図を用いて、クラッチディスク組立体101の捩じり特性について説明する。なお、図31に表れた具体的な数値は本発明の一実施例として開示するものであり、本発明を限定するものではない。
【0137】
最初に、図29を用いて、中立状態から入力回転部材102を固定しておきそれ対してハブ106を回転方向R2側に捩じっていく捩じり特性正側領域の動作(このとき入力回転部材102が出力回転部材103に対して回転方向R1側に捩じれることになる)を説明する。
【0138】
捩り角度の最も小さな領域では第1ダンパー機構159のみが作動する。具体的には、小コイルスプリング161がブッシュ151及びプレート152とフランジ108との間で回転方向に圧縮される。このときに、板ばね162は半径方向凹部164aの回転方向壁に押されて突出部151aの溝151fの壁に摺動する。凹部164aの回転方向R1側端が突出部151aの回転方向R1側端に当接すると、それにより第1ダンパー機構159の動作は停止する。また、この捩り角度がθ17の時点で、第1窓孔143の回転方向R1側の回転方向支持部165は第1弾性部材130の回転方向R1側の端部に当接し、さらに凹部165aはプレート152の折り曲げ爪152bに当接する。以後は、折り曲げ爪152bは第1弾性部材130の回転方向R1側端によって凹部165aに押しつけられている。
【0139】
さらに捩り角度が大きくなると、第2ダンパー機構160のみが作動する。捩じり角度の小さな領域では、2個の第1弾性部材130が圧縮される。捩じり角度の絶対値がθ5より大きくなると、第2窓孔144の回転方向R1側の回転方向支持部169が第2弾性部材131の回転方向R1側端に当接する。これ以降は、2個の第1弾性部材130が2個の第2弾性部材131に並列に圧縮され、高剛性の特性が得られる。また、第1摩擦発生部170及び第2摩擦発生部171が作動し、高ヒステリシストルクの特性が得られる。第2摩擦発生部171では、中間回転部材110は、折り曲げ爪152bが第1窓孔143のR1側の回転方向支持部165に押されることで、フランジ108と回転方向R2側に一体回転し、クラッチプレート112及び第2ブッシュ176に対して摺動する。
【0140】
この捩じり特性正側において微小捩じり振動がクラッチディスク組立体101に入力された場合に、中間回転部材110の折り曲げ爪152bは常に第1弾性部材130によって第1窓孔143の回転方向R1側の回転方向支持部165に押し付けられている。したがって、中間回転部材110はフランジ108に対して相対回転することができず、微少捩り振動入力時であっても弾性部材130,131の弾性力は常に中間回転部材110を介して第2摩擦発生部171に作用している。つまり、入力回転部材102と出力回転部材103とが相対回転するときは、捩じり特性正側では常に第2摩擦発生部171が作動し、高ヒステリシストルクを発生している。
【0141】
次に、図30を用いて、中立状態から入力回転部材102を固定しておきそれ対してハブ106を回転方向R1側に捩じっていく捩じり特性負側領域の動作(このとき入力回転部材102が出力回転部材103に対して回転方向R2側に捩じれることになる)を説明する。
【0142】
捩り角度の最も小さな領域では第1ダンパー機構159のみが作動する。具体的には、小コイルスプリング161がブッシュ151及びプレート152とフランジ108との間で回転方向に圧縮される。このときに、板ばね162は半径方向凹部164aの回転方向壁に押されて突出部151aの溝151fの壁に摺動する。凹部164aの回転方向R2側端が突出部151aの回転方向R2側端に当接すると、それにより第1ダンパー機構159の動作は停止する。また、この捩り角度がθ16の時点で、第2窓孔144の回転方向R2側の回転方向支持部169は第2弾性部材131の回転方向R2側の端部に当接する。
【0143】
さらに捩り角度が大きくなると、第2ダンパー機構160のみが作動する。捩じり角度の小さな領域では、2個の第2弾性部材131のみが圧縮され、正側に比べて低剛性の特性が得られる。また、第1摩擦発生部170及び第2摩擦発生部171が作動し、高ヒステリシストルクの特性が得られる。このとき第2摩擦発生部171では、中間回転部材110は、ブッシュ151の突出部151aが半径方向凹部164aの回転方向R2側端に押されることで、フランジ108と回転方向R1側に一体回転し、第2ブッシュ176に対して摺動する。このように中間回転部材110がハブ106と一体回転するため、第2弾性部材131の回転方向R2側端とプレート152の縁152cとの間には回転方向隙間133の捩り角度θ4が確保されている。
【0144】
捩じり角度の絶対値がθ6になると、第1窓孔143の回転方向R2側の回転方向支持部165が第1弾性部材130の回転方向R2側端に当接する。これ以降は、2個の第1弾性部材130が2個の第2弾性部材131に並列に圧縮される。この結果、高剛性・高ヒステリシストルクの捩じり特性が得られる。
【0145】
以上に述べたように、第2弾性部材131は、捩り特性正側において、捩り角度θ2の範囲のみ(正側全角度θ1より小さい範囲)で圧縮されるようになっており、正側で圧縮される角度が負側で圧縮される角度(負側全角度)と同じである。他の実施例としては、第2弾性部材131が正側で圧縮される角度が負側で圧縮される角度(負側全角度)より小さくてもよい。このように、第2弾性部材131が正側で圧縮される角度が負側で圧縮される角度(負側全角度)より大きくないことによって、第2弾性部材を低剛性でかつ低トルク容量のものにすることができる。この結果、第2弾性部材131の形状を前述のように第1弾性部材130より小さくすることができ、結果として第2弾性部材131をストップピン122の作動範囲より内側に配置することができる。
【0146】
次に、図31の捩じり特性線図を参照して、具体的にクラッチディスク組立体101に各種捩り振動が入力された時の捩り特性について説明する。
【0147】
車両の前後振動のように振幅の大きな捩り振動が発生すると、捩り特性は正負両側にわたって変動を繰り返す。この時、正負両側で発生する高ヒステリシストルクによって車両の前後振動は速やかに減衰される。
【0148】
次に、例えばエンジンブレーキをかけた減速時においてエンジンの燃焼変動に起因する微小捩り振動がクラッチディスク組立体101に入力されたとする。このとき、捩り角度θ4内の微少捩り振動に対しては、第2弾性部材131の荷重はプレート152すなわち中間回転部材110に作用せず、その結果中間回転部材110は2摩擦発生部171においてプレート112,113に対して相対回転せず、クラッチプレート112及び第2ブッシュ176に摺動しない。
【0149】
つまり、捩じり角度θ4の範囲では、負側のヒステリシストルクよりはるかに小さなヒステリシストルク(第1摩擦発生部170によるヒステリシストルク)が得られる。この捩り角度θ4内のヒステリシストルクは全体にわたるヒステリシストルクの1/10程度であることが好ましい。このように、捩じり特性の負側において第2摩擦発生部171を所定角度範囲内では作動させない回転方向隙間を設けたため、エンジンブレーキをかけた減速時の振動・騒音レベルを大幅に低くすることができる。
【0150】
捩じり特性の正側において第2摩擦発生部171を所定角度範囲内で作動させない回転方向隙間を設けなかったため、実用回転域に共振ピークが残ることが多いFF車などの場合、共振回転数付近で音・振動性能が悪化しない。
【0151】
このように、捩じり特性の正負両側のうち一方にのみ摩擦機構を所定角度範囲内で作動させない回転方向隙間を確保しているため、加速・減速の両方で音・振動性能が向上する。
【0152】
以上に述べたように、本発明に係るダンパー機構では、捩じり特性の正側と負側とで捩じり剛性を異ならせるのみでなく、微小捩じり振動に対して高ヒステリシストルクを発生させない構造を捩じり特性の一方のみに設けることで、全体として好適な捩じり特性を実現している。
【0153】
さらに、アイドリング時の微少捩り振動がクラッチディスク組立体101に入力されたとする。この場合は第1ダンパー機構159のみが作動し、低剛性・低ヒスの特性を発揮する。このため、捩り振動が吸収・減衰され、アイドリング時の異音が減衰される。特に、捩り特性1段目領域内であっても捩り角度がθ17以内の微少捩り振動に対しては、摩擦発生機構である板ばね162は作動せず、したがってヒステリシストルクはさらに小さくなる。この結果アイドリング時の微少捩り振動において、θ17の範囲では超低ヒス又は無ヒスの状態を得て、その両側では若干大きい中間のヒスを得ることができる。
【0154】
第1ダンパー機構159においては、板ばね162をブッシュ151の溝151fに配置することで摩擦抵抗発生機構を実現しているため、以下の利点がある。
【0155】
i)板ばね単体によって摩擦発生機構を構成しているため、部品点数が少なくなり、構造が簡単になる。
【0156】
ii)板ばねを用いて、さらに部材の溝内に配置しているため、省スペースの構造となっている。
【0157】
iii)板ばね単体によって荷重及び摩擦係数が決定されるため、摩擦の設定が容易である。
【0158】
iv)板ばねは半径方向に荷重を発生させているため、軸方向に荷重を発生させている従来例に比べて、構造が簡単になる。
【0159】
v)板ばねの回転方向長さを変更するだけで、1段目領域内の超低ヒス発生領域の大きさを変更できる。
【0160】
vi)アイドル時において、例えば、パワーステアリングやライト点灯などでエンジンに負荷がかかり、そのため回転変動が増大した場合に、従来であれば2段目スプリングをさせて異音を発生させてしまうところ、この実施形態では板ばねの摺動ヒステリシストルクを発生させることで、異音の発生を防止できる。
【0161】
(9)他の実施形態
本発明が適用されるクラッチディスク組立体の構造は前記実施形態に限定されない。例えば、ハブのボスとフランジが分離してダンパー機構によって連結された構造にも本発明を適用できる。
【0162】
本発明に係るダンパー機構は、クラッチディスク組立体以外にも採用可能である。例えば、2つのフライホイールを回転方向に弾性的に連結するダンパー機構等である。
【0163】
【発明の効果】
本発明に係るダンパーディスク組立体では、捩じり特性の正側(加速側)で第1弾性部材が圧縮されて高剛性の特性が得られ、捩じり特性の負側(減速側)で第2弾性部材が圧縮されて低剛性の特性が得られる。この結果、捩じり特性の正側では共振点通過時の回転速度変動を抑えることができ、捩じり特性の負側では全体にわたって良好な減衰率が得られる。
【0164】
特に、捩り角ストッパーは第2弾性部材より半径方向外側に配置されており、ピン部材は第2弾性部材の外周側に移動可能である。言い換えると、捩り角ストッパーは第1弾性部材と第2弾性部材の回転方向間に配置されておらず、ダンパーの広捩り角化が容易である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1実施形態に係るクラッチディスク組立体の縦断面図であり、図3のI-I断面図。
【図2】 本発明の第1一実施形態に係るクラッチディスク組立体の縦断面図であり、図3のO-I断面図。
【図3】 クラッチディスク組立体の平面図(第1実施形態)。
【図4】 図1の部分拡大図であり、摩擦発生機構の縦断面図(第1実施形態)。
【図5】 図1の部分拡大図であり、摩擦発生機構の縦断面図(第1実施形態)。
【図6】 図2の部分拡大図であり、摩擦発生機構の縦断面図(第1実施形態)。
【図7】 リティーニングプレートの平面図(第1実施形態)。
【図8】 ハブの平面図(第1実施形態)。
【図9】 図3の部分拡大図(第1実施形態)。
【図10】 図3の部分拡大図(第1実施形態)。
【図11】 図1の部分拡大図であり、捩り角ストッパーを説明するための図(第1実施形態)。
【図12】 中間回転部材を構成するブッシュの平面図(第1実施形態)。
【図13】 中間回転部材を構成するブッシュの断面図(第1実施形態)。
【図14】 中間回転部材を構成するプレートの平面図(第1実施形態)。
【図15】 中間回転部材を構成するプレートの断面図(第1実施形態)。
【図16】 クラッチディスク組立体のダンパー機構の模式図(第1実施形態)。
【図17】 クラッチディスク組立体のダンパー機構の模式図(第1実施形態)。
【図18】 クラッチディスク組立体の捩り特性線図(第1実施形態)。
【図19】 本発明の第2実施形態に係るクラッチディスク組立体の縦断面図であり、図21のIXX-IXX断面図。
【図20】 本発明の第2実施形態に係るクラッチディスク組立体の縦断面図であり、図21のXX-O断面図。
【図21】 クラッチディスク組立体の平面図(第2実施形態)。
【図22】 図21の部分拡大図であり、クラッチディスク組立体の部分平面図(第2実施形態)。
【図23】 図21の部分拡大図であり、クラッチディスク組立体の部分平面図(第2実施形態)。
【図24】 図20の部分拡大図であり、摩擦発生機構の縦断面図(第2実施形態)。
【図25】 図19の部分拡大図であり、摩擦発生機構の縦断面図(第2実施形態)。
【図26】 図19の部分拡大図であり、摩擦発生機構の縦断面図(第2実施形態)。
【図27】 第2弾性部材とフランジ及びプレートとの捩り角度関係を説明するための部分平面図(第2実施形態)。
【図28】 第1ダンパー機構の摩擦発生機構を説明するための部分平面図(第2実施形態)。
【図29】 クラッチディスク組立体のダンパー機構の模式図(第2実施形態)。
【図30】 クラッチディスク組立体のダンパー機構の模式図(第2実施形態)。
【図31】 クラッチディスク組立体の捩り特性線図(第2実施形態)。
【符号の説明】
1 クラッチディスク組立体(ダンパーディスク組立体)
2 入力回転部材
3 出力回転部材
4 弾性連結機構
6 ハブ
7 ボス
8 フランジ(第2円板状部材)
10 中間回転部材
12 クラッチプレート(第1円板状部材)
13 リティーニングプレート(第1円板状部材)
22 ストップピン(ピン部材)
30 第1弾性部材
31 第2弾性部材
86 捩り角ストッパー
Claims (10)
- 軸方向に対向して互いに固定された一対の第1円板状部材(12,13)と、
前記一対の第1円板状部材(12,13)の間に、前記一対の第1円板状部材(12,13)に相対回転可能に配置された第2円板状部材(3)と、
前記第1円板状部材(12,13)と前記第2円板状部材(3)を回転方向に弾性的に連結するための部材であり、捩り特性の正側において高剛性を実現するための第1弾性部材(30)と、
前記第1円板状部材(12,13)と前記第2円板状部材(3)を回転方向に弾性的に連結するための部材であり、前記第1弾性部材(30)に対して回転方向に並んで配置され、前記第1弾性部材(30)よりも低い剛性を有し、捩り特性の負側において低剛性を実現するための第2弾性部材(31)と、
前記一対の第1円板状部材(12,13)同士を互いに固定するためのピン部材(22)とを備え、
前記ピン部材(22)と前記第2円板状部材(3)の外周縁に設けられたストッパー部(83,84)とによって、前記第1円板状部材(12,13)と前記第2円板状部材(3)の相対回転を規制するための捩り角ストッパー(86)が形成され、
前記第2円板状部材(3)は、円周方向に並んで配置されるとともにそれぞれが円周方向に延びて形成された第1窓孔(43)及び第2窓孔(44)を有し、前記第1窓孔(43)には前記第1弾性部材(30)が収容可能であり、前記第2窓孔(44)は前記第2弾性部材(31)が収容可能であり、
前記ストッパー部(83,84)は、前記第1窓孔(43)が形成された部分において外周に突出しかつ前記第1窓孔(43)よりも円周方向長さが長く形成された第1突起(83)と、前記第2窓孔(44)が形成された部分において前記第2窓孔(44)の外周側において外周に突出しかつ前記第2窓孔(44)よりも円周方向長さが短く形成された第2突起(84)と、を有し、
前記捩り角ストッパー(86)は、前記第1突起(83)と前記第2突起(84)との間に形成された切欠き(8c)を含み、前記切欠き(8c)は前記第1窓孔(43)の側方から前記第2窓孔(44)の外周側の一部にまで延びており、前記ピン部材(22)は前記切欠き(8c)内において前記第1窓孔(43)の側方から前記第2窓孔(44)の外周側にまで移動可能である、
ダンパーディスク組立体。 - 前記捩り特性の正側は、前記第1弾性部材のみが圧縮される第1領域と、前記第1領域より捩り角度の大きな領域であり前記第1弾性部材と前記第2弾性部材が並列に圧縮される第2領域とを含んでいる、請求項1に記載のダンパーディスク組立体。
- 前記捩り特性の負側は、前記第2弾性部材のみが圧縮される第3領域と、前記第3領域より捩り角度の大きな領域であり前記第1弾性部材と前記第2弾性部材が並列に圧縮される第4領域とを含んでいる、請求項1又は2に記載のダンパーディスク組立体。
- 所定の摩擦を発生する摩擦発生部と、前記捩り特性の負側における微小捩り角度範囲においては前記摩擦発生部を作動させない摩擦抑制部とを有している摩擦発生機構をさらに備えている、請求項1〜3のいずれかに記載のダンパーディスク組立体。
- 前記一対の第1円板状部材に摩擦係合する中間回転部材と、
前記第2弾性部材の半径方向内側に配置され、前記中間回転部材と前記第2円板状部材とを回転方向に連結するための低剛性弾性部材とをさらに備えている、請求項1〜4のいずれかに記載のダンパーディスク組立体。 - 前記中間回転部材は前記低剛性弾性部材の回転方向両端を支持する支持部を有している、請求項5に記載のダンパーディスク組立体。
- 前記中間回転部材と前記第2円板状部材が相対回転すると摩擦を発生するための摩擦部材をさらに備えている、請求項6に記載のダンパーディスク組立体。
- 前記摩擦部材はばね部材である、請求項7に記載のダンパーディスク組立体。
- 前記摩擦部材は板ばねである、請求項8に記載のダンパーディスク組立体。
- 前記中間回転部材と前記第2円板状部材との相対回転範囲内で、前記摩擦部材を作動させないための回転方向隙間が設けられている、請求項7〜9のいずれかに記載のダンパーディスク組立体。
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